特許第5749422号(P5749422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749422
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】流量計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/708 20060101AFI20150625BHJP
   G01P 5/18 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   G01F1/708
   G01P5/18 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-113196(P2009-113196)
(22)【出願日】2009年5月8日
(65)【公開番号】特開2010-261826(P2010-261826A)
(43)【公開日】2010年11月18日
【審査請求日】2012年3月26日
【審判番号】不服2014-19396(P2014-19396/J1)
【審判請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲司
【合議体】
【審判長】 清水 稔
【審判官】 中塚 直樹
【審判官】 樋口 信宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−242851(JP,A)
【文献】 特開平1−300067(JP,A)
【文献】 特開平11−173887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00-1/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる配管の温度を上流側の第1の温度センサと下流側の第2の温度センサで測定し、各温度センサが測定したときの温度変化の時間差から、前記配管を流れる流体の流速を求めて、当該流体の流量を計測する方法であって、
各温度センサによって一定時間に測定される上流側温度波形および下流側温度波形の各温度波形に対して、各々その温度勾配を所定の基準時間差ごとに求めて、上流側温度の温度勾配波形と下流側温度の温度勾配波形を求め、
上流側温度の温度勾配波形または下流側温度の温度勾配波形のうちのいずれか一方の温度勾配波形を時間方向に移動させ、
2つの温度勾配波形によって囲まれた面積が最小となるときの前記移動の時間を、前記時間差とすることを特徴とする、流量計測方法。
【請求項2】
上流側温度の温度勾配波形および下流側温度の温度勾配波形において、正の値は温度勾配波形の最大値で除し、負の値は温度勾配波形の最小値の絶対値で除し、その結果得られた補正後の各温度勾配波形のうちのいずれか一方の補正後の温度勾配波形を時間方向に移動させ、
2つの補正後の温度勾配波形によって囲まれた面積が最小となるときの前記移動の時間を、前記時間差とすることを特徴とする、請求項1に記載の流量計測方法。
【請求項3】
時間方向に移動させる前に、上流側温度波形および下流側温度波形に対して、移動平均処理を行なうことを特徴とする、請求項1または2に記載の流量計測方法。
【請求項4】
前記面積は、予め設定した時間ごとに上流側の波形の値と下流側の波形の値との差の絶対値を計算し、その総和とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の流量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサを用いて配管内を流れる流体の流量を計測する流量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管内を流れる流体の流量を計測する手法の1つに、電磁流量計による計測方法がある。この計測方法は、配管自体に電磁流量計本体を取り付けるため、精度の高い計測が可能となる。しかしながら、その取付け作業時には設備の停止を余儀なくされる上、水抜き、配管の切断といった工事も必要となる。また電磁流量計は、価格が数十万円と高価であり、既設の改修だけではなく、新築時においても適用しづらいという問題もある。
【0003】
それに対し、配管表面から容易に計測できる手法として超音波流量計による計測方法がある。しかしながらこの計測方法では、使用する機器自体がかなり高価であり、前記した電磁流量計よりもさらに高額(100万円以上)である。そのため建物全体のエネルギー管理など、計測点数が多い場合には不向きである。
【0004】
上記の問題を解決する手法として、特許文献1に開示された計測方法がある。この計測方法は、配管表面に一定の距離を取って上流側と下流側に各々温度センサを設置するもので、配管内を流れる流体に温度変化が生じると、その温度変化は各温度センサによって捕えられる。各温度センサが捕えた温度変化には一定の時間差が発生するため、上流側温度センサが測定した温度(基準温度)を下流側温度センサで測定したときの時間差と、各温度センサ間の距離から流体の流速を求め、当該流速と配管断面積から、流量を算出する方法である。この手法で流量を計測する場合、温度センサの取付けは、従来の流量計測方法と比べると、安価、容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−291766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の計測方法では、得られた温度データから流量算出する際の途中の時間差を特定する過程で、時間と手間がかかり、また誤差が生ずる可能性がある。その理由は、1回ずつ、上流側の温度センサの基準温度を決定する必要性があるので、流量算出の過程において、人(計測者)の判断が必要となる上、「基準温度を○○度に設定する」という過程で、計測者ごとに違い(誤差)が生じるおそれがあるからである。したがって、前記した従来技術にかかる流量計測方法では、精度の向上や計測の容易性についてまだ改善すべき余地があった。
【0007】
また温度センサによって測定された温度データには必ず器差(計測機器の表示から本来示されるべき値、すなわち真値を減じた値)が含まれる。このような器差が生じる原因としては、温度センサ自身が持つ誤差(劣化も含む)、ロガー自身が持つ誤差(劣化も含む)、センサとロガーの接続誤差が挙げられる。また使用する温度センサが、たとえば配管の表面に取り付け、それによって間接的に内部の流体の温度変化を測定するタイプである場合、センサの対象物への設置誤差や計測環境による誤差なども挙げられる。したがって、校正を同様に行ったとしても、それは温度センサ自身が持つ誤差とロガー自身が持つ誤差、センサとロガーの接続誤差を校正しただけに過ぎず、校正では解消できない。そのため実際の使用時には、設置誤差や計測環境などが原因で、全く同じ仕様の温度計で同様の校正を行っていても器差の発生は防止できない。この点従来技術では、予め換算式を求める方法で対応しているが、器差は周囲温度の変化や経年により変化する場合もあり、その特定はかなり困難である。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、配管の温度変化を2つの温度センサによって検出し、その際の時間差に基づいて配管内を流れる流体の流量を計測するにあたり、従来よりも時間差の特定を容易、かつ正確に行ない、しかも前記した器差の影響を受けずに、計測精度を従来よりも向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、流体が流れる配管の温度を上流側の第1の温度センサと下流側の第2の温度センサで測定し、各温度センサが測定したときの温度変化の時間差から、前記配管を流れる流体の流速を求めて、当該流体の流量を計測する方法であって、各温度センサによって一定時間に測定される上流側温度波形および下流側温度波形の各温度波形に対して、各々その温度勾配を所定の基準時間差ごとに求めて、上流側温度の温度勾配波形と下流側温度の温度勾配波形を求め、上流側温度の温度勾配波形または下流側温度の温度勾配波形のうちのいずれか一方の温度勾配波形を時間方向に移動させ、2つの温度勾配波形によって囲まれた面積が最小となるときの前記移動の時間を、前記時間差とすることを特徴としている。
【0010】
前記した従来技術では、計測者が決定した温度(基準温度)に到達した瞬間の時間を計測するため、温度データに含まれる細かな変動の影響を受けやすくなるが、本発明では、ある一定時間の温度データによって形成される温度波形を使用して時間差を特定する点に特徴がある。すなわち、本発明においては、一定時間により形成される上流側と下流側の温度波形を時間的にずらし(いずれを移動させてもよい)、2つの温度波形によって囲まれた面積の大小によって、2つの波形が適合しているかどうかの判断を行うようにしており、当該面積が最も狭くなった時の時間差、すなわち移動した時間を、流体の流速を求める際の時間差としている。したがって、一定時間により形成される上流側と下流側の温度波形を合わせ込むため、従来のように誤差の原因となっていた計測者が決定した基準温度を設定する必要がなく、細かな変動の影響も受けづらい。その結果、2つの温度センサでの時間差の特定を容易、かつ正確に行なえ、それによって計測精度を従来よりも向上させることができる。
【0011】
そして本発明によれば、一定時間の温度データによって形成される温度波形については、各温度センサによって一定時間に測定される上流側温度波形および下流側温度波形の各温度波形に対して、各々その温度勾配を所定の基準時間差ごとに求めて、上流側温度の温度勾配波形と下流側温度の温度勾配波形を用いている。
温度勾配(傾き)は、温度センサの表示の如何にかかわらず、ある値からどのように変化したのかのみを対象としているため、温度センサがたとえば器差「0.1℃」を持っていて「20.1℃」から「21.1℃」に表示が変化しても、結局は1.0℃変化したという事実だけ得られる事になり、器差の大小には影響を受けないことになる。つまり温度が20℃から1秒後に21℃に変化した場合、その傾きは1℃/sとなり、測定温度が何℃であったか、という絶対値は関係なくなるため、器差の影響を受けなくなる。
したがって本発明によれば、既述したような器差の影響を受けずに、計測精度を従来よりも向上させることが可能である。
【0012】
さらに、発明者らの知見によれば、上流側と下流側の温度波形の変化は類似しているが、温度波形の振幅にわずかな差があり、下流側温度波形の方が上流側温度波形より小さくなっている。これは、配管内を流体が流れている間に、熱が大気に放熱された影響と思われる。そうすると、上流側の温度波形には温度変化が鮮明に現れていても、下流側の温度変化は緩やかになり、2つの波形により囲われた面積の変化も緩やかになってしまい、時間差を特定するための面積の最小値が特定しづらくなり、場合によっては誤った時間差を特定する原因になるおそれがある。
【0013】
かかる点に対処するため、上流側温度の温度勾配波形および下流側温度の温度勾配波形において、正の値は温度勾配波形の最大値で除し、負の値は温度勾配波形の最小値の絶対値で除し、その結果得られた補正後の各温度勾配波形のうちのいずれか一方の補正後の温度勾配波形を時間方向に移動させ、2つの補正後の温度勾配波形によって囲まれた面積が最小となるときの前記移動の時間を、前記時間差とするようにしてもよい。
【0014】
これによって、放熱で傾きが緩やかになった下流側の温度波形を、いわば上流の温度波形に合うよう誇張して整形することになり、それによって、求める面積の最小値を特定しやすくなる。
【0015】
使用する温度センサが、たとえば配管の表面に取り付けて配管表面の温度変化を測定するタイプである場合、測定される温度データは、配管の振動等により微小な変動を含んでいる。この変動幅は、温度変化自体が小さい場合には、温度センサによる計測間隔や分解能によっては、無視できないものとなる。
【0016】
そこで、かかる微小な温度変動を除去する方策として、たとえばデジタル信号処理において採用されているような、移動平均処理を行なうことで、大きな温度変化のみを抽出した温度波形を得ることができる。この移動平均処理は、温度波形を時間方向にずらす前に行なえばよく、本発明においては、先に移動平均処理を行なってから温度勾配波形を求めてもよく、逆に先に温度勾配波形を求めてから、移動平均処理を行なってもよい。
【0017】
なお前記面積を求めるに当たっては、予め設定した時間ごとに上流側の波形の値(温度、温度勾配)と下流側の波形の値(温度、温度勾配)との差の絶対値を計算し、その総和を、求めようとする面積としてもよい。その際の「時間ごと」の「時間」とは、発明者の知見では、仮に、測定対象とする配管内の水の流速が3m/sであった場合、センサ間の距離が30m確保できたとすると、得られる時間差は10秒(=30(m)/3(m/s))になる。したがって仮に「時間」を1秒に設定した場合、特定した時間差が何らかの理由で1秒ずれてしまうと、計測精度は10%(=1秒/10秒×100)低下する。他方、センサ間距離が仮に300m確保できたとすると、得られる時間差は100秒になり、特定した時間差が1秒ずれても計測精度は1%(=1秒/100秒×100)しか低下しない。このように、センサ間距離が長くなればなるほど「時間」を荒く設定しても問題ない事になる。ただし、後述の実施の形態のように、たとえば冷凍機の凝縮器の冷却水配管を測定対象とする場合、実際の計測においては2つの温度センサ間の距離は、機械室の大きさなどを考慮すると20mから30mぐらいしか離せない。後述の実施の形態では、当該「時間」は、ある程度の測定精度を確保するため、0.1秒ごとに行うようにしている。その場合、計測間隔は必然的に0.1秒ごとになる。またその際、温度勾配波形を時間方向にずらす「単位」は、0.1秒ごとである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、配管内の流量の温度変化を2つの温度センサによって検出し、その際の時間差に基づいて配管内を流れる流体の流量を計測するにあたり、従来よりも時間差の特定を容易、かつ正確に行ない、かつ器差の影響を受けずに計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態を実施するための配管の系統を模式的に示した説明図である。
図2】実施の形態の処理のフローを示すフローチャートである。
図3図1に示した構成で、実際に計測した上流側及び下流側の温度波形を示すグラフである。
図4】移動平均処理する前の温度波形を示すグラフである。
図5】移動平均処理した後の温度波形を示すグラフである。
図6図3に示した温度波形における最初の単位温度波形に対して移動平均処理および傾き化処理を行なった後の上流側及び下流側の温度勾配波形を示すグラフである。
図7】モデルケースの上流側及び下流側の温度波形を示すグラフである。
図8図7に示した温度波形に対して傾き化処理を行なった後の上流側及び下流側の温度勾配波形を示すグラフである。
図9図8の温度勾配波形において、下流側の温度勾配波形を移動させていったときの2つの波形によって囲まれた部分の面積の和の変化を示すグラフである。
図10図8の温度勾配波形に対して基準化処理を行なった後の上流側及び下流側の温度勾配波形を示すグラフである。
図11図10の温度勾配波形において、下流側の温度勾配波形を移動させていったときの2つの波形によって囲まれた部分の面積の和の変化を示すグラフである。
図12図6の温度勾配波形に対して基準化処理を行なった後の上流側及び下流側の温度勾配波形を示すグラフである。
図13図12の温度勾配波形において、下流側の温度勾配波形を移動させていったときの2つの波形によって囲まれた部分の面積の和の変化を示すグラフである。
図14】従来技術による単位温度波形ごとの時間差から求めた流量と電磁流量計で求めた流量、並びにそのときの計測精度を示すグラフである。
図15】実施の形態によって得られた単位温度波形ごとの時間差から求めた流量と電磁流量計で求めた流量、並びにそのときの計測精度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明すると、図1は実施の形態にかかる流量計測方法の実験を兼ねた、モデルケースの測定対象となる流体が流れる配管1の系統の概略を示しており、この配管1は、冷凍機2の凝縮器の冷却水を、ポンプ3によって流す100Aの冷却水配管である。使用されるポンプ3の流量は600L/minである。
【0021】
配管1における冷凍機2の凝縮器を出たその近傍の上流側箇所には、上流側の冷却水の温度を測定するための第1の温度センサ11が設けられ、当該第1の温度センサ11から所定距離L離れた下流側箇所には、下流側の冷却水の温度を測定するための第2の温度センサ12が設けられている。第1の温度センサ11と第2の温度センサ12との間には、4箇所のエルボ21、22、23、24が存在している。なお本発明は、そのような凝縮器からの冷却水配管のみならず、冷温水管や蒸気配管にも適用可能である。
【0022】
第1の温度センサ11、第2の温度センサ12は、いずれも同一構成であって、配管1の表面の温度を測定するものである。なお配管1の表面温度の測定値から、その測定地点における配管1内の流体の温度を求めるには、予め表面温度−流体温度の換算式、相関関係等を求めておけばよく、たとえば配管内流体温度と配管表面温度との差異の計算値は、たとえば定常一次元熱移動(円筒)による熱伝導計算によって行うことができる。また計算条件の熱伝達率は、例えば配管1の内側表面は、Dittus−Boelterの乱流伝達率の式(空気調和衛生工学便覧第13版1巻148頁)により、配管1の外側表面は例えば9W/(m・K)と設定してもよい。
【0023】
第1の温度センサ11、第2の温度センサ12自体は、公知の温度センサを用いることができ、例えば配管等の表面温度の変化を起電力、抵抗値、電圧、電流等の物理量の変化として測定できる種々の素子、例えばサーミスタ素子、白金の測温体、熱電対等の素子をセンサ部として使用した温度センサを使用することができる。
【0024】
温度センサのセンサ部と配管1の表面との間での密着性を高めまた熱伝導性を高めるために、第1の温度センサ11と第2の温度センサ12における配管表面と接触するセンサ部と、配管1の表面との間には、熱伝導シリコンが設けられていることが好ましく、また外乱となる周囲温度の影響を抑えるために、第1の温度センサ11と第2の温度センサ12の外側は保温材で覆われていることが好ましい。
【0025】
第1の温度センサ11と第2の温度センサ12からの信号は、データロガー13へと所定時間ごと、たとえば0.1秒ごとに出力されて、測定温度、測定温度の測定時刻等がその都度記録される。このデータロガー13は、いわゆる多チャンネル式のロガーであり、2つのセンサからの信号を、前記したようなたとえば0.1秒間隔で同期して記録することが可能である。そしてこのデータロガー13からのデータは、たとえばパソコン等の処理装置14へと出力され、処理装置14において、温度データの移動平均処理、温度波形の温度勾配を求める演算処理、温度波形を時間方向に所定時間ずつ移動させる処理、前記移動に伴い2つの温度波形によって囲まれた面積を計算し、面積の最小値から求める時間差を特定する処理、第1の温度センサ11と第2の温度センサ12間の距離Lと時間差から、配管1内を
流れる流体の流速を計算し、当該計算結果に基づいて配管1の断面積から冷却水の流量を計算する処理等、各種の演算処理が行なわれる。
【0026】
次に配管1内の流体の流量を求めるプロセスについて説明する。当該プロセスは、図2のフローチャートに示した手順によってなされる。すなわち、まず第1の温度センサ11と第2の温度センサ12からの配管1の表面温度の計測温度データが、所定の計測間隔ごとにデータロガー13へと出力され、さらに処理装置14へと出力され、両データが当該計測間隔ごとに記録される(ステップS1)。なお計測間隔は温度センサの分解能にもよるが、例えば本実施の形態では、分解能100分の1℃のものが使用され、計測間隔は0.1秒に設定されている。その結果、図3に示した上流側温度波形A、下流側温度波形Bが得られた。
【0027】
そして以後の処理の過程では、図3に示した温度データを5分(300秒)ごとに分け、5分(300秒)ごとに1つの温度波形(以下、「単位温度波形」という)として処理がなされる。本実施の形態では、前記したように、0.1秒間隔でデータを取り続けるので、仮に1時間、データを取り続けるとデータ数は36,000データ(60分×60秒/分×10)となり、膨大なデータ数となってしまう。そのようにデータ数が膨大になると、処理装置14に負荷が掛かり、処理に掛かる時間が増加する。このような事態を避けて処理装置14への負担を軽くするため、たとえば上記のように、時間帯(例えば5分)ごとに波形を分けて処理するようにしている。
【0028】
次に前記した単位温度波形ごとに、まず移動平均処理がなされる(ステップS2)。それによって、微小な温度変動が除去され、大きな温度変化のみを抽出した温度波形を得ることができる。これを詳しく説明すれば、たとえば分解能100分の1℃の温度センサで、計測間隔0.1秒ごとに配管表面温度を測定して得られた計測温度データが、図4に示したものであった場合、35秒まで温度が低下し、その後上昇するという大きな温度変化の中に、微小な温度変動dが含まれていることがわかる。この微小な温度変動dは±0.04℃程度であるが、図4に示すように、35秒間で1.8℃程度しか変化していない場合、1秒間当たりの温度変化の平均は0.05℃(=1.8℃/35s)となり、前記温度変動d(±0.04℃)を無視することはできなくなる。そのため、この微小な温度変動dを除去し、大きな温度変化のみを取り出すため、移動平均処理を行なう。図4に示した計測温度データに対して、10秒の移動平均処理を行うと、図5に示した波形が得られる。したがって、前記したような微小な温度変動が除去され、その結果、35秒まで温度が低下しその後上昇するという大きな温度変化を抽出しやすくなっている。なお本実施の形態では、単純移動平均処理が採用されている。
なおそのような単純移動平均処理を実施する場合、分母の設定は、たとえば図4にも示した温度変動dの発生周期によって決定する。すなわち発生周期が短い場合には、分母の数は小さくてもよいが、発生周期が長い場合には、分母の数は大きくする必要がある。
【0029】
そのように移動平均処理がなされた上流側、下流側の各単位温度波形に対して、各々温度勾配波形を求める処理がなされる。以下、そのような温度勾配波形を求める処理を「傾き化処理」という(ステップS3)。この傾き化処理は、例えば次のようにして行なわれる。たとえば経過時間2秒〜3秒間の傾きを求める場合、2秒のときの温度T1から、3秒のときの温度T2を減じ、その値を時間差の1秒で除することによって求められる。すなわちある任意の2点の温度差を、その2点の時間差で除することで2点の温度データ間の傾き(温度勾配)を求めることができる。後は、上記の処理を2点間の時間差を変えないように順に繰り返すことで、温度データを傾き化処理することができる。ここで、分母の時間差を常に一定の基準時間差とすると、この傾き化処理を行う場合、分母の時間差(基準時間差)を省略しても構わないので、結局のところ基準時間差を設定することで、2点間の温度差を2点間の傾きとして代用することができる。すなわち2点間の温度差を順次単純に求めていくことで、傾き化処理を行なうことができる。
【0030】
このように温度の変化のみを抽出して扱うので、第1の温度センサ11によって得られた上流側の温度波形、第2の温度センサ12によって得られた下流側の温度波形に対して各々傾き化処理を行なう事で、各温度センサ自身が持つ誤差(劣化も含む)、データロガー13自身が持つ誤差(劣化も含む)、第1の温度センサ11、第2の温度センサ12とデータロガー13の接続誤差、センサの対象物への設置誤差などに起因する器差は除去され、時間差特定をより正確に行なうことができる。
【0031】
図3に示した温度波形における楕円で囲った部分の単位温度波形に対して、移動平均処理と傾き化処理を行なって得られた上流側温度勾配波形A、下流側温度勾配波形B図6に示した。このときの傾き化処理で採用した基準時間差は10秒である。この基準時間差は、あまり短く設定しすぎると、単純移動平均処理で微小な温度変動がうまく除去できなかった場合、その影響を受けることになるので、例えば10秒〜15秒が適当である。
【0032】
図6からわかるように、上流側温度勾配波形A1と下流側温度勾配波形B1は類似した波形となっているが、下流側温度勾配波形B1の振幅は、上流側温度勾配波形A1の振幅よりも僅かに小さくなっている。これは配管1内を冷却水が流れている間に、熱が大気に放熱された影響のためだと思われる。したがって、このままの状態で、一方の波形を時間方向にずらせて2つの波形により囲まれた面積の変化を観察しても、時間差を特定するための面積の最小値が特定しづらくなり、求める時間差の精度に依然として改善の余地があることになる。
【0033】
これをより詳しく説明すれば、例えば仮に図7に示したような温度波形があったとすると、これをそのまま傾き化処理すると図8に示した温度勾配波形が得られる。そしてこれをそのままたとえば下流側の温度勾配波形を時間方向に1秒ずつ移動させていって、1秒ごとの2つの波形が囲まれた面積の和を求めていくと、図9に示した結果が得られる。図9によれば、3秒の移動のときに、面積が最小になり、したがって、流量を求める際のデータとなる時間差は3秒ということになる。しかしながら、図9に示した結果はあくまでも前提とした波形が、図7に示した極端な三角波であったからそのように容易に3秒と特定できたものである。しかしながら実際の温度波形のデータはより緩慢であり、かかる場合、誇張した三角波を前提としても図9に示した程度の急峻さしか得られないのでは、実際の場面では、最小値が特定しづらいことが十分予想される。
【0034】
そこで、図8の温度勾配波形に対して、上流側又は下流側の温度勾配波形を時間方向に移動させる前に、基準化処理を行なって(ステップS4)、下流側の温度勾配波形の形を上流側の温度勾配波形の形に近づける処理を行なう。具体的には、上流側温度の温度勾配波形および下流側温度の温度勾配波形において、正の値は温度勾配波形の最大値で除し、負の値は温度勾配波形の最小値の絶対値で除する処理を行なう。今、図8において、上流側温度の温度勾配波形の最大値は5、最小値は−5、下流側温度の温度勾配波形の最大値は2、最小値は−2であるから、各々の温度勾配波形の値を、これらの値、絶対値で所定時間(1秒)ごとに除していくと、図10に示した、補正(基準化)後の上流側温度勾配波形、下流側温度勾配波形が得られる。
【0035】
そして図10に示した補正後の温度勾配波形に基づいて、そのまま下流側の波形を時間方向に1秒ずつ移動させていって、2つの波形が囲まれた面積の和を求めていくと、図11に示した結果が得られる。図11によれば、やはり3秒の移動のときに面積が最小になる結果となるが、基準化処理を行っていない図9のグラフと、基準化処理を行なった図11のグラフとを比較すると、図11のグラフで特定される時間差の方が、急峻なグラフから得られたものであり、より明瞭で特定しやすいものとなっていることがわかる。したがって、実際の場面においても、前記したような基準化処理を行なった後に、波形を移動させた方が、求める時間差をより特定しやすいことは明らかである。
【0036】
以上のような基準化処理を、図6に示した温度勾配波形に対して行なった後の補正後の上流側温度勾配波形A、補正後の下流側温度勾配波形Bを、夫々図12に示した。基準化処理を行なう前の図6に示した温度勾配波形と比較すると、補正後の上流側温度勾配波形Aと補正後の下流側温度勾配波形Bとの振幅の差が、殆どなくなっていることが分かる。
なおこのような基準化処理は、単位温度波形(実施の形態では300秒)ごとに、最大値、最小値を求め、その値で単位温度波形を除して行なわれる。
【0037】
そして図12に示した補正後の下流側温度勾配波形Bを、時間方向に移動させていって、2つの波形に囲まれた面積の和を計算していくと(ステップS5)、図13に示したグラフが得られた。この図13に示した結果から、面積の最小値を求めると、12.7秒となった(ステップS6)。つまり最初の単位温度波形から得られたデータによって得られた時間差は、12.7秒ということになる(ステップS7)。
【0038】
後は、残りの単位温度波形についても同様にステップS2〜ステップS7の処理を行なって、各々、面積が最小値となる移動時間を特定し、そこから求める時間差を特定する。そして得られた時間差と、第1の温度センサ11と第2の温度センサ12との間の距離Lとから、配管1を流れる冷却水の流速を求め(ステップS8)、当該求めた流速と、配管1の断面積から、冷却水の流量を求めることができる(ステップS9)。
【0039】
図3に示した温度波形について、特許文献1に示された従来技術に基づいて単位温度波形ごとの時間差を求めた結果を表1に示し、また実際に配管内流量を電磁流量計で求めた結果(配管内流量)と表1の結果から求めた流量との比較、並びに計測精度を図14に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
一方、図3に示した温度波形について、本実施の形態による前記したプロセスによって、単位温度波形ごとの時間差を求めた結果を表2に示し、また実際に配管内流量を電磁流量計で求めた結果(配管内流量)と表2の結果から求めた流量との比較、並びに計測精度を図15に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
これらの結果からわかるように、従来技術では、単位温度波形ごとのばらつき、すなわち時間帯ごとのばらつきが大きく、その結果、計測精度にもばらつきがあるが、本実施の形態によれば、全ての単位温度波形、すなわち時間帯において90%以上の計測精度が得られている。
【0044】
なお2つの波形に囲まれた面積の和を計算していく場合、予め設定した時間ごとに上流側の値と下流側の値との差の絶対値を計算し、その総和と当該面積の和とすることが、演算処理上、迅速で便利である。
【0045】
なお本発明を用いて流量を測定するタイミング(時間差を特定するタイミング)は、温度変化が生じたタイミングであり、具体的には、冷凍機、冷却塔の発停時、負荷の変動時などが考えられ、その他通常運転時においてもポンプの動作など、様々な要因で多少の温度変化が含まれているので、そのような温度変化があったときに、流量を計測できるものである。
【0046】
本発明によって処理される温度データを測定する温度センサは、たとえば配管の表面に取り付け、それによって間接的に内部の流体の温度変化を測定するタイプ以外にも、配管内に差し込んで配管内部の流体温度を直接計測するタイプ(挿入型温度計)でも構わない。挿入型温度計を用いる場合、上流側と下流側に設置される2つの温度センサの器差の原因は、温度センサ自身が持つ誤差とロガー自身が持つ誤差、センサとロガーの接続誤差が大半であり、設置誤差や計測環境による誤差などの影響はわずかになる。この場合、校正を行うことで2つの温度センサの持つ器差をほぼ解消できることになる。そうした場合、図2のフローチャートによる傾き化処理(S3)を省略し、測定された温度データによって形成される温度波形からそのまま時間差を求めてもよい。
【0047】
かかる場合、配管を流れる流体の温度を上流側の第1の温度センサと下流側の第2の温度センサで測定し、各温度センサが測定したときの温度変化の時間差から、前記配管を流れる流体の流速を求めて、当該流体の流量を計測する方法として、各温度センサによって一定時間に測定される上流側温度波形または下流側温度波形のうちのいずれか一方の時間波形を時間方向に移動させ、2つの温度波形によって囲まれた面積が最小となるときの前記移動の時間を、前記時間差とすることが提案できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、配管内の流量を計測する際に用いられるものであり、特に配管表面に容易に取り付けられ、また一般的で安価な温度センサを用いて、配管内の流量を計測する場合に有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 配管
2 冷凍機
3 ポンプ
11 第1の温度センサ
12 第2の温度センサ
13 データロガー
14 処理装置
21、22、23、24 エルボ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15