特許第5750049号(P5750049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750049多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物、樹脂ワニス、樹脂付銅箔、多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法及び多層フレキシブルプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750049
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物、樹脂ワニス、樹脂付銅箔、多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法及び多層フレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20150625BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150625BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20150625BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20150625BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20150625BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20150625BHJP
   C09J 163/04 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   H05K3/46 T
   H05K1/03 670Z
   H05K1/03 650
   C09J163/00
   C09J179/08 B
   C09J11/00
   C09J163/02
   C09J163/04
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-544285(P2011-544285)
(86)(22)【出願日】2010年12月2日
(86)【国際出願番号】JP2010071570
(87)【国際公開番号】WO2011068157
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-274922(P2009-274922)
(32)【優先日】2009年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】白井 武志
(72)【発明者】
【氏名】松島 敏文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲朗
【審査官】 遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/017253(WO,A1)
【文献】 特開平01−222945(JP,A)
【文献】 特開2008−195828(JP,A)
【文献】 特開2004−217862(JP,A)
【文献】 特開2006−147662(JP,A)
【文献】 特開2006−257389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
C09J 11/00
C09J 163/00
C09J 163/02
C09J 163/04
C09J 179/08
H05K 1/03
C08G 59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層フレキシブルプリント配線板を多層化するための接着層を形成するために用いる樹脂組成物において、
以下のA成分〜E成分の各成分を含み、樹脂組成物重量を100重量部としたとき、
A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部である
ことを特徴とした多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
A成分: 軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂(但し、ビフェニル型エポキシ樹脂を除く。)。
B成分: ビフェニル型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂硬化剤。
C成分: 沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶で、且つ、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて得られるゴム変性ポリアミドイミド樹脂。
D成分: 有機リン含有難燃剤。
E成分: ビフェニル型エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記A成分〜E成分の各成分に加えて、更に、F成分として、リン含有難燃性エポキシ樹脂を含む請求項1に記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
【請求項3】
G成分として、エポキシ当量が200以下で、室温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂を更に含む請求項1又は請求項2に記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
【請求項4】
H成分として、熱可塑性樹脂及び/又は合成ゴムからなる低弾性物質を更に含む請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
【請求項5】
前記A成分の軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれか1種又は2種以上である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
【請求項6】
前記A成分として、室温で液状のノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれか1種又は2種以上からなる高耐熱性エポキシ樹脂を更に含む請求項1〜請求項5のいずれかに記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれかに記載の樹脂組成物に溶剤を加えて、樹脂固形分量が30重量%〜70重量%の範囲に調製した樹脂ワニスであって、
半硬化樹脂層とした際に、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して、樹脂厚さ55μmで測定したときのレジンフローが0%〜10%の範囲であることを特徴とする樹脂ワニス。
【請求項8】
銅箔の表面に樹脂層を備えた樹脂付銅箔において、
当該樹脂層は、請求項1〜請求項のいずれかに記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とした多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔。
【請求項9】
前記銅箔の樹脂層を形成する表面は、シランカップリング剤処理層を備えるものである請求項に記載の多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔。
【請求項10】
請求項又は請求項に記載の多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法であって、
以下の工程a、工程bの手順で樹脂層の形成に用いる樹脂ワニスを調製し、当該樹脂ワニスを銅箔の表面に塗布し、乾燥させることで10μm〜80μmの厚さの半硬化樹脂層として樹脂付銅箔とすることを特徴とする多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法。
工程a: 樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部の範囲で各成分を含有する樹脂組成物とする。
工程b: 前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂固形分量が30重量%〜70重量%の樹脂ワニスとする。
【請求項11】
請求項1〜請求項のいずれかに記載の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする多層フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物、当該樹脂ワニスで樹脂層を形成した樹脂付銅箔、当該樹脂付銅箔の製造方法及び多層フレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類の電子信号の供給に用いるプリント配線板として、折り曲げ性を備えるフレキシブルプリント配線板が用いられている。特許文献1に開示されたフレキシブル配線板は、ベースフィルムに接着剤層I、回路パターンが形成された導体層、接着剤層II及びカバーレイフィルムが順に積層された構造を有し、このフレキシブル配線板において、高温で使用しても十分な屈曲寿命を得ることを目的とした接着剤組成物を採用している。
【0003】
このように、フレキシブルプリント配線板は、折り曲げ性を備える製品特性から、耐屈曲性が重要である。加えて、フレキシブルプリント配線板の製造では、リフロー工程等において、熱が負荷されるため、高温で使用しても耐折性が劣化しないことが求められる。そのため、フレキシブルプリント配線板に用いる接着剤においても、耐折性、耐熱性が望まれる。
【0004】
また、電子機器類の小型化、高機能化の要求は高まる一方であり、フレキシブルプリント配線板においても、基板サイズの小型化を図るために、微細化、多層化が検討されている。そして、フレキシブルプリント配線板を多層化するためには、フレキシブルプリント配線板用の接着剤においても、従来品以上の特性が要求される。例えば、フレキシブルプリント配線板を多層化するため、接着剤層を薄くしながら、耐熱性、耐折性を実現することが望まれる。また、フレキシブルプリント配線板を多層化する際、層間接続の精度を高める必要がある。
【0005】
このようなフレキシブルプリント配線板の高密度実装化に対し、特許文献2には、難燃性、耐屈曲性、環境対応のための非ハロゲン化を目的とした樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−70176号公報
【特許文献2】特開2005−248134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に開示の樹脂組成物は、いずれも、耐熱性、弾性率、難燃性等を向上させるための無機充填剤(無機フィラー)を含むものである。そのため、多層フレキシブルプリント配線板の接着剤として用いる場合、屈曲性や接着剤層の薄層化に限界がある。また、多層フレキシブルプリント配線板において、層間接続を図るためのビアホールを形成する際に、無機充填剤を含むと、レーザー加工性が低下し、ビアホールの形成精度が低下する。さらに、Bステージの接着剤層に打ち抜き加工を行うことにより、接着剤層の粉落ちや割れが生じ易い。その結果、接着剤層の粉が導体層に付着して、接続信頼性が低下する。また、接着剤層に割れが生じると絶縁性能が低下する。
【0008】
さらに、特許文献1に開示の接着剤組成物を検証した結果、ラミネート加工やプレス加工等による成型時に、内層回路の転写、最外層のうねり、ボイドが生じやすい。内層回路の転写が生じると、最外層のうねりが生じ、レジストの塗布時や、回路形成工程時に支障を来す。さらに、ボイドが生じると、リフロー工程等の熱処理により、ブリスタが生じ易くなる点が課題となる。
【0009】
そこで、本件発明は、いわゆるBステージ割れを防ぎ、フレキシブルプリント配線板の製造過程等における粉落ちを防ぐとともに、耐折性及び耐熱性、樹脂流れといった性能についても、バランス良く好適な範囲とすることが可能な多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物、樹脂ワニス、樹脂付銅箔、その樹脂付銅箔の製造方法及び多層フレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の樹脂組成物を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0011】
本件発明に係る多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物は、内層フレキシブルプリント配線板を多層化するための接着層を形成するために用いる樹脂組成物において、以下のA成分〜E成分の各成分を含み、樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部であることを特徴とする。
A成分: 軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂(但し、ビフェニル型エポキシ樹脂を除く。)。
B成分: ビフェニル型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂硬化剤。
C成分: 沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶で、且つ、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて得られるゴム変性ポリアミドイミド樹脂。
D成分: 有機リン含有難燃剤。
E成分: ビフェニル型エポキシ樹脂。
【0012】
本件発明に係る樹脂ワニスは、上述の樹脂組成物に溶剤を加えて、樹脂固形分量が30重量%〜70重量%の範囲に調製した樹脂ワニスであって、半硬化樹脂層とした際に、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して、樹脂厚さ55μmで測定したときのレジンフローが0%〜10%の範囲であることを特徴とする。
【0013】
本件発明に係る樹脂付銅箔は、銅箔の表面に樹脂層を備えた樹脂付銅箔において、当該樹脂層は、上述の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする。
【0014】
本件発明に係る多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法は、上述の多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法であって、以下の工程a、工程bの手順で樹脂層の形成に用いる樹脂ワニスを調製し、当該樹脂ワニスを銅箔の表面に塗布し、乾燥させることで10μm〜80μmの厚さの半硬化樹脂層として樹脂付銅箔とすることを特徴とする。
工程a: 樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部の範囲で各成分を含有する樹脂組成物とする。
工程b: 前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂固形分量が30重量%〜70重量%の樹脂ワニスとする。
【0015】
本件発明に係る多層フレキシブルプリント配線板は、多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係る樹脂組成物は、熱劣化による耐折性の低下を防ぐことができ、且つ、Bステージでの割れを改善することができる。また、本件発明に係る樹脂組成物を用いて得られた樹脂付銅箔は、フレキシブルプリント配線板の構成材として用いた場合に、無機充填剤を必要としないので、屈曲性に優れるとともに、レーザー加工や打ち抜き加工を精度良く行うことができ、且つ、粉落ちや割れの発生を防ぐことができる。さらに、本件発明に係る樹脂付銅箔は、無機充填剤を含まないため、多層フレキシブルプリント配線板のビアホール形成に好適であり、層間接続の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0018】
樹脂組成物: 本件発明に係る樹脂組成物は、内層フレキシブルプリント配線板を多層化するための接着層を形成するために用いる。そして、以下のA成分〜E成分の各成分を含み、樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部であることを特徴とする。
【0019】
A成分: 軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂(但し、ビフェニル型エポキシ樹脂を除く。)。
B成分: ビフェニル型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂硬化剤。
C成分: 沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶で、且つ、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて得られるゴム変性ポリアミドイミド樹脂。
D成分: 有機リン含有難燃剤。
E成分: ビフェニル型エポキシ樹脂。
【0020】
A成分は、軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂である。A成分は、所謂ガラス転移温度Tgが高いエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂のうち、軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂を採用した理由は、ガラス転移温度Tgが高く、少量添加することで、高耐熱効果が得られるからである。
【0021】
ここで言う「軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂」は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。
【0022】
なお、A成分には、上述の軟化点が50℃以上である固形状の高耐熱性エポキシ樹脂の他に、更に、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれか1種又は2種以上からなる高耐熱性エポキシ樹脂を含むものとしても良い。このように、A成分として、更に、室温で液状のノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれか1種又は2種以上からなる高耐熱性エポキシ樹脂を含むものとすれば、ガラス転移温度Tgの更なる向上及びBステージ割れを改善する効果を高めることができる。
【0023】
そして、A成分は、樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜30重量部の範囲で用いることが好ましい。A成分が3重量部未満の場合には、樹脂組成物の高Tg化が図りにくい。一方、A成分が30重量部を超える場合には、硬化後の樹脂層が脆くなり、フレキシビリティが完全に損なわれるためフレキシブルプリント配線板用途として好ましくない。より好ましくは、A成分は、10重量部〜25重量部の範囲で用いることで、樹脂組成物の高Tg化と硬化後の樹脂層の良好なフレキシビリティとを安定して両立できる。
【0024】
B成分は、ビフェニル型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂硬化剤である。エポキシ樹脂硬化剤の添加量は、硬化させる樹脂に対する反応当量から自ずと導き出されるものであり、特段の量的な限定を要するものではない。しかしながら、本件発明に係る樹脂組成物の場合、B成分は、樹脂組成物を100重量部としたとき、13重量部〜35重量部の範囲で用いることが好ましい。このB成分が13重量部未満の場合には、本件発明の樹脂組成を考慮すると、十分な硬化状態を得ることが出来なくなり、硬化後の樹脂層のフレキシビリティを得ることが出来なくなる。一方、B成分が35重量部を超える場合には、硬化後の樹脂層の耐吸湿特性が劣化する傾向にあり、好ましくない。
【0025】
ビフェニル型フェノール樹脂の具体例を化1に示す。
【0026】
【化1】
【0027】
また、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の具体例を化2に示す。
【0028】
【化2】
【0029】
C成分は、沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶なゴム変性ポリアミドイミド樹脂である。当該C成分を配合することにより、フレキシブル性能を向上させるとともに、樹脂流れを抑制する効果が得られる。このゴム変性ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて得られるものであり、ポリアミドイミド樹脂そのものの柔軟性を向上させる目的で行う。即ち、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させ、ポリアミドイミド樹脂の酸成分(シクロヘキサンジカルボン酸等)の一部をゴム成分に置換するのである。ゴム成分としては、天然ゴム及び合成ゴムを含む概念として記載しており、後者の合成ゴムにはスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等がある。更に、耐熱性を確保する観点からは、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等の耐熱性を備えた合成ゴムを選択使用することも有用である。これらのゴム性樹脂に関しては、ポリアミドイミド樹脂と反応して共重合体を製造するため、両末端に種々の官能基を備えるものであることが望ましい。特に、カルボキシル基を有するCTBN(カルボキシ基末端ブタジエンニトリルゴム)を用いることが有用である。なお、上記ゴム成分は、1種のみを共重合させても、2種以上を共重合させても構わない。更に、ゴム成分を用いる場合には、そのゴム成分の数平均分子量が1000以上のものを用いることが、フレキシビリティの安定化の観点から好ましい。
【0030】
ゴム変性ポリアミドイミド樹脂を重合させる際に、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂との溶解に使用する溶剤には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、ニトロエタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン等を、1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。そして、重合反応を起こさせるには、80℃〜200℃の範囲の重合温度を採用することが好ましい。これらの重合に沸点が200℃を超える溶剤を用いた場合には、その後、用途に応じて沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に溶媒置換することが好ましい。
【0031】
ここで、沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤としては、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤が挙げられる。沸点が50℃未満の場合には、加熱による溶剤の気散が著しくなり、樹脂ワニスの状態から半硬化樹脂とする場合に、良好な半硬化状態が得られにくくなる。一方、沸点が200℃を超える場合には、樹脂ワニスの状態から半硬化樹脂とする場合に、溶剤が乾きにくいため、良好な半硬化樹脂層が得られ難くなる。
【0032】
本件発明に係る樹脂組成物で用いるゴム変性ポリアミドイミド樹脂の中で、ゴム変性ポリアミドイミド樹脂の重量を100重量%としたとき、ゴム成分の共重合量は0.8重量%以上であることが好ましい。当該共重合量が0.8重量%未満の場合には、ゴム変性ポリアミドイミド樹脂としても、本件発明に言う樹脂組成物を用いて形成した樹脂層を硬化させたときのフレキシビリティが欠如し、銅箔との密着性も低下するため好ましくない。なお、より好ましくは、当該ゴム成分の共重合量は3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上がより好ましい。経験的に共重合量が40重量%を超えても特段の問題はない。しかし、当該硬化後の樹脂層のフレキシビリティの向上効果は飽和するために資源の無駄となり好ましくない。
【0033】
以上に述べてきたゴム変性ポリアミドイミド樹脂には、溶剤に可溶であるという性質が求められる。溶剤に可溶でなければ、樹脂ワニスとしての調製が困難だからである。そして、このゴム変性ポリアミドイミド樹脂は、樹脂組成物の重量を100重量部としたとき、10重量部〜50重量部の配合割合で用いる。ゴム変性ポリアミドイミド樹脂が10重量部未満の場合には、樹脂流れの抑制効果が発揮されにくい。また、硬化後の樹脂層が脆くなり、フレキシビリティが向上させ難くなる。その結果、樹脂層のマイクロクラックが生じやすくなるといった影響が生じる。一方、50重量部を超えてゴム変性ポリアミドイミド樹脂を添加した場合、内層回路への埋め込み性が低下し、結果としてボイドが生じやすくなるため、好ましくない。
【0034】
D成分は、有機リン含有難燃剤であり、難燃性を向上させるために用いる。有機リン含有難燃剤としては、リン酸エステル及び/又はホスファゼン化合物からなるリン含有難燃剤が挙げられる。このD成分は、樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜16重量部の範囲で用いることが好ましい。D成分の含有量を3重量部未満とすると、難燃性の効果が得られない。一方、D成分の含有量が16重量部を超えるようにしても、難燃性の向上が望めない。なお、D成分のより好ましい含有量は、5重量部〜14重量部である。
【0035】
なお、本件発明に係る樹脂組成物は、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、リンの総含有量が0.5重量%〜5重量%の範囲となるように添加すると、難燃性が確保されるため好ましい。
【0036】
E成分は、ビフェニル型エポキシ樹脂である。ビフェニル型エポキシ樹脂は、所謂ガラス転移温度Tgの向上と屈曲性の向上に寄与する。ビフェニル型エポキシ樹脂は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が挙げられる。このE成分は、樹脂組成物を100重量部としたとき、5重量部〜35重量部の範囲で用いることが好ましい。E成分の含有量を5重量部未満とすると、ガラス転移温度Tg及び屈曲性を高くする効果が得られない。一方、E成分の含有量が35重量部を超えるようにしても、高Tg化が望めない上に、屈曲性の向上が望めない。なお、E成分のより好ましい含有量は、7重量部〜25重量部である。
【0037】
上記A成分〜E成分の他に、更に、F成分として、リン含有難燃性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物とすると、難燃性を更に向上させることができる。リン含有難燃性エポキシ樹脂とは、エポキシ骨格の中にリンを含んだエポキシ樹脂の総称であり、所謂ハロゲンフリー系の難燃性エポキシ樹脂である。そして、本件出願に係る樹脂組成物のリン原子含有量を、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、F成分由来のリン原子を0.1重量%〜5重量%の範囲とできるリン含有難燃性エポキシ樹脂であれば、いずれの使用も可能である。しかしながら、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体である、分子内に2以上のエポキシ基を備えるリン含有難燃性エポキシ樹脂を用いることが、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に難燃性効果が高いため好ましい。参考のために、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドの構造式を化3に示す。
【0038】
【化3】
【0039】
この9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体である、分子内に2以上のエポキシ基を備えるリン含有難燃性エポキシ樹脂は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドにナフトキノンやハイドロキノンを反応させて、以下の化4又は化5に示す化合物とした後に、そのOH基の部分にエポキシ樹脂を反応させてリン含有難燃性エポキシ樹脂としたものが好ましい。
【0040】
【化4】
【0041】
【化5】
【0042】
そして、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体である、分子内に2以上のエポキシ基を備えるリン含有難燃性エポキシ樹脂を具体的に例示すると、化6,化7または化8に示す構造式を備える化合物の使用が好ましい。
【0043】
【化6】
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
ここでリン含有難燃性エポキシ樹脂を用いる場合の樹脂組成物は、F成分としてのリン含有難燃性エポキシ樹脂の1種類を単独で用いても、2種類以上のリン含有難燃性エポキシ樹脂を混合して用いても構わない。但し、F成分としてのリン含有難燃性エポキシ樹脂の総量を考慮して、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、F成分由来のリン原子を0.1重量%〜5重量%の範囲となるように添加することが好ましい。リン含有難燃性エポキシ樹脂は、その種類によりエポキシ骨格内に含有するリン原子量が異なる。そこで、上述のようにリン原子の含有量を規定して、F成分の添加量に代えることが可能である。但し、F成分は、通常、樹脂組成物を100重量部としたとき、5重量部〜50重量部の範囲で用いられる。F成分が5重量部未満の場合には、他の樹脂成分の配合割合を考慮すると、F成分由来のリン原子を0.1重量%以上とすることが困難になり、難燃性の向上効果を得ることが出来ない。一方、F成分が50重量部を超えるようにしても、難燃性向上効果も飽和すると同時に、硬化後の樹脂層が脆くなるため好ましくない。
【0047】
上述の硬化樹脂層の「高Tg化」と「フレキシビリティ」とは、一般的に反比例する特性である。このときリン含有難燃性エポキシ樹脂は、硬化後の樹脂層のフレキシビリティの向上に寄与するもの、高Tg化に寄与するものが存在する。従って、1種類のリン含有難燃性エポキシ樹脂を用いるよりは、「高Tg化に寄与するリン含有難燃性エポキシ樹脂」と「フレキシビリティの向上に寄与するリン含有難燃性エポキシ樹脂」とをバランス良く配合して用いることで、フレキシブルプリント配線板用途で好適な樹脂組成物とすることが可能である。
【0048】
本件発明に係る樹脂組成物は、更に、G成分として、エポキシ当量が200以下で、室温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂を含むものとしても良い。ここで、ビスフェノール系エポキシ樹脂を選択使用しているのは、C成分(ゴム変性ポリアミドイミド樹脂)との相性が良く、半硬化樹脂層に適度なフレキシビリティの付与が容易だからである。そして、エポキシ当量が200を超えると、樹脂が室温で半固形となり、半硬化状態でのフレキシビリティが減少するので好ましくない。更に、上述のビスフェノール系エポキシ樹脂であれば、1種を単独で用いても、2種以上を混合で用いても構わない。しかも、2種以上を混合して用いる場合には、その混合比に関しても特段の限定はない。
【0049】
このG成分のエポキシ樹脂は、樹脂組成物を100重量部としたとき、2重量部〜15重量部の配合割合で用いることが、熱硬化性を十分に発揮し、半硬化状態において、カールと呼ばれる反り現象の発生を低減させることが可能となり、また、半硬化状態での樹脂層のフレキシビリティの更なる向上を図ることができるため好ましい。当該エポキシ樹脂が15重量部を超えると、他の樹脂成分とのバランスから難燃性が低下したり、硬化後の樹脂層が硬くなる傾向がある。しかも、C成分(ゴム変性ポリアミドイミド樹脂)の添加量を考慮すると、硬化後の樹脂層として十分な靭性が得られなくなる。
【0050】
本件発明に係る樹脂組成物は、更に、H成分として、熱可塑性樹脂及び/又は合成ゴムからなる低弾性物質を含むものとしても良い。H成分を含む樹脂組成物とすることにより、樹脂組成物の半硬化状態における割れを防ぎ、且つ硬化後のフレキシビリティを向上させることができる。このH成分としての低弾性物質は、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム(アクリル酸エステル共重合体)、ポリブタジエンゴム、イソプレン、水素添加型ポリブタジエン、ポリビニルブチラール、ポリエーテルサルフォン、フェノキシ、高分子エポキシ、芳香族ポリアミドが挙げられる。これらの中から1種を単独で用いても、2種以上を混合で用いても構わない。特に、アクリロニトリルブタジエンゴムを用いることが好ましい。アクリロニトリルブタジエンゴムの中でも、カルボキシル変性体であると、エポキシ樹脂と架橋構造を取り、硬化後の樹脂層のフレキシビリティを向上させることができる。カルボキシル変性体としては、カルボキシ基末端ニトリルブタジエンゴム(CTBN)、カルボキシ基末端ブタジエンゴム(CTB)、カルボキシ変性ニトリルブタジエンゴム(C‐NBR)を用いることが好ましい。
【0051】
H成分は、樹脂組成物を100重量部としたとき、25重量部以下の配合割合で用いることが好ましい。25重量部を超える量のH成分を加えると、ガラス転移温度Tgの低下、半田耐熱性能の低下、ピール強度の低下、熱膨張係数の増大といった問題が発生するため好ましくない。
【0052】
本件発明に係る樹脂組成物は、上述のA成分〜E成分を組み合わせることにより、難燃性の向上及びガラス転移温度Tgが高くなり、また、耐折性の熱劣化を防ぐことができる。そして、従来の接着剤用樹脂組成物のような無機充填剤を加えることなく、十分な屈曲性を得ることができる。さらに、半硬化状態での割れや打ち抜き加工時の粉落ちを防ぐことができる。
【0053】
本件発明に係る樹脂ワニス: 本件発明に係る樹脂ワニスは、上述の樹脂組成物に溶剤を加えて、樹脂固形分量が30重量%〜70重量%の範囲に調製したものである。そして、この樹脂ワニスにより形成する半硬化樹脂層は、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して樹脂厚さを55μmとして測定したときのレジンフローが0%〜10%の範囲にあることを特徴とする。ここで言う溶剤には、上述の沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤であるメチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤を用いることが好ましい。上述のように良好な半硬化樹脂層を得るためである。そして、ここに示した樹脂固形分量の範囲が、銅箔の表面に塗布したときに、最も膜厚を精度の良いものに制御できる範囲である。樹脂固形分が30重量%未満の場合には、粘度が低すぎて、銅箔表面への塗布直後に流れて膜厚均一性を確保しにくい。これに対して、樹脂固形分が70重量%を超えると、粘度が高くなり、銅箔表面への薄膜形成が困難となる。
【0054】
当該樹脂ワニスは、これを用いて半硬化樹脂層を形成したとき、測定したレジンフローが0%〜10%の範囲にあることが好ましい。当該レジンフローが高いと、樹脂付銅箔の樹脂層を用いて形成する絶縁層の厚さが不均一になる。しかし、本件発明に係る樹脂ワニスは、レジンフローを10%以下という低い値に抑えることができる。なお、本件発明に係る樹脂ワニスは、樹脂流れが殆ど生じないレベルが実現可能であるので、当該レジンフローの下限値を0%とした。なお、本件発明に係る樹脂ワニスのレジンフローのより好ましい範囲は0%〜5%である。
【0055】
本件明細書において、レジンフローとは、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して、樹脂厚さを55μmとした樹脂付銅箔から10cm角試料を4枚サンプリングし、この4枚の試料を重ねた状態(積層体)でプレス温度171℃、プレス圧14kgf/cm、プレス時間10分の条件で張り合わせ、そのときの樹脂流出重量を測定した結果から数1に基づいて算出した値である。
【0056】
【数1】
【0057】
本件発明に係る樹脂付銅箔: 本件発明に係る樹脂付銅箔は、銅箔の表面に樹脂層を備えた多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔である。そして、当該樹脂付銅箔において、樹脂層は、上述の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする。
【0058】
ここで、銅箔は、特に限定を要するものではなく、厚さに関しても特段の限定はない。また、銅箔の製造方法も拘泥せず、電解法又は圧延法等、あらゆる製造方法により得られたものが使用可能である。また、この銅箔の樹脂層を形成する面には、粗化処理を施しても、施さなくとも良い。粗化処理があれば、銅箔と樹脂層との密着性は向上する。そして、粗化処理を施さなければ、平坦な表面となるため、ファインピッチ回路の形成能が向上する。更に、当該銅箔の表面には、防錆処理を施しても構わない。防錆処理に関しては、公知の亜鉛、亜鉛系合金等を用いた無機防錆、又は、ベンゾイミダゾール、トリアゾール等の有機単分子被膜による有機防錆等を採用することが可能である。更に、当該銅箔の樹脂層を形成する面には、シランカップリング剤処理層を備えることが好ましい。
【0059】
シランカップリング剤層は、特に粗化処理していない銅箔表面と樹脂層との濡れ性を改善するとともに、密着性を向上させるための助剤としての役割を果たす。例えば、銅箔の粗化処理を行わずに、防錆処理を施し、シランカップリング剤処理に、エポキシ官能性シランカップリング剤、オレフィン官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シランカップリング剤又はメルカプト官能性シランカップリング剤等種々のものを用いることが可能であり、用途に応じて好適なシランカップリング剤を選択使用することで、引き剥がし強度が0.8kgf/cmを超えるものになる。
【0060】
ここで用いることの出来るシランカップリング剤を、より具体的に明示しておくことにする。プリント配線板用プリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0061】
このシランカップリング剤層の形成は、一般的に用いられる浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。これらのシランカップリング剤は、溶媒としての水に0.5〜10g/l溶解させて、室温レベルの温度で用いる。シランカップリング剤は、銅箔の表面に突きだしたOH基と縮合結合することにより、被膜が形成されるため、いたずらに濃い濃度の溶液を用いても、その効果が著しく増大することはない。従って、本来は、工程の処理速度等に応じて決められるべきものである。但し、0.5g/lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、10g/lを超える濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく不経済となる。
【0062】
以上に述べてきた樹脂付銅箔は、使用する銅箔と半硬化樹脂層との間に、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、フェノキシ樹脂、アラミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂の1種又は2種以上の混合樹脂からなる補助樹脂層を形成することも可能である。この補助樹脂層は、当該半硬化樹脂層を形成する前に形成するものである。このような補助樹脂層と半硬化樹脂層との2層の層構成を採用することにより、樹脂付銅箔としての柔軟性を更に向上させ、フレキシブルプリント配線板用途に好適なものとすることができる。これらの補助樹脂層は、一般的にキャスティング法と称される方法で形成することが可能である。より具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、又はこれら2種類の混合樹脂のいずれかを形成するための樹脂ワニスを銅箔面に塗布し、乾燥工程により溶剤分を一部除去し、更に高温の乾燥工程で溶剤の除去及び/又は脱水縮合反応させることにより形成できる。このときの補助樹脂層の厚さは、10μm以下であることが望ましい。10μmを超えると、本発明で言う半硬化樹脂層と組み合わせた場合に、全体の厚さが増加することになるため、フレキシブルプリント配線板に加工したときの全体の厚さを薄くすることが困難になると同時に、半硬化樹脂層を形成する際の加熱で、樹脂付銅箔にカール現象が発生しやすくなるため好ましくない。
【0063】
本件発明に係る樹脂付銅箔の製造方法: 本件発明に係る樹脂付銅箔の製造方法は、上記多層フレキシブルプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法であって、以下の工程a、工程bの手順で樹脂層の形成に用いる樹脂ワニスを調製し、当該樹脂ワニスを銅箔の表面に塗布し、乾燥させることで10μm〜80μmの厚さの半硬化樹脂層として樹脂付銅箔とすることを特徴とする。ここで、半硬化樹脂層の厚さが10μm未満の場合には、内層フレキシブルプリント配線板との密着性にバラツキが生じやすくなる。
【0064】
工程a: 樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜30重量部、B成分が13重量部〜35重量部、C成分が10重量部〜50重量部、D成分が3重量部〜16重量部、E成分が5重量部〜35重量部の範囲で各成分を含有する樹脂組成物とする。ここに記載した各成分及び配合割合に関しての説明は、上述の通りであるので、ここでの説明は省略する。なお、これらの成分の混合の順序、混合温度、混合手順、混合装置等に関し、特段の限定はない。
【0065】
工程b: 前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂ワニスとする。このときの有機溶剤には、上述のように沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤であり、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤を用いることが好ましい。上述したと同様の理由からである。そして、ここで樹脂固形分量を30重量%〜70重量%の樹脂ワニスとする。この樹脂固形分量の範囲を定めた理由に関しても上述したと同様である。なお、ここに具体的に挙げた溶剤以外でも、本件発明で用いるすべての樹脂成分を溶解することの出来るものであれば、その使用が不可能というわけではない。
【0066】
以上のようにして得られる樹脂ワニスを、銅箔の片面に塗布する場合には、特に塗布方法に関しては限定されない。しかし、目的とする厚さ分を精度良く塗布しなければならないことを考えれば、形成する膜厚に応じた塗布方法、塗布装置を適宜選択使用すればよい。また、銅箔の表面に樹脂皮膜を形成した後の乾燥は、樹脂溶液の性質に応じて半硬化状態とすることのできる加熱条件を適宜採用すればよい。
【0067】
本件発明に係る多層フレキシブルプリント配線板: 本件発明に係る多層フレキシブルプリント配線板は、上述の多層フレキシブルプリント配線板の接着層形成用の樹脂組成物を用いて得られることを特徴としたものである。即ち、本件発明に係る樹脂組成物を樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造する。そして、この樹脂付銅箔を用いて多層フレキシブルプリント配線板としたものである。このとき、樹脂付銅箔を用いて多層フレキシブルプリント配線板とするまでの製造プロセスに関して、特段の限定はない。公知のあらゆる製造手法が使用できる。なお、本件発明に言う多層フレキシブルプリント配線板とは、3層以上の回路形状を含む導体層を備えるものを言う。以下、実施例を示す。
【実施例】
【0068】
実施例及び比較例で用いた樹脂成分を以下に示す。C成分のゴム変性ポリアミドイミド樹脂、F成分のリン含有難燃性エポキシ樹脂の合成例は後述する。
【0069】
A成分:固形状の高耐熱性エポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 東都化成株式会社製 YDCN−704,軟化点90℃),
液状の高耐熱性エポキシ樹脂(ナフタレン型エポキシ樹脂 DIC株式会社製 HP4032−D)
B成分:エポキシ樹脂硬化剤(ビフェニル型フェノール樹脂 明和化成株式会社製 MEH−7851M)
C成分:ゴム変性ポリアミドイミド樹脂
D成分:リン含有難燃剤(芳香族縮合リン酸エステル 大八化学株式会社製 PX−200)
E成分:ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製 NC−3000)
F成分:リン含有難燃性エポキシ樹脂
G成分:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(DIC株式会社製 エピクロン850S)
H成分:低弾性物質(アクリロニトリルブタジエンゴム JSR株式会社製PNR−1H)
【0070】
C成分のゴム変性ポリアミドイミド樹脂の調製: ここでは、特開2004−152675号公報に記載の方法を採用し、温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)0.9モル、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ゴム(宇部興産製ハイカーCTBN1300×13:分子量3500)を0.1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が20%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、120℃で1.5時間攪拌した後180℃に昇温して更に約3時間攪拌を行いゴム変性量9重量%のポリアミドイミド樹脂を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.65dl/g、ガラス転移温度は160℃であった。
【0071】
次に、F成分としてのリン含有難燃性エポキシ樹脂の合成例に関して述べる。
【0072】
リン含有難燃性エポキシ樹脂の合成例: 攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光株式会社製 HCA−HQ)324重量部とエチルセロソルブ300重量部を仕込み、加熱して溶解した。YDF−170(東都化成社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂)680重量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、120℃まで加熱を行って混合した。トリフェニルホスフィン試薬を0.3重量部添加して160℃で4時間反応した。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は501g/eq、リン含有率は3.1重量%であった。
【0073】
[実施例1]
実施例1は、以上に述べた合成方法で得られたリン含有難燃性エポキシ樹脂、ゴム変性ポリアミドイミド樹脂等を用いて、表1に記載した配合割合の樹脂組成物とし、更に溶剤としてジメチルアセトアミド:メチルエチルケトン=3:2(重量比)の割合で混合した混合溶媒を用いて、樹脂ワニスを調製した。
【0074】
【表1】
【0075】
上記樹脂ワニスを、エッジコーターを用いて、市販の電解銅箔(18μm厚さ)の粗化処理面に、乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布し、150℃、3分間の加熱条件で乾燥させ、溶剤を気散して、樹脂付銅箔とした。この樹脂付銅箔を用いて、ガラス転移温度Tg、硬化後の樹脂層のフレキシビリティ評価、打ち抜き性能を評価した。また、この樹脂付銅箔を用いて多層プリント配線板を作製し、引き剥がし強さ及び常態はんだ耐熱性試験、煮沸はんだ耐熱性試験、吸湿はんだ耐熱性試験を行った。更に、上記樹脂付銅箔と同様の方法で、厚さ55μmの樹脂層を備える樹脂付銅箔を作製し、樹脂流れについて評価した。これらの評価及び試験結果について、表2にまとめて示す。
【0076】
[樹脂層の硬化後のフレキシブル性能評価]
ここでは、樹脂付銅箔を、加熱温度190℃、プレス圧40kgf/cmにて90分間真空プレスし、さらに銅箔をエッチングによって除去することにより、厚さ46μmの樹脂フィルムを作製した。そして、この樹脂フィルムを30mm×5mmに切り出し、耐屈曲性試験フィルムとした。そして、この耐屈曲性試験フィルムを用いて、MIT法による耐屈曲性試験を行った。MIT法による耐屈曲性試験は、MIT耐折装置として東洋精機製作所製の槽付フィルム耐折疲労試験機(品番:549)を用い、屈曲半径0.8mm、荷重0.5kgfとし、上記作製の耐屈曲性試験フィルムの繰り返し曲げ試験を実施した。その結果を示す表2では、2000回以上の繰り返し曲げ回数の測定が出来た耐屈曲性試験フィルムを合格○とした。なお、繰り返し曲げ回数は、MIT耐折装置の駆動ヘッドの一往復を1回(1サイクル)として測定した。
【0077】
[樹脂流れ]
上述の条件に従い、樹脂厚さ55μmの樹脂付銅箔のレジンフローを測定した。さらに、樹脂流れを評価した。まず、Bステージの樹脂付銅箔を銅面側からポンチにて打ち抜きを行った後、加熱温度を190℃、プレス圧40kgf/cmにて90分間真空プレスした。そして、プレス後に打ち抜いた部分を観察し、プレス加工により、打ち抜いた部分の淵からの樹脂のはみ出しを調べて樹脂流れ評価した。ここで、打ち抜いた部分の淵からの樹脂のはみ出しが200μm以下である場合を合格○とした。この評価結果を表2に示す。
【0078】
[打ち抜き性能]
Bステージ樹脂付銅箔の打ち抜き性能は、Bステージの樹脂付銅箔を、銅箔面を上にして載置し、下面(樹脂面)から上面(銅箔面)へ向けてポンチにて打ち抜き加工を行った。ポンチで打ち抜いた際、樹脂粉が発生した場合を不合格×とし、樹脂粉が生じないが、Bステージ樹脂に亀裂が生じる場合を合格○、Bステージ樹脂に樹脂粉も亀裂も生じない場合を優良◎とし評価した。この評価結果を表2に示す。
【0079】
[ガラス転移温度Tgの測定]
上述のようにして作製した樹脂付銅箔を、加熱温度190℃、プレス圧40kgf/cmにて90分間真空プレスし、さらに銅箔をエッチングによって除去することにより、厚さ46μmの樹脂フィルムを作製した。そして、この樹脂フィルムを30mm×5mmに切り出し、ガラス転移温度Tgを測定した。ガラス転移温度Tgの測定は、動的粘弾性測定装置(DMA)として、セイコー電子工業株式会社製の動的粘弾性測定装置(品番:SDM5600)を用い測定した。この結果を以下の表2に示す。
【0080】
[多層プリント配線板を用いた評価]
引き剥がし強さ及び常態はんだ耐熱性試験: 市販の0.4mm厚さのFR−4(ガラス−エポキシ基材)の両面に、18μm厚さの電解銅箔を張り合わせた銅張積層板の両面に、内層回路の形成を行い、黒化処理を行うことで内層コア材を作製した。次に、この内層コア材の両面に、前記樹脂付銅箔を、加熱温度190℃、プレス圧40kgf/cm、90分間の真空プレス条件で積層成形し、4層の多層プリント配線板を得た。そして、この多層プリント配線板を用いて、10mm幅の引き剥がし試験用の直線回路を形成し、これを基板面に対して90°方向で引き剥がして「引き剥がし強さ」を測定した。また、4層の多層プリント配線板から50mm×50mmのサイズに切り出したはんだ耐熱測定用試料を、260℃のはんだ浴に浮かべ、ふくれが発生するまでの時間として「常態はんだ耐熱性」を測定した。引き剥がし強さは、1.0kgf/cmを超えた場合を○、1.0kgf/cm未満を×として表示することとした。また、常態はんだ耐熱性は、300秒以上の場合が○、300秒未満の場合が×として評価した。この評価結果を表2に示す。
【0081】
煮沸はんだ耐熱性試験: 上述の4層の多層プリント配線板から50mm×50mmのサイズに切り出したはんだ耐熱測定用試料の外層の銅箔層をエッチング除去した後、沸騰させたイオン交換水に浸漬して、3時間の煮沸処理を行った。そして、煮沸処理の終了した試料から、直ちに水分を十分に除去して、260℃のはんだ浴に20秒間浸漬し、ふくれ発生の有無を確認した。ふくれ無しを○、目視でふくれが確認できたものを×として評価した。その結果を表2に示す。
【0082】
吸湿はんだ耐熱性試験: 上述の4層の多層プリント配線板の製造において、当該樹脂付銅箔を、温度30℃、相対湿度65%の恒温恒湿槽内に、15時間保持して吸湿させたものを用いた。その他の、4層の多層プリント配線板の作製条件は、上述のとおりである。そして、この4層の多層プリント配線板から、50mm×50mmのサイズに切り出したはんだ耐熱測定用試料を、260℃のはんだ浴に浮かべ、ふくれが発生するまでの時間を測定した。その結果を表2に示す。ふくれが発生するまでの時間が300秒以上を○、300秒未満を×として評価した。
【0083】
[実施例2〜実施例7]
実施例2〜実施例7では、実施例1の樹脂組成物に代えて、上述の樹脂成分を用いて、表1に掲載した配合割合の樹脂組成物とし、更に溶剤としてジメチルアセトアミドを用いて、樹脂ワニスを調製した。その他は、実施例1と同様である。
【比較例】
【0084】
比較例1及び比較例2では、実施例1の樹脂組成物に代えて、上述の樹脂成分を用いて、表1に掲載した配合割合の樹脂組成物とし、更に溶剤としてジメチルアセトアミドを用いて、樹脂ワニスを調製した。その他は、実施例1と同様である。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示したように、実施例1〜実施例7に示した樹脂付銅箔は、引き剥がし強さ、はんだ耐熱性、フレキシブル性能及び打ち抜き性能がともに良好な評価結果が得られた。また、レジンフローは、実施例1及び実施例5が1%、実施例2〜実施例4,実施例6,実施例7が1%未満と極めて低い結果であった。実施例2及び実施例3は、打ち抜き性能が非常に良い結果であった。この他、打ち抜き加工により形成した孔における樹脂流れも少なく、良好な結果が得られた。更に、ガラス転移温度Tgは、十分に高い温度とすることができた。これに対し、比較例1は、打ち抜き性能が劣る結果となり、比較例2は、常態はんだ耐熱性及び吸湿はんだ耐熱性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本件発明に係る樹脂組成物は、フレキシブルプリント配線板の高密度実装化に対応可能であり、特に、多層フレキシブルプリント配線板のフレキシビリティ及び耐熱性を備え、且つ、接続信頼性の高い、高性能な多層フレキシブルプリント配線板の製造に利用可能である。