【文献】
朝比奈稔,他2名,ジョイントシートガスケットおよびバネ入りメタルCリング(トライパック○R)の室温における気体と液体のシール特性,圧力技術,日本,社団法人日本高圧力技術協会,1999年 8月 5日,第37巻第4号,pp.226-234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部空間の初期体積および漏洩試験後体積を、上部フランジの注入口から流出したガスを捕捉し、水上置換法によって測定する請求項1または2に記載の液体漏洩量の測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液体漏洩量の測定方法は、前記したように、シール材の液体漏洩性を評価するための液体漏洩量の測定方法である。本発明の液体漏洩量の測定方法を図面に基づいて説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施態様のみによって限定されるものではない。
図1〜4は、本発明の液体漏洩量の測定方法の概略説明図である。
【0010】
〔準備段階〕
図1は、本発明の液体漏洩量の測定方法の準備段階における概略説明図である。本発明においては、まず、
図1(a)に示されるように、下部フランジ1上にシール材2を介して、内部空間5および当該内部空間5と外部とが連通する注入口4を有する上部フランジ3を載置する。
【0011】
シール材2としては、例えば、ガスケット、平パッキンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ガスケットは、本発明の液体漏洩量の測定方法に好適に使用することができる。ガスケットとしては、例えば、シートガスケット、PTFEジャケット型ガスケット、うず巻型ガスケットなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのガスケットは、いずれも本発明において好適に使用することができるものである。
【0012】
上部フランジ3は、内部空間5と外部とが連通する注入口4を有する。上部フランジ3の内部空間5の容積は、特に限定されないが、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、通常、100mm
3以下であることが好ましい。上部フランジ3の底面は、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、シール材2を完全に覆う程度の大きさを有することが好ましい。
【0013】
次に、
図1(b)に示されるように、上部フランジ3に荷重(図示せず)を負荷した状態で、上部フランジ3の注入口4から内部空間5内に液体6を注入する。
【0014】
上部フランジ3に荷重を負荷させる方法としては、例えば、下部フランジ1と上部フランジ3とを締付装置で締め付けるなどの方法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、締付装置は、下部フランジ1と上部フランジ3との間でシール材2を十分に締め付けることができるものであればよい。締付装置の例としては、油圧装置、ボルト締めなどが挙げられる。
【0015】
内部空間5内に注入される液体6は、特に限定されないが、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、シール材2が実際に使用されるときの液体と同一の種類であることが好ましい。液体6としては、一般に水が用いられる。水としては、例えば、水道水、工業用水などが挙げられるが、本発明は、当該水の種類によって限定されるものではない。水は、その水温が常温であってもよく、あるいは加温または冷却されていてもよい。
【0016】
〔内部空間の初期体積の測定〕
前記準備段階で上部フランジ3の注入口4から内部空間5内に液体6を注入した後には、例えば、
図2に示されるように、内部空間5の初期体積を測定するための操作を行なう。
【0017】
内部空間5の初期体積を測定するための操作は、上部フランジ3の注入口4から内部空間5内に加圧ガスを導入し、注入口4を封鎖した後、当該注入口4を開口し、当該注入口4から流出した加圧ガスを捕捉することによって行なうことができる。
【0018】
本発明においては、まず、
図2(a)に示されるように、上部フランジ3の注入口4から矢印Aで示される方向に内部空間5内に加圧ガスを導入した後、
図2(b)に示されるようにバルブ7などを用いることによって注入口4を封鎖する。
図2には、注入口4を開閉する手段としてバルブ7が記載されているが、本発明は、バルブ7のみに限定されるものではなく、注入口4を開閉することができる他の手段、例えば、開閉スイッチなどであってもよい。なお、本発明の説明の便宜上、本明細書では、注入口4を開閉する手段としてバルブ7を用いた場合を例にとって説明する。
【0019】
加圧ガスの種類としては、例えば、空気、酸素ガス、二酸化炭素ガスなどをはじめ、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。加圧ガスの圧力は、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、後述する液体漏出試験における試験ガスの圧力の0.1〜20%程度であることが好ましい。加圧ガスは、常温であってもよく、必要により、加温または冷却されていてもよい。なお、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、加圧ガスの温度変化が小さくなるようにするために加圧ガスの温度が一定となるように加圧ガスの温度を調整してもよい。
【0020】
なお、バルブ7を開にしたときに注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを容易に捕捉することができるようにするために、
図2(c)に示されるように、水上置換法を採用することができる。水上置換法は、一般に採用されている方法であればよく、特に限定されない。例えば、水上置換法は、
図2(c)に示されるように、上部が封止されている倒立管8内に液体9を充満させておき、液体9が注入された水槽10の液体9中に倒立管8の開口部を浸漬させ、この倒立管8内に注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを導入することによって行なうことができる。このように水上置換法を採用した場合には、注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを効率よく捕捉することができる。倒立管8としては、例えば、メスシリンダーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。倒立管8の内径は、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、小さいことが好ましい。
【0021】
次に、
図2(d)に示されるように、バルブ7を開にすることにより、注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを倒立管8内で捕捉し、捕捉されたガス11の体積を測定する。
【0022】
ここで、
図2(c)に示される状態において、内部空間5の加圧ガスの圧力は、大気圧PよりもΔPだけ圧力が高い。また、
図2(d)に示される状態では、内部空間5内の加圧ガスは、バルブ7を開にすることによって倒立管8に捕捉されているため、内部空間5の加圧ガスの圧力は、大気圧Pに等しい。
【0023】
図2(c)に示される状態から
図2(d)に示される状態への変化は、内部空間5の加圧ガスの圧力の変化が主であって、液体6自体の体積変化は微小であるため無視することができるので、内部空間5の体積V
1は、
図2(c)に示される状態と
図2(d)に示される状態とでは実質的に同一である。
【0024】
倒立管8で捕捉された気体11の体積をΔVとすると、ボイルの法則にしたがって、式(I):
(P+ΔP)×V
1 〔
図2(c)に示される状態〕
=P×(V
1+ΔV) 〔
図2(d)に示される状態〕 (I)
で表わされる関係式が成立する。この式(I)で表わされる関係式より、内部空間5の体積V
1は、式(II):
V
1=(P÷ΔP)×ΔV (II)
によって求められる。
【0025】
前記準備段階における一連の操作では、加圧ガスを内部空間5内に導入した状態を一定時間保持するという操作を必要としない。したがって、当該操作を短時間で行なうことができるので、内部空間5の温度が周囲雰囲気の温度変化に左右され難いことから、内部空間5の体積を精度よく測定することができる。
【0026】
〔液体漏出試験〕
前記内部空間の初期体積の測定を行なった後に、液体漏洩試験を行なう。液体漏洩試験は、例えば、
図3(a)の矢印Aに示されるように、内部空間5のガス圧が一定となるように注入口4から内部空間5に試験ガスを一定時間導入することによって行なうことができる。
【0027】
注入口4から内部空間5に導入される試験ガスの種類としては、例えば、空気、酸素ガス、二酸化炭素ガスなどをはじめ、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの加圧ガスのなかでは、経済性の観点から、空気が好ましく、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、ヘリウムガスが好ましい。試験ガスの圧力は、液体漏出試験の要求水準などによって異なるので一概には決定することができないため、当該液体漏出試験の要求水準などに応じて適宜決定することが好ましい。
【0028】
内部空間5のガス圧は、試験条件の変動による液体漏洩量の測定精度の低下を防止する観点から、一定となるように調整御される。なお、試験ガスは、常温であってもよく、必要により、加温または冷却されていてもよい。試験ガスの温度は、液体漏洩量の測定精度を向上させる観点から、液体漏出試験を行なっている際には、一定となるように調整してもよい。内部空間5への試験ガスの導入時間は、液体漏出試験の要求水準などによって異なるので一概には決定することができないため、当該液体漏出試験の要求水準に応じて適宜決定することが好ましい。
【0029】
以上のようにして内部空間5内のガス圧が一定となるように試験ガスを内部空間5内に一定時間導入すると、液体の漏洩が生じた場合には、例えば、
図3(b)に示されるように、下部フランジ1とシール材2との境界面や上部フランジ3とシール材2との境界面などで液体12が滲出するため、内部空間5の体積が増大し、液体6の液面が低下する。一方、液体12の漏洩が生じていない場合には、
図3(a)に示される状態が維持されるので、内部空間5の体積および液体6の液面の高さに変化が認められない。
【0030】
〔内部空間の漏洩試験後体積の測定〕
内部空間5内のガス圧が一定となるように試験ガスを内部空間5内に一定時間導入し、当該試験ガスのガス圧を解除した後には、
図4に示されるように、上部フランジ3の注入口4から内部空間5に加圧ガスを導入し、注入口4をバルブ7で封鎖した後、当該注入口4を開口し、当該注入口4から流出した加圧ガスを捕捉することによって内部空間5の漏洩試験後体積を測定する。内部空間5に加圧ガスを導入する際、内部空間5内のガス圧を一旦大気圧にまで戻した後に内部空間5に加圧ガスを導入してもよく、あるいは内部空間5に導入される加圧ガスが有する圧力以下に内部空間5内のガス圧を減圧した後に内部空間5に加圧ガスを導入してもよい。
【0031】
この内部空間5の漏洩試験後体積の測定は、前記内部空間5の初期体積の測定と同様の操作によって行なうことができるが、以下にその詳細について説明する。
【0032】
内部空間の漏洩試験後体積を測定するための操作は、上部フランジ3の注入口4から内部空間5に加圧ガスを導入し、注入口4を封鎖した後、当該注入口4を開口し、当該注入口4から流出した加圧ガスを捕捉することによって行なうことができる。
【0033】
本発明においては、まず、
図4(a)に示されるように、上部フランジ3の注入口4から矢印Aで示される方向に内部空間5内に加圧ガスを導入した後、
図4(b)に示されるようにバルブ7などを用いることによって注入口4を封鎖する。
【0034】
加圧ガスの種類、圧力および温度は、前記内部空間5の初期体積の測定の際に用いられる加圧ガスと同様であればよい。
【0035】
なお、バルブ7を開にしたときに注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを容易に捕捉することができるようにするために、
図4(c)に示されるように、水上置換法を採用することができる。水上置換法は、前記内部空間5の初期体積の測定の際に用いられる水上置換法と同様にして行なうことができる。
【0036】
次に、
図4(d)に示されるように、バルブ7を開にすることにより、注入口4から流出した内部空間5内の加圧ガスを倒立管8で捕捉し、捕捉されたガス11の体積を測定する。
【0037】
ここで、
図4(c)に示される状態において、内部空間5の加圧ガスの圧力は、加圧ガスが用いられているので、大気圧PよりもΔP'だけ圧力が高い。また、
図2(d)に示される状態では、内部空間5内の加圧ガスは、バルブ7を開にすることにより、倒立管8に捕捉されるため、そのときの内部空間5のガスの圧力は大気圧Pに等しい。
図4(c)に示される状態から
図4(d)に示される状態への変化は、内部空間5のガスの圧力の変化が主であって、液体6の体積変化は微小であるため無視することができるので、内部空間5の漏洩試験後体積V
2は、ほぼ一定である。倒立管8で捕捉された気体11の体積をΔV'とすると、ボイルの法則にしたがって、式(III):
(P+ΔP')×V
2 〔
図4(c)に示される状態〕
=P×(V
2+ΔV') 〔
図4(d)に示される状態〕 (III)
で表わされる関係式が成立する。この式(III)で表わされる関係式より、内部空間5の漏洩試験後体積V
2は、式(IV):
V
2=(P÷ΔP')×ΔV' (IV)
によって求められる。
【0038】
内部空間5の漏洩試験後体積V
2の測定の際の一連の操作では、加圧ガスを内部空間5内に導入した状態を一定時間保持するという操作を必要としない。したがって、当該操作は、短時間で行なうことができるので、内部空間5の温度が周囲雰囲気の温度変化に左右され難いことから、内部空間5の漏洩試験後体積V
2を精度よく測定することができる。
【0039】
〔液体漏洩量の測定〕
液体漏洩量Vは、式(V):
V=V
2−V
1 (V)
で表わされるように、内部空間5の漏洩試験後体積V
2から内部空間5の初期体積V
1を減ずることによって求めることができる。
【0040】
以上説明したように、本発明の液体漏洩量の測定方法によれば、内部空間の初期体積および内部空間の漏洩試験後体積を短時間で測定することができるとともに、液体漏出試験の際には、内部空間の温度管理を必要とせずに内部空間のガス圧を一定に保つだけでよいので、従来の煩雑な温度管理を必要とする圧力降下法と対比して、液体漏洩量を簡便に測定することができる。
【0041】
さらに、本発明の液体漏洩量の測定方法によれば、従来の圧力降下法のように測定装置の配管が複雑となることを回避することができるので、配管の接続部における液体の漏洩を効率よく防止しつつ、液体漏洩量を高精度で測定することができる。
【0042】
したがって、本発明の液体漏洩量の測定方法は、例えば、ガスケットに代表される固定用シール材などのシール材の液体漏洩性を評価する際に使用される液体漏洩量の測定方法として期待されるものである。
【実施例】
【0043】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1〜3
図1〜4に示される液体漏洩量の測定装置を用いた。対象ガスケットとしてジョイントシートガスケットV#6500を用い、その寸法をJIS 10K 50A(φ61mm×φ104mm)、厚さ(t)3.0mmとした。
【0045】
まず、下部フランジ上に対象ガスケットを介して内部空間および当該内部空間と外部とが連通する注入口を有する上部フランジ(内容量:50mL)を載置し、当該上部フランジに荷重をガスケットの面圧が表1に示す値となるように調整した。当該荷重を負荷した状態で上部フランジの注入口から内部空間内に液体として水を注入した。
【0046】
次に、上部フランジの注入口から内部空間内に加圧ガスとしてヘリウム〔0.1MPa・G(ゲージ圧)〕を導入し、注入口を封鎖した後、当該注入口を開口し、当該注入口から流出した空気を水上置換法にてメスシリンダーで捕捉することによって内部空間の初期体積を測定した。その後、内部空間内のガス圧が一定となるように前記注入口から当該内部空間に試験ガスとしてヘリウムガス〔1MPa・G(ゲージ圧)〕を3時間導入した後、内部空間内のガス圧を解放した。
【0047】
次に、加圧上部フランジの注入口から内部空間に加圧ガスとしてヘリウムガス〔0.1MPa・G(ゲージ圧)〕を導入し、注入口を封鎖した後、この注入口を開口し、当該注入口から流出した空気を水上置換法にてメスシリンダーで捕捉することによって内部空間の漏洩試験後体積を測定した。
【0048】
前記漏洩試験後体積から前記初期体積を減ずることにより、液体の漏出量を求めた。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
従来の液体の漏洩量の測定方法として、容器内の内圧の変化から気体の体積変化を導き出す圧力降下法を採用した。より具体的には、スリーブが設けられたフランジと石鹸膜流動計を用いてJIS B 2490(2008)に規定されている「管上部フランジ用ガスケットの密封特性試験方法」に準拠し、前記非特許文献1に記載の装置を用い、ガスケットの面圧が表1に示す値となるように調整して液体の漏洩量を測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示された結果から、実施例1〜3および比較例1〜3で得られた各ガスケットの面圧における液体の漏洩量がほぼ同等であることから、実施例1〜3の方法によれば、従来の比較例1〜3の方法と同様に、液体の漏洩量を高精度で簡便に測定することができることがわかる。
【0052】
また、従来の各比較例の方法によれば、液体の漏洩量の測定に長時間を要するため、わずかな配管におけるガスの漏洩が長時間続くことによって液体の漏洩量に大きな誤差が生じるのに対し、各実施例の方法によれば、内部空間の初期体積および内部空間の漏洩試験後体積を短時間で測定することができるため、配管におけるガスの漏洩による影響をほとんど受けないことがわかる。
【0053】
さらに、各実施例の方法によれば、液体漏出試験の際には、内部空間の温度管理を必要とせずに内部空間のガス圧を一定に保つだけでよいので、従来の煩雑な温度管理を必要とする圧力降下法と対比して、液体漏洩量を簡便に測定することができることがわかる。