(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記練肉工程の前工程として、前記顔料混合物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、顔料を微細に分散させるために、多くのエネルギーおよび手間を必要とし、また製造時間が長くなって生産性を低下させることから、改善すべき点がある。
【0007】
オフセット印刷用インキ組成物の製造において、顔料としては、顔料の粒子同士が強固に凝集した、乾燥状態の顔料が用いられる。そのため、顔料が微細に分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得るためには、オフセット印刷用インキ組成物の製造時に、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することと、一旦分散した顔料の粒子が再凝集することを防ぐことが必要である。
【0008】
顔料を一次粒子まで分散させるためには、顔料を充分に湿潤させることが必要である。しかしながら、顔料を湿潤させる材料として、予め、油成分に樹脂を溶解して得られる樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合したとき、樹脂ワニスによって顔料が充分に湿潤するまでに時間がかかる。
【0009】
この理由としては、高粘度のペースト状のオフセット印刷用インキ組成物の材料であり、高粘度に仕上げられる樹脂ワニスが、表面が凸凹の顔料粒子の凝集体の内部に浸透しにくいためである。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する空気が、高粘度の樹脂ワニスによって移動を妨げられて気泡になり、このようにして発生した気泡が顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在することによって顔料に樹脂ワニスがさらに浸透しにくくなるためである。なお、この気泡によって、前記分散工程において顔料に付与された力が低減されるので、顔料に、微細な一次粒子まで分散させることができる力を付与することが困難となる。
【0010】
一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防ぐためには、顔料粒子の表面に、油成分に溶解した樹脂が吸着することが必要である。樹脂が吸着していない顔料粒子は、一旦分散されたとしても、分散状態が不安定であるため、再凝集しやすい。しかしながら、前述のようにして顔料粒子の凝集体の表面および内部に発生した気泡は、油成分に溶解した樹脂が顔料表面に吸着することを妨げる原因となる。
【0011】
このように、樹脂ワニスの顔料粒子の凝集体内部への浸透、および樹脂の顔料粒子表面への吸着を阻害する気泡を顔料粒子の凝集体の表面から除去するためには、前記プレミキシング工程において、撹拌装置による撹拌時間を長くし、また、前記分散工程において、分散装置でより多くの力を顔料に付加して長時間の分散処理を行う必要があり、その結果、撹拌装置および分散装置を稼働させるためのエネルギーおよび手間が多く必要となるとともに、製造時間が長くなる。
【0012】
顔料を容易に分散させて、顔料の分散に必要なエネルギーの削減等を図る方法として、顔料を、水で湿潤されたウェットケーキやプレスケーキの状態で樹脂ワニスに加え、撹拌することで、顔料を樹脂ワニス中へ分散させるフラッシング工程を行い、フラッシング工程後に水を除去する脱水工程を行うオフセット印刷用インキ組成物の製造方法がある。
【0013】
しかしながら、このような製造方法でも高粘度の樹脂ワニスを利用していることから、顔料が充分に湿潤するまでに時間がかかる点を充分に改善することができない。また、フラッシング工程を行うために、フラッシャー等の高額で特殊な設備が必要である。さらに、脱水工程で生じた排水による環境面への影響、および処理コストがかかる等の問題がある。
【0014】
したがって本発明の目的は、従来の方法よりも設備および生産コストがかからず、省エネルギー化につながり、かつ生産性を大幅に向上させることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
油成分および乾燥した顔料を、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられるタンクに投入し、撹拌羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、撹拌混合することによって、顔料を油成分で湿潤させて顔料湿潤物を得る湿潤工程と、
前記顔料湿潤物が収容される前記タンクに、樹脂成分を投入し、前記撹拌羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、加熱下で撹拌混合することによって、樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料混合物を得る顔料混合物作製工程と、
前記顔料混合物を練肉し、オフセット印刷用インキ組成物を得る練肉工程と、を含
み、
前記顔料混合物作製工程において前記タンクに投入する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記顔料混合物作製工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させ、
前記ブレードは、
基部から半径方向外方になるにつれて前記基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、
基部から半径方向外方になるにつれて前記基部の回転面に対して、前記第1ブレードが前記基部の回転面に対して離反するように傾斜した方向と逆方向側に離反するように傾斜した第2ブレードと、
基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0016】
また本発明は、前記練肉工程の前工程として、前記顔料混合物にゲル化剤を添加し、前記樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含むことを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記練肉工程は、
前記顔料混合物作製工程で得られた前記顔料混合物を、前記タンクから分散装置に、分散装置の内圧によって規定される所定の流量で供給し、顔料を分散処理して顔料分散物を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた前記顔料分散物を、分散装置から吐出して元の前記タンクに戻す戻し工程と、
前記タンク内に収容される収容物を、前記タンクと前記分散装置との間で循環させて、前記分散装置における分散処理を顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る循環工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
また本発明において、前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードが、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%であり、
顔料混合物作製工程において、前記ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、湿潤工程と、顔料混合物作製工程と、練肉工程とを含む。湿潤工程では、油成分および乾燥した顔料を、撹拌羽根が内部空間に設けられるタンクに投入し、撹拌羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、撹拌混合することによって、顔料が油成分で湿潤された顔料湿潤物を得る。顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物が収容される前記タンクに、樹脂成分を投入し、前記撹拌羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、加熱下で撹拌混合することによって、樹脂成分を油成分中に溶解させて顔料混合物を得る。練肉工程では、顔料混合物を練肉し、オフセット印刷用インキ組成物を得る。
【0022】
湿潤工程で、油成分および乾燥した顔料を撹拌混合した後に、顔料混合物作製工程で、油成分中に樹脂成分を溶解させるので、湿潤工程では、樹脂成分が溶解しておらず、粘度が低い油成分を、乾燥した顔料と撹拌混合することができる。そのため、油成分を顔料粒子の凝集体の内部にまで速やかに浸透させることができ、また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができるので、一旦分散した顔料粒子の再凝集を防止することができる。したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0023】
また、フラッシング工程および脱水工程を行わないので、設備および生産コストを抑えて、オフセット印刷用インキ組成物を製造することができる。
また、顔料混合物作製工程においてタンク内に投入する樹脂成分として塊状態の固形樹脂を含む。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される円板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。そして、顔料混合物作製工程では、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって撹拌混合するので、塊状態の固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることができる。
また、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部と第1ブレードと第2ブレードと第3ブレードとを含んで構成されている。基部は、回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。第1ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。第2ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して、第1ブレードが基部の回転面に対して離反するように傾斜した方向と逆方向側に離反するように傾斜したブレードである。第3ブレードは、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行なブレードである。
顔料混合物作製工程では、基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレード、および、基部の回転面に対して、第1ブレードが基部の回転面に対して離反するように傾斜した方向と逆方向側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部の回転面に平行な第3ブレードとを有するカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するので、樹脂成分に大きなせん断力を付与することができ、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物と樹脂成分との撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。したがって、顔料混合物作製工程において、熱による樹脂成分の劣化をさらに抑制することができるとともに、熱エネルギーロスを少なくすることができる。
また、カッター羽根は、前記第1および第2ブレードが、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部に連なっている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合する顔料混合物作製工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、顔料湿潤物および樹脂成分に対して撹拌流が作用する。そのため、顔料湿潤物および樹脂成分は、タンク内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物および樹脂成分の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
さらに、カッター羽根は、前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部が、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合する顔料混合物作製工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、先細状に形成される各ブレードの縁辺部によって、樹脂成分に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における樹脂成分の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物および樹脂成分の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0024】
また本発明によれば、練肉工程の前工程として、顔料混合物にゲル化剤を添加し、樹脂成分をゲル化させるゲル化工程を含む。樹脂成分をゲル化することによって、得られるオフセット印刷用インキ組成物のインキ性状および印刷適性を向上させることができる。
【0025】
また本発明によれば、練肉工程は、分散工程と、戻し工程と、循環工程とを含む。分散工程では、顔料混合物作製工程で得られた顔料混合物を、タンクから分散装置に、分散装置の内圧によって規定される所定の流量で供給し、顔料を分散処理して顔料分散物を得る。戻し工程では、分散工程で得られた顔料分散物を、分散装置から吐出して元の前記タンクに戻す。循環工程では、タンク内に収容される収容物を、タンクと分散装置との間で循環させて、分散装置における分散処理を顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る。
【0026】
戻し工程において分散処理後の顔料分散体を分散装置から吐出して元のタンクに戻し、さらに循環工程においてタンク内の収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことによって、高い生産効率でオフセット印刷用インキ組成物を得ることができる。
【0028】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部とブレードとを含んで構成されている。基部は、タンクの中心軸線と同一直線上にある軸線まわりに回転駆動される回転軸に垂直に固定される円板状の部分である。ブレードは、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%となるように形成されている。そして、顔料混合物作製工程では、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が10m/s以上となる速度で、カッター羽根が回転駆動される。顔料混合物作製工程では、タンクの内径に対して所定の回転直径を有するブレードを含むカッター羽根を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク内に収容されるインキ用材料に充分なせん断力が付与されて、油成分中で樹脂を粉砕しながら撹拌混合することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物と樹脂成分との撹拌混合時における加熱温度を低下させても、油成分中に樹脂を溶解させることができるので、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法において用いられる製造システム1の構成を示す図である。本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、撹拌装置100と分散装置110とが供給装置120を介して接続される製造システム1を用いて行われ、湿潤工程と、顔料混合物作製工程と、ゲル化工程と、練肉工程と、後添加工程とを含む。
【0035】
(湿潤工程)
湿潤工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、油成分および乾燥した顔料を、内部空間に撹拌羽根であるカッター羽根10が設けられるタンク20に投入し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させて、20〜150℃の温度下で約5〜120分間撹拌混合することによって、顔料を油成分で湿潤させて顔料湿潤物を得る。
【0036】
顔料に対する油成分の使用量は、顔料100質量部に対して50〜400質量部、好ましくは100〜400質量部である。
【0037】
顔料としては、オフセット印刷用インキ組成物の顔料成分として常用される乾燥した顔料を用いることができ、無色または有色の、無機顔料または有機顔料を挙げることができる。
【0038】
具体的には、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、磁性酸化鉄などの無機顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料、およびカーボンブラックなどが挙げられる。
【0039】
顔料は、水系で顔料の材料成分を化学反応させて製造した微細な顔料の一次粒子を、濃縮のために濾過用の袋などの中に入れて水分を絞り(フィルタープレス)、その後、熱などを利用して乾燥させて大きな塊状態の顔料の乾燥固形物を得て、このような塊状態の顔料の乾燥固形物を、ある程度の粒子径に乾式粉砕して、パウダー状にすることで製造される。したがって、本実施形態において、顔料としては、顔料粒子同士が強固に凝集した乾燥状態のものが用いられ、その含水率は、1%以下である。顔料の含水率は、カールフィッシャー水分計測定方法を使用して測定することができる。なお、測定条件としては、顔料を1.0g用いて、温度25℃の条件で測定した。
【0040】
高粘度の樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂ワニスによって顔料を充分に湿潤させるまでに時間がかかる。また、顔料粒子の凝集体の表面および内部に存在する気泡を除去するために、エネルギーおよび手間が多く必要で、製造時間がかかるために、生産性が低下する。
【0041】
本実施形態のように、湿潤工程で、樹脂成分が溶解しておらず、粘度が低い油成分を、乾燥した顔料と撹拌混合することによって、油成分が、顔料粒子の凝集体の表面および内部からの毛細管圧や親和性の影響を大きく受けるので、油成分が顔料へ浸透しやすくなる。そのため、油成分で顔料を速やかに湿潤させることができるとともに、顔料粒子の凝集体の表面および内部に気泡が発生することを抑制することができ、仮に顔料粒子の凝集体の表面および内部に空気が存在していたとしても、速やかに油成分と置き換わり、系外に空気を排出することができる。このように気泡が除去されると、後述の顔料混合物作製工程において、油成分中に溶解した樹脂成分が、顔料粒子の表面に吸着することによって、顔料粒子の分散安定性が高まるので、一旦分散した顔料粒子が再凝集することを防止できる。
【0042】
したがって、顔料を微細に分散させるためのエネルギーおよび手間を低減することができるとともに、製造時間を短縮することができるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0043】
また、樹脂ワニスを利用する従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、樹脂成分を油成分中に溶解させるための設備と熱エネルギーとを必要とするが、本実施形態では、そのような設備が不要になる。そのため、従来の方法よりも設備および生産コストがかからない。
【0044】
油成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の油成分として常用される油成分を用いることができ、植物油成分、鉱物油成分等が使用できる。植物油成分を単独で用いてもよく、鉱物油成分を単独で用いてもよく、植物油成分と鉱物油成分とを併用して用いてもよい。
【0045】
植物油成分としては、植物油および/または植物油由来の脂肪酸エステルが好適である。植物油としては、大豆油、綿実油、亜麻仁油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油などの乾性油または半乾性油が例示できる。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油由来の脂肪酸のモノアルキルエステル化合物が挙げられる。上記脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などが例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシルなどのアルキル基が例示できる。
【0046】
これら植物油や植物油由来の脂肪酸エステルからなる植物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい植物油成分は、大豆油および/または大豆油脂肪酸エステルである。
【0047】
鉱物油成分としては、水と相溶しない沸点180℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が使用できる。非芳香族系石油溶剤の具体例としては、0号ソルベント、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(以上、いずれも新日本石油株式会社製)などが挙げられる。これら鉱物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
ここで、湿潤工程、後述する顔料混合物作製工程および後述するゲル化工程で用いられる撹拌装置100について、
図2を用いて説明する。
図2は、製造システム1に備えられる撹拌装置100の構成を示す図である。撹拌装置100は、タンク20の内部空間に、撹拌羽根であるカッター羽根10が設けられて構成される。
【0049】
タンク20は、底面が円弧状の有底筒状に形成されたものであり、ステンレス鋼などの金属材料によって構成されている。撹拌装置100では、タンク20の外周面を覆うように加熱手段24が設けられており、この加熱手段24は、水などの流体が流体供給口24aから流体排出口24bに向けて流過することによって、タンク20内の温度を制御可能に構成されている。また、タンク20の内部空間には、内周面と所定の間隔をあけて対向するようにバッフルプレート25が配設され、タンク20内に投入されるインキ用材料が撹拌混合されるときの流れ方向および流速が制御される。また、タンク20の上縁端部には、着脱自在の蓋体26が設けられ、蓋体26が装着された状態では、タンク20内が密閉空間となる。
【0050】
そして、タンク20の底面中央部には、ゲル化工程において作製される、ゲル化された顔料混合物が、タンク20内から分散装置110に向けて排出されるときの流過開口となるタンク排出口21が設けられ、タンク20の上方側面には、後述する戻し工程および後述する循環工程において分散装置110から吐出(排出)される分散液が、分散装置110からタンク20内に供給されるときの流過開口となるタンク供給口22が設けられている。
【0051】
さらに、撹拌装置100には、タンク20の中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに、駆動モータ27により回転駆動される回転軸23が、蓋体26を貫通して設けられ、この回転軸23の延在方向端部近傍に、撹拌羽根10が固定されている。
【0052】
(顔料混合物作製工程)
顔料混合物作製工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、湿潤工程で得られた顔料湿潤物を撹拌混合しているタンク20に、樹脂成分を投入し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させ、前記顔料湿潤物と樹脂成分とを、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合することによって、油成分中に樹脂成分を溶解させて顔料混合物を得る。
【0053】
80〜200℃の温度下で撹拌混合することによって、樹脂成分と油成分との間でエステル交換反応が起こるのを防止して、樹脂成分の低分子量化を抑制することができるとともに、短時間で油成分中に樹脂成分が溶解された顔料混合物を得ることができる。
【0054】
顔料混合物作製工程では、前述の湿潤工程での撹拌混合によって生じた熱エネルギーを、樹脂成分の油成分中への溶解のために利用できる。
【0055】
樹脂成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の樹脂成分に常用的に使用される樹脂を用いることができ、顔料分散用樹脂およびバインダー樹脂に分けられる。
【0056】
顔料分散用樹脂としては、低粘度化を図れるものを好ましく用いることができ、植物油変性アルキッド樹脂などのアルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂(天然アスファルタムから抽出された軟化点120〜125℃の炭化水素樹脂も含む)、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0057】
バインダー樹脂としては、たとえば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、フェノールを含有しないポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂等を挙げることができる。
【0058】
バインダー樹脂は、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂などの形態をとり、樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことが好ましい。樹脂成分が塊状態の固形樹脂を含むことによって、樹脂成分がタンク投入時に飛散することを抑制することができる。
【0059】
樹脂成分の使用量は、顔料成分100質量部に対して、30〜300質量部が好ましい。
【0060】
撹拌装置100に設けられる撹拌羽根であるカッター羽根10は、バインダー樹脂の形態に応じて、最適な形状が異なる。
【0061】
バインダー樹脂として、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂を使用する場合、この分野で常用されるディスクタービン羽根を撹拌羽根として用いても、油成分中に樹脂成分を充分に溶解させることができる。しかしながら、バインダー樹脂として、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂を使用する場合、ディスクタービン羽根を用いて撹拌混合しても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができない。したがって、バインダー樹脂として塊状態の固形樹脂を用いる場合には、
図3に示す形状を有するカッター羽根10を用いることが好ましい。
【0062】
図3は、撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。
図3(a)は、カッター羽根10の展開図を示し、
図3(b)は、カッター羽根10の平面図を示し、
図3(c)は、カッター羽根10の側面図を示す。カッター羽根10は、ステンレス鋼などの金属材料からなる部材であり、基部11と、第1ブレード12と、第2ブレード13と、第3ブレード14とを含んで構成されている。また、カッター羽根10の配設位置は、タンク20の底面から、タンク20の高さに対して10〜25%の高さ位置である。
【0063】
基部11は、タンク20の中心軸線と同一直線上にある回転軸線まわりに回転方向Aに回転駆動される回転軸23に、垂直に固定される円板状の部分であり、平面視したときの形状が正六角形である。そして、カッター羽根10では、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、回転軸線に関して周方向に等間隔に、正六角形状の基部11の各辺から半径方向外方に連なるように形成されている。6枚の各ブレード12,13,14は、同じ形状および大きさに形成されており、本実施形態では、平面視したときの形状が台形である。
【0064】
また、6枚の各ブレード12,13,14において、基部11から半径方向外方に延びる延在方向の長さL2は、正六角形状の基部11の各辺の長さL1に対して、150〜300%に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10における各ブレード12,13,14の強度を、充分に確保することができる。
【0065】
2枚の第1ブレード12のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第1ブレード12同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0066】
第1ブレード12における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ1は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に対して撹拌流を作用させることができるのでそれぞれの工程の効率を向上させることができる。具体的には、湿潤工程で、乾燥した顔料を油成分によって湿潤させるときの効率、顔料混合物作製工程で、油成分中へ樹脂成分を溶解させるときの効率、および後述するゲル化工程で、樹脂成分とゲル化剤との反応効率を向上させることができる。
【0067】
また、第1ブレード12は、回転方向Aの上流側の第1上流側基端部12aが回転方向Aの下流側の第1下流側基端部12bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させると、各工程のインキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0068】
特に顔料混合物作製工程では、顔料湿潤物および樹脂成分が、タンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されることで、樹脂成分として塊状態の固形樹脂を用いた場合、塊状態の固形樹脂を粉砕しながら、粉砕された固形樹脂が油成分中に溶解される。そのため、加熱温度を低下させ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができるので、熱による樹脂成分の劣化を抑制することができる。
【0069】
さらに、第1ブレード12は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部12cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、顔料混合物作製工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させながら、粉砕された固形樹脂を溶解させることができるので、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cの厚みは、縁辺部12c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0070】
2枚の第2ブレード13のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して
、第1ブレード12が基部11の回転面に対して離反するように傾斜した方向と逆方向側(以下、「他方側
」という)に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第2ブレード13同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0071】
第2ブレード13における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ2は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内の各工程のインキ用材料に撹拌流を作用させることができ、前述した各工程の効率が向上する。
【0072】
また、第2ブレード13は、回転方向Aの上流側の第2上流側基端部13aが回転方向Aの下流側の第2下流側基端部13bよりも半径方向外方に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させたときに、各工程のインキ用材料はタンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合される。そのため、前述した各工程の効率が向上する。
【0073】
さらに、第2ブレード13は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部13cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、顔料混合物作製工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させながら、粉砕された固形樹脂を溶解させることができるので、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cの厚みは、縁辺部13c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0074】
2枚の第3ブレード14のそれぞれは、基部11から半径方向外方に連なり、基部11の回転面に平行なブレードである。そして、各第3ブレード14同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。そして、第3ブレード14は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部14aが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、顔料混合物作製工程で、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aによって、塊状態の固形樹脂に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における塊状態の固形樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、顔料混合物作製工程では、粉砕効率を向上させて塊状態の固形樹脂を粉砕させながら、粉砕された固形樹脂を溶解させることができるので、加熱温度を200℃以下に低下させることができ、かつ撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂成分を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aの厚みは、縁辺部14a以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0075】
以上のように、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、基部11から半径方向外方に連なるように形成されたカッター羽根10では、2枚の第3ブレード14の遊端部間の長さに対応する、最外周縁部の先端部における回転直径L4が、タンク20の内径に対して30〜80%に設定される。そして、湿潤工程、顔料混合物作製工程、および後述するゲル化工程では、第3ブレード14の遊端部の周速度、すなわち、各ブレード12,13,14における最外周縁部の先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で、カッター羽根10が回転駆動される。各工程では、タンク20の内径に対して所定の回転直径L4を有するブレードを含むカッター羽根10を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク20内に収容される各工程のインキ用材料に、充分なせん断力が付与しながら撹拌流を作用させることができるので、前述した各工程の効率が向上する。
【0076】
なお、タンク20内で撹拌混合するときに用いられるカッター羽根は、前述したカッター羽根10の形状に限定されるものではない。前述したカッター羽根10は、6枚のブレードが基部11から半径方向外方に連なるように形成されたものであるが、カッター羽根のブレードの枚数としては、好ましくは3〜10枚、より好ましくは4〜8枚である。
【0077】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、顔料混合物作製工程で得られた顔料混合物を撹拌混合しているタンク20に、ゲル化剤を投入し、80〜150℃の温度下で、15〜120分間撹拌混合し、樹脂成分とゲル化剤とを反応させて樹脂成分をゲル化させる。ゲル化工程は、オフセット印刷用インキ組成物のインキ性状や印刷適性上行われることが好ましいが、行われなくてもよい。
【0078】
ゲル化剤としては、アルミニウムアルコラート類、アルミニウムキレート化合物等が挙げられる。好ましい具体例としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等が例示できる。
【0079】
(練肉工程)
練肉工程は、顔料混合物作製工程で得られた顔料混合物、または、必要に応じてゲル化工程で樹脂成分がゲル化された顔料混合物を、練肉する工程である。本実施形態では、練肉工程は、分散工程と、戻し工程と、循環工程とを含む。
【0080】
<分散工程>
分散工程は、撹拌装置100と供給装置120を介して接続される分散装置110を用いて行われる工程である。
【0081】
分散装置110としては、顔料混合物作製工程で得られた顔料混合物、ゲル化工程で得られたゲル化した顔料混合物、および後述する循環工程において循環供給されるタンク20内に収容される収容物を練肉することができる装置であれば特に限定されないが、たとえば、三本ロールミル、ビーズミル(パス方式)が使用できる。本実施の形態では、ビーズミルを用いる。ビーズミルとしては、直径0.2〜3mmのジルコニアビーズなどのセラミックスビーズ、スチールビーズなどを粉砕メディアとしたダイノミル、DCPミルなどのビーズミルが使用できる。
【0082】
供給装置120は、ポンプやスクリューエクストルーダーなどであり、撹拌装置100に備えられるタンク20のタンク排出口21から排出される顔料混合物および前記収容物を、加圧した状態で、分散装置110の分散供給口111に向けて送液する。
【0083】
分散工程では、撹拌装置100のタンク20内に貯留されている、ゲル化した顔料混合物を、80〜150℃の温度に保持し顔料混合物を低粘度化した状態で、ビーズミルからなる分散装置110のベッセル内の圧力(内圧)によって規定される所定の流量(供給量)で、タンク20のタンク排出口21から供給装置120を介して分散装置110の分散供給口111に向けて、連続的に供給する。そして、分散工程では、分散供給口111から所定の供給量で分散装置110に供給された顔料混合物を、連続的に分散処理(練肉)して顔料分散物を得る。
【0084】
<戻し工程>
戻し工程は、分散工程で連続的に得られる顔料分散物を、前記供給量と同じ流量(排出量)で分散装置110の分散排出口112から連続的に排出(吐出)し、タンク供給口22から流過させて、顔料分散物を元の前記タンク20内に戻す(戻し工程)。なお、戻し工程では、タンク20内のカッター羽根10の回転駆動は継続されており、タンク20内に収容される収容物は継続的に撹拌混合されている。
【0085】
<循環工程>
循環工程は、分散工程および戻し工程に引き続いて連続的に行われる工程である。循環工程では、戻し工程において分散処理後に得られる顔料分散物がタンク20内に戻された状態のタンク20内に収容される収容物を、80〜150℃の温度に保持し収容物を低粘度化した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させて、分散装置110における分散処理を、顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、顔料分散体を得る。なお、循環工程では、タンク20内のカッター羽根10の回転駆動は継続されており、タンク20内に収容される収容物は継続的に撹拌混合されている。
【0086】
本実施形態において、分散工程では、ゲル化工程で作製されてタンク20内に貯留されている、ゲル化された顔料混合物を、80〜150℃の温度に保持し顔料混合物を低粘度化した状態で、所定の供給量で分散装置110に連続的に供給して顔料分散物を得る。戻し工程では、分散工程で得られた顔料分散物を、分散装置110から吐出して元のタンク20に戻す。そして、循環工程では、タンク20内に収容される収容物を、80〜150℃に保持した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させて、分散装置110における分散処理を、顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行って、顔料分散体を得る。
【0087】
80〜150℃の温度に保持された顔料混合物は、低粘度化されたものとなるので、分散装置110の内圧によって規定される分散装置110に対する顔料混合物の供給量を上げても充分な分散処理が可能となり、戻し工程において分散処理後の顔料分散物を分散装置110から吐出して元のタンク20に戻し、さらに循環工程においてタンク20内の収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができるので、高い生産効率で得ることができる。たとえば、80〜150℃の温度に保持した顔料混合物を分散装置110に供給した場合、分散装置110の内圧は0.1〜0.5bar以下で、供給量は300〜600g/分であり、供給量を非常に大きくすることができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、分散工程において分散装置110に供給される、ゲル化工程で得られた、ゲル化された顔料混合物が低粘度化されたものであることに対応して、分散装置110から連続的に排出される顔料分散物も低粘度化されたものである。低粘度化された顔料分散物は、戻し工程において顔料混合物が貯留されるタンク20に連続的に送液されて、カッター羽根10が回転駆動されるタンク20における上方側面に設けられるタンク供給口22からゲル化された顔料混合物中に添加されると、タンク20内を流動して、ゲル化された顔料混合物と均一に混合される。このようにして、ゲル化された顔料混合物と顔料分散物とが均一に混合された混合物を、タンク20内に収容することができる。
【0089】
分散工程および戻し工程に引き続いて行われる循環工程においても、タンク20内に収容される収容物を、80〜150℃に保持した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させるので、分散装置110に循環供給される前記収容物は、低粘度化されたものである。そのため、循環工程においてタンク20内の低粘度化された収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができるので、タンク20と分散装置110との間で循環が繰り返されて、分散処理回数の異なる分散液がタンク20内に混合されたとしても、均一な顔料分散度を有する顔料分散体を得ることができる。
【0090】
したがって、湿潤工程後の顔料湿潤物を貯留するタンクと、ゲル化工程後のゲル化された顔料混合物を貯留するタンクと、分散工程における分散処理後の分散液を貯留するタンクとを別々に準備することなく、湿潤工程、顔料混合物作製工程、ゲル化工程、戻し工程および循環工程を、1つのタンク20で行うことができる。
【0091】
(後添加工程)
後添加工程では、循環工程で得られた顔料分散体に、油成分や添加剤等を添加し、撹拌混合することによって、オフセット印刷用インキ組成物を得る工程である。
【0092】
なお、分散工程の前に、最終的なオフセット印刷用インキ組成物の配合となるように、油成分や添加剤を添加しておくことで、循環工程後の顔料分散体をそのままオフセット印刷用インキ組成物として使用することができる。
【0093】
添加剤としては、オフセット印刷用インキ組成物の成分として常用される、ドライヤー、乾燥遅延剤、酸化防止剤、整面剤、耐摩擦性向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0095】
<残渣率>
練肉工程で得られた顔料分散体50gに溶剤(灯油:トルエン=1:1)100gを滴下しながら、ガラス棒を用いて撹拌した。これをメッシュサイズ400の金網を用いて濾過して、金網上に残った物質を回収し、60℃のオーブンで1日乾燥させた。練肉工程で得られた顔料分散体50gに含まれる顔料の重量に対する、乾燥後の回収物質の重量の割合を残渣率として求めた。
【0096】
<ラレー粘度>
ラレー粘度(Pa・s/25℃)は、株式会社ケンウッド ティー・エム・アイ製のTE851を使用して測定した。
【0097】
<タック値>
タック値は、東洋精機株式会社製のインコメーターにて、30℃の条件で400rpmの回転速度にて1分値を測定した。
【0098】
<着色力>
白色のオフセット印刷用インキ組成物を、実施例1〜8、比較例1〜5のオフセット印刷用インキ組成物で着色し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3、黒色については比較例4の着色力を「100」として、相対評価した。相対評価値が高いほど着色力に優れるインキ組成物である。
【0099】
<印刷評価>
オフセット印刷用インキ組成物の印刷適性(濃度変化)は、三菱重工業株式会社製、DAIYA IE型印刷機で実際に印刷して調べた。印刷評価は、湿し水供給ダイヤルを35%、60%にした状態で印刷し、黄色については比較例1、紅色については比較例2、藍色については比較例3、黒色については比較例4を基準(良好)として、印刷濃度の変化で評価した。なお、印刷条件は以下のとおりである。
【0100】
印刷条件
湿し水:サイファ TP−3(湿し水濃度1%、サカタインクス株式会社製)
印刷速度:4500枚/時
湿度/温度:25℃/60%
印刷用紙:オーロラコート紙(日本製紙株式会社製)
【0101】
(実施例1)
[湿潤工程]
高さ250mm、内径210mmのタンクに乾燥した顔料(ピグメントイエロー174)9.85質量部、油成分として亜麻仁油2.5質量部、大豆油15.93質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル5質量部、およびAF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)14質量部を仕込み、130℃で60分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合し、顔料湿潤物を得た。
【0102】
なお、タンク内には回転直径110mm(タンク内径に対して52%)の
図3に示した6枚ブレードのカッター羽根を設置した。
【0103】
[顔料混合物作製工程およびゲル化工程]
顔料湿潤物に、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)25.5質量部、イソフタル酸からなる基本骨格を有する液状の大豆油変性アルキッド樹脂(酸価9KOHmg/g)0.53質量部を添加して130℃で30分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、油成分に樹脂成分を溶解させた。
【0104】
さらにゲル化剤としてアルミニウムキレート0.54質量部を添加して130℃で30分間反応させて、ゲル化した顔料混合物を得た。
【0105】
[練肉工程]
ゲル化した顔料混合物を130℃に保持した状態で供給装置である輸送ポンプにより、分散装置であるダイノミル(シンマルエンタイプライゼス製、DYNO-MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、表1に示す条件となるように分散処理を行って顔料分散物を得た。顔料分散物を輸送ポンプにより元のタンクに戻し、分散装置に供給することを、顔料の粒子径が5μm以下となるまで(グラインドメータにより粒子径を確認)繰り返して行い、実施例1の黄色の顔料分散体を得た。
【0106】
(実施例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例2の紅色の顔料分散体を得た。
【0107】
(実施例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例3の藍色の顔料分散体を得た。
【0108】
(実施例4)
顔料をカーボンブラックに変更した以外は実施例1と同様の方法により実施例4の黒色の顔料分散体を得た。
【0109】
(実施例5)
実施例1と同様の方法でゲル化した顔料混合物を得て、この顔料混合物を3本ロールミルに供給し、顔料の粒子径が5μm以下となるまで(グラインドメータにより粒子径を確認)表1に記載の条件で練肉することによって、実施例5の黄色の顔料分散体を得た。
【0110】
(実施例6)
実施例1と同様の方法でゲル化した顔料混合物を得て、この顔料混合物をダイノミル(シンマルエンタイプライゼス社製、DYNO-MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、顔料の粒子径が5μm以下となるまで表1に記載の条件で循環工程を1パス行い、実施例6の黄色の顔料分散体を得た。
【0111】
(実施例7)
[湿潤工程]
高さ250mm、内径210mmのタンクに、乾燥した顔料(ピグメントイエロー174)9.85質量部、油成分として大豆油15.93質量部を仕込み、130℃で60分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて攪拌混合し、顔料湿潤物を得た。カッター羽根は、実施例1と同様のものを用いた。
【0112】
[顔料混合物作製工程およびゲル化工程]
顔料湿潤物に、油成分として亜麻仁油2.5質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル5質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)14質量部、樹脂成分として塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)25.5質量部、イソフタル酸からなる基本骨格を有する液状の大豆油変性アルキッド樹脂(酸価9KOHmg/g)0.53質量部を添加して130℃で30分間、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根を回転駆動させて加熱撹拌して、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら、油成分に樹脂成分を溶解させた。
【0113】
さらにゲル化剤としてアルミニウムキレート0.54質量部を添加して130℃で30分間反応させ、ゲル化した顔料混合物を得た。
【0114】
[練肉工程]
ゲル化した顔料混合物を130℃に保持した状態で供給装置である輸送ポンプにより、分散装置であるダイノミル(シンマルエンタイプライゼス製、DYNO-MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、表1に記載の条件となるように分散処理を行い、顔料分散物を得た。顔料分散物を輸送ポンプにより元のタンクに戻し、分散装置に供給することを、顔料の粒子径が5μm以下となるまで(グラインドメータにより粒子径を確認)繰り返して行い、実施例7の黄色の顔料分散体を得た。
【0115】
(実施例8)
分散工程におけるゲル化した顔料混合物の供給温度、および戻し工程における顔料混合物の排出温度を90℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法により実施例8の紅色の顔料分散体を得た。
【0116】
(比較例1)
[ワニス化工程]
高さ250mm、内径210mmのタンク内に、油成分として亜麻仁油2.5質量部、大豆油15.93質量部、大豆油脂肪酸ブチルエステル5質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)14質量部、樹脂成分として、塊状態のロジン変性フェノール樹脂(星光ポリマー株式会社製、商品名:OR−357)25.5質量部、イソフタル酸からなる基本骨格を有する液状の大豆油変性アルキッド樹脂(酸価9KOHmg/g)0.53質量部を仕込み、200℃で40分間、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスクタービン羽根を回転駆動させて加熱撹拌し、塊状態のロジン変性フェノール樹脂を溶解した。なお、タンク内には、従来型撹拌羽根(ディスクタービン羽根)を設置した。
【0117】
[ワニスゲル化工程]
さらにタンク内にゲル化剤としてアルミニウムキレート0.54質量部を添加して130℃で30分間反応させることで樹脂ワニスを得た。
【0118】
[プレミキシング工程]
乾燥した顔料(ピグメントイエロー174)9.85質量部を添加して70℃で30分間、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスクタービン羽根を回転駆動させて加熱撹拌し、この混合物のプレミキシングを行った。
【0119】
[分散工程]
タンク内のプレミキシングを行った顔料混合物を3本ロールミルに供給し、表2に示す条件で、顔料の粒子径が5μm以下となるまで(グラインドメータにより粒子径を確認)練肉し、比較例1の黄色の顔料分散体を得た。
【0120】
(比較例2)
顔料をピグメントレッド57:1に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例2の紅色の顔料分散体を得た。
【0121】
(比較例3)
顔料をピグメントブルー15:3に変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例3の藍色の顔料分散体を得た。
【0122】
(比較例4)
顔料をカーボンブラックに変更した以外は比較例1と同様の方法により比較例4の黒色の顔料分散体を得た。
【0123】
(比較例5)
比較例1と同様にして、プレミキシングを行った混合物を得た。タンク内のプレミキシングを行った混合物をダイノミル(シンマルエンタイプライゼス社製、DYNO-MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、顔料の粒子径が5μm以下となるまで表1に記載の条件で循環工程を2パス行い、比較例5の黄色の顔料分散体を得た。
【0124】
<オフセット印刷用インキ組成物の作製>
実施例1〜8および比較例1〜5の各顔料分散体に、大豆油13.75質量部、AF−7石油溶剤(新日本石油株式会社製)13.75質量部を加え、撹拌混合し、実施例1〜8および比較例1〜5のオフセット印刷用インキ組成物を得た。
【0125】
以上のようにして得られた実施例1〜8および比較例1〜5のオフセット印刷用インキ組成物についての評価結果を表1,2に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
表1,2の結果から、実施例1〜8は、タック値、着色力などのインキ特性、および印刷適性が高い状態で維持された上で、比較例1〜5よりも製造に要するトータル所要時間が短縮されたことがわかる。