【文献】
Annals of the New York Academy of Sciences,2007, Vol.1106, pp.219-222
【文献】
MA,NOVEL METHOD FOR EFFICIENT PRODUCTION OF MULTIPOTENTIAL HEMATOPOIETIC PROGENITORS FROM HUMAN EMBRYONIC STEM CELLS,INTERNATIONAL JOURNAL OF HEMATOLOGY,2007年,V85,P371-379
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(i)における少なくとも1つの成長因子または前記工程(ii)の少なくとも2つの成長因子は、幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、トロンボポエチン(TPO)、およびエリスロポエチン(EPO)からなる群から選択される成長因子をさらに含む、請求項7に記載の方法。
前記血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、または両方は、細胞培養の0〜48時間以内にステップ(i)に付加される、請求項12に記載の方法。
前記幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、もしくはトロンボポエチン(TPO)、またはこれらの任意の組み合わせは、ステップ(i)の開始から48〜72時間以内に前記培養物に付加される、請求項12に記載の方法。
前記工程(i)における少なくとも1つの成長因子または前記工程(ii)の少なくとも1つの成長因子は、幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、トロンボポエチン(TPO)、およびエリスロポエチン(EPO)からなる群から選択される成長因子をさらに含む、請求項17に記載の方法。
前記血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、または両方は、細胞培養の0〜48時間以内にステップ(i)に付加される、請求項22に記載の方法。
前記幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、もしくはトロンボポエチン(TPO)、またはこれらの任意の組み合わせは、ステップ(i)の開始から48〜72時間以内に前記培養物に付加される、請求項22に記載の方法。
前記工程(i)における少なくとも1つの成長因子または前記工程(ii)の少なくとも2つの成長因子は、幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、トロンボポエチン(TPO)、およびエリスロポエチン(EPO)からなる群から選択される成長因子をさらに含む、請求項36に記載の方法。
前記血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、または両方は、細胞培養の0〜48時間以内にステップ(i)に付加される、請求項41に記載の方法。
前記幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、もしくはトロンボポエチン(TPO)、またはこれらの任意の組み合わせは、ステップ(i)の開始から48〜72時間以内に前記培養物に付加される、請求項41に記載の方法。
前記工程(i)における少なくとも1つの成長因子または前記工程(ii)の少なくとも1つの成長因子は、幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、トロンボポエチン(TPO)、およびエリスロポエチン(EPO)からなる群から選択される成長因子をさらに含む、請求項46に記載の方法。
前記血管内皮成長因子(VEGF)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、または両方は、細胞培養の0〜48時間以内にステップ(i)に付加される、請求項51に記載の方法。
前記幹細胞因子(SCF)、Flt−3L(FL)、もしくはトロンボポエチン(TPO)、またはこれらの任意の組み合わせは、ステップ(i)の開始から48〜72時間以内に前記培養物に付加される、請求項51に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、完全に説明されるかのように、それらの全体を参照することにより組み込まれる。特別の定めのない限り、本明細書に使用される技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野において通常の技術を有する者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3
rd ed.,J.Wiley & Sons(New York,NY 2001)、March,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 5
th ed.,J.Wiley & Sons(New York,NY 2001)、およびSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,NY 2001)は、本出願において使用される用語のうちの多くに対する一般的な指針を当業者に提供する。
【0044】
当業者であれば、本明細書に説明されるものに類似するか、または相当する、本発明の実践に使用され得る多くの方法および材料を認識するであろう。実際に、本発明は、説明される方法および材料に一切限定されない。本発明の目的で、以下の用語は下記のように定義される。
【0045】
本明細書の説明および以下の請求項にわたって使用される、「a」、「an」、および「the」の意味には、文脈上特別に明記されない限り、複数の参照が含まれる。また、本明細書における説明に使用される、「〜において(in)」の意味には、文脈上特別に明記されない限り、「〜の中で(in)」および「〜の上で(on)」が含まれる。
【0046】
本明細書にわたって、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」または「含む(comprising)」等の変型は、言及された整数または整数の群の包含を暗示するが、任意の他の整数または整数の群の除外を暗示しないことが理解されるであろう。
【0047】
「胚幹細胞(ES細胞)」という用語は、胚由来細胞を意味し、当該技術分野において使用されるように、本明細書で使用される。この用語は、ヒト胚盤胞または桑実胚の内細胞塊に由来する細胞を含み、細胞株として連続的に継代されたものを含む。ヒト由来の細胞を示すように使用される場合、ヒト胚幹細胞(hES細胞)という用語が使用される。ES細胞は、卵細胞と精子の受精に由来してもよく、およびDNA、核移植、単為生殖を使用するか、またはHLA領域における同型接合性を有するES細胞を生成することによるものであってもよい。ES細胞は、精子と卵細胞の融合、核移植、単為生殖、雄性発生またはクロマチンの再プログラミングおよび細胞を産生するように再プログラム化したクロマチンの細胞膜への後次の統合によって産生される、接合子、割球、または胞胚期哺乳類胚に由来する細胞でもある。胚幹細胞は、それらの源またはそれらを産生するために使用する特定の方法にかかわらず、(i)3つの胚葉すべての細胞に分化する能力、(ii)少なくともOct−4およびアルカリホスファターゼの発現、および(iii)免疫不全動物に移植されると奇形腫を産生する能力に基づいて識別することができる。
【0048】
本明細書で使用する、「多能性幹細胞」という用語は、多能性幹細胞が得られる方法にかかわらず、胚幹細胞、胚性幹細胞、および誘導された多能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、(a)免疫不全(SCID)マウスに移植されると、奇形種を誘導することができ、(b)3つの胚葉すべての細胞型に分化することができ(例えば、外胚葉、中胚葉、および内胚葉細胞型に分化することができ)、(c)胚幹細胞の1つ以上のマーカーを発現する(例えば、Oct4、アルカリホスファターゼ、SSEA−3表面抗原、SSEA−4表面抗原、nanog、TRA−1−60、TRA−1−81、SOX2、REX1等を発現する)幹細胞として、機能的に定義される。典型的な多能性幹細胞は、例えば、当該技術分野において知られる方法を使用して生成することができる。典型的な多能性幹細胞は、胞胚期胚のICMに由来する胚幹細胞、および(任意選択で胚の残りの部分を破壊することなく)卵割期または桑実胚期の胚の1つ以上の割球に由来する胚幹細胞を含む。そのような胚幹細胞は、受精または体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、および雄性発生を含む無性手段によって産生される胚材料から生成することができる。さらなる典型的な多能性幹細胞は、(本明細書では、再プログラミング因子と称される)因子の組み合わせを発現することによって、体細胞の再プログラミングにより生成される誘導された多能性幹細胞(iPS細胞)を含む。iPS細胞は、胎児、出生後、新生児、幼若、または成人体細胞を使用して生成することができる。ある実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするために使用できる因子は、例えば、Oct4(Oct3/4と称される場合もある)、Sox2、c−Myc、およびKlf4の組み合わせを含む。他の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするために使用できる因子は、例えば、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28の組み合わせを含む。他の実施形態では、体細胞は、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、または4つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラム化される。他の実施形態では、追加の再プログラミング因子が識別され、単独または1つ以上の周知の再プログラミング因子との組み合わせで使用されて、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムする。誘導された多能性幹細胞は、機能的に定義され、様々な方法(統合ベクター、非統合ベクター、化学的手段等)のうちのいずれかを使用して再プログラムされる細胞を含む。
【0049】
多能性幹細胞は、任意の種に由来し得る。胚幹細胞は、例えば、マウス、多種の非ヒト霊長類、およびヒトにおいて良好に得られており、胚幹様細胞は、多数のそれ以外のさらなる種から生成されている。したがって、当業者は、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジ等)、イヌ(家犬および野犬)、ネコ(家猫およびライオン、トラ、チータ等の野生猫)、ウサギ、ハムスター、アレチネズミ、リス、モルモット、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、ラクーン、ウマ、シマウマ、海洋哺乳類(イルカ、クジラ等)等を含む任意の種から胚幹細胞および胚性幹細胞を生成することができる。ある実施形態では、種は絶滅危惧種である。ある実施形態では、種は現在絶滅した種である。
【0050】
同様に、iPS細胞は、任意の種に由来し得る。iPS細胞は、マウスおよびヒト細胞を使用して良好に生成されている。iPS細胞は、胚、胎児、新生児、および成人組織を使用して、良好に生成されている。したがって、任意の種からのドナー細胞を使用して、iPS細胞を容易に生成することができる。したがって、限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジ等)、イヌ(家犬および野犬)、ネコ(家猫およびライオン、トラ、チータ等の野生猫)、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、ラクーン、ウマ、シマウマ、海洋哺乳類(イルカ、クジラ等)等を含む任意の種からiPS細胞を生成することができる。ある実施形態では、種は絶滅危惧種である。ある実施形態では、種は現在絶滅した種である。
【0051】
誘導された多能性幹細胞は、出発点として、実質的に任意の発達段階の任意の体細胞を使用して生成することができる。例えば、細胞は、胚、胎児、新生児、幼若、または成人ドナーに由来し得る。使用できる典型的な体細胞は、皮膚試料または生検によって得られる皮膚線維芽細胞等の線維芽細胞、滑膜組織に由来する滑膜細胞、包皮細胞、頬細胞、または肺線維芽細胞を含む。皮膚および頬は、容易に使用可能であり、容易に入手可能な適切な細胞を提供するが、実質的に任意の細胞を使用することができる。ある実施形態では、体細胞は線維芽細胞ではない。
【0052】
多能性幹細胞は、例えば、ES細胞または誘導された多能性幹細胞であり得ることに留意されたい。誘導された多能性幹細胞は、体細胞中の再プログラミング因子の組み合わせを発現することによって産生することができる。ある実施形態では、少なくとも2つの再プログラミング因子が、体細胞において発現し、体細胞を良好に再プログラムする。他の実施形態では、少なくとも3つの再プログラミング因子が、体細胞において発現し、体細胞を良好に再プログラムする。他の実施形態では、少なくとも4つの再プログラミング因子が、体細胞において発現し、体細胞を良好に再プログラムする。
【0053】
「タンパク質導入ドメイン」(「PTD」)という用語は、細胞膜を越えて細胞へ移行するか、または例えば、PTDが付着する別の分子(例えば、タンパク質ドメイン等)細胞膜を越えて細胞へ移行することをもたらす、またはその比率を増加させる、任意のアミノ酸配列を意味する。タンパク質導入ドメインは、より大きいタンパク質の一部として自然に発生する、ドメインまたは配列(例えば、HIV TAT等のウイルスタンパク質のPTD)であり得るか、または合成または人工アミノ酸配列であり得る。
【0054】
「血管芽細胞」および「血管コロニー形成細胞」という用語は、本出願を通して同義的に使用される。これらの細胞は、多数の構造的および機能的特徴を有する。これらの細胞の特徴の1つは、宿主細胞に投与されると、骨髄に生着する能力である。これらの細胞は、1つ以上のマーカーの発現(RNAあるいはタンパク質)または発現(RNAあるいはタンパク質)の欠失を含むが、これらに限定されない多数の構造的および機能的特性に基づいて説明することができる。血管コロニー形成細胞は、少なくとも造血細胞型または内皮細胞型を生じさせるように分化することができる。血管コロニー形成細胞は、好ましくは両能性であり、少なくとも造血細胞型および内皮細胞型を生じさせるように分化することができる。したがって、本発明の血管コロニー形成細胞は、少なくとも単能性であり、好ましくは両能性である。しかしながら、追加として、血管コロニー形成細胞は、より優れた発生能を有し得、ある実施形態では、他の系統の細胞型を生じさせるように分化することができる。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、心臓細胞(例えば、心筋細胞)および/または平滑筋細胞等の他の中胚葉誘導体を生じるように分化することができる。
【0055】
「非生着血管細胞」という用語は、本出願にわたって、血管コロニー形成細胞の特徴の一部を共有する細胞の新規集団を意味するように使用される。しかしながら、非生着血管細胞は、免疫不全の宿主細胞に投与される際に、骨髄に生着しないという点において区別できる。この差異にもかかわらず、非生着血管細胞は、血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有し得る。例えば、ある実施形態では、非生着血管細胞は、互いに軽く付着する。他の実施形態では、非生着血管細胞は、以下のタンパク質:CD34、KDR、CD133、CD31のうちの1つまたはそれ以上(2、3、4)を発現しない。理論に束縛されることなく、非生着血管細胞は、血管コロニー形成細胞よりも若干特化しているが、依然として一連の造血細胞型を産生することができる、個別の幹細胞集団を提供し得る。
【0056】
除核赤血球細胞
本発明の実施形態は、概して、ヒト多能性幹細胞を除核赤血球細胞に分化させるための方法に関する。本発明の赤血球細胞には、生体外および生体内における様々な用途がある。本発明の赤血球は、様々な治療用途において有用となる。さらに、本発明により得られる増幅された数の赤血球は、造血障害の処置における新規な治療方針、または血液バンクにおいて利用することができる。
【0057】
本出願のある特定の実施形態において、多能性幹細胞は血管芽細胞である(例えば、血管芽細胞、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、血管細胞、または芽細胞であり、例えば、米国特許出願第2008/0014180号を参照されたく、当該出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0058】
ある特定の実施形態において、本出願の赤血球は、輸血に使用することができる。輸血用の大量の細胞を生成する能力は、国内全体の血液バンクおよび病院が悩む、血液の慢性的な不足を軽減する。ある特定の実施形態において、本発明の方法は、輸血用の万能細胞の産生を可能にする。具体的には、O型でRh−である赤血球は容易に生成することができ、輸血用の万能血液源として機能する。
【0059】
本発明の方法は、多能性幹細胞の、様々な商業用途および臨床的応用に有用な多数の細胞への生体外での増幅を可能にする。ある特定の実施形態において、細胞調製物は、少なくとも1×10
6個の細胞を含む。他の実施形態において、細胞調製物は、少なくとも2×10
6個のヒト多能性幹細胞を含み、さらなる実施形態では、少なくとも3×10
6個のヒト多能性幹細胞を含む。他のさらなる実施形態において、細胞調製物は、少なくとも4×10
6個のヒト多能性幹細胞を含む。
【0060】
本発明は、10,000個から400万個以上の哺乳類(ヒト等)血管芽細胞を含む溶液、調製物、および組成物に関する。そのような溶液、調製物、および組成物中の血管芽細胞の数は、10,000個から400万個以上の範囲の間の任意の数であり得る。この数は、例えば、20,000個、50,000個、100,000個、500,000個、100万個等であり得る。
【0061】
同様に、本発明は、赤血球の調製に関する。本発明は、さらに、多能性幹細胞および/または赤血球を産生、保存、および流通させる方法に関する。
【0062】
また、本発明は、ヒトまたは動物患者への輸血に好適な方法および溶液も提供する。特定の実施形態において、本発明は、赤血球を作製する方法を提供する。ある特定の実施形態において、本発明は、外傷後、または血液関連の疾患または障害の処置時に輸血用血液を提供するための、血液バンクおよび病院における使用に好適である。ある特定の実施形態において、本発明は、万能ドナー細胞である赤血球を提供する。ある特定の実施形態において、該赤血球は機能性であり、輸血前にヘモグロビンFを発現する。
【0063】
ある特定の実施形態において、赤血球は、外傷、手術中の失血、または貧血、鎌状赤血球貧血、もしくは溶血性疾患等の血液疾患を処置するために輸血される。ある特定の実施形態において、分化された赤血球は、外傷、手術中の失血、血液疾患(貧血、鎌状赤血球貧血、もしくは溶血性疾患等)、または悪性疾患を処置するために輸血される。ある特定の実施形態において、赤血球の混合集団が輸血される。多くの分化した造血細胞型、特に赤血球が、典型的には混合集団として生体内に存在することに留意されたい。具体的には、様々な年齢および分化レベルの循環赤血球が、生体内で見られる。さらに、赤血球は、時間とともに成熟し、胎児ヘモグロビンが少なくなり、より多くの成人ヘモグロビンを発現するようになる。本発明は、赤血球の精製された集団、または様々な年齢および分化レベルの赤血球の混合集団のいずれかの輸血を企図する。特定の実施形態において、本発明は、胎児ヘモグロビン(ヘモグロビンF)を発現する赤血球の輸血を企図する。胎児ヘモグロビンを発現する赤血球の輸血は、鎌状赤血球貧血の処置に特に有用であり得る。輸血用の大量の細胞を生成する能力は、国内全体の血液バンクおよび病院が悩む、血液の慢性的な不足を軽減する。
【0064】
ある特定の実施形態において、本発明の方法は、輸血用の万能細胞の産生を可能にする。具体的には、O型でRh−である赤血球は容易に生成することができ、輸血用の万能血液源として機能する。ある特定の実施形態において、本出願の方法から産生される赤血球は、機能的である。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は、輸血前にヘモグロビンFを発現する。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は酸素を輸送する。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は、天然由来の赤血球と等しい寿命を有する。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は、天然由来の赤血球のものの75%である寿命を有する。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は、天然由来の赤血球のものの50%である寿命を有する。ある特定の実施形態において、これらの赤血球は、天然由来の赤血球のものの25%である寿命を有する。
【0065】
幹細胞の成熟した赤血球への分化は、現在の課題である。血液ドナーは恒常的に不足し、供給には一貫性がなく、特に不測の危機的状況時の需要は高いため、この達成の効果は非常に大きい。胚幹細胞(ESC)は、万能血液であるO−の無制限の供給の利益を有し、それぞれの献血毎の疾患スクリーニングおよび血液型の判定に要するさらなる費用を回避する、可能性のある、一貫した、信頼性のある赤血球源である。成熟した赤血球の顕著な特徴は、核の喪失、ならびに成人ヘモグロビンの産生である。我々の研究室を含む多くの研究者が、ESCの赤芽細胞への分化を達成しているが、これらは依然としてその核を含有し、未熟なヘモグロビンを発現する。今日まで、ヒト胚幹細胞を用いた除核は達成されていない。
【0066】
対照的に、CD34+骨髄および臍帯血幹細胞を用いた除核は達成されており、さらに開発中であり、したがっておそらくそれらの除核能力を補助するだろう。Malikは、Epoを用いたCD34+骨髄細胞の処置の19日後に、10〜40%の除核を達成した(Malik 1998)。Miharadaは、SCF、Epo、IL−3、VEGF、IGF−IIを含む成長因子およびサイトカイン、およびミフェプリストンでの20日間の処置により、CD34+臍帯血幹細胞から、77%の比率の除核を達成した(Miharada 2006)。Douayは、CD34+臍帯血幹細胞において、骨髄環境で見られる因子のカクテル(SCF、IL−3、Epo、ヒドロコルチゾン)中での18日間のプロトコルを用い、さらにその細胞をMS−5マウスの間質系または間葉系幹細胞(MSC)と同時培養して、90〜100%のさらに高い除核率を達成した(Douay 2005)。赤芽細胞が成熟する骨髄の役割地位の環境を模倣するために、成長因子が使用されているが、臍帯血および間質細胞が、物理的接触から分離され、同一の培地中で成長される際の除核の抑止によって示されるように、除核のシグナルを送るための細胞の接触も必要であり得る。臍帯血幹細胞については成功しているが、これらのプロトコルは、ESCにおいて除核を産生することはできない。
【0067】
ある特定の実施形態において、本発明の方法は、OP9細胞を使用して完全に生体外である系においてヒトESCの分化を誘導し、こらは、臨床治療に適切である。ある特定の実施形態において、第1のステップは、ESCを血管芽細胞、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、または芽細胞に分化させるステップからなる。ある特定の実施形態において、第2のステップは、Stemline II培地(Sigma)中で、Epo、IL−3、SCF、および臍帯血の除核のためにDouayによって使用された様々なサプリメント(Douay 2005)を用いた、これらの細胞の増幅である。ある特定の実施形態において、第3のステップは、OP9細胞のESC由来の赤芽細胞への導入、ならびにEpoの付加である。
【0068】
ある特定の実施形態において、ESCの血管芽細胞、血管コロニー形成細胞、および非生着血管細胞への分化は、本明細書に記載の方法に従って産生および増幅される。
【0069】
ある特定の実施形態において、芽細胞は、Lu 2006に記載のように培養される。ある特定の実施形態において、3.25日目〜4.25日目の胚様体からの6〜8日目の芽細胞を選定または濾過し、12〜30日間、Epo、IL−3、SCF、ヒドロコルチゾン、イノシトール、葉酸、モノチオグリセロール、トランスフェリン、インスリン、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、およびウシ血清アルブミンとともにStemline II培地に播種する。ある特定の実施形態において、次に、芽細胞を、ヒドロコルチゾンを除いて上に列挙したものと同じ培地中で、OP9マウスの間質細胞またはヒト間葉系幹細胞(MSC)と同時培養する。ある特定の実施形態において、細胞は、12日目から29日目の間に同時培養を開始する。ある特定の実施形態において、除核が生じる前にさらに12〜18日間細胞を培養する。ある特定の実施形態において、OP9細胞により開始される除核は、間質の成長のわずか3日後に生じ得る。ある特定の実施形態において、除核は、ヒドロコルチゾン、イノシトール、葉酸、モノチオグリセロール、トランスフェリン、インスリン、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄、およびウシ血清アルブミンを含むStempro34培地中で誘導される。ある特定の実施形態において、細胞は3〜4日ごとに供給され、毎週新しい間質層上で培養される。
【0070】
本発明は、本発明の前述または以下の態様および実施形態のうちのいずれもの、すべての好適な組み合わせを企図する。
【0071】
巨核球および血小板
本発明は、巨核球または血小板を産生する方法であって、多能性幹細胞を提供することと、当該多能性幹細胞を血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞に分化させることと、TPOを含む巨核球(MK)培養培地中で培養することにより、当該血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞を当該巨核球または当該血小板に分化させることと、を含む、方法も提供する。
【0072】
また、本発明は、巨核球または血小板を産生する方法であって、血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞を提供することと、TPOを含む巨核球(MK)培養培地中で培養することにより、当該血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞を当該巨核球または当該血小板に分化させることと、を含む、方法も提供する。
【0073】
血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞は、本明細書に記載の方法によって得るか、または産生することができる。
【0074】
ある特定の実施形態において、本発明において使用される当該多能性幹細胞は、胚幹細胞または胚由来細胞である。ある特定の実施形態において、当該多能性幹細胞は、誘導された多能性幹細胞である。ある特定の実施形態において、当該多能性幹細胞はヒト細胞である。ある特定の実施形態において、当該多能性幹細胞は、分化の前に遺伝子操作される。
【0075】
ある特定の実施形態において、当該血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞は、当該巨核球または当該血小板に分化される前に増幅される。ある特定の実施形態において、当該血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞は、Epo、IL−3、およびSCFを含むStemline II培地中で増幅される。
【0076】
ある特定の実施形態において、当該血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞を当該巨核球または当該血小板に分化させることは、血管芽細胞、非生着血管細胞、または芽細胞の培養の約6〜8日後に行われる。
【0077】
また、本発明は、本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つによって産生される巨核球または血小板も提供する。
【0078】
巨核球または血小板を産生する方法は、次の実施例でより詳細に説明する。
【0079】
血管コロニー形成細胞
本発明は、ヒト多能性幹細胞からヒト血管コロニー形成細胞を生成および増幅するための方法、ヒト血管コロニー形成細胞を含む製剤および組成、血管コロニー形成細胞から部分的または完全に分化した様々な細胞型を産生する方法、血管コロニー形成細胞を治療的に使用する方法、および血管コロニー形成細胞から部分的または完全に分化した種々の細胞型を治療的に使用する方法を提供する。
【0080】
ここで、発明者らは、血管芽前駆細胞の堅調な生成のための簡素で効率的な方法を報告する。不要ないくつかの高価な因子を排除することに加えて、分化の初期段階の間に、多能性幹細胞からの血管芽細胞特化および発達を誘導するために、骨形成タンパク質−4(BMP−4)および血管内皮成長因子(VEGF)が必要であり、かつ十分であることを示す。BMP−4およびVEGFは、T−brachyury、KDR、CD31およびLMO2遺伝子発現を大幅に上方制御するが、Oct−4発現を劇的に下方制御する。成長および増幅中の塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の添加は、BCの発達をさらに強化し、1つのhESC6ウェル皿から一貫して約1×10
8個のBCを生成することが認められた。
【0081】
本発明は、ES細胞、胚盤胞または割球、胎盤または臍帯組織からの臍帯血、末梢血、骨髄、または他の組織を含む任意の源から、または当該技術分野において知られる任意の他の手段によって得られた哺乳類血管コロニー形成細胞を増幅するための方法も提供する。ヒト血管コロニー形成細胞は、ヒト多能性幹細胞から生成することもできる。ヒト多能性幹細胞は、実質的に均質な細胞集団、不均一な細胞集団、または胚組織のすべてまたは一部であり得る。本発明の方法において使用できる多能性幹細胞の例として、ヒト血管コロニー形成細胞は、ヒト胚幹細胞から生成することができる。そのような胚幹細胞は、例えば、胚盤胞、播種されたICM、1つ以上の割球、または受精、体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、雄性発生、または他の有性または無性手段によって産生されたか否かに関わらず、着床前期の胚または胚様構造の他の部分に由来するか、またはそれらを使用して得られる胚幹細胞を含む。
【0082】
ある実施形態では、血管芽細胞は、血小板および赤血球細胞を含むが、これらに限定されない造血細胞にさらに分化することができる。そのような細胞は、輸血に使用され得る。輸血用の細胞を大量に生成する能力は、全国の血液バンクおよび病院において経験されている慢性的な血液の不足を緩和する。ある実施形態では、本発明の方法は、輸血用の万能細胞の産生を可能にする。具体的に、O型でRh−の赤血球を容易に生成することができ、輸血用の万能血液源として機能する。
【0083】
本発明の方法は、血管芽細胞を多様な商業的および臨床的用途に有用な量に生体外で増幅するのを可能にする。血管芽細胞の生体外での増幅は、血管芽細胞の増殖を意味する。本発明の方法は、ヒト血管芽細胞の増幅が商業的に有用な量に到達できるようにするが、本発明は、大量の血管芽細胞および大量のヒト血管芽細胞(例えば、少なくとも10,000、100,000、または500,000個の細胞)を含む細胞製剤にも関する。ある実施形態では、細胞製剤は、少なくとも1×10
6個の細胞を含む。他の実施形態では、細胞製剤は、少なくとも2×10
6個のヒト血管芽細胞を含み、さらなる実施形態では、少なくとも3×10
6個のヒト血管芽細胞を含む。さらに他の実施形態では、細胞製剤は、少なくとも4×10
6個のヒト血管芽細胞を含む。
【0084】
本発明は、10,000〜4,000,000個以上の哺乳類(ヒト等)の血管芽細胞を含む、溶液、製剤、および組成に関する。そのような溶液、製剤、および組成中の血管芽細胞の数は、10,000〜4,000,000以上の範囲の任意の数であり得る。この数は、例えば、20,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000等であり得る。
【0085】
同様に、本発明は、ヒト血管芽細胞子孫細胞(例えば、ヒト造血幹細胞および内皮細胞を含むヒト造血細胞)の製剤に関する。本発明は、さらに、血管芽細胞および/または血管芽細胞系細胞を産生、保存、および流通させる方法に関する。
【0086】
本発明は、ヒトまたは動物患者への輸血に適した方法および溶液も提供する。特定の実施形態では、本発明は、輸血用の赤血球および/または血小板、ならびに/もしくは造血細胞型を形成する方法を提供する。ある実施形態では、本発明は、血液バンクおよび病院において、外傷後、または血液関連疾患もしくは障害の処置における輸血用の血液を提供するのに適している。ある実施形態では、本発明は、万能ドナー細胞である赤血球を提供する。ある実施形態では、赤血球は機能的であり、輸血前にヘモグロビンFを発現する。
【0087】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞、ヒト血管コロニー形成細胞の実質的に精製した集団を含む細胞培養物、ヒト血管コロニー形成細胞を含む医薬製剤、および血管コロニー形成細胞の凍結保存製剤も提供する。ある実施形態では、本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造における、ヒト血管コロニー形成細胞の使用を提供する。代替として、本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造における、細胞培養物の使用を提供する。本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造における、医薬製剤の使用も提供する。
【0088】
血管コロニー形成細胞は、それらの構造的特性に基づいて識別し、特徴付けることができる。具体的に、ある実施形態では、これらの細胞は、互いに軽く付着する(他の血管コロニー形成細胞に軽く付着する)に過ぎないという点において特有である。これらの細胞は、互いに軽く付着するに過ぎないため、血管コロニー形成細胞の培養物またはコロニーは、機械的解離技術のみを使用して、酵素的解離技術を必要とせずに、単一の細胞に解離することができる。細胞は、互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離または機械的および酵素的解離の組み合わせよりも、機械的解離単独で、細胞の生存能力を大幅に損なうことなく、培養物またはコロニーを十分に分散させる。言い換えれば、機械的解離は、細胞集合体の酵素的解離に続いて観察されるものと比較して、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど強い力を必要としない。
【0089】
さらに、血管コロニー形成細胞は、1つ以上のマーカーの発現または発現の欠失に基づいて(遺伝子レベルまたはタンパク質レベルで評価されるように)、識別または特徴付けることができる。例えば、ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、細胞表面マーカーである、CD34、KDR、CD133、またはCD31のうちの1つ以上の発現の欠失に基づいて識別または特徴付けることができる(例えば、細胞はこれらのマーカーのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つの発現の欠失に基づいて特徴付けることができる)。追加または代替として、血管コロニー形成細胞は、GATA2および/またはLMO2の発現に基づいて、識別または特徴付けることができる。追加または代替として、血管コロニー形成細胞は、発現マーカーの発現または欠失に基づいて、識別または特徴付けることができる。
【0090】
本発明の血管コロニー形成細胞は、これらの構造的または機能的特徴のうちの1つまたは任意の組み合わせに基づいて、識別または特徴付けることができる。これらの細胞は、多数の源、例えば、胚組織、出生前組織、または周産期組織のうちのいずれかに由来し得るが、「血管コロニー形成細胞」という用語は、源に関係なく、少なくとも造血細胞型および/または内皮細胞型を生じるように分化することができ、前述の構造的または機能的特性のうちの1つ以上を有する細胞に適用することに留意されたい。
【0091】
ある実施形態では、BCの前駆体のマーカーを使用して、初期培養後にBCを選択することができる。
【0092】
ある実施形態では、血管コロニーは、多能性細胞から胚様体を形成することなく産生される。
【0093】
胚様体および血管芽細胞を得るための多能性幹細胞の生体外での分化
本発明は、ヒト多能性幹細胞、またはヒト胚盤胞または割球に由来するヒト血管芽細胞を生成および増幅するための方法を提供する。そのように産生した血管芽細胞は、精製および/または単離することができる。
【0094】
ヒト血管コロニー形成細胞は、ヒト多能性幹細胞から生成することもできる。ヒト多能性幹細胞は、実質的に均一の細胞集団、非均一の細胞集団、または胚組織のすべてまたは一部であり得る。本発明の方法において使用できる多能性幹細胞の例として、ヒト血管コロニー形成細胞は、ヒト胚幹細胞から生成することができる。そのような胚幹細胞は、例えば、胚盤胞、播種されたICM、1つ以上の割球、または受精、体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、雄性発生、または他の有性または無性手段によって産生されたか否かに関わらず、着床前期の胚または胚様構造の他の部分に由来するか、またはそれらを使用して得られる胚幹細胞を含む。
【0095】
追加または代替として、血管コロニー形成細胞は、他の多能性幹細胞から生成することができる。例えば、血管コロニー形成細胞は、受精、体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、雄性発生、または他の有性または無性手段によって産生されたか否かに関わらず、播種された胚、ICM、胚盤胞、栄養膜/栄養外胚葉細胞、1つ以上の割球、栄養膜幹細胞、胚生殖細胞、または着床前期胚または胚様構造の他の部分から、またはそれらを使用して(胚幹細胞誘導のステップを経る必要なく)生成することができる。同様に、血管コロニー形成細胞は、多能性幹細胞から部分的に分化した細胞または細胞株を使用して生成することができる。例えば、ヒト胚幹細胞株を使用して、発達可能性および可塑性に関して、血管コロニー形成細胞よりも発達上初期である細胞を産生する場合、次にそのような多能性幹細胞を使用して、血管コロニー形成細胞を生成することができる。
【0096】
追加または代替として、血管コロニー形成細胞は、臍帯、臍帯血、羊水、羊膜幹細胞、および胎盤を含むが、これらに限定されない、他の出生前または周産期源から生成することができる。
【0097】
血管コロニー形成細胞がヒト胚組織から生成される場合、胚様体形成のステップが必要とされ得ることが知られている。しかしながら、胚様体形成が、少なくとも部分的に、初期発達中に生じる胚葉の3次元相互作用を反復するのを助けるよう機能することを考えに入れると、そのようなステップは、胚様体形成と実質的に同じ目的を果たす構造または組織を多能性幹細胞が既に有する場合は必ずしも必要とされない。例として、血管コロニー形成細胞が播種された胚盤胞から生成される場合、ある程度の3次元組織が、胚盤胞における細胞内に既に存在する。したがって、胚様体形成のステップは、細胞間シグナル、誘導キュー、または3次元アーキテクチャを提供するために必ずしも必要とされない。
【0098】
本発明の方法および使用を用いて、多能性幹細胞または胚性細胞から血管コロニー形成細胞を生成することができる。ある実施形態では、胚性細胞は胚幹細胞である。他のある実施形態では、胚性細胞は、播種された胚、ICM、胚盤胞、栄養膜/栄養外胚葉細胞、1つ以上の割球、栄養膜幹細胞、または着床前期胚の他の部分である。前述のうちのいずれかの場合、胚性細胞は、受精、体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、雄性発生、または他の有性または無性手段によって産生された胚に由来してもよい。
【0099】
本出願にわたって、特に胚幹細胞から血管コロニー形成細胞を生成することに言及して方法が説明される場合、本発明は、他の多能性幹細胞または胚性細胞から、またはそれらを使用し、同一の治療用途のうちのいずれかに対し生成される細胞を使用して、血管コロニー形成細胞を生成することを同様に企図する。
【0100】
本発明のある態様では、ヒト胚幹細胞は、本方法の出発物質であり得る。胚幹細胞は、支持細胞の存在下または非存在下等、当該技術分野において知られる任意の方法で培養することができる。
【0101】
胚幹細胞は、血清を含有する培地において懸濁状態で胚様体(「EB」)を形成してもよい(Wang et al.2005 J Exp Med(201):1603−1614、Wang et al.2004 Immunity(21):31−41、Chadwick et al.2003 Blood(102):906−915)。しかしながら、血清の添加は、実験の変動性、費用、感染因子の可能性、および限られた供給を含む、ある課題を提示する。さらに、臨床的およびある商業的用途の場合、血清の使用は、生物学的製剤を管理する追加の米国および国際規制順守の問題を余儀なくさせる。
【0102】
本発明は、血清を使用せずに、多能性幹細胞からヒト血管芽細胞を生成および増幅する方法を提供する。無血清条件は、血清を必要とする条件よりも良好な製造工程(GMP)ガイドライン下での大規模生産に寄与する。さらに、無血清条件は、培地に添加されるある因子の半減期を拡張する(例えば、培地中での成長因子、サイトカイン、およびHOXB4を含むタンパク質の半減期は、血清が存在しない場合に増加する)。ある実施形態では、培地にはBMP4およびVEGFが補充される。ある実施形態では、ヒト血管芽細胞を生成および増幅するための本発明の方法にわたって、無血清培地が使用される。
【0103】
ヒト血管芽細胞を生成および増幅するための本方法の第1のステップでは、ヒト幹細胞は、無血清培地で成長させられ、胚様体に分化するように誘導される。胚様体形成を誘導するために、胚幹細胞は、ペレット化して、1つ以上の形態形成因子およびサイトカインが補充された無血清培地(例えば、Stemline IまたはII培地(Sigma(商標))において再懸濁した後、低付着性(例えば、超低付着性)培養皿上に播種されてもよい。形態形成因子およびサイトカインは、骨形態形成タンパク質(例えば、BMP2、BMP−4、BMP−7であるが、BMP−3ではない)ならびにVEGF、SCFおよびFLを含み得るが、これらに限定されない。骨形態形成タンパク質およびVEGFは、単独または他の因子との組み合わせで使用してもよい。形態形成因子およびサイトカインは、0〜48時間の細胞培養から得た培地に添加してもよい。これらの条件下でのインキュベーションに続いて、トロンボポエチン(TPO)、Flt−3リガンド、および幹細胞因子(SCF)を含むが、これらに限定されない、初期造血増幅サイトカインの存在下でのインキュベーションは、播種されたES細胞がEBを形成するのを可能にする。TPO、Flt−3リガンド、およびSCFに加えて、VEGF、BMP−4、およびHoxB4を培地に添加してもよい。一実施形態では、ヒトES細胞は、BMP−4およびVEGF
165(例えば、25〜100ng/ml)の存在下で最初に成長させられ、続いて、BMP−4、VEGF
165、SCF、TPO、およびFLT3リガンド(例えば、10〜50ng/ml)およびHoxB4(例えば、本明細書に開示するような1.5〜5μg/mlのトリプルタンパク質導入ドメインHoxB4融合タンパク質)の存在下で生育する。追加の因子は、播種後48〜72時間に添加してもよい。
【0104】
本発明の本方法では、ヒト血管芽細胞は、初期胚様体(「EB」)から単離される。血管芽細胞を初期EBから単離することにより、細胞の生体外での増幅を支援する。ヒト細胞の場合、血管芽細胞は、10日未満の間成長させられたEBから入手してもよい。本発明のある実施形態では、血管芽細胞は、2〜6日間成長させられたヒトEBにおいて生じる。一実施形態に従って、血管芽細胞は、4〜6日間成長させられたヒトEBから単離されてもよい。他の実施形態では、ヒトEBは、血管芽細胞が単離される前に、2〜5日間成長させられる。ある実施形態では、ヒトEBは、血管芽細胞が単離される前に、3〜4.5日間成長させられる。
【0105】
ある実施形態では、初期EBは、(例えば、トリプシン/EDTAまたはコラゲナーゼBによって)洗浄および解離される。次に、選択した数の細胞(例えば、2−5×10
5個の細胞)を、血管芽細胞成長のために最適化した無血清メチルセルロース培地と混合する(例えば、BL−CFU培地、例えば、StemCell TechnologiesのカタログH4436、あるいは血管芽細胞増幅培地(HGM)、またはMDM中の1.0%メチルセルロース、1〜2%ウシ血清アルブミン、0.1mM 2−メルカプトエタノール、10μg/ml rh−インスリン、200μg/ml鉄飽和ヒトトランスフェリン、20ng/ml rh−GM−CSF、20ng/ml rh−IL−3、20ng/ml rh−IL−6、20ng/ml rh−G−CSFを含有する任意の培地)(「rh」は「組み換えヒト」の略である)。本培地には、初期段階サイトカイン(EPO、TPO、SCF、FL、FLt−3、VEGF、BMP(BMP2、BMP4およびBMP7等であるがBMP3ではない)を含むが、これらに限定されない)およびHOXB4(または別のホメオボックスタンパク質)が補充されてもよい。ある実施形態では、エリトロポエチン(EPO)が培地に添加される。さらなる実施形態では、EPO、SCF、VEGF、BMP−4およびHoxB4が培地に添加される。追加の実施形態では、細胞は、EPO、TPOおよびFLの存在下で成長させられる。ある実施形態では、H9が開始ヒトES細胞株であり、EPO、TPOおよびFLが培地に添加される。EPO、TPOおよびFLに加えて、H9または他のES細胞に由来する細胞の培地は、さらにVEGF、BMP−4、およびHoxB4を含んでもよい。
【0106】
本方法によってそのように得られる細胞は(細胞はBL−CFU培地にあってもよい)、血管芽細胞を含み、超低付着培養皿上に播種され、CO
2インキュベータ内でインキュベートされて、血管芽細胞コロニーを成長させる。一部の細胞は、二次EBを形成可能であり得る。約3〜6日後、および一部の例では3〜4.5日後に、血管芽細胞コロニーが観察される。血管芽細胞コロニーは、それらの顕著なブドウ様形態および/またはそれらの小さいサイズによって、二次EB等の他の細胞から区別され得る。さらに、血管芽細胞は、あるマーカーの発現(例えば、早期造血および内皮細胞マーカーの両方の発現)、ならびに少なくとも早期造血および内皮細胞マーカーの両方に分化する能力(下記、血管芽系細胞の抽出を参照)によって識別され得る。例えば、血管芽細胞は、成熟した内皮または造血細胞のある特性を欠くが、これらの細胞は、あるマーカー(例えば、CD71+)の存在、および他のマーカー(例えば、CD34−)の非存在によって識別され得る。血管芽細胞は、GATA−1およびGATA−2タンパク質、CXCR−4、ならびにTPOおよびEPO受容体も発現し得る。さらに、血管芽細胞は、他のマーカー(例えば、CD31、CD34、KDR、または他の接着分子)の非存在または低発現によって特徴付けられ得る。さらに、血管芽細胞は、ある遺伝子(例えば、血管芽細胞および初期原始赤芽細胞の発達に関連する遺伝子、例えば、SCL、LMO2、FLT−1、胚胎グロブリン遺伝子、NF−E2、GATA−1、EKLF、ICAM−4、グリコホリン、およびEPO受容体)の発現によって特徴付けられ得る。
【0107】
したがって、血管芽細胞は、サイズによって単離され得るか(他の細胞よりも小さい)、または免疫親和性カラムクロマトグラフィーによる等、抗CD71+抗体で精製され得る。
【0108】
血管芽細胞は、以下の手順によって、サイズおよび/または形態によって単離され得る。6〜7日の成長後に、細胞混合物は、丸い多細胞の塊を表すEB、およびブドウ様でEBよりも小さい単一の細胞の血管芽細胞を含有する。したがって、血管芽細胞は、それらの形態およびサイズに基づいて単離され得る。血管芽細胞は、例えば、細胞混合物を顕微鏡下で観察するときに、手作業で選定され得る。細胞は、次いでコロニーに成長してもよく、各コロニーは100〜150個の細胞を有する。
【0109】
上述のように派生するヒト血管芽細胞コロニーを選定し、メチルセルロースCFU培地上に再播種して、造血CFUを形成してもよい。ある実施形態では、CFU培地は、StemCell TechnologiesのH4436を含む。さらなる実施形態では、血管芽細胞は、サイトカインおよび他の因子が補充されたStemline II培地に播種される。例えば、個別のBL−CFCコロニーは、手で選定し、組み換えヒトSCF(例えば、20ng/ml)、TPO(例えば、20ng/ml)、FL(例えば、20ng/ml)、IL−3(例えば、20ng/ml)、VEGF(例えば、20ng/ml)、G−CSF(例えば、20ng/ml)、BMP−4(例えば、15ng/ml)、IL−6(例えば、10ng/ml)、IGF−1(例えば、10ng/ml)、内皮細胞成長サプリメント(ECGS、例えば、100μg/ml)、Epo(例えば、3U/ml)を有するStemline IIを含有するフィブロネクチン被覆された皿に移してもよい。1週間の生体外での成長に続いて、非接着造血細胞を優しくピペットで取ることによって除去し、造血CFUアッセイに直接使用してもよい。非接着細胞の除去に続いて、接着集団をさらに1週間EGM−2内皮細胞培地(Cambrex(商標))において成長させた後、vWFの発現について試験してもよい。
【0110】
血管芽細胞の生体外での増幅
本発明のある態様は、血管芽細胞の生体外での増幅に関する。ある実施形態では、本発明の方法によって増幅される血管芽細胞は、上述のようにヒト胚幹細胞に由来する初期胚様体から得られる。
【0111】
血管芽細胞をヒト胚幹細胞(hES細胞)から派生させることに加えて、増幅される血管芽細胞は、他の哺乳類源、例えば、哺乳類胚(Ogawa et al.2001 Int Rev Immunol(20):21−44、米国特許公開第2004/0052771号)、胎盤および臍帯組織からの臍帯血(Pelosi,et al.2002 Blood(100):3203−3208、Cogle et al.2004 Blood(103):133−5)、末梢血および骨髄(Pelosi et al.2002 Hematopoiesis(100):3203−3208)から単離されてもよい。ある実施形態では、増幅される非ヒト血管芽細胞は、非ヒト(マウスおよび非ヒト霊長類等)胚幹細胞から生成され得る。ある実施形態では、血管芽細胞は、例えば、磁気ビーズ正の選択または精製技法(例えば、MACSカラム)等の方法によって、臍帯血(UCB)または骨髄から得られる。細胞は、それらのCD71+状態に基づいて選択されてもよく、CD34−として確認され得る。さらに、単離した血管芽細胞を、造血および内皮細胞系の両方を生じさせる能力について試験してもよい。ある実施形態では、胚、臍帯血、末梢血、骨髄、または他の組織から単離または精製および任意選択で濃縮される血管芽細胞は、95%より純度が高い。
【0112】
骨髄由来細胞は、出生前(例えば、胚または胎児)、乳児(例えば、ヒトでは誕生から約3歳まで)、小児(例えば、ヒトでは約3歳から約13歳まで)、青少年(例えば、ヒトでは約13歳から約18歳)、若年(例えば、ヒトでは約18歳から約35歳まで)、成人(ヒトでは約35歳から約55歳)、または老年(例えば、ヒトでは約55歳以上)を含む、ドナー個人の任意の発達段階から得ることができる。
【0113】
ヒト骨髄は、例えば、手術を受けている患者の分裂した胸骨から剥離することによって採取してもよい。次に、骨髄は、容積が0.1〜1mm
3の組織塊で保存した後、マウス胚支持層(例えば、マイトマイシンC処理または照射した支持層)上で成長させられてもよい。骨髄細胞は、皿に付着し、1〜2週間の培養期間にわたって、血管芽細胞は、形態的特徴および/または細胞マーカーに基づいて識別および単離され得る(米国特許公開第2004/0052771号を参照)。次に細胞は、本明細書に開示する方法に従って、後に無血清条件で成長および増幅され得る。
【0114】
さらに、骨髄細胞および血液または他の組織からの細胞を分割して、血管芽細胞を得ることができる。分割の方法は、当該技術分野においてよく知られており、一般に正の選択(すなわち、特定の特性に基づく細胞の保持)および負の選択(すなわち、特定の特性に基づく細胞の排除)の両方を伴う。骨髄由来細胞の分割および濃縮のための方法は、ヒトおよびマウス細胞に対して最も良く特徴付けられている。
【0115】
骨髄由来または他の細胞を分割および濃縮するための、当該技術分野において知られる様々な方法が存在する。CD71を発現する細胞を濃縮する等の正の選択方法を使用してもよい。CD3、CD10、CD11b、CD14、CD16、CD15、CD16、CD19、CD20、CD32、CD45、CD45R/B220、またはLy6Gを発現する細胞を除去または低減する負の選択方法を、単独または正の選択技法と組み合わせて使用してもよい。骨髄細胞の例では、ドナー骨髄由来細胞が自己細胞でない場合、細胞調製に関して負の選択を行い、分化したT細胞を低減または排除してもよい。
【0116】
一般的に、骨髄由来、血液、または他の細胞の選択/濃縮に使用される方法は、免疫親和性技術を利用するが、密度遠心法も有用である。免疫親和性技術は、当該技術分野においてよく知られるように、様々な形態を取り得るが、一般に、いくつかの種類の分離技術と組み合わせて、抗体または抗体誘導体を利用する。分離技術は、一般に、抗体によって結合した細胞および抗体によって結合されない細胞の物理的分離をもたらすが、一部の例では、抗体によって結合した細胞を死滅させる分離技術を負の選択に使用してもよい。
【0117】
骨髄由来の血液または他の細胞からの血管芽細胞の選択/濃縮のために、任意の適切な免疫親和性技術を利用してもよく、それには、蛍光活性化細胞分類(FACS)、パニング、免疫磁気分離法、免疫親和性クロマトグラフィー、抗体媒介補体結合、抗毒素、密度勾配分離等が含まれる。免疫親和性プロセスにおける処理後に、所望の細胞(正の選択の場合には免疫親和性試薬によって結合した細胞、および負の選択の場合には免疫親和性試薬によって結合しない細胞)を回収し、2巡目の免疫親和性選択/濃縮に供してもよい。
【0118】
免疫親和性選択/濃縮は、通常、抗体または抗体由来親和性試薬(例えば、所定の表面マーカーに対して特異的な抗体)を用いて、骨髄由来細胞を含む細胞の製剤をインキュベートした後、結合親和性試薬を利用して、抗体が結合する細胞の選択あるいは排除について選択することによって実行される。選択プロセスは、一般に、結合親和性試薬(FACS)の存在または非存在に応じて、単一の細胞を含有する滴を異なる容器に向けさせること、固相基板に(直接または間接的に)結合した抗体を利用すること(パニング、免疫親和性クロマトグラフィー)、または磁場を利用して、親和性試薬により磁気分子に結合される細胞を回収すること(免疫磁気分離法)によって達成され得るような物理的分離を伴う。代替として、細胞毒性損傷を親和性試薬により結合した細胞に誘導する親和性試薬を使用して、骨髄由来細胞製剤から所望しない細胞を排除してもよい。細胞毒性損傷は、親和性試薬によって活性化され得るか(例えば、補体結合)、または親和性試薬によって標的細胞に限局され得る(例えば、リシンB鎖等の抗毒素)。
【0119】
上述の方法は、骨髄由来または血液細胞の製剤からの細胞の濃縮に言及するが、当業者であれば、同様の正および負の選択技術を、他の組織からの細胞製剤に適用することができることを認識するであろう。
【0120】
本発明のある態様は、血管芽細胞の生体外増幅に関する。ある実施形態では、本発明の方法によって増幅される血管芽細胞は、上述のように、ヒト胚幹細胞に由来する初期胚様体から得られる。他の実施形態では、血管芽細胞は、ヒト組織から単離または濃縮される(例えば、胎盤または臍帯血、末梢血、骨髄等)。
【0121】
ある実施形態では、血管芽細胞は、ホメオドメインタンパク質(本明細書ではホメオボックスタンパク質とも呼ばれる)の存在下で増幅される。さらなる実施形態では、血管芽細胞は、HOXB4の存在下で増幅される。ある実施形態では、HOXB4は、血管芽細胞を増幅するための方法を通して、血管芽細胞に添加される。
【0122】
HOXB4は、骨髄の幹細胞分割において生体外で発現され、その後の分化中に下方制御される、ホメオドメイン転写因子である(HOX2F、HOX2、HOX−2.6、およびラットではHOXA5とも呼ばれる)。HOXB4遺伝子の発現は、原子幹細胞表現型の維持に関連する(Sauvageau et al.1995 Genes Dev 9:1753−1765、Buske et al.2002 Blood 100:862−868、Thorsteinsdottir et al.1999 Blood 94:2605−2612、Antonchuk et al.2001 Exp Hematol 29:1125−1134)。
【0123】
血管芽細胞を生成および増幅するために本発明の方法で使用されるHOXB4は、全長HOXB4(例えば、公的受入番号GI:13273315(
図17)、GI:29351568(
図18)によって特定されるHOXB4ポリペプチド、ならびに任意の機能性変異体およびその活性断片を含むが、これらに限定されない。野生型HOXB4タンパク質は、配列番号1、配列番号3のアミノ酸配列、またはそのようなタンパク質の任意の他の代替対立形質によってコード化され得る。そのような配列は、Genbank等の公に使用可能なデータベースを介してアクセスされ得る。さらに、HOXB4は、細胞内で異所的に発現され得るか、または培地において提供されてもよい。異所的に発現したHOXB4は、誘導プロモータに対して操作可能に連結され得る。培地において提供されるHOXB4は、別の細胞型(例えば、支持層)によって排出され得るか、または培地に直接添加されてもよい。
【0124】
本発明は、HOXB4を含む融合タンパク質にも関する(全長HOXB4、あるいはHOXB4機能性変異体、またはHOXB4の活性断片を含む融合タンパク質を含む)。HOXB4に加えて、本融合タンパク質は、任意の付加タンパク質、タンパク質ドメイン、またはペプチドを含んでもよい。ある実施形態では、HOXB4は、培地から細胞および後に核分画へのタンパク質の転位を可能にするように、タンパク質導入ドメイン(PTD)に連結されてもよい。融合タンパク質は、タンパク質ドメイン間に位置する1つ以上のリンカー配列を含み得るか、または含まなくてもよい。
【0125】
HOXB4の機能性変異体は、HOXB4の変異体ならびに対立遺伝子多型、およびその活性断片を含む。HOXB4の機能性変異体は、発明の方法に従って、血管芽細胞を増幅することができる、任意のHOXB4ポリペプチドおよびその活性断片を含む。HOXB4機能性変異体は、天然HOXB4タンパク質と比較して、優れた転写活性を呈するHOXB4ポリペプチドも含む。HOXB4変異体は、野生型HOXB4と比して、1つ以上のアミノ酸置換、添加、および/または削除を有するタンパク質を含む。HOXB4変異体は、これに限定されないが、配列番号1または配列番号3で提供される配列に少なくとも75%類似する、ポリペプチドも含む。したがって、HOXB4変異体は、配列番号1または配列番号3で提供されるアミノ配列と80%、85%、90%、95%、および99%類似する、ポリペプチドを含む。
【0126】
HOXB4変異体は、その補体をコード化する核酸配列と少なくとも80%一致している核酸配列によってコード化されるポリペプチドも含む(例えば、野生型HOXB4タンパク質は、配列番号2(GI:85376187、
図15)または配列番号4(GI:29351567、
図16)の核酸配列によってコード化され得る)。したがって、HOXB4変異体は、配列番号2または配列番号4で提供される配列と80%、85%、90%、95%、および99%同一である核酸配列またはそれに対する補体によってコード化されるHOXB4ポリペプチドを含む。
【0127】
HOXB4をコード化する核酸配列は、これらに限定されないが、配列番号2または4の核酸配列、それに対する補体、またはその断片に厳しい条件下でハイブリダイズする、任意の核酸配列も含む。同様に、遺伝子コードの縮退のために、配列番号2または4に記載されるような核酸とは異なる核酸も、本発明の範囲内である。HOXB4変異体ポリペプチドは、スプライス変異体または他の自然発生するHOXB4タンパク質または核酸配列も含む。
【0128】
HOXB4の活性断片は、これに限定されないが、本発明の方法に従って血管芽細胞を維持することができる、全長HOXB4ポリペプチドの任意の断片を含む。したがって、一実施形態では、本発明のHOXB4タンパク質は、N末端の一部、例えば、全長HOXB4のN末端31、32、または33アミノ酸を欠失するHOXB4である。
【0129】
HOXB4タンパク質のうちのいずれかを、付加タンパク質またはタンパク質ドメインと融合してもよい。例えば、HOXB4は、タンパク質導入ドメイン(PTD)に結合してもよい。
【0130】
HOXB4に共有結合または非共有結合したタンパク質導入ドメインは、細胞膜を越えるHOXB4の転移を可能にし、そのためタンパク質は、最終的に細胞の核分画に到達し得る。
【0131】
HOXB4タンパク質と融合され得るPTDは、HIVトランス活性化タンパク質(TAT)のPTDを含む(Tat47〜57)(Schwarze and Dowdy 2000 Trends Pharmacol.Sci.21:45−48、Krosl et al.2003 Nature Medicine(9):1428−1432)。HIV TATタンパク質の場合、膜転移活動を付与するアミノ酸配列は、残基47〜57(YGRKKRRQRRR、配列番号5)に対応する(Ho et al.,2001,Cancer Research 61:473〜477、Vives et al.,1997,J.Biol.Chem.272:16010−16017)。本配列単独で、タンパク質転移活動を付与することができる。TAT PTDは、9つのアミノ酸ペプチド配列RKKRRQRRR(配列番号6)であってもよい(Park et al.Mol Cells 2002(30):202−8)。TAT PTD配列は、Ho et al.,2001,Cancer Research 61:473−477(この開示は、ここで参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示されるペプチド配列のうちのいずれかであってもよく、YARKARRQARR(配列番号7)、YARAAARQARA(配列番号8)、YARAARRAARR(配列番号9)、およびRARAARRAARA(配列番号10)が含まれる。
【0132】
本発明のHOXB4タンパク質と融合され得るPTDを含有する他のタンパク質は、単純ヘルペスウイルス1(HSV−1)DNA結合タンパク質VP22およびDrosophila Antennapedia(Antp)ホメオティック転写因子を含む(Schwarze et al.2000 Trends Cell Biol.(10):290−295)。Antpの場合、アミノ酸43〜58(RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号11)は、タンパク質導入ドメインを表し、HSV VP22の場合、PTDは残基DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号12)によって表される。代替として、HeptaARG(RRRRRRR、配列番号13)または導入作用を付与する人工ペプチドを本発明のPTDとして使用してもよい。
【0133】
追加の実施形態では、PTDは、重複または多量体化したPTDペプチドであってもよい。ある実施形態では、PTDは、TAT PTDペプチドYARAAARQARA(配列番号14)のうちの1つ以上である。ある実施形態では、PTDは、TAT PTDペプチドYARAAARQARA(配列番号15)のうちの3つからなる多量体である。多量体PTDと融合または結合されるHOXB4タンパク質、例えば、三重合成タンパク質導入ドメイン(tPTD)は、細胞において低い不安定性および高い安定性を呈し得る。そのようなHOXB4構成は、無血清培地において、およびhES細胞の存在下でも安定し得る。
【0134】
融合タンパク質をコード化する融合遺伝子を形成するための技法は、当該技術分野においてよく知られている。本質的に、異なるポリペプチド配列をコードする様々なDNA断片の結合は、従来技術に従って行われる。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動DNA合成器を含む従来技術によって合成することができる。代替として、遺伝子断片のPCR増幅は、キメラ遺伝子配列を生成するように後にアニールすることができる2つの連続遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを使用して実行することができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubel et al.,John Wiley & Sons:1992を参照)。
【0135】
ある実施形態では、ポリ(His)配列等の精製リーダー配列をコードする融合遺伝子は、HOXB4ポリペプチドまたはHOXB4融合タンパク質の所望の部分のN末端に結合されてもよく、融合タンパク質が、Ni
2+金属樹脂を使用して、親和性クロマトグラフィーによって精製されるのを可能にする。次に精製リーダー配列は、エンテロキナーゼで処置することによって後に除去し、精製HOXB4ポリペプチドを提供することができる(例えば、Hochuli et al.,(1987)J.Chromatography 411:177、およびJanknecht et al.,PNAS USA 88:8972を参照)。
【0136】
ある実施形態では、HOXB4タンパク質またはその機能性変異体または活性ドメインは、介在リンカー配列とともに、またはその配列なしに、第2のタンパク質またはタンパク質ドメイン(例えば、PTD)のC末端またはN末端に結合される。リンカーの正確な長さならびに配列、および結合する配列に対するその配向は、異なり得る。リンカーは、例えば、2、10、20、または30個以上のアミノ酸を含んでもよく、溶解性、長さ、立体分離等の所望の特性に基づいて選択することができる。特定の実施形態では、リンカーは、例えば、融合タンパク質の精製、削除、または修飾に有用な機能的配列を含み得る。ある実施形態では、リンカーは、2つ以上のグリシンのポリペプチドを含む。
【0137】
タンパク質ドメインおよび/またはドメイン融合されるリンカーを修飾して、HOXB4の有効性、安定性、および/または機能的特徴を改変してもよい。
【0138】
ある実施形態では、HOXB4は、血管芽細胞内で異所的に発現するか、または培地において提供される。異所的に発現したHOXB4は、調節配列と操作可能に結合され得る。調節配列は、当該技術分野において承認されており、HOXB4ポリペプチドの発現を誘導するように選択される。
【0139】
培地において提供されるHOXB4は、別の細胞型によって排出されてもよい。他の細胞型は、抽出可能なHOXB4を発現するよう変換したマウス間質細胞層等の支持層であってもよい。例えば、HOXB4は、シグナルペプチド、またはタンパク質の輸出および分泌を促進する疎水性配列を含むように融合または設計してもよい。代替として、PTDと共有または非共有結合した融合タンパク質等のHOXB4は、培地に直接添加されてもよい。追加として、HOXB4は、レトロウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター等のウイルスベクター上にあってもよい。そのようなベクターは、それらの培養物中の血管芽細胞または他の細胞のいずれかを形質導入することができる。
【0140】
使用されるHOXB4タンパク質に依存して、特定の実施形態では、HOXB4は、血管芽細胞の増幅中の選択した時間に培地に添加される。血管芽細胞は、無血清培地において増幅するため、HOXB4は比較的安定している。したがって、ある実施形態では、HOXB4タンパク質または融合タンパク質は、ヒト血管芽細胞に毎日添加される。他の実施形態では、HOXB4タンパク質または融合タンパク質は、1日おきに添加され、さらに他の実施形態では、HOXB4タンパク質または融合タンパク質は、2日おきに添加される。一実施形態では、HOXB4融合タンパク質、HOXB4−PTDは、2日おきに培地に添加される。
【0141】
ある実施形態では、血管芽細胞を、そのような細胞を増幅するのに十分な量で存在する任意の他の成長因子またはタンパク質の存在下で増幅することができる。
【0142】
ヒトまたは非ヒトES細胞、骨髄、胎盤または臍帯血、末梢血、または他の組織を含む、任意の源から得た血管芽細胞は、上述の方法に従って増幅することができる。したがって、ある実施形態では、選択数の精製した血管芽細胞または濃縮細胞を、血管芽細胞成長に対して最適化した無血清メチルセルロース培地と混合する(例えば、BL−CFU培地)。この培地は、初期段階サイトカイン(EPO、TPO、FL、VGF、BMP2、BMP4およびBMP7等であるがBMP3ではないBMPを含むが、これらに限定されない)およびHOXB4が補充されてもよい。ある実施形態では、エリトロポエチン(EPO)が培地に添加される。ある実施形態では、EPO、TPOおよびFLが培地に添加される。次に、細胞を超低付着培養皿上に播種し、CO
2インキュベータで成長させる。上述されるように、血管芽細胞コロニーは、特徴的なブドウ様形態を呈し、他の細胞よりも比較的小さく、結果として他の細胞型から区別され得る。血管芽細胞は、マーカーならびにそれらの造血細胞系または内皮細胞系のいずれかに分化する能力に関して試験してもよい。血管芽細胞は、後に生体外で単離および増幅される。増幅に使用され得る培地は、早期段階サイトカインおよびHOXB4が補充された、血管芽細胞成長(例えば、BL−CFU)に対して最適化した無血清メチルセルロース培地を含む。早期段階サイトカインは、EPO、TPO、FL、VEGF、BMP2、BMP4、およびBMP7等であるが、BMP3ではないBMPを含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、エリトロポエチン(EPO)が培地に添加される。さらなる実施形態では、EPO、TPOおよびFLが培地に添加される。
【0143】
したがって、血管芽細胞を増幅するための培地は、VEGF、SCF、EPO、BMP−4、およびHoxB4を含んでもよく、ある実施形態では、培地はさらにTPOおよびFLを含んでもよい。例えば、約3.5日間培養したEBから調製した単一の細胞を回収して、0.05%トリプシン−0.53mM EDTA(Invitrogen)によって2〜5分間解離し、単一の細胞懸濁液は、22G針を3〜5回通過させることによって調製した。1,000rpmで5分間、遠心分離で細胞を回収した。50〜200μlのStemline I培地中で細胞ペレットを再懸濁した。血管芽細胞を増幅するために、2−5×10
5個のhES細胞の分化に由来する単一の細胞懸濁液を、IscoveのMDM中の1.0%メチルセルロース、1〜2%ウシ血清アルブミン、0.1mM 2−メルカプトエタノール、10μg/ml rh−インスリン、200μg/ml鉄飽和ヒトトランスフェリン、20ng/ml rh−GM−CSF、20ng/ml rh−IL−3、20ng/ml rh−IL−6、20ng/ml rh−G−CSF、3〜6単位/ml rh−Epo、50ng/ml rh−SCF、50ng/ml rh−VEGFならびに50ng/ml rh−BMP−4、および1.5μg/mlのtPTD−HoxB4を含有し、50ng/mlのTpoおよびFLを含む/含まない、2ml血管芽細胞増幅培地(HGM)と混合した。細胞混合物は、超低付着培養皿上に播種し、37℃で5%CO
2中、4〜6日間インキュベートした。
【0144】
ある状況では、血管芽細胞を患者または患者の血縁者から入手し、当該血管芽細胞を生体外で増幅することが望ましい場合がある。そのような状況は、例えば、化学療法または放射線治療を開始することが予定されている患者、または、(患者自身の幹細胞を使用する)自己HSC移植を使用し得る他の状況を含む。したがって、本発明は、本発明の増幅血管芽細胞または血管芽細胞系細胞を使用して、細胞ベースの治療を必要とする患者(例えば、造血再構成あるいは処置、もしくは血管成長または虚血を含む血管損傷の処置を必要とする患者、以下を参照)を処置する方法を提供し、血管芽細胞は、患者または患者の血縁者の骨髄、血液、または他の組織から得られる。したがって、ある実施形態では、血管芽細胞(または血管芽細胞系細胞)を必要とする患者を処置する方法は、血管芽細胞を患者または患者の血縁者から単離するステップを含んでもよい。患者または患者の血縁者から単離した血管芽細胞は、本発明の方法に従って生体外で増幅し、後に患者に投与してもよい。代替として、増幅した血管芽細胞は、患者を処置する前に、造血細胞または内皮細胞を生じるようさらに成長させられてもよい。
【0145】
体細胞核移植等の当該技術分野において知られる任意の方法によって、そのような患者からヒトES細胞を得ることも可能である。次に、本発明の方法を使用して、患者自身のES細胞から、当該患者の血管芽細胞を生成し、増幅してもよい。それらの血管芽細胞またはその系統誘導体は、当該患者または血縁者に投与してもよい。
【0146】
本発明の方法を使用して、ヒト血管芽細胞は、様々な治療用途および臨床的応用で後に使用することができる、商業的な量に到達するよう増幅する。さらに、本明細書に開示される方法によって得られた血管芽細胞は、臨床的応用で使用するために造血細胞系または内皮細胞系のいずれかを生じるようさらに分化してもよい。
【0147】
ヒトES細胞からヒト血管芽細胞を生成および増幅するための本発明の方法から得られた血管芽細胞は、少なくとも内皮細胞または造血細胞に分化する能力を有する(すなわち、それらは少なくとも両性能である)。他の血管芽細胞は、同様に両性能であり得る。さらに他の血管芽細胞は、造血および内皮細胞以外の細胞に分化することができ得る(すなわち、それらは多分化能または多能性である)。
【0148】
複雑性の低下した血管芽細胞を得るようにヒト胚幹細胞内のMHC遺伝子を操作する
本発明のヒト血管芽細胞を生成および増幅する方法の開始点として使用されるヒト胚幹細胞は、ヒト胚幹細胞のライブラリに由来してもよく、それぞれヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子の半接合またはホモ接合である。ある実施形態では、幹細胞の当該ライブラリの各メンバーは、ライブラリの残りのメンバーに関して異なるMHC対立遺伝子の群に対し半接合またはホモ接合である。ある実施形態では、幹細胞のライブラリは、ヒト集団に存在するすべてのMHC対立遺伝子に対し半接合またはホモ接合である。本発明の文脈では、1つ以上の組織適合性抗原遺伝子に対しホモ接合である幹細胞は、1つ以上(および一部の実施形態では、すべての)そのような遺伝子に対しヌル欠損である細胞を含む。遺伝子座に対するヌル欠損とは、遺伝子が当該座においてヌルであることを意味し、すなわち、当該遺伝子の両対立遺伝子が削除されるか、または不活性化されることを意味する。すべてのMHC遺伝子に対してヌル欠損である幹細胞は、当該技術分野において知られる標準方法、例えば、遺伝子標的および/またはヘテロ接合性の消失(LOH)によって産生され得る。例えば、米国特許公開第US20040091936号、第US20030217374号、および第US20030232430号、および米国仮出願第60/729,173を参照し、それらすべての開示は、ここで参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0149】
したがって、本発明は、MHC複雑性が低下した血管芽細胞のライブラリを含む、血管芽細胞を取得する方法に関する。MHC複雑性が低下した血管芽細胞および血管芽系細胞は、患者適合に関連する困難を排除するため、治療用途に使用可能な細胞の供給を増加させる。そのような細胞は、MHC複合体の遺伝子に対し半接合またはホモ接合であるように操作される幹細胞に由来し得る。
【0150】
ヒトES細胞は、細胞のMHC複合体における姉妹染色体の対立遺伝子のうちの1つに対する修飾を含んでもよい。遺伝子標的等の遺伝子修飾を生成するための多様な方法を使用して、MHC複合体における遺伝子を修飾することができる。さらに、細胞におけるMHC複合体の修飾対立遺伝子は、後に、ホモ接合となるよう操作されてもよく、それにより同一の対立遺伝子が姉妹染色体上に存在するようにする。ヘテロ接合性の消失(LOH)等の方法を利用して、MHC複合体にホモ接合対立遺伝子を有するように細胞を操作してもよい。例えば、親対立遺伝子からのMHC遺伝子の群における1つ以上の遺伝子を標的して、半接合細胞を生成することができる。MHC遺伝子の他の群は、遺伝子標的またはLOHによって除去し、ヌル株を形成することができる。このヌル株を、さらに、HLA遺伝子のアレイまたは個別の遺伝子をドロップする胚細胞株として使用して、それ以外は均一な遺伝子背景を有する半接合またはホモ接合バンクを形成することができる。
【0151】
一態様では、各メンバーが、少なくとも1つのHLA遺伝子に対してホモ接合である、ES細胞株のライブラリを使用し、本発明の方法に従って、血管芽細胞を派生させる。別の態様では、本発明は、血管芽細胞(および/または血管芽系細胞)のライブラリを提供し、そこでは、いくつかのES細胞株が選択され、血管芽細胞に分化させられる。これらの血管芽細胞および/または血管芽系細胞は、細胞ベース治療を必要とする患者に使用してもよい。
【0152】
したがって、本発明のある実施形態は、複雑性の低い胚幹細胞から派生したヒト血管芽細胞、造血幹細胞、またはヒト内皮細胞を、それらを必要とする患者に投与する方法に関する。ある実施形態では、本方法は、(a)患者に対するヒト血管芽細胞、造血幹細胞、またはヒト内皮細胞の投与を伴う処置を必要とする患者を識別するステップと、(b)患者の細胞の表面上に発現したMHCタンパク質を識別するステップと、(c)本発明のヒト血管芽細胞を生体外で精製および増幅するための方法によって形成した、MHC複雑性の低いヒト血管芽細胞のライブラリを提供するステップと、(d)患者の細胞上のMHCタンパク質と適合するライブラリからヒト血管芽細胞を選択するステップと、(e)任意選択で、ステップ(d)において識別したヒト血管芽細胞を必要に応じて、ヒト造血幹細胞、内皮細胞、あるいは両方、またはこれら2つの系統のうちのいずれか、または両方にさらに分化される細胞に分化するステップと、(f)ステップ(d)および/または(e)からの細胞のうちのいずれかを当該患者に投与するステップを含む。本方法は、例えば、病院、クリニック、診療所、および他の医療施設等の地域センターにおいて行われてもよい。さらに、患者に対する適合として選択される血管芽細胞は、小細胞数で保管されると、患者の処置に先立って増幅されてもよい。
【0153】
ヒト血管コロニー形成細胞/血管芽細胞
ある態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を提供する。これらの細胞は、様々な治療使途および他の使途を有する固有の原始細胞型である。さらに、本細胞型は、少なくとも造血および/または内皮系統の発達を研究するための重要なツールを提供する。したがって、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を含む様々な製剤(医薬製剤を含む)および組成、ならびに血管コロニー形成細胞から部分的または完全に分化した1つ以上の細胞型を含む製剤(医薬製剤を含む)および組成を企図する。
【0154】
本発明のヒト血管コロニー形成細胞は、以下の構造的特徴のうちの少なくとも1つを有する。(a)少なくとも造血細胞型または内皮細胞型を生じるように分化することができる、(b)少なくとも造血細胞型および内皮細胞型を生じるように分化することができる、(c)互いに(他のヒト血管コロニー形成細胞に対して)軽く接着する、(d)CD34タンパク質を発現しない、(e)CD31タンパク質を発現しない、(f)KDRタンパク質を発現しない、(g)CD133タンパク質を発現しない、(h)GATA2タンパク質を発現する、(i)LMO2タンパク質を発現する。ある実施形態では、ヒト血管コロニー形成細胞は、本明細書に詳述する少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、または少なくとも9つの構造的または機能的特徴を有する。
【0155】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を提供する。そのような細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するよう分化することができる。ある実施形態では、他のヒト血管コロニー形成細胞に軽く付着しているとして特徴付けられる。代替または追加として、これらの細胞は、あるマーカーの発現または発現の欠失に基づいて説明されてもよい。例えば、これらの細胞は、以下のタンパク質:CD34、KDR、CD133、およびCD31のうちの少なくとも1つの発現の欠失に基づいて説明されてもよい。
【0156】
上述のように、ヒト血管コロニー形成細胞の興味深い特性のうちの1つは、互いに軽く付着することである。これらの細胞は、互いに軽く付着するに過ぎないため、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、血管コロニー形成細胞の培養物またはコロニーを、単一の細胞に解離することができる。細胞は、互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離またはそれらの組み合わせよりも、機械的解離単独で、細胞の生存能力を著しく損なうことなく、培養物またはコロニーを分解するのに十分である。言い換えれば、機械的解離は、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど強い力を必要としない。
【0157】
この特性は、細胞を説明する際、および他の細胞型からそれらを発現型的に区別する際に有用であるだけでなく、有意な治療への示唆を有する。例えば、比較的多数(1×10
6を超える、またはさらには1×10
7を超える、あるいはさらには1×10
8を超える)の血管コロニー形成細胞を、ヒトまたは他の動物に注入することができ、血栓あるいは塞栓をもたらすか、またはそうでなければ肺に停滞するリスクが著しく低い。これは、細胞療法における著しい進展である。比較的多数の細胞を安全に投与する能力は、細胞療法を実用的にし、より多い数の疾患および状態の有効な処置を可能にする。
【0158】
「軽く付着した」という用語は上で定性的に説明され、互いに関するヒト血管コロニー形成細胞の動作を意味する。血管コロニー形成細胞の培養物またはコロニーは、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる。細胞は、互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離またはそれらの組み合わせよりも、機械的解離単独で、細胞の生存能力を著しく損なうことなく、培養物またはコロニーを分解するのに十分である。言い換えれば、機械的解離は、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど強い力を必要としない。
【0159】
この用語は、より定量的に説明することもできる。例えば、ある実施形態では、「軽く付着した」という用語は、培養物における細胞の少なくとも50%が、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単細胞に解離することができる、血管コロニー形成細胞の培養物またはコロニーを意味するように使用される。他の実施形態では、当該用語は、培養物における細胞の少なくとも60%、65%、70%、または75%が、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる培養物を意味する。さらに他の実施形態では、当該用語は、培養物における細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはさらには100%が、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる培養物を意味する。
【0160】
機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、血管コロニー形成細胞を解離する能力は、機械的解離後の細胞の健康および生存能力に基づいて、さらに定量することができる。言い換えれば、酵素的技法を用いない解離が、相当の数の細胞が損傷または死滅されるほど強い機械的力を必要とするならば、細胞は、本明細書に定義されるように、軽く付着しない。例えば、ある実施形態では、「軽く付着した」という用語は、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、酵素的解離技法を使用して同一細胞が解離される場合に認められるものと比較して、細胞の健康または生存能力を著しく損なうことなく、単一の細胞に解離することができる細胞の培養物を意味する。例えば、細胞の健康または生存能力は、酵素的解離技法を使用して同一細胞の培養物が解離される場合に認められるものと比較して、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満、またはさらには1%未満だけ減少する。
【0161】
典型的な酵素的解離技法は、トリプシン、コラゲナーゼ、または細胞−細胞あるいは細胞−マトリクス相互作用を途絶する他の酵素を用いる処置を含むが、これに限定されない。典型的な機械的解離技法は、ピペットの1つ以上の通過を含むが、これに限定されない。
【0162】
本発明に従うヒト血管コロニー形成細胞は、構造的および機能的に定義される。そのような細胞は、胚組織、出生前組織、周産期組織、およびさらには成人組織を含む、多数の源のうちのいずれかから生成することができる。例として、ヒト血管コロニー形成細胞は、ヒト胚幹細胞、他の胚由来細胞(胚盤胞、割球、ICM、胚、栄養膜細胞/栄養外胚葉細胞、栄養膜幹細胞、始原生殖細胞、胚生殖細胞等)、羊水、羊膜幹細胞、胎盤、胎盤幹細胞、および臍帯から生成することができる。
【0163】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞、ヒト血管コロニー形成細胞を含む組成物、およびヒト血管コロニー形成細胞を含む製剤(医薬製剤を含む)を提供する。本発明のこれらの態様のある特徴は、以下に詳述される。本発明は、本発明の以下の態様および実施形態のうちのいずれかの組み合わせを企図する。
【0164】
一態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を提供する。細胞は、分化して、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生することができる。ある実施形態では、細胞は、他のヒト血管コロニー形成細胞に軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。
【0165】
別の態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を提供する。細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するように分化することができ、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、KDR、およびCD133のうちのいずれをも発現しない。ある実施形態では、細胞は、他のヒト血管コロニー形成細胞に軽く付着する。他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。
【0166】
別の態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞の実質的に精製した集団を含む、細胞培養物を提供する。細胞は、少なくとも造血および内皮細胞型を産生するよう分化することができ、細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。
【0167】
別の態様では、本発明は、胚組織から分化したヒト血管コロニー形成細胞を含む細胞培養物を提供する。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するように分化することができ、細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。
【0168】
別の態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を含む細胞培養物を提供し、この細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。
【0169】
別の態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を含む医薬製剤を提供し、この細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。医薬製剤は、任意の医薬的に許容される担体または賦形剤を使用して調製することができる。
【0170】
別の態様では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞を含む医薬製剤を提供し、血管コロニー形成細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、KDR、およびCD133のうちのいずれも発現しない。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、少なくとも造血および/または内皮細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、互いに軽く付着する。ある他の実施形態では、細胞は、GATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。医薬製剤は、任意の医薬的に許容される担体または賦形剤を使用して調製することができる。
【0171】
前述のうちのいずれかのある実施形態では、組成または医薬製剤は、少なくとも1×10
5個のヒト血管コロニー形成細胞を含む。前述のうちのいずれかのある他の実施形態では、組成または医薬製剤は、少なくとも1×10
6、少なくとも5×10
6、少なくとも1×10
7、または少なくとも1×10
7個を超えるヒト血管コロニー形成細胞を含む。
【0172】
追加の細胞、組成、および製剤は、ヒト血管コロニー形成細胞から部分的または完全に分化した細胞を含む。例えば、本発明は、血管コロニー形成細胞から分化した1つ以上の造血および/または内皮細胞型を含む組成および製剤を企図する。典型的な造血細胞型は、造血幹細胞、血小板、RBC、リンパ球、巨核球等を含む。さらなる例として、本発明は、血管コロニー形成細胞から分化した、1つ以上の部分的または完全に分化した中胚葉細胞型等の1つ以上の他の細胞型を含む、組成および製剤を企図する。
【0173】
前述のうちのいずれかのある他の実施形態では、本発明は、ヒト血管コロニー細胞またはそこから部分的または完全に分化した細胞の凍結製剤を提供する。
【0174】
前述のうちのいずれかのある他の実施形態では、本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞、またはヒト血管コロニー形成細胞の組成あるいは製剤の治療使途を提供する。そのような細胞および製剤は、本明細書にわたって詳述される状態または疾患のうちのいずれかの処置、ならびに血液貯蔵産業において使用することができる。さらに、ヒト血管コロニー形成細胞から分化した細胞、またはヒト血管コロニー形成細胞の組成あるいは製剤は、本明細書にわたって詳述される状態または疾患のうちのいずれかの処置、ならびに血液貯蔵産業において治療的に使用することができる。
【0175】
本明細書のヒト血管コロニー形成細胞は、治療的に使用することができる。追加または代替として、ヒト血管コロニー形成細胞は、内皮および造血系統の発達を研究するため、または例えば、(i)ヒト血管コロニー形成細胞を維持するか、または(ii)1つ以上の部分的または完全に分化した細胞型へのヒト血管コロニー形成細胞の分化を促進するように使用することができる因子を識別するためのスクリーニングアッセイにおいて使用することができる。さらに、ヒト血管コロニー形成細胞は、生体外または生体内で使用するための1つ以上の部分的または完全に分化した細胞型を生成するように使用することができる。
【0176】
本発明のヒト血管コロニー形成細胞は、本出願において説明される方法または応用のうちのいずれかで使用することができ、本明細書に記載の疾患または状態のうちのいずれかの処置を含むが、これに限定されない。
【0177】
生体外で増幅した血管芽細胞を含む細胞製剤
本発明のある実施形態では、哺乳類(ヒトを含む)血管芽細胞を増幅して商業量に到達させ、様々な治療用途および臨床的応用において使用される。特定の実施形態では、血管芽細胞を増幅して、約10,000〜4,000,000個(またはそれ以上)台の細胞数に到達させる。これらの細胞数は、初期調製の開始から3〜4日以内に到達され得る。したがって、本発明は、多数の血管芽細胞を含む製剤に関し、当該製剤は、少なくとも10,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000、2,000,000、3,000,000、または4,000,000個の細胞を含む。
【0178】
本発明は、多数の血管芽細胞を含む溶液、組成、および製剤も提供し、当該組成および当該製剤は、少なくとも10,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000、2,000,000、3,000,000、または4,000,000個の細胞を含む。血管芽細胞は、ヒトであり得る。
【0179】
本発明の他の態様は、本明細書に開示する方法によって得た血管芽細胞を、後に臨床的応用で使用される造血細胞系または内皮細胞系のいずれか、または両方に分化することに関する。したがって、本発明は、多数の造血または内皮細胞を含む細胞製剤にも関する。本発明は、本明細書に開示する方法によって得た血管芽細胞を、造血細胞または内皮細胞以外の他の細胞系に分化することにも関する。したがって、本発明は、多数の他の血管芽細胞由来細胞を含む細胞製剤にも関する。
【0180】
多数の(例えば、数千または数百万)の血管芽細胞を含む組成および製剤は、上述されるように得られる血管芽細胞を増幅することによって得ることができる。したがって、本発明は、ES細胞(ヒトES細胞等)または臍帯血、末梢血、または骨髄から得た血管芽細胞を増幅することによって達成される、多数の血管芽細胞を含む組成および製剤に関する。さらに、増幅の方法は、マウス、ラット、ウシ、または非ヒト霊長類起源の血管芽細胞に適用され得るため、例えば、本発明は、ヒトに加えて、他の種の多数の血管芽細胞を含む組成および製剤にも関する。本発明の方法によって増幅される血管芽細胞は、両性能であってもよく、すなわち、内皮細胞または造血幹細胞のうちのいずれかに分化することができる。ある実施形態では、ヒトES細胞から生成および増幅したヒト血管芽細胞は、両性能である。血管コロニー形成細胞は、少なくとも造血細胞型または内皮細胞型を生じるように分化することができる。血管コロニー形成細胞は、好ましくは両性能であり、少なくとも造血細胞型および内皮細胞型を生じるように分化することができる。そのようにして、本発明の血管コロニー形成細胞は、少なくとも単性能および好ましくは両性能である。しかしながら、さらに、血管コロニー形成細胞は、より優れた発生能を有してもよく、ある実施形態では、他の系統の細胞型を生じるように分化することができる。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞は、心臓細胞(例えば、心筋細胞)および/または平滑筋細胞等の他の中胚葉誘導体を生じるように分化することができる。
【0181】
哺乳類血管芽細胞マーカー
上述のように、血管コロニー形成細胞は、成熟内皮または造血細胞のある特性が欠如している。しかしながら、これらの血管コロニー形成細胞または血管芽細胞は、様々なマーカー、例えば、CD71+、GATA−1およびGATA−2タンパク質、CXCR−4、ならびにTPOおよびEPO受容体によって識別され得る。追加の実施形態では、血管芽細胞はLMO−2を発現する。血管芽細胞は、他のマーカーの発現の非存在または低発現によって追加として特徴付けられ得る。したがって、血管芽細胞は、CD34−、CD31−、およびKDR−であり得る。さらなる実施形態では、血管芽細胞は、CD34−、CD31−、KDR−、およびCD133−であり得る。
【0182】
したがって、ある実施形態では、本発明の方法によって生成および増幅された血管芽細胞は、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる、国際公開第WO2007/120811号の表2にリストされるマーカーのうちの任意の1つ以上の存在または非存在によって特徴付けられる。例えば、血管芽細胞は、「BL−CFC」の「−」で示される表2にリストされるマーカーのうちの任意の1つ以上の発現の検査で陰性となり得る。したがって、いくつかの実施形態では、血管芽細胞は、CD34発現が陰性であり得る。細胞は、追加または代替として、CD31、CD133、および/またはKDR発現が陰性であり得る。さらなる実施形態では、血管芽細胞は、表2に「+」で示されるマーカーのうちのいずれかを発現し得る。例えば、細胞は、LMO−2およびGATA−2マーカーのうちの1つ以上を発現してもよい。マーカーの発現は、例えば、免疫組織化学または免疫ブロット法等の任意の方法によって評価し、タンパク質発現について試験するか、またはmRNA分析によって、RNAレベルにおける発現を試験してもよい。
【0183】
血管芽系細胞の派生
本発明の方法および細胞製剤は、血管芽派生細胞にも関する。本発明によって生成および増幅したヒト血管芽細胞、および本発明の方法によって増幅した哺乳類血管芽細胞は、造血細胞(造血幹細胞(HSC))または内皮細胞、ならびにこれら2つの系統においてさらに分化される細胞を得るように、生体外で分化されてもよい。これらの細胞は、以下に記載される治療用途および商業用途において、後に使用することができる。
【0184】
ある実施形態では、造血細胞は、無血清BL−CFU中で3〜10日間、血管芽細胞を成長させることによって派生される。他の実施形態では、hES由来BL−CFC細胞の単一の細胞懸濁液は、10〜14日間成長させられる。無血清条件を維持することは、無血清条件が、大量生産および規制ガイドラインの順守、ならびに費用の削減を促進する限り、最適である。本発明の血管芽細胞は、無血清Hem培養物中で成長させられてもよく(Bhatia et al.1997 J Exp Med(186):619−624)、これはヒト造血幹細胞を維持し、BSA(例えば、1%BSA)、インスリン(例えば、5μg/mlヒトインスリン)、トランスフェリン培地またはトランスフェリン(例えば、100μg/mlヒトトランスフェリン)、L−グルタミン、β−メルカプトエタノール(例えば、10
−4M)、および成長因子を含む。成長因子は、SCF(例えば、300ng/ml)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)(例えば、50ng/ml)、Flt−3(例えば、300ng/ml)、IL−3(例えば、10ng/ml)、およびIL−6(例えば、10ng/ml)を含んでもよい。血管芽細胞から造血細胞を得る有用な他の因子には、トロンボポエチン(TPO)およびVEGF(例えば、Wang et al.2005 Ann NY Acad Sci(1044):29−40を参照)およびBMP−4が含まれる。血管芽細胞は、多系造血成長因子カクテルが補充された無血清メチルセルロース培地において成長させられてもよい。したがって、血管芽細胞は、BSA、飽和ヒトトランスフェリン、ヒトLDLを含み、早期活性成長因子(例えば、c−kitリガンド、flt3リガンド)、多分化成長因子(例えば、IL−3、顆粒球マクロファージ−CSF(GM−CSF))、および単分化成長因子(例えば、G−CSF、M−CSF、EPO、TPO)、VEGF、およびbFGFが補充された、Iscove修正Dulbecco培地(IMDM)内のメチルセルロースにおいて成長させられてもよい。代替として、血管芽細胞は、1種類の造血細胞(例えば、赤血球、マクロファージ、または顆粒球)の成長を支持するよう単分化成長因子を含む培地において成長させられてもよい。
【0185】
一実施形態では、血管芽細胞コロニーを、Stemline I培地において再懸濁する。次に、細胞を1mlの無血清造血CFU培地(H4436、Stem Cell Technologies(商標))および1.5μg/mlのtPTD−HoxB4および0.5%EX−CYTE(Serologicals Proteins Inc.(商標))と混合する。次に、細胞混合物を細胞培養未処置皿に播種し、37℃で10〜14日間インキュベートする。初期播種後10〜14日に生じる造血CFUは、Wright−Giemsa色素で染色する等して、形態的に特徴付けられ得る。
【0186】
造血細胞は、当該技術分野において知られる他の条件を使用して、(例えば、IMDM、30%ウシ仔血清(FCS)、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、10
−4M βメルカプトエタノール、および2mM L−グルタミンを含む培地中で)血管芽細胞から派生させてもよい。さらに、他の実施形態では、EB内のBL−CFC頻度の両方を促進し、造血分化を促進するように、塩基性線維芽細胞成長因子を使用してもよい(Faloon et al.2000 Development(127):1931−1941)。さらに他の実施形態では、成長因子hemangiopoietin(HAPO)を使用して、血管芽細胞の成長および造血分化を促進する(Liu et al.2004 Blood(103):4449−4456)。造血細胞への分化は、例えば、CD45の状態(CD45+)およびCFUアッセイによって評価される。
【0187】
造血細胞を形成するために、ヒト血管芽細胞は、3〜10日間、または任意選択でより長期間(例えば、10〜14日間)CFU培地中で成長させられてもよい。本発明のヒト血管芽細胞は、顆粒球、赤血球、マクロファージ、および巨核球を含むCFU(CFU−GEMM/混合)、ならびに後者細胞型(例えば、CFU−G、CFU−E、CFU−M、およびCFU−GM)のうちの1つのみを含有するコロニー形成単位を形成することができる。ある実施形態では、hES由来BL−CFC細胞の単一の細胞懸濁液を10〜14日間成長させて、例えば、例えば、赤血球、骨髄、マクロファージ、および多分化能細胞等の造血細胞を派生させる。
【0188】
本発明の他の態様は、本明細書に記載の方法で得て増幅したヒト血管芽細胞、または増幅した哺乳類血管芽細胞に由来する内皮細胞に関する。血管芽細胞は、内皮成熟に好ましい条件で成長させられ得る。
【0189】
本発明のある実施形態では、内皮細胞を得るるために、血管芽細胞を最初にフィブロネクチン被覆表面上に播種し、3〜5日後(または他の実施形態では、3〜7日)、内皮細胞への分化支援するように、Matrigelの厚層上に再播種する。これらの条件は、血管芽細胞の発達中に確立される無血清条件を維持する。代替として、血管芽細胞は、内皮細胞への分化を支援することが知られる培地において成長させられ得る。そのような条件は、例えば、20%ウシ胎仔血清(FBS)、50ng/ml内皮細胞成長サプリメント(すなわち、下垂体抽出物)、10IU/mlヘパリン、および5ng/mlヒトVEGF−A
165(Terramani et al.2000 In vitro Cell Dev Biol Anim(36):125−132)を含む内皮培養物を含む。当該技術分野において知られる条件は、25%FCS/ウマ血清、一部の実施形態では、ヘパリン(例えば、10U/ml)、インスリン様成長因子(IGF1)(例えば、2ng)、およびEC成長サプリメント(ECGS、例えば、100μg)が補充された培地を含む。成長因子VEGFおよびEGFは、内皮分化を支援するように、HAPOと組み合わせて使用してもよい(Liu et al.2004)。血管芽細胞は、例えば、内皮細胞への分化を促進するように、コラーゲンおよびフィブロネクチンで被覆した皿に播種してもよい。細胞は、フォンヴィレブランド因子(vWF)および内皮酸化窒素シンターゼ(eNOS)および内皮ネットワークを生体外で形成する能力について分析され得る。
【0190】
したがって、内皮細胞を形成するために、上述の方法によって得られた血管芽細胞コロニーを選定し、内皮分化に向けた第1のステップに対し最適化したフィブロネクチン被覆培養皿に再播種される。細胞は、EGM−2またはEGM−2MV完全培地(Cambrex(商標))に播種されてもよい。3〜5日後、および代替実施形態では、3〜7日後に、細胞を、内皮分化を支援する表面、Matrigelの層等に再播種する。16〜24時間のインキュベーション後、分岐した管状コードの形成は、典型的な内皮細胞動作を示唆する。LDL摂取等の内皮特異的アッセイを使用して、これらの細胞が内皮的本質であることを確認することができる。
【0191】
本発明の他の態様では、本発明によって生成および増幅したヒト血管芽細胞および本発明の方法によって増幅した哺乳類血管芽細胞は、他の細胞、ならびにこれらの細胞系からさらに分化される細胞を入手するように、生体外で分化され得る。血管芽細胞は、造血および内皮細胞に分化するよりもさらに高い発生能を有し得るため、そのような付加細胞系は、本発明によって生成および増幅した血管芽細胞、および本発明の方法によって増幅した哺乳類血管芽細胞から得ることができる。
【0192】
非生着血管細胞
本発明は、以前に識別された血管芽細胞および血管コロニー形成細胞の一部の特性を共有する、新規の細胞集団を提供する。しかしながら、本明細書に説明する新規細胞集団は、免疫不全動物に投与する際に、骨髄に生着しないという点において明らかに異なる。この新規前駆細胞集団は、基本発生生物学および幹細胞生物学の研究に有用であり、分化細胞型を生体外および生体内で部分的および完全に生成するのに有用であり、治療法の開発に有用である。さらに、これらの細胞をスクリーニングアッセイに使用して、例えば、(i)非生着血管細胞の増幅を促進する因子または条件、および(ii)非生着血管細胞からの1つ以上の分化細胞型の生成を促進する因子または条件を識別することができる。識別した因子および条件は、細胞ベースおよび無細胞治療物質の産生、培地および製剤の産生、および発生生物学および幹細胞生物学の研究において使用することができる。
【0193】
概要
本発明は、非生着血管細胞、非生着血管細胞を含む組成および製剤、非生着血管細胞を産生および増幅する方法、非生着血管細胞から分化細胞型を産生する方法、および非生着血管細胞またはそこから派生する細胞を治療的に使用する方法を提供する。
【0194】
本明細書に説明する方法を使用して、ヒト非生着血管細胞を生成することができる。しかしながら、細胞は、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、および非ヒト霊長類を含むが、これらに限定されない他の種から入手することができる。
【0195】
本発明は、ES細胞、胚盤胞または割球、胎盤または臍帯組織からの臍帯血、末梢血、骨髄、または他の組織を含む任意の源から、または当該技術分野において知られる任意の他の手段によって得た哺乳類非生着血管細胞を増幅するための方法を提供する。ある実施形態では、ヒト非生着血管細胞は、肺幹細胞または他の多能性幹細胞から生成することができる。例として、ヒト非生着血管細胞は、肺幹細胞ならびにiPS細胞から生成することができる。他の実施形態では、非生着血管細胞は、ヒト胚由来細胞から生成される。ヒト胚由来細胞は、実質的に均一な細胞集団、不均一な細胞集団、または胚組織のすべてまたは一部であってもよい。本発明の方法で使用できる胚由来細胞の例として、ヒト非生着血管細胞は、ヒト胚幹細胞から生成することができる。そのような胚幹細胞は、例えば、受精または体細胞核移植(SCNT)、単為生殖、および雄性発生を含む無性手段によって産生されるか否かに関わらず、胚盤胞、播種されたICM、1つ以上の割球、着床前期の胚または胚様構造の他の部分に由来する、またはそれらを使用する胚幹細胞を含む。ある実施形態では、非生着血管細胞は、多能性幹細胞から生成される。典型的な多能性幹細胞は、胚幹細胞およびiPS細胞を含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、ヒト非生着血管細胞は、非多能性細胞から生成される。非多能性細胞は、皮膚、骨、血液、結合組織、心臓、腎臓、肺、肝臓、または任意の他の内臓等の体細胞を含んでもよい。ある実施形態では、非多能性細胞は、線維芽細胞等の結合組織に由来する細胞であってもよい。ある実施形態では、非多能性細胞は、成人組織に由来する細胞である。
【0196】
ある実施形態では、非生着血管細胞は、造血幹細胞および/または造血細胞型にさらに分化することができ、それには血小板および赤血球を含むがこれらに限定されない。そのような細胞は、輸血または他の治療に使用することができる。そのような細胞は、多数の使用法を有するが、特に重要な使用は、輸血用の血液の利用可能性を改善することにおいてである。ある実施形態では、本発明は、非生着血管細胞から分化した赤血球を提供する。そのような分化した赤血球は、輸血に使用することができる。
【0197】
本発明のさらなる態様は、輸血を必要とする者に対する輸血に使用するために、非生着血管細胞から分化した造血細胞を生成する方法に関する。ある実施形態では、分化した造血細胞を輸血して、外傷、手術中の失血、血液疾患(貧血、鎌状赤血球貧血、あるいは溶血性疾患等)、または悪性疾患を処置する。ある実施形態では、赤血球を輸血して、外傷、手術中の失血、血液疾患(貧血、鎌状赤血球貧血、または溶血性疾患等)を処置する。ある実施形態では、赤血球の混合集団が輸血される。多くの分化した造血細胞型、特に赤血球は、通常、混合集団として生体内に存在することに留意されたい。特に、様々な年齢および分化段階の循環赤血球が生体内で見出される。さらに、赤血球は、時間とともに成熟し、少量の胎児ヘモグロビンおよび多量の成人ヘモグロビンを発現するようになる。本発明は、赤血球の精製集団または様々な年齢および様々な分化段階の赤血球の混合集団のうちのいずれかの輸血を企図する。特定の実施形態では、本発明は、胎児ヘモグロビン(ヘモグロビンF)を発現する赤血球の輸血を企図する。胎児ヘモグロビンを発現する赤血球の輸血は、鎌状赤血球貧血の治療において特に有用であり得る。輸血用の多量の細胞を生成する能力は、全国の血液バンクおよび病院が経験している慢性的な血液の不足を緩和する。
【0198】
ある実施形態では、本発明の方法は、輸血用の万能細胞の産生を可能にする。特に、O型Rh−の赤血球は、容易に精製することができ、輸血用の万能血液源として機能する。ある実施形態では、本出願の方法から産生される赤血球は、機能的である。ある実施形態では、赤血球は輸血に先立ってヘモグロビンFを発現する。ある実施形態では、赤血球は酸素を輸送する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球に等しい寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の75%の寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の50%の寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の25%の寿命を有する。
【0199】
ある実施形態では、非生着血管細胞は、優れた発生能を有し得、分化して内皮細胞型、平滑筋細胞型、または心細胞型を産生し得る。
【0200】
本発明の方法は、非生着血管細胞を様々な商業用途および臨床的応用に有用な量に生体外で増幅するのを可能にする。非生着血管細胞の生体外での増幅は、非生着血管細胞の増殖を意味する。本発明の方法は、ヒト非生着血管細胞の増幅を商業的に有用な量に到達するのを可能にするが、本発明は、多量の非生着血管細胞および多量のヒト非生着血管細胞(例えば、少なくとも10,000、100,000、または500,000個の細胞)を含む細胞製剤にも関する。ある実施形態では、細胞製剤は、少なくとも1×10
6個の細胞を含む。他の実施形態では、細胞製剤は、少なくとも2×10
6個のヒト非生着血管細胞を含み、さらなる実施形態では、少なくとも3×10
6個のヒト非生着血管細胞を含む。さらなる他の実施形態では、細胞製剤は、少なくとも4×10
6個のヒト非生着血管細胞を含む。これらの細胞製剤は、精製または実質的に精製されてもよいことに留意されたい。しかしながら、ある実施形態では、適切な細胞製剤は、非生着血管細胞および血管コロニー形成細胞の混合物を含む。混合物は、任意の割合であってもよく、非生着血管細胞を多い割合で含む混合物、および血管コロニー形成細胞を多い割合で含む混合物を含む。
【0201】
本発明は、10,000〜4,000,000個以上の哺乳類(ヒト等)非生着血管細胞を含む溶液、製剤、または組成に関する。そのような溶液、製剤、または組成中の非生着血管細胞の数は、10,000〜4,000,000の範囲、またはそれ以上の任意の数であり得る。この数は、例えば、20,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000等であり得る。
【0202】
同様に、本発明は、ヒト非生着血管前駆細胞(例えば、ヒト造血幹細胞を含むヒト造血細胞)の製剤に関する。本発明は、さらに、非生着血管細胞および/または非生着血管前駆細胞を産生、保存、および流通させる方法に関する。
【0203】
本発明は、ヒトまたは動物患者への輸血に適した方法および溶液も提供する。特定の実施形態では、本発明は、赤血球および/または血小板、および/または輸血用の他の造血細胞型を形成する方法を提供する。ある実施形態では、本発明は、外傷後の輸血用血液を提供するための血液バンクおよび病院での使用、または血液関連疾患もしくは障害の治療に適している。ある実施形態では、本発明は、万能ドナー細胞である赤血球細胞を提供する。ある実施形態では、赤血球は機能的であり、輸血に先立ってヘモグロビンFを発現する。
【0204】
本発明は、ヒト非生着血管細胞、実質的に精製したヒト非生着血管細胞の集団を含む細胞培養物、ヒト非生着血管細胞を含む医薬製剤、およびヒト非生着血管細胞の凍結保存製剤も提供する。ある実施形態では、本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造におけるヒト非生着血管細胞の使用を提供する。代替として、本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造における細胞培養物の使用を提供する。本発明は、処置を必要とする患者の状態を処置するための医薬の製造における薬剤製剤の使用も提供する。
【0205】
非生着血管細胞は、それらの構造的特性および/または機能的特性に基づいて識別および特徴付けることができる。これらの前駆細胞は、免疫不全宿主に投与される際に生着しない。ある実施形態では、これらの細胞は、それらが互いに軽く付着する(他の非生着血管細胞に軽く付着する)にすぎないという点で特有である。細胞が軽く付着する実施形態では、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なく、非生着血管細胞の培養物またはコロニーを単一の細胞に解離することができる。ある実施形態では、細胞は、互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離または機械的および酵素的解離の組み合わせではなく、機械的解離単独で、細胞の生存能力を著しく損なうことなく、培養物またはコロニーを解離するのに十分である。言い換えれば、機械的解離は、細胞凝集の酵素的解離に続いて観察されるものと比較して、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど多くの力を必要としない。
【0206】
ある実施形態では、非生着血管細胞は、1つ以上のマーカーの(遺伝子のレベルまたはタンパク質のレベルで評価されるような)発現または発現の欠失に基づいて、さらに識別または特徴付けることができる。ある実施形態では、非生着血管細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の特徴のうちの1つ以上を有する。例えば、ある実施形態では、非生着血管細胞は、以下の細胞表面マーカー:CD34、KDR、CD133、またはCD31のうちの1つ以上の発現の欠失に基づいて、識別または特徴付けることができる(例えば、細胞は、以下のマーカーのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つの発現の欠失に基づいて特徴付けることができる)。追加または代替として、非生着血管細胞は、GATA2および/またはLMO2の発現に基づいて識別または特徴付けることができる。
【0207】
ヒト非生着血管細胞
ある態様では、本発明は、ヒト非生着血管細胞を提供する。これらの細胞は、多様な治療上の使用および他の使用を有する、特有の原子細胞型である。さらに、この細胞型は、少なくとも造血系の発達を研究するための重要なツールを提供する。したがって、本発明は、ヒト非生着血管細胞を含む様々な製剤(医薬製剤を含む)および組成物、ならびに非生着血管細胞から部分的または完全に分化した1つ以上の細胞型を含む製剤(医薬製剤を含む)および組成物を企図する。いずれの特定の理論にも束縛されることなく、これらの細胞は、多数の造血細胞型を生成する能力を維持する、明確に異なる(血管コロニー形成細胞よりも)若干より特化した幹細胞集団を表す。
【0208】
本発明の非生着血管細胞は、血管コロニー形成細胞に関して説明される構造的または機能的特徴のうちの1つまたは任意の組み合わせに基づいて、識別または特徴付けることができる。これらの細胞は、多数の源、例えば、胚組織、出生前組織、または周産期組織のうちのいずれにも由来し得るが、「非生着血管細胞」という用語は、源に関わらず、生着せず、少なくとも1つの造血細胞型を生じるように分化することができ、任意選択で前述の構造的または機能的特性のうちの1つ以上を有する、細胞に適用することに留意されたい。
【0209】
例を挙げて説明すると、本発明のヒト非生着血管細胞は、免疫不全宿主に投与される際に生着せず、以下の構造的特徴のうちの少なくとも1つを有する。(a)少なくとも1つの細胞型を生じるように分化することができる、(b)少なくとも造血細胞型および内皮細胞型を生じるように分化することができる、(c)互いに(他の非生着血管細胞に)軽く付着する、(d)CD34タンパク質を発現しない、(e)CD31タンパク質を発現しない、(f)KDRタンパク質を発現しない、(g)CD133タンパク質を発現しない、(h)GATA2タンパク質を発現する、(i)LMO2タンパク質を発現する。ある実施形態では、ヒト非生着血管細胞は、本明細書に詳述する構造的または機能的特徴のうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、または少なくとも9つを有する。
【0210】
上で詳述されるように、ヒト非生着血管細胞の興味深い特性のうちの1つは、それらが互いに軽く付着することである。これらの細胞は、互いに軽く付着するに過ぎないため、非生着血管細胞の培養物またはコロニーは、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに単一の細胞に解離することができる。細胞は互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離またはその組み合わせではなく、機械的解離単独で、細胞の生存能力を著しく損なうことなく、培養物またはコロニーを分解するのに十分である。言い換えれば、機械的解離は、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど大きな力を必要としない。
【0211】
この特性は、細胞を説明し、それらを他の細胞型から発現型的に区別するのに有用であるだけでなく、有意な治療への示唆も有する。例えば、比較的多数(1×10
6あるいは1×10
7、または1×10
8を超える)の非生着血管細胞を、ヒトまたは他の動物に注入することができ、血栓または塞栓をもたらすリスク、またはそうでなければ肺に停滞するリスクが著しく低い。これは、細胞療法における重要な進展である。比較的大量の細胞を安全に投与する能力は、細胞療法を実用的にし、より多い疾患および状態の有効な処置を可能にする。
【0212】
「軽く付着する」という用語は、上で定性的に説明され、互いに関するヒト非生着血管細胞の動作を意味する。非生着血管細胞の培養物またはコロニーは、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる。細胞は、互いに十分に軽く付着するため、酵素的解離またはその組み合わせではなく、機械的解離単独で、細胞の生存能力を著しく損なうことなく、培養物またはコロニーを分解するのに十分である。言い換えれば、機械的解離は、実質的な細胞損傷または死滅をもたらすほど大きな力を必要としない。
【0213】
用語は、より定量的に説明することもできる。例えば、ある実施形態では、「軽く付着する」という用語は、培養物中の細胞の少なくとも50%を、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる非生着血管細胞の培養物またはコロニーを意味するように使用される。他の実施形態では、当該用語は、培養物中の細胞の少なくとも60%、65%、70%、または75%を、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる培養物を指す。さらに他の実施形態では、この用語は、培養物中の細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはさらには100%を、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、単一の細胞に解離することができる培養物を指す。
【0214】
機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、非生着血管細胞を解離する能力は、機械的解離後の細胞の健康および生存能力に基づいて、さらに定量することができる。言い換えれば、酵素的技法を用いない解離が、相当数の細胞が損傷または死滅するほど大きい機械的力を必要とする場合、細胞は、本明細書に定義されるように軽く接着していない。例えば、ある実施形態では、「軽く付着する」という用語は、機械的解離技法のみを使用して、酵素的解離技法の必要性なしに、酵素的解離技法を使用して同一の細胞を解離する時に認められるものと比較して、細胞の健康または生存能力を著しく損なうことなく、非生着血管細胞を解離することができる細胞の培養物を意味する。例えば、細胞の健康または生存能力は、酵素的解離技法を使用して同一細胞の培養物を解離する時に認められるものと比較して、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、またはさらには1%未満だけ減少する。
【0215】
典型的な酵素的解離技法は、トリプシン、コラゲナーゼ、あるいは細胞−細胞または細胞−マトリクス相互作用を妨害する他の酵素を用いた処置を含むが、これに限定されない。典型的な機械的解離技法は、ピペットの1つ以上の通過を含むが、これに限定されない。
【0216】
本発明に従うヒト非生着血管細胞は、構造的および機能的に定義される。そのような細胞は、胚組織、出生前組織、周産期組織、およびさらには成人組織を含む、多数の源のうちのいずれかから生成することができる。例として、ヒト非生着血管細胞は、ヒト胚幹細胞、他の胚由来細胞(胚盤胞、割球、ICM、胚、栄養膜/栄養外胚葉細胞、栄養膜幹細胞、始原生殖細胞、胚生殖細胞等)、羊水、羊膜幹細胞、胎盤、胎盤幹細胞、および臍帯から生成することができる。より一般的に、非生着血管細胞は、胚幹細胞または多能性幹細胞等の多能性細胞から生成することができる。典型的な多能性幹細胞は、胚幹細胞および誘導された多能性幹細胞(iPS)を含むが、これらに限定されない。ヒト非生着血管細胞は、体細胞等の非多能性細胞から生成することもでき、それには皮膚、骨、血液、結合組織、心臓、腎臓、肺、肝臓、または任意の他の内臓に由来する細胞が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態では、非多能性細胞は、線維芽細胞等の結合組織に由来する細胞であり得る。ある実施形態では、非多能性細胞は、成人組織に由来する。
【0217】
本発明は、非生着血管細胞(ヒト細胞等)、ヒト非生着血管細胞を含む組成物、およびヒト非生着血管細胞を含む製剤(医薬製剤を含む)を提供する。本発明のこれらの態様のある特徴を以下に詳述する。本発明は、本発明の以下の態様および実施形態のうちのいずれかの組み合わせ、ならびにその全体が参照することにより組み込まれる米国出願第11/787,262号において提供される開示との組み合わせを企図する。
【0218】
上述のように、血管コロニー形成細胞および/または非生着血管細胞は、これらに限定されないが、多能性細胞(胚幹細胞、胚由来細胞、および誘導された多能性幹細胞)を含む、多様な細胞から産生することができる。
【0219】
一態様では、本発明は、非生着血管細胞(ヒト細胞等)を提供する。細胞は、少なくとも1つの造血細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、細胞は、他のヒト非生着血管細胞に軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、CD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞はGATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。ある他の実施形態では、細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つまたは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有する。
【0220】
別の態様では、本発明は、非生着血管細胞(ヒト細胞等)の実質的に精製した集団を含む細胞培養物を提供する。細胞は、少なくとも造血細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞はCD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞はGATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。ある他の実施形態では、細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つまたは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有する。
【0221】
別の態様では、本発明は、胚組織から分化した非生着血管細胞を含む細胞培養物を提供する。ある実施形態では、本発明は、多能性細胞(多能性幹細胞)から分化した非生着血管細胞を含む細胞培養物を提供する。ある実施形態では、非生着血管細胞は、互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞は、少なくとも造血細胞型を産生するように分化することができ、当該細胞は互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞はCD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞はGATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。ある他の実施形態では、細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つまたは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有する。
【0222】
別の態様では、本発明は、ヒト非生着血管細胞を含む細胞培養物を提供し、細胞は、少なくとも造血細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、細胞は互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞はCD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞はGATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。ある他の実施形態では、細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つまたは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有する。
【0223】
別の態様では、本発明は、ヒト非生着血管細胞を含む医薬製剤を提供し、細胞は、少なくとも造血細胞型を産生するように分化することができる。ある実施形態では、非生着血管細胞は互いに軽く付着する。ある実施形態では、細胞はCD34タンパク質を発現しない。ある他の実施形態では、細胞は、以下のタンパク質:CD34、CD31、CD133、KDRのうちの1つ以上を発現しない(例えば、細胞は、以下のタンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つを発現しない)。ある他の実施形態では、細胞はGATA2および/またはLMO2タンパク質を発現する。ある他の実施形態では、細胞は、ヒト血管コロニー形成細胞の機能的または構造的特徴のうちの1つまたは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8、9、10)を共有する。医薬製剤は、任意の医薬的に許容される担体または賦形剤を使用して調製することができる。
【0224】
別の態様では、本発明は、ヒト非生着血管細胞を含む医薬製剤を提供する。医薬製剤は、任意の医薬的に許容される担体または賦形剤を使用して調製することができる。
【0225】
前述のうちのいずれかのある実施形態では、組成または医薬製剤は、少なくとも1×10
5個のヒト非生着血管細胞を含む。前述のうちのいずれかのある実施形態では、組成または医薬製剤は、少なくとも1×10
6、少なくとも5×10
6、少なくとも1×10
7、または1×10
7個を超えるヒト非生着血管細胞を含む。ある実施形態では、製剤は、精製または実質的に精製した製剤である。他の実施形態では、製剤は、非生着血管細胞と他の細胞型との混合物を含む。例えば、非生着血管細胞と血管コロニー形成細胞との混合物を含む。
【0226】
追加の細胞、組成、および製剤は、ヒト非生着血管細胞から部分的または完全に分化した細胞を含む。例えば、本発明は、非生着血管細胞から分化した1つ以上の造血および/または内皮細胞型を含む組成および製剤を企図する。典型的な造血細胞型は、造血幹細胞、血小板、RBC、リンパ球、巨核球等を含む。さらなる例として、本発明は、非生着血管細胞から分化した、1つ以上の他の細胞型、例えば1つ以上の部分的または完全に分化した中胚葉細胞を含む、組成および製剤を企図する。
【0227】
前述のうちのいずれかのある実施形態では、本発明は、ヒト非生着血管細胞の凍結保存製剤、またはそこから部分的または完全に分化した細胞を提供する。
【0228】
前述のうちのいずれかのある実施形態では、本発明は、ヒト非生着血管細胞の治療上の使用、またはヒト非生着血管細胞の組成または製剤を提供する。そのような細胞および製剤は、明細書にわたって詳述される状態または疾患のうちのいずれの処置においても、ならびに血液貯蔵産業においても使用することができる。さらに、ヒト非生着血管細胞から分化した細胞、またはヒト非生着血管細胞の組成または製剤は、明細書にわたって詳述される状態または疾患のうちのいずれの処置においても治療的に使用することができる。
【0229】
本発明のヒト非生着血管細胞は、治療的に使用することができる。追加または代替として、ヒト非生着血管細胞を使用して、内皮および造血系の発達を研究するか、またはスクリーニングアッセイにおいて、例えば、(i)ヒト非生着血管細胞を維持するか、または(ii)1つ以上の部分的または完全に分化した細胞型へのヒト非生着血管細胞の分化を促進するように使用できる因子を識別することができる。さらに、ヒト非生着血管細胞を使用して、生体外または生体内で使用するための1つ以上の部分的または完全に分化した細胞型を生成することができる。
【0230】
本発明のヒト非生着血管細胞は、本出願に説明する方法または応用のうちのいずれかにおいて使用することができ、本明細書に説明する疾患または状態のうちのいずれかの処置を含むが、これに限定されない。典型的な疾患および状態は、米国出願第11/787,262号においてさらに論じられ、その全体が参照することにより組み込まれる。さらに、ヒト血管コロニー形成細胞および非生着血管細胞を使用して、機能性赤血球を含む分化造血細胞型を産生することができる。
【0231】
生体外で増幅した血管芽細胞を含む細胞製剤
本発明のある実施形態では、哺乳類(ヒトを含む)非生着血管細胞を増幅して商用量に到達させ、様々な治療用途および臨床的応用において使用する。特定の実施形態では、非生着血管細胞を約10,000〜4,000,000個(以上)の細胞数に到達させる。これらの細胞数は、初期調製を開始する3〜4日内に到達され得る。したがって、本発明は、多量の非生着血管細胞を含む製剤に関し、当該製剤は、少なくとも10,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000、2,000,000、3,000,000、または4,000,000個の細胞を含む。
【0232】
本発明は、多量の非生着血管細胞を含む溶液、組成、および製剤も提供し、当該溶液、当該組成、および当該製剤は、少なくとも10,000、50,000、100,000、500,000、1,000,000、2,000,000、3,000,000、または4,000,000個の細胞を含む。非生着血管細胞はヒト細胞であり得る。溶液は精製、実質的に精製され得るか、または血管コロニー形成細胞を含むが、これに限定されない他の前駆細胞との混合物であり得る。
【0233】
本発明の他の態様は、本発明に開示する方法によって得られる非生着血管細胞を、造血あるいは内皮細胞系、または両方に分化し、後に臨床的応用で使用することに関する。したがって、本発明は、多数の部分的または完全に分化した細胞型を含む細胞製剤にも関する。
【0234】
多数(例えば、数千または数百万)の非生着血管細胞を含む組成および製剤は、上述のように入手される非生着血管細胞を増幅することによって得ることができる。したがって、本発明は、ES細胞(ヒトES細胞等)または臍帯血、末梢血、または骨髄から得られる非生着血管細胞を増幅することによって達成される、多数の非生着血管細胞を含む組成および製剤に関する。さらに、増幅の方法は、マウス、ラット、ウシ、または非ヒト霊長類起源の非生着血管細胞に適用されてもよいため、例えば、本発明は、ヒトに加えて他の種の非生着血管細胞を多数含む組成および製剤にも関する。本発明の方法によって増幅される非生着血管細胞は、両性能であってもよく、すなわち、内皮細胞または造血幹細胞のいずれかに分化することができる。ある実施形態では、ヒトES細胞から生成および増幅したヒト非生着血管細胞は、両性能である。非生着血管細胞は、少なくとも造血細胞型を生じるように分化することができる。非生着血管細胞は、ある実施形態では、両性能であり、少なくとも造血細胞型および内皮細胞型を生じるように分化することができる。したがって、本発明の非生着血管細胞は、少なくとも単性能であり、また両性能であり得る。しかしながら、追加として、非生着血管細胞は、より優れた発生能を有し得、ある実施形態では、他の系統の細胞型を生じるよう分化することができる。ある実施形態では、非生着血管細胞は、心細胞(例えば、心筋細胞)および/または平滑筋細胞等の他の中胚葉誘導体を生じるよう分化することができる。
【0235】
さらに、非生着血管細胞をスクリーニングアッセイにおいて使用し、例えば、(i)1つ以上の造血細胞型への細胞の分化を促進するか、または(ii)細胞貯蔵および保管を促進するように細胞の増殖および/または生存を促進する薬剤を識別することができる。非生着血管細胞は、基礎発生生物学を研究するために使用することもでき、または血管コロニー形成細胞と比較して、2つの関連する幹細胞集団の発達差異を確認することができる。
【0236】
ヒト血管芽細胞、非生着血管細胞、血管芽細胞系細胞、および非生着血管系細胞の臨床および商業的実施形態
細胞ベースの治療法
ヒト血管芽細胞および非生着血管細胞は、造血または内皮細胞に生体内で分化する能力を有するが、これら2つの細胞型のうちのいずれかが必要とされるか、または処置を改善する細胞ベースの処置においてそれらを使用することができる。さらに、血管芽細胞系細胞および非生着血管系細胞(すなわち、造血細胞および/または内皮細胞)を含む任意の治療法または処置で患者を処置することができる。以下の節では、本発明の方法によって生成および増幅した本発明の非生着血管細胞、または本発明の方法によって増幅した、本発明のヒト血管芽細胞および非生着血管細胞を使用する方法について説明する。
【0237】
本発明のある実施形態では、造血細胞を増加または処置するための処置、および血管成長を増加させ、および/または血管修復を促進するための処置が企図される。したがって、ある態様では、本発明は、造血細胞または血管成長あるいは修復を必要とする患者を処置するための方法および組成に関する。血管芽細胞または非生着血管細胞は、対象の血管に注入されるか、または手術により対象の血管に投与されてもよい。患者または対象はヒトであり得る。
【0238】
本発明のある実施形態では、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞は、そうでなければ、HSC移植が使用されるような移植に使用される。そのような移植は、例えば、急性または慢性白血病、再生不良性貧血、および様々な免疫不全症候群、ならびに自己免疫疾患の患者の処置のため、および高用量化学療法および/または放射線治療に続く処置によりもたらされる形成不全から患者を救済するための造血再構成において使用され得る。そのような移植は、(骨髄移植等において)生体内または体外で達成され得る。
【0239】
本発明の他の実施形態では、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞は、造血再構成または造血処置を必要とする患者を処置するために使用される。そのような患者には、例えば、サラセミア、鎌状細胞貧血、再生不良性貧血(形成不良性貧血とも呼ばれる)、血球減少、骨髄形成不全、血小板不全、白血病等の造血器悪性腫瘍、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、およびADA(例えば、脱アミノ酵素(ADA)欠乏重症複合免疫不全(SCID))の患者が含まれる。
【0240】
したがって、本発明の特定の実施形態は、本発明の血管芽細胞を使用して造血再構成または造血処置を必要とする患者を処置する方法に関する。したがって、本発明は、造血再構成または処置を必要とする患者を処置する方法に関し、その方法は、その処置を必要とする患者を選択することと、本発明の方法に従ってヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を生成および増幅、または増幅することと、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を患者に投与することとを含む。代替として、方法は、生成および増幅、または増幅したヒト血管芽細胞または非生着血管細胞をヒト造血細胞に分化することと、後に造血細胞を患者に投与することと、を含んでもよい。
【0241】
代替の実施形態は、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞が大規模に産生され、それを必要とする患者の選択に先立って保管される方法を含む。したがって、本発明の他の実施形態は、造血再構成または処置を必要とする患者を処置する方法に関し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、上述の方法に従って既に単離および増幅されているヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を発注することと、当該ヒト血管細胞または非生着血管細胞を患者に投与することとを含む。同様に、この方法は、当該ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞をヒト造血細胞に分化することと、当該造血細胞を患者に投与することとを含んでもよい。追加の実施形態では、少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対し半接合またはホモ接合である血管芽細胞または非生着血管細胞を成長させ、任意選択で商業量に成長させて、任意選択で事業体によって保管される。患者がそのような細胞、血管芽細胞系細胞、または非生着血管系細胞の必要性を呈すると、医師または病院は、そのような細胞を企業に発注する。
【0242】
本発明のヒト血管芽細胞および非生着血管細胞は、血管新生微小環境下で内皮細胞に増殖および分化するため、ヒト血管芽細胞は、新しい血管を提供するか、または患者における損傷部位において損傷した血管の修復を誘導するような治療様式で使用されてもよい。したがって、ある態様では、本発明は、新しい血管成長を促進するか、または損傷した血管を修復する方法に関する。本発明のヒト血管芽細胞または非生着血管細胞は、心筋梗塞、脳卒中および虚血脳、虚血肢および虚血肢を含む皮膚の創傷、糖尿病動物または患者に生じる創傷、および網膜の虚血再かん流損傷等の内皮損傷の処置に使用され得る。本発明の血管芽細胞または非生着血管細胞で処置され得る他の虚血性状態は、腎虚血、肺虚血、および虚血性心筋症を含む。血管芽細胞は、バルーン血管形成または血管内ステントの展開に続く損傷血管の修繕を助けるように使用されてもよい。血管芽細胞または非生着血管細胞は、さらに、組織移植、手術において、および放射線損傷に続いて使用されてもよい。さらに、血管芽細胞または非生着血管細胞は、アテローム性動脈硬化の処置および/または進行の予防、ならびに全身性硬化およびレイノー現象(RP)において起こる内皮細胞損傷を修復するように使用されてもよい(Blann et al.1993 J Rheumatol.(20):1325−30}。
【0243】
したがって、本発明は、血管成長または修復を、それを必要とする患者に提供することに関与する様々な方法を提供する。一実施形態では、本発明は、血管形成の誘導を必要とする患者における虚血組織において、新しい血管の形成を誘導するための方法であって、当該虚血組織において新しい血管形成を誘導するように、上述の有効量のヒト血管芽細胞または非生着血管細胞の精製製剤を当該患者に投与することを含む方法を提供する。したがって、本発明のある態様は、血管形成の増強を必要とする患者において血管形成を増強する方法を提供し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、上述のように、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を単離することと、血管芽細胞または非生着血管細胞を患者に投与することとを含む。さらに別の態様では、本発明は、処置を必要とする患者における損傷血管を処置するための方法を提供し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、上述のように、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を増幅、または生成および増幅することと、血管芽細胞または非生着血管細胞を患者に投与することと、を含む方法を提供する。前述の実施形態に加えて、血管芽細胞または非生着血管細胞は、大規模で産生され、血管芽細胞を必要とする患者の選択に先立って、保管されてもよい。さらなる実施形態では、少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対して半接合またはホモ接合である血管芽細胞を成長させ、任意選択で商業量に成長させ、任意選択で、血管芽細胞または非生着血管細胞処置に対して患者を選択する前に保管する。前述の血管芽細胞、非生着血管細胞、またはこれらの細胞の細胞製剤は、血液循環に直接(静脈内的に)投与してもよい。ある実施形態では(例えば、網膜に対する虚血/再かん流損傷の処置等、眼の血管修復が必要とされる場合)、血管芽細胞、非生着血管細胞、またはこれらの細胞の細胞製剤は、硝子体内注射によって投与されてもよい。
【0244】
血管芽細胞、非生着血管細胞、およびその誘導体細胞の溶液または製剤の投与は、任意の経路で達成されてもよく、ケースバイケースで判断され得る。また血管芽細胞またはその誘導体細胞のこれらの溶液または製剤を投与する有効量は、治療上有効な量であり、ケースバイケースで判断され得る。
【0245】
さらなる態様では、血管芽系細胞または非生着血管系細胞は、例えば、上述の適応処置を含む、治療用途において使用される。したがって、本明細書に記載の方法によって生成および増幅するか、または増幅した血管芽細胞または非生着血管細胞は、最初に生体外で分化して造血および/または内皮細胞を得た後、これら2つの系統においてさらに分化される細胞を得る。これらの細胞は、後に、造血状態を処置するため、または造血再構成、あるいは例えば、虚血または血管損傷の治療のために、対象または患者に投与されてもよい。
【0246】
本明細書に開示する方法によって得られるヒト血管芽細胞または非生着血管細胞に由来するHSCは、HSCを増幅し、および/または他の造血系細胞型を派生するようにさらに成長させられる。本発明のある態様は、移植における血管芽細胞または非生着血管細胞に由来するHSCの使用に関する。さらなる実施形態では、分化造血細胞(例えば、顆粒球、赤血球、骨髄性細胞、巨核球、血小板、マクロファージ、肥満細胞および好中球(Wiles and Keller 1991 Development(111):259))は、輸血治療または感染の処置等の様々な処置に使用される。したがって、本発明の他の実施形態は、本発明の血管芽細胞に由来するHSCまたは造血系細胞を使用する、造血再構成または処置を必要とする患者を処置する方法に関する。
【0247】
したがって、ある態様では、本発明は、造血細胞または処置を必要とする患者を処置する方法に関し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、本発明の方法に従ってヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を増幅、または単離および増幅することと、当該血管芽細胞または非生着血管細胞を造血幹細胞および/または成熟造血細胞に分化することと、造血細胞を患者に投与することとを含む。
【0248】
本発明の他の態様では、血管芽細胞または非生着血管細胞は、本明細書に開示する方法に従って、内皮細胞を生じるように成長させられる。後に、新しい血管を提供するか、または患者の損傷部位において破損した血管の修復を誘導するように内皮細胞を使用してもよい。したがって、ある態様では、本発明は、新しい血管を促進するか、または損傷した血管系を修復する方法に関し、血管芽細胞または非生着血管細胞に由来する内皮細胞を治療として使用する。内皮細胞は、心筋梗塞および肺虚血、脳卒中および虚血脳、虚血肢および虚血肢を含む皮膚創傷、ならびに糖尿病の動物または患者において生じる創傷、網膜における虚血再かん流損傷、腎虚血等の内皮損傷を処置するように使用され得る。内皮細胞は、バルーン血管形成または血管内ステントの展開後、ならびに移植、手術において、および放射線損傷に続いて損傷した血管の修復を助けるのに使用してもよい。さらに、内皮細胞は、アテローム性動脈硬化の進行を処置および/または予防する、ならびに全身性硬化およびレイノー現象において生じる内皮細胞損傷を修復するように使用してもよい。
【0249】
内皮細胞は、さらに分化されてもよく、必要に応じて、それらの細胞を、前段落に列挙されるもの等の「内皮細胞」疾患または状態のうちの1つ以上を治療する際に使用してもよい。
【0250】
したがって、本発明のある態様は、内皮または血管損傷に罹患した患者、または血管成長または修復を必要とする患者を治療する方法に関し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、本発明の方法に従って、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を増幅するか、または単離および増幅することと、当該血管芽形成細胞または非生着血管細胞を内皮細胞に分化することと、内皮細胞を患者に投与することとを含む。
【0251】
血液貯蔵
本発明の別の態様は、輸血に適した造血細胞を産生する方法を提供する。そのような細胞および方法は、多数の使途を有するが、特に重要な使途は、輸血用の血液の利用可能性を改善することにおける使途である。ある好適な実施形態では、本発明は、血管芽細胞/血管コロニー形成単位または非生着血管細胞から分化した赤血球細胞を提供する。そのような分化した赤血球細胞は、輸血に使用することができる。
【0252】
本発明のさらなる態様は、輸血を必要とする者に対する輸血に使用するための血管芽細胞/血管コロニー形成単位、または非生着血管細胞から分化造血細胞を生成する方法に関する。ある実施形態では、外傷、手術中の失血、血液疾患(貧血、鎌状細胞貧血、あるいは溶血性疾患等)、または悪性疾患等を処置するように、分化した造血細胞が輸血される。ある実施形態では、外傷、手術中の失血、貧血、鎌状細胞貧血、または溶血性疾患を処置するように、赤血球が輸血される。ある実施形態では、先天性血小板障害または悪性疾患を処置するように、血小板が輸血される。ある実施形態では、赤血球および血小板の混合集団が輸血される。
【0253】
多くの分化造血細胞型、特に赤血球は、通常、混合集団として生体内に存在することに留意されたい。具体的に、循環する異なる年齢および分化段階の赤血球が、生体内に見出される。さらに、赤血球は、時間をかけて成熟し、より少ない胎児ヘモグロビンおよびより多くの成人ヘモグロビンを発現するようになる。本発明は、赤血球の精製集団または異なる年齢および分化段階の赤血球の混合集団のいずれかの輸血を企図する。特定の実施形態では、本発明は、胎児ヘモグロビン(ヘモグロビンF)を発現する赤血球の輸血を企図する。
【0254】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞および非生着血管細胞から分化した造血細胞を生体外で産生するための方法を提供し、当該方法は、
(a)ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を提供するステップと、
(b)当該血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を分化造血細胞に分化するステップを含む。
【0255】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞から生体外で分化した造血細胞を使用して、輸血を行うための方法も提供し、当該方法は、
(a)ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を提供するステップと、
(b)当該血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を分化造血細胞に分化するステップと、
(c)当該分化造血細胞を用いて輸血を行うステップと、を含む。
【0256】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞から生体外で分化した造血細胞を使用して、輸血を行うための方法も提供し、当該方法は、
(a)胚様体への当該胚幹細胞の分化を誘導するのに十分な量の少なくとも1つの成長因子の存在下、無血清培地においてヒト胚幹細胞を含む細胞培養物を培養するステップと、
(b)少なくとも1つの成長因子を、胚様体を含む当該培養物に添加し、無血清培地において当該培養物を培養し続けるステップであって、当該成長因子は、当該胚様体培養物においてヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を増幅するのに十分な量であるステップと、
(c)当該ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を分化造血細胞に分化するステップと、
(d)当該分化造血細胞を用いて輸血を行うステップと、を含む。
【0257】
ある実施形態では、当該幹細胞、胚様体、および血管コロニー形成は、当該方法のステップ(a)および(b)を通して、無血清培地において成長させられる。
【0258】
本発明は、ヒト血管コロニー形成細胞から生体外で分化した造血細胞を使用して、輸血を行うための方法も提供し、当該方法は、
(a)胚様体への当該多能性幹細胞の分化を誘導するのに十分な量の少なくとも1つの成長因子の存在下、無血清培地においてヒト多能性幹細胞を含む細胞培養物を培養するステップと、
(b)少なくとも1つの成長因子を、胚様体を含む当該培養物に添加し、無血清培地において当該培養物を培養し続けるステップであって、当該成長因子は、当該胚様体培養物において、ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を増幅するのに十分な量であるステップと、
(c)当該胚様体を単一の細胞に分解するステップと、
(d)少なくとも1つの成長因子を、当該単一の細胞を含む当該培養物に添加し、無血清培地において当該培養物を培養し続けるステップであって、当該成長因子は、当該単一の細胞を含む当該培養物において、ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を増幅するのに十分な量であるステップと、
(e)当該血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を分化造血細胞に分化するステップと、
(f)当該分化造血細胞を用いて輸血を行うステップと、を含む。
【0259】
ある実施形態では、当該多能性幹細胞、胚様体、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞および単一の細胞は、当該方法のステップ(a)〜(d)を通して、無血清培地において成長させられる。
【0260】
ある実施形態では、多能性幹細胞は胚幹細胞である。
【0261】
ある実施形態では、成長因子は、ホメオボックスタンパク質を含むタンパク質、またはその機能性変異体または活性断片である。ある実施形態では、ホメオボックスタンパク質は、HOXB4タンパク質、またはその機能性変異体または活性断片を含む。
【0262】
ある実施形態では、分化造血細胞は、赤血球、血小板、および食細胞等の単一の細胞型として産生される。しかしながら、単一の細胞型が産生される場合、その細胞型は、その特定の細胞型の成熟または分化段階に関して、不均一であり得ることに留意されたい。例として、分化赤血球は、成熟レベルおよび細胞年齢に関して不均一であり得る。理論に束縛されることなく、赤血球のそのような不均一性は、赤血球が生体内で認められる様式を模倣するので有益であり得る。
【0263】
ある実施形態では、血中に認められる分化細胞型の比率と同じになるように、単一の細胞型が混合される。ある実施形態では、多数の分化造血細胞型が同一ステップで産生される。ある実施形態では、食細胞は、顆粒球、好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球、または単球から選択される。ある実施形態では、造血細胞型は、血中で認められる分化造血細胞型の比率、すなわち96%赤血球、1%血小板、および3%食細胞とほぼ等しい比率で産生される。ある実施形態では、輸血前に、血漿を分化造血細胞に添加する。ある実施形態では、濃厚細胞、例えば、濃厚赤血球は、血漿の非存在または実質的な非存在下で輸血される。
【0264】
ある実施形態では、本出願の方法から産生される分化造血細胞は機能的である。ある実施形態では、本出願の方法から産生される血小板は機能的である。ある実施形態では、本出願の方法から産生される食細胞は機能的である。ある実施形態では、本出願の方法から産生される赤血球は機能的である。ある実施形態では、赤血球は、輸血に先立ってヘモグロビンFを発現する。ある実施形態では、赤血球は酸素を輸送する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球に等しい寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の寿命の75%の寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の寿命の50%の寿命を有する。ある実施形態では、赤血球は、天然由来の赤血球の寿命の25%の寿命を有する。
【0265】
ある実施形態では、本出願の方法は、100mm皿あたり1×10
6個の細胞を産生する。ある実施形態では、100mm皿あたり2×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり3×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり4×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり5×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり6×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり7×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり8×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり9×10
6個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり1×10
7個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり5×10
7個の細胞が産生される。ある実施形態では、100mm皿あたり1×10
8個の細胞が産生される。
【0266】
ある実施形態では、分化ステップは、上述のように、当業者に知られる条件を使用して行われる。ある実施形態では、分化ステップは、細胞の赤血球への分化に対する特定の方法を使用して行われる(参照することにより本明細書に組み込まれる、国際公開第2005/118780号を参照)。ある実施形態では、分化ステップは、血小板への細胞の分化に対する特定の方法を使用して行われる。ある実施形態では、分化ステップは、白血球への細胞の分化に対する特定の方法を使用して行われる。
【0267】
本発明に従って使用することができる分化剤には、インターフェロンαA、インターフェロンαA/D、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンγ誘導タンパク質−10、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン−12、インターロイキン−13、インターロイキン−15、インターロイキン−17、ケラチノサイト成長因子、レプチン、白血病抑制因子、マクロファージコロニー刺激因子、およびマクロファージ炎症性タンパク質−1α等のサイトカインが含まれる。
【0268】
本発明に従う分化剤には、6Ckine(組み換え)、アクチビンA、アルファA−インターフェロン、αインターフェロン、アンフィレギュリン、アンギオジェニン、B内皮細胞成長因子、βセルリン、B−インターフェロン、脳由来神経栄養素、Cl0(組み換え)、カルジオトロフィン−1、毛様体神経栄養因子、サイトカイン誘導好中球走化性因子−1、内皮細胞成長サプリメント、エオタキシン、上皮成長因子、上皮好中球活性化ペプチド−78、エリトロポエチン、エストロゲン受容体α、エストロゲン受容体β、線維芽細胞成長因子(酸性/塩基性、ヘパリン安定化、組み換え)、FLT−3/FLK−2リガンド(FLT−3リガンド)、γインターフェロン、グリア細胞株由来神経栄養因子、Gly−His−Lys、顆粒球コロニー刺激因子、GRO−α/MGSA、GRO−B、GRO−γ、HCC−1、ヘパリン結合上皮成長因子様成長因子、肝細胞成長因子、ヘレグリン−α(EGFドメイン)、インスリン成長因子結合タンパク質−1、インスリン様成長因子結合タンパク質−1/IGF−1複合体、インスリン様成長因子、インスリン様成長因子II、2.5S神経成長因子(NGF)、7S−NGF、マクロファージ炎症性タンパク質−1B、マクロファージ炎症性タンパク質−2、マクロファージ炎症性タンパク質−3α、マクロファージ炎症性タンパク質−3B、単球走化性タンパク質−1、単球走化性タンパク質−2、単球走化性タンパク質−3、神経栄養因子−3、神経栄養因子−4、NGF−B(ヒトまたはラット組み換え)、オンコスタチンM(ヒトまたはマウス組み換え)、下垂体エキス、胎盤成長因子、血小板由来上皮細胞成長因子、血小板由来成長因子、プレイオトロフィン、RANTES、幹細胞因子、間質細胞由来因子1B/プレB細胞成長刺激因子、トロンボポエチン、形質転換成長因子α、形質転換成長因子−B1、形質転換成長因子−B2、形質転換成長因子−B3、形質転換成長因子−B5、腫瘍壊死因子(αおよびβ)、および血管内皮成長因子等の成長因子も含まれる。
【0269】
本発明に従う分化剤には、17B−エストラジオール、副腎皮質刺激ホルモン、アドレノメデュリン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、コルチコステロイド結合グロブリン、コルチコステロン、デキサメタゾン、エストリオール、卵胞刺激ホルモン、ガストリン1、グルカゴン、ゴナドトロピン、ヒドロコルチゾン、インスリン、インスリン様成長因子結合タンパク質、L−3,3’,5’−トリヨードチロニン、L−3,3’,5’−トリヨードチロニン、レプチン、黄体形成ホルモン、L−チロキシン、メラトニン、MZ−4、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、PEC−60、下垂体成長ホルモン、プロゲステロン、プロラクチン、セクレチン、性ホルモン結合グロブリン、甲状腺刺激ホルモン、チロトロピン遊離因子、チロキシン結合グロブリン、およびバソプレッシン等のホルモンおよびホルモン拮抗薬も含まれる。
【0270】
さらに、本発明に従う分化剤には、フィブロネクチン、フィブロネクチンのタンパク質断片、ラミニン、トロンボスポンジン、アグレカン、およびシンデザン等の細胞外マトリクス構成要素が含まれる。
【0271】
本発明に従う分化剤には、抗低密度リポタンパク質受容体抗体、抗プロゲステロン受容体、内部抗体、抗αインターフェロン受容体鎖2抗体、抗c−cケモカイン受容体1抗体、抗CD118抗体、抗CD119抗体、抗コロニー刺激因子1抗体、抗CSF1受容体/c−fins抗体、抗上皮成長因子(AB−3)抗体、抗上皮成長因子受容体抗体、抗上皮成長因子受容体、ホスホ特異的抗体、抗上皮成長因子(AB−1)抗体、抗エリトロポエチン受容体抗体、抗エストロゲン受容体抗体、抗エストロゲン受容体、C末端抗体、抗エストロゲン受容体B抗体、抗線維芽細胞成長因子受容体抗体、抗線維芽細胞成長因子、塩基性抗体、抗γインターフェロン受容体鎖抗体、抗γインターフェロンヒト組み換え抗体、抗GFRα1C末端抗体、抗GFRα2C末端抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子(AB−1)抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子受容体抗体、抗インスリン受容体抗体、抗インスリン様成長因子1受容体抗体、抗インターロイキン6ヒト組み換え抗体、抗インターロイキン1ヒト組み換え抗体、抗インターロイキン2ヒト組み換え抗体、抗レプチンマウス組み換え抗体、抗神経成長因子受容体抗体、抗p60、ニワトリ抗体、抗副甲状腺ホルモン様タンパク質抗体、抗血小板由来成長因子受容体抗体、抗血小板由来成長因子受容体B抗体、抗血小板由来成長因子α抗体、抗プロゲステロン受容体抗体、抗レチノイン酸受容体α抗体、抗甲状腺ホルモン核受容体抗体、抗甲状腺ホルモン核受容体α1/Bi抗体、抗トランスフェリン受容体/CD71抗体、抗形質転換成長因子α抗体、抗形質転換成長因子B3抗体、抗腫瘍壊死因子α抗体、および抗血管内皮成長因子抗体等の様々な因子に対する抗体も含まれる。
【0272】
本発明は、上述のような潜在的被移植患者に適合した細胞を提供できる分化造血細胞のライブラリも提供する。ある実施形態では、細胞は凍結状態で保存される。したがって、一実施形態では、本発明は、医薬ビジネスを行う方法を提供し、少なくとも1つの組織適合抗原に対しホモ接合である分化造血細胞製剤を提供するステップを含み、細胞は、本明細書に開示する方法によって増幅することができるヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞のライブラリを含む、そのような細胞バンクから選択され、各血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞製剤は、ヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対し半接合またはホモ接合であり、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞の当該バンクは、細胞貯蔵にある他の細胞に対して異なるMHC対立遺伝子の群に対し、それぞれ半接合またはホモ接合である細胞を含む。上述のように、遺伝子標的またはヘテロ接合性の喪失は、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞を派生するように使用される、半接合またはホモ接合MHC対立遺伝子幹細胞を生成するよう使用され得る。ある実施形態では、すべての血液型の血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞がバンクに含まれる。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞は、患者に適合され、患者自身の血液型の分化造血細胞が産生されることを保証する。ある実施形態では、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞は、抗原因子A、B、Rhまたはそれらの任意の組み合わせに対し陰性である。ある実施形態では、分化造血細胞は万能ドナー細胞である。例として、O型Rh−である造血細胞は、普遍的に輸血に使用することができる。ある実施形態では、本発明は、普遍的輸血のためのO、Rh−赤血球を産生するための方法を提供する。
【0273】
ある実施形態では、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞から分化した赤血球は、胚ヘモグロビンを発現する。胚ヘモグロビンを発現する赤血球の輸血は、鎌状細胞貧血の処置に特に有用であり得る。したがって、本発明は、鎌状細胞貧血を処置するための改善した方法を提供する。
【0274】
一実施形態では、特定の血管コロニー形成細胞製剤または非生着血管細胞製剤を、患者に適切なように選択した後、患者処置に適切な量に到達するよう増幅され、細胞を被移植者に投与する前に、分化造血細胞を得るように分化される。医薬事業を行う方法は、販売用製剤を流通させるための流通システムを確立することを含んでもよく、または医薬製剤をマーケティングするための販売グループを確立することを含んでもよい。
【0275】
前述のうちのいずれにおいても、血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞は直接分化することができるか、または血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞は、後に使用するために凍結することができる。ある実施形態では、本発明は、後の解凍および増幅に適し、造血または内皮系への分化にも適した血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞の凍結培養物を提供する。
【0276】
ヒト血管コロニー形成細胞または非生着血管細胞は、輸血に使用することができる相当量の造血細胞型を生成するよう使用することができる。例えば、相当量のホモ接合または半接合集団RBCおよび/または血小板は、ヒト血管コロニー形成細胞から生成することができる。血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、およびそこから派生する造血細胞型は提供血液製剤を用いて現在行われるように、バンクに貯蔵することができ、輸血および他の処置に使用される。これらの製剤のバンクへの貯蔵は、提供血液製剤の深刻な不足を軽減するのを助ける。さらに、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、および派生製剤は、普遍的ドナー血液製剤を提供するように、生体外で遺伝子的に操作することができる。
【0277】
したがって、ある態様では、本発明は、血液バンクの事業を行う方法を提供する。ここで主題となるバンクの事業は、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、および/またはそこから生成した造血細胞型(例えば、RBC、血小板、リンパ球等)の誘導および保管(長期または短期)を伴う。細胞は、長期保管用に凍結保存するか、または比較的短期保管用に培養物中で維持することができる。現在使用可能な血液製剤が型付けされるのとほぼ同様の方法で、細胞を型付けし、交差試験することができ、型に基づいて細胞を保管することができる。さらに、ある実施形態では、A−および/またはB−および/またはRh−である細胞を特異的に生成するように修飾し、任意の患者への輸血に普遍的またはほぼ普遍的に適した細胞を産生することができる。
【0278】
本明細書にわたって詳述される、本発明の方法のうちのいずれを使用しても、血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、および/または分化造血細胞型を生成できることに留意されたい。
【0279】
血液バンクの事業を行う方法に関するある実施形態では、細胞(血管コロニー形成細胞、非生着血管細胞、および/または分化造血細胞型)は、1つ以上の中心施設で精製および保管される。次に、細胞を、患者ケアで使用するために、例えば、病院または処置施設に移送することができる。ある他の実施形態では、細胞は凍結保存状態で維持され、病院または他の処置施設からの発注に基づいて、特に輸血用に解凍および調製される。そのような発注は、継続発注であってもよい(例えば、ある単位数の細胞のある量を生成および提供する)。
【0280】
ある実施形態では、方法は、バンク製剤に関連した費用を病院または保険会社に請求するためのシステムを含む。
【0281】
前述のうちのいずれかのある実施形態では、細胞の数、量、またはユーザが患者に投与する用量を定量し、および/またはそれらの用量を標準輸血中に投与される用量と比較できるようにする任意の単位に基づいて細胞を割り当てることができる。
【0282】
ある実施形態では、細胞は、細胞の混合集団として精製、保存、および投与される。例えば、製剤は、異なる発達段階、ならびに個別の細胞型の細胞を含み得る。他の実施形態では、細胞は、単一の細胞型の実質的に精製した製剤として生成、保管、および/または投与される。
【0283】
ある実施形態では、細胞の製剤は、1つ以上の感染疾患に対しスクリーニングされる。スクリーニングは、生成または保管の前または後に行ってもよい。例えば、細胞の製剤は、これらの製剤の受容者に感染し得る、肝炎、HIV、または他の血液感染性疾患を識別するようにスクリーニングしてもよい。
【0284】
移植片の被移植者における寛容の誘導
本発明の方法によって生成および増幅したヒト血管芽細胞、または本発明の方法によって増幅したヒト血管芽細胞は、免疫寛容を誘導するように使用することができる。免疫寛容は、そうでなければ起こるであろう、例えば、被移植者への非自己MHC抗原(例えば、移植片および寛容血管芽細胞と共有される抗原)の導入に応答して起こる、移植片の被移植者の免疫応答の阻害を意味する。したがって、寛容は、免疫抑制剤を使用して誘発され得る広範な免疫阻害ではなく、特定のドナー抗原によって誘導される免疫応答の阻害を意味する。寛容は、体液性、細胞性、または体液性および細胞性両方の応答が関与し得る。寛容は、既存の成熟ドナー反応性T細胞の排除および/または不活性化、ならびに新規開発したドナー反応性T細胞の長期(例えば、生涯)排除および/または不活性化を含み得る。
【0285】
ヒト血管芽細胞を生成および増幅する、本発明に説明する方法は、寛容を誘導する事に関していくつかの利点を提供する。本発明の方法は、多数の、以前は得ることができなかった数のヒト血管芽細胞の生成をもたらす。多数のヒト血管芽細胞は、毒性の低い前処理プロトコルを用いて、移植片の被移植者における寛容の誘導を可能にする。さらに、本発明の方法は、ヒト血管芽細胞のライブラリの生成を提供し、それぞれのヒト血管芽細胞は、ヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対し、それぞれ半接合またはホモ接合であって、当該血管芽細胞のライブラリの各メンバーは、ライブラリの他のメンバーと比較すると、異なるMHC対立遺伝子の群に対し、半接合またはホモ接合である。そのようなヒト血管芽細胞のライブラリは、寛容ヒト血管芽細胞の選択に使用することができ、任意の使用可能なドナー移植片に適合するように細胞を選択できるようにする。
【0286】
骨髄移植および造血または混合キメラの後次確立は、マウスおよびヒトモデルの両方において、造血幹細胞から由来する新規組織型に対して特異的な寛容を誘導することが既に示されている。造血または混合キメラは、ドナーおよび被移植者の両方の幹細胞に由来する、造血細胞の被移植者における産生を意味する。したがって、被移植者が造血キメラを獲得すると、被移植者は、ドナー特異的抗原に対して寛容となる。寛容を誘導するための多くのプロトコルでは、被移植者に投与される寛容ドナー細胞は、被移植者の骨髄に生着する。被移植者の骨髄内でドナー細胞のための造血空間を形成するために、一部のプロトコルは、(例えば、全身照射によって)造血空間を形成するステップを必要とし、そのようなステップは、通常、被移植者に対して毒性または有害である。しかしながら、極めて多数のドナー寛容細胞が使用可能である場合、齧歯類モデルから、放射線が完全に排除でき、それによって、毒性の低い前処理レジメンの利点を有する造血または混合キメラを達成するという証拠がある。したがって、混合キメラは、例えば、特定の、非骨髄破壊性の被移植者の調整によって達成することができる。
【0287】
したがって、本明細書に説明する新規方法は、多数のヒト血管芽細胞の産生を可能にするので、本発明は、厳格性または毒性の低い調製プロトコルによって、免疫寛容を誘導する利点を提供する。例えば、造血空間形成ステップは、十分な数の寛容ドナー細胞が使用されると排除され得る。
【0288】
したがって、本発明のある実施形態では、本明細書に記載の方法によって生成および増幅されるヒト血管芽細胞、または増幅されるヒト血管芽細胞は、免疫寛容を誘導するように使用してもよい。機序に関するいずれの理論にも束縛されること望むものではないが、ヒト血管芽細胞は、混合キメラを産生するために、被移植者の骨髄に存在し、被移植者の骨髄に生着させることによって免疫寛容を誘導し得る。
【0289】
ある実施形態では、ドナーヒト血管芽細胞は、移植片を移植する前、またはドナー臓器、組織、または細胞を被移植患者に移植する前に、(例えば、静脈内注射によって)被移植患者に投与される。ある実施形態では、ヒト血管芽細胞は、それを必要とする患者において寛容を誘導するよう投与される(例えば、移植片または移植組織の被移植者)。したがって、ある実施形態では、ヒト被移植患者において寛容を誘導する方法は、(a)移植または細胞療法を必要とする患者を選択するステップと、(b)ドナーに由来する、またはドナーに適合するヒト血管芽細胞を当該患者に投与するステップであって、当該血管芽細胞は、本発明の方法に従って生成および増幅されるか、または増幅される、ステップと、(c)ドナー臓器、組織、または細胞移植片を被移植患者に移植するステップであって、当該血管芽細胞は、ドナー抗原に対して寛容を誘導する、ステップと、を含む。ある実施形態では、患者は、臓器、組織、または細胞療法を受容し、臓器、組織、または細胞は、ドナーまたはドナー細胞源から得られる。例えば、ドナーからの血管芽細胞は、(1)本明細書に記載の方法に従って増幅して、多数のドナー寛容細胞を生成することができ、(2)生体外で増幅および分化して、後に被移植患者に移植することができる、造血または内皮細胞または組織を得ることができる。他の実施形態では、臓器、組織、または細胞療法は、ドナー血管芽細胞に由来しないが、ドナー血管芽細胞に適合する。
【0290】
本明細書で使用されるように、「適合した」という用語は、ドナーと被移植者(例えば、移植片)との間で、HLAの型付けがどれほど類似しているかに関する。一実施形態では、ドナー血管芽細胞および移植片に関して「適合した」という用語は、拒絶反応が起こらないような、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII対立遺伝子における適合の程度を意味する。別の実施形態では、ドナー血管芽細胞および移植片に関して「適合した」という用語は、ドナー移植片が、その適合ドナー血管芽細胞によって寛容されるような、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII対立遺伝子における適合の程度を意味する。別の実施形態では、ドナー血管芽細胞および移植片に関して「適合した」という用語は、免疫抑制が必要とされないような、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII対立遺伝子における適合の程度を意味する。
【0291】
同種抗原または同種移植片に対して寛容を誘導するための、本明細書に記載の方法は、ドナーと被移植者との間で、MHC座または他の座においてある程度の不適合があるため、移植拒絶反応が生じる場合に使用することができる。したがって、例えば、ある実施形態では、少なくとも1つのMHC座または認識および拒絶を媒介する少なくとも1つの他の座、例えば、副抗原座において不適合が存在し得る。一部の実施形態では、例えば、被移植者およびドナーのHLA対立遺伝子は不適合であり、1つ以上の不適合抗原をもたらす。クラスIおよびクラスIIMHC座に関して、ドナーおよび被移植者は、例えば、クラスIにおいて適合およびクラスIIにおいて不適合、クラスIにおいて不適合およびクラスIIにおいて適合、クラスIにおいて不適合およびクラスIIにおいて不適合、クラスIにおいて適合およびクラスIIにおいて適合し得る。これらの組み合わせのうちのいずれにおいても、認識および拒絶を制御する他の座、例えば、副抗原座は、適合または不適合し得る。MHCクラスIにおける不適合は、1つ以上のMHCクラスI座における不適合、例えば、HLA−A、HLA−B、またはHLA−Cのうちの1つ以上における不適合を意味する。MHCクラスIIにおける不適合は、1つ以上のMHCクラスII座における不適合、例えば、DPA、DPB、DQA、DQB、DRA、またはDRBのうちの1つ以上における不適合を意味する。例えば、血管芽細胞および移植片は、クラスIIHAL−DRB1およびDQB1対立遺伝子において適合し得る。血管芽細胞および移植片は、(適合DRB1およびDQB1対立遺伝子を有することに加えて)2つ以上のクラスI HLA−A、B、またはC対立遺伝子においてさらに適合され得る。
【0292】
他の実施形態では、寛容ドナー細胞は、本明細書に記載する方法によって生成および増幅される血管芽細胞、または増幅される血管芽細胞に由来する細胞である。本実施形態に従うと、ドナーヒト血管芽細胞は、ドナー造血幹細胞を生じるように生体外で分化し、次にドナー造血幹細胞は、寛容を誘導するように被移植患者に投与される。上記方法のうちのいずれにおいても、ドナー血管芽細胞またはそこから派生し、当該被移植者に投与される造血幹細胞は、当該被移植者において寛容を誘導することによって、(ドナー寛容細胞に関して)適合した移植または移植片に対して被移植患者を準備させる。
【0293】
他の実施形態では、寛容を誘導する方法は、(血管芽細胞またはそこから派生する造血幹細胞の生着を促進するように)造血空間を形成するステップをさらに含む。別の実施形態では、寛容を誘導する方法は、例えば、既存のドナー反応性T細胞を排除および/または不活性化することによって、ドナー血管芽細胞または造血幹細胞の拒絶反応を一時的に阻害するステップをさらに含む。造血空間を形成するために、方法は放射線照射を含んでもよい(例えば、全身、リンパ、または胸腺照射)。ソナー細胞の拒絶反応を回避するために、方法は、薬物または抗体(例えば、細胞増殖の阻害剤、抗代謝物、あるいは抗T細胞または抗体CD8あるいは抗CD4抗体)の投与、および/またはドナー細胞の生存および生着、ならびに混合キメラの形成を促進する他の処置(例えば、当該被移植者に対する間質細胞または成長因子、サイトカイン等の投与、または被移植者の天然抗体を削減または不活性化する他の薬剤の投与)をさらに含んでもよい。ある実施形態では、造血空間を形成する、および/または被移植者におけるドナー細胞の生存を促進するよう投与される放射線照射、抗体、薬物、および/または他の薬剤は、被移植者において胸腺細胞および/またはT細胞を不活性化するのに十分である。造血空間を形成する、および/またはドナー細胞を一時的に阻害するそのようなステップは、例えば、ドナー造血芽細胞を当該被移植者に導入する前に行ってもよい。代替として、患者は、ドナー寛容細胞の投与と同時に、T細胞を遮断、排除、または不活性化する薬剤または方法を受容してもよい。
【0294】
ある実施形態では、造血空間形成方法および免疫抑制方法の組み合わせが使用される。例えば、被移植者は、低用量の全身照射および/または胸腺照射との組み合わせで、抗T細胞抗体を受容してもよい。一実施形態では、被移植者は、抗CD4および抗CD8抗体、続いて、軽度の骨髄非破壊的用量の全身照射(例えば、骨髄を修復不能にさせずに被移植者の少量の骨髄を排除する用量)、および選択的胸腺照射あるいは代替として、付加用量のT細胞不活性抗体または共刺激遮断試薬(例えば、CTLA4−Igおよび/または抗CD40L抗体)を受容してもよい。照射に続いて、ドナー血管芽細胞またはそこから派生した造血幹細胞を被移植者に投与してもよい(例えば、静脈内注射によって)。本実施形態では、ドナー細胞の生着を促進するための全身照射は、多数のドナーヒト血管芽細胞またはそこから派生した造血幹細胞を投与することによって置き換えられてもよい。そのような多数のドナーヒト細胞を得ることは、本明細書に記載の方法に従って達成することができる。
【0295】
別の実施形態では、被移植者のT細胞を削減または不活性化するための処置は、投与したドナー寛容ヒト血管芽細胞の生着の阻害を回避するか、または生存を促進するのを助け得る。別の実施形態では、方法は、被移植患者におけるドナー反応性細胞のクローン除去を含んでもよい。例えば、患者は、軽用量の全身照射に続いて、ドナーヒト血管芽細胞およびT細胞共刺激遮断剤の投与を受容してもよい。代替として、患者は、照射を受けることなく、T細胞共刺激遮断剤および多数のドナーヒト血管芽細胞の投与を受容してもよい。
【0296】
別の実施形態では、寛容は、被移植者の骨髄破壊性の調整なしに達成され得る。一実施形態では、被移植者は、ドナー血管芽細胞の生着を促進するように、抗CD40Lとの組み合わせで、ドナーヒト血管芽細胞を受容してもよい。例えば、被移植者は、抗CD40Lモノクローナル抗体とともに、多数のドナー血管芽細胞を受容し、続いて、数日以内にCTLA4−Igの投与を受容してもよい。そのようなプロトコルは、ドナー反応性T細胞を削除し、CD40−CD40Lの相互作用を遮断し得る。ヒト血管芽細胞を生体外で精製および増幅するための明細書に記載の新規方法は、そのような軽度の寛容プロトコルを実行可能にする。
【0297】
被移植者の調整および/またはドナー反応性T細胞の削除または遮断に続いて、本発明の方法によって生成したドナー寛容ヒト血管芽細胞が被移植者に投与される。ドナーヒト血管芽細胞は、ドナーから組織または細胞源から得た血管芽細胞に由来し得る。代替として、ドナーヒト血管芽細胞は、ドナーに適合した異なる非ドナー源から得ることができる。
【0298】
ある実施形態では、複数投与(例えば、ドナー細胞の2回、3回、4回、またはそれ以上の投与)でドナーヒト血管芽細胞を投与することによって、被移植患者において寛容が誘導される。したがって、寛容は、ドナー寛容細胞の複数投与を含む方法によって誘導されてもよく、複数投与は、1週間未満の時間枠内で被移植者に付与される。
【0299】
ある実施形態では、免疫寛容を誘導する本発明のヒト血管芽細胞の能力は、異なる実験モデル系を使用して評価され得る。例えば、SCIDマウスにおいてヒト免疫系を確立する能力を使用して、実験モデルにおけるヒト免疫応答が研究されている。ヒト胚肝臓および胸腺組織を使用して、免疫不全マウス被移植体における機能的なヒト免疫系を再構成し得ることは既に示されている。同様に、本発明のヒト血管芽細胞の機能的能力は、同様の実験的モデル系を使用して評価することができる。例えば、マウスにおける機能的ヒト免疫系を確立する際にヒト胚肝臓に代わるヒト血管芽細胞の能力は、上述の実験モデルを使用して評価することができる。さらに、機能的ヒト免疫系を有するマウスにおいて(例えば、ヒト胚肝臓および胸腺組織を使用して、SCIDマウスにおいてヒト免疫系を確立しhu−SCIDマウスを産生する場合)、(hu−SCIDマウスを確立するために使用される胚肝臓および胸腺組織に関して不適合の)ヒト「ドナー」血管芽細胞を、上述の方法のうちのいずれかに従って、hu−SCIDマウスに投与し、混合キメラを達成してもよい。その後、ドナー血管芽細胞に関して適合した同種移植片のこれらの動物への移植時に、ドナー抗原に対する寛容を試験することができる。
【0300】
ある実施形態では、本発明は、細胞の組み合わせに関する。有効な細胞の組み合わせは、免疫寛容を誘導する第1の細胞型および必要とされる機能を再生する第2の細胞型という2つの構成要素を含む。両細胞型は、本発明の方法によって産生され、同一ドナーから得ることができる。例えば、ドナーからのヒト血管芽細胞は、寛容ドナー細胞として使用してもよい。ドナーからの細胞(例えば、胚幹細胞、多能性幹細胞あるいは早期前駆細胞、または血管芽細胞)を使用して、例えば、造血細胞または内皮細胞(本明細書に記載されるように)、オリゴデンドロサイト、ヘパトサイト、心筋細胞あるいは心筋細胞前駆体等の神経細胞、または骨芽細胞およびそれらの前駆体を生成してもよい。したがって、ドナーヒト血管芽細胞を使用して、被移植者において寛容を誘導してもよく、被移植者が、当該ドナー血管芽細胞または当該ドナー胚または多能性幹細胞に由来する細胞または組織に対して寛容であるようにする。
【0301】
別の実施形態では、本発明の細胞の組み合わせの2つの細胞の構成要素は、異なる源またはドナーから得ることができ、2つの源またはドナーは適合される。例えば、血管芽細胞は、胚幹細胞源から生成され得るが、移植細胞または組織は、ヒト血管芽細胞を生成するために使用される胚幹細胞源とは異なる源から得ることができる。そのような実施形態では、2つの源は適合される。
【0302】
本明細書に記載の治療目的のうちのいずれの場合も、免疫寛容のためのヒト血管芽細胞またはそこから派生した造血細胞は、ヒト投与のために十分に滅菌した状態で調製した等張賦形剤を含む医薬組成の形態で供給されてもよい。
【0303】
遺伝子治療における血管芽細胞
本発明の他の態様は、遺伝子治療における、血管芽細胞、非生着血管細胞、またはそこから分化した造血あるいは内皮細胞、または次に、これらの細胞からさらに分化した細胞の使用に関する。本発明の哺乳類血管芽細胞または非生着血管細胞の調製物を使用して、治療遺伝子の遺伝子産生物による処置に適した状態を有する患者に治療遺伝子を送達してもよい。血管芽細胞および非生着血管細胞は、血管形成(例えば、虚血性組織における側副の形成を誘導するVEGF)、造血(例えば、赤血球の産生を誘導するエリトロポエチン)、血管機能(例えば、動脈瘤を修復するように血管平滑筋の増殖を誘導する成長因子)、または血液細胞機能(例えば、出血を低減する凝固因子)、または成長ホルモン等の分泌タンパク質のコードに関与または影響する治療遺伝子を送達するのに特に有用である。遺伝子治療の方法は、当該技術分野において知られている。例えば、Andersonらによる米国特許第5,399,346号を参照。遺伝子材料を送達するための生体適合カプセルは、Baetgeらによる国際公開第WO95/05452号に記載されている。遺伝子を骨髄由来細胞に転移させる方法も既に報告されている(Gordonらの米国特許第6,410,015号を参照)。治療遺伝子は、疾患予防または処置に関与する遺伝子産生物またはタンパク質をコード化する遺伝子、または疾患予防または処置に関与する細胞調節作用を有する遺伝子等の臨床的有用性を有するいかなる遺伝子でもあり得る。遺伝子産生物は、患者における欠陥または欠損遺伝子産生物、タンパク質、または細胞調節作用を代用してもよく、それによって患者における疾患または状態の予防または処置を可能にする。
【0304】
したがって、本発明は、遺伝子治療に適した状態を有する患者に治療遺伝子を送達する方法をさらに提供し、その方法は、それを必要とする患者を選択することと、細胞が治療遺伝子を輸送するように血管芽細胞または非生着血管細胞の調製を修正することと、修正した製剤を患者に投与することとを含む。製剤は、当該技術分野において一般に知られる技法によって修正することができる。修正は、遺伝性産生物をコード化するDNAまたはRNAセグメントを哺乳類血管芽細胞に挿入することを伴い得、遺伝子は、血管芽細胞または非生着血管細胞の治療効果を増強する。遺伝子は、修正した血管芽細胞が、治療遺伝子産生物を産生するか、または患者の体内で所望の治療効果を有するような様式で挿入される。一実施形態では、血管芽細胞または非生着血管細胞は、骨髄等の患者から本来取得される細胞源から調製される。遺伝子は、任意の遺伝子転移手順、例えば、裸DNA統合、DNAの直接注入、受容体介在DNA摂取、レトロウイルス介在性形質転換、ウイルス介在性形質転換、非ウイルス性形質転換、脂質介在性形質転換、電子転送、電気穿孔法、リン酸カルシウム介在性形質転換、マイクロインジェクション、またはプロテオリポソームを使用して、血管芽細胞または非生着血管細胞に挿入されてもよく、それらはすべて、遺伝子治療ベクターの使用を伴い得る。レトロウイルスベクター以外に、DNAウイルスおよび他のRNAウイルスに由来するものを含む、他のベクターを使用することができる。RNAウイルスを使用する場合、明らかであるように、そのようなウイルスは、所望の薬剤をコード化するRNAを含み、そのようなウイルスで形質転換される血管芽細胞は、したがって、治療遺伝子産生物をコード化するDNAとともに提供される。細胞への遺伝子導入を達成するための方法は、当該技術分野においてよく知られている(例えば、Ausubel、同上を参照)。
【0305】
本発明の別の態様に従って、治療遺伝子を輸送するように細胞が修飾された、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞の精製製剤は、治療遺伝子の送達によって疾患を予防および/または処置するための遺伝子治療における製剤の使用に関する指示をさらに含む、容器または商用パッケージで提供されてもよい。したがって、本発明は、本発明の哺乳類血管芽細胞または非生着血管細胞の製剤を含み、その製剤の細胞が治療遺伝子を輸送するように修飾されており、また、遺伝子治療での処置に適した状態を有する患者を処置するための説明書を含む、商業用パッケージ(すなわち、キット)をさらに提供する。
【0306】
他の商業用途および方法
本発明のある態様は、商業量に到達するようなヒト血管芽細胞および非生着血管細胞の増幅に関する。特定の実施形態では、ヒト血管芽細胞および非生着血管細胞は、大規模で産生され、必要に応じて保管され、病院、医師、または他の医療施設に供給される。患者が、例えば、虚血または血管損傷等の兆候を呈するか、または造血再構成を必要とすると、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を、時宜を得た方法で発注および提供することができる。したがって、本発明は、商業規模で細胞を取得するように、ヒト血管芽細胞および非生着血管細胞を生成および増幅する方法、当該方法から派生したヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を含む細胞製剤細胞、ならびにヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を病院および医師に提供する(すなわち、産生、任意選択で保管、および販売する)方法を提供する。さらに、血管芽系細胞または非生着血管系細胞は、生体外で産生され、任意選択で保管され、病院および医師に販売されてもよい。
【0307】
したがって、本発明のある態様は、本明細書に開示する方法によって増幅した血管芽細胞または非生着血管細胞の産生、保管、および流通の方法に関する。ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞の生体外での生成および増幅に続いて、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞は、患者の処置に先立って、採取、精製および任意選択で保管されてもよい。代替として、血管芽細胞または非生着血管系細胞が望まれる状況において、ヒト血管芽細胞または非生着血管細胞は、患者の処置に先立って、生体外でさらに分化されてもよい。したがって、特定の実施形態では、本発明は、血管芽細胞または非生着血管細胞を、病院、医療センター、および医師に供給する方法を提供し、それによって、本明細書に開示する方法によって産生した血管芽細胞、非生着血管細胞、血管芽系細胞、または非生着血管系細胞は、保管され、病院、医療センター、または医師の要求に応じて発注され、血管芽細胞、非生着血管細胞、血管芽系、または非生着血管系治療を必要とする患者に投与される。代替実施形態では、患者の特定のデータに基づいて、病院、医療センター、または医師がヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を発注すると、患者の仕様に従ってヒト血管芽細胞または非生着血管細胞が産生され、後に、発注した病院または医師に供給される。
【0308】
本発明のさらなる態様は、潜在的被移植患者に適合した細胞を提供することができる血管芽細胞、非生着血管細胞、血管芽系細胞、および/または非生着血管系細胞のライブラリに関する。したがって、一実施形態において、本発明は、製薬事業を行う方法であって、血管芽細胞または少なくとも1つの組織適合性抗原に対してホモ接合である非生着血管細胞製剤を提供するステップを含む方法を提供し、細胞は、本明細書に開示する方法によって増幅できるヒト血管芽細胞または非生着血管細胞のライブラリを含むそのような細胞のバンクから選択され、各血管芽細胞または非生着血管細胞製剤は、ヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対し半接合またはホモ接合であり、血管芽細胞または非生着血管細胞の当該バンクは、細胞バンクにおける他のメンバーに対して、異なるMHC対立遺伝子の群に対し、それぞれ半接合またはホモ接合である細胞を含む。上述のように、遺伝子標的またはヘテロ接合性の喪失を使用して、血管芽細胞を派生するように使用される、半接合またはホモ接合MHC対立遺伝子幹細胞を生成することができる。一実施形態では、特定の血管芽細胞または非生着血管細胞製剤を患者に適切であると選択した後、患者の処置に適切な量に到達するよう増幅する。そのような方法は、細胞を被移植者に投与する前に、造血および/または内皮細胞を得るように、血管芽細胞または非生着血管細胞を分化するステップをさらに含み得る。製薬事業を行う方法は、販売用製剤を流通させるための流通システムを確立するステップを含み得るか、または医薬製剤をマーケティングするための販売グループを確立するステップを含んでもよい。
【0309】
本発明の他の態様は、製薬、化学、またはバイオテクノロジー企業、病院、または学術あるいは研究機関等の設定における研究ツールとしての、本発明のヒト血管芽細胞および非生着血管細胞の使用に関する。例えば、ヒト血管芽細胞、非生着血管細胞およびその誘導体細胞(例えば、内皮細胞)を使用して、血管新生因子および抗血管新生因子をスクリーニングおよび評価するか、または組織工学に使用してもよい。さらに、本明細書に開示する方法によって得られ、増幅される血管芽細胞および非生着血管細胞は、造血および内皮細胞に分化する両性能を有するため、造血および血管形成の細胞および分子生物学に使用してもよい。さらに、ヒト血管芽細胞および非生着血管細胞は、造血および血管形成において役割を果たすこれらの細胞、遺伝子、成長因子、および分化因子の新規マーカーの開発、または薬物発見および潜在的毒物または保護剤のスクリーニングアッセイの開発に使用してもよい。
【0310】
本発明の他の実施形態では、血管芽細胞および非生着血管系細胞(血液細胞等)も商業的に使用される。造血細胞を使用して、ヘモグロビンおよび成長因子等の血液産生物を生成してもよく、それらを臨床的および研究的応用に使用してもよい。
【0311】
本発明は、患者からヒトES細胞を得、次いでES細胞に由来するヒト血管芽細胞または非生着血管細胞を生成および増幅する方法も含む。これらの血管芽細胞および非生着血管細胞は、保管されてもよい。さらに、これらの血管芽細胞および非生着血管細胞は、ESを得た患者または当該患者の血縁者を処置するように使用され得る。
【0312】
上述の方法および応用は、血管芽細胞または非生着血管細胞の処置、医薬製剤、および保管に関するため、本発明は、そのような応用に適した血管芽細胞または非生着血管細胞の溶液にも関する。本発明は、したがって、患者への注射に適した血管芽細胞および非生着血管細胞の溶液に関する。そのような溶液は、生理的に許容される液体(例えば、生理食塩水、緩衝食塩水、または平衡塩類溶液)において製剤した細胞を含んでもよい。溶液は、生体内の細胞分化を促進する因子を任意選択で含んでもよい。溶液は、骨髄移植に利用される、当該技術分野において認められる方法に従って、血管投与(例えば、静脈内注射)によって患者に投与されてもよい。一部の実施形態では、細胞溶液は、末梢血管、浅末梢血管に投与されるか、または代替として、中心静脈投与によって(例えば、中心静脈カテーテルによって)投与される。溶液中の細胞の数は、少なくとも約10
2個で、約10
9個未満の細胞であり得る。他の実施形態では、溶液中の細胞数は、約10
1、10
2、5×10
2、10
3、5×10
3、10
4、10
5、10
6、10
7、または10
8〜約5×10
2、10
3、5×10
3、10
4、10
5、10
6、10
7、10
8、または10
9個の範囲であってもよく、上限および下限は、下限が常に上限よりも低いことを除いて、独立して選択される。さらに、細胞は、単回または複数投与で投与されてもよい。
【0313】
本発明は、ここで以下の実施例を参照してより完全に説明されるが、それらは例証に過ぎず、上述の発明を限定するものとして考慮されてはならない。
【実施例】
【0314】
以下の実施例は、請求される発明をより良く例示するために提供されるものであり、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。具体的な材料が言及されている場合、それは単に例示を目的とし、本発明を限定することは意図されない。当業者は、発明の能力を実行することなく、また本発明の範囲から逸脱せずに同等の手段または反応物質を開発することができる。
【0315】
実施例1
材料および方法
hESCから血管芽細胞を経た赤血球細胞の生成および増幅
本試験では、H1(National Institutes of HealthでWA01として登録される)、MA01およびMA99(Advanced Cell Technologyで得られた)、ならびにHuES−3(Cowanら(N.Engl.J.Med.2004;350:1353−1356)によって確立され、Harvard Stem Cell Instituteから得られた)の4つのヒトESC系を使用した。hESCは、80%のコンフルエンスに達するまで完全hESC培地中のマイトマイシンC処理マウス胎児線維芽(MEF)で成長させた。hESCからの赤血球細胞の生成および増幅に、4つのステップからなる手順を使用した。
【0316】
ステップ1、EB形成および血管芽細胞前駆体の誘導([−]3.5〜0日目):血管芽細胞前駆体(中胚葉)の形成を誘導するために、EBは、BMP−4、VEGF165(それぞれ50ng/ml、R&D Systems)、および塩基性FGF(20ng/ml、Invitrogen)を含む、3〜4mlの無血清Stemline培地(Sigma)中のEB培養ウェルあたり(超低6ウェルプレート、Corning)1ウェルのhESCを播種することによって形成した。半分の培地を、SCF、Tpo、およびFLT3リガンド(それぞれ20ng/ml、R&D Systems)を添加して、48時間後に新たにした。
【0317】
ステップ2、血管芽細胞の増幅(0〜10日目):3.5日後、EBを回収してトリプシンで解離させた。単一の細胞懸濁液は、細胞をG21針に3回通し、40μmフィルターを通して濾過することにより得た。Stemline II培地中で再懸濁後、細胞を、芽細胞コロニー成長培地(BGM)(5×10
5個の細胞/ml)と混合し、100mmの超低皿(10ml/皿)に播種した。培養物を、9〜10日間BGM中で増幅した。BGMへの20ng/mlのbFGFおよび2ug/mlの組み換えtPTD−HOXB4融合タンパク質の添加は、造血細胞の増殖を大幅に向上させることが判明した。HOXB4タンパク質は、マウスおよびヒトの両方のESC分化系において造血発生を促進することが示されている(Helgason et al.,Blood 1996;87:2740−2749、Kyba et al.,Cell 2002;109:29−37、Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2005;102:19081−19086、Bowles et al.,Stem Cells 2006;24:1359−1369、Pilat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 2005;102:12101−12106、Lu et al.,Stem Cells Dev.2007;16:547−560)。大抵、ブドウ様の芽細胞コロニーが、4〜6日後に顕微鏡で観察され、急速に外側に増幅した。芽細胞の密度を1−2×10
6個の細胞/mlに維持するために、さらなるBGMを添加した。
【0318】
ステップ3、赤血球細胞の分化および増幅(11〜20日目):ステップ2の終了時、細胞密度はしばしば非常に高かった(≧2×10
6/ml)。既存のBGMを補充するために、HOXB4を含まず3単位/mlのEpoを含有する等容量のBGM(総Epoは6単位/ml)を添加した。芽細胞はさらに増幅し、さらに5日間で、赤血球細胞に分化した。さらに増幅させるために、赤血球細胞を、150mmペトリ皿および2〜3日ごとに添加された、SCF(100ng/ml)、Epo(3単位/ml)、および0.5%メチルセルロースを含有するStemline IIに基づいた培地に移した。(細胞がコンフルエンスに達した時に、細胞を1:3の比率で分割し、さらに7日間、最大限の増幅を可能にすることが非常に重要であった[細胞密度2〜4×10
6/ml])。
【0319】
ステップ4、赤血球細胞の濃縮(21日目):ステップ3から得られた赤血球細胞を、5容量のIMDMおよび0.5%BSA培地中で希釈し、1000rpmでの5分間の遠心分離によって回収した。細胞ペレットを、0.5%BSAを含有するIMDM培地で2回洗浄し、一晩組織培養フラスコに播種し、非赤血球細胞(通常より大きな細胞)を付着させた。次いで、付着しない細胞を、短時間の遠心分離によって回収した。
【0320】
3.5日目のEB解離ステップ後のBGM中の播種は、赤血球培養の0日目として示された。この手順全体の期間は、BGM培地中のEB細胞の播種から19〜21日間であり、5〜6×10
6個のMA01 hESCの3〜4リットルの最終的な培養物容積を有した。MA99、H1、およびHuES−3からのRBC生成の効率は、MA01 hESCより約5〜6倍低かった(対応してより低い最終的な培養物容積を有した)ことが認められた。本手順から得られたRBC(さらなる成熟および除核のために培養に入る前の)を、機能的特徴、フローサイトメトリー、およびヘモグロビン分析に使用した。hESC系のMA01(n=6)、H1(n=2)、HuES−3(n=2)、およびMA99(n=1)を用いて、大規模な培養実験を行った。
【0321】
さらに成熟させるために、18〜19日目で回収した細胞を(ステップ3)、
0.5%BSAを含有するIMDMで希釈し(1:5希釈)、450gで10分間遠心分離した。細胞をRBCに部分的に濃縮するために、細胞ペレットの白色の上の部分を、先の細長いピペットを使用して除去した。次いで、RBCを、SCF(100ng/ml)およびEpo(3単位/ml)を含有するStemPro−34 SCF(Invitrogen)培地に、2×10
6個の細胞/mlの密度で播種した。細胞を、2日ごとに培地を変えて6日間培養し、次いで、さらに4〜5日間、Epo(3単位/ml)を含有するStemPro−34に切り替えた。これらの細胞を、βグロビン鎖およびベンジジン染色分析に使用した。
【0322】
赤血球細胞のFACS分析
すべての共役した抗体および対応するアイソタイプ対照は、Chemiconから購入したRhDおよびHbFアッセイ(ComDF)を除いて、Pharmingen/BD Biosciencesから購入した。使用された抗体は、HLAabc、Duffy型、CD14、CD15、CD34、CD35、CD36、CD41、CD44、CD45、CD71、CD133、CD184(CXCR4)、GPA、RhD、およびHbFであった。赤血球細胞を19〜21日目に回収し、0.1%BSAを含むPBS中で2回洗浄し、製造者が推奨する共役抗体の濃度に従って、30分間4℃で染色した。次いで、染色した細胞をPBS+0.1%BSA中で2回洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを添加した洗浄緩衝液で固定した。RhDおよびHbFアッセイは、0.5%グルタルアルデヒド/PBS中の0.1%BSAでの予備固定処置、および0.1%Triton X/PBS中の0.1%BSAでの染色前の透過処理ステップを含む、製造者のプロトコルに従って行った。
【0323】
15分間室温でComDF試薬を用いて染色した後、細胞をPBS中の0.1%BSA中で1回洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを添加した洗浄緩衝液中で固定した。次いで、フローサイトメーターを使用して試料を分析した。
【0324】
(FacScan、Becton Dickinson)。CellQuestプログラム(Becton Dickinson)を用いて細胞集団を分析した。
【0325】
ヘモグロビンの機能分析
19〜21日目に回収した細胞を0.9%NaCl中で3回洗浄し、次いで、9容量の水中に懸濁させ、サポニンで溶解し、600×gの遠心分離によって清澄化した。次いで、ヘモグロビンを酢酸セルロース電気泳動によって分離した。酸素平衡曲線は、Hemox−Analyzer、Model B(TCS Scientific Corp.、New Hope、PA)を使用して決定した。気相の勾配は、窒素および室内の空気を使用して得、その曲線は両方の方向で得た。以前に説明されているようにわずかなヒステリシスを示す連続のみからのデータを使用した(Honig et al.,Am.J.Hematol.1990;34:199−203、Honig et al.,J.Biol.Chem.1990;265:126−132)。グロビン質量スペクトルは、Leeら(Rapid Commun.Mass Spectrom.2005;19:2629−2635)に記載されるように、Voyager−DE Pro MALDI−TOF質量分析計(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して得た。簡潔に述べると、C18およびC4樹脂を充填したZipTip(Millipore、Billerica、MA)を使用して、それぞれペプチドおよびタンパク質のMS分析用の溶液を調製した。シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)およびシナピン酸(SA)を、それぞれペプチドおよびタンパク質のマトリックスとして使用した。一定分量(1.3ml)のマトリックス溶液(0.1%TFAを含有する50%アセトニトリルの1ml水溶液中の3〜10mgのCHCAまたはSA)を使用して、ZipTipからペプチド/タンパク質を溶出し、MALDI−TOF(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型)標的上にスポットした。337nmのパルス状窒素レーザーを備えるVoyager−DE PRO Mass Spectrometer(Applied Biosystems)を使用して、試料を分析した。タンパク質量は、陽イオン直線モードを使用して測定した。外部質量較正は、m/z12362のチトクロムc(ウマ)、m/z16952のアポミオグロビン(ウマ)、およびm/z39212のアルドラーゼ(ウサギ筋肉)の混合物のピークを使用して行った。
【0326】
RhDおよびABOの遺伝子型の同定
PCRによるhES細胞系のRhDの遺伝子型の同定は、Arceら(Blood 1993;82:651−655)および軽微な修正を加えたSimsekら(Blood 1995;85:2975−2980)によって報告されている。すべてのhES細胞がMEF上に維持されたため、発明者らは、ヒトDNA配列のみを増幅した、1対のヒトDNAに特異的なPCRプライマーを設計した。ABO式血液型の遺伝子型の同定は、ABO式血液型の個人の間での糖転移酵素の多型性に基づいて展開した(Yamamoto et al.,Nature 1990;345:229−233)。
【0327】
hESC由来赤血球細胞の特徴づけ
異なる時点で回収した細胞を、スーパーフロストプラススライド(VWR)の低速(<1000rpm)で、サイトスピンした。スライトを乾燥させて、Wright−Giemsa色素で5分間染色し、蒸留水で3回洗浄した。免疫蛍光染色を行うために、サイトスピンしたスライドを、4%パラホルムアルデヒド中に15分間固定し、1%BSA中で30分間インキュベートし、一晩4℃で、1:200のCD235a/Glycophorin A(Dako)、CD71(BD Biosciences)、またはヒトβグロビン鎖に特異的な抗体(Santa Cruz Biotechnology)の一次抗体でインキュベートした。次いで、細胞を1時間、1:200のローダミンまたはFITC(Jackson ImmunoResearch Lab)と共役した二次抗マウスIgGでインキュベートした。総ヘモグロビン染色を行うために、上で概略を説明した赤血球増幅成熟プロトコルを用いた、分化の異なる段階にある細胞を回収し、スライド上にサイトスピンした。風乾したサイトスピン試料を、100%メタノール中に10分間固定した。PBSで10分間洗浄した後、製造者の説明に従って、3’3−ジアミノベンジジン試薬(Sigma)で細胞を染色した。ヘモグロビンを含有する細胞(すべてのRBCと同様)を茶色に染色し、細胞の核はWright−Giemsaで青に染色した。
【0328】
免疫学的血液型を特徴付けるために、赤血球細胞を19〜21日目に回収し、ガラススライド上にサイトスピンし、モノクローナル抗ヒト血液型AおよびB抗体(Virogen、MA)を用いて一晩4℃で染色した。次いで、スライドを、ローダミンまたはFITC(Jackson ImmunoResearch Lab)で標識した対応する二次抗体で30〜60分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡で確認した。
【0329】
RT−PCR分析
上で概略を説明した赤血球増幅成熟プロトコルを用いて異なる段階で分化した赤血球細胞を回収し、β、γ、およびεグロビン遺伝子の発現をRT−PCRによって分析した。簡潔に述べると、RNAeasy Micro Kit(Qiagen)を使用して全RNAを単離し、以前に報告されているように(Lu et al.,Blood 2004;103:4134−4141)、SMART cDNA合成キット(Clontech)を使用してcDNAプールを構築した。以前に報告されているように(Qiu et al.,Blood 2008;111:2400−2408)、β、γ、およびεグロビン遺伝子に特異的なプライマーを使用して、対応するメッセージを増幅した。PCR産物を2.5%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウム蛍光で可視化した。
【0330】
生体外でのhESC由来赤血球細胞の除核
上記のように7日目まで芽細胞を培養した。
【0331】
ステップ1:BGM中の7日目の芽細胞を濾過し、Giarratanaら(Nat.Biotechnol.2005;23:69−74)に基づいたサプリメントを含む、Stemline II(Sigma)に播種した。これらには、40μg/mlイノシトール、10μg/ml葉酸、160μMモノチオグリセロール、120μg/mlトランスフェリン、10μg/mlインスリン、90ng/ml硝酸第一鉄、900ng/ml硫酸第一鉄、10mg/ml BSA(Stem Cell Technologies)、4mM L−グルタミン(Gibco)、および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco)が含まれた。別途記されない限り、すべての試薬はSigmaからであった。
【0332】
ステップ2:この培地中での最初の7日間(7〜14日目)、1μMヒドロコルチゾン、100ng/ml SCF(Invitrogen)、5ng/ml IL3(Invitrogen)、および3IU/ml Epo(Cell Sciences)中で細胞を培養し、1×10
6個の細胞/mlに維持した。
【0333】
ステップ3:14日目以降、SCFおよびIL3は中止し、Epoは継続した。細胞を2×10
6個の細胞/mlの密度に維持した。培地は数日ごとに交換した。
【0334】
ステップ4:細胞を、上記のサプリメントおよびEpoを含むStemline II中で、様々な時点(19〜36日目)のヒト間葉系幹細胞(MSC、Lonza)またはOP9マウス間質細胞と同時培養した。同時培養の前に、MSCはMSC Growth Medium(MSCGM、Lonza)中で増幅し、OP9細胞は、4mM L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco)を含むα−MEM(Invitrogen)中の20%FBS(Atlas)中で増幅した。
【0335】
細胞寸法の統計分析
サイトスピンし、Wright−Giemsa染色を施したスライド上の細胞および核の面積を、Scion Imageを使用して除核プロトコル中に測定した。細胞質の面積は、総細胞面積と核面積との間の差異、および核細胞質比(N/C)として計算した。核の面積から直径を計算した。それぞれの時点の直径とN/Cとの間の差異を、分散分析(ANOVA)、その後Holm検定で測定した。データは、少なくともP<0.05を有意性として平均+/−標準偏差として示した。
【0336】
実施例2
hESCの赤血球への分化
芽細胞(BC)は、以前に記載されているように(Lu et al.,Nat.Methods 2007;4:501−509)、hESCから生成した。4つのステップからなるプロトコルを用いて、BCを赤血球系へと分化させ、これには[1]未分化hESCからのEBの形成、[2]BCの形成および増幅、[3]赤血球の大量集団への分化および増幅、ならびに[4]赤血球の濃縮が含まれた。初期段階のEBを、モルフォゲンおよび初期造血サイトカインの組み合わせを添加した無血清培地中で培養したhESCから生成した。次いで、EBを解離させ、個々の細胞を、BCの成長および増幅のために、無血清で半固体の芽細胞コロニー成長培地(BGM)に播種した。ブドウ様芽細胞コロニーが3日目の初めに現れ、4日目から急速に増幅した。次いで、数日間BGMおよびEpoを添加することにより、BCを赤血球に増殖および分化するように誘導した。赤血球細胞をさらに増幅するために、1週間の間、2日または3日ごとにSCF、Epo、およびメチルセルロースを含有するStemline IIに基づく培地を添加した。次いで、BSAを添加したIMDM中で細胞を希釈し、短い遠心分離により回収し、組織培養フラスコに一晩播種し、非赤血球細胞をさせた。残りの付着しない細胞を回収した(95%を超える赤血球細胞に相当する)(
図1A、1B、1C、および1D)。BGM培地にbFGF(20ng/ml)およびHOXB4タンパク質(2μg/ml)を添加した、増幅および分化のこの最適化された(19〜21日)プロトコルを用いて、3.86±1.19×10
10個(平均±SD、n=6)のRBCが、1つの6−ウェルプレートのMA01 hESC(約1.2×10
7個の細胞)から生成された。また、RBCは、H1(n=2)、HuES−3(n=2)、およびMA99(n=1)のhESCから高効率で生成されたが、その収量は、MA01 hESCから得られたものより5〜6倍低かった。発明者らは、hESCの品質が、RBCの高効率の生成にとって最も重要な因子のうちの1つであり、高品質のhESCは(すなわち、hESC培養物は、顕微鏡下で見られるように、約80%のコンフルエンスを有するが互いに接してはいない、分化の最小限の兆候とともに密な境界線を有するコロニーで構成され、1:3分割が3〜5日でコンフルエンスに達する中程度の速度で成長し、多分化能マーカーでほとんどすべての細胞が陽性に染色され、再播種の24時間後に均一なEBを形成すべきである)、通常多数のEB細胞を生成することを認めた(例えば、2×10
6個の高品質のhESCは、3.5日後に約2〜3×10
6個のEB細胞を生成する)。また、分化および増幅培地中の0.2〜0.5%メチルセルロースの存在が、細胞の凝集を防止し、増幅の促進をもたらすことにも気付いた。
【0337】
実施例3
hESC由来RBCの特徴付け
形態学的に、上記(19〜21日)プロトコルを用いて得られたRBCは有核であり(>95%)、約10μmの平均直径を有し、最終的な赤血球より実質的に大きかった。Giemsa−Wright染色は、細胞質中の豊富なヘモグロビンを示した(
図1Cおよび1D)。細胞が何であるかは、免疫学的特徴付けにより確認した(表1および
図1F)。65%を超える細胞が胎児ヘモグロビン(HbF)を発現し、75%超がCD71陽性であり、30%の細胞はCD235aを発現したが、細胞の大部分は、骨髄単球性または巨核球抗原(すべての細胞がCD14に対して陰性であったが、0.4%の細胞はCD15を発現し、8.6%の細胞はCD41を発現した)、および前駆体抗原(0.3%の細胞がCD34に対して陽性であり、10%の細胞がCD35を発現し、5%の細胞がCD36に対して陽性であった)を発現しなかった(表1)。発明者らは、BCがケモカイン受容体CXCR413を発現することをすでに示した。しかしながら、発明者らは、hESC由来RBCの表面上にCXCR4またはCD133の発現を検出せず、これは、生体外で臍帯血前駆体から増幅された赤血球細胞からの知見と一致する(Giarratana et al.,Nat.Biotechnol.2005;23:69−74、Miharada et al.,Nat.Biotechnol.2006;24:1255−1256)。興味深いことに、HLA(<5%)またはDuffy(0%)型抗原を発現した細胞はわずかであるか、あるいはほとんどなく、hESCに由来するCD34+CD38造血前駆体からも観察された知見であった(Lu et al.,Blood 2004;103:4134−4141)。
【0338】
質量スペクトル分析は、MA01およびH1のhESCから19〜21日目に得られたRBC中で認められた主なグロビンの種類に、胚型のζおよびε鎖、ならびに胎児型のGγ鎖が含まれることを示した(
図1E)。また、相当な数量のα鎖も存在したが、Aγ鎖も成人βグロビン鎖も検出することができなかった。それにもかかわらず、これらの結果は、これらの細胞におけるヘモグロビン合成が、胚および初期胎児発生期に相当し、hESCに由来する最終的と思われる赤血球細胞さえ、成人グロビンをほとんどまたは全く伴わずに、高レベルの胚型および胎児型グロビンと同時発現することを示す最近の報告と、一致することを示している(Lu et al.,Blood 2004;103:4134−4141、Chang et al.,Blood 2006;108:1515−1523、Qiu et al.,Blood 2008;111:2400−2408、Lu et al.,Stem Cells Dev.2007;16:547−560)。
【0339】
実施例4
機能分析
6つの別個の実験において、hESC由来赤血球細胞(19〜21日目培養物)の酸素平衡曲線は、通常の成人RBCに対して、非常に類似しているか(
図2A)、またはいくらか右にずれているかのいずれかであった。
図2Aに図示された酸素平衡曲線は、二相性外観を有する。酸素飽和の低い側では、その曲線は、通常のものの左にあり、双曲形状である(矢印)。その中間点では、2つの曲線は事実上同一であり、より高い飽和レベルでは、ESC由来赤血球細胞の曲線は、再び通常のもののわずかに左に変位する(矢尻)。Hillのn係数も、通常対照のものと類似した(
図2C)。ESC由来赤血球細胞は、生理学的およびより高いpH値で匹敵するボーア効果を示したが、より低いpHではより少ないずれであった(
図2B)。これらの細胞の2,3−ジホスホグリセレート(2,3−DPG)除去に対する応答は、通常対照においてよりも大幅に低く(
図2C)、Hb Fと2,3−DPGとの間の相互作用の既知の欠如に一致した(Maurer et al.,Nature 1970;227:388−390)。これらの知見は、hESC由来RBCが、通常成人赤血球のものに匹敵する酸素輸送特性を有することを示している。
【0340】
実施例5
hESCからのRhD(−)RBCの生成
O/RhD(−)RBCの製造は、RhD(−)不適合患者に輸血される際の同種免疫の防止を大幅に補助するだろう。予測される西洋諸国における万能ドナーRBC(O−)の必要性は、RhD(−)型がさほど優勢ではない韓国、日本、および中国等のアジア諸国においてよりも大きい(それぞれ0.5%未満対15%)。PCRによる遺伝子型分析によって、試験された20個のhESC系のうちの2つ、つまりMA99およびMA133のみが、RhD(−)であることが示された(
図3A)。19〜21日目の培養物からの赤血球細胞を、FACSおよび免疫学的分析に使用した。FACS分析によって、MA01から生成されたRBCは、それらの表面上にRhD抗原を発現したが、MA99に由来する細胞は、RhD抗原の発現を欠くことが示され(
図3D)、ゲノムDNAPCR分析の結果(
図3A)を裏付けた。AおよびB抗原に対するモノクローナル抗体を使用した免疫細胞化学分析は、MA01細胞から生成されたRBCの約5%はA抗原を発現したが、B抗原は発現せず(
図3E)、MA01細胞がA(+)の表現型を有することを示し、MA99細胞に由来するRBCの約5%はB抗原を発現したが、A抗原は発現せず(
図3E)、MA99細胞がB(−)の表現型を有することを示唆し、一方WA01細胞に由来するRBCは、A抗原もB抗原も発現せず、WA01細胞をO型として確認し、ゲノムPCR分析の結果と一致する(
図3Bおよび3C)ことを示した。しかしながら、すべての赤血球細胞がA抗原またはB抗原を発現したわけではなく、細胞の初期発生段階を反映している可能性があることは注目に値する(Wada et al.,Blood 1990;75:505−511、Hosoi et al.,Transfusion 2003;43:65−71)。
【0341】
実施例6
生体外でのhESC由来赤血球細胞の除核および成熟
極めて重要な科学的および臨床的課題は、hESC由来赤血球細胞が生体外で成熟し、除核赤血球を生成できるかどうかである。これを調査するために、いくつかの異なる方策および培養条件を試験した。造血幹細胞増幅培地である、Giarratanaら(Nat.Biotechnol.2005;23:69−74)によって報告されたサプリメントおよびサイトカインを加えたStemline IIが、他の試験条件よりも著しく高効率でhESC由来赤血球細胞の成長、増幅、成熟、および除核を支持することが認められた。この条件下で間質層を伴わずに培養した芽細胞は、10〜30%の除核をもたらし、一方MSC間質細胞上での培養は、約30%の除核をもたらし、OP9間質細胞層により、除核プロセスがさらに促進された。約30〜65%の赤血球細胞(40±17%[平均±標準偏差、n=4])が、これらの細胞が5週間の非間質培養物からOP9間質層に移され、36〜42日目まで同時培養された時に除核された(
図4Cおよび4E)。除核された赤血球は(
図4Cおよび4E)、通常のヒト血液からの成熟RBCと類似した染色パターンおよびサイズを示す(
図4Dおよび4F)。これらの赤芽細胞は、BD Matrigel系を使用し、MEFなしで成長させたhESCに由来する。非間質条件(MSCまたはOP9へ移されない)に置かれた赤芽細胞が、10〜30%除核できたという事実は、除核が完全に支持細胞なしで達成され得ることを示唆している。
【0342】
hESC系H1(n=3)、MA01(n=2)、およびhuES−3(n=1)を用いて合計6つの実験を行なったが、すべて、様々な程度の除核および30〜50倍の増幅を呈した。間質細胞、特にOP9は、非間質条件と比較して、長期の培養後の細胞の生存を促進することができた。
【0343】
除核に関連する事象をさらに調査するために、赤血球の成熟プロセスに関連する複数の特徴を例として示した。除核の発生前に、細胞サイズおよび核細胞質(N/C)比の漸進的な減少が認められた。OP9間質層へ移す前に、これらの細胞のサイズおよびN/Cは、直径が8日目の18.3μmから、27日目の有核細胞の12.9μm(p<0.001)、除核細胞の7.5μm(p<0.001)へ、そしてN/C比が8日目の0.82から27日目の0.30(p<0.001、
図4Aおよび4B)へと著しく減少し、プロセス中の著しい核凝縮を示している。Wright−Giemsa染色は、青から紫、そしてピンクへと漸進的な発展を示し、前正赤芽球から多染性赤芽細胞へ、そして正染性正赤芽球への移行を示す。これらの細胞は、8日目に高レベルの初期赤芽細胞マーカーであるCD71を発現し、その発現は時間が経つにつれて減少したが、その一方で、それらは当初低レベルからわずかなレベルの成熟赤血球マーカーであるCD235a(グリコホリンA)タンパク質を示したが、成熟とともにその発現は著しく増加した(
図5Aおよび
図6)。ベンジジン染色も、これらの細胞中のヘモグロビンの漸進的な蓄積、および時間とともに細胞サイズの減少を示した(
図5C)。
【0344】
予備実験では、未熟な除核赤血球細胞は、主に胚型のζおよびεグロビン鎖、および胎児型γグロビン鎖を発現することが確認された(
図1E)。相当な量のα鎖がこれらの細胞中に存在していたが、成人βグロビン鎖は検出されなかった。赤血球細胞が、生体外でのさらなる分化および成熟の際に、最終的な成人βグロビン鎖を発現する能力を有するかどうかを判定するために、その後の試験を行った。グロビン鎖に特異的な免疫蛍光分析は、該細胞が、成人βグロビン鎖の発現を(17日目に0%、
図5B)、生体外培養の28日後に約16.37%に増加させたことを示した(一部の細胞は、βグロビン鎖を非常に高いレベルで発現した、
図5Bおよび
図7)。これらの細胞内でのβグロビン鎖遺伝子の発現は、グロビン鎖に特異的なRT−PCR分析(Qiu et al.,Blood 2008;111:2400−2408)によって確認された(
図8)。最近の報告(Zambidis et al.,[abstract].6th ISSCR Annual Meeting 2008;357)と一致して、発明者らは、βグロビン鎖の発現状態にかかわらず、すべての細胞が胎児型γグロビン鎖を発現することも認めた。
【0345】
【表1-1】
実施例7
RhDおよびABOの遺伝子型の同定
PCRによるhES細胞系のRhDの遺伝子型の同定は、軽微な修正を加えてArceらおよびSimsekらによって報告されている(Arce et al.,Molecular cloning of RhD cDNA derived from a gene present in RhD−positive,but not RhD−negative individuals.Blood 1993;82:651−655、Simsek et al.Rapid Rh D genotyping by polymerase chain reaction−based amplification of DNA.Blood 1995;85:2975−2980)。すべてのhES細胞がMEF上に維持されたため、発明者らは、ヒトDNA配列のみを増幅した1対のヒトDNAに特異的なPCRプライマーを設計した。PCRプライマーは、RhD−F、5’−tgaccctgagatggctgtcacc−3’(配列番号34)およびRhD−R、5’−agcaacgatacccagtttgtct−3’(配列番号35)であり、これらは、エクソン4とエクソン5との間のイントロン4を増幅し、RhD陰性の個人からのDNAを用いて1,200bpの断片のみを生成するが、RhD陽性の個人においては、100bpおよび1,200bp(増幅の断片サイズにより弱い)が生成される。この方策によって、血清学的に決定された表現型(Simsek et al.,Blood 1995)と完全に一致することが確認された。簡潔に述べると、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen、Valencia、CA)を使用してhES細胞からゲノムDNAを単離し、PCR増幅には、反応あたり50μl中200ngのDNAを使用した。PCR条件:94℃で45秒間、60℃で1.5分間、および72℃で2.0分間を35サイクルし、最後の延長に72℃で7分間。PCR産物を1.2%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウム染色で可視化した。RhD陽性および陰性の個人の通常のヒト血液の単核細胞からのDNAを、陽性および陰性対照として使用した。
【0346】
ABO式血液型の遺伝子型の同定は、ABO式血液型の個人の間での糖転移酵素の多型性に基づいて開発された(Yamamoto et al.,Molecular genetic basis of the histo−blood group ABO system.Nature 1990;345:229−233.)。まず、ヒトに特異的なPCRプライマーを、O対立遺伝子がこの部位に1つのヌクレオチド(G)欠失を含有し、制限酵素Kpn Iのための切断部位を生成するが、制限酵素Bst EIIの切断部位は排除する、ヌクレオチド258を囲むDNA断片を増幅するように設計する。次いで、PCR産物を、Kpn IおよびBst EIIによる制限消化に供した。O/O遺伝子型からのPCR産物は、Kpn Iによってのみ消化されて、2つの新しいより短い断片を生成することができるが、Bst EIIの消化には耐性を示し、一方A/A、B/B、およびA/B遺伝子型からのPCR産物は、Kpn I消化に耐性を示し、Bst EIIによってのみ切断されるが、A/OまたはB/Oの遺伝子型からのPCR産物は、両方の酵素によって部分的に消化され得る。したがって、第1のPCR増幅および制限消化は、O血液型とO以外の血液型を区別することができる。この結果に基づき、AおよびOの両方の対立遺伝子が、Msp Iによって消化され得るGヌクレオチドを含有し、一方B対立遺伝子は、この位置にAlu I切断部位を生成するAヌクレオチドを有する、ヌクレオチド700の領域を増幅する、第2の組のPCRプライマーを設計した。糖転移酵素の2つの特徴的な位置での2つの別個のPCR増幅、および4つの制限酵素の消化の組み合わせは、A、B、またはO対立遺伝子をはっきりと区別することができる。簡潔に述べると、PCR反応を、ヌクレオチド258の領域を増幅する1組のプライマー(プライマー:O型F、5’−gccgtgtgccagaggcgcatgt−3’(配列番号36)、O型R、5’−aatgtccacagtcactcgccac−3’(配列番号37)、PCR産物、268bp)を用いて行い、該PCR産物をQiagen Kitで精製し、Kpn IおよびBst EIIに消化させ、2%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウム染色で可視化した。O/O遺伝子型については、Kpn Iは174bpおよび93bpの断片を生成し、Bst EIIはそのPCR産物を切断せず、A/A、B/B、およびA/B遺伝子型については、Kpn IはそのPCR産物を切断せず、Bst EIIは174bpおよび93bpの断片を生成し、A/OまたはB/O遺伝子型については、Kpn IおよびBst EIIの両方が、そのPCR産物を部分的に切断し、267bp(当初)、174bp、および93bpの断片を生成する。ヌクレオチド700の領域を増幅したプライマーを使用する、第2のPCR増幅を行い(プライマー:AB型F、5’−tgctggaggtgcgcgcctacaag−3’(配列番号38)、AB型R、5’−gtagaaatcgccctcgtccttg−3’(配列番号39)、PCR産物、278bp)、PCR産物を精製し、Alu IおよびMsp Iに消化させ、上記のように分離した。B/B遺伝子型については、Alu I消化は187bp+91bpの断片を精製し、Msp I消化は206bp+47bpの断片を生成する。A/A、A/O、およびO/O遺伝子型については、Alu IはそのPCR産物を切断せず、Msp Iは187bp+47bpの断片を生成する。A/BまたはB/O遺伝子型については、Alu Iは278bp(切断なし)+187bp+91bpの断片を生成し、Msp Iは206bpおよび187bp+47bpの断片を生成する。
【0347】
実施例8
材料および方法
hESCの培養
hESC系WA01(H1)、HUES3、およびMA01を、以前に説明されているように使用および維持した
(6)。簡潔には、hESCを、完全hESC培地中のマイトマイシンC処理マウス胎児線維芽細胞(MEF)で成長させた。hESCは、0.05%トリプシン−0.53mM EDTAを使用して、コンフルエンスに達する前に3〜5日ごとに継代した。支持細胞なしの培養のために、次いで細胞を、Ludwigら
(7、8)の処方に基づく完全Modified TESR(商標)1(mTESR(商標)1)培地(Stem Cell Technologies,Inc)中のhESC−qualified Matrigelマトリックス(BD Biosciences)で成長させた。製造者が推奨する説明に従って細胞を維持する。簡潔には、細胞が約90%コンフルエンスに達した時、通常5〜7日ごとに、1:3から1:6の範囲の分割比でそれらを継代した。細胞をディスパーゼ(1mg/ml BD、Biosciences)で処理し、37℃で3〜5分間インキュベートしてコロニーの採取を始めた。コロニーをDMEM/F12(Mediatech)で洗浄し、ディスパーゼ溶液を除去した。組織培養プラスチックからコロニーを遊離させるために、ウェルをDMEM/F12で被覆し、コロニーのすべてが移動するまで静かに剥がした。コロニーを円錐管に移し、ウェルをDMEM/F12で洗浄し、細胞をプールしてウェル内のいかなる残留物も回収した。それらを5分間1000rpmで遠心分離した。細胞ペレットをTESR(商標)1培地に再懸濁させ、ウェルあたりmTESR(商標)1培地2mlでMatrigel被覆6ウェルプレートに移した。細胞を5%CO2下で37℃で維持し、mTESR(商標)1培地を毎日補充した。
【0348】
免疫蛍光細胞化学分析
Oct−4およびTra−1−60発現に関し、支持細胞なしのhESCコロニーを、免疫蛍光を使用して分析した。細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、PBSで洗浄し、PBS中5%Normal Goat Serum(Vector Labs)、1%BSA(Sigma)および0.2%Triton−X−100(Sigma)で30分間室温でブロックした。ブロッキング溶液中、Oct−4に対する一次抗体(Santa Cruz Biotechnology)またはTra−1−60(Millipore/Chemicon)で、細胞を一晩4℃でインキュベートし、PBSで洗浄し、ブロッキング溶液中、ビオチン共役二次抗体(Jackson Immunoresearch Labs)で、45分間室温でインキュベートした。さらなる洗浄後、細胞をAlexa954共役ストレプトアビジン(Invitrogen/Molecular Probes)で15分間室温でインキュベートし、続いてPBS中での長時間の最終洗浄を行った。DAPIを含むProlong Gold(Invitrogen/Molecular Probes)中に細胞を入れた。
【0349】
hESCからの血管芽細胞の分化
MEFで培養したhESCを血管芽細胞に誘導するために、80〜90%コンフルエントなプレートを0.05%トリプシン消化により分離した。支持細胞なしのhESCを血管芽細胞に分化させるために、上述のプロトコルを使用して85〜90%コンフルエントな細胞をMatrigelマトリックスから採取した。両方の条件からの細胞を、以前に説明されているように
(2)、BMP−4、VEGF、およびbFGFの異なる用量のStemline II(Sigma)培地内で、Ultra−Low皿(Corning、NY)上に播種した。48時間後に、異なる実験条件に依存して、同じサイトカインまたは同じ培地とSCF、FLT3リガンド(FL)およびTPO(20ng/ml、R&D System)を含有する新鮮な培地で培地の半分を置き換えた。3.5日後、EBを回収し、0.05%トリプシンで分離した。細胞を22ゲージ針および40μm細胞濾過器に通すことにより単一の細胞懸濁液を得、遠心分離により回収し、50〜100μlのStemlineII培地に再懸濁させた。以前に説明されたように
(2)細胞(0.75×10
5から1×10
5)を芽細胞成長培地(BGM)2.5mlと混合し、Ultra−Low皿に播種して37℃でインキュベートした。MEFおよび支持細胞なしhESCの両方から得られた芽細胞コロニーを、播種から3〜4日後に観察し、そのすぐ後に急速増幅した。芽細胞(BC)は、本試験において6日目の芽細胞コロニーから得られた細胞として定義される。
【0350】
血管芽細胞前駆体の濃縮
潜在的BC前駆体表面マーカーCD31、CD34、KDR、CXCR−4、D133、ACE、PCLP1、PDGFRα、Tie−2、Nrp−2、TPO−RおよびbFGFR−1を、細胞濃縮のために選択した。抗体はすべてマウスモノクローナルIgGアイソタイプであり、CD31およびCD34(Dako Cytomation)、KDRおよびTPO−R(R&D Systems,Inc.)、CXCR−4(Abcam Inc.)、Nrp−2、ACE、PCLP1およびPDGFRα(Santa Cruz Biotechnology)、Tie−2(Cell Signaling Technology,Inc.)、bFGFR−1(Zymed Laboratories)、ならびにCD133(Miltenyi Biotech)である。抗体カクテルのアセンブリをEasySep「Do−it−Yourself」Selection Kit(Stem Cell Technologies)により行った。EBから得られた細胞懸濁液を、1200rpmで4分間遠心分離し、2%FBS/1mMEDTA緩衝液を含むPBSに1〜2×10
6細胞/100μlの濃度で再懸濁した。細胞を異なる抗体カクテルと15分間室温で混合し、次いでEasySep Nanoparticleとともに室温でさらに10分間インキュベートした。上澄みを捨てた後陽性選択細胞を分離し、細胞を有する管をMagnetホルダに設置した。抗体選択陽性細胞(1×10
5)を2.5mlのBGMと混合し、芽細胞コロニー発達のために播種した。
【0351】
リアルタイムRT−PCRおよびデータ分析
RNeasy Micro Kit(Qiagen)を使用して、製造者のプロトコルに従い、全RNAをEBまたは未分化hESCから抽出した。CDNAは、BD SMART PCR CDNA Synthesis Kit(BD Biosciences)を使用して、取扱説明書に従い合成した。リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR)は、FullVelocity SYBR Green QPCR Master Mix(Stratagene)を使用して行った。反応については、各反応につき以下の成分で3回行う設定とした。テンプレート50ng、各プライマーおよび1×Masterミックス0.2マイクロモル。使用したプライマーの遺伝子特異的配列を表1にリストするが、アニール温度はすべてのプライマーに対して55℃である。増幅およびリアルタイムデータ収集は、MxProバージョン3.0ソフトウェアを備えるStratagene Mx3005Pで行った。以下のサイクル条件を使用した:95℃で10分間の1サイクル、続いて95℃で30秒間、55℃で1分間、72℃で30秒間の40サイクル、続いて95℃で1分間、55℃で30秒間および95℃で30秒間の最終サイクル。各標的遺伝子の相対定量を、ΔΔC
T法
(9)を使用してβ−アクチン(ΔC
T)へのサイクル閾値(C
T)正規化に基づき行った。リアルタイム定量PCRおよび2(−デルタデルタC(T))法
(9)を使用した相対遺伝子発現データの分析では、実験試料における検査した各遺伝子のΔC
Tを未分化hESC対照試料(ΔΔC
T)の平均ΔC
Tと比較した。次いで発現の倍数の変化を2
−ΔΔCTとして計算した。マイナスの倍数差データは、以下の式を用いて線形の「発現の倍数変化」値に変換した。発現の線形倍数変化=−(1/発現の倍数変化)。
【0352】
統計分析
すべてのデータは、平均±標準誤差として示した。GraphPad Prism、バージョン4、ソフトウェア(GraphPad Software,Inc.、San Diego、CA)を使用して、対応のないt検定により集団間比較を行った。p<0.05を統計的に有意とみなした。
【0353】
実施例9
血管芽細胞の発達にはBMP−4およびVEGFの両方が必要とされる
血管芽細胞および造血系へのhESC分化を誘導するための無血清系は、以前に説明されている
(2、10)。BMP−4、VEGF、および初期造血サイトカインのカクテルを使用したが、個々の因子の絶対要件および最適濃度は検査しなかった。将来の研究および臨床的応用のための血管芽細胞の生成に必要な費用および労力を削減するために、発明者らは、VEGF、BMPおよび3つの初期造血サイトカイン(TPO、FLおよびSCF)の最小要件およびhESCからの芽細胞コロニーの効果的な発達に対する効果を具体的に検査した。無血清条件下では、芽細胞コロニーの発達にはBMP−4が絶対的に必要であることが判明した。EB形成の間の培地へのBPM−4の添加がないと芽細胞コロニーは得られず、hESCからの芽細胞コロニーの形成に対するBMP−4の明確な用量反応効果が観察された(
図9A)。さらに、BMP−4は、BMPファミリーの他のメンバーにより置換することができなかった。BMP−2およびBMP−7単体、またはこの2つの組み合わせは、BC発達を促進しなかった。さらに、BMP−4を含有するEB培地へのBMP−2およびBMP−7の添加は、効果を示さない(10ng/ml)か、または(20ng/ml)芽細胞コロニー発達(
図9B)を阻害した。しかしながら、芽細胞コロニー成長培地(BGM)へのBMP−4、およびBMP−2および/またはBMP−7の添加は、芽細胞コロニーの発達に対しいかなる効果も有さず、これは、BMP−4のみが中胚葉/血管芽細胞特定段階を促進するが、BCの成長および増幅は促進しないことを示唆している。同様に、VEGF
165がEB形成培地から排除されると、芽細胞コロニーは発達しなかった。VEGF
165は、用量依存的に芽細胞コロニーの発達を促進することが判明した(
図9C)。唯一KDRおよびFLT1受容体に結合することができるVEGFメンバーのアイソフォームであるVEGF
121(11)は、hESCからの芽細胞コロニーの発達の促進においてVEGF
165の代替として使用することができ、無血清条件下で最適な用量である50ng/mlのVEGF
165またはVEGF
121がEB培地に添加された場合、ほぼ同数の芽細胞コロニー(68±5対67±12)が発達した。しかしながら、BMP−4と対照的に、VEGFがBGM中に存在しない場合、芽細胞コロニーは得られず、中胚葉/血管芽細胞特定における初期段階ならびにBCの成長および増幅においてVEGFが重要な役割を担うことを示している。
【0354】
発明者らの原報
(2)では、初期造血前駆体成長および増幅をさらに促進する目的で、EB培地にhESCを播種してから48時間後にTPO、FLおよびSCFが添加された。ここでは、TPO、FL、およびSCFが、中胚葉/血管芽細胞系に対するhESCの特定において何らかの役割を果たすかどうかを検査した。50ng/mlのBMP−4およびVEGFを含むStemline II培地にhESCを播種することによりEBを形成し、48時間後に2つのウェルに分割した。一方のウェルには20ng/mlのTPO、FLおよびSCFを添加し、他方のウェルには追加的因子は添加せず、EBをさらに36時間インキュベートした。次いでEBを回収し、単一の細胞懸濁液を得、芽細胞コロニー形成のために播種した。我々の結果は、EB形成中におけるTPO、FL、およびSCFの添加は、芽細胞コロニーの発達には効果を有さず、TPO、FL、およびSCFでの処理あり、およびなしのEBから得られた細胞1×10
5個あたり、それぞれ242±16対287±33の芽細胞コロニーが発達した。
【0355】
実施例10
bFGFはhESCからの血管芽細胞の成長を促進するが、特化は促進しない
以前の研究では、初期分化の間のbFGFの添加が、マウスおよびヒトESC造血発生を促進することが示されている
(12、13、14、5)。したがって、EB分化段階中におけるbFGFの添加がhESCからの芽細胞コロニー形成を向上させるかどうかを調査した。EB形成中のbFGFの添加は、芽細胞コロニーの発達に効果を有さず、実際には、より高い用量(40ng/ml)においては、複数のhESC系からの芽細胞コロニーの形成を阻害した(
図10Aおよび
図11)。一方、BGMへのbFGFの添加は、芽細胞コロニーの発達を大きく促進した(
図10A、
図11)。bFGFを添加しなかったBGMと比較して、芽細胞コロニーの数(p<0.001)およびBCの総数の両方が大きく増加した。BGM中最適用量(20ng/ml)でのbFGFでは、芽細胞コロニーはより大きく、より健全であり、我々は一貫して、6日間の成長後、約1×10
8個のBCを高品質WA01 hESC(約1.2×10
7個の細胞)の1つの6ウェルプレートから採取し、これはbFGFの添加なしでBGMから得られたものより8±1倍高い。
【0356】
bFGFの添加ありおよびなしで生成されたBCの系統分化能を調査するために、以前に説明されているように
(2)、造血および内皮系統分化について同数のプールされたBCを播種した。造血CFU形成については、129±9および86±22CFU/10
4BCが、それぞれbFGF(20ng/ml)の添加あり、およびなしのBGMから得られたBCから形成された。さらに、2つの群間で、異なるCFU(CFU−ミックス、CFU−G、CFU−MおよびCFU−E)の発達に差異は認められなかった(データは示されていない)。内皮系統分化については、bFGFなしのBGMから得られたBC(55±3%)よりもbFGF(20ng/ml)を含むBGMからより多くのBC(62±3%)が内皮細胞に分化した。両方の源からの内皮細胞が、Matrigelへの播種後に毛細血管様構造を効率的に形成した(
図10Bおよび2C)。これらの結果は、bFGFはBCの成長を促進するが、優先的な系統分化をもたらすことはないことを示唆している。
【0357】
実施例11
hESCからの血管芽細胞の堅調な生成が支持細胞なしで維持された
MEF支持細胞上に維持されたhESCが非ヒトシアル酸N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を含有すること
(15、7、8)、およびNeu5Gcの動物源はヒト補体との潜在的な免疫原性反応をもたらし得ることが報告されている。MEF支持細胞層上でのhESCの培養は、動物Neu5Gcの完全排除を阻止し、これらの条件下に維持されたhESC系から生成された血管芽細胞の潜在的な臨床的応用への懸念をもたらしている。したがって我々は、MEF支持細胞なしで維持されたhESCから血管芽細胞が生成され得るかどうかを決定することにした。材料および方法の項に記載のように、hESC−qualifiedMatrigelマトリックスで被覆された平板上で、ディスパーゼで3つのhESC系を継代し、mTESR培地内に維持した。それらの未分化状態を、Oct−4およびTra−1−60抗体の発現およびコロニー形態に対する免疫蛍光染色により確認した(
図12A〜12H)。これらの細胞を回収し、上述の最適化された条件を使用したBCの発達に使用した。興味深いことに、同数のEB細胞が播種された場合、MEF支持細胞上で培養されたhESCと比較して、支持細胞なしhESCで極めてより多数のBCが観察された(
図12I、p<0.05)。これらの結果は、試験された3つのhESC系WA01、MA01およびHUES−3すべてに対して観察された(データは示されていない)。
【0358】
実施例12
血管芽細胞の発達に対するBMP−4およびVEGFの効果の基礎となる機構
hESCからの血管芽細胞の発達に対するBMP−4およびVEGFの効果の基礎となる分子機構を精査するために、発明者らは、BMP−4およびVEGFの各因子を含む、および含まない、ならびにそれらの組み合わせを含むStemline II培地中で形成された3.5日齢のEBにおける血管芽細胞の発達に関連する遺伝子の発現を比較した。遺伝子発現は、リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR)により分析し、未分化hESCにおけるそれらのレベルと比較した。いかなる因子もなしに形成されたEBは、未分化hESCより高いレベルのhESCのマーカーOCT−4を発現した。EB培地へのVEGFの添加は、OCT−4発現の中程度の下方制御をもたらしたが、一方BMP−4またはBMP−4およびVEGFの添加は、OCT−4発現の大幅な低下をもたらした(p<0.0005、
図13)。OCT−4発現に対するBMP−4およびVEGFの相加効果はなかった。中胚葉細胞において発現する最初期マーカーであるT−ブラキュリ遺伝子の発現は、BMP−4およびVEGFの両方を含有する培養物から得られたEB(これはその発現の大幅な増加を示す(p<0.0005))を除き、すべての試料において下方制御された。CD31およびLMO2に対しても同様の発現パターンが観察され、BMP−4およびVEGF(p<0.0005)の組合せに暴露されたEBにのみ、大幅に増加した発現レベルが検出された。最も研究されたVEGF受容体のうちの1つであるKDRは、すべてのhESC系に発現することが示されているが
(4、5)、その発現は、外生要因が添加されていない培地、およびBMP−4またはVEGF単体が添加された培地から得られたEBにおいて劇的に下方制御された。しかしながら、hESCからの血管芽細胞の効率的な発達を促進した条件であるBMP−4およびVEGF(p<0.002)の存在下で形成されたEBにおいて、KDR発現の中程度であるが有意な増加が観察された。驚くべきことに、最近の報告とは対照的に
(14)、すべての条件において形成されたEBでMixLおよびSCL/TAL−1遺伝子の発現の実質的な低下が検出された。1つの可能な説明は、異なる無血清培地中での成長が、これらの遺伝子における異なる発現パターンをもたらしたということである。それにもかかわらず、これらの結果は、hESCからの中胚葉/血管芽細胞の特化および発達には、BMP−4およびVEGFの両方が必要であることを示唆しており、芽細胞コロニーの発達の結果と一致している(
図9)。
【0359】
実施例13
芽細胞の前駆体の表面マーカーの同定
我々の原法
(2)では、定義された因子を添加した1%メチルセルロース中に3.5日目のEB細胞を再播種することにより、BCを生成した。この方策は、造血および内皮細胞を形成する可能性を有するBCを同定する場合に重要であり、またhESCからBCを生成する場合に再現可能である。しかしながら、この手法は、標準的な組織培養インキュベータ中の皿を使用し、したがって大量生産のための回転式生物反応器に適合させることができない。この制限は、主に、3.5日目のEBからの細胞は外生であり、未分化hESCを含む(細胞のごく一部がBC前駆体である)ことに起因する。したがって、この外生集団を液体培養物中に再播種することは、未分化hESCからの二次EBの形成を含むすべての細胞の成長をもたらし、臨床的応用における使用の可能性を排除する。しかしながら、BCの前駆体のマーカー(複数可)を同定することができれば、BCの大量生産のための回転式生物反応器に適合された液体培養物中に、精製された前駆体を播種することができる。したがって我々は、中胚葉誘導体の発生と関連した12の細胞表面分子を選択した。対応する抗体を使用して、3.5日目のEBからの細胞を濃縮し、濃縮された細胞を芽細胞コロニー形成能について分析した。
図14に示されるように、3.5日目のEBからのKDR+細胞は、未分画対照細胞(p<0.01)よりも3倍多い芽細胞コロニーを生成したが、これは以前の研究
(5)と一致している。我々はまた、CD31+およびCD34+濃縮集団の播種後に芽細胞コロニーの中程度の増加(約1.5倍)を認めたが、この増加は統計的優位性に達しなかった。他のすべての濃縮された集団は、未分画対照細胞と比較して同量以下の芽細胞コロニーを産生したが、これはBC前駆体がこれらの分子を発現しないことを示している。試験されたすべての抗体の未結合(通過した)細胞もまた、未分画細胞と同様の数の芽細胞コロニーを形成したが、これは、KDR+、CD34+およびCD31+細胞でも、芽細胞コロニーを形成することができる細胞の非常に限定された部分を示すことを示唆している。
【0360】
【表1-2】
実施例14
ヒトES細胞からのヒト血管コロニー形成細胞の生成
ヒトES細胞培養。この試験において使用されたhES細胞系は、Advanced Cell Technologyで得られた以前に説明されたHIおよびH9(WA01およびWA09としてNIH登録)ならびに4つの系(MA01、MA03、MA40およびMA09)である。未分化ヒトES細胞は、80%コンフルエンスに達するまで完全hES培地中で不活性化(マイトマイシンC処理)マウス胎児線維芽(MEF)細胞上で培養した(Klimanskaya & McMahon;Approaches of derivation and maintenance of human ES cells:Detailed procedures and alternatives,in Handbook of Stem Cells.Volume 1:Embryonic Stem Cells,ed.Lanza,R.et al.(Elsevier/Academic Press,San Diego,2004)。次いで未分化hES細胞を0.05%トリプシン−0.53mM EDTA(Invitrogen)で2〜5分間分離し、1,000rpmで5分間の遠心分離により回収した。
【0361】
EB形成。血管芽細胞前駆体(中胚葉)形成を誘導するために、hES細胞(2〜5×10
5細胞/ml)を、超低付着性皿(Corning)上で、BMP−4およびVEGF
165(50ng/ml、R&D Systems)を添加した無血清Stemline培地(例えばStemlineIまたはII、Sigma(商標))中に播種し、5%CO2下で培養した。約48時間後、EB培地を補充し、初期造血/内皮成長因子のカクテルを添加した。例えば、培地の半分を除去し、同じ最終濃度のBMP−4およびVEGF、ならびにSCF、TPOおよびFLT3リガンド(20ng/ml、R&D Systems)となるように新鮮な培地を添加した。トリプルタンパク質導入ドメイン(tPTD)−HOXB4融合タンパク質(1.5μg/ml)を48〜72時間の間に培養培地に添加し、血管芽細胞およびその前駆体を増幅した。
【0362】
血管芽細胞増幅。3.5〜5日後、EBを回収して0.05%トリプシン−0.53mM EDTA(Invitrogen)で2〜5分間分離し、22G針に3〜5回通すことにより単一の細胞懸濁液を調製した。1,000rpmで5分間の遠心分離により細胞を回収し、計数した。細胞ペレットを50〜200μlの無血清Stemline培地に再懸濁させた。血管芽細胞を増幅するために、2〜5×10
5個のhES細胞の分化から得られたEBからの単一の細胞懸濁液を、1.0%のIscoveのMDM中メチルセルロース、1〜2%のウシ血清アルブミン、0.1mMの2−メルカプトエタノールおよび成長因子のカクテルを含む2ml BL−CFC/血管芽細胞増幅培地(BGM)と混合した。例えば、10μg/mlのrh−インスリン、200μg/mlの鉄飽和ヒトトランスフェリン、20ng/mlのrh−GM−CSF、20ng/mlのrh−IL−3、20ng/mlのrh−IL−6、20ng/mlのrh−G−CSF、3〜6単位/mlのrh−EPO、50ng/mlのrh−SCF、50ng/mlのrh−FLt3リガンド、50ng/mlのrh−VEGFおよび50ng/mlのrh−BMP−4)(「rh」は「組み換えヒト」を意味する)、ならびに1.5μg/mlのtPTD−HOXB4融合タンパク質を、50ng/mlのTPOおよびFLを含めて、または含めずに添加した。細胞混合物を超低付着性皿上で播種し、5%CO
2下で、37℃で4〜7日間インキュベートした。4〜6日後、ブドウ様の血管芽細胞の芽細胞コロニー(BL−CFCまたはBCと呼ばれる)が顕微鏡で観察された。hES由来芽細胞コロニーのサイトスピン調製およびWright−Giemsa染色では、未成熟芽細胞の形態的特徴が確認された。これらの結果を他のhES細胞系(WA09[H9]、MA01、MA03、MA40およびMA09)に増幅するためには、BCコロニーの持続的成長にFLおよびTPOの添加が必要であった(FLおよびTPOがないと、微小な10〜20細胞hES−BCが得られたが、4〜8日後に死滅した)。試験したすべてのhES細胞系において、BC形成および成長にはEPOも不可欠であった。これらの細胞は、上記の明確で再現性のある条件下で容易に増幅することができた(hESの6ウェルプレート1つが約6.1±0.66[平均±標準偏差]100万個の血管芽細胞を生成した)。
【0363】
BL−CFC免疫細胞化学分析のために、精製されたBL−CFCをポリリシン処理ガラススライド上にサイトスピンし、4%パラホルムアルデヒド中に固定した。大部分の遺伝子の発現を検査するために、一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、続いて蛍光標識化二次抗体を加え、最後に蛍光顕微鏡で検査した。正常ヒトBM細胞、K562細胞およびHUVECを対照として使用した。
【0364】
免疫細胞化学分析では、hES細胞由来BL−CFCまたはBCがGATA−1およびGATA−2タンパク質、LMO2タンパク質、CXCR−4、TPOおよびEPO受容体を発現し、トランスフェリン受容体CD71に特異的な抗体と容易に反応することが明らかとなった(表1および
図16d〜v)。細胞は、CD31、CD34およびKDR、または他の接着分子を僅かに発現するか、または発現しなかった。第11/787,262号により完全に記載されているように、細胞は血管コロニー形成細胞である。
【0365】
実施例15
異なる細胞型:非生着血管細胞の増幅
上記および第11/787,262号に詳説されているように、約4〜7日の増幅後に血管コロニー形成細胞を生成した。ある特定の条件下で、7日間を超えるEBのさらなる培養により、大量の異なる細胞型が産生された。全体に記載のように、この異なる前駆細胞型は、非生着血管細胞と呼ばれる。
【0366】
EBは上述のように培養した。増幅プロトコルの7日目に、血管コロニー形成細胞を示すブドウ様クラスタの形成後、これらの細胞のブドウ様クラスタの培養物の上に5mlのBL培地を添加した。培養物は半固体であり、メチルセルロース培地10mlを含有する。新鮮な培地の添加後、さらに3〜6日、EB形成後合計10〜13日間細胞を倍地中で培養する。
【0367】
新鮮な培地の添加は、これらの長期培養期間中継続的な細胞増殖および生存を向上させた。培養物中での10〜13日後、クラスタから細胞を精製した。血管コロニー形成細胞と同様に、これらの非生着血管細胞はブドウ様クラスタを形成し、互いに緩く付着していた。しかしながら、以下で詳述するように、これらの細胞は以前に同定された血管コロニー形成細胞と同一ではなかった。
【0368】
10日目にクラスタから細胞を分離し、細胞の収率を、7日目に回収した際に全体的に観察された血管コロニー形成細胞の収量と比較すると、得られた細胞の数に劇的な増加が認められた。具体的には、7日目に対し、5倍を超える数の細胞が10日目に精製された。したがって、より多量の非生着血管細胞を容易に産生することができ、また例えばより多量の分化細胞型を産生するために使用することができる。
【0369】
10〜13日の増幅培養後に同定された細胞は、多くの点で、以前に同定された血管コロニー形成細胞と同様である。例えば、細胞は、典型的には(血管コロニー形成細胞のように)互いに緩く付着する。さらに、10〜13日の増幅培養後に同定された細胞は、生体外で分化して造血細胞型を産生した。具体的には、非生着血管細胞は造血CFUを形成する能力を維持する。10〜13日の培養後、細胞をブドウ様クラスタから分離し、造血CFUの成長を支持するサイトカインを含有する半固体メチルセルロース培地中に播種した。10〜12日の培養後、赤血球CFU、顆粒球CFU、マクロファージCFU、および混合造血CFUが観察され、したがって造血細胞型を産生する能力が示された。
【0370】
本明細書に記載の血管コロニー形成細胞と非生着血管細胞との間の類似性にもかかわらず、これらの細胞は同じ分化能を有さない。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、非生着血管細胞は、血管コロニー形成細胞と対照的に、免疫不全動物への生体内送達時にもはや骨髄への生着能力がない、発生的に異なる細胞型を示し得る。具体的には、1〜5百万個のヒト非生着血管細胞(例えば、EB形成後10〜13日間培養された細胞)がNOD/SCIDマウスに投与された。24匹のマウスの検査では、ヒト細胞の骨髄または膵臓への生着が示されなかった。一方、同様の数のヒト血管コロニー形成細胞(例えば、6〜8日間培養された細胞)をNOD/SCIDマウスに投与したところ、検査した全12匹の動物の骨髄にヒト細胞が生着した。
【0371】
本発明の他の例示的方法、組成物、調製物および特徴は、以下の文献に記載されている:2007年4月13日出願の米国特許出願公開第11/787,262号、名称「Hemangio−Colony Forming Cells」。この出願の教示は、参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる。
【0372】
出願者らは、米国特許出願公開第11/787,262号に開示されている主題の組合せを含め、開示される例示的実施形態のすべての実現可能な組み合わせを特許可能な主題として考慮していることに留意されたい。例えば、本明細書に記載の非生着血管細胞は、(i)米国特許出願公開第11/787,262号に記載の細胞の特徴の1つ以上を有し得、(ii)米国特許出願公開第11/787,262号に記載のような組成物、調製物、凍結保存調製物、または精製もしくは混合された溶液として製剤化され得、(iii)米国特許出願公開第11/787,262号に記載のような治療または血液バンクにおいて使用され得、また(iv)米国特許出願公開第11/787,262号に記載のような、生体外または生体内における使用のための、部分的に分化した、および/または最終分化した細胞型を生成するために使用され得る。さらに、非生着血管細胞は、本明細書および米国特許出願公開第11/787,262号に記載の方法のいずれかを使用して、ES細胞、ED細胞、多能性幹細胞(iPS細胞を含む)等から得ることができる。
【0373】
実施例16
ヒトiPSCからの効率的な血管芽細胞の生成
本明細書に記載される効率的かつ再生可能に多数の血管芽細胞を生成する方法に基づいて(Lu et al.Nat Methods 2007;4:501−509、Lu et al.Regen Med 2008;3:693−704も参照)、発明者らは、さらに血管芽細胞プラットホームを使用し、hESCを、血管芽細胞前駆体を通して、赤血球細胞へと大規模に(約10
10〜10
11個の細胞/6ウェル皿hESC)分化したが、これは以前に報告されたものよりも1000倍以上効率的である。上で説明されたように、それらの細胞は、通常のRBCに匹敵する酸素運搬能力を有し、pHの変化(ボーア効果)および2,3−ジホスホグリセレート(DPG)に応答する(Lu et al.Blood 2008;112:4475−4484も参照)。重要なことには、赤血球細胞は、サイズの漸進的な減少、グリコホリンAの発現の増加、クロマチンおよび核の凝縮、最終的な成人βグロビン鎖の発現の増加を含む、生体外での複数の成熟事象を経た。グロビン鎖に特異的な免疫蛍光分析は、それらの細胞(17日目に0%)が、成人βグロビン鎖の発現を、生体外培養の28日後に16.37%に増加させたことを示した。このプロセスは、RBCを生成する、それらの細胞の30〜60%に濃縮した核の突出をもたらし、約6〜8μmの直径を有した。この結果は、hESC由来血管芽細胞を、機能的な酸素を輸送する赤血球へと大規模に分化および成熟させることが実現可能であることを示している。
【0374】
ヒトiPSCは、hESCと多くの特徴を共有し、幹細胞の重要な新規源である。O(−)遺伝子型を用いたiPSC系の同定は、ABOおよびRhDに適合する(そして無菌の)「万能ドナー」RBCの産生を可能にし、患者に特異的なiPSC系の使用によって、輸血用の、患者自身の血小板の生体外での生成が可能になるだろう。しかしながら、iPSCの、特に血管芽細胞への誘導された分化を経る能力についてはほとんど報告されていない。Choiらによる最近の報告(STEM CELLS 2009;27(3):559−567)は、造血および内皮分化をもたらすOP9支持細胞に基づく培養系を利用する、ヒトiPSCを用いた試験について記載しており、ヒトiPSCの可能性を示している。同様に、Zhangら(Circ Res 2009;104:e30−e41.)は、EB方法を使用した、hESCと比較して効率性は低いが、ヒトiPSCからの機能的心筋細胞の派生について報告している。したがって、ヒトiPSCからの血管芽細胞の効率的な生成を、本明細書に記載する。発明者らは、hESC系を用いた実験を使用して、ヒトiPSCからの血管芽細胞の効率的な生成のための条件を説明する。
【0375】
高品質iPSCの生成
発明者らの予備的研究のいくつかにおいては、それらは、最適化されたhESC分化条件を使用して、ヒトIMR90(
図20c)および成人4−3iPSC(データは示されていない)から血管芽細胞コロニーを生成産生することができる。それらの効率はhESCと比較すると大幅に低いが、それらはヒトiPSCの血管芽細胞分化能を明確に示す。観察される低効率は、複数の因子に起因し得、そのうちの1つはiPSCの品質である。発明者らはこれを、血管芽細胞の高効率生成のための最重要因子の1つとして観察した。高品質hESC培養物は、顕微鏡下で見られるように、約80%のコンフルエンスを有するが互いに接してはいない、分化の最小限の兆候とともに密な境界線を有するコロニーで構成される。それらは、中程度の速度で成長する、つまり、1:3分割継代hESCは、ほぼすべての細胞における多分化能マーカーの陽性染色とともに、3〜5日でコンフルエンスに達する。高品質hESCは、通常、多数のEB細胞を生成する(例えば2×10
6個の高品質hESCは3.5日後に約2〜3×10
6個のEB細胞を生成する)。高品質iPSCを得るための重要な段階には以下が含まれる。(1)トリプシンによる継代対コラゲナーゼによる継代。発明者らは、機械的に継代した培養物からの最初の適応を行った後、hESCを日常的にトリプシン/EDTAで継代することができることを示した(Klimanskaya et al.Approaches of derivation and maintenance of human ES cells:Detailed procedures and alternatives.In:Lanza Rea,ed.Handbook of Stem Cells.Volume 1:Embryonic Stem Cells.New York,USA:Elsevier/Academic Press,2004:437−449.)。発明者らの経験では、トリプシンは、より小さい細胞塊(2〜5細胞)およびより均一に分散した同様のサイズのコロニーを形成する単一の細胞を産生するため、広く使用されているコラゲナーゼIVより良好に機能し、コロニー間の時期尚早の接触を排除して自然分化を制限するが、一方コラゲナーゼ継代は、より広範囲の分化を示し、より低い分割比で継代されるか、またはクラスタの所望の密度に達する前に継代される必要がある、より大規模なコロニーをもたらす。全体的に、トリプシン/EDTA継代は、コラゲナーゼよりも3〜4倍速く培養を拡大し、均質な細胞集団を得る能力を提供する。これらの観察はまたヒトiPSCに対しても有効となり得る。発明者らの実験は、ヒトiPSCをトリプシン消化に適応させることができ、これらの細胞は20を超える継代後も未分化状態を維持することを示した;(2)マウス胎児線維芽細胞(MEF支持細胞)または支持細胞なしでの維持:hESCおよびiPSCの長期維持にはMEF支持細胞が必要であった。MEF支持細胞層上でのhESCおよびiPSCの培養は、動物成分の完全排除を阻止し、これらの条件下に維持されたhESCおよびiPSCから生成された誘導体の潜在的な臨床的応用への懸念をもたらしている。したがって、第1の段階は、血管芽細胞がmTESR培地中のMatrigelマトリックス上で維持されたhESCから生成され得るかどうかを決定するために行われた。発明者らは、MEF支持細胞上で培養されたhESCと比較して、試験された3つのhESC系、WA01、MA01およびHuES−3すべてに対し同数のEB細胞が播種された場合(p<0.05)大幅に多数(3倍の増加)の血管芽細胞が支持細胞なしhESCで生成されたことを実証した(Lu et al.Regen Med 2008;3:693−704)。発明者は、次いで、上記支持細胞なしの系におけるヒトiPSCの培養の実験を開始し、支持細胞なしの条件下で維持されたヒトiPSCは、Nanog、Oct−4、SSEA−4、およびTra−1−60の多分化能マーカーを発現した(
図19)。支持細胞なしの条件からのヒトiPSCsが高効率で血管芽細胞に分化するかどうかを試験する。
【0376】
胚様体(EB)形成および分化の最適化:ヒト
iPSCは、細胞分化後およびEB形成中において低い生命力を示し、この現象はhESCにおいても観察される。選択的Rho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤Y−27632の無血清EB形成培地への添加が、hESCのアポトーシスを防止し、EB形成を高め、分化を促進することが示されている(Watanabe et al.Nat Biotechnol 2007;25:681−686)。実験では、無血清EB形成および分化培地へのY−27632の添加が、対照培地よりも、ヒトiPS(IMR90)−1細胞からのEBの良好な形成をもたらすことが示された、つまり、Stemline II培地およびサイトカインのみにおけるEBは、通常比較的小さく、24時間後に多くの死細胞を伴い、一方Y−27632を添加した培地におけるEBは滑らかで大きく、より少ない死細胞がその回りを囲んでおり(
図20aおよび20b)、より健康的なEBが形成されることを示している。芽細胞コロニー形成のための播種後、Y−27632で処理されたEBからの細胞は、Y−27632処理なしのEBから得られた細胞よりも大幅に多く健康的な芽細胞コロニーを発達させ(
図20cおよび20d)、2倍を超える数の血管芽細胞を生成した。以前の研究はまた、本明細書に記載のEB形成系において使用されるStemline II培地を含むほぼすべての細胞培養培地における成分であるインスリンが、恐らくはPI3K/Aktシグナル経路を介したhESC中胚葉分化の有効な阻害剤であることを示している。PI3K/Aktシグナル経路の阻害は、無血清条件下でのhESCの中胚葉分化を向上させた(Freund et al.Stem Cells 2008;26:724−733)。結果は、EB形成および分化培地へのPI3K/Aktシグナル経路阻害剤の添加が、MA09 hESCからの血管芽細胞の形成を大幅に増加させることを示した。対照からの皿と比較して、PI3K/Akt阻害剤で処理した皿からは血管芽細胞の2.5倍を超える増加が得られた。同様に、EB形成中における、PI3K/Aktシグナル経路阻害剤のみ、またはそれとY−27632の添加もまた、対照よりも多く健康的なiPS(IMR90)−1からの芽細胞コロニーをもたらし(
図20e)、PI3K/Art阻害剤処理EBならびにPI3K/Art阻害剤およびROCK阻害剤処理EBにおいて、それぞれ2.1倍および2.6倍多い血管芽細胞を産生した。次いで、血管芽細胞を精製し、造血または内皮細胞分化の条件下で播種した。
図20f〜20jに示されるように、これらの細胞は、適切な条件下での播種後、造血細胞および内皮細胞の両方に分化した。
【0377】
実施例17
hESCの巨核球および血小板への誘導された分化
多能性ヒト胚幹細胞(hESC)およびiPS細胞は、輸血治療に使用される血液細胞に対して可能性のある代替源である。さらに、血液への誘導されたhESC分化は、造血の個体発生を研究するために有用なツールを提供することができる。hESCの輸血可能な巨核球/血小板への効率的な誘導された分化には、重要な臨床的意義がある。しかしながら、ヒトESCから巨核球および血小板を生成するための、これまでに報告されている方法は、1)hESCからの巨核球/血小板の収量が低すぎる、2)それらが定義されていない動物間質細胞(例えば、OP9)を必要とする、および3)これらの方法は、大量生産を行うための拡大が困難であるため、可能性のある臨床的応用には問題がある(Gaur et al.J Thromb Haemost 2006;4:436−442、Takayama et al.Blood 2008;111:5298−5306.)。明確な条件を使用して、複数のhESC系から大量の血管芽細胞(芽細胞、BC)を効率的に生成し得る堅調なモデル系を、本明細書に記載する(Lu et al.Nat Methods 2007;4:501−509、Lu et al.Regen Med 2008;3:693−704も参照)。これらのBCは、本明細書に記載されるように、機能的なRBCの大規模な産生をさらに誘導することができる(Lu et al.Blood 2008;112:4475−4484も参照)。RBCおよび巨核球は、共通の前駆体からもたらされるため、我々のhESC由来血管芽細胞から巨核球および血小板を産生する可能性を模索した。
【0378】
巨核球を生成するための培養方法の略図
無血清hES細胞→胚様体3.5〜4日目→芽細胞培養6日目→巨核球培養7日目
これまでMK生成について、H1、H7、およびHuES−3の3つのhESC系が試験されている。標準的なプロトコルを使用して、血管芽細胞を生成した(Lu et al.Nat Methods 2007;4:501−509、Lu et al.Regen Med 2008;3:693−704)。簡潔に述べると、ヒトES細胞を無血清培地中で培養し、胚様体(EB)培養のために採取した。3〜4日目にEB細胞を回収し、単一の細胞懸濁液として調製した。血管芽細胞を産生するために、5×10
5個のEB細胞を、1mlの芽細胞成長培地に再懸濁した。懸濁液中のMK培養懸濁液を設定するために、8日目の血管芽細胞培養物から細胞を採取した。手短に述べると、それらは首尾よく血管芽細胞モデル系の適合し、hESCから巨核球および血小板を効率的に生成した。発明者らは、これで日常的に、改善された本芽細胞培養方法を用いて、6〜8日間の血管眼細胞の培養後、100万個のhESCから1000万個の芽細胞を生成することができる(Lu et al.Regen Med 2008;3:693−704も参照)。巨核球系への分化を誘導するために、これらの芽細胞を採取して、TPOを含む定義された成長因子を添加した無血清培地中の、巨核球の液体成熟培養物中に播種する。通常、この培養物の初期段階で、細胞数の1.5〜2倍の増加が得られる。本条件下での限定された増幅は、おそらく、他の系に特化した細胞の死、および巨核球の核内分裂の開始に起因する。液体成熟培養物の4日目までに、精製を必要とすることなく、90%を超えるCD41a+巨核球を達成することができる(
図21A)。これらのCD41a+巨核球の大半は、巨核球のさらなるマーカーであるCD42bを同時発現する。結果として、100万個のhESCから14〜15日間で、800〜900万個のCD41+巨核球を産生することができる。それに対して、Takayamaらによる最新の論文は、OP9間質細胞およびウシ胎仔血清を用いた同時培養系を使用した、100万個のhESCから200万個のCD41a+巨核球(集団全体の50%)の生成を報告している(Takayama et al.Blood 2008;111:5298−5306)。明らかに、本明細書に記載される血管芽細胞系は、hESCからの巨核球の生体外生成の顕著な改善を示す。
【0379】
細胞表面マーカーに加えて、Giemsa染色は、成熟培養物中において巨核球の細胞サイズが増加し、核内分裂を受けて倍数体になることを示している(
図21C)。さらに、細胞顆粒中のフォンヴィレブランド因子(VWF)の特異的免疫染色は、これらの細胞内で細胞質成熟プロセスが生じていることを示している(
図21D)。液体成熟培養の6日目までに、50%を超えるCD41a+細胞が、FACS分析により、4n超のDNA含有量を示している(
図21B)。重要なことに、これらの生体外で誘導された巨核球は、血小板新生に必須のステップである胞体突起形成を示すことにより、最終分化を受ける(
図21E)。本明細書に記載される現行の条件を用いると、胞体突起形成細胞は、液体培養物中で早ければ3日目に観察され、通常7〜8日目までにピークである生存細胞の2〜3%に達する。遠心分離による細胞の除去後、巨核球成熟培養物の上澄みを、血小板の生成について検査した。実際、CD41a+粒子が検出され、それらの前方および側方の散乱特性は、我々のFACS分析に使用したヒト末梢血血小板対照と非常に類似する(
図22)。
【0380】
参考文献
1.Wagner RC:Endothelial cell embryology and growth.Adv.Microcirc.9, 45−75(1980).
2.Lu SJ, Feng Q, Caballero S et al:Generation of functional hemangioblasts from human embryonic stem cells.Nat.Methods 4(6),501−509(2007).
3.Wang L,Li L,Shojaei F et al:Endothelial and hematopoietic cell fate of human embryonic stem cells originates from primitive endothelium with hemangioblastic properties.Immunity.21(1),31−41(2004).
4.Zambidis ET,Peault B,Park TS,Bunz F,Civin CI:Hematopoietic differentiation of human embryonic stem cells progresses through sequential hematoendothelial,primitive,and definitive stages resembling human yolk sac development.Blood 106(3),860−870(2005).
5.Kennedy M,D’Souza SL,Lynch−Kattman M,Schwantz S,Keller G:Development of the hemangioblast defines the onset of hematopoiesis in human ES cell differentiation cultures.Blood 109(7),2679−2687(2007).
6.Klimanskaya I,McMahon J.Approaches of derivation and maintenance of human ES cells:Detailed procedures and alternatives.In:Handbook of Stem Cells.Volume 1:Embryonic Stem Cells.Lanza Rea(Eds.).Elsevier/Academic Press,2004)
7.Ludwig TE,Bergendahl V,Levenstein ME,Yu J,Probasco MD,Thomson JA:Feeder−independent culture of human embryonic stem cells.Nat.Methods 3(8),637−646(2006).
8.Ludwig TE,Levenstein ME,Jones JM et al:Derivation of human embryonic stem cells in defined conditions.Nat.Biotechnol.24(2),185−187(2006).
9.Livak KJ,Schmittgen TD:Analysis of relative gene expression data using real−time quantitative PCR and the 2(−Delta Delta C(T)) Method.Methods 25(4),402−408(2001).
10.Lu SJ,Feng Q,Ivanova Y et al:Recombinant HoxB4 Fusion Proteins Enhance Hematopoietic Differentiation of Human Embryonic Stem Cells.Stem Cells Dev.16(4),547−560(2007).
11.Soker S,Takashima S,Miao HQ,Neufeld G,Klagsbrun M:Neuropilin−1 is expressed by endothelial and tumor cells as an isoform−specific receptor for vascular endothelial growth factor.Cell 92(6),735−745(1998).
12.Faloon P,Arentson E,Kazarov A et al:Basic fibroblast growth factor positively regulates hematopoietic development.Development 127(9),1931−1941(2000).
13.Pearson S,Sroczynska P,Lacaud G,Kouskoff V:The stepwise specification of embryonic stem cells to hematopoietic fate is driven by sequential exposure to Bmp4,activin A,bFGF and VEGF.Development 135(8),1525−1535(2008).
14.Pick M,Azzola L,Mossman A,Stanley EG,Elefanty AG:Differentiation of human embryonic stem cells in serum−free medium reveals distinct roles for bone morphogenetic protein 4,vascular endothelial growth factor,stem cell factor,and fibroblast growth factor 2 in hematopoiesis.Stem Cells 25(9),2206−2214(2007).
15.Martin MJ,Muotri A,Gage F,Varki A:Human embryonic stem cells express an immunogenic nonhuman sialic acid.Nat.Med.11(2),228−232(2005).
16.Huber TL,Zhou Y,Mead PE,Zon LI:Cooperative effects of growth factors involved in the induction of hematopoietic mesoderm.Blood 92(11),4128−4137(1998).
17.Winnier G,Blessing M,Labosky PA,Hogan BL:Bone morphogenetic protein−4 is required for mesoderm formation and patterning in the mouse.Genes Dev.9(17),2105−2116(1995).
18.Johansson BM,Wiles MV:Evidence for involvement of activin A and bone morphogenetic protein 4 in mammalian mesoderm and hematopoietic development.Mol.Cell Biol.15(1),141−151(1995).
19.Wiles MV,Johansson BM:Embryonic stem cell development in a chemically defined medium.Exp.Cell Res.247(1),241−248(1999).
20.Nakayama N,Lee J,Chiu L:Vascular endothelial growth factor synergistically enhances bone morphogenetic protein−4−dependent lymphohematopoietic cell generation from embryonic stem cells in vitro.Blood 95(7),2275−2283(2000).
21.Li F,Lu S−J,Vida L,Thomson JA,Honig GR:Bone morphogenetic protein−4 induces efficient hematopoietic differentiation of rhesus monkey embryonic stem cells in vitro.Blood 98(2),335−342(2001).
22.Tian X,Morris JK,Linehan JL,Kaufman DS:Cytokine requirements differ for stroma and embryoid body−mediated hematopoiesis from human embryonic stem cells.Exp.Hematol.32(10),1000−1009(2004).
23.Chadwick K,Wang L,Li L et al:Cytokines and BMP−4 promote hematopoietic differentiation of human embryonic stem cells.Blood 2003 102(3),906−915(2003).
24.Cerdan C,Rouleau A,Bhatia M:VEGF−A165 augments erythropoietic development from human embryonic stem cells.Blood 103(7),2504−2512(2004).
25.Park C,Afrikanova I,Chung YS et al:A hierarchical order of factors in the generation of FLK− and SCL−expressing hematopoietic and endothelial progenitors from embryonic stem cells.Development 131(11),2749−2762(2004).
26.Xu C,Rosler E,Jiang J et al:Basic fibroblast growth factor supports undifferentiated human embryonic stem cell growth without conditioned medium.Stem Cells 23(3),315−323(2005).
27.Xu RH,Peck RM,Li DS,Feng X,Ludwig T,Thomson JA:Basic FGF and suppression of BMP signaling sustain undifferentiated proliferation of human ES cells.Nat.Methods 2(3),185−190(2005).
28.Levenstein ME,Ludwig TE,Xu RH et al:Basic fibroblast growth factor support of human embryonic stem cell self−renewal.Stem Cells 24(3),568−574(2006).
29.Yeoh JS,van OR,Weersing E et al:Fibroblast growth factor−1 and −2 preserve long−term repopulating ability of hematopoietic stem cells in serum−free cultures.Stem Cells 24(6),1564−1572(2006).
30.Dell’Era P,Ronca R,Coco L,Nicoli S,Metra M,Presta M:Fibroblast growth factor receptor−1 is essential for in vitro cardiomyocyte development.Circ.Res.93(5),414−420(2003).
31.de HG,Weersing E,Dontje B et al:In vitro generation of long−term repopulating hematopoietic stem cells by fibroblast growth factor−1.Dev.Cell 4(2),241−251(2003).
32.Ginis I,Luo Y,Miura T et al:Differences between human and mouse embryonic stem cells.Dev.Biol.269(2),360−380(2004).
33.D’Amour KA,Agulnick AD,Eliazer S,Kelly OG,Kroon E,Baetge EE:Efficient differentiation of human embryonic stem cells to definitive endoderm.Nat.Biotechnol.23(12),1534−1541(2005).
上記発明を実施するための形態において、本発明の様々な実施形態を説明した。これらの説明は上記実施形態を直接的に説明しているが、当業者は、本明細書に示され説明された具体的実施形態の修正および/または変形を着想し得ることが理解される。本説明の範囲内に包含される任意のそのような修正もまた、本発明に含まれることが意図される。特記しない限り、明細書および特許請求の範囲における単語および語句には、元々の意味、および該当する技術分野(複数可)における当業者にとって習慣的な意味が付与されることが、発明者の意図するところである。
【0381】
本出願の出願時に出願者に知られた本発明の様々な実施形態の上記説明は、例示および説明のために示され、それを目的としている。本説明は、網羅的であることを意図せず、また本発明を開示された厳密な形態に限定することを意図せず、多くの修正および変形が上記教示に照らして可能である。記載された実施形態は、本発明の原理およびその実際の応用を説明するように役立ち、また当業者が様々な実施形態で、および企図される具体的用途に適合するように様々な修正を加えて本発明を使用することができるようにするのに役立つ。したがって、本発明が、本発明を実施するための開示された具体的実施形態に限定されることは意図されない。
【0382】
本発明の具体的実施形態を示し説明してきたが、本明細書における教示に基づき、本発明およびそのより広い側面から逸脱せずに変更および修正を行うことができ、従って、添付の特許請求の範囲は、その範囲内において、すべてのそのような変更および修正を、本発明の真の趣旨および範囲内であるとして包含するものであることが、当業者には明らかであろう。全般的に、本明細書において使用される用語は、一般に「非制限的」用語として意図されることが、当業者には理解される(例えば、「〜を含んでいる」という用語は、「〜を含んでいるがこれらに限定されない」と解釈されるべきであり、「〜を有する」という用語は、「少なくとも〜を有する」と解釈されるべきであり、「〜を含む」という用語は、「〜を含むがこれらに限定されない」と解釈されるべきである)。