特許第5749077号(P5749077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749077
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】TMモード誘電体共振器
(51)【国際特許分類】
   H01P 7/10 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   H01P7/10
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-112580(P2011-112580)
(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公開番号】特開2012-244412(P2012-244412A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227892
【氏名又は名称】日本アンテナ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】真野 裕輝
【審査官】 富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−217308(JP,A)
【文献】 特開2005−223665(JP,A)
【文献】 米国特許第6535086(US,B1)
【文献】 米国特許第5612655(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のシールドケースと、該シールドケースの中心軸に沿って配置された円柱状の誘電体共振素子とからなり、当該誘電体共振素子の長手方向の両端をアース板を介してシールドケースの側壁に接触させたTMモード誘電体共振器であって、
前記金属製のシールドケースは、相対向する端部に開口部が形成されたシールドケース本体と、当該シールドケース本体の両端部に配置されて前記開口部を密閉するとともに外部に向けて突出する突部が形成された一対のシールドケース側壁とからなるとともに、
両端部の端面に導体層が形成されているとともに、当該両端面の中心部に位置出し棒挿入穴が形成されたセラミックス製の誘電体共振素子と、
前記シールドケース側壁に形成された前記突部内に配設されているとともに、中心部に貫通孔が形成された弾性材からなる誘電体保持部材と、
前記誘電体保持部材と前記誘電体共振素子の端面との間に配置されて当該端面に形成された導体層を電気的に接触させると共に、前記シールドケースの前記開口部を平面状に覆うアース板と、
前記アース板を前記シールドケース側壁に押圧するアース板固定リングと、
前記誘電体保持部材、前記アース板および前記アース板固定リングに挿通され、前記誘電体共振素子に形成された前記位置出し棒挿入穴に強挿され、前記誘電体共振素子を弾性的に支持する位置出し棒とを備え、
前記シールドケース側壁に挿入されたねじが前記アース板固定リングに螺着されることにより、前記アース板が前記シールドケース側壁に押圧されるとともに、前記位置出し棒が前記誘電体共振素子に形成された位置出し棒挿入穴に強挿されることにより、前記誘電体共振素子が前記アース板を介して前記シールドケース側壁の所定の位置に固定されるようになされていることを特徴とするTMモード誘電体共振器。
【請求項2】
前記アース板は弾性を有する金属板により形成されていて、その表面に銀あるいは銅のメッキが施されているとともに、当該アース板の同心円上の等角度の少なくとも3箇所が前記アース板固定リングに螺着されたねじに螺合されていることを特徴とする請求項1に記載のTMモード誘電体共振器。
【請求項3】
前記弾性を有する金属板は燐青銅製の金属板あるいは黄銅製の金属板であることを特徴とする請求項2に記載のTMモード誘電体共振器。
【請求項4】
前記位置出し棒には前記位置出し棒挿入穴の直径よりも略大径のOリングが嵌着されていて、当該Oリングが前記位置出し棒挿入穴に強挿されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のTMモード誘電体共振器。
【請求項5】
前記シールドケース本体の内寸法と前記誘電体共振素子の長さは略同寸法であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のTMモード誘電体共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TMモード誘電体共振器に係わり、特に、温度変化や機械的歪があっても、誘電体共振素子とシールドケース間の良好な電気的接触が保持できる誘電体共振素子の固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信システムの基地局などで使用される高周波フィルターとしてTMモード誘電体共振器が用いられるようになった。このTMモード誘電体共振器は、筒状(円筒状あるいは角筒状)に形成された金属製のシールドケースと、この金属製のシールドケースの中心軸に沿って配置された円柱状の誘電体共振素子とからなり、誘電体共振素子の長手方向の両端をシールドケースの両底面の内壁に接触させた状態で使用されるものである。
【0003】
ところで、シールドケースを金属製とした場合、この金属製シールドケースと誘電体共振素子との接触状態が共振器特性に影響を与えるTMモード誘電体共振器においては、金属製シールドケースとセラミックスよりなる誘電体共振素子との熱膨張係数の相違により、環境温度が変化した場合に、金属製シールドケースと誘電体共振素子との接触状態が安定せず、共振器特性が劣化するという問題があった。そこで、シールドケースを金属製とした場合においても、温度変化による共振器特性の劣化を確実に防止し得るTMモード誘電体共振器が、特許文献1(特開2002−94308号公報)にて提案されるようになった。
【0004】
ここで、図8(a)(b)に示されるように、上述した特許文献1にて提案されたTMモード誘電体共振器20においては、シールドケース本体21の両側開口部にシールドケース側壁22a、22bを、上部にシールドケース蓋23を設けるようにしている。また、シールドケース本体21とシールドケース側壁22a、22bとの間には、アース板24a、24bを介在させている。この場合、アース板24a、24bは、中央部をシールドケース本体21内に突出させて凸部25a、25bを形成するとともに反対側に凹部26a、26bを形成するようにしている。そして、シールドケース本体21内には、アース板24a、24bの凸部25a、25b間に誘電体共振素子28を装着すると共に凹部26a、26b内に弾性材からなる誘電体保持部材27a、27bを介在させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−94308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1にて提案されたTMモード誘電体共振器20においては、誘電体共振素子28とアース板24a、24bを固定するために、誘電体共振素子28の端面の外周部にテーパ部28aを形成するようにしている。そして、外周部を除く両端面とテーパ部28aに銀の蒸着等で導体層(図示せず)を形成し、このアース板24a、24bの凸部25a、25bとテーパ部28aとの間に、テーパ部28aの外周に沿ってはんだ29を流し込み、誘電体共振素子28とアース板24a、24bとを固着するようにしている。このため、テーパ部28aを作製する工程や導体層を形成する工程やはんだ付けの工程が必要になって、この種のTMモード誘電体共振器20の作製が複雑で容易ではなく、かつ高価になるという問題を生じた。
【0007】
また、誘電体共振素子28をアース板24a、24bの凸部25a、25bに固着する構造となっていて、誘電体共振素子28の中心とアース板24a、24bの凸部25a、25bの中心が一致するように位置決めするような構造ではない。このため、精巧な組み立て治具を用いない限り、正確な中心位置に誘電体共振素子28を位置合わせすることが困難となる。この結果、組立位置のずれに伴う共振周波数などの電気特性にばらつきを誘発する事態が生じて、製造時の歩留まりを低下させる原因になるという問題を生じた。
【0008】
また、誘電体共振素子28をアース板24a、24bに固着するに際して、誘電体共振素子28をアース板24a(24b)の凸部25a(25b)の上に載置した後、テーパ部28aをはんだ付けするようにしている。このため、一対のアース板24a、24bが互いに平行でかつ対称に向かい合う位置関係を保ってはんだ付けする必要があるため、難易度が高いはんだ付け作業になるという問題も生じた。また、はんだ付け作業時の熱で、誘電体共振素子28の内部にクラックが発生したり、あるいは端面に形成された導体層が剥離するという問題も生じた。
【0009】
また、アース板24a、24bとシールドケース側壁22a、22bの間に誘電体保持部材27a、27bを挟み、これらの3部材をシールドケース本体21に同時に取り付ける作業が必要になり、取付作業が複雑で困難になるという問題を生じた。また、誘電体共振素子28の端面に形成された導体層とアース板24a、24bの凸部25a、25bとの間がはんだ付けされているため、機械的なストレスを弾性的に吸収することができず、機械的なストレスに起因する誘電体共振素子28の破損や導体層剥離を伴うという問題も生じた。
【0010】
また、アース板24a、24bに凸部25a、25bを形成するためのプレス加工を施す必要があるため、高価な絞り用の金型あるいは精密な絞り加工が必要となり、この種のTMモード誘電体共振器20が高価になるという問題も生じた。さらに、アース板24a、24bに形成された凸部25a、25bの段差部分は、電気的に見ると、シールドケース本体21へ2個の円柱状の導体が挿入されたのと同等である。このため、共振器としてのQ値が低下して電気特性を劣化させたり、あるいは、誘電体共振素子28の長さとシールドケース本体21の内寸法に差が出るので、不要共振モードが発生し易くなるという問題も生じた。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、簡単な組み立て作業で正確な固定位置が得られ、かつ、温度変化や機械的歪があっても、誘電体共振素子とシールドケース間の良好な電気的接触が保持できるTMモード誘電体共振器を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のTMモード誘電体共振器は、金属製のシールドケースと、このシールドケースの中心軸に沿って配置された円柱状の誘電体共振素子とからなり、この誘電体共振素子の長手方向の両端をアース板を介してシールドケースの側壁に接触させている。そして、上記の如き課題を解決するため、金属製のシールドケースは、相対向する端部に開口部が形成されたシールドケース本体と、当該シールドケース本体の両端部に配置されて当該開口部を密閉するとともに外部に向けて突出する突部が形成された一対のシールドケース側壁とからなる。
【0013】
また、両端部の端面に導体層が形成されているとともに、当該両端面の中心部に位置出し棒挿入穴が形成されたセラミックス製の誘電体共振素子と、シールドケース側壁に形成された突部内に配設されているとともに、中心部に貫通孔が形成された弾性材からなる誘電体保持部材と、誘電体保持部材と誘電体共振素子の端面との間に配置されて当該端面に形成された導体層に電気的に接触すると共に、シールドケースの開口部を平面状に覆うアース板と、このアース板を誘電体保持部材側に押圧するアース板固定リングと、誘電体保持部材、アース板およびアース板固定リングに挿通され、誘電体共振素子に形成された位置出し棒挿入穴に強挿され、誘電体共振素子を弾性的に支持する位置出し棒とを備えている。
【0014】
これにより、シールドケース側壁に挿通されたねじがアース板固定リングに螺着されることにより、アース板がシールドケース側壁に押圧されるとともに、位置出し棒が誘電体共振素子に形成された位置出し棒挿入穴に強挿されたことにより、誘電体共振素子がアース板を介してシールドケース側壁に押圧固定されるようになされている。
【0015】
このように、円柱状の誘電体共振素子の端面の中心部に位置出し棒挿入穴を形成するだけであるため、誘電体共振素子の端面の外周部にテーパ部を設ける必要がなくなる。これにより、単純に端面に導体層(メタライズ層)を形成するだけでよいため、作業工程が簡素化されることとなる。また、シールドケース側壁の中心部に取り付けられた位置出し棒を、誘電体共振素子の両端面の中心部に形成された位置出し棒挿入穴に挿入することにより組み付け作業が完了することとなる。これにより、特別な治具や工具がなくても容易に位置合わせができ、共振周波数等の電気特性のばらつきや、製造時の歩留まり低下を防止することが可能なTMモード誘電体共振器が得られる。
【0016】
また、誘電体保持部材に圧力を加えるだけで誘電体共振素子の端面に形成された位置出し棒挿入穴に位置出し棒が強挿されることとなるので、誘電体共振素子の位置決めも正確になり、誘電体共振素子とアース板との接続(接触)が強固になって、安定した電気的接触が得られるようになる。また、はんだ付けも不要で組み立て作業が簡単になるとともに、はんだ付け時の熱による誘電体共振素子の内部や表面に発生するクラックや導体層の剥離を防止できるようになる。さらに、アース板と誘電体共振素子間のはんだ付けが必要でなくなるので、はんだ付けに起因するストレスが誘電体共振素子に生じることが防止でき、ストレスに起因して生じる導体層の破損が防止でき、作業性も簡単で容易となる。
【0017】
この場合、アース板は弾性を有する金属板により形成されていて、その表面に銀あるいは銅のメッキが施されているとともに、当該アース板の同心円上の等角度の少なくとも3箇所がねじによりアース板固定リングに形成されたねじ穴に螺着されているのが望ましい。このように、アース板を弾性を有する金属板により形成されていると、高価な絞り用の金型あるいは精密な絞り加工も不要となるので、この種のTMモード誘電体共振器を安価に提供できるようになる。なお、弾性を有する金属板は燐青銅製の金属板あるいは黄銅製の金属板等とするのが望ましい。
【0018】
また、位置出し棒には誘電体共振素子に形成された位置出し棒挿入穴の直径よりも略大径のOリングが嵌着されていて、このOリングが位置出し棒挿入穴に強挿されているのが望ましい。さらに、シールドケース本体の内寸法と誘電体共振素子の長さは略同寸法であるので、不要共振モードの発生も防止できるようになる。また、アース板は弾性を有する金属板であるため、シールドケース内へ突出する突起導体になることはないので、共振器としてのQ値低下が原因の電気特性劣化が殆ど生じることはない。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、位置出し棒を用いることで、誘電体共振素子とアース板の位置決めが正確で容易になり、誘電体保持部材による押圧力で安定した電気的接触が得られるようになる。これにより、はんだ付けも不要で組み立て作業が簡単になるばかりでなく、はんだ付け時の熱による誘電体共振素子内部のクラックの発生や導体層の剥離も未然に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のTMモード誘電体共振器の全体構成を示す図であり、図1(a)はその断面図であり、図1(b)は、図1(a)の一方のシールドケース側壁に誘電体共振素子が取り付けられた状態を拡大して示す断面図である。
図2】本発明のTMモード誘電体共振器に用いられる誘電体共振素子の要部を示す図であり、図2(a)は位置出し棒挿入穴の断面を示す図であり、図2(b)は、図2(a)の平面を示す図である。
図3】本発明のTMモード誘電体共振器に用いられるアース板およびアース板固定リングを示す図であり、図3(a)は実施例のアース板を示す正面図であり、図3(b)は変形例のアース板を示す正面図であり、図3(c)はアース板固定リングを示す正面図である。
図4】本発明のTMモード誘電体共振器に用いられる位置出し棒を示す図であり、図4(a)は、位置出し棒の正面およびその一部を破断した断面を示す一部破断の正面図であり、図4(b)は、位置出し棒にOリングを装着した状態を示す正面図である。
図5】本発明のTMモード誘電体共振器の組付工程の前段部を模式的に示す断面図であり、図5(a)は第1工程を示す断面図であり、図5(b)は第2工程を示す断面図であり、図5(c)は第3工程を示す断面図でありる。
図6】本発明のTMモード誘電体共振器の組付工程の中段部を模式的に示す断面図であり、図6(a)は第4工程を示す断面図であり、図6(b)は第5工程を示す断面図である。
図7】本発明のTMモード誘電体共振器の組付工程の後段部を模式的に示す断面図であり、図7(a)は第6工程を示す断面図であり、図7(b)は第7工程を示す断面図である。
図8】従来例のTMモード誘電体共振器を示す図であり、図8(a)はその断面図であり、図8(b)は、図8(a)の一方のシールドケース側壁に誘電体共振素子が取り付けられた状態を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ついで、本発明のTMモード誘電体共振器の一実施の形態を図1図7に基づいて以下に説明するが、本発明は以下の実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
1.TMモード誘電体共振器の全体構成
本発明のTMモード誘電体共振器10は、図1(a)(b)に示すように、金属製のシールドケース10aと、この金属製のシールドケース10aの中心軸に沿って配置・固定された円柱状の誘電体共振素子13とからなり、この誘電体共振素子13の長手方向の両端をアース板15を介してシールドケース10aの側壁12に接触させている。金属製のシールドケース10aは、両端部に開口部が形成されたシールドケース本体11と、このシールドケース本体11の両端部に配置されて、その両端部に形成された開口部を密閉するとともに外部に向けて突出する突部12aが形成されたシールドケース側壁12とからなる。
【0023】
ここで、誘電体共振素子13は、その両端面の中心部から内部に向けて所定の深さの位置出し棒挿入穴13aが形成されており、これらの両端面はシールドケース側壁12に形成された突部12a内に配設された円柱状の弾性材からなる誘電体保持部材14にアース板15を介して保持されている。そして、誘電体保持部材14と誘電体共振素子13の端部との間に配設されてたアース板15と、アース板15を誘電体保持部材14側に押圧するリング状のアース板固定リング16と、誘電体共振素子13に形成された位置出し棒挿入穴13aおよび誘電体保持部材14、アース板15およびアース板固定リング16を通して挿入された位置出し棒17とを備えている。なお、位置出し棒17にはOリング17aが配設されている。
【0024】
これにより、シールドケース側壁12に挿入された後述するねじ19bがシールドケース本体11に形成された後述するねじ穴11bに螺着されることにより、シールドケース側壁12がシールドケース本体11に固定されることとなる。一方、シールドケース側壁12に挿入された後述するねじ18がアース板固定リング16の後述する本体部16aに形成された後述するねじ穴16bに螺着されることにより、アース板15がシールドケース側壁12に押圧されるとともに、Oリング17aが配設された位置出し棒17が誘電体共振素子13に形成された位置出し棒挿入穴13aに嵌挿されたことにより、誘電体共振素子13がアース板15を介してシールドケース側壁12に押圧固定されることとなる。
【0025】
2.構成要素(部品)
(1)シールドケース
本発明のシールドケース10aは、図1(a)に示すように、両端部に開口部が形成された角筒状のシールドケース本体11と、このシールドケース本体11の両端部に配置されて、このれらの両端部に形成された開口部を密閉するとともに、その中央部には外部に向けて突出する円筒形状の突部12aが形成された角形のシールドケース側壁12とからなる。この場合、シールドケース本体11の開口部の周囲には折り曲げ部11a(図5(c)参照)が形成されているとともにこの折り曲げ部11aには等間隔に複数のねじ穴11b(図5(c)参照)がタップ加工により形成されている。
【0026】
また、シールドケース本体11とシールドケース側壁12とは、鋼板などの堅牢な金属により形成されていて、その表面は銅メッキあるいは銀メッキが施されている。この場合、シールドケース側壁12には後述するねじ18あるいは仮止め用のねじ18aを挿通させる貫通孔12bが形成されている。そして、シールドケース側壁12に形成された円筒形状の突部12a内に誘電体保持部材14が収容されることとなる。なお、シールドケース本体11は角筒状でもよいし、円筒状でもよいが、この場合は角筒状としている。また、折り曲げ部11aは内方に向けて折り曲げても良いし、外方に向けて折り曲げてもよいが、この場合は内方に向けて折り曲げるようにしている。
【0027】
ここで、図1(a)(b)においては、TMモード誘電体共振器10の組み立て完了時の状態を示しているが、後述する誘電体共振素子13の長さとシールドケース本体11の内寸法とがほぼ同一の寸法になるように調整することで、シールドケース本体11の壁面の内面と誘電体保持部材14とが同一面となるようにしている。このように、誘電体共振素子13の長さとシールドケース本体11の内寸法とをほぼ同一寸法にすることで、不要共振モードの発生を防止できるようになる。なお、この例においては、シールドケース側壁12と円筒形状の突部12aとからなる2つの部品から構成するようにしているが、これらの2部品を一体構造により形成するようにしてもよい。
【0028】
(2)誘電体共振素子
本発明のTMモード誘電体共振器10に用いる誘電体共振素子13は、酸化チタンを主成分としたセラミックス製の焼結体により形成されており、目的の共振周波数等の電気特性が得られるように、直径(この場合は、62mmとした)や長さ(この場合は、150mmとした)と材料(この場合は、酸化チタンを主成分としたセラミックス製とした)が決められている。そして、図2(a)(b)に示されるような円柱状に形成されていて、その両端面の中心部から内部に向けて所定の深さ(長さ)の位置出し棒挿入穴13aが形成されている。なお、所定の深さ(長さ)は、挿入された後述する位置出し棒17の先端部よりも長くなるようになされているが、貫通孔であっても良い。そして、円柱の両端面の位置出し棒挿入穴13aを除く平面部には、銀メタライズ処理等の方法で導体層13bが形成されている。
【0029】
(3)誘電体保持部材
誘電体保持部材14は、弾力性のある材質で円柱状に形成されていて、その軸心部には位置出し棒17を通すための貫通孔14aが形成されている。誘電体保持部材14の直径は誘電体共振素子13の外径寸法とほぼ同じか、やや大き目になるように形成されている。その厚みは、図1(a)に示される組み立て完了後の圧縮した状態で、アース板15と誘電体共振素子13が適度に密着するだけの圧力が得られるような寸法となっている。なお、その材質としては、シリコンゴムなどの弾力性のあるものが用いられ、化学反応が危惧されるものや、経年劣化が懸念されるもの、あるいはガスの発生を伴うように材質は適さない。
【0030】
(4)アース板
アース板15は円形状に形成されていて、図3(a)に示すように、本体部15aの中心部に位置出し棒17を挿通させる中心開孔15bが形成されており、外周部の内側には外周縁に沿って中心部から放射状に貫通孔15cが形成されている。ここで、貫通孔15cはアース板固定リング16を固定する際、シールドケース側壁12から挿入されたねじ18を通すために形成されている。このため、貫通孔15cの個数は、アース板15をシールドケース側壁12に対して水平(平行)に取り付けるためには、図3(a)においては8個だけ設けた例を示しているが、最低限3個は設ける必要があり、好ましくは4個以上とするのが望ましい。
【0031】
そして、アース板15の材質は表面が滑らかな、ばね用の弾性を有する薄い金属板が望ましく、燐青銅や黄銅等に代表される薄い金属板が最適である。この場合、誘電体共振素子13の端面にメタライズ処理により形成された導体層13bとの接触時に化学反応等で劣化しないよう、その表面に銀などの電気良導性の金属メッキ処理を施すのが好ましい。なお、アース板15の本体部15aの直径は、誘電体保持部材14の外径よりも大きく、かつアース板固定リング16の外径と略同寸法か、若干大きめに形成するのが望ましい。
【0032】
(変形例)
ここで、図1(a)(b)で示したように、TMモード誘電体共振器10の組み立てが完成した状態において、シールドケース側壁12の内面と誘電体保持部材14との接触面が僅かにずれた場合に、生じた段差に起因してアース板15に機械的歪が生じることとなる。このため、アース板15においては、機械的歪をできる限り吸収しやすい構造にする必要がある。そこで、以下のような変形例が考えられる。即ち、本変形例のアース板15Aは、図3(b)に示すように、図3(a)に示すアース板15と同様に、本体部15dの中心部に位置出し棒17を挿通させる中心開孔15eが形成されており、外周部の内側には外周縁に沿って中心部から放射状に貫通孔15fが形成されている。
【0033】
ここで、図3(a)に示すアース板15と異なる点は、これらの貫通孔15fの間に中心部から放射状に外周縁に向けて開口するスリット15gを形成したことである。この場合、貫通孔15fの間に中心部から放射状に外周縁に向けて開口するスリット15gを形成することにより、シールドケース側壁12の内面と誘電体保持部材14との接触面が僅かにずれが生じて段差が生じても、その段差に起因する機械的歪を吸収することが可能となる。この場合、段差に起因する機械的歪を吸収することが可能であれば、上述したスリット15gに限らず、他の形状のものでも良い。
【0034】
(5)アース板固定リング
アース板固定リング16は、上述したアース板15,15Aを確実にシールドケース側壁12の内面に接触させて固定するための部品である。このため、図3(c)に示すように、本体部16aの内径は誘電体保持部材14を挿通させるだけの寸法を有し、ねじ18を螺合させるためのタップ加工によりねじ穴16bを形成することが可能な寸法が残るように外径寸法が決められている。このアース板固定リング16の材質は黄銅などの金属で、電気特性の劣化を防ぐために、表面は銀あるいは銅のような電気良導性の金属メッキ処理を施すのが望ましい。そして、その厚さは、共振器としての電気特性の劣化を軽減するため、ねじ18を螺合させるためのタップ加工が可能な範囲でできる限り薄いのが望ましい。なお、タップ加工により形成されたねじ穴16bの個数は、アース板15に形成された貫通孔15c(15f)の個数と同数であり、この場合は8箇所となるようにしている。
【0035】
(6)位置出し棒
位置出し棒17は、図4(a)に示されるように、基本的には、断面形状が円形の棒状体(円柱体)で、その端面の一方の軸心部にシールドケース側壁12の突部12aに固定する際に用いられるねじ19aに螺合するねじ穴17bがタップ加工により形成されている。また、棒状体(円柱体)の適宜箇所にはOリング17aを嵌め込むための所定の深さの溝17cが形成されている。そして、その材質は、一般的には高周波における電気特性に優れたポリカーボネート等に代表される合成樹脂であるのが望ましいが、電気特性への影響が許容できる場合には、黄銅等の金属であっても良い。
【0036】
また、その外径寸法は誘電体共振素子13の端面に形成された位置出し棒挿入穴13aの内径よりも若干細くなるように形成されている。そして、Oリング17aを嵌め込むための溝17cは、図4(a)においては2個だけ設けた例を示しているが、溝17cの個数は最低でも1つあればよく、実用上は2つ以上設けるのが望ましい。なお、シールドケース側壁12に固定する方法は、ねじ19aによる螺着(ねじ止め)に限定する必要はなく、シールドケース側壁12と一体構造とした場合は、当然、螺着(ねじ止め)にする必要はない。そして、図1(a)(b)においては、ねじ19aの一例として皿ねじを用いて固定する方法を例示しているが、ねじ19aとしては皿ねじに限定する必要はない。
【0037】
ここで、図4(b)は、図4(a)に示す位置出し棒17に形成された溝17cにOリング17aを嵌め込んだ状態を示しており、Oリング17aの外径寸法は誘電体共振素子13の端面に形成された位置出し棒挿入穴13aの内径よりも若干大きな寸法になるように形成されている。このOリング17aの働きで、位置出し棒17が穴13aに挿入された際に、この穴13aの壁面に適当な圧力が加わることとなり、穴13aの壁面が傷付けることなく、かつ必要以上に大きな圧力も加わらないこととなる。これにより、誘電体共振素子13の破損を防止できるとともに、穴13aの中心に正しく位置出し棒17を誘導することができるようになる。なお、Oリング17aの材質は、高周波特性が良好なシリコン樹脂等に代表される弾力性に富む合成樹脂が適当で、化学反応が危惧されるものや、経年劣化が懸念されるもの、あるいはガスの発生を伴う様な材質は適さない。
【0038】
3.組立工程(組付手順)
ついで、上述のような構成となる各構成要素(部品)を用いてTMモード誘電体共振器10を作製する組立工程(組付手順)を以下に、図5図7に基づいて詳述する。なお、本実施例のTMモード誘電体共振器10は270MHz帯を実現するものとしたが、本発明のTMモード誘電体共振器はこれに限定されるものではない。
【0039】
(1)第1工程(第1手順)
まず、一対のシールドケース側壁12と、一対の誘電体保持部材14と、一対の位置出し棒17と、2組の一対のOリング17aとを用意した。この後、図5(a)に示すように、一対の位置出し棒17のそれぞれに形成された各溝17c(図4(a)参照)にOリング17aをそれぞれ嵌挿させた。ついで、位置出し棒17を一方のシールドケース側壁12に形成された突部12aの中央に配置した後、突部12aの中央に配設されたねじ穴に皿ねじ19aを挿通させた後、位置出し棒17の一方の端部に形成されたねじ穴17b(図4(a)参照)に螺着させた。
【0040】
これにより、位置出し棒17をシールドケース側壁12に形成された突部12aの中央に取り付けた。ついで、誘電体保持部材14の中心部に形成された貫通孔14aを位置出し棒17に沿うにように挿通させて、誘電体保持部材14をシールドケース側壁12に形成された突部12a内に嵌入させた。これにより、誘電体保持部材14はシールドケース側壁12に形成された突部12a内に突出して配置されることとなる。
【0041】
(2)第2工程(第2手順)
この後、図5(b)に示すように、位置出し棒17が中心になるようにして、誘電体保持部材14の上にアース板15を載置し、このアース板15の上にアース板固定リング16を載置した。ついで、これらのアース板15とアース板固定リング16とを位置合わせをした後、シールドケース側壁12に形成された貫通孔12bに仮止め用のねじ18aを挿通させ、アース板固定リング16にタップ加工により形成されたねじ穴16b(図3(c)参照)に仮止め用のねじ18aを螺着させた。
【0042】
このとき、これらのアース板15とアース板固定リング16とが仮止めされるように、仮止め用のねじ18aの螺着の程度(締め付け力)を緩やかに調整して、側壁組立体12Aを作製した。同様に、他方のシールドケース側壁12にも、上述と同様の作業を行って、シールドケース側壁12に、位置出し棒17と誘電体保持部材14とを固定し、アース板15とアース板固定リング16とを仮止めし、側壁組立体12Aを作製した。
【0043】
(3)第3工程(第3手順)
ついで、シールドケース本体11と複数のねじ19bとを用意した後、シールドケース本体11の一方の開口部を塞ぐように上述のように作製した側壁組立体12Aを配置した。ついで、図5(c)に示すように、ねじ19bをシールドケース側壁12に形成された貫通孔12cを挿通させた後、シールドケース本体11にタップ加工により形成されたねじ穴11bに螺着することにより、シールドケース側壁12をシールドケース本体11に固定した。
【0044】
(4)第4工程(第4手順)
ついで、誘電体共振素子13を用意した後、図6(a)に示すように、誘電体共振素子13の一方の端面に形成された位置出し棒挿入穴13aをシールドケース側壁12に固定された位置出し棒17に挿通させるとともに、誘電体共振素子13を押圧して位置出し棒挿入穴13a内に位置出し棒17を強挿した。この強挿により、誘電体共振素子13の端面に形成された導体層13bがアース板15に接触することとなる。
【0045】
(5)第5工程(第5手順)
ついで、シールドケース本体11の他方の開口部を塞ぐように上述のように作製した他方の側壁組立体12Aを配置した。この後、図6(b)に示すように、誘電体共振素子13に他方の端面に形成された位置出し棒挿入穴13aにシールドケース側壁12に固定された位置出し棒17を挿通させるとともに、側壁組立体12Aを押圧して位置出し棒挿入穴13a内に位置出し棒17を強挿した。この強挿により、誘電体共振素子13の他方の端面に形成された導体層13bが他方のアース板15に接触することとなる。
【0046】
(6)第6工程(第6手順)
ついで、図7(a)に示すように、誘電体共振素子13の他方の端面に形成された導体層13bが他方のアース板15に接触した状態を維持できるようにシールドケース側壁12に加圧力を付与するとともに、ねじ19bをシールドケース側壁12に形成された貫通孔12cを通してシールドケース本体11にタップ加工により形成されたねじ穴11bに螺着させた。この螺着により、シールドケース側壁12はシールドケース本体11に固定されることとなる。これにより、仮止め用のねじ18aの頭部側はそれぞれシールドケース側壁12より外方に突出することとなる。
【0047】
(7)第7工程(第7手順)
この後、図7(b)に示すように、突出した各仮止め用のねじ18aを締め付けることにより、各アース板15を各シールドケース側壁12に完全に接触させた。ついで、各仮止め用のねじ18aよりは短い最適長のねじ18を用いて、各仮止め用のねじ18aを1本ずつ交換しながらねじ18を締め付けた。これにより、図1(a)(b)に示されるようなTMモード誘電体共振器10の組み付けが完了することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
なお、上述した実施の形態においては、シールドケース10aを角筒状のシールドケース本体11と、一対の角形のシールドケース側壁12とを用いて構成する例について説明したが、本発明のシールドケースはこれに限ることなく、円筒状のシールドケース本体と、一対の円形状のシールドケース側壁とを用いて構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…TMモード誘電体共振器、10a…シールドケース、11…シールドケース本体、11a…折り曲げ部、11b…タップ加工によるねじ穴、12…シールドケース側壁、12a…突部、12b…貫通孔、12c…貫通孔、12A…側壁組立体、13…誘電体共振素子、13a…位置出し棒挿入穴、13b…導体層、14…誘電体保持部材、14a…貫通孔、15…アース板、15a…本体部、15b…中心開孔、15c…貫通孔、15A…変形例のアース板、15d…本体部、15e…中心開孔、15f…貫通孔、15g…スリット、16…アース板固定リング、16a…本体部、16b…タップ加工によるねじ穴、17…位置出し棒、17a…Oリング、17b…タップ加工によるねじ穴、17c…溝、18a…仮止め用のねじ、18…ねじ、19a…皿ねじ、19b…ねじ
図1
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図7
図8