【実施例】
【0018】
次に、本発明の実施例に係る盗難防止装置について説明する。
図2は、本発明の実施例に係る盗難防止装置の構成を示すブロック図である。本実施例の盗難防止装置10は、監視すべき物体に取り付けられる加速度センサ20と、加速度センサ20から出力される検出信号を処理する信号処理部30と、信号処理部30で処理された結果に基づき盗難の判定を行う盗難判定部40と、盗難判定部40により盗難と判定された場合に警報を発する警報部50と、ユーザからの入力を受け取るユーザ入力部60と、各部に電力を供給する電力供給部70とを備えて構成される。
【0019】
加速度センサ20は、少なくともX軸、Y軸、Z軸の各軸方向の加速度を検出し、各軸の加速度を示す検出信号を信号処理部30へ提供する。加速度センサ20には、公知の半導体式、ピエゾ抵抗型、静電容量型など種々のタイプのものがあるが、いずれのタイプを用いるものであってもよい。また、加速度センサ20は、X軸、Y軸、Z軸をそれぞれ検出する3つの加速度センサを回路基板上に実装するものであってもよいし、XY軸の2軸方向を検出する加速度センサとZ軸方向を検出する加速度センサを回路基板上に実装するものであってもよいし、X軸、Y軸、Z軸を検出する加速度センサを回路基板上に実装するものであってもよい。
【0020】
信号処理部30は、加速度センサ20からの検出信号を受け取り、検出信号をディジタル変換し、ディジタル化された検出信号から3軸の加速度を合成した加速度を算出するとともに、その加速度ベクトル変化量ΔVaを算出する。合成された加速度は、予め決められた周期でサンプリングされ、それにより加速度ベクトル変化量ΔVa(ΔVa1、ΔVa2、・・・ΔVan)が算出される。サンプリングする周期は、ユーザ入力部60を介して任意に変更することができる。信号処理部30はさらに、合成された加速度から姿勢変化後の座標b(b1、b2・・・bn)を検出するとともに、姿勢変化量Δga(Δga1、Δga2、・・・Δgan)を算出する。これらの算出された加速度ベクトル変化量ΔVaおよび姿勢変化量Δgaは、盗難判定部40に提供される。盗難判定部40は、信号処理部30から受け取った加速度ベクトル変化量ΔVaおよび姿勢変化量Δgaに基づき盗難判定を行う。信号処理部30および盗難判定部40は、例えば、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、中央処理プロセッサなどを用いた半導体装置を用いて構成することができ、好ましくは加速度センサとともに共通の回路基板上に実装される。さらに好ましくは、マイクロコントローラ等は、盗難判定を行うためのプログラムをメモリに格納し、当該プログラムを実行することにより盗難防止装置の種々の制御を行うことができる。
【0021】
警報部50は、盗難判定部40により盗難であると判定された場合に、警報を発する。警報は、例えば、スピーカから警報音を発したり、あるいは視覚に訴えるような光を点滅させるようなものであってもよい。ユーザ入力部60は、盗難防止装置10を起動させるための指示、またはそれを停止させるための指示、警報部50による警報を停止させるための指示などの入力を可能にする。さらに警報部50は、無線または有線による通信手段を備えることができる。好ましい例では、警報部50は、通信手段を用いて、携帯電話、スマートフォンなどの携帯端末に、盗難があったこと知らせる警報情報を送信し、携帯端末が警報を発するようにしたり、携帯端末の表示部に警報に関する予め決められた情報を表示させるようにしてもよい。さらに、警報部50は、通信手段を介してネットワークに接続されたパーソナルコンピュータなどの情報端末に警報情報を送信するようにしてもよい。警報情報を送信する送付先(アドレス、電話番号、URLなど)は、予め警報部50のメモリに登録しておくことが望ましい。
【0022】
電力供給部70は、盗難防止装置10の各部に必要な電力を供給することを可能にする。もし、監視すべき物体に保有されている電力を利用するならば、電力供給部70は、物体の電力を各部に供給し、他方、監視すべき物体の電力を利用することができない場合には、電力供給部自身が保有するバッテリーにより電力を各部に供給する。また、後述するように、電力供給部70は、ユーザ入力部60により盗難防止装置10が起動されたことに同期して各部に電力を供給し、無駄な電力消費を低減することが望ましい。
【0023】
図3は、盗難判定部40の機能的な構成を示すブロック図である。盗難判定部40は、
盗難判定を行う判定部100と、しきい値Thを保持するしきい値保持部110と、カウンタ120とを備えて構成される。しきい値保持部110は、好ましくは、書き換え可能な不揮発性メモリから構成され、監視する物体に応じたしきい値Thを保持する。例えば、ユーザ入力部60を介して、所望のしきい値Thをしきい値保持部140に設定することができる。
【0024】
第1の好ましい態様では、判定部100は、信号処理部30から受け取った加速度ベクトル変化量ΔVaとしきい値Thとを比較し、その比較結果に基づき盗難を判定する。すなわち、判定部100は、加速度ベクトル変化量ΔVaがしきい値Th以上と判定した場合には、カウンタ120のカウント値を1つインクリメントさせ、加速度ベクトル変化量ΔVaがしきい値Thよりも小さいと判定した場合には、カウンタ120のカウント値を「0」にリセットする。これにより、カウンタ120は、加速度ベクトル変化量ΔVaがしきい値Th以上と判定された連続回数を記憶する。
【0025】
第2の好ましい態様では、判定部100は、信号処理部30から受け取った姿勢変化量Δgaとしきい値Thとを比較し、その比較結果に基づき盗難を判定する。
【0026】
図4は、盗難防止装置40の動作を説明するタイミングチャートである。同図に示すように、ユーザ入力部60から盗難防止装置10を起動させるための指示が時刻T1で成されると、これに応答して、電力供給部70は、盗難防止装置10の各部に電力を供給する。この電力供給は、各部を動作させるためのイネーブル信号に相当する。また、ユーザ入力部60から盗難防止装置10を終了させるための指示が時刻T2で成されると、これに応答して、電力供給部70は各部への電力供給を停止する。この電力供給の停止は、各部の動作を停止させるためのディスエーブル信号に相当する。こうして、時刻T1から時刻T2に至る盗難監視期間がユーザ入力によって設定される。
【0027】
時刻T1において各部がイネーブル状態になると、加速度センサ20は、X軸、Y軸、Z軸の加速度を検出しこれを信号処理部30へ出力する。信号処理部30は、物体の基準座標aを基準座標保持部に保持し、以降、任意のサンプリング周期で、X軸、Y軸、Z軸の加速度から合成された加速度の加速度ベクトル変化量ΔVa、姿勢変化量Δgaを算出し、これを盗難判定部40へ提供する。
【0028】
盗難判定部40は、イネーブル状態にされたとき、保持していた内容をすべてクリアする。第1の好ましい態様では、判定部100は、加速度ベクトル変化量ΔVaとしきい値Thとを比較し、加速度ベクトル変化量ΔVaがしきい値以上と判定された回数が所定数m(mは自然数)に到達したとき、盗難と判定する。第2の好ましい態様では、判定部100は、姿勢変化量Δgaとしきい値Thとを比較し、姿勢変化量Δgaがしきい値以上と判定された回数が所定数mに到達したとき、盗難と判定する。
【0029】
なお上記例では、電力供給部70による電力供給またはその停止により各部にイネーブル信号またはディスエーブル信号を供給するようにしたが、これ以外にも、
図5に示すように、ユーザ入力部60からの入力を受け取る制御部80を備える構成であってもよい。この場合、盗難防止装置10の各部には、電力供給部70から電力Vccが供給され、制御部80は、ユーザ入力部60からの起動の指示に応じて各部にイネーブル信号を供給し、終了の指示に応じて各部にディスエーブル信号を供給する。さらに上記例では、ユーザ入力部60からの指示に応じて盗難監視期間を設定するようにしたが、これ以外にも、例えば、タイマーなどを利用して盗難監視期間を設定するようにしてもよい。
【0030】
次に、盗難防止装置10の動作を
図6のフローチャートを参照して説明する。先ず、盗難判定部40は、盗難監視期間であるか否かを判定する(S101)。盗難監視期間であれば、信号処理部30は、基準座標aを保持し(S102)、かつ加速度センサ20からの検出信号に基づき任意の周期で加速度ベクトル変化量ΔVa、姿勢変化量Δgaを算出し(S103)、これを盗難判定部40で提供する。
【0031】
次に、判定部100は、受け取った加速度ベクトル変化量ΔVa、姿勢変化量Δgaを保持し(S104)、次いで、第1の態様であれば、加速度ベクトル変化量ΔVaとしきい値Thとを比較し、第2の態様であれば、姿勢変化量Δgaとしきい値Thとを比較する(S105)。変化量がしきい値Thよりも小さい場合には、監視すべき物体に、盗難行為に該当するような衝撃、傾き、振動などが印加されていないものと判定され、ステップS103からのループ処理が繰返される。
【0032】
加速度ベクトル変化量Vaまたは姿勢変化量Δgaがしきい値Th以上である場合には、監視すべき物体が盗難行為に晒されている可能性があるため、判定部100は、カウンタ120のカウント値を1つインクリメントさせるとともに、インクリメントされたカウンタ値がm回に到達したか否かを判定する(S106)。カウンタ120のカウント値がmに到達していない場合には、ステップS103からの処理が継続される。m回連続して加速度ベクトル変化量ΔVaまたは姿勢変化量Δgaがしきい値Th以上であると判定した場合には、物体が盗難されたと判定する(S107)。
【0033】
判定部100により、物体が盗難されたと判定されると、その判定結果が警報部50へ伝えられる。この判定結果に応じて、警報部50は、盗難であること知らせるための警報を発する(S108)。警報は、一定時間継続するようにしてもよいし、ユーザ入力部60からの入力に応じて停止されるようにしてもよい。
【0034】
図7(a)は、盗難動作時の3軸加速度の実測データを示すグラフであり、
図7(b)は、
図7(a)の加速度データの合成された加速度の絶対値を表したグラフである。グラフの縦軸は加速度、横軸は時間を示している。
図7(a)に示すように、X軸加速度は、正および負の加速度のピーク値を有し、比較的長い期間、負の大きな加速度を有するが、Y軸およびZ軸の加速度は、正負のピーク値を有するがすぐにゼロに向けて収束されている。このような加速度プロファイルから、物体への一時的な衝撃または振動による加速度変化が生じたのか、あるいは盗難動作時の加速度変化が生じたのかを判別することは容易ではない。
【0035】
これに対し、
図7(b)に示すように、本実施例の3軸方向の加速度を合成した加速度は、正の値を有し、ある時点(1.5秒)を境に急峻に大きくなり、これが比較的長い期間継続(1.5秒から5.0秒まで)される。従って、例えば、しきい値Thの大きさを0.10G程度に設定することで、盗難動作時の加速度変化を容易に判別することができる。また、
図7(b)に示すような盗難動作の加速度パターンであれば、しきい値が0.10G以上となる状態が約3.5秒程度継続されるため、加速度変化量ΔVaがしきい値Th以上となる連続回数のmを、そのような継続時間に合致するように調整すればよい。
【0036】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。上記実施例では、加速度ベクトル変化量ΔVaと姿勢変化量Δgaとをそれぞれ独立にしきい値Thと比較することで盗難判定を行ったが、第2の実施例では、両者を組み合わせた判定を行うものである。
図8は、第2の実施例の動作を説明するフローチャートであり、
図8Aは、しきい値のパターンが変更される例を示している。
【0037】
図8のフローにおいて、ステップS201ないしS204、SS206ないしS209は、第1の実施例で説明した
図6のフローと同様であるので、ここでは説明を省略する。第2の実施例では、姿勢変化量Δgaに応じたしきい値を設定するステップ(S205)を含んでいる。しきい値保持部110は、
図8Aに示すように、予め物体に応じた初期しきい値を有しており、姿勢変化量Δgaに応じて、しきい値を、例えば、他のパターン1、パターン2またはパターン3に基づき変更することができる。パターン1、パターン2、パターン3は、姿勢変化量Δgaとしきい値Thとの関係を規定する曲線または直線であり、それぞれが異なる関係を規定しており、これらのパターンは、予めしきい値保持部110に用意しておくことができ、盗難防止対象のアプリケーションに応じて、いずれかのパターンを選択し、選択されたパターンに基づき算出された姿勢変化量に対応するしきい値を設定することができる。また、別な例では、しきい値保持部110は、姿勢変化量Δgaが基準となる値よりも大きいとき、しきい値Thを小さくし、反対に、基準となる値よりも小さいとき、しきい値Thを大きくすることもできる。なお、複数のパターンの中からどのパターンを選択するかは、ユーザ入力によって行うことも可能である。
【0038】
第2の実施例によれば、物体の姿勢変化量に応じてしきい値を動的に可変することで、物体の姿勢変化が大きい場合には、比較的小さな加速度変化量であっても盗難判定をすることができ、反対に、物体の姿勢変化が小さい場合には、比較的大きな加速度変化量が生じることを条件に盗難と判定することができる。
【0039】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
図9は、本発明の第3の実施例に係る盗難判定部40Aの構成を示すブロック図であり、
図3と同一の構成については同一の参照番号を付し、ここでの説明を省略する。第3の実施例では、盗難判定部40Aは、方向判定部130と予想方向保持部140とをさらに含んでいる。
【0040】
予想方向保持部140は、物体が盗難されるときに物体が移動されるであろう方向を予測した基準方向Vpを保持する。例えば、自転車または自動二輪車が盗難される場合には、ハンドルを中心とする一定の角度範囲内に自転車または自動二輪車が移動されることが予測される。従って、
図13のような自動二輪車であれば、予想方向保持部140は、Y方向を基準方向Vpとして保持することができる。また、予想方向保持部140に保持される基準方向Vpは、監視すべき物体に応じて設定されるように書き換え可能な不揮発性メモリから構成され、好ましくは、ユーザ入力部60を介して基準方向Vpを設定することができる。なお、基準方向Vpは、XY平面、YZ平面、XZ平面の移動方向のみならず、XYZの3次元空間の移動方向を設定するものであってもよい。
【0041】
方向判定部130は、3軸の合成加速度ベクトルVr(Vr0、Vr1、・・・Vrn)と基準方向Vpとを比較し、合成加速度ベクトルVrが基準方向Vpの一定の範囲内にあれば、物体が盗難されたと判定する。
図10は、合成加速度ベクトルVrと予想方向Vpとの関係を示している。方向判定部130は、Vr0、Vr1、・・・Vrnのすべてが基準方向Vpの一定の範囲内であるか否か、あるいは、Vr0、Vr1、・・・Vrnの加重平均された方向が基準方向Vpの一定の範囲内であるか否か、あるいは、最後の変化方向Vrnが基準方向Vpの一定の範囲内であるか否かを判定する。なお、+θ、−θは、一定の範囲に相当する。
【0042】
次に、本発明の第3の実施例に係る盗難防止装置の動作を
図11のフローチャートを参照して説明する。同図のステップS301からS306までは、
図6のステップS101からS106までのステップと同じである。判定部100により加速度ベクトル変化量ΔVaまたは姿勢変化量Δgaの大きさがm回連続してしきい値Th以上と判定されると(S306)、次に、方向判定部130は、3軸の合成加速度ベクトルVrと予想方向保持部140で保持された基準方向Vpとを比較し(S307)、合成加速度ベクトルVrが基準方向Vpの範囲内にあるか否かを判定する(S308)。例えば、基準方向VpがXY平面のY軸方向に等しいとき、Vp−θ≦Vr≦Vp+θのような判定を行う。このθは、物体に応じて予め設定され、またはユーザにより任意に設定される。
【0043】
方向判定部130は、合成加速度ベクトルVrが基準方向Vpの一定の範囲内であると判定した場合には、物体が盗難されたと判定し(S309)、この判定結果を受けて警報部50が警報を発する(S310)。このように、第3の実施例によれば、位置または加速度の変化量と変化方向の双方の条件が満足された場合に、盗難されたと判定することで、より正確な盗難判定を行うことができる。
【0044】
上記第1ないし第3の実施例は、それぞれ個別に説明されたが、本発明は、第1ないし第3の実施例を適宜組み合わせるものであってもよいことは当業者にとって明らかである。以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。