特許第5749523号(P5749523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5749523転がり軸受装置とその製造方法およびハードディスク装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749523
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置とその製造方法およびハードディスク装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/063 20060101AFI20150625BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20150625BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20150625BHJP
   G11B 21/02 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   F16C35/063
   F16C19/06
   F16C35/067
   G11B21/02 630A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-50239(P2011-50239)
(22)【出願日】2011年3月8日
(65)【公開番号】特開2012-184835(P2012-184835A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−095129(JP,U)
【文献】 特開2010−190345(JP,A)
【文献】 特開2010−216580(JP,A)
【文献】 特開2011−134379(JP,A)
【文献】 特開2009−217928(JP,A)
【文献】 特開2002−364642(JP,A)
【文献】 特開2006−214504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/063
F16C 19/06
F16C 35/067
G11B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に間隔をあけて同軸に配列される2つの転がり軸受の各内輪内面、該内輪内面に嵌合させる第1の部材の外面、2つの前記転がり軸受の各外輪外面、および該外輪外面を嵌合させる第2の部材の嵌合孔内面の少なくとも1箇所に、半径方向に突出する凸嵌合部と、該凸嵌合部に隣接して設けられ該凸嵌合部より半径方向に凹んだ凹嵌合部とを備え、
前記凹嵌合部に、該凹嵌合部の底面よりさらに前記半径方向に凹んだ溝部が全周にわたって設けられ、
前記転がり軸受の軸方向長さの一部分に形成された前記凸嵌合部において、該転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材とを圧入状態に嵌合させるとともに、前記軸方向長さの他の部分に形成された前記凹嵌合部において、前記転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材とを両者間に接着剤を介在させて嵌合させてなる転がり軸受装置。
【請求項2】
前記凸嵌合部が、軸方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記凹嵌合部が、前記凸嵌合部間に設けられている請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記溝部が、前記凸嵌合部に隣接する位置に配置されている請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記接着剤が、主剤または副剤の一方を封入したマイクロカプセルと、主剤または副剤の他方とを混合してなる二液性接着剤であり、
前記転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材との間に形成される隙間の寸法が、前記溝部の位置において前記マイクロカプセルの外径寸法より大きい請求項1から請求項のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記接着剤が、エポキシ系接着剤である請求項から請求項のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記接着剤が、嫌気硬化成分および紫外線硬化成分を含まない接着剤である請求項から請求項のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記接着剤が、熱硬化性の接着剤であり、
前記転がり軸受、前記第1の部材および/または前記第2の部材が、該接着剤の硬化温度においても、前記凸嵌合部における圧入状態が維持される材質からなる請求項から請求項のいずれかの記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記転がり軸受の内輪の線膨張係数が、前記第1の部材の線膨張係数以下の材質からなる請求項に記載の転がり軸受装置。
【請求項9】
前記転がり軸受の外輪の線膨張係数が、前記第2の部材の線膨張係数以上の材質からなる請求項または請求項に記載の転がり軸受装置。
【請求項10】
請求項に記載の転がり軸受装置の製造方法であって、
2つの前記転がり軸受、前記第1の部材および前記第2の部材を、前記凹嵌合部に前記接着剤を塗布した状態で、治具を用いて、前記凸嵌合部によって相互に圧入状態に嵌合することにより2つの前記転がり軸受に予圧をかけた状態に組み立てる組立工程と、
該組立工程において組み立てられた前記2つの転がり軸受、前記第1の部材および前記第2の部材を含む組立体を治具から取り外した状態で加熱して前記マイクロカプセルから前記主剤または前記副剤を放出させる硬化工程とを含む転がり軸受装置の製造方法。
【請求項11】
請求項から請求項のいずれかに記載の転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の固定方法、転がり軸受装置とその製造方法およびハードディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の転がり軸受と、該転がり軸受の内輪に嵌合するシャフトと、転がり軸受の外輪を嵌合させる嵌合孔を有するスリーブとを備える転がり軸受装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この転がり軸受装置は、内輪とシャフト、外輪とスリーブとの嵌合面に嫌気性の接着剤を塗布して硬化させることにより、転がり軸受、シャフトおよびスリーブを相互に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤は一般に硬化時間が長くかかるため、転がり軸受に予圧をかけた状態で固定するには、接着剤が完全に硬化するまでの間、予圧をかける装置あるいは予圧をかけた状態に維持する治具に取り付けたままの状態に維持する必要があり、生産性が悪いという不都合がある。また、特に、嫌気性の接着剤の場合にはアウトガス成分が多いという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、接着剤からのアウトガスの放出を抑制するとともに、生産性を向上することができる転がり軸受の固定方法、転がり軸受装置とその製造方法およびハードディスク装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軸方向に間隔をあけて同軸に配列される2つの転がり軸受の各内輪内面、該内輪内面に嵌合させる第1の部材の外面、2つの前記転がり軸受の各外輪外面、および該外輪外面を嵌合させる第2の部材の嵌合孔内面の少なくとも1箇所に、半径方向に突出する凸嵌合部と、該凸嵌合部に隣接して設けられ該凸嵌合部より半径方向に凹んだ凹嵌合部とを備え、前記凹嵌合部には該凹嵌合部の底面よりさらに前記半径方向に凹んだ溝部が全周にわたって設けられ、前記転がり軸受の軸方向長さの一部分に形成された前記凸嵌合部において、該転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材とを圧入状態に嵌合させるとともに、前記軸方向長さの他の部分に形成された前記凹嵌合部において、前記転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材とを両者間に接着剤を介在させて嵌合させてなる転がり軸受装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、2つの転がり軸受の内輪内面、外輪外面、第1の部材の外面、第2の部材の嵌合孔内面の少なくとも1カ所に設けられた凹嵌合部に接着剤を塗布し、該凹嵌合部に隣接する凸嵌合部によって転がり軸受と第1の部材および/または第2の部材とを圧入状態に嵌合させることにより、転がり軸受の内輪または外輪軸方向全長にわたって圧入状態に嵌合させる場合と比較して、転がり軸受の内輪および/または外輪に作用する応力を低減し、内輪および/または外輪の変形を抑制することができる。その結果、トルク変動や共振周波数の変動を低減することができる。
【0011】
そして、凹嵌合部においては接着剤によって転がり軸受と第1の部材および/または第2の部材とを接着することにより、圧入部分の摩擦力と、接着部分の接着力との合計によって軸方向全長にわたって圧入状態に嵌合させる場合と同等の実用的な抜き力を確保することができる。これにより、間隔をあけて同軸に配列される2つの転がり軸受にかけた予圧が抜けてしまうことを防止することができる。
また、転がり軸受と第1の部材および/または第2の部材とを嵌合させる際に、凹嵌合部に塗布された接着剤が嵌合の相手によって拭われても、溝部に収容することで、凹嵌合部内から完全に拭い落とされてしまうことを防止できる。
【0012】
また、軸方向長さの全長にわたって接着剤により接着する場合と比較して、接着剤の量を低減するとともに、圧入部分によってアウトガスの流路を遮断することにより、アウトガスの放出を抑制することができる。これにより、例えば、磁気記憶装置のスイングアーム用のピボットに使用した場合においても、アウトガスの放出による磁気記憶媒体の損傷を防止して、長期間にわたり高い信頼性を維持することができる。
【0013】
上記発明においては、前記凸嵌合部が、軸方向に間隔をあけて複数設けられ、前記凹嵌合部が、前記凸嵌合部間に設けられていてもよい。
このようにすることで、凹嵌合部を凸嵌合部によって挟むので、凹嵌合部に塗布された接着剤が凸嵌合部間に封入され、アウトガスの放出をより確実に防止することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記凹嵌合部に、該凹嵌合部の底面よりさらに前記半径方向に凹んだ溝部が全周にわたって設けられていてもよい。
このようにすることで、転がり軸受と第1の部材および/または第2の部材とを嵌合させる際に、凹嵌合部に塗布された接着剤が嵌合の相手によって拭われても、溝部に収容することで、凹嵌合部内から完全に拭い落とされてしまうことを防止できる。
【0015】
また、上記発明においては、前記溝部が、前記凸嵌合部に隣接する位置に配置されていてもよい。
このようにすることで、溝部に収容された接着剤は、凹嵌合部内の他の部分の接着剤より厚くなるので、接着剤が硬化する際の収縮により発生する転がり軸受の内輪または外輪の変形を、圧入されている凸嵌合部によって抑制することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記接着剤が、主剤または副剤の一方を封入したマイクロカプセルと、主剤または副剤の他方とを混合してなる二液性接着剤であり、前記転がり軸受と前記第1の部材および/または前記第2の部材との間に形成される隙間の寸法が、前記溝部の位置において前記マイクロカプセルの外径寸法より大きいこととしてもよい。
【0017】
このようにすることで、転がり軸受と第1の部材および/または第2の部材とを嵌合させる際に、凹嵌合部に塗布された接着剤内部のマイクロカプセルが嵌合の相手によって拭われても、マイクロカプセルを溝部に収容することで、凹嵌合部内から完全に拭い落とされてしまうことを防止できる。
【0018】
また、上記発明においては、前記接着剤が、エポキシ系接着剤であってもよい。
このようにすることで、アウトガスの放出量が少なく、硬化時の収縮の小さいエポキシ系接着剤によって、アウトガスによる不具合の発生を防止でき、かつ、トルク変動を低減することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記接着剤が、嫌気成分およびUV成分を含まない接着剤であってもよい。
このようにすることで、嫌気硬化成分および紫外線硬化成分を含まず、一般に硬化時間の長い接着剤を利用しても、凸嵌合部の嵌合によって2つの転がり軸受に予圧をかけた状態に維持するので、予圧をかけるための治具から取り外した状態で、時間をかけて硬化させることができる。嫌気硬化成分および紫外線硬化成分を含まないので、アウトガスの放出量を抑えることができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記接着剤が、熱硬化性の接着剤であり、前記転がり軸受、前記第1の部材および/または前記第2の部材が、該接着剤の硬化温度においても、前記凸嵌合部における圧入状態が維持される材質からなっていてもよい。
このようにすることで、接着剤を硬化させるための加熱工程の際に、温度変化によって圧入の締め代が変化しても、圧入状態が維持されるので、製造過程における予圧抜けを防止することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記転がり軸受の内輪の線膨張係数が、前記第1の部材の線膨張係数以下の材質からなっていてもよい。また、前記転がり軸受の外輪の線膨張係数が、前記第2の部材の線膨張係数以上の材質からなっていてもよい。
このようにすることで、半径方向外側に配される部材の膨張を内側に配される部材の膨張以下に抑えて、圧入の締め代の低下抑制することができる。
【0022】
また、本発明は、2つの前記転がり軸受、前記第1の部材および前記第2の部材を、前記凹嵌合部に前記接着剤を塗布した状態で、治具を用いて、前記凸嵌合部によって相互に圧入状態に嵌合することにより2つの前記転がり軸受に予圧をかけた状態に組み立てる組立工程と、該組立工程において組み立てられた前記2つの転がり軸受、前記第1の部材および前記第2の部材を含む組立体を治具から取り外した状態で加熱して前記マイクロカプセルから前記主剤または前記副剤を放出させる硬化工程とを含む転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0023】
本発明によれば、組立工程において、マイクロカプセルを含む接着剤を凹嵌合部に塗布して、2つの転がり軸受の内輪内面と第1の部材の外面とを嵌合させ、転がり軸受の外輪外面と第2の部材の嵌合孔内面とを嵌合させることにより、2つの転がり軸受を軸方向に間隔をあけて同軸に配列して組み立てる際に、治具を用いて内輪側あるいは外輪側を相互に軸方向に近接させるように予圧をかけると、凸嵌合部が圧入状態に嵌合させられるので、治具から取り外しても予圧がかけられた状態に維持された組立体が製造される。
【0024】
そして、硬化工程において、組立体を加熱することにより、熱によりマイクロカプセルが砕かれて内部の主剤または副剤が放出され、凹嵌合部内の接着剤が硬化する。これにより、転がり軸受の内輪または外輪と第1の部材または第2の部材とが堅固に固定される。この場合に、硬化工程においては、組立体を治具から取り外して加熱するので、加熱をバッチ処理やインライン処理によって行うことができるとともに、複数個まとめて処理することができ、生産性を向上することができる。
【0025】
また、本発明は、上記いずれかの転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置を提供する。
本発明によれば、内輪および/または外輪の変形を抑制することで、トルクの変動を抑えて記憶媒体の読み書きの安定化を図ることができる。また、圧入部分によってアウトガスの流路を遮断することにより、アウトガスの放出を抑制し、記憶媒体の劣化を防止して読み書きの安定化を図ることができる。さらに、共振周波数を安定化させて、読み書きを安定化させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、接着剤からのアウトガスの放出を抑制するとともに、生産性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置を示す縦断面図である。
図2図1の転がり軸受装置を示す分解縦断面図である。
図3図1の転がり軸受装置の一方の転がり軸受とシャフトとの組立を説明する(a)組立前、(b)組立後の縦断面図である。
図4図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受とスリーブとの組立を説明する(a)組立前、(b)組立後の縦断面図である。
図5図3により組み立てられたサブ組立体と図4により組み立てられたサブ組立体との組立を説明する縦断面図である。
図6図1の転がり軸受装置の第1の変形例を示す縦断面図である。
図7図1の転がり軸受装置の第2の変形例を示す縦断面図である。
図8図1の転がり軸受装置の嵌合部の変形例を示す部分的な縦断面図である。
図9図1の転がり軸受装置の変形例であって、スリーブを有しない転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態に係る転がり軸受の固定方法、転がり軸受装置1とその製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置1は、図1および図2に示されるように、円環状の内輪2と外輪3との間に複数個のボール4を配置した2つの転がり軸受5A,5Bと、これら2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aに嵌合させるシャフト(第1の部材)6と、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有するスリーブ(第2の部材)8とを備えている。
【0029】
シャフト6は、図2に示されるように、そのほぼ全長にわたって、転がり軸受5A,5Bの内輪2の内径より若干小さい第1の外径寸法d1の外周面を有する略円柱状の部材である。シャフト6には、2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aを嵌合させる2カ所の嵌合部9,10と、一方の転がり軸受5Aの端面を突き当てる突き当て面11とが設けられている。
【0030】
突き当て面11に近接する一方の嵌合部9には、シャフト6の外周面の一部を、全周にわたって半径方向内方に凹ませた2本の周溝9aが形成されている。
また、他方の嵌合部10は、一方の嵌合部9に対して軸方向に間隔をあけて配置されている。
【0031】
この他方の嵌合部10には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた2本の突条(凸嵌合部)10aが軸方向に間隔をあけて設けられている。これらの突条10aの間隔は、転がり軸受5Bの内輪2内面2aの軸方向長さより短く設定されている。
【0032】
突条10aの最外径寸法は、転がり軸受5Bの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外径寸法d2に設定されている。これにより、突条10aを転がり軸受5Bの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合させられるようになっている。
【0033】
2つの突条10aの間には、該突条10aの最外径より全周にわたって半径方向内方に凹んだ第1の外径寸法d3の底面を有する凹部(凹嵌合部)10bが設けられている。また、凹部10bには、該凹部10bの底面から更に一段半径方向内方に凹んだ周溝10cが設けられている。
【0034】
周溝10cは、一方の突条10aに隣接する位置に設けられている。また、周溝10cは、後述する接着剤12に含まれているマイクロカプセルの外径寸法より大きな深さを有している。
各嵌合部9,10には、接着剤12が塗布されている。接着剤12は、例えば、副剤を封入したマイクロカプセル(図示略)を主剤に混合した二液性のエポキシ系接着剤である。マイクロカプセルは所定温度以上に加熱することにより砕けて内部の副剤を放出し、放出された副剤が主剤と混合されることにより、接着剤12を硬化させるようになっている。
【0035】
そして、シャフト6の端部から挿入された一方の転がり軸受5Aの内輪2は、図1に示されるように、突き当て面11に突き当たる位置まで挿入され、その位置で、一方の嵌合部9に嵌合されている。嵌合部9に塗布された接着剤12は嵌合部9に設けられた周溝9a内に満たされており、硬化することによってシャフト6と転がり軸受5Aの内輪2とを固着している。
【0036】
また、シャフト6の端部から挿入された他方の転がり軸受5Bの内輪2は、図1に示されるように、2つの突条10aに掛け渡されるようにして該突条10aに圧入状態に嵌合されている。2つの突条10aの間に配置される凹部10cに塗布された接着剤12は凹部10cのほぼ全体に満たされた状態で硬化させられており、シャフト6と転がり軸受5Bの内輪2とを固着している。
【0037】
スリーブ8は、内面に転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有する略円筒状の部材である。嵌合孔7の内面には、スリーブ8の軸方向の略中央位置に配置された転がり軸受5A,5Bの外輪3外径3aより十分に小さい内径寸法を有する段部13と、該段部13を挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる2カ所の嵌合部14,15とが設けられている。
【0038】
段部13の軸方向の両端面は、両嵌合部14,15に嵌合された2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3の端面をそれぞれ突き当てる突き当て面13aを構成している。
各嵌合部14,15は、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干大きな第1の内径寸法の底面を有する凹部(凹嵌合部)14a,15aと、該凹部14a,15aを挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さい第2の内径寸法を有する2つの突条(凸嵌合部)14b,15bとをそれぞれ備えている。
【0039】
各嵌合部14,15のそれぞれの2つの突条14b,15bは、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの軸方向長さより短い間隔をあけて配置されている。各凹部14a,15aには、該凹部14a,15aの底面から更に一段半径方向外方に凹んだ周溝14c,15cが設けられている。この周溝14c,15cも、一方の突条14b,15bに隣接する位置に設けられ、接着剤12に含まれているマイクロカプセルの外径寸法より大きな深さを有している。
各嵌合部14,15には、上記と同様の接着剤12が塗布されている。
【0040】
スリーブ8の軸方向の両端から嵌合孔7内に挿入された2つの転がり軸受5A,5Bの各外輪3は、各嵌合部14,15のそれぞれ2つの突条14b,15bに掛け渡されるようにして圧入状態に嵌合されている。2つの突条14b.15bの間に配置される凹部14a,15aに塗布された接着剤12は凹部14a,15aのほぼ全体に満たされた状態で硬化させられており、スリーブ8と転がり軸受5A,5Bの外輪3とを固着している。
【0041】
すなわち、本実施形態に係る転がり軸受5A,5Bの固定方法は、図1に示される一方の転がり軸受5Bの内輪2とシャフト6との嵌合部10、および両方の転がり軸受5A,5Bの外輪3とスリーブ8との嵌合部14,15における固定方法である。具体的には、この固定方法は、内輪2または外輪3の軸方向長さの一部分において半径方向に突出する突条10a,14b,15bを内輪2内面2aまたは外輪3外面3aと圧入状態に嵌合させるとともに、内輪2または外輪3の軸方向長さの他の部分において突条10a,14b,15bより半径方向に凹む凹部10b,14a,15aにおいては内輪2内面2aまたは外輪3外面3aと半径方向に隙間をあけて嵌合させ、凹部10b,14a,15aに塗布した接着剤12により接着するものである。
【0042】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法は、2つの転がり軸受5A,5Bとシャフト6とスリーブ8とを組み立てる組立工程と、該組立工程により組み立てられた組立体を加熱して接着剤12を硬化させる硬化工程とを含んでいる。
【0043】
組立工程は、まず、図3(a)に示されるように、シャフト6の突き当て面11側の周溝9aに接着剤12を塗布し、一方の転がり軸受5Aの内輪2をシャフト6の先端側から嵌合させていく。転がり軸受5Aが先端側の嵌合部10を通過し、内輪2が突き当て面11に突き当たるまで挿入すると、図3(b)に示されるように、嵌合部9において内輪2がシャフト6の外面と隙間をあけて嵌合されるとともに、その隙間に接着剤12が広がって満たされる。
【0044】
次に、図4(a)に示されるように、スリーブ8の一方の嵌合部15の凹部15aに接着剤12を塗布し、該一方の凹部15aが配されている嵌合部15側の端部から他方の転がり軸受5Bの外輪3をスリーブ8の嵌合孔7に嵌合させていく。転がり軸受5Bの外輪3の外径は、嵌合部15の突条15bの内径より大きいので、外輪3は突条15bによって半径方向内方に圧縮されながら挿入される。
【0045】
この際に、凹部15a内に塗布されている接着剤12は、転がり軸受5Bの外輪3によって拭われるようにして軸方向に押し広げられ、凹部15aに設けられている周溝15cを含む凹部15aのほぼ全体を満たすようになる。そして、図4(b)に示されるように、転がり軸受5Bの外輪3が、嵌合部15の2つの突条15bに掛け渡されるように嵌合されると、2つの突条15bの間の凹部15aと外輪3外面3aとで囲まれた空間が密閉され、その内部に接着剤12がほぼ満たされる。
【0046】
最後に、図3(b)のサブ組立体と、図4(b)のサブ組立体とを組み付ける。図5に示されるように、スリーブ8の他方の凹部14aおよびシャフト6の先端側の嵌合部10の凹部10bに接着剤12を塗布し、矢印の位置に治具により押圧力を作用させて転がり軸受5Bの内輪2内面2aとシャフト6の嵌合部10との嵌合および転がり軸受5Aの外輪3外面3aとスリーブ8の嵌合孔7の嵌合部14との嵌合を同時に行う。
【0047】
これにより、転がり軸受5Bの内輪2内面2aがシャフト6の嵌合部10に設けられた2つの突条10aの外面に掛け渡されるようにして、圧入状態に嵌合されるとともに、突条10a間に塗布されていた接着剤12が引き延ばされて突条10a間の凹部10bと内輪2内面2aとで囲まれた空間が密閉され、その内部に接着剤12がほぼ満たされる。同時に、転がり軸受5Aの外輪3外面3aがスリーブ8の嵌合孔7内面に設けられた2つの突条15bの内面に掛け渡されるようにして、圧入状態に嵌合されるとともに、突条15b間に塗布されていた接着剤12が引き延ばされて突条15b間の凹部15aと外輪3外面3aとで囲まれた空間が密閉され、その内部に接着剤12がほぼ満たされる。
【0048】
この状態で、図示しない治具により2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2どうしを近接させる方向に押圧して、転がり軸受5A,5Bに予圧をかける。これにより、図1に示されるような転がり軸受装置1の組立体が製造される。
【0049】
この後に、硬化工程において、組立体を加熱することにより、接着剤12内に混合されているマイクロカプセルを熱により砕いて、主剤内に副剤を放出させる。これにより、接着剤12の硬化が開始され、転がり軸受5A,5Bの内輪2とシャフト6および外輪3とスリーブ8とが接着剤12により固着され、転がり軸受装置1が製造される。
【0050】
このようにして製造された本実施形態に係る転がり軸受5A,5Bの固定方法および転がり軸受装置1によれば、2つの転がり軸受5A,5Bとシャフト6およびスリーブ8とを、内輪2および外輪3の軸方向長さの一部において圧入状態に嵌合し、かつ、残りの部分において接着剤12により固着するので、以下の効果を奏する。
【0051】
すなわち、まず第1に、内輪2および外輪3の軸方向長さの全長にわたって圧入状態に嵌合する場合と比較すると、内輪2および外輪3がシャフト6やスリーブ8から半径方向に受ける押圧力が低減され、内輪2および外輪3の変形を抑制することができる。これにより、シャフト6とスリーブ8とが相対的に回転する際におけるトルクの変動を抑制することができるという利点がある。
【0052】
第2に、内輪2および外輪3の軸方向長さの全長にわたって接着剤12により固着する場合と比較すると、接着剤12の量を低減することができる。その結果、接着剤12から放出されるアウトガスの量を抑制することができる。特に、本実施形態においては、接着剤12が塗布される凹部10b,14a,15aの軸方向の両側を転がり軸受5A,5Bの内輪2または外輪3に圧入状態に密着させられる突状10a,14b,15bによって挟まれているので、接着剤12が塗布された凹部10b,14a,15aの空間が2つの突条10a,14b,15bによって密閉され、アウトガスの放出をさらに抑制することができるという利点がある。
【0053】
第3に、凹部10b,14a,15a内に、一段深く形成された周溝10c,14c,15cが設けられているので、凹部10b,14a,15aに塗布された接着剤12を周溝10c,14c,15cに溜めることができ、全周にわたって均等な接着力で転がり軸受5A,5Bの内輪2および外輪3とシャフト6またはスリーブ8とを固着することができる。その結果、シャフト6とスリーブ8とが相対的に回転する際におけるトルクの変動を抑制することができるという利点がある。
【0054】
すなわち、内輪2内面2aとシャフト6の嵌合部10あるいは外輪3外面3aとスリーブ8の嵌合孔7内の嵌合部14,15とを嵌合させる際に、両者の隙間が小さい部分においては、塗布された接着剤12が拭われてしまう虞がある。特に、副剤を封入したマイクロカプセルを含む接着剤12では、隙間の小さい部分からマイクロカプセルが押し出されてしまうこととなるが、本実施形態によれば、マイクロカプセルの外径寸法より深い周溝10c,14c,15cにマイクロカプセルを残留させることができる。その結果、加熱によりマイクロカプセルから放出された副剤は、毛管現象によって隙間の小さい部分にも浸透し、凹部10b,14a,15a内全体の接着剤12を確実に硬化させることができるという利点がある。
【0055】
また、深さ寸法の大きな周溝10c,14c,15cにおいては、接着剤12が厚くなるため、硬化の際の収縮により内輪2または外輪3に作用する半径方向の力が大きくなるが、本実施形態においては、周溝10c,14c,15cを突条10a,14b,15bに隣接させているので、収縮による大きな力が内輪2または外輪3に作用しても、内輪2または外輪3が、その力の近傍において突条10a,14b,15bによって半径方向に支持される。その結果、内輪2および外輪3の変形を抑制することができ、トルク変動を抑制できるという利点がある。
【0056】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法によれば、2つの転がり軸受5A,5Bとシャフト6およびスリーブ8とを、内輪2および外輪3の軸方向長さの一部において圧入状態に嵌合し、かつ、残りの部分において接着剤12により固着するので、治具によって2つの転がり軸受5A,5Bに予圧をかけたとき、圧入部分の摩擦力のみによって一時的に予圧のかかった状態を維持することができる。したがって、接着剤が硬化するまで治具によって予圧をかけて保持する必要がないため、転がり軸受装置1の保管や搬送が容易となり、工程の自由度が増して製造の効率化を図ることができる。
【0057】
その結果、治具から早期に取り外すため、速乾性の接着剤12を使用する必要がないので、アウトガスの放出の少ないエポキシ系接着剤の他、嫌気硬化成分や紫外線硬化成分を含まない接着剤12を使用することができる。また、圧入部分の摩擦力のみによって一時的に予圧のかかった状態に維持されるので、予圧をかける治具から外した状態で、接着剤12を硬化させるための硬化工程にかけることができる。すなわち、硬化工程をバッチ処理やインライン処理で行うことができ、また、複数個の転がり軸受装置1の組立体をまとめて加熱することができ、生産性を向上することができるという利点がある。
【0058】
なお、本実施形態においては、2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2および外輪3の3箇所において、本実施形態に係る固定方法を採用したが、これに限定されるものではなく、図6に示されるように、1箇所の嵌合部10において本実施形態に係る固定方法により内輪2とシャフト6とを固定してもよい。この場合、他の嵌合部9,14,15は、接着剤12のみ、圧入のみあるいは隙間嵌めのみにより嵌合させることにすればよい。
【0059】
また、外輪3側に予圧をかける場合には、図7に示されるように外輪3とスリーブ8の嵌合部15のみに本実施形態に係る固定方法を採用してもよい。この場合、他の嵌合部9,10,14は、接着剤12のみ、圧入のみあるいは隙間嵌めのみにより嵌合させることにすればよい。また、いずれか2箇所あるいは4箇所全てにおいて本実施形態に係る固定方法を採用してもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、圧入状態に嵌合させるための突条10a,14b,15bを各内輪2あるいは各外輪3に対して2箇所に設けたが、1箇所以上の任意の数だけ設けてもよい。
また、図8(a)〜(e)に示されるように、各内輪2あるいは各外輪3に対する突条10a,14b,15bおよび凹部10b,14a,15aの軸方向の位置は任意に選択することができる。
また、凹部10b,14a,15a内に周溝10c,14c,15cを設けたが、マイクロカプセルを含まない接着剤12の場合あるいは凹部10b,14a,15aと突条10a,14b,15bとの段差を十分に確保できる場合には周溝10c,14c,15cはなくてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態においては、シャフト6およびスリーブ8に突条10a,14b,15bおよび凹部10b,14a,15aを設けることとしたが、これに代えて、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aおよび/または内輪2内面2aに突条10a,14b,15bおよび凹部10b,14a,15aを設けることにしてもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、2つの転がり軸受5A,5Bと、シャフト6と、スリーブ8とを有する転がり軸受装置1を例示したが、これに代えて、図9に示されるように、シャフト6によって2つの転がり軸受5A,5Bを支持した転がり軸受装置20を採用してもよい。図9に示される例では、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3どうしの間に円筒状の間隔部材21を挟むことにより、内輪2側に予圧をかけることを可能にしている。これに代えて、スリーブ8のみによって2つの転がり軸受5A,5Bを支持し、内輪2間に間隔部材21を挟んだ転がり軸受装置(図示略)を採用してもよい。
【0063】
また、本実施形態においては、アウトガスの放出の少ないエポキシ系接着剤等を使用することとしたが、これに代えて、嫌気硬化成分や紫外線硬化成分を含む接着剤を使用してもよい。圧入状態に密着させられる突状10a,14b,15bによって挟まれた空間に接着剤12が塗布されるので、突条10a,14b,15bによってアウトガスの経路が遮断されるので、嫌気硬化成分や紫外線硬化成分を含む接着剤を使用しても、アウトガスによる不都合の発生を防止することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1は、ハードディスク装置(図示略)のスイングアームを支持するために使用することが好ましい。上述したように、アウトガスの放出を低減し、トルクの変動を抑制し、また変形による共振周波数の変動を抑制するので、記憶媒体のアウトガスによる劣化を防止し、スイングアームの位置決め動作を安定化させることができ、安定したデータの読み書きを行うことができる。
【0065】
また、本実施形態においては、転がり軸受5A,5Bの内輪2および外輪3として、マルテンサイト系ステンレス鋼(例えば、SUS440C等)を用い、シャフト6およびスリーブ8としてフェライト系ステンレス鋼(例えば、SUS430)を用いることが好ましい。このようにすることで、両材質が同等の線膨張係数(10.4×10―6/℃)を有するため、接着剤を硬化させる際の硬化温度において圧入が弛むことを防止することができる。
【0066】
なお、シャフト6と転がり軸受5A,5Bの内輪2とだけを圧入状態に嵌合させる場合には、内輪2の材質としてマルテンサイト系ステンレス鋼、シャフト6の材質としてオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS303:線膨張係数17.3×10-6/℃)を採用することにしてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1,20 転がり軸受装置
2 内輪
2a 内面
3 外輪
3a 外面
5A,5B 転がり軸受
6 シャフト(第1の部材)
7 嵌合孔
8 スリーブ(第2の部材)
10a,14b,15b 突条(凸嵌合部)
10b,14a,15a 凹部(凹嵌合部)
10c,14c,15c 周溝(溝部)
12 接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9