【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上述の目的は、以下の技術的スキームを使用することにより達成できる。
【0012】
1つの態様によると、本発明は、イオン交換機能を有する1つ以上のイオン交換樹脂と、強化材料として機能するフッ素含有ポリマー繊維とからなる複合材料を提供し、ここで、フッ素含有ポリマー繊維の表面を、フッ素含有官能性モノマーを用いて、グラフトすることによって改質し;複合材料を形成するイオン交換膜において、イオン交換樹脂の少なくとも1つはニトリル基を含み、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされた官能性モノマーのニトリル基と共に、トリアジン環架橋構造を形成する。
【0013】
好ましくは、上記ニトリル基含有官能性モノマーは、以下の一般式(I)に示す物質から選択される、1つ以上の組み合わせである。
【化1】
ここで、e≒1〜3である。
【0014】
上記ニトリル基含有イオン交換樹脂は、以下の一般式(II)及び/又は(III)に示す樹脂から選択される、1つ以上の組み合わせである。
【化2】
ここで、e≒1〜3、n=0又は1、m=2〜5、x、y=3〜15の整数である。
【化3】
ここで、a、b、c=3〜15の整数、a’、b’、c’=1〜3の整数、j=0〜3である。
【0015】
より好ましくは、上記複合材料はまた、以下の一般式(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)に示す樹脂から選択される、1つ以上の組み合わせを含む。
【化4】
ここで、x=3〜15、n=0〜2、p=2〜5である。
【化5】
ここで、c、d=3〜15の整数、c’、d’=1〜3の整数である。
【化6】
ここで、f、g、h=3〜15の整数、f’、g’、h’=1〜3の整数、i=0〜3、M、M’=H、K、Na又はNH
4である。
【0016】
一般式II、III、IV、V及びVIに示す樹脂のイオン交換能力は、0.80〜1.60mmol/gであり、数平均分子量は150000〜450000である。
【0017】
好ましくは、上記フッ素含有ポリマー繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維及び/又はフルオロカーボンポリマー繊維から選択される1つ以上の繊維であり;繊維の直径は0.005〜50μmであり、長さは0.05〜3μmであり;好ましい直径は0.01〜20μmであり;フッ素含有ポリマー繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.5〜50:100、好ましくは0.5〜20:100である。
【0018】
好ましくは、上述の複合材料は、高原子価金属化合物を更に含有してよく、イオン交換樹脂の酸性交換基の一部は、高原子価金属化合物によって、その間に物理結合を形成する。その一方、トリアジン環を形成するために使用される触媒でもある高原子価金属化合物の一部は、トリアジン環と錯化結合を形成し;好ましくは、物理結合を形成する上記高原子価金属化合物は、以下の元素:W、Zr、Ir、Y、Mn、Ru、Ce、V、Zn、Ti及びLaの化合物から選択される1つ以上の組み合わせであり;より好ましくは、高原子価金属イオン化合物は、これら金属元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩若しくは複塩から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態のシクロデキストリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、ニトロゲン含有クラウンエーテル若しくはニトロゲン含有複素環、EDTA、DMF、若しくはDMSO複合体から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態若しくは中間原子価状態の水酸化物から選択される1つの化合物であり;又は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の酸化物から選択される1つの化合物であり、これはペロブスカイト構造を有し、化合物Ce
xTi
(1-x)O
2(x=0.25〜0.4)、Ca
0.6La
0.27TiO
3、La
(l-y)Ce
yMnO
3(y=0.1〜0.4)及びLa
0.7Ce
0.15Ca
0.15MnO
3を含むがこれらに限定されない。高原子価金属化合物の添加量は、樹脂の0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%である。
【0019】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料の調製方法を提供し、この方法は、以下を含む:微量の強プロトン酸及び/又はルイス酸を、調合中に触媒として材料に添加することであって、これによって、少なくとも1つのニトリル基含有イオン交換樹脂のニトリル基及び官能性モノマーのニトリル基が、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトした官能性モノマーのニトリル基と、トリアジン環架橋構造を形成することができ;好ましくは、上記プロトン酸はH
2SO
4、CF
3SO
3H又はH
3PO
4から選択され;上記ルイス酸は、ZnCl
2、FeCl
3、AlCl
3、有機スズ、有機アンチモン又は有機テルルから選択される。トリアジン環架橋構造を形成するための方法については、米国特許第3933767号及び欧州特許第1464671A1号を参照のこと。ルイス酸及びプロトン酸の添加量は通常、樹脂の重量の0.1〜1%である。
【0020】
好ましくは、高原子価金属化合物を含有する複合材料の調製方法は、以下のステップ:
(1)高原子価金属化合物の溶液、酸性架橋触媒、イオン交換樹脂の分散溶液及びニトリル基含有繊維を混合し、次に、流し込み、テープ成形、スクリーンプリントプロセス、噴霧又は含浸プロセスを行った後、プレート上に湿潤な膜を形成すること;
(2)湿潤な膜を30〜300℃の熱処理に供し、トリアジン環架橋構造を有する複合材料を得ること;
を含む。
【0021】
溶液の流し込み、テープ成形、スクリーンプリント、噴霧、含浸又はその他のプロセスで使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド、アセトン、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール及び/又はグリセロールからから選択される1つ以上の溶媒であり;調製の条件は、以下の条件:樹脂分散溶液の濃度は1〜80%、熱処理の温度は30〜300℃、及び熱処理時間は1〜600分、を含み;好ましい調製条件:樹脂分散溶液の濃度は5〜40%、熱処理の温度は120〜250℃、及び熱処理時間は5〜200分を含みここで、高原子価金属化合物の添加量は、樹脂の重量の0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%であり;酸性架橋触媒は、好ましくはルイス酸及び/又はプロトン酸であり、その添加量は樹脂の重量の0.1〜1重量%である。
【0022】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料から作製されるイオン交換膜を提供する。
【0023】
更なる態様では、本発明は、燃料電池のイオン交換膜の調製における、上述の複合材料の使用を提供する。
【0024】
本発明は、従来技術と比較して、以下の利点を有する:
本発明の複合材料を形成するイオン交換樹脂の少なくとも1つは、ニトリル基を含有し、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされたニトリル基と、トリアジン環架橋構造を形成することができる。形成されたトリアジン環架橋構造によって、上述の複合材料は、緊密な一体構造となる。好ましい実施形態では、高原子価金属は、イオン交換樹脂の酸性基と、架橋構造の物理結合を形成し、その一方で、トリアジン環は、高原子価金属と、錯化結合も形成する。従って、本発明の複合材料から作製されるイオン交換膜は、高いイオン交換能力だけでなく、良好な機械的強度、気密性及び安定性を有する。通常の複合材料から作製されるイオン交換膜と比較して、本発明の複合材料から作製されるイオン交換膜は、伝導性、引張強度、水素透過流、及び寸法変化率等において、通常のイオン交換膜より有利である。
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
燃料電池で使用する全フッ素置換スルホン酸イオン交換膜は、以下の要件を満たす必要がある:良好な安定性、高い伝導性及び高い機械的強度。一般に、イオン交換能力が向上すると、全フッ素置換ポリマーの等価重量値は減少し、(等価重量値(EW値)が減少する場合、イオン交換能力IEC=1000/EWである)膜の強度もそれと同時に低下する。そして、膜の気体透過性も同様に上昇し、これは燃料電池に極めて深刻な影響をもたらす。従って、高いイオン交換能力並びに良好な機械的強度、気密性及び安定性を有する膜を調製することは、燃料電池、特に自動車及びその他の車両に使用される燃料電池に応用するために重要である。
【0027】
従来技術の欠陥を克服するために、本発明は、複合材料及びその調製方法を提供する。本発明で提供される複合材料は、強化材料として繊維を使用し、繊維にイオン交換樹脂をただ付着させるだけの従来の結合様式及び方法を変更し、代わりに、繊維とイオン交換樹脂の間にトリアジン環架橋を形成する。従って、得られる複合材料は、極めて高い機械的特性及び気密性を有する。
【0028】
本発明は、以下を特徴とする複合イオン材料を提供する:
(a)上記複合材料は、イオン交換機能を有する1つ以上のイオン交換樹脂と、強化材料として機能するフッ素含有ポリマー繊維とからなる;
(b)上記フッ素含有ポリマー繊維の表面を、フッ素含有官能性モノマーを用いて、グラフトすることによって改質し;
(c)複合材料を形成するイオン交換膜の少なくとも1つはニトリル基を含み、このニトリル基は、フッ素含有ポリマー繊維にグラフトされた官能基と共に、トリアジン環化学的架橋構造を形成する(Xを参照)。
【化7】
【0029】
強化材料としての繊維は、ポリテトラフルオロエチレン繊維、全フッ素置換ポリエチレンプロピレン繊維、パーフルオロプロピルビニルエーテル繊維及び/又はフルオロカーボンポリマー繊維から選択される1つ以上の繊維であり;繊維の直径は0.005〜50μmであり、長さは0.05〜3μmであり;好ましい直径は0.01〜20μmであり;繊維とイオン交換樹脂の質量比は0.01〜50:100である。
【0030】
繊維にグラフトされるニトリル基含有官能性モノマーは、以下の一般式(I)に示す1つ以上の物質である。
【化8】
ここで、e≒1〜3である。
【0031】
グラフト方法は、以下から選択される1つ以上の方法である:繊維は、熱、光、電子放射、プラズマ、X線、ラジカル開始剤等の手段でグラフトモノマーと反応する。具体的な調製方法が多くの公刊物に開示されており、例えば、「Journal of Tianjin Polytechnic University, 2008, Vol. 35. Iss. 5」の33ページに、フッ化ポリビニリデン(PVDF)ナノ繊維をプラズマでグラフト改質する方法が開示されている。
【0032】
本発明で提供される複合材料において、ニトリル基を含有イオン交換樹脂は、以下の一般式(II)及び/又は(III)に示す反復構造を含むポリマーの1つ以上の組み合わせであってよい。
【化9】
ここで、e≒1〜3、n=0又は1、m=2〜5、x、y=3〜15の整数である。
【化10】
ここで、a、b、c=3〜15の整数、a’、b’、及びc’=1〜3の整数、j=0〜3である。
【0033】
本発明で使用されるイオン交換樹脂は、以下の一般式式(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)に示す反復構造を含むポリマーの1つ以上の組み合わせであってよい。
【化11】
ここで、x=3〜15、n=0〜2、p=2〜5である。
【化12】
ここで、c、d=3〜15の整数、c’、d’=1〜3の整数である。
【化13】
ここで、f、g、h=3〜15の整数、f’、g’、h’=1〜3の整数、M、M’=H、K、Na又はNH
4である。
【0034】
上述の樹脂のイオン交換能力は、0.80〜1.60mmol/gであり、数平均分子量は、150000〜450000である。
【0035】
式IV、V又はVIに示す全フッ素置換スルホン酸樹脂は、使用に際して、式II又はIIIに示す全フッ素置換スルホン酸樹脂と混合しなければならない。
【0036】
イオン交換樹脂のニトリル基と繊維のニトリル基との間に、トリアジン環架橋構造を生成する方法は、以下を含む:
微量の強プロトン酸又はルイス酸を、膜の調製時に触媒として複合材料に添加すること;ここで、プロトン酸はH
2SO
4、CF
3SO
3H又はH
3PO
4から選択され;ルイス酸は、ZnCl
2、FeCl
3、AlCl
3、有機スズ、有機アンチモン又は有機テルルから選択される。トリアジン環架橋構造を形成するための方法については、米国特許第3933767号及び欧州特許第1464671A1号を参照のこと。ルイス酸及びプロトン酸の添加量は、樹脂の重量の0.1〜1%である。
【0037】
本発明で提供される複合材料は、高原子価金属化合物を更に含んでよく、これにより、イオン交換樹脂の酸性交換基の一部は、その間に物理結合を形成する。その一方で、トリアジン環架橋構造を形成するために使用される触媒でもある高原子価金属化合物の一部は、トリアジン環と錯化結合を形成することができる。
【0038】
物理結合を形成する上記高原子価金属化合物は、以下の元素:W、Zr、Ir、Y、Mn、Ru、Ce、V、Zn、Ti及びLaの化合物から選択される1つ以上の組み合わせである。
【0039】
上記高原子価金属イオン化合物は、これら金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩又はこれらの複塩からなる群から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態のシクロデキストリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、ニトロゲン含有クラウンエーテル又はニトロゲン含有複素環、EDTA、DMF又はDMSO複合体から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の水酸化物から選択される。上記高原子価金属イオン化合物は、これらの金属元素の、最も原子価が高い状態又は中間原子価状態の酸化物から選択され、これはペロブスカイト構造を有し、以下の化合物Ce
xTi
(1-x)O
2(x=0.25〜0.4)、Ca
0.6La
0.27TiO
3、La
(l-y)Ce
yMnO
3(y=0.1〜0.4)及びLa
0.7Ce
0.15Ca
0.15MnO
3を含むがこれらに限定されない。高原子価金属化合物の添加量は、0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜1重量%である。
【0040】
高原子価金属イオン化合物を含有する複合材料の調製方法は、以下のステップ:
(1)イオン交換樹脂の分散溶液を調製し、高原子価金属化合物の溶液、酸性架橋触媒、上述の樹脂の分散溶液及びニトリル基グラフト繊維を混合し、次に、流し込み、テープ成形、スクリーンプリントプロセス、噴霧又は含浸プロセスを行った後、プレート上に湿潤な膜を形成すること;
(2)湿潤な膜を30〜250℃の熱処理に供すること;
(3)処理の後で、繊維と架橋した膜形成樹脂を含む複合材料を得ること;
を含む。
【0041】
溶液の流し込み、テープ成形、スクリーンプリント、噴霧、含浸又はその他のプロセスで使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミド、アセトン、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール及び/又はグリセロールからなる群から選択される1つ以上であり;樹脂分散溶液の濃度は1〜80%、好ましくは5〜40%であり;熱処理の温度は30〜300℃、好ましくは120〜250℃であり;熱処理時間は1〜600分、好ましくは5〜200分である。
【0042】
別の態様では、本発明は、上述の複合材料から作製されるイオン交換膜を提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、上述のイオン交換膜を備える燃料電池を提供する。
【0044】
更なる態様では、本発明は、燃料電池のイオン交換膜の調製における、上述の複合材料の使用を提供する。
【0045】
本発明の有利な効果は、以下を含む:
本発明は、グラフト改質された繊維とイオン交換樹脂をトリアジン環を介して結合することで得られる、イオン交換複合材料を提供し、この複合材料は、優れた化学的安定性、機械的特性及び気密性を有する。使用する繊維は膜形成樹脂とトリアジン環架橋構造を形成するので、好ましい実施形態では、膜形成分子の酸性基の部分は、高原子価金属によってその間に物理結合を更に形成することができ、その一方で、トリアジン環も、高原子価金属と錯化結合を形成し、従って、開示する複合材料は、従来技術においてイオン交換樹脂を繊維と単に混合するのと異なり、緊密な一体構造である。本発明で提供されるイオン交換膜は、従来の繊維複合物膜が不十分な気密性しか有さず、イオン交換樹脂が繊維から容易に分離してしまう等の欠点を克服する。