特許第5748838号(P5748838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5748838自動車の内燃機関における無制御燃焼に対応する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748838
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】自動車の内燃機関における無制御燃焼に対応する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20150625BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   F02D45/00 345B
   F02D45/00 368C
   F02D45/00 368D
   F02D45/00 368B
   F02D13/02 G
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-500433(P2013-500433)
(86)(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公表番号】特表2013-524062(P2013-524062A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011053934
(87)【国際公開番号】WO2011117122
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2012年9月25日
(31)【優先権主張番号】102010064186.3
(32)【優先日】2010年12月27日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102010003285.9
(32)【優先日】2010年3月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ヴュアト
(72)【発明者】
【氏名】カーステン クルート
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー ヘーミング
(72)【発明者】
【氏名】リー ルオ
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−319931(JP,A)
【文献】 特開平10−030977(JP,A)
【文献】 特開2000−097061(JP,A)
【文献】 特開2008−064058(JP,A)
【文献】 特開2009−030545(JP,A)
【文献】 実開平01−088042(JP,U)
【文献】 特開2009−150306(JP,A)
【文献】 特開平04−101068(JP,A)
【文献】 特開2004−243924(JP,A)
【文献】 特開平11−050940(JP,A)
【文献】 特開平11−093757(JP,A)
【文献】 特開2005−009457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 43/00―45/00
F02D 13/00―28/00
F02D 41/00―41/40
F02P 5/145―5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車内燃機関内の無制御燃焼に対応するための方法であって、
当該無制御燃焼は、点火プラグによる点火とは無関係に発生し、かつ、内燃機関(1)内において及び/又は内燃機関(1)に近接して検出される方法において、
点火プラグによって引き起こされる制御燃焼のノッキング現象を検出する第1の測定ウィンドウ(201)と、当該第1の測定ウィンドウ(201)よりも時間的に前に配置されている、点火プラグによる点火とは無関係の前記無制御燃焼のための第2の測定ウィンドウ(202)とを設け、
監視時間内に検出された無制御燃焼の数を、点火プラグによる点火とは無関係に特定して閾値(SW)と比較し、
当該閾値(SW)を超過すると、前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を低下させ、
前記閾値(SW)の下方に、少なくとも一つの下方閾値を設定し、前記監視時間内に検出された無制御燃焼の数が当該下方閾値を超過すると、前記閾値(SW)を超過したときよりも緩慢に、前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を低下させ
計数された前記無制御燃焼を、時間を制限して記憶し、当該記憶した無制御燃焼を前記無制御燃焼の数の特定時に考慮する、
ことを特徴とする、自動車内燃機関内の無制御燃焼に対応するための方法。
【請求項2】
前記閾値(SW)は可変に調整可能である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記監視時間は、自動車の走行周期内にある、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記監視時間は、自動車の少なくとも一つの走行周期に亘って延在している、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を、当該内燃機関(1)内の燃料を増加させることによって低下させる、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を、当該内燃機関(1)内の空気を増加させることによって低下させる、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を、空気供給を低減させて、当該内燃機関(1)の充填量を低減することによって低下させる、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度を、当該内燃機関(1)の吸気弁(15)及び/又は排気弁(16)の駆動制御時間の重複を低減させて、当該内燃機関(1)内の内部残留ガスを低減させることによって低下させる、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記無制御燃焼の検出を、前記内燃機関(1)の固体伝搬音振動に基づいて行う、請求項1記載の方法。
【請求項10】
無制御燃焼を検出するために、固体伝搬音振動の状態に依存して第1のクランクシャフト角度領域を参照して、測定ウィンドウをアクティブにし、当該第1のクランクシャフト角度領域は、制御燃焼のノッキング現象が予期される第2のクランクシャフト角度領域とは異なる、請求項記載の方法。
【請求項11】
自動車内燃機関内の無制御燃焼に対応するための装置であって、
当該無制御燃焼は、点火プラグによる点火とは無関係に発生し、かつ、内燃機関(1)内において及び/又は内燃機関(1)に近接して検出され、
点火プラグによって引き起こされる制御燃焼のノッキング現象を検出する第1の測定ウィンドウ(201)と、当該第1の測定ウィンドウ(201)よりも時間的に前に配置されている、点火プラグによる点火とは無関係の前記無制御燃焼のための第2の測定ウィンドウ(202)とが設けられており、
監視時間内に検出された無制御燃焼の数を、点火プラグによる点火とは無関係に特定して閾値(SW)と比較する手段(14,15,16,17,18,20)が設けられており、
当該閾値(SW)を超過すると、前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度が低下させられ、
前記閾値(SW)の下方に、少なくとも一つの下方閾値が設定されており、前記監視時間内に検出された無制御燃焼の数が当該下方閾値を超過すると、前記閾値(SW)を超過したときよりも緩慢に、前記内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度が低下させられ
前記比較する手段(14,15,16,17,18,20)は、前記無制御燃焼を計数し、時間を制限して記憶し、当該記憶した無制御燃焼を前記無制御燃焼の数の特定時に考慮する、
ことを特徴とする、自動車内燃機関内の無制御燃焼に対応するための装置。
【請求項12】
ノッキングセンサ(17)が制御機器(18)と接続されており、当該制御機器は、前記ノッキングセンサ(17)によって出力された信号を合算するためのカウンタ(20)を有しており、前記制御機器(18)のメモリ(21)内には前記閾値(SW)及び前記少なくとも一つの下方閾値が格納されており、当該カウンタ(20)によって検出された総計が当該閾値(SW)又は当該下方閾値を超過すると、前記制御機器(18)は、前記内燃機関(1)内の温度を変化させるアクチュエータ(12,14,15,16)を駆動制御する、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記内燃機関(1)の各シリンダ(2,3,4,5)は、空気を吸気するための吸気弁(15)と、燃焼排気ガスを排出するための排気弁(16)とをアクチュエータとして有しており、これらの弁の開放時間は各カムシャフトによって調整され、
前記吸気弁(15)と前記排気弁(16)の開放時間が重複しないように、前記制御機器(18)は前記カムシャフトを駆動制御する、請求項12記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
本発明は、自動車の内燃機関内の無制御燃焼に対応する方法に関する。無制御燃焼は点火プラグによる点火とは無関係に生じ、内燃機関内において及び/又は内燃機関に近接して検出される。本発明はさらに、この方法を実施する装置に関する。
【0002】
ガソリン機関においては、供給される空燃混合気の燃焼によって車両は走行動作を開始し又は走行動作を維持する。ここでは空燃混合気の燃焼は、点火プラグの火花によって開始される。この火花は火炎の先端となり、燃焼室全体に伝播し、燃焼中に既存の空燃混合気を運動エネルギーに変換する。ノッキングを起こしている内燃機関では、燃焼の一部が急激に進行し、ガソリン機関の燃焼室内で強い圧力上昇を発生させる。この圧力上昇によって圧力波が形成される。この圧力波は伝播し、燃焼室を画定している隔壁に当たる。この際に、高圧振動が固体伝搬音に変化する。この振動はノッキングセンサ(固体伝搬音センサ)によって検出され、ガソリン機関の駆動制御時にノッキング制御によって考慮され、エンジンの損傷が回避される。ガソリン機関は、効率が最適になるように、常にノッキング限界で動作させられる。ノッキング制御によって、常に繰り返されるノッキング燃焼によるガソリン機関の損傷が回避される。
【0003】
しかしながら、上述したノッキング燃焼の他に自己着火も発生する。この自己着火は、燃焼室内高温箇所、オイル液滴又は空燃混合気における高温の残留ガスゾーンが原因で発生する。このような自己着火は、火花が発生する前の前着火として、また火花が発生した後の後着火として発生し得る。この際に、火花誘導された火炎先端の他に、一つ又は複数の、別の火炎先端が発生する。この自己着火は通常は前着火と称され、末端ガス領域におけるノッキング燃焼の危険を高める。この際に生じる固体伝搬音振動は、極度の圧力振幅を特徴とする。この圧力振幅は、極めて急速に、エンジン損傷を引き起こす。
【0004】
ドイツ公報DE69628770T2号には、このような異常自己着火を、自己着火の振幅が所定の閾値よりも大きいことによって識別することが開示されている。ここでこの自己着火は、二つのステップで識別される。即ち、点火後に第1の所定の時間期間が経過した後に一度、さらに、第2の所定の時間期間が経過した後に二度目のステップにおいて行われる。この第2の所定の時間期間は、第1の所定の時間期間よりも長い。自己着火を最低限に低減させるために、異常自己着火が確認されると、燃料噴射量が上昇させられ、又は、低下させられ、又は、スロットルバルブが閉鎖される。自己着火を特定するためには、長い計算時間を費やすことが必要であり、これによって異常自己着火に対する迅速な反応が遅延することとなる。
【0005】
発明の概要
従って、本発明の課題は、迅速でありながらも確実な、内燃機関内の無制御燃焼の回避を可能にする方法及び装置を提供することである。これによって、内燃機関は損傷から保護される。
【0006】
本発明では上述の課題は、監視時間内に検出された無制御燃焼の数が特定されて、これが閾値と比較されることによって解決される。この閾値を超過すると、内燃機関の燃焼室内の温度が低下させられる。これは、次のような利点を有する。即ち、内燃機関の過去の燃焼が、無制御燃焼に対する措置の導入時に考慮され、散発的な燃焼事象が評価される、という利点を有する。無制御燃焼が監視時間内に一度だけ発生したのか又は複数回発生したのか又は連続して発生したのかに応じて、無制御燃焼を低減させる適切な措置によって対応がなされ、実際のエンジン特性が考慮される。無制御燃焼の数の計数は、この方法の特に容易なソフトウェアによる実現も、ハードウェアによる実現も可能にする。無制御燃焼を低減させる措置によって、内燃機関の燃焼室内の温度が低減される。これによって、突発的かつ極端な、燃焼室内の、エンジンを著しく損傷させるエネルギー変換が低減され又は完全に阻止される。これによって、燃焼室内の高温箇所又は空燃混合気内のホットスポットが冷却されることにより、無制御燃焼の発生が低減される。
【0007】
有利には閾値は可変に調整される。これによって、内燃機関の燃焼室内の目下の状況が常に考慮される。ここで、無制御燃焼を低減するための措置が、上記可変閾値に基づいて、種々の時点において導入される。これによって、発生した無制御燃焼に迅速に対応することが可能になる。
【0008】
別の形態では、計数された無制御燃焼が時間を制限して記憶される。ここで、この記憶された無制御燃焼が、無制御燃焼の数を特定する際に考慮される。識別された無制御燃焼を計数するカウンタを用いることによって、容易な実現が可能になる。ここで識別された無制御燃焼のためのこのカウンタは、調整可能な、時間が制限された記憶力を伴って構成される。この場合には、発生してから既に長い時間が経過した、識別された無制御燃焼はカウンタから再び除去される。これは、無制御燃焼が識別されたときにインクリメントし、所定の時間後に再びディクリメントするカウンタによって容易に実現される。これによって、無制御に発生する燃焼に対する対抗措置を極めて柔軟に導入することができる。ディクリメントに対して長い時間が選択される場合、発生してから既に長い時間が経過した無制御燃焼も考慮される。ディクリメントに対する時間を短くする場合には、発生してから長い時間が経過した無制御燃焼は、措置の導入に対してもはや考慮されない。
【0009】
ある実施形態では、監視時間は、自動車の一走行周期内に位置する。ここで、自動車の走行周期とは、自動車の点火開始と、内燃機関のオフとの間の時間である。走行周期内に監視時間を設定する場合には、無制御燃焼を阻止するための短時間措置が起動される。なぜならこの短時間措置は、目下の走行周期においてのみ作用するからである。これは特に、個々の無制御燃焼の発生時である。これによって、内燃機関が損傷する危険性が低減される。
【0010】
択一的に、監視時間は、自動車の少なくとも一回の走行周期に亘る。このような応用は、内燃機関が短時間措置の経過後の短い時間の後に既に再び無制御燃焼を発生する場合に常に有利である。このような長時間措置時には、自動車の複数の走行周期において発生する無制御燃焼が長期間に亘って監視されることによって、無制御燃焼の特に正確な対応が設定されて常に繰り返され、無制御燃焼が長期間に亘って確実に回避される。これによって、内燃機関が損傷する虞がさらに低減される。
【0011】
別の発展形態では、内燃機関の燃焼室内の温度が、内燃機関内の燃料を増加することによって低減される。内燃機関の燃焼室内に存在する空燃混合気を濃縮することによって、空気質量がほぼ一定であることにより燃焼能力が制限される。他方では、多くの燃料が気化することによって、空燃混合気が著しく冷却される。
【0012】
別の実施形態では、内燃機関の燃焼室内の温度が、内燃機関内の空気を増加することによって低減される。この場合には、燃焼に関与していない空気質量は冷却作用を有する。同様に、希薄な混合気によって空燃混合気は緩慢に燃焼し続け、これによって無制御燃焼が内燃機関に及ぼす影響が弱くなる。
【0013】
別の形態では、内燃機関の燃焼室内の温度は、空気供給を低減することによって内燃機関の充填量を低下させることにより低減される。これは、スロットルバルブを閉鎖状態の方向へ動作させることによって行われる。これによって、内燃機関へのさらなる空気供給が阻止されて、燃焼が低減される。これは、温度が低減されることによって、無制御燃焼にも有利に作用を及ぼす。
【0014】
有利には、内燃機関の燃焼室内の温度は、内燃機関の吸気弁及び/又は排気弁の駆動制御時間の重複を短縮することによって、内燃機関内の内部残留ガスを低減させることにより低下させられる。この調整の前提条件となるのは、カムシャフトが調整可能である、ということである。この場合には少なくとも一つのカムシャフトが、吸気弁又は排気弁に対して調整可能でなければならない。二つのカムシャフトが調整可能であり、これによって、吸気弁及び排気弁に対する制御時間が調整可能であるのは有利である。このような手法によって、無制御燃焼に対する極めて多様な対応が可能になる。なぜなら、この重複が迅速にソフトウェアによって調整されるからである。吸気弁が既に開放されているのに、排気弁がまだ閉鎖されていないことにより、内燃機関の燃焼室内の温度レベルは低下する。駆動制御時間の重複が低減される場合には、吸気弁又は排気弁の最大ストロークを基本とし、又は、弁の特定の開放状態のみが考慮される。ある実施形態では、無制御燃焼の検出は、内燃機関の固体伝搬音振動に基づいて行われる。固体伝搬音振動は内燃機関内において、制御燃焼を検出するために既に評価されており、相応のセンサ装置が存在するので、無制御燃焼を特定するためのさらなるハードウェア的なコストが削減される。これによって、この方法が低コストで実現される。既存の信号を付加的に評価することだけが必要とされる。
【0015】
特に、無制御燃焼を検出するために、固体伝搬音振動の状態に依存して第1のクランクシャフト角度領域を参照して、測定ウィンドウがアクティブにされる。これは特に、第2のクランクシャフト角度領域とは異なる。この第2のクランクシャフト角度領域では、制御燃焼のノッキング現象が予期される。無制御燃焼が、点火プラグによって形成された火花によって引き起こされる制御燃焼の前及び間に発生することが知られているので、評価時には、制御燃焼用の、クランクシャフトの点火角に依存する測定ウィンドウの他に、第2の測定ウィンドウが形成されなければならない。この第2の測定ウィンドウでは、無制御燃焼によって発生する、強いノッキング燃焼が予期される。この第2の測定ウィンドウでは、既存のノッキングセンサ信号が、既存の評価アルゴリズムによって評価される。
【0016】
特に、上記閾値の下方に一つ又は複数のさらなる付加的な閾値を有する実施形態が特に有利である。この閾値を超過したときに、異なる、特に緩慢な措置が開始される。従って、前着火検出の種々の強度/頻度に柔軟に、適切に対応することができる。閾値の下方における無制御燃焼も、エンジン損傷を引き起こすことがある。これは、より低い閾値を超過したときの第1の、緩慢な措置によって回避され又は低減される。それにも拘わらず、緩慢な、又は、強度又は持続時間が低減された措置を使用することによって、運転手にとっての快適性損失は発生せず又は僅かな快適性損失が発生するだけである。
【0017】
本発明の発展形態は、自動車の内燃機関内の無制御燃焼に対応する装置に関する。無制御燃焼は、点火プラグによる点火とは無関係に発生し、かつ、内燃機関内において及び/又は内燃機関に近接して検出される。内燃機関内の無制御燃焼を、迅速であるが確実に回避することを可能にするために、かつ、内燃機関を損傷から保護するために、手段が設けられている。これらの手段は、監視時間において、検出された無制御燃焼の数を特定し、これを閾値と比較する。この閾値を超過したときには、内燃機関の燃焼室内の温度が低下させられる。これは、内燃機関の過去の燃焼が、カウンタのディクリメントに対して設定された時間に依存して考慮される、という利点を有する。これは散発的な燃焼事象が評価されることによって行われる。監視時間内に無制御燃焼が一度だけ発生したのか又は複数回発生したのか又は連続して発生したのかに応じて、無制御燃焼を低減させる適切な措置によって対応がなされ、これによって実際のエンジン特性が考慮される。無制御燃焼の数の計数は、この方法の、特に容易なソフトウェアによる実現も、ハードウェアによる実現も可能にする。
【0018】
有利には、ノッキングセンサは制御機器と接続されている。この制御機器は、ノッキングセンサによって出力された信号を加算するためのカウンタを有している。ここで、制御機器のメモリ内には、閾値が格納されており、このカウンタによって検出された総計がこの閾値を上回ると、制御機器は、内燃機関内の温度を変化させるアクチュエータを駆動制御する。このような容易な、ハードウェア的な措置によって、過去に生じた無制御燃焼を正確に考慮し、今後の無制御燃焼が阻止される。これによって、内燃機関が損傷から保護される。
【0019】
ある実施形態では、内燃機関の各シリンダは、アクチュエータとして、空気を吸入する吸気弁と、燃焼排気ガスを排出する排気弁とを有する。これらの弁の開放時間は、各カムシャフトによって調整される。ここで、この制御機器は、カムシャフトを次のように駆動制御する。即ち、吸気弁と排気弁の開放時間が僅かに重複するように駆動制御する。弁開放時間の重複時間を低減することによって、内燃機関の燃焼室内に存在する内部残留ガスが低減される。これによって、燃焼室内の温度レベルが低減される。シリンダにおける僅かにだけ重複した吸気弁と排気弁の駆動制御は、容易な、ソフトウェアを用いた措置である。
【0020】
本発明によれば、種々多数の実施形態が可能である。そのうちの一つを、図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ガソリン機関内の、無制御燃焼を検出及び低減するための装置。
図2図1に示されたガソリン機関のシリンダの原理図。
図3】無制御燃焼を検出及び低減するための概略的なフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
同じ特徴部分には、同じ参照番号が付されている。
【0023】
図1には、ガソリン機関1内の燃焼を検出及び評価する装置が示されている。この実施例においてガソリン機関1は四つのシリンダ2,3,4,5を有しており、シリンダ2,3,4,5内で運動する、詳細には図示していない、これらのシリンダのピストンは、一つずつの連接棒6,7,8,9を介してクランクシャフト10に接続されており、これらは燃焼によって発生する圧力変化によりクランクシャフトを駆動する。シリンダ2,3,4,5はインテークパイプ11に接続されており、このインテークパイプは、スロットルバルブ12によって、エアインテークパイプ13に対して閉鎖される。各シリンダ2,3,4,5内には燃料を噴射するためのノズル14が突出しており、これによって空燃混合気が形成される。さらに、各シリンダ2,3,4,5は外気のための吸気弁15と、燃焼プロセスの間に生じる排気ガスのための排気弁16とを有する。これは図2においては、例えばシリンダ2に対してのみ示されている。吸気弁15は、インテークカムシャフトによって動作させられ、排気弁はアウトレットカムシャフトによって動作させられる。これらは、理解し易くするために詳細には示されていない。
【0024】
ガソリン機関1にはノッキングセンサ17が配置されている。これは、ガソリン機関1の固体伝搬音振動を検出する。この固体伝搬音振動は、ガソリン機関1内の燃焼によって発生する。ノッキングセンサ17の信号は、制御機器18に伝送される。この制御機器は、クランクシャフト10に対向しているクランクシャフトセンサ19とも接続されている。ここで、この制御機器18は、燃焼を、クランクシャフトセンサ19の信号に割り当てる。この信号はクランクシャフト角度を表す。さらに、制御機器18はスロットルバルブ12及び燃料噴射ノズル14並びに各シリンダ2,3,4,5の吸気弁15及び排気弁16と接続されている。第1のシリンダ2を識別するために、位相センサ23が第1のシリンダ2に取り付けられている。これは同様に、制御機器18と接続されている。
【0025】
スロットルバルブ12の開放時には、外気がインテークパイプ11内に流れ、この外気は、吸気弁15を介してシリンダ2,3,4,5内に導かれる。さらにシリンダ2,3,4,5内には、各燃料噴射ノズル14から燃料が噴射される。詳細には図示されていない点火プラグによって引き起こされた火花によって、シリンダ2,3,4,5内で順次に燃焼が開始し、この燃焼により、シリンダ2,3,4,5内の圧力上昇が引き起こされる。この圧力上昇は、ピストン及び連接棒6,7,8,9を介してクランクシャフト10に伝達されて、これを動作させる。
【0026】
通常はノッキングが無く、散発的にのみノッキングを伴い得る制御燃焼の他に、極めて早期の燃焼開始乃至燃焼状態を有する燃焼が発生する。この燃焼は無制御燃焼又は前着火と称される。このような前着火は、通常の燃焼と比較して格段に高い圧力及び温度を有している。これはガソリン機関1に損傷を与える。
【0027】
前着火を識別及び回避するために、基本的に三つのステップが実行される。これは図3に示されている。ステップ100において、ノッキングセンサ17は、燃焼によって発生した固体伝搬音振動の結果、継続的又は所定の時間間隔で出力信号を形成する。この出力信号は制御機器18によって、クランクシャフトセンサ19により出力されたクランクシャフト角と関連付けされる。これによって、ノッキング燃焼を、内部で燃焼が発生している各シリンダ2,3,4,5に対応付けすることができる。
【0028】
ブロック200では、ノッキングセンサ17の出力信号が所定の測定領域において、制御機器18によって、前着火により生じた強いノッキング現象が発生しているかに関して検査される。このために、制御機器18の評価アルゴリズムは、通常の、点火プラグによって発生する燃焼のノッキング現象を検出するための第1の測定ウィンドウ201の他に、第2の測定ウィンドウ202を有している。この第2の測定ウィンドウは、第1の測定ウィンドウ201よりも時間的に前に配置されている。前着火によって生じた強いノッキング現象を検出する第2の測定ウィンドウ202は、図3に示されているように、各シリンダ2,3,4,5のピストンが上死点OTに到達すると開始し、第1の測定ウィンドウ201が開く前に終了する。しかし、択一的に、この第2の測定ウィンドウ202が、上死点到達前に既に開けられていてもよい。これによって、前着火による強いノッキング燃焼の検出時の安全性がさらに改善される。
【0029】
強いノッキング現象の識別は、制御機器18内で、ノッキング識別のための既知のアルゴリズムによって行われる。この場合には、検出されたセンサ信号は、一つ又は複数の周波数領域においてフィルタリングされ、次に、整流及び積分される。このようにして得られた積分値は、前着火の無い動作を表す基準値と関連付けされる。この関係が閾値を超過すると、前着火が識別される。
【0030】
前着火が識別された場合には、ステップ300に移行し、低減のための措置が開始される。ここでは、個別に又は組み合わせて実行される種々の措置が区別される。この措置には、該当するシリンダ2,3,4,5での燃料噴射弁14のオフ、又は、燃料を増加すること、又は、外気を増加すること乃至充填レベルを下げることによるシリンダ2,3,4,5の燃焼室22の冷却が含まれる。
【0031】
シリンダ2,3,4,5内の内部残留ガスを低減させることによって前着火は特に有利に低減される。ここでは、吸気弁15及び排気弁16は、カムシャフトによって次のように駆動される。即ち、二つの弁15、16の開放時間が、ガス交換サイクル−OTにおいて重複しないように駆動される。カムシャフトはここで、空気供給を低減するスロットルバルブ12及び燃料噴射弁14と同じように、制御機器18によって駆動制御される。低減された弁重複によって、排気弁16が閉鎖されて初めて吸気弁15が開放される。これによって、シリンダ2,3,4,5内に残存している残留ガスが低減され、シリンダ2,3,4,5内の温度レベルが低下する。インテークカムシャフトのみが可変調整可能である場合には、吸気弁15に対する制御時間は遅くなるように調整される。即ち、各シリンダ2,3,4,5のピストンが、シリンダ2,3,4,5内でピストンが到達することができる最高点である上死点OTを既に越えて、既に再び下方運動を始めてから、吸気弁15が開放される。ガソリン機関1が調整可能な排気弁制御時間のみを有している場合には、排気弁16の制御時間は早くなる方へ調整される。即ち、シリンダ2,3,4,5のピストンが自身の上方運動にあり、上死点OTに到達する前に動作させられる。吸気弁15も排気弁16も可変である場合には、排気弁16の制御時間は早い方向に調整され、吸気弁15の調整は遅い方向に調整される。ここで、弁15、16の最大ストロークが考慮され、又は、弁15、16の開放における特定のデルタのみを考慮することができる。
【0032】
前着火を低減する措置を導入する種々の方法がある。簡単な形態では、前着火が検出される度に、一つ又は複数の上述した方法が、制御機器18によって起動される。ここでは、燃料噴射ノズル14が起動される、及び/又は、スロットルバルブ12が調整される、及び/又は、吸気弁15及び排気弁16の制御時間が変更される。
【0033】
調整可能な「記憶力」Gを伴った機能が特に有利である。ここでは、制御機器18内に存在しているカウンタ20によって、図3においてブロック301において表されているように散発的に発生する前着火が計数される。ここでは、個々の前着火が時間tに亘って表されている。計数された前着火の数は、制御機器18のメモリ21内に格納されている閾値SWと比較される。計数された前着火の数がこの閾値SWを超過すると、この制御機器18によって、一つ又は複数の、上述した措置Mが開始される。これによってさらなる前着火が阻止される(ブロック302を参照)。発生してから長い時間が経過している前着火がもはや考慮されるべきではない場合には、カウンタ20は調整可能な時間の後にディクリメントされる。
【0034】
閾値SWは、ここで回転数に依存して及び/又は負荷に依存して変更することができる。従って、評価は常に、各シリンダ2,3,4,5内の所定の比に基づいている。
【0035】
このような機能は、前着火を阻止する乃至緩和する短時間措置にも長時間措置にも使用される。ここでは、個々に識別された前着火が、先ずは短時間措置によって対応される。これは空燃混合気の濃縮化又は希薄化、充填量減少又は残留ガス低減等である。このような短時間措置は、自動車の走行周期においてのみ、特定の時間に対して又は所定数の動作サイクルに対して作用し、秒の時間枠で動作する。ここでは、自動車の点火開始からガソリン機関1のオフまでの時間期間が走行周期とみなされる。
【0036】
しかし、ガソリン機関1が短時間措置の後、短時間後に再び前着火を形成することが明らかである場合、これは、ガソリン機関1の耐久性に関して有害である。このような場合には、複数の走行周期に亘って作用し、数時間続くことがある長時間措置が起動される。各走行周期において計数された、前着火の数はここで、ガソリン機関がオフされた後に、制御機器18の記憶部21内に記憶され、前着火の計数は、点火開始後に、記憶された超過ノッキングの数をベースにして継続される。この長時間措置の場合にも、計数された前着火の数が閾値SWに達すると、さらなる前着火を低減するための措置Mが導入される。ここで特に適しているのは、充填量低下並びに残留ガスの最低限化である。空燃混合気の濃縮化乃至希薄化も、設定可能である。
【0037】
別の構成では、相応する対抗措置による多段の、特に二段階式の前着火識別が設定されている、乃至、これに適した検出装置及び処理装置が設けられている。これによって効果的に、エンジン損傷を阻止することができる。なぜなら既に、上述の閾値に達する前及び措置が講じられる前に発生した無制御燃焼乃至前着火が、エンジン損傷の原因となるからである。
【0038】
このような多段式の前着火識別では、第1の閾値を超過したときに、第1の、有利には緩慢な対抗措置が開始される。ここでこの緩慢な対抗措置は、次のようなものである。即ち、この対抗措置によって、内燃機関(1)の燃焼室(22)内の温度が、閾値を超過したときと比較してそれほど顕著には低減されない対抗措置である。別の各閾値を超過したときに、この対抗措置は、最大閾値を超過するまで強化される。これによって、最大対抗措置(最大の温度低減)が開始される。特別な形態では、二段式の前着火識別がベースとされている。第1の前着火閾値のみを超過する燃焼によって、前着火の発生が疑われる。このような疑いに基づいて次にこの時点で既に、第1の措置が開始される。これによって、結果として、場合によっては再びエンジンに損傷を与え得る、実際の乃至さらなる前着火が阻止される。しかしその後にさらなる乃至実際の前着火が発生する場合には、これは第2の閾値を超過することによって検出され、さらなる措置が開始される。これは例えば、その他の実施例における一つの閾値のみの超過に対して上述された措置である。
【0039】
即ち、このようにして、前着火識別が三つのクラスに分けられる:(1)前着火の不検出、(2)前着火の疑い、(3)前着火の検出。上述したように、さらに段階付けがなされた対抗措置を備えた多段階式識別も設定可能である。これは例えば:(a)前着火の不検出、(b)弱い疑い、(c)強い疑い、(d)前着火の検出、(e)非常に強い前着火の検出である。この後者の例では、主要な閾値の上方に、付加的な閾値(e、非常に強い前着火の検出)も設定されている。
【0040】
上述したように、この一つの下方閾値(乃至、二段階式よりも段階が多い機能では、複数の下方閾値)の場合には、より緩慢な対抗措置が起動される。これは有利には、車両操縦者に気付かれない。
【0041】
このような対抗措置は例えば、(有利には)僅かな濃縮化及び/又は(有利には僅かな)残留ガス低減及び/又は噴射タイミング変更によって実現され、ここでは特に、個々の措置のみが講じられる。個々の燃焼がこの第1の(乃至、相応する下方の)閾値を上回ると既に、この措置が導入されてもよい。しかしここでも、上述した「記憶機能」が特に有利である。即ち、例えば、特定の時間が経過した後に再びディクリメントされるカウンタを介して検出が行われる。
【0042】
第2の閾値(乃至、最も高い閾値)を超過すると、これは実際に検出された前着火として分類される。さらなる前着火を阻止するためにこの時点で、より厳格な対抗措置又は複数の対抗措置を組み合わせたもの又は使用可能な総ての措置を組み合わせたものも起動される。これは例えば、第1の閾値(乃至下方閾値)と比較してより強い濃縮化又はより強い残留ガスの最低限化によって実現される。可能な対抗措置が、充填量の低下又は噴射弁の遮断であってもよい。上述のように、複数のこれらの対抗措置を組み合わせることもできる。
図1
図2
図3