(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エミッタの先端に装着された金属針と、前記金属針に対向配置された引出電極との間に第1電圧を印加しつつ、前記金属針にエッチングガスを供給することによって、前記金属針を先鋭化する先鋭化工程と、
前記金属針と前記引出電極との間に、前記第1電圧よりも高い第2電圧を印加して、前記金属針の先端から原子層を剥離する剥離工程と、
前記金属針と前記引出電極との間に、前記第2電圧よりも高い第3電圧を印加する第3電圧印加工程と、
前記第3電圧を印加する工程の後に、前記金属針の先端が4個の原子で構成されているか否かを判定する第1判定工程と、
前記金属針の先端が4個の原子で構成されていると判定された場合に、前記金属針と前記引出電極との間に、前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加する第4電圧印加工程と、
前記第4電圧を印加する工程の後に、前記金属針の先端が3個の原子で構成されているか否かを判定する第2判定工程と、
を含む、エミッタチップの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなタングステンチップの作製方法では、作製されたタングステンチップは、先端付近(例えば、先端から3〜5層目まで)が細い不安定な構造を有しており、例えばタングステンチップに気体分子が衝突することによって先端部が崩壊する場合があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、安定な構造を有するエミッタチップを製造することができるエミッタチップ製造装置、およびエミッタチップ製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るエミッタチップ製造装置は、
先端に金属針が装着されるエミッタと、
前記金属針に対向配置される引出電極と、
前記金属針と前記引出電極との間に電圧を印加する電源部と、
前記金属針にイオン源ガスを供給するイオン源ガス供給部と、
前記金属針にエッチングガスを供給するエッチングガス供給部と、
前記金属針から放出されるイオンビームを検出して、エミッションパターンを取得するパターン取得部と、
前記電源部および前記エッチングガス供給部を制御する制御部と、
前記エミッションパターンに基づいて、前記金属針の形状が所望の形状となっているか否かを判定する判定部と、
を含み、
前記制御部は、
前記金属針が先鋭化されるように、前記エッチングガス供給部にエッチングガスを供給させ、かつ前記電源部に第1電圧を印加させる第1電圧印加処理と、
前記電源部に、先鋭化された前記金属針の先端から原子層が剥離されるような第2電圧を印加させる第2電圧印加処理と、
前記電源部に、前記第2電圧よりも高い第3電圧を印加させる第3電圧印加処理と、
前記判定部の判定結果に基づいて、前記電源部に、前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加させる第4電圧印加処理と、
を行い、
前記判定部は、
前記第3電圧印加処理の後に、前記エミッションパターンに基づいて、前記金属針の先端が4個の原子で構成されているか否かを判定する第1判定処理と、
前記第4電圧印加処理の後に、前記エミッションパターンに基づいて、前記金属針の先端が3個の原子で構成されているか否かを判定する第2判定処理と、
を行い、
前記第4電圧印加処理では、前記第1判定処理において、前記金属針の先端が4個の原子で構成されていると判定された場合に、前記電源部に、前記第4電圧を印加させる。
【0009】
このようなエミッタチップ製造装置によれば、微小な先端を有し、かつ安定な構造を有するエミッタチップを製造することができる。
【0010】
(2)本発明に係るエミッタチップ製造装置において、
前記第2電圧は、前記金属針の先端からn番目(nは5以上12以下)までの原子層が剥離されるような電圧であってもよい。
【0011】
このようなエミッタチップ製造装置によれば、安定な形状を有し、かつ、特性が良好なエミッタチップを得ることができる。
【0012】
(3)本発明に係るエミッタチップ製造装置において、
前記金属針は、タングステン単結晶である。
【0013】
(4)本発明に係るエミッタチップ製造装置において、
前記第1判定処理において、前記金属針の先端が4個の原子で構成されていないと判定された場合に、前記制御部は、前記電源部に前記第3電圧を上昇させる処理を行い、再度、前記第3電圧印加処理を行ってもよい。
【0014】
このようなエミッタチップ製造装置によれば、微小な先端を有し、かつ安定な構造を有するエミッタチップを製造することができる。
【0015】
(5)本発明に係るエミッタチップ製造装置において、
前記第2判定処理において、前記金属針の先端が3個の原子で構成されていないと判定された場合に、前記制御部は、前記電源部に前記第4電圧を上昇させる処理を行い、再度、前記第4電圧印加処理を行ってもよい。
【0016】
このようなエミッタチップ製造装置によれば、微小な先端を有し、かつ安定な構造を有するエミッタチップを製造することができる。
【0017】
(6)本発明に係るエミッタチップの製造方法は、
エミッタの先端に装着された金属針と、前記金属針に対向配置された引出電極との間に第1電圧を印加しつつ、前記金属針にエッチングガスを供給することによって、前記金属針を先鋭化する先鋭化工程と、
前記金属針と前記引出電極との間に、前記第1電圧よりも高い第2電圧を印加して、前記金属針の先端から原子層を剥離する剥離工程と、
前記金属針と前記引出電極との間に、前記第2電圧よりも高い第3電圧を印加する第3電圧印加工程と、
前記第3電圧を印加する工程の後に、前記金属針の先端が4個の原子で構成されているか否かを判定する第1判定工程と、
前記金属針の先端が4個の原子で構成されていると判定された場合に、前記金属針と前記引出電極との間に、前記第3電圧よりも低い第4電圧を印加する第4電圧印加工程と、
前記第4電圧を印加する工程の後に、前記金属針の先端が3個の原子で構成されているか否かを判定する第2判定工程と、
を含む。
【0018】
このようなエミッタチップの製造方法によれば、微小な先端を有し、かつ安定な構造を有するエミッタチップを製造することができる。
【0019】
(7)本発明に係るエミッタチップの製造方法において、
前記剥離工程では、前記金属針の先端からn番目(nは5以上12以下)までの原子層を剥離してもよい。
【0020】
このようなエミッタチップの製造方法によれば、安定な形状を有し、かつ、特性が良好なエミッタチップを得ることができる。
【0021】
(8)本発明に係るエミッタチップの製造方法において、
前記第1判定工程および前記第2判定工程は、前記金属針のエミッションパターンに基づいて行われてもよい。
【0022】
(9)本発明に係るエミッタチップの製造方法において、
前記第2判定工程において、前記金属針の先端が3個の原子で構成されていると判定された場合に、前記金属針を加熱する加熱工程を含んでいてもよい。
【0023】
このようなエミッタチップの製造方法によれば、清浄な表面の金属針を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0026】
1. エミッタチップ製造装置
まず、本実施形態に係るエミッタチップ製造装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るエミッタチップ製造装置100の構成を説明するための図である。
【0027】
エミッタチップ製造装置100は、
図1に示すように、エミッタ2と、引出電極4と、引出電圧電源6と、加速電圧電源8と、加熱電源10と、冷却装置12と、イオン源ガス供給装置14と、エッチングガス供給装置16と、マイクロチャンネルプレート18と、蛍光板20と、CCDカメラ(パターン取得部)22と、四重極型質量分析計24と、処理部30と、操作部40と、表示部42と、記憶部44と、情報記憶媒体46と、を含んで構成されている。
【0028】
エミッタチップ製造装置100では、冷却装置12によって金属針2aを液体窒素温度付近以下に冷却し、引出電極4と金属針2aとの間に電圧を印加すると共に、金属針2aの先端にイオン源ガス供給装置14からイオン源ガスを供給する。これにより、イオン源ガスは、金属針2aの先端で原子構造に応じてイオン化され、このイオンは加速されてイオンビームとして、マイクロチャンネルプレート18を介して蛍光板20に照射され、金属針2aの先端付近の原子構造が蛍光板20に投影される。すなわち、エミッタチップ製造装置100は、FIM装置として機能することができる。
【0029】
エミッタ2、引出電極4、マイクロチャンネルプレート18、および蛍光板20は、チャンバー1内に配置されている。チャンバー1内は、真空排気装置(図示せず)によって、イオン源ガス、エッチングガスを導入しない場合は、10
−8Pa〜10
−7Paの超高真空に保持されている。
【0030】
エミッタ2は、先端に金属針2aが装着可能となっている。金属針2aは、エミッタチップとして機能する。金属針2aは、冷却装置12によって、例えば、液体窒素温度付近まで冷却される。金属針2aは、例えば、タングステン単結晶からなり、その形状は、<111>方向に延びる針状である。金属針2aの先端径は、50nm程度である。金属針2aは、電解研磨によって形成される。エミッタチップ製造装置100では、この金属針2aを加工することによって、例えば、イオン顕微鏡のイオン源、電子顕微鏡の電子源を構成するエミッタチップを製造することができ、また、走査プローブ顕微鏡の探針を製造することができる。
【0031】
引出電極4は、金属針2a(エミッタ2)に対向配置されている。引出電極4は、金属針2aから放出されるイオンビームを通過させるための貫通孔を有している。
【0032】
引出電圧電源6は、金属針2aと引出電極4との間に電圧を印加することができる。引出電圧電源6は、制御部32によって制御される。
【0033】
加速電圧電源8は、金属針2aに電圧を印加することができる。加速電圧電源8は、例えば、制御部32によって制御される。
【0034】
加熱電源10は、エミッタ2に電流を流して、金属針2aを加熱することができる。
【0035】
冷却装置12は、エミッタ2に装着された金属針2a、および引出電極4を冷却する。冷却装置12は、例えば、液体窒素で満たされた冷媒槽を有している。
【0036】
イオン源ガス供給装置14は、金属針2aにイオン源ガス(例えば、ヘリウム(He)ガス)を供給する。イオン源ガス供給装置14は、制御部32によって制御される。具体的には、制御部32は、イオン源ガス供給装置14のバルブ15を制御することによって、チャンバー1内に導入するガスの量を調整する。
【0037】
エッチングガス供給装置16は、金属針2aにエッチングガス(例えば、窒素(N
2)ガス)を供給する。エッチングガス供給装置16は、制御部32によって制御される。具体的には、制御部32は、エッチングガス供給装置16のバルブ17を制御することによって、チャンバー1内に導入するガスの量を調整する。
【0038】
マイクロチャンネルプレート18は、金属針から放出されるイオンビームを検出することができる。マイクロチャンネルプレート18は、入力側電極(図示せず)および出力側電極(図示せず)を有している。電極間に電圧を印加すると、入力側電極に入射したイオンはチャンネル内壁に衝突し、複数の二次電子を放出する。これらの二次電子はチャンネル内の電界により加速され、チャンネルの内壁への衝突を繰り返して増倍され、電子流は出力側電極で取り出され、増幅された電気信号となる。
【0039】
マイクロチャンネルプレート18で増幅された電気信号(電子)を受けて、蛍光板20には、金属針の先端部分の形状(原子構造)を反映したエミッションパターンが投影される。
【0040】
CCDカメラ22は、窓部21を介して、蛍光板20に投影されたエミッションパターンを取得する。取得されたエミッションパターンの情報は、処理部30に出力される。
【0041】
四重極型質量分析計24は、チャンバー1内の真空度、およびイオン源ガスの圧力、残留気体分子の圧力を測定することができる。
【0042】
操作部40は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部30に出力する。操作部40の機能は、キーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現することができる。
【0043】
表示部42は、処理部30によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部42は、例えば、処理部30により生成された、エミッションパターンを表示する。
【0044】
記憶部44は、処理部30のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。情報記憶媒体46(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部30は、情報記憶媒体46に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体46には、処理部30の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0045】
処理部30は、引出電圧電源6、加速電圧電源8、および加熱電源10を制御する処理、イオン源ガス供給装置14、およびエッチングガス供給装置16を制御する処理、エミッションパターンに基づいて、金属針の形状が所望の形状になっているか否かを判定する処理、等の処理を行うことができる。処理部30の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部30は、制御部32と、判定部34と、を含む。
【0046】
制御部32は、エミッタ2の先端に装着された金属針2aが先鋭化されるように、エッチングガス供給装置16にエッチングガスを供給させ、かつ引出電圧電源6に第1電圧を印加させる処理を行う。また、制御部32は、引出電圧電源6に、先鋭化された金属針2aの先端から原子層が剥離されるような第2電圧を印加させる処理を行う。また、制御部32は、引出電圧電源6に、第2電圧よりも高い第3電圧を印加させる処理を行う。また、制御部32は、判定部34によって、金属針2aの先端が4個の原子で構成されていると判定された場合に、引出電圧電源6に、第3電圧よりも低い第4電圧を印加させる処理を行う。なお、各処理の詳細については後述する。
【0047】
また、制御部32は、イオン源ガス供給装置14に、イオン源ガスを供給させる処理を行うことができる。また、制御部32は、加熱電源10に、エミッタ2に対して電流を供給させる処理を行うことができる。
【0048】
判定部34は、第3電圧印加処理の後に、取得されたエミッションパターンに基づいて、金属針の先端が4個の原子で構成されているか否かを判定する処理と、第4電圧印加処理の後に、取得されたエミッションパターンに基づいて、金属針の先端が3個の原子で構成されているか否かを判定する処理と、を行う。なお、各処理の詳細については後述する。
【0049】
2. エミッタチップ製造装置の処理
次に、本実施形態に係るエミッタチップ製造装置の処理について説明する。
図2は、本実施形態に係るエミッタチップ製造装置100の処理部30による処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図3は、引出電圧が印加される過程を示すグラフである。
図3では、横軸に時間、縦軸に金属針と引出電極との間に印加される電圧を示す。
【0050】
以下の処理を行うにあたり、エミッタチップ製造装置100では、
図1に示すように、エミッタ2の先端に金属針2aが装着される。また、金属針2aは、冷却装置12によって液体窒素温度(77K)付近に冷却される。チャンバー1内は、真空排気装置(図示せず)によって、イオン源ガス、エッチングガスを導入しない場合は、10
−8Pa〜10
−7Paの超高真空に保持される。
【0051】
まず、制御部32は、イオン源ガス供給装置14にイオン源ガス(例えばヘリウムガス)を供給させ、かつ引出電圧電源6に第1電圧V
1(
図3参照)を印加させてエミッションパターンを確認する(S100)。エミッションパターンが確認されている状態でエッチングガス供給装置16にエッチングガス(窒素ガス)を供給させる。これにより、金属針2aにエッチングガス(窒素ガス)が供給される(S101)。
【0052】
ここで、上述のように、イオン源ガスによるエミッションパターンが確認されている状態で金属針2aにエッチングガス(窒素ガス)が供給されると、金属針2aの最先端部の周囲は電界が低いため、窒素分子が吸着する。この吸着した窒素分子は、表面のタングステン原子と反応して、微小な突起を形成する。この突起は、金属針2aに形成された正の電界によって、容易に離脱する。そのため、金属針2aの先端の周囲は、エッチングされていく。一方、金属針2aの最先端部は、電界が強いため、窒素分子は吸着することなしにすぐにイオン化され、飛び去る。そのため、金属針2aの最先端部は、その周囲に比べて、エッチングレートが極めて遅い。したがって、金属針2aの最先端部の周囲から優先的にエッチングされるので、金属針2aは、先鋭化していく(電界誘起窒素エッチング)。所定の時間経過後、制御部32は、エッチングガス供給装置16にエッチングガスの供給を停止させる処理を行う。
【0053】
図4は、窒素エッチングによって先鋭化された金属針2bの先端部を模式的に示す図である。なお、
図4(A)は、金属針2bの先端部の上面図であり、
図4(B)は、金属針2bの先端部の側面図である。電解研磨で形成された金属針2a(先端径が50nm程度)を、窒素エッチングすることにより、
図4に示すように、先端が原子数個で形成されている金属針2bを得ることができる。
図4の例では、金属針2bの先端は、タングステン単結晶の(111)面の原子3個(トライマー)で構成されている。すなわち、金属針2bの先端の層(先端から1層目の層)の平面形状は、三角形(正三角形)である。
【0054】
なお、本処理では、判定部34が、エミッションパターンに基づいて、金属針2aが金属針2bの形状になったか否かを判定し、判定部34によって金属針2bの形状になったと判定された場合に、制御部32が、引出電圧電源6およびエッチングガス供給装置16を制御して、第1電圧V
1の印加およびエッチングガスの供給を停止して次の処理(S102)を行ってもよい。また、第1電圧V
1を印加する時間およびエッチングガスを供給する時間は、例えば、予め設定されていてもよい。第1電圧V
1は、例えば、16kV程度である。
【0055】
次に、制御部32は、引出電圧電源6に第2電圧V
2を印加させる処理を行う(S102)。
図3に示すように、第2電圧V
2は、第1電圧V
1よりも高い。第2電圧V
2が金属針2bと引出電極4との間に印加されることにより、金属針2bの先端は、電界剥離により、金属針2bの先端から6層目までの原子層が剥離される。すなわち、第2電圧V
2は、金属針2bの先端から6層目までの原子層が剥離されるような電圧である。第2電圧V
2は、例えば、18kV程度である。
【0056】
なお、本処理では、第2電圧V
2を印加する時間は、例えば、予め設定されていてもよい。また、判定部34が、エミッションパターンに基づいて、金属針2bの先端から6層目までの原子層が剥離されたか否かを判定し、判定部34によって金属針2bの先端から6層目までの原子層が剥離されたと判定された場合に、制御部32が、引出電圧電源6を制御して、第2電圧V
2の印加を停止して次の処理(S104)を行ってもよい。
【0057】
図5は、電界剥離によって形成された金属針2cの先端部を模式的に示す図である。なお、
図5(A)は、金属針2cの先端部の上面図であり、
図5(B)は、金属針2cの先端部の側面図である。
図6は、金属針2cのエミッションパターンである。
【0058】
金属針2bと引出電極4との間に第2電圧V
2を印加することにより、
図4に示す金属針2bの先端から6層目までの原子層を剥離(電界剥離)して、先端が原子7個で構成された金属針2cを得ることができる。
図5の例では、金属針2cの先端は、タングステン単結晶の(111)面の原子7個で構成されている。すなわち、金属針2cの先端の層(先端から1層目の層)の平面形状は、六角形(正六角形)である。
【0059】
なお、ここでは、金属針2bの先端から6層目までの原子層を剥離する場合について説明したが、これに限定されず、金属針2bの先端からn番目(nは、5以上12以下)までの原子層を剥離すればよい。金属針2bの先端からL番目(Lは、1以上4以下)までの原子層を剥離した場合、金属針の構造が不安定になってしまい、壊れやすくなってしまう。また、金属針2bの先端からM番目(Mは、13以上)までの原子層を剥離した場合、先端の曲率半径が大きくなってしまい、エミッション電流が低くなってしまう。
【0060】
次に、制御部32は、引出電圧電源6に第3電圧V
3+ΔV
αを印加させる処理を行う(S104)。
図3に示すように、第3電圧V
3+ΔV
αは、第2電圧V
2よりも高い。これにより、第2電圧を印加した場合と比べて、金属針の先端付近には、強い電界が形成される。金属針の先端に強い電界が形成されると、金属針2cの先端を構成する原子の一部を蒸発させることができる(電界蒸発)。制御部32は、
図3に示すように、引出電圧電源6に、第3電圧V
3+ΔV
αを所定時間印加させた後、電圧V
3に戻させる処理を行う。すなわち、第3電圧は、パルス状に印加される。電圧V
3は、第2電圧に等しいか第2電圧に近い電圧であって、例えば、18kV程度であり、電圧ΔV
αは、例えば、0.1kV程度である。
【0061】
次に、判定部34は、エミッションパターンに基づいて、金属針の先端の原子が4個か否かを判定する(S106)。エミッションパターンは、CCDカメラ22で撮像されて、処理部30(判定部34)に入力される。判定部34は、例えば、処理S104の後に取得されたエミッションパターンと、予め取得していた金属針の先端の原子が4個のときのエミッションパターンを比較して、判定を行う。
【0062】
判定部34が、金属針の先端の原子の数が4個でないと判定した場合(S108でNo)、処理部30は、第3電圧を印加した回数(S104の処理を行った回数)が3回以上か否かを判定する。そして、処理部30が、印加回数が3回以下と判定した場合(S110でNo)、制御部32は、再び引出電圧電源6に第3電圧V
3+ΔV
αを印加させる処理を行い(S104)、判定部34は、金属針の先端の原子の数が4個か否かの判定を行う(S106)。
【0063】
そして、S104、S106、S108、S110の処理を繰り返して、例えば、印加回数が3回以上になると、処理部30は、印加回数が3回以上(S110でYes)と判定し、次に、印加回数が6回以上か否かの判定を行う(S112)。処理部30が、印加回数が6回以上ではないと判定した場合(S112でNo)、制御部32は、引出電圧電源6に第3電圧をV
3+ΔV
αからV
3+ΔV
2αに上昇させて第3電圧をV
3+ΔV
2αとさせる処理を行い(S113a)、その後、第3電圧V
3+ΔV
2αを印加させる処理を行う(S104)。これにより、第3電圧としてV
3+ΔV
αを印加した場合と比べて、金属針の先端付近には、強い電界が形成される。
【0064】
そして、S104、S106、S108、S110、S112を繰り返して、印加回数が6回以上になると、処理部30は、印加回数が6回以上と判定する(S110でYes、S112でYes)。処理部30が、印加回数が6回以上と判定した場合(S110でYes、S112でYes)、制御部32は、引出電圧電源6に第3電圧をV
3+ΔV
2αからV
3+ΔV
3αに上昇させて第3電圧をV
3+ΔV
3αとさせる処理を行い(S113b)、その後、第3電圧V
3+ΔV
3αを印加させる処理を行う(S104)。これにより、第3電圧としてV
3+ΔV
2αを印加した場合と比べて、金属針の先端付近には、強い電界が形成される。
【0065】
図7は、金属針2cの先端の原子を電界蒸発させて形成された金属針2dの先端部を模式的に示す図である。なお、
図7(A)は、金属針2dの先端部の上面図であり、
図7(B)は、金属針2dの先端部の側面図である。
図8は、金属針2dのエミッションパターンである。
【0066】
金属針2cと引出電極4との間に第3電圧を印加することによって、
図5に示す金属針2cの先端を構成する7個の原子のうち3個を蒸発させて、
図7に示すように、先端が原子4個で構成されている金属針2dを得ることができる。すなわち、金属針2dの先端は、タングステン単結晶の(111)面の原子4個で構成されている。
【0067】
次に、判定部34が、金属針の先端の原子の数が4個と判定した場合(S108でYes)、制御部32は、引出電圧電源6に第4電圧V
4+ΔV
βを印加させる処理を行う(S114)。第4電圧V
4+ΔV
βは、S108でYesとなった時の電圧、例えば、
図3に示すように、第3電圧の最大値V
3+ΔV
3αよりも低い電圧である。原子3個を蒸発させた第3電圧の最大値V
3+ΔV
3αよりも高い電圧を印加すると、原子が2個以上蒸発して所望の先端形状(原子3個)が得られない可能性が高いためである。制御部32は、
図3に示すように、引出電圧電源6に、第4電圧V
4+ΔV
βを所定時間印加させた後、電圧V
4に戻させる処理を行う。すなわち、第4電圧は、パルス状に印加される。電圧V
4は、第2電圧に等しい電圧か第2電圧に近い電圧であって、例えば、18kV程度であり、電圧ΔV
βは、例えば、0.1kV程度である。
【0068】
次に、判定部34は、エミッションパターンに基づいて、金属針の先端の原子の数が3個か否かを判定する(S116)。判定部34は、例えば、処理S114の後に取得されたエミッションパターンと、予め取得していた金属針の先端の原子3個のときのエミッションパターンを比較して、判定を行う。
【0069】
判定部34が、金属針の先端の原子の数が3個でないと判定した場合(S118でNo)、処理部30は、印加回数(S114の処理を行った回数)が3回以上か否かを判定する。そして、処理部30が、印加回数が3回以上ではないと判定した場合(S120でNo)、制御部32は、再び引出電圧電源6に第4電圧V
4+ΔV
βを印加させる処理を行い(S114)、判定部34は、金属針の先端の原子の数が3個か否かの判定を行う(S116)。
【0070】
そして、S114、S116、S118、S120の処理を繰り返して、印加回数が3回以上になると、処理部30は、印加回数が3回以上(S120でYes)と判定し、制御部32は、引出電圧電源6に第4電圧をV
4+ΔV
βからV
4+ΔV
2βに上昇させて第4電圧をV
4+ΔV
2βとさせる処理を行い(S122)、その後、第4電圧V
4+ΔV
2βを印加させる処理を行う(S114)。これにより、第4電圧としてV
4+ΔV
βを印加した場合と比べて、金属針の先端付近には、強い電界が形成される。なお、第4電圧V
4+ΔV
2βは、S108でYesとなった時の電圧、例えば、
図3に示すように、第3電圧の最大値V
3+ΔV
3αよりも低い電圧である。
【0071】
図9は、金属針2dの先端の原子を電界蒸発させて形成された金属針2eの先端部を模式的に示す図である。なお、
図9(A)は、金属針2eの先端部の上面図であり、
図9(B)は、金属針2eの先端部の側面図である。
図10は、金属針2eのエミッションパターンである。
【0072】
金属針2dと引出電極4との間に第4電圧を印加することによって、
図7に示す金属針2dの先端を構成する4個の原子のうち1個を蒸発させて、
図9に示すように、先端が原子3個で構成されている金属針を得ることができる。すなわち、金属針2eの先端は、タングステン単結晶の(111)面の原子3個で構成されている。このように、先端を構成する原子の数が4個の金属針から原子1個を蒸発させて先端を構成する原子の数が3個の金属針を形成することによって、例えば、先端を構成する原子の数が4個よりも多い金属針から、先端を構成する原子の数が3個の金属針を得る場合と比べて、最後に印加する電圧(第4電圧)を小さくすることができる。これにより、大きな電圧が印加されて金属針の先端が壊れることを抑制することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0073】
判定部34が、金属針の先端の原子の数が3個と判定した場合(S118でYes)、処理部30は、加熱電源10に、エミッタ2に対して電流を供給させる処理を行う(S124)。これにより、金属針2eが加熱されて、金属針2eからガスが放出され(degas)、清浄な表面を得ることができる。処理部30は、処理S124を行った後、処理を終了する。
【0074】
エミッタチップ製造装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0075】
エミッタチップ製造装置100では、制御部32が、引出電圧電源6に、第2電圧V
2を印加させる処理を行った後に、第3電圧、および第4電圧を印加させる処理と行う。これにより、先鋭化された金属針2b(
図4参照)から、電界蒸発によって金属針の先端の原子層を剥離して金属針2c(
図5参照)を形成し、その後、先端の原子の一部を蒸発させて金属針2eを得ることができる。
【0076】
このようにして得られた金属針2eは、
図9に示すように、先端が原子3個で構成されているため、例えば、イオン顕微鏡のイオン源を構成するエミッタチップや電子顕微鏡の電子源を構成するエミッタチップ等として用いられた場合に、微小な径のビームを得ることができる。また、金属針2eを走査プローブ顕微鏡の探針として用いた場合には、良好な分解能を得ることができる。さらに、金属針2eは、例えば、窒素エッチングによって先端が金属原子3個で構成された金属針2b(
図4参照)と比べて、先端から2層目以下の径(<111>と垂直な方向の大きさ)が大きいため、安定な構造を有している。このように、エミッタチップ製造装置100によれば、金属針の先端を原子3個にすることができ、かつ、例えば窒素エッチングで形成した場合と比べて、先端から2層目以降の径を大きくできるため、微小な先端を有し、かつ安定な構造を有するエミッタチップを製造することができる。
【0077】
図11は、窒素エッチングで形成された金属針2bの先端部(
図4参照)の結晶構造モデルの一例である。
図12は、上述した本実施形態に係る処理により形成された金属針2eの先端部(
図9参照)の結晶構造モデルの一例である。
【0078】
図11に示す金属針2bの先端部では、先端から1層目が原子3個で構成された三角形状であり、先端から2層目が原子6個で構成された三角形状である。そのため、金属針2bの先端は、三角錐状となっており、不安定な構造である。これに対して、
図12に示す金属針2eの先端部は、先端から1層目が原子3個で構成された三角形状であり、先端から2層目が原子19個で構成された六角形状である。したがって、金属針2eの先端部は、安定な構造を有する。なお、ここでの各層の形状は、平面形状(<111>方向からみた形状)である。
【0079】
エミッタチップ製造装置100では、制御部32が、引出電圧電源6に、第2電圧V
2よりも高い第3電圧を印加させる処理を行い、判定部34が、金属針の先端が4個の原子で構成されているか否かを判定する。また、制御部32は、引出電圧電源6に、第3電圧よりも低い第4電圧を印加させる処理を行う。これにより、金属針の先端の原子の数を、4個にした(
図7に示す金属針2d)後に、金属針の先端の原子の数を3個(
図9に示す金属針2e)にすることができる。そのため、例えば、先端を構成する原子の数が4個よりも多い金属針から、先端を構成する原子の数が3個の金属針を得る場合と比べて、歩留まりを向上させることができる。
【0080】
エミッタチップ製造装置100では、第2電圧V
2は、金属針の先端からn番目(nは5以上12以下)までの原子層が剥離されるような電圧であることができる。窒素エッチングで形成された金属針2b(
図4参照)の先端からL番目(Lは、1以上4以下)までの原子層を剥離した場合、金属針の構造が不安定になってしまい、壊れやすくなってしまう。また、金属針2bの先端からM番目(Mは、13以上)までの原子層を剥離した場合、先端の曲率半径が大きくなってしまい、エミッション電流が低くなってしまう。このように、第2電圧V
2を、金属針の先端からn番目(nは5以上12以下)までの原子層が剥離されるような電圧とすることにより、安定な形状を有し、かつ、特性が良好なエミッタチップを得ることができる。
【0081】
エミッタチップ製造装置100では、処理部30が、加熱電源10に、エミッタ2に対して電流を供給させる処理を行う。これにより、金属針2eが加熱されて、金属針2eからガスが放出され(degas)、清浄な表面を得ることができる。本処理は、特に、金属針2eを電界放出型の電子顕微鏡の電子源として用いる場合に有効である。
【0082】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0083】
例えば、上述した実施形態では、金属針は、タングステン単結晶からなり、その形状は、<111>方向に延びる針状であったが、金属針は、<310>方向あるいは<100>方向に延びる針状であってもよい。
【0084】
また、上述した実施形態では、
図2に示すように、印加回数に応じて、第3電圧を、V
3+ΔV
αからV
3+ΔV
3αまで段階的に上昇させる処理を行ったが、印加回数に応じて、第3電圧を、V
3+ΔV
αからV
3+ΔV
3α以上に段階的に上昇させる処理を行ってもよい。すなわち、例えば、印加回数が9回以上の場合に、第3電圧をV
3+ΔV
4αとしてもよい。
【0085】
また、上述した実施形態では、
図2に示すように、印加回数に応じて、第4電圧を、V
4+ΔV
βからV
4+ΔV
2βまで段階的に上昇させる処理を行ったが、印加回数に応じて、第4電圧を、段階的に、V
4+ΔV
2β以上に上昇させてもよい。すなわち、例えば、印加回数が6回以上の場合に、第4電圧をV
4+ΔV
3βとしてもよい。なお、第4電圧V
4+ΔV
3βは、第3電圧の最大値よりも小さい値とする。
【0086】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。