【実施例】
【0056】
[実験1]
実験1では、二酸化炭素の除去および混合物の回収をそれぞれ1回行った例を示す。
【0057】
1.スラグの準備
成分比率の異なる2種類の製鋼スラグ(スラグAおよびスラグB)を準備した(表1参照)。最大粒径が100μmとなるように、ローラミルを用いてスラグAおよびスラグBを粉砕した。また、粉砕したスラグの最大粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて確認した。
【0058】
【表1】
【0059】
2.リンおよびカルシウムの溶出
容器に充填された100Lの水に、粉砕したスラグ(1kg、3kgまたは5kg)を投入してスラグ懸濁液を調製した。次いで、調製したスラグ懸濁液内に、二酸化炭素を20L/minで吹込みながら、インペラを用いてスラグ懸濁液を30分間攪拌した。このときの二酸化炭素濃度は、30ppm以上であった。また、比較のため、スラグ懸濁液内に、二酸化炭素を吹込まずに、インペラを用いてスラグ懸濁液を30分間攪拌した。攪拌後のスラグ懸濁液を静置して、スラグを沈殿させた。その後、上澄み液を回収し、フィルターを用いた減圧濾過によって浮遊物を除去した。
【0060】
3.二酸化炭素の除去
(1)ガスの水溶液への吹込み、(2)水溶液の減圧、(3)水溶液の加熱、(4)ガスの水溶液への吹込みおよび水溶液の加熱、または(5)ガスの水溶液への吹込み、水溶液の減圧および水溶液の加熱により、上澄み液に含まれる二酸化炭素を除去した。これにより、上澄み液中に析出物が生じた。以下、二酸化炭素の除去方法(上記(1)〜(5))について説明する。
【0061】
(1)ガスの水溶液への吹込み
容器に投入された上澄み液にガス(空気、N
2、O
2、H
2、Ar、Heまたはこれらの組み合わせ)を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて30分間攪拌することによって、二酸化炭素を除去した。なお、ガスとしてN
2およびArを使用した実施例11では、N
2:10L/min、Ar:10L/minとした。
【0062】
(2)水溶液の減圧
上澄み液を投入した密閉容器の内部の圧力を1/10気圧に30分間維持するとともに、上澄み液に超音波を印加することによって、二酸化炭素を除去した。
【0063】
(3)水溶液の加熱
容器に投入された上澄み液の液温を90℃に加熱するとともに、インペラを用いて30分間攪拌することによって、二酸化炭素を除去した。
【0064】
(4)ガスの水溶液への吹込みおよび水溶液の加熱
容器に投入された上澄み液に空気を20L/minで吹込みつつ、上澄み液の液温を90℃に加熱しながら、インペラを用いて30分間攪拌することによって、二酸化炭素を除去した。
【0065】
(5)ガスの水溶液への吹込み、水溶液の減圧および水溶液の加熱
密閉容器に投入された上澄み液に空気を5L/minで吹込みつつ、密閉容器の内部の圧力を3/10気圧とし、かつ上澄み液の液温を60℃に加熱した状態を30分間維持することよって、二酸化炭素を除去した。
【0066】
4.混合物の回収および混合物に含まれるリン濃度の測定
フィルターを用いて、析出物(混合物)を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。なお、二酸化炭素を除去する時に加熱した上澄み液については、液温が低下しないように加温しながら減圧濾過して、混合物を回収した。回収した混合物中のリン濃度を、ICP−AES法により測定した。また、ICP−AES法により混合物中にカルシウムが含まれていることも確認した。これにより、リン化合物およびカルシウム化合物を含む混合物を得たことを確認した。
【0067】
5.結果
実験1の回収条件および回収結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示されるように、二酸化炭素を含む水に製鋼スラグを浸漬させ、二酸化炭素を除去した実施例1〜22の回収方法では、リン化合物およびカルシウム化合物を含む混合物を回収することができた。一方、二酸化炭素を含まない水に製鋼スラグを浸漬させ、二酸化炭素を除去した比較例1の回収方法では、リン化合物およびカルシウム化合物を含む混合物をほとんど回収することができなかった。
【0070】
[実験2]
実験2では、二酸化炭素の除去および混合物の回収をそれぞれ2回に分けて行った例を示す。
【0071】
1.スラグの準備
実験1と同様の2種類の製鋼スラグ(スラグAおよびスラグB)を準備した。
【0072】
2.リンおよびカルシウムの溶出
容器に充填された100Lの水に、粉砕したスラグ(1kgまたは3kg)を投入してスラグ懸濁液を調製した。次いで、調製したスラグ懸濁液内に、二酸化炭素を20L/minで吹込みながら、インペラを用いてスラグ懸濁液を30分間攪拌した。そして、懸濁液を静置して、スラグを沈殿させた後、上澄み液を回収し、フィルターを用いた減圧濾過によって浮遊物を除去した。
【0073】
3.二酸化炭素の除去および混合物の回収
(1)ガスの水溶液への吹込み
容器に投入された上澄み液にガス(空気またはN
2)を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて5分間攪拌した後、ガスの吹込みを停止して、さらに5分間攪拌した。そして、フィルターを用いて、析出物(混合物)を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。混合物を回収した上澄み液を容器に再度投入して、ガス(空気またはN
2)を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて25分間攪拌した。そして、フィルターを用いて、析出物(混合物)を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。
【0074】
(2)水溶液の減圧
上澄み液を投入した密閉容器の内部の圧力を1/10気圧に5分間維持して二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、析出物(混合物)を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。混合物を回収した上澄み液を密閉容器に再度投入して、密閉容器の内部の圧力を1/10気圧に25分間維持して二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、析出物(混合物)を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。
【0075】
4.混合物中に含まれるリン濃度の測定
混合物中に含まれるリンおよびカルシウムの測定を実験1と同様に行った。
【0076】
5.結果
実験2の回収条件および回収結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示されるように、初めに、短時間(5分間)の二酸化炭素の除去を行うことにより、リンの含有量が高い混合物を得ることができた。また、大部分のリン化合物を除いた上澄み液からさらに二酸化炭素を除去することにより、リンの含有量が少ない混合物を得ることができた。
【0079】
[実験3]
実験3では、2種類の方法で二酸化炭素の除去を1回ずつ行い、混合物を回収した例を示す。
【0080】
1.スラグの準備と、リンおよびカルシウムの溶出
実験1、2と同様の2種類の製鋼スラグ(スラグAおよびスラグB)を準備した。リンおよびカルシウムの溶出は、実験2と同じ手順により行った。
【0081】
2.二酸化炭素の除去
(1)ガスの水溶液へのガスの吹込みおよび水溶液の加熱
容器に投入された上澄み液にガス(空気またはN
2)を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて5分間二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、混合物を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。混合物を回収した上澄み液を容器に再度投入して、上澄み液の液温を90℃に加熱しながら、インペラを用いて25分間攪拌することによって、二酸化炭素を除去した後、液温が低下しないように加温しながら減圧濾過して、混合物を回収した。
【0082】
(2)ガスの水溶液へのガスの吹込みおよび水溶液の減圧
容器に投入された上澄み液にガス(空気またはN
2)を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて5分間二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、混合物を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。混合物を回収した上澄み液を容器に再度投入して、密閉容器の内部の圧力を1/10気圧に25分間維持して二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、混合物を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した。
【0083】
3.混合物に含まれるリン濃度の測定
混合物に含まれるリン濃度の測定を実験1と同様に行った。
【0084】
4.結果
実験3の回収条件および回収結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4に示されるように、実験2と同様に、初めに、短時間(5分間)の二酸化炭素の除去を行うことにより、リンの含有量が高い混合物を得ることができた。また、大部分のリン化合物を除いた上澄み液からさらに二酸化炭素を除去することにより、リンの含有量が少ない混合物を得ることができた。
【0087】
[実験4]
実験4では、1種類の方法で二酸化炭素の除去を行い、混合物の回収を2回に分けて行った例を示す。
【0088】
1.スラグの準備と、リンおよびカルシウムの溶出
実験1、2で使用したスラグAを準備した。リンおよびカルシウムの溶出は、実験2と同じ手順により行った。なお、投入したスラグは、1kgとした。
【0089】
2.二酸化炭素の除去
二酸化炭素の除去は、密閉容器に投入された上澄み液に空気を所定量吹込みながら、インペラを用いて5分間二酸化炭素を除去した後、ガスの吹込みを停止して、さらに5分間攪拌した。その後、フィルターを用いて、析出物を含む上澄み液を減圧濾過して、析出物を回収した。次いで、再度容器に投入された上澄み液に空気を所定量吹込みながら、インペラを用いて25分間二酸化炭素を除去した後、フィルターを用いて、析出物を含む上澄み液を減圧濾過して、析出物を回収した。なお、空気の吹込み量は、スラグ懸濁液1L当たりの1分間の大気圧の空気容量で示した。
【0090】
3.混合物中に含まれるリン濃度の測定
混合物中に含まれるリン濃度の測定を実験1と同様に行った。
【0091】
4.結果
実験4の回収条件および回収結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示されるように、リン化合物およびカルシウム化合物の析出速度を0.1g/min・L以下とすることにより、混合物中におけるリン化合物の含有量を高めることができた。
【0094】
[実験5]
実験5では、二酸化炭素の除去を複数回(3回)行った例を示す。
図3は、実験5におけるリンおよびカルシウムの回収方法のフローチャートである。
【0095】
1.スラグの準備と、リンおよびカルシウムの溶出
実験1、2で使用したスラグAを準備した(工程S100、S110)。リンおよびカルシウムの溶出は、実験2と同じ手順により行った(工程S120)。なお、投入したスラグは、1kgとした。
【0096】
2.二酸化炭素の除去
二酸化炭素の除去は、容器に投入された上澄み液に空気を所定量吹込みながら、インペラを用いて0.5分間二酸化炭素を除去した後、空気の吹込みを停止して、さらに1分間攪拌した。空気の吹込みおよび空気の吹込みの停止を3回繰り返した(工程S300およびS310)。フィルターを用いて、混合物を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した(工程S320)。次いで、混合物を回収した上澄み液を容器に再度投入して、上澄み液に空気を20L/minで吹込みながら、インペラを用いて25分間二酸化炭素を除去した(工程S330)後、フィルターを用いて、混合物を含む上澄み液を減圧濾過して、混合物を回収した(工程S340)。
【0097】
3.混合物中に含まれるリン濃度の測定
混合物中に含まれるリンおよびカルシウムの測定を実験1と同様に行った。
【0098】
4.結果
実験5の回収条件および回収結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示されるように、二酸化炭素を除去する工程において、ガス(空気)の吹込みを断続的に行うことにより、リンの含有量が高い混合物およびリンの含有量の少ない混合物を別個に得ることができた。
【0101】
以上のように、本発明に係る回収方法では、二酸化炭素を含む水溶液に製鋼スラグ内のリンおよびカルシウムを溶出させた後、リン化合物およびカルシウム化合物を含む混合物を析出させることにより、安価に製鋼スラグからリンおよびカルシウムを回収することができる。
【0102】
本出願は、2014年1月28日出願の特願2014−013536に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。