(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ウェブを巻き芯の周囲に巻き取って巻取ロールに加工する際に、巻き取られるウェブの巻取張力を巻取径に応じて調整する巻取装置を制御するための巻取制御方法であって、
実測値または設定値により決定される初期環境温度、前記巻取ロールの巻取完了後に変化する環境温度、および所定の指定時間をパラメータとして設定するステップと、
前記巻取ロールの巻取完了時の温度が前記初期環境温度であった場合に、前記環境温度の変化によって当該巻取ロールにおける巻取完了時から前記指定時間経過後までに生じるであろう温度分布を演算する温度分布演算ステップと、
演算された温度分布に基づいて、巻取完了時から前記指定時間経過後までに予測される前記巻取ロールの内部応力を演算する応力演算ステップと、
演算された内部応力に基づいて、当該巻取張力の最適値を演算する最適化ステップと
を備えていることを特徴とする巻取制御方法。
ウェブを巻き芯の周囲に巻き取って巻取ロールに加工する際に、巻き取られるウェブの巻取張力を巻取径に応じて調整する巻取装置を制御するための巻取制御方法であって、
前記巻取ロールに影響を与える環境温度の変化が巻取時の環境温度よりも高くなることが予想される場合に、当該巻取ロールの円周方向応力が負にならない程度に内周側から巻取中間層の間での巻取張力を予め高く設定する
ことを特徴とする巻取制御方法。
ウェブを巻き芯の周囲に巻き取って巻取ロールに加工する際に、巻き取られるウェブの巻取張力を巻取径に応じて調整する巻取装置を制御するための巻取制御方法であって、
前記巻取ロールに影響を与える環境温度の変化が巻取時の環境温度よりも低くなることが予想される場合に、当該巻取ロールの層間摩擦力が所定の限界摩擦力を下回らない程度に全巻取径にわたって巻取張力を予め高く設定する
ことを特徴とする巻取制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
まず、本実施形態に係る理論予測モデルについて説明する。以下の説明で使用される主要な命名記号(Nomenclature)を表に示す。
【0031】
図1を参照して、本実施形態では、中心駆動形式によってウェブ10を巻き取る巻取装置を対象としている。中心駆動形式とは、ウェブ10を巻き取る巻き芯5aを図略の駆動軸で回転する方式である。この中心駆動巻取方式は、
図1(A)に示すように、巻き芯5a単体の形式と、
図1(B)に示すように、巻き芯5aに巻き取られたウェブ10を押圧するニップローラ4を設けた形式とに分類される。
【0032】
何れの場合においても、巻き芯5aに巻き取られたウェブ10には、円周方向に作用する円周方向応力σ
θと、半径方向に作用する半径方向応力σrとが作用する。
図2に示すように、巻取ロール5の任意の巻取半径rの位置でのウェブ10には、常に層間圧力(半径方向圧縮応力)σrが作用し、この内側にあるウェブ10の各層を圧迫すると同時に、この外径にあるウェブ10の各層からの圧迫を受ける。一方、円周方向には、円周方向応力σ
θが作用するが、巻取ロール5の半径方向位置によっては、これが引っ張りにも圧縮にもなり得る。巻取ロール5の幅方向の応力は、通常一様とみなして計算される。
【0033】
また、ニップローラ4を用いた場合、巻取ロール5との間に生じるニップ45には、ニップ荷重N[N]が生じる。詳しくは後述するように、ニップ荷重Nも巻取ロール5の内部応力に大きな影響を及ぼす。
【0034】
次に、巻取工程において、ウェブ10は、大気中で巻き取られる。その際、周辺の空気が巻取ロール5内に巻き込まれ、ウェブ10の層間に空気層が形成される。空気層が存在すると、見かけのロール剛性は著しく低下し、ロール内部応力が低下して、巻ずれや型くずれが生じやすくなる。特に、
図1(A)に示したように、ニップローラ4のない形式では、巻取速度が速い場合等、空気を巻き込みやすい条件において剛性が低下する影響は、大きくなる。このような欠点を改善するために、ニップローラ4を用いて巻き取ることが好ましい。ニップローラ4を用いた場合、そのニップ荷重Nによって、巻き込まれる空気量を制限することができる。
【0035】
本実施形態に係る予測理論モデルにおいては、応力分析の基本的な部分については、Hakielの理論モデルを適用し、(1)巻き込み空気と熱応力を考慮した応力分析、(2)巻取直後の内部応力とロール温度変化による応力変動とを予測する熱応力分析、並びに(3)空気層と熱抵抗を考慮した非定常熱伝導解析を提供する。
(1)巻き込み空気を考慮した応力解析
ウェブ10は、巻取応力、ニップローラのある方式では、その押し付け荷重(ニップ荷重N)が与えられた状態で巻き芯5aに巻き取られる。巻取の進行に伴って既に巻き取られた部分の応力は、逐次変化する。モデル化に際しては、次に示す仮定を置く。
【0036】
(i)巻取ロール5は、完全な円筒であり、ウェブ10の厚さh
fや幅Wは、均一である。
【0037】
(ii)ウェブ10がスパイラル状に巻かれている効果は、無視することができ、巻取ロール5を薄肉円筒の重ね合わせとして扱うことができる。
【0038】
(iii)巻取ロール5の内部応力状態については、半径方向応力σrと円周方向応力σ
θとが支配的であり、軸方向応力は考慮しなくてもよい。
【0039】
これらの仮定の下では、巻取ロール5の第j層での半径方向応力σr
iは、第j+1層から第k層(巻取りの最終層)までの各層における応力増分Δσr
iを全て可算して求められ、式(1)により表される。ただし、第j層とは、巻き芯5aにおける層を第1番目とし、外層に向けて順番に数えたときの第j番目の層を表す。
【0041】
また、円筒座標系における応力の釣り合い方程式、ひずみに対する適合条件式、および構成方程式は、それぞれ次のように与えられる。
【0043】
ここで、次に示すマクセルの式が成立するものとする。
【0045】
式(2)〜式(5)を用いて半径方向応力σrについて整理し、これに式(1)、式(6)を適用すると、半径方向応力増分Δσrに関する基礎方程式が次のように得られる。
【0047】
式(7)を解くためには、最内層および最外層の境界条件が必要となる。最内層では、ウェブ10の第1層目と巻き芯における変位の適合性から、次式を得る。
【0049】
上式(8)に式(5)を適用し、式(1)、式(6)を考慮すると、最内層境界条件が次のように得られる。
【0051】
最外層における半径方向応力増分Δσrが、巻取中の新たな層の内側に巻き込まれた空気層のゲージ圧力Pgに等しいと仮定すると、ニップローラ4のある場合、およびない場合に対する最外層境界条件は、それぞれ次のように与えられる。
【0053】
次に、巻き込み空気による巻取ロール5の剛性低下を考慮できるように、基礎方程式(7)、最内層境界条件式(9)を修正する。
【0054】
巻取ロール5内に空気層が存在する場合、数値解析上では、ウェブ10は、空気層を複合した等価層として取り扱うことができ、等価層の半径方向および円周方向のヤング率E
req、E
θeqは、それぞれ次のように与えられる。
【0056】
ここで、空気層の厚さh
alおよび半径方向ヤング率E
ralは、それぞれ巻取中における値を示している。また、ウェブ10の半径方向ヤング率は、半径方向応力σrに対して、非線形性を示すことが広く知られている。そこで本実施形態では、半径方向ヤング率E
reqを次式で近似して適用する。
【0058】
ウェブ10がロール状に巻き取られる際、最外層と既に巻き取られた部分の間には、巻き込み空気によって、空気層が形成される。ニップローラ4がない場合の初期空気層厚さh
al0は、巻き取られるウェブと既に巻き取った部分をフォイル軸受モデルとみなすことにより、次式から求めることができる。
【0060】
ここで、λは、ウェブ幅Wに関する無次元パラメータであり、次のように定義される。
【0062】
一方、ニップローラ4がある場合では、巻取ロール5とニップローラ4の間に対しては、弾性流体潤滑理論を適用することで評価できる。以下の例では、Chang(”Elastohydrodynamic Lubrication of Air Lubricated Rollers”, ASME Journal of Tribology, Vol.118, (1996), pp.623-628)の結果を利用する。
【0064】
ここで、巻取ロール5とニップロールに関する等価半径R
eqおよび等価ヤング率E
eqは、それぞれ次式で与えられる。
【0066】
次に、空気層の半径方向ヤング率について検討する。巻取ロール5内に巻込まれた空気は、ロール端部から流出しない、と、仮定すると、新たな層が巻き取られることによって、空気層は、圧縮される。ある層が最外層に巻かれる際に流入した空気は、巻取ロール5内の半径方向応力σrによって圧縮され、空気厚さがh
al0からh
al(=h
al0−Δh
al)に減少する。最外層に巻かれたときの状態を基準とし、ボイルの法則を適用すると、次の関係が得られる。
【0068】
上式を用いると、空気層厚さh
alは、次のように表される。
【0070】
ここで、ひずみの定義に式(19)を適用すると、空気層の半径方向ひずみε
ralが次のように求められる。
【0072】
式(21)から半径方向応力σrとひずみε
ralの関係を求めると、次式が得られる。
【0074】
これにより、空気層の半径方向ヤング率E
ralが次式のように求められる。
【0076】
以上の諸式(14)−(23)を用いることで、巻き込み空気を考慮した等価層のヤング率を求めることができる。これにより、式(7)および式(9)に示したE
rとE
θをそれぞれE
reqとE
θeqに置き換えることによって、内部応力の解析を進めることができる。なお、円周方向応力は、応力の釣り合いの式(2)から、次のように求められる。
【0078】
(2) 熱応力解析
環境温度変化によって、ロール内温度が変化すると、内部応力は、ウェブ10や巻き芯5aの線膨張係数に起因が生じて変動する。そのような場合では、円筒座標系における応力の釣り合い方程式、ひずみに対する適合条件式は、それぞれ式(2)、式(3)と同一である一方、構造方程式は、次のように与えられる。
【0080】
ここで、ΔTは、巻取直後の初期ロール温度T
r0に対する変化量であり、次式で定義して与える。
【0082】
式(7)の場合と同様の手順で整理すれば、熱応力による半径方向増分Δσrに関する基礎方程式が次のように与えられる。
【0084】
次に、式(28)を解くための境界条件について、説明する。最内層におけるウェブ10の第1層と巻き芯5aの適合性から得られる式(8)に、式(1)、式(6)、式(27)を適用すると、最内層境界条件が次のように得られる。
【0086】
但し、巻き芯5aの温度増分ΔT
cは、次のように与える。
【0088】
一方、巻取完了後の最外層には、新たな層が追加されないことから、最外層境界条件は、次のように与えられる。
【0090】
ここで、熱応力解析に巻き込み空気の影響を考慮するため、式(28)および式(29)に示したE
rとE
θをそれぞれE
reqとE
θeqに置き換える。また、ウェブ10のヤング率E
r、E
θ、および線膨張係数α
r、α
θ、巻き芯5aのヤング率E
c、空気層の半径方向ヤング率E
ralは、温度に依らず一定として取り扱う。
【0091】
詳しくは後述するように、線膨張係数α
r、α
θは、巻取ロール5が熱を受けた場合に、温度変化による巻取ロール5の温度分布の変化が内部応力の非定常状態に及ぼす影響は、大きく、しかも、その度合は、ウェブ10と巻き芯5aの線膨張係数に起因する。従って、式(28)において、ウェブ10の線膨張係数α
r、α
θが取り入れられていることは、温度分布の変化と内部応力の関係を明らかにする上で、大きな意義を有する。
(3)空気層と熱抵抗を考慮した非定常熱伝導解析
円筒座標系において、(i)熱移動は、半径方向のみに生じ、円周方向および軸方向に対して無視できる、(ii)巻取ロール5内部で発熱がない、と、仮定すれば、非定常熱伝導の基礎方程式は、次の微分方程式によって表される。
【0093】
空気と巻取ロール5の境界面での熱エネルギーの流入、流出は、対流伝熱が支配的であり、また、その境界面において、巻取ロール5側、或いは巻き芯5a側と空気側の熱流束が等しい、と仮定すると、巻取ロール5の最外周面および巻き芯5aの最内周面における境界条件式は、それぞれ次のように与えられる。
【0095】
また、巻き芯5aとウェブ10の境界面においても同様に熱流束が等しいと仮定すれば、その境界面での境界条件は、次のように表される。
【0097】
ここで、初期温度条件として、ロール温度T
rおよび巻き芯温度T
cは、巻取直後の時刻T
j0において、次のように与えられる。
【0099】
一方、ウェブ10の表面には、粗さが存在する。そのため、接触面は、
図3(A)(B)に示すように、一部が接触し(接触部10a)、他の部分が非接触の分散接触となる。非接触部分には、空気が介在する。また、空気の層が厚くなれば、ウェブ10は、引き離されて、
図3(B)に示すように、全面で非接触となる。このような場合に、空気の熱伝達率K
aがウェブ10に比べて格段に低いこと、並びに熱抵抗が接触圧力の増加とともに減少することを考えると、空気層近傍の温度分布は、直線的にならない。そこで、本実施形態では、
図3(C)、(D)に示したように、ウェブ10の接触部をモデル化して、熱抵抗を評価することとしている。
【0100】
空気層の存在は、巻取ロール5の見かけの熱伝導率を変化させる。ウェブ10および空気層を流れる熱流束q
ff、q
falが等価層内において等しく、空気層内における対流効果は無視できると仮定すれば、等価層の熱伝導率K
eqは、次のように求めることができる。
【0102】
ここで、空気層において、接触部と非接触部を流れる熱流束q
a、q
fcが
図3(C)(D)に示したように並列に通過すると仮定し、接触面積の比を見かけの接触面積に対する真実接触面積の比(A/Aa)で与えると、空気層の熱伝導率K
alは、次式で与えられる。
【0104】
但し、見かけの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaは、半径方向応力の関数として次式で与える。また、空気層厚さがh
a>3σ
ffの範囲で、ウェブ10の接触面を非接触とみなす。
【0106】
なお、等価層の密度ρ
eqおよび比熱C
eqは、それぞれ次のように定義して与える。
【0108】
以上から、非定常熱伝導の基礎方程式(32)および境界条件式(33)〜(35)に示したウェブ10に関する熱伝導率K、k
f、密度C、C
f、および比熱ρ、ρ
fをそれぞれ、k
eq、C
eq、およびρ
eqに置き換え、初期温度条件(36)を考慮して解くことにより、空気層と熱抵抗を考慮したロール温度の経時変化を求めることができる。
【0109】
例えば、上述した基礎方程式と境界条件式に含まれる1階および2階の微分を差分近似によって離散化し、数値解析的に求めることが可能である。但し、ロール半径r
outに関して中央差分近似、時間に関しては前進差分近似を適用することとし、それぞれを次に表す。
【0111】
ここで、Δrは、等価層の厚さ(h
f+h
al)、巻き芯肉厚t
cの分割幅を、一方、fは、差分近似の対象となる半径方向応力増分Δσr、ロール温度T
rと巻き芯温度T
cをそれぞれ代表して表している。また、式(42)〜式(44)に限り、jは、ロール半径位置、iは、時間に関する添え字である。
【0112】
次に、上述した予測理論モデルを応用した実施形態について説明する。
【0113】
図4を参照して、同図示す巻取装置100は、ウェブ10を巻回した巻出装置101のロール1から、複数のガイドローラ2、一対のピンチローラ3、並びにニップローラ4を介して巻取ロール5の巻き芯5aの外周に巻回するものである。なお、図では省略されているが、ロール1から巻取ロール5に至る経路には、ウェブ10の位置ずれを防止するエッジ位置制御装置や、ウェブ10の巻取張力を検出するロードセルが配置されている。
【0114】
ニップローラ4には、巻取ロール5に対する押圧力を調整するニップ荷重調整装置6が設けられている。ニップ荷重調整装置6は、エアシリンダやエアシリンダの動力を伝達する動力伝達機構で具体化され、ニップローラ4と巻取ロール5との間に形成されるニップ45のニップ荷重Nを調整可能な構成になっている。
【0115】
巻き芯5aは、ウェブ10一体的に巻取ロール5を構成する円筒形部材である。巻き芯5aの材質は、巻取ロール5の内周側の熱伝達率に影響を与えるので、巻取ロール5が温度環境の変化が大きい地域に移動することが予想される場合には、その材質選定が問題となる。
【0116】
また、巻取ロール5の巻き芯5aには、モータ7が接続されており、巻き芯5a自身が回転してウェブ10を巻き取るように構成されている。さらに、巻取ロール5の最外周近傍には、巻取時の温度を検出する温度センサ8が設けられる。温度センサ8が巻取ロール5の巻取完了時に検出した値は、初期時刻T
j0での初期ロール温度T
r0(式(
36)のパラメータ)として、記憶部21のウェブ製品管理テーブル217に記憶される。
【0117】
ウェブ10としては、液晶パネル、ディスプレイモニタ、携帯電話、太陽電池システム、その他種々の製品に使用される可撓性シートや、或いは印刷物が対象とすることができる。
【0118】
ニップ荷重調整装置6やモータ7の制御のために、巻取装置100は、制御ユニット20を備えている。制御ユニット20は、記憶部21、演算部22、モータ制御部23、並びにニップ荷重調整部24を論理的なモジュールとして備えている。さらに、制御ユニット20には、表示部25や入出力部26が接続されており、作業者が表示部25の表示を見ながら入出力部26で必要なデータ処理を行うことができるようになっている。
【0119】
記憶部21は、ROM、RAM、補助記憶装置等で具体化され、巻取装置100全体を制御する制御プログラムやパラメータを記憶する領域を備えているモジュールである。記憶部21には、上述した予測理論モデルを演算するためのパラメータを記憶するデータベースが実装されている。
【0120】
演算部22は、マイクロプロセッサ、記憶装置、並びに入出力インターフェイスを備えており、記憶装置に記憶されている制御プログラムやデータを読み取り、当該制御プログラムを実行して、制御ユニット20を構成する要素(モータ制御部23、ニップ荷重調整部24、表示部25、入出力部26)の制御を司るモジュールである。
【0121】
モータ制御部23は、演算部22の演算結果に基づいて、モータ7の回転速度を制御するモジュールである。また、本実施形態において、このモータ制御部23は、モータ7の回転速度の制御を通して、ウェブ10の巻取張力T
Wを調整する張力調整手段を兼ねている。
【0122】
ニップ荷重調整部24は、演算部22の演算結果に基づいて、ニップ荷重調整装置6による押圧力を調整するモジュールである。
【0123】
表示部25は、液晶ディスプレイその他の表示装置で具体化されるユニットである。
【0124】
入出力部26は、キーボードやマウスなどのポインティングディバイス、カードリーダ等の入出力装置で具体化されるユニットである。
【0125】
なお、巻取装置100が実施される態様によっては、制御ユニット20に通信機能を持たせ、制御プログラムやデータをホストコンピュータと通信するようにしてもよい。
【0126】
次に、
図4に示した記憶部21には、関数を記憶する領域があり、上述した式(1)〜(44)の他、以下に説明する張力関数T
W(r)、目的関数f(X)、制約関数g
i(X)が記憶されている。
【0127】
まず、最適化の対象として、本実施形態では、張力関数T
W(r)が以下の通り定義され、記憶部21に保存されている。本実施形態に係る張力関数T
W(r)は、関数の柔軟さと扱いやすさを考慮して、以下に示すように、巻取張力T
Wを巻き取りロール5の巻取半径rに関する三次スプライン関数で表現し、これを記憶部21に記憶している。
【0129】
張力関数T
W(r)は、巻取半径rに関して、巻取張力T
Wを演算するものである。この張力関数T
W(r)を進化(最適化)するため、本実施形態では、円周方向応力σ
θの平均値を目的関数とし、スターディフェクト、塑性変形、並びにテレスコープを何れも好適に解消するための条件を与えて、張力の最適化を図ることとしている。
【0130】
式(45)の張力関数T
W(r)から明らかなように、本実施形態では、巻取ロールの巻取開始点から最外周までをn個の等区間に分割し、スプライン法で各区間の巻取張力T
WまたはLを補間することとしている。式(45)のM
iを条件として設定することにより、各区間を滑らかにつなぐ関数として、前記巻取張力T
Wが表現される。これら式(45)の張力関数T
W(r)は、目的関数と制約関数を設定することにより、最適化(進化)される。すなわち、巻取ロール5内の円周方向応力の最小値を非負とし、円周方向応力の平均値が限りなくゼロになるように式(45)の張力関数T
W(r)を進化させ、好適な巻取張力T
Wを得ることが可能となる。
【0131】
図5を参照して、式(45)の張力関数T
W(r)を進化させる方法としては、
図5の破線で示す進化過程((k+1)ステップ)での前段階(実線で示すkステップ)の張力関数に対して、各接点P
(k)(r
i、T
Wi)のr座標を固定し、T
W座標を正の方向または負の方向にΔT
Wiだけ変化させて新たな接点P
(k
+1)(r
i、T
Wi+ΔT
Wi)を得る。このようにして得られた新座標値を用いて式(45)により関数形を更新し、目的関数f(X)の値が最適となるまで逐次進化させていく。
【0132】
次に目的関数f(X)の変数について説明する。
【0133】
本実施形態では、目的関数f(X)の設計変数ベクトルが以下の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0135】
本実施形態では、式(46)の設計変数ベクトルにニップ線荷重Lを定数として加えることにより、式(45)の張力関数T
W(r)を進化させる過程で、ニップ線荷重Lを最適化することが可能になる。
【0136】
記憶部21に記憶されている目的関数f(X)は、以下の通り定義されている。
【0138】
本実施形態において、式(47)の臨界摩擦力Fcrは、実験によって定められたものであり、例えば、5kNである。また、摩擦力F
i、参照値σ
θ,r
efは、それぞれ以下の通り定義される。
【0140】
他方、設計変数ΔT
Wiおよびニップ線荷重Lの最大値および最小値、円周方向応力σ
θminの最小値、並びにウェブ層間の平均摩擦力F
iを課す制約条件は、下記の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0142】
式(49)において、制約関数g
i(X)(i=1〜2n+2j)は、以下の通り定義され、記憶部21に記憶されている。
【0144】
以上を要約すると、巻取張力T
Wの最適化は、下記の通り表現される。
【0146】
次に、上述した最適化処理を実現するため、記憶部21には、上述した予測理論モデルを演算するための情報に関するテーブル211〜110が記憶されている。ここで、テーブルとは、データベースシステムにおいて、2次元マトリックス(行と列)で表現されるデータの集合のことをいう。
【0147】
以下、
図6を参照しながら、本実施形態に係るテーブルについて説明する。なお、以下の説明では、テーブルの項目を「列」、テーブルの実現値(列に割り当てられる実際の値)を「行」という。また、
図6において、(PK)は主キーを、(FK)は外部キーを、それぞれ表わしている。主キーは、テーブル内において、行を一意に識別する列である。外部キーは、主キーと同じ値を持つことによって、当該主キーを有するテーブルのデータを参照するためのものである。複数の列を集合として表す場合には、{}でくくって示す。さらに、図中の矢印は、テーブル間の関係(リレーションシップ)を表しており、矢印の終点側のテーブルにある外部キーが矢印の起点側のテーブルにある主キーを参照していることを示している。また、2つのテーブル間において、主キーと外部キーの対応関係をカーディナリティ(行の数)で表し、矢印は、起点が0または1、終点が多のカーディナリティを有することを示している。なお、図示のテーブルは、論理的な存在であり、物理的には、同一のデータ群を複数のテーブルで表現してもよく、或いは、複数のデータ群を同一のテーブルで表現していてもよい。また、各テーブルに設定されている列は、当該テーブルにおいて、本実施形態を説明するために重要なものを列挙しているに過ぎず、図示の項目以外の列を有している場合がある。
【0148】
図6を参照して、記憶部21の補助記憶装置には、マスターテーブルとして、ウェブテーブル211、巻き芯テーブル212、空気テーブル213、ニップローラテーブル214が記憶されている。
【0149】
ウェブテーブル211は、ウェブ10の諸元を登録するテーブルであり、ウェブ品番(主キー)毎に、厚さh
f、幅W、臨界摩擦力Fcr、半径方向ヤング率E
r、円周方向ヤング率E
θ、RMS合成粗さσ
ff、静的摩擦係数μs、半径方向ポアソン比ν
θr、円周方向ポアソン比ν
rθ、熱伝導率K
f、比熱Cf、密度ρ
f、半径方向線膨張係数α
r、円周方向線膨張係数α
θを含むパラメータを登録することができるようになっている。特に本実施形態では、線膨張係数α
r、線膨張係数α
θを基礎方程式(28)のパラメータとして採用し、演算することとしているので、巻取ロール5が受けた熱による半径方向並びに円周方向の延びを考慮した内部応力を演算することが可能になる。
【0150】
巻き芯テーブル212は、巻き芯の諸元を登録するものであり、巻き芯品番(主キー)毎に、ヤング率E
c、巻き芯肉厚t
c、ポアソン比ν
c、巻き芯ν
c、半径r
c、熱伝導率K
c、比熱C
c、密度ρ
f、線膨張係数α
cを含むパラメータを登録することができるようになっている。
【0151】
空気テーブル213は、空気の諸元を登録するものであり、空気コードを主キーとして、{大気圧、熱伝導率K
a、比熱C
a、密度ρ
a、ゲージ圧力Pg、粘度η}を列として含んでいる。この空気テーブル213を記憶部21に設けて、空気の諸元を登録しておくことにより、空気層とウェブとの等価層における内部応力や、熱分布を精緻に演算することが可能になる。
【0152】
ニップローラテーブル214は、ニップローラ4の諸元を登録するものであり、ニップローラ品番(主キー)毎に、当該ニップローラ4の半径r
n、ヤング率E
n、初期テーパテンション、ポアソン比ν
nを含むパラメータを登録することができるようになっている。
【0153】
次に、巻取装置100を運用するためのトランザクションテーブルとして、本実施形態では、巻取計画テーブル215、巻取計画明細テーブル216、ウェブ製品管理テーブル217、温度変化マップ218、巻取制御テーブル220が設けられている。
【0154】
巻取計画テーブル215は、巻取工程の計画を管理するための諸元を記憶するものであり、巻取計画コード(主キー)毎に、製造予定年月日、注文コードを含む項目を登録することができるようになっている。
【0155】
巻取計画明細テーブル216は、巻取計画コード毎に、巻取計画で生産される巻取ロール5の仕様や加工の一般的な仕様を登録するものであり、巻取計画毎の明細コード毎に、使用されるニップローラ4の品番、巻き芯5aの品番、ウェブ10の品番、巻取長、巻数n、最外層ロール半径r
out、巻取ロール5の数量を登録できるようになっている。さらに、巻取後の温度変化を考慮した巻取制御を図るために、空気コードを外部キーとして有し、空気テーブル213から空気に関する情報を生産計画の明細毎に特定することができるようになっている。また、巻取計画明細テーブル216は、巻き芯テーブル212ともリレーションシップが設定されていることから、この巻き芯テーブル212から巻き芯半径(コア径)r
c等、巻き芯5aの諸元を参照することができるようになつている。
【0156】
ウェブ製品管理テーブル217は、巻取計画明細テーブル216で決定された仕様毎に生産される個々の具体的な製品(巻取ロール5)の生産条件を管理するためのものであり、巻取計画明細テーブル216と関連づけるための外部キー{生産計画コード、明細コード}と製造番号とで構成される複合キーを主キーとし、製造年月日、初期温度T
0(式(36)参照)、指定時間T
kを登録することができるようになっている。また、個々の製品に対して温度変化予測を登録するために、ウェブ製品管理テーブル217には、時間ステップと、熱伝達率α
hとを登録することができるようになっている。時間ステップは、温度変化の時間間隔であり、後述する最適化制御でユーザが任意に選択可能な数値を登録するための列(項目)である。また、熱伝達率α
hは、式(33)(34)を解くためのパラメータであり、実験で定められた値や、巻取ロール5のおかれる環境で実測される値に基づいて演算される値を登録することができるようになっている。さらに、温度変化を登録するため、ウェブ製品管理テーブル217には、温度変化マップテーブル218の外部キーが含まれている。
【0157】
温度変化マップ218は、巻取ロール5が置かれる環境の諸元を登録するためもの(マップデータ)であり、温度変化マップコード毎に、時刻T
j毎の環境温度T∞を
ウェブ製品管理テーブル217に設定された指定時間T
kの範囲で設定することができるようになっている。
【0158】
巻取制御テーブル220は、最適な巻取制御に必要な諸元を設定するものであり、巻取計画明細テーブル
216の主キー{巻取計画コード、明細コード}と巻取制御コードとの複合キーを主キーとして、巻取計画明細毎に巻取張力T
W、巻取速度(モータ回転数)V、ニップ線荷重L、無次元ロール半径位置r/r
c等を設定することができるようになっている。
【0159】
上述のようなテーブル211〜220を用いることにより、種々の画面やビュー表を作成し、オペレータが最適化演算を実現することができるようになる。
【0160】
図7を参照して、本実施形態では、最適化プログラムを実行するための画面300が設けられている。この画面は、図略のメインメニューから遷移したものである。
【0161】
画面300には、ウェブおよび機械条件を設定するためのコマンドボタン301と、温度条件を設定するためのコマンドボタン302と、設定された諸条件に基づいて、最適化計算の方法を設定するためのコマンドボタン303が用意されている。テキストボックス304には、巻取制御テーブル220の巻取制御コードが最適化計算の設定結果として表示され、あわせて、巻取装置100の運転速度(モータ7の回転数)と、ニップ線荷重Lとが、それぞれテキストボックス305、306に表示されるようになっている。これらテキストボックスに表示された数値を見て、オペレータは、修正が必要かどうかを判断し、修正の必要がないと判断した場合には、転送用のコマンドボタン307を操作して、設定結果を制御ユニット20に指示する。制御ユニット20は、設定された結果に基づき、ウェブ10を巻き取って、巻取ロール5に加工し、そのトランザクション結果を
図6に示した各テーブル215〜217に登録する。また、必要に応じて、メインメニューに遷移することができるように、画面300には、コマンドボタン308が用意されている。
【0162】
図7のコマンドボタン301を操作した場合、画面は、ウェブおよび機械条件を設定するための画面310に遷移する。
【0163】
図8を参照して、画面310には、ウェブ10の品番を選択するためのコンボボックス311と、コンボボックス311で選択されたウェブ10の仕様を表示するリストウィンドウ312が設けられている。コンボボックス311からは、
図6のウェブテーブル211に登録されているウェブ品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ312に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0164】
また、画面310には、巻き芯5aの品番を選択するためのコンボボックス313と、コンボボックス313で選択された巻き芯5aの仕様を表示するリストウィンドウ314が設けられている。コンボボックス313からは、
図6の巻き芯テーブル212に登録されている巻き芯品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ314に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0165】
また、画面310には、ニップローラ4の品番を選択するためのコンボボックス315と、コンボボックス315で選択されたニップローラ4の仕様を表示するリストウィンドウ316が設けられている。コンボボックス315からは、
図6のニップローラテーブル214に登録されているニップローラ品番がリストアップされるようになっており、その選定された品番に関する各仕様がリストウィンドウ316に表示される。新たな品番を登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0166】
オペレータは、リストウィンドウ312、314、316に表示された仕様を確認し、表示された内容に変更がなければ、実行用のコマンドボタン317を操作して次の画面に遷移する。コマンドボタン317が操作されると、画面は、
図9の温度条件設定用の画面320に遷移する。
【0167】
図9を参照して、画面320には、時間ステップを入力するテキストボックス321と、熱伝達率を入力するためのテキストボックス322と、温度変化コードを選定するためのコンボボックス323と、指定時間を表示するためのテキストボックス324と、初期温度T
0を表示するためのテキストボックス325と、設定結果を表示するグラフィカルウィンドウ326と、設定結果を実行するコマンドボタン327とを備えている。
【0168】
時間ステップは、式(47)〜式(50)で採用されている時間ステップjを設定するためのものであり、オペレータが適切と考える任意の値である。
【0169】
熱伝達率は、基礎方程式(32)の境界条件として設定される式(33)、式(34)に用いられる値である。熱伝達率は、環境温度を実測し、演算して求めることができるので、温度設定条件によってパターン化し、オペレータ(ユーザ)が選定しやすいように別途、登録し、コンボボックスなどで選定できるようにしておくことが好ましい。
【0170】
温度変化マップコードは、
図6の温度変化マップテーブル218に登録されているデータを呼び出すものであり、コンボボックス323から温度変化マップテーブル218に登録されている温度変化マップコードを選定することにより、時刻T
j毎の環境温度T
∞を任意に設定することが可能になっている。新たな温度変化マップコードを登録する必要がある場合には、メインメニューに戻って、図略の登録画面から登録するようになっている。
【0171】
指定時間は、温度変化マップコードに対応する値を
図6の温度変化マップテーブル218から読み出して表示するためのものである。
【0172】
初期温度T
0は、センサ8(
図4)が読み取った環境温度の値であり、本実施形態では、この値を式(36)の値としてテキストボックスに表示する。あるいは、別の方法として、この画面320で初期環境温度を設定して
図6のウェブ製品管理テーブル217に登録しておき、ウェブ10を巻き取るときの環境温度をエアコンで制御するようにしてもよい。
【0173】
グラフィカルウィンドウ326は、設定された温度変化マップテーブル218の値に基づいて、温度と時刻のグラフを表示するためのものである。図示の例では、初期環境温度T
∞0が25℃の状態で巻取工程を実施し、工程終了後の巻取ロール5を20K高い温度で2時間加熱する例が表示されている。
【0174】
オペレータは、画面320に設定された仕様を確認し、表示された内容に変更がなければ、実行用のコマンドボタン327を操作して次の画面に遷移する。コマンドボタン327が操作されると、画面は、
図7の画面320に遷移する。オペレータは、修正が必要かどうかを判断し、修正の必要がないと判断した場合には、転送用のコマンドボタン307を操作して、設定結果を制御ユニット20に指示する。この指示により、制御ユニット20は、以下の手順で、温度変化を考慮した最適な巻取条件を演算する。
【0175】
次に、
図10を参照して、設定が転送された後の制御ユニット20の動作について説明する。
【0176】
制御ユニット20は、転送された設定条件に基づき、
図6の各テーブルから必要なデータを読み取る(ステップS101)。次いで、制御ユニット20は、読み取ったデータ、基礎方程式(
28)、並びに基礎方程式(
28)に関連する諸式に基づき、巻取ロール5に将来生じるであろう温度分布を演算する(ステップS102)。次いで、制御ユニット20は、カウンタ変数kを0に初期化し(ステップS103)、張力関数T
W(r)に初期テーパテンションを与えて演算し、区画r0〜rsにおける巻取張力T
Wを演算する(ステップS104)。この最初のステップ(k=0)では、
図5の仮想線で示す直線的なテーパ率で、巻取張力T
Wが設定される。
【0177】
次いで、制御ユニット20は、制約関数gi(X)の制約下で、k番目の目的関数f(X)
(k)の最小値を探索する(ステップS105)。次いで、制御ユニット20は、この段階で得られた設計変数ベクトルのうち巻取張力T
W(ΔT
W1、ΔT
W2、ΔT
W3、・・・ΔT
Wn)に基づき、張力関数T
W(r)を進化させる。具体的には、各接点P
(k)のr座標を固定し、T
W座標を正または負の方向にΔT
Wiだけ変化させて、新たな接点P
(k)を得る。例えば、仮想線で示す初期巻取張力T
W0が進化した場合、実線で示す巻取張力T
Wkに張力関数T
W(r)が進化する。
【0178】
次いで、制御ユニット20は、探索された目的関数f(X)が最小値であるか否かを検証し(ステップS107)、最小値でなければ、ステップkをインクリメントして(ステップS108)ステップS6以下を繰り返し、最小値に達していれば、制御工程に移行する。
【0179】
具体的には、目的関数f(X)が最小値になるまで進化した式(45)の張力関数T
W(r)に基づく巻取張力T
Wと、ニップ線荷重関数Lとによって、モータ7を制御する(ステップS109)。この結果、巻取直後においても、温度変化が生じた後においても、スターディフェクト、塑性変形、並びにテレスコープが何れも生じない巻取ロール5を得ることが可能になる。
【0180】
以上説明したように、本実施形態によれば、ウェブ10を巻き芯5aの周囲に巻き取って巻取ロール5に加工する際に、巻き取られるウェブ10の巻取張力を巻取径に応じて調整する制御ユニット20を備えた巻取装置であって、制御ユニット20は、巻取張力調整装置としてのモータ制御部23と、巻取ロール5に影響を与える環境温度T
∞の変化と、所定の指定時間T
kとに基づいて、当該巻取ロール5における指定時間T
k経過後の温度分布を演算する温度分布演算手段と、演算された温度分布に基づいて、巻取ロール5の内部応力σr、σ
θを演算する応力演算手段と、応力演算手段が演算した内部応力σr、σ
θに基づいて、当該巻取張力の最適値を演算する最適値演算手段とを論理的に備えている。このため本実施形態では、巻取ロール5が受けるであろう環境温度T
∞の変化と指定時間T
kとを記憶部21のウェブ製品管理テーブル217や温度変化マップテーブル218等に設定することにより、温度分布演算手段は、指定時間T
k経過後における巻取ロール5の温度分布を演算する(温度分布演算ステップ)。次いで、応力演算手段は、演算された巻取ロール5の温度分布を考慮した内部応力σr、σ
θを演算する(内部応力演算ステップ)。そして最適値演算手段は、巻取ロール5の温度分布を考慮して演算された内部応力σr、σ
θに基づいて、巻取張力の最適値を演算する(最適値演算ステップ)。従って、巻取ロール5が加工後に当該熱影響を受けた場合に、巻取ロール5の内部応力σr、σ
θは、温度分布演算手段の予測した特性に基づいて、変化することになる。その結果、熱影響に基づいて変化した内部応力σr、σ
θにより、フィルム同士が固着するブロッキングや、座屈シワ、或いは引張シワの発生等、事後に予想される巻取不良を可及的に防止することができる。
【0181】
また本実施形態では、温度分布演算手段は、非定常熱伝導微分方程式(32)を含む熱伝導解析モデルに基づいて、当該巻取ロール5の温度分布を演算する機能またはステップを備えている。このため本実施形態では、巻取ロール5内での熱伝導特性、並びに環境からの熱伝達特性を考慮して、巻取ロール5に作用する温度分布を演算することができるので、環境温度T
∞の変化に伴う巻取ロール5の温度分布にばらつきが生じている場合であっても、所要の層間摩擦力F
iや円周方向応力σ
θを確保することが可能になる。従って、当該温度分布によって巻取ロール5の各部が受ける半径方向応力σrや円周方向応力σ
θを一層精緻に把握することが可能になる。この結果、最適値演算手段は、演算値をより好適な巻取張力に最適化することができる。
【0182】
また本実施形態では、温度分布演算手段は、巻取ロール5を構成するウェブ10の層と、ウェブ10の層間に介在する空気の層とを等価層として評価して、当該巻取ロール5の温度分布を演算する機能を備えている。このため本実施形態では、巻取ロール5に形成される空気層を考慮した精緻な温度分布を演算することが可能になる。空気の熱伝導率K
eqは、ウェブ10に比べて格段に低いこと、巻取ロール5の熱抵抗は、接触圧力の増加とともに減少することを考慮すると、空気近傍の温度分布は、直線的にならない。他方、ウェブ10表面には、粗さが存在するため、ウェブ10層間の接触面は、一部が接触し、他の部分が非接触の分散接触となる。非接触部分には、空気が介在する。また、空気層が厚くなれば、ウェブ10は、引き離されて全面で非接触となる。そのように、巻取ロール5内に空気層が存在していると、巻取ロール5の見かけの熱伝導率K
eqは、変化する。本実施形態では、この空気層が存在することによる熱抵抗を考慮した等価層の熱伝導率K
eqを用いて非定常熱伝導微分方程式(32)を解くので、精緻な温度分布を演算することが可能になる。
【0183】
また本実施形態では、応力演算手段は、巻取ロール5を構成するウェブ10の層と、ウェブ10の層間に介在する空気の層とを等価層として評価して、当該巻取ロール5の内部応力σr、σ
θを演算する機能を備えている。このため本実施形態では、空気層が存在することによる熱抵抗を考慮した等価層の熱伝導率K
eqを用いて内部応力σr、σ
θが演算されるので、精緻な内部応力σr、σ
θを演算することが可能になる。
【0184】
また本実施形態では、応力演算手段は、ウェブ10の線膨張係数α
r、α
θをパラメータとして含む微分方程式を応力演算手段として演算する機能を含んでいる。このため本実施形態では、巻取ロール5の巻き芯5a側と最外層との間で温度分布の差が大きくなっても、巻取ロール5の温度分布に応じて層間摩擦力や円周方向応力σ
θを所要の値に維持することが可能になる。
【0185】
また、本実施形態では、応力解析モデルは、巻き芯5aの線膨張係数α
cをパラメータとする微分方程式(29)によって最内層の境界条件が与えられるものである。このため本実施形態では、巻き芯5aの線膨張係数α
cをも考慮して、巻取ロール5の内部応力を精緻に演算することが可能になる。
【0186】
また本実施形態では、最適値演算手段は、張力を演算する式(45)の張力関数と、この式(45)の張力関数を解くための式(47)の目的関数と、この式(47)の目的関数に含まれる式(46)の設計変数とを記憶し、式(47)の最小値を、巻取径と関連のある所定のステップ毎に演算する機能を備えている。このため本実施形態では、巻取径の所定ステップ毎に巻取ロール5が受けるであろう環境温度T
∞の変化を考慮した最小の張力が演算され、ステップが増加する毎にその張力が最適な値に最適化することが可能になる。
【0187】
また本実施形態では、最適値演算手段の式(47)の目的関数は、巻取ロール5に作用する円周方向応力σ
θと、ウェブ10間の摩擦力と、ウェブ10のスリップが始まる臨界摩擦力Fcrとからなるパラメータの何れかを含んでいる。このため本実施形態では、巻取ロール5の巻取不良の要因を確実に除去することが可能となる。
【0188】
以上説明したように本実施形態によれば、巻取ロール5が受けるであろう環境温度T
∞の変化と指定時間T
kとに応じて巻取ロール5の温度分布を演算し、熱応力を考慮した内部応力σr、σ
θを最適化することができるので、熱影響に基づいて変化した内部応力σr、σ
θにより、フィルム同士が固着するブロッキングや、座屈シワ、或いは引張シワの発生等、事後に予想される巻取不良を可及的に防止することができるという顕著な効果を奏する。
【0189】
なお、上述した本実施形態では、ニップ線荷重Lを定数として設計変数に含め、制約関数のパラメータとしているが、ニップ線荷重Lを制御パラメータとして使用しない態様であってもよい。以下に示す実施例では、ニップ線荷重Lを省略した態様を示している。
【実施例】
【0190】
次に、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明する。本件発明者は、複数の解析条件を設定し、解析条件毎に上述した予測理論モデル並びに実施形態による効果を確認した。何れの解析条件においても、指定時間T
kは、12時間である。
[解析条件A]
解析条件Aでは、下記の表に示すウェブ10と巻き芯5aとを用いた。
【0191】
【表3】
【0192】
解析条件Aでの巻取条件、ニップローラ、巻取ロール周辺の熱伝達係数を以下の表の通りとした。
【0193】
【表4】
【0194】
解析条件Aにおいて、設計変数、目的関数、制約条件を下記の通りとした。
【0195】
【数42】
【0196】
この例における目的関数は、巻取ロール5が温度変化を受ける指定時間T
k(=12時間)経過後の摩擦力F
i、円周方向応力σ
θに関する目的関数の式(53)を最小化することとしている。また、制約条件の式(54)は、経過時間T
k=0時間〜12時間の間に巻取られたロール周囲の温度が巻取時の初期ロール温度T
r0から+20Kまたは−20K変化し、巻取ロールの状態が変化する過程において、しわとスリップが生じない条件を制約している。
【0197】
また、解析条件Aにおける設計条件は、下記の通りとした。
【0198】
【表5】
【0199】
(実施例1:解析条件Aにおける加熱処理時の検証結果)
実施例1では、解析条件Aの下で巻き取られた巻取ロールを加熱した。加熱時の温度変化条件は、
図11(A)に示すように、ロール温度を25℃とし、加熱時の温度差を20K、加熱時間を12時間とした。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図11(B)に示すように、エージングルームで加熱された巻取ロール5は、加熱時間が経過するに連れて、外周側から温度が上昇し、12時間後には、全層にわたって温度分布が室内とほぼ同じになった。外層側から温度が上昇するのは、内周側に比べ、外周側の方が、熱伝達率が高いからであると考えられる。また、
図11(A)のような温度変化を与えたことを考慮して演算された巻取張力T
Wは、温度変化を考慮しない例に比べ、内周側で僅かに高く緩やかに下がっている。
【0200】
この演算結果に基づいて巻取張力T
Wの最適化を演算した場合、
図12に示す巻取張力特性が得られた。
図12において、実線Xは、本実施例に係る巻取張力T
Wの特性であり、破線Yは、式(28)、式(32)等を用いずに一般的な巻取方程式を用いて演算した場合の比較例の特性である。
【0201】
摩擦力F
i、半径方向応力σrに関しては、
図13(A)、(B)に示したように、本実施例の特性X(X1〜X3。以下同様。)では、全ての温度分布変化にわたって、良好な摩擦力F、半径方向応力σrを示した。
【0202】
また、円周方向応力σ
θについても、
図13(C)に示すように、全ての温度分布変化にわたり、全ての無次元ロール半径位置r/r
cにおいて、弛みの生じない特性を得ることができた。
【0203】
これに対して、温度変化を考慮しない比較例の特性Y(Y1〜Y3。以下同様。)では、内部の温度が上昇するに連れて(加熱時間が長くなるに連れて)内周側で円周方向応力σ
rが低下し、マイナスになる傾向が見られた。
(実施例2:解析条件Aにおける冷却処理時の検証結果)
解析条件Aの巻取ロールを冷却した。冷却時の温度変化条件として、
図14(A)に示すように、ロール温度を25℃とし、冷却時の温度差を20K、冷却時間を12時間とした。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図14(B)に示すように、冷却された巻取ロール5は、最外層側から冷えていき、12時間後には、全層にわたって温度分布が環境温度とほぼ同じになった。
【0204】
この演算結果に基づいて巻取張力T
Wの最適化を演算した場合、
図15のような結果を得た。本実施例の特性Xは、内周側からやや急激に立ち上がり、最外周近傍までは同じ特性で推移して、最外周近傍以降は、再び大きく立ち上がる特性となった。これに対して、比較例の特性Yは、内周側で巻取張力が降下し、最外周近傍まで低いレベルで推移した後、最外周近傍から所定レベルまで立ち上がる結果となった。
【0205】
摩擦力に関しては、
図16(A)に示すように、実施例の特性Xでは、温度変化に拘わらず、所要の摩擦力F
iを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、温度変化が大きくなるに連れて(冷却時間が長くなるに連れて)摩擦係数が低下し、広いロール半径位置において、滑りが生じやすい特性となった。
【0206】
また、半径方向応力σrに関しては、
図16(B)に示すように、本実施例の特性Xでは、温度変化に拘わらず、所要の半径方向応力σrを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、冷却時には、広いロール半径位置において、応力低下が見られた。
【0207】
さらに、円周方向応力については、
図16(C)に示すように、実施例の特性Xでは、全てのロール半径位置、全ての温度分布において、所要の円周方向応力σ
θを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、最外周側で円周方向応力がマイナスになった。
[解析条件B]
次に、解析条件Bでは、巻取後に±20Kで温度変化が生じても(すなわち、温度差が+20Kであっても、−20Kであっても)巻取不良が生じないように温度条件を設定した場合を検証した。かかる検証のために、解析条件Aのうち、目的関数と制約条件をそれぞれ次の通り変更した。
【0208】
【数43】
【0209】
解析条件Bにおける目的関数の式(56)は、巻取直後の摩擦力、円周方向応力が最小化されるように演算される。その結果、温度条件が加熱であっても冷却であっても同じ
図17の結果を得た。実施例の特性Xでは、巻始めから無次元ロール半径位置r/r
cが1.0程度の範囲で巻取張力T
Wが上昇し、その後、初期値に戻って外層側へ僅かに下がりになりながら緩やかに推移し、無次元ロール半径位置r/r
cが2.0を過ぎたところで再度急激に上昇するという振る舞いを見せた。これに対して、比較例の特性Yでは、巻始めから無次元ロール半径位置r/r
cが1.0程度の範囲で巻取張力T
Wが下がり、そのまま外層側へ緩やかに推移し、無次元ロール半径位置r/r
cが2.0を過ぎたところで再度上昇するという振る舞いを見せた。
【0210】
次に、熱処理後の結果は、以下の通りである。
(実施例3:解析条件Bにおける加熱処理時の検証結果)
図18(A)に示すように、加熱処理として、巻取時の初期ロール温度T
r0に対し、温度差を10Kに設定して12時間加熱した。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図18(B)に示す通りとなった。
【0211】
図18(B)を参照して、加熱後の巻取ロール5の温度分布は、加熱時間が経過するに連れて、外周側から温度が上昇し、12時間後には、全層にわたって温度分布が室内とほぼ同じになった。
【0212】
摩擦力、半径方向応力σrに関しては、
図19(A)(B)に示したように、全ての温度分布変化にわたって、良好な摩擦力F
i、半径方向応力σrを示した。
【0213】
また、円周方向応力σ
θについても、
図19(C)に示すように、全ての温度分布変化にわたり、全ての無次元ロール半径位置r/r
cにおいて、弛みの生じない特性を得ることができた。
(実施例4:解析条件Bにおける冷却処理時の検証結果)
図20(A)に示すように、冷却処理として、巻取時の初期ロール温度T
r0に対し、温度差を−10Kに設定して12時間冷却した。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図20(B)に示す通りとなった。
【0214】
図20(B)を参照して、冷却後の巻取ロール5の温度分布は、冷却時間が経過するに連れて、外周側から温度が低下し、12時間後には、全層にわたって温度分布が室内とほぼ同じになった。
【0215】
摩擦力に関しては、
図21(A)に示すように、実施例の特性Xでは、全てのロール半径位置、全ての温度分布において、所要の摩擦力F
iを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、温度変化が大きくなるに連れて(冷却時間が長くなるに連れて)摩擦係数が低下し、広いロール半径位置において、滑りが生じやすい振る舞いとなった。
【0216】
また、半径方向応力σrに関しては、
図21(B)に示すように、実施例の特性Xでは、温度変化に拘わらず、所要の半径方向応力σrを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、冷却時には、広いロール半径位置において、応力低下が見られた。
【0217】
さらに、円周方向応力については、
図21(C)に示すように、実施例の特性Xでは、全てのロール半径位置、全ての温度分布において、所要の円周方向応力σ
θを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、経過時間が12時間の場合、最外周側で円周方向応力がマイナスになった。
[解析条件C]
次に、熱伝達係数の相違によって内部応力が受ける影響を調べるために、解析条件Aのうち、熱伝達係数が次の表のように変化する例を調べた。
【0218】
【表6】
【0219】
残余の条件は、解析条件Aと同じにした。
(実施例5:解析条件Cにおける加熱処理時の検証結果)
実施例5では、解析条件Cの下で巻き取られた巻取ロールを加熱した。加熱時の温度変化条件は、
図22(A)に示すように、ロール温度を25℃とし、加熱時の温度差を20K、加熱時間を2時間とした。また、加熱時間経過後、巻取ロール5の環境温度をロール温度と同じ温度に戻した。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図22(B)に示すように、エージングルームで加熱された巻取ロール5は、加熱時間が経過するに連れて、外周側から温度が上昇し、2時間経過後には、外層側から温度が下がる傾向を示した。また、7時間後は、巻き芯側で比較的温度が加熱終了時の温度を維持している一方、外層側では、巻き芯側よりも温度が低下するという現象が見られた。このような現象もまた、内周側に比べ、外周側の方が、熱伝達率が高いからであると考えられる。この演算結果に基づいて、巻取張力T
Wの最適化を演算し、
図23の結果を得た。
【0220】
図23を参照して、
図22(A)のような温度変化を与えたことを考慮して演算された巻取張力T
Wの特性Xは、温度変化を考慮しない比較例の特性Yに比べ、内周側が僅かに高く設定されている。
【0221】
図24(A)、(B)に示したように、本実施例の特性Xでは、全ての温度分布変化にわたって、良好な摩擦力F
i、半径方向応力σ
rを示した他、円周方向応力σ
θについても、
図24(C)に示すように、全ての温度分布変化にわたり、全ての無次元ロール半径位置r/r
cにおいて、弛みの生じない特性を得ることができた。これに対して、比較例の特性Yでは、巻き芯側と外層側との温度分布の差が大きい場合に、円周方向応力σ
θが低下し、マイナスになる傾向が見られた。
(実施例6:解析条件Cにおける加熱処理時の検証結果)
解析条件Cの巻取ロールを冷却した。冷却時の巻き芯側と外層側での温度分布の相違条件として、
図25(A)に示すように、ロール温度を25℃とし、冷却時の温度差を20K、冷却時間を2時間とした。また、冷却時間経過後、巻取ロール5の環境温度をロール温度と同じ温度に戻した。熱応力の基礎方程式(
28)に基づく演算結果は、
図25(B)に示すように、冷却された巻取ロール5は、最外層側から冷えていき、外層側から温度が下がる傾向を示した。また、7時間後は、巻き芯側で比較的温度が加熱終了時の温度を維持している一方、外層側では、巻き芯側よりも温度が上昇するという現象が見られた。この演算結果に基づいて、巻取張力T
Wの最適化を演算し、
図26の結果を得た。
【0222】
図26を参照して、本実施例に係る特性Xにおいては、巻取張力T
Wが最初所定の勾配で無次元ロール半径位置r/r
cが増加するにつれて上昇し、所定の無次元ロール半径位置r/r
c(約1.0)を経過した後は、横ばいになり、外周近傍(約2.0)以降は、急激に上昇するという振る舞いを示した。これに対して、比較例Yでは、所定の無次元ロール半径位置r/r
c(約1.0)を経過するまでは、巻取張力T
Wが下がり、その後、横ばいになって、外周近傍(約2.0)以降に上昇するという振る舞いを示した。
【0223】
摩擦力に関しては、
図27(A)に示すように、実施例の特性Xでは、巻き芯側と外層側での温度分布の差如何に拘わらず、所要の摩擦力F
iを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、巻き芯側と外層側での温度分布の差が大きくなると、摩擦係数が低下し、広いロール半径位置において、滑りが生じやすい特性となった。
【0224】
また、半径方向応力σrに関しては、
図27(B)に示すように、本実施例の特性Xでは、巻き芯側と外層側での温度分布の差に拘わらず、所要の半径方向応力σrを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、冷却時には、広いロール半径位置において、応力低下が見られた。
【0225】
さらに、円周方向応力については、
図16(C)に示すように、実施例の特性Xでは、全てのロール半径位置、全ての温度分布において、所要の円周方向応力σ
θを維持することができた。これに対して、比較例の特性Yでは、巻き芯側と外層側での温度分布の差が大きくなると、最外周側で円周方向応力がマイナスになった。
【0226】
上述した実施例からも明らかなように、熱伝達率は、非定常状態のロール温度に大きな影響を及ぼすので、基礎方程式(28)を含む非定常熱伝導解析モデルを用いて巻取ロール5の温度分布を演算することが、極めて有効であることが確認された。
【0227】
図28(A)(B)を参照して、巻取ロール5のウェブ10が円周方向に延びやすい異方性の線膨張係数を有する場合、加熱によって、ウェブ10は、径方向に拡大するような応力が作用する。この結果、温度上昇が生じた場合には、外層側では各層に隙間が生じやすくなり、半径方向応力は低下する。この結果、温度分布の変化が大きいところで、スリップが生じやすくなる。また、巻き芯側では、ウェブが伸びきれず、圧縮が生じてシワ、ブロッキングが生じやすくなる。他方、温度低下が生じた場合には、径方向に収縮するので、半径方向応力は増大するが、巻き芯5a側では縮みきれず、引っ張りとなるため、円周方向応力は、負の方向にはならない。
【0228】
また、
図28(C)(D)に示すように、巻取ロール5のウェブ10が径方向に延びやすい異方性の線膨張係数を有する場合、加熱によって、ウェブ10は、径方向に拡大するような応力が作用し、各層の外側は拡開する。この結果、温度上昇が生じた場合には、各層の厚みが増大し、半径方向応力が増大し、シワ、ブロッキングが生じやすくなる。他方、温度低下が生じた場合には、ウェブ10は、径方向に縮小するような応力が作用し、各層の外側は縮径する。この結果、温度低下が生じた場合には、内周側への半径応力の押し付けが減り、円周方向応力は、正に転じる。
【0229】
従って、式(28)の基礎方程式等において、線膨張係数をパラメータとして含めていることは、ウェブの温度分布のばらつき、とりわけ、ウェブの線膨張係数が異方性を有する場合において、適切な巻取張力を得るために極めて有効であることが確認された。
【0230】
また、上述のような知見に基づき、巻き取られたウェブの円周方向と半径方向で線膨張係数が異方性を有している場合であっても、簡易的に制御することも可能である。つまり、巻取後に環境温度の上昇が予想される場合は、円周方向線膨張係数、半径方向線膨張係数のいずれが高い場合であっても、コア径と最終巻取り径の中間以下の径において、円周方向応力が負にならない程度に張力を予めあげておけばよい。他方、巻取後に環境温度の低下が予想される場合は、円周方向線膨張係数、半径方向線膨張係数のいずれが高い場合であっても、径全体において、層間摩擦力が限界摩擦力を下まわらない程度に、張力を予めあげておけばよい。そのような態様を採用した場合には、巻取後に環境温度の上昇が予想される場合、または、巻取後に環境温度の低下が予想される場合に、簡易的に温度変化に伴う内部応力の変化を考慮した巻取張力T
Wを付与することができる。また、この態様では、式(7)のような一般的な状態方程式で内部応力を演算し、その演算結果等に基づいて、巻取張力関数を最適化した後、温度上昇が予想される場合、または温度低下が予想される場合に、それぞれ演算結果を補正するだけで温度変化に対応する好適な巻取張力を得ることができるので、演算を大幅に簡略化し、しかも、好適な巻取ロールに仕上げることが可能になる。
【0231】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはいうまでもない。
【0232】
例えば、上述した実施形態ないしは実施例では、主として空気層を考慮した応力解析モデル、熱伝導解析モデルを用いたが、空気層が微小であり、実現象に対する影響が微小な場合には、ウェブ層間の空気層を考慮しなくてもよい。
【0233】
また、上述した実施形態では、空気層の半径方向ヤング率E
ralを、温度に依らず一定として取扱かったが、温度によるヤング率E
ralの変化を考慮するように構成してもよい。