(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車や各種機械に用いられる、屈曲した形状を有する金属製の強度部材、補強部材又は構造部材には、高強度、軽量かつ小型であること等が求められる。従来から、この種の曲げ部材は、例えば、プレス加工品の溶接、厚板の打ち抜き、さらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法により製造される曲げ部材の軽量化及び小型化には限界があり、その実現は容易なことではない。
【0003】
近年では、例えば非特許文献1に開示されるように、いわゆるチューブハイドロフォーミングによりこの種の曲げ部材を製造することも積極的に検討されている。非特許文献1の28頁にも記載されているように、チューブハイドロフォーミング工法は、素材となる材料の開発や成形可能な形状の自由度の拡大等といった様々な問題があり、今後より一層の開発が必要である。
【0004】
一方、これまでにも金属管に曲げ加工を行って、所望の形状を有する曲げ部材を製造するための発明が多数提案されている。
特許文献1には、金属管等を熱処理しながら曲げ加工する発明が開示され、特許文献2には、湾曲した異形断面らせん条材を製造する発明が開示され、特許文献3には、押し曲げ方式の高周波加熱ベンダーに係る発明が開示され、特許文献4には、金属部材の曲げ加工装置に係る発明が開示されている。
【0005】
本出願人も、先に、特許文献5により、金属加工方法及び金属加工装置を開示した。
図8は、この金属加工装置0の概略を示す説明図である。
図8に示すように、金属加工装置0は、基本的に、支持手段2によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管1を上流側から下流側へ向けて、例えばボールネジを用いた送り装置3により送りながら、支持手段2の下流で曲げ加工を行う曲げ加工方法を用いて屈曲した金属部材8を製造する。すなわち、支持手段2の下流で誘導加熱コイル5により鋼管1を部分的に急速に加熱するとともに誘導加熱コイル5の下流に配置される水冷装置6により鋼管1を急冷することによって、鋼管1に部分的に、鋼管1の軸方向へ相対的に移動する高温部1aを形成する。そして、鋼管1を送りながら支持可能であるロール対4aを少なくとも一組有する可動ローラーダイス4を例えば産業用ロボットのマニピュレータにより支持し、可動ローラーダイス4の位置を二次元又は三次元で変更することにより高温部1aに曲げモーメントを付与することによって、曲げ加工を行う。このため、この発明によれば、十分な曲げ加工精度を確保しながら高い作業能率で金属部材8を製造することができる。
【0006】
さらに、本出願人は、特許文献6により、鋼管を長手方向へ送る送り機構と、鋼管を送りながら支持する第1の支持機構と、送られる鋼管の一部又は全部を加熱する加熱機構と、送られる鋼管における加熱機構により加熱された部分を冷却する冷却機構と、送られる鋼管の少なくとも一箇所を支持しながら二次元又は三次元の方向へ移動することによって、鋼管における加熱された部分に曲げモーメントを与えて、鋼管を所望の形状に曲げ加工する第2の支持機構と、鋼管の変形を防止する変形防止機構とを備える金属加工装置を開示した。送り機構は、軸数が7軸の垂直多関節ロボットである第1の産業用ロボットにより構成される。
【0007】
この金属加工装置によれば、金属部材の製造にかかる装置全体の設置スペースの小型化を図りながら、特に把持手段の動作範囲を可及的抑制することによって装置のコンパクト化及び設備コストの抑制と、把持手段の動作速度を可及的抑制することによる動作速度の変化及び動作時の振動の抑制とを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の金属加工装置10の構成の一部を簡略化及び省略して概念的に示す斜視図である。なお、
図1に示す、第1の産業用ロボット18〜第3の産業用ロボット28を含む合計6基の産業用ロボットは、いずれも、マニピュレーター等を概念化および簡略化して示す。
【0020】
金属加工装置10は、送り機構11、第1の支持機構12、加熱機構13、及び冷却機構14からなる高温部形成機構40と、第2の産業用ロボット27を備える第2の支持機構15と、第3の産業用ロボットを備える変形防止機構16とを備えるので、これらの構成要素を順次説明する。
【0021】
[送り機構11]
送り機構11は、鋼管17をその長手方向へ送る。送り機構11は、第1の産業用ロボット18により構成される。
【0022】
以降の説明では、第1の産業用ロボット18や第3の産業用ロボット28にも、第2の産業用ロボット27と同様のロボットを用いた場合を例にとる。
図2は、第1の産業用ロボット18、第2の産業用ロボット27および第3の産業用ロボット28(以下、「各産業用ロボット18、27、28」と略記する)の構成例を示す説明図である。
【0023】
各産業用ロボット18、27、28は、いずれも、いわゆる垂直多関節ロボットである。各産業用ロボット18、27、28は、いずれも、第1軸〜第6軸を有する。
第1軸は、上腕19を水平面内で旋回させる。第2軸は、上腕19を前後に旋回させる。第3軸は、前腕20を上下に旋回させる。第4軸は、前腕20を回転させる。第5軸は、手首20aを上下に旋回させる。さらに、第6軸は、手首20aを回転させる。
【0024】
各産業用ロボット18、27、28は、必要に応じて、第1軸〜第6軸に加えて、上腕19を旋回させる第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸は、いずれも、ACサーボモーターにより駆動される。
【0025】
各産業用ロボット18、27、28それぞれの軸数は、6または7である必要はなく、5であってもよい。これらの産業用ロボットの軸数は、加工に必要な動作を行うことができる軸数であればよい。
【0026】
各産業用ロボット18、27、28は、他の汎用の産業用ロボットと同様に、いずれも、各軸の動作を総合的に制御するコントローラー21と、動作を教示するための入力装置22とを備える。
【0027】
効果器(エンドエフェクタ)24が、第1の産業用ロボット18の手首20aの先端に設けられる。効果器24は、第1の産業用ロボット18の側方近傍に配置されたパレットに収容された鋼管17を把持すること、および、把持した鋼管17を第1の支持機構12および加熱機構13にそれぞれ設けられた貫通孔に貫通させることを行うために用いられる。
【0028】
効果器24は、鋼管17の後部外面を掴む方式でもよいし、あるいは、鋼管17の後部内部に挿入する方式でもよい。
図1に示す効果器24は、鋼管17の後部内部に挿入される凸部を先端に有する方式の効果器である。
【0029】
効果器24は、曲げ加工の素材の後部の形状や寸法に応じて適宜変更されて、用いられる。金属加工装置10は、第1の産業用ロボット18の近傍に配置された段替え用ツール置き台30を備える。自動交換機能を有する交換用効果器24−1が段替え用ツール置き台30に載置される。加工素材が鋼管17以外の他の素材17−1(図示例は四角形の横断面を有する角管)に変更される場合、第1の産業用ロボット18が旋回し、効果器24を交換用効果器24−1に交換する。これにより、効果器24の交換が極めて迅速に行われる。
【0030】
図1に破線で示すように、もう1基の第1の産業用ロボット18−1が、第1の産業用ロボット18とともに配置されていてもよい。第1の産業用ロボット18による鋼管17の送り作業中に、第1の産業用ロボット18−1が、他の素材17−1をパレット23から拾い上げ、他の素材17−1を後述する第1の支持機構13に形成された貫通孔に通す。第1の産業用ロボット18−1は、適当な効果器を他の素材17−1の後端に配置されて、待機する。第1の産業用ロボット18による鋼管17の送り作業が終了すると、他の素材17−1のパスラインに合わせて、後述する加熱コイル支持ロボット32による加熱コイル13aの設置位置、および第2の支持機構15による可動ローラーダイス25の設置位置がいずれも変更される。これにより、第1の産業用ロボット18−1が他の素材17−1の送り作業を直ちに開始することができる。このため、金属加工装置10の生産タクトが短縮される。
【0031】
第1の産業用ロボット18−1は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸〜第6軸を有し、必要に応じて第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0032】
第1の産業用ロボット18が、パレット23からの鋼管17の移載およびセットを行うので、金属加工装置10のサイクルタイムが短縮され、これにより、金属加工装置10の生産性が高められる。
【0033】
なお、送り機構11として、例えばボールネジを用いた周知慣用の送り装置を用いてもよい。
【0034】
[第1の支持機構12]
第1の支持機構12は、支持台31に搭載される。第1の支持機構12は、第1の位置Aに固定して配置される。第1の支持機構12は、鋼管17を送りながら支持する。第1の支持機構12は、曲げ加工装置0と同様に、ダイスにより構成される。ダイスは、送り機構11により送られる素材を送りながら支持可能である複数のロール12a〜12fを有する。
【0035】
鋼管17は、ロール12a,12bとロール12d,12eとにより送られる。他の素材17−1は、ロール12b,12cとロール12e,12fとにより送られる。すなわち、鋼管17のパスラインがロール12a,12bとロール12d,12eとにより形成されるとともに、他の素材17−1のパスラインがロール12b,12cとロール12e,12fとにより形成される。
【0036】
複数のロール12a〜12fの設置数や形状、さらにはダイス内での配置は、搬送される素材17、17−1の形状や寸法等に応じて、適宜設定される。
このようなダイスは当業者にとっては周知慣用であるので、第1の支持機構12に関する説明は省略する。
【0037】
[加熱機構13]
加熱機構13は、鋼管17の送り方向について第1の位置Aよりも下流の第2の位置Bに配置される。加熱機構13は、加熱コイル支持ロボット32により支持されて、配置される。加熱機構13は、送られる鋼管17の一部または全部を加熱する。
【0038】
加熱機構13は、誘導加熱装置により構成される。誘導加熱装置は、鋼管17の周囲に離れて配置される加熱コイル13aを有する。この加熱コイル13aは、当業者にとっては周知慣用である。
【0039】
加熱コイル支持ロボット32は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸〜第6軸を有し、必要に応じて第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0040】
他の素材17−1を加熱する場合、段替え用加熱コイル置き台33が加熱コイル支持ロボット32の近傍に配置される。自動交換機能付きの交換用加熱コイル13bが、置き台33に載置される。素材が鋼管17以外の他の素材17−1に変更される場合、加熱支持ロボット32が旋回し、加熱コイル13aを加熱コイル13bに交換する。これにより、加熱コイル13bは極めて迅速に交換される。
【0041】
加熱機構13に関するこれ以上の説明は省略する。
【0042】
[冷却機構14]
冷却機構14は、鋼管17の送り方向について第2の位置Bよりも下流の第3の位置Cに固定して配置される。冷却機構14は、送られる鋼管17における加熱機構13により加熱された部分を冷却する。これにより、冷却機構14は、鋼管17の長手方向の一部に鋼管17の長手方向へ移動する高温部17bを形成する。高温部17bの変形抵抗は大幅に低下する。
【0043】
冷却機構14は、例えば、鋼管17の外面に離れて配置される冷却媒体噴射ノズル14a、14bを有する。冷却水が冷却媒体として例示される。この冷却媒体噴射ノズル14a、14bは、当業者にとっては周知慣用であるので、冷却機構14に関する説明は省略する。
【0044】
[第2の支持機構15]
第2の支持機構15は、鋼管17の送り方向について第3の位置Cよりも下流の第4の位置Dに配置される。第2の支持機構15は、送られる鋼管17の少なくとも一箇所を支持しながら二次元または三次元の方向へ移動する。これにより、第2の支持機構15は、鋼管17の高温部17b(位置B〜C間に存在する部分)に曲げモーメント又は剪断モーメントを与え、鋼管17を所望の形状に曲げ加工又は剪断加工する。
【0045】
第2の支持機構15は、曲げ加工装置0と同様に、可動ローラーダイス25により構成される。可動ローラーダイス25は、鋼管17を送りながら支持可能であるロール対25a、25bを少なくとも一組有する。
【0046】
可動ローラーダイス25は、第2の産業用ロボット27により支持される。第2の産業用ロボット27はCP型のプレイバックロボットである。CP型のプレイバックロボットは、隣接する教示点の間の多数に細分化された軌跡と、これらの多数に細分化された軌跡の通過時刻とを連続的に記憶可能である。
【0047】
第2の産業用ロボット27は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸〜第6軸を有し、必要に応じて第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸は、ACサーボモーターにより駆動される。
【0048】
グリッパー27aが、可動ローラーダイス25を保持するための効果器(エンドエフェクタ)として、第2の産業用ロボット27の手首20aの先端に設けられる。効果器は、グリッパー27a以外の型式のものでもよい。
【0049】
可動ローラーダイス25は、第2の産業用ロボット27を含む複数基の産業用ロボットにより、支持されていてもよい。これにより、各産業用ロボットの負荷が軽減されるので、可動ローラーダイス25の移動軌跡の精度が向上する。
【0050】
[変形防止機構16]
変形防止機構16は、鋼管17の送り方向について第4の位置Dよりも下流の第5の位置Eに配置される。変形防止機構16は、送られる鋼管17が自重や冷却により発生する応力によって変形することを防止する。
【0051】
第3の産業用ロボット28が変形防止機構16として用いられる。
第3の産業用ロボット28は、上述した第1の産業用ロボット18や第2の産業用ロボット27と同様に、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸〜第6軸を有し、必要に応じて第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0052】
鋼管17の外面を掴むグリッパー29が、鋼管17の先端部17aを保持するための効果器(エンドエフェクタ)として、第3の産業用ロボット28の手首20aの先端に設けられる。
【0053】
効果器は、グリッパー29以外の型式の効果器(例えば、鋼管17の開口に挿入するもの)を用いてもよいことはいうまでもない。例えば、段替え用ツール置き台34が第3の産業用ロボット28の近傍に配置される。鋼管17の内部に挿入する型式の交換用グリッパー29−1がこの置き台34に載置される。素材が鋼管17以外の他の素材17−1に変更される場合、第3の産業用ロボット28が旋回してグリッパー29をグリッパー29−1に交換する。これにより、グリッパー29−1が極めて迅速に交換される。
【0054】
ハンドリングロボット37が第3の産業用ロボット28の下流に配置される。ハンドリングロボット37は、手首20aの先端に把持部36を有する。把持部36は、曲げ加工を終了した曲げ加工品35を保持する。ハンドリングロボット37はCP型のプレイバックロボットである。
【0055】
ハンドリングロボット37は、上述した第1の産業用ロボット18と同様に、いわゆる垂直多関節ロボットであり、第1軸〜第6軸を有し、必要に応じて第7軸を有してもよい。第1軸〜第7軸はACサーボモーターにより駆動される。
【0056】
ハンドリングロボット37は、曲げ加工を終了した曲げ加工品35を保持する。ハンドリングロボット37は、保持した曲げ加工品35を製品置き台38に移載する。
金属加工装置10は、曲げ加工又は剪断加工を、温間または熱間で行うことが望ましい。温間とは、常温に比べて金属材料の変形抵抗が低下する温度域であり、例えば、ある金属材料ではおよそ500℃から800℃の温度域である。熱間とは、常温に比べて金属材料の変形抵抗が低下し、かつ、金属材料の焼入れ可能な温度域であり、例えば、ある鉄鋼材料では870℃以上の温度域である。
【0057】
曲げ加工又は剪断加工が熱間で行われる場合、鋼管17は、鋼管17が焼入れ可能な温度域に加熱された後に所定の冷却速度で冷却することによって、焼入れ処理される。また、曲げ加工又は剪断加工が温間で行われる場合、熱歪み等の加工に伴う鋼管17の歪みの発生が、防止される。
【0058】
金属加工装置10が、鋼管17を二次元または三次元に曲げる曲げ加工又は剪断加工を行うと、送り機構11が第1の産業用ロボット18を有するために、以下に列記する効果が得られる。
【0059】
(a)鋼管17の種類に応じて不可避的に行われる段取替えが、簡単かつ迅速に行われる。このため、金属加工装置10のサイクルタイムの増加が防止され、金属加工装置10の生産性が高まる。また、鋼管17のパスラインが変更される場合に不可避的に行われる段取替えが簡単かつ迅速に行われる。このため、金属加工装置10の生産の自由度および生産性がいずれも高まる。さらに、鋼管17を収容するパレット23が、第1の産業用ロボット18の動作範囲内に設置される。
【0060】
(b)送り機構11を構成する第1の産業用ロボット18が、ハンドリングロボットとしても用いられる。このため、この第1の産業用ロボット18が、素材17を所定の位置にセットした後に直ちに素材17をその軸方向へ送ることができるため、金属加工装置10のサイクルタイムが短縮される。
【0061】
(c)第1の産業用ロボット18の動作タイミングと、例えば、第2の産業用ロボット27、加熱コイル支持ロボット32、第3の産業用ロボット28等の他の装置の動作タイミングとを、一致させることが容易になる。このため、曲げ加工又は剪断加工部品35の寸法精度の向上を図ることが、鋼管17の送り速度を自在に変更すること(例えば、曲げ部材における曲げ部分の送り速度を低下すること等)によって可能になるとともに、第1の産業用ロボット18の起動の際のスタートタイミングと、例えば、第2の産業用ロボット27、加熱コイル支持ロボット32、第3の産業用ロボット28等の他の装置の起動の際のスタートタイミングとを、一致させることが容易になる。
【0062】
(d)第1の産業用ロボット18が送り機構11に用いられるので、金属加工装置10全体の設置スペースが、第1の産業用ロボット18が例えば第1の支持機構12にできるだけ近接して配置されることによって抑制され、これにより、金属加工装置10の設置場所の制限が抑制される。
【0063】
(e)第1の産業用ロボット18が送り機構11の構成要素として用いられるので、例えば、(1)鋼管17が溶接鋼管である場合に、鋼管17に存在する溶接ビード位置が曲げ加工に不具合を生じない位置になるように鋼管17を軸回りに回転させてから、鋼管17を金属加工装置10にセットする動作、(2)鋼管17のセット時の芯ずれを調整する動作、(3)鋼管17の送り経路を調整する動作、(4)鋼管17に微小な繰り返し振動を与えることによって第1の支持機構12や第2の支持機構15の摩擦係数を低下する動作、さらには(5)鋼管17の芯ずれを修正してスティックスリップ現象の発生を未然に防止する動作といった、送り動作以外の動作も行うことができる。このため、金属加工装置10の生産の自由度が高まる。
【0064】
なお、第1の産業用ロボット18が溶接ビード位置を変更する動作が行う場合、周知慣用の溶接ビード位置検出装置が第1の産業用ロボット18に設けられる。鋼管17の回転角度は溶接ビード位置検出装置の検出値により演算により設定されるようにしてもよい。
【0065】
(f)第1の産業用ロボット18は、生産実績が高い汎用の産業用ロボットにより構成可能であるので、良好なメンテナンス性が得られるとともに、補修や清掃に要する時間や工数が抑制される。
【0066】
(g)第1の産業用ロボット18は、第1の支持機構12の取付け向きに応じて、鋼管17の送り軌道を微修正できるので、曲げ加工又は剪断加工部品35の寸法精度が向上する。
【0067】
以上説明したように、金属加工装置10は、送り機構11、第1の支持機構12、加熱機構13、及び冷却機構14からなる高温部形成機構40と、第2の産業用ロボット27を備える第2の支持機構15と、軌跡測定装置と、制御装置とを備える。
【0068】
略述すると、高温部形成機構40は、略述すると、長尺の素材である鋼管17の軸方向へ移動する高温部17bを部分的に形成する。例えば第1の産業用ロボット18を用いた送り機構11が、第1の支持機構12によりその軸方向へ移動自在に支持される鋼管17を、上流側から下流側へ向けて送る。そして、第1の支持機構12の下流で加熱機構(誘導加熱コイル)13が鋼管17を部分的に例えば焼入れが可能な温度域(Ac
3点以上)に急速に加熱するとともに、加熱機構13の下流に配置される冷却機構14が鋼管17に冷却水を吹き付けて鋼管17を急冷することによって、加熱機構(誘導加熱コイル)13による鋼管17の加熱位置と冷却水の鋼管17への吹き付け位置との間に、鋼管17の軸方向へ移動するAc
3点以上の温度の高温部17bを形成する。このように、高温部形成機構40は、長尺の素材である鋼管17の軸方向へ移動する高温部17bを部分的に形成するための、送り機構11、第1の支持機構12、加熱機構13、及び冷却機構14からなる。
【0069】
第2の産業用ロボット27は、高温部17bを境として鋼管17の一方の端部側及び/又は他方の端部側を支持しながら移動するマニピュレータを備える。これらマニピュレータは、鋼管17を送りながら支持可能であるロール対25a、25bを少なくとも一組有する可動ローラーダイス25を把持しながら、可動ローラーダイス25の位置を二次元又は三次元で変更することによって鋼管17の高温部17bに曲げモーメント又は剪断モーメントを付与する。このようにして、第2の産業用ロボット27は、曲げ加工又は剪断加工部品35を製造する。
【0070】
図示しないが、金属加工装置10は、さらに、軌跡測定装置と制御装置とを備える。
軌跡測定装置は、産業用ロボットによる素材の支持位置の軌跡を測定する。また、制御装置は、産業用ロボットのマニピュレータを、予め設定した目標移動軌跡に基づいて移動させて高温部17bに曲げモーメントを与えるとともに、軌跡測定装置によるマニピュレータの軌道の測定値と目標移動軌跡との偏差を求め、この偏差が予め定めた閾値を超える場合には、長尺の素材17の次以降の長尺の素材17’の加工における目標移動軌跡を修正して設定するとともに、偏差が所定の閾値以下の場合には、長尺の素材17の次以降の長尺の素材17’の加工における目標移動軌跡に基づく。以下、軌跡測定装置と制御装置を説明する。
【0071】
長尺の素材17に、この素材17の軸方向へ移動する高温部17bを部分的に形成しながら、高温部17bを境として素材17の一方の端部側及び/又は他方の端部側を支持する第2の産業用ロボット27のマニピュレータを、予め設定した目標移動軌跡に基づいて移動させて高温部17bに曲げモーメントを与えることによって、金属部材35を製造するダイレス成形において、製造される金属部材35の加工精度のばらつきの原因は、主として、可動ローラーダイス25あるいは、可動ローラーダイス25を支持する第2の産業用ロボット27の軌道のばらつきである。
【0072】
ここで、可動ローラーダイス25あるいは第2の産業用ロボット27の軌道ずれの要因としては、
(A)各種加工機あるいは産業用ロボットの熱変形
(B)産業用ロボットの各軸の減速機の磨耗
(C)素材17の寸法(外径寸法、肉厚)のばらつき、素材17の材料成分(変形抵抗)のばらつき、素材17の加熱条件(加熱温度)のばらつき、さらには素材17の冷却条件(冷却温度)のばらつきに起因した加工時の荷重の変化
などが考えられる。
【0073】
例えば特許文献6により開示されるダイレス成形により金属部材35を量産する際には、これらの要因に起因して、製造される金属部材35の加工精度がばらつくおそれがある。
【0074】
そこで、本発明では、可動ローラーダイス25あるいは第2の産業用ロボット27の軌道の、初期設定の軌道データからのずれ(偏差)を計測してこれを監視し、得られた偏差が予め定めた閾値を超える場合には、初期設定の軌道データを補正することによって、金属部材35の量産時の加工精度のばらつきを最小化する。
【0075】
以降の説明では、第2の産業用ロボット27のマニュピュレ一タにより素材17を把持する場合を例にとるが、基本的には特許文献6により開示されるように可動ローラーダイス25のような支持装置により素材17を移動自在に支持する場合であっても、サーボモータと減速機とを組み合わせた機構となるので、同様である。
【0076】
従来のダイレス成形では、屈曲した金属部材35の形状が与えられると、幾何学的な関係に基づいて、塑性加工的な補正や弾性力学的な補正を加えた制御ロジックをベースとして、また、必要であれば何回かの確認試験を行うことによって、製造された金属部材35の形状が目標形状に一致するまで、第2の産業用ロボット27のマニュピュレ一タ(素材先端のクランプ位置)の移動軌跡の補正を行い、マニュピュレ一タ(素材先端のクランプ位置)の初期の軌道(基準値、目標値)を決定する。この初期の軌道のデータを用いて金属部材35の生産が開始される。
【0077】
図3、4は、いずれも、本発明の金属加工方法の概略を示すフロー図である。本発明では、
図3に示すように、
(i)マニュピュレ一タ(素材先端のクランプ位置)の軌道を直接測定するか、あるいは、第2の産業用ロボット27の所定部位の測定により軌道を推定する。
(ii)上記(i)項で求めた測定値又は推定値と、基準値(初期値、目標値)との偏差差を求める。
(iii)上記(ii)項で求めた偏差が予め定めた閾値を超える場合には、次材以降における基準値(初期値、目標値)のデータを変更して曲げ加工を行う。なお、偏差は、1回のデータにより求めてもよいし、あるいは複数回の平均値を用いてもよい。
【0078】
また、本発明では、
図4に示すように、
(i)マニュピュレ一タ(素材先端のクランプ位置)の軌道を直接測定するか、あるいは、第2の産業用ロボット27の所定部位の測定により軌道を推定する。
【0079】
(ii)上記(i)項で求めた測定値又は推定値と、基準値(初期値、目標値)との偏差差を求める。
(iii)偏差が予め定めた閾値を超えた場合には、次材以降における基準値(初期値、目標値)のデータの変更、金属部材35の生産の中止、あるいはアラームの発信を行う。
【0080】
次に、軌跡測定装置と制御装置の構成を説明する。
本発明に係る金属加工装置10は、上述した高温部形成機構40及び第2の産業用ロボット27のマニピュレータとともに、第2の産業用ロボット27による素材17の支持位置の軌跡を測定する軌跡測定装置と、マニピュレータを、予め設定した目標移動軌跡に基づいて移動させて高温部17bに曲げモーメント又は剪断モーメントを与えるとともに、軌跡測定装置によるマニピュレータの軌道の測定値と目標移動軌跡との偏差を求め、この偏差が予め定めた閾値を超える場合には長尺の素材17の次以降の長尺の素材17’の加工における目標移動軌跡を修正して設定する制御装置とを備える。軌跡測定装置としては、レーザやLEDを用いた市販の空間センサーを用いることが例示される。
【0081】
また、本発明に係る金属加工装置10は、高温部形成機構40、及び第2の産業用ロボット27のマニピュレータとともに、マニピュレータの撓みを測定する撓み測定装置と、マニピュレータを、予め設定した目標移動軌跡に基づいて移動させて高温部17bに曲げモーメントを与えるとともに、撓み測定装置によるマニピュレータの撓みと目標移動軌跡とに基づいて、長尺の素材17の次以降の長尺の素材の加工における目標移動軌跡を修正して設定する制御装置とを備える。撓み測定装置としては、第2の産業用ロボット27の各関節に市販の変位計を内臓することが例示される。
【0082】
図5は、第2の産業用ロボット27の関節部の減速機のモータ側と出側とに変位計を備える状況を概念的に示す説明図である。
図5に示すように、被駆動体を、減速機を介して駆動するモータ41と、減速機45の被駆動体側出力軸に取り付けられ出力軸の回転位置を検出するアブソリュート型エンコーダ42と、モータ41の回転位置を、パルスを介して検出するモータ側エンコーダ(インクリメンタル型エンコーダ)43と、電源投入によりモータ41を原点方向に動作させ、モータ側エンコーダ43の基準エンコーダパルスを出力させるパルス出力手段46と、基準エンコーダパルスの位置におけるアブソリュート型エンコーダ42の現在値を読み取る現在値読み取り手段47と、読み取った現在値と予め決められたモータ41の回転原点位置とからモータ回転数を演算するモータ回転数演算手段と、演算結果に基づき被駆動体44の位置を検出する被駆動体位置検出手段とを備えており、第2の産業用ロボット27の関節部の変位を測定することができる。
【0083】
図6は、第2の産業用ロボット27の関節部の動作を模式的に示す説明図である。
この撓み測定装置では、
(i)第2の産業用ロボット27のマニピュレータの変形を測定する。
(ii)第2の産業用ロボット27の関節の減速機入り側を基準に取り(0点)、モータ出側の変位を考える。加工時に、加速度や加工力などの外力が作用すると、
図6に示すように、第2の産業用ロボット27の関節には、X軸周りの回転Vx、y軸周りの回転Vy、Z軸周りの回転Vzが発生する。これらを測定する。
【0084】
例えば6軸ロボットであれば、6軸の各関節とアームの空間位置を考慮して、足し合わせることによって、第2の産業用ロボット27の先端の軌道を推定することができる。この中で、第2の産業用ロボット27の関節の減速機のz軸周りの回転Vzが最も大きく変化するため、第2の産業用ロボット27の先端の軌道の推定には、Vzのみを使用しても実用上十分な精度で第2の産業用ロボット27の軌道を推定することができる。
【0085】
なお、軌道のモニタリングだけであれば、第2の産業用ロボット27の先端の軌道に変換しなくとも、直接の計測値の変化の閾値を予め決定しておけばよい。
さらに、第2の産業用ロボット27が何らかの原因によりワーク等の他の物体に衝突・接触すると、その際の外力によって減速機が回転し、基準位置からのずれが生じることがある。その場合にも、モータ出側のエンコーダにより正確にずれを測定できるため、原点を再計算することにより、迅速な運転再開が可能となる。
【0086】
さらにまた、長期に加工機を使用していると、他の物体に衝突・接触がなくとも、減速機の磨耗が進行し、バックラッシュ量が大きくなり、そのまま放置すれば製品の加工精度が悪化する。これに対し、本発明によれば、オフラインで各関節の減速機について、所定のパルス数の正転や逆転の動作を行い、モータ出側のエンコーダで出側の動作を測定することにより、バックラッシュ量の大きさを定量的に把握することが可能となる。すなわち、バックラッシュ量を考慮して最適な軌道データの修正を行うことができるだけではなく、バックラッシュ量の大きさを定期的に管理し、減速機の交換タイミングを正確に把握することもできる。
【0087】
図7は、第2の産業用ロボット27の一つの関節を抜き出してサーボフィードバックを構成した説明図である。第2の産業用ロボット27では、各関節に対応して複数個のサーボループから構成される。
【0088】
軌道指令生成部51は、ワークである素材17を曲げ加工する際の第2の産業用ロボット27の各関節に与える軌道を生成するものであり、生成された軌道は指令作成部52に払い出される。
【0089】
指令作成部52では、軌道指令生成部51から受信する軌道データに基づいて、セグメントデータを生成し、サーボ制御部53へ位置指令を送信する。
サーボ制御部53では、位置指令に基づいて速度フィードバック及び電流フィードバックを行い、各関節に備えられたモータ54へ駆動電流を送信する。モータ54の回転角度は、モータ側エンコーダ55−1で検出され、位置情報として指令作成部52及びサーボ制御部53へフィードバックされる。このモータ54の回転角度は、減速機56で減速され、減速機56の出力軸に取り付けられたアーム57を駆動する。
【0090】
このようにすることで、第2の産業用ロボット27の各関節は、フィードバックループが構成される。
また、減速機56の出力側には出力側エンコーダ55−2が取り付けられており、出力側エンコーダ55−2の回転角度を検出する。出力側エンコーダ55−2の回転角度は、図示しない減速比に相当する乗算器を介して送信され、モータ側エンコーダ55−1の値と加減算した偏差を比較演算部58へ送信する。
【0091】
このようにすることで、第2の産業用ロボット27が素材17を曲げ加工又は剪断加工する際の負荷に応じた減速機56の歯面の撓み成分及びバックラッシ成分を検出することができる。
【0092】
また、アーム57に内蔵された位置センサ59によりアーム57の撓み成分を検出し、比較演算部58へ送信する。このようにすることで、素材17を曲げ加工する際における、下部アーム及び上部アームの負荷に応じた撓み成分を検出することができる。
【0093】
減速機56の偏差、及びアーム57の偏差は、第2の産業用ロボット27の手先位置の目標位置との誤差となることから、素材17を曲げ加工する際における位置決め誤差として検出することができる。
【0094】
また、比較演算部58では、減速機56の偏差、及びアーム57の偏差を加減算することにより、第2の産業用ロボット27の動作状態の軌道の各位置において、目標位置との偏差を生成する。
【0095】
一方、加工された素材17は形状測定部60により測定され、測定結果が軌道生成部61に送信される。軌道生成部61は、第2の産業用ロボット27の手先位置の軌道と、素材17の各部の軌道とを加減算することにより、目標位置との偏差を求め、求めた偏差が予め定めた閾値を超える場合には、新たな軌道を生成する。新たな軌道が軌道生成部61で生成され、生成された新たな軌道は軌道指令生成部51へ送信される。このようにして新たな軌道にしたがって素材17を加工し、偏差を収束させる。