【実施例1】
【0024】
図1は本発明の一実施例の鉄筋ひずみ検出構造を採用して斜面に施工した鉄筋挿入工における鉄筋挿入部の概略断面図である。実施例の鉄筋挿入工は、斜面に複数の鉄筋1を、先端が安定地盤に達し固定されるように挿入し、挿入した各鉄筋1の頭部に支圧板2を取り付け締着して斜面の安定化を図る斜面安定化工法として施工している。
本発明では鉄筋として筒状鉄筋を用いるが、短尺筒状鉄筋3をカプラー4で連結して所望長さの筒状鉄筋1としている。そして、この筒状鉄筋1の内部にセンサーロッド5を挿入するとともに、センサーロッド5の両端を筒状鉄筋1に固定する。この実施例では、1つの短尺筒状鉄筋3に1つのセンサーロッド5を挿入し、各センサーロッド5の両端を当該短尺筒状鉄筋3の両端部に固定している。
図1において、斜面地盤の設計すべり面(ないし想定すべり面)をSで示す。設計すべり面Sは当該斜面で例えば簡易貫入試験等を行なった結果から求めることができる。簡易貫入試験、あるいは、すべり面Sを設定するための他の試験は、一般に行なわれている試験方法を採用するとよい。
図示例では、筒状鉄筋1における地表側の2本の短尺筒状鉄筋3に、センサーロッド5を内部に装着した短尺筒状鉄筋3を用い、そのうちの下側の短尺筒状鉄筋3がすべり面Sに位置している。図示例では、他の短尺筒状鉄筋3にはセンサーロッド5を装着していない。センサーロッド5を内部に装着した短尺筒状鉄筋3をセンサー付き短尺筒状鉄筋6と呼ぶ。
【0025】
図2は
図1におけるセンサー付き短尺筒状鉄筋6の詳細を示す拡大断面図、
図3は
図2におけるセンサーロッド5の要部を拡大して示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は断面図、
図4は
図2の要部を拡大して示した図である。
図示例の短尺筒状鉄筋3は、外径(ねじ呼び径)28.5mm、内径13mmのいわゆるロックボルトを用いている。
図示例のセンサーロッド5は、細径部7と大径部8とが交互に形成された中空棒状体であり、細径部7の外径は8mm、大径部8の外径は12mm、内径は全長に亘って6mmである。したがって、センサーロッド5の大径部8は、短尺筒状鉄筋3の内面に対して0.5mm(片側0.5mm)という僅かな隙間を形成する。実施例では細径部7のロッド長手方向の長さは40mm、大径部8の長さは60mmであり、細径部7と大径部8とが100mm間隔で繰り返す。実施例のセンサーロッド5の材質はSS材(一般構造用圧延鋼材)である。
前記短尺筒状鉄筋3の両端部の内面にメネジ部3aが形成されており、センサーロッド5の両端部にオネジ部5bが形成されている。リード線引出し孔12aを有し、内面にセンサーロッド5のオネジ部5bに螺合するメネジ部12b、外面に前記短尺筒状鉄筋3のメネジ部3aに螺合するオネジ部12cを形成した固定用ネジ部材12により、センサーロッド5の両端が短尺筒状鉄筋3の両端部に固定されている。
なお、センサーロッド5の両端を筒状鉄筋1の両端部に固定する手段は、上記の固定用ネジ部材12に限らず任意であり、ボルトナットや接着など種々の固定手段を採用することができる。
【0026】
図2〜
図6における符号pは、センサーロッド5の各細径部7に歪ゲージ13を貼り付けた位置、ないし貼り付けることが考えられる位置を示している。特に、
図2における符号pは、細径部7に歪ゲージ13を貼り付ける位置pを、ロッド長手方向の寸法a(この実施例では100mm)の間隔で選択できることを示している。
そして、各細径部7には、細径部7に貼り付けた歪ゲージ13のリード線13aをセンサーロッド5の中空部5aに入れるリード線挿入孔7aをあけている。リード線挿入孔7aに入れたリード線13aは、センサーロッド5の内部(中空部)5aを通して、頂部から外部に引き出され、図示せぬひずみ検出装置の端子に接続される。
細径部7の歪ゲージ貼り付け部には劣化防止のために例えば樹脂等による防水被覆を施すとよい。
図4の下側の歪ゲージ13の部分に防水被覆を符号14で示している(上側の歪ゲージ13の部分は図示を省略)。また、リード線13aの部分も含めて防水被覆を施してもよい。
本発明ではセンサーロッド5が筒状鉄筋1の内部にあるので、歪ゲージ部分の防水処理は、例えば特許文献2における保護材と比べて簡単なもので済む。
【0027】
センサーロッド5に実際に歪ゲージ13を貼り付ける箇所は、仮に1箇所のみとすると、設計すべり面Sより上側40〜100mmの領域にある細径部7に貼り付けるとよい。
土塊の移動が生じた時の鉄筋の曲げ変形は、すべり面Sに近い位置で大きな曲げ変形が生じるパターンが多いが、実験結果等から、設計すべり面より上側40〜100mmの領域で最も大きな曲げ変形が生じると言えるので、上記の通り設計すべり面Sより上側40〜100mmの領域が好適である。
また、2箇所に貼り付けるとすると、設計すべり面Sより上側40〜100mmの領域にある細径部7、及び設計すべり面より上側140〜200mmの領域にある細径部7の2箇所に貼り付けるとよい。この場合、下側の歪ゲージが主であり、上側の歪ゲージは補助的に意味合いで貼る。
この実施例では、
図6(イ)に示すように、設計すべり面Sより上側50mmの位置と、設計すべり面より上側150mmの位置との2箇所に貼り付けている。
設計すべり面は、例えば簡易貫入試験等の結果から設定することができるが、実際に生じるすべり面と厳格に一致する訳ではないので、また、最も大きな曲げ変形が生じる箇所は諸条件により種々のケースが考えられるので、2箇所に貼り付けることで、“ 土塊の移動により筒状鉄筋が最も大きく変形する位置”を外さないようにすることができる。
但し、歪ゲージを貼り付ける箇所は、上記の2箇所に限定するものではない。1箇所でもよいし、前記2箇所の歪ゲージの位置よりさらに上側にも貼り付けてもよい。また、すべり面Sより若干下側に貼り付けることも考えられる。
【0028】
上記のように、短尺筒状鉄筋3とセンサーロッド5との形状寸法の関係が、センサーロッド5が細径部7と大径部8とを交互に有する形状であり、かつ、大径部8が短尺筒状鉄筋3の内面に対して0.5mm(片側に0.5mm)という僅かな隙間を形成するという、という適切な関係にあることで、短尺筒状鉄筋3が曲がった時に、センサーロッド5が短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に円滑に追随して、短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に倣った(概ね同じ曲率となる)曲げ変形をするようになっている。
仮に、センサーロッド5の大径部8と短尺筒状鉄筋3の内面との間の隙間が小さ過ぎると、大径部8が短尺筒状鉄筋3の内面との摩擦力で固着状態となって長手方向の移動を拘束されることで、センサーロッド5の曲げ変形が短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に倣わない(同じ曲率とならない)可能性あるいは歪ゲージの出力信号が曲げ変形を反映しない可能性があり、また、隙間が大き過ぎる場合も、センサーロッド5の曲げ変形が短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に倣わない可能性が高い。しかし、短尺筒状鉄筋3とセンサーロッド5との形状寸法の関係が上記の通りなので、短尺筒状鉄筋3が曲がった時に、センサーロッド5が短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に倣った曲げ変形をする。
なお、前記曲げ変形の追随性を、センサーロッド5と短尺筒状鉄筋3との関係として述べたが、それは同時にセンサーロッド5と筒状鉄筋1との関係である。
【0029】
上記の鉄筋ひずみ検出構造において、筒状鉄筋1の短尺筒状鉄筋3内のセンサーロッド5は、その両端が短尺筒状鉄筋3の両端部に固定されているので、筒状鉄筋1が曲げ変形し短尺筒状鉄筋3が曲げ変形した時センサーロッド5も曲げ変形する。そして、センサーロッド5には細径部7と大径部8とが交互に形成されており、前記大径部8は、短尺筒状鉄筋3が真っ直ぐな時は短尺筒状鉄筋3内面に対して僅かの隙間を有するが、短尺筒状鉄筋3が曲がった時に短尺筒状鉄筋3内面に接触してセンサーロッド5が短尺筒状鉄筋3の曲げ変形に追随して曲げ変形可能な外径を有するので、センサーロッド5は、短尺筒状鉄筋3が曲がる時、短尺筒状鉄筋3の曲げ変形を倣った曲げ変形(同じ曲率の曲げ変形)をする。すなわち、センサーロッド5は、筒状鉄筋1が曲がる時、筒状鉄筋1の曲げ変形を倣った曲げ変形(同じ曲率の曲げ変形)をする。
一方、大径部7と細径部8とに同じ曲げモーメントが作用している場合、細径部7の外周面には大径部8の外周面より大きなひずみ(引張りひずみ、及び圧縮ひずみ)が発生しているので、細径部7の外周に貼り付けた歪ゲージ13のひずみ信号は、仮に大径部8の外周に貼り付けた場合の歪ゲージのひずみ信号より大である。すなわち、細径部7と大径部8とが交互に形成されたセンサーロッド5における細径部7に歪ゲージ13を貼り付けることで、筒状鉄筋1の曲げ変形を高い感度で検知することができる。
上述のように本発明の鉄筋ひずみ検出構造は、特許文献1や特許文献2のような、斜面を補強する対策とは別に設置するものでなく、鉄筋挿入工に組み込む態様で土塊の移動を検知することができるので、種々の点で効率的である。
また、特許文献1の曲げ力センサのような単に一定の地滑りが発生した時にそれを検知するものでなく、検知した筒状鉄筋1の曲げ変形量に基づいて、斜面地盤の土塊の移動状況を把握することができ、地滑り等の危険性を把握することも可能になる。
【0030】
斜面地盤の不安定層に土塊の移動が生じた時の上述の鉄筋ひずみ検出構造の挙動を説明すると、
図6(イ)は土塊の移動がない状態を示し、
図6(ロ)は土塊の移動が生じた場合を示す。土塊が移動した時、筒状鉄筋1には曲げ変形が生じるが、筒状鉄筋1のすべり面Sより深い安定地盤中にある部分は仮に全く移動しないとした場合、筒状鉄筋1には、
図6(イ)の状態から例えば
図6(ロ)のような曲げ変形が生じる。すなわち、すべり面Sより上側ですべり面Sに近い部分では大きく曲げ変形し、すべり面Sから十分離れると概ね直線状態のまま移動する。
図示のような曲げ変形であった場合、すべり面Sから上側50mmの位置に貼り付けた歪ゲージ13が概ね筒状鉄筋1の最も大きな曲げ変形部分に対応しており、歪ゲージ13は大きなひずみ信号を出力し、土塊の移動を高い精度で検知できる。但し、想定すべり面Sが実際に生じるすべり面と厳格に一致する訳ではないし、また最も大きな曲げ変形部分が諸条件により多少ずれることもあるので、補助的な意味合いで上側にも歪みゲージ13を設けて、2つの歪ゲージ13からのひずみ信号により、土塊の移動を一層確かに検知できる。
【0031】
本発明の鉄筋ひずみ検出構造の性能を確認するために行なった模型実験について説明する。
この実験は、
図7、
図8に示すように、架台33上に固定の下部土槽31とこの下部土槽31に対してスライドできる上部土槽32との2つの鋼製箱型土槽を2段に重ねた模擬地盤を形成した実験装置30を製作し、架台33を傾斜させて、模擬の地盤移動を発生させる方法で行なったもので、下部土槽31は深さ0.5m×幅1m×長さ1mで密な地盤に、上部土槽32は深さ1m×幅1m×長さ1mで緩い地盤になるように土砂を投入し、土槽中央には、センサーロッド5を内部に装着した筒状鉄筋1(センサー付き筒状鉄筋6)を1本設置し、筒状鉄筋1の頭部に支圧板2を取り付けて行なった。
筒状鉄筋1の下端は下部土槽31の底部に固定した。移動部分(下部土槽31と上部土槽32との境界面)は、できるだけ摩擦を軽減できるようにテフロン(デュポン社登録商標)シート及びフラットローラーを使用した。
筒状鉄筋1及びセンサーロッド5は
図2〜
図5で説明した構造、形状寸法であるが、歪ゲージは筒状鉄筋1及びセンサーロッド5のそれぞれすべり面S(下部土槽31と上部土槽2との境界面)より55mm上の位置に貼り付けた。下部土槽31を載置した架台33は、一端側の回転軸34と他端側の受け材35で水平に支持され、揚重機のフック36で他端側を昇降させて所望の傾斜とする。
【0032】
図9のグラフは上記実験装置30を用いて行なった実験のなかで、土槽31・32を
図8のように傾斜させていった時の筒状鉄筋とセンサーロッドの曲げひずみの関係を求めたものである。横軸は筒状鉄筋のひずみε、縦軸はセンサーロッドのひずみεである。
このグラフの通り、すべり面Sより55mm上の位置に貼り付けた歪ゲージが検出する筒状鉄筋とセンサーロッドの曲げひずみはほとんど同じであり、両者が同じように曲げ変形していることが分る。すなわち、センサーロッドに細径部と大径部とが交互に形成され、かつ、前記大径部と筒状鉄筋内面間に僅かな隙間を有する構造であることで、筒状鉄筋が曲がる時、センサーロッドが筒状鉄筋の曲げ変形を倣った曲げ変形(同じ曲率の曲げ変形)をすることが分る。
【0033】
上述した実施例のセンサーロッド5の具体的な形状寸法は、実施例の形状寸法に限定されるものではない。
センサーロッド5の形状寸法は、センサーロッド5が筒状鉄筋1の曲げ変形に極力正確に倣う曲げ変形をするように設定するが、特にセンサーロッド5の外径部と筒状鉄筋1の内径との関係が大きな要素であり、大径部の外周面と筒状鉄筋の内面との間の隙間を適切に設定する。また、大径部の長さと細径部の長さとの関係も適切に設定する必要がある。
また、曲げ変形を検知する感度については、大径部と細径部の外径の差異が大きく関与する。
【0034】
上記の実施例では、曲げ変形箇所に対応する短尺筒状鉄筋3の複数の細径部7のうちの2箇所の細径部7のみに歪ゲージ13を貼り付けたが、歪ゲージの貼り付け箇所は2箇所に限らず、適宜選択することができる。但し、すべり面Sの近傍の2箇所程度に貼り付ければ、概ね適切な曲げ変形検知が可能なので、また、リード線を通すセンサーロッド5の中空部5aの内径が6mmと細いこともあり、無用に増やす必要はない。
また、上記の実施例において、筒状鉄筋1の複数の短尺筒状鉄筋3のうちの地表側の2本にセンサーロッド5を装着しているが、すべり面Sの近傍に対応する1本の短尺筒状鉄筋3だけにセンサーロッド5を装着することもできる。また、筒状鉄筋1の全ての短尺筒状鉄筋3にセンサーロッド5を装着することを必ずしも除外しない。
また、筒状鉄筋1は実際上、複数の短尺筒状鉄筋3を連結して所望の長さとするが、1本で所望の長さを有する筒状鉄筋1を使用することを除外しない。