(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  金属を製造する一つの方法として電解精製があるが、例えば、銅の電解精製を行う場合には、一般的に、電解液中に添加剤が添加される。添加剤は、陰極板における銅の析出状態改善等のために用いられる。例えば、有機物系の添加剤としては、ニカワ、ゼラチン、リグニン(パルプ廃液)などのように保護コロイドを形成するような添加剤と、チオ尿素やアロインのような官能基を有する有機物などが共用される。一般に、析出の際の活性化分極は添加剤によって増加し、分極を大きくすることで均一電着性が向上するので、析出金属は緻密で表面が均一なものを得ることができる。このような添加剤は、電解を続けると次第に消耗していくので時々添加してやる必要がある。これまでは、添加剤は通常1日使用分を溶解槽に投入し、約50℃に保温溶解して操業中の電解液内に添加しており、添加剤の添加、溶解、送液はバッチ運転で行われていた。
【0003】
  電解精製によって電気銅を生産する場合、例えば、チオ尿素は、電気銅表面に付着することによってその効果を発揮するが、チオ尿素に含まれる硫黄分(S分)は電気銅の品質上問題となるため、添加剤の濃度管理は重要な生産ファクターとなっている。また、添加剤を溶解する際に添加剤溶液の温度を上げることで添加剤が分解され、効果が低減してしまうことが知られている。そのため、電気銅の生産効率を上げるために予め分解量を考慮して最適な添加剤濃度となるように調整して操業を行っていた。また、ニカワやゼラチンはタンパク質を主成分としており、酸性・高温の電解液中では分解が進みやすいので同様に予め分解量を考慮して添加量が調整されていた。
【0004】
  電解液中の添加剤の濃度を測定する方法については、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1はニカワ濃度測定方法を開示しており、電解液試料液を電解セル内で定電流によって電解して電解セルのカソード電位変化率を求め、このカソード電位変化率を予め設定した検量線と比較することによりニカワ濃度を測定し、電解液中のニカワ濃度を迅速に測定できるようにしている。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  しかし、予め分解量を考慮して電解液に対する添加剤の添加量を多くすると、電解液中の添加剤濃度が上昇し、電圧上昇による電気銅生産時の電力原単位を悪化させるという問題があった。また、添加剤がチオ尿素の場合には、電解液への添加量が増加すると電気銅中のS(硫黄)品位の上昇を招き、製品にならなくなってしまう。そのため、添加剤の分解量を最小限に抑えて操業を行うためには、従来のバッチ運転ではなく、添加剤を連続的に少量ずつ溶解槽に投入して溶解させ、その添加剤溶液を電解液中に連続的に送液する方法が好ましい。
【0007】
  このように、操業中の電解液中の添加剤濃度は製造される金属の品位に大きく影響することから添加剤の濃度管理を適切に行う必要があるが、操業中の電解液の温度の変化や陰極板と陽極板のショートの発生等があった場合には添加剤の分解・消費が促進されて添加剤濃度が大きく変化する。従って、電解液中の添加剤濃度が大きく変化したような場合には、操業中の電解液の温度上昇や陰極板と陽極板のショートの発生等の異常があることが容易に推察される。
【0008】
  そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みなされたもので、操業中の電解槽へ供給するための補充用の電解液に添加する添加剤溶液の添加剤の濃度を適宜調整することにより操業中の電解液中の添加剤濃度の安定化を図ると共に添加剤濃度の大幅な変化があった場合には操業の異常と判断することにより異常箇所の迅速な発見を促して操業の適切な管理を行うことが可能な金属の製造方法を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0009】
  上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、電解精製によって金属を製造する方法であって、添加剤が添加された補充用の電解液を電解槽内へ連続的に供給する供給口付近の電解液と、電解槽から抜き出された排液槽内の電解液についてそれぞれ
所定時間ごとにサンプリングを行って添加剤の濃度の測定を行い、
排液槽内の電解液中の添加剤の濃度が所定の設定値を下回る場合には添加剤を溶解するための溶解槽へ添加剤を供給するフィーダ装置の動作を早くして添加剤の供給量を増やし、供給口付近の電解液中の添加剤の濃度が所定の設定値を上回る場合にはフィーダ装置の動作を遅くして添加剤の供給量を減らし、排液槽内の電解液中の添加剤の濃度及び供給口付近の電解液中の添加剤の濃度が所定の設定値の範囲内である場合にはフィーダ装置からの添加剤の供給量をそのまま維持することにより、電解槽から排液槽へ回収された電解液中の添加剤の濃度が所定の濃度を下回わることなく、且つ、供給口付近における電解液中の添加剤の濃度が所定の濃度の範囲内となるように必要な量の添加剤を連続的に切り出して添加剤溶液の濃度を調整することによって前記添加剤の分解を抑制しつつ前記電解槽へ供給する前の補充用の前記電解液に添加する添加剤の量を調整することを特徴とする金属の製造方法を提供する。
【0010】
  上記課題を解決するために請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の金属の製造方法において、
供給口付近における電解液中の添加剤の濃度と、排液槽へ回収された電解液中の添加剤濃度との差が所定の範囲内となるように監視し、該添加剤の濃度の差が所定の範囲を逸脱した場合には操業の異常と判断することを特徴とする。
【0011】
  上記課題を解決するために請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載の金属の製造方法において、添加剤がチオ尿素であり、電解槽から排液槽へ回収された電解液中のチオ尿素の濃度が2.0ppmを下回わらないように、
供給口付近における電解液中のチオ尿素の濃度が2.5〜5.0ppmの範囲内となるように電解槽へ供給する前の補充用の電解液に添加するチオ尿素の量を調整することを特徴とする。
【0012】
  上記課題を解決するために請求項4に記載の本発明は、請求項2に記載の金属の製造方法において、添加剤がチオ尿素であり、
供給口付近における電解液中のチオ尿素の濃度と排液槽へ回収された電解液中のチオ尿素の濃度との差が0.5〜3.0ppmとなるように監視し、該添加剤の濃度の差が
その範囲を逸脱した場合には操業の異常と判断することを特徴とする。
【0013】
  上記課題を解決するために請求項5に記載の本発明は、請求項3又は4に記載の金属の製造方法において、電解槽から排液槽へ回収された電解液中のチオ尿素の濃度が2.0ppmに近くなるように電解槽へ供給する前の補充用の電解液に添加するチオ尿素の量を調整することを特徴とする。
 
【発明の効果】
【0014】
  本発明に係る金属の製造方法によれば、電解槽から排液槽へ回収された電解液中の添加剤の濃度が所定の濃度を下回わらないように、添加剤が添加された補充用の電解液を電解槽内へ連続的に供給する
供給口付近における電解液中の添加剤の濃度が所定の濃度の範囲内となるように電解槽へ供給する前の補充用の電解液に添加する添加剤の量を調整すること
としたので電解精製中の電解液中に必要な量だけの添加剤を添加することができ、添加剤濃度の安定化を図ることができるという効果がある。
【0015】
  また、
供給口付近における電解液中の添加剤の濃度と、排液槽へ回収された電解液中の添加剤濃度との差が所定の範囲内となるように監視し、添加剤の濃度の差が所定の範囲を逸脱した場合には操業の異常と判断することとしたので、電解液の温度上昇や陰極板と陽極板のショートの発生等の異常箇所の迅速な発見を促して操業の適切な管理を行うことができるという効果がある。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0017】
  初めに、本発明に係る金属の製造方法を実施するための金属の製造装置について説明した後、本発明に係る金属の製造方法の好ましい一実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明に係る金属の製造方法を実施するための装置の一実施形態のブロック図である。
 
【0018】
[金属の製造装置の構成]
  電解精製によって各種の金属が生産されるが、本実施形態では電解精製によって銅を製造する場合を例にして説明する。初めに、
図1に示す銅の製造装置である電解精製装置1は、概略として、電解液10が満たされた電解槽11と、電解槽11から電解液10を定量的に回収する排液槽12と、補充用の新たな電解液10を電解槽11に定量的に供給する供給タンク13と、添加剤の一つである塩酸140を貯留する塩酸槽14と、供給タンク13に供給するための電解液10を貯留する電解液供給槽15を備えると共に、さらに、添加剤溶解装置2及び添加剤溶液供給装置3を備えて構成されている。また、排液槽12へ回収された電解液10を供給タンク13へ移送する配管16aの途中にはポンプ17aが配設され、塩酸槽14に貯えられた塩酸140を供給タンク13に移送する配管16bの途中にはポンプ17bが配設され、電解液供給槽15に貯えられた新鮮な電解液10を供給タンク13に移送する配管16cの途中にはポンプ17cが配設され、供給タンク13内に貯えられた添加剤が添加された電解液10を電解槽11に移送する配管16dにはポンプ17dが配設されている。
 
【0019】
  電解槽11には、陽極となる粗銅を鋳込んで形成した複数枚のアノード(図示せず)と、電着面に銅を電着させて電気銅を成長させるための複数枚の陰極板5とが所定間隔で交互に浸漬されて配置されている。また、電解槽11には、電解液10が供給タンク13を介して供給されるようになっている。電解液10は電解槽11の長手方向における一方側の端部の下方側に設けられた供給口(図示せず)から供給され、反対側の端部の上方側から回収される。尚、陰極板5は、パーマネントカソード法(PC法)によって電解精製を行う揚合には、ステンレス板が用いられる。そして、添加剤溶解装置2によって電解精製において使用する添加剤の連続的な溶解が行われ、添加剤溶解装置2によって溶解された添加剤溶液200は添加剤溶液供給装置3によって供給タンク13内に貯えられた電解液10中へ連続的に供給される。
 
【0020】
[添加剤溶解装置の構成]
  添加剤溶解装置2は、添加剤を溶解するための溶解槽23と、添加剤を連続的に溶解槽23に投入するための添加剤供給装置である第一のフィーダ装置22aを備えた第一の溶解装置20aと、他の添加剤を連続的に溶解槽23に投入するための添加剤供給装置である第二のフィーダ装置22bを備えた第二の溶解装置20bと、溶解槽23に溶媒を供給するためにバルブ50a及び配管50bによって構成された溶媒供給装置50と、溶解槽23内に貯えられた添加剤溶液200の液面の高さの変化を測定する液面レベル計測装置27と、溶解槽23内の添加剤溶液200の温度を測定する電子温度計28を備えて構成されている。第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22b並びに溶媒供給装置50は制御装置30によってその動作が制御されるようになっていると共に、溶解槽23において調整した添加剤溶液200を供給タンク13へ移送する配管24に設けられたポンプ25を備えている。
図1において配管16a,16b,24は、それぞれ連結された状態で供給タンク13に至るようになっているが、これに限らず、それぞれ独立して別々に供給タンク13に至るようにしてもよい。尚、本実施形態における溶媒は水である。
 
【0021】
  本実施形態では、添加剤としてチオ尿素60aとニカワ60bの2種類を使用すると共に、それらの添加剤を一つの溶解槽23において溶解混合することから添加剤溶解装置2は、第一の溶解装置20aと第二の溶解装置20bの2系統が設けられている。このように、添加剤供給装置2は電解液10中に添加する添加剤の種類に応じて必要な数だけ設ける構成とすることも、或いは、複数の添加剤を予め所定の割合で混合したものを用いることで1つだけ設ける構成とすることもできる。
 
【0022】
  溶解槽23の上面は、上面板23bによって開閉可能に密閉されており、上面板23bには軸流ファン23cが取り付けられている。軸流ファン23cによって溶解槽23内の空間部の空気を外部に排気することで溶解槽23の内部で発生した蒸気を外部に排出すると共に、溶解槽23内部の圧力を後述する投入シュート220a,220bを介して連通された第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22b内の圧力よりも相対的に低くなるようにしている。このように形成することにより、溶解槽23内で発生した蒸気が第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22b内へ至ることによって添加剤を吸湿させ固化或いは劣化することが防止される。特に、チオ尿素60aは吸湿性が高いので、このように構成することで固化を防止してスムーズに溶解を行うことが可能となる。
 
【0023】
  また、溶解槽23の周囲には、蒸気を通すための配管23aが配設されており、溶解槽23に貯えられた添加剤溶液200を熱交換によって所定の温度、例えば50℃、に保温することができるようになっている。尚、配管23aには温水を流通させて熱交換することによって添加剤溶液を保温する構成としてもよいし、冷水を流通させることで添加剤溶液200を冷却することも可能である。
 
【0024】
[添加剤供給装置の構成]
  添加剤を溶解槽23に供給する第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22bは、例えば、株式会社クボタ製「CE−W」型「2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ」を用いて構成することができる。ここで、第一のフィーダ装置22aと第二のフィーダ装置22bはほぼ同じ構成を備えているので、以下、第一のフィーダ装置22aに基づいてその構成を説明する。第一のフィーダ装置22aは、ロスインフィーダとも呼ばれ、概略として
図2に示すように、基台221と、基台221に設置された駆動部222と、駆動部222により内蔵の後述するスクリューが回転駆動されるスクリュー機構223と、スクリュー機構223の上部に配設されて添加剤をスクリュー機構223に供給するホッパ部224と、スクリュー機構223の端部側に送り出された添加剤を排出する排出筒235を備えると共に、排出された添加剤の量を計測するロードセル26aを備えて構成されている。そして、排出筒235には、溶解槽23への添加剤供給路となる投入シュート220aが連結されている。
 
【0025】
  図3はスクリュー機構223のスクリューの詳細を示す図である。
図3に示すように、スクリュー機構223は、外周に螺旋状のスクリュー羽根226が設けられたスクリュー225a,225bを備え、これらが平行配設された状態で駆動部222により回転可能にしてケースに収納められている。スクリュー225a,225bのスクリュー羽根226は、互いに接触しないようにして僅かな隙間をもって設置されている。これにより、必要な量の添加剤が連続的に切り出されて溶解槽23内に供給される。
 
【0026】
  図4はホッパ部224の詳細を示す分解図である。
図4に示すように、ホッパ部224は、スクリュー機構223の上部に設置されると共に添加剤をスクリュー機構223に供給する供給口を下部に有する椀状の供給ホッパ227と、供給ホッパ227内に軸227a,227bによって軸支された状態で配設されると共に駆動部222によって回転駆動されることにより添加剤の固化を防止するために撹拌するアジテータ228と、供給ホッパ227の上面に設置されるガスケット229と、ガスケット229の上面に設置されるクランプ230と、クランプ230の上面に設置される計量ホッパ231と、計量ホッパ231の上面に設置されるガスケット232と、ガスケット232の上面に設置されるクランプ233と、クランプ233の上面に設置される蓋234とを備えて構成されている。添加剤、特にチオ尿素60aは吸湿性が高く固化しやすいので塊化しないようにアジテータ228によって撹拌が行われる。
 
【0027】
  添加剤を溶解槽に案内する投入シュート220aは、途中から斜めに傾斜した傾斜部を備えて形成されると共に、投入シュート220aの排出筒235側の所定箇所には溶媒供給装置50の配管50bから枝分かれした配管50cが連結されて溶媒導入部50dを構成している。投入シュート220aを介して添加剤を溶解槽23へ投入する際に、溶解槽23へ供給する溶媒である水の一部を溶媒導入部50dから供給することによって添加剤を溶解させながら溶解槽23へ投入することができるようになっている。これにより、添加剤が投入シュート220aの内壁に付着した状態となることなくスムーズ且つ確実な添加剤の溶解が行われる。
 
【0028】
  また、投入シュート220aは、
図5に示すように、水平方向へ回動可能とされており、溶解槽23とは別に予備の溶解槽29を設けておくことにより2つの溶解槽23,29を適宜変更して使用することができるようになっている。2つの溶解槽23,29を設けることで溶解槽23のメンテナンスや残渣清掃等を行う際に他方の溶解槽29を使用することで操業を停止することなく連続操業が可能となる。尚、本実施形態では溶解槽の設置数を2つとしたがこれに限らず3槽以上設けてもよい。また、本実施形態においては投入シュート220aの回動は手動で行うようになっているが、電動等によって自動で回動するように構成することもできる。
 
【0029】
  ロードセル26aは、供給ホッパ227から蓋234に至る10個の部材及びホッパ部224に収容された添加剤の重量の計測を行う。すなわち、供給ホッパ227から蓋234に至る10個の部材の総重量Whを予め計測しておき、この重量Whに対して添加剤の貯留に伴う全重量Wtを計測すれば、(Wt−Wh=Wn)の演算によりホッパ部224内の添加剤の重量Wnを測定することができる。
 
【0030】
  さらに、第一の溶解装置20a及び第二の溶解装置20bは、それぞれ第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22bから切り出されて減少した添加剤を補充するための添加剤を貯えておくホッパ21a,21bを備えている。ホッパ21a,21bは、
図6に示すように、添加剤を収容する本体211aと、本体211aの内部に設けられた解砕機211bと、解砕機211bを駆動するモータ211dと、添加剤を第一のフィーダ装置22aへ移送するスクリューコンベア211cを備えている。添加剤であるチオ尿素60aは、吸湿性が高く固まりやすいので、第一のフィーダ装置22aへ移送する前に塊化した添加剤を解砕機211bによって粉砕してからスクリューコンベア211cよって移送するようになっている。尚、ホッパ21a,21bへの添加剤の投入は上部に設けられた上面蓋211eを開いて図示しないフレキシブルコンテナに収容された添加剤を開口部から投入することによって行われる。
 
【0031】
[添加剤溶液供給装置の構成]
  添加剤溶液供給装置3は、添加剤溶解装置2によって溶解した添加剤溶液200を供給タンク13を介して電解液10中へ連続的に供給する装置であり、添加剤溶液200を溶解槽23から供給タンク13へ移送するポンプ25と、ポンプ25を制御する制御装置30によって構成される。尚、制御装置30は、第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22bの制御及び塩酸140を供給タンク13へ移送するポンプ17bの制御も行う。制御装置30は、少なくとも中央処理装置と記憶装置(いずれも図示せず)を備えており、予め記憶装置に記憶させたプログラムに基づいて制御装置30へ送られてくる各種の計測データや測定データを使用して中央処理装置で処理することで各種の制御を実行する。
 
【0032】
  供給タンク13からの電解槽11内への電解液10の供給は、供給タンク13に貯えられた電解液10を一定の流量で電解槽11内へ連続供給することによって行われるが、供給タンク13には、電解液供給槽15に貯留された新たな電解液10と、電解槽10から一定の流量で抜き取られて排液槽12に回収された電解液10と、溶解槽23において溶解された添加剤溶液200と、塩酸槽14に貯留された塩酸140とがそれぞれ混合されて供給用の電解液10として貯留されている。このように、排液槽12に回収された電解液10は循環使用される。そして、制御装置30は、溶解槽23で調整された添加剤溶液200を供給タンク13内に所定の流量で移送するようにポンプ25を制御する。尚、本実施形態では、供給タンク13から電解槽11に供給される電解液10の流量と電解槽11から排液槽12に回収される電解液10の流量はほぼ同じになるように制御装置30によって制御している。
 
【0033】
[本発明に係る金属の製造方法]
  次に、本発明に係る金属の製造方法の好ましい一実施形態について上述した電解精製装置1の動作と共に説明する。
  電解精製による銅の製造において、これまでの操業経験から電解槽11より回収した排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回ると電着異常現象が発生することを確認すると共に、電解液10中のチオ尿素60aの濃度が高まると電気銅中のイオウ(S)濃度が高くなって製品として問題となるが、供給タンク13から電解槽11へ電解液10を供給する供給口付近における電解液10中のチオ尿素60aの濃度が5.0ppmよりも高くならなければ電気銅中のイオウ(S)濃度は問題とならないことを確認している。また、チオ尿素60aは、電解精製中に消費されて減少することから排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回らないようにするためには操業中の電解液10中のチオ尿素60aの濃度は少なくとも2.0ppm以上であることが必要となる。そこで、添加剤のうち電解液10中のチオ尿素60aの濃度を一つの指標として、排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が所定の設定値、本実施形態では2.0ppmを下回わらないように、また、チオ尿素60aが有効に消費されることを考慮して供給タンク13から電解槽11へ電解液10を供給する供給口付近における電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.5〜5.0ppmの範囲となるように添加剤溶液供給装置3によって溶解槽23から供給タンク13への添加剤溶液200の供給を行えば適正な電気銅を得ることができると考えられる。尚、チオ尿素60aの使用量を抑制しつつその効果を有効に発揮させるためには排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度をできるだけ2.0ppmに近くなるように濃度調整することが好ましい。
 
【0034】
  そこで、電解液10を供給タンク13から電解槽11内へ供給する供給口付近の電解液10と、電解槽11から抜き出された排液槽12内の電解液10についてそれぞれ所定時間ごとにサンプリングして電解液10中のチオ尿素60aの濃度の測定を行い、その測定データに基づいて制御装置30が第一の溶解装置20aの第一のフィーダ装置22aの動作を制御することにより添加剤溶液200中のチオ尿素60aの濃度の調整を行うこと可能となる。尚、電解液10中のチオ尿素60aの濃度測定は、所定時間ごとに自動的に行い、その測定データを制御装置30に入力するように構成することも、作業者が所定の時間ごとに濃度の測定を行い、その測定データを制御装置30に入力するように構成することもできる。ここで、「供給口付近の電解液」は、本実施形態では電解槽11の長手方向における一方側の端部の下方側に供給口が設けられているのでその上部の液面の電解液10である。
 
【0035】
  すなわち、排液槽12からサンプリングした電解液10中のチオ尿素60aの濃度が設定値である2.0ppmを下回るような場合には、制御装置30が第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の動作速度を早くして排液槽12の電解液中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回らないように溶解槽23へ供給するチオ尿素60aの供給量を増やす。また、供給口付近でサンプリングした電解液10中のチオ尿素60aの濃度が設定値の上限である5.0ppmを上回るような場合には、制御装置30が第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の動作速度を遅くして供給口付近の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が上限である5.0ppmを上回ることなく2.5〜5.0ppmの範囲内となるように溶解槽23へ供給するチオ尿素60aの供給量を減らす。尚、チオ尿素60aの濃度が条件の範囲内である場合には制御装置30は第一のフィーダ装置22aからの供給量をそのまま維持する。チオ尿素60aの溶解槽23への供給量は第一のフィーダ装置22aに設けられたロードセル26aによって計測され、その計測データは制御装置30に送られる。一方、添加するチオ尿素60aの量に対する必要な水は溶媒供給装置50のバルブ50aの開閉を制御装置30によって制御することによって行われ、図示しない流量計により水の供給量が計測されて、その計測データは制御装置30に送られる。従って、それらの計測データから必要なチオ尿素60aの量を算出することができる。一方、溶解槽23内の液面高さの変化が液面レベル測定器27によって計測されており、溶解槽23内の添加剤溶液200の液面が所定の液面高さ以下になった場合には制御装置30が添加剤溶解装置2を動作させて添加剤溶液200の作成を行い、溶解槽23内の添加剤溶液200の液面が所定の液面高さ以上になった場合には制御装置30は添加剤溶解装置2の動作を停止する。
 
【0036】
  次に、上述した添加剤の濃度調整について銅の製造方法のフローと共に詳細に説明する。
  電解精製装置1の電解槽11には電解液10が満たされており、陽極となるアノード(図示せず)と陰極板5が複数交互に配置されている。そして、供給タンク13には、陰極板5における銅の析出状態改善等のためのチオ尿素60a、ニカワ60b、塩酸140等の添加剤が添加された状態の電解液10が貯えられている。チオ尿素60aとニカワ60bは溶解槽23内で溶解され、添加剤溶液200はポンプ25によって供給タンク13に移送される。陰極板5は図示しない搬入・搬出システムによって所定の数が所定の間隔をもって連続的に電解槽11内に搬入される。そして、アノードと陰極板5の間に所定の直流電圧を印加することによって銅の電解精製が行われ、陰極板5の表面に電気銅が電着する。電気銅が陰極板5の表面に所定の厚みに電着されると、陰極板5は上記搬入・搬出システムによって電解槽11から搬出され、所定の場所へ移送される。その後、新たな陰極板5が搬入システムによって電解槽11に搬入され、再び上述した電解精製処理が実施される。
 
【0037】
  図7は本発明に係る金属の製造方法の一実施形態のフローチャートである。
図7に示す各ステップは、制御装置30からの指令によって実行される。まず、添加剤であるチオ尿素60aを第一のフィーダ装置22aのホッパ部224に所定量投入すると共に、他の添加剤であるニカワ60bを第二のフィーダ装置22bのホッパ部224に所定量投入する(ステップS1)。添加剤がそれぞれの計量ホッパ231内に貯留された段階でロードセル26a,26bによってそれぞれの計量ホッパ231内の添加剤(チオ尿素60a及びニカワ60b)の計量(計量ホッパ231の重量を含む)が行われ(ステップS2)、その計測値S
0は制御装置30に送られる。尚、以下の説明においてはチオ尿素60aを投入する第一のフィーダ装置22aについて説明するが、その動作はニカワ60bを投入する第二のフィーダ装置22bも略同様である。
 
【0038】
  次いで、制御装置30は、第一のフィーダ装置22aのホッパ部224内に設けられたスクリュー機構223を作動させて所定の流量により添加剤であるチオ尿素60aを投入シュート220aに供給する(ステップS3)。そして、制御装置30は、供給後のチオ尿素60aの重量を計測すると共に、その計測値S
1と先の計測値S
0とを比較することにより投入シュート220aに供給したチオ尿素60aの重量を算出する。一方、制御装置30は、溶媒供給装置50のバルブ50aを開いて溶解槽23内に溶媒である水の供給を開始する(ステップS4)。このとき、溶媒供給装置50の配管50bから枝分かれした配管50cを介して一部の水が溶媒導入部50dへ導入され、チオ尿素60aを投入シュート220a内において水で溶解しながら溶解槽23への供給が行われる(ステップS5)。そして、制御装置30は、ポンプ25を動作させることにより溶解槽23内で作成・調整された添加剤溶液200を供給タンク13へ移送する(ステップS6)。一方、チオ尿素60a及びニカワ60bを含む添加剤溶液200とは別に、塩酸槽14から添加剤である塩酸140が供給タンク13へ供給される。供給タンク13には、電解液供給槽15から供給された新鮮な電解液10及び電解槽11から排液槽12に連続的に回収された電解液10が貯えられており、排液槽12へ回収された電解液10は循環使用される。このようにして所定量の添加剤が添加された供給タンク13内の電解液10は、ポンプ17dを介して電解槽11内へ連続的に供給される。
 
【0039】
  電解槽11から抜き出された排液槽12内の電解液10と、供給タンク13から電解槽11内へ供給する電解液10の供給口付近の電解液10をそれぞれ所定時間ごとにサンプリングし(ステップS7,11)、電解液中のチオ尿素60aの濃度の測定を行う。そして、それぞれ測定されたチオ尿素60aの濃度と設定値(2.0ppm、5.0ppm)と対比を行い(ステップS8、12)、その結果に基づいて制御装置30は第一の溶解装置20aの第一のフィーダ装置22aの動作を制御することにより添加剤槽23へ供給するチオ尿素60aの量を適宜調整する。具体的には、排液槽12からサンプリングした電解液10中のチオ尿素60aの濃度が設定値である2.0ppmを下回るような場合には、制御装置30は、第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の速度を早くして溶解槽23へのチオ尿素60aの供給量を増やし(ステップS9)、チオ尿素60aの濃度が設定値である2.0ppmを下回らない場合には、制御装置30は、第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の速度を変更せずに溶解槽23へのチオ尿素60aの供給量を維持する(ステップS10)。一方、制御装置30は、供給口付近でサンプリング(ステップS11)した電解液10中のチオ尿素60aの濃度と設定値(2.5〜5.0ppm)と比較を行い(ステップS12)、測定値が設定値の上限である5.0ppmを上回る場合には、第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の速度を遅くして溶解槽23へのチオ尿素60aの供給量を減らし(ステップS13)、チオ尿素60aの濃度が設定値である2.5〜5.0ppmの範囲内である場合には第一のフィーダ装置22aのスクリュー機構223の回転速度はそのまま維持してチオ尿素60aの供給及び溶解を継続する(ステップS10)。尚、チオ尿素60aは正常な操業おいてもアノード中の不純物や、電解液10の塩素濃度の変化によって分解されるため、排液槽12からサンプリングした電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回わらなければ、供給口付近でサンプリングした電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.5ppmを下回ることは起こりにくいことを経験的に見出しており、供給口付近のチオ尿素60aの濃度が5.0ppmを上回るか否かを監視すればよい(ステップS12)。一方、
図7のフローチャートにおいて、排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回り、供給口付近の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が5.0ppmを上回ることが発生する場合には、後述するように操業異常と判断されることになる(
図8参照)。
 
【0040】
  また、上述したように、これまでの操業経験から電解槽11より回収した排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回ると電着異常現象が発生することを確認しているが、これは、電解槽11より回収した排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度が2.0ppmを下回らなければ電着異常現象は発生しないことを意味するのであるから、電解槽11より回収した排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度ができるだけ2.0ppmに近い状態に維持することでチオ尿素60aの使用量を最小限に減らすことができる。そこで、
図9に示すように、
図7におけるステップS1〜S7の工程の後、排液槽12の電解液10中のチオ尿素60aの濃度の測定を行い(ステップS8)、その結果、チオ尿素60aの濃度が2.0ppmよりも高い場合には、溶解槽23へ供給するチオ尿素60aの供給量を減らし(ステップS31)、2.0ppmとなった場合には、チオ尿素60aの供給量を維持する(ステップS32)ことで、チオ尿素60aの使用量を最小限に減らすことが可能となる。
 
【0041】
  チオ尿素60aの溶解槽23への供給量は、第一のフィーダ装置22aに設けられたロードセル26aによって計測され、その計測データは制御装置30に送られる。一方、添加するチオ尿素60aの量に対する必要な水の供給は制御装置30が溶媒供給装置50のバルブ50aの開閉を制御することによって行われる。具体的には、溶媒供給装置50に設けられた図示しない流量計によって測定される。尚、添加剤の濃度制御は供給する溶媒の量を加減することによっても行うことができる。
 
【0042】
  上述のように、制御装置30は、第一のフィーダ装置22aの駆動部222の回転速度を適宜制御しながらスクリュー機構223のスクリュー225a,225bを回転させ、ホッパ部224からのチオ尿素60a排出筒235から投入シュート220aを介して溶解槽23へ供給する。このとき、供給ホッパ227内のアジテータ228によってチオ尿素60aは撹拌されているので供給ホッパ227内での固化が防止される。また、投入シュート220aの上方に設けられた溶媒導入部50dへ配管50cを介して溶解槽23へ供給される溶媒である水の一部が送られ、チオ尿素60aを溶解させながら溶解槽23内へ投入される。このようにチオ尿素60aを素早く水で溶解することで吸湿による固化によって溶解が阻害されることを防止する。また、溶解槽23の配管23aへ蒸気を流通させることによって添加剤溶液の温度を約50℃に保持する。また、第一のフィーダ装置22a及び第二のフィーダ装置22bから切り出されて減少した添加剤は別途貯えられたホッパ21a,21bから順次補充される。そして、ホッパ21a,21bは解砕機211bを備えているのでチオ尿素60aのように吸湿性が高く固まりやすい添加剤であっても適宜粉砕することによりスムーズに供給することができる。
 
【0043】
  一方、
供給口付近における電解液10中のチオ尿素60aの濃度と排液槽12へ回収された電解液10中のチオ尿素60aの濃度との差dを監視することで操業が正常に行われているか否かの判断が行われる。すなわち、
図8に示すように、排液槽12からサンプリング(ステップS7)した電解液10中のチオ尿素60aの濃度の測定値(ステップS21)と、供給口付近でサンプリング(ステップS11)した電解液10中のチオ尿素60aの濃度の測定値(ステップS22)との差dを求める(ステップS23)。発明者らは、電解液の温度上昇や陰極版5とアノードとのショートの発生等の異常がある場合には添加剤であるチオ尿素60aが大きく変化することを経験的に見出しており、上記差dが0.5〜3.0ppmの範囲内であれば操業が正常に行われていると判断し(ステップS24)、差dが0.5〜3.0ppmの範囲外であれば操業が正常に行われておらず異常と判断する(ステップS23)。これにより、電解液10の温度上昇や陰極板5とアノードとのショートの発生等の異常箇所の迅速な発見を促して操業の適切な管理を行うことができる。ここで、チオ尿素60aの濃度差dが3.0ppmを超える場合とは、電解液の温度上昇によってチオ尿素60aの分解量が増加した場合や電流効率の増加でチオ尿素60aが急激に減少する場合などで起こりやすく、また濃度差dが0.5ppmを下回る場合とは、電解精製時の電流効率の低下による電着量の低下によりチオ尿素60aの消費量が低下しているか、電解液の温度が通常時より下がり、チオ尿素60aの温度劣化が抑制されている場合などで発生すると考えられる。
 
【0044】
  以上のように、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。