(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748977
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】アミノ酸から誘導される単量体を重合させた水不溶性担体
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20150625BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20150625BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20150625BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20150625BHJP
C08F 263/04 20060101ALI20150625BHJP
C07K 1/20 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
A61M1/36 545
B01J20/26 H
B01J20/30
B01D15/00 101Z
B01D15/00 M
C08F263/04
!C07K1/20
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-216115(P2010-216115)
(22)【出願日】2010年9月27日
(65)【公開番号】特開2012-71223(P2012-71223A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2013年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸彦
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−007835(JP,A)
【文献】
特表2010−528271(JP,A)
【文献】
特開平01−199643(JP,A)
【文献】
特開昭57−122875(JP,A)
【文献】
特開平11−322997(JP,A)
【文献】
特開平02−211242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00− 1/36
B01J 20/00−20/34
B01D 15/00−15/08
C08F 263/04
G01N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体に血液を接触させて血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を除去する方法であって、
前記水不溶性担体は、単量体を重合させたポリマーから構成され、
前記単量体の少なくとも1種以上が、メタクリル酸のカルボン酸とアミノ酸のアミノ基が直接アミド結合した単量体(1)であることを特徴とする血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、メタクリル酸のカルボン酸とアミノ酸のアミノ基が直接アミド結合した単量体(1)と、前記単量体(1)以外の単量体(2)を、少なくとも一種以上含む単量体混合物を重合させたものである請求項1記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、単量体として始めに前記単量体(1)以外の単量体(2)を重合させ、次に前記単量体(1)を重合させたものである請求項2記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、少なくとも前記単量体(2)として酢酸ビニルを重合させた後、鹸化したものである請求項2または3に記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレートまたはグリセリンジメタクリレートにより架橋されたものである請求項1から4のいずれかに記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項6】
アミノ酸がトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンまたはそれらの類似体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
【請求項7】
液の入口および出口を有しかつ、水不溶性担体の容器外への流出防止手段を備えた容器内に水不溶性担体を充填してなる、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器であって、
前記水不溶性担体は、単量体を重合させたポリマーから構成され、
前記単量体の少なくとも1種以上が、メタクリル酸のカルボン酸とアミノ酸のアミノ基が直接アミド結合した単量体(1)であることを特徴とする血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【請求項8】
前記ポリマーが、メタクリル酸のカルボン酸とアミノ酸のアミノ基が直接アミド結合した単量体(1)と、前記単量体(1)以外の単量体(2)を、少なくとも一種以上含む単量体混合物を重合させたものである請求項7記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【請求項9】
前記ポリマーが、単量体として始めに前記単量体(1)以外の単量体(2)を重合させ、次に前記単量体(1)を重合させたものである請求項8に記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【請求項10】
前記ポリマーが、少なくとも前記単量体(2)として酢酸ビニルを重合させた後、鹸化したものである請求項8または9に記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【請求項11】
前記ポリマーが、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレートまたはグリセリンジメタクリレートにより架橋されたものである請求項7から10のいずれかに記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【請求項12】
アミノ酸がトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンまたはそれらの類似体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用吸着体として使用可能な、アミノ酸から誘導される単量体を重合させた水不溶性担体の製造方法、及び、それを用いた免疫グロブリン吸着材および/または免疫グロブリン複合体の吸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症(DCM)は心室の筋肉の収縮が極めて悪くなり、心臓が拡張してしまう疾患で肥大型心筋症に比べると極めて予後が悪い。我が国では診断されてから5年生存している人は約50%とされている。拡張型心筋症の治療は、心臓移植が根治療法として望まれるが待機数に対して提供数が不足しており、心不全に対する対症療法が主体となっている。また、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬の投与により心機能や予後が改善する症例が報告されているが、より効果的な治療薬や治療法が望まれている。近年、DCM患者の血液中に、自己に対して反応性を持つ免疫グロブリンおよび/ または免疫グロブリン複合体が多種検出されており、これらがDCM発症の引き金となるデータが報告されている。
【0003】
また慢性関節リウマチ、全身性エリトマトーデス、ギランバレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患、あるいは糸球体腎炎、臓器移植の拒絶反応、腫瘍、感染症などの疾患において、血液中に存在する免疫グロブリンおよび/ または免疫グロブリン複合体が、これら疾患および現象の原因または進行に密接な関係を有することが明らかになりつつある。
【0004】
そこで、血液、血漿などの体液中から免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着除去することにより、上記疾患の進行を防止し、症状を軽減し、さらには治癒を促進することを期待して、いくつかの吸着除去材の利用が試みられてきている。例えば、免疫グロブリンとの結合性を有するプロテインAをマトリックス上に固定化した分離媒体は、免疫グロブリンG およびその免疫グロブリン複合体に特異性が高い吸着材として知られている(特許文献1)。また、疎水性化合物を不溶性担体上に固定化した免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材(特許文献2)は、既に本邦で臨床応用されている。
【0005】
しかしながら、これまで試みられてきた吸着材、例えば上記プロテインA 吸着材は、リガンドであるプロテインA が黄色ブドウ球菌由来の分子量約4.2万ダルトンの異種タンパク質であるため、体液に接触させて使用する際にプロテインA の溶出によってその抗原性から生ずる副作用の危険性があること、滅菌時の安定性に問題があり滅菌方法が限定されること、固定化後の保存安定性に欠けることなどの欠点がある。またリガンドのプロテインAが非常に高価であることから再利用することが前提になっており、使用が血漿処理に限定されること、安全性に対する懸念があることなど他にも多くの欠点がある。また、特開昭57-122875号公報に記載されている免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材は、疎水性化合物を固定化していることから血液適合性が悪く血球成分を含む全血を処理できないという欠点がある。
【0006】
このように従来知られている免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着するための吸着材は、安全性、安定性、コスト、血液適合性などの観点から、多くの問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2000−500649号公報
【特許文献2】特開平9−77790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はリガンド固定化工程を必要としない免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材として使用可能な水不溶性担体、及び、その製造方法を提供することである。また、上記水不溶性担体を用いた免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法、吸着器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、アミノ酸から誘導される単量体を重合した水不溶性担体が効率的に免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明に関する。
(1)
水不溶性担体に血液を接触させて血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去する方法であって、
前記水不溶性担体は、単量体を重合させたポリマーから構成され
、前記単量体の少なくとも1種以上が、アミノ酸から誘導される単量体であることを特徴とする
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(2)前記ポリマーが、アミノ酸から誘導される単量体と、前記単量体以外の単量体を、少なくとも一種以上含む単量体混合物を重合させたものである(1)記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(
3)アミノ酸から誘導される単量体が、メタクリル酸とアミノ酸が共有結合で結合されていることを特徴とする(
1)または(2)に記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(
4)アミノ酸から誘導される単量体以外の単量体がメタクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレン、酢酸ビニルからなる少なくとも一種であることを特徴とする(2)に記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(
5)アミノ酸がトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンまたはそれらの類似体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(1)から(
4)のいずれかに記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の除去方法。
(
6)
液の入口および出口を有しかつ、水不溶性担体の容器外への流出防止手段を備えた容器内に水不溶性担体を充填してなる、血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器であって、
前記水不溶性担体は、単量体を重合させたポリマーから構成され
、前記単量体の少なくとも1種以上が、アミノ酸から誘導される単量体であることを特徴とする
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
(
7)前記ポリマーが、アミノ酸から誘導される単量体と、前記単量体以外の単量体を、少なくとも一種以上含む単量体混合物を重合させたものである(
6)記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
(
8)
アミノ酸から誘導される単量体が、メタクリル酸とアミノ酸が共有結合で結合されていることを特徴とする(
6)または(7)に記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
(
9)
アミノ酸から誘導される単量体以外の単量体がメタクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレン、酢酸ビニルからなる少なくとも一種であることを特徴とする(
7)記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
(
10)
アミノ酸がトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンまたはそれらの類似体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(
6)から(
9)のいずれかに記載の
血液中の免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リガンド固定化工程を必要としない、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体の吸着材を得ることができる。この吸着材はペプチドやタンパク質を必要とせず、さらにはリガンド固定化工程も不必要であるため、非常に安価に製造することも可能である。従って、本発明は既存材料や既存方法と全く異なる新規な材料・方法であり、医療分野へ深く貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明における担体を詰めた吸着器の一実施例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の最良の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0014】
本発明におけるアミノ酸を含む単量体としては、具体的にはメタクリル酸とアミノ酸が共有結合で結合している化合物である。担体合成や免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する親和性の上ではメタクリル酸とアミノ酸はメタクリル酸のカルボン酸とアミノ酸のアミノ基がアミド結合で結合したように直接共有結合していてもリンカーで間接的に共有結合していても良いが、単量体作製の観点から前者の方が好ましい。更に、単量体は重合されるため、メタクリル酸のような2重結合を有する必要がある。
【0015】
本発明におけるアミノ酸とは免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対して親和性のある環状構造を有するアミノ酸で、具体的にはトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンなどの環状側鎖を有するアミノ酸である。本発明におけるトリプトファン誘導体、フェニルアラニン誘導体、チロシン誘導体、ヒスチジン誘導体とは、トリプトファンエチルエステル、トリプトファンメチルエステルなどの疎水性アミノ酸エステル類やトリプトアミン、トリプトファノールなどのインドール環を有する疎水性アミノ酸誘導体を指すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。またこれらのアミノ酸及びその誘導体はL体、D体、DL体、これらの混合物であってもよい。さらに2種以上の混合物であっても良い。これらのアミノ酸及びその誘導体の中でも、1つ目に天然型アミノ酸であり安全性が高いこと、2つ目に免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対して親和性が高いこと、以上の2点よりL−トリプトファンが好ましく用いられる。
【0016】
本発明におけるアミノ酸を含まない単量体とは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレン、酢酸ビニルなど、文字通りアミノ酸を含まない単量体のことであり、上記アミノ酸を含む単量体と重合できる2重結合を有する必要がある。
【0017】
本発明における水不溶性担体とは、常温常圧で固体であり、水不溶性であることを意味する。本発明における水不溶性担体は、球状、粒状、糸状、中空状、平膜状等、形状は特に問わず、その大きさも特に限定されない。水不溶性担体は比表面積が大きいほど免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体に対する性能が優れることから、球状または粒状が特に好ましく用いられる。球状または粒状の担体は適当な大きさの細孔を多数孔有する、すなわち、多孔構造を有する担体であることが好ましい。多孔構造を有する担体とは、基礎高分子母体が微小球の凝集により1個の球状粒子を形成する際に微小球の集塊によって形成される空間(マクロポアー)を有する担体のばあいは当然であるが、基礎高分子母体を構成する1個の微小球内の核と核との集塊の間に形成される細孔を有する担体の場合、あるいは三次元構造(高分子網目)を有する共重合体が親和性のある有機溶媒で膨潤された状態の時に存在する細孔(ミクロポアー)を有する担体の場合も含まれる。
【0018】
また吸着材の単位体積あたりの吸着能から考えて、多孔構造を有する水不溶性担体は、表面多孔性よりも全多孔性が好ましく、また空孔容積および比表面積は、吸着性が損なわれない程度に大きいことが好ましい。
【0019】
水不溶性担体が球状または粒状である場合、本発明の吸着材が全血処理である点を考えれば担体の平均粒径は大きいほど良いが、吸着効率の面では平均粒径は小さいほど良い。本発明における吸着材として、全血処理と良好な吸着性能が発揮できる吸着材の平均粒径は100μm以上1000μm以下であることが好ましく、良好な血球通過性と吸着性能が発揮できる点からさらに好ましくは200μm以上800μm以下であり、さらに好ましくは400μm以上600μm以下である。
【0020】
また水不溶性担体は強度を高くする目的で架橋されていても良い。架橋剤はトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、グリセリンジメタクリレート(GDMA)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
本発明に記載した水不溶性担体の重合法としては、懸濁重合や均一液滴化などが考えられるが、本発明はこれらに限定されない。例えば、2種類以上のモノマーで重合させる場合、始めに同時に2種類のモノマー共存下で重合させる方法でも良く、始めに1種類のみ重合させて、2種類目のモノマーをシード重合のように重合させる方法でも良く、重合方法には囚われるものではない。
【0022】
本発明における免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体とは例えば、自己免疫疾患における自己抗体および/または免疫複合体などが考えられる。さらに具体的にはリウマチ因子、抗核抗体、抗DNA抗体、抗リンパ球抗体、抗赤血球抗体、抗血小板抗体、抗アセチルコリンレセプター抗体、血清脱随抗体、抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体、抗大腸抗体、抗平滑筋抗体、抗表皮細胞間抗体、抗基底膜抗体、抗プロテオグリカン抗体、抗コラーゲン抗体、抗胃内因子抗体、抗甲状腺ミクロソーム抗体、抗動脈抗体、抗アドレノセプター抗体等の自己抗体および/またはその免疫複合体などである。
【0023】
本発明の吸着材を用いて、免疫グロブリンおよび/または免疫グロブリン複合体を吸着する方法としては最も簡便な方法としては血液を取り出してバッグなどに貯留し、これに吸着材を混合して悪性物質を吸着した後、吸着材を濾別して悪性物質が除去された血液を得る方法がある。この方法は、血液を原材料として医薬品(例:血液製剤、ワクチン、遺伝子組換製剤)又は医療材料を製造する際にも、適用することができる。次の方法は血液の入口と出口を有し、出口には血液は通過するが吸着材は通過しないフィルターを装着した容器に吸着材を充填し、これに血液を流す方法がある。いずれの方法も用いることができるが、後者の方法は操作も簡便であり、また体外循環回路に組み込むことにより患者の血液から効率よくオンラインで悪性物質を除去することが可能である。特に本発明の吸着材は血液適合性が非常に高いことから、血漿分離を必要とせず血球成分を含む血液を直接処理することができるため、オンラインで処理する後者に利用するのが最適である。また体外循環回路では吸着材を単独で用いることもできるが、他の体外循環治療システムとの併用も可能である。併用の例としては、人工透析回路などがあげられ、透析療法との組み合わせに用いることもできる。
【0024】
次に、オンラインで体外循環する際の一実施例を、概略断面図である
図3に基づき説明する。
図3中、1は液体の流入口、2は液体の流出口、3は本発明にける吸着材、4および5は液体および液体に含まれる成分は通過できるが3の吸着材は通過できないフィルター、6はカラム、7は吸着器である。しかしながら、体外循環としての吸着器はこのような具体例に限定されるものではなく、液の入口、出口を有し、かつ吸着材の容器外への流出防止具を備えた容器内に前記吸着材を充填したものであれば、どのようなものでもよい。
【0025】
前記流出防止具には、メッシュ、不織布、綿栓などのフィルターがあげられる。また、容器の形状、材質、大きさにはとくに限定はないが、形状としては筒状容器が好ましい。容器の材質として好ましいのは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。容器の容量は50ml以上、1500ml以下で、直径は2cm以上、20cm以下が好ましい。容器の容量が50mlより小さいと吸着量が充分でなく、1500mlより大きいと体外循環量が多くなるので好ましくない。容器の直径が2cmより小さいと線速が大きくなるため圧力損失が大きくなり好ましくない。20cmより大きいと取り扱いにくくなるうえ線速が小さくなるため凝固の危険性があり好ましくない。効果的な吸着量があり、安全性に優れているという点から容量は100ml以上、800ml以下で、直径は3cm以上、15cm以下がさらに好ましく、容量は150ml以上、400ml以下で、直径は4cm以上、10cm以下が特に好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
酢酸ビニル45g、トリアリルイシシアヌレート13.95g、ヘプタン23.85g、酢酸エチル51.75g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)4.32g、および、重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)2.25gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.045g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0099g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.26g、亜硝酸ナトリウム0.0171gを溶解した水303.39mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0028】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン18.0gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で3時間反応させた。
【0029】
次いでセパラブルフラスコの内容物に塩酸を加えてpHを2以下に調整し第三リン酸カルシウムを溶解させ、その後水で良く洗浄した。洗浄液のpHが中性付近になったことを確認した後、水をアセトンで置換し、重合物をアセトンで十分に洗浄した。次いでアセトンを水で置換した後、酢酸ビニル単位に対して過剰量となるよう下式の量の水酸化ナトリウム(NaOH)を水溶液として加えた。
【0030】
NaOH(固形分重量)=粒子乾燥重量/86.09×40×1.5
なお水に対するNaOH濃度が4重量%になるように水量は調整した。これを撹拌下、反応温度40℃で6時間保持して鹸化を行った。その後、洗浄液のpHが中性付近になるまで水洗し、さらに80℃の温水で十分に洗浄を行った。次いで121℃、20分間のオートクレーブ処理を行い、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり47.5μmolであった。
【0031】
(実施例2)
酢酸ビニル50g、トリアリルイシシアヌレート15.50g、ヘプタン26.50g、酢酸エチル57.50g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)4.80g、および、V−65 2.50gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.050g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0110g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.51g、亜硝酸ナトリウム0.0190gを溶解した水337.10mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0032】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン20.0g、トリアリルイシシアヌレート10.0g、V−65 2.5gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で3時間反応させた。
【0033】
次いで実施例1と同様の後処理を行うことにより、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり36.8μmolであった。
【0034】
(実施例3)
酢酸ビニル45g、トリアリルイシシアヌレート22.50g、ヘプタン26.10g、酢酸エチル58.50g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)2.88g、および、V−65 2.25gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.050g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0108g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.52g、亜硝酸ナトリウム0.0189gを溶解した水338.04mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0035】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン18.0g、V−65 2.25gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で3時間反応させた。
【0036】
次いで実施例1と同様の後処理を行うことにより、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり54.0μmolであった。
【0037】
(実施例4)
酢酸ビニル45g、トリアリルイシシアヌレート22.50g、ヘプタン26.10g、酢酸エチル58.50g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)2.88g、および、V−65 2.25gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.050g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0108g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.52g、亜硝酸ナトリウム0.0189gを溶解した水338.04mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0038】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン18.0g、トリアリルイシシアヌレート4.50g、V−65 2.25gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で3時間反応させた。
【0039】
次いで実施例1と同様の後処理を行うことにより、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり50.5μmolであった。
【0040】
(実施例5)
酢酸ビニル50g、トリアリルイシシアヌレート15.50g、ヘプタン26.50g、酢酸エチル57.50g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)4.80g、および、V−65 2.50gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.050g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0110g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.51g、亜硝酸ナトリウム0.0190gを溶解した水337.10mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0041】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン20.0g、エチレングリコールジメタクリレート5.0gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で3時間反応させた。
【0042】
次いで実施例1と同様の後処理を行うことにより、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり53.3μmolであった。
【0043】
(実施例6)
酢酸ビニル45g、トリアリルイシシアヌレート13.95g、ヘプタン23.85g、酢酸エチル51.75g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)4.32g、および、V−65 2.25gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール0.045g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.0099g、微粒子状の第三リン酸カルシウム2.26g、亜硝酸ナトリウム0.0171gを溶解した水303.39mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で反応させた。
【0044】
2時間後、メタクリロイルーL−トリプトファン18.0gをアセトンに溶かした溶液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で反応させた。
【0045】
2時間後、攪拌数を上げて、酢酸ビニル16.2g、ヘプタン5.1g、酢酸エチル9.77g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)1.55g、および、V−65 0.81gよりなる均一混合液を、前記セパラブルフラスコ中の反応液に少しずつ添加し、さらに65℃で4時間反応させた。
【0046】
次いで実施例1と同様の後処理を行うことにより、清浄な架橋ポリマー粒子を得た。非水滴定によりトリプトファン固定化量を測定したところ、膨潤体積1mL当たり38.5μmolであった。
【0047】
(試験)
実施例1から6で得られた各担体を膨潤体積にして0.5mL採取し、クエン酸で抗凝固した血漿3.3mLを添加し、37℃で2時間振とうした。担体と未接触で同様に37℃で2時間振とうした血漿と担体と接触後の血漿の免疫グロブリンGの濃度を測定した。各担体と接触させた血漿中の免疫グロブリンG濃度と同条件で担体と未接触の免疫グロブリンG濃度の結果を表1に示した。
【0048】
【表1】
【符号の説明】
【0049】
1.液体の流入口
2.液体の流出口
3.担体
4、5.液体および液体に含まれる成分は通過できるが、担体は通過できないフィルター
6.カラム
7.吸着器