(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、セパレータと、非水系溶媒に電解質を溶解してなる非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池において、該セパレータは厚み(セパレータの両表面に導電層が形成されている場合は両表面の導電層の合計の厚み)が15μm以下の導電層を有し、該導電層の見掛け体積抵抗率が1×10-4Ω・cm乃至1×106Ω・cmで、該導電層が少なくとも炭素質材料を含み、かつ該非水系
電解液がフッ素化カーボネートを含有するものであることを特徴とする非水系電解液二次電池。
リチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、セパレータと、非水系溶媒に電解質を溶解してなる非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池において、該セパレータは厚み(セパレータの両表面に導電層が形成されている場合は両表面の導電層の合計の厚み)が15μm以下の導電層を有し、該導電層の体積抵抗率が1×10-6Ω・cm乃至1×106Ω・cmで、該導電層が少なくとも炭素質材料を含み、かつ該非水系電解液
がフッ素化カーボネートを含有するものであることを特徴とする非水系電解液二次電池。
リチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、セパレータと、非水系溶媒に電解質を溶解してなる非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池において、該セパレータは厚み(セパレータの両表面に導電層が形成されている場合は両表面の導電層の合計の厚み)が15μm以下の導電層を有し、該導電層の表面電気抵抗が1×10-2Ω乃至1×109Ωで、該導電層が少なくとも炭素質材料を含み、かつ該非水系電解液がフッ素化
カーボネートを含有するものであることを特徴とする非水系電解液二次電池。
前記フッ素化カーボネートがエチレンカーボネートを構成する水素原子のうち、1個または2個をフッ素原子および/またはフッ化アルキル基で置換した化合物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、コバルト酸リチウムに代表されるリチウム化合物などの正極活物質を含有する活物質層を集電体上に形成させた正極と、黒鉛などに代表されるリチウムの吸蔵・放出が可能な炭素材料などの負極活物質を含有する活物質層を集電体上に形成させた負極と、LiPF
6等のリチウム塩等の電解質を非プロトン性の非水系溶媒に溶解した非水系電解液と、高分子多孔質膜からなるセパレータとから構成され、高いエネルギー密度を持ちながら軽量であることに特徴がある。
【0003】
リチウム二次電池は、この特徴を生かして、近年の電気製品の軽量化、小型化に伴ない、携帯電話やノート型パーソナルコンピューター、電動工具などの広い分野で使用されるに至っている。特に最近の地球温暖化問題に対する世界的な関心の高まりを背景に、自動車業界では電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、そのキーデバイスとなる高容量、高出力のリチウム二次電池の開発が盛んに行われている。
【0004】
EV用あるいはHEV用リチウム二次電池は、モーター駆動のために数百ボルトの高電圧を要するため、多数の単セルを直列に接続して必要な高電圧を作り出している。この際に組み立てや管理の便のために、通常は数個から10個程度の単セルを直列に接続して構成されたモジュール電池を作成し、複数のモジュール電池を組み合わせて全体の電池システムを構築している。電池の入出力等の制御は通常はモジュール電池単位で行うため、数十Vの電圧がモジュール電池に印加されることになるが、モジュール電池の中に不良セルが混在した場合、最悪の事態としては1個の単セルにモジュール電池全体の数十Vの電圧が印加される極端な過充電状態から、内部短絡、熱暴走、他の正常な電池への熱暴走波及にいたる状況が想定される。また複数の電池を直列に接続する際の配線ミスや、充電器の誤作動、交通事故などによる電池の破損などでも同様の事態が発生する。このような事態を防止する最も効果的な方法は、単セルを個別に監視・制御することであるが、制御の煩雑さやコスト面から現実的な方法ではなく、過充電状態に対して耐性を有するような材料系が強く求められている。
【0005】
過充電状態に対する対策としては、特許文献1に示すように、電解液中に過充電防止剤を添加する方法が従来より用いられている。これらの手法は、電池の上限電圧値以上の酸化電位を有する化合物を過充電防止剤として電解液中に添加し、過充電状態となった際に上記化合物が酸化重合して活物質表面に高抵抗の被膜を形成することで過充電電流を抑えて過充電の進行を止める、または重合反応によって発生するガスや熱による内圧、温度変化を感知し充電を止める方法である。しかしながら過充電防止剤として使用される化合物はその目的上、電気化学的、化学的に活性な物質が多く、電解液中に多量に加えると電池の通常の使用条件においても反応を起こすことがあり、電池の抵抗の増加や容量の低下を引き起こす原因となる。一方で、その添加量を少なくすると大電流が流れるEV用あるいはHEV用リチウム二次電池においては、過充電時に消費可能な電流量が小さくなり充分な効果を挙げることが困難となる。
【0006】
また携帯機器用途の電池における充電上限電圧は通常4V乃至16V程度であるのに対してEV用あるいはHEV用電池モジュールの充電上限電圧は20V乃至、数百Vであり、上述のように不良電池の混入により極端な過充電状態に至ると急激に反応が進行し過充電防止剤による被膜も容易に分解されてしまうため、過充電防止剤単独では安全性を確保することは困難である。
【0007】
一方、電池の過充電対策とは別に、セパレータに導電性を持たせることによりリチウムイオン電池の短絡を防止する試みがなされており、このような技術としては、例えば特許文献2〜5などが挙げられる。また特許文献6および7ではセパレータに導電性を持たせることでサイクル特性を改善する技術が開示されている。特許文献8ではグラファイト等を分散したアクリル系粘着材をセパレータに塗布することで電極との密着性を高めて巻きずれを防止する技術が開示されている。特許文献9ではセパレータに金属粒子を塗布して過充電にて発生するガスを吸着させることで安全性を高める技術が開示されている。
【0008】
特許文献2には、セパレータ表面に帯電防止剤を混入又は塗布又はスプレーすることにより、セパレータに帯電防止性を持たせて、電池製造工程における活物質などの導電性微粒子の静電気による付着を防止して、微粒子の貫通による短絡を防止する技術が開示されている。しかしながら、帯電防止剤は一般に空気中の水分を吸着して遊離するイオンを利用して帯電防止を行うものであり、基本的に水分を排除する非水系電解液二次電池においてはその効力を発揮し得ないものであった。即ち、この方法で得られたセパレータを非水系電解液二次電池に用いても、表面に導電性を有するセパレータとしては機能しない。
【0009】
特許文献3には、セパレータ表面にLi、Na又はKからなるアルカリ金属粉末層を形成して非可逆特性を改善する技術が開示されている。しかしながら、周知のようにアルカリ金属は反応性に富む金属であり、容易に空気中の酸素や水分と反応するため、セパレータ表面にこのような金属粉末層を形成することは、安全上、大きな問題がある。
特許文献3でも、安全性に関する問題が指摘されており、その解決手段としてアルカリ金属の高分子コーティング等が挙げられているが、高分子コーティングを行えば金属の持つ導電性は阻害されるため、表面に導電性を有するセパレータを形成し得ない。
【0010】
特許文献4には、熱可塑性樹脂と導電性充填剤を含む樹脂組成物を延伸してなるセパレータが開示されているが、特許文献4が開示する技術は、通常電池を使用する条件下では、セパレータ内の導電性充填剤間の距離が充分大きいためセパレータは非導電性であり、内部短絡などの異常時にはセパレータが熱収縮して導電性充填剤同士が接触して導電パスを形成し(シャットダウン効果)、速やかに電池の残存容量を放電して安全ならしめるものである。即ち、特許文献4のセパレータは、通常の電池使用時には、表面はもとより全体として導電性を有さない。
【0011】
特許文献5には、セパレータの厚み方向の熱伝導率を高める手法の1つとして、導電性粒子を含有する電気伝導層、および非導電性粒子を含有する電気絶縁層を有する多層多孔質膜が開示されている。しかし、セパレータの熱伝導率を高めるためには、これらの粒子が互いにパーコレーションを形成する必要があり、そのために特許文献5では充填剤を多量に添加する必要性を述べているが、充填剤を多量に含む高分子フィルムは一般に可撓性が低下して脆くなる傾向がある。一方、周知のように非水系電解液二次電池の活物質、特に負極活物質はリチウムの吸蔵により体積が膨張するため、セパレータに大きな圧力が掛かっている。特に、過充電状態では活物質の体積膨張が一層促進され、通常の電池使用状態よりもさらに大きな圧力がセパレータに掛かるため、特許文献5に開示される強度的に脆いセパレータでは、過充電状態で内部短絡を起こす可能性が高いという不具合がある。過充電状態における活物質の体積膨張による短絡を防止するには通常少なくとも250g以上の突刺強度が必要であり、好ましくは300g以上、より好ましくは350g以上が必要である。また特許文献5は電気導電層の厚みについてセパレータ全体の2/3以上が好ましいとしているが、導電層の厚みが厚いと集電体として機能することがあり、セパレータ表面を大きな充放電電流が流れてそのジュール発熱によりセパレータの熱劣化が早まるという不具合がある。
【0012】
特許文献6ではセパレータ表面に導電性を持たせて、正電極導電体(集電体)の導電性能が悪化するときにセパレータ表面の導電層が正電極導電体(集電体)として作用することにより電池のサイクル寿命を延ばす機能を有するセパレータが開示されている。しかしながら特許文献6に開示されるようにセパレータ表面の導電層が正電極導電体(集電体)として作用するということは通常の電池の使用状況でもセパレータ表面を大きな充放電電流が流れていることであり、そのジュール発熱によりセパレータの熱劣化が進行するという不具合がある。
【0013】
特許文献7ではセパレータ表面に設けた導電性皮膜上に活物質を塗布してセパレータと電極を一体化することで、電極を薄く構成し電極同士の対向面積を広くし、電流密度を小さくして負極の消耗速度を抑えてサイクル寿命を向上させる技術が開示されている。しかしながら特許文献7に開示されるようにセパレータの一方の表面に導電性皮膜を形成して集電体として、その上に活物質を主体とするペーストを塗布した場合、ペーストの溶媒はセパレータに浸透するため溶媒に溶解しているバインダー樹脂もセパレータに浸透してセパレータの微細孔を閉塞して電池性能を低下させるという問題がある。また基材としてマイクロポーラスフィルムの代わりに不織布や織布を用いた場合は、活物質も基材に浸透して厚み方向に貫通してしまう危険性がある。また導電性皮膜が集電体として働くため、セパレータ表面を大きな充放電電流が流れて、そのジュール発熱によりセパレータの熱劣化が進行するという不具合がある。また非特許文献1に記されている通り、通常電極は塗布、乾燥後にロールプレスによる圧縮を行い厚みの均一化、表面の平滑化、集電体からの剥離防止を行うが、特許文献7に開示されるセパレータと電極の一体化物ではプレスを行うことでセパレータの変形や微細孔の潰れ、あるいは活物質によるセパレータの突き破り等の危険性があってプレスを行うことは困難であり、非特許文献1に記されている通り歩留まりが低下するという問題がある。さらに正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、高い電気抵抗を有している。したがって、このリチウム遷移金属複合酸化物のみで正極を形成した場合には導電性が不充分であるのでリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いる場合には、アセチレンブラック、カーボンブラック、天然黒鉛および人造黒鉛の微粒子などの導電剤を添加することによって導電性を確保しているが、プレスを行わない場合、導電パスが充分に形成されず電池性能が低下するという問題がある。
【0014】
特許文献8ではセパレータ表面に黒鉛またはグラファイトを分散したアクリル系粘着剤を塗布してセパレータと電極との密着性を高めて巻きずれを防止する技術が開示されている。しかしながら充分な接着力の発現のためには接着剤層の厚みを5μm以上にすることが必要であり、他の特許文献と同様に接着剤層が集電体として機能してセパレータ表面を大充放電電流が流れてセパレータの熱劣化を進行させるという不具合がある。また、接着剤層の厚みが5μm以上であると、通気性を阻害する要因となる場合がある。
【0015】
特許文献9には正極に対向するセパレータ表面にTi,Al,Sn,Bi,Cu,Si,Ga,W,Zr,B,Mo等を被覆したセパレータを用いることで、過充電状態で発生した酸素ガスを吸収して発火、爆発を抑制する技術が開示されている。しかしながら正極より発生する酸素ガスを充分に吸収するためには正極活物質と同程度の量の金属で被覆する必要があり、金属の酸化反応が一般に発熱反応であることから、セパレータの熱収縮やメルトダウン等が生じる危険性が高いという問題がある。特許文献9では1.5〜2.5Cの比較的低速な充電速度を取ることによってこの課題を回避しているが、より高速な放電速度に対しては充分に対処し得ないものであった。特許文献9に開示される技術は安全性を考慮した場合、上述のように金属被覆層の厚みが重要となるがこれらについて記述はなく電池の安全向上に関して不充分なものであった。
【0016】
一方、電池の安定性を高めるために電解液にフッ素原子を有するカーボネート類(これを以下、「フッ素化カーボネート」と略記する場合がある)を用いる技術が知られている(特許文献10〜14)。これらの文献にはフッ素化カーボネートの添加により電池の熱安定性を向上させ、安全性能を向上させることが記載されている。但し、EV用あるいはHEV用電池モジュールに用いられる、充電上限電圧が20V乃至数百Vとなる場合の過充電に関する検討は行われていない。
【0017】
また二次電池のサイクルに伴う容量低下や高温での信頼性の低下を抑制し、且つ動作電圧を高める技術として、ハロゲン置換炭酸エステルを添加する技術が知られている(特許文献15)。この文献にはハロゲン置換炭酸エステルの添加により電池が高い電位にあっても安定に動作すると記載されている。しかしながら、この文献で実施されている高電位とは4.8Vであり、EV用あるいはHEV用電池モジュールに用いられるような、充電上限電圧が20V乃至数百Vとなる場合への過充電防止についてはなんら検討されていない。
【0018】
上述したように、EV用あるいはHEV用の電池モジュールにおいては数十V以上の電圧下で反応して過充電反応を抑制するような新技術が求められているが、これを満足する技術は未だ見出されていない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、これらの具体的内容に限定はされず、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
本発明の非水系電解液二次電池は、リチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、セパレータと、非水系溶媒に電解質を溶解してなる非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池であって、用いられるセパレータが導電層を有すること、及び非水系電解液がフッ素化カーボネート含有することを特徴とする。
【0031】
[非水系電解液二次電池用セパレータ]
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータは、導電層を有することを特徴とし、該導電層の見掛け体積抵抗率が1×10
-4Ω・cm乃至1×10
6Ω・cmである。または、少なくとも一方の表面に導電層を有することを特徴とし、該導電層の体積抵抗率が1×10
-6Ω・cm乃至1×10
6Ω・cmである。または、該セパレータは導電層を有することを特徴とし、該導電層の表面電気抵抗が1×10
-2Ω乃至1×10
9Ωである。
【0032】
{基材}
本発明のセパレータは、例えば、通常の非水系電解液二次電池で用いられるセパレータや、従来公知の方法で得られる多孔質フィルムや不織布を基材とし、この基材の少なくとも一方の表面に導電層を形成する、或いは、導電層を基材で挟み込み中間層として形成することにより製造することができ、この基材の構成材料や製法には特に制限はない。
【0033】
本発明のセパレータの基材となるセパレータ本体(従来のセパレータ)や多孔質フィルムを得る方法の例としては、具体的には、次のような方法が挙げられる。
(1) ポリオレフィン樹脂に、ポリオレフィン樹脂に対して相溶性があり後工程で抽出可能な低分子量物を加えて溶融混練、シート化を行い、延伸後又は延伸前に該低分子量物の抽出を行って多孔化する抽出法
(2) 結晶性樹脂を高ドラフト比でシート化して作成した高弾性シートに低温延伸と高温延伸を加えて多孔化する延伸法
(3) 熱可塑性樹脂に無機又は有機の充填剤を加えて溶融混練、シート化を行い、延伸により樹脂と充填剤の界面を剥離させて多孔化する界面剥離法
(4) ポリプロピレン樹脂にβ晶核剤を添加して溶融混練、シート化を行い、β晶を生成させたシートを延伸して結晶転移を利用して多孔化するβ晶核剤法
【0034】
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータの基材としては、より具体的には、後述の実施例で用いた従来の三層セパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)、あるいは抽出法による単層セパレータ(ポリエチレン)等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0035】
{導電層}
<導電材>
本発明に係る導電層を構成する材料(以下、「導電材」と称す場合がある。)としては、導電性を有するものであれば良く、特に制限はないが、例えば、金属、炭素質材料を用いることができる。
【0036】
導電材が金属である場合、非水系電解液二次電池組み立て時に正極に対向する導電層と負極に対向する導電層では、好適な金属材料の選定基準が異なる。
即ち、導電層が正極に対向する場合、導電層は高電位に曝されるため、酸化電位の高い金や白金又はその合金類が好ましく使用される。また、陽極酸化により不働態皮膜を生じるバルブ金属も好適に使うことができる。バルブ金属の例としてはアルミニウムやタングステン、モリブデン、チタン、タンタルなどが挙げられる。また、酸化クロムの皮膜を持つステンレス鋼も好適に用いることができる。
【0037】
負極に対向する導電層については、リチウムと合金を形成しない金属材料を選ぶ必要がある。そのような金属としては、銅やニッケル、チタン、鉄、モリブデン、あるいはクロム等が挙げられ、何れも好適に使用することができる。
【0038】
導電材が炭素質材料の場合、正極に対向する導電層と負極に対向する導電層に特段の差異はなく、黒鉛、カーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素微粒子あるいはカーボンナノチューブ等のナノカーボン材料の何れも好適に使用することができる。炭素質材料はその製法によって特に限定されるものではなく、黒鉛であれば天然黒鉛、人造黒鉛の何れも好適に使用することができる。また、カーボンブラックであれば、天然ガス、アセチレン、アントラセン、ナフタリン、コールタール、芳香族系石油留分などを不完全燃焼させて得られた黒色炭素粉末であるケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが何れも好適に使用される。
【0039】
なお、導電材は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
<形成方法>
導電層の形成方法は特に制限されず公知の方法が用いられる。
一例を挙げれば、スパッタリングやイオンプレーティング、真空蒸着等の方法で前述の基材の少なくとも一方の表面に導電層を形成する方法が挙げられる。また、他の例としては、導電材をバインダー等と共に溶媒中に混合したスラリーを調製し、このスラリーをドクターブレード又はロールコータ、ダイコータ、その他ディッピングやスプレー法等などの公知の手法で基材の少なくとも一方の表面に塗布、乾燥して導電層を形成する方法が挙げられる。また、導電層をセパレータ内部に形成する場合には、片面に導電層を形成したセパレータに他の多孔質基材を積層して一体とする方法や、多層成形において内部の層に導電材を含有させる方法などが挙げられる。
【0041】
上記塗布法により導電層を形成する場合、スラリーの調製に使用する溶媒やバインダー等は、導電材や基材を構成する樹脂に応じて任意に選びうるが、一例としてポリオレフィン製基材の表面に、導電材としてカーボンブラックを用いた導電層を塗布法により形成する場合、バインダーとしては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の水溶性化合物の1種又は2種以上を用いることができ、また、溶媒としては水が好適に用いられる。従って、この場合には、ポリビニルアルコール水溶液、もしくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液にカーボンブラックを分散させたスラリーをセパレータ表面に塗布して乾燥させることにより導電層が形成される。
【0042】
この、スラリー中の導電材の固形分濃度は通常1重量%以上であり、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。また、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。導電材の固形分濃度が上記範囲である場合には、均一で塗布ムラのない塗布が可能となり、好ましい。
【0043】
また、スラリー中のポリビニルアルコール等のバインダー含有量は、導電材100重量部に対して通常1重量部以上、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上である。また、通常50重量部以下、好ましくは35重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。バインダーの含有量が上記範囲である場合には、導電層に適度な機械的強度、通気性、導電性を持たせることができ、好ましい。
【0044】
<厚み>
導電層の厚み(一方の表面当たりの厚み)は、通常0.001μm以上、好ましくは0.003μm以上、より好ましくは0.005μm以上である。また、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。導電層の厚みが上記範囲にある場合には、耐過充電性の改善効果がより効果的に発揮され、好ましい。
【0045】
なお、導電層はセパレータの一方の表面にのみ形成してもよく、両表面に形成してもよく、中間層として内部に形成してもよいが、表面に形成することが好ましい。
【0046】
セパレータの両表面に導電層を形成する場合は、セパレータ全体の厚みを抑える上で、両表面の導電層の合計の厚みが15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。また、導電層が炭素質材料を用いる場合には、0.002μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましい。
また、導電層が金属材料よりなる場合には、好ましくは0.002μm以上であり、0.01μm以上であることがより好ましい。一方上限は、好ましくは1μm以下であり、0.6μ以下であることがより好ましく、0.2μm以下であることが更に好ましい。なお、導電層の厚みは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0047】
セパレータの両表面に導電層を形成する場合には、セパレータの両表面で、形成された導電層の厚みや用いた導電材が異なるものであっても、同一であっても良く、例えば、前述の如く、セパレータの一方の表面には、負極対向面側として好適な金属を用い、セパレータの他方の表面には、正極対向面側として好適な金属を用いるようにしても良い。
【0048】
<表面電気抵抗、表面抵抗率および体積抵抗率>
本発明のセパレータは、(1)見掛け体積抵抗率が1×10
-4 Ω・cm乃至1×10
6
Ω・cm、または(2)体積抵抗率が1×10
-6 Ω・cm乃至1×10
6 Ω・cm、または(3)表面電気抵抗が1×10
-2 Ω乃至1×10
9 Ω、の導電層を有するものである。
そして、(1)導電層の見掛け体積抵抗率は、1×10
-4 Ω・cm乃至1×10
6 Ω・cmであるが、好ましくは1×10
5Ω・cm以下であり、より好ましくは1×10
4Ω・cm以下である。
(2)導電層の体積抵抗率は、1×10
-6 Ω・cm乃至1×10
6 Ω・cmであるが、好ましくは1×10
-3Ω・cm以上であり、より好ましくは1×10
-2Ω・cm以上である。また、好ましくは1×10
3Ω・cm以下であり、より好ましくは1×10
2Ω・cm以下である。
【0049】
ここで、体積抵抗率とは導電層を形成する材料固有の値である。そして、導電層はリチウムイオン等のイオンの透過経路が必要なことから多孔質であるため、その空隙の影響や導電性材料同士の接触抵抗などの影響により、導電性材料が本来持つ体積抵抗率よりも見掛け体積抵抗率は高い値を有する。
導電層の見掛け体積抵抗率ないしは体積抵抗率が上記上限を超えると、その理由の詳細は不明であるが、本発明による充分な耐過充電性改善効果を得ることが難しい。見掛け体積抵抗率ないしは体積抵抗率が上記下限未満では、導電層による通気抵抗が高くなり、リチウムイオンの移動経路としてのセパレータの特性を損なうことがある。また見掛け体積抵抗率ないしは体積抵抗率が上記下限未満では、導電層が集電体として働く場合がありジュール発熱によりセパレータが熱劣化を生じる恐れがある。
【0050】
(3)導電層の表面電気抵抗は、1×10
-2Ω乃至1×10
9Ωであるが、好ましくは1×10
-1Ω以上であり、より好ましくは1Ω以上である。また上限は、好ましくは1×10
8Ω以下であり、より好ましくは1×10
7Ω以下である。
また、導電層の表面抵抗率としては、好ましくは4×10
-2Ω/□以上であり、より好ましくは1×10
-1Ω/□以上であり、更に好ましくは1Ω/□以上である。また上限は、好ましくは1×10
9Ω/□以下であり、より好ましくは1×10
8Ω/□以下であり、更に好ましくは1×10
7Ω/□以下である。
【0051】
導電層の表面電気抵抗が上記上限より大きいと、その理由の詳細は不明であるが、本発明による充分な耐過充電性改善効果を得ることが難しい。表面電気抵抗が上記下限未満では、導電層による通気抵抗が高くなり、リチウムイオンの移動経路としてのセパレータの特性を損なうことがある。また表面電気抵抗が上記下限未満では、導電層が集電体として働く場合がありジュール発熱によりセパレータが熱劣化を生じる恐れがある。なお、導電層の表面電気抵抗、表面抵抗率および見掛け体積抵抗率は後述の実施例に記載の方法で測定される。
尚、体積抵抗率は、物質固有の値であり、例えば、「化学便覧 基礎編 改定5版 II−611ページ 表14.9、丸善株式会社 発行、発行日 平成16年2月20日」に基づき導かれる。ただし、アセチレンブラックに関しては電気化学工業株式会社のホームページの物性一覧より体積抵抗率の値を得た。
【0052】
<特徴>
本発明に係る導電層は、上述のように、セパレータの少なくとも一方の表面に形成されてもよく、基材で挟み込み中間層として形成されてもよい。そして、前述の特許文献2〜5に記載されるような従来のセパレータへの導電性付与技術に対して、以下のように明確に区別され、その特徴的な構成により優れた耐過充電性が得られる。
【0053】
特許文献2に記載される帯電防止剤を用いたセパレータでは、前述の如く、帯電防止剤は一般に空気中の水分を吸着して遊離するイオンを利用して帯電防止を行うものであり、基本的に水分を排除する非水系電解液二次電池においてはその効力を発揮し得ない。
これに対して、本発明のセパレータの導電層は、例えば金属や炭素質材料からなり、水分が排除された非水系電解液二次電池の環境下においても充分に導電性を発揮するものである。
【0054】
特許文献3に記載されるセパレータ表面にアルカリ金属粉末層を形成して非可逆特性を改善する技術では、前述の如く、アルカリ金属は反応性に富む金属であり容易に空気中の酸素や水分と反応するため、セパレータ表面にこのような金属層を形成することは安全上、大きな問題があるが、本発明に係る導電層は、アルカリ金属のような反応性はなく、通常の環境下での取り扱いが可能であり、取り扱い性に優れたものである。
【0055】
特許文献4に記載される熱可塑性樹脂に導電性充填剤を含むセパレータは、前述の如く、通常の電池使用時にはセパレータには導電性がない。
本発明に係る導電層は、セパレータの表面または中間層に存在するため、通常の電池使用時における正負両極の短絡は生じることはなく、必要に応じて充分な導電性を付与しうる。
【0056】
特許文献5に記載されるセパレータは、前述の如く、強度的に脆く過充電状態で内部短絡を起こす可能性が高いものであるが、本発明に係る導電層は、セパレータの表面または中間層に存在するため、セパレータの強度に対する影響は殆どないか、あっても軽微であり、過充電時の活物質の膨張にも充分に耐えることができ、内部短絡のような問題を生じることがない。また特許文献5に記載されるセパレータは熱伝導性の高いフィラーを大量に含有するため厚み方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であるが、本願のセパレータの厚み方向の熱伝導率は0.2W/(m・K)程度である。
【0057】
{空隙率}
本発明のセパレータの多孔性の程度としての空隙率は、通常30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは38%以上である。また、通常90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。セパレータの空隙率が上記範囲である場合には、有する電池性能を十分に発揮することができ、内部短絡も生じにくいため、好ましい。
【0058】
なお、本発明におけるセパレータの空隙率は以下のように重量法で定義する。
即ち、まずセパレータの厚み(導電層を含めた総厚み)をt0、単位面積あたりの重量(導電層を含めた総重量)をw0、平均比重をρとすると、セパレータの空隙率Pvは次式で得ることができる。
Pv(%)=100×{1−(w0/[ρ・t0])}
(但し、サンプル面積は単位面積。)
なお、平均比重ρは、多孔質フィルム等の基材と導電層の成分の比重および単位面積当たり重量比をそれぞれρi、kiとして、
ρ=1/(Σki/ρi)
で得ることができる。重量比は導電層形成前後の重量を測定することで得ることができる。
【0059】
{厚さ}
本発明のセパレータの厚さ(導電層を含めた総厚み)は、通常5μm以上、好ましくは9μm以上、より好ましくは15μm以上である。また、通常50μm以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは30μm以下である。セパレータの厚みが上記範囲にある場合には、機械的強度が好適な範囲となり、高速捲回時の破断や内部短絡を生じにくく、また、有する電池性能を十分に発揮することができ、好ましい。
【0060】
{突き刺し強度}
本発明のセパレータの突き刺し強度(導電層を含めたセパレータの突き刺し強度)は通常250g以上、好ましくは300g以上、より好ましくは350g以上である。突き刺し強度が250g以上であることで、過充電時の活物質の膨張による圧力に抗しきれず内部短絡を起こる可能性が低い。突き刺し強度の好ましい上限は特に存在せず、電気抵抗などのセパレータとしての特性が電池性能から要求される性能を満たしていればいくら大きくても構わないが、通常は700g以下である。
なお、本発明におけるセパレータの突き刺し強度とは、以下に記述する方法で測定された強度を意味する。
【0061】
<突き刺し強度の測定>
ホルダーで固定したサンプル(測定部:直径20mmの円形)に、直径1mm、先端曲率半径0.5mmの金属(SUS440C)製針を厚さ方向に300mm/minの速さで突き刺して、穴が開口する最大荷重を測定する。
【0062】
{非水系電解液}
本発明においては、セパレータに導電層を設けることの他、非水系電解液がフッ素化カーボネートを含有するものである。フッ素化カーボネートとしては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類のいずれも用いることができる。
【0063】
フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(これを以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある)としては、フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数が1以上であれば特に制限されないが、通常6以下、好ましくは4以下である。
代表的には、一般式C=O(OR
1)(OR
2)(式中、R
1及びR
2は、それぞれ炭素数1または2のアルキル基であり、R
1及びR
2のうち少なくとも1方が1個以上のフッ素原子を有する)で表される化合物が用いられ、ジメチルカーボネート誘導体類、エチルメチルカーボネート誘導体類、ジエチルカーボネート誘導体類等が挙げられる。
【0064】
上記ジメチルカーボネート誘導体類の具体例としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロ)メチルカーボネート等が挙げられる。
【0065】
上記エチルメチルカーボネート誘導体類の具体例としては、2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0066】
上記ジエチルカーボネート誘導体類の具体例としては、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
これらの中でも、トリフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロエチルカーボネートが、電池を大型化した際の電導性等の電池特性を維持しつつ、高い耐過充電防止性能を発現できるため好ましい。
【0067】
フッ素原子を有する環状カーボネート(以下、「フッ素化環状カーボネート」と略記する場合がある)としては、フッ素原子を有する環状カーボネート類であれば、特に制限はない。
【0068】
フッ素化環状カーボネートとしては、代表的には、炭素原子数2〜6のアルキレン基を有する環状カーボネートの誘導体が挙げられ、例えば、エチレンカーボネートを構成する水素原子のうち1個または2個をフッ素原子及び/またはフッ素化アルキル基で置換したエチレンカーボネート誘導体が挙げられる。ここでアルキル基の炭素数は通常1〜4であり、フッ素化環状カーボネートを構成するフッ素原子数は通常1個以上、8個以下、好ましくは3個以下である。
【0069】
具体的には、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0070】
これらのフッ素化環状カーボネートの中でも、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、および4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネートが、高イオン伝導性を与え、かつ好適に界面保護被膜を形成する点でより好ましい。
【0071】
フッ素化環状カーボネートとして、不飽和結合とフッ素原子とを有する環状カーボネート(これを以下、「フッ素化不飽和環状カーボネート」と略記する場合がある)を用いることも好ましい。フッ素化不飽和環状カーボネートとしては特に制限はない。中でもフッ素原子が1個又は2個のものが好ましい。
【0072】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0073】
ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0074】
芳香環又は炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0075】
フッ素化環状カーボネートは、分子量に特に制限はなく、好ましくは50以上、より好ましくは80以上であり、また、好ましくは250以下、より好ましくは150以下のものが使用できる。分子量250以下であれば、非水系電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性が良好で、本発明の効果を発現しやすい。また、フッ素化環状カーボネートの製造方法にも特に制限はなく、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0076】
上記のフッ素化カーボネートの使用量は、電解液中の体積割合として、上限が通常20%以下、好ましくは15%以下であり、下限が通常、1%以上、好ましくは5%以上である。上記割合とすることで、電気伝導性が良好な値を示し、大型電池の電池性能を十分に発揮することができ、また、過充電に対する効果も十分に発揮することができる。
【0077】
本発明の非水系電解液二次電池に使用される電解液の非水系溶媒としては、非水系電解液二次電池の溶媒として公知の任意のものを用いることができる。
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート(ジアルキルカーボネートのアルキル基は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい);テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル;ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等の鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル;酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらの中でもエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート(ジアルキルカーボネートのアルキル基は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい)、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステルが、粘度が低く、リチウム塩を溶解した際に高い導電率を示すため出力などの電池性能が有利となる点で好ましく用いられる。
【0078】
本発明において、非水系電解液に用いられる電解質としては、リチウム二次電池用非水系電解液の電解質として用い得ることが知られているリチウム塩であれば特に制限はないが、例えば、次のものが挙げられる
【0079】
無機リチウム塩:LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6等の無機フッ化物塩;LiClO
4、LiBrO
4、LiIO
4等の過ハロゲン酸塩;LiAlCl
4等の無機塩化物塩(但し、モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩は除く)等。
含フッ素有機リチウム塩:LiCF
3SO
3等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CF
3SO
2)
3等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;Li[PF
5(CF
2CF
2CF
3)]、Li[PF
4(CF
2CF
2CF
3)
2]、Li[PF
3(CF
2CF
2CF
3)
3]、Li[PF
5(CF
2CF
2CF
2CF
3)]、Li[PF
4(CF
2CF
2CF
2CF
3)
2]、Li[PF
3(CF
2CF
2CF
2CF
3)
3]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩等。
リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等のオキサラトボレート塩。
【0080】
これらのなかでも、非水溶媒に対する溶解性、二次電池とした場合の充放電特性、出力特性、サイクル特性等を総合的に判断すると、LiPF
6が好ましい。
【0081】
上記電解質の電解液中の濃度の下限は、通常、0.5モル/リットル以上、好ましくは0.7モル/リットル以上、より好ましくは0.9モル/リットル以上であり、上限は、通常、2モル/リットル以下、好ましくは、1.8モル/リットル以下、より好ましくは、1.5モル/リットル以下である。上記範囲とすることで、イオン量が適切な値となり、電解液の電気伝導度が良好となり、所望する電池性能を発揮することができ、好ましい。
【0082】
本発明においては上記した電解質(主電解質)に加えて、さらに副電解質を併用するのが好ましい。副電解質は使用する主電解質とは異なる種類の化合物であればよく、上記の電解質と同様のものを用いることができるが、中でもフルオロリン酸リチウム塩類、ホウ酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類が電池性能を低下させないという点で好ましい。
【0083】
副電解質を用いる場合、電解液中の濃度は、下限が通常、0.01モル/リットル以上、より好ましくは0.015モル/リットル以上であり、上限が通常、0.3モル/リットル以下、より好ましくは0.2モル/リットル以下である。全副電解質の合計濃度が上記範囲とすることで、過充電に対する効果を十分に発揮することができ、所望の電池性能を発揮することができ、好ましい。
【0084】
<その他の成分>
本発明に係る非水系電解液には、非水系溶媒及び電解質以外に必要に応じて他の有用な成分、例えば従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための助剤等の各種の添加剤を含有させてもよい。
【0085】
このうち、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための助剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、エリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物などが挙げられる。非水系電解液がこれらの助剤を含有する場合、その非水系電解液中の濃度は通常0.1重量%乃至5重量%である。
【0086】
{正極}
本発明の非水系電解液二次電池に使用される正極は、通常、正極活物質とバインダーを含有する活物質層を集電体上に形成させたものである。
【0087】
正極活物質としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物材料などのリチウムを吸蔵及び放出可能な材料が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0088】
バインダーとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としてはポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンエラストマー)、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0089】
正極活物質層中のバインダーの割合は、下限値が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、上限値が通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。上記範囲とすることで、活物質を適切に保持することができ、良好な電池性能を発揮することができるため、好ましい。
【0090】
正極活物質層は、通常、導電性を高めるため導電剤を含有する。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛の微粒子や、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素微粒子等の炭素質材料を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。正極活物質層中の導電剤の割合は、下限値が通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、上限値が通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。導電剤の割合を上記範囲とすることで、良好な電池性能を発揮することができるため、好ましい。
【0091】
正極活物質層には、その他、増粘剤等の通常の活物質層の添加剤を含有させることができる。
増粘剤は電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0092】
正極の集電体には、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
正極集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上が更に好ましく、また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、20μm以下が更に好ましい。正極集電体の厚さが、上記範囲にあることで、集電体として必要な強度を十分確保することができ、良好な電池容量を得ることができる。正極集電体の表面電気抵抗は最も一般的に使用されるアルミニウム箔の場合、厚みによって異なるが、厚み1μm乃至100μmに対して6×10
-3Ω乃至6×10
-5Ωである。セパレータ表面の導電層の表面電気抵抗をこれより大きくすることで、導電層が正極集電体として機能することを防止することができ、ジュール発熱によるセパレータの熱劣化を抑制することができる。
【0093】
正極は、前述の正極活物質とバインダーと導電剤、必要に応じて添加されるその他の添加剤とを溶媒でスラリー化したものを集電体に塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0094】
スラリー化のために用いる溶媒としては、通常はバインダーを溶解する有機溶剤が使用される。例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等が用いられるがこれらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。
【0095】
このようにして形成される正極活物質層の厚さは、通常10μm乃至200μm程度である。なお、塗布・乾燥によって得られた活物質層は、活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化するのが好ましい。
【0096】
<負極>
本発明の非水系電解液二次電池に使用される負極は、通常、負極活物質とバインダーを含有する活物質層を集電体上に形成させたものである。
【0097】
負極活物質としては様々な熱分解条件での有機物の熱分解物や人造黒鉛、天然黒鉛等のリチウムを吸蔵及び放出可能な炭素質材料;酸化錫、酸化珪素等のリチウムを吸蔵及び放出可能な金属酸化物材料;リチウム金属;種々のリチウム合金などを用いることができる。これらの負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0098】
バインダーとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0099】
負極活物質層中の上述のバインダーの割合は、下限値が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、上限値が通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。上記範囲とすることで、活物質を適切に保持することができ、良好な電池性能を発揮することができるため、好ましい。
【0100】
負極活物質層は、更に導電性を高めるために導電剤を含有してもよい。導電剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素微粒子等の炭素質材料を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。負極活物質層中の導電剤の割合は、下限値が通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、上限値が通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。導電剤の割合を上記範囲とすることで、導電性の良好な向上効果が得られ、好ましい。
【0101】
負極活物質層には、その他、増粘剤等の通常の活物質層の添加剤を含有させることができる。増粘剤は電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0102】
負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。負極集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上が更に好ましく、また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、20μm以下が更に好ましい。負極集電体の厚さが上記範囲にあることで、集電体として必要な強度を十分確保することができ、良好な電池容量を得ることができる。負極集電体の表面電気抵抗は最も一般的に使用される銅箔の場合、厚みによって異なるが、厚み1μm乃至100μmに対して4×10
-3Ω乃至4×10
-5Ωである。セパレータ表面の導電層の表面電気抵抗をこれより大きくすることで、導電層が負極集電体として機能することを防止することができ、ジュール発熱によるセパレータの熱劣化を抑制することができる。
【0103】
負極は、前述の負極活物質とバインダーと導電剤、必要に応じて添加されるその他の添加剤とを溶媒でスラリー化したものを集電体に塗布して乾燥することにより形成することができる。
【0104】
スラリー化のために用いる溶媒としては、通常はバインダーを溶解する有機溶剤が使用される。例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等が用いられるがこれらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。
【0105】
このようにして形成される負極活物質層の厚さは、通常10μm乃至200μm程度である。なお、塗布・乾燥によって得られた活物質層は、活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化するのが好ましい。
【0106】
{電池形状}
本発明の非水系電解液二次電池の電池形状は特に制限されず、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。一般的に採用されている電池形状の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ、シート電極及びセパレータを積層したラミネートタイプなどが挙げられる。
【0107】
{非水系電解液二次電池の組み立て方法}
本発明の非水系電解液二次電池を組み立てる方法は特に制限されず、目的とする電池の形状に合わせて、通常用いられている各種方法の中から適宜選択することができる。例えば、前述のセパレータ、非水系電解液、正極及び負極を積層し、正負極間に非水系電解液を注入して、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。
【0108】
なお、非水系電解液二次電池の組み立てに際し、本発明を構成する少なくとも一方の表面に導電層を有するセパレータがその一方の表面にのみ導電層を有する場合、この導電層は正極側に対面して積層されても、負極側に対面して積層されても良い。導電層を構成する導電材が正極対向用として適した金属材料、または炭素質材料である場合は正極側に対面させ、負極対向用として適した金属材料、または炭素質材料である場合には負極側に対面させる。一般的には、高電位である正極側で電解液の分解など激しい反応が生じているため、その理由の詳細は不明であるが過充電によるセパレータの短絡も正極に対向する面を起点に発生するのではないかと推測されることから、セパレータの導電層が少なくとも正極側に対面するように配置することが好ましい。
【0109】
{用途}
本発明の非水系電解液二次電池の用途は特に限定されず、従来公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等の小型機器が挙げられるが、過充電下における高い安全性を有するという特長から、本発明の非水系電解液二次電池は特に電気自動車、ハイブリッド自動車等の大型機器への用途、即ち、EV用あるいはHEV用リチウム二次電池として好適である。
【0110】
本発明の非水系電解液二次電池は、複数の非水系電解液二次電池を直列に連結させた非水系電解液二次電池モジュールとして用いることができる。本発明の非水系電解液二次電池をモジュールとして用いる場合には、5個以上直列に連結させることが好ましく、10個以上直列に連結させることが好ましく、20個以上直列に連結させることが好ましい。このように複数の二次電池を直列に連結させることで、特に電気自動車、ハイブリッド自動車等の大型機器への用途に適用が可能となる。
また、上記非水系電解液二次電池モジュールとして用いる場合には、満充電に20V以上の電圧を必要とすることが好ましく、25V以上とすることがより好ましく、30V以上とすることが更に好ましい。
【実施例】
【0111】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
なお、以下の実施例及び比較例におけるセパレータの導電層の表面電気抵抗及び厚みの測定方法は、以下の通りである。
【0113】
<導電層の表面電気抵抗の測定方法>
ダイアインスツルメンツ社(現三菱化学アナリテック社)製のロレスターEPおよびハイレスターUPを用いて測定した。表面電気抵抗が10
6Ω以下の場合はロレスターEPとASPプローブの組み合わせによる四探針法で、表面電気抵抗が10
6Ω以上の場合はハイレスターUPとUAプローブの組み合わせによる二探針法で測定を行った。表面抵抗率は三菱化学アナリテック社が公開するプローブごとの補正係数を用いて、
表面抵抗率=表面電気抵抗×補正係数
で求めた。また見掛け体積抵抗率は
見掛け体積抵抗率=表面抵抗率×厚み
で求めた。
【0114】
<導電層の厚みの測定方法>
スパッタリング膜、蒸着膜の厚みは、KLA−Tencor社の段差・表面あらさ・微細形状測定装置P−15を使用して測定した。また、塗布膜の厚みは、尾崎製作所のアプライトダイヤルゲージを使用して測定した。
【0115】
[実施例1]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとトリフルオロエチルメチルカーボネート(以下、TFEMCともいう。)を体積比で3/6/1で混合した溶媒に、Li塩として十分に乾燥したLiPF
6を1.0モル/リットルの割合となるように溶解したものを非水系電解液とした。
【0116】
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を用い、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2 90重量部にアセチレンブラック5重量部及びポリフッ化ビニリデン(呉羽化学社製、商品名「KF−1000」)5重量部を加えて混合し、混合物をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー状とした。得られたスラリーを正極集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布して乾燥後、プレス機により厚さ81μmに圧延したものを、活物質層のサイズとして幅100mm、長さ100mm、及び幅30mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極とした。正極活物質層の密度は2.35g/cm
3であった。
【0117】
<負極の作製>
負極活物質として天然黒鉛粉末を用い、天然黒鉛粉末98重量部に、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1重量%)100重量部、及び、スチレン・ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン・ブタジエンゴムの濃度50重量%)2重量部を加えて混合してスラリー状とした。得られたスラリーを負極集電体である厚さ10μmの圧延銅箔の両面に塗布して乾燥後、プレス機で厚さ75μmに圧延したものを、活物質層のサイズとして幅104mm、長さ104mm、及び幅30mmの未塗工部を有する形状に切り出し、負極とした。負極活物質層の密度は1.35g/cm
3であった。
【0118】
<セパレータの作成>
厚み25μm、突き刺し強度380g、空隙率39%の、市販の三層セパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)を基材としてその一方の表面に黒鉛を蒸着して導電層を設けた。黒鉛層の厚みは5nmであり、表面電気抵抗は2×10
7Ωであった。また、突き刺し強度は350g、空隙率は39%であった。
【0119】
<電池の作成>
正極32枚と負極33枚を交互となるように配置し、各電極の間に上述のセパレータが、黒鉛蒸着層が正極に対向して挟まれるよう積層した。この際、正極の正極活物質面が負極の負極活物質面内から外れないよう両活物質層面が互いに対面するように位置させた。この正極と負極それぞれについての未塗工部同士を束ねスポット溶接して集電タブを作製し、電極群としたものを、アルミニウム製の電池缶(外寸:120×110×10mm)に封入した。電池缶としては蓋部分に正極及び負極の集電端子、圧力放出弁、非水系電解液の注入口を備えた電池缶を用いた。集電タブと集電端子はスポット溶接により接続した。その後、電極群を装填した電池缶に非水系電解液を20mL注入して、電極に充分浸透させ、注入口を密閉して電池を作製した。
【0120】
<過充電試験>
充放電サイクルを経ていない新たな電池に対して、25℃で電圧範囲4.1〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて5サイクル初期充放電を行った。
続いて同じく25℃環境下で過充電試験を行った。放電状態(3V)から3Cの定電流で充電を行い、その挙動を観測した。ここで、「開弁」は、ガス排出弁が作動し非水系電解液成分が放出される現象を表し、「破裂」は、電池容器が猛烈な勢いで破れ,内容物が強制的に放出される現象を表す。
過充電試験の結果を表1に示す。
【0121】
[実施例2]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとエチルトリフルオロエチルカーボネート(以下、ETFECともいう。)を体積比で3/6/1で混合した非水系電解液を用いた以外は実施例1と同様にして、電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例3]
電気化学工業社製アセチレンブラック「デンカブラックHS−100」15重量部、及びポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)2.7重量部と水82.3重量部を均一に分散させてスラリーを調製し、このスラリーを、実施例1で用いた厚み25μmの市販の三層セパレータの一方の表面に塗布した後、60℃で乾燥して、厚さ4.5μmの導電層を設けた。この導電層の表面電気抵抗は664Ωであった。また、セパレータの突き刺し強度は380g、空隙率は39%であった。得られたセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0123】
[実施例4]
実施例2で得た電解液と実施例3で得たセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0124】
[
参考例5]
実施例1で用いた厚み25μmの市販の三層セパレータの一方の表面にAlスパッタリング処理を行って導電層を設けた。Al層の厚みは25nmであり、表面電気抵抗は26Ωであった。また、Al層を形成したセパレータの突き刺し強度は350g、空隙率は39%であった。得られたセパレータを用いた以外は実施例2と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0125】
[参考例6]
実施例2で得た電解液と
参考例5で得たセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0126】
[
参考例7]
実施例1で用いた厚み25μmの市販の三層セパレータの一方の表面にMoスパッタリング処理を行って導電層を設けた。Mo層の厚みは147nmであり、表面電気抵抗は11Ωであった。また、Mo層を形成したセパレータの突き刺し強度は310g、空隙率は38%であった。得られたセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0127】
[
参考例8]
実施例2で得た電解液と
参考例7で得たセパレータを用いた以外は実施例1と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0128】
[
参考例9]
参考例7で得たセパレータの導電層を負極に対向させる以外は
参考例7と同様にして電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0129】
[
参考例10]
実施例1で用いた厚み25μmの市販の三層セパレータを基材として、その両方の表面にMoスパッタリング処理を行って導電層を設けた。Mo層の厚みは両層とも147nmであり、表面電気抵抗は共に11Ωであった。また、セパレータの突き刺し強度は280g、空隙率は36%であった。得られたセパレータを用いて実施例1と同様に電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0130】
[実施例11]
溶媒をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとシス−4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート(以下、A3tともいう。)を体積比で2/7/1で混合したものにした以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
[実施例12]
溶媒をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとシス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(以下、c−DFEC)を体積比で2/7/1で混合したものにした以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電評価を行った。結果を表1に示す。
【0132】
〔実施例13〕
溶媒をエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとトランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(以下、t−DFEC)を体積比で2/7/1で混合したものにした以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
[比較例1]
セパレータとして実施例1の基材として用いた市販の三層セパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)をそのまま用いて、電解液としては乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で3/7で混合した溶媒に、Li塩として十分に乾燥したLiPF
6を1.0モル/リットル溶解したものを用いた以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0134】
[比較例2]
電解液として乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で3/7で混合した溶媒に、Li塩として十分に乾燥したLiPF
6を1.0モル/リットル溶解したものを用いた以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0135】
[比較例3]
セパレータとして実施例1の基材として用いた市販の三層セパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)をそのまま用いた以外は実施例1と同様に電池を作成して過充電試験を行った。結果を表1に示す。
【0136】
[実施例14]
実施例1と同様にして電池を作成した。充放電サイクルを経ていない新たな電池に対して、25℃で電圧範囲4.1〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて5サイクル初期充放電を行った。
続いて同じく25℃環境下で以下の手順による過充電試験を行った。初期充放電を行った10個の電池からなる電池モジュールを作成し、仮想的な不良電池モジュールとして他の電池よりも容量が低い電池を1個混在させる。電池が満充電状態(各電池の開放端電圧4.1V、想定される電池モジュールの開放端電圧は41V)から電流値5Cで定電流充電を行い、その挙動を観測した。電池モジュールには50Vの電圧が印加されたが容量の低い電池の開弁しか発生しなかった。
【0137】
[比較例4]
比較例1と同様にして作成した電池を使用した以外は実施例14と同様にして過充電試験を行った。電池モジュールには50Vの電圧が印加され、容量の低い電池が開弁後に破裂した。
【0138】
【表1】
【0139】
表1より、本発明によれば、数十Vの電圧が印加されるような過充電状態に至っても、短絡、爆発を防止しうる、安全性の高い非水系電解液二次電池が提供されることが明らかである。