(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジン及びそのエンジンに付随する付随設備の運転状態を検出する運転状態検出手段と、その運転状態検出手段の検出結果に基づいて、前記エンジン及び前記付随設備における故障の前兆を判定する判定手段とを備えた故障判定装置であって、
前記エンジン及び前記付随設備を運転させる通常運転条件よりも、故障に伴う前記エンジン及び前記付随設備の運転状態の変化が生じ易い前兆判定条件に運転条件を設定して前記エンジン及び前記付随設備を運転させる前兆判定運転を行う前兆判定運転手段を備え、前記判定手段は、前記前兆判定運転中に前記運転状態検出手段にて検出した検出結果に基づいて、故障の前兆を判定するように構成されており、
前記エンジンは、燃焼室として、ピストンに面する主室とその主室に噴孔を介して連通する副室とを有しており、前記副室に燃料ガスを供給する副室燃料ガス通路と、その副室燃料ガス通路から前記副室への燃料ガスの供給量を調整自在な副室弁とが備えられている副室式エンジンにて構成され、前記前兆判定条件は、前記通常運転条件よりも前記副室燃料ガス通路から前記副室への燃料ガスの供給量を減少あるいは増加させる条件に設定され、前記判定手段は、前記副室弁の故障の前兆を判定するように構成されている故障判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る故障判定装置の実施形態について図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
この第1実施形態における故障判定装置は、
図1に示すように、エンジン1における故障の前兆を判定するものである。エンジン1は、複数の燃焼室(
図1に示す如く、#1〜#6の6つの燃焼室)を備えた多気筒式に構成されており、エンジン1の運転状態を検出する運転状態検出手段2が、複数の燃焼室4の夫々に対応して複数備えられている。ここで、複数の燃焼室4の夫々に対応して備えられた運転状態検出手段2を第1運転状態検出手段としている。エンジン1の運転を制御する制御装置27が備えられており、その制御装置27には、エンジン1における故障の前兆を判定するための前兆判定運転を行う前兆判定運転手段30と、運転状態検出手段2の検出結果に基づいて、エンジン1における故障の前兆を判定する判定手段3とが備えられている。判定手段3は、複数の運転状態検出手段2の検出結果を比較して、複数の燃焼室(#1〜#6の燃焼室)のどの燃焼室において故障の前兆であるかを判定するように構成されている。
【0024】
この第1実施形態では、エンジン1が副室式エンジン1aにて構成されているので、
図2に基づいて、副室式エンジン1aの構成について説明する。
図2では、複数の燃焼室4のうち、1つの燃焼室4のみを示している。
【0025】
この副室式エンジン1aは、燃焼室4として、ピストン5に面する主室6とその主室6に噴孔7を介して連通する副室8とを有しており、気体燃料である都市ガス(13A)を燃料ガスGとして利用するものである。副室式エンジン1aは、主室6の吸気路9に設けられた吸気弁10と、主室6の排気路11に設けられた排気弁12と、副室8に燃料ガスGを供給する副室燃料ガス通路13と、副室8に形成された混合気を火花点火する点火プラグ14と、副室燃料ガス通路13における燃料ガスGの流通を断続可能な開閉弁15と、この開閉弁15よりも下流側の副室燃料ガス通路13に設けられる逆止弁16(副室弁に相当する)とを備えている。
【0026】
副室式エンジン1aは、ピストン5と、ピストン5を収容してピストン5の頂面とともに主室6を形成するシリンダ17とを備えている。ピストン5がシリンダ17内で往復運動し、それとともに吸気弁10及び排気弁12を開閉動作し、主室6において吸気、圧縮、膨張(燃焼)、排気の各行程が行われる。ピストン5の往復運動が、連結棒18によってクランク軸19の回転運動として出力される。
【0027】
副室式エンジン1aのクランク軸19により連結駆動されて発電を行うとともに、商用電力系統101に連係可能に構成された同期発電機102が備えられている。副室式エンジン1aは、同期発電機102にて発電を行うとともに、副室式エンジン1aの排熱を熱媒体を介して回収して熱消費端末等に供給可能と排熱回収設備(図示省略)を備えたコージェネレーションシステムに用いられている。
同期発電機102は、商用電力系統101に遮断器103を介して接続されている。遮断器103が投入状態のときには、同期発電機102が商用電力系統101に対して電気的に接続状態となる。一方、遮断器103が開放状態のときには、同期発電機102が商用電力系統101に対して解列状態となる。遮断器103と商用電力系統101との接続ラインには、電灯や電気機器等の電力負荷104が接続されている。副室式エンジン1aの運転中には、基本的に、電力負荷104で消費される電力が、同期発電機102の発電電力で賄われ、その発電電力だけでは不足する分の電力が商用電力系統101から給電されるようにしている。
【0028】
副室式エンジン1aは、吸気行程において吸気弁10を開弁状態として、空気と少量の燃料ガスGとの混合気(希薄混合気)である新気Iを吸気路9から主室6に供給するとともに、副室8に燃料ガスを供給し、圧縮行程にて噴孔7を通して主室6から副室8に希薄混合気を流入させ副室8内に混合気を形成し、副室8の点火プラグ14での火花点火によって副室8内で燃焼させた混合気を、噴孔7を介して主室6に火炎ジェット(
図2中一点鎖線参照)として噴射するように構成されている。
【0029】
逆止弁16の構成について説明する。
シリンダヘッド20に形成された副室8を形成する円柱状の凹部の上方開口部には、その上方開口部に嵌合する形態で有底筒状の口金21が設けられている。口金21の上方開口部には、その上方開口部に嵌合する形態で内部に副室燃料ガス通路13を形成する燃料供給管22が設けられている。口金21の底部には、副室8と口金21内とを連通する燃料供給口23が形成されている。
【0030】
口金21内には、ボール状の弁体24が設けられている。この弁体24は、燃料供給管22に形成された弁座部25に当接して燃料供給管22の先端開口部を封鎖する状態(逆止弁16の閉弁状態)と、弁座部25から下方側に離間して燃料供給管22の先端開口部を開放する状態(逆止弁16の開弁状態)とを切り換える形態で、上下方向に摺動自在に配置されている。口金21内の弁体24の下方部には、弁体24を下方から弁座部25に向けて付勢する状態で配置されたコイルバネ等からなる付勢部材26が設けられている。
【0031】
逆止弁16の開閉による副室8への燃料ガスGの供給の断続について説明する。
副室8の圧力が低下した場合に、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力(逆止弁16の上流側圧力)が、副室8の圧力(逆止弁16の下流側圧力)と付勢部材26の付勢力との和以上となる。この場合に、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力(逆止弁16の上流側圧力)が、副室8の圧力と付勢部材26の付勢力との和に打ち勝ち、弁体24が下方側に移動して弁座部25から離間して、逆止弁16が開弁状態となる。よって、副室燃料ガス通路13から燃料供給口23を通じて副室8に燃料ガスGが供給される。
一方、副室8の圧力が上昇した場合に、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力が、副室8の圧力(逆止弁16の下流側圧力)と付勢部材26の付勢力との和未満となる。この場合に、副室8の圧力と付勢部材26の付勢力との和が、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力に打ち勝ち、弁体24が上方側に移動して弁座部25に当接して、逆止弁16が閉弁状態となる。よって、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給が逆止弁16で停止される。
【0032】
副室式エンジン1aには、複数の燃焼室4の夫々について開閉弁15や点火プラグ14の作動等を制御して副室式エンジン1aを制御する制御装置27が設けられている。この制御装置27には、クランク軸19の回転角を計測するクランク角センサ28や、複数の燃焼室4の夫々において主室6から排気路11に排気される排ガスの排気温度を検出する排気温度センサ29等の検出信号が入力されるように構成されている。制御装置27は、クランク角センサ28の検出情報に基づいて、複数の燃焼室4の夫々について、開閉弁15を開状態に切り換える期間を所望の期間とするとともに、点火プラグ14を所望のタイミングで作動させて火花点火するようにしている。
【0033】
副室燃料ガス通路13から副室8に燃料ガスGを供給する場合には、開閉弁15を開状態に切り換えて、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力(逆止弁16の上流側圧力)を、副室8の圧力(逆止弁16の下流側圧力)と付勢部材26の付勢力との和以上とすることで、逆止弁16を開弁状態としている。この場合、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力(逆止弁16の上流側圧力)と副室8の圧力(逆止弁16の下流側圧力)との差圧である副室差圧が大きい場合には、弁体24が下方側に移動する距離が大きくなり、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が増加する。逆に、副室差圧が小さい場合には、弁体24が下方側に移動する距離が小さくなり、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が減少する。このように、開閉弁15から逆止弁16までの副室燃料ガス通路13の圧力(逆止弁16の上流側圧力)と副室8の圧力(逆止弁16の下流側圧力)との差圧である副室差圧の大小によって、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が増減される。
【0034】
副室燃料ガス通路13において開閉弁15よりも上流側には、圧力調整弁33が備えられている。制御装置27は、圧力調整弁33の開度を調整することで副室差圧を調整して、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が所望の適正量となるようにしている。このようにして、制御装置27は、副室差圧を調整して副室式エンジン1aを運転させるわけであるが、副室式エンジン1aを運転させる際の通常運転条件を副室差圧の条件として設定しており、その通常運転条件にて通常運転を行うことで、副室式エンジン1aを良好に運転させる。ここで、通常運転条件は、
図3に示すように、エンジン負荷が0%である場合に、通常運転基準値(20〔kPa〕)を基準として、通常運転範囲H1(例えば、通常運転基準値±2〔kPa〕)内に副室差圧を調整する条件に設定されている。
【0035】
逆止弁16が正常な場合には、逆止弁16が開弁状態となることで、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量を所望の適正量とすることができる。しかしながら、例えば、逆止弁16の弁体24に、磨耗、クラックや、燃焼生成物による気密不良が生じると、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が増大してしまう。また、燃焼生成物等により燃料供給口23等が閉塞したり、弁体24が固着することで、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が減少してしまう。さらに、逆止弁16の付勢部材26のバネ特性の変化によって、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が増減してしまう。このように、逆止弁16が故障に至ると、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量が所望の適正量よりも増減してしまい、副室8内の混合気に着火できずに燃焼不良が発生し、副室式エンジン1aが予期しないタイミングで停止してしまう。
【0036】
そこで、本実施形態では、前兆判定運転を行う前兆判定運転手段30及び判定手段3が制御装置27に備えられており、判定手段3は、前兆判定運転手段30による前兆判定運転中に運転状態検出手段2にて検出した検出結果に基づいて、逆止弁16の故障の前兆を判定するように構成されている。運転状態検出手段2は、排気温度センサ29にて構成されている。
【0037】
前兆判定運転について説明する。
前兆判定運転手段30は、通常運転条件にて副室式エンジン1aを運転させる通常運転中において、運転停止指令により副室式エンジン1aの運転を停止させる途中に前兆判定運転を行うように構成されている。制御装置27は、運転停止指令により副室式エンジン1aの運転を停止させるためのエンジン停止動作を行うので、前兆判定運転手段30は、そのエンジン停止動作中に副室式エンジン1aの運転を前兆判定運転用継続時間(例えば1分)継続させて、前兆判定運転を行うようにしている。
【0038】
エンジン停止動作について説明する。
制御装置27は、まず、同期発電機102の発電電力を下げ、同期発電機102の発電電力がゼロ付近になった時点で遮断器103を開放状態に切り換える。その後、制御装置27は、エンジン回転速度を一定回転速度として一定時間(例えば、3〜10分)だけエンジン1の運転を継続させた後、エンジン1の運転を停止させる。
【0039】
そこで、前兆判定運転を行うタイミングとしては、例えば、エンジン停止動作中に、同期発電機102の発電電力を下げる際に、同期発電機102の発電電力を数%の一定として前兆判定運転を行うことができる。或いは、エンジン停止動作中に、遮断器103を開放状態に切り換えた後、前兆判定運転を行うことができる。
【0040】
前兆判定運転では、通常運転条件よりも、故障に伴う副室式エンジン1aの運転状態の変化が生じ易い前兆判定条件に運転条件を設定して副室式エンジン1aを運転させるようにしている。ここで、前兆判定条件は、通常運転条件よりも副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量を減少させる条件に設定されている。このように、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量を減少させることで、例えば、燃焼生成物等により燃料供給口23等が閉じかけている、或いは、弁体24が固着しかけている等、逆止弁16が故障の前兆となっている場合には、副室8内の混合気に着火できずに燃焼不良が発生することになる。したがって、前兆判定条件は、通常運転条件よりも逆止弁16の故障が生じ易い条件に設定されている。
【0041】
上述の如く、通常運転条件は、副室差圧の条件として設定されていることから、前兆判定条件も、副室差圧の条件として設定されている。
図3に示すように、前兆判定条件は、通常運転基準値(20〔kPa〕)よりも小さい前兆判定基準値(15〔kPa〕)を基準として、前兆判定範囲H2(例えば、前兆判定基準値±2〔kPa〕)内に副室差圧を調整する条件に設定されており、前兆判定運転手段30が、圧力調整弁33の開度を調整することで、副室差圧を前兆判定範囲H2内に調整している。
【0042】
判定手段3による逆止弁16の故障の前兆の判定について、
図3に基づいて説明する。
図3は、燃焼室を#1〜#6の6つ備え、#1の燃焼室において逆止弁が故障の前兆である場合に、副室差圧を変化させたときの6つの燃焼室(#1〜#6)の夫々における排気温度の変化を示している。
【0043】
逆止弁16が故障の前兆である場合には、燃焼不良が発生して排気温度が低下することから、判定手段3は、前兆判定運転中に、運転状態検出手段2としての排気温度センサ29にて検出した排気温度に基づいて、逆止弁16の故障の前兆を判定するように構成されている。運転状態検出手段2としての第1運転状態検出手段は、複数の燃焼室4の夫々に対応して複数備えられた排気温度センサ29にて構成されており、判定手段3は、複数の排気温度センサ29の夫々にて検出した排気温度を比較して、複数の燃焼室4のどの燃焼室4において逆止弁16が故障の前兆であるかを判定するようにしている。
【0044】
図3に示すように、副室差圧を通常運転条件(通常運転範囲H1)とした場合には、#1〜#6の全ての燃焼室の排気温度が400℃以上となっている。したがって、通常運転条件にて副室式エンジンを運転させる通常運転では、複数の排気温度センサ29の夫々にて検出して排気温度を比較しても、#1の燃焼室において逆止弁が故障の前兆であることを判定することができない。
【0045】
それに対して、副室差圧を前兆判定条件(前兆判定範囲H2)とした場合には、#2〜#6の燃焼室の排気温度が400℃以上となっているが、#1の燃焼室の排気温度は350℃程度であり、400℃未満となっている。したがって、判定手段3は、#1の燃焼室の排気温度が他の#2〜#6の燃焼室の排気温度よりも低下しており他の排気温度との偏差が設定偏差(例えば40℃)以上であるとして、#1の燃焼室において逆止弁が故障の前兆であると判定している。また、判定手段3は、#1の燃焼室の排気温度が設定排気温度(例えば400℃)未満となっているので、排気温度と設定温度とを比較することによっても、#1の燃焼室における逆止弁が故障の前兆であると判定している。このようにして、通常運転条件よりも逆止弁16の故障が生じ易い前兆判定条件として副室式エンジンを運転させる前兆判定運転を行い、その前兆判定運転中の排気温度に基づいて、複数の燃焼室4のどの燃焼室4において逆止弁16が故障の前兆であるかを判定している。
【0046】
制御装置27は、判定手段3にて複数の燃焼室4の何れかにおいて逆止弁16が故障の前兆であると判定した場合に、その燃焼室4がどの燃焼室4を特定した状態で故障の前兆である逆止弁16が存在するという故障予知情報を表示部等に表示させるようにしている。
【0047】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、エンジン1における故障の前兆として、副室式エンジン1aにおける逆止弁16の故障の前兆を判定するようにしているが、この第2実施形態では、エンジン1を、燃焼室として主室と副室とを有する副室式エンジンではなく、通常のエンジンとし、そのエンジン1における燃焼室4でのノッキングに伴う故障の前兆を判定するようにしている。
このように、第2実施形態は、上記第1実施形態に対して、故障の前兆を判定する対象が異なるものであり、
図4及び
図5に基づいて、その点を中心に説明する。その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0048】
この第2実施形態におけるエンジン1は、
図4に示すように、燃焼室として主室と副室とを有する副室式エンジンではなく、シリンダ17の内面とピストン5の頂面とで燃焼室4が形成されているエンジンにて構成されている。点火プラグ14は、シリンダヘッド20に設けられており、その点火プラグ14によって燃焼室4に形成される混合気を火花点火するようにしている。ここで、
図4では、1つの燃焼室4のみを図示しているが、上記第1実施形態と同様に、この第2実施形態におけるエンジン1も、複数の燃焼室4を備えた多気筒式に構成されている。
【0049】
この第2実施形態では、エンジン1を通常運転させる際の通常運転条件を、点火プラグ14の点火時期についての条件として設定している。そして、通常運転条件は、
図5に示すように、点火プラグ14の点火時期を通常運転点火時期T1(例えば、12°BTDC)としている。このようにして、点火プラグ14の点火時期について通常運転点火時期T1とする通常運転を行うことで、エンジン1を良好に運転させる。
【0050】
第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、制御装置27が、運転停止指令によりエンジン1の運転を停止させるためのエンジン停止動作を行うので、前兆判定運転手段30は、そのエンジン停止動作中にエンジン1の運転を継続させて、前兆判定運転を行うようにしている。特にエンジン負荷が高い時に、前兆判定運転による故障の前兆判定効果が出やすいので、エンジン停止動作中でもエンジン負荷の高い時の運転停止指令直後に前兆判定運転を行うことが望ましい。そして、前兆判定運転における前兆判定条件は、通常運転条件よりも燃焼室4でのノッキングが発生し易い条件として設定されている。通常運転条件は、点火プラグ14の点火時期についての条件として設定されているので、前兆判定条件も、点火プラグ14の点火時期についての条件として設定されている。前兆判定条件は、
図5に示すように、通常運転点火時期T1よりも進角させた前兆判定点火時期T2(例えば、15°BTDC)としている。
【0051】
判定手段3によるノッキングに伴う故障の前兆の判定について、
図5に基づいて説明する。
図5は、燃焼室を#1〜#6の6つ備え、#1の燃焼室においてノッキングに伴う故障の前兆である場合に、点火プラグの点火時期を変化させたときの6つの燃焼室(#1〜#6)の夫々におけるノッキング強度の変化を示している。
【0052】
ノッキング強度については、シリンダ内圧力から、特定の期間の特定高周波成分帯だけを取り出し、その振幅(kPa)の一定期間(例えば20秒)における平均値をノッキング強度として求めることができる。そして、ノッキングに伴う故障の前兆である場合には、ノッキング強度が上昇することから、判定手段3は、前兆判定運転中に、運転状態検出手段2としての圧力センサ31にて検出したシリンダ内圧力から求めたノッキング強度に基づいて、ノッキングに伴う故障の前兆を判定するように構成されている。運転状態検出手段2としての第1運転状態検出手段は、複数の燃焼室4の夫々に対応して複数備えられた圧力センサ31にて構成されており、判定手段3は、複数の圧力センサ31の夫々から求めたノッキング強度を比較して、複数の燃焼室4のどの燃焼室4においてノッキングに伴う故障の前兆であるかを判定するようにしている。
【0053】
図5に示すように、点火プラグ14の点火時期を通常運転条件(通常運転点火時期T1)とした場合には、#1〜#6の全ての燃焼室のノッキング強度が略同等となっている。したがって、通常運転条件にてエンジンを運転させる通常運転では、複数の燃焼室におけるノッキング強度を比較しても、#1の燃焼室においてノッキングに伴う故障の前兆となっていると判定することができない。
【0054】
それに対して、点火プラグ14の点火時期を前兆判定条件(前兆判定点火時期T2)とした場合には、#2〜#6の燃焼室におけるノッキング強度が略同等(7.0〔kPa〕程度)となっているが、#1の燃焼室のノッキング強度は20.0〔kPa〕程度となっている。したがって、判定手段3は、#1の燃焼室のノッキング強度が#2〜#6の燃焼室のノッキング強度よりも上昇しており他のノッキング強度との偏差が設定偏差(例えば、3.0〔kPa〕)以上であるとして、#1の燃焼室においてノッキングに伴う故障の前兆であると判定している。また、判定手段は、#1の燃焼室のノッキング強度が閾値(例えば、10.0〔kPa〕)以上となっているので、ノッキング強度と閾値とを比較することによっても、#1の燃焼室においてノッキングに伴う故障の前兆であると判定している。このようにして、通常運転条件よりもノッキングが生じ易い前兆判定条件としてエンジンを運転させる前兆判定運転を行い、その前兆判定運転中のノッキング強度に基づいて、複数の燃焼室4のどの燃焼室4においてノッキングに伴う故障の前兆であるかを判定している。
【0055】
〔第3実施形態〕
この第3実施形態も、上記第2実施形態と同様に、上記第1実施形態に対して、故障の前兆を判定する対象が異なるだけであるので、
図4及び
図6に基づいて、その点を中心に説明する。その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0056】
この第3実施形態では、
図4に示すように、エンジン1のクランク軸19(駆動軸に相当する)により駆動されて発電を行うとともに、商用電力系統101に連係可能に構成された同期発電機102(発電機)を備えている。ここで、
図4では、1つの燃焼室4のみを図示しているが、上記第1実施形態と同様に、この第3実施形態におけるエンジン1も、複数の燃焼室4を備えた多気筒式に構成されている。そして、前兆判定運転における前兆判定条件が、エンジン1を運転停止させた状態で商用電力系統101からの電力により同期発電機102を駆動させて、その同期発電機102の駆動によりエンジン1を回転駆動させる条件に設定されている。運転状態検出手段2としての第3運転状態検出手段は、同期発電機102における電流を検出する電流計32にて構成されており、判定手段3は、前兆判定運転に電流計32にて検出する電流値に基づいて、エンジン1の抵抗に伴う故障の前兆を判定するようにしている。
【0057】
上記第1実施形態で述べた如く、エンジン停止動作では、同期発電機102の発電電力を下げ、同期発電機102の発電電力がゼロ付近になった時点で遮断器103を開放状態に切り換える。その後、エンジン回転速度を一定回転速度として一定時間(例えば、3〜10分)だけエンジン1の運転を継続させた後、エンジン1を運転停止させている。ここで、通常運転条件をエンジン停止動作についての条件として設定しており、このような順序で各機器を動作させる条件を通常運転条件としている。
【0058】
この第3実施形態では、上記第1及び第2実施形態とは異なり、前兆判定運転手段30が、通常運転条件にてエンジン1を運転させる通常運転でのエンジン停止動作中に前兆判定運転を行うのではなく、エンジン停止動作において各機器を動作させる条件を変更させた前兆判定条件にてエンジン停止動作を行うことで、前兆判定運転を行うようにしている。
【0059】
前兆判定条件は、同期発電機102の発電電力を下げ、同期発電機102の発電電力がゼロ付近になった時点で、遮断器103を開放状態とせずに投入状態に維持し、エンジン1への燃料ガスの供給を停止するとともに、点火プラグ14の作動も停止させて、エンジン1を運転停止させるという条件に設定されている。このように、前兆判定条件では、遮断器103を開放状態とする順序、及び、エンジン1を運転停止させる順序を、通常運転条件とは異なる条件としている。
【0060】
判定手段3によるエンジン1の抵抗に伴う故障の前兆の判定について、
図6に基づいて説明する。
図6は、前兆判定運転を行った場合に、同期発電機102に流れる発電機電流、同期発電機102の発電電力、エンジン回転速度の夫々の変化を示している。
運転停止指令があると、前兆判定条件によるエンジン停止動作を行い、まず、同期発電機102の発電電力を下げる。そして、同期発電機102の発電電力がゼロ付近になった時点で、遮断器103を開放状態とせずに投入状態に維持し、エンジン1への燃料ガスの供給を停止するとともに、点火プラグ14の作動も停止させて、エンジン1を運転停止させる。これにより、商用電力系統101からの電力により同期発電機102がモータとなって駆動させることになり、同期発電機102の駆動によりエンジン1を強制的に一定の回転速度にて回転駆動させている。
【0061】
このとき、例えば、ピストンとライナーの間の摺動抵抗が増大している、或いは、クランク軸と軸受けの摺動抵抗が増大している等によって、エンジン1の抵抗が増大している場合には、同期発電機102に流れる発電機電流が正常値Sよりも高くなる(図中V1参照)。バルブの吹き抜け等によって、エンジン1の抵抗が減少している場合には、前兆判定運転中に同期発電機102に流れる発電機電流が正常値Sよりも低くなる(図中V2参照)。
【0062】
そこで、判定手段3は、前兆判定運転中に電流計32にて検出した電流値と適正な正常値Sとを比較することで、電流計32にて検出した電流値が正常値Sよりも高くなっている場合及び低くなっている場合の何れも、エンジン1の抵抗に伴う故障の前兆であると判定している。そして、制御装置27は、前兆判定運転手段30による前兆判定運転が終了すると、遮断器103を開放状態に切り換えている。
【0063】
〔第4実施形態〕
この第4実施形態も、上記第2及び第3実施形態と同様に、上記第1実施形態に対して、故障の前兆を判定する対象が異なるので、
図7及び
図8に基づいて、その点を中心に説明する。その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0064】
この第4実施形態では、
図7に示すように、エンジン1からの冷却水を、排熱回収設備201、放熱設備202の順に経由させてエンジン1に戻す冷却水循環手段203を備えている。ここで、図示は省略するが、上記第1実施形態と同様に、この第4実施形態におけるエンジン1も、複数の燃焼室を備えた多気筒式に構成されている。冷却水循環手段203は、エンジン1からの冷却水を、排熱回収熱交換器204、放熱熱交換器205の順に経由させてエンジン1に戻す冷却水循環路206と、その冷却水循環路206にて冷却水を循環させる冷却水循環ポンプ207とを備えている。冷却水循環路206には、エンジン1から排熱回収熱交換器204に供給される冷却水の温度を検出する第1冷却水温度センサ214と、排熱回収熱交換器204と放熱熱交換器205との間での冷却水の温度を検出する第2冷却水温度センサ215と、放熱熱交換器205をバイパスさせるバイパス路216と、そのバイパス路216への冷却水の供給量と放熱熱交換器205への冷却水の供給量とを調整自在な三方弁217と、エンジン1に戻す冷却水の温度を検出する第3冷却水温度センサ218とが備えられている。
【0065】
排熱回収設備201は、排熱回収熱交換器204にて冷却水から回収された排熱を有する熱媒体を熱利用設備208に循環供給して熱利用設備208での熱利用を行えるように構成されており、第1循環路209にて熱媒体を循環させる第1循環ポンプ210を備えている。放熱設備202は、放熱熱交換器205にて冷却水から回収された排熱を有する熱媒体を冷却設備211にて循環供給して放熱するように構成されており、第2循環路212にて熱媒体を循環させる第2循環ポンプ213を備えている。
【0066】
エンジン1が運転中で熱利用設備208での熱利用がある場合には、制御装置27が、冷却水循環ポンプ207、第1循環ポンプ210、及び、第2循環ポンプ213を作動させるとともに、第3冷却水温度センサ218の検出温度が戻り設定温度(例えば85℃)になるように、三方弁217を制御している。これにより、エンジン1の排熱が熱利用設備208にて利用されながら、放熱設備202にてエンジン1の余剰な排熱が放熱されることになる。この場合には、第3冷却水温度センサ218の検出温度が一定の戻り設定温度(例えば85℃)となり、第1冷却水温度センサ214の検出温度も一定の温度(例えば90℃)となる。
ここで、例えば、冷却設備211の冷却能力の低下等により放熱設備202での放熱量が低下して故障に至ると、放熱設備202にてエンジン1の余剰な排熱を放熱することができず、第3冷却水温度センサ218の検出温度が戻り設定温度(例えば85℃)よりも高くなり、第1冷却水温度センサ214の検出温度が上限値(例えば95℃)を越えてしまいエンジン1が停止することになる。
【0067】
そこで、この第4実施形態では、エンジン1に付随する付随設備である放熱設備202の故障の前兆を判定するようにしている。第4実施形態では、上記第1及び第2実施形態と同様に、制御装置27が、運転停止指令によりエンジン1の運転を停止させるためのエンジン停止動作を行うので、前兆判定運転手段30は、そのエンジン停止動作中にエンジン1の運転を継続させて、前兆判定運転を行うようにしている。特にエンジン負荷が高い時に、前兆判定運転による故障の前兆判定効果が出やすいので、エンジン停止動作中でもエンジン負荷の高い時の運転停止指令直後に前兆判定運転を行うことが望ましい。前兆判定運転における前兆判定条件は、通常運転条件よりも排熱回収設備201での排熱回収量を減少させる条件に設定されている。通常運転条件では、熱利用設備208での熱利用がある場合に、冷却水循環ポンプ207、第1循環ポンプ210、及び、第2循環ポンプ213の全てのポンプを作動させる条件に設定されている。前兆判定条件では、熱利用設備208での熱利用があるか否かにかかわらず、第1循環ポンプ210を作動させることなく、冷却水循環ポンプ207、及び、第2循環ポンプ213のみを作動させる条件に設定されている。このように、第1循環ポンプ210を作動させなければ、排熱回収設備201での排熱回収量がゼロとなり、第1循環ポンプ210を作動させる通常運転条件よりも、排熱回収設備201の排熱回収量が減少することになる。
【0068】
放熱設備202が故障の前兆である場合には、冷却水循環手段203にて循環される冷却水の温度が上昇することから、運転状態検出手段2としての第3運転状態検出手段は、冷却水循環手段203にて循環される冷却水の温度を検出する第1及び第3冷却水温度センサ214、218にて構成されており、判定手段3は、第1及び第3冷却水温度センサ214、218の検出温度に基づいて、放熱設備202の故障の前兆を判定するように構成されている。
【0069】
判定手段3による放熱設備202の故障の前兆の判定について、
図8に基づいて説明する。
放熱設備202が正常である場合には、
図8(a)に示すように、前兆判定運転を行うと、第2冷却水温度センサ215の検出温度t2が上昇するものの、第1冷却水温度センサ214の検出温度t1が一定の温度(例えば90℃)となり、第3冷却水温度センサ218の検出温度t3も一定の温度(例えば85℃)となる。
【0070】
それに対して、例えば、冷却設備211での冷却能力が低下しており、放熱設備202が故障の前兆である場合には、
図8(b)に示すように、前兆判定運転を行うと、第1〜第3冷却水温度センサ214、215、218の検出温度t1〜t3の全てが上昇することになる。
そこで、判定手段3は、前兆判定運転中における第1冷却水温度センサ214の検出温度t1と第3冷却水温度センサ218の検出温度t3が上昇している場合に、放熱設備202が故障の前兆であると判定している。
【0071】
〔別実施形態〕
(1)上記第1実施形態では、運転状態検出手段2としての第1運転状態検出手段を排気温度センサ29にて構成して、判定手段3が、排気温度センサ29にて検出した排気温度に基づいて、逆止弁16の異常の前兆を判定しているが、例えば、逆止弁16の異常の前兆により燃焼不良が生じると、同期発電機102の発電電力やその周波数が正常な状態とは異なるものとなることから、同期発電機102の発電電力やその周波数に基づいて、逆止弁16の異常の前兆を判定することもできる。
【0072】
(2)上記第1実施形態では、前兆判定条件を、通常運転条件よりも副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量を減少させる条件に設定しているが、例えば、通常運転条件よりも副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量を増加させる条件に設定することもできる。つまり、前兆判定条件は、副室燃料ガス通路13から副室8への燃料ガスGの供給量について通常運転条件とは異なる供給量とする条件であればよい。
【0073】
(3)上記第1実施形態では、副室8への燃料ガスGの供給量を調整する手段として、圧力調整弁33、開閉弁15を用いた例を示したが、開閉弁に代えて、流量調整弁を用いることもできる。また、副室弁として、逆止弁を用いた例を示したが、一般的なカム駆動による弁を用いることもできる。
【0074】
(4)上記第1実施形態では、前兆判定条件にて設定された副室差圧に調整するに当たり、圧力調整弁33の開度を調整するようにしているが、圧力調整弁33の開度を調整するものに限らず、新たに圧力調整弁を備えることもでき、副室差圧を調整するための構成については適宜変更が可能である。
【0075】
(5)上記第2実施形態では、通常運転条件及び前兆判定条件を、点火プラグ14の点火時期についての条件としているが、例えば、燃焼室4に供給する新気Iの燃料濃度についての条件とすることもできる。この場合には、前兆判定条件を、通常運転条件よりも燃焼室4に供給する新気Iの燃料濃度を濃い側に変更する条件とすることができる。
【0076】
(6)上記第2実施形態では、運転状態検出手段2としての第1運転状態検出手段を圧力センサ31とし、ノッキング強度を求めるに当たり、圧力センサ31にて検出したシリンダ内圧を用いるようにしているが、例えば、シリンダ内の振動を検出する振動検出センサを運転状態検出手段2(第1運転状態検出手段)とし、その振動検出センサにて検出したシリンダ内の振動を用いて、ノッキング強度を求めることもできる。
【0077】
(7)上記第1〜4実施形態では、エンジン1を多気筒式に構成した例を示したが、燃焼室4を1つ備えた単気筒式に構成することもできる。この場合、第1及び第2実施形態では、運転状態検出手段2としての排気温度センサ29や圧力センサ31を1つ備えることになるので、判定手段3が、複数の第1運転状態検出手段(排気温度29や圧力センサ31)の検出結果を比較するのではなく、1つの運転状態検出手段2(排気温度センサ29や圧力センサ31)にて検出した検出結果(排気温度センサ29の検出温度や圧力センサ31から求めたノッキング強度)と閾値とを比較することで、故障の前兆を判定するようにしている。
【0078】
(8)上記第1実施形態では、故障の前兆を判定する対象として、逆止弁16の故障の前兆の1つを判定しているだけであり、上記第2〜第4実施形態においても、故障の前兆を判定する対象を1つとしているが、例えば、上記第1実施形態と上記第2実施形態とを組み合わせることで、逆止弁16の故障の前兆だけでなく、ノッキングに伴う故障の前兆をも判定することができる。
つまり、上記第1〜第4実施形態を適宜組み合わせることで、逆止弁16の故障の前兆、ノッキングに伴う故障の前兆、エンジンの抵抗に伴う故障の前兆、放熱設備の故障の前兆のうちから判定する対象の数を適宜変更することができる。