(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する前に、特異点の一例である故障点を評定する、従来のC型の故障点標定装置が有する上記解決しようとする課題以外の問題点について以下に述べる。
【0011】
C型の故障点標定装置は、送信パルス電圧が2〜3kVと高電圧であり、コンデンサへの充電時間を要することから短時間に連続してパルスを送信することができないため、標定精度向上が難しい(パルスレーダ方式の装置からの標定処理時間の制約)。
【0012】
C型の故障点標定装置は、送信パルス電圧が2〜3kVと高電圧であり、インパルス発生器に使用する部品および電気・絶縁設計上半導体化が難しいため、小型化することが難しい(送信パルス電圧による故障点標定装置小型化への制約)。
【0013】
長距離送電線および無撚架・多導体の送電線の下相では、高周波インパルスの伝送損失が大きく遠距離の標定が困難となる。非特許文献1では、標定可能距離が40km程度になる場合があることが報告されている(伝送損失の大きい送電線路での標定の制約)。
【0014】
架空送電線路に着氷雪が発生した場合、高周波インパルスの伝送損失は周波数に比例し、指数関数的に増加するため、標定精度の低下または標定困難になることがある(着氷雪時の標定精度低下)。
【0015】
C型の故障点標定装置は、送電線路の状態監視ができない。また、別方式で通信周波数のレベルを監視することで線路に発生した異常を検出する装置があるが、異常箇所の特定はできない。
【0016】
このような問題点を解決する本発明の実施形態について、以下に図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1の故障点標定装置を示す図である。本実施形態の故障点標定装置1は、変換器3、ビデオ高出力アンプ5、キャリアキャンセラー7、差動増幅器9、混合器(Mixer)11、および低周波帯通過弁別器(ローパスフィルター)13を備えている。
【0018】
変換器3は、デジタル信号をアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換器(DAC)15、およびアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器(ADC)17を備え、制御用組込マイコンボード19によって制御される。
【0019】
変換器3が備えるDAC15は、ビデオ高出力アンプ5に接続され、制御用組込マイコンボード19から送信されるデジタル信号をアナログ信号に変換し、変換したアナログ信号をビデオ高出力アンプ5に送信する。
【0020】
ビデオ高出力アンプ5は、キャリアキャンセラー7、差動増幅器9の+入力端子、および混合器11に接続され、変換器3のDAC15から受信したアナログ信号より周波数変調連続波(FMCW)を生成し、送信波として出力する。
【0021】
キャリアキャンセラー7は、差動増幅器9の−入力端子に接続され、差動増幅器9の出力端子は、混合器11に接続されている。キャリアキャンセラー7および差動増幅器9でキャンセラー回路を形成している。
【0022】
混合器11は、アナログ乗算器であり、2つの異なる周波数、例えばf
1とf
2の信号を入力すると、ヘテロダインの原理により、その和と差の周波数f
1±f
2の信号を出力する回路である。ここで「ヘテロダインの原理」とは、周波数がわずかに異なる2つの波を重ね合わせたときに、その周波数の差に等しいビート波(うなり)が観測できることをいう。混合器11は、ローパスフィルター13に接続され、ビデオ高出力アンプ5から受信する送信FM信号と差動増幅器9から受信する受信FM信号とを乗算してビート波の信号を生成し、そのビート波の信号をローパスフィルター13に送信する。
【0023】
ローパスフィルター13は、変換器3が備えるADC17と接続され、混合器11から受信したビート波の信号のうち高周波成分を除去したビート波の信号をADC17に送信する。
【0024】
ADC17は、ローパスフィルター13から受信したビート波の信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を制御用組込マイコンボード19に送信する。
【0025】
制御用組込マイコンボード19には、標定相切換リレー21および故障検出リレー23が接続されている。
【0026】
標定相切換リレー21は、結合フィルタ(CF)25および容量変成器(PD)27を介して、例えば、3相交流の架空送電線29と接続している。さらに、標定相切換リレー21は、遅延素子(DL)35および平衡化変成器37を介してビデオ高出力アンプ5および差動増幅器9に接続している。標定相切換リレー21は、制御用組込マイコンボード19から標定相の切換制御信号およびビデオ高出力アンプ5から送信波である送信FM信号を受信する。また、標定相切換リレー21は、差動増幅器9に受信波である受信FM信号を送信する。
【0027】
容量変成器(PD)27は、交流電力の電圧の高さを電磁誘導を利用して変換する電気所31の既設設備の電力機器・電子部品であり、高圧の1次側電圧を分圧することにより測定可能な2次側電圧まで変換するものである。なお、遅延素子(DL)35は、標定相切換リレー21と故障点標定装置1との距離が短い場合、送信波と受信波からビート波を検出しやすくするために用いることができる。
【0028】
架空送電線29は、電気所31の母線Bに接続され、各架空送電線29上にブロッキングコイル(BC)33が備えられている。なお、容量変成器(PD)27は、結合コンデンサ(CC)を用いることができ、架空送電線29は直流であってもよい。直流の場合は、本線が2本と帰線が2本の合計4本で架空送電線29が構成される。
【0029】
故障検出リレー23は、架空送電線29の故障を検出すると、起動信号を制御用組込マイコンボード19に送信する。なお、故障点標定装置1は、FMCWを予め記憶させる半導体記憶装置を備えることもできる。
【0030】
平衡化変成器37は、故障点標定装置1側の変成器(トランス)で、インピーダンスが非平衡のケーブルでも測定を可能とするものである。これにより、複数の送電線のうち任意の送電線の組合せにおいても故障点を検出することができる。
【0031】
図2は、
図1における本実施形態の故障点標定装置1の動作原理を説明する図である。
図2を用いて、故障点標定装置1におけるビート波の信号を検出する動作について説明する。
【0032】
まず、ビデオ高出力アンプ5は、変換器3のDAC15から受信したアナログ信号より周波数変調連続波(FMCW)を生成し、送信波としてFMCWを架空送電線29に出力する(太線201)。FMCWは、CF25を介して、架空送電線29に流れる。
【0033】
架空送電線29に流れた送信波であるFMCWは、架空送電線29のインピーダンスが変化している所(故障点)で反射波となる。反射波である受信波は、送信波が流れた経路を架空送電線29からCF25を介してキャンセラー回路に向かって、送信波と逆に戻って流れてくる(太線202)。このとき、受信波は、送信波と比較して、振幅が小さくなり周期も遅れている。
【0034】
一方、ビデオ高出力アンプ5で生成されたFMCWは、送信波としてキャンセラー回路の差動増幅器9にも出力される(破線203)。したがって、ビデオ高出力アンプ5で生成されたFMCWをキャンセラー回路204のキャリアキャンセラー7にも出力し、キャンセラー回路204で送信波を打ち消して、受信波のみを差動増幅器9から出力する。なお、本実施形態のキャンセラー回路204は、従来はハイブリッド回路やサーキュレータ回路を使用していた。
【0035】
差動増幅器9から出力した受信波の信号と、ビデオ高出力アンプ5から直接受信した送信波と同じ波形のローカル信号(送信FM信号)を混合器11に入力する(線分205)。
【0036】
混合器11は、送信波および受信波の正弦波を重ね合わせてビート波を生成する。生成したビート波から故障点が検出できるビート信号を生成するため、ビート波を検波する。このときの検波の方式は、最も効率の良い方式としてプロダクト検波と呼ばれている方式を採用する。
【0037】
図3Aないし3Dは、本実施形態の故障点標定装置1による故障点の検波方式を説明する図である。
図3Aないし3Dを用いて本実施形態におけるFMCWを利用した故障点の検出方法を説明する。
【0038】
図3Aは、ビデオ高出力アンプ5から架空送電線29へ送信する送信波301と、送信波301が架空送電線29の故障点で反射し、差動増幅器9で受信する受信波302の模式波形を示している。縦軸が波の振幅で、横軸が時間を表している。受信波302は、送信波301と比べて電波の架空送電線29上での到達時間だけ遅れ、その遅れた到達時間の分だけ周波数がずれている。
【0039】
図3Bは、送信波301および受信波302を混合器11で合成した模式波形を示している。なお、
図3Aと同様に、縦軸が波の振幅で横軸が時間を表しているが、時間軸は
図3Aより長く取っている。2つの異なる周波数の波を合成しているため、合成波は、ビート波(うなり)303となっている。
【0040】
図3Cは、各時間におけるビート波303の振幅(うなりの振幅)のピークを線で結んだ包絡線304を示している。なお、
図3Bと同様に、縦軸が波の振幅で横軸が時間を表している。
【0041】
図3Dは、ビート波303に対し、フーリエ変換による周波数成分解析(FFT)を行い、故障点で反射し、周波数成分が変化した位置(ピーク点305)を示している。なお、
図3Dでは、縦軸が波の振幅で横軸が周波数を表している。
【0042】
次に、FMCW方式を利用した故障位置の検出方法を説明する。
【0043】
まず、ビデオ高出力アンプ5から架空送電線29へFMCWである送信波301を送信する。送信したFMCWの反射波(エコー)を差動増幅器9で受信する(
図3A)。送信波301および受信波302を混合器11で合成してビート波303を生成する(
図3B)。ローパスフィルター13でビート波303の振幅を表す包絡線304を抽出する(
図3C)。抽出した包絡線304を制御用組込マイコンボード19で周波数成分解析(FFT)する(
図3D)。インピーダンスの変化により、故障点で反射した周波数成分が強く変化している点を検出する(
図3D)。周波数成分が強く変化している点の周波数から故障点の位置を導出する。故障点の位置の導出方法は、以下で説明する。
【0044】
図4は、本実施形態のFMCW方式を利用した故障点の位置の導出方法を説明する図である。
図4において、縦軸は波の周波数fを表し、横軸は時間tを表している。また、
図4では、スイープ周波数(一定の周期で変化させる送信波301の周波数)をΔF、スイープ時間をT、スイープレートをk、ビート波の周波数(送信波301および受信波302の周波数の差分)をfb、反射波の遅れ時間をΔt、伝搬速度をc、反射点(故障点)までの距離をXとする。
【0045】
図4において、三角形の相似より、
ΔF/T =fb/Δt ・・・(1)
式(1)を変形して、
Δt = (T・fb)/ΔF ・・・(1)´
計測点から故障点までの往復距離2Xは、
2X=c・Δt ・・・(2)
となるため、式(2)に式(1)´を代入すると、
2X=c・(T・fb)/ΔF ・・・(2)´
式(2)´を変形して、
X={(T・c)/(ΔF・2)}・fb ・・・(3)
ここで、ΔF/Tはスイープレートkとなるため、kを式(3)に代入すると、
X={c/(2k)}・fb ・・・(3)´
したがって、スイープレートk(=ΔF/T)と伝搬速度cは既知なのでビート波の周波数fbを求めれば、故障点までの距離Xが式(3)´より求められる。
【0046】
本実施形態によれば、周波数変調連続波(FMCW)からなる送信波と、その反射波とのビート(うなり)波形の強度が送電線路のサージインピーダンスの変化に対応する。ビート波のフーリエ変換を行うことにより、サージインピーダンスの変化点を表す波形のピーク点が、故障点として導出できる。従来は、FMCWは、気象レーダー等の気中への送信用として使用されていた。また、本発明の技術分野における技術常識的として、FMCWは、ギガヘルツ帯のような高周波帯域にしか使用できず、減衰が大きくて個体には使用できないとされていた。しかし、実際に架空送電線に注入する送信波にFMCWを適用したところ、故障点の標定が可能であることがわかった。
【0047】
ここで、本実施形態における標定可能最短距離の導出方法を以下に示す。
【0048】
まず、最小ビート周波数をfbmin、伝搬速度をc、スイープレートをkとすると、標定可能最短距離Lmin は、
Lmin=(fbmin・c)/(2・k) ・・・(4)
線路長をL、スイープ時間をTとすると、最少ビート周波数fbminは、
fbmin=1/{T−(2・L/c) } ・・・(5)
なお、往復時間(2・L/c)は、反射波の遅れ時間Δtに対応する。
スイープ周波数をΔF(=Fmax−Fmin)とすると、スイープレートkは、
k=ΔF/T=(Fmax−Fmin)/T ・・・(6)
となる。
よって、式(4)に式(5)と式(6)を代入すると、標定可能最短距離Lmin は、
Lmin=(c・T)/[2・{T−(2・L/c) }・(Fmax−Fmin)] ・・・(7)
となる。
【0049】
一具体例として、線路長を26.95km、スイープ周波数を170kHz〜450kHz、スイープ時間を10msとした場合の標定可能最短距離は、式(7)より545mとなる。
【0050】
したがって、故障点標定装置1にFMCWを適用し、使用可能周波数帯域内で周波数を掃引(スイープ)することにより、以下の効果を奏することができる。すなわち、故障点標定装置1からの近端標定不能区間を低減することができる。また、距離分解能が向上し、検出感度向上により伝送損失の大きい送電線路での標定ができる。また、インピーダンス変化点の検出が可能となるため線路状態の監視ができる。
【0051】
本実施形態のFMCWは、低電圧の送信波電圧で標定することができるため、コンデンサ充電が不要となる。これにより、装置構成回路全体の半導体化が可能となるため、故障点標定装置の小型化を図ることができる。
【0052】
さらに、装置構成回路全体の半導体化により、波形発生間隔の短縮化および波形処理部の多機能化が可能となり、標定精度および信頼度を向上することができる。
本実施形態に係るFMCWを適用した故障点標定装置1は、例えば、直流送電線の架空部の故障点を標定するために用いることができる。なお、本実施形態の故障点標定装置1は、架空送電線に限らず、電線や同軸ケーブル等のメタルケーブルの故障点の標定に用いることもできる。