【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明することにより、本発明の効果を明らかにする。本発明に係る排ガス処理システム及び並びに排ガス処理方法は、本例によって制限されない。
【0065】
[実施例1]
石炭焚き発電プラントと同条件の排ガスに対して、SO
3還元剤(第二の添加剤)によるSO
3をSO
2へ還元する効果を検討した。
【0066】
(触媒Aの調製)
基本的に脱硝触媒の製造に使われるそれ自体公知の方法を適用することにより、触媒Aを調製した。
【0067】
(SO
3還元性能及び脱硝性能試験I)
実機を想定したベンチスケールにて、触媒Aを、直列に3本連結させたものを2つ準備し、試験例1及び試験例2とした。各試験例に対して所定性状の排ガスを流通させ、触媒層の1層目の出口、2層目出口及び3層目出口において、SO
3濃度及びNO
x濃度を測定した。試験例1には、触媒層入口にてSO
3還元剤を添加せず、試験例2にはSO
3還元剤として、プロピレン(C
3H
6)を添加した。触媒層入口のC
3H
6の添加量は、C
3H
6:SO
3のモル比で、2:1とした。SO
3濃度は、サンプリング後、沈殿滴定法により分析した。試験条件を下記表1に示す。なお、表中、AVは面積速度(ガス量/触媒での全接触面積)を示し、AVの単位は、Nm
3/(m
2・h)であり、国際単位系にて(m
3(normal)) /(m
2・h)と示される。また、Ugsは、空塔速度(流体の流量/ハニカム触媒の断面積)を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
図3に、排ガスを石炭焚き条件とした場合の、SO
3還元剤による排ガスのSO
3濃度(ppm)とNO
x濃度(ppm)の変化を示す。
図3に示すように、試験例1及び試験例2の排ガス中のNO
x濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて40ppm程度、2層目出口にて10ppm程度、3層目出口にて5ppm程度まで低下した。また、試験例1の排ガス中のSO
3濃度は、10ppmから、触媒層の1層目出口にて13ppm程度、2層目出口にて15ppm程度、3層目出口にて17ppm程度まで増加した。これに対して、試験例2のSO
3濃度は、10ppmから、1層目出口にて8ppm程度、2層目出口にて6ppm程度、3層目出口にて7ppmまで低下した。
【0070】
以上の結果より、全てのAVの領域において、石炭焚き条件の排ガスにC
3H
6を添加すれば、添加しない場合と同様の脱硝効果を得ることがわかる。また、SO
3還元剤を添加しない場合、排ガス中のSO
3濃度が増加することとなる。一方、石炭焚き条件の排ガスにSO
3還元剤としてC
3H
6を添加すれば、AVが大きい(触媒量が少ない)領域でも、AVが小さい(触媒量が多い)領域でも、排ガス中のSO
3の低減を可能とし、SO
3濃度を低下できることがわかる。
【0071】
続いて、既設の石炭焚き発電プラントの燃焼排ガス中のSO
3濃度による実機への影響を検討した。既設の石炭焚き発電プラントの空気予熱器(AH)を設置したとして連続操業期間の推定を行った。排ガス中のSO
3濃度と同期間内の空気予熱器の水洗回数の関係より連続操業期間を算出した。
【0072】
図4に、排ガス中のSO
3濃度(ppm)による空気予熱器の連続操業期間(ヶ月)を示す。
図4に示すように、SO
3還元剤を添加しない排ガスのSO
3濃度は20ppmであり、SO
3還元剤を添加した場合、10ppmであった。排ガス中のSO
3濃度が20ppmの場合、空気予熱器の連続操業期間は、6ヶ月であった。これに対して、排ガス中のSO
3濃度が10ppmの場合、空気予熱器の連続操業期間は、21ヶ月であった。結果より、実機でも、SO
3還元剤としてC
3H
6を添加することにより、従来の実績より推定すると空気予熱器の連続運転時間を3倍以上長期化できることを確認した。
【0073】
[実施例2]
粗悪燃料焚き発電プラントと同条件の排ガスに対して、SO
3還元剤(第二の添加剤)によるSO
3をSO
2へ還元する効果を検討した。
【0074】
(SO
3還元性能及び脱硝性能試験II)
触媒Aを、直列に3層連結させてなる触媒層を2つ準備し、試験例3及び試験例4とした。試験例3及び4に対して、実施例1と同様に、触媒層の1層目の出口、2層目出口及び3層目出口において、SO
3濃度及びNO
x濃度を測定した。試験例3には、触媒層入口にてSO
3還元剤を添加せず、試験例4にはSO
3還元剤として、C
3H
6を添加した。触媒層入口のC
3H
6の添加量は、実施例1と同様に、C
3H
6:SO
3のモル比で、2:1とした。試験条件を下記表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
図5に、排ガスを粗悪燃料焚き条件とした場合の、SO
3還元剤による排ガスのSO
3濃度(%)とNO
x濃度(%)の変化を示す。
図5に示すように、試験例3及び試験例4の排ガス中のNO
x濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて50ppm程度、2層目出口にて20ppm程度、3層目出口にて5ppm程度まで低下した。また、試験例3の排ガス中のSO
3濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて150ppm程度、2層目出口にて150ppm程度、3層目出口にて155ppm程度まで増加した。これに対して、試験例4のSO
3濃度は、150ppmから、1層目出口にて95ppm程度、2層目出口にて60ppm程度、3層目出口にて30ppmまで低下した。
【0077】
以上の結果より、粗悪燃料焚き条件の排ガスでも、全てのAVの領域において、C
3H
6を添加すれば、添加しない場合と同様の脱硝効果を得ることがわかる。また、SO
3還元剤を添加しない場合、排ガス中のSO
3濃度が増加することなる。一方、粗悪燃料焚き条件の排ガスにSO
3還元剤としてC
3H
6を添加すれば、AVが大きい(触媒量が少ない)領域でも、AVが小さい(触媒量が多い)領域でも、排ガス中のSO
3の低減を可能とし、SO
3濃度を低下できることがわかる。
【0078】
続いて、既設の粗悪燃料焚き発電プラントの燃焼排ガス中のSO
3濃度による実機への影響を検討した。既設の粗悪燃料焚き発電プラントの乾式の電気集塵器(EP)を設置したとして連続操業期間の推定を行った。電気集塵器において、排ガス中のSO
3濃度と灰堆積除去回数との関係より連続操業期間を算出した。
【0079】
図6に、燃焼排ガス中のSO
3濃度(ppm)による電気集塵器の連続操業期間(ヶ月)を示す。
図6に示すように、SO
3還元剤を添加しない排ガスのSO
3濃度は100ppmであり、SO
3還元剤を添加した50ppmであった。排ガス中のSO
3濃度が100ppmの場合、電気集塵器の連続操業期間は、4ヶ月であった。これに対して、燃焼排ガス中のSO
3濃度が50ppmの場合、電気集塵器の連続操業期間は、12ヶ月であった。結果より、粗悪燃料焚き発電プラントの実機でも、SO
3還元剤としてC
3H
6を添加することによって、電気集塵器の連続運転時間を3倍程度長期化できることがわかる。
【0080】
[実施例3]
既設の石炭焚き発電プラントにおいて、脱硝装置の脱硝層を積み増し及び再生した際の、SO
3還元剤(第二の添加剤)による燃焼排ガス中のSO
3濃度変化を検討した。
【0081】
既設の石炭焚き発電プラントの脱硝装置に積み増し工事を行って、触媒Aからなる3層目の脱硝層を追設したとしてSO
3濃度及びNO
x濃度の推定を行った。実施例1と同様に、触媒層の1層目の出口、2層目出口及び3層目出口において、SO
3濃度及びNO
x濃度を測定した。SO
3還元剤を添加しなかった場合を試験例5とし、SO
3還元剤としてC
3H
6を添加した場合を試験例6とした。なお、試験条件は、触媒層入口のC
3H
6の添加量を、C
3H
6:SO
3の0.5:1とした以外、実施例1と同様とした。
【0082】
図7に、触媒層を積み増しした際のSO
3還元剤による排ガスのSO
3濃度(%)及びNO
x濃度(%)の変化を示す。
図7に示すように、試験例5及び試験例6のNO
x濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて40ppm程度、2層目出口にて10ppm程度、3層目出口にて5ppm程度まで低下した。また、試験例5のSO
3濃度は、10ppmから、触媒層の1層目出口にて13ppm程度、2層目出口にて15ppm程度、3層目出口にて17ppm程度まで増加した。一方、試験例6のSO
3濃度は、10ppmから、1層目出口にて11ppm程度、2層目出口にて12ppm程度、3層目出口にて14ppm程度まで増加した。
【0083】
続いて、既設の石炭焚き発電プラントの触媒層積み増し後の脱硝装置を想定して、劣化した触媒Aに対して再生を実施した。触媒の再生は、薬液洗浄後に触媒活性成分であるバナジウムを含浸して行った。触媒再生後、触媒層の1層目の出口、2層目出口及び3層目出口において、SO
3濃度及びNO
x濃度を測定した。SO
3還元剤を添加しなかった場合を試験例7とし、SO
3還元剤としてプロピレン(C
3H
6)を添加した場合を試験例8とした。なお、試験条件は、触媒層入口のC
3H
6の添加量は、C
3H
6:SO
3のモル比で0.9:1とした以外、実施例1と同様とした。
【0084】
図8に、触媒再生を実施した後のSO
3還元剤による排ガスのSO
3濃度(%)とNO
x濃度(%)の変化を示す。
図8に示すように、試験例7及び試験例8の燃焼排ガス中のNO
x濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて40ppm程度、2層目出口にて10ppm程度、3層目出口にて5ppm程度まで低下した。また、試験例7の燃焼排ガス中のSO
3濃度は、10ppmから、触媒層の1層目出口にて15ppm程度、2層目出口にて17ppm程度、3層目出口にて20ppm程度まで増加した。また、試験例8のSO
3濃度は、10ppmから、1層目出口にて11ppm程度、2層目出口にて12ppm程度、3層目出口にて14ppmまで増加した。
【0085】
以上の結果より、実機に触媒層を積み増しした場合又は触媒再生した場合、触媒量が増加することによって、SO
3濃度が増大することがわかる。しかしながら、実機の触媒層を積み増しした場合でも、燃焼排ガスにSO
3還元剤としてC
3H
6を添加すれば、触媒の積み増しによる燃焼排ガス中のSO
3の増加を抑制できることを確認した。実機の触媒を再生した場合でも、燃焼排ガスにSO
3還元剤としてC
3H
6を添加すれば、排ガス中のSO
3の増加を抑制できることを確認した。
【0086】
[実施例4]
脱硝触媒の組成を変えて、SO
3還元剤(第二の添加剤)によるSO
3をSO
2へ還元する効果を検討した。
【0087】
(触媒Bの調製)
チタン源として、硫酸チタニルの硫酸水溶液を準備し、水にアンモニア水を添加し、更にシリカゾルを添加し、この溶液に準備していた硫酸チタニルの硫酸水溶液を徐々に滴下し、TiO
2−SiO
2ゲルを得た。このゲルをろ過し水洗した後、200℃で10時間乾燥した。その後、600℃で6時間空気雰囲気下にて焼成し、更に粉砕機で粉砕し、分級機で分級して平均粒子径10μmの粉体を得た。モノエタノールアミン溶液に、パラタングステン酸アンモニウム((NH
4)
10H
10W
12O
46・6H
2O)を加えて溶解し、次いでメタバナジン酸アンモニウム(NH
3VO
3)を溶解させ均一な溶液とした。この溶液に上記TiO
2−SiO
2粉末を加えて混合し、押出し成型機にて150mm□のハニカムを押出した。
【0088】
(SO
3還元性能及び脱硝性能試験III)
触媒BのSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比を5%としたものを試験例9とし、14%としたものを試験例10とした。実施例1と同様に、触媒を直列に3本連結させたものを準備し、触媒層の1層目の出口、2層目出口及び3層目出口において、SO
3濃度及びNO
x濃度を測定した。試験例9及び10にはSO
3還元剤として、プロピレン(C
3H
6)を添加した。試験条件は実施例1と同一とした。
【0089】
図9に、各触媒層出口に対する、排ガス中のNO
x濃度(%)及びSO
3濃度(%)の変化を示す。
図9に示すように、試験例9及び10の排ガス中のNO
x濃度は、150ppmから、触媒層の1層目出口にて40ppm程度、2層目出口にて10ppm程度、3層目出口にて5ppm程度まで低下した。また、試験例9の排ガス中のSO
3濃度は、10ppmから、触媒層の1層目出口にて8ppm程度、2層目出口にて6ppm程度まで低下し、3層目出口にて7ppm程度まで増加した。これに対して、試験例10のSO
3濃度は、10ppmから、1層目出口にて7ppm程度、2層目出口にて4ppm程度、3層目出口にて4ppm程度まで低下した。
【0090】
(SO
2酸化速度の検討)
続いて、試験例9及び10の調製と同様にして、SiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比で12%及び21%となるように、試験例11及び12を新たに調製した。試験例9〜12のSO
2の酸化速度比を、プロピレンを供給しない場合のSO
3濃度変化により算出し、前述のSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比の変化によるSO
2酸化速度比を検討した。
【0091】
図10に、SiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比の変化によるSO
2酸化速度比を示す。
図10に示すように、触媒中のSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比が5%である試験例9の場合、SO
2酸化速度比は1であった。これに対して、触媒中のSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比が12%である試験例11の場合はSO
2酸化速度比が0.5程度まで低下し、14%である試験例10の場合はSO
2酸化速度比が0.46程度まで低下し、21%である試験例12の場合はSO
2酸化速度比が0.45程度まで低下した。
【0092】
以上の結果より、触媒中のSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比が5%の場合より、12%から21%の場合の方がSO
2酸化速度が遅く、SO
3還元にてより好ましいことがわかる。また、SO
2の酸化速度比は、SiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比が12%を超えると著しく増加することがわかる。これにより、触媒中のTiO
2比率が高いと、SO
2酸化速度が高く、酸化反応が速やかに進行するため、燃焼排ガス中のSO
3濃度に影響することがわかる。また、SiO
2の比率が高い脱硝触媒は、活性成分のバナジウム量が同じであっても、SO
2酸化率を抑制させるため、C
3H
6によるSO
3のSO
2への還元効果が増加することがわかる。更に、TiO
2は、ハニカム形状を保持するための保形剤であるガラス繊維成分であるが、バナジン等の活性成分によるSO
2酸化率抑制には寄与しないことがわかる。したがって、SO
3還元剤の添加量とは別に、触媒中のTiO
2とSiO
2との比率も調製する必要があり、TiO
2−SiO
2複合酸化物中のSiO
2/(TiO
2+SiO
2)%比は、5%以上60%以下の範囲内で含有され、12%以上21%以下の範囲内が好ましいことがわかる。
【0093】
[実施例5]
乾式の脱硝装置が設置されていない既設の石炭焚き発電プラントにおいて、乾式の脱硝装置及びSO
3還元装置(第二の添加装置)の追設した際の、SO
3還元剤(第二の添加剤)による燃焼排ガス中のSO
3濃度変化を検討した。
【0094】
既設の石炭焚き発電プラントにおいて、触媒Aを備える脱硝装置とSO
3還元装置を追設したとしてSO
3濃度の推定を行った。なお、試験条件は、C
3H
6の添加量を、C
3H
6:SO
3を1.5:1とした以外、実施例1と同様とした。
【0095】
図11に、脱硝装置及びSO
3還元装置の追設前後のプラントにおける脱硝装置前後でのSO
3濃度変化(ppm)を示す。
図11に示すように、脱硝装置追設前のSO
3濃度は12ppmであり、脱硝装置追設後のSO
3濃度は20ppmであった。また、脱硝装置及び第二の添加装置追設後のSO
3濃度は8ppmであった。
【0096】
以上の結果より、通常、プラントの熱交換を考慮して、空気予熱器での熱回収温度が決定されているが、脱硝装置の追設により、SO
3濃度が増加してしまうことを確認した。このため、空気予熱器での腐食、灰堆積による圧力損失により、プラントの連続運転に影響を与えてしまう。しかしながら、脱硝装置と共に第二の添加装置を追設し、脱硝装置の前流よりC
3H
6を供給することにより、少なくともSO
3濃度の増加分以上のSO
3を還元することが可能となる。この結果、脱硝装置の追設前と同様にプラントの連続運転が可能となることがわかる。
【0097】
[実施例6]
続いて、脱硝装置及びSO
3還元装置(第二の添加装置)を追設した石炭焚き発電プラント発電プラントにおいて、脱硝装置の触媒が劣化し、NO
xの未反応のリークアンモニアが増加した際の、SO
3還元剤による圧力損失への影響を検討した。
【0098】
実施例5と同様のプラントにて、燃焼排ガス中のリークNH
3濃度及びSO
3濃度を測定し、その後流の空気予熱器内の圧力損失の上昇比を算出した。また、脱硝装置の上流部よりSO
3還元剤としてC
3H
6を定期的に供給し、リークNH
3濃度の基準値以下(例えば、3ppm以下)までSO
3濃度を低減させることを想定した。なお、燃焼排ガス中のリークNH
3量はイオンクロマト分析法により、SO
3濃度は沈殿滴定法により測定した。また、圧力損失の上昇比は、計測しているAHの圧損から算出した。
【0099】
図12a及び
図12bに、従来のプラントの圧力損失の上昇比、リークNH
3濃度(ppm)及びSO
3濃度(ppm)を示す。また、
図13a及び
図13bに、SO
3還元剤としてC
3H
6を定期的に供給した場合の、プラントの圧力損失の上昇比、リークアンモニア量(ppm)及びSO
3濃度(ppm)を示す。
図12a及び12bより、リークアンモニア量が増加すると、空気予熱器の圧力損失の上昇比が1.7程度から2.25程度まで上昇して、空気予熱器の水洗を実施した。一方、
図13a及び13bより、リークアンモニア量が増加しても、C
3H
6を添加することでSO
3濃度が3ppm程度まで減少し、空気予熱器の圧力損失の上昇比は、1.5程度以下であった。
【0100】
通常、脱硝装置からの未反応リークアンモニアが増大すると、燃焼排ガス中のSO
3濃度と反応し、酸性硫安を析出する。この酸性硫安が核となり、空気予熱器の灰堆積が急激に上昇し、圧力損失が上昇する。これにより、プラントを停止する必要がある。しかしながら、結果より、第二の添加剤を設置すれば、リークアンモニアが増加しても、反応対象物質のSO
3を低減することができる。このため、灰堆積の核となる酸性硫安の析出を抑制することができる。この結果、プラントを安定且つ長期的に運用することが可能となることを確認した。
【0101】
[実施例7]
続いて、脱硝装置及びSO
3還元装置(第二の添加装置)を追設した既設の石炭焚き発電プラントにおいて、C
3H
6濃度変化による燃焼排ガス中のSO
3濃度変化を検討した。
【0102】
実施例5と同様のプラントにて、実施例5と同様にして中和滴定法にてSO
3濃度を測定し、C
3H
6供給濃度変化によるSO
3濃度への効果を検討した。
【0103】
図14に、触媒層入口のSO
3濃度10ppm及びSO
3濃度20ppmとした場合の、C
3H
6供給濃度(ppm)によるSO
3濃度変化(ppm)を示す。
図14に示すように、触媒層入口の燃焼排ガス中のSO
3濃度10ppmの場合、C
3H
6供給濃度が10ppmでは触媒層入口のSO
3濃度は9ppm程度、20ppmでは8ppm程度、30ppmでは4.5ppm程度、40ppmでは2ppm程度、50ppmでは1ppm程度まで低下した。また、触媒層入口の燃焼排ガス中のSO
3濃度20ppmの場合、C
3H
6供給濃度が10ppmでは触媒層入口のSO
3濃度は23ppm程度、20ppmでは18ppm程度、30ppmでは14ppm程度、40ppmでは10ppm程度、50ppmでは5.5ppm程度まで低下した。
【0104】
以上の結果より、SO
3還元剤としてC
3H
6を供給するほど(すなわち、C
3H
6濃度を増加させるほど)、燃焼排ガス中のSO
3濃度を低下できることがわかる。また、触媒層入口のSO
3濃度が10ppmよりも、20ppmと高いほうが、より顕著な還元効果を示すことがわかる。また、触媒層入口のSO
3濃度が10ppmである場合、C
3H
6供給濃度は20ppmを超えることが好ましく、30ppm以上がより好ましく、40ppm以上50ppm以下が更に好ましいことがわかる。更に、触媒層入口のSO
3濃度が20ppmである場合、C
3H
6供給濃度は10ppm以上が好ましく、20ppm以上50ppm以上がより好ましく、30ppm以上50ppm以上が更に好ましく、40ppm以上50ppm以上が特に好ましいことがわかる。
【0105】
[実施例8]
プロピレン以外の組成の異なる炭化水素を、SO
3還元剤(第二の添加剤)として用い、炭化水素化合物の組成によるSO
3のSO
2への還元効果を触媒Aにて検討した。
【0106】
(試験例13〜20の調製)
第二の添加剤としてメタノール(CH
3OH)を用いた場合を試験例13とし、エタノール(C
2H
5OH)を用いた場合を試験例14とし、プロパン(C
3H
8)を用いた場合を試験例15とした。また、第二の添加剤としてエチレン(C
2H
4)を用いた場合を試験例16とし、プロピレン(C
3H
6)を用いた場合を試験例17とし、1−ブテン(1−C
4H
8)を用いた場合を実施例18とし、2−ブテン(3−C
4H
8)を用いた場合を実施例19とし、イソブテン(iso−C
4H
8)を用いた場合を実施例20とした。
【0107】
(SO
3還元性能試験VI)
各試験例に対して、組成の異なるSO
3還元剤をそれぞれ添加し、実施例5と同様の脱硝装置・SO
3還元装置内に設置したSO
3触媒からなる触媒層を通過させることにより、AV=12.73Nm
3/m
2・hにおける燃焼排ガス中のSO
3濃度(ppm)の変化を検討した。試験条件を下記表3に、試験結果を
図15に示す。なお、SO
3濃度は、サンプリング後、沈殿滴定法により分析し、SO
3還元率は以下のようにして求めた。また、C
3H
6の添加量は、C
3H
6:SO
3のモル比率で3.6:1とした。
SO
3還元率(%)=(1−触媒層出口SO
3濃度/触媒層入口SO
3濃度)×100
【0108】
【表3】
【0109】
図15は、試験例13〜20におけるAV=12.73Nm
3/m
2・hに対するSO
3の還元率(%)を示している。
図15に示すように、アルコール類を用いた試験例13のSO
3還元率は4%であり、試験例14のSO
3還元率は6%であった。これに対して、飽和炭化水素を用いた試験例15のSO
3還元率は7.2%であった。また、飽和炭化水素を用いた試験例16のSO
3還元率は20.2%であり、高い値を示した。更に、アリル構造を有する試験例17のSO
3還元率は58.4%であり、試験例18のSO
3還元率は50.2%であり、試験例19のSO
3還元率は54.2%であり、試験例20のSO
3還元率は63.5%であり、非常に高い値を示した。
【0110】
以上の結果より、CH
3OH及びC
2H
5OH等のアルコール類を用いた場合と比べて、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素であるC
3H
8、C
2H
4、C
3H
6又はC
4H
8をSO
3還元剤として用いれば、燃焼排ガス中のSO
3濃度がより低下することがわかる。また、これらのうち、SO
3還元剤として不飽和炭化水素であるC
2H
4、C
3H
6又はC
4H
8を用いれば、燃焼排ガス中のSO
3濃度が効果的に低下させることがわかる。更に、SO
3還元剤として炭素数3以上のアリル構造を有する不飽和炭化水素を用いれば、燃焼排ガス中のSO
3濃度が著しく低下させることがわかる。炭素数3以上であり、アリル構造を有する不飽和炭化水素は分解活性が高く、その中間体がSO
3との反応性が高いと推定した。
【0111】
続いて、下記1〜4に示す触媒表面上の素反応モデルをもとに、分子シミレーションにより、SO
3還元剤としてC
2H
4、C
3H
8及びC
3H
6の分解活性化エネルギーを推算した。
1.炭化水素の吸着反応
炭化水素(C
xH
y)+表面→C
xH
y−表面
2.炭化水素の分解反応(水素引き抜き)
C
xH
y-表面→C
xH
y-1(表面配位)+H
-表面
3.SO
3(g)との反応(スルホン酸化)
C
xH
y-1(表面配位+SO
3(g)→SO
2+C
xH
y-1-SO
3--H
-表面
4.SO
3分解
C
xH
y-1-SO
3--H
-表面→SO
2 + CO
2 + CO
【0112】
図16に、触媒表面での各炭化水素からの水素引き抜き反応の分解活性化エネルギー(kcal/mol)とSO
3還元速度反応(Nm
3/m
2/h)との関係を示す。
図16より、飽和炭化水素であるC
3H
8のSO
3還元反応速度定数は1.8であり、分解活性化エネルギーは89であった。不飽和炭化水素であるC
2H
4のSO
3還元反応速度定数は3.0であり、分解活性化エネルギーは65であった。また、アリル構造を有し、炭素数が3以上である不飽和炭化水素であるC
3H
6のSO
3還元反応速度定数は11.2であり、分解活性化エネルギーは58であった。
【0113】
以上の結果より、飽和炭化水素であるC
3H
8と比較して、C
2H
4の分解活性化エネルギーに対するSO
3還元反応速度定数がより高く、C
3H
6が更に高いことがわかる。また、分解活性化エネルギーとSO
3還元反応速度定数とに相関性があることを確認した。前述の実施例の結果は、SO
3還元剤のアリル構造の二重結合が分解しやすいためであることがわかる。また、アリル構造は分解活性化エネルギーが低い為、水素引き抜きしやすいと考えられる。このことから、不飽和炭化水素の還元剤が有効であり、アリル構造を有し、炭素数が3以上である不飽和炭化水素がより有効であることを確認した。