特許第5750052号(P5750052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5750052弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、通信装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750052
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20150625BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20150625BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20150625BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20150625BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20150625BHJP
   H01L 41/18 20060101ALI20150625BHJP
   H01L 41/22 20130101ALI20150625BHJP
【FI】
   H03H9/17 F
   H03H9/54 Z
   H03H9/02 M
   H03H9/70
   H01L41/08 C
   H01L41/08 J
   H01L41/08 K
   H01L41/08 L
   H01L41/18 101Z
   H01L41/22
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-549970(P2011-549970)
(86)(22)【出願日】2011年1月11日
(86)【国際出願番号】JP2011050246
(87)【国際公開番号】WO2011086986
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2013年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-6010(P2010-6010)
(32)【優先日】2010年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 政則
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/126473(WO,A1)
【文献】 特開2002−359534(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/000929(WO,A1)
【文献】 特開2008−172494(JP,A)
【文献】 特開2005−286945(JP,A)
【文献】 特開平09−064683(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0014808(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/17
H01L 41/09
H01L 41/18
H01L 41/22
H03H 9/02
H03H 9/54
H03H 9/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主共振子及び副共振子を有する弾性波デバイスであって、
前記主共振子及び副共振子は、
下部電極と、
前記下部電極上に備わる圧電膜と、
前記圧電膜上に備わる上部電極とを備え、
前記主共振子及び前記副共振子のうち、前記副共振子のみは、前記上部電極内に、前記上部電極とは異なる材料からなる質量付加膜をさらに備え、
前記主共振子と前記副共振子とでは、前記上部電極と前記下部電極とが対向する共振領域における単位面積当たりの重さに差を有し、
前記重さの差は、前記質量付加膜の単位面積当たりの重さであり、
前記重さの差よりも軽い周波数制御膜を、前記主共振子及び前記副共振子のうち少なくともいずれか一方に備える、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記周波数制御膜の単位面積あたりの重さは、0.2g/m2以下である、請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記周波数制御膜は、凹形状または凸形状のパターンを備え、前記パターンが前記共振領域に分散して形成されている、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記周波数制御膜は、円形または楕円形である、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えた、フィルタ。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイス、または請求項5に記載のフィルタを備えた、通信モジュール。
【請求項7】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイス、請求項5に記載のフィルタ、または請求項6に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される無線機器の急速な普及により、圧電材料を用いた弾性表面波(SAW)や厚み振動波(BAW)を用いた共振子を複数組み合わせることにより特定の周波数帯の電気信号のみを通過させる特徴を持った高周波通信用のフィルタ素子が開発されている。これまでは主として誘電体フィルタとSAWフィルタが使用されてきたが、最近では、特に高周波での特性が良好で、かつ小型化とモノリシック化が可能な素子である圧電薄膜共振子を用いて構成されたフィルタが注目されつつある。
【0003】
このような圧電薄膜共振子の中には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)タイプとSMR(Solidly Mounted Resonator)タイプがある。前者は、基板上に、主要構成要素として、上部電極/圧電膜/下部電極の構造を有し、上部電極と下部電極が対向する部分の下部電極下に空隙が形成されている。ここで、空隙は、下部電極が配置された基板表面に設けた犠牲層のウェットエッチング、あるいは裏面からの基板のウェットエッチング、又はドライエッチング等により形成される。また、後者は上記の空隙の代わりに、音響インピーダンスが高い膜と低い膜を交互にλ/4(λ:弾性波の波長)の膜厚で積層し音響反射膜として利用する構造のものである。
【0004】
圧電薄膜共振子の上部電極と下部電極との間に電気信号としての高周波電圧を印加すると、上部電極と下部電極に挟まれた圧電膜内部に逆圧電効果に起因する弾性波が励振される。また、弾性波によって生じる歪は圧電効果により電気信号に変換される。このような弾性波は、上部電極膜と下部電極膜がそれぞれ空気に接している面で全反射されるため、圧電膜の厚み方向に主変位をもつ縦振動波となる。このような共振現象を利用することで、所望の周波数特性を有する共振子(あるいはこれを複数接続して形成されるフィルタ)を得ることができる。
【0005】
例えば、FBARタイプの圧電薄膜共振子では、空隙上に形成された上部電極膜/圧電膜/下部電極膜を主要な構成要素とする積層構造部分の総膜厚Hが、弾性波の波長λの1/2(1/2波長)の整数倍(n倍)となる周波数(H=nλ/2)において共振が生じる。ここで、圧電膜の材質によって決まる弾性波の伝搬速度をVとすると、共振周波数Fは、
F=nV/2H
となるから、積層構造の総膜厚Hにより共振周波数Fが制御できる。
【0006】
このような圧電薄膜共振子を用いたフィルタの構成としては、共振子を直列−並列に梯子状に繋ぐラダー型フィルタがある。ラダー型フィルタは、梯子型に組む段数や、直列−並列に配する共振子の容量比を変えるだけで、挿入損失、帯域外抑圧度等を容易に操作することができ、設計手順も簡便なため、良く用いられている。同様な設計手法としてラティス型フィルタもある。
【0007】
これらフィルタ構成は直列腕および並列腕の周波数の異なる共振子から構成されており(周波数関係:並列腕<直列腕)、この異なる共振周波数を有する共振子を同一チップ内に形成する必要がある。並列腕に接続された共振子(以下、並列共振子)を直列腕に接続された共振子(以下、直列共振子)より低い共振周波数にするためには、並列共振子の上部電極上に質量付加膜を形成し、質量付加膜の質量によって周波数を制御している。
【0008】
特許文献1は、同一基板上に複数の共振周波数を有する共振子を得るために、共振子の主要構成膜である下部電極、圧電膜、上部電極の膜厚を変化させる方法や質量付加膜の追加することによって調整する方法を開示している。特許文献2は、共振子の電極上の質量付加膜をパターニングすることによって調整する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−335141号公報
【特許文献2】米国特許第6657363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1が開示する弾性波デバイスでは、異なる膜厚の質量付加膜を形成するために、複数回の成膜処理、フォトリソグラフィ処理、エッチング処理を行うため、工程の煩雑化、しいてはデバイスのコストを増加させてしまうといった課題があった。
【0011】
特許文献2が開示する弾性波デバイスのように、並列共振子の質量付加膜を用いてパターンを形成した場合には、共振子の周波数を移動することによって共振特性が大幅に劣化するという課題があった。
【0012】
本発明は、複数の圧電薄膜共振子の少なくとも1つの共振周波数を特性劣化なく移動させて、優れた特性を得ることができる弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の開示は、主共振子及び副共振子を有する弾性波デバイスであって、前記主共振子及び副共振子は少なくとも、下部電極と、前記下部電極上に備わる圧電膜と、前記圧電膜上に備わる上部電極とを備え、前記主共振子と前記副共振子とでは、前記上部電極と前記下部電極とが対向する共振領域において、前記下部電極と、前記圧電膜と、前記上部電極に単位面積当たりの重さの合計に差を有し、前記重さの差よりも軽く、かつ前記共振領域内において、パターニングされた周波数制御膜を、前記主共振子及び前記副共振子のうち少なくともいずれか一方に備える。
【発明の効果】
【0014】
本願の開示によれば、同一チップ内に複数の共振周波数を有する圧電薄膜共振子において、周波数特性を良好にすることができる。また、弾性波デバイスを製造するための工程を、短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】実施の形態にかかる圧電薄膜共振子の平面図
図1B】第一圧電薄膜共振子の断面図
図1C】第二圧電薄膜共振子の断面図
図2】ラダー型フィルタの回路図
図3A】第一圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図3B】第一圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図3C】第一圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図3D】第一圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図4A】第二圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図4B】第二圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図4C】第二圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図4D】第二圧電薄膜共振子の製造工程を示す断面図
図5】周波数制御膜と共振Qとの関係を示す特性図
図6A】周波数移動量と共振Qとの関係を示す特性図
図6B】周波数移動量と共振Qとの関係を示す特性図
図7】周波数制御膜と共振Qとの関係を示す特性図
図8】周波数制御膜の占有率と共振Qとの関係を示す特性図
図9A】実施例2にかかる圧電薄膜共振子の平面図
図9B】実施例2にかかる第一圧電薄膜共振子の断面図
図9C】実施例2にかかる第二圧電薄膜共振子の断面図
図10】ラダー型フィルタの回路図
図11】実施例3にかかるラダー型フィルタの回路図
図12】実施例3と比較例との周波数特性の特性図
図13】通信モジュールのブロック図
図14】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態)
〔1.弾性波デバイスの構成〕
特開2002−335141号公報が開示する弾性波デバイスは、複数の共振周波数を有する共振子を同一チップ内で得るために、共振子の電極上に新たに質量付加膜を付加している。したがって、複数の共振周波数を有する共振子を同一チップ内で得るためには、異なる膜厚の質量付加膜が必要となり、複数回の成膜処理、フォトリソグラフィ処理、エッチング処理を行うために、工程の煩雑化、しいてはデバイスのコストを増加させてしまうといった課題があった。
【0017】
米国特許第6657363号明細書が開示する弾性波デバイスでは、複数の共振周波数を有する共振子を同一チップ内で得るためには、共振子の電極上に形成した質量付加膜について、質量付加膜のピッチをパターニング工程で制御することにより、共振周波数の調整が可能であることを示している。1回の成膜処理、フォトリソグラフィ処理、エッチング処理で、複数の共振子間で、質量付加膜に対して異なるパターンを形成することができ、同一チップ内で複数の共振周波数を有する共振子を形成できる。しかしながら、並列共振子の質量付加膜を用いてパターンを形成した場合には、共振子の周波数を移動することによって共振特性が大幅に劣化するという課題があった。なお、米国特許第6657363号明細書には、共振子の電極上に形成する質量付加膜のパターンのピッチに関する開示があるのみであり、その他パターンに対する要求事項については開示されていない。
【0018】
本実施の形態にかかる弾性波デバイスは、複数の圧電薄膜共振子が接続されて形成されるフィルタにおいて、複数の圧電薄膜共振子のうち少なくとも1つの共振周波数を特性劣化なく移動させて、優れた周波数特性を得ることを目的とする。
【0019】
(実施例1)
図1A図1Cは、本実施の形態にかかる弾性波デバイスの一例である圧電薄膜共振子の一実施例を示す。図1Aは、圧電薄膜共振子の平面図である。図1Bは、図1AにおけるA−A部の断面図であり、第一圧電薄膜共振子の断面図である。図1Cは、第二圧電薄膜共振子の断面図である。
【0020】
図2は、本実施の形態の圧電薄膜共振子を直列腕と並列腕とに複数個配置しているフィルタ回路を示す。ここで、直列腕に接続する共振子を第一圧電薄膜共振子(直列共振子)S1〜S4、並列腕に接続する共振子を第二圧電薄膜共振子(並列共振子)P1〜P3と呼ぶこととする。
【0021】
図1A図1Cに示す圧電薄膜共振子は、基板41、空隙42、下部電極43、圧電膜44、上部電極45、メンブレン部46、エッチング媒体導入孔47、エッチング媒体導入路48、犠牲層49、質量付加膜50、周波数制御膜51を備えている。基板41は、本実施例ではシリコン(Si)を用いている。下部電極43は、本実施例ではルテニウム(Ru)/クロム(Cr)の2層構造としている。圧電膜44は、本実施例では窒化アルミニウム(AlN)を用いている。上部電極45は、本実施例ではCr/Ruの2層構造としている。下部電極43、圧電膜44、上部電極45の各膜は、スパッタリング法等などの成膜方法によって形成することができる。例えば、2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子の場合、各層のおおよその膜厚は、下部電極43のRuが250nm、Crが100nm、圧電膜44のAlNが1150nm、上部電極45の第二層45b(Cr)が20nm、第一層(Ru)が250nmとなる。なお、下部電極43及び上部電極45の電極膜としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)などを用いることができる。また、圧電膜44としては、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO3)などを用いることができる。また、基板41としては、シリコン(Si)、ガラス、セラミックス等を用いることができる。
【0022】
図1Cに示すように、第二圧電薄膜共振子P1〜P3は、質量付加膜50を備えている。質量付加膜50は、本実施例では膜厚125nmのチタン(Ti)で形成されている。質量付加膜50は、上部電極45の第一層45aと第二層45bとの間に備わる。質量付加膜50は、下部電極43と上部電極45とが対向しているメンブレン部46に負荷を付加する膜として機能させるためには、少なくとも上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46を含むように形成されていればよい。また、質量付加膜50は、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46を含むように形成したものを最小領域とし、上部電極45の形状と一致する形状を最大領域とし、この最小領域と最大領域との間の大きさで任意の形状とすることができる。
【0023】
図1B及び図1Cに示すように、第一圧電薄膜共振子S1〜S4および第二圧電薄膜共振子P1〜P3の上部電極45の上には、周波数制御膜51が備わる。周波数制御膜51は、本実施例では膜厚20nmのTiで形成されている。周波数制御膜51は、少なくとも上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46を含むように備わる。
【0024】
周波数調整膜52は、メンブレン部46における最上層に備わる。周波数調整膜52は、本実施例ではSiO2で形成されている。周波数調整膜52は、図1Bに示す第一圧電薄膜共振子S1〜S4、図1Cに示す第二圧電薄膜共振子P1〜P3の共振周波数調整を同時に行うことができる。すなわち、直列腕の第一圧電薄膜共振子S1〜S4の膜構成は、最上層から最下層に向かって、SiO2/Ti/Cr/Ru/AlN/Ru/Cr/Si基板の順番で膜が形成されている。並列腕の第二圧電薄膜共振子P1〜P3の膜構成は、最上層から最下層に向かって、SiO2/Ti/Cr/Ti/Ru/AlN/Ru/Cr/Si基板の順番で膜が形成されている。なお、各層の膜厚は、フィルタの要求仕様に応じて異なり、下部電極43及び上部電極45の膜、圧電膜44、質量付加膜50、周波数制御膜51も上述以外の構成も可能である。また、下部電極43は、1層構造でもよい。また、質量付加膜50は、上部電極45の第一層45aと第二層45bとの間に挟むことにより、周波数制御膜51は第一圧電薄膜共振子S1〜S4と第二圧電薄膜共振子P1〜P3ともに同じ材料の上に形成できる。また、周波数調整膜52はなくてもよい。上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46の、下部電極43の下と基板41との間にはドーム状の空隙42(膨らみ)が形成されている。「ドーム状の空隙」とは、例えば空隙の周辺部では内部高さが低く、空隙の中央ほど内部高さが高くなるような形状の膨らみである。
【0025】
図3A図3Dは、第一圧電薄膜共振子S1〜S4の製造工程を示す断面図である。図4A図4Dは、第二圧電薄膜共振子P1〜P3の製造工程を示す断面図である。図3A図3D図4A図4Dは、いずれもメンブレン部46の中心を通る線分(図1AにおけるA−A部)における断面を示す。
【0026】
まず、図3A及び図4Aに示すように、Si基板41上に、例えば酸化マグネシウム(MgO)等からなる犠牲層49を、例えばスパッタリング法または蒸着法を用いて形成する。基板41は、Si基板以外にも石英基板、ガラス基板、セラミックス基板、GaAs基板等を用いることができる。特に、基板41は、空隙形成工程において犠牲層エッチング時にエッチングされてしまことを防ぐため、エッチングが困難な材料で形成されたものを採用することが好ましい。犠牲層49は、ZnO、Ge、Ti、Cu等、エッチング液あるいはエッチングガスにより容易に溶解できる材料で形成することが好ましい。犠牲層49の形成後、露光技術とエッチング技術とを用いて、犠牲層49を所定の形状にする。
【0027】
次に、図3B及び図4Bに示すように、下部電極43として、Ru/Crをスパッタリング法等により成膜する。ここでは、下部電極43は2層構造としたが、1層構造でもよい。次に、露光技術とエッチング技術により、犠牲層49を覆うように、下部電極43を所望の形状にパターニングする。この時、下部電極43には、犠牲層49をエッチングするためのエッチング媒体を導入するための導入路48(図1A参照)が形成され、導入路48の先端には空隙形成時に犠牲層49をエッチングするためのエッチング媒体導入孔47(図1A参照)が形成されていてもよい。続いて、圧電膜44としてAlNを、スパッタリング法等により成膜する。次に、上部電極45の第一層45aとしてRuを、スパッタリング法等により成膜する。
【0028】
次に、図4Bに示すように第二圧電薄膜共振子は、質量付加膜50としてTiを、スパッタリング法等により成膜する。次に、露光技術とエッチング技術により、質量付加膜50が少なくとも上部電極45と下部電極43とが対向したメンブレン部46を含むように形成する。ここで、質量付加膜50のパターニングにはリフトオフ法を用いても構わない。なお、質量付加膜50の成膜は、第二圧電薄膜共振子の製造工程においてのみ実施され、第一圧電薄膜共振子の製造工程においては省略することができる。
【0029】
次に、図3C及び図4Cに示すように、スパッタリング法などで上部電極45の第二層45bとして、Crを成膜する。ここで、第二圧電薄膜共振子における質量付加膜50は、上部電極45の第一層45aと第二層45bとにより挟まれた状態となる。次に、上部電極45の第二層45bの上に、周波数制御膜51としてTiを成膜する。次に、露光技術とエッチング技術を用いて、少なくとも上部電極45と下部電極43とが対向したメンブレン部46を含む領域の周波数制御膜51を、所望の形状にパターニングする。本工程において、フィルタを構成する各共振子の上部電極45上のパターンを各々異ならせることによって、複数の共振周波数を有する共振子を一度の工程で作製することができる。
【0030】
ここで、周波数制御膜51は、単位面積あたりの重さが圧電膜44(AlN)により励振される弾性波に影響を与えない重さにすることにより、周波数制御膜51がパターニングされたことによって生じる不要スプリアスの発生や共振特性の劣化を抑制することができる。「周波数制御膜51が圧電膜44により励振される弾性波に影響を与えない重さ」とは、第一に、第一圧電薄膜共振子と第二圧電薄膜共振子において、上部電極と下部電極とが対向する共振領域における下部電極と、圧電膜と、上部電極と、質量付加膜と、周波数調整膜との単位面積当たりの重さの合計の差よりも軽い重さである。本実施例では、周波数制御膜の単位面積当たりの重さが、第二圧電薄膜共振子に形成された質量付加膜50の単位面積当たりの重さよりも軽い重さで形成される。特に、本実施例では周波数制御膜51の単位面積あたりの重さが0.2g/m2以下の条件を満たすことにより、周波数制御膜51がパターニングされたことによって生じる不要スプリアスの発生や共振特性の劣化を抑制することができる。ここで、上部電極、下部電極、圧電膜、質量付加膜、周波数調整膜、周波数制御膜等の「単位面積あたりの重さ(g/m)」とは、それぞれの材料密度(g/m)と膜厚(m)との積である。本実施例では質量付加膜及び周波数調整膜を含んだ構成で発明を開示してあるが、質量付加膜等を含まない弾性波デバイスを実施する場合には、上記「周波数制御膜51が圧電膜44により励振される弾性波に影響を与えない重さ」は、第一圧電薄膜共振子と第二圧電薄膜共振子において、上部電極と下部電極とが対向する共振領域における下部電極と、圧電膜と、上部電極との単位面積当たりの重さの合計の差よりも軽い重さとすることにより、同様の効果を得ることができる。
【0031】
周波数制御膜51のエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのうちいずれか一方を用いることができる。しかし、微細なパターン形状が容易に得られること、アンダーエッチングが少ないことから、ドライエッチングを用いるほうが好ましい。
【0032】
周波数制御膜51の形状は、膜厚よりも低い高さであってもよい。しかし、各共振子間で複数の共振周波数を有する共振子を得るためには、複数の共振子の上部電極45上で異なる形状のパターンをエッチングする必要がある。したがって、周波数制御膜51の形状は、膜厚に相当する高さを有するように形成することにより、パターン形成時のエッチングのバラツキを低減することができ、精密に所望の周波数に移動させることができる。
【0033】
また、周波数制御膜51と上部電極45の組み合わせとしては、エッチング選択性のある材料の組み合わせにすれば、エッチング時に他の膜への損傷が少なく、精密に所望の周波数に移動させることができる。したがって、優れた特性の弾性波デバイスを安定して提供することができる。
【0034】
次に、図3D及び図4Dに示すように、露光技術とエッチング技術により、上部電極45を所望の形状にパターニングする。次に、下部電極43の窓明けおよび共振特性改善のために、露光技術とエッチング技術により圧電膜44を所望の形状にパターニングする。次に、周波数調整膜52(SiO2)をスパッタリング等により成膜する。ここで、周波数調整膜52の材料は、SiO2に限定されず、励起エネルギーなどにより、その一部を漸減できる金属酸化膜や金属窒化膜などの他の絶縁膜であっても構わない。
【0035】
次に、露光技術とエッチング技術によって、上部電極45上にある周波数調整膜52を除去し、その部分にバンプパッド(不図示)を形成する。
【0036】
最後に、露光技術とエッチング技術により、下部電極43の一部に形成されている犠牲層エッチング媒体導入孔47(図1A参照)上の周波数調整膜52を除去する。次に、犠牲層エッチング媒体導入孔47に、犠牲層エッチング媒体を導入する。犠牲層エッチング媒体は、導入路48(図1A参照)を経て、下部電極43の下へ導入され、犠牲層49を除去する。これにより、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46の下方に、ドーム状の膨らみを有する空隙42を形成することができる。以上により、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子が完成する。
【0037】
犠牲層49のエッチング液としては、犠牲層49以外の圧電薄膜共振子を構成する材料、特にエッチング媒体が接触する犠牲層49上の電極材料をエッチングしにくい材料であることが好ましい。
【0038】
なお、基板41、下部電極43、上部電極45、圧電膜44の各材料は上記に限定されず、他の材料でもよい。また、空隙42に代えて、音響インピーダンスが高い膜と低い膜とが交互にλ/4(λ:弾性波の波長)の膜厚で積層した音響反射膜を、メンブレン部46における、下部電極43と基板41との間に配置する構造であってもよい。
【0039】
図5は、第一圧電薄膜共振子において、パターンが形成された周波数制御膜51の材料密度と膜厚の積、つまり、単位面積当たりの重さと共振Qとの関係を示す特性図である。図5において、横軸は周波数制御膜51の単位面積あたりの重さ、縦軸は共振Qの劣化を示している。ここで、縦軸は、周波数制御膜51が無い圧電薄膜共振子の共振Qの値から、周波数制御膜51がある圧電薄膜共振子の共振Qの値を差し引いた値である。つまり、縦軸において正の値は劣化量、負の値は改善量を示している。また、図5の値は周波数移動量が全て約10MHzの場合の値である。また、周波数制御膜51の膜厚は、25nm(図5のT1)、50nm(図5のT2)、125nm(図5のT3)とした。ここで、周波数制御膜51の膜厚が125nmの場合は、第二圧電薄膜共振子に形成された質量付加膜の単位面積当たりの重さと同じ場合を示している。また、周波数制御膜51は、上部電極45における共振領域内に形成している。また、周波数制御膜51は、凸状に突出したパターン(島パターン)を有し、この島パターンにより共振部に質量を与えることができる。図5に示すように、周波数制御膜51の単位面積あたりの重さが0.2g/m2以下であれば、共振Qが劣化せずに共振周波数を移動させることができることが分かった。
【0040】
図6Aは、周波数制御膜の単位面積あたりの重さが0.56g/m2の場合の、周波数移動量に対する共振Qおよび電気機械結合係数k2の劣化の割合を示す。図6Bは、周波数制御膜の単位面積あたりの重さが0.11g/m2の場合の周波数移動量に対する共振Qおよび電気機械結合係数k2の劣化の割合を示す。図6Aの場合、周波数移動量の増加に伴い、共振Qおよび電気機械結合係数k2が共に劣化するのに対し、図6Bの場合、周波数移動量の増加に伴う共振Qおよび電気機械結合係数k2の劣化は見られなかった。
【0041】
ここで、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子のメカニズムについて説明する。
【0042】
圧電薄膜共振子は、上部電極45と下部電極43に電圧を印加すると、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46において厚さ方向の電界が発生し、圧電膜44が厚さ方向に伸縮する。換言すれば、圧電膜44の共振領域の厚さ方向に弾性波が伝播する。上部電極45の上部と下部電極43の下部は真空(または気体)との境界であるため、そこでは弾性波は自由端反射する。反射を繰り返す弾性波は、弾性波が発生する箇所の総膜厚と位相が合わない周波数成分は打ち消しあう。結局、弾性波の波長の半分の整数倍が総膜厚と一致する弾性波のみ存在でき、共振現象を起こす。
【0043】
上部電極45上にパターンが形成された周波数制御膜51がある場合、パターンがある部分とパターンがない部分の総膜厚が異なることになり、上記共振現象はパターンがある部分とパターンがない部分の2カ所で発生する。共振現象が2カ所で発生する共振特性を有する共振子を用いてフィルタを作製した場合、一方の共振特性はスプリアスとして機能してしまうため、共振特性を一個にする必要がある。また、共振現象が2カ所で発生するため、共振特性自体の劣化が生じる。従来は周波数制御膜のパターンピッチを、圧電膜に励振された弾性波の波長よりも小さくすることにより、弾性波はパターンを認識できないと考えられてきたが、本発明者らは、パターンピッチではなく、共振領域において、パターンを形成する膜の単位面積当たりの重さが特性に影響を与えることを見出した。パターンを形成する膜の単位面積あたりの重さが十分に小さい場合、上部電極45上にパターンが形成された膜を形成したとしても、圧電膜44に励振された弾性波がパターンがある部分とパターンがない部分を認識できないことを見出したのである。
【0044】
図7は、周波数制御膜51としてTiあるいはSiO2を用いた場合の共振Qの劣化を縦軸に、横軸に単位面積あたりの重さでプロットした特性図を示す。ここで、周波数制御膜51をSiO2で形成した場合の膜厚は、50nmとした(図7におけるT11)。また、周波数制御膜51を膜厚25nmのTiで形成した場合(T12)、膜厚50nmのTiで形成した場合(T13)、膜厚125nmのTiで形成した場合(T14)の値をプロットした。
【0045】
図7に示すように、膜厚50nmのSiO2を形成した場合(T11)の共振Qと、膜厚25nmのTiを形成した場合(T12)の共振Qとが、ほぼ一致している。すなわち、周波数制御膜51は、材料の違いおよび膜厚の違い(膜厚50nmのSiO2、膜厚25nmのTi)があったとしても、単位面積あたりの重さを同じにすることにより周波数移動に伴う特性劣化を抑制できていることが分かる。このことは、周波数制御膜51の膜厚が重要なのではなく、単位面積あたりの重さを圧電膜44が励振する弾性波に影響を及ぼさない重さになるように、周波数制御膜51の密度と膜厚の積を設定にすることにより、共振子の共振周波数を共振特性の劣化なく移動させることができることを示している。
【0046】
ここで、周波数制御膜51のパターンは、本実施の形態では島パターン(凸形状)としたが、単位面積当たりの重さを任意の値にすることができれば、ホールパターン(凹形状)であっても構わない。
【0047】
図8は、周波数制御膜51の占有率と共振Qとの関係を示すグラフである。ここで、占有率とは、上部電極と下部電極とが対向する共振領域の面積に対して、周波数制御膜51が形成されている面積の割合を示している。つまり、占有率が低い場合は、共振領域に形成されている周波数制御膜51の面積は小さく、占有率が高い場合は、共振領域に形成されている周波数制御膜51の面積が大きいことを示している。図8に示すように、島パターンの周波数制御膜51を備えた場合、メンブレン部46に対する周波数制御膜51の占有率は、40%以下とすることが好ましい。また、ホールパターンの周波数制御膜51を備えた場合、メンブレン部46に対する周波数制御膜51の占有率は、60%以上とすることが好ましい。
【0048】
また、周波数制御膜51のパターンは、円形または楕円形で形成することができる。また、周波数制御膜51のパターンは、曲線を含む形状で形成することができる。周波数制御膜を上記の形状で形成することにより、パターン形成時に所望のパターンを正確に形成しやすく、共振子の共振周波数を精密に所望の周波数に移動させることができる。
【0049】
(実施例2)
図9A図9Cは、本実施の形態にかかる弾性波デバイスの一例である圧電薄膜共振子の一実施例を示す。図9Aは、圧電薄膜共振子の平面図である。図9Bは、図9AにおけるA−A部の断面図であり、第一圧電薄膜共振子の断面図である。図9Cは、第二圧電薄膜共振子の断面図である。
【0050】
図10は、本実施の形態の圧電薄膜共振子を直列腕と並列腕とに複数個配置しているフィルタ回路を示す。ここで、直列腕に接続する共振子を第一圧電薄膜共振子(直列共振子)S1〜S4、並列腕に接続する共振子を第二圧電薄膜共振子(並列共振子)P1〜P3と呼ぶこととする。
【0051】
図9A図9Cに示す圧電薄膜共振子は、基板41、空隙42、下部電極43、圧電膜44、上部電極45、メンブレン部46、エッチング媒体導入孔47、エッチング媒体導入路48、周波数制御膜51、周波数調整膜52を備えている。基板41は、本実施例ではシリコン(Si)を用いている。下部電極43は、本実施例ではルテニウム(Ru)/クロム(Cr)の2層構造としている。圧電膜44は、本実施例では窒化アルミニウム(AlN)を用いている。上部電極45は、本実施例では第一層45aと第二層45bの2層構造としている。第一層45aは、例えばRuを用いることができる。第二層45bは、例えばCrを用いることができる。
【0052】
ここで、図9Cに示す並列共振子(図10における第二圧電薄膜共振子P1〜P3)の上部電極45の膜厚は、図9Bに示す直列共振子(図10における第一圧電薄膜共振子S1〜S4)の上部電極45と比べて厚くしている。具体的には、図9Cに示す上部電極45の第一層45aの膜厚は、図9Bに示す上部電極45の第一層45aの膜厚よりも厚くしている。このような構成とすることによって、並列共振子の共振周波数を直列共振子の共振周波数よりも低くしている。
【0053】
下部電極43、圧電膜44、上部電極45の各膜は、スパッタリング法等などの成膜方法によって形成することができる。例えば、2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子の場合、各層のおおよその膜厚は、下部電極43のRuが250nm、Crが100nm、圧電膜44のAlNが1150nm、図9Bに示す直列共振子の上部電極45の第一層45a(Ru)が250nm、第二層45b(Cr)が20nm、図9Cに示す並列共振子の上部電極45のCrが20nm、Ruが300nmとなる。
【0054】
周波数調整膜52は、メンブレン部46における最上層に備わる。周波数調整膜52は、本実施例ではSiO2で形成されている。周波数調整膜52は、図9Bに示す第一圧電薄膜共振子S1〜S4、図9Cに示す第二圧電薄膜共振子P1〜P3の共振周波数の調整を同時に行うことができる。すなわち、直列腕の第一圧電薄膜共振子S1〜S4の膜構成は、最上層から最下層に向かって、SiO2/Ti/Cr/Ru/AlN/Ru/Cr/Si基板の順番で膜が形成されている。並列腕の第二圧電薄膜共振子P1〜P3の膜構成は、最上層から最下層に向かって、SiO2/Ti/Cr/Ru/AlN/Ru/Cr/Si基板の順番で膜が形成されている。なお、各層の膜厚は、フィルタの要求仕様に応じて異なり、下部電極43及び上部電極45の膜、圧電膜44、周波数制御膜51も上述以外の構成も可能である。また、下部電極43は、1層構造でもよい。また、本実施例では直列共振子と並列共振子の共振周波数の周波数差を、上部電極45の第一層45a及び第二層45bの膜厚差によって規定しているが、同様の膜厚差を下部電極43に含まれる複数の層の膜厚差によって共振周波数差を規定しても良い。上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46の、下部電極43の下と基板41との間にはドーム状の空隙42(膨らみ)が形成されている。「ドーム状の空隙」とは、例えば空隙の周辺部では内部高さが低く、空隙の中央ほど内部高さが高くなるような形状の膨らみである。
【0055】
ここで、周波数制御膜51は、単位面積あたりの重さが圧電膜44(AlN)により励振される弾性波に影響を与えない重さにすることにより、周波数制御膜51がパターニングされたことによって生じる不要スプリアスの発生や共振特性の劣化を抑制することができる。「周波数制御膜51が圧電膜44により励振される弾性波に影響を与えない重さ」とは、第二に、第一圧電薄膜共振子と第二圧電薄膜共振子において、上部電極と下部電極とが対向する共振領域における下部電極と、圧電膜と、上部電極と、周波数調整膜との単位面積当たりの重さの合計の差よりも軽い重さである。本実施例では、周波数制御膜の単位面積当たりの重さが、第一圧電薄膜共振子と第二圧電薄膜共振子の上部電極の単位面積当たりの重さの差よりも軽い重さで形成される。特に、本実施例では周波数制御膜の単位面積あたりの重さが0.2g/m2以下の条件を満たすことにより、周波数制御膜51がパターニングされたことによって生じる不要スプリアスの発生や共振特性の劣化を抑制することができる。ここで、上部電極、下部電極、圧電膜、周波数調整膜、周波数制御膜等の「単位面積あたりの重さ(g/m)」とは、材料密度(g/m)と膜厚(m)との積である。
【0056】
(実施例3)
次に、実施例3として、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を梯子形に接続したラダー型フィルタについて説明する。
【0057】
図11は、本実施例のラダー型フィルタの回路図である。図11に示すように、ラダー型フィルタは、直列腕に接続されている第一圧電薄膜共振子S1〜S5と、並列腕に接続されている第二圧電薄膜共振子P1〜P3とを備えている。ここで、第一圧電薄膜子および第二圧電薄膜共振子は実施例1に記載の膜構成であり、第二圧電薄膜共振子には第一圧電薄膜共振子との間に共振周波数差を設けるために質量付加膜が形成されている。ここで、第一圧電薄膜共振子S1の共振周波数をfS1としたとき、第一圧電薄膜共振子S2の共振周波数がfS1、第一圧電薄膜共振子S3、S4、S5の共振周波数が(fS1−7MHz)となるように、各第一圧電薄膜共振子S1〜S5にパターンが形成された周波数制御膜51を備えている。
【0058】
図12は、周波数制御膜51の単位面積あたりの重さが0.56g/m2の場合(比較例)と0.11g/m2の場合(実施例3)とにおけるラダー型フィルタの通過特性を示す。ここで、比較例は周波数制御膜51の単位面積当たりの重さが、質量付加膜の単位面積当たりの重さよりと同じ場合を示し、実施例3は周波数制御膜51の単位面積当たりの重さが、質量付加膜の単位面積当たりの重さよりも軽い場合を示している。周波数制御膜51の単位面積あたりの重さが0.56g/m2の場合では、ラダー型フィルタに含まれる圧電薄膜共振子の共振周波数を移動させた場合に、各共振子の共振特性が劣化してしまう。これに対し、実施例3の周波数制御膜51の単位面積あたりの重さが0.11g/m2の場合では、ラダー型フィルタに含まれる圧電薄膜共振子の共振特性を劣化させずに共振周波数を移動できるため、優れたフィルタ特性が得られる。
【0059】
〔2.通信モジュールの構成〕
図13は、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を備えた通信モジュールの一例を示す。図13に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62aは、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を備えている。
【0060】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0061】
本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を通信モジュールに備えることで、通過特性の優れた通信モジュールを実現することができる。また、通信モジュールの製造工程を短縮することができる。
【0062】
なお、図13に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本実施の形態にかかるフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0063】
〔3.通信装置の構成〕
図14は、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図14に示す通信装置は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図14に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77〜80は、本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を備えている。
【0064】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0065】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0066】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0067】
本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子、または通信モジュールを通信装置に備えることで、通過特性の優れた通信装置を実現することができる。また、通信装置の製造工程を短縮することができる。
【0068】
なお、図14に示す通信装置は一例であり、少なくとも本実施の形態にかかる圧電薄膜共振子を備えた通信装置であれば、他の構成を有する通信装置であっても本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
〔4.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、空隙42を複合膜側にドーム形状としているため、基板41をエッチングする必要がなく生産性の向上が図れる。また、基板41をエッチングしないため、基板41の機械的強度の劣化防止も図ることができる。更に、空隙42を形成する領域は小さくて済むため、集積化を図ることができる。
【0070】
更に、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46の形状を、楕円形、または非平行からなる多角形にすることにより、平行な辺が存在しないため、電極の外周で反射された弾性波が共振部分で横方向の定在波として存在することを抑制することができる。これにより、通過帯域内にリップルが発生することを抑制することができる。
【0071】
更に、空隙の基板面上への投影領域は上部電極と下部電極とが対向する領域を含むことにより、圧電薄膜共振子の共振特性を向上させ優れた性能を得ることができる。
【0072】
なお、実施例1に示す圧電薄膜共振子、および実施例2に示すフィルタを製造する際は、上記製造工程に限らず、他の製造工程であってもよい。例えば、犠牲層49を形成しないでバンプパッド形成工程まで得た後、基板41の裏面に、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46を含むように開口したレジストパターンを形成する。次に、基板41の裏面からSF6によるエッチングとC48による側壁保護膜形成を交互に繰り返す条件で行うことによって、側壁形状が基板面に対して略垂直になるようにドライエッチングを行い、上部電極45と下部電極43とが対向するメンブレン部46の下側に空隙42を形成する。これにより、圧電薄膜共振子、および圧電薄膜共振子を複数接続して構成されるフィルタを、製造することができる。
【0073】
また、本実施の形態では、ラダー型フィルタを一例として挙げたが、複数の共振子をラティス型に接続したラティス型フィルタであってもよい。
【0074】
本実施の形態における第一圧電薄膜共振子(直列共振子)は、本発明の主共振子の一例である。本実施の形態における第二圧電薄膜共振子(並列共振子)は、本発明の副共振子の一例である。本実施の形態における基板41は、本発明の基板の一例である。本実施の形態における下部電極43は、本発明の下部電極の一例である。本実施の形態における上部電極45は、本発明の上部電極の一例である。本実施の形態における圧電膜44は、本発明の圧電膜の一例である。本実施の形態における質量付加膜50は、本発明の質量付加膜の一例である。本実施の形態における周波数制御膜51は、本発明に周波数制御膜の一例である。本実施の形態におけるメンブレン部46は、本発明の共振領域の一例である。本実施の形態における空隙42は、本発明の空隙の一例である。
【0075】
本実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
【0076】
(付記1)
主共振子及び副共振子を有する弾性波デバイスであって、
前記主共振子及び副共振子は、
下部電極と、
前記下部電極上に備わる圧電膜と、
前記圧電膜上に備わる上部電極とを備え、
前記主共振子と前記副共振子とでは、前記上部電極と前記下部電極とが対向する共振領域における単位面積当たりの重さに差を有し、
前記重さの差よりも軽い周波数制御膜を、前記主共振子及び前記副共振子のうち少なくともいずれか一方に備える、弾性波デバイス。
【0077】
(付記2)
前記重さの差は、上部電極あるいは下部電極の厚みの差である、付記1記載の弾性波デバイス。
【0078】
(付記3)
前記副共振子は、質量付加膜を備え、
前記重さの差は、前記質量付加膜の重さである、付記1記載の弾性波デバイス。
【0079】
(付記4)
前記周波数制御膜の単位面積あたりの重さは、0.2g/m2以下である、付記1記載の弾性波デバイス。
【0080】
(付記5)
前記周波数制御膜の形状は、凸形状の島パターンである、付記1〜4のいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0081】
(付記6)
前記周波数制御膜の形状は、凹形状のホールパターンである、付記1〜4のいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0082】
(付記7)
凸形状の島パターンを有する周波数制御膜を備えた共振子と、凹形状のホールパターンを有する周波数制御膜を備えた共振子とを備えた、付記1〜4のいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0083】
(付記8)
前記周波数制御膜の形状は、前記周波数制御膜の膜厚に相当する高さである、付記1〜4のいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0084】
(付記9)
前記周波数制御膜によって形成されたパターンは、前記共振領域に分散して形成されている、付記1〜8のいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0085】
(付記10)
前記周波数制御膜によって形成されたパターンは、円または楕円である、付記1〜9のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0086】
(付記11)
前記周波数制御膜によって形成されたパターンは、曲線を含む形状である、付記1〜10のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0087】
(付記12)
前記周波数制御膜と前記上部電極とは、材料が異なる、付記1〜11のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0088】
(付記13)
前記周波数制御膜と前記上部電極とは、材料の組み合わせがエッチング選択性のある材料の組み合わせである、付記1〜12のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0089】
(付記14)
前記共振領域は、楕円形である、付記1〜13のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0090】
(付記15)
前記共振領域は、非平行からなる多角形である、付記1〜13のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0091】
(付記16)
少なくとも前記共振領域に重なる前記下部電極の下部と前記基板との間に、ドーム状の膨らみを有する空隙を備え、
前記空隙の輪郭は曲線からなる閉じた形状である、付記1〜15のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0092】
(付記17)
前記共振領域を基板に投影した領域は、空隙を基板に投影した領域に含まれる、付記1〜16のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0093】
(付記18)
前記基板は、前記共振領域に重なる領域に空隙を備えている、付記1〜15のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス。
【0094】
(付記19)
前記主共振子及び副共振子をラダー型もしくはラティス型に接続した、弾性波デバイス。
【0095】
(付記20)
付記1〜19のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイスを備えた、フィルタ。
【0096】
(付記21)
付記1〜19のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイスを備えた、デュープレクサ。
【0097】
(付記22)
付記1〜19のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス、付記20に記載のフィルタ、または付記21に記載のデュープレクサを備えた、通信モジュール。
【0098】
(付記23)
付記1〜19のうちいずれか一つに記載の弾性波デバイス、付記20に記載のフィルタ、付記21に記載のデュープレクサ、または付記22に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本願は、弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、通信装置に有用である。
【符号の説明】
【0100】
41 基板
42 空隙
43 下部電極
44 圧電膜
45 上部電極
46 メンブレン部
47 エッチング媒体導入孔
48 犠牲層エッチング媒体導入路
49 犠牲層
50 質量付加膜
51 周波数制御膜
52 周波数調整膜
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14