特許第5749276号(P5749276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5749276質量分光計における多極に電力を提供するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749276
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】質量分光計における多極に電力を提供するための装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20150625BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 B
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-538160(P2012-538160)
(86)(22)【出願日】2010年11月15日
(65)【公表番号】特表2013-511114(P2013-511114A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】CA2010001826
(87)【国際公開番号】WO2011057415
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年10月15日
(31)【優先権主張番号】61/261,407
(32)【優先日】2009年11月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100062409
【弁理士】
【氏名又は名称】安村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】バンダミー, ジョン
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−175774(JP,A)
【文献】 特開2008−281469(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/096970(WO,A1)
【文献】 特開平10−145169(JP,A)
【文献】 特表平06−503679(JP,A)
【文献】 特表2005−528756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/40−49/48
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計における多極に電力を提供するための装置であって、
第1の共振LC回路と、
第2の共振LC回路を前記多極と共に形成するための少なくとも1つの誘導子であって、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第2の共振LC回路は、前記第1の共振LC回路とカスケード接続される、誘導子と、
RF信号を提供するためのRF電源と、
一次側の前記RF電源と、二次側の前記第1の共振LC回路とに並列に接続されている昇圧器と
を備え、
前記昇圧器は、前記RF信号に対する前記装置の電圧利得を提供し、それによって、前記共振LC回路の負荷Qを低下させる、装置。
【請求項2】
前記第1の共振LC回路と前記第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路をさらに備え、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第1の共振LC回路、前記少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および前記第2の共振LC回路は、カスケード接続される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの誘導子が前記多極に接続された場合の前記第2の共振LC回路におけるキャパシタは、前記多極を備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記RF電源は、集積装置(IC)電源を備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記RF電源は、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記装置の前記電圧利得は、実質的に、50から500である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、前記装置に対する電圧利得である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備えている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
質量分析計における多極に電力を提供する方法であって、
RF信号を生成するための回路を制御することを含み、
前記回路は、
第1の共振LC回路と、
第2の共振LC回路を前記多極と共に形成するための少なくとも1つの誘導子であって、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第2の共振LC回路は、前記第1の共振LC回路とカスケード接続される、誘導子と、
RF信号を提供するためのRF電源と、
一次側の前記RF電源と、二次側の前記第1の共振LC回路とに並列接続されている昇圧器と
を備え、
前記昇圧器は、前記RF信号に対する前記回路の電圧利得を提供し、それによって、前記共振LC回路の負荷Qを低下させる、
方法。
【請求項10】
前記回路は、前記第1の共振LC回路と前記第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路をさらに備え、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第1の共振LC回路、前記少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および前記第2の共振LC回路は、カスケード接続される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの誘導子が前記多極に接続された場合の前記第2の共振LC回路におけるキャパシタは、前記多極を備えている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記RF電源は、集積装置(IC)電源を備えている、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記RF電源を、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記回路の前記電圧利得は、実質的に、50から500である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、前記回路に対する電圧利得である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備えている、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、質量分析計に関し、具体的には、質量分光計における多極に電力を提供するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計における多極(例えば、四重極質量フィルタ)に電力を提供する時、高速応答時間が、概して、望ましい。ほとんどの四重極電力供給装置は、共振LC回路によって、電力を提供する。従来技術によって、共振LC回路が、図2に描写されており、RF電源と、誘導子L1とを含み、四重極は、共振LC回路に対して、キャパシタンスC1を提供する。しかしながら、そのような単純回路は、四重極をフル電力状態にする際と、電力をオフにする際の両方において、比較的に低速応答を提供する。例えば、図4は、図2の回路の応答のモデルを描写する。図4から、図2の回路の場合、四重極をフル電力まで漸増させるための応答時間は、40−50μs程度である可能性があり、さらに、電力を漸減させるための応答時間は、40μsを上回ることを理解されたい。そのような長い応答時間は、漸増減の速度が、概して、四重極がイオンを放出および/または濾過可能な速度を決定するため、望ましくない。これはまた、イオンが高速で四重極から放出されるほど、質量分析計の分析構成要素、例えば、飛行時間(ToF)検出器により高速で到達するため、質量分析計が、分析結果を提供する速度に影響を及ぼす可能性がある。加えて、漸増減速度は、概して、放出/濾過の正確性にも影響を及ぼす。さらに、四重極は、kV範囲(例えば、1−5kV電圧)内で動作されるため、RFの速度を漸増させることは、困難となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書の第1の側面は、質量分析計における四重極に電力を提供するための装置を提供する。装置は、第1の共振LC回路を備えている。装置はさらに、第2の共振LC回路を四重極と共に形成するための少なくとも1つの誘導子を備え、少なくとも1つの誘導子が四重極に接続された場合に、第2の共振LC回路は、第1の共振LC回路とカスケード接続される。装置はさらに、RF信号を提供するためのRF電源を備えている。装置はさらに、一次側のRF電源と、二次側の第1の共振LC回路とに並列に接続される昇圧器とを備え、昇圧器は、RF信号に対する電圧利得を提供し、それによって、共振LC回路の負荷Qを低下させる。
【0004】
装置はさらに、第1の共振LC回路と第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路を備え、少なくとも1つの誘導子が、四重極に接続された場合に、第1の共振LC回路、少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および第2の共振LC回路は、カスケード接続され得る。
【0005】
少なくとも1つの誘導子が四重極に接続された場合の第2の共振LC回路におけるキャパシタは、四重極を備え得る。
【0006】
装置は、一次側で昇圧器への非接地入力に接続され、DCオフセットをRF信号に提供するDC電源をさらに備え得る。
【0007】
RF電源は、集積装置(IC)電源を備え得る。
【0008】
RF電源は、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作可能であり得る。
【0009】
装置の電圧利得は、実質的に、50から500であり得る。
【0010】
負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、装置に対する電圧利得である。
【0011】
多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備え得る。
【0012】
本明細書の第2の側面は、質量分析計における四重極に電力を提供する方法を提供する。方法は、RF信号を生成するための回路を制御することを含む。回路は、第1の共振LC回路と、四重極と第2の共振LC回路を形成するための少なくとも1つの誘導子であって、前記少なくとも1つの誘導子が、四重極に接続された場合に、第2の共振LC回路は、第1の共振LC回路とカスケード接続される、誘導子と、RF信号を提供するためのRF電源と、一次側のRF電源と、二次側の第1の共振LC回路とに並列接続される昇圧器とを備え、昇圧器は、RF信号に対する電圧利得を提供し、それによって、共振LC回路の負荷Qを低下させる。
【0013】
回路はさらに、第1の共振LC回路と第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路を備え、少なくとも1つの誘導子が、四重極に接続された場合に、第1の共振LC回路、少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および第2の共振LC回路は、カスケード接続され得る。
【0014】
少なくとも1つの誘導子が四重極に接続された場合の第2の共振LC回路におけるキャパシタは、四重極を備え得る。
【0015】
方法はさらに、一次側で昇圧器への非接地入力に接続され、DCオフセットをRF信号に提供する、DC電源を制御することを備え得る。
【0016】
RF電源は、集積装置(IC)電源を備え得る。
【0017】
方法はさらに、RF電源を、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作させることを備え得る。
【0018】
回路の電圧利得は、実質的に、50から500であり得る。
【0019】
負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、回路に対する電圧利得である。
【0020】
多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備え得る。
本明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
質量分析計における多極に電力を提供するための装置であって、
第1の共振LC回路と、
第2の共振LC回路を前記多極と共に形成するための少なくとも1つの誘導子であって、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第2の共振LC回路は、前記第1の共振LC回路とカスケード接続される、誘導子と、
RF信号を提供するためのRF電源と、
一次側の前記RF電源と、二次側の前記第1の共振LC回路とに並列に接続されている昇圧器と
を備え、
前記昇圧器は、前記RF信号に対する電圧利得を提供し、それによって、前記共振LC回路の負荷Qを低下させる、装置。
(項目2)
前記第1の共振LC回路と前記第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路をさらに備え、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第1の共振LC回路、前記少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および前記第2の共振LC回路は、カスケード接続される、項目1に記載の装置。
(項目3)
前記少なくとも1つの誘導子が前記多極に接続された場合の前記第2の共振LC回路におけるキャパシタは、前記多極を備えている、項目1に記載の装置。
(項目4)
前記RF電源は、集積装置(IC)電源を備えている、項目1に記載の装置。
(項目5)
前記RF電源は、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作可能である、項目1に記載の装置。
(項目6)
前記電圧利得は、実質的に、50から500である、項目1に記載の装置。
(項目7)
前記負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、前記装置に対する電圧利得である、項目1に記載の装置。
(項目8)
前記多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備えている、項目1に記載の装置。
(項目9)
質量分析計における多極に電力を提供する方法であって、
RF信号を生成するための回路を制御することを含み、
前記回路は、
第1の共振LC回路と、
第2の共振LC回路を前記多極と共に形成するための少なくとも1つの誘導子であって、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第2の共振LC回路は、前記第1の共振LC回路とカスケード接続される、誘導子と、
RF信号を提供するためのRF電源と、
一次側の前記RF電源と、二次側の前記第1の共振LC回路とに並列接続されている昇圧器と
を備え、
前記昇圧器は、前記RF信号に対する電圧利得を提供し、それによって、前記共振LC回路の負荷Qを低下させる、
方法。
(項目10)
前記回路は、前記第1の共振LC回路と前記第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路をさらに備え、前記少なくとも1つの誘導子が、前記多極に接続された場合に、前記第1の共振LC回路、前記少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および前記第2の共振LC回路は、カスケード接続される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記少なくとも1つの誘導子が前記多極に接続された場合の前記第2の共振LC回路におけるキャパシタは、前記多極を備えている、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記RF電源は、集積装置(IC)電源を備えている、項目9に記載の方法。
(項目13)
前記RF電源を、実質的に、500kHzから5MHzの範囲内で動作させることをさらに含む、項目9に記載の方法。
(項目14)
前記電圧利得は、実質的に、50から500である、項目9に記載の方法。
(項目15)
前記負荷Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、前記装置に対する電圧利得である、項目9に記載の方法。
(項目16)
前記多極は、四重極、六重極、および八重極のうちの少なくとも1つを備えている、項目9に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
実施形態が、以下の図を参照して説明される。
図1図1は、非限定的実施形態による、質量分析計を描写する。
図2図2は、従来技術による、質量分析計における四重極のための電源供給装置の回路を描写する。
図3図3は、従来技術による、図2の回路の帯域通過曲線を描写する。
図4図4は、従来技術による、図2の回路の応答曲線を描写する。
図5図5は、非限定的実施形態による、質量分析計における四重極に電力を提供するための装置の回路の概略図を描写する。
図6図6は、非限定的実施形態による、四重極のため回路内に導入されるキャパシタンスを含む、図5の装置の回路の概略図を描写する。
図7図7は、従来技術に従って、図5の回路の帯域通過曲線を描写する。
図8図8は、従来技術に従って、図5の回路の応答曲線を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、質量分析計を描写しており、質量分析計は、イオンガイド130と、四重極140と、衝突セル150(例えば、分裂モジュール)と、飛行時間(ToF)検出器160とを備え、質量分析計100は、イオン源120からToF検出器160へとイオンビームを伝送するように有効化される。いくつかの実施形態では、質量分析計100はさらに、イオン源120を制御して、イオン性材料をイオン化することを制御すること、および質量分析計100のモジュール間のイオンの伝送を制御することを含むが、それらに限定されない、質量分析計100の動作を制御するためのプロセッサ185を備え得る。動作時、イオン性材料は、イオン源120内に導入される。イオン源120は、概して、イオン性材料をイオン化し、イオンガイド130(また、Q0として識別され、イオンガイド130が、質量分析に関与していないことを示す)に転送される、イオンビームの形態において、イオン190を生成する。イオン190は、イオンガイド130から、質量フィルタとして動作することができ、後述のように、イオン191を濾過および放出するように制御することができる、四重極140(また、Q1として識別される)に転送される。次いで、放出されたイオン191は、分裂のために、衝突セル150(また、q2として識別される)に転送することができる。衝突セル150は、四重極、六重極、および八重極を含むが、それらに限定されない、任意の好適な多極を備えていることができることを理解されたい。次いで、イオン191は、質量スペクトルの生成のために、ToF検出器160に転送される。そうすることによって、イオン191は、ToF検出器160を通して、経路197を辿り、好適な検出器表面198に衝突する。経路197を進行するのにかかる飛行時間は、イオンの質量対電荷比の平方根に比例する。いくつかの実施形態では、衝突セル150は、四重極140に類似する四重極を備え、イオン191を濾過および放出するように制御することができる。
【0023】
さらに、図示されていないが、質量分析計100は、イオン源120、イオンガイド130、四重極質量フィルタ140、衝突セル150、および/またはToF検出器160に好適な減圧を提供するために、任意の好適な数の減圧ポンプを備え得る。いくつかの実施形態では、減圧差が、質量分析計のある要素間に生成することができることを理解されたい。例えば、減圧差は、概して、イオン源120が、大気圧にあって、イオンガイド130が、減圧下にあるように、イオン源120とイオンガイド130との間に印加される。同じく図示されていないが、質量分析計100は、任意の適切な数のコネクタと、電源と、RF(無線周波数)電源と、DC(直流)電源と、ガス源(例えば、イオン源120および/または衝突セル150用)と、質量分析計100の動作を可能にするための任意の他の好適な構成要素とをさらに備え得る。
【0024】
特に、質量分析計は、質量分析計100内の四重極、例えば、四重極140および衝突セル150のうちの少なくとも1つにRF電力を提供するための装置199を備えている。装置199は、後述されるように、四重極140および衝突セル150のうちの少なくとも1つを、イオン191を濾過および放出するように制御させる。しかしながら、四重極140および/または衝突セル150は、単に例示であって、他の実施形態では、装置199は、装置199と接続される、2つのセットの相互接続された電極を特徴とする、任意の好適な質量分析計における多極(四重極、六重極、および八重極を含むが、それに限定されない)に電力を提供することができることを理解されたい。例えば、多極イオンガイドは、一般に、2つのセットの電極、例えば、「A」セットおよび「B」セットを伴う、四重極と同様に、電力供給される。そのようなAおよびBセットにかかる電圧は、四重極内の交差接続された電極対にかかる電圧に類似する。例えば、多極が、六重極備えている、実施形態では、AおよびBセットはそれぞれ、各セット内に3つの電極を備え、セットA内の各電極は、セットBからの1つの電極と対合される。故に、四重極201は、単に、ある種類の多極の非限定的実施例であって、他の実施形態では、任意の好適な多極が、イオンを濾過および放出するために、装置199によって制御されることができることを理解されたい。
【0025】
従来技術では、装置199は、図2に描写される回路200によって置換され、RF(無線周波数)電源210は、抵抗器220と、誘導子230と、四重極140のキャパシタンスによって提供されるキャパシタンス240とを含む、共振LC回路を介して、四重極140に電力を提供して、電源210、抵抗器220、誘導子230、およびキャパシタンス240は、直列に接続される。そのような回路はさらに、抵抗器220と誘導子230との間にカスケード接続される、共振LC回路を含むことができる。LC回路の数が、nである場合、抵抗器、誘導子、およびキャパシタンスの値を決定可能な一式の式は、以下となることを理解されたい。
【0026】
=1/(C*(2*π*F)) 式1
n−1=V2/n*C式2
n−1=L/V2n 式3
Q=((V1/n−1)1/2 式4
R1=2*π*F*L/Q 式5
式中、
Vgは、回路の電圧利得であって、
Qは、回路の「負荷Q」であって、
Fは、電源210等の回路に対するRF信号を供給する、RF電源の中心周波数であって、
Cn=四重極のキャパシタンスを含む、n番目のキャパシタのキャパシタンス、
Ln=番目の誘導子のインダクタンス
R1=抵抗器220の抵抗である。
【0027】
一般に、n=1の値の回路200は、故に、抵抗器220の抵抗、誘導子230のインピーダンス、および負荷Qは、キャパシタンス240(すなわち、四重極のキャパシタンス)、電源210の中心周波数、および所望の利得Vが与えられると、式1から5および/または任意の好適な回路モデル化パッケージを使用して、計算することができることを理解されたい。
【0028】
さらに、回路200の帯域通過曲線は、式1から5を使用して決定することができ、従来技術によって、図3に描写される。具体的には、図3から、回路200は、ピーク周波数、本事例では、1MHzにおいて、最も効率的に四重極に電力を供給し、さらに、回路200の帯域通過曲線は、狭い(例えば、−3dBで約10kHz)ことを理解されたい。
【0029】
加えて、従来技術によって、図4に描写されるように、回路200の応答曲線をモデル化することができる。図4から、回路200の場合、四重極をフル電力まで漸増させるための応答時間は、40−50μs程度である可能性があって、さらに、電力を漸減させるための応答時間は、40μsを上回ることを理解されたい。概して、LC回路の応答時間は、負荷Q/LC回路の共振周波数に比例することが知られているので、負荷Qを減少させることによって、応答時間も同様に、短縮することができる。
【0030】
次に、質量分析計100等の質量分析計における四重極に電力を提供するための装置199内の回路500の概略ブロック図を描写する図5を参照する。さらに、図6は、装置199内の回路500の概略ブロック図を描写するが、しかしながら、四重極500は、その同等キャパシタンス601によって置換されている。いくつかの実施形態では、四重極140は、四重極501を備えていることができる一方、他の実施形態では、衝突セル150が、四重極501を備え得る。
【0031】
一般に、回路500は、四重極501にRF信号を提供するためのRF電源530と、RF電源530からのRF信号に対して電圧利得を提供するために、誘導子535およびキャパシタ540によって形成される第1の共振LC回路とを備えている。回路500はさらに、四重極501と第2の共振LC回路を形成するための少なくとも1つの誘導子545を備え、少なくとも1つの誘導子545が、四重極501に接続された場合に、第2の共振LC回路は、第1の共振LC回路とカスケード接続される。具体的には、装置199が、四重極501に接続された場合に、第2の共振LC回路は、誘導子545およびキャパシタンス601(図6参照)から形成される。一般に、第2の共振LC回路はさらに、図5および6に描写されるように、抵抗546を備え、抵抗546は、誘導子545の抵抗である。抵抗546は、装置199の駆動電力および効率を最適化するように選択することができる。
【0032】
回路500はさらに、一次側のRF電源530と、二次側の第1の共振LC回路とに並列に接続されている昇圧器550を備えている。昇圧器は、RF信号に対する電圧利得Vを提供し、それによって、共振LC回路の負荷Qを減少させ、ここで、Q=((Vg1/n)−1)1/2であり、Vgは、装置199および/または回路500に対する電圧利得である。従って、応答時間が、負荷Qに比例するので、応答時間は、短縮されるであろう(例えば、以下の図8参照)。いくつかの実施形態では、回路500はさらに、電源530の出力抵抗である、抵抗547を備えている。
【0033】
いくつかの実施形態では、装置199は、四重極501に接続するために、任意の好適な数のコネクタ560を備え得る。四重極501内の各対向する対の極性は、それぞれのコネクタ560に接続されることを理解されたい。描写される実施形態では、装置199は、2つのコネクタ560を備えているが、代替実施形態では、装置560は、四重極501内の各極性に対して1つずつ、4つのコネクタを備えていることができ、四重極501内の対向する対の極性に類似したRF電力信号を出すために、装置199内に好適な内部配線を伴う。
【0034】
いくつかの実施形態では、RF電源530は、1−5MHzの範囲内で動作するが、約500kHz程度で動作することができる。しかしながら、一般に、RF電源530は、任意の好適な周波数、振幅、および位相で動作し、四重極501に電力を提供し、イオンを放出および濾過することができることを理解されたい。いくつかの実施形態では、RF電源530は、集積装置(IC)電源を備えている。
【0035】
いくつかの実施形態では、装置199はさらに、電源530からRF信号のさらなる制御を提供するための回路570を備えている。回路570は、パルス発生器575およびバッテリ576のうちの少なくとも1つを備え得る。パルス発生器575は、ミキサ577を介して、RFの振幅を制御することができる一方、バッテリ575は、一定のオフセットをRF信号に追加することができる。
【0036】
一般に、回路500は、n=2の値であって、任意の好適な回路モデル化パッケージを使用して、モデル化することができることを理解されたい。昇圧器550の存在を考慮して、例えば、好適な回路モデル化パッケージ内において、式1から5をさらに使用して、回路500をモデル化することができることを理解されたい。さらに、いくつかの実施形態では、抵抗546および547は、0.1から数オームの範囲内の値を有することができ、誘導子535は、数μHの範囲内の値を有することができる一方、誘導子545は、数百μHの範囲内の値を有することができ、キャパシタンス540は、数nFの範囲内の値を有することができる。これらの実施形態では、四重極501のキャパシタンス(例えば、図6のキャパシタンス601)は、10から100pFの範囲である。さらに、変圧器550は、抵抗およびインダクタンスの範囲の任意の好適な組み合わせを有することができ、非限定的実施形態では、一次側および二次側のそれぞれのインダクタンスは、1,000μHの範囲内である。しかしながら、装置199の要素の例示的範囲は、過度の限定と見なされず、実際、抵抗、インダクタンス、およびキャパシタンスの範囲の任意の好適な組み合わせは、本実施形態の範囲内である。
【0037】
いずれの場合も、回路500の帯域通過曲線は、n=2によって、式1から5、ならびに種々の抵抗、インダクタンス、およびキャパシタの値から決定することができ、従来技術によって、図7に描写される。図3図7との比較から、回路200と比較して、回路500は、広い帯域通過曲線を有することを理解されたい(例えば、−3dBで約400kHz)。事実上、回路500は、回路200に類似するが、しかしながら、昇圧器550と、1つのさらなるLC共振回路(すなわち、n=2)とを含む。そのような追加は、約2オーダーの帯域通過曲線の広範化をもたらす。さらに、抵抗547は、図7の帯域通過曲線の平坦性を決定することができ、抵抗547のより大きな値は、帯域通過曲線をより丸みを帯びたものにさせることを理解されたい。
【0038】
さらに、非限定的実施形態による、図8に描写される、回路500の応答曲線をモデル化することができる。図8から、回路200の場合の40−50μsと比較して、四重極をフル電力まで漸増させるための回路500の応答時間は、約5μsであり、電力を漸減させるための類似応答時間は、約5μsである。故に、負荷Qを減少させることによって、順に、応答時間が短縮される。
【0039】
一般に、種々の好適な構成要素、例えば、昇圧器550、抵抗器545、547、誘導子535、545、およびキャパシタ540の選択を通して、装置199の電圧利得は、実質的に、50から500であり得ることを理解されたい。故に、RF電源530が、10Vの最大出力を有する場合、装置199の最大出力は、5kV程度である可能性があって、高速漸増速度は、5μsである。これは、概して、昇圧器550を使用して、回路500の利得の実質的部分を提供することにより、共振LC回路の負荷Qを減少させることによって達成される。
【0040】
いくつかの実施形態では、回路500は、第1の共振LC回路と第2の共振LC回路との間の少なくとも1つのさらなる共振LC回路をさらに備えていることができ、誘導子545が、四重極501に接続された場合に、第1の共振LC回路、少なくとも1つのさらなる共振LC回路、および第2の共振LC回路は、カスケード接続される。言い換えると、いくつかの実施形態では、n≧2である。
【0041】
さらに、回路500は、四重極に電力を提供する方法において、例えば、プロセッサ185および/または内蔵プロセッサ(図示せず)を介して、四重極501に電力を提供するように制御することができることを理解されたい。
【0042】
当業者であれば、いくつかの実施形態において、質量分析計100の機能性は、予めプログラムされたハードウェアもしくはファームウェア要素(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、電気的消去可能プログラマブル読取専用メモリ(EEPROM)等)、または他の関連する構成要素を使用して実装できることを理解するであろう。他の実施形態において、質量分析計100および装置199の機能性は、計算装置の動作のためのコンピュータ可読プログラムコードを記憶する、コードメモリ(図示せず)へのアクセスを有する計算装置を使用して達成することができる。コンピュータ可読プログラムコードは、固定され、有形であり、かつこれらの構成要素によって直接的に読み取り可能である、コンピュータ可読記憶媒体に記憶することができる(例えば、可撤性ディスケット、CD−ROM、ROM、固定ディスク、USBドライブ)。代替として、コンピュータ可読プログラムコードは、遠隔で記憶することができるが、伝送媒体上でネットワーク(インターネットが挙げられるが、これに限定されない)に接続されたモデムまたは他のインターフェースデバイスを介して、これらの構成要素に伝送可能であり得る。伝送媒体は、非無線媒体(例えば、光、および/またはデジタル、および/またはアナログ通信線)もしくは無線媒体(例えば、マイクロ波、赤外線、自由空間光学、または他の伝送スキーム)、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0043】
当業者であれば、実施形態を実装するためのさらに多くの代替実装例および修正例があること、ならびに前述の実装例および実施例は、1つ以上の実施形態の例証に過ぎないことを理解するであろう。したがって、範囲は、本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8