特許第5748954号(P5748954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5748954チアゾリジンジオン化合物の結晶およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748954
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】チアゾリジンジオン化合物の結晶およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/12 20060101AFI20150625BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20150625BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150625BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20150625BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150625BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20150625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C07D417/12CSP
   A61K31/427
   A61P3/10
   A61P5/50
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P43/00 111
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2009-516762(P2009-516762)
(86)(22)【出願日】2008年2月8日
(65)【公表番号】特表2010-517932(P2010-517932A)
(43)【公表日】2010年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2008052594
(87)【国際公開番号】WO2008099944
(87)【国際公開日】20080821
【審査請求日】2010年12月8日
【審判番号】不服2013-20758(P2013-20758/J1)
【審判請求日】2013年10月25日
(31)【優先権主張番号】60/900,251
(32)【優先日】2007年2月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(72)【発明者】
【氏名】梶野 久喜
(72)【発明者】
【氏名】池内 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮本 大志
(72)【発明者】
【氏名】沼上 英治
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 悟
【合議体】
【審判長】 中田 とし子
【審判官】 木村 敏康
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−124375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D417/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】
で表される、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物の結晶において、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折において面間隔が7.06、5.79、5.43、4.44、4.18、3.97、3.91、3.68、3.61、3.48、3.24及び2.97オングストロームに主ピークを示す結晶。
【請求項2】
HPLCによって測定される不純物の含有率が2.00%以下である請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
HPLCによって測定される不純物の含有率が1.50%以下である請求項1に記載の結晶。
【請求項4】
請求項1乃至3から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩・1水和物のA結晶を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩・1水和物のA結晶を有効成分として含有するPPARγ活性化剤。
【請求項6】
請求項1乃至3から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩・1水和物のA結晶を有効成分として含有する抗癌医薬組成物。
【請求項7】
請求項1乃至3から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩・1水和物のA結晶を有効成分として含有する、糖尿病の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項8】
請求項1乃至3から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩・1水和物のA結晶を有効成分として含有する、糖尿病を併発した癌の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下し、得られる5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物の結晶を、さらに水中で溶解またはスラリーにした後、塩酸を滴下することを特徴とする、請求項1に記載の結晶の製造法。
【請求項10】
5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下すると共に、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物のA結晶の種結晶を添加することを特徴とする、請求項1に記載の結晶の製造法。
【請求項11】
5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下し、得られる5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物の結晶を、さらに水中で溶解またはスラリーにした後、塩酸を滴下すると共に、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物のA結晶の種結晶を添加することを特徴とする、請求項1に記載の結晶の製造法。
【請求項12】
5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下し、得られる5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物の結晶を、水中でスラリーとし、次いで、塩基を添加し溶解またはスラリーにした後、塩酸を滴下すると共に、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩・1水和物のA結晶の種結晶を添加することを特徴とする、請求項1に記載の結晶の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化能を有し、抗癌作用に優れ、さらに、医薬製剤を製造する上で有利な物性を有し、高純度で、かつ保存安定性および取り扱い容易性にも優れるチアゾリジンジオン化合物の結晶とその製造法、及び、チアゾリジンジオン化合物の結晶を有効成分として含有する医薬(特に、PPARγ活性化剤、又は、抗癌医薬組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3488099号公報(国際公開第99/18081号パンフレット、米国特許第6432993号明細書、欧州特許第1022272号明細書)(特許文献1)、特開2003−238406号公報(国際公開第03/053440号パンフレット)(特許文献2)、特開2004−083574号公報(WO2004/000356号パンフレット)(特許文献3)、特開2005−162727号公報(WO2004/083167号パンフレット)(特許文献4)、国際公開第2007/091622号パンフレット(特許文献5)には、後述の式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物(以下、化合物(I)と記す。)が開示されている。化合物(I)は、優れたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化能を示し、PPARγ活性化剤、又は、抗癌医薬組成物としての有用性が期待される。
【0003】
一般に、医薬品に用いられる物質については、その不純物による予期せぬ副作用が生じないように、高い純度が求められている。不純物としては医薬原体自身を製造する際に生成した副生成物(類縁物質)や、医薬原体を製造する際に使用する原料および溶媒等が含まれる。また、製剤化等のための加温処理工程等においても原体の結晶形等が変化しないこと、あるいは、吸収性を高めより少量の投与で効果を発揮するため高い溶解度を有することなど、医薬製剤を製造する上でより有利な物性化学的性質を示すことも求められる。加えて、医薬の原体は、その品質を保持しながら長期間保管できることが重要である。また保管条件が低温であることが必要な場合は、品質の保持のために大掛かりな冷蔵設備が必要となるため、室温又はそれ以上で保管できるような安定した結晶を見出すことは工業的に有意義である。
【0004】
さらに上述のような、より高純度で、医薬品製剤を製造する上で有利な物性を有し、かつその純度や物性を長期間安定に維持したまま保管可能な医薬原体を、工業的かつ大量に製造する方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3488099号公報(国際公開第99/18081号パンフレット、米国特許第6432993号明細書、欧州特許第1022272号明細書)
【特許文献2】特開2003−238406号公報(国際公開第03/053440号パンフレット)
【特許文献3】特開2004−083574号公報(WO2004/000356号パンフレット)
【特許文献4】特開2005−162727号公報(WO2004/083167号パンフレット)
【特許文献5】国際公開第2007/091622号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、優れたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化能を示し、PPARγ活性化剤、又は、抗癌医薬組成物としての有用性が期待される化合物(I)について鋭意検討を行った結果、医薬原体として優れた物理的化学的性質を有し、室温での保存安定性に優れ、かつ高純度な化合物(I)の2塩酸塩の新規な水和物結晶とそれらの製造法を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)下記式(I):
【0008】
【化1】
【0009】
で表される5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物結晶、
(2) 上記(1)に記載の一般式(I)で表される5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物結晶において、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折において面間隔が7.06、5.79、5.43、4.44、4.18、3.97、3.91、3.68、3.61、3.48、3.24及び2.97オングストロームに主ピークを示す結晶(A結晶)、
(3) 上記(1)に記載の一般式(I)で表される5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物結晶において、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折において面間隔が10.42、5.85、5.52、3.84、3.46及び2.95オングストロームに主ピークを示す結晶(B結晶)、
(4) HPLCによって測定される不純物の含有率が2.00%以下である上記(2)に記載の結晶、
【0010】
(5) HPLCによって測定される不純物の含有率が1.50%以下である上記(2)に記載の結晶、
【0011】
(6) 上記(1)乃至(5)から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩の水和物結晶を有効成分として含有する医薬組成物、
(7) 上記(1)乃至(5)から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩の水和物結晶を有効成分として含有するPPARγ活性化剤、
(8) 上記(1)乃至(5)から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩の水和物結晶を有効成分として含有する抗癌医薬組成物、
(9) 上記(1)乃至(5)から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩の水和物結晶を有効成分として含有する、糖尿病の予防又は治療用医薬組成物、
(10) 上記(1)乃至(5)から選択されるいずれか1項に記載の一般式(I)で表されるチアゾリジンジオン化合物の2塩酸塩の水和物結晶を有効成分として含有する、2型糖尿病を併発した癌の予防又は治療用医薬組成物、
(11) 5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下することを特徴とする、上記(2)に記載の結晶の製造法、
【0012】
(12) 5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンを含水溶液とした後、塩酸を滴下し、得られる5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物結晶を、さらに水中で溶解またはスラリーにした後、塩酸を滴下することを特徴とする、上記(2)に記載の結晶の製造法、
(13) 5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物をメタノールから結晶化させることを特徴とする上記(3)に記載の結晶の製造方法
である。
【0013】
本発明の上記(I)で表される5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの2塩酸塩の水和物結晶(以下、本発明の結晶とも記す)は、その内部構造が三次元的に構成原子(又はその集団)の規則正しい繰り返しでできている固体をいい、そのような規則正しい内部構造を持たない無定形固体とは区別される。
【0014】
同じ化合物の結晶であっても、結晶化の条件によって、複数の異なる内部構造及び物理化学的性質を有する結晶(結晶多形)が生成することがあるが、本発明の結晶は、これら結晶多形のいずれであってもよく、2以上の結晶多形の混合物であってもよい。
【0015】
本発明の結晶は、大気中に放置しておくことにより、水分を吸収し、付着水が付く場合や、有機溶媒と混和することによって溶媒を吸収し溶媒和物を形成する場合がある。また、通常の大気条件下において25乃至150℃に加熱すること等により、0.5水和物、さらに無水物を形成する場合がある。
【0016】
本発明の結晶は、これらの付着水が付いた結晶、水和物又は溶媒和物からなる結晶、0.5水和物を含む結晶、無水物を含む結晶を包含する。本発明の結晶のうち、好適には、化合物(I)の2塩酸塩・1水和物の結晶である。
【0017】
本発明の結晶の一形態として、例えば、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折において、面間隔が7.06、5.79、5.43、4.44、4.18、3.97、3.91、3.68、3.61、3.48、3.24及び2.97オングストロームに主ピークを示すA結晶を挙げることができる。ここで主ピークは、面間隔d=7.06オングストロームを示すピークの強度を100としたときの相対強度が30%以上のピークおよび後述の本発明のB結晶には見られないピークである。
【0018】
なお、面間隔dは、式2dsinθ=nλにおいてn=1として算出することができる。
【0019】
また、例えば、銅のKα線(波長λ=1.54オングストローム)の照射で得られる粉末X線回折において、面間隔が10.42、5.85、5.52、3.84、3.46、及び2.95オングストロームに主ピークを示すB結晶を挙げることができる。ここで主ピークは、面間隔d=3.46オングストロームを示すピークの強度を100としたときの相対強度が20%以上のピークである。
【0020】
なお、上記の主ピークの相対強度は、結晶の成長面等の違い(晶癖)によって変化することがあるが、その様な結晶でも結晶形としては同じものであり、本発明に含まれる。
【0021】
本発明において、結晶に含まれる不純物の含有量は、分析化学の分野において周知の方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCともいう。)や重量%等、好適には、HPLCにおけるピーク面積比率により決定することができる。HPLCの測定条件は、適宜選択されるが、好適には、下記に示される条件である。
【0022】

HPLC測定条件(1)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Waters社製、XTerra RP18(4.6mm x 150mm)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液−アセトニトリル(65対35)
流量:1mL/min(本条件では、化合物(I)は約25分の保持時間を示した。)
注入量:10μL
ピーク面積測定範囲:注入開始から70分間

HPLC測定条件(2)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Waters社製、XTerra RP18(4.6mm x 150mm)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液−アセトニトリル(56対44)
流量:1mL/min(本条件では、化合物(I)は、約8分の保持時間を示した。)
注入量:10μL
ピーク面積測定範囲:化合物(I)との相対保持時間が1.48のピークの次に溶出するピークから70分間

HPLC測定条件(1)では、0分から70分までに検出される化合物(I)と不純物としての化合物のピーク面積比率が測定される。HPLC測定条件(2)では、化合物(I)との相対保持時間が1.48のピークの次に溶出するピークから70分間までに検出される不純物としての化合物のピーク面積比率が測定される。
【0023】
ここで、不純物としての化合物のピークとは、ピーク面積比率が0.01%以上として測定された全てのピークから、化合物(I)のピーク、及び、溶媒のみを注入したときに検出されるピークを除いたピークをいう。
【0024】
本発明において、HPLCによって測定される不純物の含有率とは、HPLCによって、上記測定条件のもと、ピーク面積比率が0.01%以上として測定された全てのピークの積分面積から、化合物(I)のピーク、及び、溶媒のみを注入したときに検出されるピークを除いたピーク面積の、化合物(I)のピーク面積に対する比率をいう。
【0025】
本発明の結晶のうち、A結晶については、HPLCによって測定される不純物の含有率が、好適には、2.00%以下であり、さらに好適には、1.50%以下である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の結晶は、高純度であり、色調も白色であり、また、保存安定性、取り扱い容易性等に優れる。特に、本発明のA結晶は、残留溶媒量が少なく、純度が高く、色調も白色で、かつ、水和物の脱水温度が高いことから、室温での水和物としての保存安定性に優れる。また、本発明のB結晶は、従来知られている化合物(I)よりも溶解性が高い。これらのことから、本発明の結晶は、工業生産において大量合成される医薬(特にPPARγ活性化剤、癌の予防及び/又は治療剤、糖尿病の予防及び/又は治療剤、あるいは、2型糖尿病を併発した癌の予防及び/又は治療剤)の製造原体として有用である。
【0027】
また、本発明の結晶の製造方法は、残留溶媒量を減らし、純度の高い結晶を製造することができ、さらに結晶を脱色することにより結晶を白色結晶にすることができ、工業生産において大量合成される医薬の製造原体の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1で得られたA結晶の粉末X線回折図。図の縦軸は、回折強度をカウント/秒(cps)単位で示し、横軸は回折角度2θの値を示す。
図2】実施例1で得られたA結晶を1分間に5℃ずつ温度を上昇させた場合の示差熱分析(DSC)チャート図。図の縦軸は一秒あたりの発熱量(mcal/s)を示し(マイナスの場合は吸熱量)、横軸は温度(℃)を示す。
図3】実施例3で得られたB結晶の粉末X線回折図。図の縦軸は、回折強度をカウント/秒(cps)単位で示し、横軸は回折角度2θの値を示す。
図4】実施例3で得られたB結晶を1分間に5℃ずつ温度を上昇させた場合の示差熱分析(DSC)チャート図。図の縦軸は一秒あたりの発熱量(mcal/s)単位で示し(マイナスの場合は吸熱量)、横軸は温度(℃)を示す。
図5】比較例1で得られた化合物の粉末X線回折図。図の縦軸は、回折強度をカウント/秒(cps)単を示し、横軸は回折角度2θの値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述の化合物(I)は、特許第3488099号公報に開示された方法又はそれに準じた方法により製造できる。
【0030】
本発明の結晶は、化合物(I)または化合物(I)の各種塩もしくはそれらの各種溶媒和物、化合物(I)の2塩酸塩もしくはその各種溶媒和物、あるいは化合物(I)の2塩酸塩の水和物それ自身を適当な溶媒に溶解し、脱塩(中和)、塩化水素もしくは塩酸の添加、溶液の濃縮、冷却、良溶媒と貧溶媒の混合等を行い、化合物(I)2塩酸塩の水和物を過飽和状態に導いて析出させ、次いで析出した結晶を単離することによって製造することができる。また上記の化合物(I)または化合物(I)の各種塩もしくはそれらの各種溶媒和物、化合物(I)の2塩酸塩もしくはその各種溶媒和物、あるいは化合物(I)の2塩酸塩の水和物それ自身を溶解させたものとして、化合物(I)を含む合成反応粗生成物の溶液も使用することができる。
【0031】
結晶の析出は、反応容器中で自然に開始し得るが、種結晶の接種、超音波刺激、反応器の表面を擦る等の機械的刺激を与えることによっても開始又は促進させることができる。
【0032】
得られた結晶は、再結晶やスラリー精製によって、その純度及び品質を向上させることができる。
【0033】
化合物(I)の各種塩もしくはそれらの各種溶媒和物を用いる場合には確実に化合物(I)の2塩酸塩を取得するために脱塩(中和)することがある。そのような場合、脱塩には通常、塩基を用いる。塩基としては脱塩可能なものであれば特に制限はないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化セシウム等の水酸化アルカリ金属、水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウム等の水酸化アルカリ土類金属、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウム等の酸化アルカリ土類金属、あるいはアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン又はトリブチルアミン等のアミン類、等が用いられ、好適には水酸化アルカリ金属またはアミン類であり、さらに好適には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア又はトリブチルアミンである。
【0034】
塩基はそのまま添加しても、各種溶媒に溶解させて添加してもよい。
【0035】
塩基の添加量に特に制限はないが、通常、化合物(I)の各種塩に対して1当量から4当量用いる。
【0036】
化合物(I)の2塩酸塩の水和物を結晶化させるために塩化水素または塩酸を添加する場合、その添加量は、化合物(I)が2塩酸塩を形成し、その結晶が晶析するのに必要な量以上が好ましい。さらには化合物(I)の2塩酸塩の水和物の溶媒に対する溶解度を小さくするため、通常化合物(I)に対して0.1乃至20当量、更に好適には2乃至10当量を添加する。
【0037】
化合物(I)あるいはその2塩酸塩の水和物の溶液を濃縮する方法としては、例えば、ロータリーエバポレータ等を用いて常圧若しくは減圧下で加温しながら溶媒を蒸発させて濃縮する方法、逆浸透膜を用いて濃縮する方法などがある。溶液の濃縮に使用する逆浸透膜としては、例えばポリアクリロニトリル系膜、ポリビニルアルコール系膜、ポリアミド系膜、酢酸セルロース系膜等から選択することができる。
【0038】
化合物(I)の2塩酸塩の水和物を結晶化させるための温度としては、通常、−70乃至150℃であり、好適には、−70乃至100℃である。
【0039】
本発明の結晶を製造する場合の良溶媒としては、例えば、水、メタノールまたはエタノール等のアルコール類、アセトンまたはメチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフランまたはジオキサン等のエーテル類、アセトニトリルまたはプロピオニトリル等のニトリル類、酢酸メチルまたは酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはヘキサリン酸トリアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、あるいはこれらの混合溶媒を挙げることができ、好適には、メタノール、テトラヒドロフラン、またはそれらと水の混合溶媒である。
【0040】
本発明の結晶を製造する場合の貧溶媒としては良溶媒として用いる溶媒によって選択するが、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブタノールのような炭素数2乃至4個のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、ジエチルエーテルのようなエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピルのようなエステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル類等を挙げることができる。
【0041】
A結晶を取得する場合は、化合物(I)を含水溶液(好適には、テトラヒドロフランと水の混合溶液)とした後、塩酸を滴下することにより精製して、得られる結晶の純度を上げることが出来る。
【0042】
得られたA結晶は、水中で溶解またはスラリーにした後、塩酸を滴下することにより、さらに純度を高くすることができる。
【0043】
この際、塩酸の滴下を始める前に、塩基を添加すると精製効果が高くなる場合がある。塩基を添加する場合、塩基には特に制限はないが、通常、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、等の無機塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、等の有機塩基が用いられ、好適には、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0044】
水中での溶解またはスラリー温度に特に制限はないが、通常、0乃至100℃(還流温度)で行なわれ、好適には、20乃至100℃(還流温度)で行われ、さらに好適には、30乃至100℃(還流温度)で行なわれる。
【0045】
溶解またはスラリーにする時間には特に制限はないが、通常、5分乃至12時間、好適には、10分乃至6時間行なわれる。
【0046】
スラリーの場合、スラリーにした後の塩酸の滴下は、スラリー後の結晶を一度単離し乾燥後あるいは乾燥することなく、もしくは単離することなくスラリーに引き続いて、いずれの方法で行なってもよい。
【0047】
水中での溶解またはスラリーにした後に用いる塩酸の量は、化合物(I)が2塩酸塩を形成し、その結晶が晶析するのに必要な量以上であれば特に特に制限はないが、A結晶の水に対する溶解度を小さくするため、通常、pH=2乃至0.5となるまで添加する。
【0048】
なお、塩酸の滴下を開始する前、もしくは滴下途中に種晶としてA結晶を添加することも可能である。種晶を添加する場合、種晶の添加量に特に制限はないが、通常、精製しようとするA結晶に対し、0.0001乃至20%、好適には0.001乃至10%、さらに好適には0.01乃至5%である。
【0049】
塩酸を滴下する温度は、通常、0乃至100℃(還流温度)で行なわれ、好適には、20乃至100℃(還流温度)、さらに好適には、50乃至100℃(還流温度)で行なわれる。
【0050】
本発明のB結晶を取得する場合は、化合物(I)の2塩酸塩若しくはその水和物を、メタノール(好適には、水を含まないメタノール)から、結晶化させる
なお、本発明のA結晶を製造するための出発原料として、化合物(I)、化合物(I)の各種塩、もしくはそれらの各種溶媒和物、化合物(I)の2塩酸塩、化合物(I)の2塩酸塩の各種溶媒和物、または化合物(I)の2塩酸塩の水和物それ自身として既に単離したものを用いてもよいが、結晶化により精製することも可能であるので、化合物(I)を含む合成反応粗生成物の溶液を使用することもできる。本発明のB結晶を製造するための出発原料として、化合物(I)の2塩酸塩若しくはその水和物を用いる。
【0051】
析出したA結晶あるいはB結晶は、例えば、ろ過、遠心分離、または傾斜法等によって単離することができる。単離した結晶は必要に応じて適当な溶媒で洗浄してもよい。本発明の結晶を洗浄するには、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール類;アセトンのようなケトン類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル類;トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;アセトニトリルのようなニトリル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類等の溶媒及びこれらの混合溶媒を用いて行なうことができるが、水、メタノール、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合溶媒を用いて行なうのが好適である。
【0052】
単離した結晶は、通常、0乃至150℃で、好適には、20乃至90℃で重量がほぼ一定になるまで乾燥させる。結晶の乾燥は、必要に応じて、シリカゲルまたは塩化カルシウムのような乾燥剤の存在下、または、減圧下で行うこともできる。減圧下で行なう場合、温度と圧力を制御することによって結晶水を脱水させることなく乾燥させることもできる。そのような場合、乾燥温度が高い場合は相対的に圧力も高く制御する。例えば本発明のA結晶を乾燥する場合、乾燥温度が50℃では、圧力は通常0.7乃至50kPa、好適には1.8乃至11kPaで行なわれる。
【0053】
温度と圧力を制御することなく乾燥し、乾燥した結晶が脱水している場合は、通常、0乃至50℃の温度で、かつ、10乃至100%の相対湿度で、好適には、10乃至40℃の温度で、かつ、20乃至100%の相対湿度で重量がほぼ一定になるまで吸湿させてもよい。得られた結晶は、再結晶やスラリー精製によって、その純度及び品質を向上させることができる。
【0054】
再結晶は、本発明の結晶を、(1)加熱溶解した後冷却する方法、(2)溶解後、溶媒を留去して濃縮する方法、(3)良溶媒に溶解し、貧溶媒を加えることによって結晶を析出させる方法等、有機合成化学の分野で通常使用される方法によって達成される。
【0055】
再結晶のために溶媒に溶解した際、脱塩酸が起きることがあるがそのような場合は、塩化水素または塩酸を添加することで、本発明の結晶を得ることができる。
【0056】
スラリー精製とは、化合物の結晶を適当な溶媒に懸濁して、その懸濁液を撹拌し、結晶を再び採取する精製法である。
【0057】
本発明のA結晶のスラリー精製に使用される溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル類;塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;エタノール;水;ヘキサンのような脂肪族炭化水素類;ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;アセトニトリルのようなニトリル類等の溶媒及びこれらの混合溶媒を挙げることができ、好適には、水、メタノール、テロヒドロフラン、またはそれらの混合溶媒であり、さらに好適には、水である。
【0058】
スラリー精製のために溶媒に懸濁した際、脱塩酸が起きることがあるがそのような場合は、塩化水素または塩酸を添加することで、A結晶を得ることができる。
【0059】
また、本発明のB結晶のスラリー精製に使用される溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル類;アセトニトリルのようなニトリル類;塩化メチレン、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;エタノール、イソプロパノールのようなアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミドのようなアミド類;水;ヘキサンのような脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテルのようなエーテル類等の溶媒及びこれらの混合溶媒を挙げることができ、好適には、水、メタノール、テロヒドロフラン、またはそれらの混合溶媒であり、さらに好適には、水である。
【0060】
スラリー精製のために溶媒に懸濁した際、脱塩酸が起きることがあるがそのような場合は、塩化水素または塩酸を添加することで、B結晶を得ることができる。
【0061】
再結晶及びスラリー精製で得られた結晶についても、上記と同様にして単離し、乾燥することができる。
【0062】
化合物(I)、及びその薬理学上許容される塩(特に好ましくは塩酸塩)が、優れたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化能を示すことは、特許第3488099号公報(国際公開第99/18081号パンフレット、米国特許第6432993号明細書、欧州特許第1022272号明細書)(特許文献1)、特開2003−238406号公報(国際公開第03/053440号パンフレット)(特許文献2)、特開2004−083574号公報(WO2004/000356号パンフレット)(特許文献3)、特開2005−162727号公報(WO2004/083167号パンフレット)(特許文献4)、国際公開第2007/091622号パンフレット(特許文献5)等に開示されるとおりである。
【0063】
特に、国際公開第2007/091622号パンフレット(特許文献5)では、化合物(I)およびその塩酸塩は、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、腎臓癌、前立腺癌、髄芽細胞腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、脂肪肉腫、多発性骨髄腫又は白血病を予防若しくは治療するための抗癌医薬組成物として有用であることが開示されている。
【0064】
具体的には、国際公開第2007/091622号パンフレット(特許文献5)中の試験例1では、化合物(I)の2塩酸塩が、ヒト胃癌細胞、ヒト乳癌細胞、小細胞肺癌、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、腎臓癌細胞、髄芽細胞腫、ヒト肉腫細胞(横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、脂肪肉腫)、多発性骨髄腫のいずれの癌細胞に対しても有意な増殖抑制活性を示したことが実験データとともに開示されている。
【0065】
また、同パンフレット(特許文献5)中の試験例2では、化合物(I)の2塩酸塩が、ヒト白血病細胞の増殖抑制活性を有意に抑制することが、実験データとともに開示されている。
【0066】
また、国際公開第2007/091622号パンフレット(特許文献5)中の試験例3では、化合物(I)の2塩酸塩が、ヒト大腸癌株に対してin vivoで有意な抗腫瘍活性を示すこと開示されている。
【0067】
また、同パンフレット(特許文献5)中の試験例4では、化合物(I)の2塩酸塩と上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)阻害剤とを併用することによって相乗的な癌細胞増殖抑制活性を示すことが開示されている。
【0068】
また、同パンフレット(特許文献5)中の試験例5では、化合物(I)の2塩酸塩が、ヒト非小細胞肺癌に対して抗腫瘍活性を有すること、ならびに上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)阻害剤との併用投与による抗腫瘍活性の増強が認められることが開示されている。
【0069】
また、同パンフレット(特許文献5)中の試験例6では、化合物(I)の2塩酸塩と血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤、Rafキナーゼ阻害剤とを併用することによって相乗的な癌細胞増殖抑制活性を示すことが開示されている。
【0070】
さらに、同パンフレット(特許文献5)中の試験例7では、化合物(I)の2塩酸塩が、ヒト腎臓癌に対して抗腫瘍活性を有すること、ならびに血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤やRafキナーゼ阻害剤との併用投与による抗腫瘍活性の増強が認められることが開示されている。
【0071】
従って、本発明の結晶は、医薬、特に、PPARγ活性化剤として有用であり、また、上述のような種々に癌種に対する治療剤又は予防剤(抗癌医薬組成物)として有用である。
【0072】
また、化合物(I)とその薬理学上許容される塩が、優れたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化能を示し、優れたインスリン抵抗性改善作用、血糖低下作用を有し、糖尿病(特に2型糖尿病)の予防または治療剤としても有用であることが、特許第3488099号公報(国際公開第99/18081号パンフレット、米国特許第6432993号明細書、欧州特許第1022272号明細書)(特許文献1)で開示されている。従って、本発明の結晶は、糖尿病(特に2型糖尿病)の予防又は治療用医薬組成物として有用である。
【0073】
さらに、本発明の結晶は、上述のように抗癌医薬組成物であることから、2型糖尿病を併発した癌の予防又は治療用医薬組成物として有用である。
【0074】
本発明の結晶を医薬、特に、PPARγ活性化剤、癌治療剤又は予防剤、糖尿病の治療剤又は予防剤として使用する場合には、それ自体、あるいは適宜の薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤等と混合し、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等による経口的又は注射剤若しくは坐剤等による非経口的に投与することができる。
【0075】
これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、ソルビットのような糖類;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプンのようなデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩類;リン酸カルシウムのようなリン酸塩類;炭酸カルシウムのような炭酸塩類;硫酸カルシウムのような硫酸塩類等)、結合剤(例えば、前記の賦形剤;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等)、崩壊剤(例えば、前記の賦形剤;クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された、デンプンまたはセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム;ビーズワックス、ゲイロウのようなワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸のようなカルボン酸類;安息香酸ナトリウムのようなカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウムのような硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;前記の賦形剤におけるデンプン誘導体等)、安定剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;無水酢酸;ソルビン酸等)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等)、懸濁化剤(例えば、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、希釈剤、製剤用溶剤(例えば、水、エタノール、グリセリン等)等の添加物を用いて周知の方法で製造される。
【0076】
本発明の結晶の使用量は投与される患者(哺乳動物、特にヒト)の症状、体重、年齢、投与方法等により異なるが、例えば、経口投与の場合には、1回当り、下限として0.001mg/kg体重(好ましくは、0.01mg/kg体重)、上限として、500mg/kg体重(好ましくは、50mg/kg体重)を、静脈内投与の場合には、1回当り、下限として0.005mg/kg体重(好ましくは、0.05mg/kg体重)、上限として、50mg/kg体重(好ましくは、5mg/kg体重)を1日当り1乃至数回症状に応じて投与することが望ましい。
【実施例】
【0077】
以下に実施例、試験例及び製剤例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
【0078】
(実施例1)<A結晶>
(1−1)
特許第3488099号公報の実施例8に記載の方法と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩(4.0g)を、窒素気流下で、室温でテトラヒドロフラン(40ml)−水(12ml)混合液に懸濁させ、ここへ25%水酸化ナトリウム水溶液(2.4g)を滴下し、溶液とした。この溶液を、窒素気流下で調整した活性炭(0.4g)のテトラヒドロフラン(12ml)縣濁液に滴下し、同温度で20分間攪拌した。活性炭を濾別した後、活性炭をテトラヒドロフラン(12ml)で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせ、ここへ水(12ml)を加えた。この溶液に38%塩酸(3.2g)とテトラヒドロフラン(12ml)の混合溶液を滴下した。反応混合液を45分間攪拌し、0℃まで冷却後、さらに2時間攪拌した。得られた結晶を濾別し、約80Pa、50℃で12時間乾燥した。この結晶を大気中で3時間放置し、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(3.64g)の結晶を得た。
【0079】
(1−2)
(1−1)で得られた結晶(2.0g)を水(40ml)に懸濁し、80℃で20分間間攪拌した。ここへ同温度で38%塩酸(1.1g)と水(8.4ml)の混合液を5分間かけて滴下し、1時間攪拌した。40℃まで冷却後、結晶を濾別し、水(6ml)で洗浄し5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の吸湿結晶を得た。得られた結晶を約80Pa、50℃で14時間乾燥した。この結晶を大気中で3時間放置し、図1に示す粉末X線回折の回折パターンを示す結晶形を有する5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(1.83g)の白色結晶(A結晶)を得た。
【0080】
(1−3)
(1−2)で得られた結晶の粉末X線回折(CuKα、λ=1.54オングストローム)の回折パターン図を図1に、図1に示す回折パターン図において最大ピーク強度を100とした場合の相対強度10以上のピークを表1に示す。図1中の数字は表1中のピーク番号に対応する。
【0081】
【表1】


これらのピークの中で、面間隔d値が、7.06、5.79、5.43、4.44、4.18、3.97、3.91、3.68、3.61、3.48、3.24及び2.97オングストロームであるピークが、特にA結晶に特徴的な主ピークである。
【0082】
(1−4)
図2に示差熱分析(DSC)チャートを示す。
【0083】
(実施例2)<A結晶>
(2−1)
特許第3488099号公報の実施例8に記載の方法と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩(2.0g)を室温でテトラヒドロフラン(20ml)−水(6ml)混合液に懸濁させ、ここへ25%水酸化ナトリウム水溶液(1.2g)を滴下し、溶液とした。この溶液を、脱気後、窒素置換処理した活性炭(0.2g)のテトラヒドロフラン(6ml)縣濁液に滴下し、同温度で20分間攪拌した。活性炭を濾別した後、活性炭をテトラヒドロフラン〈6ml〉で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせ、ここへ水(6ml)を加えた。この溶液に38%塩酸(1.6g)とテトラヒドロフラン(6ml)の混合溶液を滴下した。反応混合液を45分間攪拌し、0℃まで冷却後、さらに2時間攪拌した。得られた結晶を濾別後、水洗し、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の湿品結晶を得た。
【0084】
(2−2)
(2−1)で得た湿品結晶を水〈40ml〉に懸濁し、80℃で20分間間攪拌した。ここへ同温度で38%塩酸(1.1g)と水(8.4ml)の混合液を5分間かけて滴下し、1時間攪拌した。40℃まで冷却後、結晶を濾別し、水(6ml)で洗浄し5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の湿品結晶を得た。得られた湿品結晶を 4.3kPa、50℃で、12時間乾燥し、請求項2に記載した結晶形を有する5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の白色結晶を得た。この結晶の粉末X線回折パターンおよび示差熱分析チャートは実施例1で得られたA結晶のものと一致した。
【0085】
(実施例3)<A結晶>
(3−1)
実施例(1−1)と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(2.0g)を水(100mL)に懸濁し、2時間還流した。0℃まで冷却し、1時間攪拌後、結晶を濾別し、水で洗浄した。えられた湿品結晶を約80kPa、50℃で14時間乾燥し、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンと塩酸の比が約1対1.1となった結晶を得た。
【0086】
(3−2)
(3−1)で得た結晶を、を水(40ml)に懸濁し、80℃で38%塩酸(1.1g)と水(8.4ml)の混合液を5分間かけて滴下し、1時間攪拌した。0℃まで冷却後、結晶を濾別し、水(6ml)で洗浄し5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の湿品結晶を得た。得られた結晶を約80Pa、50℃で14時間乾燥した。この結晶を大気中で3日間放置し、請求項2に記載した結晶形を有する5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(1.83g)の白色結晶を得た。この結晶の粉末X線回折パターンおよび示差熱分析チャートは実施例1で得られたA結晶のものと一致した。
【0087】
(実施例4)<A結晶>
実施例(1−1)と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(4.0g)を窒素雰囲気下、水(160mL)に懸濁し、80℃で25%水酸化ナトリウム水溶液(1.08g)を滴下し、1時間攪拌した。65℃まで冷却後、同温度で38%塩酸(0.65g)と水(4mL)の混合液を滴下した。ここへ、A結晶(0.2g)を添加し、1時間攪拌後、同温度で38%塩酸(5.11g)と水(31.6mL)の混合液を1時間かけて滴下した。同温度で30分間攪拌した後、40℃まで冷却した。得られた結晶を濾別し、38%塩酸(0.31g)と水(12mL)の混合液で洗浄した。得られた結晶を約4.3KPa、50℃で17時間乾燥し、A結晶(3.98g)を得た。この結晶の粉末X線回折パターンおよび示差熱分析チャートは実施例1で得られたA結晶のものと一致した。
【0088】
(実施例5)<A結晶>
実施例(1−1)と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(5.0g)を窒素雰囲気下、水(300mL)に懸濁し、ここへ38%塩酸(1.94g)を滴下後、95℃で攪拌し溶液とした。ここへ同温度で38%塩酸(0.81g)と水(5mL)の混合液を滴下した。ここへA結晶(0.25g)を添加し、30分間攪拌した。さらに同温度で38%塩酸(6.14g)と水(38mL)の混合液を2時間かけて滴下し、30分間攪拌した。40℃まで冷却後、結晶を濾別し、38%塩酸(0.39g)と水(15mL)の混合液で洗浄した。得られた結晶を約4.3KPa、50℃で16時間乾燥し、A結晶(5.01g)を得た。この結晶の粉末X線回折パターンおよび示差熱分析チャートは実施例1で得られたA結晶のものと一致した。
【0089】
(実施例6)<B結晶>
(6−1)
実施例1と同じ方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の結晶(2.5g)をメタノール(50ml)に懸濁し、60℃で溶解させた。この溶液を0℃まで冷却し同温度で26時間攪拌した後、得られた結晶を約80Pa、50℃で16時間乾燥し、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩の約0.5水和物を得た。
【0090】
(6−2)
(6−1)で得られた5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩の約0.5水和物の結晶を室温、相対湿度約100%下で19時間放置し、図3に示す粉末X線回折の回折パターンを示す結晶形を有する5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物(1.6g)の白色結晶(B結晶)を得た。
【0091】
(6−3)
(6−2)で得られた結晶の粉末X線回折(CuKα、λ=1.54オングストローム)の回折パターン図を図3に、図3に示す回折パターン図において最大ピーク強度を100とした場合の相対強度7以上のピークを表2に示す。図3中の数字は表2中のピーク番号に対応する。
【0092】
【表2】
これらのピークの中で、面間隔d値が、10.42、5.85、5.52、3.84、3.46及び2.95オングストロームであるピークが、特にB結晶に特徴的な主ピークである。
【0093】
(6−4)
図4に示差熱分析(DSC)チャートを示す。
【0094】
(比較例1)
特許第3488099号公報の実施例8に記載の方法で、5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩を製造した。得られた化合物は、微赤紫色を呈した。この化合物の粉末X線回折(Cu Kα、λ=1.54 オングストローム)の回折パターン図を図5に示す。
(試験例)
【0095】
(試験例1)<含量測定>
実施例1で得られたA結晶と、比較例1で得られた化合物(実施例1に記載の、原料とした特許第3488099号公報の実施例8に記載の方法と同様の方法で得た5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩である。以下、同様である。)の含量をHPLCにて以下の分析法で測定した。
【0096】
0.01mol/mL酢酸水溶液に、0.01mol/mL酢酸アンモニウム水溶液を加え、pH=4.5に調整し、0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液とした。
【0097】
水、アセトニトリル、メタノールを体積比でそれぞれ、55対40対5の比率で混合し、試料溶解液とした。
【0098】
4−ヒドロキシ安息香酸イソアミル0.2gを試料溶解液に溶かし、200mLとし、内標準溶液とした。
【0099】
5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン 2塩酸塩・1水和物の標準品約0.03949gを精密に量り、200mLのメスフラスコに移し、試料溶解液に溶かして、200mLとした。この液5mLを正確に量り50mLのメスフラスコに移し、このメスフラスコに内標準液10mLを正確に加え、さらに試料溶解液を加え、50mLにし、標準溶液とした。
【0100】
含量測定の対象物約0.01gを精密に量り、10mLのメスフラスコに移し、ジメチルスルホキシド約2.5mLを加え溶液とした後、試料溶解液を加え10mLとした。この液2mLを正確に量り100mLのメスフラスコに移し、このメスフラスコに、内標準液20mLを正確に加え、さらに試料溶解液を加え、100mLにし、試料溶液とした。
【0101】
以下の試験条件で、含量を測定した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:290nm)
カラム:Waters社製、Symmetry C18(4.6mm x 100mm)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液−アセトニトリル(3対2)
流量:1mL/min(本条件では5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンは、約8分の保持時間を示した。)
標準溶液および試料溶液の注入量:10μL
ピーク面積測定範囲:注入開始から約20分。
【0102】
含量は、以下の計算式で与えられる。
【0103】
含量(%)=(Q×W×F)÷(Q×W
式中、
標準溶液調製時の標準品秤取量(g):W
試料溶液調製時の試料秤取量(g):W
標準品の純度係数:F
標準溶液のクロマトグラムにおける標準品のピーク面積を内標準のピーク面積で除した値:Q
試料溶液のクロマトグラムにおける試料のピーク面積を内標準のピーク面積で除した値:Q
得られた測定結果を表3に示す。
【0104】
【表3】

本発明のA結晶は、従来得られていた5−(4−{[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルフェノキシ)−1−メチル−1−H−ベンツイミダゾール−2−イル]メトキシ}ベンジル)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩(比較例1の化合物)より著しく純度が向上しており、また同時に本発明のA結晶取得法が高い精製効果を有していることがわかる。
【0105】
(試験例2)<不純物>
実施例1で得られたA結晶、及び、比較例1で得られた化合物の不純物の含有率をHPLCにて、以下に示す分析法で測定した。
【0106】
ここで、不純物の含有率とは、以下に示す測定条件のもと、ピーク面積比率が0.01%以上として測定された全てのピークの積分面積から、化合物(I)のピーク、及び、溶媒のみを注入したときに検出されるピークを除いたピーク面積の、化合物(I)のピーク面積に対する比率をいう。
【0107】
また、個々の不純物とは、ピーク面積比率が0.01%以上として測定されたピークで、化合物(1)のピーク、及び、溶媒のみを注入したときに検出されるピークを除いたピークの面積比率をいう。
【0108】
0.01mol/mL酢酸水溶液に、0.01mol/mL酢酸アンモニウム水溶液を加え、pH=4.5に調整し、0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液とした。
水、アセトニトリルを体積比でそれぞれ、3対2の比率で混合し、試料溶解液とした。
測定対象物0.01gを精密に量り、20mLの褐色メスフラスコに移し、ジメチルスルホキシド約1mLを加え溶液とした後、20mLとし、試料溶液とした。
【0109】
試料溶液1mLを正確に量り、100mLの褐色メスフラスコに移し、試料溶解液を加え、100mLとし、標準溶液とした。
【0110】
以下の試験条件で、測定した。
【0111】
HPLC測定条件(1)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Waters社製、XTerra RP18(4.6mm × 150mm)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液−アセトニトリル(65対35)
流量:1mL/min(本条件では、化合物(1)は約25分の保持時間を示した。)
標準溶液および試料溶液の注入量:10μL
面積測定範囲:注入開始から70分間。
【0112】
HPLC測定条件(2)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Waters社製、XTerra RP18(4.6mm × 150mm)
カラム温度:40℃
移動相:0.01mol/mL酢酸アンモニウム緩衝液−アセトニトリル(56対44)
流量:1mL/min(本条件では、化合物(1)は約8分の保持時間を示した。)
標準溶液および試料溶液の注入量:10μL
面積測定範囲:化合物(I)との相対保持時間が1.48のピークの次に溶出するピークから70分間。
【0113】
不純物の含有率を、以下の計算式により算出した。
【0114】
不純物の含有率(%)
= [HPLC測定条件(1)で測定した0.01%以上の個々の不純物の合計]+[HPLC測定条件(2)で測定した0.01%以上の個々の不純物の合計]

式中、
HPLC測定条件(1)で測定した0.01%以上の個々の不純物の合計(%)
=Ai1/AS1
HPLC測定条件(2)で測定した0.01%以上の個々の不純物の合計(%)
=Ai2/ AS2
上記式中、
HPLC測定条件(1)で測定した標準溶液中の化合物(1)のピーク面積:AS1
HPLC測定条件(1)で測定した0.01%以上の個々の不純物のピーク面積:Ai1
HPLC測定条件(2)で測定した標準溶液中の化合物(1)のピーク面積:AS2
HPLC測定条件(2)で測定した0.01%以上の個々の不純物のピーク面積:Ai2
得られた測定結果を、表4に示す。
【0115】
【表4】

本発明のA結晶取得法が高い不純物除去効果を有していることがわかる。
【0116】
(試験例3)<残留溶媒>
実施例で得られたA結晶とB結晶、及び、比較例1で得られた化合物の残留溶媒を下記分析法に準じてガスクロマトグラフにて測定した。
(1).A結晶およびB結晶のサンプル調整法
ジメチルホルムアミドと水を体積比で7対3の比率で混合し、希釈液とした。
【0117】
t−ブチルアルコール1mLを正確に量り、100mLのメスフラスコに移し、希釈液で溶かし、100mLとした。この液10mLを正確に量り、500mLのメスフラスコに移し、希釈液を加え500mLにし、内標準液とした。
【0118】
テトラヒドロフラン2mL、ジイソプロピルエーテル2mL、メタノール2mL、酢酸エチル2mL、酢酸2mL、および1,4−ジオキサン2mLを正確に量り、250mLのメスフラスコに移し、内標準溶液を加え、250mLとした。この液1mLを正確に量り、100mLのメスフラスコに移し、内標準溶液を加え、100mLとした。得られた溶液100mLから6mLを正確に量り、20mLのヘッドスペース用バイアル瓶に移した。バイアル瓶にゴム栓をし、アルミニウムキャップで巻き閉めて密栓し、標準溶液とした。
【0119】
測定対象試料0.1gを正確に量り、20mLのヘッドスペース用バイアル瓶に移し、
内標準溶液6mLを正確に加えた。バイアル瓶にゴム栓をし、アルミニウムキャップで巻き閉めて密栓した。60〜70℃の水浴中で振り混ぜながら試料を完全に溶かし、試料溶液とした。
(2).比較例1の化合物のサンプル調整法
t−ブチルアルコール1mLを正確に量り、100mLのメスフラスコに移し、クロロベンゼンで溶かし、100mLとした。この液10mLを正確に量り、500mLのメスフラスコに移し、クロロベンゼンを加え500mLにし、内標準液とした。
【0120】
テトラヒドロフラン2mL、ジイソプロピルエーテル2mL、メタノール2mL、酢酸エチル2mL、酢酸2mL、および1,4−ジオキサン2mLを正確に量り、250mLのメスフラスコに移し、内標準溶液を加え、250mLとした。この液1mLを正確に量り、100mLのメスフラスコに移し、内標準溶液を加え、100mLとした。得られた溶液100mLから6mLを正確に量り、20mLのヘッドスペース用バイアル瓶に移した。バイアル瓶にゴム栓をし、アルミニウムキャップで巻き閉めて密栓し、標準溶液とした。
【0121】
測定対象試料0.1gを正確に量り、20mLのヘッドスペース用バイアル瓶に移し、
内標準溶液6mLおよびトリブチルアミン100μLを正確に加えた。バイアル瓶にゴム栓をし、アルミニウムキャップで巻き閉めて密栓した。60〜70℃の水浴中で振り混ぜながら試料を完全に溶かし、試料溶液とした。
【0122】
(3)試験条件
以下の試験条件で、溶媒の残留量を測定した。
検出器:水素炎イオン化検出器
カラム:J&W社製、DB−624(0.53mm × 30m)
カラム温度:40℃(5分保持)→昇温(10℃/分)→260℃(3分保持)
試料気化室温度:250℃
検出器温度:300℃
キャリアーガス:ヘリウム
カラム流量:5mL/分(テトラヒドロフランの保持時間が約7分になるように調整した。)
スプリット比:1対10
試料注入方法:スプリット法
面積測定範囲:20分間。
【0123】
(4)ヘッドスペース装置の操作条件
バイアル内平衡温度(オーブン温度):85℃
バイアル内平衡時間:15分間
注入ライン温度
サンプルループ温度:95℃
トランスファーライン温度:110℃
キャリアーガス:ヘリウム
バイアル加圧時間:0.20分間
バイアル加圧圧力:約10kPa
サンプルループ充填時間:0.15分間
サンプルループ平衡時間:0.05分間
注入時間:1.0分間
試料注入量:1mL。
【0124】
(5)残留溶媒の計算方法
各溶媒の残留量は、以下の式で与えられる。
各溶媒の残留量(ppm)
=(2×D×Q×6×10000000)÷(Q×25000×W)
式中、
試料秤取量(g):W
各溶媒の密度(g/mL):D
標準溶液の各溶媒の内標準物質のピーク面積に対する面積の比:Q
試料溶液の各溶媒の内標準物質のピーク面積に対する面積の比:Q
得られた測定結果を、表5に示す。
【0125】
【表5】

本発明のA結晶およびB結晶には残留溶媒は1種しかなく、その量も非常に少ないことがわかる。
【0126】
(試験例4)<色調>
被検物質約1gを白紙上に取り、色調を観察した。試験結果を表6に示す。
【0127】
【表6】

本発明のA結晶取得法が高い脱色効果を有していることがわかる。
【0128】
(試験例5)<溶解性試験>
以下の方法で模擬胃液に対する化合物(I)のA結晶とB結晶の溶解度を測定した(フリー体換算)。
【0129】
10倍濃度の日局崩壊試験法第1液(関東化学より購入)を精製水で10倍に希釈し、模擬胃液とした。測定対象となる結晶約80mgを正確に量り、25mLのメスフラスコに移し、メタノールで溶かし25mLとした。この液2mLを50mLのメスフラスコに移し、模擬胃液を加え50mLとし、標準溶液とした。
【0130】
溶出試験機NTR−6100A(富山産業社製)を用いて、37℃の模擬胃液500mLに対象となる結晶約100mgを投入し、パドル(250rpm)で攪拌した。60分後、試験液をサンプリングした。標準溶液およびサンプリングした試験液の289nmおよび360nmの吸光度を、紫外可視分光光度計で測定した。
【0131】
溶解度は、以下の式で算出される。
溶解度(μg/mL)={(AS289−AS360)×W×1000×502.58}
÷{(AT289−AT360)×625×593.52}
式中、
標準溶液調製に使用した結晶の秤取量(mg):W
標準溶液の289nmでの吸光度:AS289
標準溶液の360nmでの吸光度:AS360
試験液の289nmでの吸光度:AT289
試験液の360nmでの吸光度:AT360
化合物(I)の2塩酸塩・1水和物の分子量:593.52
化合物(I)のフリー体の分子量:502.58

得られた試験結果を、表7に示す。
【0132】
【表7】

本発明のA結晶及びB結晶は、医薬品の原体として、十分な溶解度を示した。
(製剤例)
【0133】
(製剤例1)<カプセル剤>
実施例1で得られたA結晶5g、乳糖115g、トウモロコシデンプン58gおよびステアリン酸マグネシウム2gをV型混合機を用いて混合した後、3号カプセルに180mgずつ充填するとカプセル剤が得られる。
【0134】
(製剤例2)<錠剤>
実施例1で得られたA結晶5g、乳糖90g、トウモロコシデンプン 34g、結晶セルロース20gおよびステアリン酸マグネシウム1gをV型混合機を用いて混合した後、1錠当り150mgの質量で錠剤機で打錠すると錠剤が得られる。
【0135】
(製剤例3)<懸濁剤>
メチルセルロースを精製水に分散、溶解させた分散媒を調製し、実施例1で得られたA結晶を乳鉢に量り取り、前述した分散媒を少量ずつ加えながらよく練合し、精製水を加えて懸濁液100gを調製する。
図1
図2
図3
図4
図5