【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0068】
鋼板の成分が下記表1に示す化学成分組成(残部:鉄及び不可避的不純物、単位は質量%である)となるように化学成分組成について調整したスラブを1200℃で熱間圧延、900℃で仕上げ圧延を行い、500〜700℃で巻き取りを行った後、得られた熱延鋼板を酸洗し、圧下率が30〜60%になるように冷間圧延して、板厚:0.8mmの薄鋼板(縦150mm×横250mm)とした。各成分の分析については、C、Sについては燃焼−赤外線吸収法、Nについては不活性ガス融解−熱伝導度法、その他の成分については誘導結合プラズマ発光分光分析法によった。
【0069】
得られた各薄鋼板の両面に下記条件の電気亜鉛めっき処理(鋼種:EG)、溶融亜鉛めっき処理(鋼種:GI)、合金化溶融亜鉛めっき処理(鋼種:GA)を施して試験片を作製した。めっき付着量(表中、めっき単位はg/m
2)は、片面をシールした50cm角のサンプルを希釈した塩酸で亜鉛めっき層を溶解し、溶解した液をICP発光分析装置(島津製作所製ICPS−7510)で分析した。一部試験片(No.55〜72にはめっき皮膜を施さなかった。また一部試験片(1、10、19、28、37、46、55、64)には樹脂皮膜を形成しなかった。なお、No.73と74は、熱伝導シミュレーション用の数値として熱伝導率の値を設定したものであり、具体的な材料の測定値ではない。
【0070】
[電気亜鉛めっき処理(EG)]
(1) アルカリ水溶液浸漬脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒
(2) アルカリ水溶液電解脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒、10〜30A/dm
2
(3) 水洗
(4) 酸洗 :3〜7質量%硫酸水溶液、40℃、2秒
(5) 水洗
(6) 電気亜鉛めっき :下記[電気亜鉛めっき条件]の通り
(7) 水洗
(8) 乾燥
【0071】
(電気亜鉛めっき条件)
めっきセル :横型めっきセル
めっき浴組成:ZnSO
4・7H
2O 300〜400g/L
Na
2SO
4 50〜100g/L
H
2SO
4 25〜35g/L
電流密度:50〜200A/dm
2
めっき浴温度:60℃
めっき浴流速:1〜2m/秒
電極(陽極):IrO
2合金電極
めっき付着量:15〜30g/m
2(片面当たり)
【0072】
[溶融亜鉛めっき処理(GI)]
上記冷延鋼板を、酸洗工程を通すことなく、溶融亜鉛めっきを施した。溶融亜鉛めっきは、還元性ガス雰囲気中での加熱による還元、めっき浴浸漬、ガスワイピングする装置を使用し、溶融亜鉛めっきを施した。
【0073】
[溶融めっき条件]
還元温度:780℃〜860℃
還元時間:10〜80秒
めっき浴組成:Zn−0.2%Al
めっき浴温度:455〜465℃
亜鉛付着量:60〜133g/m
2(片面当たり)
【0074】
[合金化溶融亜鉛めっき処理(GA)]
(合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の作製)
上記溶融亜鉛めっき鋼板に下記条件にて合金化加熱処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。具体的にはFe−ZnおよびFe−Al合金化速度の違いによる粒界内の空洞発生を抑制するため、加熱速度は10〜30℃/s、合金化温度を550〜700℃の範囲で制御した。また、合金化反応が停止する400℃までの冷却は、めっき層表面にFe−Zn皮膜が生成し、めっき層中に液状で残留したZnが最後に合金化して体積収縮による空洞発生を抑制するため、冷却速度を10〜30℃/sの範囲で制御した。合金めっき層中のFe%はパウダリングなど加工性を考慮して5〜20%の範囲で制御した。
【0075】
[合金化条件]
・加熱速度:25℃/s
・合金化加熱温度:650℃
・冷却速度:25℃/s
・合金めっき中のFe%:12%
【0076】
[樹脂皮膜の被覆処理]
(下地処理)
上記各めっき鋼板(めっき処理を施していない場合は素地鋼板)に、下地処理としてノンクロメート皮膜(CTE−213A:日本パーカーライジング社製)を用い、その付着量が100mg/m
2となるように下地処理を行った。
【0077】
(樹脂皮膜)
樹脂は、有機溶剤型ポリエステル樹脂(「バイロン(登録商標)29」東洋紡績社製)を用いた。架橋剤として、メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製・固形分80%)を用いた。更にシンナーとしてキシレン50%+シクロヘキサノン50%混合溶剤(大伸化学製)を用いた。ポリエステル樹脂と架橋剤を質量比(ドライ)100:20で混合した。希釈溶剤としてキシレン/シクロヘキサノン混合溶剤を用い、樹脂固形分濃度が5〜15%となるよう溶剤で希釈した後、ディスパー攪拌機で3000rpm×5分攪拌して樹脂皮膜用原料組成物を調整した。
【0078】
上記樹脂皮膜用原料組成物を、皮膜厚さが所望の膜厚(下記表参照)となるように、各めっき鋼板(或いは素地鋼板)の裏面側にバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉内にて到達温度220℃で約120秒間焼付けて試験片を作製した。このときの樹脂皮膜の厚さは皮膜の質量を測定し、比重換算で算出した値である。
【0079】
各試験片について、下記方法によって、各種特性を評価した。
【0080】
[熱伝導率の評価]
得られた各鋼板について、レーザーフラッシュ法によって熱伝導率を測定した。この方法の概要は次の通りである。
【0081】
(レーザーフラッシュ法)
測定装置:レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 「TC−7000アルバック 理工株式会社製」
まず下記の方法によって各鋼板の熱拡散率を測定する。
【0082】
(熱拡散率の測定)
(1)25mm角の試料(鋼板)を作製し、その表面をカーボンスプレーによって黒化する。
(2)試料の黒化した面に赤外線レーザー光を瞬間的に照射し、裏面の温度変化を熱電対または赤外線検出器を用いて測定する。
(3)得られた時間−温度上昇曲線から熱拡散率を求める。
(4)レーザー光照射点と温度検出点との距離(即ち、各鋼板の厚さに相当)をL(mm)、試料裏面での最高到達温度の1/2の温度に到達するまでの時間をt
1/2(sec)とすると、熱拡散率α[m
2/sec]は下記の式で示される(このような測定方法をハーフタイム法と呼ぶ)。
熱拡散率α=1.37(L/π)
2・1/t
1/2 [m
2/sec]
【0083】
次に、下記の方法によって各鋼板の比熱を測定する。
【0084】
(比熱の測定)
試料にレーザー光を瞬間的に照射したときに、試料に吸収された熱量をQ[J/cm
2]、試料の質量をM(g)、温度上昇量をΔT(K)とすると、比熱Cp[J/(g・K)]は以下の式で示される。なお、各試料の質量は50〜60gであり、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製 DSC220C)を用いて室温、アルゴン雰囲気下における比熱を測定した。
比熱Cp=Q/(M・ΔT) [J/(g・K)]
【0085】
(密度の測定)
25mm角の試料を作製し、該試料を用いて室温で水中置換法により密度を測定した。
【0086】
上記によって得られた熱拡散率α[m
2/sec]および比熱Cp[J/(g・K)]、密度ρ[g/cm
3]に基づいて、下記の方法によって各鋼板の熱伝導率を測定した。
【0087】
(熱伝導率の測定)
熱拡散率をα[m
2/sec]、比熱をCp[J/(g・K)]、密度をρ[g/cm
3]とすると、熱伝導率η[W/m・K]は以下の式で示される。密度ρはアルキメデス法によって測定した値を採用した。
熱伝導率η=Cp・α・ρ [W/m・K]
【0088】
[放射率(赤外線放射率)の評価]
「赤外線積分放射率」とは、換言すれば、赤外線(熱エネルギー)の放出し易さ(吸収し易さ)を意味する。従って、上記赤外線積分放射率が高い程、放出(吸収)される熱エネルギー量は大きくなることを示す。例えば物体(本発明では樹脂皮膜)に与えられた熱エネルギーを100%放射する場合には、当該赤外線積分放射率は1となる。
【0089】
本発明では、100℃に加熱したときの赤外線積分放射率を定めているが、これは、本発明の表面処理鋼板は電子機器部品用途(部品等によっても相違するが、通常の雰囲気温度は概ね、50〜70℃で、最高で約100℃)に適用されることを考慮し、当該実用レベルの温度と一致させるべく、加熱温度を100℃に定めたものである。
【0090】
以下の方法によって試験片の赤外線積分放射率を算出した。
【0091】
装置:日本電子(株)製「JIR−5500型フーリエ変換赤外分光光度計」および放射測定ユニット「IRR−200」
測定波長範囲:4.5〜15.4μm
測定温度:試料の加熱温度を100℃に設定する
積算回数:200回
分解能 :16cm
-1
【0092】
上記装置を用い、赤外線波長域(4.5〜15.4μm)における試験片の分光放射強度(実測値)を測定した。尚、上記試験片の実測値は、バックグラウンドの放射強度および装置関数が加算/付加された数値として測定される為、これらを補正する目的で、放射率測定プログラム[日本電子(株)製放射率測定プログラム]を用い、積分放射率を算出した。算出方法の詳細は以下の通りである。
【0093】
【数1】
【0094】
式中、
ε(λ) :波長λにおける試料の分光放射率(%)
E(T) :温度T(℃)における試料の積分放射率(%)
M(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における試料の分光放射強度(実測値)
A(λ) :装置関数
K
FB(λ) :波長λにおける固定バックグラウンド(試料によって変化しないバックグラウンド)の分光放射強度
K
TB(λ,T
TB):波長λ、温度T
TB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度
K
B(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における黒体の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)
λ
1,λ
2 :積分する波長の範囲を夫々、意味する。
【0095】
ここで、上記A(λ:装置関数)、および上記K
FB(λ:固定バックグラウンドの分光放射強度)は、2つの黒体炉(80℃、160℃)の分光放射強度の実測値、および当該温度域における黒体の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)に基づき、下記式によって算出したものである。
【0096】
【数2】
【0097】
式中、
M
160℃(λ,160℃):波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
M
80℃(λ,80℃) :波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
K
160℃(λ,160℃):波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)
K
80℃(λ,80℃):波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)を夫々、意味する。
【0098】
尚、赤外線積分放射率E(T=100℃)の算出に当たり、K
TB(λ,T
TB)を考慮しているのは、測定に当たり、試料の周囲に、水冷したトラップ黒体を配置しているためである。上記トラップ黒体の設置により、変動バックグランド放射(試料によって変化するバックグラウンド放射を意味する。試料の周囲からの放射が試料表面で反射されるので、試料の分光放射強度の実測値は、このバックグランド放射が加算された数値として表れる)の分光放射強度を低くコントロールすることができる。上記のトラップ黒体は、放射率0.96の疑似黒体を使用しており、前記K
TB[(λ,T
TB):波長λ、温度T
TB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度]は、以下の様にして算出する。
K
TB(λ,T
TB)=0.96×K
B(λ,T
TB)
式中、K
B(λ,T
TB)は、波長λ、温度T
TB(℃)における黒体の分光放射強度を意味する。
【0099】
[熱伝導シミュレーション]
図1Aに示すような軸対称2次元モデルを用い、長さ100mm×厚さ0.8mmの鋼板を設定し、熱伝導性を熱伝導シミュレーションによって評価した。
【0100】
鋼板は均一な熱伝導率を有すると仮定し、上記レーザーフラッシュ法による測定値を採用した。鋼板の中心とヒーターの中心が接触するようにヒーター(縦30mm×幅5mm:発熱量60W:熱伝導率20W/m・K)を設定した。この際、鋼板と接触しないヒーターの他の部分には断熱材を設けてヒーター発熱部の鋼板接触面から鋼板側へ全ての熱が移動するようにした。また鋼板側面(厚み側)を断熱とし、ヒーターからの受熱は、ヒーター設置面と反対面(ヒーター設置面と反対側)にのみ移動するようにした。また鋼板内部の伝熱経路は、鋼板の中心から垂直方向の軸を介してヒータ設置面から反対面に至る任意の直線とした。外部環境として鋼板の中心から半径1000mmの空間を設定した(
図1B)。雰囲気(空気)温度を35℃、外部境界の放射率を0.01に設定し、鋼板と雰囲気の熱伝達、鋼板と外部境界の放射、空間内の流動も計算に含めた。鋼板の温度評価は、次の部分の温度とした。
発熱体温度(T0):ヒーターと鋼板の接触面の中心温度
面内最高温度(Tmax):鋼板の反対面の中心温度
最低温度(Tmin):鋼板の反対面の周辺端部(角部)温度
面内温度差(Tdiff):面内最高温度(Tmax)から最低温度(Tmin)を引いた値
【0101】
尚、計算には汎用流体解析コードFLUENT6.3(ANSYS社)を用いて、乱流モデルはK−ωSSTモデル、放射はD0モデルを採用した。
【0102】
(発熱体温度(T0)の評価基準)
鋼板No.74(アルミ板:熱伝導率120W/m・K)のシミュレーション値(T0=94.5℃)を基準値として、鋼板の発熱体温度(T0)が95.5℃(94.5℃+1℃)以下の場合を合格とし(○:T0≦95.5℃)、更に94.5℃以下の場合を、特に優れているとした(◎:T0≦94.5℃)。また95.5℃を超える場合を不合格(×:T0>95.5℃)と評価した。
【0103】
(面内温度差(Tdiff)の評価基準)
鋼板No.74のシミュレーション値(Tdiff=14.6℃)と、鋼板No.73のシミュレーション値(Tdiff=21.9℃)の中間値18.3℃を基準値として、鋼板の面内温度差(Tdiff)が19.3℃以下の場合を合格とし(○:Tdiff≦19.3℃)、更に18.3℃以下の場合を特に優れているとした(◎:Tdiff≦18.3℃)。また面内温度差(Tdiff)が19.3℃を超える場合を不合格(×:Tdiff>19.3℃)と評価した。
【0104】
[耐指紋性の評価]
鋼板(50×120mm)をワセリン飽和アセトン溶液(50℃)に浸漬した(浸漬時間10秒)。浸漬後乾燥させた後、鋼板について同時測定光方式分光式色差計(日本電色工業製SQ−2000)を用いて色差(ΔE)を算出して評価した。
【0105】
浸漬前後の試験片の色差(ΔE)が3以下を合格とし(○:ΔE≦3)、色差が1以下の場合を特に優れるとした(◎:ΔE≦1)。また色差が3を超える場合を不合格(×:ΔE>3)と評価した。
【0106】
以上の結果を表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
この結果から、次のように考察できる。
【0110】
まず、No.2〜8、12〜16、20〜26、30〜34、38〜44、47〜53は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成、樹脂皮膜の膜厚、めっき付着量を満足する例である。これらの例では熱伝導率、放熱性、耐指紋性に優れた特性が発揮されていることが分かる。
【0111】
No.1、10、19、28、37、46は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成、及びめっき付着量を満足するが、樹脂皮膜を形成していない例である。
【0112】
No.1と10は、素地鋼板に電気亜鉛めっき処理を施して亜鉛めっき皮膜を形成したものであるが、樹脂皮膜が形成されていないため、放熱性が低く、また発熱体温度(T0)が高くなっており、耐指紋性も劣っていた。
【0113】
No.19と28は、素地鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施して亜鉛めっき皮膜を形成したものであるが、樹脂皮膜が形成されていないため、放熱性が低く、発熱体温度(T0)が高くなっていた。
【0114】
No.37と46は、素地鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施して亜鉛めっき合金皮膜を形成したものであるが、樹脂皮膜が形成されていないため、耐指紋性が劣っていた。
【0115】
No.9、18、27、36、45、54は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成、及びめっき付着量を満足するが、樹脂皮膜の膜厚が本発明で規定する範囲を超えている例である。
【0116】
これらの例ではいずれも本発明で規定する樹脂皮膜の膜厚が厚すぎるため、素地鋼板の熱伝導性が低くなり、面内温度差(Tdiff)を小さくすることができなかった。
【0117】
またNo.11、17、29、35は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成、及びめっき付着量を満足するが、樹脂皮膜の膜厚が本発明で規定する範囲を超えている例である。
【0118】
No.11、29は、本発明で規定する樹脂皮膜の膜厚が薄いため、放熱性が低く、また発熱体温度(T0)が高くなっている。
【0119】
No.17、35は、本発明で規定する樹脂皮膜の膜厚が厚いため、素地鋼板の熱伝導性が低くなり、面内温度差(Tdiff)を小さくすることができなかった。
【0120】
なお、No.11、20と同様のめっき処理が施され、樹脂皮膜の膜厚も同じであるNo.2(No.11に対応)、No.20(No.29に対応)は、樹脂皮膜の膜厚が薄いにもかかわらず、発熱体温度(T0)が悪化していないのは、素地鋼板に添加が望ましい元素であるTiを本発明で規定する範囲内で含有させているからである。Tiを含有させることによって素地鋼板の熱伝導率が向上するため、発熱体温度(T0)が悪化していない。
【0121】
またNo.8(No.17に対応)、No.26(No.35に対応)についても、樹脂皮膜の膜厚が厚いにもかかわらず、面内温度差(Tdiff)を小さくできたのは、素地鋼板に本発明で規定する範囲のTiを含有させることによって、素地鋼板の熱伝導率が向上しているからである。
【0122】
No.55〜63は、めっき皮膜は形成せずに、素地鋼板の表面に樹脂皮膜を形成した例である(No.55は樹脂皮膜を形成していない素地鋼板のみの例である)。
【0123】
No.56〜61は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成、樹脂皮膜の膜厚を満足する例である。これらの例では熱伝導率、放熱性、耐指紋性に優れた特性が発揮されていることが分かる。
【0124】
No.55は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成を満足するが、樹脂皮膜を形成していないため、放熱性が低く、発熱体温度(T0)が高くなっており、また耐指紋性も劣っていた。
【0125】
No.62、63は、本発明で規定する素地鋼板の化学成分組成を満足するが、樹脂皮膜の膜厚が本発明で規定する範囲を超えている例である。これらの例は本発明で規定する樹脂皮膜の膜厚が厚すぎるため、素地鋼板の熱伝導性が低くなり、面内温度差(Tdiff)を小さくすることができなかった。
【0126】
No.64〜72は、本発明で規定する化学成分組成を満足しない(C、Mn含有量が高い)鋼板を用い、まためっき皮膜を形成せずに、素地鋼板の表面に樹脂皮膜を形成した例である(No.64は樹脂皮膜を形成していない素地鋼板のみの例である)。
【0127】
これらの例はいずれも本発明で規定する化学成分組成を満足しないため、素地鋼板の熱伝導性が低くなり、面内温度差(Tdiff)を小さくできなかった。特に樹脂皮膜を形成していないNo.64は面内温度勾配が劣るだけでなく、放熱性が低く、発熱体温度(T0)が高くなっており、また耐指紋性にも劣っていた。