(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ユウロピウム(Eu)化合物が、塩化ユウロピウム、硝酸ユウロピウムおよび酢酸ユウロピウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリイミド複合体。
波長250〜400nmの紫外線を照射することにより、波長500〜800nmの蛍光を発することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリイミド複合体。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のポリイミド複合体およびその製造方法について説明する。
<ポリアミド酸溶液(S1)>
(ポリアミド酸)
本発明において、ポリイミド複合体を作成する際には、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含む溶液(S1)、即ちポリアミド酸ワニス(ポリイミド前駆体ワニスとも称す)を利用することが可能である。ポリアミド酸は、ポリアミド酸が溶解する溶媒の存在下で、脂環式ジアミン化合物(A)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(B)との反応から得られ、下記一般式(1)で示される半脂環式の繰り返し構造を有する。
【0030】
【化11】
(式(1)中、Xは炭素数4〜15の二価の脂環族基を示し、Yは炭素数6〜27の四価の芳香族基を示す。)
ポリアミド酸溶液(S1)中のポリアミド酸の濃度は、ポリイミド複合体を作成できれば特に制限されないが、好ましくは、ポリアミド酸100重量部に対して、溶媒100〜10000重量部、さらに好ましくは200〜5000重量部である。
【0031】
本発明にかかるポリイミドは、脂環式ジアミン化合物(A)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(B)で構成されているため、前駆体であるポリアミド酸の状態で有しているカルボキシル基によるカルボキレート陰イオンと金属陽イオンが、イオン的結合を形成しうる。そのため、ユウロピウム(Eu)化合物を好適に複合でき、機械物性および耐熱性を損なうことなく、無色透明でありながら、たとえば、200〜400nmの紫外線を照射することにより、通常、500〜800nmの蛍光を瞬時に発することができる。また、ユウロピウム(Eu)のff遷移による蛍光発光を促すためには、π電子系のドナーが光アンテナ効果を介して効率よくエネルギー移動ができるよう、ユウロピウムと近接で配位できる有機分子部位として、芳香族性を有する場合の方が、非常に高い蛍光強度を有することができると考えられる。そのため、本発明のポリイミド複合体は、効率よく、蛍光を発することができる。
【0032】
(二価の脂環式ジアミン化合物(A))
式(1)の繰り返し構造中のXは、二価の脂環式ジアミン化合物(A)に由来する。ジアミン化合物(A)は、ポリアミド酸、ポリイミドを製造できる限り特に限定されないが、たとえば、
シクロブタンジアミン類、シクロヘキサンジアミン類(トランス−1,4−シクロヘキシルアミンを含む)、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン類(1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのビス(アミノメチル)シクロヘキサン類)、ジアミノビシクロヘプタン類、ジアミノメチルビシクロヘプタン類(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、ジアミノオキシビシクロヘプタン類、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン類(オキサノルボルナンジアミンなどのオキサノルボルナンジアミン類を含む)、イソホロンジアミンなどのイソホロンジアミン類、ジアミノトリシクロデカン類、ジアミノメチルトリシクロデカン類、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどのビス(アミノシクロへキシル)メタン類、(4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などのメチレンビス(シクロヘキシルアミン)類)、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン類等が挙げられる。
【0033】
好ましい脂環式ジアミン化合物(A)としては、入手可能性、光学物性良好性、および、熱的かつ力学的安定性の理由から、トランス−1,4−シクロヘキシルアミンを含むシクロヘキサンジアミン類、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含むジ(アミノメチル)シクロヘキサン類、ジアミノメチルビシクロヘプタン類(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、オキサノルボルナンジアミン、イソホロンジアミン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などが挙げられる。このジアミノメチルビシクロヘプタン類(ノルボルナンジアミン類を含む)についてより詳細に説明をするならば、(2S,5S)−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、(2S,5R)−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、(2S,6R)−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、および(2S,6S)−ジアミノメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタンが挙げられる。尚、このジアミノメチルビシクロヘプタンは異性体を有するが、異性体1種単独でも、あるいは異性体の混合物でも使用できる。
また、これらのジアミン化合物(A)は、単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
(四価の芳香族テトラカルボン酸二無水物(B))
式(1)の繰り返し構造中のYは、四価の芳香族テトラカルボン酸二無水物(B)に由来する。酸二無水物(B)は、ポリアミド酸、ポリイミドを製造できる限り特に限定されないが、たとえば、
ピロメリット酸二無水物などのピロメリット酸二無水物類、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などのビス(ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物類、ビス(カルボキシフェニル)エステル二無水物類、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などのビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物類等が挙げられる。
【0035】
この中で、好ましい酸二無水物(B)としては、有機分子の光励起エネルギーを、光アンテナ効果を介して効率よく移動することができ、吸光係数の高いπ電子系を備えたドナーであることから、ピロメリット酸二無水物類、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類、ビス(ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物類などが挙げられ、より具体的には、1,2,4,5−ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物である。
また、これらの酸二無水物(B)は、単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
(溶媒)
本発明にかかるポリアミド酸溶液(S1)の作製で使用される溶媒は、形成されるポリアミド酸が溶解できる限り特に限定されないが、たとえば、
フェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノールなどのフェノール系溶媒;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミドなどの非プロトン性またはそれに準ずるアミド系溶媒;
1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;
ピリジン、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソホロン、ピペリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン系溶媒;および
ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、水、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−クロルトルエン、m−クロルトルエン、p−クロルトルエン、o−ブロモトルエン、m−ブロモトルエン、p−ブロモトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、フルオロベンゼン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなどのその他の溶媒が挙げられる。
【0037】
これら溶媒は、単独であるいは2種以上混合して使用してもよい。
上記溶媒の中でも、非プロトン性またはそれに準ずるアミド系溶媒が好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミドがより好ましい。
【0038】
(ポリアミド酸溶液(S1)の作製)
ポリアミド酸と溶媒を含むポリアミド酸溶液(S1)(ポリアミド酸ワニスとも称す)は、ポリアミド酸が製造できる限り特に制限されないが、たとえば、以下の製法が挙げられる。
【0039】
一般的には、上記ジアミン化合物(A)と、上記酸二無水物(B)とを、前記溶媒、典型的には非プロトン性のアミド系溶媒中で重合することにより得られる。
重合反応を行なうに当たり、各原料を重合反応系内に添加する方法については特に制限されないが、
(a)ジアミン化合物(A)と酸二無水物(B)及び溶媒とを同時に添加する方法、
(b)ジアミン化合物(A)と溶媒とを混合した後に酸二無水物(B)を添加する方法、
(c)酸二無水物(B)と溶媒とを混合した後にジアミン化合物(A)を添加する方法、
(d)酸二無水物(B)と溶媒、ジアミン化合物(A)と溶媒をそれぞれ混合した後、それぞれを混合し添加する方法、等が挙げられる。また、該重合反応中の温度制御を行うに当たり、冷却あるいは加熱操作を行ってもよい。
【0040】
ポリアミド酸あるいはポリイミドの製造にあたって、生成するポリアミド酸あるいはポリイミドの分子量を調節するために、ジアミン化合物(A)と酸二無水物(B)との量比を調節することは通常行われている。
【0041】
本発明の製造方法においては、ポリアミド酸を製造する際に、全ジアミン化合物(A)と全酸二無水物(B)とのモル比(全ジアミン化合物(A)/全酸二無水物(B))は、通常0.9〜1.1の範囲である。なお、オリゴマー成分を重合する場合、ジアミン化合物(A)と酸二無水物(B)とのモル比は任意であり、0.9〜1.1の範囲であってもなくてもよい。
【0042】
例えば、全ジアミン化合物(A)と全酸二無水物(B)とのモル比を0.9〜1.1とすると、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中、濃度0.5g/dl、35℃で測定した対数粘度が、通常0.1〜3.0dL/gの範囲となるポリアミド酸が作製できる。
【0043】
本発明により得られるポリイミド複合体に含まれるポリイミド、およびそのポリアミド酸は、その分子末端が封止されていてもよい。分子末端が封止されている場合には、従来から知られているように、アミンおよびジカルボン酸無水物と反応性を有しない基で封止されることが望ましい。
【0044】
具体的には、ポリイミドおよびポリアミド酸の分子末端が、ジカルボン酸無水物、またはモノアミン化合物で封止されることが望ましい。
ポリアミド酸あるいはポリイミドの分子末端を封止する場合には、以下の2通りに分けられる。すなわち、ジアミン化合物が過剰で、末端をジカルボン酸無水物で封止する場合には、ジアミン化合物1モル当たり、テトラカルボン酸二無水物(B)は0.9モル以上1.0モル未満、ジカルボン酸無水物は0.001モル以上0.3モル未満である。テトラカルボン酸二無水物(B)が過剰で、末端をモノアミン化合物で封止する場合には、テトラカルボン酸二無水物(B)1モル当たり、ジアミン化合物(A)は0.9モル以上1.0モル未満、モノアミン化合物は0.001モル以上0.3モル未満である。
【0045】
なお、ポリアミド酸あるいはポリイミドが共重合体である場合には、その共重合体を構成する2種以上の繰り返し単位の定序性や規則性には、制限があってもなくてもよい。また、共重合体の種類はランダム、交互およびブロックのいずれでも差し支えない。したがって、ジアミン化合物(A)および酸二無水物(B)が併せて3種以上からなる場合、それぞれの添加順序は任意であり、それら原料の添加方法も一括または分割いずれであってもよい。
【0046】
<ポリアミド酸溶液(S2)>
本発明のポリアミド酸溶液(S2)は、前記ポリアミド酸溶液(S1)にユウロピウム(Eu)化合物を添加することによって得られる。
【0047】
ユウロピウム(Eu)化合物としては、本発明の効果を奏する限り限定されないが、たとえば、ユウロピウム酸化物、ユウロピウム水酸化物、ユウロピウム無機酸塩、ユウロピウム有機酸塩、ユウロピウム有機錯体などが挙げられる。これらの中でも、塩化ユウロピウム、硝酸ユウロピウム、酢酸ユウロピウムが好ましい。これらのユウロピウム化合物は、単独で、または2種以上のユウロピウム化合物を含むその他の金属化合物を混合して用いることができる。
【0048】
本発明において、ユウロピウム(Eu)化合物を、本発明にかかるポリアミド酸溶液(S1)に加えることで、得られるポリイミド複合体は、光学特性(無色透明)、機械物性および耐熱性を損なうことなく、一方で、紫外線(たとえば、波長250〜400nm)を照射することにより、通常、波長500〜800nmの蛍光を瞬時に発するという効果を奏する。また、蛍光強度が非常に高い。
【0049】
ユウロピウム(Eu)のff遷移による発光を促すための励起エネルギーは、有機分子と錯形成することにより、有機分子の光励起エネルギーを、光アンテナ効果を介して得ることができると考えられる。そのため、吸光係数の高いπ電子系を備えたドナー、例えば芳香族化合物を用いることで、エネルギー移動の効率が非常に高くなる。したがって、励起エネルギーを授与できる最近接の配位子は芳香族系であることが望ましく、芳香族テトラカルボン酸二無水物(B)となんらかの強い相互作用を持った該ユウロピウム化合物からは、効率よい蛍光を発することができると推定される。すなわち、ポリイミドに、単にユウロピウム化合物を添加しても、ポリイミドは、本発明の効果を期待することはできない。そして、このような特定の構造に基づく相互作用に由来して、得られるポリイミド複合体が、本発明の物性を有するに到ると推定される。
【0050】
このことは、たとえば、ユウロピウム化合物と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られるポリイミド複合体は、電荷移動錯体(CT錯体)といわれる錯体が、ポリイミドの分子内、分子間で形成するため、無輻射遷移となり、蛍光発光性が著しく低くなることからも推定できる。
【0051】
(ポリアミド酸溶液(S2)の作製)
ポリアミド酸溶液(S2)(複合ワニスとも称す)は、ポリアミド酸および溶媒を含むポリアミド酸溶液(S1)に、ユウロピウム(Eu)化合物を加え、これらを混合して作製する。
【0052】
ユウロピウム化合物の添加量は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは、前記ポリアミド酸100重量部に対して、0.001〜4重量部、より好ましくは0.01〜3.5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。ユウロピウム化合物の添加量が0.001重量部以上であると、希薄でも十分な蛍光発光が得られ、4重量部以下であると最終的に得られるポリイミド複合体の力学的強度が十分であり、実用上問題とならない。また、上記範囲であれば、最終的に得られるポリイミド複合体の無色透明性、高耐熱性、力学的強度いずれも実用的な範囲で満たすことが可能となるため好ましい。
【0053】
なお、ユウロピウム(Eu)化合物の添加手段は特に制限されず、例えば、直接添加してもよいが、好ましくは、ユウロピウム(Eu)化合物を細かく粉砕して、その粉砕物を添加することである。また、ユウロピウム(Eu)化合物を予めポリアミド酸溶液(S1)とは反応しない溶媒に溶解あるいは分散させた後、ポリアミド酸溶液(S1)に添加してもよい。
【0054】
また、ユウロピウム(Eu)化合物の混合方法は、特に制限はされないが、例えば、空気下、窒素等の不活性雰囲気下の基で、一般的なミキサー、ブレンダー等、公知の機器により混合できる。
【0055】
上記混合は、ポリアミド酸のイミド化を抑制する観点からは、0〜50℃付近で行うことが望ましく、10〜40℃付近で行うことがより好ましく、作業上の利点から、室温で行うことが最も好ましい。また、混合時間も特に限定されないが、30分〜24時間の範囲が好ましく、1時間〜20時間の範囲で攪拌することがより好ましい。
【0056】
また、得られたポリアミド酸溶液(S2)から不純物や不溶成分の除去などを目的に、必要に応じてろ過を行ってもよい。ろ過は、例えば、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)製濾紙を備えた加圧ろ過によって行うことができる。
【0057】
このようにして得られたポリアミド酸溶液(S2)に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、添加剤、充填剤などをさらに加えてもよい。
添加剤としては、例えば、グラファイト、カーボランダム、二硫化モリブデン、フッ素系樹脂などの耐磨耗性向上剤、三酸化アンチモン、ホスファゼン化合物、リン酸エステル等の難燃性向上剤、クレー、マイカ、カオリン等の電気的特性向上剤、アスベスト、シリカ、グラファイト等の耐トラッキング向上剤、シリカ、メタ珪酸カルシウム等の耐酸性向上剤、鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉等の熱伝導度向上剤、その他ガラスビーズ、ガラス球、ガラス繊維、タルク、珪藻土、アルミナ、水和アルミナ、チタニア、シラスバルーン、着色料、および顔料などが挙げられる。
【0058】
(ポリアミド酸複合体)
ポリアミド酸溶液(S2)に含まれるポリアミド酸がイミド化しない条件で、溶媒を除去すると、ポリアミド酸複合体(PAAC)が作製できる。
【0059】
このような溶媒除去の方法としては、例えば、ポリアミド酸複合体(PAAC)が溶解しない貧溶媒を、ポリアミド酸溶液(S2)に加えて、ポリアミド酸複合体(PAAC)を析出させる再沈法、および、減圧下で溶媒を揮発させて留去する減圧乾燥法などが挙げられる。
【0060】
<ポリイミド複合体>
(ポリイミド)
本発明の無色透明なポリイミド複合体に含まれるポリイミドは、下記一般式(2)で示される半脂環式の繰り返し構造を有する。
【0061】
【化12】
(式(2)中、Xは炭素数4〜15の二価の脂環族基を示し、Yは炭素数6〜27の四価の芳香族基を示す)。
【0062】
上記式(2)で示される繰り返し構造を有するポリイミドは、前記のとおり、二価の脂環式ジアミン化合物(A)と、四価の芳香族テトラカルボン酸二無水物(B)との反応により形成される。
【0063】
また、本発明のポリイミドが共重合体である場合、その共重合体を構成する2種以上の繰り返し単位の定序性や規則性に、制限があってもなくてもよく、共重合体の種類はランダム、交互およびブロックのいずれでも差し支えない。よってジアミン化合物(A)およびテトラカルボン酸二無水物(B)が併せて3種以上からなる場合、それぞれの添加順序は任意であり、それら原料の添加方法も一括または分割いずれにすることも任意である。
【0064】
本発明において、上記式(2)中のXおよびYは、本発明のポリイミド複合体の無色透明性、高耐熱性、力学的強度に優れるとの理由から、以下の構成単位を有することが好ましい。
【0066】
【化13】
からなる群から選択される少なくとも1種の脂環族基であり、
上記式(2)中のYは、
【0067】
【化14】
からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族基である。
【0068】
また、本発明において、ユウロピウム由来の蛍光波長は同程度でも、蛍光強度が高くなるとの理由から、特に以下の一般式(3)〜(11)のいずれかを含むポリイミドがより好ましい。
【0069】
一般式(3)は、ジアミン化合物[1]がノルボルナンジアミンであり、化合物[2]が1,2,4,5−ピロメリット酸二無水物から得られる。
【0070】
【化15】
一般式(4)は、ジアミン化合物[1]がトランス−1,4−シクロヘキシルジアミンであり、化合物[2]が3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から得られる。
【0071】
【化16】
一般式(5)は、ジアミン化合物[1]が1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであり、化合物[2]が3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から得られる。
【0072】
【化17】
一般式(6)は、ジアミン化合物[1]がトランス−1,4−シクロヘキシルジアミンおよびノルボルナンジアミンであり、化合物[2]が3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から得られる。
【0073】
【化18】
(式中、mとnは、各括弧内で表される繰返し構造単位の繰返し数を示し、mの平均値とnの平均値との比(m:n)が、1:9〜9:1である。)
一般式(7)は、ジアミン化合物[1]が4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であり、化合物[2]が1,2,4,5−ピロメリット酸二無水物から得られる。
【0074】
【化19】
一般式(8)は、ジアミン化合物[1]がノルボルナンジアミンであり、化合物[2]がビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物から得られる。
【0075】
【化20】
一般式(9)は、ジアミン化合物[1]がノルボルナンジアミンであり、化合物[2]が2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から得られる。
【0076】
【化21】
一般式(10)は、ジアミン化合物[1]がノルボルナンジアミン、および、オキサノルボルナンジアミンであり、化合物[2]が2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から得られる。
【0077】
【化22】
(式中、mとnは、大括弧:[ ]内と小括弧:( )内で表される繰返し構造単位の繰返し数を示し、m:nの比は、4:6〜9:1である。)
一般式(11)は、ジアミン化合物[1]がノルボルナンジアミン、および、イソホロンジアミンであり、化合物[2]が2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物から得られる。
【0078】
【化23】
(式中、mとnは、大括弧:[ ]内と小括弧:( )内で表される繰返し構造単位の繰返し数を示し、m:nの比は、5:5〜9:1である。)
また、これらの中でも、蛍光強度と、力学的強度などとのバランスの点から、一般式(3)〜(6)で表わされるポリイミドを含むことが、特に好ましい。
【0079】
(ポリイミド複合体)
本発明のポリイミド複合体には、上記式(2)で示されるポリイミドの繰返し単位100当量に対して、ユウロピウム(Eu)が、通常0.001〜10当量含まれている。
【0080】
また、ポリイミド複合体は、無色透明である。ここで、本発明において、無色透明とは、30μm厚のフィルムを作製した際の、波長400nm以上、好ましくは400〜800nmの可視光線領域の波長における、光線透過率が通常80%〜100%、好ましくは85〜100%であることを意味する。光線透過率が上記範囲未満である場合、基本的に、「無色透明」を必要とする部材にポリイミド複合体を材料として使用することはできない。
【0081】
本発明のポリイミド複合体は、たとえば、波長250〜400nmの紫外線を照射することにより、通常、波長500〜800nm、好ましくは550〜700nmの蛍光を瞬時に発する。この蛍光は、通常、赤色として識別できる。なお、瞬時とは、紫外線を照射したら即座に蛍光を発することを意味し、紫外線に対する応答が速いことを意味する。さらに、ポリイミド複合体は、蛍光強度が非常に高い。
【0082】
このような効果は、イミド化および溶媒除去により、ポリアミド酸溶液(S2)中で形成された、該ポリアミド酸側鎖である、芳香環に置換したカルボキシル基とユウロピウム(Eu)に基づく構造が、より強固な形でポリイミド複合体中に形成されることに起因すると推定される。その構造が形成する詳細な機構は必ずしも明確ではないが、イミド化のために採用する反応条件が、熱的あるいは化学的な脱水を伴う縮合反応であるため、芳香環に置換した該カルボキシル基とユウロピウム(Eu)に基づく構造が、ポリイミド複合体中により強固に形成されたと推定される。それゆえ、ユウロピウム(Eu)のff遷移による発光を促すための励起エネルギーは、該カルボキシル基を有した芳香族有機化合物からの光励起エネルギーを、光アンテナ効果を介して得ることになり、本発明のポリイミド複合体は、無色透明でありながら、たとえば、250〜400nmの紫外線を照射することにより、通常500〜800nmの蛍光を瞬時に発することができるという効果を奏する。
【0083】
また、本発明のポリイミド複合体は、耐熱性に優れ、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上のTgを有する。
本発明で得られるポリイミド複合体は、ユウロピウム化合物を、好適な範囲の添加量で複合化することで優れた機械物性および寸法安定性を保持できる。好ましくは、ユウロピウム化合物が未添加のポリイミド単体に比べ、熱線膨張率(CTE)の増減が−5〜+5ppmの範囲で抑えられ、より好ましくは−3〜+3ppmの範囲で抑えられ、かつ、引張試験における引張伸度の増減が−10〜+10%の範囲で抑えられ、より好ましくは−5〜+5%の範囲にあり、上記の無色透明性、高蛍光性を効率的に付与することができる。
【0084】
(ポリイミド複合体の作製)
本発明のポリイミド複合体は、上記ポリアミド酸溶液(S2)に含まれるポリアミド酸をイミド化し、そのイミド化と同時あるいはイミド化後に、溶媒を除去することにより製造できる。また、イミド化と同時に溶媒の除去を行っても十分に溶媒の除去が行えない場合には、イミド化に続いてさらに溶媒の除去を行ってもよい。なお、上記ポリアミド酸溶液(S2)に替えて、上記ポリアミド酸を含むワニスを用いて、同様の操作により、ポリイミド複合体を作製することもできる。
【0085】
イミド化としては、公知の手法を採用でき、例えば、熱イミド化、化学イミド化などが挙げられる。なお、これらイミド化手段を複数組み合わせて、イミド化してもよい。また、熱イミド化は、通常、150〜300℃の温度で、好ましくは200〜300℃で、30分〜4時間加熱することにより行う。上記範囲であれば、脱水縮合反応によるイミド環形成をより完了させることができ、また、ポリイミド複合体の着色をより抑制できる点から好ましい。化学イミド化は、無水酢酸などのイミド化剤により行う。イミド化の際の雰囲気は、特に制限されなく、例えば、空気下、窒素等の不活性雰囲気下でイミド化を行うことができる。
【0086】
溶媒除去は、例えば、加熱、さらに必要に応じて減圧することにより行うことができる。
溶媒除去の条件は、溶媒種により異なり特に限定されないが、通常、150〜300℃の温度で、30分〜4時間加熱することにより行う。この時の加熱雰囲気は、特に制限されなく、例えば、減圧下、空気下、窒素等の不活性雰囲気下で溶媒除去を行うことができる。
【0087】
熱イミド化によりイミド化を行う場合には、例えば、その加熱と同時に溶媒を除去してもよい。また、イミド化反応の間に十分に溶媒が除去できなかった場合には、通常、150〜300℃の温度で再加熱をし、溶媒を除去することができる。
【0088】
化学イミド化によりイミド化を行う場合には、例えば、化学イミド化後に、通常150〜300℃の温度で、30分〜4時間加熱することにより、溶媒を除去できる。
このようなイミド化により本発明のポリイミド複合体が得られ、そのポリイミド複合体に含まれるポリイミドは、上記式(2)で示される繰り返し単位を含む。
【0089】
<用途>
本発明のポリイミド複合体は、無色透明性、高耐熱性、高力学的強度、高蛍光性、波長変換性、優れた電気特性などが必要とされる部材や材料に、たとえば、高感度センサー、光通信、フォトニクス、エレクトロニクス、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイを含むフラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイおよび発光ディスプレイ、蛍光塗料、セキュリティ用インク、照明器具、太陽光発電、放射線センサー、および農業用フィルムなどに、広く適用することができる。
【0090】
たとえば、本発明のポリイミド複合体を波長変換材料として太陽電池パネルに被膜することで、紫外領域のエネルギーも変換でき、効率のよい電池を得ることできる。また、LEDの分野では、色純度に優れた色を本発明のポリイミド複合体から直接発することができる。
【0091】
また、本発明のポリイミド複合体は、例えば、フィルム、金属積層板を含むリジットおよびフレキシブルな回路基材、反射材などの成形体、積層体などに用いることができる。なお、これら成形体を製造する条件は、フィルムの厚み、成形体の形状等に応じて適宜設定することができる。
【0092】
(フィルム)
本発明のポリイミド複合体は、例えば、フィルム、そのポリイミド複合体からなる層を少なくとも1層有する金属積層体などとして使用できる。フィルムは、無色透明であり、例えば、波長変換用フィルム、光学用材、感光性樹脂用カバー材、ディスプレイおよびフレキシブルディスプレイ等の表示材料部材、透明を求められるリジットおよびフレキシブルな回路基板、太陽電池等の保護フィルム、光合成促進や作物育成促進などの農業用フィルムなどに用いることができる。
【0093】
本発明のフィルムは、特に限定されないが、通常、数μm〜数百μmの厚さを有する。このような厚さを有するフィルムは、たとえば、ポリアミド酸溶液(S2)、あるいはポリアミド酸複合体(PAAC)を含むコーティング材を、厚み10〜1000μmで塗工し、イミド化、脱溶媒することにより作製できる。なお、上記コーティング材の濃度、その他成分の含有量などは、用途等に応じ適宜設定できる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限を受けるものではない。
<試験方法>
実施例中に共通する各種試験の試験方法は次に示すとおりである。
【0095】
(1)ポリマー溶液の固有対数粘度
ポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)のうち、合成時と同じ溶媒を用いて溶解させ、ポリマー溶液を固形分濃度が0.5dL/gとなるように調製し、ウベローデ粘度計を用いて35℃で測定を行った。
【0096】
(2)全光線透過率
積分球を備えたスガ試験機(株)社製HZ−2(TMダブルビーム方式)を用いて、開口径:Φ20mm、光源:D65で測定した。
【0097】
(3)蛍光スペクトル測定
日本分光(株)社製FP−6600を用いて、励起光:220〜600nmの範囲をスキャンスピード:5000nm/minでスキャンしながら、最大励起波長における蛍光スペクトルを250〜800nmの範囲で得た。この時のPMT電圧:550V、スペクトル補正をローダミンBで行い、得られた極大蛍光波長における蛍光強度を計測した。
【0098】
(4)ガラス転移温度(Tg)および熱線膨張率(CTE)
(株)島津製作所社製TMA−50型を用い、空気気流下、昇温速度10℃/分、荷重14g/mm
2で測定した。なお、熱線膨張率は100〜200℃の範囲で計測した。
【0099】
(5)引張伸度試験
標線幅5mmのダンベル型打ち抜き試験片を作製し、(株)島津製作所社製EZ−S引張試験機を用いて、引張速度30mm/分の条件で破断に至るまでの応力とその伸度を計測し応力―歪曲線を得た。測定は10回の平均値として求めた。
【0100】
<原料および溶媒>
以下の合成例、実施例、参考例、および比較例で使用した試薬は次に示すとおりである。
(A)ユウロピウム化合物
・塩化ユウロピウム六水和物(EuCl
3、東京化成工業製)
・硝酸ユウロピウム六水和物(Eu(NO
3)
3、STREM CHEMICAL製)
・酢酸ユウロピウム水和物(Eu(OOCCH
3)
3、Alfa Aesar製)
(B)ポリイミド原料
(イ)ジアミン化合物
NBDA:ノルボルナンジアミン(化合物1)
H−XDA:1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(化合物2)
tCHDA:トランス−1,4−シクロヘキシルジアミン(化合物3)
ONDA:オキサノルボルナンジアミン(化合物4)
IPDA:イソホロンジアミン(化合物5)
H−MDA:4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(化合物6)
ODA:4,4'−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4'−オキシジアニリン〕(化合物7)
APB:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(化合物8)
mBP:4、4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル(化合物9)
(ロ)テトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物(化合物10)
BPDA:3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(化合物11)
ODPA:ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(化合物12)
6FDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(化合物13)
H−PMDA:1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(化合物14)
【0101】
【化24】
【0102】
【化25】
(C)溶媒
・N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、和光純薬工業製)
・1−メチル−2−ピロリドン(NMP、和光純薬工業製)
・1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI、和光純薬工業製)
【0103】
<ポリアミド酸の重合及びポリイミドフィルムの作成>
(合成例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、滴下ロートを備えた1Lの5つ口セパラブルフラスコに、ピロメリット酸二無水物(PMDA)153g(0.700モル)と有機溶媒としてN,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)420gとを加え、0℃の氷水浴中で攪拌してスラリー状液体とした。滴下ロート内に装入したノルボルナンジアミン(NBDA)108g(0.700モル)とN,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)188gとを2時間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、更に16時間室温で攪拌し、ポリアミド酸ワニスを得た。このポリアミド酸の固有対数粘度は0.69dL/gであった。結果を表1に示す。
【0104】
得られたポリアミド酸溶液を、ガラス基板上にドクターブレードを用いて流延した。これをイナートオーブンに移して、窒素気流中、2時間かけて50℃から270℃まで昇温し、続いて更に270℃で2時間保持して自己支持性を有する膜厚26μmの無色透明のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの諸物性(全光線透過率、最大励起波長、最大蛍光波長とその強度、ガラス転移温度、熱線膨張率、および引張伸度)の測定結果を表2に示す。
【0105】
(合成例2)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた1Lの5つ口セパラブルフラスコに、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(H−XDA)35.6g(0.250モル)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)73.5g(0.250モル)、および溶媒N,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)620gを室温で加え、反応容器を100℃に保持したオイルバス中に10分間浴した。約5分で塩の析出が生じ、速やかに再溶解し、増粘していく様子を確認した。オイルバスを外してから、さらに18時間室温で攪拌し、ポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸の固有対数粘度は、1.22dL/g(35℃、0.5g/dL)であった。結果を表1に示す。
無色透明ポリイミドフィルムの作製は合成例1と同様にして行い、得られたフィルムの諸物性の測定結果を表2に示す。
【0106】
(合成例3)
H−XDAを、トランス−1,4−シクロヘキシルジアミン(tCHDA)57.1g(0.500モル)に変更した以外は合成例2と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
【0107】
(合成例4)
NBDAを、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(H−MDA)105gに変更した以外は合成例1と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
【0108】
(合成例5および6)
PMDAを、それぞれビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(ODPA)155g、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)222gに変更した以外は合成例1と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の結果を表1および2に示す。
【0109】
(合成例7および8)
ジアミン成分がNBDA単独であったところを、それぞれオキサノルボルナンジアミン(ONDA)50mol%、イソホロンジアミン(IPDA)30mol%とNBDAの共重合体に変更した以外は合成例1と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
【0110】
(合成例9)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、トランス−1,4−シクロヘキシルジアミン(tCHDA)11.4g(0.100モル)と、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)149gとを加え攪拌した。透明溶液としたところへ、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)25.9g(0.0880モル)を粉状のまま装入し、反応容器を120℃に保持したオイルバス中に5分間浴した。BPDA装入後しばらくして塩が析出し、その後速やかに再溶解し増粘していく様子を確認した。オイルバスを外してから、更に18時間室温で攪拌し、末端にtCHDA由来のアミノ基を有するオリゴアミド酸ワニスを得た。
【0111】
続いて、温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた200mLの5つ口セパラブルフラスコに、ノルボルナンジアミン(NBDA)6.19g(0.0402モル)と1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)64.5gとを加えて攪拌した。透明溶液としたところへ、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)15.3g(0.0522モル)を粉状のまま装入し、反応容器を120℃に保持したオイルバス中に5分間浴した。BPDA装入後、一時的に塩が析出したが、すぐに再溶解し均一透明溶液となることを確認した。該セパラブルフラスコに冷却管とディーンスターク型濃縮器を取付けて、キシレン15gを反応溶液に追加して、脱水熱イミド化反応を180℃で4時間攪拌しながら行った。キシレン留去後、末端にBPDA由来の酸無水物構造を有するオリゴイミドワニスを得た。
【0112】
上記で得られたオリゴアミド酸ワニスおよびオリゴイミドワニスを混合し、NMPを加えて15wt%まで希釈しながら攪拌しマルチブロック状ポリアミド酸イミドワニスを合成した。得られたこのワニスの固有対数粘度は、1.31dL/g(35℃、0.5g/dL)であった。結果を表1に示す。
無色透明ポリイミドフィルムの作製は合成例1と同様にして行い、得られたフィルムの諸物性の測定結果を表2に示す。
【0113】
(合成例10、12および14)
ジアミン成分のNBDAを、それぞれ1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)146g(0.500モル)で溶媒DMI602g、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4'−オキシジアニリン〕(ODA)100g(0.500モル)で溶媒NMP494g、4、4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル(mBP)184g(0.500モル)で溶媒DMI690gに変更し、かつ、テトラカルボン酸二酸無水物成分のPMDAを、いずれとも1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H−PMDA)112g(0.500モル)に変更した以外は合成例1と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
【0114】
(合成例11、13および15)
合成例10、12および14で得られた各ポリアミド酸ワニスを冷却管とディーンスターク型濃縮器を備え付けたフラスコに注ぎ、共沸剤として20wt%見合いのキシレンを加え、オイルバス180℃中で6時間の共沸脱水反応を実施し、最後にキシレンを留去してポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドの固有対数粘度の結果を表1に示す。
また、無色透明ポリイミドフィルムの作製は合成例1と同様にして行い、得られたフィルムの諸物性の測定結果を表2に示す。
【0115】
(合成例16および17)
ジアミン成分のH−XDAを、それぞれ1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)146g(0.500モル)、4、4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル(mBP)166g(0.450モル)かつ4,4'−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4'−オキシジアニリン〕(ODA)10.0g(0.0500モル)に、テトラカルボン酸二酸無水物成分のBPDAを、いずれもピロメリット酸二無水物(PMDA)109g(0.500モル)に変更した以外は合成例2と同様にして、ポリアミド酸溶液およびポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
【0116】
(合成例18)
ジアミン成分のH−XDAを、トランス−1,4−シクロヘキシルジアミン(tCHDA)57.1g(0.500モル)に、テトラカルボン酸二酸無水物成分のBPDAを、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H−PMDA)112g(0.500モル)変更した以外は合成例2と同様にして、ポリアミド酸溶液および無色透明ポリイミドフィルムを作製し、諸物性の測定結果を表1および2に示す。
(合成例19)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた500mLの5つ口セパラブルフラスコに、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4'−オキシジアニリン〕(ODA)35.6g(0.178モル)と有機溶媒としてN,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)267gを加え、0℃の氷水浴中で攪拌して均一溶液とした。そこに、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)78.9g(0.178モル)を粉状のまま装入し、16時間室温で攪拌し、ポリアミド酸ワニスを得た。このポリアミド酸の固有対数粘度は0.98dL/gであった。結果を表1に示す。ポリイミドフィルムは、合成例1と同様にして作製し、諸物性の測定結果を表2に示す。
【0117】
(実施例1、3、6〜11および13)
上記合成例1〜9で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニスまたはポリアミド酸イミドワニス)に、対応する該ポリアミド酸または該ポリアミド酸イミドの固形分量100重量部に対して、1.0重量部となるように塩化ユウロピウム六水和物を添加し、自転・公転ミキサ(または混練・混和泡取り装置)(株式会社キーエンス製,製品名:Hybrid Mixer―500)を用いて5分間攪拌し、対応する複合ワニスを得た。該ワニスを、ガラス基板上にドクターブレードを用いて流延し、これをイナートオーブンに移して、窒素気流中、2時間かけて50℃から270℃まで昇温し、続いて更に270℃で2時間保持して自己支持性および無色透明性を有するポリイミド複合フィルムを得た。
該ポリイミド複合フィルムの諸物性(全光線透過率、最大励起波長、最大蛍光波長とその強度、ガラス転移温度、熱線膨張率、および引張伸度)の測定結果を表3に示す。
【0118】
(実施例2および12)
上記合成例2および9で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニス)に、対応する該ポリアミド酸の固形分量100重量部に対して、0.20重量部となるように塩化ユウロピウム六水和物の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、対応する複合ワニスおよび自己支持性および無色透明性を有するポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表3に示す。
【0119】
(実施例4)
上記合成例2で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニス)に、該ポリアミド酸の固形分量100重量部に対して、1.0重量部となるように硝酸ユウロピウム六水和物の添加量を変更した以外は実施例3と同様にして、複合ワニスおよび自己支持性および無色透明性を有するポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表3に示す。
【0120】
(実施例5)
上記合成例2で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニス)に、該ポリアミド酸の固形分量100重量部に対して、1.0重量部となるように酢酸ユウロピウム水和物の添加量を変更した以外は実施例3と同様にして、複合ワニスおよび自己支持性および無色透明性を有するポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表3に示す。
【0121】
(参考例1および2)
上記合成例2および9で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニスまたはポリアミド酸イミドワニス)に、対応する該ポリアミド酸または該ポリアミド酸イミドの固形分量100重量部に対して、5.0重量部となるように塩化ユウロピウム六水和物の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、対応する複合ワニスおよび自己支持性および無色透明性を有するポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表4に示す。
【0122】
(比較例1〜9)
上記合成例10〜18で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニスまたはポリイミドワニス)に、対応する該ポリアミド酸または該ポリイミドの固形分量100重量部に対して、1.0重量部となるように塩化ユウロピウム六水和物の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、対応する複合ワニスおよびポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表5に示す。
【0123】
(比較例10)
上記合成例2で得られた無色透明ポリイミドフィルムの上に、硝酸ユウロピウム水和物の3%アセトニトリル溶液をスピンコートし、室温乾燥させたものを作製し、実施例1と同様にして該フィルムの諸物性を測定した。その結果を表5に示す。
【0124】
(比較例11)
上記合成例2で得られた無色透明ポリイミドフィルムを、硝酸ユウロピウム水和物の3%アセトニトリル溶液中に6時間浸漬し室温乾燥後させたものを作製し、実施例1と同様にして該フィルムの諸物性を測定した。その結果を表5に示す。
(比較例12)
上記合成例19で得られたポリマー溶液(ポリアミド酸ワニス)に、該ポリアミド酸の固形分量100重量部に対して、1.0重量部となるように硝酸ユウロピウム六水和物の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、対応する複合ワニスおよび自己支持性を有するポリイミド複合フィルムを作製した。諸物性の測定結果を表5に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】
表3の実施例に示すように、ポリイミドのジアミン化合物/テトラカルボン酸二無水物の成分がそれぞれ脂環族/芳香族である場合、作製した複合フィルムは無色透明性を有しつつも、励起光の照射で波長615nmに極大発光値を示すユウロピウム化合物由来の蛍光を観測した。この時のスキャンスピード5000nm/minであったことより、該蛍光発光は、高速応答性を有していることが分かった。
【0130】
また、表4の参考例に示されるように、表3と同様の構造であるポリイミドであっても、ユウロピウム化合物の添加量が、ポリマー100重量部に対して5重量部加えたワニスから作製した複合フィルムである場合、該ユウロピウム化合物を1重量部加えたワニスから作製した複合フィルムに比べて、蛍光強度およびフィルム物性がやや低下するものの、依然として無色透明性、高速応答性蛍光発光を有していることがわかった。
【0131】
一方、表5の比較例に示すように、ポリイミドのジアミン化合物/テトラカルボン酸二無水物の成分が、芳香族/脂環族、または脂環族/脂環族である場合、複合フィルムは無色透明性を有しているものの、励起光を照射してもユウロピウム化合物由来の蛍光(波長615nm付近)は観測されなかった。また、ポリイミドのジアミン化合物/テトラカルボン酸二無水物の成分が、芳香族/芳香族である場合、複合フィルムは黄色または茶色の有色性であり、励起光を照射しても添加剤由来の蛍光強度(波長615nm付近)は極めて小さく、複合フィルム自身の有色性のため目視で蛍光発光性は確認されなかった。特に、比較例12に示すように、特許文献2と同じ組成のものであっても、本測定のようにスキャンスピードが速い(5000nm/min)場合には、蛍光を示さないことが明らかとなった。
【0132】
また、合成例2で得られた無色透明ポリイミドフィルムの上に、硝酸ユウロピウム水和物の3%アセトニトリル溶液をスピンコートしたもの、あるいは、該溶液中に6時間浸漬したものを室温で乾燥させたものでは、励起光を照射してもユウロピウム化合物由来の蛍光強度(波長615nm付近)は確認されなかった。これにより、無色透明ポリイミドとユウロピウム化合物の間で相互作用を持たせるためには、ポリイミド前駆体のポリアミド酸ワニスの状態での複合化が必要であることがわかった。