(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5749377
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】流量測定方法及び流量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/00 20060101AFI20150625BHJP
G01M 3/28 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
G01F1/00 F
G01M3/28 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-101883(P2014-101883)
(22)【出願日】2014年5月16日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130178
【氏名又は名称】株式会社コスモ計器
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】本間 良廣
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4281001(JP,B2)
【文献】
特許第3989629(JP,B2)
【文献】
特許第4438607(JP,B2)
【文献】
特許第4630791(JP,B2)
【文献】
特許第5113894(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1
G01M 3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの流量を測定する流量測定方法であり、
(a) 基準ワークに対し規定圧PPの気体を供給し、そのときの流量を測定し、第1流量値QmPとして上記規定圧PPの値と共に保持する工程と、
(b) 上記基準ワークに対し上記規定圧PPから所定量ずれた第1テスト圧Paの気体を供給し、そのときの流量を測定し、第2流量値Qmaとして上記第1テスト圧Paの値と共に保持する工程と、
(c) 測定対象ワークに対し上記規定圧PPから上記所定量の範囲内の任意の第2テスト圧Pbの気体を供給し、そのときの流量を第3流量値Qbとして測定する工程と、
(d) 上記基準ワークの圧力対流量特性を上記第1流量値QmPと上記第2流量値Qmaを結ぶ直線で近似し、上記近似直線上の、上記第2テスト圧Pbに対応する流量を第4流量値Qmbとし、上記測定対象ワークの上記規定圧PPでの流量を第5流量値QPとすると、Qmb:Qb=QmP:QPの比例関係が成立すると近似して上記第5流量値QPを上記第1流量値QmPと、上記第2流量値Qmaと、上記第3流量値Qbと、上記規定圧PPと、上記第1テスト圧Paと、上記第2テスト圧Pbとから演算部により計算で求める工程と、
を含むことを特徴とする流量測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の流量測定方法において、上記工程(d)は上記第5流量値Q
Pを次式
【数4】
により計算することを特徴とする流量測定方法。
【請求項3】
ワークの流量を測定する流量測定装置であり、
与えられた圧力の気体を供給する空圧源と、
上記空圧源が一端に接続された配管と、
上記配管に直列に挿入され、上記気体の圧力を調整するレギュレータと、
上記レギュレータの、上記空圧源と反対側において上記配管に直列に挿入された流量計と、
上記流量計の、上記空圧源と反対側において上記配管に接続された圧力計と、
上記流量計により測定された流量信号と上記圧力計により測定された圧力信号が与えられ、上記配管の他端に接続されたワークの規定圧での流量を計算する制御部と、
を含み、
上記制御部は、
上記配管に接続された基準ワークに対し規定圧PPの気体を供給したときの上記流量計により測定された流量を第1流量値QmPとして上記規定圧PPの値と共に保持し、上記基準ワークに対し上記規定圧PPから所定量ずれた第1テスト圧Paの気体を供給したときの上記流量計により測定された流量を第2流量値Qmaとして上記第1テスト圧Paの値と共に保持し、上記基準ワークの圧力対流量特性を上記第1流量値QmPと上記第2流量値Qmaを結ぶ直線で近似し、上記近似直線上の、上記規定圧PPから所定量の範囲内の任意の第2テスト圧Pbに対応する流量を第3流量値Qmbとし、測定対象ワークが接続された場合の、上記規定圧PPから上記所定量の範囲内の上記第2テスト圧Pbでの流量を第4流量値Qbとし、上記測定対象ワークの上記規定圧PPでの流量を第5流量値QPとすると、Qmb:Qb=QmP:QPの比例関係が成立すると近似して上記第5流量値QPを上記第1流量値QmPと、上記第2流量値Qmaと、上記第4流量値Qbと、上記規定圧PPと、上記第1テスト圧Paと、上記第2テスト圧Pbとから計算するための計算式を予め格納した記憶部と、
上記配管の他端に接続された上記測定対象ワークに対し上記第2テスト圧Pbの気体を供給したときの上記流量計により測定された上記第4流量値Qbを取り込み、上記測定対象ワークの上記規定圧PPでの上記第5流量値QPを上記第1流量値QmPと、上記第2流量値Qmaと、上記第4流量値Qbと、上記規定圧PPと、上記第1テスト圧Paと、上記第2テスト圧Pbとから上記記憶部に格納された上記計算式を使って計算する演算部と、
計算された上記第5流量値QPを表示する表示部と、
を含むことを特徴とする流量測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の流量測定装置において、上記記憶部は上記計算式として上記第5流量値Q
Pを計算する次式
【数5】
を予め格納しており、上記演算部は上記計算式を使って上記第5流量値Q
Pを計算するように構成されていることを特徴とする流量測定装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の流量測定装置において、上記レギュレータと上記流量計の間において上記配管に接続され、上記レギュレータにより調整された気体の圧力を表示する圧力ゲージが接続されていることを特徴とする流量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はワークに規定のテスト圧の気体を供給し、ワークに流れる気体の流量を測定する方法、及びその方法を使った流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジンの吸排気バルブ、シリンダヘッド、ジョイント管、ガスコック、などのワークの良否を判定する場合、ワークに規定の圧力の気体(例えば空気)を供給し、そこに流れる気体流量の大きさを規定の値と比較してワークの良否を判断する。その場合、ワークに規定のテスト圧が加わっていなければ、正確な良否判定をすることができない。
【0003】
図1はこの分野の従来技術と考えることができる流量測定装置の概念的なブロック図を示す。この流量測定装置100では配管13の一端に空圧源11が接続され、他端にワーク20が接続され、空圧源11側からレギュレータ(減圧弁)12、流量計15、作動弁16がこの順に配管13に直列に挿入されている。レギュレータ12と流量計15の間において配管13に圧力ゲージ14が接続されており、作動弁16とワーク21の間において配管13に圧力計17が接続されている。流量計15からの測定流量信号と圧力計17からの検出圧力信号が制御装置30に与えられる。制御装置30は演算部31と、記憶部32と、表示部33とを含んでいる。記憶部32には測定処理手順のプログラムと、予め決めたテスト圧許容誤差値が記憶されている。
【0004】
流量計15としては差圧式流量計、層流式流量計、熱線式流量計など、どのような形式の流量計でもよい。演算部31は例えばマイクロプロセッサーで構成し、制御装置30に取り込まれた流量信号と圧力信号はそれぞれ図示してないA/D変換器によりディジタル信号に変換されて演算部31に与えられるものとする。演算部31は記憶部32に記憶されているプログラムに従って測定手順を実行する。
【0005】
測定に当たっては、作動弁16を閉じた状態で測定対象ワーク20を配管13の他端に取り付け、圧力ゲージ14の表示圧力がほぼ規定圧となるようレギュレータ12を調整する。次に作動弁16を導通させてワーク20に圧力調整した空気を供給するが、減圧調整するレギュレータ12の性能や空圧源11の元圧変動、空圧原11からワーク20にいたる経路による圧力損失などによりワーク20に与えられる実際の圧力は規定圧からかなりずれた圧力となってしまう場合がある。そこで、圧力計17の表示圧力をモニターし、圧力値が規定圧となるよう更にレギュレータ12を調整すればワーク20の正確な流量を求めることができるが、レギュレータ12の調整は一般に手動であり調整精度が粗く、ワークごとにそのようなレギュレータ12を微細調整するのは多大の労力と時間を要する。
【0006】
そこで、圧力ゲージ14の読みがほぼ規定圧となるようレギュレータ12を粗調整し、流量計15からの測定流量と圧力計17による検出圧力を制御部30の演算部31に取り込む。演算部31は検出圧力と記憶部32に記憶されている規定圧との圧力誤差を計算する。その圧力誤差の絶対値が記憶部32に記憶されているテスト圧許容誤差値以下であれば測定流量値を規定圧での流量とみなして表示部33に表示する。圧力誤差の絶対値がテスト圧許容誤差値より大であった場合は適正な圧力の空気がワーク20に与えられていないので、作動弁16を閉じてレギュレータ12を再度調整し、同様の測定と判定を繰り返す。
【0007】
同種の多数のワークの良否を検査する場合は、作動弁16閉じた状態でまず良品であるマスターワーク(基準ワークとも呼ぶ)を配管13に取り付け、圧力ゲージ14をモニターしながらほぼ規定圧となるようレギュレータ12を粗調整し、作動弁16を開いた後に更に圧力計17の読みが規定圧となるようレギュレータ12を精調整し、その状態で流量計15の測定流量を標準流量として記憶部32に保存する。その後は先に説明したと同様に各ワークについて圧力ゲージ14の読みがほぼ規定圧となるようレギュレータ12を調整し、そのときの測定流量と標準流量との誤差が標準流量に対し所定の割合以下であれば良品と判定し、そうでなければ不良と判定するよう制御装置30は構成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前述のように様々な原因でワークにいつも正確な規定圧が印加されているとは限らない。テスト圧の規定圧からのずれがテスト圧許容誤差値以内であったとしても、テスト圧許容誤差値を大きく設定すれば、大きな流量誤差を許容することになり、この誤差はいくら精度の良い流量計を使用しても除去できず、テスト圧の規定圧からのずれは再現性の悪い、ばらつきの多い計測をもたらすことになる。またテスト圧が微圧の場合や、大流量の場合は配管の圧力損失でワークに加わるテスト圧が計測ごとに変わってしまう。この場合も正しい流量計測が行われない。テスト圧許容誤差値を小さく設定すれば、レギュレータ12の調整に多大な時間と労力を要することになる。
【0009】
これらの問題を解決する方法としてレギュレータ12として電気的に圧力調整可能な微圧レギュレータや電空レギュレータを用いて、圧力計17からの検出圧力によりレギュレータ12をフィードバック制御し、ワークテスト圧をコントロールすることが考えられる(例えば特開2001-27555号公報参照)。しかし、このフィードバック制御方式は費用がかさむこととフィードバックのハンティングが収斂するのに時間がかかるため制御に時間がかかり計測時間が延びる欠点がある。
【0010】
他の解決方法として、ワークの特性がオリフィス特性であるとみなしてベルヌイの定理とボイル・シャルルの法則から導出した換算式を使って規定圧からずれたテスト圧で測定された流量を規定圧での流量に換算することが例えば特開2013-134180号公報に提案されている。しかし、実際のワークはオリフィス特性から外れるものもたくさんあり、そのようなワークの場合は、換算式が当てはまらず、規定圧での流量を精度よく求めることはできない。
【0011】
この発明の目的は、上述の問題点を解決し、フィードバック制御を使用せず、どのような特性のワークであっても、テスト圧が規定圧からある程度ずれても高い精度で規定圧での流量値が得られる流量測定方法及び流量測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明によるワークの流量を測定する流量測定方法は、
(a) 基準ワークに対し規定圧P
Pの気体を供給し、そのときの流量を測定し、第1流量値Q
mPとして上記規定圧P
Pの値と共に保持する工程と、
(b) 上記基準ワークに対し上記規定圧P
Pから所定量ずれた第1テスト圧P
aの気体を供給し、そのときの流量を測定し、第2流量値Q
maとして上記第1テスト圧P
aの値と共に保持する工程と、
(c) 測定対象ワークに対し上記規定圧P
Pから上記所定量の範囲内の任意の第2テスト圧P
bの気体を供給し、そのときの流量を第3流量値Q
bとして測定する工程と、
(d) 上記基準ワークの圧力対流量特性を上記第1流量値Q
mPと上記第2流量値Q
maを結ぶ直線で近似し、上記近似直線上の、上記第2テスト圧P
bに対応する流量を第4流量値Q
mbとし、上記測定対象ワークの上記規定圧P
Pでの流量を第5流量値Q
Pとすると、Q
mb:Q
b=Q
mP:Q
Pの比例関係が成立すると近似して上記第5流量値Q
Pを上記第1流量値Q
mPと、上記第2流量値Q
maと、上記第3流量値Q
bと、上記規定圧P
Pと、上記第1テスト圧P
aと、上記第2テスト圧P
bとから演算部により計算で求める工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
この発明によるワークの流量を測定する流量測定装置は、
与えられた圧力の気体を供給する空圧源と、上記空圧源が一端に接続された配管と、上記配管に直列に挿入され、上記気体の圧力を調整するレギュレータと、上記レギュレータの、上記空圧源と反対側において上記配管に直列に挿入された流量計と、上記流量計の、上記空圧源と反対側において上記配管に接続された圧力計と、上記流量計により測定された流量信号と上記圧力計により測定された圧力信号が与えられ、上記配管の他端に接続されたワークの規定圧での流量を計算する制御部とを含み、
上記制御部は、
上記配管に接続された基準ワークに対し規定圧P
Pの気体を供給したときの上記流量計により測定された流量を第1流量値Q
mPとして上記規定圧P
Pの値と共に保持し、上記基準ワークに対し上記規定圧P
Pから所定量ずれた第1テスト圧P
aの気体を供給したときの上記流量計により測定された流量を第2流量値Q
maとして上記第1テスト圧P
aの値と共に保持し、上記基準ワークの圧力対流量特性を上記第1流量値Q
mPと上記第2流量値Q
maを結ぶ直線で近似し、上記近似直線上の、上記規定圧P
Pから所定量の範囲内の任意の第2テスト圧P
bに対応する流量を第3流量値Q
mbとし、測定対象ワークが接続された場合の、上記規定圧P
Pから上記所定量の範囲内の上記第2テスト圧P
bでの流量を第4流量値Q
bとし、
上記測定対象ワークの上記規定圧P
Pでの流量を第5流量値Q
Pとすると、Q
mb:Q
b=Q
mP:Q
Pの比例関係が成立すると近似して上記第5流量値Q
Pを上記第1流量値Q
mPと、上記第2流量値Q
maと、上記第4流量値Q
bと、上記規定圧P
Pと、上記第1テスト圧P
aと、上記第2テスト圧P
bとから計算するための計算式を予め格納した記憶部と、
上記配管の他端に接続された上記測定対象ワークに対し上記第2テスト圧P
bの気体を供給したときの上記流量計により測定された上記第4流量値Q
bを取り込み、上記測定対象ワークの上記規定圧P
Pでの上記第5流量値Q
Pを上記第1流量値Q
mPと、上記第2流量値Q
maと、上記第4流量値Q
bと、上記規定圧P
Pと、上記第1テスト圧P
aと、上記第2テスト圧P
bとから上記記憶部に格納された上記計算式を使って計算する演算部と、
計算された上記第5流量値Q
Pを表示する表示部と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明の流量測定方法及び測定装置によれば、どのような特性のワークであってもフィードバック制御を行わず、従って簡単な構成で短時間にかつ高い精度で流量測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来の技術による流量測定装置の概念的ブロック図。
【
図2】この発明の流量測定原理を説明するためのグラフ。
【
図3】この発明の流量測定方法を説明するためのフロー図。
【
図4】この発明の流量測定装置を説明するための概念的ブロック図。
【
図5】この発明による流量測定装置により得られたマスターワークMの圧力対流量の測定結果を示す表。
【
図6】この発明による流量測定装置により得られたワークAの圧力対流量の測定結果と各テスト圧に対する、規定圧での換算流量を表で示す図。
【
図7】この発明による流量測定装置により得られたワークBの圧力対流量の測定結果と各テスト圧に対する、規定圧での換算流量を表で示す図。
【
図8】この発明による流量測定装置により得られたワークCの圧力対流量の測定結果と各テスト圧に対する、規定圧での換算流量を表で示す図。
【
図9】この発明による流量測定装置により得られたワークDの圧力対流量の測定結果と各テスト圧に対する、規定圧での換算流量を表で示す図。
【
図10】この発明による流量測定装置により得られたワークEの圧力対流量の測定結果と各テスト圧に対する、規定圧での換算流量を表で示す図。
【
図11】
図6の表に示す圧力対流量と換算流量をグラフで示す図。
【
図12】
図7の表に示す圧力対流量と換算流量をグラフで示す図。
【
図13】
図8の表に示す圧力対流量と換算流量をグラフで示す図。
【
図14】
図9の表に示す圧力対流量と換算流量をグラフで示す図。
【
図15】
図10の表に示す圧力対流量と換算流量をグラフで示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
まず、この発明において使用される測定法を
図2を参照して説明する。この測定法は、2つの近似に基づく。第1の近似は、マスターワークで予め規定圧P
Pと、それから例えば10〜20%負方向又は正方向にずらした圧力P
aの2つのテスト圧でそれぞれ流量Q
mP, Q
maを計測しておきこれら2つの流量点間を結んだ直線をマスターワークの圧力対流量特性とみなす(2点間近似)。本来ワークの圧力対流量特性は曲線であるが、任意の圧力に対し、その±10〜20%程度の範囲では直線と見なしても大きな誤差にはならない。この近似を前提にすれば、規定圧P
Pと、規定圧P
Pから所定の割合だけ負方向又は正方向にずれたテスト圧P
aとの間の範囲における任意のテスト圧P
bでのマスターワークの流量Q
mbをこの流量特性近似直線上の値として計算することができる。
【0017】
次に、同種のワークであっても、それらの寸法ばらつきや製造ミスのためワークの流量特性はワークごとに異なっているとみなさなければならないが、第2の近似ではそれぞれのワークの流量特性の2点間近似直線の延長は
図2のグラフの圧力軸上(Q=0)の同一点P
cで交差するものと近似する。この近似を前提とすれば、測定対象ワークのテスト圧P
bでの測定流量Q
bと、そのテスト圧P
bでのマスターワークの近似特性直線上の流量Q
mbと、マスターワークの規定圧P
Pでの測定流量Q
mPと、測定対象ワークの規定圧P
Pでの流量Q
Pとの間に比例関係Q
mb:Q
b=Q
mP:Q
Pが成立するので、この比例関係を使って測定対象ワークの規定圧P
Pでの換算流量Q
Pを計算することができる。
【0018】
[測定手順]
規定圧での換算流量を求める具体的な手順を
図3を参照して説明する。
【0019】
まず、使用される記号の定義は次の通りである。
P
P:規定圧
P
a:規定圧から所定の割合ずらしたテスト圧(例:P
Pの-20%)
P
b:測定対象ワークに与えられるテスト圧
Q
b:テスト圧P
bでの測定対象ワークの測定流量
Q
mP:規定圧時のマスターワークの測定流量
Q
ma:テスト圧P
a時のマスターワークの測定流量
Q
mb:テスト圧P
b時のマスターワークの計算で求めた近似流量
Q
P:テスト圧P
bで測定流量Q
bのワークに対する規定圧での換算で求めた流量
ステップS1:まず、マスターワークで規定圧P
Pのときの流量Q
mPを測定し、記憶する。
【0020】
ステップS2:次にマスターワークのテスト圧を規定圧に対し予め決めた割合だけずれた、例えば20%低いP
aに設定し、その時の流量Q
maを測定し、記憶する。
【0021】
ステップS3:次に規定圧P
Pからの前記ずれの範囲内のテスト圧P
bで測定対象ワークの流量Q
bを測定する。
【0022】
ステップS4:マスターワークの流量特性をQ
mPとQ
maを結ぶ直線で近似し(第1の近似)、マスターワークの流量特性を表す記憶したQ
mPとQ
maからテスト圧P
bの時の近似直線上の値である近似流量値Q
mbを求める。
【0023】
ステップS5:
図2においてQ
mb:Q
b=Q
mP:Q
p とみなし(第2の近似)、測定対象ワークの規定圧P
Pでの換算流量Q
Pを計算で求め、表示する。必要に応じてワークを取り替え、
図3中に破線で示すようにステップS3,S4,S5を繰り返す。
【0024】
上記ステップS4の近似流量値Q
mbは以下のようにして求めることができる。次式の比例関係
(Q
mP−Q
ma)/(Q
mb−Q
ma)=(P
P−P
a)/(P
b−P
a) (1)
が成立するので、式(1)を変形して次式を得る。
【0025】
(Q
mb−Q
ma)(P
P−P
a)=(Q
mP−Q
ma)(P
b−P
a) (2)
式(2)を分解して次式を得る。
【0027】
ステップS5の換算流量値Q
Pは以下のようにして求めることができる。
【0028】
図2においてQ
mb:Q
b=Q
mP:Q
Pと近似すると、
【0030】
が得られる。式(3)のQ
mbを式(4)に代入して次式を得る。
【0032】
上記式(5)で測定対象ワークの規定圧P
Pでの流量値Q
Pを求めることが出来る。従って、実際には式(3)による流量値Q
mbを計算する必要はない。また、注意すべき点は、|P
P-P
a|≧|P
P-P
b|であればP
P≦P
bであっても、P
P≧P
bであっても式(5)は成立し、所定テスト圧P
aはP
P>P
aでもP
P<P
aでもよいことである。
【0033】
[実施例]
図4はこの発明を実施する流量測定装置の概念的ブロック図を示す。この実施例による流量測定装置200の空圧源11、レギュレータ12、配管13、圧力ゲージ14、流量計15、作動弁16、圧力計17を含む構成は
図1に示した従来の流量測定装置100の構成と同様であり、説明を省略する。この発明の流量測定装置200に使用される制御部40の構成が演算部41と、記憶部42と、表示部43を含む点も
図1の流量測定装置100と類似しているが、
図1の制御部30とは機能が以下の点で異なる。即ち、記憶部42に予め記憶されている測定手順のプログラムは式(5)を演算する処理プログラムを含んでおり、演算部41はマスターワークに対して測定したテスト圧P
PとP
aでの流量Q
mP,Q
maと、測定対象ワーク20に対して測定したテスト圧P
bでの流量Q
bを、記憶部42に処理プログラムとして記憶されている式(5)に代入して規定圧P
P時の測定対象ワーク20の流量Q
Pを計算し、表示部43に表示することである。また、記憶部42には圧力計17で測定した圧力値、流量計15で測定した流量値、及び演算結果が一時的に保持される。
【0034】
流量測定は以下のようにして行われる。
【0035】
レギュレータ12と作動弁16が閉じた状態で、配管13の、空圧源11とは反対側の端にマスターワーク20
mを取り付け、その後、圧力ゲージ14の読みが規定圧P
P近傍となるようレギュレータ12を調整する。
【0036】
作動弁16を開き、圧力調整された空気をマスターワーク20
mに供給する。次に圧力計17による圧力表示が規定圧P
Pとなるよう更にレギュレータ12を微細調整する。そのときの流量計15による測定流量Q
mPと圧力計17による測定圧力P
Pが制御部40の演算部41に与えられる。演算部41は与えられた流量Q
mPと圧力P
Pを記憶部42に保持する。
【0037】
次に、レギュレータ12を調整して規定圧P
Pから所定量ずれたテスト圧P
aの空気をマスターワーク20
mに供給し、そのときの流量計15による測定流量Q
maと圧力計17による測定圧力P
aを演算部41に与え、記憶部42に保持する。
【0038】
作動弁16を閉じ、マスターワーク20
mを測定対象ワーク20に取り替える。圧力ゲージ14の読みが規定圧P
P近傍となるようレギュレータ12を調整し、作動弁16を開いて気体を測定対象ワーク20に供給する。
【0039】
演算部41はこのときの流量計15による測定流量Q
bと圧力計17による測定圧力P
bを取り込み、記憶部42に保持し、記憶部42から読み出した式(5)を実行する処理プログラムに、保持されているP
a, P
b, P
P, Q
mP, Q
ma, Q
bを代入して規定圧P
Pでの流量Q
Pを計算し、表示部43に表示する。
【0040】
必要に応じて測定対象ワークを次のものに取り替えて同様の手順で流量Q
Pを計算することをそれぞれの測定対象ワークについて繰り返してもよい。更に、各測定対象ワークの流量値Q
Pとマスターワークの流量値Q
mPとの差を計算し、差の絶対値が所定の値以下の場合は良品と判定し、所定の値より大の場合は不良品と判定し、良否を表示部43に表示させるように構成してもよい。また、記憶部42は、測定流量、測定圧力、演算結果等を一時的に保持する例えばランダムアクセスメモリのような一時メモリと、処理プログラムを予め格納した例えばハードディスクのような記憶デバイスとにより構成してもよい。
【0041】
[実測による検証実験]
この発明による近似測定方式が実際にはどの程度精度が高いのかを検証する実験を行った。
【0042】
ワークは1/4シンフレックスジョイントであり、流量の異なるものを6個作製した。そのうちの、流量が中間の1個をマスターワークMと見立て、残りの5個を測定対象ワークA〜Eとし、マスターワークMの規定圧P
Pでの流量Q
mPと、規定圧P
Pから所定値ずれたテスト圧P
aでの流量Q
maを2点間近似用のデータとした。
【0043】
具体的には、まずマスターワークMでテスト圧基準値(規定圧P
P)を1.000kPaとし、その±20%範囲内で変化する0.800kPa〜1.200kPaのテスト圧に対する測定流量データを採取した。2点間近似ではこれらテスト圧のうち、基準圧(規定圧)1.000kPaと-20%減のテスト圧0.800kPaでの測定流量データを近似用データQ
mP, Q
maとした。その後ワークA〜Eのそれぞれに対しテスト圧(P
b) 0.800kPa〜1.200kPaでの流量(Q
b)を測定し、式(5)により規定圧P
Pでの換算流量値(Q
P)を計算した。
【0044】
[実験結果]
図5の表1はマスターワークMに対する規定圧と、その規定圧から±2.5%、±5%、±10%、±15%、±20%とずれたテスト圧での実測流量値、及びそれらの、規定圧での実測流量値からの偏差を示す。
【0045】
図6の表2は測定対象ワークAの、マスターワークMに対するとそれぞれ同じテスト圧での実測流量Q
bと、その偏差、及び表1における基準圧(規定圧)P
Pでの実測流量Q
mPと基準圧から20%低いテスト圧P
aでの実測流量Q
maを使ってそれぞれのテスト圧P
bでの測定流量Q
bに対し式(5)により計算した規定圧P
Pでの換算流量値Q
Pと、その偏差を示す。
図7〜10の表3〜6も測定対象ワークAに対すると同様の測定対象ワークB〜Eに対する実測流量値と規定圧での換算流量値を示す。
図11〜15のグラフ1〜5は表2〜6に示されたそれぞれのテスト圧に対する実測流量値と規定圧での換算流量値をグラフで表したものである。○印がそれぞれのテスト圧での実測流量、×印が規定圧での換算流量を示す。
【0046】
流量の大きいワークAに対する近似の場合も、流量の小さいワークEに対する近似の場合も、いずれもかなり良い近似結果を示している。換算流量は最大でも1.4%の誤差、ほとんどが1%以内の誤差で近似が行われていることがわかる。特にマスターワークMの半分以下である小さな流量のワークEにおいても換算流量は誤差0.5%以下の良好な結果であった。
【0047】
以上の結果からわかるように、前述の2つの前提による近似は妥当なものであり、この発明による2つの前提に基づく近似により誤差の少ない流量測定が可能であるといえる。
【0048】
[この発明による近似方式を使った流量測定方法の特徴と効果]
本近似方式の特徴をあげると、
(1) ワーク特性の取得が簡単、
・マスターワークで2点のデータを採るだけでワークの圧力対流量特性を作る、
・限られた範囲(±20%程度)では2点間を直線としても十分な近似特性が得られる、
(2) 手動レギュレータ(調圧弁)を使用した流量計においても実施できる方式である、
・ワーク特性の取得が2点と簡単なため手動操作でも十分実用的な方式である、
(3) 近似とはいえ実際のワークからワーク特性を取得するため、いかなる特性のワークでも使用できる、
(4) マスターワークと流量の大きさが違っていてもワーク特性の基本的な特性形状が合っていれば近似ができる、
など、実用性が高く、圧力変動に対応できる流量測定方法といえる。
【0049】
テスト圧変動に対しこの発明による近似方式を使用すれば、
(a) テスト圧が規定圧からずれても規定圧のときの流量を表示できるので流量測定精度が向上する、
(b) 低圧、大流量時の圧力損失による測定誤差を防ぎ、短時間で測定できフィードバック制御より短時間測定が可能、
(c) 流量のばらつきが大きなワーク(=圧損がばらつく)でも規定のテスト圧判定が可能になるので歩留まりと再現性が向上、
(d) ソフトだけの対応で可能であり、フィードバック制御のようなハードの追加がいらないので材料コストがかからない、
など、高精度計測、歩留まり・再現性の向上、低価格などの点でユーザーにとって有用な効果があるといえる。
【要約】
【課題】どのような特性のワークでも高い精度で流量を測定する。
【課題を解決する手段】
基準ワークに対し規定圧P
Pの気体を供給し、そのときの流量を流量計で測定し、第1流量値Q
mPとして保持し、基準ワークに対し規定圧P
Pから所定量ずれたテスト圧P
aの気体を供給し、そのときの流量を流量計で測定し、流量値Q
maとして保持し、測定対象ワークに対し規定圧P
Pから所定量の範囲内のテスト圧P
bの気体を供給し、そのときの流量を流量値Q
bとして流量計で測定し、演算部は基準ワークの圧力対流量特性を流量値Q
mPと流量値Q
maを結ぶ直線で近似し、近似直線上の、テスト圧P
bに対応する流量をQ
mbとし、測定対象ワークの規定圧P
Pでの流量をQ
Pとすると、Q
mb:Q
b=Q
mP:Q
Pの比例関係が成立すると近似して流量値Q
Pを流量値Q
mPと、Q
maと、Q
bと、規定圧P
Pと、テスト圧P
aと、P
bとから計算で求める。
【選択図】
図2