特許第5748986号(P5748986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748986
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】風味向上剤
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20060101AFI20150625BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C12G3/02 119Z
   C12C5/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-261974(P2010-261974)
(22)【出願日】2010年11月25日
(65)【公開番号】特開2011-139699(P2011-139699A)
(43)【公開日】2011年7月21日
【審査請求日】2013年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2009-282043(P2009-282043)
(32)【優先日】2009年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芳仲 幸治
【審査官】 名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−224354(JP,A)
【文献】 特開2002−027968(JP,A)
【文献】 特開平11−243987(JP,A)
【文献】 特開2005−143418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00−13/10
C12G 1/00−3/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Foodline/Foods Adlibra(ProQuest Dialog)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清酒を濃縮して得られるエキスからなることを特徴とするビール又はビール風味発泡飲料の苦味及び/又はコク味向上剤。
【請求項2】
清酒を濃縮して得られるエキスの添加量が、ビール又はビール風味発泡飲料に対し0.0001〜0.5質量%である請求項1記載の苦味及び/又はコク味向上剤。
【請求項3】
清酒を濃縮して得られるエキスが、清酒100部を0.1〜20部になるまで濃縮したものである請求項1又は2に記載の苦味及び/又はコク味向上剤。
【請求項4】
清酒100部を0.1〜20部になるまで濃縮して得られるエキスをビール又はビール風味発泡飲料に添加することを特徴とする、ビール又はビール風味発泡飲料の苦味及び/又はコク味の向上方法。
【請求項5】
清酒100部を0.1〜20部になるまで濃縮して得られるエキスの添加量が、ビール又はビール風味発泡飲料に対し0.0001〜0.5質量%である請求項4記載の苦味及び/又はコク味の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒由来のエキスを用いることを特徴とする酒類、特にビールやビール風味発泡飲料の風味を向上させる風味向上剤及び風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市場では様々な酒類が販売されている。
【0003】
特にビール系飲料の市場では、ビール、発泡酒、第三のビールやアルコールを含まないビール風味の炭酸飲料などが数多く販売されている。
【0004】
しかし、ビールに対し発泡酒などのビール風味発泡飲料は、その製造時に使用される麦芽量が少ないため、ビールに比べ風味(コクやキレ、苦味)が弱いと指摘されることがある。
【0005】
そのような風味の物足りなさを解消し、ビールに近い風味をビール風味発泡飲料に付与するため、様々な方法が検討されている。具体的には、麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の使用比率を高率とすることにより飲み応えを確保しつつ、かつ、喉越しの爽快感、すなわち、キリッとした味わいを有する麦芽飲料(特許文献1)、製造過程において原料の少なくとも一部に蛋白質脱アミド酵素を作用させる、芳醇で且つ独特の香気や旨味を有するビール又はビール様飲料の製造方法(特許文献2)、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中のカリウムイオン及び/又はイノシトール総量を発酵管理指標として調整することによる、味覚・風味の増進した発酵アルコール飲料の製造方法(特許文献3)、水溶性食物繊維及び非発酵性糖質を含有する副原料を添加することにより、風味やキレ(味質)等の香味及びボディ感のバランスに優れた低カロリービール風味飲料を製造する方法(特許文献4)、タンパク質及び糖質原料を発酵させて得られる有機酸発酵液を、その色調に変化が生じるまで濃縮することによって得られる酢酸換算酸度0.5〜20w/v重量%の風味改善剤をビール等の飲食物に添加する方法(特許文献5)、麦芽エキスの使用量を少なくしても、味が濃く、旨味に富んだビール風味のビール類の製造方法とそれに適した大豆ペプチド(特許文献6)、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整することにより、カラメルのような着色料を用いることなく、ビール様の自然な色度や風味を付与した発酵アルコール飲料を製造する方法(特許文献7)、ホップから抽出したイソフムロン類を含有させることにより、ビールの苦味を補充するビール様添加物(特許文献8)、水溶性食物繊維を発酵工程より後の工程で添加するとともに、添加する食物繊維中の資化性糖比率を低減させる発酵飲料の製造方法(特許文献9)、良好な香味およびコクや厚みをビールテイスト発酵飲料等の飲料に付与できるトウモロコシ加工品(特許文献10)、糖質成分と所望によりホップを含む原料および水からなる水性混合液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、アルコール発酵前またはアルコール発酵中の原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法(特許文献11)などが開示され、ビール又はビール風味発泡飲料の風味向上が図られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206528号公報
【特許文献2】国際特許公報WO07/007487パンフレット
【特許文献3】特開2008−178405号公報
【特許文献4】特開2009−142233号公報
【特許文献5】特開2007−289181号公報
【特許文献6】国際特許公報WO06/068191パンフレット
【特許文献7】特開2006−217928号公報
【特許文献8】特期2007−312673号公報
【特許文献9】特開2007−6872号公報
【特許文献10】特開2006−288379号公報
【特許文献11】特期2006−149367号公報
【0007】
しかしながら、これらの方法はビールまたはビール風味発泡飲料の製造工程における発酵工程の前後に特定の成分を添加するなど、製造上簡便とは言い難いものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ビールにコクやキレといった風味をさらに付加し、或いはビール風味発泡飲料ではコクやキレなどが弱く感じられる、物足りないといった不満を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、清酒を濃縮して得られるエキスに、ビール等の風味を向上させる効果があるという知見に基づき、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、清酒を濃縮して得られるエキスをビールに添加すれば、当初の風味をより高める効果を奏し、ビールに比べ麦芽量が少ない発泡酒等のビール風味発泡飲料であってもビールに近いコクやキレといった風味、苦味を付与することができる風味向上剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって得られる風味向上剤によれば、ビールの風味や苦味はより強く感じることが可能となり、麦芽量の少ない発泡酒や第三のビールと呼ばれるリキュール類においても、十分なビール様の風味や苦味を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明は、ビール又はビール風味発泡飲料の風味向上剤に関するものである。詳しくは、清酒を濃縮して得られるエキスを含んでなるものであり、ビールの風味、苦味を向上させ、或いは麦芽量の少ない発泡酒等のビール風味発泡飲料の風味を、ビールのそれに近くすることが可能となる風味向上剤に関する。
【0014】
本発明における風味向上剤の原料として使用する清酒は、いわゆる日本酒、米を原料とする醸造酒であればよく、精米歩合等による制限はなく選択できる。
【0015】
上記清酒の濃縮方法は、既存の液体の濃縮方法を制限無く利用することができる。具体的には、減圧濃縮、凍結濃縮、真空濃縮、膜濃縮、樹脂濃縮等、原液となる清酒から水分を分離する方法であればいかなる方法であっても良く、さらにはこれらを適宜組み合わせても、同じ処理を繰り返し行っても良い。好ましくは、減圧濃縮による方法である。原料となる清酒を上記のような公知の方法によって濃縮すればよく、原料となる清酒100部が0.1〜20部になるまで濃縮すればよい。濃縮が不十分だと風味向上効果が十分に得られず、濃縮を過度に行っても、風味向上効果のさらなる向上は見込めないため、上記範囲とすることが好ましい。濃縮途中に加水し、さらに濃縮操作を繰り返し行っても良い。
【0016】
本発明にかかる風味向上剤には、上記濃縮方法によって得られる清酒エキスが含まれていれば良く、任意でその他の成分を追加しても良い。追加できる任意の成分としては、ホップエキス、麦芽エキスのほか、各種調味料、酸味料、甘味料、香料、着色料をあげることができる。
【0017】
濃縮操作によって得られたエキスは、そのまま風味向上剤としても良いし、噴霧乾燥や凍結乾燥等の処理を行って粉末化しても良い。
【0018】
清酒エキスからなる風味向上剤のビール又はビール風味発泡飲料への添加量は、付与する風味や苦味の度合いに応じて適宜調整すればよく、また添加する飲料の種類に応じても調整することができる。添加量の一例を挙げると、飲料100部に対し0.0001〜0.5部、好ましくは0.001〜0.1部が挙げられる。かかる量の風味向上剤を添加することにより、ビール等のコク、キレをより味わうことができ、またビール独特の苦味を感じることができるようになる。風味向上剤の添加量がビール等の飲料100部に対して0.0001部より少なくなると十分な風味や苦味の向上効果が得られず、0.5部より多くなると後味が悪くなるため好ましくない。
【0019】
かくして得られた風味向上剤を用いることにより、ビールの風味はよりコクやキレを増し、発泡酒等のビール風味発泡飲料はよりビールに近い風味や苦味を得ることが可能となる。
【0020】
風味向上剤をビール等へ添加する時期は、特に制限されず、ビール等の飲料を製造している工程内、或いは飲用時に風味向上剤を添加するといった方法も採ることができる。好ましくは、酵母による発酵後からビンや缶への充填が行われる間である。
【0021】
本発明の対象となるビールは、酒税法上ビールに分類されるものであり、ペールエール、エール、ビター、ピルスナー及びラガーといった分類によらず本発明の効果を享受することができる。また、ビール風味発泡飲料としては、酒税法上発泡酒に該当するもの、その他の発泡性酒類やリキュール類に該当するもののいずれをも含むものとする。さらには、上記ビール又はビール風味発泡飲料と組み合わせた飲料、ノンアルコールビール風味飲料も本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実験1 <清酒からの風味向上剤の調製>
下記の手順によって、本発明に係る風味向上剤となる清酒エキスを調製した。
【0024】
市販の清酒を減圧濃縮法により質量が1/2(2倍濃縮)、1/5(5倍濃縮)、1/10(10倍濃縮)になるまで濃縮し、清酒の濃縮エキスを調製した。また、1/10の濃縮エキスに対し凍結乾燥処理を行い、濃縮エキスの粉末化を行った。未濃縮品(清酒)を加え、下記試料を用いてビール系飲料の風味の確認を行った。
【0025】
試料1 清酒(未濃縮品)
試料2 清酒を、質量が1/2になるまで濃縮(2倍濃縮品)
試料3 清酒を、質量が1/5になるまで濃縮(5倍濃縮品)
試料4 清酒を、質量が1/10になるまで濃縮(10倍濃縮品)
試料5 試料4の凍結乾燥品
【0026】
尚、これらの濃縮品は、濃縮度合いが高くなるほど褐色を呈するようになり、また清酒の風味は減少していった。また、アルコールの風味はいずれの試料でも感じられなかった。
【0027】
<風味向上効果の確認>
上記で得られた各試料を、市販されているビール系飲料(その他の醸造酒(発泡酒)1、原材料:ホップ、糖類、大豆たんぱく、酵母エキス;アルコール分 5%)に添加し、その風味の変化を評価した。試料は、その添加される固形分が0.01質量%になるように調整して添加した。比較対象は試料無添加の同じビール系飲料とし、結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果より、ビール系飲料の苦味やコクを付与するためには、清酒を5倍以上濃縮する必要があることが判明した。
【0030】
実験2 <他のアルコール飲料由来エキスとの比較>
次の手順によって、清酒以外のアルコール飲料に由来するエキスを調製した。
【0031】
ビール、赤ワイン、白ワインの各アルコール飲料を、減圧濃縮法により重量が1/10になるまで濃縮し、得られた濃縮液(10倍濃縮品)を凍結乾燥によって粉末品とした。これらの粉末品は、それぞれ特有の風味を有しており、また、アルコールの風味は感じられなかった。
【0032】
試料6 ビールの粉末化品
試料7 赤ワインの粉末化品
試料8 白ワインの粉末化品
【0033】
<風味向上効果の確認>
上記で得られた試料6〜8と、実験1で得た試料5(清酒の粉末化品)を、実験1で用いたものと同じビール系飲料にそれぞれ10ppm、100ppm及び500ppm添加して、その風味の変化を評価した。比較対象は粉末化品無添加のものとし、その結果を表2に示す。
【0034】
評価の基準は、無添加のビール系飲料に対し、はっきりと風味(コク、キレや苦味)の向上効果が認められるものを2点、ある程度の効果が認められるものを1点、効果が認められなかったものを0点として、パネラー10名で評価した。
【0035】
【表2】
【0036】
表2の結果より、清酒由来のエキスの粉末化品を加えた場合のみに、風味の向上効果が認められ、他のアルコール飲料の粉末化品では効果は認められなかった。
【0037】
実験3 <米由来エキスとの比較>
米に由来するエキスを調製し、ビール系飲料の風味(コク、キレや苦味)の向上効果の有無を確認した。
【0038】
<米由来エキスの調製>
米粉100部を1,000部の水に加え95℃で20分間加熱攪拌し、これを遠心分離により上清を回収し、減圧濃縮により質量が1/3になるまで濃縮した。得られた抽出物は白色の糊様の液体であり、白米の風味を有していた。これを試料9の米由来エキスとし、実験1と同様にビール系飲料の風味向上効果の確認を行った。
【0039】
<米由来エキスの効果の確認>
試料9を、実験1で用いたものと同じビール系飲料に、添加される固形分が10ppm、100ppm及び500ppmになるように添加し、その風味の変化を評価した。比較対象は米由来エキス無添加のものとし、実験2と同じ評価基準により評価を行った。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の結果より、清酒の原料である米に由来するエキスを用いても、ビール系飲料の風味向上効果は得られないことが判明した。
【0042】
上記実験1〜3の結果より、清酒を5倍以上に濃縮して得られるエキスに、ビール系飲料に対する風味向上効果があることが明らかとなった。濃縮が5倍より低いと清酒の風味がビール系飲料のものよりも強いため、効果が少ないのではないかと推測される。また、今回比較した清酒以外のアルコール飲料を濃縮した粉末化品では、ビール系飲料に対する風味向上効果は見られなかった。同様に、米由来のエキスにも効果は認められなかった。
【0043】
実験4 <ビール系飲料への風味向上剤の効果の確認>
清酒2lを減圧濃縮法により容量が250mlになるまで濃縮し、次いでこれの濃縮液が100mlになるまで更に濃縮した(20倍濃縮品)。得られた濃縮液を凍結乾燥によって粉末品とした。この粉末品はうすい褐色を呈しており、においはなく、ごく僅かな風味が感じられるが、清酒のものと感じられるものではなかった。また、アルコールの風味も感じられなかった。
【0044】
上記工程で得られた風味向上剤を、市販されているビール、発泡酒及びその他の発泡酒類に風味向上剤をそれぞれ10ppm、100ppm及び500ppm添加してその風味の変化を評価した。比較対照は風味向上剤無添加のものとし、結果を表4に示す。
【0045】
評価の基準は、無添加の市販品に対し、ハッキリと風味(コク、キレや苦味)の向上効果が認められるものを2点、ある程度の効果が認められるものを1点、効果が認められなかったものを0点として、10名のパネラーで評価した。
【0046】
【表4】
【0047】
<結果>
上記結果より、今回試験で用いた市販されているビール及びビール風味発泡飲料全てにおいて、無添加の状態よりも風味の向上効果が認められる結果が得られた。その中でも、ビールよりもリキュールやその他の醸造酒の規格に該当する飲料において、よりビールらしさが増強されるとの結果が得られた。さらに、ノンアルコールビールと呼ばれる炭酸飲料(番号8、9)においても、同様にビール風味の向上効果が得られ、ビールに近い風味が得られているという評価が多く得られた。これは麦芽やホップの量が少ない飲料のほうが、より効果が強く表れるためと思われる。黒ビールに関しては、黒ビール特有の臭みが軽減され、焙煎感を残しながらもビール全体の風味が向上しているとして、高い評価が得られた。