(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748908
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ペルフルオロポリエーテルをベースとする潤滑グリース
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20150625BHJP
C10M 169/00 20060101ALI20150625BHJP
C10M 107/38 20060101ALN20150625BHJP
C10M 105/54 20060101ALN20150625BHJP
C10M 113/12 20060101ALN20150625BHJP
C10M 147/04 20060101ALN20150625BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20150625BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20150625BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20150625BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M169/00
!C10M107/38
!C10M105/54
!C10M113/12
!C10M147/04
!C10M129/26
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】6
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-515082(P2014-515082)
(86)(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公表番号】特表2014-519542(P2014-519542A)
(43)【公表日】2014年8月14日
(86)【国際出願番号】EP2012002254
(87)【国際公開番号】WO2012171611
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2013年12月17日
(31)【優先権主張番号】102011104507.8
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュヴァイクコーフラー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュミット−アメルンクセン
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−104091(JP,A)
【文献】
特開2003−096480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロポリエーテル(PFPE) 90〜99.45質量%、及び
熱分解ケイ酸 0.5〜5質量%
を含み、前記熱分解ケイ酸が、親水性熱分解ケイ酸である、潤滑グリース。
【請求項2】
ペルフルオロポリエーテルが、式(I)
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、同一又は異なり、かつ、−CF
3、−C
2F
5又は−C
3F
7から選択され、v、w、x、y、zは0以上〜500の整数である]
記載の化学化合物である、請求項1記載の潤滑グリース。
【請求項3】
腐食保護剤からなる群から選択されている添加剤0.05〜5質量%を更に含む請求項1又は2記載の潤滑グリース。
【請求項4】
腐食保護剤が、官能化PFPE誘導体、カルボン酸又はその金属塩並びにPFPEエトキシラートからなる群から選択される請求項3記載の潤滑グリース。
【請求項5】
自動車領域でのきしみ防止剤としての請求項1から4のいずれか1項記載の潤滑グリースの使用。
【請求項6】
オフィス領域及びエレクトロニクス領域での、特にモニター/テレビホルダー又はフリップ式携帯のプラスチックジョイントでの潤滑のため、請求項1から4のいずれか1項記載の潤滑グリースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、本質的に増粘剤不含の潤滑グリースであって、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)及び少ない割合の熱分解ケイ酸並びに通常の添加剤からなるものに関する。
【0002】
ペルフルオロ化ポリアルキルエーテル(PFPE)は、室温で液状であり、かつ低い表面エネルギーを有する、良好な潤滑特性を有するポリマーである。PFPE化合物は、ほぼ全ての産業領域、例えばエレクトロニクス産業、航空産業及び宇宙航空産業並びに半導体産業において、潤滑のために使用される。PFPE化合物は、高負荷ボールベアリングの潤滑のためにも使用される。
【0003】
PFPEベースの潤滑グリースを濃厚にするには、PTFE(テフロン粉末)、BN(窒化ホウ素)、グラファイト、MoS
2、酸化物セラミック材料又は有機増粘剤、例えば尿素及び石鹸が、20〜40質量%の濃度で使用されていた。同様に、エアロジルも、前述の濃度範囲において、単一の又は一部の増粘剤として使用されていた。そのように増粘されたPFPEベースの潤滑剤は通常、固形物割合が高すぎ、そして、粒子が粗すぎて、静音作業に向かない。
【0004】
さらに、きしみ防止剤(Antiknarzmittel)としてPFPE潤滑剤は、特にエラストマー表面及びテキスタイル表面並びに皮革上で使用される。但し、ここで、処理された材料の表面への不所望な潤滑剤浸透又は拡散侵入が発生し、そのため、定期的な再潤滑化処理(Nachschmieren)が必要になる。
【0005】
したがって、潤滑グリースとしてのPFPE化合物の好ましい作用を利用し尽くすために、本発明の課題は、極めて低濃度で強力な増粘特性を示す添加剤を提供することであった。それによって、静音適用に供することが可能となる。さらに、塗布した潤滑剤のコンシステンシー状態によって、多孔質材料に対する定期的な再潤滑化処理は低減されている。
【0006】
PFPE化合物へ4質量%未満の熱分解ケイ酸を添加することによって、稠性な潤滑グリースが得られる。前記潤滑グリースは、210〜385のNLGI浸透度を有し、それ故0〜3のNLGIクラスに属する。添加剤として、親水性熱分解ケイ酸も疎水性熱分解ケイ酸も使用できるが、親水性熱分解ケイ酸が好ましい。
【0007】
本発明のPFPEグリースは、既知のPFPE潤滑グリースと比較して、極めて少ない割合の熱分解ケイ酸を有し、ノイズ挙動においてもその動的挙動においても、既知のグリースに優る。この潤滑グリースの透明性もまた際立っており、例えば黒色表面上で光学的にニュートラルに見える。
【0008】
本発明のPFPE潤滑グリースで処理した表面の達成した表面保護は顕著に改善されている。それというのも、本発明のグリースは、固定化され、そして、表面へと拡散しないことが示されることができたためである。その点に関して、自動車の車内で使用される、相応するエラストマー及びテキスタイル表面に対する検査を実施した。
【0009】
PFPE潤滑グリースにおいて2質量%未満の熱分解ケイ酸を使用すると、潤滑グリースは十分に透明である。したがって、黒色表面に設けた薄い潤滑フィルムは、光学的にニュートラルであり、純粋なPFPEと異ならないが、しかし、潤滑グリースが、材料の表面へと侵入しないという利点を有する(表1参照のこと)。
【0010】
とりわけ、自動車領域でのドアのシーリング、ドアのプロファイルの領域でのきしみ防止剤として、この利点は特に重要である。
【0011】
表1
純粋なPFPEオイルと比較した本発明のPFPE潤滑剤の例示的組成
【表1】
【0012】
同様に、本発明の潤滑剤は、上記特性故に、電気的コンタクト、スリップリング及びスイッチで使用可能である。ここで、PFPE潤滑剤は、その並外れた化学的安定性故に、極めて良好な保護作用及び持続的な潤滑作用を提供する。固形物ベースの通常の増粘剤の場合には、そのような部材中の体積抵抗は許容できない程に変動することがある。それというのも、電気絶縁性粒子が電流を妨げるためである。増粘剤濃度の増加と共に、この問題は増加する。ここで、本発明の潤滑剤は、2つの利点を示す。すなわち、増粘剤濃度は劇的に低減し、さらに、増粘剤は1マイクロメーター未満の極めて小さい平均粒径を有することである。それによって、十分に妨げのない電流が保証されている(表2参照のこと)。
【0013】
表2
PTFE増粘した潤滑剤と比較した、電気的コンタクト適用における本発明の潤滑剤の特性
【表2】
【0014】
SKF−ROF テストランにおけるローラーベアリングにおける高速運転特性を確認した(表3参照のこと)。
【0015】
表3
PTFEで増粘した潤滑剤と比較した、ローラーベアリング適用における本発明の潤滑剤の特性
【表3】
【0016】
本発明の潤滑グリースは、ペルフルオロポリエーテル(PFPE) 90〜99.45質量%及び熱分解ケイ酸 0.5〜5質量%を含む。ペルフルオロポリエーテルは、式(I)
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、同一又は異なり、かつ、−CF
3、−C
2F
5又は−C
3F
7から選択され、v、w、x、y、zは≧0〜500の整数である]記載の化学化合物である。
【0017】
熱分解ケイ酸は、好ましくは親水性ケイ酸である。
【0018】
さらに、本発明の潤滑グリースは、0.05〜5質量%の腐食保護剤を含んでよい。
【0019】
潤滑グリース中に存在する腐食保護剤は、官能化PFPE誘導体からなる群から選択され、好ましくはカルボン酸又はその金属塩並びにPFPEエトキシラートである。
【0020】
本発明で使用される潤滑グリースは、自動車領域できしみ防止剤として使用される。同様に、潤滑化のために、オフィス領域及びエレクトロニクス領域で、特にモニター/テレビホルダー又はフリップ式携帯のプラスチックジョイントで使用される。