(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749400
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ドリル工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
B23B51/00 T
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-520146(P2014-520146)
(86)(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公表番号】特表2014-520679(P2014-520679A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】KR2012005764
(87)【国際公開番号】WO2013012266
(87)【国際公開日】20130124
【審査請求日】2014年1月9日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0072059
(32)【優先日】2011年7月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508151781
【氏名又は名称】デグテック エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ビョンギュン
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−528890(JP,A)
【文献】
特開2009−262319(JP,A)
【文献】
特表2005−527390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有するドリル本体と、
互いに回転対称な4つの切削刃を含み、前記ドリル本体の端部に前記中心軸に隣接するように装着される内側インサートと、
互いに回転対称な4つの切削刃を含み、前記中心軸に対して前記内側インサートの対向する側に位置し、前記ドリル本体の端部に前記中心軸から前記内側インサートよりも遠い距離に装着される外側インサートと、を含み、
前記内側インサートの前記切削刃は前記内側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記ドリル本体の半径方向における前方側が面取りされており、
前記外側インサートの前記切削刃は前記外側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記半径方向における後方側が面取りされており、
前記内側インサートと前記外側インサートは鏡面対称であって、
前記内側インサートと前記外側インサートは前記内側インサートの有効切削刃の長さと前記外側インサートの有効切削刃の長さとの比率が50:50を満たすように前記ドリル本体に装着され、
前記内側インサートおよび前記外側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記内側インサートの切削刃の前記半径方向における前方端部と前記中心軸に垂直な平面との間の角度と、前記外側インサートの切削刃の前記半径方向における後方端部と前記中心軸に垂直な平面との間の角度とが同一である、
ドリル工具。
【請求項2】
前記内側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記内側インサートの切削刃の前記半径方向における前方端部と前記中心軸に垂直な平面との間の角度が20度以上である、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項3】
前記内側インサートの切削刃と前記外側インサートの切削刃は2つの段差を有する、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項4】
前記内側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記内側インサートの切削刃の前記半径方向における後方端部と前記中心軸に垂直な平面との間の角度が2度である、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項5】
前記外側インサートが前記ドリル本体に装着される場合、前記外側インサートの切削刃の中間段と前記中心軸に垂直な平面との間の角度と、前記外側インサートの切削刃の前記半径方向における後方端部と前記中心軸に垂直な平面との間の角度との比率が30%〜50%の範囲である、請求項3に記載のドリル工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドリル工具に関し、より詳しくは、正方形のインデクサブルインサート(indexable insert)を備え内側インサートの有効切削刃の長さと外側インサートの有効切削刃の長さとの比率が50:50を満たす、小径穴を加工するためのドリル工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にドリル工具は円筒状のドリル本体と、ドリル本体の端部に脱着可能に装着される2つのインデクサブルインサートを含む。2つのインデクサブルインサートはドリル本体の中心軸に隣接するように装着される内側インサートとドリル本体の外周面に隣接するように装着される外側インサートからなり、通常
図1に示すように4つの切削刃を備える正方形のインサートである。内側インサートと外側インサートは2つの回転するインサートの軌跡が重畳するように配置され、より正確には、被削材に対して内側インサートが加工する円形領域の内径が外側インサートが加工する環状領域の外径よりも少し大きい。
【0003】
内側インサートの有効切削刃の長さと外側インサートの有効切削刃の長さとの比率は50:50を満たすのが望ましい。そうでないと、内側および外側インサートを介してドリル工具に伝えられる力が不均衡をなすようになるので、加工途中の振動が激しくなりドリルの加工性能にも否定的な影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
14mm以下の小径穴を加工するためのインデクサブルインサートドリルにおいては、従来の正方形のインサートでは、上記したような50:50の内側および外側インサートの有効切削刃の長さの比率を実現するのに技術的な困難がある。超硬工具は、その特性上無制限に規模を小さくすることができない。例えば、インサートのサイズを小さくするために材料の量を減らせば、インサートが弱まる。また、インデクサブルインサートをドリル本体に固定させるためには、インサートはスクリュを結合させる空間を有しなければならない。従って、適正サイズ以上の正方形のインサートを備える小径ドリル工具を設計するにおいて、
図1のように内接円の直径が4.5mmの場合にみられるように、内側インサートおよび外側インサートの有効切削刃の長さの比率を50:50に合わせることができない。
【0005】
正方形のインサートの代わりに長方形のインサートを用いて小径穴をあけつつ、50:50の有効切削刃の長さの比率を実現するためにインサートのスクリュ孔の周辺およびドリル工具の端部に十分な幅を保障して十分な剛性が維持できるようにする技術が提示された。しかし、この技術には、正方形のインサートは4つの切削刃を用いることができるのに対し長方形のインサートは2つの切削刃しか用いることができないという短所があり、また長方形形状のインサートの強度は正方形形状のインサートの強度に及ぶことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述した問題点を解決するためのものであって、4つの切削刃を備える正方形のインデクサブルインサートを用いて小径穴を加工するための、内側および外側インサートの有効切削刃の長さの比率が50:50を満たすドリル工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるドリル工具は、中心軸を有するドリル本体と、互いに回転対称な4つの切削刃を含みドリル本体の端部に中心軸に隣接するように装着される内側インサートと、互いに回転対称な4つの切削刃を含み中心軸に対して内側インサートの対向する側に位置し、ドリル本体の端部に中心軸から内側インサートよりも遠い距離に装着される外側インサートと、を含む。内側インサートの切削刃は内側インサートがドリル本体に装着される場合、ドリル本体の半径方向における前方側が面取りされている。外側インサートの切削刃は外側インサートがドリル本体に装着される場合、半径方向における後方側が面取りされている。内側インサートと外側インサートは鏡面対称であり、内側インサートの有効切削刃の長さと外側インサートの有効切削刃の長さとの比率が50:50を満たすようにドリル本体に装着される。
【0008】
好ましくは、本発明のドリル工具の一実施形態によれば、内側インサートがドリル本体に装着される場合、内側インサートの切削刃の半径方向における前方端部と中心軸に垂直の平面との間の角度が20度以上である。内側インサートと外側インサートがドリル本体に装着される場合、内側インサートの切削刃の半径方向における前方端部と中心軸に垂直の平面との間の角度と、外側インサートの切削刃の半径方向における後方端部と中心軸に垂直の平面との間の角度とが同一であってもよい。また、内側インサートがドリル本体に装着される場合、内側インサートの切削刃の半径方向における後方端部と中心軸に垂直の平面との間の角度が2度であってもよい。
【0009】
本発明のドリル工具のもう一つの実施形態によれば、切削刃は2つの段差を有する。また、外側インサートがドリル本体に装着される場合、外側インサートの切削刃の中間段と中心軸に垂直の平面との間の角度と、外側インサートの切削刃の半径方向における後方端部と中心軸に垂直の平面との間の角度との比率が30%〜50%の範囲である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるドリル工具の内側および外側インサートは、ドリル工具に装着される場合、それぞれドリル本体の半径方向における前方側および後方側が面取りされており、内側および外側インサートの有効切削刃の長さの比率が50:50を満たすようにドリル本体に配置される。4つの切削刃を備える正方形のインサートを用いる小径穴ドリル工具において、インサートの内接円のサイズを小さくしなくとも50:50の内側および外側インサートの有効切削刃の長さの比率を実現できるので、正方形のインサートを用いることによって優れた強度および耐久性と、良好な有効切削刃の長さの比を実現して、切削性能の向上をすべて達成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の正方形のインサートを用いるドリル工具において内側インサートおよび外側インサートの回転軌跡の断面を示す図面である。
【
図3】本発明の一実施形態によるドリル工具の内側インサートおよび外側インサートの回転軌跡の断面を示す図面である。
【
図4】本発明のもう一つの実施形態によるドリル工具の内側インサートおよび外側インサートの回転軌跡の断面を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるドリル工具の一実施形態を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図2は本発明のドリル工具の結合状態を示す。ドリル工具はドリル本体1と、ドリル本体1の端部に装着される内側インサート2および外側インサート3を含む。ドリル本体1の端部には内側および外側インサート2、3を収容するための収容溝が設けられる。内側インサート2の収容溝はドリル本体1の中心軸Cに隣接するように形成されるのに対し、外側インサート3の収容溝は中心軸Cから内側インサート2よりも遠い距離に形成される。内側インサート2の収容溝と外側インサート3の収容溝が中心軸Cに対して対向する側にいるので、ドリル本体1が回転するに伴い内側インサート2と外側インサート3がそれぞれ形成する回転軌跡の一部が互いに重畳するように内側インサート2と外側インサート3を配置できる。内側および外側インサート2、3の各中央部には貫通孔が形成されて、内側および外側インサート2、3はスクリュ4を用いてドリル本体1に堅固に固定できる。内側および外側インサート2、3がドリル本体1に装着されると、それぞれのインサート2、3の切削刃のうちのいずれか1つがドリル本体1の端部から前方に突出するようになり、突出した切削刃が回転しながら被削材と接触して切削加工がなされる。
【0014】
図3は本発明の一実施形態によるドリル工具において、内側および外側インサート2、3の回転軌跡が重畳するのを示す。
【0015】
内側インサート2は正方形の基本形状を有し、互いに回転対称な4つの切削刃21、22、23、24を備える。それぞれの切削刃21、22、23、24は切削を行う位置に置かれるように装着される場合、ドリル本体1の半径方向における前方側、即ち中心軸C方向側が面取り処理(chamfer)されているように形成される。この実施形態においては、例えば、切削加工時に被削材と当接するようになる切削刃21の半径方向における前方側が面取りされて、切削刃21を互いに異なる傾斜角を有する2つの領域211、212に分ける。面取りによって領域212が領域211よりも中心軸Cに向かってさらに内側に傾くようになる。
【0016】
内側インサート2は中心軸Cが内側インサート2を通り過ぎるように配置されるので、内側インサート2はドリル本体1が回転するに伴い被削材と接触しながら中心軸Cを中心とする円形領域を切削する。
【0017】
外側インサート3は内側インサート2と同様に正方形の基本形状を有し、互いに回転対称な4つの切削刃31、32、33、34を備える。外側インサート3が内側インサート2と鏡面対称(mirror symmetry)であるため、それぞれの切削刃31、32、33、34は切削を行う位置に置かれるように装着される場合、ドリル本体1の半径方向における後方側、即ち中心軸Cから遠い方向側が面取り処理されているように形成される。この実施形態では、例えば、切削加工時に被削材と当接するようになる切削刃31の半径方向における後方側が面取りされて、切削刃31を互いに異なる傾斜角を有する2つの領域311、312に分ける。領域312が領域311よりも中心軸Cから外側にさらに傾いているようになる。
【0018】
外側インサート3は中心軸Cから遠く離れているので、外側インサート3はドリル本体1が回転するに伴い被削材と接触しながら中心軸Cを中心とする環状領域を切削する。
【0019】
内側インサート2は中心軸Cに向かって内側に若干傾くように配置されてもよい。この実施形態では、切削を行う切削刃21の半径方向における後方端部と中心軸Cに垂直の平面との間の角度が2度であるように、内側インサート2は中心軸Cに向かって内側に傾いている。正方形の基本形状を有するインサートで切削を行う場合において、進入して先に被削材を切削するようになる内側インサート2が水平面と2度の角度を維持するようにすれば、切削力の均衡を維持するのに有利である。
【0020】
これに対し、外側インサート3は中心軸Cから外側に若干傾くように配置されてもよい。
【0021】
ドリリングによって形成する穴の半径Rは、外側インサート3の切削刃のうち中心軸Cから最も遠い距離に位置する地点と中心軸Cとの間の距離により決定される。半径Rを有する切削領域は、内側インサート2によって切削される領域と外側インサート3によって切削される領域とからなり、内側インサート2と外側インサート3のうち被削材の切削領域の一部と先に接するようになるインサートが当該部分を切削するようになる。
図3に示すように、この実施形態でのような配置によると、内側インサート2で切削を行う切削刃の有効切削長さは、中心軸Cから内側インサート2と外側インサート3の回転軌跡が交差する地点Sまでの距離であるE1であり、外側インサート3で切削を行う切削刃の有効切削長さは地点Sから外側インサート3の切削刃上の中心軸Cから最も遠い地点までの距離であるE2である。内側インサート2と外側インサート3の傾斜角の程度と中心軸Cからの距離を調整することによって、内側インサート2と外側インサート3の回転軌跡が交差する地点Sを変更できるので、これを通じて内側インサート2の有効切削刃の長さと外側インサート3の有効切削刃の長さとの比率であるE1:E2の値が50:50を満たすように調整する。即ち、内側インサート2と外側インサート3はそれぞれ中心軸C方向側、中心軸Cから遠い方向側が面取りされており、面取りされた切削刃領域212、312が中心軸Cに垂直である平面と比較的大きい角度をなすので、有効切削長さの比率が50:50に近似するように調整することが可能である。
【0022】
本発明によれば、4つの切削刃を備える正方形のインサートを用いる、例えば12〜14mmの小径穴ドリル工具において、内側インサート対外側インサートの50:50の有効切削刃の長さ比を実現することによって内側および外側インサート2、3を介してドリルに伝えられる力が均衡をなすようにすることができる。従って、耐久性および強度に優れた正方形形状のインサートを用いて小径穴をあけることができ、良好な有効切削長さ比を実現して切削加工時に発生する振動を低減することができるので切削性能が向上する。
【0023】
この実施形態では、内側インサート2の切削刃21のドリル本体1の半径方向における前方端部領域212と中心軸Cに垂直の平面との間の角度A1が20度を満たす。切削加工時にフィード(feed)が増加するに伴い内側インサート2が干渉を引き起こすことがあるが、角度A1が20度以上になるように設計することによってこのような干渉を防止できる。
【0024】
また、この実施形態では、外側インサート3の切削刃31のドリル本体1の半径方向における後方端部領域312と中心軸Cに垂直の平面との間の角度A2が角度A1と同一の値を有する。角度A1と角度A2が実質的に対等な値を有するようにすれば、内側インサート2と外側インサート3が対称的な構造に配置されるようになるので内側インサート2と外側インサート3の切削時に均衡を維持できて好ましい。
【0025】
以下、本発明によるドリル工具の他の一実施形態を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図4は、本発明の他の一実施形態によるドリル工具において、内側および外側インサート2、3の回転軌跡が重畳するのを示す。
【0027】
この実施形態において、内側および外側インサート2、3はそれぞれ中心軸C方向側、中心軸Cから遠い方向側が面取りされる。内側インサート2の切削刃21は2つの段差を有する3段の領域213、214、215に分けられ階段状をなす。同様に、外側インサート3の切削刃31は2つの段差を有する3段の領域313、314、315に分けられ階段状をなす。面取りされる領域は正方形の内接円を侵さないようにし、面取り後の内接円が面取り前の内接円と同一のサイズを有するようにする。
【0028】
本発明を適用するドリル工具では、切削加工時に外側の切削刃で切削がなされるようになる。特に、外側インサートの切削進入時に、切削力は常に一方に集中して、所望の穴径を得るのが難しい。また、角度A2が大きい値を持つようになると、切削力の均衡は維持することができない。従って、この実施形態では、切削刃31が2つの段差を有するように設計され、中心軸Cに垂直の平面と角度A3をなす中間段領域314を角度A2の半径方向前方に加えることによって、切削力を分散させて角度A2が大きい角度を有することによる影響を相殺することができる。また、このような場合切削加工時のチップの分節にも役立つ。特に、角度A3のサイズが角度A2の30%〜50%に該当する場合にこのような効果が最大化される。
【0029】
本発明の前述した実施形態は例示として記述したものであって本発明を限定するわけではない。本発明の範囲を逸脱することなく多様な変形および変更が当該分野の通常の知識を有する者によって行われ得る。