特許第5749650号(P5749650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5749650リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749650
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20150625BHJP
【FI】
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-535379(P2011-535379)
(86)(22)【出願日】2010年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2010067370
(87)【国際公開番号】WO2011043296
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2009-231841(P2009-231841)
(32)【優先日】2009年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】大石 義英
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−223008(JP,A)
【文献】 特開平05−013082(JP,A)
【文献】 特開2008−103308(JP,A)
【文献】 特開2003−288899(JP,A)
【文献】 特開2001−243948(JP,A)
【文献】 特開2002−246026(JP,A)
【文献】 特開2005−044743(JP,A)
【文献】 特開2009−224307(JP,A)
【文献】 特開2006−202702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成することにより生成されるTi原子を0.20〜2.00重量%含有するリチウム遷移金属複合酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となり、粒子表面のTi濃度が深さ方向50nmでのTi原子濃度の2倍以上となる濃度勾配を有し、少なくともLiTiOが存在していることを特徴するリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
残存するLiCOが0.10重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物のC軸の格子定数が14.055〜14.070オングストロームの範囲であって、結晶子の大きさが、(104)面方向において、550〜700オングストロームの範囲であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法において、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを、コバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.90以上で、Co原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)が0.005〜0.030で、乾式で混合し、得られる混合物を1000〜1100℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記二酸化チタンはBET比表面積が1m/g以上のものを使用することを特徴とする請求項4記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記焼成は800℃以上で行うことを特徴とする請求項4又は5いずれか1項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及び、特にサイクル特性、レート特性に優れ、直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電器においてポータブル化、コードレス化が急速に進むに従い、ラップトップ型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の小型電子機器の電源としてリチウムイオン二次電池が実用化されている。このリチウムイオン二次電池については、1980年に水島等によりコバルト酸リチウムがリチウムイオン二次電池の正極活物質として有用であるとの報告がなされて以来、リチウム系複合酸化物に関する研究開発が活発に進められており、これまで多くの提案がなされている。
【0003】
しかしながら、コバルト酸リチウムを用いたリチウム二次電池にはコバルト原子の溶出等によるサイクル特性の劣化と言う問題がある。
また、下記特許文献1には、コバルト酸リチウムの粒子表面の一部に酸化チタン及び/又はチタン酸リチウムがTiとして2.0〜4.0モル%の量で被覆されたリチウムコバルト系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池が提案されている。
また、下記特許文献2には、コバルト酸リチウムの粒子表面におけるチタンの存在割合が20%以上であるリチウムコバルト系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池が提案されている。
【0004】
前記特許文献1〜2のTi原子を含む正極活物質は、コバルト酸リチウムの粒子表面のみに高濃度でTi原子が存在し、粒子内部までTi原子が存在し難く、また、該正極活物質を用いたリチウム二次電池においても、サイクル特性、レート特性に優れ、直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池が得られ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−151078号公報
【特許文献2】特開2005−123111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、特にサイクル特性、レート特性に優れ、更に直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池を得ることができるリチウム二次電池用正極活物質、及び該正極活物質を工業的に有利に製造することが出来るリチウム二次電池正極活物質の製造方法を提供することにある。また、本発明は、該正極活物質を用いた、特にサイクル特性、レート特性に優れ、更に直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる実情において鋭意研究を重ねた結果、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成することにより生成されるTi原子を特定の範囲で含有するリチウム遷移金属複合酸化物のうち、含有されるTi原子が、粒子表面から深さ方向に特有の濃度分布を有するものを正極活物質として用いたリチウム二次電池は、特にサイクル特性、レート特性に優れ、更に直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制される等の電池性能が優れたものになることを見出し本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明が提供しようとする第一の発明は、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成することにより生成されるTi原子を0.20〜2.00重量%含有するリチウム遷移金属複合酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となり、粒子表面のTi濃度が深さ方向50nmでのTi原子濃度の2倍以上となる濃度勾配を有し、少なくともLiTiOが存在していることを特徴するリチウム二次電池用正極活物質である。
【0009】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法において、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを、コバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.90以上で、Co原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)が0.005〜0.030で、乾式で混合し、得られる混合物を1000〜1100℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0010】
また、本発明が提供しようとする第三の発明は、前記第一の発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極活物質は、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、特にサイクル特性、レート特性に優れ、直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池を得ることができる。
また、本発明のリチウム二次電池正極活物質の製造方法によれば、該リチウム二次電池正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2で得られたリチウム遷移金属酸化物の深さ方向におけるチタン原子の量を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るリチウム二次電池正極活物質(以下、単に「正極活物質」と言うこともある。)は、基本的にはリチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成することにより生成されるTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物からなる。
【0014】
本発明に係るリチウム二次電池用正極活物質は、Ti原子を0.20〜2.00重量%含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることに特徴付けられる。
本発明において、Ti原子の含有量を前記範囲にする理由は、Ti原子の含有量が0.20重量%未満ではTi原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にのみ存在し、内部での存在が乏しいため、直流(DC)抵抗は改善するが、レート特性の改善効果が小さい傾向があり、一方、2.00重量%を超えると十分な放電容量が得られず、またTi原子がリチウム遷移金属複合酸化物粒子とは別に単独でLiTiO粒子として存在する場合があるからである。なお、本発明において、Ti原子の含有量が0.40〜1.20重量%のものであるとTi原子がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有することに加えて、更に粒子内部においてTi原子が十分に存在することから、直流(DC)抵抗、レート特性等の特性を更に向上させることができことから特に好ましい。
【0015】
従来の多くのTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、Ti原子が粒子内部に均一に存在するか、或いはTi原子が粒子表面に存在するかの何れかである。これに対して、本発明のリチウム二次電池用正極活物質では、粒子内部と粒子表面の両方にTi原子が存在するものである。更に本発明のリチウム二次電池正極活物質は、粒子表面から粒子内部までのTi原子の濃度分布状態において、1つの特徴を有する。即ち、Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子内部の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有するものである。
本発明において、「Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配」を有するとは、Ti原子の存在が、エックス線光電子分光(XPS)分析で、少なくとも深さ方向に50nmまでその存在が確認でき、この深さ方向50nmから粒子表面にかけて、粒子表面で最大濃度となる濃度勾配を有することを言う。従って、本発明では濃度勾配は、規則性のある濃度勾配であっても規則性のない濃度勾配であってもよい。また、深さ方向50nmでのTi原子濃度と、粒子表面で最大となるTi原子濃度との濃度差が2倍以上であることが好ましい。
このTi原子の濃度勾配は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子断面をエックス線光電子分光(XPS)分析及び電界放出形電子プローブマイクロアナライザ(FE−EMPA)で分析することにより確認することができる。
【0016】
本発明において、リチウム遷移金属複合酸化物のTi原子は、少なくともLiTiOとして存在することも本発明の特徴の1つである。
このLiTiOの存在は、該リチウム遷移金属複合酸化物を線源としてCuKα線を用いて、X線回折(XRD)分析したときに2θ=20.5°にLiTiOの回折ピークが存在することから確認することができる。本発明者らによれば、該リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面に高濃度で存在するTi原子は、LiTiOであると推測している。
【0017】
更に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物に含有させるTi原子は、純粋なLiCoOの結晶構造に影響を与える。即ち、純粋なLiCoOのC軸の格子定数は14.050〜14.055オングストロームであるのに対して、本発明のリチウム二次電池用正極活物質では、C軸の格子定数が14.055〜14.070オングストローム、好ましくは14.060〜14.065オングストロームであり、純粋なLiCoOのC軸の格子定数より大きくなる。更に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質では、純粋なLiCoOの結晶子の大きさが(104)面方向において、700〜750オングストロームであるのに対して、本発明のリチウム二次電池用正極活物質では、結晶子の大きさが、(104)面方向において、550〜700オングストローム、好ましくは550〜650オングストロームであり、純粋なLiCoOに比べ結晶子の大きさが、(104)面方向において小さくなる。
このことは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子内部に存在するTi原子による影響であると、本発明者らは推測している。
【0018】
更に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、前記特性を有していることに加え、含有されるLiCOが0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下であると非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れの抑制効果が、更に高くなる観点から好ましい。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質において、その他の好ましい諸物性は、レーザー回折・散乱法により求められる平均粒径が1〜30μm、好ましくは3〜25μmの範囲であると、均一な厚さの塗膜の形成が可能となる観点から好ましい。また、BET比表面積が0.05〜2.00m/g、好ましくは0.10〜0.80m/gの範囲であると非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れの抑制や安全性の観点から好ましい。
【0020】
前記諸物性を有する本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを混合し、次いで得られる混合物を焼成してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法において、コバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.90以上で、Co原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)が0.005〜0.030で混合し、得られる混合物を焼成することにより製造することができる。
【0021】
前記原料のリチウム化合物としては、例えば、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び有機酸塩等が挙げられるが、この中、工業的に安価な炭酸リチウムが好ましい。また、このリチウム化合物は平均粒径が0.1〜200μm、好ましくは2〜50μmであると反応性が良好であるため特に好ましい。
【0022】
前記原料のコバルト化合物としては、コバルト酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び有機酸塩等が挙げられ、この中、酸化コバルトが工業的に入手し易く安価であるため好ましい。また、コバルト化合物は平均粒径が0.5〜30.0μm、好ましくは2.0〜25.0μmであると反応性が良好であるため特に好ましい。
【0023】
前記原料の二酸化チタンは、通常、工業的に塩素法または硫酸法により製造されるが、本発明では、硫酸法で製造されたものであっても、塩素法で製造されたものであっても、特に制限なく使用することができる。
本発明では、二酸化チタンは、BET比表面積が1m/g以上、好ましくは5m/g以上であり、特に5〜50m/gの範囲のものを用いることが原料のコバルト化合物との反応性が良好である観点から好ましい。BET比表面積が1m/g以上のものを用いる理由は、BET比表面積が1m/g未満では原料のコバルト化合物との反応性に乏しいため、Ti原子がリチウム遷移金属複合酸化物の内部での存在に乏しくなる傾向があるためである。また、該二酸化チタンはレーザー回折・散乱法により求められる平均粒径が5μm以下、好ましくは0.1〜2μmであると原料のコバルト化合物との反応性が良好である観点から特に好ましい。
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型とルチル型に大別されるが、本発明ではいずれも使用できるが、反応性が良好である点で、アナターゼ型の含有量が70重量%以上のものが特に好ましく用いられる。
【0024】
また、前記原料のリチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンは高純度リチウム遷移金属複合酸化物を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものが好ましいが、製造履歴等により、特にコバルト化合物と二酸化チタンには必然的に高濃度の硫酸根が含有される場合がある。この場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物に含有される硫酸根がSOとして0.3重量%以下となるよう各原料を適宜選定して用いることが好ましい。
【0025】
反応操作は、まず、前記の原料のリチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンを所定量混合する。混合は、乾式又は湿式のいずれの方法でもよいが、製造が容易であるため乾式が好ましい。乾式混合の場合は、原料が均一に混合するようなブレンダー等を用いることが好ましい。
【0026】
上記した原料のリチウム化合物、コバルト化合物及び二酸化チタンの配合割合は、コバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.90以上である。この理由は、コバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.90未満では放電容量が著しく減少する傾向となるからである。本発明において、特にコバルト原子とチタン原子に対するリチウム原子のモル比(Li/(Co+Ti))が0.98〜1.10であると、安定した放電容量が得られる観点から特に好ましい。また、Co原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)は0.005〜0.030である。この理由は、Co原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)が0.005未満ではTi原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にのみ存在し、内部での存在が乏しいため、直流(DC)抵抗は改善するが、レート特性の改善効果が小さい傾向になり、一方、0.030を超えると十分な放電容量が得られず、またTi原子が単独でLiTiO粒子として存在する場合があるからである。本発明において、特にCo原子に対するTi原子のモル比(Ti/Co)が0.010〜0.020であると、Ti原子がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有することに加え、更に粒子内部においてTi原子が十分に存在することにより、直流(DC)抵抗とレート特性の両方が改善される観点から特に好ましい。
【0027】
次いで、前記原料が均一混合された混合物を焼成する。本発明において前記焼成は800℃以上で行うことが好ましい。この理由は、焼成温度が800℃未満では原料のコバルト化合物と二酸化チタンの反応性に乏しいため、Ti原子がリチウム遷移金属複合酸化物の内部での存在に乏しく、レート特性の改善効果が小さい傾向になるからである。本発明において、焼成は特に900℃以上、更に好ましくは1000〜1100℃の範囲であると、Ti原子がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有する傾向が明確となる反応が首尾よく進行する観点から好ましい。
【0028】
焼成雰囲気は、大気中或いは酸素雰囲気中である。なお積極的にLiTiOを生成させるため、反応の際に、空気、酸素ガスなどを積極的に循環させることが好ましい。また、これら焼成は必要により何度でも行うことができ、粉体特性を均一にするため、一度、焼成を行った後、粉砕し更に焼成を行ってもよい。焼成後は、適宜冷却し、必要に応じ粉砕、分級してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を得、これを本発明のリチウム二次電池正極活物質とする。
【0029】
なお、必要に応じて行われる粉砕は、焼成して得られるTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物がもろく結合したブロック状のものである場合等に適宜行うが、該リチウム遷移金属複合酸化物の粒子自体は特定の平均粒径、BET比表面積を有する。即ち、得られるTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、平均粒径が1〜30μm、好ましくは3〜25μmであり、BET比表面積が0.05〜2.00m2/g、好ましくは0.10〜0.80m2/gである。
【0030】
また、本発明でリチウム二次電池正極活物質とする該リチウム遷移金属複合酸化物は上記粉体特性を有するものであることに加え、Ti原子を0.20〜2.00重量%、好ましくは0.40〜1.20重量%含有し、該Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有する。
更に本発明の好ましい実施形態によれば、リチウム遷移金属複合酸化物に存在するTi原子は、少なくとも粒子の表面ではLiTiOとして存在することに加えて、該リチウム遷移金属複合酸化物のC軸の格子定数が14.055〜14.070オングストローム、好ましくは14.060〜14.065オングストロームの範囲であって、結晶子の大きさが、(104)面方向において、550〜700オングストローム、好ましくは550〜650オングストロームの範囲であり、Ti原子は粒子内部にも存在する。更に、該リチウム遷移金属複合酸化物は残存するLiCOが0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明に係るリチウム二次電池は、上記リチウム二次電池正極活物質を用いるものであり、正極、負極、セパレータ、及びリチウム塩を含有する非水電解質からなる。正極は、例えば、正極集電体上に正極合剤を塗布乾燥等して形成されるものであり、正極合剤は正極活物質、導電剤、結着剤、及び必要により添加されるフィラー等からなる。本発明に係るリチウム二次電池は、正極に正極活物質である前記のTi原子を含有するリチウム複合物が均一に塗布されている。このため本発明に係るリチウム二次電池は、特に直流(DC)抵抗が低減し、負荷特性とサイクル特性の低下が生じ難い。
【0032】
正極合剤に含有される正極活物質の含有量は、70〜100重量%、好ましくは90〜98重量%が望ましい。
【0033】
正極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0034】
導電剤としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に限定はない。例えば、天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、或いはポリフェニレン誘導体等の導電性材料が挙げられ、天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。導電剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0035】
結着剤としては、例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、ポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、多糖類のようにリチウムと反応するような官能基を含む化合物を用いるときは、例えば、イソシアネート基のような化合物を添加してその官能基を失活させることが好ましい。結着剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0036】
フィラーは正極合剤において正極の体積膨張等を抑制するものであり、必要により添加される。フィラーとしては、構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、正極合剤中、0〜30重量%が好ましい。
【0037】
負極は、負極集電体上に負極材料を塗布乾燥等して形成される。負極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの及びアルミニウム−カドミウム合金等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0038】
負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料、金属複合酸化物、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素系合金、錫系合金、金属酸化物、導電性高分子、カルコゲン化合物、Li−Co−Ni系材料、LiTi12等が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料、黒鉛系炭素材料等が挙げられる。金属複合酸化物としては、例えば、SnP(M11-p(M2qr(式中、M1はMn、Fe、Pb及びGeから選ばれる1種以上の元素を示し、M2はAl、B、P、Si、周期律表第1族、第2族、第3族及びハロゲン元素から選ばれる1種以上の元素を示し、0<p≦1、1≦q≦3、1≦r≦8を示す。)、LixFe23(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)等の化合物が挙げられる。金属酸化物としては、GeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb23、Pb34、Sb23、Sb24、Sb25、Bi23、Bi24、Bi25等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等が挙げられる。
【0039】
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維あるいはポリエチレンなどからつくられたシートや不織布が用いられる。セパレーターの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01〜10μmである。セパレターの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5〜300μmである。なお、後述する電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレーターを兼ねるようなものであってもよい。
【0040】
リチウム塩を含有する非水電解質は、非水電解質とリチウム塩とからなるものである。非水電解質としては、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質が用いられる。非水電解液としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テ トラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0041】
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、リン酸エステルポリマー、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のイオン性解離基を含むポリマー、イオン性解離基を含むポリマーと上記非水電解液の混合物等が挙げられる。
【0042】
無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩、硫化物等を用いることができ、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N−LiI−LiOH、LiSiO4、LiSiO4−LiI−LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、P25、Li2S又はLi2S−P25、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−Ga23、Li2S−B23、Li2S−P25−X、Li2S−SiS2−X、Li2S−GeS2−X、Li2S−Ga23−X、Li2S−B23−X、(式中、XはLiI、B23、又はAl23から選ばれる少なくとも1種以上)等が挙げられる。
【0043】
更に、無機固体電解質が非晶質(ガラス)の場合は、リン酸リチウム(Li3PO4)、酸化リチウム(Li2O)、硫酸リチウム(Li2SO4)、酸化リン(P25)、硼酸リチウム(Li3BO3)等の酸素を含む化合物、Li3PO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4SiO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4GeO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li3BO3-x2x/3(xは0<x<3)等の窒素を含む化合物を無機固体電解質に含有させることができる。この酸素を含む化合物又は窒素を含む化合物の添加により、形成される非晶質骨格の隙間を広げ、リチウムイオンが移動する妨げを軽減し、更にイオン伝導性を向上させることができる。
【0044】
リチウム塩としては、上記非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド類等の1種または2種以上を混合した塩が挙げられる。
【0045】
また、非水電解質には、放電、充電特性、難燃性を改良する目的で、以下に示す化合物を添加することができる。例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノンとN,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ポリエチレングルコール、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウム、導電性ポリマー電極活物質のモノマー、トリエチレンホスホンアミド、トリアルキルホスフィン、モルフォリン、カルボニル基を持つアリール化合物、ヘキサメチルホスホリックトリアミドと4−アルキルモルフォリン、二環性の三級アミン、オイル、ホスホニウム塩及び三級スルホニウム塩、ホスファゼン、炭酸エステル等が挙げられる。また、電解液を不燃性にするために含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性を持たせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
【0046】
本発明に係るリチウム二次電池は、電池性能、特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池であり、電池の形状はボタン、シート、シリンダー、角、コイン型等いずれの形状であってもよい。
【0047】
本発明に係るリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ、液晶テレビ、バックアップ電源、電気シェーバー、メモリーカード、ビデオムービー等の電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器等の民生用電子機器が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<二酸化チタン試料>
二酸化チタン(TiO)は下記諸物性を有するものを使用した、なお、平均粒径はレーザー回折・散乱法により求めた。
【表1】
注)昭和電工社製;商品名 F1
【0049】
{実施例1〜4}
表2に示したCo原子とLi原子のモル比となるように四酸化三コバルト(平均粒径5μm)、炭酸リチウム(平均粒径7μm)を秤量し、更に表1に示した前記二酸チタンを表2に示すモル比となるように乾式で家庭用ミキサーを用いて60秒間十分に混合し原料混合物を得た。次いで得られた原料混合物をアルミナ製の鉢で表2に示す温度と時間で大気中で大気を循環させながら焼成した。焼成終了後、該焼成物を粉砕、分級してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0050】
{比較例1}
表2に示したCo原子とLi原子のモル比となるように四酸化三コバルト(平均粒径5μm)、炭酸リチウム(平均粒径7μm)を秤量し、乾式で家庭用ミキサーを用いて60秒間十分に混合し原料混合物を得た。次いで得られた原料混合物をアルミナ製の鉢で表2に示す温度と時間で大気中で焼成した。焼成終了後、該焼成物を粉砕、分級してリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0051】
{比較例2〜4}
表2に示したCo原子とLi原子のモル比となるように四酸化三コバルト(平均粒径5μm)、炭酸リチウム(平均粒径7μm)を秤量し、更に表1に示した前記二酸チタンを表2に示すモル比となるように乾式で家庭用ミキサーを用いて60秒間十分に混合し原料混合物を得た。次いで得られた原料混合物をアルミナ製の鉢で表2に示す温度と時間で大気中で大気を循環させながら焼成した。焼成終了後、該焼成物を粉砕、分級してTi原子を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0052】
【表2】
【0053】
<リチウム遷移金属複合酸化物の物性評価>
実施例及び比較例で得られたリチウム遷移金属複合酸化物について、Ti原子含有量、LiCO含有量、平均粒径、BET比表面積、Ti原子の分布の状態、LiTiOの存在の有無、C軸の格子定数及び(104)面方向の結晶子の大きさを求めた。また、その結果を表4に示す。
【0054】
(1)Ti原子含有量
Ti含有量は試料を酸で溶解し、その溶解液をICPにより測定して求めた値である。
【0055】
(2)LiCO含有量
試料5g、純水100gをビーカーに計り採りマグネチックスターラーを用いて5分間分散させる。次いでこの分散液をろ過し、そのろ液30mlを自動滴定装置(型式COMTITE−2500)にて0.1N−HClで滴定し残留LiCOを算出した。
【0056】
(3)平均粒径
平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定した。
【0057】
(4)Ti原子の分布の状態
実施例2で得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子についてエックス線光電子分光(XPS)分析により、表面をアルゴンでエッチングしていき、深さ方向でTiピークを測定した。その結果を表3及び図1に示す。Co原子、O原子、C原子、Li原子の深さ方向の濃度分布を表3に併記した。
なお、エックス線光電子分光分析の条件は、下記のとおりである。
エッチングレート;7.7nm/min(Arでの表面エッチング)
エッチング時間;10sec×2回,20sec×2回,1min×2回,2min×2回,3min×2回
【表3】
表3及び図1の結果より、Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子内部から粒子表面にかけて存在し、且つ粒子表面で最大濃度となる濃度勾配を有していることが分かる。
また、実施例2で得られたリチウム遷移金属酸化物粒子をカットして粒子断面を電界放出形電子プローブマイクロアナライザ(FE−EMPA)(装置名;JXA8500F 日本電子 測定条件;加速電圧15kV、倍率3000、照射電流4.861e−08A)でTi原子をマッピング分析した。FE−EPMAのマッピング分析の結果、Ti原子は粒子内部及び粒子表面に存在し、特に粒子表面では高濃度で存在していることが確認できた。
また、実施例1、3、4及び比較例2〜4についても同様にFE−EPMA分析を行ったが、Ti原子は粒子内部及び粒子表面に存在し、特に粒子表面では高濃度で存在していることが確認できた。
従って、本発明のリチウム遷移金属複合酸化物において、該Ti原子はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面から深さ方向に存在し、且つ粒子表面で最大となる濃度勾配を有することが確認できた。
【0058】
(5)LiTiOの存在の確認
リチウム遷移金属複合酸化物試料を線源としてCuKα線を用いてX回折(XRD)分析することにより、2θ=20.5°のLiTiOの回折ピークの存在の有無を確認した。
その結果、実施例1〜4及び比較例2〜4においてLiTiOの回折ピークが確認できた。
【0059】
(6)C軸の格子定数及び(104)面方向の結晶子の大きさ
格子定数はリチウム遷移金属複合酸化物試料を線源としてCuKα線を用いてX線回折(XRD)分析により得た回折パターンを用いてリートベルト解析することにより、格子定数、構造パラメータを精密化して求めた。リートベルト解析は、X線回折パターンを用い、この中に含まれている情報を抽出するために、実測で得られた回折パターンと、結晶構造モデルから予想される回折パターンとをフィティングすることにより、結晶構造に関するパラメータの精密化を行う方法である。
結晶子の大きさは、回折角(2θ)45°の(104)面のX線回折ピークの半値幅を算出し、下記(式1)のScherrerの式より求めた。
結晶子の大きさD(オングストローム)=Kλ/(βcosθ))・・(1)
K:Scherrer定数(0.9)
λ:使用X線管球の波長(CuKα=1.5405オングストローム)
β:結晶子の大きさによる回折線の広がりの幅(radian)
θ:回折角2θ/2(degree)
【0060】
【表4】
【0061】
<電池性能試験>
(1)リチウム二次電池の作製;
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたリチウム遷移金属複合酸化物91重量%、黒鉛粉末6重量%、ポリフッ化ビニリデン3重量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混練液1リットルにLiPF61モルを溶解したものを使用した。
【0062】
(2)電池の性能評価
作製したコイン型リチウム二次電池を室温で下記条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。その結果を表5に示す。
<サイクル特性の評価>
まず0.5Cにて4.4Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.4Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、以下に示す所定の電流量にて、2.7Vまで定電流放電(CC放電)させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返し、1サイクル目(1st)と20サイクル目(20th)のそれぞれの放電容量から、下記式(2)により容量維持率を算出した。なお、1サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
【0063】
容量維持率(%)
=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100…(2)
【0064】
<レート特性の評価>
まず0.5Cにて4.3Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.3Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、以下に示す所定の電流量にて、2.7Vまで定電流放電(CC放電)させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。
各サイクルの放電電流量について、1から3サイクルは0.2C、4から6サイクルは0.5C、7から9サイクルは1.0C、10から12サイクルは2.0Cとし、3サイクル目の放電容量を0.2C時の放電容量、6サイクル目の放電容量を0.5C時の放電容量、9サイクル目の放電容量を1.0C時の放電容量、12サイクル目の放電容量を2.0C時の放電容量とした。また3サイクル目の平均作動電圧を0.2C時の平均作動電圧、6サイクル目の平均作動電圧を0.5C時の平均作動電圧、9サイクル目の平均作動電圧を1.0C時の平均作動電圧、12サイクル目の平均作動電圧を2.0C時の平均作動電圧とした。
【0065】
<直流(DC)抵抗の評価>
まず0.5Cにて4.3Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.3Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、25℃の恒温槽内で0.2Cで放電したときの電流値をI0.2C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV0.2C、0.5Cで放電したときの電流値をI0.5C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV0.5C、1.0Cで放電したときの電流値をI1.0C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV1.0Cとする。x軸を電流値、y軸を電位差としてプロットし、最小二乗法にて得られる直線の傾きを25℃の直流(DC)抵抗とした。また−10℃の恒温槽内で0.2Cで放電したときの電流値をI0.2C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV0.2C、0.5Cで放電したときの電流値をI0.5C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV0.5C、1.0Cで放電したときの電流値をI1.0C、放電開始0秒と6秒の電位差をΔV1.0Cとする。x軸を電流値、y軸を電位差としてプロットし、最小二乗法にて得られる直線の傾きを−10℃の直流(DC)抵抗とした。
【0066】
<保存試験前後での膨れ>
0.5Cにて4.5Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.5Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その直後にマイクロメータにて測定したコイン型リチウム二次電池の厚みをD、このコイン型リチウム二次電池を60℃の恒温槽内で150時間保存した直後にマイクロメータにて測定したコイン型リチウム二次電池の厚みをD150とする。膨れ量は以下の式(3)にて算出した。
膨れ(mm)=D150−D ・・・(3)
【0067】
【表5】
注)表中の「1st」は1サイクル目、「20th」は20サイクル目を示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の正極活物質は、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、特にサイクル特性、レート特性に優れ、直流(DC)抵抗が低く、非水電解液との反応に伴うガス発生に起因する膨れが抑制されたリチウム二次電池を得ることができる。
また、本発明のリチウム二次電池正極活物質の製造方法によれば、該リチウム二次電池正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。
図1