(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0023】
[1.第1の実施の形態]
[1−1.模擬人体システムの構成]
図1及び
図2に示すように、模擬人体システム1は、人体における心臓及び各種血管を模した心臓血管モデル2及び循環システム4により構成されている。
【0024】
心臓血管モデル2は、
図3〜
図7に示すように、模擬心臓11及び模擬大動脈12(詳しくは後述する)を固定するためのベース3に取り付けられている。ベース3は、
図3に示すように、アルミニウム製でなる大きな長方形板状の基板3Aを中心に構成されている。
【0025】
基板3Aは、その下面側における四隅に柱状の脚部3Bが下方へ向けて取り付けられることにより、当該
基板3Aを接地面から所定高さ(例えば15〜20cm程度)持ち上げるようになされている。
【0026】
因みに基板3Aは、心臓血管モデル2を中心としたX線画像の撮像範囲(詳しくは後述する)よりも十分に広い範囲にわたって一様な板状とおり、X線画像に辺による影等の影響を及ぼさないようになされている。
【0027】
基板3Aの上面には、当該基板3Aを手術台と見なしたときに仰向けに横たわる患者の各器官に相当する位置に、心臓血管モデル2の模擬心臓11及び模擬大動脈12等が固定されている。
【0028】
また基板3Aの上面側には、当該基板3Aの長手方向に関し約半分の長さでなる長方形板状の上基板3Cが支持柱3Dを介して取り付けられている。因みに上基板3Cは、模擬心臓11を覆わないような位置、すなわち人体における腹から大腿部に相当する位置に設けられている。
【0029】
[1−2.心臓血管モデルの構成]
心臓血管モデル2(
図3〜
図7)は、心臓を模した模擬心臓11を中心に構成されており、大動脈を模した模擬大動脈12が当該模擬心臓11に取り付けられている。
【0030】
模擬心臓11は、
図8(A)に示すように、心臓を模した外形を有しているものの、その構造は実際の心臓とは異なっている。すなわち模擬心臓11は、
図8(B)にその断面図を示すように、外殻11Aの内部に空間(以下これを貯蔵空間11Bと呼ぶ)を形成する殻状に構成されており、当該貯蔵空間11B内にある程度の容積の模擬血液9を貯蔵し得るようになされている。
【0031】
また模擬心臓11には、模擬血液9を貯蔵空間11B内へ供給する心臓供給管11C及び貯蔵空間11B内に貯蔵された当該模擬血液9を外部へ排出する心臓排出管11Dが設けられている。この心臓供給管11C及び心臓排出管11Dは、模擬心臓11の背中側から人体における後ろ方向へ、すなわち基板3A(
図3〜
図7)を貫通してその下方へ伸びるように設けられている。
【0032】
模擬心臓11は、心臓供給管11Cから模擬血液9が供給されると、当該模擬血液9を貯蔵空間11B内に貯蔵すると共に、供給されたときの圧力により当該模擬血液9を当該貯蔵空間11B内で環流させる。また模擬心臓11は、貯蔵空間11Bに新たに供給された模擬血液9とほぼ同容量の模擬血液9を心臓排出管11Dから排出するようになされている。
【0033】
因みに模擬心臓11は、比較的堅い樹脂により構成されており、自らその形状を保持し得るようになされている。
【0034】
模擬大動脈12(
図3〜
図7)は、シリコン樹脂等の比較的柔らかい材料でなり、人体の大動脈のうちおおむね上行大動脈から大腿動脈及び左外腸骨動脈の範囲を模した形状に形成されている。ただし模擬大動脈12の模擬心臓11との接続部分は実際の人体と異なり閉塞されており、模擬血液9が互いに流れないようになされている。
【0035】
また模擬大動脈12には、
図9に示すように、左冠動脈及び右冠動脈をそれぞれ模した模擬左冠動脈13A及び模擬右冠動脈13B(以下これらをまとめて模擬冠動脈13と呼ぶ)が上行大動脈に相当する部分に接続され、さらに3本の鎖骨下動脈を模した模擬鎖骨下動脈(図示せず)が接続されている。
【0036】
さらに模擬大動脈12(
図1及び
図2)には模擬大腿動脈14が接続されている。模擬大腿動脈14には、カテーテルを挿入するためのカテーテル挿入口としてのカテーテルシース15が接続されている。すなわちこのカテーテル挿入口は、模擬大腿動脈14を介して模擬大動脈12へと連通している。
【0037】
模擬左冠動脈13A及び模擬右冠動脈13Bは、模擬大動脈12と同様にシリコン樹脂等の比較的柔らかい材料でなり、実際の人体における左冠動脈及び右冠動脈と同様、それぞれ模擬心臓11の周囲を取り囲むように、当該模擬心臓11の外周に固定されている。
【0038】
因みに模擬大動脈12及び模擬冠動脈13は、その内部に模擬血液9が所定の圧力で環流されている状態において、カテーテルの訓練をする者の手に得られる感触が臨床状態に極めて近くなるよう、その柔らかさや表面の滑らかさ等が調整されている。
【0039】
また模擬冠動脈13は、いずれかの箇所を意図的に狭め、或いは閉塞させることができ、これにより動脈硬化等による冠動脈の病変状態を擬似的に再現するようになされている。
【0040】
さらに模擬左冠動脈13A及び模擬右冠動脈13Bの先端側、すなわち模擬大動脈12に接続する側と反対側の端部分は、模擬心臓11の外殻11Aに穿設された貫通孔11Eを介して、当該模擬心臓11内の貯蔵空間11Bと接続されている。
【0041】
以下では、説明の都合上、模擬冠動脈13における模擬大動脈側の端部を一端と呼び、模擬心臓側の端部を他端と呼ぶ。また
図8(B)では、説明の都合上、同一の断面上に貫通孔11Eを現しているが、実際には模擬冠動脈13の形状に応じた箇所に各貫通孔11Eが穿設される。
【0042】
また模擬大動脈12のうち上行大動脈に相当する部分には、人体における背面側に、大動脈供給口としての大動脈供給管12Aが設けられている。この大動脈供給管12Aは、後述する循環システム4から模擬血液9が供給されるようになされている。
【0043】
模擬大動脈12は、大動脈供給管12Aから模擬血液9が供給されると、当該模擬血液9を上行大動脈から下行大動脈等を介して左外腸骨動脈側(
図1、
図2)へ順次流すようになされている。因みに各図中の矢印は模擬血液9の流れる方向を示している。
【0044】
このとき模擬血液9は、模擬大動脈12(
図9)から分岐する模擬冠動脈13へも流れ、当該模擬冠動脈13を経た後に模擬心臓11内の貯蔵空間11Bへ排出される。
【0045】
このとき模擬冠動脈13から排出された模擬血液9は、貯蔵空間11B内に貯えられている大量の模擬血液9と混合され、やがて心臓排出管11Dから排出される。
【0046】
このように心臓血管モデル2は、心臓供給管11Cから供給される模擬血液9を貯蔵空間11B内に貯蔵し、模擬冠動脈13から排出される模擬血液9と合流させた後、心臓排出管11Dから排出するようになされている。
【0047】
[1−3.心臓血管モデルの作製]
心臓血管モデル2は、作製される際、
図10に示すように、まず中空の模擬心臓11が例えば光造形により作製される。この模擬心臓11は、上述したように硬質な樹脂により構成されている。また
図10には現れていないものの、模擬心臓11には心臓供給管11C及び心臓排出管11Dも併せて造形されている。その一方で、貫通孔11Eは未だ穿設されていない。
【0048】
また
図11に示すように、例えば光造形により中空の模擬大動脈12が作製される。この模擬大動脈12は、上述したようにシリコン樹脂等により構成されており、比較的柔らかくなっている。また図示しないが、模擬左冠動脈13A及び模擬右冠動脈13Bについても、模擬大動脈12と同様、例えば光造形によりシリコン樹脂等により作製される。
【0049】
続いて
図12に示すように、模擬心臓11に対し、所定の接着剤を用いたはめ込み接着により模擬大動脈12が接着される。
【0050】
さらに
図13に示すように、模擬冠動脈13の走行形状等に合わせて、精密ドリル等により模擬心臓11に貫通孔11Eが穿設される。その後模擬冠動脈13は、先端部分が当該貫通孔11Eに挿入され、さらに心臓供給管11C又は心臓排出管11Dから鉗子により当該先端部分が引っ張られた状態で、その接続部分に接着剤が盛られることにより固定される。
【0051】
かくして心臓血管モデル2は、硬質な模擬心臓11に対し、軟質な模擬大動脈12及び模擬冠動脈13がそれぞれ所定の箇所に固定されるようになされている。
【0052】
[1−4.循環システムの構成]
循環システム4(
図1、
図2)は、配管21等の配管部品及び人工心肺ポンプ5等の機器により構成されており、心臓血管モデル2に対し複数箇所で接続されている。
【0053】
人工心肺ポンプ5は、血液に相当する液体である模擬血液
9を、所定の速度で吸入すると共に排出するようになされている。また遠心ポンプコントローラ6は、人工心肺ポンプ5を制御することにより、模擬血液9の流出速度を調整するようになされている。
【0054】
配管21は、人工心肺ポンプ5における排出口に接続されており、当該人工心肺ポンプ5から排出された模擬血液9をY字管22及び分岐管23へ供給する。Y字管22は、配管21から供給される模擬血液9を配管24及び25へ供給する。
【0055】
配管24は、模擬心臓11の心臓供給管11Cに接続されており、当該心臓供給管11Cを介して模擬血液9を模擬心臓11の貯蔵空間11B内へ供給する。このとき貯蔵空間11B内では、心臓供給管11Cにおける模擬血液9の圧力により、貯えられている模擬血液9が環流される。
【0056】
配管25は、模擬大動脈12の大動脈供給管12Aに接続されており、当該大動脈供給管12Aを介して
模擬大動脈12内へ模擬血液9を供給する。
【0057】
一方、配管26は、模擬心臓11の心臓排出管11Dに接続されており、貯蔵空間11B内から排出されてきた模擬血液9をY字管28へ供給する。
【0058】
また配管27は、模擬大動脈12における左外腸骨動脈に相当する部分に接続されており、当該模擬大動脈12内を流れてきた模擬血液9をY字管28へ供給する。
【0059】
Y字管28は、配管26及び27から流れてきた模擬血液9を合流させて配管29へ供給する。
【0060】
配管29は、人工心肺ポンプ5の吸入口に接続されており、Y字管28から供給される模擬血液9及び分岐管23から供給される模擬血液9を合流させた上で、人工心肺ポンプ5に吸入させる。因みにこのとき吸入された模擬血液9は、上述したように配管21から再び排出されることになる。
【0061】
ここで、循環システム4における模擬血液9の流れを模式的に表すと、
図14のような遷移図として表すことができる。因みに
図14では、「モデル心臓」が模擬心臓11を表しており、また「モデル血管」が模擬大動脈12、模擬冠動脈13及び模擬鎖骨下動脈
における各部分をそれぞれ表している。
【0062】
また圧力モニタ7は、3本の模擬鎖骨下動脈
のうち1本に接続されている。これにより圧力モニタ7は、模擬大動脈12内を流れる模擬血液9の圧力を検出して表示する。
【0063】
実際上循環システム4では、作業者等が圧力モニタ7による検出結果を参照しながら遠心ポンプコントローラ6を調整することにより、当該圧力モニタ7により検出する圧力を所定の圧力(例えば50〜100mmHg)に設定するようになされている。
【0064】
因みに他の模擬鎖骨下動脈
は、栓8により閉塞されており、模擬血液9を他へ流出させないようになされている。
【0065】
このように循環システム4では、人工心肺ポンプ5から送り出した模擬血液9を、各種配管を介して模擬心臓11及び模擬大動脈12へ供給し、また当該模擬心臓11及び模擬大動脈12から排出された模擬血液9を回収することにより、当該模擬血液9を循環させるようになされている。
【0066】
[1−5.カテーテル手技の訓練]
次に、模擬人体システム1を利用したカテーテル手技の訓練の様子について説明する。模擬人体システム1は、循環システム4を作動させることにより、模擬血液9を模擬心臓11及び模擬大動脈12等において循環させる。
【0067】
また模擬人体システム1は、実際のカテーテル手術と同様に布で覆われ、少なくとも模擬心臓11及びその周辺を直接目視できないようになされた状態で、図示しないX線撮像装置により撮像され、その表示画面にX線画像が表示される。
【0068】
そしてカテーテル手技の訓練をする者(以下訓練者と呼ぶ)は、カテーテルシース15からカテーテルを順次挿入し、X線画像を目視確認しながら、当該カテーテルを介して伝わる触覚を頼りに、その先端を模擬冠動脈13にまで到達させる。
【0069】
訓練者がカテーテルの先端を模擬冠動脈13内に到達させた状態で、その先端から造影剤を注入すると、造影剤が模擬冠動脈13内を流れることにより当該模擬冠動脈13の形状がX線画像に映し出される。ここで閉塞部分等が設けてあれば、血流の状態(すなわち模擬血液9が流れる状態)からその箇所や状態が造影剤による像としてX線画像に現れることになる。
【0070】
模擬冠動脈13内を流れた造影剤は、模擬心臓11の貫通孔11Eを介して貯蔵空間11B内に排出される。貯蔵空間11B内には、模擬血液9が満たされており、且つ心臓供給管11C及び心臓排出管11Dによる模擬血液9の流動作用により当該模擬血液9が環流している。
【0071】
このため貯蔵空間11B内に排出された造影剤は、当該貯蔵空間11B内に貯蔵された模擬血液9により直ちに希釈化され、X線画像にはほとんど映らなくなる。この結果、模擬冠動脈13内で造影剤を注入した際に当該造影剤がX線画像に像として現れるのは、ほぼ模擬冠動脈13内を流れる部分のみとなる。
【0072】
ここで、冠動脈又は模擬冠動脈内で造影剤を注入した際に実際に得られたX線画像を
図15(A)〜(C)に示す。
図15(A)は、実際の人体を撮像したものであり、臨床現場ではこのような画像を見ながらカテーテルを操作することになる。
【0073】
図15(B)は、従来の模擬人体を用いた場合のX線画像であり、造影剤を注入した際、排液ポート等の余分な配管等が映っていることがわかる。
【0074】
一方、
図15(C)は本発明による模擬人体システム1を用いた場合のX線画像であり、模擬冠動脈13以外の余分な配管等がほとんど映っておらず、
図15(A)に極めて近い雰囲気の画像となっていることがわかる。
【0075】
訓練者は、このようなX線画像を視認しながら、引き続きステントやバルーン等のようなカテーテル手技に関する種々の訓練を行う。
【0076】
かくして模擬人体システム1は、模擬冠動脈13に造影剤を注入したときに、臨床現場に極めて近い状態のX線画像を視認させながら、訓練者にカテーテル手技の訓練をさせることができる。
【0077】
[1−6.動作及び効果]
以上の構成において、第1の実施の形態による模擬人体システム1では、心臓血管モデル2の模擬心臓11内に貯蔵空間11Bを設け、心臓供給管11C及び心臓排出管11Dを介して当該貯蔵空間11B内に模擬血液9を貯えると共に循環させる。
【0078】
また心臓血管モデル2では、模擬心臓11の外殻11Aに貫通孔11Eを穿設し、模擬冠動脈13の先端側を当該貫通孔11Eから貯蔵空間11B内へ挿入した状態で固定した。
【0079】
このため模擬人体システム1を用いたカテーテル手技の訓練では、カテーテルの先端を模擬冠動脈13内にまで到達させた状態で造影剤を流した際、当該模擬冠動脈13から排出された造影剤が模擬心臓11の貯蔵空間11B内で直ちに希釈化される。
【0080】
これにより模擬人体システム1は、余分な排液ポートや配管等を映し出すことなく、模擬冠動脈13が映し出され、臨床現場と同様のX線画像を訓練者に目視させることができる。
【0081】
臨床現場では、造影剤は冠動脈から毛細血管内を流れ、やがて他の血液により希釈化されて静脈内を流れる。このため、X線画像に関しては、造影剤を流した箇所から冠動脈内を流れる間の部分については像を得られるものの、その後徐々に血管が細くなり毛細血管に至った後までは像を得られないことになる。
【0082】
これを別の観点から見れば、造影剤については、冠動脈内を流れる部分のみX線画像に像が映り、且つそれ以外の部分については像が映るべきではないといえる。この点に関し本願発明では、模擬冠動脈13から排出された造影剤を、模擬心臓11内に蓄えた模擬血液9を用いて直ちに希釈化することにより、結果的に、臨床状態と同様にX線画像に像を映さないようにしているのである。
【0083】
また模擬心臓11では、本来の人体には存在しない心臓供給管11C及び心臓排出管11Dを、人体における背面側に設けるようにした。一方、カテーテル手技の訓練では、人体における前面を中心に左前面ないし右前面からX線画像を撮像する。このため模擬人体システム1は、X線画像が撮像された際に、心臓供給管11C及び心臓排出管11Dの「影」を極力映し出さないようにすることができる。
【0084】
以上の構成によれば、模擬人体システム1は、模擬心臓11の貯蔵空間11B内に模擬血液9を貯えると共に循環させ、模擬冠動脈13の先端側を外殻11Aに穿設した貫通孔11Eから貯蔵空間11B内へ挿入した状態で固定した。この模擬人体システム1を用いたカテーテル手技の訓練では、カテーテルの先端を模擬冠動脈13内にまで到達させた状態で造影剤を流した際、当該模擬冠動脈13から排出された造影剤が模擬心臓11の貯蔵空間11B内で直ちに希釈化されるため、余分な配管等を映し出すことなく、臨床現場に極めて近いX線画像を訓練者に目視させることができる。
【0085】
[2.第2の実施の形態]
[2−1.模擬人体システムの構成]
第2の実施の形態による模擬人体システム50は、
図1及び
図2とそれぞれ対応する
図16及び
図17に示すように、第1の実施の形態による模擬人体システム1と比較して、心臓血管モデル2及び循環システム4に代わる心臓血管モデル52及び循環システム54を有している点が異なるものの、他は同様に構成されている。
【0086】
心臓血管モデル52は、模擬心臓11及び模擬大動脈12とそれぞれ対応する模擬心臓61及び模擬大動脈62により構成されている。
【0087】
模擬心臓61は、
図8(A)及び(B)と対応する
図18(A)及び(B)に示すように、外殻11A、心臓供給管11C及び心臓排出管11Dとそれぞれ対応する外殻61A、心臓供給管61C及び心臓排出管61Dを有している。
【0088】
さらに模擬心臓61は、内部に隔壁61Fが設けられることにより、貯蔵空間11Bに相当する空間が、排出貯蔵空間61B及び供給貯蔵空間61Gに2分割されている。また模擬心臓61は、外殻61Aにおける模擬大動脈12との接続部分に、模擬血液9を模擬大動脈62内へ排出するための排出孔61Hと、模擬大動脈62内から模擬血液9を排出貯蔵空間61B内に供給するための供給孔61Jとが穿設されている。
【0089】
さらに貫通孔11Eと対応する貫通孔61Eは、隔壁61Fよりも排出貯蔵空間61B側にのみ穿設されている。これに応じて模擬冠動脈13は、
図9と対応する
図19に示すように、先端側が当該貫通孔61Eを介して、全て排出貯蔵空間61Bと接続されている。
【0090】
また模擬大動脈62は、模擬大動脈12(
図9)における大動脈供給管12Aが省略されている。
【0091】
かかる構成により、第2の実施の形態による心臓血管モデル52では、
図19に示したように、心臓供給管61Cから供給された模擬血液9が供給貯蔵空間61Gを経由し排出孔61Hを介して模擬大動脈62内へ供給される。
【0092】
また模擬大動脈62に供給された模擬血液9は、第1の実施の形態と同様に上行大動脈から下行大動脈等を介して左外腸骨動脈側へ流れると共に、その一部が模擬冠動脈13へ流れる。これに加えて模擬大動脈62は、模擬血液9の一部を供給孔61Jから排出貯蔵空間61B内に供給する。すなわち排出貯蔵空間61Bに着目した場合、供給孔61Jは、第1の実施の形態における心臓供給管11Cと同様の役割を果たしている。
【0093】
模擬心臓61は、供給孔61Jから供給された模擬血液を排出貯蔵空間61B内に大量に貯えておき、模擬冠動脈13から排出された模擬血液9と当該排出貯蔵空間61B内の模擬血液9と混合して直ちに希釈化し、やがて心臓排出管61Dから排出するようになされている。
【0094】
このように心臓血管モデル52は、心臓供給管11Cに代わる供給孔61Jから供給される模擬血液9を排出貯蔵空間61B内に貯蔵し、模擬冠動脈13から排出される模擬血液9と合流させた後、心臓排出管61Dから排出するようになされている。
【0095】
一方、循環システム54(
図16及び
図17)は、第1の実施の形態による循環システム4と比較して、Y字管22、配管24及び25が省略されると共に、配管21が模擬心臓61の心臓供給管61Cに直結されている点が相違するものの、他は同様に構成されている。
【0096】
[2−2.動作及び効果]
以上の構成において、第2の実施の形態による模擬人体システム50では、心臓血管モデル52の模擬心臓61内に排出貯蔵空間61Bを設け、供給孔61J及び心臓排出管61Dを介して当該排出貯蔵空間61B内に模擬血液9を貯えると共に循環させる。
【0097】
また心臓血管モデル52では、模擬心臓61の外殻61Aにおける排出貯蔵空間61B側のみに貫通孔61Eを穿設し、模擬冠動脈13の先端側を当該貫通孔61Eから排出貯蔵空間61B内へ挿入した状態で固定した。
【0098】
このため模擬人体システム50を用いたカテーテル手技の訓練では、カテーテルの先端を模擬冠動脈13内にまで到達させた状態で造影剤を流した際、第1の実施の形態と同様、当該模擬冠動脈13を流れた造影剤が模擬心臓61の排出貯蔵空間61B内で直ちに希釈化される。
【0099】
これにより模擬人体システム50は、余分な配管等を映し出すことなく、模擬冠動脈13が映し出され、臨床現場と同様のX線画像を訓練者に目視させることができる。
【0100】
特に模擬人体システム50では、模擬心臓61内を隔壁61Fにより2つの空間に分割し、排出孔61Hにより模擬大動脈62と接続しているため、第1の実施の形態で必要であった大動脈供給管12Aを省略することができる。
【0101】
このため模擬人体システム50は、第1の実施の形態の場合と比較して、X線画像に当該大動脈供給管12Aの「影」が完全に映らなくなるため、より臨床状態に近づけることができる。
【0102】
その他の点についても、第2の実施の形態による模擬人体システム50では、第1の実施の形態による模擬人体システム1の場合と同様の作用効果を奏し得る。
【0103】
以上の構成によれば、第2の実施の形態による模擬人体システム50は、模擬心臓61の排出貯蔵空間61B内に模擬血液9を貯えると共に循環させ、模擬冠動脈13の先端側を外殻61Aの排出貯蔵空間61B側に穿設した貫通孔61Eから当該排出貯蔵空間61B内へ挿入した状態で固定した。この模擬人体システム50を用いたカテーテル手技の訓練では、カテーテルの先端を模擬冠動脈13内にまで到達させた状態で造影剤を流した際、当該模擬冠動脈13から排出された造影剤が模擬心臓61の排出貯蔵空間61B内で直ちに希釈化されるため、余分な配管等を映し出すことなく、臨床現場に極めて近いX線画像を訓練者に目視させることができる。
【0104】
[3.他の実施の形態]
なお上述した第1の実施の形態においては模擬心臓11の内部を単一の貯蔵空間11Bとし、また第2の実施の形態においては模擬心臓61の内部のうち隔壁61Fで隔てた一方の空間を排出貯蔵空間61Bとする場合について述べた。
【0105】
本発明はこれに限らず、模擬心臓の内部における任意の範囲を占める空間を貯蔵空間とするようにしても良い。例えば、
図8(B)及び
図18(B)と対応する
図20に示すように、模擬心臓71は、外殻71Aの内側に内殻71Kが設けられており、当該外殻71A及び内殻71Kの間に貯蔵空間71Bが形成されている。また外殻71Aには貫通孔71Eが穿設されている。
【0106】
この模擬心臓71を用いた場合にも、第1及び第2の実施の形態と同様、模擬冠動脈13からの模擬血液9及び造影剤が貫通孔
71Eを介して貯蔵空間71B内へ流され、当該貯蔵空間71Bに貯えられている模擬血液9により直ちに希釈化される。このため、模擬冠動脈13から排出された造影剤がX線画像に不必要に映ってしまうことがない。
【0107】
このように本願発明の模擬心臓としては、少なくとも内部に多量の模擬血液9を貯え得る貯蔵空間を有すると共に当該貯蔵空間へ模擬血液を供給する心臓供給路及びに排出する心臓排出路を有し、且つ模擬冠動脈13の先端が貫通孔を介して貯蔵空間に接続されていれば良い。
【0108】
また心臓供給路としては、第1の実施の形態のように外部からの専用の管路であっても良く、或いは第2の実施の形態のように模擬大動脈からの供給孔であっても良い。要は、X線画像として本来の臨床状態とできるだけ近い映像を得られれば良い。
【0109】
さらに上述した第1の実施の形態においては、模擬心臓11を硬質な樹脂により構成するようにした場合について述べた。
【0110】
本発明はこれに限らず、例えばある程度可撓性を有する樹脂等、他の種々の材料により模擬心臓11を構成するようにしても良い。この場合、模擬冠動脈13が冠動脈本来の形状から大きく逸脱しない範囲に止まっていれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0111】
また上述した第1の実施の形態においては、模擬心臓11の造形時に心臓供給管11C及び心臓排出管11Dを同時成形するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、それぞれを別個に成形した後に組み合わせるようにしても良い。さらに模擬心臓11及び各模擬血管等については、光造形に限らず他の造形方法により作成するようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0112】
さらに上述した第1の実施の形態においては、循環システム4において、
配管29を介して排出されてきた模擬血液9を、人工心肺ポンプ5により再度
配管21へ供給して当該模擬血液9を再度循環させるようにした場合について述べた。
【0113】
本発明はこれに限らず、例えばカテーテル手技の訓練を行う間は模擬血液9を再利用せず、予め大量に用意した模擬血液9を人工心肺ポンプ5により順次供給するようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0114】
さらに上述した第1の実施の形態においては、模擬冠動脈13に病変状態を模して閉塞させた部分を設けるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、例えばカテーテルを冠動脈に到達させるまでの訓練を行うような場合に、閉塞させた部分を設けないようにしても良い。
【0115】
さらに上述した第1の実施の形態においては、大腿動脈からカテーテルを挿入する手技を想定し、模擬大動脈12をおおむね上行大動脈から大腿動脈及び左外腸骨動脈の範囲を模した形状とし、模擬大腿動脈14にカテーテル挿入口としてのカテーテルシース15を設けるようにした場合について述べた。
【0116】
本発明はこれに限らず、例えば上行大動脈から上腕動脈や橈骨動脈及び尺骨動脈の範囲を模した形状等、実際のカテーテル検査及び手術においてカテーテルを挿入する箇所から冠動脈に至るまでの範囲を模した形状とするようにしても良い。この場合、当該箇所にカテーテル挿入口としてのカテーテルシース15を接続するようにすれば良い。
【0117】
さらに上述した実施の形態においては、循環システム4において、圧力モニタ7を目視した作業者等の手作業により遠心ポンプコントローラ6を調整するようにした場合について述べた。
【0118】
本発明はこれに限らず、例えば圧力モニタ7の検出値に応じて遠心ポンプコントローラ6の設定値を自動的に調整するようにしても良い。
【0119】
さらに上述した実施の形態においては、模擬心臓としての模擬心臓11と、心臓供給路としての心臓供給管11Cと、心臓排出路としての心臓排出管11Dと、模擬大動脈としての模擬大動脈12と、大動脈供給口としての大動脈供給管12Aと、挿入口としてのカテーテルシース15と、模擬冠動脈としての模擬冠動脈13と、ポンプとしての人工心肺ポンプ5及び遠心ポンプコントローラ6とによって模擬人体としての模擬人体システム1を構成する場合について述べた。
【0120】
しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる模擬心臓と、心臓供給路と、心臓排出路と、模擬大動脈と、大動脈供給口と、挿入口と、模擬冠動脈と、ポンプとによって模擬人体を構成するようにしても良い。