(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボニル化合物と、青酸とを、触媒の非存在下、又はシアン化ナトリウム及びシアン化カリウムからなる群より選択される触媒の存在下、pHが7未満の緩衝液中で反応させてシアノヒドリンを得る、シアノヒドリンの製造方法。
前記有機酸は、前記シアノヒドリンを加水分解させたときに生成するα−ヒドロキシカルボン酸と同種のα−ヒドロキシカルボン酸である、請求項4に記載のシアノヒドリンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
シアノヒドリン化合物は、例えば、医薬有効物質、ビタミン又はピレスロイド化合物等の生理活性物質を製造するために多く使用されるα−ヒドロキシカルボン酸化合物、α−ヒドロキシケトン化合物又はβ−アミノアルコール化合物等の合成に用いる中間体として重要である。
【0003】
シアノヒドリン化合物としては、グリコロニトリルが最も一般的であり、その製造方法としては、例えば、特許文献1〜4に記載の方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、触媒量の酢酸ナトリウムを溶解したホルマリン液に青酸を液温15〜30℃で、必要ならば、酢酸または酢酸ナトリウムを添加しながらpHを4.8〜6.0に保って滴下し同条件下で反応を行うことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、水性媒体中にてホルムアルデヒドと青酸とを反応させてグリコロニトリルを製造する際、反応系に少量の酸性亜硫酸イオンを存在せしめることを特徴とするグリコロニトリルの製造方法が記載されており、具体的には、亜硫酸ソーダ水溶液を反応液のpHが4.0〜5.0となるように調節しつつ適宜反応槽に供給することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、青酸とホルムアルデヒドとを水性媒体中で反応させてグリコロニトリルを製造する方法において、反応帯域の温度T(℃)、反応液のpHをPとしたとき、TとPの積が155〜240であることを特徴とするグリコロニトリルの製造方法が記載されており、具体的には、例えば、pHを低くするためには、少量の二酸化イオウ、亜硫酸、硫酸などを添加し、pHを高くする場合は、少量の亜硫酸ソーダ、苛性ソーダなどを添加する旨記載されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、グリコロニトリルの調製方法であって、(a)測定可能な時間に約90℃〜約150℃の温度に加熱される水性ホルムアルデヒドを供給する流れを提供するステップと、(b)(a)の加熱された水性物を供給する流れをグリコロニトリル合成に適切な温度でシアン化水素を接触させ、それによってグリコロニトリルが製造されるステップとを含むことを特徴とする方法が記載されている。そして、グリコルニトリル合成反応室におけるpHは約3〜約10、好ましくは約5〜約8とすることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法は、反応進行中に適宜pH調整を行う必要があり、作業効率が悪いという問題があった。また、特許文献4に記載の方法では、シアノヒドリンの生成率が、必ずしも高くない場合があった。さらに、特許文献1〜4に記載の方法では、ホルムアルデヒドと青酸との反応速度を精度良く制御することが困難であった。
【0010】
そこで本発明は、反応進行中にpHの調整を行わなくとも、カルボニル化合物と青酸との反応速度を精度良く制御することができ、且つ、十分に高い生成率でシアノヒドリンを生成することが可能な、シアノヒドリンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、カルボニル化合物と、青酸とを、pHが7未満の緩衝液中で反応させてシアノヒドリンを得る、シアノヒドリンの製造方法を提供する。
【0012】
通常、青酸とカルボニル化合物との反応速度はpHに依存し、当該pHは反応の進行に伴って変化する。従来の製造方法では、pHの変化に併せて適宜pHの調整を行うが、このような方法ではpHを精度良く一定に保つことが困難であり、このことが反応速度の制御を困難にしている一因と考えられる。これに対して、本発明に係る製造方法では、緩衝液中で反応を進行させるため、pHの調整を行わずとも反応進行中のpHが一定に保持される。そのため、本発明においては、カルボニル化合物と青酸との反応速度を精度良く制御することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、高い生成率でシアノヒドリンを製造することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明では緩衝液中で反応を行うため、pHの変動による生成率の低下が生じ難く、高い生成率を達成できるものと考えられる。
【0014】
本発明はまた、カルボニル化合物を含有し且つpHが7未満である緩衝液を、所定温度範囲に保持しつつ、上記緩衝液に青酸を添加して、上記緩衝液中で上記カルボニル化合物と上記青酸とを反応させてシアノヒドリンを得る、シアノヒドリンの製造方法を提供する。このような製造方法によれば、pHの調整を行わずともカルボニル化合物と青酸との反応速度を精度良く制御することができ、且つ、高い生成率でシアノヒドリンを製造することができる。
【0015】
本発明において、上記緩衝液は、弱酸及び該弱酸の塩を含有することが好ましい。また、上記緩衝液は、有機酸及び該有機酸の塩を含有することが好ましい。このような緩衝液によれば、カルボニル化合物と青酸との反応におけるpHの変動を一層抑制することができる。そのため、本発明の効果がより確実に奏されるようになる。
【0016】
上記有機酸は、シアノヒドリンを加水分解させたときに生成するα−ヒドロキシカルボン酸と同種のα−ヒドロキシカルボン酸であることが好ましい。このような有機酸を用いることにより、生成したシアノヒドリンを更に加水分解してα−ヒドロキシカルボン酸を得る場合に、精製が容易となる。また、シアノヒドリンの生成率が一層向上するようになる。
【0017】
また、上記有機酸は、グリコール酸であることが好ましい。グリコール酸及びグリコール酸の塩を含有する緩衝液によれば、pHの変動を一層抑制することができるとともに、シアノヒドリンの生成率が一層向上するようになる。
【0018】
上記カルボニル化合物は、アルデヒド類であることが好ましく、ホルムアルデヒドであることがより好ましい。このようなカルボニル化合物から得られるシアノヒドリンは、医薬有効物質、ビタミン又はピレスロイド化合物等の生理活性物質を製造するための中間体として非常に有用である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反応進行中にpHの調整を行わなくとも、カルボニル化合物と青酸との反応速度を精度良く制御することができ、且つ、十分に高い生成率でシアノヒドリンを生成することが可能な、シアノヒドリンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のシアノヒドリンの製造方法の好適な実施形態について以下に説明する。
【0021】
本実施形態に係るシアノヒドリンの製造方法は、カルボニル化合物と、青酸とを、pHが7未満の緩衝液中で反応させてシアノヒドリンを得るものである。
【0022】
ここで、カルボニル化合物とは、カルボニル基を有する化合物であり、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基又は炭素数7〜9のアルキルアリール基を示す。
【0025】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であっても環を形成していてもよい。
【0026】
炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基等が挙げられる。
【0027】
炭素数7〜9のアルキルアリール基としては、ベンジル基、エチルフェニル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0028】
カルボニル化合物として、具体的には、アセトン(R
1及びR
2がいずれもメチル基である化合物)、メチルエチルケトン(R
1及びR
2の一方がメチル基、他方がエチル基である化合物)、イソブチルメチルケトン(R
1及びR
2の一方がメチル基、他方がイソブチル基である化合物)等のケトン類;ホルムアルデヒド(R
1及びR
2がいずれも水素原子である化合物)、アセトアルデヒド(R
1及びR
2の一方が水素原子、他方がメチル基である化合物)、プロピオンアルデヒド(R
1及びR
2の一方が水素原子、他方がエチル基である化合物)、ベンズアルデヒド(R
1及びR
2の一方が水素原子、他方がフェニル基である化合物)等のアルデヒド類;等が挙げられる。
【0029】
式(1)においては、R
1及びR
2がいずれも水素原子ではない化合物がケトン類であり、R
1及びR
2のうち少なくとも一つが水素原子である化合物がアルデヒド類である。
【0030】
カルボニル化合物としては、アルデヒド類が好ましい。すなわち、式(1)においては、R
1及びR
2のうち少なくとも一つが水素原子であることが好ましい。アルデヒド類は、ケトン類と比較して、青酸と効率良く反応しやすく、より高い生成率でシアノヒドリンを製造することができる。また、アルデヒド類のうち、グリシンやヒダントイン等の製造中間体として有用なグリコロニトリルを製造できる観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0031】
カルボニル化合物は、例えば、水溶液として反応に供することができる。すなわち、カルボニル化合物がホルムアルデヒドである場合、ホルムアルデヒド水溶液として反応に供することができる。
【0032】
青酸は、気体、液体又は水溶液等、任意の形態で反応に供することができ、液体又は水溶液として供することが好ましい。
【0033】
反応に供する青酸の量は、シアノヒドリンの生成率を向上させる観点から、カルボニル化合物の総量に対して、モル数で1〜1.2倍が好ましく、1〜1.1倍がより好ましい。
【0034】
カルボニル化合物と青酸との反応により得られるシアノヒドリンは、例えば、下記式(2)で表される化合物である。
【0036】
式中、R
1及びR
2は、式(1)におけるR
1及びR
2と同義である。
【0037】
具体的には、例えば、ホルムアルデヒドからはグリコロニトリル(別名:ヒドロキシアセトニトリル、式(2)におけるR
1及びR
2がいずれも水素原子である化合物)、アセトンからはアセトンシアノヒドリン(別名:α−ヒドロキシイソブチロニトリル、式(2)におけるR
1及びR
2がいずれもメチル基である化合物)、ベンズアルデヒドからはマンデロニトリル(式(2)におけるR
1及びR
2の一方が水素原子、他方がフェニル基である化合物)をそれぞれ得ることができる。
【0038】
カルボニル化合物と青酸との反応は、触媒の存在下で行われることが好ましい。触媒としては、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等が挙げられる。
【0039】
触媒の使用量は、反応に供するカルボニル化合物の総量に対して、0.01〜0.5モル%であることが好ましく、0.05〜0.1モル%であることがより好ましい。
【0040】
緩衝液とは、緩衝作用のある溶液、すなわち、所定量の酸又は塩基を添加してもそのpHの変化が小さい溶液をいう。緩衝液は、好適には、弱酸及び弱酸の塩を含有する水溶液であり、より好適には、有機酸及び有機酸の塩を含有する水溶液である。
【0041】
上記の弱酸としては、酢酸、蟻酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、フタル酸、コハク酸等の有機酸;リン酸、ホウ酸等の無機酸;等が挙げられ、これらのうち有機酸が好ましい。
【0042】
上記の弱酸の塩としては、上記の弱酸の、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;等が挙げられる。
【0043】
また、上記の弱酸としては、α−ヒドロキシカルボン酸が好ましい。α−ヒドロキシカルボン酸と、α−ヒドロキシカルボン酸の塩と、を含有する緩衝液によれば、シアノヒドリンがより高い生成率で得られる。
【0044】
α−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
式中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基又は炭素数7〜9のアルキルアリール基を示す。また、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基及び炭素数7〜9のアルキルアリール基としては、それぞれ上記と同様の基が例示される。
【0047】
ところで、シアノヒドリンは、例えば、微生物を用いた加水分解反応によりα−ヒドロキシカルボン酸を生成する。このようにして生成されたα−ヒドロキシカルボン酸は、医薬有効物質、ビタミン又はピレスロイド化合物等の生理活性物質を製造するために多く使用され、有用である。
【0048】
そこで、上記の弱酸として、製造されるシアノヒドリンを加水分解させたときに生成するα−ヒドロキシカルボン酸と同種のα−ヒドロキシカルボン酸を用いると、反応後にシアノヒドリンの精製を行うことなく、上述した加水分解反応に供することができる。このとき、α−ヒドロキシカルボン酸の存在によって、微生物を用いた加水分解反応は阻害されず、加水分解反応により生じるα−ヒドロキシカルボン酸と同一のものであるため精製操作を阻害することもない。このような観点から、上記の弱酸としては、製造されるシアノヒドリンを加水分解させたときに生成するα−ヒドロキシカルボン酸と同種のα−ヒドロキシカルボン酸を用いることが好ましい。このようなα−ヒドロキシカルボン酸は、下記式(4)で表すことができる。
【0050】
式中、R
1及びR
2は、式(1)におけるR
1及びR
2と同一の基である。
【0051】
すなわち、例えば、本実施形態に係るカルボニル化合物として、ホルムアルデヒドを用いた場合、緩衝液としては、グリコール酸とグリコール酸の塩とを含有する緩衝液が好ましい。
【0052】
緩衝液のpHは7未満であり、シアノヒドリンの生成率が向上する観点からは、1〜6であることが好ましく、3〜5であることがより好ましい。pHが高すぎると、シアノヒドリンからカルボニル化合物への逆反応が進行するようになるうえに、突発的な異常反応が起きやすくなり、シアノヒドリンの生成率が低下する傾向にある。また、pHが低すぎると、反応自体は安定であるが反応速度が遅くなる。
【0053】
カルボニル化合物と青酸との反応の反応速度は、緩衝液のpHを適宜変更することにより、精度良く制御することができる。そして、緩衝液のpHは、弱酸と弱酸の塩とのモル比を変更することによって、適宜調整することができる。例えば、弱酸としてグリコール酸、弱酸の塩としてグリコール酸ナトリウムを用いる場合、グリコール酸の酸解離定数(3.63[25℃])からの推定で、グリコール酸(GA)とグリコール酸ナトリウム(GANa)とのモル比(GA/GANa)を、0.43とすることにより、pHが4である緩衝液を調製することができる。
【0054】
また、例えば、弱酸の酸解離定数をKaとしたとき、pHがXである緩衝液を調製するためには、弱酸と弱酸の塩とのモル比Y(弱酸のモル数/弱酸の塩のモル数)を、下記式(i)で表される値にすればよい。
Y=10
(pKa−x) …(i)
【0055】
緩衝液は、カルボニル化合物と青酸との反応開始時におけるpHと、反応完了時におけるpHとの差が、0〜1となるように調製されたものであることが好ましく、0〜0.5となるように調製されたものであることがより好ましい。pHの変化幅を、上記のように抑制することによって、シアノヒドリンの生成率が一層顕著に向上する。また、より精度良く反応速度を制御することができるようになる。
【0056】
本実施形態に係る製造方法においては、弱酸及び弱酸の塩の緩衝液中の含有量を調整することによって、pHの変化幅を上記の範囲内に抑制することができる。具体的には、反応に供するカルボニル化合物の総量に対して、弱酸の含有量を0.02〜0.24モル%、弱酸の塩の含有量を0.04〜0.52モル%とすることにより、pHの変化幅を上記の範囲内に抑制することができる。
【0057】
本実施形態に係るシアノヒドリンの製造方法は、例えば、カルボニル化合物を含有し且つpHが7未満である緩衝液を、所定温度範囲に保持しつつ、該緩衝液に青酸を添加して、該緩衝液中でカルボニル化合物と青酸とを反応させることにより、実施することができる。
【0058】
上記の所定温度範囲とは、シアノヒドリンの生成率が良好となる観点から、通常10〜90℃であり、好ましくは20〜80℃であり、より好ましくは30〜60℃である。当該温度が高すぎると、シアノヒドリンからカルボニル化合物への逆反応が進行するようになるうえに、突発的な異常反応を起こしやすくなり、シアノヒドリンの生成率が低下する傾向にある。また、温度が低すぎると、反応自体は安定であるが反応速度が遅くなる。
【0059】
カルボニル化合物と青酸との反応は、上記のごとくカルボニル化合物を含有し且つ温度調整された緩衝液に、青酸を添加しながら行うことが好ましい。添加速度は、カルボニル化合物の総量に対して、好ましくは0.05〜10モル%/分であり、より好ましくは0.1〜5モル%/分である。添加速度が速すぎると急激なpH変動を伴う場合があり、添加速度が遅すぎると工程時間が長くなり作業効率が低下する。緩衝液の温度は、青酸を添加している間、上記の所定温度範囲を維持するように調整されることが好ましく、青酸の添加が終了した後も反応が完結するまでの間、上記の所定温度範囲を維持するように調整されることが好ましい。
【0060】
カルボニル化合物と青酸との反応の反応時間は、通常1〜10時間程度である。上述のとおり、緩衝液のpHを変化させることにより反応速度が調整されるため、反応時間は当該反応速度に併せて適宜調整することができる。
【0061】
カルボニル化合物と青酸との反応は、反応域の圧力を常圧としても、加圧下としてもよい。また、本実施形態に係る製造方法は、回分法及び連続法のいずれの方法でも好ましく実施することができる。連続法を採用する場合、反応域を2つ又はそれ以上に分割し、多段階で反応を実施することが好ましい。
【0062】
カルボニル化合物と青酸との反応が完了した後、シアノヒドリンを含有する反応溶液は、例えば硫酸などの酸を添加して、pHを好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下に調製することが好ましい。このように反応溶液のpHを調製することにより、シアノヒドリンからカルボニル化合物への逆反応が抑制され、反応溶液中でのシアノヒドリンの貯蔵安定性が向上する。
【0063】
そして、例えば、上記のごとくpHを調製した反応溶液について、減圧下で溶媒や残留青酸を除去し濃縮することにより、シアノヒドリンを得ることができる。濃縮時の温度は、50℃以下であることが好ましい。濃縮時の温度が50℃より高いと、シアノヒドリンが分解するおそれがある。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0066】
(実施例1)
反応器に、37質量%ホルムアルデヒド水溶液79.54質量部、グリコール酸(純度97質量%)0.17質量部、グリコール酸ナトリウム(純度97質量%)0.50質量部、及び水60質量部を量り取り、撹拌、溶解しながら45℃に昇温した。この混合溶液の45℃におけるpHは3.9であった。
【0067】
この混合溶液中に、液体青酸27.81質量部を30分間かけて滴下した。液体青酸を全量滴下した直後の反応液のpHは4.1であった。その後、45℃にてさらに1時間撹拌した。反応完結時の反応液のpHは4.1であり、グリコロニトリル生成率は96%(ホルムアルデヒド基準)であった。
【0068】
(実施例2)
反応器に、37質量%ホルムアルデヒド水溶液79.54質量部、グリコール酸(純度97質量%)0.02質量部、グリコール酸ナトリウム(純度97質量%)0.05質量部、及び水60質量部を量り取り、撹拌、溶解しながら45℃に昇温した。この混合溶液の45℃におけるpHは3.6であった。
【0069】
この混合溶液中に、液体青酸27.81質量部を30分間かけて滴下した。液体青酸を全量滴下した直後の反応液のpHは3.7であった。その後、45℃にてさらに1.5時間攪拌した。反応完結時の反応液のpHは3.8であり、グリコロニトリル生成率は96%(ホルムアルデヒド基準)であった。
【0070】
(実施例3)
反応器に、37質量%ホルムアルデヒド水溶液79.54質量部、グリコール酸(純度97質量%)0.33質量部、グリコール酸ナトリウム(純度97質量%)0.99質量部、及び水60質量部を量り取り、撹拌、溶解しながら45℃に昇温した。この混合溶液の45℃におけるpHは4.0であった。
【0071】
この混合溶液中に、液体青酸27.81質量部を30分間かけて滴下した。液体青酸を全量滴下した直後の反応液のpHは4.2であった。その後、45℃にてさらに1時間攪拌した。反応完結時の反応液のpHは4.2であり、グリコロニトリル生成率は97%(ホルムアルデヒド基準)であった。
【0072】
(実施例4)
反応器に、アセトアルデヒド57.32質量部、乳酸(純度90質量%)0.30質量部、乳酸ナトリウム(純度90質量%)0.81質量部、及び水24.05質量部を量り取り、撹拌、溶解し、7℃に冷却した。この混合溶液の7℃におけるpHは5.3であった。
【0073】
この混合溶液中に、液体青酸36.90質量部を1時間かけて滴下した。液体青酸を全量滴下した直後の反応液のpHは4.5であった。その後、20℃に昇温してさらに2時間攪拌した。反応完結時の反応液のpHは4.3であり、ラクトニトリル生成率は99%(アセトアルデヒド基準)であった。
【0074】
(比較例1)
反応器に、37質量%ホルムアルデヒド水溶液79.54質量部及び水60質量部を量り取り、撹拌しながら45℃に昇温した。この溶液の45℃におけるpHは4.4であった。
【0075】
この溶液中に、0.5質量%硫酸水溶液0.06質量部及び0.1質量%苛性ソーダ水溶液0.13質量部を添加して、pHを4.1とした。この液中に、液体青酸27.03質量部を30分間かけて滴下したところ、反応液のpHは徐々に低下し、液体青酸を全量滴下した直後の反応液のpHは2.7となった。その後、45℃にてさらに1時間撹拌した。1時間撹拌後の反応液のpHは2.7であり、グリコロニトリル生成率は86%(ホルムアルデヒド基準)であった。
【0076】
以上の結果から、酸と塩基で単純にpHを調整しただけの液中で、カルボニル化合物と青酸とを反応させると、反応進行に伴ってpHが変動して、シアノヒドリンの生成率があまり高くならないことがわかる。これに対して、酸性側のpHに調整された緩衝液中で、カルボニル化合物と青酸とを反応させると、pHが大きく変動しないため反応速度が適切な範囲で安定し、シアノヒドリンの生成率が高くなることがわかる。