【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実験1 <清酒からの風味向上剤の調製>
下記の手順によって、本発明に係る風味向上剤となる清酒エキスを調製した。
【0024】
市販の清酒を減圧濃縮法により質量が1/2(2倍濃縮)、1/5(5倍濃縮)、1/10(10倍濃縮)になるまで濃縮し、清酒の濃縮エキスを調製した。また、1/10の濃縮エキスに対し凍結乾燥処理を行い、濃縮エキスの粉末化を行った。未濃縮品(清酒)を加え、下記試料を用いてビール系飲料の風味の確認を行った。
【0025】
試料1 清酒(未濃縮品)
試料2 清酒を、質量が1/2になるまで濃縮(2倍濃縮品)
試料3 清酒を、質量が1/5になるまで濃縮(5倍濃縮品)
試料4 清酒を、質量が1/10になるまで濃縮(10倍濃縮品)
試料5 試料4の凍結乾燥品
【0026】
尚、これらの濃縮品は、濃縮度合いが高くなるほど褐色を呈するようになり、また清酒の風味は減少していった。また、アルコールの風味はいずれの試料でも感じられなかった。
【0027】
<風味向上効果の確認>
上記で得られた各試料を、市販されているビール系飲料(その他の醸造酒(発泡酒)1、原材料:ホップ、糖類、大豆たんぱく、酵母エキス;アルコール分 5%)に添加し、その風味の変化を評価した。試料は、その添加される固形分が0.01質量%になるように調整して添加した。比較対象は試料無添加の同じビール系飲料とし、結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果より、ビール系飲料の苦味やコクを付与するためには、清酒を5倍以上濃縮する必要があることが判明した。
【0030】
実験2 <他のアルコール飲料由来エキスとの比較>
次の手順によって、清酒以外のアルコール飲料に由来するエキスを調製した。
【0031】
ビール、赤ワイン、白ワインの各アルコール飲料を、減圧濃縮法により重量が1/10になるまで濃縮し、得られた濃縮液(10倍濃縮品)を凍結乾燥によって粉末品とした。これらの粉末品は、それぞれ特有の風味を有しており、また、アルコールの風味は感じられなかった。
【0032】
試料6 ビールの粉末化品
試料7 赤ワインの粉末化品
試料8 白ワインの粉末化品
【0033】
<風味向上効果の確認>
上記で得られた試料6〜8と、実験1で得た試料5(清酒の粉末化品)を、実験1で用いたものと同じビール系飲料にそれぞれ10ppm、100ppm及び500ppm添加して、その風味の変化を評価した。比較対象は粉末化品無添加のものとし、その結果を表2に示す。
【0034】
評価の基準は、無添加のビール系飲料に対し、はっきりと風味(コク、キレや苦味)の向上効果が認められるものを2点、ある程度の効果が認められるものを1点、効果が認められなかったものを0点として、パネラー10名で評価した。
【0035】
【表2】
【0036】
表2の結果より、清酒由来のエキスの粉末化品を加えた場合のみに、風味の向上効果が認められ、他のアルコール飲料の粉末化品では効果は認められなかった。
【0037】
実験3 <米由来エキスとの比較>
米に由来するエキスを調製し、ビール系飲料の風味(コク、キレや苦味)の向上効果の有無を確認した。
【0038】
<米由来エキスの調製>
米粉100部を1,000部の水に加え95℃で20分間加熱攪拌し、これを遠心分離により上清を回収し、減圧濃縮により質量が1/3になるまで濃縮した。得られた抽出物は白色の糊様の液体であり、白米の風味を有していた。これを試料9の米由来エキスとし、実験1と同様にビール系飲料の風味向上効果の確認を行った。
【0039】
<米由来エキスの効果の確認>
試料9を、実験1で用いたものと同じビール系飲料に、添加される固形分が10ppm、100ppm及び500ppmになるように添加し、その風味の変化を評価した。比較対象は米由来エキス無添加のものとし、実験2と同じ評価基準により評価を行った。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の結果より、清酒の原料である米に由来するエキスを用いても、ビール系飲料の風味向上効果は得られないことが判明した。
【0042】
上記実験1〜3の結果より、清酒を5倍以上に濃縮して得られるエキスに、ビール系飲料に対する風味向上効果があることが明らかとなった。濃縮が5倍より低いと清酒の風味がビール系飲料のものよりも強いため、効果が少ないのではないかと推測される。また、今回比較した清酒以外のアルコール飲料を濃縮した粉末化品では、ビール系飲料に対する風味向上効果は見られなかった。同様に、米由来のエキスにも効果は認められなかった。
【0043】
実験4 <ビール系飲料への風味向上剤の効果の確認>
清酒2lを減圧濃縮法により容量が250mlになるまで濃縮し、次いでこれの濃縮液が100mlになるまで更に濃縮した(20倍濃縮品)。得られた濃縮液を凍結乾燥によって粉末品とした。この粉末品はうすい褐色を呈しており、においはなく、ごく僅かな風味が感じられるが、清酒のものと感じられるものではなかった。また、アルコールの風味も感じられなかった。
【0044】
上記工程で得られた風味向上剤を、市販されているビール、発泡酒及びその他の発泡酒類に風味向上剤をそれぞれ10ppm、100ppm及び500ppm添加してその風味の変化を評価した。比較対照は風味向上剤無添加のものとし、結果を表4に示す。
【0045】
評価の基準は、無添加の市販品に対し、ハッキリと風味(コク、キレや苦味)の向上効果が認められるものを2点、ある程度の効果が認められるものを1点、効果が認められなかったものを0点として、10名のパネラーで評価した。
【0046】
【表4】
【0047】
<結果>
上記結果より、今回試験で用いた市販されているビール及びビール風味発泡飲料全てにおいて、無添加の状態よりも風味の向上効果が認められる結果が得られた。その中でも、ビールよりもリキュールやその他の醸造酒の規格に該当する飲料において、よりビールらしさが増強されるとの結果が得られた。さらに、ノンアルコールビールと呼ばれる炭酸飲料(番号8、9)においても、同様にビール風味の向上効果が得られ、ビールに近い風味が得られているという評価が多く得られた。これは麦芽やホップの量が少ない飲料のほうが、より効果が強く表れるためと思われる。黒ビールに関しては、黒ビール特有の臭みが軽減され、焙煎感を残しながらもビール全体の風味が向上しているとして、高い評価が得られた。