(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748555
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】電気車制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20150625BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20150625BHJP
B61C 9/38 20060101ALI20150625BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
B60L15/20 G
H02P5/46 J
B61C9/38 A
F16F15/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-110200(P2011-110200)
(22)【出願日】2011年5月17日
(65)【公開番号】特開2012-244676(P2012-244676A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2013年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牧島 信吾
【審査官】
前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−124555(JP,A)
【文献】
特開平09−020241(JP,A)
【文献】
牧島信吾,永井正夫,“平行カルダン駆動電気鉄道車両の主電動機トルクによる車体振動抑制の検討”,第22回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム講演論文集,日本,日本機械学会,2010年 5月18日,No.10-252,p.186-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 − 15/42
B61C 9/38
F16F 15/02
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2組の車輪を有する台車の上に車体が搭載された電気車であり、前記台車に装荷された2台の電動機がそれぞれ歯車を内蔵した駆動装置を介して前記2組の車輪を駆動することにより走行する電気車両であって、前記2台の電動機に逆方向のトルク変動を重畳することにより、前記台車の上下振動を抑制し間接的に前記車体の振動抑制制御を行う電気車制御装置において、該電気車制御装置の振動抑制制御は、前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記台車の上下振動特性と前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記2台の電動機の回転速度差の振動特性をもとにモデルベース設計により構築され、前記2台の電動機の回転速度差情報を用いて加速度センサを用いずに前記台車振動の抑制が実現される電気車制御装置。
【請求項2】
前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記台車の上下振動特性および前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記2台の電動機の回転速度差の振動特性は、台車の上下運動並進運動による振動モードとそれより低い周波数の振動特性のみ考慮しそれより高い周波数の前記駆動装置の振動や台車枠の弾性振動といった振動モードの特性を考慮しないモデルを用いたモデルベース設計により構築されていることを特徴とした請求項1に記載の電気車制御装置。
【請求項3】
前記電気車制御装置はH∞制御により構築されており、振動特性を考慮した台車の上下並進運動による振動モードに対しては振動抑制効果が高くなるように設計されており、考慮していない高い周波数の振動モードの振動増幅が生じないように周波数重み付けされていることを特徴とした請求項2に記載の電気車制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車制御装置に関するものであり、特に振動乗り心地向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8から
図11に従来の技術による電気車駆動システムの一例を示し、この図に基づいて従来の技術を説明する。
【0003】
車体1の運転台にある主幹制御器2を運転手が操作することにより、加速指令が出力され電動機制御装置3に入力される。電動機制御装置3に入力された加速指令はトルク制御器31によってトルク指令に変換される。トルク指令は電流制御器32に入力され、電力変換回路33に流れる電流がトルク指令と対応した電流となるように電圧指令を生成する。また同時に、電流制御器は電圧指令と電力変換回路33に流れる電流から電動機61の回転速度を推定する。電力変換回路33は、集電装置4の電圧とレール5の電圧を用いて、電圧指令と等価的な電圧を台車6に搭載されている電動機61に電圧を印加する。(例えば特許文献1)
【0004】
なお、複数の電動機61を並列に制御することも可能であるが、ここでは
図9に示すように個々の電動機61を別の電力変換回路33で駆動する場合を説明する。その場合、電流制御器32と電力変換回路33を電動機61と対応したものを用意し、電流制御器32に入力されるトルク指令は同一のものとする。
【0005】
台車6を上から見た図を
図10に、横から見た図を
図11に示す。台車6を横から見た際に構成が複雑でるため、
図11では3つの図に分割したが、全て同一の台車6に組み込まれる構成である。
【0006】
台車6は走行用の車輪62が2組あり、車輪62と台車枠63は上下方向が軸ばね64、前後方向は前後支持装置65で結合されている。また、台車枠63と車体1は、上下方向が空気ばね66で、前後方向は牽引装置67で結合されている。
【0007】
電動機61のトルクは、継手68を介して駆動装置69に入力される。駆動装置69の小歯車691は歯車箱692に取り付けられている。小歯車691は車輪62とつながった大歯車693と噛み合って車輪62を回転させる。この時に、歯車箱692が回転運動をすることを防ぐために、台車枠63と結合する吊りリンク694によって歯車箱692の回転運動を防止している。
【0008】
車輪62はレール5上を走行するが、レール5の凹凸により上下に振動する。上下振動は、軸ばね64及び空気ばね66により吸収されるため、車体1に伝達される振動はレールの凹凸のうち一部である。しかしながら、レール5の凹凸が大きいと十分に振動が減衰されずに車体1の振動も大きくなるため、乗り心地の悪化を招く。
【0009】
軸ばね64によって台車枠と軸箱の間の振動が吸収されるが、電動機61は台車枠63に結合されているため電動機61と小歯車691の相対位置がずれる。そのために、継手68により電動機61と小歯車691の相対位置がずれてもトルクが伝わるようになっている。
【0010】
車体1の振動を抑制するために、アクティブサスペンションを台車枠63と車体1の間に設ける場合がある。アクティブサスペンションは、車体1の振動を検出して車体1の振動を抑制するような力を発生する。(例えば、特許文献2)
【0011】
また、軸ばね64の特性を可変にすることによって、台車枠63の上下振動を制御し、間接的に車体1の振動の抑制を行う手法も提案されている。(例えば、特許文献3)
【0012】
しかしながら、アクティブサスペンションや軸ばねの特性を可変にすることによる振動制御は、ハードウェアの追加や改造が必要であり、コストがかかる。特にアクティブサスペンションを用いるには、高価なアクチュエータが必要なだけでなく、アクチュエータを駆動するためのエネルギ源が必要であり、コスト及び消費エネルギの増加につながる。
【0013】
その一方で、既存のハードウェアを用いて振動を抑制する手法として、電動機61のトルクを用いて車体振動を抑制することも可能である。
図12から
図13を用いてその詳細を説明する。
【0014】
電動機61のトルクが発生すると、駆動装置69の小歯車691は大歯車周りに公転運動をしようとする。しかしながら、小歯車691は歯車箱692に設置されており、歯車箱692は吊りリンク694によって台車枠63に結合されていることから、小歯車691の公転運動を抑制するように力を発生する。この力の反作用が台車枠63にかかるため、電動機61のトルクによって台車枠63は力を受ける。
【0015】
2台の電動機61に逆方向にトルクをかけた場合、
図12に示すように台車枠63に対して吊りリンクからの力が働く。吊りリンク694によって発生する力によって台車枠の上下方向に重なり合うため、2台の電動機61に逆方向のトルクをかけることにより、台車枠の上下運動を制御できる。
【0016】
図13に示すように加速度センサ631がそれぞれの台車枠63につけられ、台車枠63の上下振動加速度を検出する。加速度センサ631の出力は、積分器34が積分することにより台車枠63上下絶対速度に変換される。積分器34の出力が比例器35により増幅したものを、該当する台車の電動機61に対応するトルク指令のうち、一方から減算しもう一方には加算する。
【0017】
この構成により、台車枠63の上下絶対速度に比例した振動トルクが2台の電動機61に逆方向に重畳される。逆方向の振動トルクは、〔0015〕に示した原理により台車枠63の上下力として作用する。台車枠63の上下振動絶対速度に比例した逆方向の力が台車枠63に発生することにより、台車枠63の上下振動を抑制できる。
【0018】
レールに凹凸がある場合、車輪62→軸ばね64→台車枠63→空気ばね66→車体1の順に減衰しながら伝達される。そこで、台車枠63の振動を抑制することにより、車体1への振動伝達がなくなり、レールに凹凸があっても車体1の振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−160245公報
【特許文献2】特開平7−267085公報
【特許文献3】特開2005−145312公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「平行カルダン駆動電気鉄道車両の主電動機トルクによる車体振動抑制の検討」 第22回電磁力関係のダイナミクスシンポジウム講演論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
アクティブサスペンションや軸ばねの特性を可変にすることによる振動制御は、ハードウェアの追加や改造が必要であり、コストがかかる。特にアクティブサスペンションを用いるには、高価なアクチュエータが必要なだけでなく、アクチュエータを駆動するためのエネルギ源が必要であり、コスト及び消費エネルギの増加につながる。
【0022】
一方で、〔0016〕に示した手法では、既存のハードウェアを用いてアクティブな振動制御が可能であるため、上記のような課題は生じない。しかしながらこの手法は、台車枠63の振動を検出して振動を抑制するため、加速度センサが必要となる。加速度センサは繊細な部品であるため、振動の大きな台車枠63に設置するには、信頼性の観点から望ましくない。
【0023】
また、この手法は既存の電動機駆動用のインバータのソフト変更で実現できる可能性がある。しかしながら、加速度センサを用いる必要があるため、加速度センサ信号の入力ができないインバータでは対応できない。
【0024】
加速度センサを用いない手法としては、2台の電動機61の回転速度差を利用して、台車枠の上下振動を検出する手法がある。
図14は、2台の電動機61の回転速度差により台車枠63の上下振動の検出の手法である。
【0025】
しかしながら、この手法では駆動装置69の振動や、継手68のねじれ振動等が生じる状態では台車枠63の上下振動が適切に検出できずに、制御に悪影響を及ぼす。
【0026】
駆動装置69の振動や、継手68のねじれ振動を厳密に考慮して制御出来れば、良好な制御が可能であるものの、これらの特性を厳密に把握することは困難である。また、非線形要素を多く含むため、運転状態によって特性が変化することから、その変化も考慮に入れることは困難であり、特性変動によって制御が悪影響を及ぼす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
請求項1によれば、2組の車輪を有する台車の上に車体が搭載された電気車であり、前記台車に装荷された2台の電動機がそれぞれ歯車を内蔵した駆動装置を介して前記2組の車輪を駆動することにより走行する電気車両であって、前記2台の電動機に逆方向のトルク変動を重畳することにより、前記台車の上下振動を抑制し間接的に前記車体の振動抑制制御を行う電気車制御装置において、該電気車制御装置の振動抑制制御は、前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記台車の上下振動特性と前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記2台の電動機の回転速度差の振動特性をもとにモデルベース設計により構築され、前記2台の電動機の回転速度差情報を用いて
加速度センサを用いずに前記台車振動の抑制が実現される電気車制御装置。
【0028】
請求項2の発明によれば、前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記台車の上下振動特性および前記2台の電動機に逆方向の振動トルクを加えた際の前記2台の電動機の回転速度差の振動特性は、台車の上下運動並進運動による振動モードとそれより低い周波数の振動特性のみ考慮しそれより高い周波数の前記駆動装置の振動や台車枠の弾性振動といった振動モードの特性を考慮
しないモデルを用いたモデルベース設計により構築されていることを特徴とした請求項1に記載の電気車制御装置。
【0029】
請求項3の発明によれば、前記電気車制御装置はH∞制御により構築されており振動特性を考慮した台車の上下並進運動による振動モードに対しては振動抑制効果が高くなるように設計されており、考慮していない高い周波数の振動モードの振動増幅が生じないように周波数重み付けされていることを特徴とした請求項2に記載の電気車制御装置。
【発明の効果】
【0030】
アクティブサスペンション等の新たなハードウェアや加速度センサを追加しなくても、車体の振動抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る電気車制御装置の制御系の一例である。
【
図3】主電動機の回転速度差の振動特性の一例である。
【
図4】本発明に係る電気車制御装置の振動制御器構成のための一般化プラントの一例である。
【
図5】本発明に係る電気車制御装置の振動制御器構成のための周波数重みの一例である。
【
図7】主電動機の回転速度差の振動特性の一例である。
【
図8】従来の技術による電気車制御装置の一例である。
【
図9】従来の技術による電気車制御装置の制御系の一例である。
【
図10】従来の技術による電気車制御装置の台車の上面図の一例である。
【
図11】従来の技術による電気車制御装置の台車の側面図の一例である。
【
図12】従来の技術による電気車制御装置の原理を説明する図である。
【
図13】従来の技術による電気車制御装置の制御系の一例である。
【
図14】電動機の回転速度差を用いた台車枠振動検出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に図面を参照して、本発明にかかる電気車制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1から
図5を用いて請求項1から3の発明の一実施例について説明するが、従来の技術と同一部分は省略する。
【0034】
同一の台車63に装荷された2台の電動機63に対する電流制御器32により推定された2台の電動機63の回転速度の差を、振動制御器36に入力する。振動制御器36は、回転速度差に基づき、台車枠63の上下振動が抑制されるような振動抑制トルクを発生し、対応する2台のトルク指令のうち一方に加算、もう一方を減算する。その結果、従来の技術と同様の原理で台車枠63に上下力が発生し、振動抑制が可能となる。
【0035】
次に、振動制御器63の設計手法について説明する。
【0036】
図2は同一台車内の2台の電動機61に逆位相で振動トルクを与えた際の、台車枠63の上下振動への周波数応答特性の例であり、
図3は同一台車内の2台の電動機61の回転速度差への周波数応答特性の例である。この例では
図2および
図3ともに2つの振動ピークがみられるが、周波数の低い振動ピークは台車枠61の上下振動モードであり、周波数高い振動ピークは、駆動装置69の振動や継手68のねじれ振動といった高次モードである。
【0037】
振動制御器63は、
図2および
図3の特性を考慮して設計するが、高次モードの振動特性を厳密に考慮することは困難である。さらに、高次モードが複数ある場合も多く、計測が困難である。また、仮にこれらの特性を把握できても、運転状態や経年変化に伴い特性が変化する。
【0038】
そのため、振動制御器63で考慮する振動特性は、高次モードを除外して考慮する。一方で、高次モードを除外した振動制御器では高次モードの影響により制御に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0039】
以上の理由から、高次モードがあっても制御に悪影響を及ぼさない振動制御器63が必要となる。そこで、振動制御器63にはH∞制御則を適用する。
【0040】
図4は、H∞制御器の構築のための一般化プラントである。ここで、P1は同一台車内の2台の電動機61に逆位相で振動トルクを与えた際の台車枠63の上下振動の周波数特性、P2は同一台車内の2台電動機61に逆位相で振動トルクを与えた際の2台の電動機61の速度差の周波数特性である。P1およびP2はそれぞれ
図2および
図3の破線のように、台車枠の上下並進運動を主体とした振動モードのピークの周波数までをモデル化し、それより高い周波数の振動特性は無視する。
【0041】
図4のW1およびW2は周波数重み付けであり、
図5のような周波数特性を有するフィルタである。W1は振動抑制効果に対する重み付けであり、プラントP1およびP2でモデル化している振動抑制効果を期待する周波数帯域で高くなるようにする。一方で、W2は外乱に対するロバスト性の重み付けであり、プラントPで考慮していない高い周波数での重み付けが高くなるようにする。
【0042】
この構成によりH∞制御器を構築することにより、振動特性を考慮している台車枠上下並進運動を主体とした振動モードのピークより低い周波数帯域では振動が抑制され、振動特性を考慮していない高次モードに関しては、制御により振動が悪化することを防ぐ。
【実施例2】
【0043】
図6及び
図7を用いて請求項1から3の発明の一実施例について説明するが、実施例1と同一部分は省略する。
【0044】
図6は、実施例1と異なる特性の台車において、同一台車内の2台の電動機61に逆位相で振動トルクを与えた際の台車枠63の上下振動の周波数応答であり、
図7は同一台車内の2台の電動機61の回転速度差への周波数応答特性の例である。この例では
図6および
図7共に3つの振動ピークがみられるが、2番目の振動ピークは台車枠の上下振動モードであり、それより低い周波数に継手68のねじれ振動による共振ピークが有り、さらに高い周波数に駆動系共振による振動ピークがある。
【0045】
この例のように、台車枠の上下振動モードより低い周波数に他の振動ピークがみられる場合、H∞制御器の構築のための一般化プラントの、P1およびP2は、
図6および
図7の破線のように、台車枠上下振動モードとそれより低い周波数の振動特性を考慮する。
【0046】
本構成により、継手68の振動が台車枠上下振動モードより低い周波数帯域にあっても、その特性を考慮した制御器が構築可能となり、実施例1と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、電気鉄道車両の駆動システムに有効である。また既存の車両のハードウェアの変更なしに実現できるため、極めて有効である。
【符号の説明】
【0048】
1 車体
2 主幹制御器
3 電動機制御装置
31 トルク制御器
32 電流制御器
33 電力変換回路
34 積分器
35 比例器
36 振動制御器
4 集電装置
5 レール
6 台車
61 電動機
62 車輪
63 台車枠
631 加速度センサ
64 軸ばね
65 前後支持装置
66 空気ばね
67 牽引装置
68 継手
69 駆動装置
691 小歯車
692 歯車箱
693 大歯車
694 吊りリンク