特許第5749639号(P5749639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749639
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】固定子
(51)【国際特許分類】
   H02K 37/14 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   H02K37/14 C
   H02K37/14 X
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-273260(P2011-273260)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-126290(P2013-126290A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中武 耕二
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】張 弘
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−130842(JP,A)
【文献】 特開2009−232538(JP,A)
【文献】 特開2003−259591(JP,A)
【文献】 特開2008−113529(JP,A)
【文献】 特開2003−199267(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0064936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成される環状部と、前記環状部から内方向に突設されて電線が巻回される複数のティース巻回部と、前記ティース巻回部の内方向に形成されるティース先端部と、を有し、電動機の回転軸に対応する方向に複数の鋼板を積層して形成される固定子であって、
前記ティース巻回部は、前記鋼板の積層方向の端部において厚さが端部に向かって徐々に減少するように形状の異なる複数の鋼板を積層して形成され、
前記環状部およびティース先端部は、前記ティース巻回部よりも前記鋼板の積層方向へ突出するように複数の鋼板を積層して形成される突出部を有し、
前記突出部は、
前記環状部側に設けられ、前記鋼板の積層方向の端部に向かって厚さが徐々に減少するように形状の異なる複数の外側鋼板を積層して形成された外側突出部と、
前記ティース先端部側に設けられ、前記鋼板の積層方向の端部に向かって厚さが徐々に減少するように形状の異なる複数の内側鋼板を積層して形成された内側突出部と、を備えたことを特徴とする固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に用いられる固定子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機に用いられる固定子は、通常、複数の鋼板を積層して形成されており、電線を巻回するためのティースを有している。電線は、固定子との間で絶縁が保たれる必要があるため、例えば特許文献1に記載の固定子は、電線が直接的に接触しないように、電線と接する部分に樹脂製の絶縁部材が被せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−279241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固定子に絶縁部材を取り付けるためには、固定子のティース部分に対応する形状の樹脂製の絶縁部材を作製して被せるための工程が必要となり、作業に時間が掛かる。また、絶縁部材が設けられることで電線を巻回する領域が狭く限定され、巻線効率が低下する。また、固定子と電線の間に絶縁部材が設けられることで、電流が流れて発熱する電線から固定子へ熱が伝わり難くなり、放熱性が低下する。
【0005】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、別途の絶縁部材を設けることなしに絶縁性能および耐圧性能の低下を抑制しつつ、作業時間を短縮でき、巻線効率を向上し、かつ放熱性をも向上できる固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する固定子は、環状に形成される環状部と、前記環状部から内方向に突設されて電線が巻回される複数のティース巻回部と、前記ティース巻回部の内方向に形成されるティース先端部と、を有し、電動機の回転軸に対応する方向に複数の鋼板を積層して形成される固定子であって、前記ティース巻回部は、前記鋼板の積層方向の端部において厚さが端部に向かって徐々に減少するように形状の異なる複数の鋼板を積層して形成され、前記環状部およびティース先端部は、前記ティース巻回部よりも前記鋼板の積層方向へ突出するように複数の鋼板を積層して形成される突出部を有し、前記突出部は、前記環状部側に設けられ、前記鋼板の積層方向の端部に向かって厚さが徐々に減少するように形状の異なる複数の外側鋼板を積層して形成された外側突出部と、前記ティース先端部側に設けられ、前記鋼板の積層方向の端部に向かって厚さが徐々に減少するように形状の異なる複数の内側鋼板を積層して形成された内側突出部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した固定子は、ティース巻回部が、積層方向の端部において厚さが端部に向かって徐々に減少するように形状の異なる複数の鋼板を積層して形成されているため、電線が巻回される部位に角部が形成されず、若しくは角部の程度が低減されて電線が角部に食い込むことが抑制されるため、別途の絶縁部材を設けずとも電線および固定子における絶縁性能および耐圧性能の低下を抑制できる。したがって、別途の絶縁部材を設けないことで、電線を収容する領域を最大限に確保して巻線効率を向上させることが可能となる。また、電線を固定子に密着させることができるため、放熱性を向上させることができる。また、固定子に別途の絶縁部材を被せる必要がなくなり、作業性が向上して生産の高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る固定子を示す平面図である。
図2】固定子のティース部の1つを示す拡大平面図である。
図3】固定子に電線を巻回した際の図1のA−A線に沿う断面図である。
図4】固定子に電線を巻回した際の図1のB−B線に沿う断面図である。
図5】固定子を構成する鋼板の1つを示す平面図である。
図6】固定子を構成する鋼板の1つを示す平面図である。
図7】固定子を構成する内側鋼板および外側鋼板の1つを示す平面図である。
図8】固定子を構成する内側鋼板および外側鋼板の1つを示す平面図である。
図9】変形例である固定子に電線を巻回した際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
本実施形態に係る固定子1は、複数の鋼板を積層し、鋼板同士を接着剤やカシメ加工等により固定することで形成されており、図1,2に示すように、環状のヨーク部10(環状部)と、ヨーク部10から内方向へ突設される複数のティース部20とを備えている。なお、本明細書において、環状のヨーク部10の径内側方向を“内方向”、径外側方向を“外方向”、ヨーク部10が環状に延びる方向(複数のティース部20が並ぶ方向)を“周方向”、鋼板を積層している方向(電動機の回転軸に対応する方向)を“積層方向”と称する。
【0011】
ティース部20は、電線30を巻回する部位であり、複数が周方向に並んで設けられる。各々のティース部20の間には、ティース部20に巻回される電線30を収容するための隙間であるスロット40が形成される。
【0012】
各々のティース部20は、実際に電線30が巻回されるティース巻回部21と、ティース巻回部21の内方向側に形成されるティース先端部22と、を備えている。ティース先端部22は、ティース巻回部21から隣接する他のティース部20に向かって両方向へ伸びて形成されている。ティース先端部22の内方向側には、電動機を構成した際に回転子(不図示)と対面する円弧状のギャップ面23が形成されている。
【0013】
ティース巻回部21は、図3に示すように、積層方向の端部において、周方向の厚さが端部に向かって徐々に減少して形成されている。ティース巻回部21の形状は、積層方向の中央部の一定の範囲に積層される同一形状の複数の鋼板Sと、鋼板Sよりも積層方向の端部側(図3では上側)に設けられて、ティース巻回部21における周方向の厚さが徐々に小さくなる複数の鋼板S〜Sとによって構成される。図5は鋼板Sを示し、図6は鋼板Sを示している。ティース巻回部21における周方向の厚さが徐々に小さくなる複数の鋼板S〜Sを積層することで、ティース巻回部21は、積層方向の端部が曲面部23で形成される。なお、図3では、積層方向の一方側(図3における上側)の端部のみを示しているが、他方側は面対象の構造を有しており、重複を避けるために説明を省略する。
【0014】
また、ティース先端部22、ティース巻回部21およびヨーク部10は、図4に示すように、内外方向(径方向)の断面において、積層方向の端部に向かって徐々に広がる凹形状の保持部24が形成される。保持部24の凹形状は、滑らかな曲面であることが好ましい。保持部24の形状は、ティース先端部22側に設けられて保持部24の最深部25から積層方向に突出する内側突出部26(突出部)と、ヨーク部10側に設けられて保持部24の最深部25から積層方向に突出する外側突出部27(突出部)とにより形成される。内側突出部26は、内外方向の厚さが積層方向端部に向かって徐々に減少する内側鋼板Tm+1〜Tを積層することで形成される。外側突出部27は、内外方向の厚さが積層方向端部に向かって徐々に減少する外側鋼板Um+1〜Uを積層することで形成される。図7は、保持部24の最深部25を形成する鋼板Sに重なる内側鋼板Tm+1および外側鋼板Um+1を示し、図8は、最端部に配置される内側鋼板Tおよび外側鋼板Uを示している。
【0015】
本実施形態に係る固定子1は、ティース巻回部21が、鋼板の積層方向の端部において厚さが端部に向かって徐々に減少するように形状の異なる複数の鋼板S〜Sを積層して形成されている。このため、電線30が巻回される部位に角部が形成されず、若しくは角部の程度が低減されて、電線30が角部に食い込むことが抑制され、電線30および固定子1における絶縁性能および耐圧性能の低下を抑制できる。このため、別途の絶縁部材をティース部20に被せる必要がなくなり、電線30を収容する領域を最大限に確保して巻線効率を向上させることが可能となって、電動機の小型化や高出力化を実現できる。また、別途の絶縁部材が不要であるため、電線30が固定子1に密着することで放熱性を向上させることができる。また、固定子1に別途の絶縁部材を被せる必要がなくなることで、作業性が向上して生産の高速化を図ることができる。
【0016】
また、固定子1の形状が変更されると、絶縁部材の形状も変更する必要が生じ、固定子1の種類に応じて異なる部材が必要となるが、固定子1に別途の絶縁部材を被せる必要がなくなることで、複数の形状の絶縁部材を準備する必要がなくなり、部品点数を削減してコストを低減できる。
【0017】
また、固定子1に別途の絶縁部材を被せる場合、絶縁部材の厚みによってスロット40の隙間が狭くなり、電線30をティース部20に巻くために使用されるノズルも細くなり、ノズルに通す電線30の径が小さいものに限定されて、電線30の径の選択幅が狭くなる。しかしながら、本実施形態のように、固定子1に別途の絶縁部材を被せる必要がなくなることで、より大径のノズルをも使用することが可能となって電線30の径の選択幅が広がり、例えば大電流を流すことが可能な太い電線30を巻くことも可能となる。
【0018】
また、ヨーク部10およびティース先端部22が、ティース巻回部21よりも鋼板の積層方向へ突出するように複数の鋼板Tm+1〜T、外側鋼板Um+1〜Uを積層して形成される内側突出部26および外側突出部27を有しているため、別途の部材を設けることなしに固定子1の構造自体によって、巻回された電線30を、巻回した位置からこぼれることなしに良好に保持することができる。
【0019】
また、内側突出部26および外側突出部27が、鋼板の積層方向の端部に向かって厚さが徐々に減少するように形成されているため、内側突出部26および外側突出部27の傾斜した面で電線30を保持することができ、電線30および固定子1における絶縁性能および耐圧性能の低下を抑制できる。
【0020】
また、内側突出部26および外側突出部27に用いられる鋼板が、ヨーク部10に設けられる外側鋼板Um+1〜Uと、ティース先端部22に設けられる内側鋼板Tm+1〜Tとを備えているため、ティース巻回部21を挟む2つの突出部26,27を、鋼板の積層によって容易に形成することができる。
【0021】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、図9に示す変形例としての固定子101のように、互いに固定された鋼板の外面に、絶縁層102を被覆してもよい。なお、絶縁層102を被覆する場合であっても、ティース巻回部121の電線30が巻回される部位に角部が形成されず、若しくは角部の程度が低減されているため、被覆する膜厚を最小限に抑えることができ、高い巻線効率の確保、作業時間の短縮、およびコストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1,101 固定子、
10 ヨーク部(環状部)、
20 ティース部、
21,121 ティース巻回部、
22 ティース先端部、
23 ギャップ面、
23 曲面部、
24 保持部、
25 最深部、
26 内側突出部(突出部)、
27 外側突出部(突出部)、
30 電線、
40 スロット、
102 絶縁材、
〜S 鋼板、
m+1〜T 内側鋼板、
m+1〜U 外側鋼板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9