特許第5749081号(P5749081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5749081車両用灯具の制御装置および車両用灯具システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749081
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置および車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/115 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   B60Q1/115
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-119359(P2011-119359)
(22)【出願日】2011年5月27日
(65)【公開番号】特開2012-245891(P2012-245891A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】笠羽 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敦之
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−080409(JP,A)
【文献】 特開2009−126268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサで検出される、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な加速度を受信するための受信部と、
車両用灯具の光軸調節を制御するための制御部と、を備え、
前記水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である第1角度と路面に対する車両の傾斜角度である第2角度とが含まれ、
前記制御部は、前記第1角度の基準値と前記第2角度の基準値とを保持し、
車両停止中の前記合計角度の変化を前記第2角度の変化として前記第2角度の基準値を更新するとともに、更新後の前記第2角度の基準値に応じて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を出力し、
車両走行中の前記合計角度の変化を前記第1角度の変化として前記第1角度の基準値を更新し、
前記第1角度の基準値および前記第2角度の基準値の合計値と、前記合計角度との差を導出して、前記差が所定のしきい値を上回る場合に、前記第1角度の基準値および前記第2角度の基準値の少なくとも一方を前記差が小さくなるよう当該所定のしきい値よりも小さい補正値だけ補正することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記合計角度が0°のときに前記差を導出する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
光軸を調節可能な車両用灯具と、
水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な加速度を検出する加速度センサと、
前記車両用灯具の光軸調節を制御するための制御装置と、を備え、
前記水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である第1角度と路面に対する車両の傾斜角度である第2角度とが含まれ、
前記制御装置は、前記第1角度の基準値と前記第2角度の基準値とを保持し、
車両停止中の前記合計角度の変化を前記第2角度の変化として前記第2角度の基準値を更新するとともに、更新後の前記第2角度の基準値に応じて前記光軸調節を指示する制御信号を出力し、
車両走行中の前記合計角度の変化を前記第1角度の変化として前記第1角度の基準値を更新し、
前記第1角度の基準値および前記第2角度の基準値の合計値と、前記合計角度との差を導出して、前記差が所定のしきい値を上回る場合に、前記第1角度の基準値および前記第2角度の基準値の少なくとも一方を前記差が0に近づくよう当該所定のしきい値よりも小さい補正値だけ補正することを特徴とする車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムに関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の傾斜角度に応じて車両用前照灯の光軸位置を自動的に調節して照射方向を変化させるオートレベリング制御が知られている。一般にオートレベリング制御では、車両の傾斜検出装置として車高センサが用いられ、車高センサにより検出される車両のピッチ角度に基づいて前照灯の光軸位置が調節される。これに対し、特許文献1〜4には、傾斜検出装置として加速度センサを用いてオートレベリング制御を実施する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−085459号公報
【特許文献2】特開2004−314856号公報
【特許文献3】特開2001−341578号公報
【特許文献4】特開2009−126268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の傾斜検出装置として加速度センサを用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。一方で、加速度センサを用いた場合であっても、センサの検出誤差等を減らして高精度にオートレベリング制御を実施したいという要求はある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、加速度センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具の制御装置であり、当該制御装置は、加速度センサで検出される、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な加速度を受信するための受信部と、車両用灯具の光軸調節を制御するための制御部と、を備え、水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である第1角度と路面に対する車両の傾斜角度である第2角度とが含まれ、制御部は、第1角度の基準値と第2角度の基準値とを保持し、車両停止中の合計角度の変化を第2角度の変化として第2角度の基準値を更新するとともに、更新後の第2角度の基準値に応じて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を出力し、車両走行中の合計角度の変化を第1角度の変化として第1角度の基準値を更新し、第1角度の基準値および第2角度の基準値の合計値と、合計角度との差を導出して、第1角度の基準値および第2角度の基準値の少なくとも一方を前記差が小さくなるよう補正することを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、加速度センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0008】
上記態様において、制御部は、合計角度が0°のときに前記差を導出してもよい。この態様によれば、上述した補正の精度を向上させることができる。
【0009】
また、上記態様において、制御部は、前記差が所定のしきい値を上回る場合に、当該所定のしきい値よりも小さい補正値だけ基準値を補正してもよい。この態様によれば、上述した補正の精度が低い場合でも、第1角度の基準値および/または第2角度の基準値を徐々に確からしい値に近づけていくことができる。
【0010】
また、本発明の他の態様は車両用灯具システムであり、当該車両用灯具システムは、光軸を調節可能な車両用灯具と、水平面に対する車両の傾斜角度を導出可能な加速度を検出する加速度センサと、車両用灯具の光軸調節を制御するための制御装置と、を備え、水平面に対する車両の傾斜角度を合計角度と呼ぶとき、この合計角度には水平面に対する路面の傾斜角度である第1角度と路面に対する車両の傾斜角度である第2角度とが含まれ、制御装置は、第1角度の基準値と第2角度の基準値とを保持し、車両停止中の合計角度の変化を第2角度の変化として第2角度の基準値を更新するとともに、更新後の第2角度の基準値に応じて光軸調節を指示する制御信号を出力し、車両走行中の合計角度の変化を第1角度の変化として第1角度の基準値を更新し、第1角度の基準値および第2角度の基準値の合計値と、合計角度との差を導出して、第1角度の基準値および第2角度の基準値の少なくとも一方を前記差が0に近づくよう補正することを特徴とする。
【0011】
この態様によっても、加速度センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加速度センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。
図2】前照灯ユニット、車両制御ECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。
図3】車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
図4】実施形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。この前照灯ユニット210は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された構造である。左右に配置された前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニット210Lの説明は適宜省略する。
【0016】
前照灯ユニット210Rは、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212は、その車両後方側に取り外し可能な着脱カバー212aを有する。ランプボディ212と透光カバー214とによって灯室216が形成されている。灯室216には、光を車両前方に照射する灯具ユニット10(車両用灯具)が収納されている。
【0017】
灯具ユニット10には、当該灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。したがって、灯具ユニット10は、エイミング調整ネジ220の調整状態で定められた灯室216内の所定位置に固定されるとともに、その位置を基準にピボット機構218aを中心として、前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢変化可能である。また、灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。
【0018】
ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように揺動する。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように揺動する。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度、すなわち、光軸Oの上下方向の角度を上方に向けるレベリング調整ができる。また、灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度を下方に向けるレベリング調整ができる。
【0019】
灯具ユニット10は、エイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置される。そして、2本のエイミング調整ネジ220を回転させることで、灯具ユニット10をエイミングピボット機構を中心に上下左右に旋回させ、光軸Oを上下左右に調整することができる。
【0020】
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、および投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16は、バルブ14から放射された光を反射する。バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0021】
回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒形状の部材であり、軸方向に一部が切り欠かれた切欠部と、複数のシェードプレート(図示せず)とを備える。切欠部またはシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動されて、所定の配光パターンが形成される。リフレクタ16は、その少なくとも一部が楕円球面状であり、この楕円球面は、灯具ユニット10の光軸Oを含む断面形状が楕円形状の少なくとも一部となるように設定されている。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点面上に第2焦点を有する。
【0022】
投影レンズ20は、車両前後方向に延びる光軸O上に配置される。バルブ14は、投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。なお、灯具ユニット10の構成は特にこれに限定されず、投影レンズ20を持たない反射型の灯具ユニットなどであってもよい。
【0023】
図2は、前照灯ユニット、車両制御ECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニット210Lの構成は基本的に同一であるため、図2では前照灯ユニット210Rおよび前照灯ユニット210Lをまとめて前照灯ユニット210としている。また、レベリングECU100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図2ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
レベリングECU100(車両用灯具の制御装置)は、受信部102、制御部104、送信部106、メモリ108、および加速度センサ110を備える。レベリングECU100は、例えば車両300のダッシュボード付近に設置される。なお、レベリングECU100の設置位置は特に限定されず、例えば前照灯ユニット210内に設けられてもよい。また、加速度センサ110は、レベリングECU100の外に設けられていてもよい。レベリングECU100には、車両300に搭載された車両制御ECU302や、ライトスイッチ304が接続されている。車両制御ECU302やライトスイッチ304から出力される信号は、受信部102によって受信される。また、受信部102は、加速度センサ110の出力値を受信する。
【0025】
車両制御ECU302には、ステアリングセンサ310、車速センサ312、ナビゲーションシステム314等が接続されており、これらのセンサ等から各種情報を取得して、レベリングECU100等に送信することができる。例えば、車両制御ECU302は、車速センサ312の出力値をレベリングECU100に送信する。これにより、レベリングECU100は、車両300の走行状態を検知することができる。
【0026】
ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、前照灯ユニット210の点消灯を指示する信号や、前照灯ユニット210によって形成すべき配光パターンを指示する信号、オートレベリング制御の実行を指示する信号等を、電源306や、車両制御ECU302、レベリングECU100等に送信する。例えば、ライトスイッチ304は、オートレベリング制御の実施を指示する信号をレベリングECU100に送信する。これにより、レベリングECU100はオートレベリング制御を開始する。
【0027】
受信部102が受信した信号は、制御部104に送信される。制御部104は、受信部102から送られてきた加速度センサ110の出力値と必要に応じてメモリ108に保持している情報をもとに車両300の傾斜角度の変化を導出して、灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成する。制御部104は、生成した制御信号を送信部106からレベリングアクチュエータ226に出力する。レベリングアクチュエータ226は、受信した制御信号をもとに駆動されて、灯具ユニット10の光軸Oが車両上下方向(ピッチ角度方向)について調整される。
【0028】
車両300には、レベリングECU100、車両制御ECU302および前照灯ユニット210に電力を供給する電源306が搭載されている。ライトスイッチ304の操作により前照灯ユニット210の点灯が指示されると、電源306から電源回路230を介してバルブ14に電力が供給される。
【0029】
続いて、上述の構成を備えたレベリングECU100によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3は、車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
【0030】
たとえば、車両後部の荷室に荷物が載せられたり後部座席に人等が乗車した場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。灯具ユニット10の照射方向も車両300の姿勢に対応して上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU100は、加速度センサ110の出力値から車両のピッチ方向の傾斜角度の変化を導出し、レベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。このように、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0031】
ここで、加速度センサ110は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ110は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。そのため、加速度センサ110は、図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ110は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。加速度センサ110は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。加速度センサ110から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、制御部104によって車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。
【0032】
加速度センサ110の出力値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、加速度センサ110が検出する加速度から、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θr(第1角度)と、路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度θv(第2角度)とが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度θを導出することができる。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θvおよび合計角度θは、それぞれ車両300の前後軸の上下方向の角度、言い換えれば車両300のピッチ方向の角度である。
【0033】
上述したオートレベリング制御は、車両の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。そのため、加速度センサ110を用いたオートレベリング制御では、加速度センサ110の検出値から導出される合計角度θの変化が、車両姿勢角度θvの変化によるものである場合に灯具ユニット10の光軸位置を調節し、路面角度θrの変化によるものである場合に灯具ユニット10の光軸位置を維持するように制御することが望まれる。
【0034】
そこで、レベリングECU100の制御部104は、車両停止中に合計角度θが変化した場合に光軸を調節し、車両走行中に合計角度θが変化した場合に光軸調節を回避する制御を実施する。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。一方、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。
【0035】
例えば、まず車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態において、車両300は、例えば運転席に1名乗車した状態とされる。そして、初期化処理装置のスイッチ操作等により、レベリングECU100に初期化信号が送信される。制御部104は、受信部102を介して初期化信号を受けると初期エイミング調整を開始し、灯具ユニット10の光軸Oを初期設定位置に合わせる。また、制御部104は、車両300が基準状態にあるときの加速度センサ110の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ108に記録することで、これらの基準値を保持する。
【0036】
車両300が実際に使用される状況において、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸調節を回避する。制御部104は、光軸調節を指示する制御信号の出力を回避することで光軸調節を回避してもよいし、光軸位置の維持を指示する維持信号を生成し、この維持信号を出力することで光軸調節を回避してもよい。制御信号の出力を回避する場合、制御信号を生成しないことで制御信号の出力を回避してもよいし、制御信号を生成した上で生成した制御信号の出力を回避してもよい。
【0037】
車両300が走行中であることは、例えば車速センサ312から得られる車速により判断することができる。前記「車両走行中」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときから、車速センサ312の検出値が0となるまでの間である。この「車両走行中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0038】
また、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化として路面角度θrの基準値を更新する。例えば、制御部104は、車両停止時に走行前後での合計角度θの差分Δθ1を算出する。そして、制御部104は、メモリ108に記録されている路面角度θrの基準値に、得られた差分Δθ1を算入して新たな路面角度θrの基準値を算出し(新θr基準値=θr基準値+Δθ1)、これをメモリ108に記録する。
【0039】
制御部104は、たとえば次のようにして差分Δθ1を算出する。すなわち、制御部104は、車両300の発進直後に、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する。そして、制御部104は、車両停止時に、現在(車両停止時)の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を算出する。なお、制御部104は、加速度センサ110から定期的に加速度を受信し、所定期間分の加速度あるいはその加速度から得られた合計角度θを保持している。
【0040】
前記「車両停止時」は、例えば車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ110の検出値が安定したときからの所定期間である。前記「発進直後」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときからの所定期間である。前記「発進直前」は、例えば車速センサ312の検出値が0を超えたときから所定時間前の時間である。前記「車両停止時」、「発進直後」および「発進直前」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0041】
なお、制御部104は、算出された路面角度θrの基準値と、メモリ108に記録されている路面角度θrの基準値との差が所定量以上であった場合に、路面角度θrの基準値を更新してもよい。これによれば、路面角度θrの基準値が頻繁に書き換えられることを回避でき、制御部104の制御負担の軽減とメモリ108の長寿命化を図ることができる。
【0042】
車両停止中、制御部104は、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化として車両姿勢角度θvの基準値を更新するとともに、更新後の車両姿勢角度θvの基準値に応じて灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を送信部106を介して出力する。例えば、制御部104は、車両停止中に現在の合計角度θとメモリ108に記録されている合計角度θの基準値との差分Δθ2を算出する。このとき用いられる合計角度θの基準値は、例えば、車両300の停止後最初の差分Δθ2の算出では差分Δθ1の算出後に更新された基準値、すなわち車両停止時の合計角度θであり、2回目以降の場合は前回の差分Δθ2の算出後に更新された基準値である。そして、制御部104は、メモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値に、得られた差分Δθ2を算入して新たな車両姿勢角度θvの基準値を算出し(新θv基準値=θv基準値+Δθ2)、これをメモリ108に記録する。
【0043】
なお、制御部104は、車両停止中、灯具ユニット10の光軸Oを調節すべき車両姿勢変化が推定される加速度の変化(振動)があったときに車両姿勢角度θvの基準値を更新し、制御信号を出力してもよい。灯具ユニット10の光軸Oを調節すべき車両姿勢変化としては、例えば人の乗降や荷物の積み下ろし等の車両300にかかる荷重の変化に起因する変化を挙げることができる。
【0044】
前記「車両停止中」は、例えば加速度センサ110の検出値が安定したときから車両発進時までであり、この「車両発進時」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときである。前記「車両停止中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0045】
なお、制御部104は、算出された車両姿勢角度θvの基準値と、メモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、車両姿勢角度θvの基準値を更新し、光軸調節を実施してもよい。これによれば、車両姿勢角度θvの基準値の書き換えと光軸調節が頻繁に実施されることを回避でき、制御部104の制御負担の軽減とメモリ108およびレベリングアクチュエータ226の長寿命化を図ることができる。
【0046】
制御部104は、所定のタイミングで、路面角度θrの基準値および/または車両姿勢角度θvの基準値の補正処理を実行する。すなわち、理論上、路面角度θrの基準値と車両姿勢角度θvの基準値との和は、合計角度θとなる(θ=θr基準値+θv基準値)。そこで、制御部104は、補正処理実行時(現在)の合計角度θから、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値の和を減算して、2つの基準値の合計値と合計角度θとの差である誤差成分Δθeを求める(Δθe=θ−(θr基準値+θv基準値))。そして、制御部104は、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値の少なくとも一方を、誤差成分Δθeが小さくなるよう補正する。
【0047】
例えば、制御部104は、路面角度θrの基準値の更新時、および車両姿勢角度θvの基準値の更新時に補正処理を実行する。この場合、例えば制御部104は、路面角度θrの基準値を更新したときに車両姿勢角度θvの基準値を校正し、車両姿勢角度θvの基準値を更新したときに路面角度θrの基準値を校正する。
【0048】
制御部104は、合計角度θが0°のときに補正処理を実行してもよい。加速度センサ110は、センサ感度のムラやセンサのオフセットを持つため、合計角度θが基準状態の合計角度θである0°からずれるほど、検出誤差が大きくなるというセンサ特性を有する場合がある。そのため、合計角度θが0°のときに補正処理を実行することで、補正処理精度を向上させることができる。
【0049】
なお、路面および車両姿勢が水平の状態、すなわち路面角度θr=車両姿勢角度θv=0°であるときと、路面と車両姿勢とが互いの傾きを打ち消し合うように逆方向に傾斜した状態、すなわち路面角度θrおよび車両姿勢角度θvが0°でなく、かつ路面角度θr+車両姿勢角度θv=0°であるとき、合計角度θが0°になる。したがって、合計角度θが0°になる状況では、路面および車両姿勢がともに水平か水平に近い状態であり、少なくとも路面が急傾斜した状態ではないと推定することができる。このように、実際の路面や車両姿勢の状態を推定可能な状況で補正処理を実行することで、補正処理の精度向上を見込むことができる。
【0050】
また例えば、制御部104は、得られた誤差成分Δθeの絶対値が所定のしきい値θthを上回る場合に(|Δθe|>θth)、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値の少なくとも一方を補正値θcだけ補正する。
【0051】
前記「所定のしきい値θth」は、光軸制御の分解能、あるいは加速度センサ110を用いた角度検出の分解能などに応じて設定される。また、しきい値θthは、光軸制御に支障をきたさない誤差の範囲内に設定される。前記「補正値θc」は、誤差成分Δθeの検出精度などに応じて設定される。例えば、補正値θcは、所定のしきい値θthよりも小さい値に設定される。これにより、誤差成分Δθeの検出精度が低い場合でも、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値を徐々に確からしい値に近づけていくことができる。
【0052】
例えば、加速度センサ110を用いた角度検出の分解能は0.04°であり、しきい値θthは0.1°に、補正値θcは0.03°にそれぞれ設定される。なお、「所定のしきい値θth」および「補正値θc」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。また、「所定のしきい値θth」および「補正値θc」は、路面状態や車両姿勢状態を含む補正処理を実行する状況に応じて可変であってもよい。
【0053】
図4は、実施形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。図4のフローチャートではステップを意味するS(Stepの頭文字)と数字との組み合わせによって各部の処理手順を表示する。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている状態において、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0054】
まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S101)。車両走行中である場合(S101のY)、制御部104は、車両300が発進直後であるか判断する(S102)。発進直後である場合(S102のY)、制御部104は、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録(更新)し(S103)、光軸調節を回避して(S104)、本ルーチンを終了する。発進直後でない場合(S102のN)、制御部104は、合計角度θの基準値を更新することなく、光軸調節を回避して(S104)、本ルーチンを終了する。
【0055】
車両走行中でない場合(S101のN)、制御部104は、車両停止時であるか判断する(S105)。車両停止時である場合(S105のY)、制御部104は、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を計算する(S106)。そして、制御部104は、計算した差分Δθ1とメモリ108に記録されている路面角度θrの基準値とから新たな路面角度θrの基準値を計算して、路面角度θrの基準値を更新する(S107)。また、制御部104は、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する(S108)。
【0056】
次いで、制御部104は、誤差成分Δθeを計算し(S109)、誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θthを上回るか判断する(S110)。誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θthを上回る場合(S110のY)、制御部104は、現在の合計角度θが0°であるか判断する(S111)。合計角度θが0°である場合(S111のY)、制御部104は、車両姿勢角度θvの基準値を補正値θcだけ補正し(S112)、光軸調節を回避して(S104)、本ルーチンを終了する。誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θth以下である場合(S110のN)、制御部104は、補正処理を実行することなく光軸調節を回避して(S104)、本ルーチンを終了する。また、合計角度θが0°でない場合(S111のN)も同様に、制御部104は、補正処理を実行することなく光軸調節を回避して(S104)、本ルーチンを終了する。
【0057】
車両停止時でない場合(S105のN)、この場合は車両停止中であることを意味するため、制御部104は、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ2を計算する(S113)。制御部104は、計算した差分Δθ2とメモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値とから新たな車両姿勢角度θvの基準値を計算して、車両姿勢角度θvの基準値を更新する(S114)。そして、制御部104は、更新した車両姿勢角度θvの基準値に応じて光軸調節を実施する(S115)。また、制御部104は、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する(S116)。
【0058】
次いで、制御部104は、誤差成分Δθeを計算し(S117)、誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θthを上回るか判断する(S118)。誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θthを上回る場合(S118のY)、制御部104は、現在の合計角度θが0°であるか判断する(S119)。合計角度θが0°である場合(S119のY)、制御部104は、路面角度θrの基準値を補正値θcだけ補正して(S120)、本ルーチンを終了する。誤差成分Δθeの絶対値がしきい値θth以下である場合(S118のN)、制御部104は、補正処理を実行することなく本ルーチンを終了する。また、合計角度θが0°でない場合(S119のN)も同様に、制御部104は、補正処理を実行することなく本ルーチンを終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係るレベリングECU100は、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化として車両姿勢角度θvの基準値を更新して光軸調節を実施し、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化として路面角度θrの基準値を更新している。また、レベリングECU100は、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値の合計値と、合計角度θとの差を導出して、この2つの基準値の少なくとも一方を補正している。そのため、加速度センサ110を用いて灯具ユニット10の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0060】
また、例えば、路面角度θrおよび車両姿勢角度θvの和が合計角度θであることを利用して、合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して新たな路面角度θrを算出し、合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して新たな車両姿勢角度θvを算出する方法が考えられるが、この方法では、路面角度θrの基準値に含まれる誤差成分が車両姿勢角度θvに含まれ、車両姿勢角度θvの基準値に含まれる誤差成分が路面角度θrに含まれることになるため、誤差の累積が生じ得る。これに対し、本実施形態に係るレベリングECU100は、車両走行中の合計角度θの変化である差分Δθ1を路面角度θrの基準値に加算して新たな路面角度θrを導出し、車両停止中の合計角度θの変化である差分Δθ2を車両姿勢角度θvの基準値に加算して、新たな車両姿勢角度θvを導出している。そのため、本実施形態に係るレベリングECU100によれば、そのような誤差の累積を回避することができる。
【0061】
なお、上述したレベリングECU100は、本発明の一態様である。このレベリングECU100は、加速度センサ110で検出される加速度を受信する受信部102と、上述したオートレベリング制御を実行する制御部104とを備える。
【0062】
本発明の他の態様としては、車両用灯具システムを挙げることができる。この車両用灯具システムは、灯具ユニット10と、加速度センサ110と、レベリングECU100と(実施形態1ではレベリングECU100に加速度センサ110が含まれている)を有する。
【0063】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
O 光軸、 10 灯具ユニット、 100 レベリングECU、 102 受信部、 104 制御部、 110 加速度センサ、 226 レベリングアクチュエータ、 300 車両、 θ 合計角度、 θr 路面角度、 θv 車両姿勢角度。
図1
図2
図3
図4