特許第5748811号(P5748811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5748811フレキシブルディスプレイ用途のための薄い積層ガラス基板のレーザ分割
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748811
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】フレキシブルディスプレイ用途のための薄い積層ガラス基板のレーザ分割
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/09 20060101AFI20150625BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20150625BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C03B33/09
   B23K26/40
   G02F1/13 101
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-181026(P2013-181026)
(22)【出願日】2013年9月2日
(62)【分割の表示】特願2009-525627(P2009-525627)の分割
【原出願日】2007年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-28755(P2014-28755A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2013年9月20日
(31)【優先権主張番号】11/509,448
(32)【優先日】2006年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ショーン エム ガーナー
(72)【発明者】
【氏名】シンホア リー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エス ワグナー
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−337543(JP,A)
【文献】 特開2005−179154(JP,A)
【文献】 特開2003−010991(JP,A)
【文献】 特開2004−059328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/00−33/14
B23K26/38,26/40
G02F1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた脆性材料のシートを分割する方法であって、
厚さが300μm以下の脆性材料層及び前記脆性材料層の表面に接着されたコーティング材料を有する積層脆性材料シートを提供する工程、及び
(i)前記コーティング材料を切断する工程と、(ii)前記脆性材料層を互いに接続されていない分離された個片に分割する工程とにより、前記積層脆性材料シートを分割線に沿って分離された個片に分ける工程を有し、
(a)前記脆性材料層は、ガラスシート、セラミックシート、またはガラス−セラミックシートであり、
(b)前記切断する工程および前記分割する工程は、前記分割線に沿ったレーザの印加により、同時に実施するものであり、
(c)前記分割する工程は、前記レーザの印加による前記脆性材料層内への応力割れの誘起を含むものであり、
(d)同時に実施する前記切断する工程および前記分割する工程は、前記分割線に沿った前記レーザの印加中および前記レーザの印加前のいずれにおいても、前記積層脆性材料シートに対する罫書き工具または切断工具の物理的接触を伴うことなく実施されるものであり、
(e)同時に実施する前記切断する工程と前記分割する工程とは、前記分割線に沿って屑を残さないように実施されるものであり、
(f)前記コーティングされた脆性材料のシートは、前記レーザの印加後に、半径100mm未満となるように曲げることができるものであり、
前記コーティング材料は高延性のポリマー層であることを特徴とする方法。
【請求項2】
コーティングされた脆性材料のシートを分割する方法であって、
厚さが300μm以下の脆性材料層及び前記脆性材料層の表面に接着されたコーティング材料を有する積層脆性材料シートを提供する工程、及び
(i)前記コーティング材料を切断する工程と、(ii)前記脆性材料層を互いに接続されていない分離された個片に分割する工程とにより、前記積層脆性材料シートを分割線に沿って分離された個片に分ける工程を有し、
(a)前記脆性材料層は、ガラスシート、セラミックシート、またはガラス−セラミックシートであり、
(b)前記切断する工程および前記分割する工程は、前記分割線に沿ったレーザの印加により、同時に実施するものであり、
(c)前記分割する工程は、前記レーザの印加による前記脆性材料層内への応力割れの誘起を含むものであり、
(d)同時に実施する前記切断する工程および前記分割する工程は、前記分割線に沿った前記レーザの印加中および前記レーザの印加前のいずれにおいても、前記積層脆性材料シートに対する罫書き工具または切断工具の物理的接触を伴うことなく実施されるものであり、
(e)同時に実施する前記切断する工程と前記分割する工程とは、前記分割線に沿って屑を残さないように実施されるものであり、
(f)前記コーティングされた脆性材料のシートは、前記レーザの印加後に、半径100mm未満となるように曲げることができるものであり、
前記脆性材料層の片面にのみ前記コーティング材料が接着されており、
前記分割する工程が、前記コーティング材料が接着されている前記脆性材料層の前記表面と表裏をなす、前記脆性材料層の無コートの側の表面に前記レーザを印加することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記切断する工程および前記分割する工程が、前記レーザとしてCOレーザを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記切断する工程および前記分割する工程が、前記レーザとしてCOレーザを用いる工程であって、前記切断および分割する工程中に、少なくとも、CWモード及び空間的にパルスが重なるパルスモードのうちから選択される1つのモードで前記COレーザを動作させる工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記切断する工程および前記分割する工程が、前記レーザを円偏光にする工程を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記切断する工程および前記分割する工程が、前記レーザを前記分割線に合わせられた直線偏光にする工程を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記積層脆性材料シートを提供する工程が、前記コーティング材料をポリマーとして提供する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記切断する工程および前記分割する工程が、前記レーザを、前記分割線に沿って40mm/秒以上の速度で移動させる工程を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングされた脆性材料のシートは、前記レーザの印加後に、半径50mm未満となるように曲げることができることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザによる脆性材料シートの分割に関し、さらに詳しくは、表面に保護コーティングを有する脆性材料層内の応力割れのレーザ誘起による脆性材料シートの複数の個片への分割に関する。
【背景技術】
【0002】
平ガラス基板は、透明性、高い耐薬品性及び耐熱性、並びに定められた化学特性及び物理特性が重要な、多くの用途に適する基板材料である。そのような用途には一般に、ディスプレイ、薄膜センサ及び厚膜センサ、太陽電池、微細機械部品、リソグラフィ用マスク及び、センサ及びメンブラン素子内にあるような、エレクトロニクス用途を含む、薄膜技術及び厚膜技術が利用される応用分野がある。多くのエレクトロニクス応用における最近の発展によって、新たな製品機能への要求が生じ、さらに薄いか極薄であるだけでなく、機械的耐久性もある基板への要求が高まっている。特に、そのような極薄基板は、携帯電話、引出スクリーン内蔵ペン型デバイス、ICカード用ディスプレイ、値札のような、角のない筐体形態を有する携帯型小形デバイス内での使用に理想的な、軽くてフレキシブルなディスプレイを提供し、有機または無機の発光層に基づくディスプレイ、例えば発光有機ポリマーディスプレイ(OLED)も提供する。薄く耐久性のある基板は、最終製品は平型のままであるが、低コスト製造のため機械的にフレキシブルな基板が要求される用途についても重要視され得る。ディスプレイ以外の広範なカテゴリーにおいて、一般に、RFID、光電変換素子及びセンサのような、フレキシブルで耐久性のある電子デバイスでは、そのような先進基板構造が重要視される。
【0003】
様々なフレキシブル電子デバイスは一般に、それぞれの目的用途及び要求性能レベルに基づく、様々な構成を有する。ある程度の曲げ半径及び共形性は、セルギャップに基づく液晶ディスプレイから、またOLEDからも、得ることが可能であり、あるいは2つの平行板の間に気密封止された同様のディスプレイから得ることが可能である。曲げ半径を1cm以下に近づけることができる、現在大型化が追い求められているフレキシブルディスプレイは主に、OLED、コレステリック液晶、電気泳動または同様の手法に基づいている。そのような構成は一般に、機械的耐久性が極めて高い基板上に構築された、様々なトランジスタ回路、ディスプレイ及び封入層からなる。
【0004】
個別部品を作成するための基板材料には一般に、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンスルホン、ポリカーボネート等のような熱可塑性プラスチック材料、ステンレス鋼のような金属材料及びガラス材料がある。金属基板材料は高い熱性能を提供するが、不透明であり、電気導通問題を示し得る。ガラス材料は、化学的及び光化学的に不活性であり、光学的に等方であり、耐熱性であり、機械的に安定であるという利点を提供し、比較的硬い表面を提供する。しかし、ガラス材料の大きな欠点は、かなり脆く、傷がつき易いという性向である。熱可塑性プラスチック基板は、大きな傷はつきにくいが、熱性能及びバリア特性のいずれも高くはない。特に、プラスチックフィルム基板では水蒸気及び酸素の透過の抑制が困難であり、この結果、バリア層を別途に使用しない限り、そのような基板材料上につくられたOLEDまたは有機電子デバイスの相対品質及び寿命は全体的に低下する。
【0005】
上述したように、将来のディスプレイ及びエレクトロニクス技術のため、フレキシブルディスプレイが現在追い求められている。ガラス単独またはプラスチック単独の基板の欠点の結果、ガラス−プラスチック複合フィルムが大々的に研究されている。そのようなフィルムは一般に薄いガラスシート及びガラスの少なくとも一方の平表面上に直接に被着されたポリマー層からなる。この場合、ガラスシートは、ガラス、セラミック、ガラス−セラミックあるいは表面傷またはエッジ傷がつき易い同様の材料を含めることができる、脆性無機材料のシートを指す。ポリマー層は、損傷に対する保護の目的のためにガラス表面に被着される、いずれかの高延性層を指す。実際の基板は1つ以上のポリマー層を様々な構成で有する1つ以上のガラス層でつくることができる。フレキシブルディスプレイ用途のための薄い積層ガラス基板については、いずれのガラス層の厚さも一般に300μm未満である。積層ガラス基板または複合ガラス基板は、ガラスとポリマーの複合構造を指す。そのような構造は、既製シートを接着する貼合せプロセスによるか、あるいは、液体成分を利用する、様々なコーティング、析出、硬化またはその他のプロセスによって作成することができる。
【0006】
そのようなガラス−プラスチック複合フィルムは極めて有益であるが、そのような基板の用途及び性能は、そのような基板の切断中に生じる低エッジ強度のため、極めて限定されていた。これまで、ほとんどのガラス切断は機械的な罫書き及び破断の方法によって達成されていた。そのような方法は簡単かつ経済的であり、厚さが数100μm以上のガラス板に用いることができる。しかし、厚さがほぼ0.5mm以上の厚い板ガラスに適用できる、そのような機械的切断法は、厚さが300μmより薄いガラス板の切断に用いると、降伏強さが低下する。さらに、積層ガラス基板では保護ポリマー層の存在により状況が複雑になる。
【0007】
これまで追求されてきた、コーティングされた薄いガラス板の切断方法には、機械的プロセスが含まれていた。例えば、プラスチック層を加熱し、同時に切断工具を介して荷重をかける工程を含む方法が開示されている。プラスチックはガラス基板の罫書きと同時に切断される。この方法は相変わらず基板と切断工具の間の物理的接触を用いることによる複合基板の機械的切断手段に依存し、罫書き線に沿う積層ガラス基板の破壊を生じさせる。名称を「脆性材料からなる平工作物を切断するための方法及び装置(Method and Device for Cutting a Flat Workpiece That Consists of a Brittle Material)」とする特許文献1に説明されている方法においては、切断線に沿って工作物に熱機械的応力を誘起するためにレーザが用いられる。上述した方法と同様に、この方法には切断線の始点に初期刻み目を入れるために機械的罫書き工具が必要である。次いで、熱応力によってこの切断線に沿う分割をおこさせるためにレーザパワーが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6894249号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガラス及びポリマーからなるような、機械的特性が大きく異なる複数の材料からなる基板の効率的切断が必要とされている。特に、フレキシブルディスプレイ及びフレキシブルエレクトロニクスのような用途のための上記の新しい多層基板構造には、罫書き工具または切断工具との物理的接触に基づかない新しい切断方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、厚さが約100μm以下の脆性材料層及び脆性材料層の表面に接着されたコーティング材料を有する積層脆性材料シートを提供する工程、及びシートの分割線に沿ってレーザを印加することにより分割線に沿う屑を実質的に残さずにコーティング材料を分割する工程を含む、コーティングされた脆性材料シートを分割する方法を含む。脆性材料層のこの露出表面領域は次いで、以降のレーザプロセスまたはエッチングプロセスを用いて分割される。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態において、本方法はレーザにより複合基板の脆性材料層内に応力割れを誘起する工程を含む。複合基板は少なくとも1つの脆性材料層及び少なくとも1つのコーティング層を有する。脆性材料層内のレーザ誘起応力割れが1つ以上の脆性材料層及び1つ以上のコーティング層のいずれをも分割する。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態は、第1の平坦表面及び第1の平坦表面と表裏をなす第2の平坦表面を有するガラスシートを提供する工程、及び第1の平坦表面と第2の平坦表面の少なくとも選択された一方の表面の少なくとも一領域をポリマー材料でコーティングし、よってコート基板を形成する工程を含む、デバイス用途のためのフレキシブル基板を形成する方法を含む。本方法はさらに、ガラスシートからポリマー材料の一部を分離する分割線に沿ってコートガラス基板にレーザを印加する工程、及びガラスシート内に応力割れを誘起し、よって原コート基板からフレキシブルデバイス基板を切り取る工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本発明を具現化する、脆性材料を複数の個片に分割しているレーザの簡略な部分斜視図であり、レーザはコート面の裏側の脆性材料層に印加される。
図1B図1Bは全面コート脆性材料の脆性材料層からコーティング材料の一部を分離しているレーザ及びレーザによる脆性材料層内の応力割れの誘起及び脆性材料層の切断の簡略な部分斜視図であり、レーザは、代って、脆性材料のコート面に印加される。
図2図2はレーザを用い得る装置の簡略な前立面図である。
図3A図3Aはコート脆性材料のエッジの側立面図であり、脆性材料は複数の個片に分割され、分割は脆性材料の表面に対して40mm/秒で移動するレーザによって達成されている。
図3B図3Bはコート脆性材料のエッジの側立面図であり、脆性材料は複数の個片に分割され、分割は脆性材料の表面に対して60mm/秒で移動するレーザによって達成されている。
図4図4はコート脆性材料の上面図であり、コーティング材料の一部が分割線に沿って脆性材料層から分離されている。
図5図5はコート脆性材料の側立面図であり、コーティング材料の一部が分割線に沿って脆性材料層から分離されて研磨面が表れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書での説明の目的のため、術語「上」、「下」、「右」、「左」、「後」、「前」、「縦(垂直)」、「横(水平)」及びこれらの派生語は、本発明に関し図1〜3の配置にしたがうとする。しかし、そうではないと明示されている場合を除き、本発明が様々な別の配置及び工程順序をとり得ることは当然である。添付図面に示され、以下の明細に説明される特定のデバイス及びプロセスが、添付される特許請求の範囲に定められる本発明の概念の例示実施形態であることも当然である。したがって、ここに開示される実施形態に関する特定の寸法及びその他の物理的性質は、特許請求項でそうではないことが明白に述べられていない限り、限定として見なされるべきではない。
【0015】
本発明のプロセスはコート脆性材料シート10(図1A)を分割する方法を含む。本方法は、第1の平表面13及び第1の平表面13と表裏をなす第2の平表面15を有し、好ましくはガラスからなる、脆性材料層12及び、脆性材料層12の第1の平表面13に接着され、外表面17及び内表面19を有し、好ましくはポリマーからなる、コーティング材料14を有する、コート脆性材料シート10を提供する工程を含む。図示される例において、脆性材料層12はガラスからなるが、セラミック、ガラス−セラミック等を含む、その他の適する材料を用いることができる。さらに、組成の異なる2つの接着されたガラス層からなるような多層構造を用いることができる。脆性材料層またはガラス層12はその第1の表面13上及び第2の表面15上のいずれもコーティング材料でコーティングできることに注意されたい。図示される脆性材料シート10のコーティング材料14は、被覆される脆性材料層表面の品質に対する機械的保護として役立つ、ポリマー層または熱可塑性プラスチック層からなる。本方法は、分割線20(図2)に沿ってレーザ18を印加することによりコート脆性材料シート10を複数の個片に分割する工程をさらに含む。図1Aに図示される例において、レーザ18は脆性材料層12の無コート面に印加され、この結果、レーザ18の入射ビーム直径に相当する幅を有する分割部分16の分割が得られる。部分16の分割プロセスでは部分16からコーティング材料14を除去することもできる。好ましい実施形態において、本方法は、シート10を1つより多くの個片に分割するレーザ18により分割線20に沿って脆性材料層12内に応力割れを誘起する工程を含むことが好ましい。あるいは、脆性材料層12内に応力割れを生じさせずに脆性材料層12からコーティング材料14の一部を除去するようにレーザ18のパワーを調整することができる。
【0016】
図1Bに示されるような本発明の別の実施形態は、コーティング材料14の外表面17にレーザ18を印加することにより脆性材料層12からコーティング材料14の一部を除去する方法を含む。コーティング材料14の選択除去により、選択された大きさの脆性材料層12の、実質的に無傷のままの、表面領域が露出される。続いて、露出表面領域の経路に沿って脆性材料層12を1つより多くの個片に分割するために、エッチング工程または切断工程を用いることができる。あるいは、本方法はさらにまた、レーザ18により分割線20に沿って脆性材料層12内に応力割れを誘起し、よってシート10を1つより多くの個片に分割する工程を含む。
【0017】
1つ以上の脆性材料層12及び1つ以上のコーティング層14の材料組成及び寸法は目的用途に対する要件にしたがって変わり得る。例えば、ディスプレイまたはエレクトロニクスの作成プロセスではコーティング層14の選択に熱要件が課され得る。SiTFTデバイスの作成では、層12の脆性材料にアルカリイオン含有制限が課され得る。また、デバイス作成または最終使用におけるフレキシビリティまたは曲げ半径の要件により複合基板10の構造に構造厚及び弾性率の要件が課され得る。さらに、複合基板10は、薄膜積層、液体塗布、押出成形及び関連する技術のような、当該分野で既知の様々な方法で作成することができる。好ましくは10cm未満であり、さらに好ましくは5cm未満であって、最も好ましくは20cm未満の、実用フレキシブルデバイス曲げ半径を達成するには、脆性材料層12の厚さは、好ましくは100μm未満、さらに好ましくは50μm未満、最も好ましくは30μm未満とすべきである。
【0018】
ほとんど全てのガラスは10μm波長領域のレーザエネルギーを強く吸収する。ほとんどの場合、吸収は最上部10〜20μm厚内で光が完全に吸収されるに十分に強い。図示される例では、レーザ18は、脆性材料層またはガラス層12に局所加熱をおこさせることができるCOレーザである。波長10.6μmのCOレーザの光子エネルギーは0.11eVであり、脆性材料層またはガラス層12あるいはポリマー材料14のバンドギャップエネルギーよりかなり低く、この結果、光熱過程が支配的である。COレーザが特に言及されるが、同じく光熱過程を支配的におこさせるその他のレーザシステム及び波長も利用できることに注意されたい。脆性材料層12をなすガラス材料の、波長が10.6μmの光の強い吸収により、ガラス層の比較的薄い領域の加熱、軟化及び膨張が誘起され、よってレーザで加熱された体積に圧縮応力が生じる。この過渡圧縮応力は、脆性材料層またはガラス層12の破砕がおこり、この結果、圧縮破壊がおこるような強さに達し得るであろう。しかし、ガラス層12の軟化及び融解の結果、脆性材料またはガラス12の粘度の低下によって、圧縮応力の強さが劇的に低下し得るであろう。レーザ照射が外されてしまえば、熱の影響を受けた区域の冷却によって収縮及び歪が生じ、加熱された体積の近傍内に引張応力が誘起される。その強さが加熱段階中に生じた過渡圧縮応力より小さくなり得るであろう、この引張応力の結果、脆性材料またはガラス材料は張力がかかっている場合は圧縮下におけるよりも容易に壊れることが知られているから、脆性材料層またはガラス層12の破砕がおこり得る。ガラス層12のこの加熱−冷却サイクルの結果、脆性材料層12の加熱体積近傍の領域16の、残りの脆性材料層12からの分離またはピーリングがおこる。脆性材料層の領域16が除去されるとともに、分離する領域16に付着していたコーティング材料14も脆性材料層またはガラス層12からの熱伝導による融解または光分解によって除去されるかまたは蒸発する。言い換えれば、材料表面のレーザ加熱により、積層ガラス基板材料が降伏するに十分に強い応力が発生する。幅が応力の影響を受ける領域で定められる、材料の薄いスライスとして図示される、脆性材料12の領域16は、レーザ18の移動方向に沿ってコート基板10から分離される。レーザはCOレーザであり、耐熱衝撃強度が高いガラス層12に印加されることが好ましい。ピーリング効果は長パルス及びCWレーザのいずれによっても生じる。長パルス及びCWレーザは一般に短パルスレーザに比べて低いピークパワーを有し、短パルスレーザに一般にともなう、アブレーションのような、効果はかなり弱くなる傾向があることに注意されたい。さらに、上述したようなレーザピーリングプロセス中に粒子屑はほとんどまたは全く生じない。上述したプロセスの適用により、それぞれが図3A及び3Bに示されるように良好な表面仕上がなされたエッジを有する複数の個片に脆性材料シート10を分割することができる。本プロセスによれば、コーティング材料14は分割線20に沿う脆性材料層12の端面上に存在しない。さらに、脆性材料層12の表面13上には分割線20までコーティング材料14が存在し得る。この場合、コーティング材料14は分割線20に沿って融解効果のような熱にさらされた徴を示し得る。
【0019】
図示される例において、COレーザ18は集束素子30によりコート脆性材料複合シート10の表面15上に集束される。図2はコート脆性材料複合シート10を連続作成プロセス中に基板10のエッジ部分31を切断して除去するためのプロセスの略図を示す。コート脆性材料複合シート基板10は複数のローラー34によって垂直に保持されて、複合基板10または除去されたエッジ部分31には別のローラーまたは機構を用いることができる。複合基板10は、方向矢印36で表される方向に入射レーザエネルギー18に対して移動させられる。この相対運動により、レーザエネルギー18が垂直方向の分割線または切断線20をたどり、脆性材料層12内に応力割れを誘起する。分割/切断に影響するプロセス/装置変数は、コントローラ42によって制御することができる。あるいは、基板またはデバイスの連続作成プロセス中に様々な長さの複合基板10に分割するためにレーザ誘起応力割れを用いることができる。シート10に対するレーザ18の相対運動は、ガルバノメーター装置を用いてシート10面内でレーザ18をスキャンすることによるか、またはXYテーブル上に置かれたガラス積層を移動させることによって得ることもできる。直線に沿う切断だけでなく、複合基板10から様々な2次元パターンを切り出すためにもレーザ誘起応力割れを用いることができる。
【0020】
数10Wのパワーで発生するRFCOレーザ光で本プロセスが達成されることがわかった。CWモードまたは(例えば5kHzまたは20kHzの)パルスモードでレーザ18を動作させることができ、パルスモードでは切断中にかなりの空間的パルス重なりが存在することに注意されたい。そのような状況で、ガラス層12内にかなりの応力割れを誘起し、シート10の一部の他の部分からの完全な分割または切断をおこさせるために発生されるレーザパワーは、ガラスシート10の無コート面15上にレーザ18が入射する場合は、60mm/秒の速度において約23Wであることがわかった。対照的に、ガラスシート10のコート面上にレーザ18が入射する場合、ガラス層12からポリマーコーティング14を除去するためだけに必要なパワーレベルは10W以下であった。様々な構造の複合基板10を切断するための正確なパワーレベルは、所要切断速度、脆性材料層12の組成、コーティング層14の組成、層厚、複合基板10に存在する応力、及びその他の関連要因に依存するであろう。COレーザからの入射光18を用いる別のプロセスで、コーティング層14が存在しない、一般に500μmより厚いガラスシートを切断することができるが、上述した条件では、コーティング層14が存在しない場合、厚さが100μm未満の比較的薄い脆性材料層12に抑制のきかない割れが生じた。レーザ光は円偏光であることが好ましいが、分割線または切断線20に沿う方向に偏波の向きが合せられた直線偏光を用いることもできる。切断線20に直交する向きをもつ直線偏光を用いることもできる。さらに、レーザ18は、レンズまたは集成レンズを含む集束素子30により、複合基板10上、複合基板10内または複合基板10近くに集束される。例は、単球面レンズ、集束軸が切断線20に平行な円柱レンズ等である。あるいは放物面ミラーを用いてレーザ18を集束させることができる。
【0021】
脆性材料基板または複合基板10を分割するための別の手法は、比較的低いレーザパワー18を用いてコーティング材料14の一部を選択的に除去することである。上述したプロセスを適用することにより、コーティング材料14の一部を分割線20に沿って脆性材料層12から除去して、良好な底面仕上をもつ、すなわち脆性材料表面13上に存在するコーティングまたは残留物が最小の、マイクロクラックがない溝26(図4及び5)を後に残すことができる。図5の側立面図に示される脆性材料12からのコーティング材料14の若干の離層はSEM解析のためのエッジ試料作成プロセスによるものであろう。引き続くレーザ切断プロセスまたはエッチングプロセスによって複合基板10の分割を達成することができる。エッチングマスクのような、いずれかのエッチングプロセスを利用して、コーティング層14にパターンを形成することができる。当該分野で一般に知られている適用可能なエッチングプロセスは、HF水溶液、反応性イオンエッチングプラズマ、及び同様の手法に基づく。
【0022】
あるいは、分割プロセスは、一工程で脆性材料層12及びコーティング層14のいずれも分割するに十分なパワーレベルでレーザを複合基板10のコーティング層14の表面に入射させる工程を含む。複数のコーティング層14が脆性材料層12の上面13及び下面15のいずれにも存在する場合、上コーティング層を選択的に除去するために第1の低パワーレーザスキャン18が用いられる。引き続き、高パワーレーザスキャン18を用いて、先に述べたように残りの脆性材料層及びコーティング層に応力割れを誘起することができる。層材料、レーザ露光及び別のプロセス工程の様々な組合せも可能である。
【実施例】
【0023】
実施例1
ガラスシートの露出ガラス表面へのレーザの適用及び制御された切断を含む試験を単レーザパスで行い、試料を得た。特定の実施形態の1つにおいて、米国ワシントン州ミュカイルテオ(Mukilteo)のSynrad, Inc.から入手できる、Synrad RFCOレーザを光源として用いた。このレーザを5kHzレートで変調し、変調深さがほぼ90%の、鋸歯プロファイルをもつ出力パルスを得た。レーザからの光を垂直方向に偏光させた。集束素子30を通す前に1/4波長反射位相遅延素子を通して、偏光を円偏光状態に転換した。焦点距離が37.5mm(1.5インチ)のレンズを用いてレーザ光をガラスシート表面15に集束させた。コート材料面上の入射レーザパワーは23Wであった。1.2のM値及びレンズ入射ひとみにおける6mmのビーム径に基づき、焦点スポット径を100μm、対応するパワー密度を300kW/cmと推定した。コート材料シートは、厚さが50μmから100μmの範囲のガラスシート及びガラスの一方の面上に接着させたポリマーコーティングで構成した。コーニング(Corning)の0211 Microsheetをガラス層として用いた。Ultron Systems P/N 1020R-11.8またはP/N 1042R-11.8をポリマーコーティング14として用い、ラミネートフィルムとして施した。切断中のポリマー燃焼の効果を抑制するために、切断中は一定のNパージを供給した。真空チャックを備えたXYテーブル上で積層ガラスシートを切断した。最適切断条件は、レーザをコート材料シート10の上面上0.6mmに集束させ、レーザ光をコーティング材接着面の裏側のガラス基板面に入射させたときに得られた。最適条件ではシートに対する速度が40mm/秒から60mm/秒の範囲内であることがわかり、コート材料シートの連続ストリップがコート材料シートから分割された。領域16の幅はほぼ、約200μmの、ガラス表面15上の入射ビーム直径である。図3Aは40mm/秒の平行移動速度で切断した試料を示し、図3Bは速度60mm/秒で切断した試料を示す。ガラス表面上のレーザスポット径を直径200μmと推定し、パワー密度を73kW/cmと推定した。このパワー密度においては、アブレーションによる材料の損傷は最小であると考えられ、本プロセスにより清浄に割られた表面が得られた。非最適条件では一般に、長さが1cmからさらに長い範囲で変化する、細かく破砕された領域16がコーティング材料14から生じるであろう。そのような破砕片は分割されたコート材料のエッジをぎざぎざにし、そのようなぎざぎざは望ましくない。
【0024】
実施例2
別の実施例では、実施例1で説明したようなSynrad RFCOレーザを用いて複合材料のポリマーコーティングを除去した。レーザを5kHzレートで変調し、変調深さがほぼ90%の、鋸歯プロファイルをもつ出力パルスを得た。レーザからの光を垂直方向に偏光させた。焦点距離が37.5mm(1.5インチ)のレンズを用いてレーザ光をガラスシート上に集束させた。コート材料シート10上のレーザ光の偏波方位を移動経路に合せた。8Wの入射パワーを用いた。1.2のM値及びレンズ入射ひとみにおける6mmのビーム径に基づき、焦点スポット径を100μmと推定した。コート材料シートは、厚さが50μmから100μmの範囲のガラスシート及びガラスの一方の面に接着させたポリマーコーティングで構成した。米国ニューヨーク州コーニングのコーニング社から入手できるような0211 Microsheetをガラス層として用いた。(米国マサチューセッツ州ヘイバーヒル(Haverhill)の)Ultron SystemsのP/N 1020R-11.8またはP/N 1042R-11.8をポリマーコーティング14として用い、ラミネートフィルムとして施した。切断中のポリマー燃焼の効果を抑制するために、切断中は一定のNパージを供給した。真空チャックを備えたXYテーブル上に積層ガラスシートを確実に固定した。コート材料シート10の脆性材料またはガラスの裏側のポリマー面上にレーザ光を入射させる。ポリマー材料は速度20mm/秒で、図4及び5に示されるように、選択的に除去される。
【0025】
当業者には、添付される特許請求の範囲に定められるような本発明の精神及び範囲を逸脱せずに本明細書に説明されるような本発明の好ましい実施形態に様々な改変がなされ得ることが明らかになるであろう。したがって、本発明の改変及び変形が添付される特許請求項及びそれらの等価物の範囲内に入れば、本発明はそのような改変及び変形を包含するとされる。
【符号の説明】
【0026】
10 コート脆性材料シート
12 脆性材料層
13,15 脆性材料層平表面
14 コーティング材料
16 分割部分
17 コーティング材料外表面
18 レーザ
19 コーティング材料内表面
20 分割線
30 集束素子
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5