(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
デジタルフィルタと、再生音域の異なるデジタル信号により駆動されるスピーカで構成される複数のスピーカのいずれかへデジタル信号を出力する複数のデジタル変調器と、前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号を遅延させる遅延回路とを有する音響システムであって、
前記複数のスピーカの一部又は全ては複数のコイルを有しており、
前記デジタルフィルタは、入力されるデジタル音声信号を、前記複数のスピーカの再生音域に対応する複数の周波数帯域のデジタル音声信号に変換し、前記複数の周波数帯域のデジタル音声信号それぞれを、前記複数のデジタル変調器のいずれかに出力し、
前記複数のデジタル変調器のそれぞれは、入力されるデジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行って変調したデジタル信号を、前記入力されるデジタル音声信号の周波数帯域に対応する再生音域の前記スピーカに出力し、
前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は互いに異なり、
前記遅延回路と前記複数のコイルを有するスピーカとによりFIRフィルタが構成されることを特徴とする音響システム。
前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は、接続されている前記スピーカの再生音域に依存して異なることを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
デジタル音声信号が入力され、複数のスピーカのいずれかにデジタル信号を出力する複数のデジタル信号処理回路と、前記複数のデジタル信号処理回路それぞれのパラメータを制御する制御部とを有する音響システムであって、
前記複数のデジタル信号処理回路それぞれは、入力される前記デジタル音声信号から所定の周波数帯域のデジタル音声信号をフィルタし、ノイズシェーピングとミスマッチシェーピングを行ない、
前記制御部は、前記複数のデジタル信号処理回路がフィルタする周波数帯域と、ノイズシェーピングのオーバーサンプリング比と、ミスマッチシェーピングの次数とのいずれか一以上のパラメータを制御する音響システム。
前記制御部は、前記複数のデジタル信号処理回路に入力される前記デジタル音声信号の音域又は/及び振幅により、前記パラメータを制御することを特徴とする請求項3に記載の音響システム。
第1のデジタル音声信号が入力され、複数のスピーカであって、それぞれのスピーカは、入力される複数のデジタル信号を合成して出力する複数のスピーカそれぞれへ第1のデジタル信号を出力する第1のデジタル変調器と、第2のデジタル音声信号が入力され、前記複数のスピーカそれぞれへ第2のデジタル信号を出力する第2のデジタル変調器と、を有する音響システムであって、
前記第1及び第2のデジタル変調器それぞれは、入力されるデジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行って変調したデジタル信号を出力することを特徴とする音響システム。
デジタルフィルタと、再生音域の異なるデジタル信号により駆動されるスピーカで構成される複数のスピーカのいずれかへデジタル信号を出力する複数のデジタル変調器とを有する音響システムであって、
前記デジタルフィルタは、入力されるデジタル音声信号を、前記複数のスピーカの再生音域に対応する複数の周波数帯域のデジタル音声信号に変換し、前記複数の周波数帯域のデジタル音声信号それぞれを、前記複数のデジタル変調器のいずれかに出力し、
前記複数のデジタル変調器のそれぞれは、入力されるデジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行って変調したデジタル信号を、前記入力されるデジタル音声信号の周波数帯域に対応する再生音域の前記スピーカに出力し、
前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は、接続されている前記スピーカの再生音域に依存して異なることを特徴とする音響システム。
前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は、接続されている前記スピーカの再生音域の周波数帯域が高いほど少ないことを特徴とする請求項7に記載の音響システム。
前記複数のデジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は、接続されている前記スピーカの出力可能な音圧に依存して異なることを特徴とする請求項1または7に記載の音響システム。
前記複数のデジタル変調器のそれぞれは、ノイズシェーピングにより発生する量子化ノイズの周波数を、接続されている前記スピーカの再生音域よりも高い周波数帯域に発生させることを特徴とする請求項1または7に記載の音響システム。
前記複数のデジタル変調器の一部または全ては、バンドパス型のΔΣ変調回路を用いてノイズシェーピングにより発生する量子化ノイズの周波数を制御することを特徴とする請求項10に記載の音響システム。
前記複数のデジタル変調器のそれぞれは、ノイズシェーピングのオーバーサンプリング比及び/又はミスマッチシェーピングの次数が、前記複数のデジタル変調器のそれぞれに接続されているスピーカの再生音域に依存して異なることを特徴とする請求項1または7に記載の音響システム。
前記リタイミング回路は、2種類のクロック信号で制御されるトリガリセット型のフリップフロップにより構成されることを特徴とする請求項18に記載の音響システム。
前記複数のデジタル変調器の一部又は全ては、前記変調されたデジタル信号が入力される加算器と、前記加算器の出力が入力される伝達関数回路と、前記伝達関数回路の出力が入力される量子化器と、出力を前記加算器にフィードバックするフィードバック係数回路からなるフィードバック回路を有し、前記フィードバック係数回路の出力を前記スピーカに出力することを特徴とする請求項21に記載の音響システム。
第1デジタルフィルタと、第2デジタルフィルタと、第3デジタルフィルタと、第1デジタル変調器と、第2デジタル変調器と、第3デジタル変調器とを有する音響システムであって、
前記第1デジタルフィルタは、入力される第1デジタル音声信号を第1帯域の第2デジタル音声信号に変換し、
前記第2デジタルフィルタは、入力される第3デジタル音声信号を第2帯域の第4デジタル音声信号に変換し、
前記第3デジタルフィルタは、前記第1デジタル音声信号と前記第3デジタル音声信号とを加算処理した信号から前記第1音域または前記第2音域よりも低い周波数帯域の第5デジタル音声信号を抽出し、
前記第1デジタル変調器は、前記第2デジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行なって第1スピーカに出力し、
前記第2デジタル変調器は、前記第4デジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行なって第2スピーカに出力し、
前記第3デジタル変調器は、前記第5デジタル音声信号にノイズシェーピングを行なった後にミスマッチシェーピングを行なって第3スピーカに出力し、
前記第1デジタル変調器の出力する信号のビット数と前記第3デジタル変調器の出力する信号のビット数とは異なり、前記第2デジタル変調器の出力する信号のビット数と前記第3デジタル変調器の出力する信号のビット数とは異なる音響システム。
デジタル音声信号が入力され、複数の周波数帯域のデジタル信号を出力するデジタルフィルタと、デジタル信号により駆動されるスピーカで構成される複数の再生音圧の異なるスピーカのいずれかへデジタル信号を出力する複数のデジタル変調器とを有するスピーカシステムであって、
前記デジタル変調器それぞれが出力するデジタル信号のビット数は互いに異なることを特徴とするスピーカシステム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明をいくつかの実施形態として説明を行なう。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変形を行なって実施することが可能である。
【0023】
図3で示されたアナログとデジタルの組み合わせの際の課題を解決する提案として、デジタルフィルタ信号処理ブロックで高域用のデジタル信号と低域用のデジタル信号に分割した後に、それぞれの信号を再生するためにデジタルアナログ変換装置を複数チャネルとして並列に設けることで、周波数帯域毎に最適なデジタル音響システムで音声を再生することが考えられる。
【0024】
図4に、そのデジタル音響システムを使ったバイドライブ方式の音響システムの第1の実施形態における構成図を示す。デジタル音声信号(401)は、デジタルフィルタ(402)により複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(403a~403n)に分配される。複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(404a~404n)により、複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(405a~405n)に変換され、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(406a~406n)を駆動する。
図4に示すデジタル音響システムの構成は、
図1に示したマルチウェイ型のアナログ音響システムと類似である。しかし、
図4に示す音響システムの構成要素の数は、
図2に示したバイドライブ型のマルチウェイ型のアナログ音響システムの構成要素の数よりも小さい。
【0025】
なお、
図4では、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(404a~404n)は同一の回路により構成することができる。このように構成した場合には、複数のデジタル信号(405a~405n)それぞれは、同一のビット数となる。しかし、これでは、後述のような、スピーカなどで再生される周波数帯域に応じて異なるビット数のデジタル信号を供給されないので、消費電力を少なくすることは困難となる。
【0026】
図5aに、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(404a~404n)の構成の一例を示す。デジタル音声信号(501)はマルチビットΔΣ変調器(502)により、nビットのデジタル信号(503)に変換される。nビットのデジタル信号は、フォーマッタ(504)によりm個の温度計コード(505)に変換された後に、後置フィルタ(506)により複数のコイル(ユニット)をデジタル駆動信号(507)に変換される。後置フィルタは複数のコイル(ユニット)を駆動する際に問題となる複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法により除去する。
【0027】
図5bには、デジタル変調回路に用いられる後置フィルタ(506)の構成の一例を示す。m個の温度計コード(505)は、複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法で除去するために選択回路(510)に入力される。選択回路(510)では、選択回路(510)の出力を遅延素子と加算器で構成された少なくとも2つ以上の積分回路(511a,511b)により出力信号(507)の使用頻度を計算して、使用頻度の小さい順に出力信号(507)を選択するように動作する。
【0028】
図6に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの本発明の第2の実施形態における構成図を示す。デジタル音声信号(601)は、デジタルフィルタ(602)により複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(603a~603n)に分配される。複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する異なるデジタル変調回路(604a~604n)により、複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(605a~605n)に変換され、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(606a~606n)を駆動する。ここで、デジタル信号(605a~605n)のビット数はそれぞれが異なるビット数であり、複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(606a~606n)は、受け持つ音域に応じて異なるビット数のデジタル信号(605a~605n)で駆動されている。
【0029】
図6に示した本発明の第2の実施形態では、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する異なるデジタル変調回路(604a~604n)により構成されている。このような構成をとることで、其々の音域に最適なビット数のデジタル信号を生成することが可能となる。これにより、デジタル音響システムの本来の低消費電力特性を生かしながら、高音質の音響再生が可能となる音響システムを構築することが可能となる。以下、本発明の実施形態がもたらす効果に関して説明する。
【0030】
図5aに示したように、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路は、マルチビットΔΣ変調器(502)とフォーマッタ(504)と後置フィルタ(506)により構成されている。ここで、入力されたデジタル信号は、フォーマッタを通じて所望のビット数のデジタル信号に再合成される際に、量子化ノイズが生じる。マルチビットΔΣ変調器は、この量子化ノイズを、ノイズシェーピング法により可聴範囲以上の周波数に分布させる機能を提供している。マルチビットΔΣ変調器を用いて量子化ノイズを高い周波数に分布させる為には、音声デジタル信号のサンプリング周波数以上の周波数でオーバーサンプリングする必要がある。
【0031】
ΔΣ変調回路とオーバーサンプリングを使ったデジタル変調によるノイズシェーピング法を用いることで、デジタル信号を再生することで発生する量子化雑音を可聴範囲以上の周波数帯域に移動することは、例えば、"Over sampling Delta-Sigma Data Converters" IEEE Press 1991 ISBN 0-87942-285-8に示されている。この文献のpp.7の(22)式にはオーバーサンプリング比と変調器の次数に対してノイズシェーピングされる雑音の強度の関係が示されている。一般にノイズシェーピング法により、量子化雑音の実効強度は、LをΔΣ変調器の次数とした場合、オーバーサンプリング比を2倍にする度に3(2L+1) dB低下する。したがって、量子化雑音を減らす為にはオーバーサンプリング比を高めるか、ΔΣ変調器の次数を上げなければならない。
【0032】
逆にいえば、もし必要な可聴周波数の上限が低くても構わなければ、ΔΣ変調回路とオーバーサンプリングを使ったデジタル変調によるノイズシェーピングに必要な変調器の次数やオーバーサンプリングの周波数の要求を緩和出来ることになる。低域再生専用のデジタル音響システムの場合、デジタル音声信号をデジタルフィルタにより、例えば500Hzより高域の音声情報を減衰させることが出来る。デジタル音声信号に本来含まれている可聴周波数は、例えば、コンパクトディスクにおける品質の場合、20KHz以下であるので、低域再生専用のデジタル音響システムでは、500Hz/20KHz=1/40も低い周波数の情報を再生出来れば良いことになる。つまり必要なオーバーサンプリング比を十分に低くしても500Hzまでの間では十分なSNRを稼ぐことが可能となる。この際の量子化雑音は500Hzより上の可聴周波数領域にも分布するが、低域再生専用のスピーカ自体がその領域の音声を再合成出来なければ量子化ノイズが再生されることはない。
【0033】
このように、低域再生専用のデジタル音響システムでは、必要なオーバーサンプリング比を十分に低くすることが可能である。デジタル回路の消費電力は動作周波数に比例するので、オーバーサンプリング比が半分になれば、デジタル音響システムの信号処理に必要な消費電力も半分になる。
【0034】
一方、オーバーサンプリング比は変えずに変調器の次数を下げることも可能である。低域再生専用のデジタル音響システムに必要なマルチビットΔΣ変調器の次数を下げることで、必要なデジタル回路の規模を小さくすることが可能となる。デジタル回路の消費電力は回路規模に比例するので、必要なデジタル回路の規模が小さくなればデジタル音響システムの信号処理に必要な消費電力も小さくなり、ノイズシェーピング特性が緩和され高域の雑音が減少する。
【0035】
同様に中高域再生用のデジタル音響システムには、バンドパス型のΔΣ変調器を利用することで、量子化ノイズ成分を中高域以外の周波数に移動することが可能になる。バンドパス型のΔΣ変調回路は、例えば、"Understanding Delta-Sigma Data Converters" IEEE Press 2005 ISBN 0-471-46585-2に示されている。この文献のChapter5 にはΔΣ変調器のNTF(ノイズ伝達関数)を任意の周波数に移動する方法が示されている。中高域再生用のスピーカ(ツイータ)の帯域に合わせたバンドパス型のΔΣ変調回路を使い、デジタル音響システムを設計することで、必要なデジタル回路の規模を小さくすることが可能となる。
【0036】
以上述べたように、低域再生専用や高域再生専用のデジタル音響システムは、可聴周波数の全域をカバーするデジタル音響システムに比べて低消費電力化が可能になる。つまり、
図6に示した本発明の第2の実施形態のように、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する際に、異なるデジタル変調回路により構成することで音響システムの消費電力特性を更に最適化することが可能となる。
【0037】
図7に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第3の実施形態を示す。ステレオデジタル音声信号(701a,701b)は、L及びR専用のデジタルフィルタ(702a,702b)により低域と中高域の2種類の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号に分配される。デジタルフィルタ(702a,702b)から出力される低域専用のデジタル信号は、LとRとを加算処理した後に低域専用のデジタル音声信号(703c)を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(704c)により複数のデジタル信号(705c)に変換され、低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(706c)を駆動する。一方、デジタルフィルタから出力される中高域のデジタル信号(703a,703b)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(704a,704b)によりLとRそれぞれ独立に複数のデジタル信号(705a,705b)に変換され、中高音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(706a,706b)を駆動する。一般に低音域の音声信号はステレオのLおよびRに同じように含まれているので、低域の信号に関してLとRとを加算しても音の再生については特別な問題は生じない。
図7のような構成をとることで、低音域を担当するデジタル音響システムをLとRとで兼用することが可能となるので、音響システムの消費電力特性を更に最適化させることが可能となる。本実施形態では、ステレオ方式の2ウェイデジタル音響システムに関して効果を述べた。しかし、2ウェイ以外の任意の音響システムにも本実形態は適用可能である。2チャンネル(ステレオ)以上の任意の個数の音声情報が入力される任意のデジタル音響システムにも本実施形態は適用可能である。
【0038】
図8aに、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第4の実施形態を示す。デジタル音声信号(801)は、デジタルフィルタ(802)により低域と中域と高域の3種類の周波数帯域に応じた3種類のデジタル信号(803a,803b,803c)に分配される。3種類の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する異なるデジタル変調回路(804a,804b,804c)により、複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(805a,805b,805c)に変換され、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(806a,806b,806c)を駆動する。ここで、デジタル信号(805a,805b,805c)は、それぞれが異なるビット数であり、複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(806a,806b,806c)は、受け持つ音域に応じて異なるビット数のデジタル信号(805a,805b,805c)で駆動されている。高音域を受け持つスピーカ(806a)は、低中音域を受け持つスピーカ(806b,806c)に比べて一般に高効率であり、スピーカを駆動するのに必要な電力は小さい。つまり、駆動するデジタル信号のビット数を少なくすることが可能である。さらに、駆動するデジタル信号のビット数を1本にすれば、高音域を担当するデジタル音響システムの消費電力を更に下げることが可能となる。
【0039】
図5aに示したように、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路は、マルチビットΔΣ変調器とフォーマッタと後置フィルタにより構成されている。ここで後置フィルタは複数のコイル(ユニット)を駆動する際に問題となる複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法により除去するためのものである。もし高音域を受け持つスピーカを一本のデジタル信号で駆動すれば、フォーマッタと後置フィルタが必要なくなる。したがって、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路に必要な回路を大幅に削減することが可能となる。つまり、音響システムの消費電力特性を更に最適化することが可能となる。本実施形態では、3ウェイのデジタル音響システムに関して効果を述べているが、3ウェイ以外の任意の音響システムにも本実施形態は適用可能である。
【0040】
図8bに、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第5の実施形態を示す。本実施形態では、
図8aに示した第4の実施形態に、電源制御回路(807)と制御回路からそれぞれのデジタル変調回路に供給される電源(808a,808b,808c)が追加されている。本実施形態では、デジタル変調回路それぞれの電源電圧を変えることが可能になる。つまり複数の周波数帯域に応じて異なる電圧のデジタル信号で複数のコイル(ユニット)を持つスピーカを駆動することが可能になる。一般に、スピーカの効率は再生音域により異なるので、音響システムでの個々のスピーカの効率の違いが駆動デジタル信号の振幅電圧を制御することにより補正出来る。
【0041】
図9aに、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第6の実施形態を示す。デジタル音声信号(901)は、デジタルフィルタ(902)により複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(903a~903n)に分配される。複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号は、デジタル遅延回路(904a~904n)で其々の周波数帯域に応じた遅延が与えられる。デジタル遅延回路からの複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(905a~905n)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する異なるデジタル変調回路(906a~906n)により、複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(907a~907n)に変換され、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(908a~908n)を駆動する。
【0042】
実際の応用では、複数の音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカは物理的な配置位置が離れている場合が考えられる。例えばクルマの中に音響システムを構築する場合は、低中域を受け持つスピーカをドアの下方に配置して、高音域を受け持つスピーカを運転席に近いドア情報に配置する。一般に低音域は定位情報に乏しいのに対し、高音域は定位情報が豊かであるので、高音域を受け持つスピーカを頭部に近い位置に配置することで、ステレオ感に溢れた音場を再生することが可能になるからである。しかしながら、低音を受け持つスピーカから頭部までの物理的な距離と、高音域を受け持つスピーカから頭部までの物理距離が異なると、それぞれからの再生音に時間差が生じる為に再生音声に不自然さが発生する問題がある。
図9aに示す第6の実施形態にあるように、対応する音域のそれぞれのデジタル的に調整可能なデジタル遅延回路を挿入することで、音響システムを構成するスピーカの配置に依らずに再生音声の頭部までの到達時間差を調整することが可能となる。遅延回路はデジタル遅延回路で実現可能であるので、アナログ回路の遅延回路に比べて回路規模が小さく消費電流も少ない。従って、本実施形態にあるようにデジタル遅延回路を挿入しても音響システムの低消費電力特性を損なうことは少ない。
【0043】
図9bに、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第7の実施形態を示す。本実施形態では、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路と複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカの間にデジタル遅延回路(904a~904n)を配置して、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力する異なるデジタル変調回路(906a~906n)からの複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(907a~907n)の個々の信号に遅延をした信号(909a~909n)で、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(908a~908n)を駆動する。遅延回路は1ビットデジタル遅延回路で実現可能であるので、アナログ回路の遅延回路に比べて回路規模が小さく消費電流も少ない。遅延を調整することで、第6の実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号を個別に遅延制御をすることで、遅延制御をデジタルフィルタとして構成することが可能となる。例えば、複数のコイル(ユニット)に加える複数のデジタル信号の遅延を少しずつ遅らせることで遅延回路と複数のコイル(ユニット)を持つスピーカを使ってFIRフィルタが構成出来る。これによりスピーカでのノイズの発生を抑制することが可能になる。
【0044】
図10に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第8の実施形態を示す。デジタル音声信号(1001)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(1002)により、Nビットのデジタル信号(1003)に変換される。必要な音圧に応じて複数のデジタル信号(1003)は分配されて複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(1004a~1004n)を駆動する。
【0045】
本実施形態ではデジタル音声信号を、デジタルフィルタを用いて複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号に分配しなくてもよい。
図5aに示したような、マルチビットΔΣ変調器とフォーマッタと後置フィルタにより構成されているデジタル変調回路から出力されるNビットのデジタル信号を、異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカに分配(ただし、N=n+m+k)してスピーカを駆動する。このようにスピーカを駆動することでデジタル音響システムを構成する。デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路の出力には全可聴周波数領域の音声信号情報が含まれているが、異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカでは対応した音域の再生しか出来ない事を利用して、簡易的なデジタル音響システムを構成することができる。
【0046】
この実施形態では、複数のコイル(ユニット)を持つスピーカの音圧特性に応じて、デジタル信号のビット数を調整することが可能となる。これにより、ネットワーク回路を用いずに、異なる音域を受け持つ複数のスピーカを並列にアナログ信号で駆動することができる。また、簡易的なアナログ方式のマルチウェイ音響システム以上の性能を得ることが可能である。更に、本発明の第5の実施形態にあるようなデジタル遅延回路を、複数のコイル(ユニット)のスピーカの手前に挿入して配置し、音響システムを構成することにより、スピーカの配置に係る再生音声の頭部までの到達時間差の問題を解決することも可能となる。
【0047】
図11にデジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路の一実施例を示す。デジタル音声信号(1101)は、デジタルゲイン回路(1102)でスピーカの効率に合わせたデジタル信号(1103)に変換された後に、マルチビットΔΣ変調器(1104)により、nビットのデジタル信号(1105)に変換される。nビットのデジタル信号は、フォーマッタ(1106)によりm個の温度計コード(1107)に変換された後に、後置フィルタ(1108)によりm個のデジタル信号(1109)に変換される。m個のデジタル信号はその後、リタイミング回路(1110)によりビット単位の時間情報を正確に揃えられて、m個のコイル(ユニット)を駆動するデジタル駆動信号(1111)に変換される。ここで、それぞれの回路はクロック信号(1120)で制御されており、リタイミング回路はクロック信号(1120)とリタイミング用のクロック信号(1121)で制御されている。後置フィルタは複数のコイル(ユニット)を駆動する際に問題となる複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法により除去している。また、リタイミング回路はビット単位の時間情報を正確に揃えることで、デジタル駆動時に発生するノイズを低減する。
【0048】
図12にデジタル変調回路に用いられるリタイミング回路の動作波形を示す。後置フィルタから出力されるm個のデジタル信号(1201)はクロック信号(1110)で同期されているが、
図12に示したように0→1への遷移時間と1→0への遷移時間が異なると、1デジタル単位時間(a)と2デジタル単位時間(b)の間の関係が線形に保てなくなる。デジタル音響システムでは、ビット単位の時間情報が正確に揃えられないとスピーカをデジタル駆動する際にノイズが発生してしまう問題ある。これを避けるためには、リタイミング用のクロック信号(1111)により後置フィルタから出力されるデジタル信号(1201)をリタイミングした信号(1202)に変換することで、異なるデジタル単位時間の間のタイミング関係を線形に保つことが必要である。
図12に示されているようにトリガリセット型のフリップフロップを2種類のクロックで制御することでリタイミング動作は簡単に実現可能である。
【0049】
以上述べたように、音響システムを構成する場合に、異なる音域を受け持つスピーカに対して、異なるデジタル変調回路を組み合わせて構成することで、音響システムの消費電力を削減することが可能になる。具体的には、デジタル変調回路を構成するマルチビットΔΣ変調器の次数の変更やオーバーサンプリング比に対応する動作クロックの周波数をそれぞれの周波数領域で変更することにより、消費電力の削減を実現する。一方、これらの変更は、デジタル的な動作でありDSP等のプログラム可能なデジタル信号処理系や、高速のCPUを使ってソフトウェア的に消費電力の削減などの最適化を図ることも可能である。つまり、音声再生の適用場面のアプリケーションに応じて、デジタル音響システムの構成をダイナミックに変更することも実現可能である。
【0050】
図13に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第9の実施形態を示す。デジタル音声信号(1301)は、デジタルフィルタ機能とデジタル変調処理を実行して複数のデジタル信号を出力する機能を同時に提供するDSP回路(1302a,1302b,1302c)に入力される。DSP回路はデジタル音響システムに必要なデジタル信号処理を実行して複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(1303a,1303b,1303c)を駆動するデジタル信号発生する。このDSP回路は、システム制御回路(1310)からの制御信号(1311a,1311b,1311c)に応じて、フィルタ特性やマルチビットΔΣ変調器の次数やオーバーサンプリング比を変更することが出来る。
【0051】
図13のように、必要に応じてダイナミックにデジタルフィルタ機能とデジタル変調器のパラメータを変更することで、音響システムの消費電力特性を更に最適化することが可能となる。音声再生に必要な音声品質に応じた消費電力の調整が出来るからである。例えば、高音質が必要な場合は、
図13にあるような3ウェイのデジタル音響システムになるようにデジタルフィルタ機能とデジタル変調器のパラメータを変更する。再生音質を上げるために、ΔΣ変調器のオーバーサンプリング比や変調次数を増やす。一方、アナウンスやガイド音声を再生する場合は中音域の再生帯域しか必要ないので、3ウェイのデジタル音響システムを1ウェイのデジタル音響システムになるようにデジタルフィルタ機能とデジタル変調器のパラメータを変更して再構成する。再生音質は劣化するが、低音域や高音域を担当するデジタル回路やスピーカ自体を駆動しないことで消費電力の削減が可能になる。
【0052】
同様に、入力されたデジタル音声信号の振幅に応じてダイナミックにデジタルフィルタの周波数特性などの機能のパラメータとデジタル変調器のパラメータとを変更することで、音響システムの消費電力特性を更に最適化することも可能である。入力されたデジタル音声信号の振幅が小さい時は、所詮は十分な品質のSNRを確保することが出来ないので、デジタル変調器のパラメータを変更して再生品質を下げることで消費電力を削減することが可能である。尚、本実施形態では3ウェイのデジタル音響システムに関しての消費電力の削減効果を述べているが、3ウェイ以外の任意の音響システムにも本実施形態は適用可能である。また、デジタルフィルタ機能とデジタル変調器の機能とを、全てDSPやCPUで実装してプログラムにより実装するのではなく、デジタルフィルタ機能とデジタル変調器の一部の機能をプログラム可能な形態として実装することで、消費電力をダイナミックに変更可能にすることができる。例えば入力されたデジタル音声信号が無音の場合にデジタルフィルタやデジタル変調器に入力されるクロックを止める実装や、入力されたデジタル音声信号が小さい場合に、低音域を止めてしまう実装を用いることができる。
【0053】
図14aにはデジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路の別の実施例を示す。デジタル音声信号(1401)はマルチビットΔΣ変調器(1402)により、nビットのデジタル信号(1403)に変換される。nビットのデジタル信号は、フォーマッタ(1404)によりm個の温度計コード(1405)に変換された後に、後置フィルタ(1406)により-1,0,1の三値のデジタル信号によりk個のコイル(ユニット)を駆動する信号(1407)に変換する。例えば、4ビットのデジタル信号を用いて、フォーマッタにより9個の温度計コード(-4〜0〜4)に変換された後に、後置フィルタ(1406)により4個の-1,0,1の三値のデジタル信号で4個のコイル(ユニット)を駆動する信号に変換する。
【0054】
図14bには、
図14aに示されているデジタル変調回路に用いられている後置フィルタ(1406)の実施例を示している。m個の温度計コード(1405)は、複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法で除去するために選択回路(1410)に入力される。選択回路(1410)では、選択回路(1410)の-1,0,1の三値のデジタル信号出力を遅延素子と加算器で構成された少なくとも2つ以上の積分回路(1411a,1411b)により出力信号(1407)の使用頻度を計算して、使用頻度の小さい順に出力信号(1407)を選択するように動作する。尚、
図11に示されたようなリタイミング回路をデジタル変調回路の内部に加えた場合も本実施例は有効である。
【0055】
図15にはデジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路の別の実施例を示す。デジタル音声信号(1501)は、デジタルゲイン回路(1502)でスピーカの効率に合わせたデジタル信号(1503)に変換された後に、マルチビットΔΣ変調器(1504)により、nビットのデジタル信号(1505)に変換される。nビットのデジタル信号は、フォーマッタ(1506)によりm個の温度計コード(1507)に変換された後に、後置フィルタ(1508)により-1,0,1の三値のデジタル信号によりk個のコイル(ユニット)を駆動する信号(1509)に変換する。k個の三値のデジタル信号はその後、リタイミング回路(1510)によりビット単位の時間情報を正確に揃えられて、k個のコイル(ユニット)を駆動する三値のデジタル駆動信号(1511)に変換される。それぞれの回路はクロック信号(1530)で制御されており、リタイミング回路は加算器(1521)と伝達関数(1522)と量子化器(1523)とフィードバック係数回路(1524)からなるフィードバック回路で構成されている。デジタル駆動信号(1511)がスピーカに接続された場合、デジタル駆動回路の出力抵抗や動作速度の影響、クロック信号(1530)のジッタにより、デジタル駆動信号(1511)に波形歪みが生じノイズが発生する場合がある。伝達関数H(s)を適当に選ぶことでデジタル駆動時に発生するこのノイズを低減することが可能になる。簡単には、量子化器(1523)はコンパレータで実現することができ、コンパレータの遷移タイミングはクロックと独立に伝達関数(1522)の出力で決定されるため、最もフィードバック回路で帰還された連続時間再生信号の出力誤差が小さくなるように制御可能である。さらにフィードバック係数回路の変更で、出力利得を変更することが可能である。この機能により、複数のスピーカユニット間の効率の違いを補正できる。更に別のメリットとして、出力信号の波形が電源電圧で変化しない効果があるので、電源からの雑音の発生を抑圧できる
【0056】
本発明の第1〜9の実施形態においては、デジタル音響システムの構成要素に含まれるデジタル変調回路として、
図11、
図14a、
図14b、
図15に示された実施例を用いることができる。
【0057】
図16には
図15に示されたデジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路に用いられるマルチビットΔΣ変調器(1502)の実施例を示す。デジタル音声信号(1501)は係数増幅器(1601)を通した後にフォードバック用の係数増幅器(1604a)と加算(1602a)されて積分器(1603a)に入力される。マルチビットΔΣ変調器を構成する積分器の段数で次数が定義される。次数が高い程、量子化ノイズの吐き出し効果(量子化ノイズの周波数が高くなる効果)は高いが回路規模は大きくなる。最後の積分器からの信号は量子化器(1605)で量子化されて出力(1503)される。マルチビットΔΣ変調器は入力されたデジタル音声信号を適当な数のデジタル信号にオーバーサンプリング技術を使い間引きする機能を提供している。例えば、16ビットのCD品質のデジタル音声信号を入力とし、出力として9レベルの信号(-4,-3,-2,-1,0,1,2,3,4)を出力する。
図16に示したマルチビットΔΣ変調器の実施例に限定されることなく、任意の構成のマルチビットΔΣ変調器を本発明の実施形態に利用可能である。
【0058】
図17aには、本発明の実施形態で用いられる複数の異なる音域を受け持つ複数のコイルを持つスピーカシステムの一実施形態を示している。入力されたデジタル音声信号(1701)はマルチビットΔΣ変調器(1702)により、nビットのデジタル信号(1703)に変換される。nビットのデジタル信号は、フォーマッタ(1704)によりm個の温度計コード(1705)に変換された後に、後置フィルタ(1706)により複数のコイル(ユニット)をデジタル駆動信号(1707)に変換される。後置フィルタは複数のコイル(ユニット)を駆動する際に問題となる複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法により除去する。後置フィルタからの信号(1707)が駆動回路(1708)にそれぞれ入力され、駆動回路から複数の3値(+1,0,−1)の駆動信号(1709)が出力され、前記駆動信号(1709)が複数のコイルで構成されたスピーカ(1710)の其々のコイルに接続される。本実施形態では4本(A,B,C,D)のコイルに接続されている。
【0059】
図17bには、本発明の一実施形態で用いることが可能な、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイルを持つスピーカのボイスコイルの実施例が示されている。本実施例では、k本(例えば、A,B,C,Dの4本)の駆動コイル(1710)が束ねられて巻かれている。
図17cにはコイル巻き方の実施例が断面図(1720)を用いて示されている。すなわち、コイル軸を含む平面による断面の一部が示されている。この実施例ではそれぞれのコイルは順番にAコイル、Bコイル、Cコイル、Dコイルの順で内部の層から外部の層へ順に巻かれていることが特徴である。また、
図17dにはコイルの巻き方の別の実施例が断面図(1730)を用いて示されている。この例ではA〜Dまでのコイルを一緒に内部から順番に巻いている。すなわち、隣接する層においては、層の端部のコイルを除き、コイルが一つずつずれている。すなわち、ある層において、A、B、C、D、A、B、C、Dの順にコイルが巻かれているとき、それに隣接する層では、D、A、B、C、D、A、B、Cの順にコイルが巻かれている。また、さらに隣接する層では、C、D、A、B、C、D、A、Bの順にコイルが巻かれている。これらの実施例を用いることで、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイルを持つスピーカのボイスコイルのそれぞれを密に巻くことが可能になる。つまり、それぞれのコイルの特性のバラツキを抑えることが可能となる。
図17c、17dにはボイスコイルに角線を用いた場合の断面図を示しているが、丸線等の任意の断面形状の配線材料を用いることができる。
【0060】
図18に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの本発明の第10の実施形態を示す。デジタル音声信号(1801)は、デジタルフィルタ(1802)により複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号(1803a,1803b)に分配される。複数の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号は、デジタル音声信号を入力しデジタル信号を出力するデジタル変調回路(1804)と出力されるデジタル信号(1805)が入力されるコイル(ユニット)を持つスピーカもしくはイヤホン(1806)と、複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(1807)により、複数のデジタル信号(1808)に変換され、複数の異なる音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(1809)を駆動する。なお、イヤホン(1806)は、スピーカ(1809)よりも再生音圧が小さく、再生音圧が異なっている一例を示すために示されている。
【0061】
なお、スピーカもしくはイヤホン(1806)は、一個または複数個のコイル(ユニット)を有する。これに対応して、デジタル変調回路(1804)が出力するデジタル信号の数が決まる。また、一個のコイル(ユニット)は、一般的には1対の端子を有し、その一対の端子それぞれには、1つのデジタル信号に対応するプラス信号線またはマイナス信号線が接続される。
【0062】
第10の実施形態によれば、スピーカもしくはイヤホン(1806)の有するコイル(ユニット)の数は、スピーカ(1809)の有するコイル(ユニット)の数よりも少なくすることができる。これにより、例えば携帯機器等で大音量・高音質の音声を再生する場合は、複数の複数のコイル(ユニット)を持つスピーカを駆動する。一方でイヤホン等を利用する際は、一対などの、より少ない数のデジタル信号を利用することで消費電力の削減を図ることが出来る。
【0063】
図19に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第11の実施形態を示す。ステレオデジタル音声信号(1901a,1901b)から、LとRとを加算処理した後に低域専用のデジタル音声信号(1901c)を生成する。其々のデジタル信号は、L、R及び低域専用のデジタルフィルタ(1902a,1902b,1903)により低域と中高域の2種類の周波数帯域に応じた複数のデジタル信号に分配される。デジタルフィルタから出力される中高域のデジタル信号(1903a,1903b)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(1904a,1904b)によりLとRとのそれぞれ独立に複数のデジタル信号(1905a,1905b)に変換され、中高音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(1906a,1906b)を駆動する。一方、前記デジタルフィルタから出力される低音域のデジタル信号(1903c)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(1904c)により複数のデジタル信号(1905c)に変換され、低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(1906c)を駆動する。一般に低音域の音声信号はステレオのLおよびRに同じように含まれているので、低域の信号に関してLとRとを加算しても問題がない。
図19のような構成をとることで、低音域を担当するデジタル音響システムをLとRとで兼用することが可能となるので、デジタル音響システムの消費電力特性を更に最適化することが可能となる。本実施形態では、ステレオ方式の2ウェイデジタル音響システムに関して効果を述べているが、2ウェイ以外の任意の音響システムにも本実施形態は適用可能であり、2チャンネル(ステレオ)以上の任意の個数の音声情報が入力される任意のデジタル音響システムにも本実施形態は適用可能である。
【0064】
図20に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第12の実施形態を示す。
図20は、2ウェイのスピーカボックス(2000)の断面図と前面図とを示す。スピーカボックスには、中低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2001b)と高音域を受け持つ少なくとも一個以上のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2001a)とが配置されている。また、スピーカボックス内には、デジタル変調回路(2003a)がスピーカ(2001a)の背面に配置され、デジタル変調回路(2003b)がスピーカ(2001b)の背面に配置されている。すなわち、デジタル変調回路がスピーカの近傍に配置されている。そして、スピーカの周波数帯域に応じた複数のデジタル音声信号(2002a,2002b)は、デジタル音声信号を入力し少なくとも一個以上の複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(2003a,2003b)により、複数のデジタル信号(2004a,2004b)に変換され、前記中低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2001b)と高音域を受け持つ少なくとも一個以上のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2001a)を駆動している。
【0065】
このように、デジタル音声信号を入力し少なくとも一個以上の複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路をスピーカ近傍に配置することで、デジタル変調回路が複数のコイル(ユニット)を持つスピーカを駆動する信号線の距離を短くすることが可能となり、スピーカを駆動する際に空間に放射されるEMI(電磁波)の強度を減らすことが出来る。EMIはラジオや携帯無線の電波の受信の際にノイズの原因となるので、車載音響製品や携帯電話に代表される携帯音響機器ではEMIの強度を減らすことが望まれる。
【0066】
ステレオ方式の2ウェイデジタル音響システムに関して効果を上述した。ただし、本実施形態は、2ウェイデジタル音響システムに限定されることはなく、2以外の任意数ウェイの音響システムにも本実施形態は適用可能であり、2チャンネル(ステレオ)以上の任意の個数の音声情報が入力される任意のデジタル音響システムにも本実施形態は適用可能である。
【0067】
図21に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第13の実施形態を示す。
図21は、2ウェイのスピーカボックス(2100)の断面図と、前面図とを示す。スピーカボックスには、中低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2101b)と高音域を受け持つ少なくとも一個以上のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2101a)が配置されている。また、スピーカ(2101a,2101b)の近傍には、デジタル変調回路(2103a,2103b)が集積されたモジュール基板(2110)が配置されている。スピーカの周波数帯域に応じた複数のデジタル音声信号(2102a,2102b)は、デジタル音声信号を入力し少なくとも一個以上の複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(2103a,2103b)により複数のデジタル信号(2104a,2104b)に変換され、前記中低音域を受け持つ複数のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2101b)と高音域を受け持つ少なくとも一個以上のコイル(ユニット)を持つスピーカ(2101a)を駆動している。
【0068】
このように、デジタル変調回路(2103a,2103b)が集積されたモジュール基板(2110)をスピーカ近傍に配置することで、デジタル変調回路が複数のコイル(ユニット)を持つスピーカを駆動する信号線の距離を短くすることが可能となるので、スピーカを駆動際に空間に放射されるEMI(電磁波)の強度を減らすことが出来る。
【0069】
EMIはラジオや携帯無線の電波の受信の際にノイズの原因となるので、車載音響製品や携帯電話に代表される携帯音響機器ではEMIの強度を減らすことが望まれる。
【0070】
本実施形態では、ステレオ方式の2ウェイデジタル音響システムに関して効果を述べているが、2ウェイ以外の任意の音響システムにも本実施形態は適用可能であり、2チャンネル(ステレオ)以上の任意の個数の音声情報が入力される任意のデジタル音響システムにも本実施形態は適用可能である。また、モジュール基板をスピーカのボイスコイルの後やボイスコイルの前面(センターコーン)上に配置することで、コイルと駆動モジュールの距離を小さくすることができる。この距離を最小にすることでEMIの強度を最小にする事が可能である。
【0071】
図22に、複数のデジタル信号により駆動される複数のコイルからなる音響システムの第14の実施形態を示す。まずステレオデジタル音声信号(2201a,2201b)から、Lのデジタル音声信号とRのデジタル音声信号との減算処理により得られるデジタル音声信号(2201c)を生成する。この減算処理により得られるデジタル音声信号(2201c)を「疑似サラウンド専用のデジタル音声信号」という場合がある。それぞれのデジタル信号は、L、R及び疑似サラウンド専用のデジタル音声信号を処理するデジタルフィルタ(2202a,2202b,2202c)によりそれぞれの周波数帯域に応じた複数のデジタル信号に分配される。デジタルフィルタ(2202a,2202b)から出力されるLとRとのデジタル信号(2203a,2203b)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(2204a,2204b)によりLとRとの複数のデジタル信号(2205a,2205b)に変換される。デジタル変調回路(2204a,2204b)は、独立に動作する。一方、デジタルフィルタ(2202c)から出力される疑似サラウンド専用のデジタル信号(2203c)は、デジタル音声信号を入力し複数のデジタル信号を出力するデジタル変調回路(2204c)により複数のデジタル信号(2205c)に変換される。
【0072】
複数のコイル(またはアクチュエーター)を持つスピーカ(2206a,2206b,2206c,2206d)に、前記LおよびRそれぞれのデジタル信号を処理するデジタルフィルタ(2202a,2202b)からのデジタル信号(2205a,2205b)と、疑似サラウンド専用のデジタル信号を処理するデジタルフィルタ(2202c)からのデジタル信号(2203c)と、を組み合わせて入力する。疑似サラウンド専用デジタル信号を処理するデジタルフィルタ(2202c)からのデジタル信号をL及びRのデジタル信号と複数のコイル(アクチュエーター)を持つスピーカで合成する。スピーカでは、疑似サラウンド専用デジタル信号を処理するデジタルフィルタ(2202c)からのデジタル信号とL及びRのデジタル信号とのそれぞれにより発生する音響信号が合成される。これにより、デジタル音響システムの消費電力特性を最適化しつつサラウンド効果を更に擬似的に高めることが可能となる。
【0073】
本実施形態の効果として、ステレオ方式の音源を用いたサラウンド効果に関して上述した。ただし、本実施形態はステレオ方式に限定されることはなく、ステレオ方式以外の多チャンネル方式の任意のサラウンド音響システムにも本実施形態は適用可能である。サラウンド音源からの情報をステレオ主音源からの情報をスピーカで合算することで、正面アレースピーカーだけでサラウンド信号を再生することが可能になる。
【0074】
また本実施形態の効果として、コイルを持つスピーカへデジタル信号を組み合わせて入力することによる効果を上述した。ただし、本実施形態は、コイル以外の電気音響振動変換素子(例えば、静電素子、圧電素子、磁歪素子等のアクチュエーター)にも適用可能である。
【0075】
図23aには、本発明の一実施形態に係る、複数の音源からのデジタル信号が入力される複数のコイルを持つスピーカのためのシステムの構成を示している。入力された複数の音源からの複数のデジタル音声信号(2301a,2301b)は、複数のマルチビットΔΣ変調器(2302a,2302b)により、複数のnビットのデジタル信号(2303a,2303b)に変換される。複数のnビットのデジタル信号は、複数のフォーマッタ(2304a,2304b)により複数のm個の温度計コード(2305a,2305b)に変換された後に、複数の後置フィルタ(2306a,2306b)により複数のコイル(ユニット)を駆動する複数のデジタル駆動信号(2307a,2307b)に変換される。後置フィルタは複数のコイル(ユニット)を駆動する際に問題となる複数のコイル(ユニット)間の製造バラつきに起因するノイズをミスマッチシェーピング法により除去する。後置フィルタ(2306a,2306b)からの信号(2307a,2307b)が駆動回路(2308a2308b)にそれぞれ入力され、駆動回路(2308a2308b)から複数の3値(+1,0,−1)の駆動信号(2309a,2309b)が出力される。本実施形態では1つのデジタル信号に対して4つの駆動信号(A,B,C,D)が出力されている。
【0076】
図23bには、本発明の一実施形態で用いることが可能な、複数の音源に対応した複数のコイルを持つスピーカの実施例が示されている。
図23bにおいて、4つの駆動信号(A,B,C,D)により駆動される駆動コイル(2310)が束ねられて巻かれた振動子が2つ示されている。それぞれの振動子が1枚の振動板(2311)に接続されている。第1の音源からの駆動信号(2309a)の一部の信号(A,B)と第2の音源からの駆動信号(2309b)の一部の信号(A,B)が第1の振動子を駆動し、第2の音源からの駆動信号(2309a)の一部の信号(C,D)と第2の音源からの駆動信号(2309b)の一部の信号(C,D)が第2の振動子を駆動する。
【0077】
それぞれの振動子が1枚の振動板(2311)に接続されているので、第1の音源からの情報と第2の音源からの情報とにより発生する音響信号が、複数の振動子を介して振動板(2311)において合成される。したがって、それぞれのコイルのバラツキを抑えながら複数の音源からの情報を効率よく合成することが可能になる。例えば、第1の音源に主音源の情報を与えて、第2の音源に副音源の情報を与えれば、一つのスピーカを使いながら音場の合成(サラウンド効果)が簡単に可能になる。第1と第2との音源をデジタル的に制御することで、動的にサラウンド効果をオン・オフ制御することも簡単に出来る。また、第1の音源に主音声、第2の音源に副音声(外国語やガイダンス情報)を与えれば、一つのスピーカを使いながら音声情報の合成が簡単に可能になる。
【0078】
本実施例では1枚の振動板に2つの振動子が接続された例を示している。ただし、本発明はこれに限定されることはなく、2つ以上の任意の個数の電気音響振動変換素子(例えば、静電素子、圧電素子、磁歪素子等のアクチュエーター)を使った場合にも本実施形態は適用可能である。