(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のモータとモータ推力式無段変速機を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1のモータの構成を、「全体構成」、「ロータ回転制止構造の構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体構成]
図1〜
図3は、実施例1のモータの構成を示す。以下、
図1〜
図3に基づき、全体構成を説明する。
【0014】
実施例1のモータM1は、
図1〜
図3に示すように、ケース1と、ステータ2と、ロータ3と、ロータ回転制止構造4と、を備えている。このモータM1は、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motorの略)と呼ばれるもので、永久磁石をロータ3に、コイルをステータ2に設けた回転界磁形の構造となっている。
【0015】
前記ステータ2は、
図1〜
図3に示すように、ケース1に固定されたステータティース21と、該ステータティース21に巻き付けられたステータコイル22と、を有して構成される。このステータコイル22に対しては、
図1に示すように、モータスイッチ5をONにすると、バッテリ6からの直流をインバータ7により変換した三相交流のモータ電流が供給される。
【0016】
前記ロータ3は、
図1〜
図3に示すように、ステータ2にギャップを介して配置され、ステータコイル22(モータコイル)へモータ電流を通電することにより回転駆動する。この円筒形状のロータ3には、円筒中心軸上に、両端面からそれぞれ突出するロータシャフト31,32が一体に固定されている。ロータシャフト31,32は、
図2及び
図3に示すように、ケース1にベアリング11,12を介して回転可能に支持されている。
【0017】
前記ロータ回転制止構造4は、
図1〜
図3に示すように、ロータ3に設けられ、モータ電流の通電の遮断をトリガーとし、ロータ3の回転をケース1への固定により制止し、モータ電流の通電をトリガーとし、ケース1へのロータ固定を解除する。つまり、ロータ回転制止構造4は、ケース1への固定によりロータ3の回転を止める機構である。
【0018】
[ロータ回転制止構造の構成]
図1〜
図3は、実施例1のモータの構成を示す。以下、
図1〜
図3に基づき、ロータ回転制止構造の構成を説明する。
【0019】
前記ロータ回転制止構造4は、
図1〜
図3に示すように、クラッチ部41と、付勢力締結部42と、電磁力開放部43と、を備えている。
【0020】
前記クラッチ部41は、
図2に示すように、ケース1へ固定する締結によりロータ3の回転を制止し、
図3に示すように、ケース1へのロータ固定を解除する締結開放によりロータ3の回転を許容する。このクラッチ部41は、ロータシャフト3の軸基部位置に固定され、テーパ凹面411を有するテーパ凹部材41aと、後述の永久磁石部43aに固定され、テーパ凸面412を有するテーパ凸部材41bと、により構成され、テーパ凹面411に対してテーパ凸面412が押し付けられることでテーパ締結する。
【0021】
前記付勢力締結部42は、モータ電流の通電遮断時、複数の圧縮バネ42a(付勢部材)による付勢力にてクラッチ部41をテーパ締結する。複数の圧縮バネ42a(例えば、6個)は、
図2及び
図3に示すように、ケース1と永久磁石部43aの外周部との間に介装され、永久磁石部43aに固定されたテーパ凸部材41bを
図2,3の左方向に付勢する。
【0022】
前記電磁力開放部43は、モータ電流の通電時、モータ電流により発生する電磁力により、付勢力に対抗してクラッチ部41のテーパ締結を開放する。この電磁力開放部43は、
図1に示すように、複数の永久磁石431(例えば、4個)が埋設された円板状の永久磁石部43aと、該永久磁石部43aに対向配置された円板状の電磁石部43bと、により構成されている。電磁石部43bは、バッテリ5とインバータ6との間に電気的に接続されたコイルが巻き付けられた複数の電磁石432(例えば、4個)を有する。そして、永久磁石部43aの複数の永久磁石431と、電磁石部43bの複数の電磁石432と、の周方向対向位置関係をクラッチ部41の締結・開放にかかわらず保つように、永久磁石部43a側に位置決めピン433が突設され、複数の永久磁石431側に位置決めピン433が差し込まれる位置決め穴434が開穴されている。
【0023】
前記電磁力開放部43による開放構成は、
図2及び
図3に示すように、ケース1に固定された電磁石部43bにて発生した電磁力により、永久磁石部43aが電磁石部43bに対して相対的に移動することにより、クラッチ部41のテーパ締結を開放する。実施例1の電磁力開放部43は、電磁石部43bに発生する電磁力の作用方向が、永久磁石部43aを反発する反発磁力であり、この反発磁力が永久磁石部53aに作用する付勢力に対抗し、永久磁石部53aが電磁石部43bから離れてクラッチ部41のテーパ締結を開放する(
図3)。
【0024】
次に、作用を説明する。
実施例1のモータM1における作用を、「モータ電流の通電遮断時のロータ回転制止作用」、「モータ電流通電時のロータ回転許容作用」に分けて説明する。
【0025】
[モータ電流の通電遮断時のロータ回転制止作用]
実施例1のモータM1が適用されたシステムが、モータ停止時、入力される外力によりロータが逆駆動すると何らかの不具合が生じる場合、ロータの回転制止を維持しておくことが必要である。以下、
図2に基づいて、これを反映するモータ電流の通電遮断時のロータ回転制止作用を説明する。
【0026】
モータ停止時、入力される外力によるロータの逆駆動を防止するためには、外力に対抗するロータ回転力を発生するようにモータ電流を流すことが考えられる。しかし、この場合、停止中のモータにモータ電流を流し続けることになり、その分、電力消費量が増し、エネルギー効率を悪化させると共に、モータの耐久信頼性も低下させてしまう。
【0027】
これに対し、実施例1の場合には、モータスイッチ5をON→OFFにすると、ステータコイル22に対してインバータ7からの三相交流のモータ電流の供給が停止され、同時に、電磁石部43bのコイルに対して直流によるコイル電流の供給が停止される。
【0028】
このため、ロータ回転制止構造4の電磁石部43bに電磁力の発生がなく、永久磁石部53aに作用する複数の圧縮バネ42a(付勢部材)による付勢力により、永久磁石部53aが電磁石部43b側に近づく。そして、付勢力により永久磁石部53aが移動することにより、テーパ凹部材41aのテーパ凹面411に対してテーパ凸部材41bの永久磁石部53aのテーパ凸面412を押し付けることで、
図3に示すように開放されているクラッチ部41が、
図2に示すようにテーパ締結する。
【0029】
このモータ電流OFFを維持するテーパ締結状態において、ロータ3に対して外力が入力されると、外力は、ロータシャフト32→テーパ凹部材41a→テーパ凸部材41b→永久磁石部43a→電磁石部43bを介し、ケース1により受け止められる。つまり、モータ電流OFF時には、テーパ凹部材41aとテーパ凸部材41bとの間での摩擦締結力(=付勢力)を超える外力が入力しない限り、ロータ3の回転がケース1への固定により制止される。なお、永久磁石部43aと電磁石部43bは、位置決め穴434に位置決めピン433が差し込まれた状態であるため、回転方向の外力により永久磁石部43aと電磁石部43bが相対回転することはない。
【0030】
このように、モータ電流OFFによりロータ3を停止しているときは、ロータ回転制止構造4において、モータ電流OFFに同期して機械的なケース1への固定によりロータ3の回転が制止されることで、モータ電流OFFの状態を維持したままであってもロータ3の逆駆動が防止される。この結果、モータ電流を流し続けることでロータの逆駆動を防止する場合に比べ、電力消費量が減少し、エネルギー効率を向上させると共に、モータM1の耐久信頼性も向上させる。
【0031】
[モータ電流通電時のロータ回転許容作用]
上記のように、ロータ回転制止構造4によりロータ3の回転を制止する場合、モータM1を回転駆動するとき、ロータ回転制止構造4がロータ3の回転を阻害しないようにすることが必要である。以下、
図3に基づいて、これを反映するモータ電流通電時のロータ回転許容作用を説明する。
【0032】
モータスイッチ5をOFF→ONにすると、ステータコイル22に対してインバータ7からの三相交流のモータ電流が供給され、同時に、電磁石部43bのコイルに対して直流によるコイル電流が供給される。
【0033】
このため、ロータ回転制止構造4の電磁石部43bに、永久磁石部43aを反発する反発磁力による電磁力が発生し、この反発磁力が永久磁石部53aに作用する複数の圧縮バネ42aによる付勢力に対抗し、永久磁石部53aが電磁石部43bから離れる。そして、付勢力に打ち勝つ反発磁力による永久磁石部53aの移動により、
図2に示すようにテーパ締結されているクラッチ部41が、
図3に示すように、テーパ凹部材41aのテーパ凹面411からテーパ凸部材41bのテーパ凸面412が離れることで開放される。
【0034】
このモータ電流ONを維持する締結開放状態においては、ロータシャフト32に固定されたテーパ凹部材41aのみがロータ3と共に連れ回るが、テーパ凸部材41bと永久磁石部43aと電磁石部43bは、ロータシャフト32から完全に切り離される。つまり、モータ電流ON時には、ロータ回転制止構造4による回転負荷増が最小限に抑えられる。
【0035】
このように、モータ電流ONによりロータ3を回転駆動しているときは、ロータ回転制止構造4において、モータ電流ONに同期して機械的なケース1への固定が解除されることで、ステータコイル22に対してインバータ7から供給される三相交流のモータ電流に応じてロータ3の自由な回転が許容される。
【0036】
すなわち、ロータ回転制止構造4は、モータM1の駆動状態/停止状態と完全同期してロータ3の回転止めを行う。このため、電磁クラッチや電磁ブレーキなどの別のシステムを組み合わせるものとは異なり、モータ電流制御は、ロータ回転制止構造4を持たないモータを駆動するものと全く同じになる。したがって、
・新たな制御が不要
・コスト減
・部品簡素化
・システムサイズ小型化
というメリットが得られる。
【0037】
次に、効果を説明する。
実施例1のモータM1にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0038】
(1) ケース1に固定されるステータ2と、
前記ステータ2にギャップを介して配置され、モータコイル(ステータコイル22)へモータ電流を通電することにより回転駆動するロータ3と、
前記ロータ3に設けられ、前記モータ電流の通電の遮断をトリガーとし、前記ロータ3の回転を前記ケース1への固定により制止し、前記モータ電流の通電をトリガーとし、前記ケース1へのロータ固定を解除するロータ回転制止構造4と、
を備える。
このため、モータ電流の通電中はロータ3の回転を許容しながら、モータ電流の通電の遮断に同期してロータ3の逆駆動を防止することができる。
【0039】
(2) 前記ロータ回転制止構造4は、
前記ケース1へ固定する締結により前記ロータ3の回転を制止し、前記ケース1へのロータ固定を解除する締結開放により前記ロータ3の回転を許容するクラッチ部41と、
前記モータ電流の通電の遮断時、付勢部材(圧縮バネ42a)による付勢力にて前記クラッチ部41を締結する付勢力締結部42と、
前記モータ電流の通電時、前記モータ電流により発生する電磁力により、前記付勢力に対抗して前記クラッチ部41を締結開放する電磁力開放部43と、
を有する。
このため、(1)の効果に加え、モータ制御用のモータ電流によりロータ回転制止構造4を駆動させることで、ロータ回転制止構造4の駆動制御を簡素化することができる。
【0040】
(3) 前記ステータ2は、ステータコイル22が巻き付けられ、該ステータコイル22に対しバッテリ6からの直流をインバータ7により変換した三相交流のモータ電流が供給され、
前記電磁力開放部43は、永久磁石部43aと、該永久磁石部43aに対向配置され、前記バッテリ6と前記インバータ7との間に電気的に接続された電磁石部43bと、
を有する。
このため、(2)の効果に加え、三相交流のモータ電流で駆動するモータM1でありながら、インバータ7より上流側の直流を用い、ロータ回転制止構造4の電磁力開放部43を駆動させることができる。
すなわち、三相交流のモータ電流で駆動するモータM1の場合、インバータ7より下流側に接続すると、電磁石部43bを機能させることができない。
【0041】
(4) 前記電磁力開放部43は、前記電磁石部43bがケース1に固定され、前記電磁石部43bに発生する電磁力に応じ、前記永久磁石部43aが前記電磁石部43bに対して相対的に移動することにより、前記クラッチ部41を締結開放する。
このため、(3)の効果に加え、電磁力開放部43を結線する際、バッテリ6から電磁石部43bへの結線や電磁石部43bからインバータ7への結線を長くすることなく、しかも、結線の信頼性も向上させることができる。
例えば、実施例1とは逆に、永久磁石部をケースに固定し電磁石部を移動可能にすると、バッテリから電磁石部への結線、及び、電磁石部からインバータへの結線を、電磁石部の移動分長くする必要があり、また、電磁石部が移動することによって、結線が破断し易くなる。
【0042】
(5) 前記電磁力開放部43は、前記電磁石部43bに発生する電磁力の作用方向が、前記永久磁石部43aを反発する反発磁力であり、この反発磁力により前記永久磁石部43aが前記電磁石部43bから離れて前記クラッチ部41を締結開放する。
このため、(4)の効果に加え、対向配置される電磁石部43bから永久磁石部43aが離れる際に最も大きくなる反発磁力を用い、クラッチ部41の締結を切り離して開放することができる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、実施例1が反発磁力によりクラッチ部を締結開放する例であるのに対し、吸引磁力によりクラッチ部を締結開放するようにした例である。
【0044】
まず、構成を説明する。
図4及び
図5は、実施例2のモータM2の構成を示す。以下、
図4及び
図5に基づき、ロータ回転制止構造の構成を説明する。
【0045】
前記付勢力締結部42の複数の圧縮バネ42aは、
図4及び
図5に示すように、ケース1に固定された電磁石部43bと、永久磁石部43aと、の間に介装され、永久磁石部43aに固定されたテーパ凸部材41bを
図4,5の左方向に付勢する。
【0046】
前記電磁力開放部43による開放構成は、
図4及び
図5に示すように、ケース1に固定された電磁石部43bにて発生した電磁力により、永久磁石部43aが電磁石部43bに対して相対的に移動することにより、クラッチ部41のテーパ締結を開放する点では実施例1と同様である。しかし、実施例2の電磁力開放部43は、電磁石部43bに発生する電磁力の作用方向が、永久磁石部43aを吸引する吸引磁力であり、この吸引磁力が永久磁石部53aに作用する付勢力に対抗し、永久磁石部53aが電磁石部43bに近づいてクラッチ部41のテーパ締結を開放する(
図5)。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
次に、モータ電流通電時のロータ回転許容作用を説明する。
モータスイッチ5をOFF→ONにすると、ステータコイル22に対してインバータ7からの三相交流のモータ電流が供給され、同時に、電磁石部43bのコイルに対して直流によるコイル電流が供給される。
【0048】
このため、ロータ回転制止構造4の電磁石部43bに、永久磁石部43aを吸引する吸引磁力による電磁力が発生し、この吸引磁力が永久磁石部53aに作用する複数の圧縮バネ42aによる付勢力に対抗し、永久磁石部53aが電磁石部43bへ近づく。そして、付勢力に打ち勝つ吸引磁力による永久磁石部53aの移動により、
図4に示すようにテーパ締結されているクラッチ部41が、
図5に示すように、テーパ凹部材41aのテーパ凹面411からテーパ凸部材41bのテーパ凸面412が離れることで開放される。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例2のモータM2にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0050】
(6) 前記電磁力開放部43は、前記電磁石部43bに発生する電磁力の作用方向が、前記永久磁石部43aを吸引する吸引磁力であり、この吸引磁力により前記永久磁石部43aが前記電磁石部43bに近づいて前記クラッチ部41を締結開放する。
このため、実施例1の(1)〜(4)の効果に加え、対向配置される電磁石部43bと永久磁石部43aが近づき、クラッチ開放側になるほど大きくなる吸引磁力を用い、クラッチ部41の締結を切り離して開放することができる。
【実施例3】
【0051】
実施例3は、実施例1のモータM1または実施例2のモータM2を用いたモータ推力発生機構を備えたモータ推力式無段変速機の例である。
【0052】
まず、構成を説明する。
実施例3のモータ推力式無段変速機の構成を、「全体構成」、「変速比制御構成」に分けて説明する。
【0053】
[全体構成]
図6はモータ推力式無段変速機を示す。以下、
図6に基づいて、モータ推力式無段変速機の全体構成を説明する。
【0054】
モータ推力式無段変速機M-CVTは、一対のプライマリプーリ8(プーリ)と図外のセカンダリプーリ(プーリ)にベルト9を掛け渡し、プライマリプーリ8とセカンダリプーリに対するベルト9の接触径を変化させることで無段階に変速比を制御する。プライマリプーリ8は、固定シーブ81と可動シーブ82により構成され、可動シーブ82に、変速時に可動シーブ82をプーリ軸方向にスライド移動させるモータ推力発生機構10を設けている。なお、図示していないが、セカンダリプーリの可動シーブにもモータ推力発生機構10を設けている。また、可動シーブ82は、
図6のプーリ軸より上側が最ロー位置を示し、プーリ軸より下側が最ハイ位置を示す。
【0055】
前記モータ推力発生機構10は、実施例1のモータM1(または、実施例2のモータM2)と、推力変換構造13と、を備えている
前記モータM1(またはモータM2)は、ケース1に固定されるステータ2と、ステータ2にギャップを介して配置され、ステータコイル22へモータ電流を通電することにより回転駆動するロータ3と、ロータ3に設けられるロータ回転制止構造4と、を有する。ロータ回転制止構造4は、変速比固定時におけるモータ電流の通電の遮断をトリガーとし、ロータ3の回転をケース1への固定により制止し、変速時におけるモータ電流の通電をトリガーとし、ロータ3のケース固定を解除する。詳しい構成は、実施例1,2を参照のこと。
【0056】
前記推力変換構造13は、モータM1(またはモータM2)のロータ回転力を、可動シーブ82をプーリ回転軸方向へスライド移動させるプーリ推力に変換する構造である。この推力変換構造13は、ウォーム13aと、スライドウォームホイール13bと、固定スクリュー13cと、スライドピストン13dと、皿バネ13eと、を有する。ウォーム13aは、ロータシャフト31に設けられる。スライドウォームホイール13bは、ウォーム13aに噛み合うと共に固定スクリュー13cに螺合する。固定スクリュー13cは、変速機ケース14に固定され、スライドウォームホイール13bに噛み合う。スライドピストン13d及び皿バネ13eは、スライドウォームホイール13bと可動シーブ82との間に介装される。
【0057】
[変速比制御構成]
図6はモータ推力式無段変速機を示す。以下、
図6に基づいて、変速比制御構成を説明する。
【0058】
前記モータM1(またはモータM2)には、
図6に示すように、車載バッテリ23(電源)と、インバータ24(駆動回路)と、電磁開閉スイッチ25と、変速コントローラ26と、を有する変速制御系の構成が接続されている。
【0059】
前記インバータ24は、変速コントローラ26からの指令により、車載バッテリ23の電源電流(直流)から三相交流によるモータ電流を作り出す。変速コントローラ26からの指令がモータ電流の通電指令であるときは(=変速時)、通電指令に同期して電磁開閉スイッチ25を閉じる指令を出力し、車載バッテリ23の電源電流(直流)をロータ回転制止構造4のコイルに供給する。また、変速コントローラ26からの指令がモータ電流の通電の遮断指令であるときは(=変速比固定時)、通電の遮断指令に同期して電磁開閉スイッチ25を開く指令を出力し、ロータ回転制止構造4のコイルへの直流供給を遮断する。
【0060】
前記変速コントローラ26は、車速センサ26a、アクセル開度センサ26b、入力回転センサ26c、出力回転センサ26d、モータの回転位置を検出するレゾルバ26e、等からの情報を入力する。そして、車速VSPやアクセル開度APOや変速比マップ等に基づいて目標変速比を演算し、実変速比と目標変速比が一致、あるいは、変速比差が所定の許容範囲内にあるときは、変速比を一定に保つ変速比保持要求を出す。実変速比と目標変速比の変速比差が所定の許容範囲を超えて乖離しているときは、変速比変更要求を出す。そして、変速比を一定に保つ変速比保持要求があるときは、モータM1(またはモータM2)へのモータ電流の通電の遮断を維持する指令をインバータ24に出力し、変速比を変更する変速比変更要求があるときは、要求に応じてモータM1(またはモータM2)へモータ電流を通電する指令をインバータ24に出力する。
【0061】
次に、作用を説明する。
実施例3のモータ推力式無段変速機M-CVTにおける作用を、「変速比変更要求時の変速比制御作用」、「変速比保持要求時の変速比固定作用」に分けて説明する。
【0062】
[変速比変更要求時の変速比制御作用]
変速比を変更する変速比変更要求があるときは、変速コントローラ26から要求に応じてモータM1(またはモータM2)へモータ電流を通電する指令がインバータ24に出力される。この通電指令に同期し、インバータ24からは、電磁開閉スイッチ25を閉じる指令が出力され、車載バッテリ23の電源電流(直流)がロータ回転制止構造4のコイルに供給される。
【0063】
このため、ロータ回転制止構造4の電磁石部43bに電磁力が発生し、ロータ回転制止構造4のクラッチ部41が開放され、ロータ3のケース固定が解除されることで、ステータコイル22に対してインバータ24から供給される三相交流のモータ電流に応じてロータ3の自由な回転が許容される。
【0064】
したがって、三相交流のモータ電流の供給により、モータM1(またはモータM2)のロータシャフト31が回転駆動すると、ロータシャフト31と同一回転によりウォーム13aが回転し、ウォーム13aと噛み合うスライドウォームホイール13bを減速回転させる。スライドウォームホイール13bが減速回転すると、スライドウォームホイール13bは固定スクリュー13cに対し螺合しているので、固定スクリュー13cとの螺合位置が変化し、スライドウォームホイール13bがプーリ軸方向にスライド移動する。つまり、モータM1(またはモータM2)の回転動作と回転力が、スライドウォームホイール13bのスライド動作とプーリ推力に変換される。
【0065】
そして、変換されたプーリ推力は、スライドウォームホイール13bからスライドピストン13d及び皿バネ13eを介して可動シーブ82に与えられ、可動シーブ82をプーリ軸方向にスライド移動させる。このとき、可動シーブ82を
図6の左方向にスライド移動させると、変速比がハイ側に変更され、逆に、可動シーブ82を
図6の右方向にスライド移動させると、変速比がロー側に変更される。
【0066】
[変速比保持要求時の変速比固定作用]
一定変速比を保持する変速比保持要求があるときは、変速コントローラ26から要求に応じてモータM1(またはモータM2)へモータ電流を通電の遮断する指令がインバータ24に出力される。この通電の遮断指令に同期し、インバータ24からは、電磁開閉スイッチ25を開く指令が出力され、ロータ回転制止構造4のコイルへの直流供給も遮断される。
【0067】
このため、ロータ回転制止構造4の電磁石部43bに電磁力の発生がなく、付勢力によりロータ回転制止構造4のクラッチ部41が締結され、ロータ3をケース1に固定するロータ制止状態になることで、ベルト反力等によるロータ3の逆駆動が防止される。
【0068】
すなわち、走行駆動トルクを伝達するベルト9から可動シーブ82が、振動成分を持つベルト反力を受けると、この軸方向の反力は、可動シーブ82からスライドピストン13d及び皿バネ13eを介してスライドウォームホイール13bへと伝達される。そして、スライドウォームホイール13bと固定スクリュー13cの螺合部分やスライドウォームホイール13bとウォーム13aの螺合部分に反力が作用し、ウォーム13aを回転させようとする。
【0069】
しかし、ウォーム13aが設けられているロータ3のロータシャフト31は、ロータ回転制止構造4によりケース1に固定されているため、逆駆動によるウォーム13aの回転が防止される。つまり、モータ電流の通電の遮断による変速比保持要求時は、可動シーブ82のプーリ軸方向位置が固定され、モータ電流の通電の遮断中、可動シーブ82のプーリ軸方向位置の固定が維持される。言い換えると、モータ電流の通電の遮断中、可動シーブ82のプーリ軸方向位置の変動による変速比変更が防止される。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例3のモータ推力式無段変速機M-CVTにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0071】
(7) 一対のプーリ(プライマリプーリ8)にベルト9を掛け渡し、前記プーリ(プライマリプーリ8)の可動シーブ82にモータ推力発生機構10を設けたモータ推力式無段変速機M-CVTにおいて、
前記モータ推力発生機構10は、
ケース1に固定されるステータ2と、前記ステータ2にギャップを介して配置され、モータコイル(ステータコイル22)へモータ電流を通電することにより回転駆動するロータ3と、前記ロータ3に設けられるロータ回転制止構造4と、を有するモータM1,M2と、
前記モータM1,M2のロータ回転力を、前記可動シーブ82をプーリ回転軸方向へスライド移動させるプーリ推力に変換する推力変換構造13と、を備え、
前記ロータ回転制止構造4は、前記モータ電流の通電の遮断をトリガーとし、前記ロータ3の回転を前記ケース1への固定により制止し、前記モータ電流の通電をトリガーとし、前記ロータ3のケース固定を解除する。
このため、モータ電流の通電による変速時、ロータ3の回転による変速比の変更を許容しながら、モータ電流の通電の遮断による変速比固定時、通電の遮断に同期するロータ回転制止により反力が作用しても変速比の固定を維持することができる。
【0072】
(8) 前記モータM1,M2に、電源電流からモータ電流を作り出す駆動回路(インバータ24)を接続し、
前記駆動回路(インバータ24)に、変速比を制御する変速コントローラ26を接続し、
前記変速コントローラ26は、変速比を一定に保つ変速比保持要求があるとき、前記モータM1,M2へのモータ電流の通電の遮断を維持する指令を出力し、変速比を変更する変速比変更要求があるとき、要求に応じて前記モータM1,M2へモータ電流を通電する指令を出力する。
このため、(7)の効果に加え、モータ電流の通電の遮断により変速比保持制御を行うことで、変速比制御での電力消費量が減少し、エネルギー効率を向上させることができると共に、モータM1,M2の耐久信頼性を向上させることができる。
【0073】
以上、本発明のモータを実施例1,2に基づき説明し、本発明のモータ推力式無段変速機を実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0074】
実施例1,2では、クラッチ部41として、テーパ凹部材41aとテーパ凸部材41bを軸方向移動により押し付けてテーパ締結する例を示した。しかし、クラッチ部としては、摩擦板を押し付ける単板クラッチ構造や多板クラッチ構造のものや、爪が噛み合うことで締結するドグクラッチ構造、等の例としても良い。さらに、クラッチ部としては、軸方向に移動により締結されるものに限定されず、周方向や径方向の移動によりロータ回転を制止する例であっても良い。
【0075】
実施例1,2では、付勢力締結部42として、複数の圧縮バネ42aを用い、クラッチ部41を締結する付勢力を発生する例を示した。しかし、付勢力締結部としては、引っ張りバネを用い、クラッチ部を締結する付勢力を発生する例としても良い。
【0076】
実施例3では、推力変換構造13として、ウォーム13aとスライドウォームホイール13bと固定スクリュー13cを用い、モータM1,M2のロータ回転力をプーリ推力に変換する例を示した。しかし、推力変換構造としては、モータ軸をプライマリプーリ軸と平行に配置、または、モータ軸とプライマリプーリ軸を一致させて配置し、モータの回転によりねじ機構を回転させてモータのロータ回転力をプーリ推力に変換させるもの等、モータのロータ回転力をプーリ推力に変換させる構造であれば、具体的な構造は実施例3に限定されない。
【0077】
実施例3では、本発明のモータをモータ推力式無段変速機に適用する例を示した。しかし、本発明のモータは、モータ推力式無段変速機以外の様々なシステムにも適用することができる。要するに、モータを用いるシステムであって、モータ電流OFFによるモータ停止時、逆駆動によるロータの回転を抑えたい要求があるシステムであれば適用でき、モータ推力式無段変速機は一例である。
【0078】
実施例1,2,3では、モータM1,M2として、永久磁石同期モータを用いるものを示した。しかし、モータとしては、永久磁石を有さない誘導モータ、等の例としても良い。