(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748979
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】エタノールの製造装置及びそれを用いた製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20150625BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20150625BHJP
C12P 7/06 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
C12M1/00 DZAB
B09B3/00 A
B09B3/00 D
C12P7/06
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-229750(P2010-229750)
(22)【出願日】2010年10月12日
(65)【公開番号】特開2012-80824(P2012-80824A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】392019857
【氏名又は名称】株式会社アクトリー
(73)【特許権者】
【識別番号】510271163
【氏名又は名称】熊谷 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝二郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英彦
【審査官】
長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−217639(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/086391(WO,A1)
【文献】
特開2009−263355(JP,A)
【文献】
特開2004−208667(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/079362(WO,A1)
【文献】
新村出編,広辞苑第5版,株式会社岩波書店,第1688頁
【文献】
J. Brew. Soc. Japan.,1990年,Vol.86, No.10,pp.745-749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン質原料又は/及びセルロース質原料投入手段と、
糖化処理と耐熱好気性酵母による発酵を連続的に行うための培養タンクと、
前記培養タンク中の発酵した培養液に当該発酵を進行させながらエアーを吹き込むためのエアー吹き込み手段と、
前記エアーの吹き込みにより排出されるガス中からエタノールを回収するための蒸留手段とを備えたことを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項2】
前記培養タンクから発生する培養残渣を焼却する焼却炉と、
前記蒸留手段から発生する蒸留廃液を前記焼却炉から発生する排ガスの減温処理に使用することで、焼却装置と連結したことを特徴とする請求項1記載のエタノール製造装置。
【請求項3】
前記培養タンクは熱媒体循環部を有し、当該熱媒体循環部に循環させる熱媒体の熱源として前記焼却炉から発生する廃熱を利用することを特徴とする請求項2記載のエタノール製造装置。
【請求項4】
培養タンクにデンプン質原料又は/及びセルロース質原料を投入するステップと、
培養タンクに糖化能を有する、酵素又は遺伝子組み換え型耐熱好気性酵母を投入し糖化処理するステップと、
前記酵素で糖化処理した場合は糖化処理後に耐熱好気性酵母を投入し、又は前記遺伝子組み換え型耐熱好気性酵母で糖化処理した場合はそのままアルコール発酵する発酵ステップと、
前記発酵液にエアーを吹き込み、前記アルコール発酵を進行させながら連続的にエタノールを回収するステップとを有することを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項5】
培養タンクの温調に、培養タンクから発生する培養残渣を焼却して発生する廃熱を利用したことを特徴とする請求項4記載のエタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物に属するデンプン質原料やセルロース質原料を用いた連続発酵蒸留によるバイオエタノールの製造装置及び製造方法に関し、特に焼却炉と連結することで食品廃棄物、野菜等の余剰生産物等の廃棄物処理とバイオエタノール製造との一体化に好適な装置及び方法に係る。
【背景技術】
【0002】
小麦やトウモロコシ等の食料ともなる原材料を用いたバイオエタノールの製造方法では食料供給に影響を与えることから、厨房等から排出される食品廃棄物からエタノールを製造する方法が提案されている(特許文献1)。
しかし、同公報に記載されているような従来のバイオエタノールの製造方法にあっては、第1に糖化及び培養後にバッチで蒸留処理するものであり、連続的にエタノールを製造できるものではなかった。
第2にバイオエタノールの製造に用いる熱源に外部から購入する燃料や電気が必要であり、多量に発生する培養残渣や蒸留廃液の処理を外部委託に頼っているために高コストの一因になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−183863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、製造フローが短く、装置の小型化低コスト化が容易で、食品廃棄物を原料とした場合に焼却炉と一体化が可能なエタノールの製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るエタノール製造装置は、デンプン質原料又は/及びセルロース質原料投入手段と、糖化処理と
耐熱好気性酵母による発酵を連続的に行うための培養タンクと、前記培養タンク中の発酵した培養液に
当該発酵を進行させながらエアーを吹き込むためのエアー吹き込み手段と、前記エアーの吹き込みにより排出されるガス中からエタノールを回収するための蒸留手段とを備えたことを特徴とする。
【0006】
ここでデンプン質原料及びセルロース質原料とは、デンプンやセルロースが含まれている原料を意味し、家庭や外食産業から発生する生ゴミ等の食品廃棄物、食品の加工工程から生じる廃棄物、野菜等の余剰生産物等であってもよく、特に本発明にあっては、米のとぎ汁のような、従来はバイオエタノールの原料にできなかったものも対象にできる。
【0007】
本発明にて特徴的なのは、アルコール発酵に用いる酵母に好気性の菌株を採用することで、エアーを吹き込みながら連続的にエタノールの回収及び蒸留が可能になった点にある。
【0008】
また、前記培養タンクから発生する培養残渣を焼却する焼却炉と、前記蒸留手段から発生する蒸留廃液を前記焼却炉から発生する排ガスの減温処理に使用することで、焼却装置と連結するとエタノールの製造に伴って発生する培養残渣を燃焼させることで糖化処理及び発酵の熱源に使用でき、蒸留廃液を焼却炉の排ガスの減温処理に用いることができ、装置全体のエネルギー源の省エネルギー化を図るのに効果的である。
ここで、前記培養タンクは熱媒体循環部を有し、当該熱媒体循環部に循環させる熱媒体の熱源として前記焼却炉から発生する廃熱を利用することもできる。
【0009】
上記のようなエタノール製造装置を用いた本発明に係るエタノールの製造方法は、培養タンクにデンプン質原料又は/及びセルロース質原料を投入するステップと、培養タンクに糖化能を有する、酵素又は遺伝子組み換え型
耐熱好気性酵母を投入し糖化処理するステップと、前記
酵素で糖化処理した場合は糖化処理後に
耐熱好気性酵母を投入
し、又は前記遺伝子組み換え型耐熱好気性酵母で糖化処理した場合はそのままアルコール発酵する発酵ステップと、前記発酵液にエアーを吹き込み、
前記アルコール発酵を進行させながら連続的にエタノールを回収するステップとを有することを特徴とする。
糖化処理には一般的に糖化酵素を用いるが遺伝子組み換え技術により、糖化能を有する好気性酵母を用いると、そのまま連続してアルコール発酵も行うことができる。
ここで、培養タンクの温調に、培養タンクから発生する培養残渣を焼却して発生する廃熱を利用してもよい。
【0010】
本発明にあっては、培養タンクにデンプン質原料、セルロース質原料を投入、乾物重量で1〜60%、好ましくは20〜40%になるように水分調整し、原料の材質に合うような酵素を選択し、焼却炉の廃熱を利用して最適温度に温調する。
例えば、セルロース質原料が主な場合に酵素としてセルラーゼを使用し、25℃〜70℃、好ましくは45℃〜50℃に温調する。
また、セルロース質原料をセルラーゼで酵素処理する前に90℃〜100℃×1〜2時間加熱すると殺菌効果があり、その後の雑菌混入を抑えることができる。
また、デンプン質原料が主な場合には酵素としてアミラーゼを使用する。
α−アミラーゼを使用する場合は、82℃〜86℃×約2時間、グルコアミラーゼを使用する場合は60℃〜65℃×24〜48時間が好ましい。
【0011】
前記のように温調及び撹拌し糖化処理が終了すると、次に培養タンクを30℃〜50℃、好ましくは36℃〜45℃に温調し、好気性の耐熱性酵母(kluyveromyces marxianus)を添加し、培養する。
この場合にpH3.5〜7.0、好ましくは4.5〜5.5に調整されているのがよい。
アルコール発酵が進行すると、エアー吹き込み手段にて培養液中にエアーを吹き込むことでエアーとともにエタノールが排出される。
これを蒸留塔に通過させることで、濃度90%以上、特に99%以上のエタノールが得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエタノールの製造装置にあっては、培養タンクに食品廃棄物等を投入し、水分調整した後に糖化処理するステップと発酵処理するステップ及びその後に連続的にエタノールの蒸留が行えるので、装置がコンパクトで設備投資が従来法よりも少なくてよい。
また、処理フローが簡単なので原材料の変更やバラツキにも対応しやすく、安定したエタノールの製造が可能である。
さらに、焼却炉と組み合せることで培養残渣物をエタノール製造装置の熱源として利用できるだけでなく、蒸留廃液を焼却炉の排ガスの減温処理に利用できるので相互に有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るエタノール装置の構成例を示す。
【
図2】培養タンク中のグルコース変化とエタノール発生の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るエタノール装置の構成例を
図1に基づいて説明する。
図1において実線で囲んだ部分が直接的にエタノールの製造に関与する装置であり、点線で囲んだ部分が焼却装置を組み合せた部分である。
本実施例では、原材料毎に温調範囲が相違しても対応できるように培養タンク10A、10Bの二基を備えた例になっているが、培養タンクが少なくとも一基以上備えていれば、その数に制限はない。
培養タンク10A、10Bは原材料の投入口11と発生したエタノール含有ガスを取り出すための排出口12を有し、この排出口12は蒸留塔20に配管連結されている。
培養及びエタノールの発生が終了した培養残渣物は残渣取出口14から排出され、焼却炉30の残渣物投入口14aに投入され焼却される。
残渣物は必要に応じて着火バーナー30a及び2次燃焼バーナー30bにより制御された焼却炉30で燃焼し、高温の排ガスは予冷器31及び減温器32にて減温され、バクフィルター33等にて浄化後に誘引ファン34を介して煙突35から大気中に放出される。
予冷器31にて約1000℃以下に温度が下がった排ガスは熱交換器32aを介して熱媒体の加温に使用され、この熱媒体はジャケット構造の培養タンクの熱媒体IN13aから流入し、熱媒体OUT13bを介して熱交換器32aに循環される。
また、培養タンク10A,10Bには図示を省略したエアーの吹き込み手段を有し、蒸留前エタノールが排出口12からエアーとともに排出し、蒸留塔20にて高濃度のエタノールに蒸留される。
蒸留塔20から発生する蒸留廃液17は予冷器31及び減温器32中に噴露気化され、排ガスの減温処理に用いられる。
これによりエタノールの製造と廃棄物の焼却処理とを組み合せることが可能になり、有機系の廃棄物処理を行いながらエタノールの製造を行うことも可能になる。
【0015】
次に、米のとぎ汁を用いてエタノールの製造実験を実施したので以下説明する。
培養タンクに、米のとぎ汁45kg(固形分約86g)と窒素源として硫化アンモニウム100gを投入し、前処理として70℃×3時間保温した。
次に、培養タンクを50℃に温調し、アミラーゼ(グルコアミラーゼ4,000,000units、α−アミラーゼ7,500,000units)を加え、撹拌しながら約2時間保持した。
次に培養タンクを45℃に温調し、酵母(kluyveromyces marxianus)を加え39時間培養した。
グルコースがほぼ消費されたことを確認し、エアーを吹き込み始め、そのまま79時間維持した。
このエアーの吹き込みにより培養液から出てくるガスを冷却管に通してエタノール溶液を回収した。
その時のグルコースの変化と100%換算エタノールの発生量を
図2のグラフに示す。
これによりデンプンが多く含まれる米のとぎ汁固形分約86gから約2.2mlのエタノールを得たことになる。
ここで、70℃×3時間の前処理をしたことにより雑菌の混入を抑え、pHは6.7から4.7に変化していた。
なお、エタノールの発酵を約45℃で実施したことも雑菌の混入を抑える効果があったと推定される。
【0016】
次に、培養液の発酵効率を確認すべく以下のとおり実験を行った。
グルコース2,000gに耐熱好気性酵母(kluyveromyces marxianus)エキス100g及び酵母の栄養源としてペプトン100gを加え、さらに水17,800gを加え、全量で20,000gに調整した。
この液をpH5.0に調整し、40℃に維持した。
培養中、コンプレッサーを用いて12l/minのエアーを吹き込み、発生したガスはコンデンサーにて冷却し、水(2l)にトラップした。
このときの蒸留液と培養残渣の組成を
図3に示す。
この結果、2,000gのグルコースから蒸留液中にエタノール685g、培養残渣中にエタノール199g含まれたことから合計884gのエタノールが発生したことになり、理論値(エタノール1,023g)に対するエタノールの発生量は86%であった。
【符号の説明】
【0017】
10A 培養タンク
11 投入口
12 排出口
13a 熱媒体IN
13b 熱媒体OUT
14 残渣物取出口
14a 残渣物投入口
15 蒸留前エタノール
16 蒸留エタノール
17 蒸留廃液
20 蒸留塔
30 焼却炉