(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ポリマーがエステル基とヒドロキシル基の両方を含む場合に起こるエステル交換反応をベースにしている。
【0027】
このエステル交換を可能にし、高いTgと高い硬性とを有する物質を得るために、エポキシ樹脂は硬化剤として酸無水物を用いて重合される。
【0028】
物質の破壊に至らない温度範囲かつ制御可能な時間スケールでエステル交換反応を実施するために、本発明では触媒を使用する。
【0029】
熱で成形ができる熱可塑性樹脂とは違って、本発明材料はそれ自身の重量で流れるのではなく、非常に広い温度範囲で加工ができ、種々の変形方法を適用することが可能であり、特に、成形は絶対に必要なものではない。これらの方法は金属およびガラスの分野で使われているものと同じ種類のものである。
【0030】
本発明の樹脂および材料は充分な温度と適当な機械的拘束力を加えることによって熱硬化性物質から作られる熱硬化性樹脂材料の物品を成形することができる。本発明の樹脂および材料は充分な温度を加え、各部品を良く接触させることによって各部品を溶着で組立てて複雑な物品を形づくることができる。
【0031】
本発明の樹脂および材料は充分な温度と適当な機械的拘束力を加えることによって、その材料で作られた部品またはその材料をベースにしたコーティングに生じた亀裂または損傷を修理することができる。
【0032】
本発明の樹脂および材料の他の利点は、使用後に材料をリサイクリングすることができ、コンポーネントを基本ユニットの形に再形成し、本発明に従って再度リホームすることができる点にある。
【0033】
本発明の一つの対象は、少なくとも一種のエステル交換触媒の存在下で、ヒドロキシル基および/またはエポキシ基を含み、必要に応じてエステル基をさらに含む少なくとも一種の熱硬化性樹脂の前駆物質を含む組成物を、酸無水物から選択される少なくとも一種の硬化剤と接触させて得られる熱硬化性樹脂組成物であって、
上記エステル交換触媒の全モル量を熱硬化性樹脂の前駆物質中に含まれるヒドロキシルとエポキシの全モル量の5%〜25%の間にし、触媒は熱硬化性樹脂の前駆物質を含む組成物または硬化剤を含む組成物中に溶解し、硬化剤の量は上記樹脂がネットワークを形成し且つ2NA<No+2Nxとなるような量を選択する(ここで、Noは前駆物質中のヒドロキシル基のモル数を表し、Nxは前駆物質中のエポキシ基のモル数を表し、NAは熱硬化性ポリマー前駆物質のヒドロキシル基またはエポキシ基と結合を形成できる硬化剤の無水物基のモル数を表す)
ことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物にある。
【0034】
試薬の量は架橋後に未反応のエポキシ基が残らないように選択するのが好ましい。これは関係:2NA>NXで表される
【0035】
本発明で「熱硬化性樹脂の前駆物質」とはエネルギ源、特に熱の存在下、必要に応じて少量の触媒の存在下で、硬化剤(hardner)(架橋剤ともよばれる)と化学反応して、低温で硬い固体構造のポリマーネットワークを形成するオリゴマー、プレポリマー、ポリマーまたはその他任意の高分子を意味する。これに対して公知の従来の熱硬化性樹脂は、三次元ネットワークを形成する反応に可逆性がないので、熱作用で変化させ、架橋させた後には変形することができない。
【0036】
本発明は特に、熱硬化性樹脂前駆物質を一種または複数の硬化剤と反応させて得られる物質に関するもので、この物質は(a)エステル基と(b)ヒドロキシル基とを有する。
【0037】
本発明のこの物質はエステル基を有し、少なくとも一つのエポキシ基または一つのヒドロキシル基を有する熱硬化性樹脂の前駆物質と少なくとも一つの酸無水物との間の重合反応で得られる。フリーな水酸基とエステル基を有する樹脂から得られる他のタイプの前駆物質および架橋剤としては、多カルボン酸架橋剤とエポキシ基を有する樹脂前駆物質または多カルボン酸架橋剤と水酸基有する樹脂前駆物質を挙げることができる。
【0038】
本発明ではフリーなヒドロキシル基および/またはエポキシ基を有する前駆物質が選択される。これらのフリーなヒドロキシル基およびエポキシ基は硬化剤の反応基と反応してエステル基を介して維持される三次元ネットワークを形成することができる。熱硬化性樹脂前駆物質自体が硬化剤の存在下で架橋反応可能なヒドロキシル基および/またはエポキシ基を有するポリエーテルまたはポリエステル鎖の形をしていてもよい。また、熱硬化性樹脂前駆物質がエポキシ基を有するアクリルまたはメタアクリル樹脂の形であってもよい。
【0039】
本発明はエポキシ樹脂タイプの熱硬化性樹脂であるのが好ましく、従って、熱硬化性樹脂の前駆物質はエポキシ樹脂前駆物質であるのが有利である。エポキシ樹脂の前駆物質は熱硬化性前駆物質組成物の量の少なくとも10重量%、有利には少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも60重量%であるのが有利である。
【0040】
エポキシ樹脂タイプの熱硬化性樹脂前駆物質とは少なくとも一つのエポキシド基を含む分子と定義される。エポキシド基(オキシランまたはエトキシランともよばれる)は下記で表される:
(ここで、Q=HまたはQ=R'で、RおよびR'は炭化水素基)
【0041】
エポキシ樹脂には2つの主要なグループ:グリシジルタイプのエポキシ樹脂と非グリシジルタイプのエポキシ樹脂がある。グリシジルタイプのエポキシ樹脂はグリシジルエーテル、グリシジルエステルおよびグリシジルアミンに分類される。非グリシジルエポキシ樹脂は脂肪族または脂環式タイプである。
【0042】
グリシジルエポキシ樹脂は二酸またはジアミンを有するジヒドロキシ化合物とエピクロロヒドリンとの縮合反応で得られる。非グリシジル・エポキシ樹脂はポリマーのオレフィン二重結合の過酸化で得られる。グリシジル・エポキシ・エーテルの中で最も一般的に使われるものは下記で表されるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)である。
【0044】
このBADGE-ベースの樹脂は電気的性質に優れ、収縮が少なく、多くの金属へ接着性に優れ、耐湿気性、耐熱性および耐衝撃性に優れている。BADGE樹脂の特性は重合度を表すnの値に依存し、それ自体は合成反応の化学量論に依存する。nは一般に0〜25である。
【0045】
ノボラック・エポキシ樹脂(その式は下記に示す)はノボラック・フェノール樹脂のグリシジルエーテルで、これは酸触媒の存在下でホルムアルデヒドとフェノールとを反応させてノボラック・フェノール樹脂を作り、それを触媒としての水酸化ナトリウムの存在下でエピクロロヒドリンと反応させて得られる。
【0047】
ノボラック・エポキシ樹脂は一般に複数のエポキシド基を含む。エポキシド基の数が多くなるほど架橋密度の高い樹脂を製造できる。
【0048】
ノボラック・エポキシ樹脂はその優れた高温耐熱性、成形性、機械特性および電気特性(熱抵抗および耐湿気性)のためにマイクロエレクトロニクスで広く使われている。
【0049】
本発明が適用されるエポキシ樹脂は、それが無水物と反応する前の前駆物質の一つの前駆物質当たりのエポキシドおよびヒドロキシル基の平均数が下記の関係を満たす限り、任意のものにすることができる:
2<2<nx>+<no>
この不等式は厳密な意味で考慮されなければならない。
<nx>は一つの前駆物質当たりのエポキシ基数の平均値であり、
<no>は一つの前駆物質当たりのヒドロキシル基数の平均値である。
【0050】
数の平均値は下記で定義される:
<n>=sum(P(i)*i)/sum(P(i))
(ここで、Piはi基を含む分子の数である)
【0051】
3≦2<nx>+<no>であるのが有利であり、より有利には4≦2<nx>+<no>であるのが好ましい。
【0052】
本発明で使用可能な熱硬化性樹脂前駆物質は下記の中から選択できる:ノボラック・エポキシ樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラグリシジル・メチレンジアニリン、ペンタエリスリトール・テトラグリシジル・エーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルまたはヒドロキノン・ジグリシジルエーテル、エチレングリコール・ジグリシジルエーテル、プロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ブチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチル・グリコール・ジグリシジルエーテル、1,4- ブタンジオール・ジグリシジルエーテル、1,6- ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレン・グリコール・ジグリシジルエーテル、レソルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチル・グリコール・ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ポリ(グリシジル・アクリレート)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、エポキシ化された多価不飽和脂肪酸、エポキシ化された植物油、エポキシ化された魚油およびエポキシ化されたリモネンおよびこれの混合物。
【0053】
BADGE、エポキシド化大豆油およびノボラック樹脂を選択するのが有利である。
【0054】
硬化剤(hardener)はエポキシ樹脂から架橋三次元のネットワークを形成するのに必要である。
【0055】
エポキシ樹脂の硬化剤には多くの種類が存在する。エポキシドを架橋するのに一般に使われる薬剤はアミン、ポリアミド、多カルボン酸、フェノール樹脂、無水物、イソシアン酸塩、ポリメルカプタンである。架橋樹脂の反応機構およびガラス転移温度(Tg)は硬化剤の種類に依存する。樹脂と硬化剤は基本的に所望用途および特性に応じて選択される。エポキシ-硬化剤系の化学量論は硬化物の性質に影響する。
【0056】
本発明樹脂は酸無水物から選択される少なくとも一つの硬化剤を用いて製造される。
【0057】
酸無水物クラスの硬化剤は一般にジアミンと一緒に硬い物質(Tgが室温より高い架橋ネットワーク)を得るために用いられる。
【0058】
この酸無水物は、酸性または塩基性触媒の存在下で、エポキシド基と反応してエステルを形成する。従来、当業者が使用していた触媒は上記エステル化反応のために最適化され、1つのエポキシ基に対して1〜3モル%の量で加えられていた(非特許文献6)。
【非特許文献6】Epoxy Resins, Chemistry and Technology, second edition, published by C.A. May, Marcel Dekker, New York 1988
【0059】
従来技術の作業条件下で多量に使用した場合には、熱硬化性樹脂の前駆物質中に溶けないということが一般に知られていた。
【0060】
硬化剤として環状酸無水物を使うのが好ましい。一般的な環状酸無水物のいくつかを[表1]に示す。
【0062】
例としては無水コハク酸、無水マレイン酸、無水クロレンド酸、無水ナジック酸、無水テトラクロロフタル酸、ピロメリト酸二無水物、1,2,3,4- チクロペンタンテトラカルボン酸ジアンヒドリドおよび脂肪酸ポリ無水物、例えばポリアゼライン酸(polyazelaic)ポリ無水物およびポリセバシン酸(polysebacic)ポリ無水物を挙げることができる。
【0063】
この硬化剤は無水グルタル酸、無水フタル酸および無水ヘキサヒドロフタル酸から選択するのが好ましい。好ましくは触媒の溶解を容易にする性質のある無水グルタル酸を選択するのが好ましい。
【0064】
無水物タイプの硬化剤は単独で使用するか、他のタイプの硬化剤、特にアミン型硬化剤または酸タイプの硬化剤との混合物にして使うことができる。
【0065】
アミン型硬化剤は少なくとも1つのNH
2基または2つのNH基と2〜40個の炭素原子を含む第一級または第二級アミンから選択できる。このアミンは例えば脂肪族アミン例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジヘキシレントリアミン、カダベリン、プトレッシン、ヘキサンジアミン、スペルミン、イソホロン・ジアミンおよび芳香基アミン、例えばフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンおよびメチレンビスクロルジエチルアニリンから選択できる。
【0066】
アミン硬化剤を混合物で使用する場合には、エステル結合がない場合に、作られる第三級アミン結合がゲル化点を越えるのに十分でないようにアミン/エポキシ比を制限するのが有利である。実際には、当業者はエポキシ-アミン系に関する多くの文献を用いて適当な組成物を選択することができる。ネットワークの形成に関する以下のテストを用いてゲル化点を超えないことをチェックすることができる:
【0067】
一つの物質で、その物質から室温で初期高さが約1cmで、直径が1cmの円柱を作り、Tg(DSCで測定)より50℃高い温度に10時間放置し、室温で30分間平衡化した後の最終高さと初期高さの差が20%を超えた場合、ゲル化点ゲル化点を超えないとみなされる。
【0068】
本発明で使用可能な酸としては炭素原子数が2〜40のカルボン酸を挙げることができる。例としては直鎖二酸(グルタル二酸、アジピン二酸、ピメリン二酸、コルク二酸、アゼライン二酸、セバシン二酸またはドデカン二酸および質量の大きなその類縁体およびその混合物または脂肪酸誘導体)、トリマー(3つの同じまたは異なるモノマーのオリゴマ)、脂肪酸二量体および三重体、特に、植物起源の混合物を挙げることができる。これらの化合物は不飽和脂肪酸のオリゴマー化で得られる。この不飽和脂肪酸は例えばウンデシレン酸、ミストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノレイン酸、リノレン酸、リシノール酸、エイコセン酸またはドコセン酸で、これらは一般にパイン油、なたね油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、大豆油、ぶどう種油、アマニ油およびジョジョバ油から得られ、さらに魚油から得られるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸も挙げられる。
【0069】
本発明で使用可能な酸としては炭素原子が2〜40の芳香基カルボン酸、例えば芳香基二酸、例えばフタル酸、トリメリト酸、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。
【0070】
無水物以外の1つまたは複数の硬化剤を無水物タイプの硬化剤との混合物として使用する場合、無水物は硬化剤全体に対して少なくとも10モル%、好ましくは少なくとも20モル%、有利には少なくとも40のモル%、より好ましくは少なくとも60のモル%にするのが有利である。
【0071】
従来技術で無水物とエポキシ基とを等モル比にした場合には、高度に架橋したポリエステルのネットワークが得られ、ジエポキシドおよび環状酸無水物はそれぞれ4つおよび2つの官能性を有する単位になる。
【0072】
無水物とエポキシ基が等モル比の場合、得られたネットワークはエステル交換反応に必要なフリーな水酸基を有しない。本発明では、エステル交換反応が実行でき、しかも、固体の機械的に強い物質に必要な架橋密度にするのに必要なフリーなヒドロキシルが存在するというバランスの点かから選択しなければならない。
【0073】
本発明では、エステル・ブリッジで一体化された一連のモノマーで形成される一つの連続パス(経路)ができたときにネットワークが形成され、このパスがサンプルの一端からを他端まで延びる。これらのモノマーは熱硬化性の前駆物質および/または硬化剤から得られる。所定樹脂および硬化剤からできるネットワークを作るための組成物をどのようにして作るかの理論上および/または経験上のガイドは当業者に公知である(例えば非特許文献6)。
【非特許文献6】P.J. Flory Principles of Polymer Chemistry Cornell University Press Ithaca-NY 1953
【0074】
本発明では、ネットワークを形成するのに十分な量の硬化剤を使用する。実際には、エステル・ブリッジ形成後に、室温で初期高さが約1cmで、直径を1cmの円柱をその材料で作り、それをTg(DSCで測定)より50℃高い温度で10時間放置した後、室温で30分間平衡化し、最終高さと初期高さの差が20%以下であることで、ネットワークが形成されたことを確認できる。
【0075】
1分子当たり少なくとも2つのエポキシ基を有する前駆物質と、環状酸無水物を使用し、エポキシの等モル比を使用した時にネットワークを得るには上記条件で十分である:
2NA<No+2Nx
2NA>Nx
【0076】
触媒の少なくとも一つはエステル交換触媒から選択しなければならない。エステル交換触媒は硬化剤とエポキシドとの反応を触媒できる。しかし、エステル交換触媒に加えて、エポキシドを開くため触媒を使用することもできる。
【0077】
本発明では、エステル交換触媒は、熱硬化性樹脂前駆物質に含まれるエポキシおよびヒドロキシルの全モル量に対して5モル%から25モル%の量で使用する。触媒のこの比率は従来技術で使われる量よりはるかに多い。
【0078】
本発明で、「エステル交換触媒」という用語は下記テスト条件を満たす化合物を意味する。
【0079】
触媒テスト:
エステルE1の製造
6.1ミリモルのオクタン酸(Mw =144.2g/モル、m=0.88g)と、0.37ミリモル(6モル%)の触媒Clと、2-メチルイミゴゾール(2−MI、Mw=82.1グラム/モル、m=ほぼ30 mg)を試験管に入れる。室温でオクタン酸は液体であるが、2−MIは管の底に沈殿する固体である。120℃で、手動でわずかに攪拌し、触媒を溶かす。6.1ミリモルのベンジル・グリシジルエーテル(Mw =164.2g/モル、m=1g)を加え、反応液を攪拌して均質にする。
【0080】
混合物をアルゴン流(40 mL/分)下で120℃に加熱する。反応の進行度をIR分光機で1735cm
-1のエステルのU
C=Oバンドと1705cm
-1の酸、さらには915cm
-1のエポキシのδc-o-c(リング振動)の強度をモニターすることで観察する。1時間後、変換に変化がなくなるのが分かる。
13C NMR分析(CDCl
3/TMS)で181ppmでの[COOH]信号および174ppmでの[COOR]信号が消滅したことを確認する。
【0081】
この反応の終わりに得られる製品はオクタン酸とベンジル・グリシジルエーテルとのエステル化製品であるエステルE1である。これは
1Hおよび
13C NMR分析で確認される。
【0082】
エステルE2の製造
上記と同じプロトコルにするが、反応液は6.7ミリモルのフェニル・グリシジルエーテル(Mw =150.2g/モル、m=1g)、6.7ミリモルのデカン酸(Mw =172.3g /モル、m =1.15g)、0.4ミリモルの2−MI(6モル%、m=ほぼ33 mg)にする。デカン酸と触媒C1は固体である。混合物をゆっくり攪拌して120℃で均質化する。反応は120℃で40mL/分の窒素流下で実行する。上記と同様に反応進行度をモニターする。反応は1時間後に完了する。これを
13C NMR分析で確認する。得られた製品がエステルE2である。
【0083】
エステル交換テスト
試験管中に、0.65ミリモルのElと、0.65ミリモルのE2と、テスト製品である0.032ミリモル(5モル%)の触媒C2とを入れる。混合物を穏やかな攪拌下に150℃まで加熱し、均質化する。反応液を40mL/分の窒素流下で油浴を使用して150℃に加熱する。
【0084】
定期的にサンプルを採ってエステル交換動度合いをモニターする。採取した各サンプルを島津GCMS-QP 2010機を使用した質量分析(GC-MS)に連結したガスクロマトグラフィで分析する。クロマトグラフ分析は0.33μmの無極性ポリ(ジメチルシロキサン)静止相(Equity-1(登録商標)相)のフィルムを詰めた長さ12m(内径0.2mm)の毛管カラムSupelco(モデル28041U)を備えた島津GC-2010機で実行した。ベクトルガスはヘリウムで、吸込み圧力34.6kPa、全流速44.4mL/分、カラム流速0.68mL/分、線速度48cm/秒およびパージ流速3mL/分にした。
【0085】
分析すべき製品をメタノールに溶かした溶液1μLを、1mg/g〜5mg/gの濃度で、分割モードで60%の分割比で250℃の注射温度で注入した。注入後のカラム温度サイクルは80℃で30秒間プラトーにし、その後、24℃/分の勾配で280℃にする。その後、この温度を7分間保つ。全分析時間は16分である。
【0086】
GCクロマトグラフは70eVの島津電子衝撃質量分析計(EIMS)に連結した。イオン源およびインターフェイスの温度はそれぞれ200℃および300℃である。
【0087】
[
図2]は測定した交換製品であるモノエステルEl、E2、E3およびE4に対応するクロマトグラムの信号領域である(各領域をA1、A2、A3、A4という)。各モノエステルは質量分析法で得た断片化で識別される。モノエステルEl、E2、E3およびE4に対応する保持時間は7.9、8.4、7.6および8.6分である。サンプリング時間を関数にして領域(A3+A4)/(A1+A2)の面積比をプロットすることでキネティクが得られる。それを[
図3]に示す。
【0088】
この比が0.9に達する時間が5時間以下の場合、その製品は本発明の触媒であるとみなされる。
【0089】
触媒は亜鉛、スズ、マグネシウム、コバルト、カルシウム、チタンおよびジルコニウムの金属塩から選択するのが好ましい。触媒は亜鉛、スズ、マグネシウム、コバルト、カルシウム、チタンおよびジルコニウムの金属塩と同等なエステル交換キネティクを有する物から選択するのが有利である。また、触媒は有機性の触媒、例えばベンジルジメチルアミド、ベンジルトリメチル塩化アンモニアから選択することもできる。
【0090】
これらの触媒は一般に固体である。この場合、触媒は粉末の形にするのが一般に有利である。
【0091】
不均一触媒すなわち試薬として同じ相にない触媒を使うこともできるが、試薬として同じ相にある均一触媒を使うのが有利である。
【0092】
以下で説明するように、触媒は熱硬化性樹脂前駆物質中または硬化剤中に溶かされる。
【0093】
固体または液体の触媒は熱硬化性樹脂前駆物質中に可溶であるのが好ましい。固体または液体の触媒は本発明方法の実行条件下で熱硬化性樹脂前駆物質中に可溶であるのが有利である。
【0094】
触媒は亜鉛アセチルアセトネート(Zn(Acac))およびベンジルジメチルアミドから選択するのが好ましい。
【0095】
エステル交換触媒に加えて使うことができるエポキシド-開環触媒としては下記を挙げることができる:四塩化錫、有機硼素塩、トリアルキルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、二価の塩化第一錫、アニリン-ホルムアルデヒド縮合物、第三級アミン、N,N-アルカノールアミン、エポキシ基を有する金属キレート、ポリ酸のアミン塩、ウラン塩、トリアルカノールアミン・ホウ酸塩、有機置換ホスフィン、フルオロ硼酸塩、第四級アンモニウム塩、第四モノイミダゾリン塩、ジシアノジアミドおよびイミダゾリン誘導体。
【0096】
エポキシド−開環触媒を使用する場合には、エポキシド基のモル数に対して0.1モル%〜5モル%の量にするのが有利である。
【0097】
本発明の他の対象は、上記熱硬化性樹脂の製造用キット、または、ヒドロキシル基および/またはエポキシ基を有する(必要に応じて少なくとも一つのエステル基をさらに有する)熱硬化性樹脂前駆物質を含む、上記熱硬化性樹脂を含む第1組成物と、酸無水物および少なくとも一つのエステル交換触媒から選択される硬化剤を含む第2組成物とから成る複合材料の製造用キットにある。第1組成物および第2組成物は、オペレータの介入なしに、前駆物質と硬化剤との相互の架橋反応を防ぐのに適した条件下にある。
【0098】
このキットを用いることで、第1組成物と第2組成物を使用前に混ぜるだけで熱硬化性樹脂にすることができる。
【0099】
上記条件は各成分を別々に保存するための2つまたは3つの区画を有する容器で構成することができる。これは触媒を必要に応じて前駆物質または硬化剤と同じ区画に保存できるということを意味する。触媒は熱硬化性樹脂前駆物質と同じ区画中に保存するのが好ましい。各区画中の内容物を接触させて架橋を開始させる手段を容器に設けることができる。
【0100】
キットを、熱硬化性樹脂を製造するのに適した各成分量の各製品を同じ包装物と組み合わせた2つまたは3つの別々のフラスコにして、ユーザが操作および/または計量を行なわずにすむようにすることもできる。
【0101】
本発明の一つの変形例では、熱硬化性樹脂を製造するためのキットを混合物の3つの成分:前駆物質、無水物および触媒の適当な量を含む単一容器で構成することができる。特に、加熱を必要としない場合には、エポキシ-アミン混合物とは違って、触媒の存在下でもエポキシ前駆物質+無水物の混合物は室温で約2ヵ月安定性である。この場合、オペレータの介入は加熱だけである。
【0102】
本発明の他の対象は、上記組成を有する少なくとも一つの熱硬化性樹脂を含む熱硬化性複合材料組成物にある。この組成物は、本発明の熱硬化性樹脂の他に、一種以上のポリマー、顔料、染料、充填剤、可塑剤、繊維、難燃剤、酸化防止剤、潤滑剤、木材、ガラス、金属を含むことができる。
【0103】
本発明の熱硬化性樹脂組成物と混合して使用可能なポリマーとしてはエラストマー、熱可塑性プラスチック、熱可塑性エラストマー、衝撃緩衝剤を挙げることができる。
【0104】
「顔料」という用語はエポキシ樹脂に不溶な着色粒子を意味する。本発明で使用可能な顔料としては酸化チタン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粒子、シリカ、金属酸化物、金属硫化物、その他の任意無機顔料、また、フタロシアニン、アントラキノン誘導体、キナクリドン(quinacridones)、ジオキサジン誘導体、アゾ顔料、その他任意の有機顔料、天然顔料(茜、藍、深紅色、コチニール等)および上記の混合物を挙げることができる。顔料の含有量は物質重量の0.05%〜15重量%にすることができる。
【0105】
「染料」という用語はエポキシ樹脂に可溶なものを意味し、可視光線の部を吸収する能力のある分子を意味する。
【0106】
本発明の熱硬化性樹脂組成物で使用可能な充填剤としてはシリカ、粘土、炭酸カルシウム、カーボンブラック、カオリン、ウイスカーを挙げることができる。
【0107】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中に存在可能な繊維の例としてはガラス繊維のような板繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、セルロースおよびナノセルロース(nanocellulose)繊維、植物繊維(亜麻仁、大麻、サイザル、バンブー、その他)を挙げることができる。
【0108】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は樹脂の層と木材、金属またはガラスの層とを交互に積層して多層積層板を製造するのに使用することもできる。
【0109】
熱硬化性樹脂組成物中に照射を吸収できるこの種の顔料、染料または繊維が存在することで、上記樹脂をベースにした物品をレーザーのような照射源によって加熱することができる。熱硬化性樹脂組成物中に顔料、繊維または炭素繊維、電気伝導充填剤、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉または磁石粒子が存在すると、この種の樹脂をベースにした物品をジュール効果、誘導加熱またはマイクロ波によって加熱することができる。この種の加熱をすることで、以下で説明する方法で熱硬化性樹脂から物品を製造し、変形し、リサイクルすることができる。
【0110】
本発明の他の対象は、上記熱硬化性樹脂組成物をベースにした物品の製造方法にある:
(a) 少なくとも一つのエステル交換触媒の存在下で、少なくとも一種の熱硬化性樹脂前駆物質を含む第1組成物を、酸無水物から選択される少なくとも一種の硬化剤を含む第2組成物と接触させ、
(b) 段階(a)で得られる組成物を変形し、
(c) エネルギを得たえて樹脂を硬化し、
(d) 硬化した樹脂を冷却する。
【0111】
各成分の接触は当業者に公知の任意タイプものミキサーで実施できる。段階(c)で樹脂を硬化するために加えるエネルギは公知の方法で50〜250℃の温度へ加熱することで実施できる。硬化した樹脂の冷却は、冷却手段の使用の有無とは無関係に、物質を一般に室温へ戻すことで実行される。
【0112】
段階(d)の後に、樹脂のゲル化点に達するまたはそれを超えるまでエネルギを加えるのが有利である。特に、本発明方法は段階(c)で樹脂のゲル化点に達するまたはそれを超えるまで充分なエネルギを加えるのが有利である。
【0113】
本発明で「物品」という用語は熱硬化性樹脂、特に、エポキシ樹脂をベースにした物質から成る熱硬化性樹脂部品(コンポートメント)を意味する。それはまた複合材料、コーティング、端子、ビーズ、または熱硬化性樹脂をベースにした接着剤フィルムで作られた品物でもよい。特に、段階(a)中またはその後に、一種または複数の追加成分、特にポリマー、顔料、染料、充填剤、可塑剤、繊維、難燃剤、酸化防止剤、潤滑剤、木材、ガラスおよび金属から選択される追加成分を導入することができる。本発明の品物では樹脂はゲル化点に達するか、それを超えるのが有利である。
【0114】
本発明物品は、支持体上に塗布したコーティング、例えば保護層またはペイントから成ることができる。また、接着剤物質から成ることもできる。
【0115】
実際には、最初に熱硬化性樹脂前駆物質を含む第1組成物中に触媒を溶かすか、硬化剤を含む第2組成物中に溶かす。上記樹脂組成物を成形し、硬化して得られる物品も本発明の一部を成す。
【0116】
本発明は特に、上記方法で得られる熱硬化性樹脂をベースにした本発明物品に関するものである。特に、本発明は熱硬化性樹脂をベースにした品物または熱硬化性樹脂材料に関し、この樹脂はゲル化点に達しているか、それを超えている。
【0117】
「樹脂を硬化するのに加えるエネルギ」とは一般に温度を上げることを意味する。
【0118】
一般に、熱硬化性樹脂をベースにした物品は前駆物質、硬化剤、触媒および添加物の成分を混合し、金型に入れ、温度を上げることで製造される。こうした物品の製造手段は当業者に周知である。
【0119】
しかし、本発明の樹脂組成物では成形以外の方法で物品を作ることができる。例えばフィラメントワインディング、連続成形またはフィルム挿入成形、インフュージョン、プルトルージョン(pultrusion)、RTM(樹脂トランスファー成形)、RIM(反応射出成形)、下記文献に記載のその他任意の公知方法で作ることができる。
【非特許文献7】"Epoxy Polymer"(J.P. Pascault and R.J.J. Williams, Wiley-VCH, Weinheim 2010
【非特許文献8】"Chimie industrielle"、R. Perrin and J.P. Scharff, Dunod, Paris 1999
【0120】
従来の熱硬化性樹脂組成物にこの種の方法を適用した場合には、樹脂が硬化し、物品はもはや変化させられることができず、修理、リサイクルができない。すなわち、樹脂のゲル化点に達するか、それを超えると、従来の熱硬化性樹脂物品はもはや変形できず、修理またはリサイクルができない。
【0121】
この種の従来の物品へ中程度の温度を加えても、目立った測定可能な変換は起こらず、非常に高い温度を加えると物品が劣化する。
【0122】
それとは対照的に、本発明の熱硬化性樹脂をベースにした物質はその特定組成物によって物品の温度を上げることで変形ができ、修理、リサイクルができる。
【0123】
Tg温度以下ではポリマーはガラス状で、リジッドな固体の挙動をする。
【0124】
上記した熱硬化性樹脂の硬化で得られる物質も本発明の別の対象を構成する。
【0125】
本発明の熱硬化性樹脂物質は、ガラス転移温度Tgを超えると、広い温度範囲で粘弾性(viscoelastic)挙動を示し、組成物は5×10
5〜5×10
7Paの貯蔵モジュラスを有する。この貯蔵モジュラスは当業者に公知の1Hzでの機械的動的測定で求めることができる。クリープ実験では極めて短時間で弾性材料の歪み(strain)が観測され、その後は、標準的な熱硬化性樹脂物質とは違った、時間を関数とするほぼ線形に変化する回復不能な歪みが観測される。このほぼ線形な変化から、関係式σ/η=d(ε)/dtに従った粘度が定義できる。ここで、σは加えた応力(Pa)、εは歪み(mm/mm)、tは時間(秒)、ηは粘度(Pa.s)である。
【0126】
本発明の物質の場合、組成物の粘度はTg+150℃の温度で10
5Pa.s〜10
10Pa.sのクリープ範囲に対して1MPaの応力を用いて決定する。従って、測定される回復不可能な歪みは20分のクリープ時間後に10%以上である。
【0127】
従って、本発明は150℃〜300℃の間の温度での粘度が10
5〜10
10Pa.sの間にある熱硬化性樹脂をベースにした熱硬化性樹脂物質に関するものである。
【0128】
広範囲の温度で粘度の変化が少ないので、物質の挙動を無機ガラスの挙動に等しくでき、熱可塑性プラスチックに適用可能な追加の変形方法をそれらに対して加えることができる。
【0129】
同じ組成物の場合、物質の粘度は温度の関数でアルレニウス(Arrhenius)タイプの依存性に従い、広い温度範囲(典型的には100℃〜300℃)でそうである:η=B×exp(−A/T)、(ここで、Aは活性化パラメータ(K
-1)であり、Tは絶対温度(K)であり、Bは定数(Pa.s)である。活性化パラメータ値は一般に7000〜12000K
-1である。
【0130】
実用的観点からは、これは、広範囲の温度領域で、1〜10MPa程度の応力を加えることで、それ自体の自重のり流働で物品または熱硬化性樹脂物質が成形できるということを意味する。
【0131】
同様に、Tg温度以上の温度で物品または熱硬化性樹脂物質を変形させることができ、次の第2段階で内部応力をより高い温度で除去できる。
【0132】
特定の説明に拘束されるものではないが、エステル交換によって拘束が緩和され、高温で粘度が変化するのが原因であろうと考える。応用面からは、これらの物質は高温で処理でき、低粘度で射出またはプレス成形できる。ディールス‐アルダー反応とは逆に、高温での脱重合(depolymerisation)は観測されず、物質はその架橋構造を維持する点に注目する必要がある。この性質によって物品の2つのパーツを修復することができる。高温での復プロセス中にコンポーネントの形を維持するのに金型は不要である。同様に、物質は流動しないので金型は不要で、物品の一つの部品にだけ機械的拘束力を加えることで、コンポーネントを変化させることができる。しかし、壊れ易い傾向のある大きなコンポーネントの場合にはガラス製品のように支持枠で指示することができる。物品の結合形成および修復は本発明の物品変形の特定実施例を構成する。
【0133】
従って、本発明の他の対象は、上記物質で作られた少なくとも一つの物品の変形(トランスフォーミング)の方法にあり、この方法では室温以上の温度(T)で物品へ機械的拘束力を加える。
【0134】
本発明方法を工業的に応用できるようにするためには、所定時間内で変形ができるようにする必要があるが、本発明方法は物品を構成する物質のガラス転移温度Tg以上の温度(T)で機械的拘束力を物品に加えるのが好ましい。
一般に、上記方法の後に室温への冷却が続き、必要に応じて少なくとも一回の機械的拘束力を加える段階を有する。
【0135】
本発明で「機械的拘束力」という用語は物品の局部または全部または一部に機械力を加えることを意味し、この機械力で物品を成形させるか、変形させる。
【0136】
使用可能な機械的拘束力としては加圧、成形、ブレンディング、押出し、ブロー成形、射出成形、スタンピング、湾曲、捩じり加工、引張り、剪断を挙げることができる。
【0137】
例えば、本発明物質のストライプに捩じり加工を加えることができる。それは本発明物品の一つ以上の面上へ板または金型によって圧力を加えることで行うことができる。本発明材料でできたシートまたは板にパターンをスタンピングすることもできる。また、本発明物質で作られた2つの物品を互いに接触させ、平行な圧力を加えて両方の物品を結合させることもできる。物品が本発明物質の顆粒から成る場合には、例えばブレンダまたは押出機のスクリューの周りでブレンディングして機械的拘束力を加えることができる。また、射出成形または押出にすることもできる。また、機械的拘束力を例えば本発明物質のシートにブロー成形で与えることもできる。また、機械的拘束力を同じまたは異なる種類の複数の分離した拘束力にすることができ、物品の全部または非常に局所化された一部に連続的または順次または同時に加えることができる。
【0138】
この変形は一つ以上のポリマー、顔料、染料、充填剤、可塑剤、繊維、難燃剤、酸化防止剤、潤滑剤から選択される一つ以上の追加の成分との混合または凝集を含むことができる。
【0139】
組合せ、結合形成および修復は上記の変形方法の特定実施例である。
【0140】
物品への温度の上昇は公知に任意の手段、例えば伝導、対流、誘導加熱、点加熱、赤外、マイクロ波または放射加熱によって実行できる。本発明方法を実行するために物品の温度を増加させる手段にはオーブン、電子レンジ、抵抗加熱、炎、発熱化学反応、レーザー光線、加熱アイロン、加熱空気ガン、超音波処理タンク、加熱パンチ、その他が含まれる。
【0141】
温度の増加は段階に行ってもそうでなくてもよく、その継続時間は以下の説明および実施例を参考に予想される結果となるように決めることができる。
【0142】
本発明方法は、[
図1]に示すキネティックに従って本発明物質のポリマーネットワーク内での触媒およびフリーなOH基の存在によって促進されるエステル交換反応をベースにしている。
【0143】
変形中の物質の流動はないが、エステル交換反応を用い、適当な温度、加熱時間および冷却条件を選択することによって、新しい形状は残留拘束が無い。従って、機械的拘束を加えても物質は脆化せず、割れない。さらに、コンポートメントを後で再加熱した場合でも、最初の形状には戻らない。特に、エステル交換反応を高温で行うことでポリマーネットワークの架橋点の再編成が促進され、機械的拘束力を相殺する。加熱時間を充分にすることで、外的な機械的拘束力を加えることによって生じる物質内部の機械的拘束力を完全にキャンセルすることができる。
【0144】
従って、本発明方法では、成形では得るのが難しいか、不可能である単一の基本的形状から安定した複雑な形状を得ることができる。特に、捩じり加工から得るのが非常に難しい形状に形成できる。
【0145】
それに加えて、温度、応力下の加熱時間および冷却条件を適当に選択することで、物品を変形させることができると同時に、物品の内部機械的応力が持続するように制御でき、後でその部品を加熱した時に応力を管理下に放出することで部品に管理された変形をさせることができる。
【0146】
従って、本発明のさらに他の対象は、室温以上、好ましくは第1の物品を構成する物質のガラス転移温度Tg以上の温度(T)で第1の物品に機械的応力を加え、続いて冷却する、プログラムされた後変形が可能な物品の製造方法にある。上記温度(T)とその継続時間は、冷却後に内部機械的応力によって物品に残された残留変形が可能となるように制御される。
【0147】
この方法を適用する第1の物品はゲル化点に達したまたはそれを超えた熱硬化性樹脂をベースにした樹脂であるのが有利である。
【0148】
例えば、本発明の物質から成るプレートをその物質のTg以上の温度で折り畳み、内部応力が弛緩する前に、迅速に冷却する場合を挙げることができる。この折り畳んだプレートに外部から機械的応力を加えずに加熱し、選択された角度で物質から残留応力を開放することができる。
【0149】
本発明のさらに他の対象は、プログラムされた後変形で物品を変形させる方法にある。この方法は上記のように室温以上の温度(T)、好ましくは物品を構成する物質のガラス転移温度Tg以上の温度で、適用時間と物品の全てまたは内部機械応力を開放するために選択したその局部的な位置で、物品にプログラムされた後変形をすることから成る。この管理された温度上昇後に冷却する。
【0150】
本発明方法を適用したプログラムされた後変形後の物品はゲル化点に達した、または、それを超えた熱硬化性樹脂をベースにした樹脂であるのが有利である。
【0151】
本発明の物質で作られた物品は下記の方法でリサイクルも可能である:
(1)物品を直接処理する方法:例えば、破損または傷付いた物品を上記の変形方法で修理して、その本来の使用機能、その他の機能を回復する、または、
(2)物品を機械的に粉砕して粒子にし、得られた粒子を物品製造方法で使用する。この方法では本発明物質の粒子は温度上昇と機械的拘束力を同時に受けて物品が変形される。
【0152】
粒子を物品に変形させる上記の機械的拘束力は例えば、金型中での圧縮、ブレンディングまたは押出しで行うことができる。
【0153】
従って、この方法では金型中で充分な温度および適当な機械的拘束力を加えることによって熱硬化性樹脂物質から物品を成形することができる。特に、ゲル化点に達した、または、それを超えた熱硬化性樹脂をベースにした物質から金型中で物品を成形することができる。
【0154】
本発明の他の利点は、液体の出発原料から、熱硬化性樹脂から成る物質を、当業者に公知の任意の方法で、ゲル化点に達した、または、それを超えた熱硬化性樹脂をベースにした樹脂の基本要素(コンポーネント)またはユニットの形(粒子、顆粒剤、ビーズ、ロッド、板、シート、フィルム、ストリップ、ステム、管、その他)の形に製造できる点にある。上記の基本要素(コンポーネント)は熱と機械的拘束力とを組み合わせた作用で所望形状の物品に変形できる。例えば、ストリップはスタンピングで所定形状の小片にカットでき、シートは積層し、圧縮して集合できる。熱硬化性物質、特にエポキシ樹脂をベースにした基本要素は液体の製品より貯蔵、輸送およびハンドルが容易である。本発明による上記コンポーネントの変形段階は化学装置を用いずに最終ユーザが実行できる(毒性または寿命またはVOCがなく、試薬の計量も必要がない)。
【0155】
従って、本発明の他の対象は、上記の形状変形方法の特定実施例である、下記工程を含む、熱硬化性樹脂をベースにした少なくとも一つの物品を製造する方法にある:
(a) 本発明の材料または物質の出発原料として基本ユニットまたは基本ユニットの集合体の形を使用し、
(b) 温度上昇と機械的拘束力とを同時に加えて物品を形作り、
(c) 段階(b)で得られた物品を冷却する。
【0156】
特に、段階(a)では本発明の材料または物質をゲル化点に達した、または、それを超えた熱硬化性樹脂をベースにした樹脂にするのが有利である。
【0157】
本発明方法の他の利点は、使用後に物質を基本ユニットまたはコンポーネントの形に再コンディショニングし、本発明に従って物品を再度変形できる点にある。
【0158】
従って、本発明の一つの対象は、下記から成る本発明物質のリサイクル方法にある:
(a) 出発原料としての物品を使用し、
(b) 機械的拘束力を加え、それと同時に必要に応じて温度を上げて上記物品を基本ユニットの集合体に変え、
(c) この基本ユニットの集合体を冷却する。
【0159】
特に、段階(a)での本発明の材料または物質はゲル化点に達した、または、それを超えた熱硬化性樹脂をベースにした樹脂であるのが有利である。
【0160】
「基本ユニット」という用語は、標準化された形状および/または次の工程で物品に変形するのに適した形状、例えば、粒子、顆粒、ビーズ、ロッド、板、シート、フィルム、ストリップ、ステム、管、その他の形状を有するものを意味する。
【0161】
「基本ユニットの集合体」という用語は、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも100個、より有利には少なくとも10
3個、より有利には少なくとも10
4個、さらに好ましくは少なくとも10
5個の基本ユニットを意味する。
【0162】
本発明の物質および方法を用いることで、従来の物質、例えばエポキシ樹脂をベースにした物品が変形できず、リサイクルできなかったという欠点を克服することができる。特に、エポキシ樹脂をベースにした物品を必要な回数だけ変形でき、リサイクルすることができる。本発明方法はさらに、エポキシ樹脂を固体の製造でき、従って、保存、輸送、ハンドルが簡単になり、基本ユニットとよぶエポキシ樹脂のこの新しい形態は、物品製造で、熱可塑性プラスチックで従来から使われる変形方法を適用して直接使用できる。最後に、本発明樹脂および物質は、これらの樹脂用の新規な形状変形方法を適用することによって熱硬化性樹脂に新しい用途を加えることができ、これらの物質の変形をプログラミング制御で行うことができる。
【0163】
本発明物質の用途分野は熱硬化性樹脂の分野と全く同じで、航空機、エレクトロニクス、スポーツ、建設、印刷、包装、自動車用物質および複合材料等である。
【実施例】
【0164】
実験の部
実施例1
エポキシド基に対して0.5モル当量の無水物と5%の触媒の存在下で本発明の無水エポキシドネットワークを合成する研究
材料の合成:
10.69 gのDER 332エポキシ樹脂(ダウ、当量エポキシ質量:174g/eq.)と、0.81gの亜鉛アセチルアセトネート(CAS 14024-63-6、MW =263.6グラム/モル)(一つのエポキシ基当たり0.05グラム原子の亜鉛に対応)とをテフロン(登録商標)ビーカーに入れる。加熱空気ガン(T=180℃)を用いて反応物を加熱し、完全溶解するまで混合する。次に、3.5gの無水グルタル酸(CAS 108-55-4、MW =114.1)を加え、完全溶解するまで混合する。混合物を寸法が100×100×1.4mmの金型中の2枚の非粘着シリコーン紙の間に注入し、140℃で8時間プレスする。
【0165】
反応後に物質を赤外スペクトル測定して、無水物の信号(1810cm
-1)およびエポキシの信号(915cm
-1)が完全に消滅していることを確認した。重合後のサンプルには1735cm
-1のエステル基の特性吸収帯および水酸基の特性(3200〜3600cm
-1の幅広い吸収ピーク)が記録された。
【0166】
材料の特性
物質のTgはDSCで70℃(□Cp=0.4Jg
-1K
-1)であり、貯蔵モジュラスは40℃で2.4GPa、100℃で15MPaである。種々の温度でのクリープ実験の結果は[
図4]に示してある。これから物質の粘度を決定することができる。[
図5]の曲線は測定した粘度で、これから当業者は所定温度での物質の作業条件を正確に決定することができる。
【0167】
実施例2
熱的な物質の変形方法
成形
実施例1で作ったプレートを加熱空気ガン(T=140℃)を使用して、局所的な過熱を避けるように注意しながら、加熱軟化し、ギロチンを使用してストライプに切断する。100mm×8mm×1.4mmのストライプの両端を2つのテフロン(登録商標)クランプで挟恃する。集合体はフレームに取り付ける。(1)第1のクランプをフレームと一体化し、(2)第1のクランプと対向した第2のクランプを並進移動と回転が可能な可動軸の端部に取付け、(3)フレームを窒素入口とサンプル近傍の有効温度を知るためのクロメル/アルメル熱電対を備えたBuchi TO-50タイプの透明な管状オーブン中に置く。
実験中のサンプルの複屈折を観測するために、オーブンを2つの交差ポラロイド(登録商標)の間に置き、ネガトスコープ(negatoscope)を使用してバックライト証明し、画像をディジタルカメラで記録する。
名目温度は200℃にセットする。加熱中、拡大中にストライプをピンと張った状態を維持するために、クランプの位置を調整する。平衡後に、サンプル近傍の有効温度が160〜180℃の間になるように注意する。その後、ペレータが外部からクランプを操作してサンプルを変形させる。
【0168】
結果
可動クランプを回転させることで2分の間に3/4回転させて捻りを加える。この歪みによって機械的な複屈折が表れ、サンプルの軸線の近くとサンプルの端縁近傍に高度に着色した区域が見られ、サンプルの軸線と端縁の間のほぼ中間位置に2つの中立線(暗色とわずかな着色)が現れる。40分後の写真と比較することで、中立線が広くなり、色が消え、灰色の複屈折図の背面にグレーの影が残るのが観測される。次に、ストライプにより大きい歪みを段階的に加えて、1回転、1.5回転、2回転させ、各回で少なくとも20分間放置する。各歪みを加える毎に複屈折色が再び現れるが、これらの色も上記と同様に再び消える。最も大きい歪み(2回転)を加えた後に40分間の待機し、複屈折がまだ消えない時に可動クランプを開放する。サンプルがその初期の平らなストリップ形状を回復せず、1.5回転の残留捻れで螺旋状の歪みを維持する。
【0169】
0.1%触媒を用いた比較例1
この比較例のサンプルは、使用する触媒の量を少なくし、0.016gの亜鉛アセチルアセトネート(すなわちエポキシ基当たりの0.001g−原子の亜鉛)にする以外は実施例1と同じプロトコルを使用して製造した。実施例2と同じテストでこのサンプルを変形させた。最初に3/4海底の歪みを加え、変形したサンプルを160〜180℃に維持した。40分以後の複屈折造は明確に着色したままである。次に、実施例1の1回転の歪みを加えようとしたが、このサンプルは直ちに破断した。
【0170】
実施例3
本発明の10%触媒を用いたエポキシ−無水物ネットワーク
実施例1と同様に操作したが、触媒の量を2倍にした。寸法が100mm×8mm×1.4mmのサンプルを実施例2と同様にして作った。この場合には、螺旋状に歪み([
図6a])を加えた時に起因する複屈折着色は15分以内に消え、灰色の影の複屈折造が残る([
図6b])。段階的な実験を繰り返し、1回転の捩じり、1.5回転の捩じり、2回転の捩じり、2.25回転の捩じり、2.5回転の捩じり、2.75回転の捩じり、3回転の捩じりを連続的に加える。各段階後に少なくとも10分間の緩和時間を置き、最終段階後は40分間の緩和時間を置く。冷却後のサンプルは3回転の捩じり状態を示す。沸騰水中に浸した後に残った捩じり状態は2.95回転分である。
【0171】
実施例4
本発明の10%の触媒を用いたエポキシ-無水物ネットワーク
種類の異なる2つの連続した歪みを加える
実施例と同じ物質から出発して、100mm×4mm×1.4mm寸法のストライプを作る。このサンプルに最初に実施例3と同様に5回転の捩じりを加える。得られた捩り後のサンプル([
図7a])を室温に冷却し、直径が2.5cmのテフロン(登録商標)シリンダを接線状に接触させる。このシリンダを実施例2に記載のオーブンの軸線に対して垂線に配置する。捩れたストライプの他端には7gの重りを付ける。集合体をオーブン中に置き、実施例2と同様に加熱する。次いで、車軸上でシリンダを回転させて曲げ歪みを加える。冷却後、沸騰水中に浸す。得られた横断面で捩じられたストライプから成る物品にはオープンリングが観察される([
図7b])。
【0172】
プログラム可能な形状を有する物品の製造
加熱空気ガンを使用して上記の物品を軟化して、[
図7c]に示すような閉じたリングを形成するように変形し、その後、室温まで冷却する。得られた物品を室温に保持すると[
図7c]の形状を維持する。しかし、それを沸騰水に浸すと[
図7b]の形を回復する。
この実施例は初期の物品(ストライプ)に複数の一連の歪みを加えることができ、単に温度を上げるだけでその物品を依然の形に戻すことができることを示している。
【0173】
実施例5
本発明物質の粉砕によるリサイクル
実施例3に従って3gの物質を調製し、それを10000回転数/分の速度で運転するPulverisette 14型Fritsch社のミルで<0.5mmの粒度有する粉末に粉砕した。得られた粉末を直径20mm、厚さ1.5mmの円形金型中で加熱プレスを使用して、250℃の温度で、30秒間の5トンの圧力でプレスする。プレスから金型を外し、熱いうらにサンプルを金型から剥がす。こうして成形されたサンプルは金型の寸法を維持し、透明で、優れた凝集力([
図8])を示す。
【0174】
実施例6
本発明のエポキシ樹脂をベースにした物品の修復
実施例1のプロトコルに従って本発明の4つの物質を合成したが、エポキシ基に対する無水物基の比を[表2]のように変えた。
【0175】
【表2】
【0176】
各物質から寸法が50mm×5mm×1.4mmの長方形のストライプをカットする。ストライプの中央を壊し、2つの断片を15mmの長さで互いに重ね、形状がASTM 規格D3983に類似したモーア・クランプで圧縮する。加わる圧力を制御するために、直径6m、ピッチ1mm mの中央ネジを同じ寸法の六角フットネジに代え、引張試験用スクリュードライバーを使用して70(±10)N/cmのトルクを加えた。集合体を150℃で2時間ベーク(硬化)した。
【0177】
その後、インストロン(Instron)引張試験機でサンプルを室温で毎分0.1mmの速度で引っ張る。集合体が耐えることのできる最大の力と破壊時の伸び率を測定する。この方法で2つのサンプル間の付着力を定量化し、集合体の修復度を評価することができる。結果は[
図9]に示す。本発明の集合体は、本発明の熱硬化性樹脂で作られた部品は修理でき、また、本発明材料でできた二つの部品は組立てることができることを示している。この実施例も、エポキシ+無水物の反応で生じるヒドロキシル基の数が増加すると特性が改善し、この数は無水物/エポキシ比が小さい程、それに比例して大きくなることを示している。