特許第5749714号(P5749714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5749714-ハイブリッド材料及びその製造方法 図000122
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749714
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ハイブリッド材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/06 20060101AFI20150625BHJP
   C08G 77/452 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C08G73/06
   C08G77/452
【請求項の数】12
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2012-514810(P2012-514810)
(86)(22)【出願日】2011年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2011060776
(87)【国際公開番号】WO2011142363
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-108739(P2010-108739)
(32)【優先日】2010年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 純
(72)【発明者】
【氏名】山田 保治
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】竹中 美夏子
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−097365(JP,A)
【文献】 特開平04−058808(JP,A)
【文献】 特開2006−312680(JP,A)
【文献】 特開2007−106836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
77/00−66/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾオキサゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )のシリル化物と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜30重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾオキサゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )のシリル化物と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)シリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜40重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項3】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾオキサゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP)のシリル化物と、4,4’−オキシジフェニル−1,1−ジカルボン酸クロライド(OBC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜40重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【請求項4】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する分岐ポリベンゾオキサゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)とを用いて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜40重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【請求項5】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する分岐ポリベンゾオキサゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)とを用いて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)シリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜40重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【請求項6】
ポリベンゾオキサゾール又はポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にして、
前記ポリマー相が、下記化学式(14)〜(16)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾイミダゾールからなり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)3,3’、4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB )と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミダゾール化せしめてなるものであり、
前記有機−無機ポリマーハイブリッドにおける前記シリカ相の含有量が1〜30重量%である、
ことを特徴とするハイブリッド材料。
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【請求項7】
請求項1に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )のシリル化物と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、
かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )のシリル化物と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、
かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【請求項9】
請求項3に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP)のシリル化物と、4,4’−オキシジフェニル−1,1−ジカルボン酸クロライド(OBC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、
かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )イソフタル酸クロライド(IPC )及びベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC )を、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iを合成する工程と、
前記分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iと、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)を用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIを合成する工程と、
前記分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIとアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )イソフタル酸クロライド(IPC )及びベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC )を、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’を合成する工程と、
前記分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)を用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’を合成する工程と、
前記分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【請求項12】
請求項6に記載のハイブリッド材料の製造方法にして、
3,3’、4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB )と、イソフタル酸クロライド(IPC )と、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を合成する工程と、
かかる直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミダゾール化せしめることによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程と、
を有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド材料及びその製造方法に係り、特に、ポリベンゾアゾール相及び無機酸化物相にて構成される有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料、並びに、かかるハイブリッド材料を有利に製造することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記化学式(1)〜(3)で表わされる原子団を有するポリベンゾアゾールは、耐熱性、電気絶縁性、機械的特性等において優れていることから、従来より、例えば、電子デバイスにおける絶縁膜としての利用等が研究されている。
【化1】
【化2】
【化3】
【0003】
そのようなポリベンゾアゾールの中でも、特に耐熱性等に優れているポリベンゾオキサゾールは、従来より、ジアミン化合物とジカルボン酸ハライドとの反応により得られるポリアミド樹脂を脱水環化させることにより、製造されている。しかしながら、かかる製造方法においては、最終的に得られるポリベンゾオキサゾールの重合度は、前駆体であるポリアミド樹脂の重合度に支配され、ジアミン化合物とジカルボン酸ハライドとの反応性ではジアミンの反応性が悪いため、前駆体たるポリアミド樹脂の重合度、引いてはポリベンゾオキサゾールの重合度も低くなり、高分子量のポリベンゾオキサゾールを得ることが難しい。そのため、製膜性に乏しいという問題がある。このような問題を解決すべく、モノマーとしてシリル化された芳香族ジアミンを用いることにより、反応性を制御し(向上せしめ)、高分子量のポリベンゾオキサゾールを製造する方法が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
一方、優れた耐熱性を発現させるためには、モノマーとして、ベンゼン環等を有する剛直な分子構造からなるものを用いることが有用であることは一般的に知られているが、かかる剛直な分子構造を有するモノマーを用いると、得られるポリマーが、分子間凝集力に乏しく、また、強固なものではあるが脆くなる。そのため、製膜性に乏しいという問題がある(特許文献2を参照)。
【0005】
また、ポリベンゾアゾールに無機酸化物相を導入することにより、ポリベンゾアゾールが本来的に有する特性をより向上せしめることが提案されている。例えば、ポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾイミダゾール)の側鎖部位、若しくは反応性置換基を有するベンゼン環に、シランカップリング剤及びアルコキシシラン化合物を用いたゾル−ゲル反応により、SiO2 を構成単位とするシリカ相を導入してなるポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾイミダゾール)−シリカハイブリッド材料が、非特許文献1及び2において提案されている。
【0006】
しかしながら、本発明者等が、上記した非特許文献1及び2に記載のハイブリッド材料について検討したところ、それらに開示の技術については、十分な製膜性を有しつつ優れた耐熱性をも有するシリカ含有のハイブリッド材料を製造することが困難であることが、判明した。具体的には、非特許文献1及び2に記載の製法に従って得られる、ポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾイミダゾール)を構成するベンゼン環に反応性置換基を導入し、その後、シランカップリング剤等を用いたゾル−ゲル反応によりシリカ相を導入したハイブリッド材料にあっては、ポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾイミダゾール)とカップリング剤との結合部位の耐熱性が十分なものではないため、高温時にはかかる結合部位から熱分解が起こり、十分な耐熱性を有するものとは言い難いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−58808号公報
【特許文献2】特開2005−97365号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Premachandra et al.、「Polymer-Silica Hybrid Materials Prepared from Some Functionalized Polybenzoxazoles and Polybenzobisthiazoles」、Journal of Sol-Gel Science and Technology、オランダ国、Kluwer Academic Publishers、1996年、第7巻、p.163-175
【非特許文献2】Shih-Wei Chuang et al.、「Syntethis and properties of fluorine-containing polybenzoimidazole/silica nanocomposite membranes for proton change membrane fuel cells」、Journal of Membrane Science、米国、2007年、第305巻、p.353-363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、耐熱性及び製膜性(薄膜成形性)に優れたハイブリッド材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、そのような課題を解決するために、繰り返し単位内に下記化学式(1)〜(3)で表わされる原子団の何れかを有するポリベンゾアゾールからなるポリマー相と、無機酸化物相とが、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかを介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料を、その要旨とするものである。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0011】
なお、本発明に従うハイブリッド材料にあっては、前記無機酸化物相がSiO2 を構成単位とするシリカ相であるものを、第一の好ましい態様とする。
【0012】
また、本発明のハイブリッド材料は、第二の好ましい態様において、前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾオキサゾールからなるものであり、第三の好ましい態様においては、前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(10)で表わされる原子団を有する直鎖ポリベンゾオキサゾールからなるものである。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0013】
さらに、本発明のハイブリッド材料は、第四の好ましい態様において、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化せしめてなるものである。
【化14】
【化15】
【化16】
【0014】
また、本発明のハイブリッド材料は、第五の好ましい態様において、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)シリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化せしめてなるものである。
【化17】
【化18】
【化19】
【0015】
一方、本発明のハイブリッド材料は、第六の好ましい態様において、前記ポリマー相が、下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する分岐ポリベンゾオキサゾールからなるものである。
【化20】
【化21】
【化22】
【0016】
また、本発明のハイブリッド材料は、第七の好ましい態様において、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)芳香族ジヒドロキシジアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドと、芳香族トリカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化せしめてなるものである。
【化23】
【化24】
【化25】
【0017】
さらに、本発明のハイブリッド材料は、第八の好ましい態様において、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)芳香族ジヒドロキシジアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドと、芳香族トリカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体と、II)シリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化せしめてなるものである。
【化26】
【化27】
【化28】
【0018】
一方、本発明のハイブリッド材料にあっては、第九の好ましい態様において、前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(14)〜(16)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾイミダゾールからなるものであり、第十の好ましい態様においては、前記ポリマー相が、繰り返し単位内に下記化学式(17)で表わされる原子団を有する直鎖ポリベンゾイミダゾールからなるものである。
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【0019】
また、本発明に係るハイブリッド材料は、第十一の好ましい態様として、前記有機−無機ポリマーハイブリッドが、I)芳香族テトラアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて得られる、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体と、II)アルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミダゾール化せしめてなるものである。
【化33】
【化34】
【化35】
【0020】
さらに、本発明に係るハイブリッド材料にあっては、上述した第一〜第十一の好ましい態様において、有機−無機ポリマーハイブリッドのシリカ含有量が1〜40重量%であることが好ましく、20〜40重量%であることがより好ましい。
【0021】
一方、本発明は、上述の如き態様のハイブリッド材料を有利に製造することが出来る方法についても、その要旨とするものである。具体的には、上述した第一〜第三の好ましい態様に係るハイブリッド材料の製造方法にして、芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【化36】
【化37】
【化38】
【0022】
また、本発明は、上述した第一〜第三の好ましい態様に係るハイブリッド材料の製造方法にして、芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【化39】
【化40】
【化41】
【0023】
さらに、本発明は、上述した第一又は第六の好ましい態様に係るハイブリッド材料の製造方法にして、芳香族ジヒドロキシジアミン、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iを合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIを合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIとアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【化42】
【化43】
【化44】
【0024】
また、本発明は、上述した第一又は第六の好ましい態様に係るハイブリッド材料の製造方法にして、芳香族ジヒドロキシジアミン、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’を合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’と、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’を合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【化45】
【化46】
【化47】
【0025】
さらにまた、本発明は、上述した第一、第九又は第十の好ましい態様に係るハイブリッド材料の製造方法にして、芳香族テトラアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミダゾール化せしめることによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有することを特徴とするハイブリッド材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【化48】
【化49】
【化50】
【0026】
加えて、上述した本発明に係るハイブリッド材料の製造方法においては、有機−無機ポリマーハイブリッドのシリカ含有量が1〜40重量%であることが望ましく、20〜40重量%であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明に従うハイブリッド材料にあっては、ポリベンゾアゾール相と無機酸化物相とが、所定の原子団を介して一体化されてなる有機−無機ポリマーハイブリッドからなるものであるところから、優れた製膜性(薄膜成形性)を有しつつ、耐熱性にも優れたものとなっているのである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドの一例を、部分的に且つ模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を適宜、参酌しながら、本発明を具体的に説明する。
【0030】
図1には、本発明に従うハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドの一例が、部分的に且つ模式的に示されている。かかる図1からも明らかなように、そこにおいて示されている有機−無機ポリマーハイブリッドは、下記化学式(1)〜(3)で表わされる原子団の何れかを有する繰り返し単位(構成単位):Aからなる直鎖ポリベンゾアゾール相と、SiO2 を構成単位とするシリカ相とが、所定の原子団:αを介して一体となって、構成されている。より詳細には、所定の原子団:αは2価の有機基であるところ、その一方の結合手が、直鎖ポリベンゾアゾール相を構成する直鎖ポリベンゾアゾール鎖の末端の繰り返し単位(構成単位)と結合し、他方の結合手が、シリカ相を構成するSi原子と結合していることにより、一体的な有機−無機ポリマーハイブリッドを構成しているのである。このような本発明の有機−無機ポリマーハイブリッドは、有機高分子鎖が無機高分子(シリカ)によって架橋され、有機−無機ハイブリッド型高分子鎖が形成されることで、充分な分子量体となる。更に、シリカ相を起点とし、三次元的な構成を有することで、分子鎖の秩序性が乱れるため、ポリマー相だけでは分子量が低く、高分子鎖が余りにも剛直すぎるために製膜性に乏しい場合であっても、優れた製膜性を有するものとなるのである。
【化51】
【化52】
【化53】
【0031】
なお、図1に示す有機−無機ポリマーハイブリッドにおいては、無機酸化物相がシリカ相であるが、本発明の有機−無機ポリマーハイブリッドを構成する無機酸化物相はシリカ相に限定されるものではない。例えば、シリカ相に代えて、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタン等の無機酸化物を構成単位とする無機酸化物相によって構成される有機−無機ポリマーハイブリッドにあっても、本発明のハイブリッド材料を構成するものとして用いることが可能である。
【0032】
そして、本発明においては、図1に示されている所定の原子団:α(2価の有機基)が、下記化学式(4)〜(6)で表わされる有機基の何れかであるところに、大きな特徴が存するのである。即ち、図1に示す有機−無機ポリマーハイブリッドにおいては、直鎖ポリベンゾアゾール相の末端に、所定の有機基を介してシリカ相が結合している、換言すれば、直鎖ポリベンゾアゾール相の末端がシリカ相によって修飾されているのであり、また、直鎖ポリベンゾアゾール相とシリカ相とを結合せしめている所定の原子団:α(2価の有機基)が、ベンゼン環を有するものであるところから、本発明のハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドにあっては、優れた製膜性(薄膜成形性)を有すると共に、耐熱性においても優れたものとなるのである。耐熱性に優れる理由は、熱分解が起こり始めると考えられる有機高分子の末端がシリカ相により架橋され、一体化することで、有機高分子の末端が実質的にほとんど存在しなくなること、及び、耐熱性が高いフェニル環を有するカップリング剤を用いることで、所定の原子団:α(2価の有機基)部分での分解が起こり難くなることにより、優れた耐熱性を発揮すると考えられる。尚、本発明において、製膜性に優れるとは、支持体なしに屈曲性を有するフィルム(自立薄膜フィルム)が得られることをいい、例えば、30μmの膜厚に製膜した場合に、割れやひびが無いフィルムを製造することが出来ることをいう。
【化54】
【化55】
【化56】
【0033】
ここで、本発明においては、有機−無機ポリマーハイブリッドを構成するポリベンゾアゾール相がポリベンゾオキサゾール相であることが好ましい。より具体的には、ポリベンゾアゾール相は、繰り返し単位内に下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾオキサゾール、又は、下記化学式(7)〜(9)で表わされる原子団の何れかを有する分岐ポリベンゾオキサゾール(分子鎖内に分岐構造を有するポリベンゾオキサゾール)にて構成されていることが好ましい。
【化57】
【化58】
【化59】
【0034】
また、ポリベンゾアゾール相は、より好ましくは、繰り返し単位内に下記化学式(10)で表わされる原子団を有する直鎖ポリベンゾオキサゾールにて構成されており、更に好ましくは、下記化学式(10)で表わされる原子団を繰り返し単位とする、数平均分子量が5000〜500000、より好ましくは100000〜200000である直鎖ポリベンゾオキサゾールにて構成されている。この範囲よりも分子量が低いと製膜性が悪く、また、末端も多くなるため末端からの分解が生じ易く、耐熱性も低くなる。一方、分子量がこの範囲よりも高いと、粘度が高くなり過ぎるため、取扱い性が悪化する。また、高分子量のポリマーの合成は、仕込みモノマーのモル比のほんの僅かな違いで、得られるポリマーの分子量変化が大きく、安定した分子量のポリマーの生産が困難となる。
【化60】
【0035】
一方、本発明においては、有機−無機ポリマーハイブリッドを構成するポリベンゾアゾール相がポリベンゾイミダゾール相であることも好ましい。具体的には、ポリベンゾアゾール相は、繰り返し単位内に下記化学式(14)〜(16)で表わされる原子団の何れかを有する直鎖ポリベンゾイミダゾールにて構成されている。
【化61】
【化62】
【化63】
【0036】
また、ポリベンゾアゾール相は、より好ましくは、繰り返し単位内に下記化学式(17)で表わされる原子団を有する直鎖ポリベンゾイミダゾールにて構成されており、更に好ましくは、下記化学式(17)で表わされる原子団を繰り返し単位とする、数平均分子量が8000〜12000である直鎖ポリベンゾイミダゾールにて構成されている。これは、下記化学式(17)が最も耐熱性が高く、製膜性を確保できる構造と考えられるためである。
【化64】
【0037】
さらに、本発明のハイブリッド材料において、上記有機−無機ポリマーハイブリッドのシリカ含有量は、材料の用途やポリマー相を構成するポリベンゾアゾールの種類に応じて、1〜40重量%であることが望ましく、10〜40重量%であることがより望ましく、20〜40重量%であることが更に望ましい。シリカ含有量が1重量%未満では、十分なハイブリッドの効果が得られない恐れがあり、その一方、シリカ含有量が40重量%を超えると、フィルムの剛性が高くなり過ぎるために、屈曲性に問題が生じると考えられるからである。具体的には、直鎖ポリベンゾオキサゾールからなるポリマー相と、ゾル−ゲル法に従って形成されたシリカ相とから構成される直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの一種である直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドにあっては、シリカ含有量が1〜30重量%であることが望ましく、10〜30重量%であることがより望ましく、20〜30重量%であることが更に望ましい。シリカ含有量が1重量%未満では、十分なハイブリッドの効果が得られない恐れがあり、その一方、シリカ含有量が30重量%を超えると、フィルムの剛性が高くなり過ぎるために、屈曲性に問題が生じると考えられるからである。また、直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの他の一種である直鎖PBO(OBC-6FAP):PAPTMS −シリカ(sol-gel )ハイブリッドにあっては、シリカ含有量が1〜40重量%であることが望ましく、10〜40重量%であることがより望ましく、20〜40重量%であることが更に望ましい。シリカ含有量が1重量%未満では、十分なハイブリッドの効果が得られない恐れがあり、その一方、シリカ含有量が40重量%を超えると、フィルムの剛性が高くなり過ぎるために、屈曲性に問題が生じると考えられるからである。更に、直鎖ポリベンゾイミダゾールからなるポリマー相と、ゾル−ゲル法に従って形成されたシリカ相とから構成される直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッドの一種たる直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドにあっては、シリカ含有量が1〜30重量%であることが望ましく、10〜30重量%であることがより望ましく、20〜30重量%であることが更に望ましい。シリカ含有量が1重量%未満では、十分なハイブリッドの効果が得られない恐れがあり、その一方、シリカ含有量が30重量%を超えると、フィルムの剛性が高くなり過ぎるために、屈曲性に問題が生じると考えられるからである。加えて、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドと直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドとを比較すると、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドの方が耐熱性に優れるため、より望ましい。
【0038】
ところで、本発明に従うハイブリッド材料を構成する有機−無機ポリマーハイブリッドは、例えば、以下の如き手法によって合成(製造)することが可能である。尚、以下の各合成方法において、種々の化合物を反応させる際の温度条件等の各種条件や手法等は、従来より公知のもの使用できるが、特に以下に説明する方法を用いることが好ましい。また、以下の各反応は、有機溶媒内において効果的に進行することから、N−メチル−2−ピロリドン(NMP )、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)及びジメチルスルホキシド(DMSO)等の従来より有機合成の際に用いられている各種の溶媒の中から、反応に応じたものが適宜に選択されて、使用される。
【0039】
A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成
ポリマー相が直鎖ポリベンゾオキサゾールであり、且つ無機酸化物相がシリカ相である有機−無機ポリマーハイブリッド(直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッド)は、有利には、以下の合成手法A1又はA2の何れかによって合成される。具体的に、合成手法A1としては、芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを含む手法である。また、合成手法A2としては、芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有する手法である。これらの何れの手法においても、先ず、芳香族ジヒドロキシジアミンを、シリル化剤を用いてシリル化する。
【化65】
【化66】
【化67】
【0040】
ここで、本発明において用いることが出来る芳香族ジヒドロキシジアミンとしては、2,4−ジアミノ−1,5−ベンゼンジオール、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB )、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−アミノフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP)、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、2,4−ジアミノレゾルシノール、2,4−ジアミノ−3−メチルレゾルシノール、4,6−ジアミノレゾルシノール、4,6−ジアミノ−2−メチルレゾルシノール、9,9−ビス(4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−アミノ−4−ヒドロキシ)フェノキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−アミノ−4−ヒドロキシ)フェノキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−アミノ−4−ヒドロキシ)フェノキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−5−シクロヘキシル−4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシフェニル)フルオレン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシ−2,2’−ジメチルビフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−2,2’−ジメチルビフェニルエーテル、1,1’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス((3−シクロヘキシル−2−メチル)−4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−(4−アミノ−3−ヒドロキシ)フェノキシフェニル)シクロヘキサン等を、例示することが出来る。また、このような芳香族ジヒドロキシジアミンのトリメチルシリル化物や塩酸塩であっても、使用することが可能である。
【0041】
また、シリル化剤としては、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、N−トリメチルシリルアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA )、N−メチル−N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチル−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N−トリメチルシリルジエチルアミン、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N−トリメチリシリルイミダゾール、テトラメチルジシラザン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、N−メチル−N−(tert−ブチルジメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、ジクロロメチルテトラメチルジシラザン、クロロメチルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、フロフェメシルアミン、フロフェメシルクロライド、フロフェメシルジエチルアミン等を、例示することが出来る。
【0042】
次いで、得られた芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と、芳香族ジカルボン酸クロライドとを反応させる。かかる芳香族ジカルボン酸クロライドとしては、以下に述べる芳香族ジカルボン酸を、N,N−ジメチルホルムアミド等の触媒の存在下において、過剰量の塩化チオニルと、室温〜75℃の条件で反応させ、その後、加熱及び減圧することにより、過剰の塩化チオニルを除去する。そして、反応物をヘキサン等の溶媒で再結晶化させることにより、目的とする芳香族ジカルボン酸クロライドを得ることが出来る。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、3−フルオロイソフタル酸、2−フルオロイソフタル酸、3−フルオロフタル酸、2−フルオロフタル酸、2−フルオロテレフタル酸、2,4,5,6−テトラフルオロイソフタル酸、3,4,5,6−テトラフルオロフタル酸、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフェニル−1,1−ジカルボン酸、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジフェニレンジカルボン酸、4,4’−オキシジフェニル−1,1−ジカルボン酸、3,3’−ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,4’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、4,4’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,3’−ジカルボキシルジフェニルケトン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルケトン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルケトン、2,2−ビス(3−カルボキシルフェニル)プロパン、2,2−(3,4’−ジカルボキシルジフェニル)プロパン、2,2−(3,4’−ジカルボキシルジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−カルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−カルボキシルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−カルボキシルフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、2,2−ビス(4−(3−カルボキシルフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−カルボキシルフェノキシ)フェニル)ヘキサンフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(3−カルボキシルフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−カルボキシルフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−カルボキシルフェノキシ)フェニル)スルホン酸等を、例示することが出来る。
【0043】
なお、芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と芳香族ジカルボン酸クロライドとを反応させるに際しては、芳香族ジカルボン酸クロライドの使用量は、芳香族ジヒドロキシジアミンより僅かに少なくすることが好ましい。具体的には、芳香族ジヒドロキシジアミン:芳香族ジカルボン酸クロライド=3.00:2.50〜3.00:2.99(モル比)となるような割合において、芳香族ジカルボン酸クロライドを使用することにより、得られるポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの製膜性がより優れたものとなる。かかる割合において芳香族ジヒドロキシジアミンのシリル化物と芳香族ジカルボン酸クロライドとを反応させることにより、ヒドロキシアミン末端(−NH−OH)を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体が得られる。
【0044】
次いで、ヒドロキシアミン末端(−NH−OH)を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を合成する。
【化68】
【化69】
【化70】
【0045】
ここで、上記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物とは、ベンゼン環を有するシランカップリング剤(フェニル系シランカップリング剤)であり、具体的には、o−アミノフェニルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS)、o−アミノフェニルトリエトキシシラン、m−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、1−イソシアネート−4−トリエトキシシリルベンゼン、1−イソシアネート−3−トリエトキシシリルベンゼン、1−イソシアネート−4−トリメトキシシリルベンゼン、及び1−イソシアネート−3−トリメトキシシリルベンゼンである。このような特定のシランカップリング剤及び芳香族テトラカルボン酸二無水物と、ヒドロキシアミン末端(−NH−OH)を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体とを反応せしめることにより、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体相とシリカ相の前駆体とが特有の有機基を介して一体化されてなる直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッド前駆体が得られるのである。
【0046】
また、芳香族テトラカルボン酸二水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等を、例示することが出来る。
【0047】
以上の如くして合成された、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体を用いて、無機酸化物相たるシリカ相が導入されると共に、オキサゾール化せしめられるのであるが、シリカ相の導入手法としては、ゾル−ゲル法による手法(合成手法A1)と、シリカ微粒子を用いる手法(合成手法A2)がある。
【0048】
ゾル−ゲル法による手法(合成手法A1)においては、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、アルコキシシラン化合物とを、ゾル−ゲル反応せしめることにより、末端にシリカ相を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体が得られる。本発明において用いられるアルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を、例示することが出来る。尚、ゾル−ゲル反応を進行させるためには反応系内に水が必要であることから、ゾル−ゲル反応に必要な量の水が適宜、使用される。
【0049】
一方、シリカ微粒子を用いる手法(合成手法A2)においては、例えば、所定の溶媒内に、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体と、シリカ微粒子とを添加し、混合することにより、末端にシリカ相を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体が得られる。
【0050】
そして、末端にシリカ相を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体をオキサゾール化せしめることにより、目的とする直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドが得られるのである。尚、オキサゾール化の手法としては、従来と同様に、加熱等の手法が有利に採用される。
【0051】
B.分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成
ポリマー相が分岐ポリベンゾオキサゾールであり、且つ無機酸化物相がシリカ相である有機−無機ポリマーハイブリッド(分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッド)は、有利には、以下の合成手法B1又はB2の何れかによって合成される。具体的に、合成手法B1とは、芳香族ジヒドロキシジアミン、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iを合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体Iと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIを合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体IIとアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をオキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを含む手法である。また、合成手法B2とは、芳香族ジヒドロキシジアミン、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’を合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体I’と、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’を合成する工程と、かかる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体II’とシリカ微粒子との混合物を、オキサゾール化することによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを含む手法である。
【化71】
【化72】
【化73】
【0052】
上記の合成手法B1及びB2の何れにおいても、先ず、芳香族ジヒドロキシジアミン、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを、−20〜0℃の温度条件の下、オキシラン化合物を含む有機溶媒内にて重合せしめて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体が合成される。芳香族ジヒドロキシジアミン等からなるモノマー群の重合の際に生じる塩化水素を、オキシラン化合物と反応させて反応系内より除去することにより、芳香族ジヒドロキシジアミン等からなるモノマー群の重合が効果的に進行するのである。
【0053】
ここで、上述した重合の際に用いられるオキシラン化合物としては、塩化水素と反応性を有するオキシラン化合物であれば、如何なるものをも用いることが可能である。具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、ブチレンオキサイド等を、例示することが出来る。また、芳香族ジヒドロキシジアミン及び芳香族ジカルボン酸クロライドとしては、「A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」において列挙した各化合物を、本発明の目的と阻害しない限りにおいて用いることが出来る。また、芳香族トリカルボン酸クロライドとしては、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC )、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸クロライド、4,4’,4”−ベンゼン−1,3,5−トリイル−トリス(安息香酸)クロライド等を用いることが出来る。
【0054】
具体的には、以下のような手順に従って、芳香族ジヒドロキシジアミン等からなるモノマー群を重合させる。先ず、有機溶媒に所定量の芳香族ジヒドロキシジアミンを添加し、溶解させて反応溶液とする。次いで、この反応溶液中に、プロピレンオキサイドを添加し、反応溶液を−20℃に冷却する。そして、芳香族ジカルボン酸クロライド及び芳香族トリカルボン酸クロライドを予め有機溶媒に溶解させてなる混合溶液を、反応溶液に滴下し、−20℃で所定時間、反応させた後、更に室温(25℃)で所定時間、反応させることにより、目的とする分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体が合成され、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液が得られる。各成分の使用量を適宜、変更することにより、得られる分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体がヒドロキシアミン末端(−NH−OH)又はカルボン酸末端(−COOH)の何れかを有することとなる。尚、かかる合成の後に、必要に応じて、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液の精製が行なわれる。
【0055】
モノマー群の第一段階の重合(低温下での重合)を、−20℃未満の温度で実施すると、使用する溶媒(例えばNMP )の融点を下回る可能性があり、有機溶媒が凝固し、均質な前駆体溶液の合成に問題が生じる場合がある。その一方で、0℃を超える温度で実施すると、副反応が進行して余分な重合反応が起こるため、重合物がゲル化する。
【0056】
以上のようにして得られた、ヒドロキシアミン末端(−NH−OH)又はカルボン酸末端(−COOH)の分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体と、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上とを少なくとも用いて、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体が合成される。尚、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物については、「A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」において詳述したとおりである。下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の如き特定のシランカップリング剤を用いることにより、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体相とシリカ相の前駆体とが特有の有機基を介して一体化されてなる分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッド前駆体が得られるのである。
【化74】
【化75】
【化76】
【0057】
なお、ヒドロキシアミン末端(−NH−OH)を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を用いる場合にあっては、上記化学式(11)〜(13)で表わされる特定のシランカップリング剤と共に、芳香族テトラカルボン酸二無水物も併せて用いられる。使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、「A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」において列記した化合物と同様のものを用いることが可能である。
【0058】
以上の如くして合成された、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を用いて、無機酸化物相たるシリカ相が導入されると共に、オキサゾール化せしめられるのであるが、シリカ相の導入手法としては、「A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」と同様に、ゾル−ゲル法による手法(合成手法B1)と、シリカ微粒子を用いる手法(合成手法B2)がある。それら各手法の具体的な手順、用いられる化合物等は、「A.直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」にて前述したものと同様である。各々の手法に従って、末端にシリカ相を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体が得られる。
【0059】
そして、末端にシリカ相を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体をオキサゾール化せしめることにより、目的とする分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドが得られるのである。尚、オキサゾール化の手法としては、従来と同様に、加熱等の手法が有利に採用される。
【0060】
C.直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッドの合成
ポリマー相が直鎖ポリベンゾイミダゾールであり、且つ無機酸化物相がシリカ相である有機−無機ポリマーハイブリッド(直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッド)は、有利には、以下の手法によって合成される。具体的には、芳香族テトラアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドと、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを用いて、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を合成する工程と、かかる直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体とアルコキシシラン化合物の少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物をイミダゾール化せしめることによって有機−無機ポリマーハイブリッドとする工程とを有する手法である。かかる手法においては、先ず、芳香族テトラアミンと、芳香族ジカルボン酸クロライドとを反応させ、アミン末端(−NH2 )を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を合成する。尚、以下の各反応において用いられる化合物であって、「A.ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドの合成」においても用いられるものについては、前述したものと同様のものを、各々、用いることが可能である。
【化77】
【化78】
【化79】
【0061】
本発明において用いられる芳香族テトラアミンとしては、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、1,2,5,6−テトラアミノナフタレン、2,3,6,7−テトラアミノナフタレン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルジトリフルオロメチル、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−(3,4−ジアミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエタン、3,3’,4,4’−テトラアミノ−1,2−ジフェニルエタン、3,3’,4,4’−テトラアミノ−2,2−ジフェニルプロパン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルケトン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルフィド3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル等を、例示することが出来る。また、このような芳香族テトラアミンのトリメチルシリル化物や塩酸塩についても、使用することが可能である。
【0062】
次いで、得られたアミン末端(−NH2 )を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体と、下記化学式(11)〜(13)で表わされる化合物の何れか一種以上と、芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を合成する。
【化80】
【化81】
【化82】
【0063】
そして、以上の如くして合成された、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体を用いて、無機酸化物相たるシリカ相が導入されると共に、イミダゾール化せしめられることにより、目的とする直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッドが得られるのである。尚、シリカ相の導入手法としては、上述したゾル−ゲル法による手法又はシリカ微粒子を用いる手法の何れをも採用することが出来る。
【0064】
本発明に係るハイブリッド材料は、耐熱性のみならず、製造の際の製膜性(薄膜成形性)にも優れていることから、例えば、以下に述べる手法に従うことにより、耐熱性に優れたフィルムとして製造することが可能である。
【0065】
具体的には、末端にトリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(ポリベンゾイミダゾール前駆体)とアルコキシシラン化合物とのゾル−ゲル反応を、所定の溶媒内にて進行させ、その反応溶液をフィルム上にキャストし、加熱することにより溶媒の乾燥及び前駆体のオキサゾール化(イミダゾール化)を実施することにより、耐熱性に優れたポリベンゾオキサゾール(ポリベンゾイミダゾール)−シリカハイブリッドからなるフィルムが有利に得られるのである。
【0066】
そして、そのようにして得られた本発明のハイブリッド材料からなるフィルムは、現存する有機高分子フィルムの中でも最高レベルの、極めて優れた耐熱性を有するのであり、半導体用の層間絶縁膜、保護膜、プリント配線板用フレキシブル基板、太陽電池用フレキシブル基板等の用途に用いられることが期待されるものである。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0068】
なお、以下の実施例及び比較例において得られたフィルムについての5%重量減少温度:Td5の測定は、SEIKO instruments. Inc. 製の熱重量分析装置(商品名:TG-DTA6300)を用いて、熱重量分析により、昇温速度10℃/分、窒素気流下(200ml/分)における測定結果から求めた。5%重量減少温度とは、200℃における重量を基準とし、重量が5.0wt%、減少した際の温度を意味するものである。また、得られるフィルムの製膜性の評価を、屈曲性を評価することによって行なった。具体的には、膜厚:30μmに製膜したフィルムを、縦:3cm×横:1cmの大きさに切り出し、その切り出したフィルムを直径:2mmの棒に巻きつけ、フィルムに割れやひびが生じるか否かを目視で確認した。フィルムに割れやひびが生じない場合を○と、割れやひびが生じる場合を×と、それぞれ評価した。以下の実施例及び比較例における5%重量減少温度:Td5の測定結果、及び屈曲性の評価結果を、下記表1に示す。
【0069】
−実施例1〜4−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):2.59g(12mmol)を量り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP ):20mLを加えて完全に溶解させた。その後、反応溶液中にN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA ):9.78g(48mmol)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、HAB のシリル化を行なった。この反応溶液を液体窒素にて冷却し、イソフタル酸クロライド(IPC ):2.13g(11.4mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液]を得た。
【0070】
次いで、このヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液中にp−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS):0.26g(1.2mmol)を加え、完全に溶解させた後、更に無水ピロメリット酸(PMDA):0.26g(1.2mmol)を加え、12時間反応させ、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[以下、シラン末端直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液という。]を調製した。
【0071】
得られたシラン末端直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液中へ任意量のテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、実施例1においては1重量%、実施例2においては10重量%、実施例3においては20重量%、実施例4においては30重量%となるような割合において、それぞれ加えた。この直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。実施例1〜4における各フィルムのTd5は、各々、実施例1は626℃、実施例2は625℃、実施例3は641℃、実施例4は650℃であった。また、屈曲性の評価結果は、全てのフィルムに割れやひびは発生せず、○であった。
【0072】
−実施例5−
シリカ成分として、日産化学株式会社製のDMAc分散コロイダルシリカ粒子(平均粒子径:10〜15mm)を用いた以外は実施例1と同様の手法により、直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(colloidal silica)ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。尚、DMAc分散コロイダルシリカ粒子は、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が20重量%となるような割合において加えた。得られたフィルムのTd5は633℃であり、また屈曲性の評価結果も、フィルムに割れやひびは発生せず、○であった。
【0073】
−実施例6〜10−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP):2.20g(6.0mmol)を量り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP ):39mLを加えて完全に溶解させた。その後、反応溶液中にN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA ):5.72g(28mmol)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、6FAPのシリル化を行なった。この反応溶液を液体窒素にて冷却し、4,4’−オキシジフェニル−1,1−ジカルボン酸クロライド(OBC ):1.68g(5.7mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端直鎖ポリベンゾオキサゾール6F前駆体溶液[ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体溶液]を得た。
【0074】
次いで、このヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体溶液を、イオン交換水中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体をろ過により回収し、イオン交換水で徹底的に洗浄した後、50℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液中にp−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS):0.13g(0.6mmol)を加え、完全に溶解させた後、更に無水ピロメリット酸(PMDA):0.13g(0.6mmol)を加え、12時間反応させ、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[以下、シラン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) :PAPTMS前駆体溶液という。]を調製した。
【0075】
得られたシラン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) :PAPTMS前駆体溶液中へ任意量のテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、直鎖PBO(OBC-6FAP) :PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、実施例6においては1重量%、実施例7においては10重量%、実施例8においては20重量%、実施例9においては30重量%、実施例10においては40重量%となるような割合において、それぞれ加えた。この直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(OBC-6FAP) :PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた直鎖PBO(OBC-6FAP) :PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、420℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(OBC-6FAP):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。表1にTd5の測定結果を示す。
【0076】
−実施例11−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLのフラスコ内を窒素で置換した後、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):1.73g(8mmol)を量り取り、N−メチルピロリドン(NMP ):100mLを加え、溶解させた。次いで、反応溶液中にプロピレンオキサイド(PO):3mLを添加し、反応溶液を−20℃に冷却した。更に、別途準備した、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC ):0.27g(1mmol)及びイソフタル酸クロライド(IPC ):1.22g(6mmol)を30mLのNMP に溶解させてなる混合溶液を、反応溶液中に、20分かけて徐々に加えた後、−20℃で2時間、反応させ、加えて25℃で20時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体[分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体]溶液を調製した。
【0077】
次いで、このヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、50℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液中にp−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS):0.22g(1.0mmol)を加え、完全に溶解させた後、更に、無水ピロメリット酸(PMDA):0.22g(1.0mmol)を加え、12時間反応させ、末端にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[以下、シラン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液という。]を調製した。
【0078】
得られたシラン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液中へテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、10重量%となるような割合において加えた。この分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。表1にTd5の測定結果を示す。
【0079】
−実施例12−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLのフラスコ内を窒素で置換した後、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC ):0.27g(1mmol)及びイソフタル酸クロライド(IPC ):1.62g(8mmol)を量り取り、N−メチルピロリドン(NMP ):100mLを加え溶解させ、反応溶液を−20℃に冷却した。次いで、別途準備した4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):1.95g(9mmol)をNMP :20mLに溶解させ、更にプロピレンオキサイド(PO):3mLを添加した混合用液を、反応溶液中に、20分かけて徐々に加えた後、−20℃で2時間反応させ、次いで25℃で20時間反応させることにより、カルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体[分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体]溶液を調製した。
【0080】
次いで、このカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、50℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液中にp−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS):0.22g(1.0mmol)を加え、完全に溶解させることにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にトリメトキシシリル基を有する分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[以下、シラン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液という。]を調製した。
【0081】
得られたシラン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体溶液中へテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、10重量%となるような割合において加えた。この分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。表1にTd5の測定結果を示す。
【0082】
−実施例13−
シリカ成分として、日産化学株式会社製のDMAc分散コロイダルシリカ粒子(平均粒子径:10〜15mm)を用いた以外は実施例12と同様の手法により、分岐ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、分岐PBO(BTC/IPC-HAB):PAPTMS−シリカ(colloidal silica)ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。尚、DMAc分散コロイダルシリカ粒子は、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が10重量%となるような割合において加えた。表1にTd5の測定結果を示す。
【0083】
−実施例14、15−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB ):1.47g(7.25mmol)を量り取り、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):55mLを加えて完全に溶解させた。その後、重合中に発生する塩化水素と塩を形成させるために、塩基化合物であるピリジン(py):0.67g(8.46mmol)及びトリエチルアミン(TEA ):0.86g(8.46mmol)を加えた。この溶液を−5℃に氷冷し、撹拌しながら、予めN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):6mLに溶解させたイソフタル酸クロライド(IPC ):1.40g(6.89mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、アミン末端直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体溶液[アミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液]を得た。
【0084】
次いで、このアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液を水中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体をろ過により回収し、メタノールで徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体を、DMAcに再溶解させ、この溶液中にp−アミノフェニルトリメトキシシラン(PAPTMS):0.16g(0.73mmol)を加え、完全に溶解させた後、更に無水ピロメリット酸(PMDA):0.16g(0.73mmol)を加え、12時間反応させ、末端にトリメトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体溶液[以下、シラン末端直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS前駆体溶液という。]を調製した。
【0085】
得られたシラン末端直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS前駆体溶液中へ任意量のテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、実施例14においては1重量%、実施例15においては20重量%となるような割合において、それぞれ加えた。この直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、410℃で3時間、加熱処理することによってイミダゾール化を行ない、直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):PAPTMS−シリカハイブリッドフィルムともいう。]を得た。実施例14、15における各フィルムのTd5は、実施例14は624℃、実施例15は628℃であった。また、屈曲性の評価結果は、何れのフィルムにも割れやひびは発生せず、○であった。
【0086】
−比較例1−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):2.59g(12mmol)を量り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP ):20mLを加えて完全に溶解させた。その後、反応溶液中にN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA ):9.78g(48mmol)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、HAB のシリル化を行なった。この反応溶液を液体窒素にて冷却し、イソフタル酸クロライド(IPC ):2.13g(11.4mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液]を得た。
【0087】
次いで、このヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることでヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体フィルムの作成を試みたが、十分な高分子量体に成長していないため、脆弱でありフィルム強度および屈曲性に欠けていた。得られたヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体フィルム片を、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することでオキサゾール化を行ない、ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)フィルム片を得た。得られたフィルムのTd5は603℃であり、屈曲性の評価結果は、フィルムに割れやひびは発生せず、○であった。
【0088】
−比較例2、3−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):2.59g(12mmol)を量り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP ):20mLを加えて完全に溶解させた。その後、反応溶液中にN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA ):9.78g(48mmol)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、HAB のシリル化を行なった。この反応溶液を液体窒素にて冷却し、イソフタル酸クロライド(IPC ):2.13g(11.4mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液]を得た。
【0089】
次いで、このヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体溶液を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(IPC-HAB)前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液中に2−(3−トリエトキシシリルプロピル)琥珀酸無水物(TEPSA ):0.36g(1.2mmol)を加え、末端にトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[以下、シラン末端直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA 前駆体溶液という。]を調製した。
【0090】
得られたシラン末端直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA 前駆体溶液中へ任意量のテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することによりゾル−ゲル反応を進行させ、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSはオキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、比較例3においては1重量%、比較例4においては20重量%となるような割合において、それぞれ加えた。この反応溶液を、ポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、直鎖ポリベンゾオキサゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBO(IPC-HAB):TEPSA−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。比較例2、3における各フィルムのTd5は、比較例2は521℃、比較例3は535℃であり、また、屈曲性の評価結果は、何れのフィルムにも割れやひびは発生せず、○であった。
【0091】
−比較例4−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP):2.20g(6.0mmol)を量り取り、N−メチル−2−ピロリドン(NMP ):39mLを加えて完全に溶解させた。その後、反応溶液中にN,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA ):5.72g(28mmol)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、6FAPのシリル化を行なった。この反応溶液を液体窒素にて冷却し、4,4’−オキシジフェニル−1,1−ジカルボン酸クロライド(OBC):1.68g(5.7mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端直鎖ポリベンゾオキサゾール前駆体溶液[ヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体溶液]を得た。
【0092】
次いで、このヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体溶液を、イオン交換水中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体をろ過により回収し、イオン交換水で徹底的に洗浄した後、50℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることでヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体フィルムの作成を試みたが、十分な高分子量体に成長していないため、脆弱でありフィルム強度および屈曲性に欠けていた。得られたヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) 前駆体フィルム片を、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、420℃で3時間、加熱処理することでオキサゾール化を行なった。得られたヒドロキシアミン末端直鎖PBO(OBC-6FAP) フィルム片を用いたTd5の測定結果を、下記表2に示す。
【0093】
−比較例5−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLのフラスコ内を窒素で置換した後、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):1.73g(8mmol)を量り取り、N−メチルピロリドン(NMP ):100mLを加え、溶解させた。次いで、反応溶液中にプロピレンオキサイド(PO):3mLを添加し、反応溶液を−20℃に冷却した。更に、別途準備した、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC ):0.27g(1mmol)及びイソフタル酸クロライド(IPC ):1.22g(6mmol)を30mLのNMP に溶解させてなる混合溶液を、反応溶液中に、20分かけて徐々に加えた後、−20℃で2時間、反応させ、加えて25℃で20時間、反応させることにより、ヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体[分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体]溶液を調製した。
【0094】
次いで、このヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、50℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、ヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体フィルム[以下、ヒドロキシアミン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体フィルムという。]を得た。得られたヒドロキシアミン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体フィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、500℃で3時間、加熱処理することによってオキサゾール化を行ない、ヒドロキシアミン末端分岐ポリベンゾオキサゾールフィルム[ヒドロキシアミン末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB)フィルム]を得た。表2にTd5の測定結果を示す。
【0095】
−比較例6−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた200mLのフラスコ内を窒素で置換した後、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸クロライド(BTC ):0.27g(1mmol)及びイソフタル酸クロライド(IPC ):1.62g(8mmol)を量り取り、N−メチルピロリドン(NMP ):100mLを加え溶解させ、反応溶液を−20℃に冷却した。次いで、別途準備した4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB ):1.95g(9ミリモル)をNMP:20mLに溶解させ、更にプロピレンオキサイド(PO)の3mLを添加した混合用液を、反応溶液中に、20分かけて徐々に加えた後、−20℃で2時間反応させ、次いで25℃で20時間反応させることにより、カルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体[分岐PBO(BTC/IPC-HAB)前駆体]溶液を調製した。
【0096】
次いで、このカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体をろ過により回収し、水:メタノール=4:1(重量比)の混合溶液で徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のカルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体を、NMP に再溶解させ、この溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で4時間、乾燥させることにより、カルボン酸末端分岐ポリベンゾオキサゾール前駆体フィルム[以下、カルボン酸末端分岐PBO(BTC/IPC-HAB)フィルムという。]を得た。表2にTd5の測定結果を示す。
【0097】
−比較例7−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB ):1.47g(7.25mmol)を量り取り、N,N,−ジメチルアセトアミド(DMAc):55mLを加えて完全に溶解させた。その後、重合中に発生する塩化水素と塩を形成させるために、塩基化合物であるピリジン(py):0.67g(8.46mmol)及びトリエチルアミン(TEA ):0.86g(8.46mmol)を加えた。この溶液を−5℃に氷冷し、撹拌しながら、予めN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):6mLに溶解させたイソフタル酸クロライド(IPC ):1.40g(6.89mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、さらに25℃で24時間、反応させることにより、アミン末端直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体溶液[アミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液]を得た。
【0098】
次いで、このアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液を水中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体をろ過により回収し、メタノールで徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体を、DMAcに再溶解させ、この溶液をポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で3時間、乾燥させることでアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体フィルムの作成を試みたが、製膜性に乏しくフィルム化できなかった。断片状のフィルムを用いて屈曲性の評価を行なったところ、試料(断片状のフィルム)に割れやひびが生じたため、×であった。また、屈曲性の評価において生じた試料の破片を用いてTd5を測定したところ、624℃であった。
【0099】
−比較例8、9−
攪拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLフラスコ内を、窒素で置換した後、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(DAB ):1.47g(7.25mmol)を量り取り、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):55mLを加えて完全に溶解させた。その後、重合中に発生する塩化水素と塩を形成させるために、塩基化合物であるピリジン(py):0.67g(8.46mmol)及びトリエチルアミン(TEA ):0.86g(8.46mmol)を加えた。この溶液を−5℃に氷冷し、撹拌しながら、予めN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc):6mLに溶解させたイソフタル酸クロライド(IPC ):1.40g(6.89mmol)を加えた後、−5℃で1時間、反応させ、更に25℃で24時間、反応させることによりアミン末端直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体溶液[アミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液]を得た。
【0100】
次いで、このアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体溶液を水中に滴下し、再沈殿精製を行なった。得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体をろ過により回収し、メタノールで徹底的に洗浄した後、85℃で12時間、真空乾燥を行なった。このようにして得られた固体状のアミン末端直鎖PBI(IPC-DAB)前駆体を、DMAcに再溶解させ、この溶液中に2−(3−トリエトキシシリルプロピル)琥珀酸無水物(TEPSA ):0.22g(0.73mmol)を加え、末端にトリエトキシシリル基を有する直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体溶液[以下、シラン末端直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA 前駆体溶液という。]を調製した。
【0101】
得られたシラン末端直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA 前駆体溶液中へ任意量のテトラメトキシシラン(TMOS)、加水分解に必要な水、及び、触媒としての1N塩化水素酸水溶液を数滴、添加し、室温で24時間、攪拌することでゾル−ゲル反応を進行させ、直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッド溶液ともいう。]を調製した。尚、TMOSは、オキサゾール化後のフィルムにおけるシリカ含有量が、比較例8においては1重量%、比較例9においては20重量%となるような割合において、それぞれ加えた。この直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッド溶液を、ポリエステルフイルム上にキャストし、85℃で3時間、乾燥させることにより、直鎖ポリベンゾイミダゾール前駆体−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムともいう。]を得た。得られた直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA 前駆体−シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムを、金枠に固定した後、窒素雰囲気下にて、150℃で1時間、410℃で4時間、加熱処理することによってイミダゾール化を行ない、直鎖ポリベンゾイミダゾール−シリカハイブリッドフィルム[以下、直鎖PBI(IPC-DAB):TEPSA −シリカ(sol-gel )ハイブリッドフィルムをもいう。]を得た。比較例8、9における各フィルムのTd5は、比較例8は588℃、比較例9は618℃であった。また、屈曲性の評価結果は、何れのフィルムにおいても割れやひびは発生せず、○であった。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
上記表1及び表2からも明らかなように、本発明に従うハイブリッド材料からなるフィルムは、何れも高い耐熱性を有すると共に、有利に製膜化することが出来るものであることが確認された。
図1