特許第5749124号(P5749124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749124
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】二輪車用車両制御装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   B60T8/172 Z
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-189384(P2011-189384)
(22)【出願日】2011年8月31日
(65)【公開番号】特開2012-144240(P2012-144240A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-283209(P2010-283209)
(32)【優先日】2010年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100080137
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ヴェスターフェルド,ヘルゲ
【審査官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−203867(JP,A)
【文献】 特開2002−070709(JP,A)
【文献】 特開2008−080956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御装置において、
前輪速度と後輪速度の速度比、前記前輪速度に応じて変化するパラメータと比較することで、ウィリー状態を判定し、前記パラメータは、ウィリー開始を判定するための開始パラメータ及び/又はウィリー終了を判定するための終了パラメータである、
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項2】
自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御装置において、
前輪速度と後輪速度の速度比が前記前輪速度に応じて変化する所定の条件を満たす場合に、ウィリー状態にあると判定する
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二輪車用車両制御装置において、
ABSによる制御を行っていない場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の二輪車用車両制御装置において、
車体速度が所定の値より大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の二輪車用車両制御装置において、
前記後輪速度が車体速度と等しいか又はより大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の二輪車用車両制御装置において、
所定時間の間、前記ウィリー状態にあると判定された場合に、ウィリー状態にあると判断する
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の二輪車用車両制御装置において、
前記ウィリー状態が終了したと判定した場合に、車体速度の推定値を所定速度に初期化する
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の二輪車用車両制御装置において、
前記車体速度の推定値は、前記前輪速度又は前記後輪速度を用いて前記所定速度に初期化される、
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の二輪車用車両制御装置において、
前記所定速度に初期化した後に、当該所定速度に基づきABS又はTCSによる制御行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御装置。
【請求項10】
自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御方法において、
前輪速度と後輪速度の速度比、前記前輪速度に応じて変化するパラメータと比較することで、ウィリー状態を判定し、前記パラメータは、ウィリー開始を判定するための開始パラメータ及び/又はウィリー終了を判定するための終了パラメータである、
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項11】
自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御方法において、
前輪速度と後輪速度の速度比が前記前輪速度に応じて変化する所定の条件を満たす場合に、ウィリー状態にあると判定する
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の二輪車用車両制御方法において、
ABSによる制御を行っていない場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項13】
請求項10乃至12の何れか一項に記載の二輪車用車両制御方法において、
車体速度が所定の値より大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか一項に記載の二輪車用車両制御方法において、
前記後輪速度が車体速度と等しいか又はより大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項15】
請求項10乃至14の何れか一項に記載の二輪車用車両制御方法において、
所定時間の間、前記ウィリー状態にあると判定された場合に、ウィリー状態にあると判断する
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項16】
請求項10乃至15の何れか一項に記載の二輪車用車両制御方法において、
前記ウィリー状態が終了したと判定した場合に、車体速度の推定値を所定速度に初期化する
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項17】
請求項16に記載の二輪車用車両制御方法において、
前記車体速度の推定値は、前記前輪速度又は前記後輪速度を用いて前記所定速度に初期化される、
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の二輪車用車両制御方法において、
前記所定速度に初期化した後に、当該所定速度に基づきABS又はTCSによる制御行う
ことを特徴とする二輪車用車両制御方法。
【請求項19】
請求項10乃至18の何れか一項に記載の二輪車用車両制御方法を実行するプログラム。
【請求項20】
請求項19に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用車両制御装置及びその方法に関し、より詳細には、二輪車の前輪浮き上がり走行(ウィリー走行)を検知する制御装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車はウィリー走行中に、後輪速度の方が前輸速度より速くなり、ウィリー走行でなく単に後輪がスピンアップしている状態と区別がつかない。このように前後の車輪速度がそれぞれ異なる値を示した揚合、車体速度を推定することが難しい。
【0003】
一方、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)では、前輪や後輪の車輪速度から求めた推定車体速度を用いて、ブレーキの制御を行っている。
自動二輪車ではABSの誤作動を防止するために、低い車輪速度に推定車体速度を追従させるのが一般的である。そのためウィリー走行終了後、車体速度が低く推定されているために適切なABSの制御が行えず、最悪車輪ロックしたり車体安定性が低下するおそれがある。そこで、ウィリー走行後にABSを適切に作動することを目的として、特開2007−203867号公報の装置が提案されている。
【0004】
さらに、車両安定性の機能を補完するために、トラクション・コントロール・システム(TCS)が採用されている。TCSとは、発進・加速時の駆動輪の空転を防止するものであり、自動二輪車の制御にも適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−203867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記装置では、後輪速度と推定車体速度との差を用いて、ウィリー走行の終了を検知している。しかし、このような差では、車両によるものの例えば20〜30km/h程度の低速走行時に、十分な差の値が出にくく、正確にウィリー走行を検知できないおそれがある。
【0007】
また、前記装置では、ウィリー走行検知の終了時、後輪速度に推定車体速度を追従させているが、推定車体速度が後輪速度に追いつくまでに時間がかかり、その間は適切なABS制御を行えない。
【0008】
さらに、前記装置では、ウィリー走行終了を検知する条件として、前輪加速度を用いているが、加速度が大きく発生しない着地をした揚合、ウィリー走行の終了を検知できない。例えば、前輪を叩きつけるような着地ではなく、地面と前輪がゆっくり擦れ合うような着地をした場合などである。
【0009】
そこで、本発明の第1の課題は、低速走行時において、より正確にウィリー走行の開始及び終了を検知し、その終了後より迅速にABSの制御に復帰することができる二輪車用車両制御装置及びその方法を提供することである。
【0010】
ウィリー走行にTCSが伴うと、ウィリー走行終了後に推定車体速度は低く推定されるため、後輪目標速度も低く演算される。それにより、適切なTCS制御が行えず、加速不良を引き起こすことがあった。
【0011】
そこで、本発明の第2の課題は、自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御装置又は方法において、大きな又は危険なウィリー走行を押さえつつ、ウィリー走行終了後に加速不良を防止することができる二輪車用車両制御装置及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の課題を解決するために、第1の発明は、自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御装置又は方法において、前輪速度と後輪速度の速度比を用いて、ウィリー状態を判定する。前記速度比を用いて、ウィリー開始及び/又はウィリー終了を判定する。前記速度比は、前記ウィリー開始を判定するための開始パラメータ及び/又は前記ウィリー終了を判定するための終了パラメータと比較され、前記開始パラメータ及び/又は前記終了パラメータは、前記前輪速度に応じて変化する。前記速度比が前記前輪速度に応じて変化する所定の条件を満たす場合に、前記ウィリー状態にあると判定する。ABSによる制御を行っていない場合に、前記ウィリー状態の判定を行う。車体速度が所定の値より大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う。前記後輪速度が車体速度と等しいか又はより大きい場合に、前記ウィリー状態の判定を行う。所定時間の間、前記ウィリー状態が維持された場合に、ウィリー状態にあると判定する。前記ウィリー状態が終了したと判定した場合に、車体速度を所定速度に設定する。前記所定速度に設定した後に、当該所定速度に基づきABSによる制御行う。前記二輪車用車両制御方法を実行するプログラムを提供でき、当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も提供できる。
【0013】
上記第2の課題を解決するために、第2の発明は、自動二輪車のブレーキの制御を行う二輪車用車両制御装置又は方法において、ウィリー状態の終了を検知すると、車体速度制御に用いる推定車体速度を前輪速度又は後輪速度で初期化する。前記車体速度制御は、TCS制御である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の装置や方法は、前輪速度と後輪速度との比からウィリー状態を判断するため、走行の仕方に関わらず、より適切にウィリー走行の開始及び終了を検知し、ウィリー走行終了直後から最適な推定車体速度の演算及び適切なABS及びTCS制御を行うことができる。
【0015】
また、本発明の装置や方法は、車両の低速走行時に確実にウィリー走行の開始及び終了を検知することができる。また、車両の走行の仕方に依存せずに、ウィリー走行の終了を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る二輪車用車両制御装置のブロック図である。
図2図1の二輪車用車両制御装置のフローチャートである。
図3図2のフローチャートで用いる各速度と時間との関係を示す図である。
図4図1の二輪車用車両制御装置の車体速度と速度比の関係を例示する図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る二輪車用車両制御装置のブロック図である。
図6図5の二輪車用車両制御装置のフローチャートである。
図7図6のフローチャートで用いる各速度と時間との関係を例示する図である。
図8】第2の実施形態の前提となる従来の各速度と時間との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の二輪車用車両制御装置及びその方法に係る各実施形態を、以下、図面を参照しつつ説明する。
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態は、ウィリー走行におけるABS制御用推定車体速度の設定に関する。図1に示すように、第1の実施形態に係る自動二輪車は、前輪10に設けられた前輪ブレーキ11と、後輪20に設けられた後輪ブレーキ21と、前輪10の車輪速度を検知する前輪速度センサ13と、後輪20の車輪速度を検知する後輪速度センサ23とを備える。さらに、前輪速度センサ13、後輪速度センサ23の検知した速度信号は、ECU(電子制御ユニット)30に送信され、ECU30はこれらから推定車体速度を設定する。
【0018】
ECU30内にはABS制御部31が設けられており、ABS制御部31は推定車体速度などを用いてスリップ率を演算し、スリップ率が所定の閾値を超えた場合に、各種弁を備える液圧回路40を用いて前輪ブレーキ11、後輪ブレーキ21の動作を制御して車輪がロックすることを防止する。なお、本実施形態に係る二輪車用車両制御装置(ECU)は、(a)前輪速度、(b)後輪速度、(c)前輪速度及び後輪速度から求められる推定車体速度、(d)ABS制御信号の有無、を用いてウィリーの開始及び終了の検知を行う。
【0019】
次に、図2のフローチャートを用いて第1の実施形態のウィリー検知を説明する。このフローチャートで用いる速度信号はvF、vR、vVehがあり、vFは前輪速度センサ13が検知した前輪速度であり、vRは後輪速度センサ23が検知した後輪速度であり、vVehはECU30が求めた推定車体速度である。さらにこのフローチャートで用いるパラメータは、Para1(vF)、Para2、Para3、Para4(vF)である。これらのパラメータの値は、必要に応じて任意に設定できる。第1パラメータPara1(vF)は、ウィリー開始状態をセットするための最小速度比であり、vFの値によって変動する。第2パラメータPara2は、ウィリー開始状態をセットするための最小車両速度であり、第3パラメータPara3はウィリー開始状態をセットするための最小時間である。第4パラメータPara4(vF)は、ウィリー状態をリセットする(ウィリー終了をセットする)ための最大速度比であり、vFの値によって変動する。Para1(vF),Para4(vF)は、予めマップに定めた前輪速度との関係(後述の図4参照)にしたがって、図示しない記憶部に記憶される。Para1やPara4に付記される(vF)は、これらのパラメータがvFの関数であることを意味する。
【0020】
図2のフローチャートは車両のキー操作などによりスタートする。ステップS201で、各変数を初期化してステップS202に移行する。初期化される変数は、ウィリー、タイマーであり、ウィリーは、0を意味する予約語falseが設定され、タイマーは、初期値に設定される。初期値は、例えば0.0である。
【0021】
ECU30は、ステップS202で速度比vR/vFを演算し、ステップS203で推定車体速度vVehを通常vR又はvFの低い速度に追従させる。
ステップS204では、速度比vR/vFが、第1パラメータPara1(vF)以上か否かを判定し、Para1(vF)以上ならステップS205に移行し、Para1(vF)以上でないなら、ステップS210に移行する。
【0022】
ステップS205では、後輪速度vRが、車体速度vVeh以上か否かを判定し、vVeh以上ならステップS206に移行し、vVeh以上でないなら、ステップS210に移行する。
【0023】
ステップS206では、車体速度vVehが、第2パラメータPara2(最小車両速度)以上か否かを判定し、Para2以上ならステップS207に移行し、Para2以上でないなら、ステップS210に移行する。
【0024】
ステップS207では、ABS制御を行っているか否かを判定し、ABS制御を行っているならステップS208に移行し、ABS制御を行っていないなら、ステップS210に移行する。
【0025】
ステップS208では、タイマーをカウントアップし、ステップS209に移行する。具体的には、タイマーは、車両に適切な値に設定されるが、例えば0.1秒程度でカウントアップされる。ステップS209では、タイマーが測定した時間が第3パラメータPara3(最小時間)以上か否かを判定し、Para3以上ならステップS211に移行し、Para3以上でないなら、ステップS204に戻る。ステップS210では、タイマーの値を初期値にリセットして、ステップS202に戻る。
【0026】
ステップS211では、ウィリーを検知し(ここでは1を意味する予約語trueで表記する)、ステップS212に移行する。ステップS212では、速度比vR/vFが、第4パラメータPara1(vF)以上か否かを判定し、Para4(vF)以上ならステップS213に移行し、Para4(vF)以上でないなら、ステップS212に戻る。
【0027】
ステップS213では、ウィリーはfalseに設定され、ステップS214でvVechを最小車輪速度にリセットして、ステップS201に戻る。
なお、速度比としては、本実施形態ではvR/vFを用いたが、vF/vRでもよい。図2のステップS204〜S207、S209では、「≧」を用いたが、「>」を用いてもよく、ステップS212では、「≦」を用いたが「<」を用いてよい。
【0028】
ステップS201〜S211は、ウィリー開始を検知するステップであり、ステップS212及びS213はウィリー終了を検知するステップであり、最後のステップS214が車体速度をリセットするステップである。
【0029】
図2のフローチャートに記載されるウィリー走行開始の判定条件をまとめる。ECU30は、次の全ての条件を一定時間(Para3)の間満たした場合、ウィリー開始と判断する。
【0030】
(a)ABS制御状態でない(ステップS207)
(b)後輪速度が推定車体速度以上である、即ち、vR≧vVeh(ステップS205)
(c)前輪速度と後輪速度の速度比が「1.0」からある閾値より外れる(ステップS204)。即ち、vR/vF≧(1.0+閾値)=Para1となる。この閾値は、前輪速度に依存する。
【0031】
図2のフローチャートに記載されるウィリー走行終了の判定条件は、前輪速度と後輪速度の比が「1.0」からある閾値以内に収まった時、ウィリー走行の終了と判定する(ステップS212)。即ち、vR/vF≦(1.0+閾値)=Para4となる。
【0032】
図2のフローチャートによる推定車体速度演算の初期化をまとめる。ECU30は、ウィリー走行終了と判断した場合(ステップS212及びS213)、推定車体速度vVehを最低車輪速度に設定して初期化する(ステップS214)。最低車輪速度とは、前輪速度又は後輪速度の低い速度である。
【0033】
図3に、第1の実施形態におけるウィリー走行時の各速度と時間との関係を示す。時間t1が、ウィリー走行の開始を判定した時間であり、時間t2がウィリー走行の終了を判定した時間である。時間t1より前は、推定車体速度vVehは増加しており、前輪及び後輪は接地しており、推定車体速度vVehは、前輪速度vF又は後輪速度vRの低い速度となる。時間t1の直前で、前輪が浮き上がってウィリー走行状態となる。時間t1で、速度比が所定値(Para1)以上に一定時間(Para3)になっているため、ウィリー走行の開始と判定される。ウィリー走行が開始すると、前輪速度vFは低下するものの、後輪速度vRは大きく変化せず、その時点でのエンジンの出力に応じて変化(図2では増加して低下)する。時間t2の直前で浮き上がっていた前輪が着地すると、前輪速度vFは上昇して(前輪を叩きつけるような着地の場合は、図3のように急激に上昇する)、後輪速度vRと一致する。しかし推定車体速度vVehは、前輪速度vFの上昇とは完全に一致せず、若干遅れて上昇して、前輪速度vF及び後輪速度vRと一致する。時間t2で、速度比が所定値(Para4)以下となったため、ウィリー走行の終了と判定される。時間t2以降は、ウィリー走行が終了し推定車体速度が適切な値のため、車輪がスリップした場合には適切なABS制御がなされる。なお、時間t2で車体速度を最低車輪速度(前輪速度又は後輪速度)の遅い方を用いて初期化する。
【0034】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態は、ウィリー走行におけるTCS制御用推定車体速度の設定に関する。第2の実施形態において、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明は省略する。なお、第2の実施形態におけるウィリー検知及びウィリー終了検知は、第1の実施形態と同様に行われる。
【0035】
図5に示すように、第2の実施形態に係るECU30内には、ABS制御部31に加えて、TCS制御部32が設けられる。TCS制御部32は、前輪速度センサ13、後輪速度センサ23からの速度信号に基づき、後輪(駆動輪)の空転を判定する。TCS制御部32は、推定車体速度vVehを非駆動輪速度(前輪速度vF)に追従させる。その推定車体速度vVehから後輪目標速度vRTを演算する。TCS制御中に、後輪速度vRが後輪目標速度vRTを上回っていたら、エンジン出力を下げるか後輪を制動して、後輪速度vRを下げて空転を解消する。一方、TCS制御中に、後輪速度vRが目標後輪速度vRTを下回っていたら、エンジン出力を上げる。
【0036】
次に、図6のフローチャートを用いて第2の実施形態を説明する。ECU30は、ステップS601でウィリーを検知するとステップS602に移行し、ウィリーを検知しないとステップS601を繰り返す。
【0037】
ECU30は、ステップS602でウィリー終了を検知したか否かを判定し、ウィリー終了を検知するとステップS603に移行し、ウィリー終了を検知しないとステップS602を繰り返す。
【0038】
ステップS603で、ECU30は、推定車体速度vVehを初期化するために、前輪速度vF又は後輪速度vRを推定車体速度vVehとして設定する。初期化に用いる速度は、vF又はvRの適切な方とすることができる。
【0039】
図7には、第2の実施形態におけるウィリー走行時の各速度と時間との関係を示し、図8には、従来の各速度と時間との関係を示す。図7及び図8において、時間t’1が、ウィリー走行の開始を判定した時間であり、時間t’2がウィリー走行終了を判定した時間である。図7及び図8において、時間t’1から時間t’2の直前までは、後輪速度vRは後輪目標速度vRTを上回るため、ECU30は、エンジン出力を下げるか、後輪ブレーキを制動して、ウィリー走行を抑える方向でTCS制御を行う。図7及び図8は、時間t’2から時間t’3の間において、推定車体速度vVeh,vVeh’、及び後輪目標速度vRT,vRT’の変化のみが相違する。
【0040】
図8は、時間t’2で推定車体速度の初期化(ステップS603)を行わない場合である。図7及び図8を比較すれば解るように、第2の実施形態では時間t’2においてvVehを初期化することにより、ウィリー走行終了直後(時間t’2)から適切なTCS制御を行うことが可能となる。もし推定車体速度vVehの初期化を行わなければ、図8に示すように、時間t’2から時間t’3の間は、低く演算された後輪目標速度vRT’に後輪速度vR’が達するまで、ECU30は、エンジン出力を下げるか後輪を制動するため車両は加速不良となる。
【0041】
このように第2の実施形態では、ウィリー走行状態の終了直後、即ち、前輪着地後に前輪が実車体速度で回転し始めた時点t’2で、ECU30は、推定車体速度vVehを前輪速度vF又は後輪速度vRを用いて初期化する。なお、図7では、推定車体速度vVehが前輪速度vFによって初期化されているが、後輪速度vRを用いて初期化してもよい。
【0042】
なお、第1の実施形態では、特開2007−203867号公報の装置と異なり、推定車体速度を、最低車輸速度をもって初期化することにより、ウィリー走行終了直後(前輪着地後に前輪が実車体速度で回転し始めたとき)から迅速にABS制御を行うことができる。これによって、車輪ロック及び車体安定性が低下することを回避することができる。このような効果と相まって、ドライバーに安心感を与えることもできる。
【0043】
また、第1及び第2の実施形態では、ウィリー走行開始及びウィリー走行終了の検知を、前輸速度と後輪速度の差や加速度などから判断するのではなく、前輪速度と後輪速度の比を用いることにより、低速走行時における走行の検知や、着地の仕方(前輪を叩きつけるような着地や、地面と前輪がゆっくり擦れ合うような着地のさせ方など)に依存しないウィリー走行の終了の検知が可能となる。
【0044】
なお、特許請求の範囲の「開始パラメータ」、「終了パラメータ」、「所定時間」は、それぞれ本実施形態の第1パラメータ、第4パラメータ、第3パラメータに対応する。
【符号の説明】
【0045】
10 前輪
11 前輪ブレーキ
13 前輪速度センサ
20 後輪
21 後輪ブレーキ
23 後輪速度センサ
30 ECU
31 ABS制御部
32 TCS制御部
40 液圧回路
50 エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8