特許第5749450号(P5749450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749450
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】SCRシステム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   F01N3/08 G
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-112190(P2010-112190)
(22)【出願日】2010年5月14日
(65)【公開番号】特開2011-241691(P2011-241691A)
(43)【公開日】2011年12月1日
【審査請求日】2013年4月5日
【審判番号】不服2014-19239(P2014-19239/J1)
【審判請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】若松 俊告
(72)【発明者】
【氏名】山内 龍
(72)【発明者】
【氏名】中島 泰信
【合議体】
【審判長】 加藤 友也
【審判官】 伊藤 元人
【審判官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−138619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管に設けられた選択還元触媒装置と、
前記選択還元触媒装置の上流側で尿素水を噴射するドージングバルブと、
前記選択還元触媒装置入口の排気ガス温度と前記エンジンの運転状況を示すエンジンパラメータとに基づいて算出される排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出する尿素水量算出部と、
エンジンの冷却水温度があらかじめ設定された下限値以下である低水温時、前記尿素水量算出部が算出した尿素水量に前記冷却水温度が低いほど小さい係数をかけて前記ドージングバルブからの尿素水噴射量を決定することにより、前記ドージングバルブからの尿素水噴射量が前記選択還元触媒装置で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする噴射量制限部とを備えたことを特徴とするSCRシステム。
【請求項2】
前記噴射量制限部は、冷却水温度に応じて係数が設定された低水温係数マップを冷却水温度で参照して係数を得ることを特徴とする請求項1記載のSCRシステム。
【請求項3】
エンジンの排気管に設けられた選択還元触媒装置と、
前記選択還元触媒装置の上流側で尿素水を噴射するドージングバルブと、
前記選択還元触媒装置入口の排気ガス温度と前記エンジンの運転状況を示すエンジンパラメータとに基づいて算出される排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出する尿素水量算出部と、
ブースト圧があらかじめ設定された下限値以下であることで判定される低外気温時、前記尿素水量算出部が算出した尿素水量に前記ブースト圧に応じて設定される所定の係数をかけて前記ドージングバルブからの尿素水噴射量を決定することにより、前記ドージングバルブからの尿素水噴射量が前記選択還元触媒装置で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする噴射量制限部とを備えたことを特徴とするSCRシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル車両の排気ガスに尿素水を噴射することで排ガス浄化を行うSCRシステムに係り、エンジンの制御状態によらずアンモニアスリップが防止できるSCRシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス中のNOxを浄化するための排ガス浄化システムとして、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)装置を用いたSCRシステムが開発されている。
【0003】
このSCRシステムは、尿素水をSCR装置の排気ガス上流に供給し、排気ガスの熱でアンモニアを生成し、このアンモニアによって、SCR触媒上でNOxを還元して浄化するものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−303826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの制御は、エンジンが安定して運転される状態において排ガス規制に対応して制御が行われる排ガス対応モードと、さまざまな環境(例えば、周囲が寒いとき、あるいは高地であることによる外気圧の低下)に対応してエンジンが支障なく稼動できるように制御が行われる環境対応モードとが切り替えられるようになっている。環境がエンジンの運転に不利な環境に変化すると、それに応じてモードが環境対応モードに切り替えられる。これにより、エンジンの運転に不利な環境であってもエンジンの運転を維持することができる。
【0006】
しかし、エンジンの制御モードの切り替えに伴って、エンジンから出る排気ガスの状態が変化する。つまり、排ガス対応モードでは、排気ガス中のNOx量が少なくなるようにエンジンが制御されるので、排気管に排出される排気ガス中のNOx量が少ない。環境対応モードでは、エンジンが支障なく稼動することを優先してエンジンが制御されるので、エンジンから排気管に排出される排気ガス中のNOx量が増えるのはやむを得ない。
【0007】
ところで、従来のSCRシステムでは、排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出し、この算出された量の尿素水をSCR装置の上流側に設置されたドージングバルブから噴射させている。尿素水に由来するアンモニアがSCR装置に一時的に蓄積され、この蓄積されたアンモニアがNOxの還元に作用するので、SCR装置のアンモニアを補充するだけの尿素水量がNOx還元用の尿素水量として算出される。
【0008】
しかし、SCR装置は、車内の限られたスペースにコンパクトに収納するため、あるいはコストパフォーマンスを向上させるために、有限の大きさに作られている。このため、SCR触媒の面積は有限であり、よって、SCR装置の中でアンモニアによって還元できる最大のNOx量は有限である。
【0009】
したがって、前述のようにエンジンが環境対応モードで制御されて排気ガス中のNOx量が増加したとき、これに合わせて噴射する尿素水量を無制限に増やしたとしても、そのSCR装置のサイズ等で決まるところの、還元できる最大NOx量を超えて還元できることはない。このためSCR装置の中で過剰となったアンモニアは、外気に排出される。これをアンモニアスリップと呼ぶ。アンモニアスリップは、アンモニア特有の臭いが発散されてしまうので、防止しなくてはならない。
【0010】
例えば、エンジンの暖気が不十分な低水温時、エンジンは環境対応モードで制御され、EGR(Exhaust Gas Recirculation;排気再循環)率をゼロまたは大幅に削減するEGR弁の開度制限が行われる。EGR弁の開度制限が行われると、エンジンの吸気は酸素が豊富になるため、排気ガス中のNOx量が増加する。このとき、単に排気ガス中のNOx量に応じた量の尿素水を噴射すると、SCR装置の中でアンモニアが過剰となり、アンモニアスリップが発生してしまう。
【0011】
外気の温度が低い低外気温時も、同様にエンジンは環境対応モードとなってEGR弁の開度制限が行われて排気ガス中のNOx量が増加する。このときも、単に排気ガス中のNOx量に応じた量の尿素水を噴射すると、SCR装置の中でアンモニアが過剰となり、アンモニアスリップが発生してしまう。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、エンジンの制御状態によらずアンモニアスリップが防止できるSCRシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンの排気管に設けられた選択還元触媒装置と、前記選択還元触媒装置の上流側で尿素水を噴射するドージングバルブと、前記選択還元触媒装置入口の排気ガス温度と前記エンジンの運転状況を示すエンジンパラメータとに基づいて算出される排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出する尿素水量算出部と、エンジンの冷却水温度があらかじめ設定された下限値以下である低水温時、前記尿素水量算出部が算出した尿素水量に前記冷却水温度が低いほど小さい係数をかけて前記ドージングバルブからの尿素水噴射量を決定することにより、前記ドージングバルブからの尿素水噴射量が前記選択還元触媒装置で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする噴射量制限部とを備えたものである。
【0014】
前記噴射量制限部は、冷却水温度に応じて係数が設定された低水温係数マップを冷却水温度で参照して係数を得てもよい。
【0015】
また、本発明は、エンジンの排気管に設けられた選択還元触媒装置と、前記選択還元触媒装置の上流側で尿素水を噴射するドージングバルブと、前記選択還元触媒装置入口の排気ガス温度と前記エンジンの運転状況を示すエンジンパラメータとに基づいて算出される排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出する尿素水量算出部と、ブースト圧があらかじめ設定された下限値以下であることで判定される低外気温時、前記尿素水量算出部が算出した尿素水量に前記ブースト圧に応じて設定される所定の係数をかけて前記ドージングバルブからの尿素水噴射量を決定することにより、前記ドージングバルブからの尿素水噴射量が前記選択還元触媒装置で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする噴射量制限部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)エンジンの制御状態によらずアンモニアスリップが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態を示すSCRシステムの要部構成図である。
図2】本発明の一実施形態を示すSCRシステムを詳しく示した構成図である。
図3図1のSCRシステムの入出力構成図である。
図4】(a)は、エンジン制御のモードとSCR制御のモードを示す概念図、(b)は、冷却水温に対するNOx量の特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図1及び図2に示されるように、本発明に係るSCRシステム100は、エンジンEの排気管102に設けられたSCR装置103と、SCR装置103の上流側で尿素水を噴射するドージングバルブ104と、排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出する尿素水量算出部1と、エンジンEの冷却水温度があらかじめ設定された下限値以下である低水温時、またはブースト圧があらかじめ設定された下限値以下であることで判定される低外気温時、尿素水量算出部1が算出した尿素水量に所定の係数をかけてドージングバルブ104からの尿素水噴射量を決定することにより、ドージングバルブ104からの尿素水噴射量がSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする噴射量制限部2とを備えたものである。
【0021】
さらに、本実施形態では、SCRシステム100は、冷却水温度に応じて係数が設定された低水温係数マップ3を備える。噴射量制限部2は、低水温係数マップ3を冷却水温度で参照して係数を得るようになっている。
【0022】
SCRシステム100は、エンジン制御が排ガス対応モードのときは、SCRモードで尿素水噴射を制御し、エンジン制御が環境対応モードのときは、オルタネイティブモードで尿素水噴射を制御するようになっている。SCRモードは、尿素水量算出部1が算出した尿素水量がドージングバルブ104から噴射されるモードであり、オルタネイティブモードは、噴射量制限部2で制限された尿素水量がドージングバルブ104から噴射されるモードである。
【0023】
詳しくは、図2に示すように、SCRシステム100は、エンジンEの排気管102に設けられたSCR装置103と、SCR装置103の上流側(排気ガスの上流側)で尿素水を噴射するドージングバルブ(尿素噴射装置、ドージングモジュール)104と、尿素水を貯留する尿素タンク105と、尿素タンク105に貯留された尿素水をドージングバルブ104に供給するサプライモジュール106と、ドージングバルブ104やサプライモジュール106等を制御するDCU(Dosing Control Unit)126とを主に備える。
【0024】
エンジンEの排気管102には、排気ガスの上流側から下流側にかけて、DOC(Diesel Oxidation Catalyst;酸化触媒)107、DPF(Diesel Particulate Filter)108、SCR装置103が順次配置される。DOC107は、エンジンEから排気される排気ガス中のNOを酸化してNO2とし、排気ガス中のNOとNO2の比率を制御してSCR装置103における脱硝効率を高めるためのものである。また、DPF108は、排気ガス中のPM(Particulate Matter)を捕集するためのものである。
【0025】
SCR装置103の上流側の排気管102には、ドージングバルブ104が設けられる。ドージングバルブ104は、高圧の尿素水が満たされたシリンダに噴口が設けられ、その噴口を塞ぐ弁体がプランジャに取り付けられた構造となっており、コイルに通電することによりプランジャを引き上げることで弁体を噴口から離間させて尿素水を噴射するようになっている。コイルへの通電を止めると、内部のバネ力によりプランジャが引き下げられて弁体が噴口を塞ぐので尿素水の噴射が停止される。
【0026】
ドージングバルブ104の上流側の排気管102には、SCR装置103の入口における排気ガスの温度(SCR入口温度)を測定する排気温度センサ109が設けられる。また、SCR装置103の上流側(ここでは排気温度センサ109の上流側)には、SCR装置103の上流側でのNOx濃度を検出する上流側NOxセンサ110が設けられ、SCR装置103の下流側には、SCR装置103の下流側でのNOx濃度を検出する下流側NOxセンサ111が設けられる。
【0027】
サプライモジュール106は、尿素水を圧送するSMポンプ112と、サプライモジュール106の温度(サプライモジュール106を流れる尿素水の温度)を測定するSM温度センサ113と、サプライモジュール106内における尿素水の圧力(SMポンプ112の吐出側の圧力)を測定する尿素水圧力センサ114と、尿素水の流路を切り替えることにより、尿素タンク105からの尿素水をドージングバルブ104に供給するか、あるいはドージングバルブ104内の尿素水を尿素タンク105に戻すかを切り替えるリバーティングバルブ115とを備えている。ここでは、リバーティングバルブ115がONのとき、尿素タンク105からの尿素水をドージングバルブ104に供給するようにし、リバーティングバルブ115がOFFのとき、ドージングバルブ104内の尿素水を尿素タンク105に戻すようにした。
【0028】
リバーティングバルブ115が尿素水をドージングバルブ104に供給するように切り替えられている場合、サプライモジュール106は、そのSMポンプ112にて、尿素タンク105内の尿素水を送液ライン(サクションライン)116を通して吸い上げ、圧送ライン(プレッシャーライン)117を通してドージングバルブ104に供給するようにされ、余剰の尿素水を、回収ライン(バックライン)118を通して尿素タンク105に戻すようにされる。
【0029】
尿素タンク105には、SCRセンサ119が設けられる。SCRセンサ119は、尿素タンク105内の尿素水の液面高さ(レベル)を測定するレベルセンサ120と、尿素タンク105内の尿素水の温度を測定する温度センサ121と、尿素タンク105内の尿素水の品質を測定する品質センサ122とを備えている。品質センサ122は、例えば、超音波の伝播速度や電気伝導度から、尿素水の濃度や尿素水に異種混合物が混合されているか否かを検出し、尿素タンク105内の尿素水の品質を検出するものである。
【0030】
尿素タンク105とサプライモジュール106には、エンジンEを冷却するための冷却水を循環する冷却ライン123が接続される。冷却ライン123は、尿素タンク105内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水と尿素タンク105内の尿素水との間で熱交換するようにされる。同様に、冷却ライン123は、サプライモジュール106内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水とサプライモジュール106内の尿素水との間で熱交換するようにされる。
【0031】
冷却ライン123には、尿素タンク105とサプライモジュール106に冷却水を供給するか否かを切り替えるタンクヒーターバルブ(クーラントバルブ)124が設けられる。なお、ドージングバルブ104にも冷却ライン123が接続されるが、ドージングバルブ104には、タンクヒーターバルブ124の開閉に拘わらず、冷却水が供給されるように構成されている。なお、図2では図を簡略化しており示されていないが、冷却ライン123は、尿素水が通る送液ライン116、圧送ライン117、回収ライン118に沿って配設される。
【0032】
図3に、DCU126の入出力構成図を示す。
【0033】
図3に示すように、DCU126には、上流側NOxセンサ110、下流側NOxセンサ111、SCRセンサ119(レベルセンサ120、温度センサ121、品質センサ122)、排気温度センサ109、サプライモジュール106のSM温度センサ113と尿素水圧力センサ114、およびエンジンEを制御するECM(Engine Control Module)125からの入力信号線が接続されている。ECM125からDCU126には、モードを表す信号、エンジンパラメータの信号が入力される。エンジンパラメータには、エンジン回転数、燃料噴射時期、外気圧、外気温、冷却水温度、ブースト圧、EGR率などが含まれる。さらに、DCU126には、NOx量(流量、濃度)、排気ガス流量、排気ガスの劣化係数などが入力される。
【0034】
また、DCU126には、タンクヒーターバルブ124、サプライモジュール106のSMポンプ112とリバーティングバルブ115、ドージングバルブ104、上流側NOxセンサ110のヒータ、下流側NOxセンサ111のヒータ、への出力信号線が接続される。なお、DCU126と各部材との信号の入出力に関しては、個別の信号線を介した入出力、CAN(Controller Area Network)を介した入出力のどちらであってもよい。
【0035】
DCU126の尿素水量算出部1は、ECM125からのエンジンパラメータの信号と、排気温度センサ109からの排気ガス温度とを基に、排気ガス中のNOxの量を推定すると共に、推定した排気ガス中のNOxの量を基にドージングバルブ104から噴射する尿素水量を決定するようにされ、さらに、ドージングバルブ104にて決定した尿素水量で噴射したとき、上流側NOxセンサ110の検出値に基づいてドージングバルブ104を制御して、ドージングバルブ104から噴射する尿素水量を調整するようにされる。
【0036】
以下、本発明のSCRシステム100の動作を説明する。
【0037】
図4(a)に示されるように、ECM125は、エンジンEが安定して運転できるエンジン状態では、排ガス対応モードでエンジンEを制御し、低水温時、低外気温時、低外気圧時などエンジンEの運転が容易でない環境下では、環境対応モードでエンジンEを制御する。
【0038】
エンジン制御のモードは、ECM125からDCU126に通知される。DCU126では、エンジン制御が排ガス対応モードのときは、SCRモードで尿素水噴射を制御し、エンジン制御が環境対応モードのときは、オルタネイティブモードで尿素水噴射を制御する。
【0039】
DCU126のモードがSCRモードであるとき、尿素水量算出部1は、排気ガス中のNOx量に応じてNOx還元用の尿素水量を算出し、この算出された尿素水量がドージングバルブ104からの尿素水噴射量となる。
【0040】
DCU126のモードがオルタネイティブモードであるとき、噴射量制限部2は、ECM125から入力された冷却水温度が下限値以下であることから、低水温時であることを認識し、ドージングバルブ104からの尿素水噴射量がSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにする制御を行う。具体的には、噴射量制限部2は、尿素水量算出部1が算出した尿素水量に所定の係数をかけてドージングバルブ104からの尿素水噴射量を決定する。係数としては、例えば、1より小さい値を用いるとよい。
【0041】
具体例で説明すると、エンジンEの暖気が不十分な低水温時(冷却水温度が下限値以下のとき)、エンジンEは環境対応モードで制御され、EGR率をゼロまたは大幅に削減するEGR弁の開度制限が行われる。EGR弁の開度制限が行われると、エンジンEの吸気は酸素が豊富になるため、排気ガス中のNOx量が増加する。このとき、尿素水量算出部1は、排気ガス中のNOx量に応じたNOx還元用の尿素水量を算出する。図4(b)に示されるように、冷却水温度が低いほどNOx量が多いという傾向があるため、算出された尿素水量も、冷却水温度が低いほど多い。
【0042】
しかし、SCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えるような量の尿素水を噴射すると、SCR装置103の中でアンモニアが過剰となり、還元されないNOx量に相当する量のアンモニアスリップが発生してしまう。
【0043】
そこで、本発明では、噴射量制限部2は、尿素水量算出部1が算出した尿素水量に所定の係数をかける。このとき、低水温係数マップ3には、冷却水温度ごとに、還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないよう、冷却水温度が低いほど小さい係数が設定されている。したがって、低水温係数マップ3を冷却水温度で参照して得られた係数を尿素水量算出部1が算出した尿素水量にかけると、尿素水噴射量はSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えることがない。
【0044】
このように、ドージングバルブ104から噴射される尿素水噴射量がSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないので、アンモニアスリップが防止される。
【0045】
別の具体例で説明すると、外気の温度が低い低外気温時(ブースト圧が下限値以下のとき)、エンジンEは環境対応モードで制御され、EGR弁の開度制限が行われて排気ガス中のNOx量が増加する。外気温またはブースト圧とNOx量の関係は図示しないが、低外気温時のNOx量に応じて算出された尿素水量は、SCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超える。
【0046】
このとき、噴射量制限部2は、尿素水量算出部1が算出した尿素水量に、所定の係数をかける。この場合も、係数は、尿素水噴射量がSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないように設定されているので、この係数を尿素水量算出部1が算出した尿素水量にかけると、尿素水噴射量はSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えることがない。
【0047】
以上説明したように。本発明のSCRシステム100によれば、エンジンEの冷却水温度があらかじめ設定された下限値以下である低水温時、またはブースト圧があらかじめ設定された下限値以下であることで判定される低外気温時には、排気ガス中のNOx量に応じて算出した尿素水量に所定の係数をかけてドージングバルブ104からの尿素水噴射量を決定し、ドージングバルブ104からの尿素水噴射量がSCR装置103で還元できる最大NOx量に相当する尿素水量を超えないようにするので、アンモニアスリップが防止される。
【0048】
なお、本発明において、低外気温は、ブースト圧によって判定している。すなわち、外気温を直接、検出するのではなく、ブースト圧を外気温に換算して、あるいはブースト圧からマップで外気温を引き当て、低外気温かどうかを判定している。これは米国の法規において、低外気温をブースト圧によって判定することが義務づけられているからである。
【符号の説明】
【0049】
1 尿素水量算出部
2 噴射量制限部
3 低水温係数マップ
100 SCRシステム
102 排気管
103 SCR装置
104 ドージングバルブ
125 ECM
126 DCU
図1
図2
図3
図4