(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸と一体回転するシンクロハブと、第1のスプライン歯を備えて前記シンクロハブと一体回転かつ軸方向に相対移動可能なカップリングスリーブと、被選択ギアと一体回転し第2のスプライン歯を備えて、該第2のスプライン歯が前記第1のスプライン歯と噛み合うことにより前記カップリングスリーブと連結して一体回転可能なクラッチギアと、前記第1のスプライン歯と噛み合い可能な第3のスプライン歯を備え、カップリングスリーブの中立位置から噛み合い方向への移動に際してクラッチギア側との間の押付力により前記カップリングスリーブとクラッチギアの回転を同期させるボークリングとを有する変速機の同期装置において、
前記カップリングスリーブの前記クラッチギアとの噛み合いを解除する方向の中立位置への移動の間、前記ボークリングとクラッチギア側との間に押付力を生じさせる解除時押付力生成手段を有して、
前記解除する方向への移動の間、所定の駆動力が前記被選択ギアへ伝達され、
前記カップリングスリーブには押付部材が保持され、
前記カップリングスリーブの噛み合い方向への移動に伴って前記押付部材が前記ボークリングを押すことによりクラッチギア側との間に押付力を生じ、
前記解除時押付力生成手段は、カップリングスリーブの噛み合い解除方向の移動に伴って前記押付部材が前記ボークリングを押すことによりクラッチギア側との間に押付力を生じさせるよう構成されていることを特徴とする変速機の同期装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態における同期装置は、車両に搭載された変速機に組み込まれたものである。
図1は駆動系全体を示す概念図である。
例えばエンジンなどの駆動源1に連結された主軸2に、被選択ギアとしての入力ギア3(3a、3b)が相対回転可能に支持されるとともに、これらの入力ギア3が主軸2と一体回転するように主軸2と各入力ギア3間を連結し、または連結を解放する同期装置10(10a、10b)がそれぞれに設けられている。
入力ギア3a、3bは互いに径が異なり、主軸2と平行に配置されたカウンタ軸4に固定された対応する中間ギア5(5a、5b)と噛み合う。
カウンタ軸4に固定された出力ギア6がリングギア7と噛合って回転が減速され、デファレンシャルギア8を経てホイールの駆動軸9a、9bへ出力される。
同期装置10の操作により、入力ギア3aと中間ギア5a、または入力ギア3bと中間ギア5bとが選択的に噛み合い、変速比が切り替えられる。
入力ギア3、中間ギア5および同期装置10により変速機が構成される。
【0012】
図2は同期装置を示す縦断面図である。以下では、同期装置10a、10bを代表して同期装置の参照番号を単に10とし、同様に、入力ギアの参照番号も3とする。
同期装置10は、駆動源1からの回転駆動力が入力される主軸2に対して一体回転するように取り付けられたシンクロハブ20と、スプライン歯を備えてシンクロハブ20に対し一体回転かつスライド可能なカップリングスリーブ30と、スライドさせたカップリングスリーブ30と噛み合い可能なスプライン歯を備えるクラッチギア40と、クラッチギア40と一体回転するコーン部材50と、シンクロハブ20とクラッチギア40の間に配置されて、コーン部材50を介してクラッチギア40の回転との同期をとる第1、第2ボークリング60、70と、カップリングスリーブ30に摺動可能に保持された押付部材80と、押付部材80と当接可能に第2ボークリング70に接続した付勢部材90とを有している。
【0013】
シンクロハブ20は内ハブ部21、外ハブ部23およびその間をつなぐディスク部22を有し、内ハブ部21においてスプライン結合により主軸2に取り付けられる。外ハブ部23は軸方向所定長さを有し、その外周にカップリングスリーブのスプライン歯31と噛み合うスプライン歯25を備えている。
ディスク部22のクラッチギア40側の壁面には第1ボークリング60と当接可能なストッパ27が形成されている。
【0014】
カップリングスリーブ30は内周部に上述のスプライン歯31を備えるとともに、外周部に不図示のシフトフォークが嵌る溝34が形成されている。スプライン歯31の両端には径方向内側から見たとき先端を頂点として山形をなすチャンファ(面取り)32(
図3参照)が施されている。
所定の隣接するスプライン歯31間には押付部材80を保持する保持部36が形成されている。
スプライン歯31の軸方向両端から所定範囲はそれぞれ山(小径)の高さを低く(拡径)して、後述する第1ボークリング60およびクラッチギア40の各スプライン歯、とくにクラッチギア40のスプライン歯44との噛み合いが引っ掛かりなく滑らかになるようにしてある。
なお、シンクロハブ20のスプライン歯25との間でも所定の隙間ができるように、カップリングスリーブ30およびシンクロハブ20のそれぞれの公差を管理している。
【0015】
クラッチギア40は内ハブ部41、外ハブ部43およびその間をつなぐディスク部42を有して、外ハブ43の外周にスプライン歯44を備え、内ハブ部41においてスプライン結合により入力ギア(被選択ギア)3に取り付けられている。スプライン歯44のカップリングスリーブ30に対向する端には、カップリングスリーブのスプライン歯31と同様のチャンファ45が施されている。
コーン部材50はクラッチギア40から軸方向に離間するにしたがっていずれも縮径する方向に傾斜する外コーン面52、内コーン面53を本体部51の外周および内周に備えており、周方向複数箇所において本体部51のクラッチギア40側端面から延びる爪55をクラッチギア40のディスク部42に形成された係合穴47に係合させている。
【0016】
第1ボークリング60は筒部61と、筒部61のクラッチギア40側の端近傍から径方向外方へ延びるリング壁62と、筒部61のシンクロハブ20側の端から径方向内方へ延びるディスク部63とからなって、概略クランク形状の断面を有する。リング壁62の外周部にカップリングスリーブ30のスプライン歯31と噛み合い可能なスプライン歯64を備え、ディスク部63の内周には径方向内方に向かう突起66が周方向複数箇所に設けられている。
スプライン歯64はカップリングスリーブ30の隣接する2つのスプライン歯31間に進入可能に対向位置関係を略整合させてあり、カップリングスリーブ30に対向する端にはチャンファ65が施されている。
【0017】
筒部61のリング壁62よりシンクロハブ20寄りの部分は、シンクロハブの外ハブ部23の内側に位置するように設定してある。筒部61の内壁はコーン部材50の外コーン面52と対応する内コーン面67となっている。
第1ボークリング60は、クラッチギア40との間に所定の間隙が設定されて、クラッチギア40方向へ変位可能となっている一方、そのディスク部63がシンクロハブ20のディスク部22に形成されたストッパ27に当接することにより、クラッチギア40側からの離間限度が規制されている。
【0018】
図2はカップリングスリーブ30が中立位置にある状態を示しており、このときコーン部材50と第1ボークリング60とは対応する外コーン面52と内コーン面67間で互いに滑っており、回転駆動力の伝達はない。
この状態から第1ボークリング60が図中左方(クラッチギア40方向)へ変位して、内コーン面67が外コーン面52に押し付けられると摩擦力が発生して、コーン部材50が第1ボークリング60に引きずられるように設定されている。詳細は後述する。
【0019】
第2ボークリング70は筒部71と、筒部71より径方向内方へ膨出したボス部72とからなり、筒部71の外壁はコーン部材50の内コーン面53と対応する外コーン面73となっている。ボス部72はシンクロハブ20側へ張り出しており、その外周部には外コーン面73に隣接して第1ボークリング60の突起66を受容する切り欠き凹部74が形成されて、突起66と切り欠き凹部74の係合により第1ボークリング60と第2ボークリング70は常時一体回転するようになっている。
第2ボークリング70はその筒部71がクラッチギア40の内ハブ部41とコーン部材50との間を延びて先端がクラッチギア40のディスク部42に当接することにより左方が位置規制される一方、クラッチギア40から離間する方向には所定距離変位しても第1ボークリング60の突起66と軸方向に干渉しないように切り欠き凹部74の軸方向長さが設定してある。
カップリングスリーブ30が中立位置において、コーン部材50と第1ボークリング60間と同様に、コーン部材50の内コーン面53と第2ボークリング70の外コーン面73の間も互いに滑っている。
【0020】
図3は押付部材80がカップリングスリーブ30の保持部36に嵌め込まれた使用状態を内径側から見た図、
図4は同じく使用状態を軸方向から見た図、そして、
図5は使用状態の押付部材80のみを抜き出して示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるC−C部断面図である。なお、(a)には形状説明のため参照する主軸2の軸方向も示し、(c)には仮想線で自由状態を併せて示している。
図3、
図4に示すように、カップリングスリーブ30の保持部36は、隣接する2つのスプライン歯31の対向する歯面をその中間を通る半径線Rと平行に形成して保持壁37、37とし、周方向等間隔に3箇所設けてある。
【0021】
図5に示すように、押付部材80は折り曲げ部81を挟んで対称の展開形状を有するばね板材をU字状に折り曲げてなる。折り曲げ部81を含む所定領域を押付部82とし、押付部82の先端には押付部の幅よりも軸方向両側に延びる嵌め込み部83、83がつながっている。
折り曲げ部81を挟む両側の押付部82および嵌め込み部83がそれぞれ互いに略並行になるまで折り曲げて、嵌め込み部83をカップリングスリーブ30の保持部36に嵌め込むと、折り曲げによるばね力によって各嵌め込み部83は保持壁37に押し付けられてカップリングスリーブ30に保持される。
【0022】
図3に示すように、カップリングスリーブ30の保持壁37は、軸方向クラッチギア40側の略1/3がスプライン歯31の軸方向端へ進むほど対向面が互いに近づくテーパ面38をなしており、残部は軸方向と平行な平行部39をなしている。
一方、
図5に示すように、押付部材80の対向する2枚の嵌め込み部83は、それぞれ軸方向中間部を平坦面85とし、両端部を平坦面85に続いて内方(対向側)へ引っ込んだ凹部86と、該凹部に連続して平坦面85よりも外方へ膨らんだ凸部87に成形されている。
これにより、対応する凸部87、87間が嵌め込み部83の最大幅部となっている。
【0023】
押付部材80は、
図2に示すカップリングスリーブ30の中立位置において、
図3に示すように、嵌め込み部83のクラッチギア40側の端の凸部87、とくにその凹部86につながる斜面がカップリングスリーブ30のチャンファ32面に乗るように、カップリングスリーブの保持部36に嵌め込まれる。
この状態において、カップリングスリーブ30がクラッチギア40方向へスライドすると、押付部材80は凸部87がチャンファ32面に押されてカップリングスリーブ30とともに移動する。
カップリングスリーブ30の中立位置において、押付部材80の押付部82はそのクラッチギア40側の端縁が、シンクロハブ20のストッパ27に当接した第1ボークリング60のディスク部63から軸方向に所定量離間しているように設定してある。
【0024】
また、付勢部材90は第2ボークリング70のボス部72の内径縁にカシメ固定されたリング部91からカップリングスリーブ30の保持部36に嵌め込まれた各押付部材80に向かって径方向に3本のアーム片92を延ばしている。そして、アーム片92の先端は湾曲面を備える当接部95とされ、カップリングスリーブ中立位置における押付部材80の押付部82におけるクラッチギア40と反対側の端縁に当接する。アーム片92は当接部95に続いてリング部91側に押付部82の下面近傍を軸方向に延びる規制部94を有している。
【0025】
なお、シンクロハブ20には、押付部材80との干渉を避け、また付勢部材90のアーム片92の通過を許すため、これらに対応する所定範囲のディスク部22から外ハブ部23に切り欠き28を設けている。
また、この切り欠き28内において、第1ボークリング60はリング壁62よりシンクロハブ20側の筒部61の外周面を押付部材80の嵌め込み部83の下縁近傍まで膨出させた膨出部68を有しており、シンクロハブ20の外ハブ部23の切り欠き端面と係合可能になっているとともに、付勢部材90の規制部94と協同して押付部材80の内方への落下を防止する。
【0026】
つぎに、上記構成によるシンクロハブ20−クラッチギア40間の連結・解放過程の動作について、
図6、
図7を用いて説明する。図中、上段はシンクロハブ20からクラッチギア40に至る伝達系を透視して示す断面図、下段はカップリングスリーブ30と第1ボークリング60の各スプライン歯の関係および押付部材80の嵌め込み部83と保持部36の関係を示し、
図3におけるA−A線に沿った断面図である。なお、上段の図においては煩雑を避けるため各スプライン歯のチャンファの境界線は省略してある。
以下、この連結・解放過程では、軸方向にそって相対的にクラッチギア40側を前方、シンクロハブ20側を後方として説明する。
【0027】
まず
図6の(a)は、カップリングスリーブ30が中立位置にある状態を示し、第1ボークリング60のスプライン歯64とカップリングスリーブ30のスプライン歯31とは互いに離間している。
なお、第1ボークリング60は、カップリングスリーブ30の保持部36に対応する周方向所定範囲には、押付部材80の嵌め込み部83との干渉を避けるため、スプライン歯を備えていない。
連結のため、カップリングスリーブ30の溝34に嵌ったシフトフォークが操作されて、カップリングスリーブ30がこの位置から前方(クラッチギア40方向)へスライドを開始する。
押付部材80は、その嵌め込み部83前端の凸部87の凹部86につながる斜面がスプライン歯31の前端のチャンファ32面に押されて、前述のように、カップリングスリーブ30と一体に前方へ移動する。
押付部材80の押付部82の後端縁は付勢部材90の当接部95から離れる。((b)参照)
【0028】
カップリングスリーブ30のスライドが進むと、
図6の(b)に示すように、カップリングスリーブ30と一体に移動した押付部材80の押付部82の前端縁が第1ボークリング60のディスク部63に当接する。
この時点ではまだ第1ボークリング60のスプライン歯64とカップリングスリーブ30のスプライン歯31とは離間している。
一方、第2ボークリング70はその筒部71がクラッチギア40のディスク部42に当接して移動が規制されるので、これ以後、カップリングスリーブ30がスライドすると第1ボークリング60が押付部82により押され、コーン部材50が第1ボークリング60と第2ボークリング70とに挟圧されて、第1ボークリング60(および第2ボークリング70)とコーン部材50の間に押付力が生じ、その結果摩擦力が発生する。
摩擦力が生じるまでのわずかな移動の後は第1ボークリング60と押付部材80の移動は止まるので、このあとはカップリングスリーブ30のスプライン歯31のチャンファ32面が嵌め込み部83の前端の凸部87を押し込み、当該凸部87はチャンファ32面から保持部36における保持壁37のテーパ面38へ乗り移る。
【0029】
こうして、
図6の(c)に示すように、カップリングスリーブ30のみが前方へスライドして第1ボークリング60のスプライン歯64とカップリングスリーブ30のスプライン歯31とが噛み合う。
この際、スプライン歯31とスプライン歯64の周方向位置が多少ずれていても、互いのスプライン歯のチャンファ32、65(
図3参照)の接触により位置合わせが行われ、滑らかにスプライン歯同士が噛み合う。
この間、押付部材80は置き去りにされて相対的に後方へ向かって移動するが、その凸部87がばね力のテーパ面38による後方への付勢成分を受けて滑らかな移動となる。
【0030】
コーン部材50が摩擦力により第1ボークリング60(および第2ボークリング70)に引きずられてクラッチギア40が第1ボークリング60と回転同期する。
したがって、
図6の(d)に示すように、第1ボークリング60と係合状態でカップリングスリーブ30をさらにスライドさせることにより、そのスプライン歯31をスプライン歯と噛み合わせてクラッチギア40と連結し、変速が完了する。
カップリングスリーブ30のスプライン歯31とシンクロハブ20のスプライン歯25は互いの噛み合いを保持しているから、これにより、主軸2の回転がシンクロハブ20、カップリングスリーブ30、クラッチギア40を経て入力ギア3に伝達されることになる。
なお、押付部材80は押付部82が第1ボークリング60のディスク部63に当接したままであり、嵌め込み部83の前端の凸部87が保持壁37の平行部39と接触する位置まで相対移動している。
【0031】
次に、解放する場合は、シフトフォークを操作してカップリングスリーブ30を後方へスライドさせる。
押付部材80は当初カップリングスリーブ30とともに移動して、押付部82が第1ボークリング60との当接位置から離間する。しかし、カップリングスリーブ30がクラッチギア40との噛み合いから外れる前に、押付部82の後端縁がアーム片92の当接部95と当接して付勢部材90を後方へ押す。(
図7の(e)参照)
これにより、押付部82が第1ボークリング60を前方へ押す力は消滅するが、付勢部材90が固定された第2ボークリング70が後方へ押される。
第1ボークリング60はそのディスク部63がシンクロハブ20のストッパ27に当接して移動が規制されるので、コーン部材50が第1ボークリング60と第2ボークリング70とに挟圧されることになり、第1ボークリング60(および第2ボークリング70)とコーン部材50の間に押付力を生じる。
【0032】
図7の(e)はカップリングスリーブ30がクラッチギア40との噛み合いから外れたばかりの状態を示し、押付部材80の嵌め込み部83における前端の凸部87は保持壁37の平行部39とテーパ面38の接続部近傍に接触している。
カップリングスリーブ30とクラッチギア40の噛み合いはなくなっているが、第1ボークリング60とコーン部材50間には摩擦力が生じており、第1ボークリング60がまだカップリングスリーブ30と連結状態にあるので、コーン部材50と係合するクラッチギア40には継続して駆動力が伝達される。
【0033】
カップリングスリーブ30の後方へのスライドにしたがって、
図7の(f)に示すように、第1ボークリング60とカップリングスリーブ30の噛み合いも外れるが、押付部82の後端縁がアーム片の当接部95を押して付勢部材90を後方へ付勢し続けるから、第1ボークリング60(および第2ボークリング70)とコーン部材50の間に押付力による摩擦力が保持されている。そして、第1ボークリング60の膨出部68がシンクロハブ20の外ハブ部23と係合することにより、主軸2からシンクロハブ20、第1ボークリング60(および第2ボークリング70)、コーン部材50、およびクラッチギア40を経て入力ギア3に所定の駆動力が伝達される。この間、押付部材80の凸部87は保持壁37のテーパ面38上を滑って相対移動する。
【0034】
第1ボークリング60とカップリングスリーブ30の噛み合いが外れたあとカップリングスリーブ30の中立位置直前には、
図7の(g)に示すように、嵌め込み部83前端の凸部87が、チャンファ32面に移る保持壁37のテーパ面38の頂点に接触しているように設定してある。
この位置までテーパ面38の傾斜にしたがって2枚の嵌め込み部83に対する圧縮度合いが強まるので、押付部材80(押付部82)による付勢部材90を後方へ付勢する力も増大する。
【0035】
このまま、嵌め込み部83の凸部87がテーパ面38の頂点を乗り越えるまでカップリングスリーブ30をスライドさせた状態が
図7の(h)である。
凸部87はテーパ面38の頂点を越えてスプライン歯31の傾斜したチャンファ32面に滑り落ちる。押付部材80の押付部82が付勢部材90を付勢してその当接部95を後方へ変位させている。
【0036】
ここまでカップリングスリーブ30をスライドさせたことにより、解放操作が完了するので、シフトフォークを解放して自由状態とする。
そうすると、押付部材80を介して付勢部材90を付勢していたカップリングスリーブ30からの力が消滅するので、付勢部材90はその当接部95を後方へ変位させていた状態から自由状態へ戻る。この結果、嵌め込み部83の凸部87から凹部86につながる斜面がチャンファ32面に接したまま、押付部材80とカップリングスリーブ30は一体となって若干押し戻されて、
図6の(a)に示した状態に戻る。
【0037】
以上により、カップリングスリーブ30がクラッチギア40との噛み合いから外れたあとも、カップリングスリーブ30が中立位置に戻る直前まで、押付部材80が付勢部材90を後方へ付勢することにより、第1ボークリング60と第2ボークリング70の間にコーン部材50を挟圧して互いの間に押付力を生じさせ、コーン部材50と係合するクラッチギア40に継続して駆動力が伝達される。そして完全に中立位置に戻った後は押付力は消滅してクラッチギアへの駆動力の伝達はなくなる。
【0038】
本実施の形態では、主軸2が発明における回転軸に該当し、スプライン歯31が第1のスプライン歯に、スプライン歯44が第2のスプライン歯に、そしてスプライン歯64が第3のスプライン歯に該当する。
また、入力ギア3が被選択ギアに該当し、押付部材80、第2ボークリング70および付勢部材90が解除時押付力生成手段を構成している。
膨出部68が係合部に該当する。
【0039】
実施の形態は以上のように構成され、主軸2と一体回転するシンクロハブ20と、スプライン歯31を備えてシンクロハブ20と一体回転かつ軸方向に相対移動可能なカップリングスリーブ30と、入力ギア3と一体回転しスプライン歯44を備えて、該スプライン歯44がスプライン歯31と噛み合うことによりカップリングスリーブ30と連結して一体回転可能なクラッチギア40と、スプライン歯31と噛み合い可能なスプライン歯64を備え、カップリングスリーブ30の中立位置から噛み合い方向への移動に際してクラッチギア40側との間の押付力によりカップリングスリーブ30とクラッチギア40の回転を同期させる第1ボークリング60とを有する変速機の同期装置10において、カップリングスリーブ30のクラッチギア40との噛み合いを解除する方向の中立位置への移動の間、押付部材80、第2ボークリング70および付勢部材90の組み合わせにより第1、第2ボークリング60、70とクラッチギア40側との間に押付力を生じさせるものとしたので、カップリングスリーブ30を中立位置へ戻す際カップリングスリーブ30とクラッチギア40との噛み合いが外れても、第1ボークリング60とクラッチギア40側との間に発生する押付力によって所定の駆動力が入力ギア3へ伝達されるから、駆動力が一気に抜けてしまって違和感を与えることが防止される
。
【0040】
とくに、カップリングスリーブ30に押付部材80が保持されて、カップリングスリーブ30の噛み合い方向への移動に伴って押付部材80が第1ボークリング60を押すことによりクラッチギア側との間に押付力を生じ、中立位置へ戻す際には、カップリングスリーブ30の移動に伴って押付部材80が第2ボークリング70を押すことによりクラッチギア側との間に押付力を生じさせるよう構成したので、押付部材80がカップリングスリーブ30の噛み合い方向への移動の際に第1ボークリング60とクラッチギア40側の間に押付力を生じさせるのみならず、噛み合い解除方向の移動に際しての押付力発生の機能も兼ねており、部品点数の増大を抑えている
。
【0041】
また、クラッチギア40には一体回転かつ軸方向に相対移動可能にコーン部材50が付設され、該コーン部材50は外周に外コーン面52、内周に内コーン面53を備え、第1ボークリング60はコーン部材50の外コーン面52に対応する内コーン面67を備え、第2ボークリング70はコーン部材50の内コーン面53に対応する外コーン面73を備えて、第1ボークリング60を噛み合い方向へ押すことによりまたは第2ボークリング70を噛み合い解除方向へ押すことにより、それぞれ第1ボークリング60と第2ボークリング70との間にコーン部材50を挟圧して前述の押付力を生じさせているので、簡単な構造で、中立位置へ戻す方向でも押付力発生を実現できた
。
【0042】
そして、第1ボークリング60はシンクロハブ20の切り欠き28において外ハブ部23と係合可能な膨出部68を備え、カップリングスリーブ30の噛み合い解除方向の移動において、カップリングスリーブ30のスプライン歯31と第1ボークリング60のスプライン歯64の噛み合いが外れた後においても、第1ボークリングには膨出部68によるシンクロハブ20との係合により主軸2からの駆動力が伝達されるので、カップリングスリーブ30が完全に中立位置に戻るまで第1ボークリング60とコーン部材50との間の押付力によりクラッチギアを経て入力ギア3への駆動力伝達が確保される
。
【0043】
さらに詳細には、カップリングスリーブ30のスプライン歯31における隣接する2つの歯間に互いに対向する保持壁37を有する保持部36が形成され、押付部材80は、ばね板材を折り曲げて形成され、押付部82と嵌め込み部83とを備えて、該嵌め込み部83を保持壁37間に弾性的に嵌め込まれて、摩擦力によりカップリングスリーブ30に保持され、第2ボークリング70には押付部材80の押付部82を挟んで軸方向第1ボークリング60と反対側に延びて先端に押付部82と接触可能な当接部95を備える付勢部材90が連結されて、カップリングスリーブ30の噛み合い方向への移動に伴って、押付部材80の押付部82が第1ボークリング60を押し、その後は押付部材80は第1ボークリング60を押したまま嵌め込み部83が保持壁37に対して相対的に軸方向に滑り、カップリングスリーブ30の噛み合い解除方向の移動に伴って、押付部材80の押付部82が付勢部材90の当接部95に当接して第2ボークリング70を押し、その後は押付部材80は付勢部材90を介して第2ボークリング70を押したまま嵌め込み部83が保持壁37に対して相対的に軸方向に滑る構成となっているので、簡単な保持構造ながらカップリングスリーブ30の移動距離と押付力発生までの押付部材80の可動距離とのずれが滑らかに吸収される
。
【0044】
カップリングスリーブ30のスプライン歯31はクラッチギア40に対向する先端にチャンファ32を備え、押付部材80の嵌め込み部83は軸方向クラッチギア40に対向する先端に保持壁37側に張り出した凸部87を備え、カップリングスリーブ30の中立位置において、凸部87がスプライン歯31のチャンファ32面に落ちるように設定してあるので、カップリングスリーブ30の噛み合い方向への移動に際してチャンファ32面が凸部87を押すことにより、押付部材80(の押付部82)が剛性をもって第1ボークリング60をコーン部材50に押し付けて迅速な同期作用を得ることができる
。
【0045】
カップリングスリーブ30の保持壁37は、クラッチギアに対向する端から所定範囲を対向面が互いに近づくテーパ面38となっているので、カップリングスリーブ30の噛み合い解除方向の移動における中立位置直前に近づくほど押付部材80が付勢部材90、第2ボークリング70を介してコーン部材50と第1ボークリング60間に発生させる押付力が増大し、入力ギア3への駆動力伝達がより確実なものとなる
。
【0046】
なお、実施の形態では第1ボークリング60および第2ボークリング70を備えて、第2ボークリング70をカップリングスリーブ30の噛み合い解除方向と同方向に付勢することにより第1ボークリング60とコーン部材50との間に押付力を発生させるものとしたが、カップリングスリーブとコーン部材間の連係態様によっては第2ボークリング70を用いないでコーン部材を噛み合い解除方向と同方向に付勢して、第1ボークリングとコーン部材との間に押付力を発生させるようにしてもよい。
また、実施の形態はシンクロハブの片側にのみ被選択ギアとしての入力ギアを配置した例を示したが、本発明はシンクロハブの両側に被選択ギアを配しそれぞれにクラッチギアを付設して、そのいずれかと選択的にカップリングスリーブを噛み合せるものについても適用できることはもちろんである。
【0047】
さらに、実施の形態では駆動源としてエンジンを用いた車両に搭載される変速機における同期装置を示したが、本発明はこれに限定されず、駆動源として電動モータを用いた車両に搭載される変速機や、駆動源と変速機の主軸との間にクラッチを備えた変速機の同期装置にも適用可能である。
とくに、駆動源と変速機との間の動力伝達を遮断することなく同期装置の切り替えによって変速する場合に、カップリングスリーブが中立位置に戻りきるまでの間に駆動力が抜けることを防止できる。