(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のポリマーであって、該ポリマーの質量に対して、25〜45質量%の、前記の式(I)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む前記ポリマー。
請求項1又は2に記載のポリマーであって、該ポリマーの質量に対して、20〜55質量%の、前記の式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む前記ポリマー。
請求項1から3までのいずれか1項に記載のポリマーであって、該ポリマーの質量に対して、25〜35質量%の、前記の式(III)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む前記ポリマー。
請求項1から5までのいずれか1項に記載のポリマーであって、式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位と、式(III)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位との質量比が、4:1〜1:1の範囲にある前記ポリマー。
【技術分野】
【0001】
本願は、粘度指数向上剤として有用なポリマー並びに前記ポリマーを含む潤滑剤組成物に関する。
【0002】
50年を超える期間にわたり、潤滑油の温度−粘度特性の向上は、比較的高い分子量のポリマーの添加によって達成されてきた。自動車潤滑剤産業は、通常、これらの温度−粘度特性を、粘度指数(VI)として測定している。より高い値の粘度指数を有する潤滑剤は、温度変化に伴い殆ど変化しない粘度を有する。
【0003】
粘度指数向上剤(VII)としての用途のためのポリマーの選択又は開発に際して、考慮せねばならない多くの要因が存在する。第一の必要条件は、様々な濃度及び温度における目的となるオイル中での該ポリマーの安定性と溶解性である。該ポリマーが、様々な液体中に可溶であることは更に好ましい。自動車潤滑剤用途のためには、溶解性は、ベースオイルの性質に関連することがある。
【0004】
また、該添加ポリマーの分子量が、粘度指数の値に影響することはよく知られており、通常理解されていることである。分子量が高くなると、粘度指数の上昇において該ポリマーはより効果的になる。このような粘度指数の増大は、該ポリマーの分子量が高まると、剪断応力下で分解の傾向があるため、制限されている。ポリマーの機械的な剪断応力による分解に耐える能力は、剪断安定性又は永久剪断安定性指数(PSSI)と呼称される。特定の剪断安定性限界を有する用途については非常によく知られている。
【0005】
粘度指数の更なる増大は、ポリマー組成物の改変を通じて得ることができる。粘度指数向上剤の効力は、ポリマーと潤滑油との間の相互作用に密に関連している。これらの相互作用に影響しうるコモノマーの添加は、粘度指数の改善されたもしくは低減された性能をもたらしうる。
【0006】
文献JP2008 031459Aは、粘度指数向上剤として有用なポリマーを開示している。その粘度指数向上剤は、質量平均分子量5000〜1000000を有するコポリマーであって、必須モノマーCH
2=C(R
1)−COO(A−O)
n−(CH
2)
p−CH(R
2)−R
3[式中、R
1は、H又はMeであり、R
2及びR
3は、独立して、C
1〜C
16−直鎖状のアルキル又はC
3〜C
34−分枝鎖状のアルキルであり、連続したメチレン基は16個以下であり、R
2、R
3及び(CH
2)
pの全炭素は18〜36であり、Aは、C
2〜C
4−アルキレンであり、n及びpは、0〜20の整数と0〜15の整数のそれぞれである]を有するコポリマーからなる。類似の粘度指数向上剤は、JP2008−024908A、JP2003−292938A、US2004/0077509A1及びEP−A−2009074に開示されている。
【0007】
公知のポリマーは、粘度指数向上剤として良好な効力を示す。従って、これらのポリマーの殆どは、十分な特性プロフィールを示す。しかしながら、所望の粘度を、潤滑油中で最低限の添加剤の使用で広い温度範囲にわたって、ポリマーの早期分解によりこの特性を損なうことなく達成するために、増粘作用と、粘度指数と、剪断安定性との関係性を改善するための永続的な努力がなされている。
【0008】
更に、それらのポリマーは、簡単かつ廉価に製造できるべきであり、特に商業的に入手可能な成分が使用されるべきである。この関連において、該ポリマーは、工業的規模において、新たなプラント又は複雑な構造のプラントをこの目的のために要することなく製造できるべきである。
【0009】
これらの課題も、明記はされていないものの本願に紹介的に議論された関連から直ちに誘導可能か又は認識可能な更なる課題も、請求項1の全ての特徴を有するポリマーによって解決される。本発明によるポリマーに対する適切な変更は、請求項1を引用する請求項で保護されている。潤滑剤組成物に関しては、請求項20が、その根底にある問題に対する解決策を提供している。
【0010】
本発明は、従って、粘度指数向上剤として有用なポリマーであって、
式(I)
【化1】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
1は、1〜6個の炭素原子を有する直鎖状の、分枝鎖状のもしくは環式のアルキル基を意味し、R
2及びR
3は、独立して、水素もしくは式−COOR′の基を表し、その際、R′は、水素もしくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位と、
式(II)
【化2】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
4は、12〜18個の炭素原子を有する2−アルキル分岐したアルキル基を意味し、R
5及びR
6は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基を表し、その際、R′′は、水素もしくは12〜18個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位と、
式(III)
【化3】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
7は、12〜24個の炭素原子を有する直鎖状のアルキル基を意味し、R
8及びR
9は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基を表し、その際、R′′は、水素もしくは12〜24個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位と、
を有するポリマーにおいて、前記ポリマーは、
該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(I)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含み、
該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含み、かつ
該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(III)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含むことを特徴とする前記ポリマーを提供する。
【0011】
本発明のポリマーは、高い剪断安定性を維持しつつ、粘度指数向上剤として高い効力をもたらす。同時に、本発明のポリマーは、一連の更なる利点を達成することができる。これらは、以下のことを含む。
【0012】
本発明のポリマーは、潤滑油中で特に高い粘度指数向上効果を有する。これらの特性は、低い処理速度(treating rate)と高い剪断安定性によって達成される。本発明のポリマーは、特に簡単にかつ単純な様式で製造することができる。通常の工業的規模のプラントを使用することができる。更に、本発明のポリマーは、本発明の潤滑剤を使用して乗り物に燃料効率を授ける。更に、本発明のポリマーを含有する作動液は、非常に低い燃料消費を示す。更に、本発明のポリマーは、非常に様々なベースオイルと高い相容性を有する。これは、高性能ベースオイルとGTLベースオイルに対して言える。
【0013】
更に、本発明のポリマーは、驚異的な低温性能を示す。
【0014】
本発明によるポリマーは、式(I)
【化4】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
1は、1〜6個の炭素原子を、特に1〜5個の炭素原子を、好ましくは1〜3個の炭素原子を有する直鎖状の、分枝鎖状のもしくは環式のアルキル基を意味し、R
2及びR
3は、独立して、水素もしくは式−COOR′の基を表し、その際、R′は、水素もしくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む。
【0015】
式(I)によるモノマーは、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートを含み、その際、アルキル基中に1〜5個の、特に1〜3個の炭素原子を有するアルキルメタクリレートが好ましい。メタクリレートという用語は、(メタ)アクリレート及びアクリレート並びにそれらの混合物を含む。これらのモノマーは、当該技術分野でよく知られている。該エステル化合物のアルキル基は、直鎖状、環式又は分枝鎖状であってよい。
【0016】
式(I)によるモノマーの例は、中でも、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートであって、飽和アルコールから誘導されるもの、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート及びヘキシル(メタ)アクリレート;シクロアルキル(メタ)アクリレート、例えばシクロペンチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートである。好ましくは、該ポリマーは、メチル(メタ)アクリレートから誘導される単位を含む。
【0017】
本発明のポリマーは、該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(I)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む。本発明の好ましい一態様によれば、該ポリマーは、好ましくは、約15〜85質量%の、より好ましくは約25〜45質量%の、最も好ましくは約32〜40質量%の、式(I)によるモノマーから誘導される単位を含む。好ましくは、該ポリマーは、少なくとも25質量%の、特に少なくとも32質量%の、メチルメタクリレートから誘導される単位を含む。
【0018】
該ポリマーは、好ましくは、遊離基重合によって得ることができる。従って、本願に挙げられるポリマーの単位の質量割合は、本発明のポリマーを製造するために使用される相応のモノマーの質量割合の結果である。
【0019】
式(I)によるモノマーから誘導される単位に加えて、本発明によるポリマーは、式(II)
【化5】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
4は、12〜18個の炭素原子を有する2−アルキル分岐したアルキル基を意味し、R
5及びR
6は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基を表し、その際、R′′は、水素もしくは12〜18個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含む。
【0020】
式(II)によるモノマーの例は、中でも、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートであって、飽和アルコールから誘導されるもの、例えば2−メチルペンタデシル(メタ)アクリレート、2−エチルテトラデシル(メタ)アクリレート、2−プロピルトリデシル(メタ)アクリレート、2−ブチルドデシル(メタ)アクリレート、2−メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、2−ペンチルドデシル(メタ)アクリレート、2−ブチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシルデシル(メタ)アクリレート又は2−ヘキシルウンデシル(メタ)アクリレートである。
【0021】
特に好ましい化合物は、2−ヘキシルデシル(メタ)アクリレート及び2−ヘキシルウンデシル(メタ)アクリレートを含む。
【0022】
驚くべき向上は、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位の混合物を含むポリマーで達成でき、該混合物は、好ましくは、基R
4として2−メチル分岐したアルキル基を有する単位と、基R
4として2−エチル分岐したアルキル基を有する単位とを含む。
【0023】
本発明の特定の一態様によれば、該ポリマーは、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位の混合物を含んでよく、該混合物は、特に、基R4として2−プロピル分岐したアルキル基を有する単位と、基R
4として2−ブチルもしくはそれより高級で分岐したアルキル基を有する単位とを含んでよい。
【0024】
更に好ましくは、本発明によるポリマーは、基R
4として2−メチル分岐したアルキル基を有する式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含んでよく、かつ基R
4として2−メチル分岐したアルキル基を有する単位は、特に、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位に対して、少なくとも10質量%で、より好ましくは少なくとも20質量%で含んでよい。
【0025】
好ましくは、本発明によるポリマーは、基R
4として2−エチル分岐したアルキル基を有する式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含んでよく、かつ基R
4として2−エチル分岐したアルキル基を有する単位は、特に、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位に対して、少なくとも10質量%で、より好ましくは少なくとも20質量%で含んでよい。
【0026】
更に、本発明によるポリマーは、基R
4として2−プロピル分岐したアルキル基を有する式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含んでよく、かつ基R
4として2−プロピル分岐したアルキル基を有する単位は、特に、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位に対して、少なくとも10質量%で、より好ましくは少なくとも20質量%で含んでよい。
【0027】
特に、本発明によるポリマーは、基R
4として2−ブチルもしくはそれより高級で分岐したアルキル基を有する式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含んでよく、かつ基R
4として2−ブチルもしくはそれより高級で分岐したアルキル基を有する単位は、特に、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位に対して、少なくとも10質量%で、より好ましくは少なくとも20質量%で含んでよい。
【0028】
本発明の好ましい一実施態様によれば、式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位は、12〜16個の炭素原子を有する基R
4を有する単位を含み、かつ前記の12〜16個の炭素原子を有する基R
4を有する単位は、好ましくは、式(II)のエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位に対して、少なくとも50質量%で、より好ましくは少なくとも70質量%で含んでよい。
【0029】
分岐の種類と分岐の位置は、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定することができる。好ましくは、ポリマーの製造に使用されるモノマーが使用され、これらのモノマーが混合物であれば、その混合物は、好ましくは分析前に分離することができる。特に
13C−NMR実験及び
1H−NMR実験が、行われ、分析されうる。有用な情報は、"Determination of the Oligomer Distribution in Ethoxylated Linear and Branched Alkanols using 13C−NMR",Li Yang et al.Eur.Polym,.J.Vol.33(2),143(1997)及び"Quantitative assessment of Alkyl Chain Branching in Alcohol−Based Surfactants by Nuclear Magnetic Resonance",J.Duynhoven,A.Leika and P.C.van der Hoeven,J.of Surfactants and Detergents Vol 8(1),73(2005)で提供される。NMR法の使用は、通常は、ブチル分岐とペンチル分岐もしくはヘキシル分岐との間の如何なる識別も提供しない。従って、表現、2−ブチルもしくはそれより高級で分岐したアルキル基は、2−ペンチル及び2−ヘキシル分岐した残基を含む。
【0030】
本発明のポリマーは、該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む。本発明の好ましい一態様によれば、該ポリマーは、好ましくは、約10〜75質量%の、特に20〜55質量%の、より好ましくは約25〜45質量%の、式(II)によるモノマーから誘導される単位を含む。
【0031】
式(I)及び(II)によるモノマーから誘導される単位に加えて、本発明によるポリマーは、式(III)
【化6】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
7は、12〜24個の炭素原子を有する直鎖状のアルキル基を意味し、R
8及びR
9は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基を表し、その際、R′′は、水素もしくは12〜24個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含む。
【0032】
式(III)によるモノマーの例は、中でも、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートであって、飽和アルコールから誘導されるもの、例えばn−ドデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、n−エイコシル(メタ)アクリレート、n−ドコシル(メタ)アクリレート又はn−テトラコシル(メタ)アクリレートである。
【0033】
本発明のポリマーは、該ポリマーの全質量に対して、少なくとも10質量%の、前記の式(III)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位を含む。本発明の好ましい一態様によれば、該ポリマーは、好ましくは、約10〜75質量%の、特に約20〜40質量%の、より好ましくは約25〜35質量%の、式(III)によるモノマーから誘導される単位を含む。
【0034】
長鎖アルコール残基を有するエステル化合物、特に式(II)及び(III)によるモノマーは、例えば(メタ)アクリレート、フマレート、マレエート及び/又は相応の酸と長鎖脂肪アルコールとの反応によって得ることができ、その際、一般に、種々の長鎖アルコール残基を有する(メタ)アクリレートなどのエステルの混合物が生ずる。これらの脂肪アルコールは、中でも、Oxo Alcohol(登録商標)7911及びOxo Alcohol(登録商標)7900、Oxo Alcohol(登録商標)1100(Monsanto);Alphanol(登録商標)79(ICI);Nafol(登録商標)1620、Alfol(登録商標)610及びAlfol(登録商標)810(Sasol);Epal(登録商標)610及びEpal(登録商標)810(Ethyl Corporation);Linevol(登録商標)79、Linevol(登録商標)911及びDobanol(登録商標)25L(Shell AG);Lial 125(Sasol);Dehydad(登録商標)及びDehydad(登録商標)及びLorol(登録商標)(Cognis)を含む。
【0035】
エチレン性不飽和エステル化合物のうち、(メタ)アクリレートは、マレエート及びフマレートよりも特に好ましい、すなわち、式(I)、(II)及び(III)のR
2、R
3、R
5、R
6、R
8、R
9は、特に好ましい実施形態においては水素を表す。
【0036】
本発明の特定の一態様によれば、式(II)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位と、式(III)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位との質量比は、好ましくは8:1〜1:8の範囲、特に4:1〜1:4の範囲、より好ましくは2:1〜1:2の範囲にある。
【0037】
式(II)及び式(III)の単位の、炭素原子数の量及び分岐の量を含む割合は、慣用の方法によって、特に式(II)及び式(III)のエチレン性不飽和エステル化合物それぞれを用いて測定することができる。これらの方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)及びNMRを含む。
【0038】
該ポリマーは、任意の成分としてのコモノマーから誘導される単位を含んでよい。該コモノマーは、中でも、式(I)、(II)及び(III)のエチレン性不飽和エステル化合物とは異なるエチレン性不飽和エステル化合物を含む。
【0039】
これらのモノマーは、式(IV)
【化7】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
10は、7〜11個の炭素原子を有する直鎖状の、分枝鎖状のもしくは環式のアルキル基を意味し、R
11及びR
12は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基であり、その際、R′′は、水素もしくは7〜11個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]のエチレン性不飽和エステル化合物を含む。
【0040】
中でも、これらは、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートであって、飽和アルコールから誘導されるもの、例えば2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−t−ブチルヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチルメタクリレート、3−イソプロピルヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート又はウンデシル(メタ)アクリレート;シクロアルキル(メタ)アクリレート、例えば環置換基を有するシクロヘキシル(メタ)アクリレート、例えばt−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及びトリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレート;並びに相応のフマレート及びマレエートである。
【0041】
エチレン性不飽和エステル化合物のうち、(メタ)アクリレートは、マレエート及びフマレートよりも特に好ましい、すなわち、式(IV)のR
11、R
12は、特に好ましい実施形態においては水素を表す。
【0042】
更に、前記ポリマーは、式(V)
【化8】
[式中、Rは、水素もしくはメチルであり、R
13は、12〜18個の炭素原子を有する3−分岐したアルキル基を意味し、R
14及びR
15は、独立して、水素もしくは式−COOR′′の基であり、その際、R′′は、水素もしくは12〜18個の炭素原子を有するアルキル基を意味する]の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物の単位を含んでよい。
【0043】
式(V)によるモノマーの例は、中でも、(メタ)アクリレート、フマレート及びマレエートであって、飽和アルコールから誘導されるもの、例えば3−メチルペンタデシル(メタ)アクリレート、3−エチルテトラデシル(メタ)アクリレート、3−プロピルトリデシル(メタ)アクリレート、3−ブチルドデシル(メタ)アクリレート、3−メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、3−ペンチルドデシル(メタ)アクリレート、3−ブチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、3−ヘキシルデシル(メタ)アクリレート又は3−ヘキシルウンデシル(メタ)アクリレートである。
【0044】
エチレン性不飽和エステル化合物のうち、(メタ)アクリレートは、マレエート及びフマレートよりも特に好ましい、すなわち、式(IV)のR
14、R
15は、特に好ましい実施形態においては水素を表す。
【0045】
更に、有用なコモノマーは、
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオール(メタ)アクリレート;
アミノアルキルメタクリレート及びアミノアルキルメタクリルアミド、例えばジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノペンチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノヘキサデシル(メタ)アクリレート及びモルホリノエチル(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリル酸のニトリル及び他の窒素を含む(メタ)アクリレート、例えばN−(メタクリロイルオキシエチル)ジイソブチルケチミン、N−(メタクリロイルオキシエチル)ジヘキサデシルケチミン、(メタ)アクリロイルアミドアセトニトリル、2−メタクリロイルオキシエチルメチルシアナミド、シアノメチル(メタ)アクリレート;
アリール(acryl)(メタ)アクリレート、例えばベンジル(メタ)アクリレート又はフェニル(メタ)アクリレート、その際、該アリール(acryl)残基は、それぞれの場合に、非置換であるか、又は4回まで置換されていてよい;
カルボニルを含む(メタ)アクリレート、例えば2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、オキサゾリジニルエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアクリロイルオキシ)ホルムアミド、アセトニル(メタ)アクリレート、N−メタクリロイルモルホリン、N−メタクリロイル−2−ピロリジノン、N−(2−メタクリルオキシオキシエチル)−2−ピロリジノン、N−(3−メタクリロイルオキシプロピル)−2−ピロリジノン、N−(2−メタクリロイルオキシペンタデシル(−2−ピロリジノン、N−(3−メタクリロイルオキシヘプタデシル−2−ピロリジノン;
エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、例えばテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビニルオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、1−ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、1−メチル−(2−ビニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルオキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジルオキシメチル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエトキシメチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシル化(メタ)アクリレート、アリルオキシメチル(メタ)アクリレート、1−エトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシメチル(メタ)アクリレート、1−エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート;
ハロゲン化アルコールの(メタ)アクリレート、例えば2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、4−ブロモフェニル(メタ)アクリレート、1,3−ジクロロ−2−プロピル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレート、2−ヨードエチル(メタ)アクリレート、クロロメチル(メタ)アクリレート;
オキシラニル(メタ)アクリレート、例えば2,3−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、10,11−エポキシウンデシル(メタ)アクリレート、2,3−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、オキシラニル(メタ)アクリレート、例えば10,11−エポキシヘキサデシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート;
リン、ホウ素及び/又はケイ素を含む(メタ)アクリレート、例えば2−(ジメチルホスファト)プロピル(メタ)アクリレート、2−(エチルホスフィト)プロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルホスフィノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルホスホノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルメタクリロイルホスホネート、ジプロピルメタクリロイルホスフェート、2−(ジブチルホスホノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ブチレンメタクリロイルエチルボレート、メチルジエトキシメタクリロイルエトキシシラン、ジエチルホスファトエチル(メタ)アクリレート;
硫黄を含む(メタ)アクリレート、例えばエチルスルフィニルエチル(メタ)アクリレート、4−チオシアナトブチル(メタ)アクリレート、エチルスルホニルエチル(メタ)アクリレート、チオシアナトメチル(メタ)アクリレート、メチルスルフィニルメチル(メタ)アクリレート、ビス(メタクリロイルオキシエチル)スルフィド;
複素環式の(メタ)アクリレート、例えば2−(1−イミダゾリル)エチル(メタ)アクリレート、2−(4−モルホリニル)エチル(メタ)アクリレート及び1−(2−メタクリロイルオキシエチル)−2−ピロリドン;
ビニルハロゲン化物、例えば塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン及びフッ化ビニリデン;
ビニルエステル、例えば酢酸ビニル;
芳香族基を有するビニルモノマー、例えばスチレン、側鎖中にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばα−メチルスチレン及びα−エチルスチレン、環上にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエン及びp−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレン及びテトラブロモスチレン;
複素環式のビニル化合物、例えば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニルピリミジン、ビニルピペリジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール及び水素化ビニルチアゾール、ビニルオキサゾール及び水素化ビニルオキサゾール;
ビニルエーテル及びイソプレニルエーテル;
マレイン酸誘導体、例えば無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、マレインイミド、メチルマレインイミド;
フマル酸及びフマル酸誘導体、例えばフマル酸のモノエステル及びジエステルなど
を含む。
【0046】
分散性の官能基を有するモノマーを、コモノマーとして使用してもよい。これらのモノマーは、当該技術分野でよく知られており、かつ通常は、酸素及び/又は窒素などのヘテロ原子を含む。例えば、上述のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート及びアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、複素環式の(メタ)アクリレート及び複素環式のビニル化合物が、分散性のコモノマーとして考慮される。
【0047】
本発明によるポリマーは、好ましくは、0〜70質量%の、特に0.1〜50質量%の、より好ましくは1〜20質量%の、コモノマーから誘導された単位を含んでよい。
【0048】
好ましくは、前記ポリマーは、該ポリマーの質量に対して、0〜20質量%の、より好ましくは0〜10質量%の、式(IV)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導された単位を含んでよい。
【0049】
本発明の特定の一態様によれば、前記ポリマーは、好ましくは、該ポリマーの質量に対して、0〜20質量%の、より好ましくは0〜10質量%の、式(V)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導された単位を含んでよい。
【0050】
好ましい一実施形態によれば、前記ポリマーは、上述の式(I)、(II)及び(III)のエチレン性不飽和エステル化合物とは異なる、1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導された単位を含む。好ましくは、式(I)の1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位と、式(I)、(II)及び(III)のエチレン性不飽和エステル化合物とは異なる1もしくはそれより多くのエチレン性不飽和エステル化合物から誘導される単位との質量比は、100:1〜1:1の範囲に、より好ましくは20:1〜2:1の範囲に、最も好ましくは15:1〜4:1の範囲にあってよい。
【0051】
本発明によるポリマーは、5000〜2000000g/モルの範囲の、好ましくは20000g/モル〜200000g/モルの範囲の、より好ましくは50000〜100000g/モルの範囲の分子量を有する。これらの値は、該ポリマーの質量平均分子量を指す。
【0052】
これにより如何なる制限も意図するものではないが、本発明のポリマーは、質量平均分子量の、数平均分子量に対する比率Mw/Mnによって示される多分散性を、1〜15の範囲で、好ましくは1.1〜10の範囲で、特に好ましくは1.2〜5の範囲で示す。多分散性及び質量平均分子量は、ポリメチルメタクリレート標準を用いたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0053】
該ポリマーは、前記のモノマーを含む混合物を、任意の公知の方法によって重合させることによって得ることができる。慣用のラジカル開始剤を使用して、古典的なラジカル重合を行うことができる。これらの開始剤は、当該技術分野でよく知られている。これらのラジカル開始剤のための例は、アゾ開始剤、例えば2,2′−アゾジイソブチロニトリル(AIBN)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)及び1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル;ペルオキシド化合物、例えばメチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、t−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、t−ブチルペルオキシ 2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジクメンペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、クメンヒドロペルオキシド及びt−ブチルヒドロペルオキシドである。
【0054】
低分子量ポリマー、特にポリ(メタ)アクリレートは、連鎖移動剤を使用することによって得ることができる。この技術は、ポリマー産業において広く知られており、かつ実施されており、Odian,Principles of Polymerization,1991に記載されている。連鎖移動剤の例は、硫黄を含む化合物、例えばチオール、例えばn−及びt−ドデカンチオール、2−メルカプトエタノール及びメルカプトカルボン酸エステル、例えばメチル−3−メルカプトプロピオネートである。好ましい連鎖移動剤は、20個までの、特に15個までの、より好ましくは12個までの炭素原子を有する。更に、連鎖移動剤は、少なくとも1個の、特に少なくとも2個の酸素原子を含んでよい。
【0055】
更に、低分子量ポリマー、特にポリ(メタ)アクリレートは、遷移金属錯体、例えば低スピンコバルト錯体を使用することによって得ることができる。これらの技術は、よく知られており、かつUSSR特許第940,487−Aにおいて、そしてHeuts,et al.,Macromolecules 1999,pp 2511−2519及び3907−3912によって記載されている。
【0056】
更に、新たな重合技術、例えばATRP(原子移動ラジカル重合)及び/又はRAFT(可逆的付加開裂連鎖移動)を適用して、アルキルエステルから誘導される有用なポリマーを得ることができる。これらの方法は、よく知られている。ATRP反応方法は、例えばJ−S.Wang,et al.,J.Am.Chem.Soc.,Vol.117,pp.5614−5615(1995)及びMatyjaszewski,Macromolecules,Vol.28,pp.7901−7910(1995)によって記載されている。更に、特許出願WO96/30421、WO97/47661、WO97/18247、WO98/40415及びWO99/10387は、前記の説明の様々なATRPを開示しており、開示の目的のために表現的に参照がなされる。RAFT法は、例えばWO98/01478に広範に示されており、開示の目的のために表現的に参照がなされる。
【0057】
重合は、常圧、減圧又は高められた圧力で行うことができる。重合温度は、また重要ではない。しかしながら、一般に、その温度は、−20〜200℃、好ましくは0〜130℃、特に好ましくは60〜120℃の範囲にあるが、これによって如何なる制限も意図されない。
【0058】
重合は、溶剤を用いて又は溶剤を用いずに行うことができる。溶剤という用語は、本願では広く解釈されるべきである。好適な溶剤の実例は、炭化水素溶剤、例えば芳香族溶剤(芳香族C
6〜C
15−炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、C
9〜C
15−アルキルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルトルエン及びそれらの混合物)、鉱油(例えばパラフィン油、ナフテン油、溶媒精製オイル、イソパラフィン含有の高粘度指数オイル及び水素化分解された高粘度指数オイル)並びに合成の炭化水素潤滑剤(例えばポリ−α−オレフィン合成潤滑剤);ケトン溶剤、例えばブタノン及びメチルエチルケトン;並びにエステル溶剤、例えば脂肪オイル及び合成エステル潤滑剤(例えばジ−C
4〜C
12−アルキル−C
4〜C
12−ジカルボキシレート、例えばジオクチルセバケート及びジオクチルアジペート、ポリオール ポリ−C
4〜C
12−アルカノエート、例えばペンタエリトリトール テトラカプロエート;及びトリ−C
4〜C
12−ヒドロカルビルホスフェート、例えばトリ−2−エチルヘキシルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート及びトリクレシルホスフェート)である。
【0059】
好ましい一実施態様によれば、前記ポリマーは、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV又はグループVのオイル中での重合によって得ることができる。
【0060】
本発明によるポリマーは、好ましくは、潤滑油組成物中で使用することができる。潤滑油組成物は、少なくとも1種類の潤滑油を含む。潤滑油は、特に鉱油、合成油及び天然油を含む。
【0061】
好ましくは、潤滑油は、APIグループI、II又はIIIからの鉱油を基礎とするものである。本発明の好ましい一実施形態によれば、元素分析によって測定されて、少なくとも90質量%の飽和分と、高くても約0.03%の硫黄を含む鉱油が使用される。特に、APIグループII又はグループIIIのオイルが好ましい。
【0062】
鉱油は、自体公知であり、市販されている。前記鉱油は、一般に、鉱油又は原油から蒸留及び/又は精錬と、場合により更なる精製及び仕上げプロセスとによって得られる。その鉱油という用語は、特に原油もしくは鉱油の高沸点側の留分を含む。一般に、鉱油の沸点は、5000Paにおいて、200℃を上回り、好ましくは300℃を上回る。頁岩油の低温炭化、瀝青炭のコークス化、空気の排除下での褐炭の蒸留及びまた瀝青炭もしくは褐炭の水素化による製造は、同様に可能である。従って、鉱油は、その由来に応じて、様々な割合の芳香族の、環式の、分枝鎖状の及び直鎖状の炭化水素を有する。一般に、原油もしくは鉱油中のパラフィン系フラクション、ナフテン系フラクション及び芳香族系フラクションの間で相違点が示され、そこでは、パラフィン系フラクションという用語は、より長鎖の又は高分岐のイソアルカン類を示し、ナフテン系フラクションは、シクロアルカン類を示す。
【0063】
鉱油の分析及び種々の組成を有する鉱油のリストに関する有用な情報は、例えばウールマンの工業化学事典(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry),第5CD−ROM版、1997年において、"lubricants and related products"に見つけることができる。
【0064】
合成油は、他の物質の中でも、有機エステル、例えばジエステル及びポリエステル、例えばカルボン酸エステル及びリン酸エステル;有機エーテル、例えばシリコーン油、ペルフルオロアルキルエーテル及びポリアルキレングリコール;並びに合成炭化水素、特にポリオレフィン及びガス・ツー・リキッドオイル(GTL)であり、そのうち、ポリα−オレフィン(PAO)及びGTLオイルが好ましい。それらは、大抵は、鉱油よりは幾らか高価であるが、それらは、性能の点で利点を有する。
【0065】
特に、ポリα−オレフィン(PAO)が好ましい。これらの化合物は、アルケン類、特に3〜12個の炭素原子を有するアルケン類、例えばプロペン、ヘキセン−1、オクテン−1及びドデセン−1の重合によって得られる。好ましいポリα−オレフィンは、200〜10000g/モルの、より好ましくは500〜5000g/モルの数平均分子量を有する。
【0066】
更に、GTLオイルは、ベース流体として有用である。これらの合成油は、天然ガス又は他のガス状の炭化水素を、ガソリンもしくはディーゼル燃料などのより長鎖の炭化水素へと変換する特別な精錬法によって得られる。
【0067】
天然油は、動物油又は植物油、例えば牛脚油又はホホバ油である。
【0068】
説明のために、5つのAPIクラスのベースオイルタイプ(API:米国石油協会)に参照がなされる。
【0069】
米国石油協会(API)のベースオイル分類
【表1】
【0070】
ベースオイルは、好ましくは、100℃において、1〜15mm
2/sの、特に2〜5mm
2/sの動的粘度(以下、KVと呼称する)を有する。
【0071】
ベースオイルは、好ましくは、少なくとも80の、特に少なくとも100の、好ましくは少なくとも120の粘度指数を有する。特に、ベースオイルの粘度指数は、180以下、特に150以下、より好ましくは140以下であってよい。ベースオイルは、好ましくは、−5℃以下の、特に−10℃以下の、より特に−15℃以下の曇り点(JIS K2269で定義される)を有し、低温粘度挙動の観点で、低温において殆どワックス堆積を示さない。
【0072】
これらの潤滑油は、混合物としても使用でき、多くの場合に商業的に入手可能である。潤滑油組成物中の本発明のポリマーの濃度は、該組成物の全質量に対して、好ましくは0.5〜40質量%の範囲、より好ましくは1〜23質量%の範囲である。潤滑剤中のベースオイルの量は、通常は、少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも75質量%である。
【0073】
前記の成分に加えて、潤滑油組成物は、更なる添加剤を含んでよい。
【0074】
これらの添加剤は、酸化防止剤、腐食抑制剤、抑泡剤、耐摩耗性成分、染料、染料安定剤、界面活性剤、流動点降下剤及び/又はDI添加剤を含む。
【0075】
更に、これらの添加剤は、更なる粘度指数向上剤、分散助剤及び/又は摩擦改変剤を含み、それらは、より好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレートを基礎としている。これらのポリアルキル(メタ)アクリレートは、本発明のポリマーとは異なり、かつ紹介的に議論された先行技術に特に記載されており、かつこれらのポリマーは、分散性モノマーを有してよい。粘度向上剤として有用な好ましいポリマー及びそれらの製造方法は、出願番号US10/212784を有するUSPTOで2002年8月3日に出願されたUS2003/0104955と、出願番号JP2007−172420を有する日本国特許庁で2007年6月29日に出願されたJP2008−031459Aに開示されており、その両方は、参照をもって開示されたものとする。
【0076】
好ましい潤滑油組成物は、ASTM D 445に従って40℃で測定された、10〜120mm
2/sの範囲の、より好ましくは22〜100mm
2/sの範囲の粘度を有する。
【0077】
本発明の特定の一態様においては、好ましい潤滑油組成物は、ASTM D 2270に従って測定されて、100〜400の範囲の、より好ましくは150〜350の範囲の、最も好ましくは200〜300の範囲の粘度指数を有する。
【0078】
本発明の潤滑剤組成物は、例えばエンジンオイル(エンジン、例えば輸送手段用のエンジン及び工作機械用のエンジンで使用されるオイル);ギヤオイル;トランスミッション潤滑油、特に自動変速機流体(ATF)、例えば有段式自動変速機流体及び連続可変トランスミッション流体(CVTF);並びにトラクションオイル、ショックアブソーバーオイル、パワーステアリングオイル、圧媒油などとして使用することができる。
【0079】
本発明を、実施例を参考に以下に詳細に説明するが、これは如何なる制限を意図するものではない。全ての量は、特に記載がない限り、質量%で示される。
【0080】
実施例1〜5
凝縮器とガラス製撹拌機を備えた4つ口のガラス製丸底フラスコに、375gの1もしくは複数のモノマーと、2.8gのn−DDMと、30gのCalumet社製のHydrocal 3145とを初充填した。該反応混合物を、110℃に加熱し、そして0.94gのt−ブチルペルオクトエートと60.0gのHydrocal 3145とのフリーラジカル開始剤を、前記のフラスコに165分にわたって添加した。前記のフリーラジカル開始剤の10%を、最初の60分間で添加し、引き続き20%を後続の60分で添加し、そして残りを最後の45分で添加した。該反応混合物を、開始剤混合物を完全に添加した後に60分間保持し、次いでHydrocal 3145で希釈することで、所望のポリマー濃度を得た。
【0081】
実施例によるモノマー混合物の組成は、第1表に示されている。
【0082】
略語のリスト:
MMA=メチルメタクリレート
L125MA=Sasol社製のLIAL 125から製造されたアルキルメタクリレート;そのアルキル残基は、直鎖状及び分枝鎖状の残基の混合物である(約12質量%が分枝鎖状C
12;約11.3質量%が直鎖状C
12;約17.3質量%が分枝鎖状C
13;約13.5質量%が直鎖状C
13;約15.7質量%が分枝鎖状C
14;約11.9質量%が直鎖状C
14;約9.8質量%が分枝鎖状C
15;約6.2質量%が直鎖状C
15;2−メチル分岐は、約14%であり、2−エチル分岐は、約10%であり、2−プロピル分岐は、約10%であり、2−ブチル及びそれより高級の2−アルキル分岐は、約17%である。これらは、直鎖状及び分枝鎖状の残基の合計に対するものである)
L167MA=Sasol社製のLIAL 167から製造されたアルキルメタクリレート;そのアルキル残基は、直鎖状及び分枝鎖状の残基の混合物である(約4.7質量%が直鎖状C
15;約39.5質量%が分枝鎖状C
16;約22.3質量%が直鎖状C
16;約22.4質量%が分枝鎖状C
17;約10.3質量%が直鎖状C
17)
I167MA=Sasol社製のISALCHEM 167から製造されたアルキルメタクリレート;そのアルキル残基は、主に分枝鎖状の残基の混合物である(約1.3質量%が直鎖状C
15;約60.7質量%が分枝鎖状C
16;約1.4質量%が直鎖状C
16;約34.6質量%が分枝鎖状C
17)
A1618MA=Condea社製のAlfol 1618から製造されたステアリルメタクリレート;そのアルキル残基は、主に直鎖状の残基の混合物である(約30質量%が直鎖状C
16;約70質量%が直鎖状C
18)
直鎖状及び分枝鎖状のアルキル残基の割合は、GCによって、GCと
13C−NMR及び
1H−NMRによって測定された。
【0083】
C13スペクトルは、
13Cピークの定量的測定のための慣用のパルスシーケンスを使用して30℃で取得した。定量的な精度を保証するために、パルス間の少なくとも10秒の緩和遅延を使用し、そしてパルススキームを、核オーバーハウザー効果の抑制のために適用した。好適なS/N比を得るために、少なくとも10000回のスキャンを取得した。
【0084】
13C−NMRデータセットを、S/N比の改善のために、3Hzの線広がりを使用することによって処理した。
13C−NMRシグナルを、2D−NMR実験と
13C−シフトインクリメント計算(例えばMestreLab Research社製のソフトウェアパッケージのMestreNova)を使用して割り当てた。以下の
13C−シグナル面積の1つの積分を用いて、異性体分布を計算する:
【表2】
【0085】
ピーク面積を、平均ピーク面積の合計を100%にセットすることによって規格化することで、分枝鎖状アルカノールの分布をパーセントで取得した。化学シフトが、観察された核から4結合離れた範囲での構造変化に感受性であるという事実によるものである。結果は、プロトン−NMRによってクロス確認した。特に、分岐度は、□−メチル(0.88ppm)のピーク面積の、□−CH
2(3.3〜3.7ppm)のピーク面積に対する比率によって確認した。
【0086】
【表3】
【0087】
MMAは、Evonik Roehm GmbHから取得した。長鎖メタクリレートは、MMAと好適なアルコールとのエステル交換によって得られた。L125MAの製造のために、Sasol North America Inc.社から、商品名Lial 125として入手できる、平均分子量207g/モルを有するアルコールの混合物を使用した。L167MAの製造のために、Sasol North America Inc.社から、商品名Lial 167として入手できる、平均分子量246g/モルを有するアルコールの混合物を使用した。I167MAの製造のために、Sasol North America Inc.社から、商品名Isalchem 167として入手できる、平均分子量242g/モルを有するアルコールの混合物を使用した。A1618MAの製造のために、Condea社から、商品名Alfol 1618として入手できる、平均分子量354g/モルを有するアルコールの混合物を使用した。
【0088】
更に、質量平均分子量は、35℃でテトラヒドロフラン中でのGPCによって、広い分子量標準から構成されるポリメチル(メタ)アクリレート較正曲線を使用して測定した。2種のWaters Styragel 5Eカラムの組み合わせを使用した。
【0089】
第1表:特許請求の範囲の本発明の特質を示す粘度指数向上剤組成物
【表4】
【0090】
実施例1〜5により得られるポリマーを、潤滑油組成物中で評価した。ベースオイルとして、SK Energy Co.,Ltd.社から、商品名Yubase 3として商業的に入手可能な、動的粘度3.02mm
2/s(100℃)を有するグループ3オイルを使用した。比較のために、潤滑油組成物を、約6.8のKV100に調整した。粘度指数向上剤の量と、得られた結果を、第2表に示す。
【0091】
粘度指数は、ASTM D 2270に従って測定した。100℃での動的粘度(KV100)は、ASTM D 445に従って測定した。剪断安定性は、100℃での動的粘度の損失のパーセンテージとして示され、それは、40分の超音波剪断によってASTM D 2603に従って測定した。
【0092】
第2表:粘度指数向上剤(VII)の性能
【表5】
【0093】
それらの実施例は、本発明のポリマーが優れた特性をもたらすことを明らかに示している。これの特性は、高い粘度指数と、低い処理速度と、高い剪断安定性と、優れた低温性能とを含む。