特許第5748844号(P5748844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5748844イオン交換機能を有するフッ素含有イオノマー複合体、その調製方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748844
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】イオン交換機能を有するフッ素含有イオノマー複合体、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20150625BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150625BHJP
   D06M 14/10 20060101ALI20150625BHJP
   D06M 15/31 20060101ALI20150625BHJP
   D06M 15/353 20060101ALI20150625BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20150625BHJP
   B01J 47/12 20060101ALI20150625BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20150625BHJP
   D06M 101/22 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   C08J5/22 102
   C08J5/22CEW
   H01M8/02 P
   D06M14/10
   D06M15/31
   D06M15/353
   B01J39/20
   B01J47/12 110
   H01B1/12 Z
   D06M101:22
【請求項の数】22
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-514513(P2013-514513)
(86)(22)【出願日】2010年6月18日
(65)【公表番号】特表2013-538878(P2013-538878A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】CN2010000896
(87)【国際公開番号】WO2011156938
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2013年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】512152488
【氏名又は名称】シャンドン・フアシャ・シェンゾウ・ニュー・マテリアル・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジュンケ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ピン
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ヘン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュン
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−513219(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101733005(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101733016(CN,A)
【文献】 中国特許第100580987(CN,C)
【文献】 特開平01−224009(JP,A)
【文献】 特開昭58−037030(JP,A)
【文献】 特開平07−268031(JP,A)
【文献】 特表2004−526000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02, 5/12− 5/22
B01J 39/00− 49/02
D06M 13/00− 15/715
H01M 8/00− 8/02, 8/08− 8/24
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00,301/00
D06M 101/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料であって、
(a)前記複合材料は、イオン交換機能を有する1つ以上のイオン交換樹脂と、強化材料として機能するフッ素含有ポリマー繊維とからなり;
(b)前記フッ素含有ポリマー繊維の表面を、ニトリル基含有官能性モノマーを用いて、グラフト改質し;
(c)前記複合材料を構成する前記イオン交換膜の少なくとも1つはニトリル基を含み、前記ニトリル基は、前記フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされた官能基と共に、トリアジン環化学的架橋構造を形成する、複合材料。
【請求項2】
前記ニトリル基含有官能性モノマーは、以下の一般式(I)に示す物質の1つ以上の組み合わせであり、
【化1】
ここで、e1〜3であり;
前記ニトリル基含有イオン交換樹脂は、以下の一般式(II)及び/又は(III)に示す樹脂の1つ以上の組み合わせであり、
【化2】
ここで、e1〜3、n=0又は1、m=2〜5、x、y=3〜15の整数であり;
【化3】
ここで、a、b、c=3〜15の整数、a’、b’、c’=1〜3の整数、j=0〜3である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記複合材料は更に、以下の一般式(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)に示す樹脂の1つ以上の組み合わせを含んでよく、
【化4】
ここで、x=3〜15、n=0〜2、p=2〜5であり;
【化5】
ここで、c、d=3〜15の整数、c’、d’=1〜3の整数であり;
【化6】
ここで、f、g、h=3〜15の整数、f’、g’、h’=1〜3の整数、i=0〜3、M、M’=H、K、Na又はNH4である、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記一般式(II)、(III)、(IV)、(V)及び(VI)に示す樹脂のイオン交換能力は、0.80〜1.60mmol/gであり、数平均分子量は150000〜450000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記フッ素含有ポリマー繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維及び/又はフルオロカーボンポリマー繊維から選択される1つ以上の繊維であり;
前記繊維の直径は0.005〜50μmであり、長さは0.05〜3μmでありフッ素含有ポリマー繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.5〜50:100である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記直径は0.01〜20μmである、請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
前記フッ素含有ポリマー繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.5〜20:100である、請求項5または6に記載の複合材料。
【請求項8】
前記複合材料は、高原子価金属化合物を含み、前記高原子価金属化合物によって、前記イオン交換樹脂の酸性交換基の一部は、その間に物理結合を形成し、トリアジン環を形成するために使用される触媒でもある前記高原子価金属化合物の一部は、前記トリアジン環と錯化結合を形成する、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
物理結合を形成する前記高原子価金属化合物は、以下の元素:W、Zr、Ir、Y、Mn、Ru、Ce、V、Zn、Ti及びLaの化合物から選択される1つ以上の組み合わせである、請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
高原子価金属イオン化合物は、前記金属元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩若しくはこれらの複塩から選択される1つの化合物であり;又は、前記金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態のシクロデキストリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、ニトロゲン含有クラウンエーテル若しくはニトロゲン含有複素環、EDTA、DMF、若しくはDMSO複合体から選択される1つの化合物であり;又は、前記金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態の水酸化物から選択される1つの化合物であり;又は、前記金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の酸化物から選択される1つの化合物であり、これはペロブスカイト構造を有し、化合物CexTi(1-x)2(x=0.25〜0.4)、Ca0.6La0.27TiO3、La(l-y)CeyMnO3(y=0.1〜0.4)及びLa0.7Ce0.15Ca0.15MnO3を含む、請求項8または9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記高原子価金属化合物の添加量は、前記樹脂の0.0001〜5重量%である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項12】
前記高原子価金属化合物の添加量は、前記樹脂の0.001〜1重量%である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の前記複合材料の調製方法であって、
前記方法は、以下のステップを含む:微量の強プロトン酸及び/又はルイス酸を、調合中に触媒として材料に添加するステップであって、これによって、少なくとも1つのニトリル基含有イオン交換樹脂のニトリル基及び官能性モノマーのニトリル基が、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトした官能性モノマーのニトリル基と、トリアジン環架橋構造を形成する、前記複合材料の調製方法。
【請求項14】
前記プロトン酸はH2SO4、CF3SO3H又はH3PO4から選択され;前記ルイス酸は、ZnCl2、FeCl3、AlCl3、有機スズ、有機アンチモン又は有機テルルから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ルイス酸及び/又はプロトン酸の添加量は通常、前記樹脂の重量の0.1〜1%である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
以下のステップ:
(1)高原子価金属化合物の溶液、酸性架橋触媒、前記イオン交換樹脂の分散溶液及びニトリル基含有繊維を混合し、次に、流し込み、テープ成形、スクリーンプリントプロセス、噴霧又は含浸プロセスを行った後、プレート上に湿潤な膜を形成すること;
(2)前記湿潤な膜を30〜300℃の熱処理に供し、トリアジン環架橋構造を有する前記複合材料を得ること、
を含み;
前記溶液の流し込み、テープ成形、スクリーンプリント、噴霧、含浸又はその他のプロセスで使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド、アセトン、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール及び/又はグリセロールからから選択される1つ以上の溶媒であり;
調製の条件は、以下の条件:前記樹脂分散溶液の濃度は1〜80%、前記熱処理の温度は30〜300℃、及び前記熱処理の時間は1〜600分、を含む、請求項1から12に記載の前記複合材料の調製方法
【請求項17】
前記調製条件は:前記樹脂分散溶液の濃度は5〜40%、前記熱処理の温度は120〜250℃、及び前記熱処理の時間は5〜200分、を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記高原子価金属化合物の添加量は、前記樹脂の重量の0.0001〜5重量%、である、請求項16または17に記載の方法
【請求項19】
前記高原子価金属化合物の添加量は、前記樹脂の重量の0.001〜1重量%である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸性架橋触媒は、ルイス酸及び/又はプロトン酸であり、その添加量は前記樹脂の重量の0.1〜1重量%である、請求項16−19のいずれか1項に記載の前記複合材料の調製方法。
【請求項21】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の前記複合材料から作製される、イオン交換膜。
【請求項22】
燃料電池のイオン交換膜の調製における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の前記複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー複合材料の分野に属し、官能基グラフト繊維とイオン交換樹脂を合成することで調製される、全フッ素置換されたイオン交換複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜燃料電池は、電気化学的方法で化学エネルギを電気エネルギに直接変換する発電デバイスであり、最も好ましいクリーンかつ効率的な発電技術と考えられている。プロトン交換膜(PEM)は、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の主たる材料である。
【0003】
現在使用されている全フッ素置換スルホン酸プロトン交換膜は、比較的低い温度(80℃)及び高い湿度において、良好なプロトン伝導性及び化学的安定性を有するが、これらは、サイズ安定性の低さ、機械的強度の低さ、化学的安定性の低さ等、多くの欠点を有する。この膜の水分吸収は異なる湿度下では異なるため、水分吸収によるサイズの膨張が変化し、異なる作業条件下で膜が変化するに従って膜のサイズが変化する。従って、このような行程が繰り返されることにより、最終的にプロトン交換膜に機械的損傷が生じる。その上、燃料電池の陽極反応によって、水酸ラジカルや過酸化水素等、高い酸化力を有する多くの物質が放出される。これらの物質は、膜形成樹脂の分子中の非フッ素基を攻撃し、これは膜の化学的分解、損傷及び発泡につながる。更に、全フッ素置換スルホン酸プロトン交換膜の作動温度が90℃以上である場合、膜の急速な脱水によって、膜のプロトン伝導率は劇的に低下し、従って、燃料電池の効率は有意に低下する。しかし、高い動作温度によって、一酸化炭素に対する燃料電池触媒の耐性を大幅に向上させることができる。更に、現在使用されている全フッ素置換スルホン酸プロトン交換膜は全て、ある程度の水素又はメタノール透過性を有し、特に直接メタノール燃料電池では、メタノール透過性は極めて高く、これは致命的な問題となる。従って、燃料電池業界は、全フッ素置換スルホン酸プロトン交換膜の強度、寸法安定性、及び高温でのプロトン伝導性を改善する方法、並びに作用媒体等の透過性を低下させる方法に関する主要な課題に直面している。
【0004】
現在、これらの問題を解決するための多くの方法が提案されている。例えば、特許文献1では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、全フッ素置換スルホン酸樹脂に染み込ませることによって調製した膜を使用して、膜の強度を増強する。しかし、PTFE材料は比較的柔らかいため、PTFE含有多孔性媒体は十分な補強効果を有さず、従って、上述の問題を解決することができない。W.L.Gore Co.,Ltdが開発したGore-Selectシリーズの複合体膜液は、ナフィオンイオン伝導製液に多孔性テフロン(登録商標)を充填する方法を使用している(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。このような膜は、高いプロトン伝導性及び比較的高いサイズ安定性を有するが、テフロンの高温における大きなクリープ量も有し、これが性能の劣化につながる。また、特許文献5は、ポリオレフィンをプロトン交換樹脂に充填することによって調製した多孔性媒体を用いる別の方法を提供する。しかし、このような多孔性媒体は十分な化学的耐久性がなく、従って、長期安定性の面で問題がある。更に、プロトン伝導性のない多孔性媒体を追加することにより、プロトン伝導経路の数が減少し、膜のプロトン交換能力が低下する。
【0005】
更に、特許文献6は、原繊維形状のフッ化炭素ポリマー強化材料によって強化されたイオン交換膜であるフッ化樹脂繊維を用いる、別の強化方法を提供する。しかし、この方法では、比較的多量の強化材料を添加する必要があり、この場合、膜の加工がより難しくなる傾向があり、また、膜の電気抵抗も同様に上昇し得る。
【0006】
特許文献7は、グラスファイバ不織布技術を応用して調製されたグラスファイバ膜を用いて、ナフィオン膜を強化する技術を開示している。この特許は、シリカ及びその他の酸化物にも言及している。しかし、グラスファイバ不織布はこの特許に必ず使用しなければならない基材であり、これにより、この強化材の応用範囲は大いに制限される。
【0007】
特許文献8は、全フッ素置換スルホン酸樹脂をポリテトラフルオロエチレン繊維で強化する技術を開示しており、この技術は、全フッ素置換スルホニル樹脂及びポリテトラフルオロエチレン繊維を混合、押出、及び変形して、繊維強化全フッ素置換スルホン酸樹脂を生成することを含む。この技術は、変形プロセスに時間がかかるため、連続的に適用することができない。
【0008】
しかし、上記技術では、多孔性膜又は繊維を、樹脂と混合するだけである。膜又は繊維の性質は膜形成樹脂と大きく異なるため、また、これらは時には相互に排他的であるため、膜形成分子と強化物質の間に間隙が容易に形成されてしまい、時には、強化される微小孔性膜のいくつかの孔を樹脂で充填できないことがある。従って、このような膜は、しばしば高い気体透過性を有する。燃料電池の作動中、この高い透過性は、エネルギのロス及び過熱による電池の損傷につながる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公第H5-075835号
【特許文献2】米国特許第5547551号
【特許文献3】米国特許第US5635041号
【特許文献4】米国特許第US5599614号
【特許文献5】特公第H7-068377号
【特許文献6】特開第H6-231779号
【特許文献7】欧州特許第0875524B1号
【特許文献8】米国特許第6692858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、イオン交換樹脂とフッ素含有ポリマー繊維を複合させて調製される複合材料を提供することであり、イオン交換樹脂のニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされるニトリル基と、3トリアジン環架橋構造を形成し、これにより、上記複合材料に高い機械的特性、気密性、並びに高いイオン交換能力及び伝導性を付与する。本発明の別の目的は、上記複合材料の調製方法を提供することである。本発明の別の目的は、上述の複合材料から調製されるイオン交換膜を提供することである。本発明の別の目的は、上述のイオン交換膜を備える燃料電池を提供することである。本発明の別の目的は、上述の複合材料の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上述の目的は、以下の技術的スキームを使用することにより達成できる。
【0012】
1つの態様によると、本発明は、イオン交換機能を有する1つ以上のイオン交換樹脂と、強化材料として機能するフッ素含有ポリマー繊維とからなる複合材料を提供し、ここで、フッ素含有ポリマー繊維の表面を、フッ素含有官能性モノマーを用いて、グラフトすることによって改質し;複合材料を形成するイオン交換膜において、イオン交換樹脂の少なくとも1つはニトリル基を含み、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされた官能性モノマーのニトリル基と共に、トリアジン環架橋構造を形成する。
【0013】
好ましくは、上記ニトリル基含有官能性モノマーは、以下の一般式(I)に示す物質から選択される、1つ以上の組み合わせである。
【化1】
ここで、e≒1〜3である。
【0014】
上記ニトリル基含有イオン交換樹脂は、以下の一般式(II)及び/又は(III)に示す樹脂から選択される、1つ以上の組み合わせである。
【化2】
ここで、e≒1〜3、n=0又は1、m=2〜5、x、y=3〜15の整数である。
【化3】
ここで、a、b、c=3〜15の整数、a’、b’、c’=1〜3の整数、j=0〜3である。
【0015】
より好ましくは、上記複合材料はまた、以下の一般式(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)に示す樹脂から選択される、1つ以上の組み合わせを含む。
【化4】
ここで、x=3〜15、n=0〜2、p=2〜5である。
【化5】
ここで、c、d=3〜15の整数、c’、d’=1〜3の整数である。
【化6】
ここで、f、g、h=3〜15の整数、f’、g’、h’=1〜3の整数、i=0〜3、M、M’=H、K、Na又はNH4である。
【0016】
一般式II、III、IV、V及びVIに示す樹脂のイオン交換能力は、0.80〜1.60mmol/gであり、数平均分子量は150000〜450000である。
【0017】
好ましくは、上記フッ素含有ポリマー繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維及び/又はフルオロカーボンポリマー繊維から選択される1つ以上の繊維であり;繊維の直径は0.005〜50μmであり、長さは0.05〜3μmであり;好ましい直径は0.01〜20μmであり;フッ素含有ポリマー繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.5〜50:100、好ましくは0.5〜20:100である。
【0018】
好ましくは、上述の複合材料は、高原子価金属化合物を更に含有してよく、イオン交換樹脂の酸性交換基の一部は、高原子価金属化合物によって、その間に物理結合を形成する。その一方、トリアジン環を形成するために使用される触媒でもある高原子価金属化合物の一部は、トリアジン環と錯化結合を形成し;好ましくは、物理結合を形成する上記高原子価金属化合物は、以下の元素:W、Zr、Ir、Y、Mn、Ru、Ce、V、Zn、Ti及びLaの化合物から選択される1つ以上の組み合わせであり;より好ましくは、高原子価金属イオン化合物は、これら金属元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩若しくは複塩から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態のシクロデキストリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、ニトロゲン含有クラウンエーテル若しくはニトロゲン含有複素環、EDTA、DMF、若しくはDMSO複合体から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態の水酸化物から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の酸化物から選択される1つの化合物であり、これはペロブスカイト構造を有し、化合物CexTi(1-x)2(x=0.25〜0.4)、Ca0.6La0.27TiO3、La(l-y)CeyMnO3(y=0.1〜0.4)及びLa0.7Ce0.15Ca0.15MnO3を含むがこれらに限定されない。高原子価金属化合物の添加量は、樹脂の0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%である。
【0019】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料の調製方法を提供し、この方法は、以下を含む:微量の強プロトン酸及び/又はルイス酸を、調合中に触媒として材料に添加することであって、これによって、少なくとも1つのニトリル基含有イオン交換樹脂のニトリル基及び官能性モノマーのニトリル基が、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトした官能性モノマーのニトリル基と、トリアジン環架橋構造を形成することができ;好ましくは、上記プロトン酸はH2SO4、CF3SO3H又はH3PO4から選択され;上記ルイス酸は、ZnCl2、FeCl3、AlCl3、有機スズ、有機アンチモン又は有機テルルから選択される。トリアジン環架橋構造を形成するための方法については、米国特許第3933767号及び欧州特許第1464671A1号を参照のこと。ルイス酸及びプロトン酸の添加量は通常、樹脂の重量の0.1〜1%である。
【0020】
好ましくは、高原子価金属化合物を含有する複合材料の調製方法は、以下のステップ:
(1)高原子価金属化合物の溶液、酸性架橋触媒、イオン交換樹脂の分散溶液及びニトリル基含有繊維を混合し、次に、流し込み、テープ成形、スクリーンプリントプロセス、噴霧又は含浸プロセスを行った後、プレート上に湿潤な膜を形成すること;
(2)湿潤な膜を30〜300℃の熱処理に供し、トリアジン環架橋構造を有する複合材料を得ること;
を含む。
【0021】
溶液の流し込み、テープ成形、スクリーンプリント、噴霧、含浸又はその他のプロセスで使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド、アセトン、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール及び/又はグリセロールからから選択される1つ以上の溶媒であり;調製の条件は、以下の条件:樹脂分散溶液の濃度は1〜80%、熱処理の温度は30〜300℃、及び熱処理時間は1〜600分、を含み;好ましい調製条件:樹脂分散溶液の濃度は5〜40%、熱処理の温度は120〜250℃、及び熱処理時間は5〜200分を含みここで、高原子価金属化合物の添加量は、樹脂の重量の0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%であり;酸性架橋触媒は、好ましくはルイス酸及び/又はプロトン酸であり、その添加量は樹脂の重量の0.1〜1重量%である。
【0022】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料から作製されるイオン交換膜を提供する。
【0023】
更なる態様では、本発明は、燃料電池のイオン交換膜の調製における、上述の複合材料の使用を提供する。
【0024】
本発明は、従来技術と比較して、以下の利点を有する:
本発明の複合材料を形成するイオン交換樹脂の少なくとも1つは、ニトリル基を含有し、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされたニトリル基と、トリアジン環架橋構造を形成することができる。形成されたトリアジン環架橋構造によって、上述の複合材料は、緊密な一体構造となる。好ましい実施形態では、高原子価金属は、イオン交換樹脂の酸性基と、架橋構造の物理結合を形成し、その一方で、トリアジン環は、高原子価金属と、錯化結合も形成する。従って、本発明の複合材料から作製されるイオン交換膜は、高いイオン交換能力だけでなく、良好な機械的強度、気密性及び安定性を有する。通常の複合材料から作製されるイオン交換膜と比較して、本発明の複合材料から作製されるイオン交換膜は、伝導性、引張強度、水素透過流、及び寸法変化率等において、通常のイオン交換膜より有利である。
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
燃料電池で使用する全フッ素置換スルホン酸イオン交換膜は、以下の要件を満たす必要がある:良好な安定性、高い伝導性及び高い機械的強度。一般に、イオン交換能力が向上すると、全フッ素置換ポリマーの等価重量値は減少し、(等価重量値(EW値)が減少する場合、イオン交換能力IEC=1000/EWである)膜の強度もそれと同時に低下する。そして、膜の気体透過性も同様に上昇し、これは燃料電池に極めて深刻な影響をもたらす。従って、高いイオン交換能力並びに良好な機械的強度、気密性及び安定性を有する膜を調製することは、燃料電池、特に自動車及びその他の車両に使用される燃料電池に応用するために重要である。
【0027】
従来技術の欠陥を克服するために、本発明は、複合材料及びその調製方法を提供する。本発明で提供される複合材料は、強化材料として繊維を使用し、繊維にイオン交換樹脂をただ付着させるだけの従来の結合様式及び方法を変更し、代わりに、繊維とイオン交換樹脂の間にトリアジン環架橋を形成する。従って、得られる複合材料は、極めて高い機械的特性及び気密性を有する。
【0028】
本発明は、以下を特徴とする複合イオン材料を提供する:
(a)上記複合材料は、イオン交換機能を有する1つ以上のイオン交換樹脂と、強化材料として機能するフッ素含有ポリマー繊維とからなる;
(b)上記フッ素含有ポリマー繊維の表面を、フッ素含有官能性モノマーを用いて、グラフトすることによって改質し;
(c)複合材料を形成するイオン交換膜の少なくとも1つはニトリル基を含み、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされた官能基と共に、トリアジン環化学的架橋構造を形成する(Xを参照)。
【化7】
【0029】
強化材料としての繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維及び/又はフルオロカーボンポリマー繊維から選択される1つ以上の繊維であり;繊維の直径は0.005〜50μmであり、長さは0.05〜3μmであり;好ましい直径は0.01〜20μmであり;繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.01〜50:100である。
【0030】
繊維にグラフトされるニトリル基含有官能性モノマーは、以下の一般式(I)に示す1つ以上の物質である。
【化8】
ここで、e≒1〜3である。
【0031】
グラフト方法は、以下から選択される1つ以上の方法である:繊維は、熱、光、電子放射、プラズマ、X線、ラジカル開始剤等の手段でグラフトモノマーと反応する。具体的な調製方法が多くの公刊物に開示されており、例えば、「Journal of Tianjin Polytechnic University, 2008, Vol. 35. Iss. 5」の33ページに、フッ化ポリビニリデン(PVDF)ナノ繊維をプラズマでグラフト改質する方法が開示されている。
【0032】
本発明で提供される複合材料において、ニトリル基を含有イオン交換樹脂は、以下の一般式(II)及び/又は(III)に示す反復構造を含むポリマーの1つ以上の組み合わせであってよい。
【化9】
ここで、e≒1〜3、n=0又は1、m=2〜5、x、y=3〜15の整数である。
【化10】
ここで、a、b、c=3〜15の整数、a’、b’、及びc’=1〜3の整数、j=0〜3である。
【0033】
本発明で使用されるイオン交換樹脂は、以下の一般式式(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)に示す反復構造を含むポリマーの1つ以上の組み合わせであってよい。
【化11】
ここで、x=3〜15、n=0〜2、p=2〜5である。
【化12】
ここで、c、d=3〜15の整数、c’、d’=1〜3の整数である。
【化13】
ここで、f、g、h=3〜15の整数、f’、g’、h’=1〜3の整数、M、M’=H、K、Na又はNH4である。
【0034】
上述の樹脂のイオン交換能力は、0.80〜1.60mmol/gであり、数平均分子量は、150000〜450000である。
【0035】
式IV、V又はVIに示す全フッ素置換スルホン酸樹脂は、使用に際して、式II又はIIIに示す全フッ素置換スルホン酸樹脂と混合しなければならない。
【0036】
イオン交換樹脂のニトリル基と繊維のニトリル基との間に、トリアジン環架橋構造を生成する方法は、以下を含む:
微量の強プロトン酸又はルイス酸を、膜の調製時に触媒として複合材料に添加すること;ここで、プロトン酸はH2SO4、CF3SO3H又はH3PO4から選択され;ルイス酸は、ZnCl2、FeCl3、AlCl3、有機スズ、有機アンチモン又は有機テルルから選択される。トリアジン環架橋構造を形成するための方法については、米国特許第3933767号及び欧州特許第1464671A1号を参照のこと。ルイス酸及びプロトン酸の添加量は、樹脂の重量の0.1〜1%である。
【0037】
本発明で提供される複合材料は、高原子価金属化合物を更に含んでよく、これにより、イオン交換樹脂の酸性交換基の一部は、その間に物理結合を形成する。その一方で、トリアジン環架橋構造を形成するために使用される触媒でもある高原子価金属化合物の一部は、トリアジン環と錯化結合を形成することができる。
【0038】
物理結合を形成する上記高原子価金属化合物は、以下の元素:W、Zr、Ir、Y、Mn、Ru、Ce、V、Zn、Ti及びLaの化合物から選択される1つ以上の組み合わせである。
【0039】
上記高原子価金属イオン化合物は、これら金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩又はこれらの複塩からなる群から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態のシクロデキストリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、ニトロゲン含有クラウンエーテル又はニトロゲン含有複素環、EDTA、DMF又はDMSO複合体から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の水酸化物から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の酸化物から選択され、これはペロブスカイト構造を有し、以下の化合物CexTi(1-x)2(x=0.25〜0.4)、Ca0.6La0.27TiO3、La(l-y)CeyMnO3(y=0.1〜0.4)及びLa0.7Ce0.15Ca0.15MnO3を含むがこれらに限定されない。高原子価金属化合物の添加量は、0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%である。
【0040】
高原子価金属イオン化合物を含有する複合材料の調製方法は、以下のステップ:
(1)イオン交換樹脂の分散溶液を調製し、高原子価金属化合物の溶液、酸性架橋触媒、上述の樹脂の分散溶液及びニトリル基グラフト繊維を混合し、次に、流し込み、テープ成形、スクリーンプリントプロセス、噴霧又は含浸プロセスを行った後、プレート上に湿潤な膜を形成すること;
(2)湿潤な膜を30〜250℃の熱処理に供すること;
(3)処理の後で、繊維と架橋した膜形成樹脂を含む複合材料を得ること;
を含む。
【0041】
溶液の流し込み、テープ成形、スクリーンプリント、噴霧、含浸又はその他のプロセスで使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド、アセトン、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール及び/又はグリセロールからなる群から選択される1つ以上であり;樹脂分散溶液の濃度は1〜80%、好ましくは5〜40%であり;熱処理の温度は30〜300℃、好ましくは120〜250℃であり;熱処理時間は1〜600分、好ましくは5〜200分である。
【0042】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料から作製されるイオン交換膜を提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、上述のイオン交換膜を備える燃料電池を提供する。
【0044】
更なる態様では、本発明は、燃料電池のイオン交換膜の調製における、上述の複合材料の使用を提供する。
【0045】
本発明の有利な効果は、以下を含む:
本発明は、グラフト改質された繊維とイオン交換樹脂をトリアジン環を介して結合することで得られる、イオン交換複合材料を提供し、この複合材料は、優れた化学的安定性、機械的特性及び気密性を有する。使用する繊維は膜形成樹脂とトリアジン環架橋構造を形成するので、好ましい実施形態では、膜形成分子の酸性基の部分は、高原子価金属によってその間に物理結合を更に形成することができ、その一方で、トリアジン環も、高原子価金属と錯化結合を形成し、従って、開示する複合材料は、従来技術においてイオン交換樹脂を繊維と単に混合するのと異なり、緊密な一体構造である。本発明で提供されるイオン交換膜は、従来の繊維複合物膜が不十分な気密性しか有さず、イオン交換樹脂が繊維から容易に分離してしまう等の欠点を克服する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明を限定するために用いるものではない実施形態と組み合わせて、本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0047】
直径30μm、長さ3mmの全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維(即ちDuPont製テフロンFEP)を、プラズマ発生器内に入れ、処理ガスとしてArを用いて1Paの圧力でプラズマを発生させた。得られたプラズマを、以下のモノマー
【化14】
(ここで、e=1である。)
でグラフトし、続いて、微量のトリフェニルスズを有する25%の全フッ素置換スルホン酸樹脂、1%の硝酸セリウム(III)を含有するエタノール−水溶液(エタノールと水の質量比は1:1)に混合した(繊維と樹脂の質量比は1:100)。全フッ素置換スルホン酸樹脂の構造式は、以下の通りである。(樹脂の合成は、中国特許第200910230762.x号に見ることができる。)
【化15】
(ここで、e=1、n=1、m=2、x=13、y=11、数平均分子量=160000である。)
【0048】
得られた溶液を、テープ成形によって膜に成形した。湿潤な膜を、190℃で20分処理し、厚さ60μmの架橋複合物膜を得た。
【実施例2】
【0049】
以下の構造式を有する樹脂A
【化16】
(x=5、n=0、p=2、イオン交換能力=1.35mmol/g、数平均分子量=230000)
及び、以下の構造式を有する樹脂B
【化17】
(e=2、n=1、m=3、x=10、y=5、イオン交換能力=0.90mmol/g、数平均分子量=250000)
を含む(樹脂Aと樹脂Bの質量比は4:1)15%の混合全フッ素置換スルホン酸樹脂溶液を、微量のトリフェニルスズ、0.2%の硝酸マンガン(II)、及び、実施例1の改質方法に従って以下の式(I)の物質
【化18】
(ここで、e=2である。)
で改質されたポリテトラフルオロエチレン繊維(直径0.05μm、長さ5μm)を含有するプロパノール−水溶液に溶解させた(改質された繊維と樹脂の質量比は1:40)。この溶液を、噴霧によって膜に調製した。続いて、湿潤な膜のサンプルを、オーブン内で200℃で60秒乾燥させ、厚さ20μmの複合物膜を得た。
【実施例3】
【0050】
質量濃度10%のイソプロパノール-プロパノール-水溶液を、以下の反復単位構造を含む全フッ素置換スルホン酸樹脂A
【化19】
(x=6、n=0、p=4、イオン交換能力=1.25mmol/g、数平均分子量=280000)
と、以下の反復単位構造を含むパーフルオロスルホン酸樹脂B
【化20】
(e=2、n=1、m=3、x=10、y=5、イオン交換能力=0.90mmol/g、数平均分子量=250000)
で調製した(AとBの質量比は5:1)。この溶液は更に、5%のLa(III)-DMF複合体、微量のトリフェニルスズ、及び、実施例1の改質方法に従って、以下の式
【化21】
(ここで、e=3である。)
の物質でグラフトしたパーフルオロプロピルビニルエーテル繊維(直径0.005μm、長さ0.07μm、繊維と樹脂の質量比は25:100)を含む(直径0.005μmのパーフルオロプロピルビニルエーテル繊維は、静電スピンによって得ることができる(米国特許第20090032475号))。この溶液を、スクリーンプリントによって膜に調製し、続いて、240℃で10分加熱し、厚さ11μmの膜を得た。
【実施例4】
【0051】
実施例1に記載の改質方法に従って、以下の式
【化22】
(ここで、e=3である。)
及び
【化23】
(ここで、e=1である。)
の物質(2つのグラフトの質量比は1:1)でグラフトした、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維(Teflon FPE、直径15μm、長さ2μm)を、微量のトリフェニルスズ及び0.05%のCe-DMF複合体を更に含む5%全フッ素置換スルホン酸樹脂のDMF溶液に分散させた(繊維と樹脂の質量比は0.5:5)。全フッ素置換スルホン酸は、以下の反復構造式
【化24】
を有し、ここでe=3、n=1、m=4、x=7、y=11、イオン交換能力=0.8mmol/g、数平均分子量=310000である。分散溶液を、テープ成形によって膜に調製した。次に、湿潤な膜のサンプルを、オーブン内で100℃で20秒乾燥させ、続いて、190℃で20分処理して、厚さ31μmの複合物膜を得た。
【実施例5】
【0052】
実施例1の改質方法に従って、以下の式
【化25】
(ここで、e=2である。)
【化26】
(ここで、e=1である。)
の物質両方(2つのモノマーの質量比は1:1)でグラフトした、フッ化ポリビニリデン繊維(Shanghai 3Fから購入、直径3μm、長さ50〜70μm)を、30%の全フッ素置換スルホン酸樹脂と、少量のトリフェニルスズを更に含む0.01%の硝酸亜鉛とを含有するDMSO溶液に分散させた(繊維と全フッ素置換スルホン酸樹脂の質量比は5:100)。ここで、全フッ素置換スルホン酸樹脂は、以下の構造式
【化27】
を有し、ここでa=9、b=6、c=3、a’=b’=c’=1、j=1、数平均分子量=170000である。分散溶液を、噴霧によって膜に調製した。次に、湿潤な膜のサンプルを、オーブン内で250℃で20分乾燥させ、厚さ50μmの複合物膜を得た。
【実施例6】
【0053】
実施例5のものと同じ2つのニトリル基含有モノマー(質量比は2:1)でグラフトされた、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維(直径30μm、長さ3mm)を、20%の全フッ素置換スルホン酸樹脂、2%の炭酸マンガン(II)、微量のトリフェニルスズを含有するプロパノール-水溶液に加えた(繊維と樹脂の質量比は2:100)。全フッ素置換スルホン酸樹脂は、以下の構造式
【化28】
を有し、ここでa=11、b=7、c=5、a’=b’=c’=1、j=1、数平均分子量=170000である。この溶液を、噴霧によって膜に調製した。次に、得られた湿潤な膜のサンプルを、オーブン内で180℃で20分乾燥させ、厚さ50μmの複合物膜を得た。
【実施例7】
【0054】
以下の式
【化29】
(ここで、e=3である。)
及び
【化30】
(ここで、e=1である。)
の物質(2つのグラフトの質量比は1:1)でグラフトした、ポリテトラフルオロエチレン繊維(直径0.5μm、長さ1mm)を、30%の混合全フッ素置換スルホン酸樹脂、5%のシクロデキストリンバナジウム、微量のテトラフェニルアンチモンを含有するNMP溶液に分散及び浸漬させた。ここで、混合全フッ素置換スルホン酸樹脂は、以下の構造式を有する全フッ素置換スルホン酸樹脂A
【化31】
(c=7、d=5、c’=d’=1、数平均分子量=210000)
と、以下の構造式を有する全フッ素置換スルホン酸樹脂B
【化32】
(e=2、n=1、m=3、x=9、y=10、数平均分子量=170000)
を含む(AとBの質量比は1:2)。この分散溶液を、テープ成形によって膜に調製した。次に、湿潤な膜のサンプルを、オーブンで230℃で20分乾燥させて、厚さ25μmの複合物膜を得た。
【実施例8】
【0055】
以下の式
【化33】
(ここで、e=3である。)
の物質でグラフトしたポリテトラフルオロエチレン繊維(直径20μm、長さ3mm)を、10%の混合全フッ素置換スルホン酸樹脂、10%の硫酸マンガン、微量のトリフェニルスズを含有するメタノール−水溶液に分散させた(繊維と樹脂の質量比は0.5:100)。ここで、全フッ素置換スルホン酸樹脂Aは、以下の構造式
【化34】
(a=9、b=7、c=5、a’=b’=c’=1、j=1、数平均分子量=170000)
を有し、全フッ素置換スルホン酸樹脂Bは、以下の構造式
【化35】
(x=5、n=0、p=4、イオン交換能力=1.20mmol/g、数平均分子量=250000)
を有する。この分散溶液を、テープ成形によって膜に調製した。次に、膜を150℃で2分間の熱処理に供し、厚さ50μmの複合物膜を得た。
【実施例9】
【0056】
直径30μm、長さ3mmの全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維(即ちDuPont製テフロンFEP)を、プラズマ発生器内に入れ、処理ガスとしてArを用いて1Paの圧力でプラズマを発生させた。得られたプラズマを、以下のグラフトモノマー
【化36】
(ここで、e=1である。)
でグラフトし、続いて、微量のトリフェニルスズを有する25%の全フッ素置換スルホン酸樹脂、1%の硝酸セリウム(III)を含有するエタノール−水溶液(エタノールと水の質量比は1:1)に混合した(繊維と樹脂の質量比は0.5:100)。ここで、全フッ素置換スルホン酸樹脂の構造式は、以下の通りである。(樹脂の合成は、中国特許第200910230762.x号に見ることができる。)
【化37】
(ここで、e=1、n=1、m=2、x=13、y=11、数平均分子量=160000である。)
この溶液を、テープ成形によって膜に成形した。得られた湿潤な膜を、190℃で20分処理し、厚さ60μmの架橋複合物膜を得た。
【実施例10】
【0057】
以下の構造式
【化38】
(x=5、n=0、p=4、イオン交換能力=1.2mmol/g、数平均分子量=180000)
を有する15%の全フッ素置換スルホン酸樹脂と、直径0.01μm、長さ120μmの(全質量の)5%のポリテトラフルオロエチレン繊維を含有する、プロパノール-水溶液を、スクリーンプリントによって、厚さ20μmの従来の複合物イオン交換膜に調製した。
【実施例11】
【0058】
この実施例は、実施例1−10で調製した複合物膜の性能を比較するために採用した。
【0059】
全ての膜の性能の特性決定を行い、結果を表1に示した。表1から、95℃における伝導性、引張強度、水素透過流、寸法変化率、及びその他の性能について、本発明の複合物膜は通常の複合物膜より優れていると結論付けることができる。伝導性の値を決定するための試験条件は、飽和湿度下でT=95℃、及び2日間乾燥装置中で乾燥させてT=25℃であり;引張強度を試験するための方法は、国際標準法(GB/T20042.3-2009)であり;水素透過流を試験するための方法は、電気化学的方法であった(Electrochemical and Solid-State Letters、10、5、B101−B104、2007参照)。
【表1】