(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化物焼結体に対してEPMAによる面内組成マッピングを行なったとき、測定面積中に占める、In濃度が2〜35質量%の領域の比率が70面積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、酸化亜鉛と;酸化スズと;酸化インジウムの各粉末と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、高い導電性(低い比抵抗)と高い相対密度を有しており、直流スパッタリング法を適用可能であり、しかもキャリア移動度が高い酸化物半導体薄膜を成膜するのに適したスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、上記酸化物焼結体をEPMA(Electron Probe X−ray Micro Analyzer、電子プローブマイクロアナリシス)で組成マッピングしたとき、(ア)測定領域(ここでは、400μm×400μm)中、Sn濃度が10〜50質量%の領域の占める比率が70面積%以上となるような組織としたとき、(イ)好ましくは、上記測定領域中、In濃度が2〜35質量%の領域の占める比率が70面積%以上となるような組織としたときに、所期の目的が達成されることを見出した。そして、このような組織を有する酸化物焼結体を得るためには、所定の焼結条件(好ましくは950〜1650℃の温度で焼結する)を行なえば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0018】
本発明で対象とするZn−Sn−In系酸化物焼結体の大部分は、酸化物焼結体を構成する全ての金属元素(Zn、Sn、およびIn)が結合したZn−Sn−In系化合物として存在するが、金属元素の組成比によっては上記以外の形態で存在し得る。例えばSnについて、[Sn]/([Zn]+[Sn])の比が非常に大きいなどの場合は、Sn単独、またはSnO
2などとして存在する場合がある。EPMAによる組成マッピングを行って上記金属元素を定量分析することにより、観察視野中に存在する化合物の組成を、ほぼ同定することができる。
【0019】
そして本発明者らの検討結果によれば、後記する条件でEPMA分析を行なったとき、測定面積中、Sn濃度が10〜50質量%の領域(Sn
10-50)の占める比率が、70面積%以上であるもの;好ましくは、測定面積中、In濃度が2〜35質量%の領域(In
2-35)の占める比率が70面積%以上であるものは、ZnO、SnO
2、およびIn
2O
3がほぼ均一に分布するようになり、酸化物焼結体の相対密度の向上(90%以上)と比抵抗の低減(1Ω・cm以下)に大きく寄与することが判明した。EPMAの分析結果が、上記要件を満足することは、In、Zn、およびSnの3元素が全て結合した化合物であって、ZnO、SnO
2、およびIn
2O
3がほぼ均一に分布するIn−Zn−Sn−O系化合物が、測定面積中の70面積%以上を占めることを間接的に意味している。
【0020】
本発明に係るIn−Zn−Sn−O系酸化物焼結体において、EPMA組成マッピングを行なったとき、Sn濃度、更に好ましくはIn濃度が適切に制御されたIn−Zn−Sn−O系化合物が存在すると、スパッタリングターゲットが高密度化し、比抵抗が低減するメカニズムは詳細には不明であるが、上記In−Zn−Sn−O系化合物は融点が低く、焼結時に液相を形成するため、酸化物焼結体の密度向上に寄与し、更には比抵抗低減に寄与しているのではないかと推察される。
【0021】
上記酸化物焼結体(スパッタリングターゲット)の組成に関して言えば、ZnOとSnO
2を原料として用いたZTO系の酸化物半導体用酸化物焼結体に、In
2O
3を所定量加えることにより、酸化物焼結体の相対密度が向上し、且つ、比抵抗が低下するようになり、その結果、安定した直流放電が継続して得られることが判明した。更に、上記スパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化物半導体薄膜を有するTFTは、キャリア密度が15cm
2/Vs以上と、非常に高い特性が得られることも分かった。
【0022】
具体的には、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、[Zn]+[Sn]+[In]に対する[In]の比([In]比)は、[In]比=0.01〜0.30であり、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比([Sn]比)は、[Sn]比=0.20〜0.60であることが好ましく;より好ましくは、[In]比=0.10〜0.30、[Sn]比=0.33〜0.60である。前述した特許文献5では、透明導電膜の成膜に適したスパッタリングターゲットの組成とするため、[In]比を上記範囲よりも多く、[Sn]比を上記範囲よりも低く設定しており、酸化物半導体薄膜の成膜に適した酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供する本発明とは、好ましい組成比が相違している。
【0023】
以下、本発明に係る酸化物焼結体の構成要件について、詳しく説明する。
【0024】
まず、上記酸化物焼結体をEPMAで観察したときの組織について説明する。EPMAによるカラーマッピングによれば、スパッタリングターゲット面内の元素分布を一目で容易に把握することができる。
【0025】
本発明では、上記酸化物焼結体に対して後記する条件でEPMAによる面内組成マッピングを行なったとき、Sn濃度、好ましくは更にIn濃度で定義される組織形態について、下記(ア)、好ましくは下記(イ)を満足するところに特徴がある。
(ア)測定面積中に占める、Sn濃度が10〜50質量%の領域の比率が70面積%以上である。
(イ)好ましくは、測定面積中に占める、In濃度が2〜35質量%の領域の比率が70面積%以上である。
【0026】
以下では、Sn濃度が10〜50質量%の領域をSn
10-50と呼び、In濃度が2〜3
5質量%の領域をIn
2-35と呼ぶ場合がある。
【0027】
本発明におけるEPMAの測定条件は、以下のとおりである。
分析装置:JEOL製「電子線マイクロアナライザー JXA8900RL」
分析条件
加速電圧:15.0kV
照射電流:5.012×10
-8A
ビーム径:最小(0μm)
測定時間:100.00ms
測定点数:400×400
測定間隔:1μm
測定面積:400μm×400μm
測定位置:板厚方向中央部
測定視野数:1視野
【0028】
(ア)Sn濃度が10〜50質量%の領域の占める比率が70面積%以上
本発明の酸化物焼結体は、測定面積中、Sn濃度が10〜50質量%の領域Sn
10-50の占める比率が70面積%以上に制御されている。これにより、ZnO、SnO
2、およびIn
2O
3がほぼ均一に分布するようになり、酸化物焼結体の相対密度向上および比抵抗の低減に大きく寄与するIn−Zn−Sn−O系化合物が、多く存在するようになる。また、上記構成とすることにより、少ないIn量(後記するように、本発明では[In]比の好ましい範囲は0.01〜0.30であり、より好ましくは0.10〜0.30)であっても、低い比抵抗(1Ω・cm以下)と、高い相対密度(90%以上)を実現することができる。
【0029】
上記領域(Sn
10-50)以外の領域については、本発明では厳密に制御する趣旨ではないが、本発明の酸化物焼結体を上記条件でEPMAマッピングしたとき、測定面積中、Sn濃度が50質量%を超える領域Sn
>50の占める比率は、20面積%以下であることが好ましい。上記領域Sn
>50の面積率を20%以下に制御することにより、スパッタリングの直流放電安定性が向上し、安定した放電が可能になる。
【0030】
ここで、上記領域Sn
>50では、ZnとInのいずれも検出されないことから、実質的に全てSnO
2として存在すると推定される。前述したように、酸化物焼結体を構成する金属元素の比率によっては(例えば、[Zn]/[Zn]+[Sn]の比が非常に小さい場合など)、In−Zn−Sn−O系化合物だけでなくSnO
2が検出される場合もあるが、SnO
2は、微量であればスパッタリングの直流放電安定性などに悪影響を及ぼさず、また、成膜後の薄膜の半導体特性にも悪影響を及ぼさないことを実験により確認している。
【0031】
また、本発明の酸化物焼結体を上記条件でEPMAマッピングしたとき、測定面積中、Sn濃度が10質量%未満の領域Sn
<10の占める比率は、10面積%以下であることが好ましい。上記領域Sn
<10の面積率を10%以下に制御することにより、スパッタリングの直流放電安定性と成膜後の薄膜の半導体特性が向上する。
【0032】
ここで、上記領域Sn
<10では、EPMAで撮影した二次電子像から、ポア(空隙)であることを確認している。上述したように本発明では、上記領域Sn
<10の面積率は好ましくは10%以下と、微量に制御されており、ポアは微量であればスパッタリングの直流放電安定性、および成膜後の薄膜の半導体特性にも悪影響を及ぼさないことを実験により確認している。
【0033】
(イ)In濃度が2〜35質量%の領域の占める比率が70面積%以上
本発明の酸化物焼結体は、好ましくは、測定面積中、In濃度が2〜35質量%の領域In
2-35の占める比率が70面積%以上に制御されている。In濃度が2〜35質量%の領域は、その大部分がSn濃度10〜50質量%の領域と重複していることから、上記(イ)の要件を満足することは、前述したIn−Zn−Sn−O系化合物が、測定面積中に多数(70面積%以上)存在することを実質的に意味していると推定される。
【0034】
上記領域(In
2-35)以外の領域については、本発明では厳密に制御する趣旨ではないが、本発明の酸化物焼結体を上記条件でEPMAマッピングしたとき、測定面積中、In濃度が35質量%を超える領域In
>35の占める比率は、25面積%以下であることが好ましい。上記領域In
>35の面積率を25%以下に制御することにより、スパッタリングの直流放電安定性が向上し、安定した放電が可能になる。
【0035】
ここで、上記領域In
>35では、Inと共に(同時に)Znが検出されることから、実質的に全てIn−Zn−O系化合物として存在すると推定される。この化合物は所謂ホモロガス型化合物であり、電気抵抗が低いなど電子材料として良好な特性を有しており、結晶構造の変化に伴って物性が変化するといった特徴を持つ。本発明において、上記化合物は酸化物焼結体の比抵抗の低減に寄与するものであり、スパッタリングの直流放電安定性や、成膜後の薄膜の半導体特性には悪影響を及ぼさない。
【0036】
また、本発明の酸化物焼結体を上記条件でEPMAマッピングしたとき、測定面積中、In濃度が2質量%未満の領域In
<2の占める比率は、5面積%以下であることが好ましい。上記領域In
<2の面積率を5%以下に制御することにより、スパッタリングの直流放電安定性と成膜後の薄膜の半導体特性が向上する。
【0037】
ここで、上記領域In
<2では、前述した領域Sn
<10の場合と同様、EPMAで撮影した二次電子像から、ポア(空隙)であることを確認している。上述したように本発明では、上記領域In
<2の面積率は好ましくは5%以下と、微量に制御されており、ポアは微量であればスパッタリングの直流放電安定性、および成膜後の薄膜の半導体特性にも悪影響を及ぼさないことを実験により確認している。
【0038】
次に、本発明に係る酸化物焼結体を構成する金属元素の好ましい組成比(原子比)について説明する。以下では、上述した通り[Zn]+[Sn]+[In]に対する[In]の比を[In]比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比を[Sn]比と呼ぶ。
【0039】
まず、[In]比は0.01〜0.30の範囲内であることが好ましい。[In]比が0.01未満の場合、酸化物焼結体の相対密度向上および比抵抗の低減を達成できず、成膜後の薄膜のキャリア移動度も低くなる。一方、[In]比が0.30を超えると、薄膜としたときのTFTスイッチング特性が劣化する。より好ましい[In]比は0.10〜0.30である。更に好ましい[In]比の上限は0.25以下である。
【0040】
また、[Sn]比は0.20〜0.60であることが好ましい。[Sn]比が、上記範囲を外れると、TFTのスイッチング特性が劣化してしまい、高性能の表示装置が得られない。より好ましい[Sn]比は、0.33〜0.60である。
【0041】
本発明の酸化物焼結体は、相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下を満足するものである。
【0042】
(相対密度90%以上)
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が非常に高く、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。高い相対密度は、スパッタリング中での割れやノジュールの発生を防止し得るだけでなく、安定した放電をターゲットライフまで連続して維持するなどの利点をもたらす。
【0043】
(比抵抗1Ω・cm以下)
本発明の酸化物焼結体は、比抵抗が小さく、1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1Ω・cm以下である。これにより、直流電源を用いたプラズマ放電などによる直流スパッタリング法による成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。
【0044】
次に、本発明の酸化物焼結体を製造する方法について説明する。
【0045】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と、酸化スズと、酸化インジウムの各粉末を混合および焼結して得られるものであり、原料粉末からスパッタリングターゲットまでの基本工程を
図1に示す。
図1には、酸化物の粉末を混合・粉砕→乾燥・造粒→成形→脱脂→焼結→熱処理して得られた酸化物焼結体を、加工→ボンディングしてスパッタリングターゲットを得るまでの基本工程を示している。ここで、焼結後の熱処理は、必要に応じて施されるものであり、当該熱処理は省略しても良い。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように焼結条件を適切に制御したところに特徴があり、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0046】
まず、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末、および酸化インジウム粉末を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、Zn、Sn、およびInの比率が上述した範囲内となるように制御することが好ましい。
【0047】
混合および粉砕はポットミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。混合時間は2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは10時間以上であり、更に好ましくは20時間以上である。
【0048】
次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥し造粒した後、成形する。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形した後、CIP(冷間静水圧プレス)などによって成形することが好ましい。焼結体の相対密度を上昇させるためには、予備成形の成形圧力を約0.2tonf/cm
2以上に制御することが好ましく、成形時の圧力は約1.2tonf/cm
2以上に制御することが好ましい。
【0049】
次に、このようにして得られた成形体に対し、焼成を行う。本発明では、所望の組織を得るためには、約950℃〜1650℃の温度で焼結を行なうことが好ましい。焼成温度が高いほど上記In−Zn−Sn−O系化合物が形成され易く、かつ短時間で処理できるため好ましいが、温度が高くなり過ぎると焼結体が分解し易くなるため、相対密度が低下する。また、焼結温度が低すぎると上記In−Zn−Sn−O系化合物は形成され難くなり、所望の組織を得ることができない。よって、焼結条件は上記の範囲とするのが好ましい。より好ましい焼結温度は、約1000℃〜1600℃である。上記焼結処理により、比抵抗は、例えば約100Ω・cm(焼結処理前)から0.1Ω・cm(焼結後)まで低下するようになる。
【0050】
なお、上記の方法によって所望の相対密度が得られ難く、より容易に所望の相対密度を達成させる場合には、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形した後、黒鉛型に成形体を装填し、黒鉛型内で加圧した状態で焼結することが好ましい。この際、金型プレスでの予備成形を行わず、直接黒鉛型内に粉末を装填して加圧焼結してもよい。
【0051】
次に、このようにして得られた焼結体に対して、必要に応じて熱処理を行い、本発明の酸化物焼結体を得る。上記熱処理は、直流電源によるプラズマ放電を可能にするため、比抵抗をさらに低減する目的で行なわれる。好ましい熱処理条件は、熱処理温度:約700℃以上、保持時間:約2時間以上であり、より好ましくは、熱処理温度:約800℃以上、保持時間:約4時間以上である。熱処理雰囲気は還元性雰囲気が好ましく、例えば炉内に窒素ガスを導入することによって雰囲気を調整することが好ましい。
【0052】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、加工→ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。このようにして得られるスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗も、酸化物焼結体と同様、非常に良好なものであり、好ましい相対密度はおおむね90%以上であり、好ましい比抵抗はおおむね1Ω・cm以下である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
(実験例1)
純度99.99%の酸化亜鉛粉末、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化インジウム粉末を[Zn]:[Sn]:[In]=40.0:40.0:20.0の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、CIPにて成形圧力3tonf/cm
2で本成形を行った。このようにして得られた成形体を、1500℃で保持して焼結を行なった。
【0055】
このようにして得られた実験例1の酸化物焼結体(サイズ:φ135mm×7mmt)について、前述したEPMAマッピングの条件でSn濃度マッピングを行なった結果を
図2および表1のNo.1に示す。
図2および表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は80%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0056】
【表1】
【0057】
更に、上記の焼結体をφ4インチ×5mmtの形状に加工し、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを得た。このようにして得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、DC(直流)マグネトロンスパッタリングを行なった。スパッタリング条件は、DCスパッタリングパワー150W、Ar/0.1体積%O
2雰囲気、圧力0.8mTorrとした。その結果、異常放電(アーキング)の発生は見られず、安定して放電することが確認された。
【0058】
また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度をアルキメデス法で測定したところ91%以上であった。また上記スパッタリングターゲットの比抵抗を四端子法によって測定したところ、8.4×10
-3Ω・cmであり、いずれも良好な結果が得られた。
【0059】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、チャネル長10μm、チャネル幅100μmの薄膜トランジスタを作製してキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0060】
(実験例2)
前述した実験例1の各原料粉末を、[Zn]:[Sn]:[In]=40.0:40.0:20.0の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、黒鉛型に成形体を装填し、黒鉛型内で30MPaに加圧かつ1100℃で保持して焼結を行ない実験例2の酸化物焼結体を得た。
【0061】
これらの結果を表1のNo.2に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は91%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0062】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度97%以上、比抵抗5.3×10
-3Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0063】
(実験例3)
前述した実験例1において、[Zn]:[Sn]:[In]=48.0:32.0:20.0の比率で配合し、成形体を1600℃で焼結した後、窒素ガス雰囲気にて900℃で6時間熱処理したこと以外は、上記実験例1と同様にして実験例3の酸化物焼結体を得た。
【0064】
これらの結果を表1のNo.3に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は93%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0065】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度95%、比抵抗5.0×10
-3Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0066】
(実験例4)
前述した実験例1の各原料粉末を、[Zn]:[Sn]:[In]=53.3:26.7:20.0の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、黒鉛型に成形体を装填し、黒鉛型内で30MPaに加圧かつ1050℃で保持して焼結を行ない実験例4の酸化物焼結体を得た。
【0067】
これらの結果を表1のNo.4に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は94%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0068】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度98%、比抵抗2.9×10
-3Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0069】
(実験例5)
前述した実験例1の各原料粉末を、[Zn]:[Sn]:[In]=45.0:45.0:10.0の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、黒鉛型に成形体を装填し、黒鉛型内で30MPaに加圧かつ1150℃で保持して焼結を行ない実験例5の酸化物焼結体を得た。
【0070】
これらの結果を表1のNo.5に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は83%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0071】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度97%、比抵抗1.6×10
-2Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0072】
(実験例6)
前述した実験例1の各原料粉末を、[Zn]:[Sn]:[In]=48.5:48.5:3.0の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、黒鉛型に成形体を装填し、黒鉛型内で30MPaに加圧かつ1075℃で保持して焼結を行ない実験例6の酸化物焼結体を得た。
【0073】
これらの結果を表1のNo.6に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は82%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。なお、No.6は、他の例に比べてIn濃度が低く([In]比=0.03)、In−Zn−Sn−O系化合物中でIn濃度が希薄な領域が増加したために、In濃度2〜35質量%の領域の面積率は、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足せず、上記酸化物焼結体の比抵抗が若干増加した。
【0074】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度92%、比抵抗3.0×10
-2Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0075】
(実験例7)
前述した実験例1において、[Zn]:[Sn]:[In]=35.0:35.0:30.0の比率で配合し、成形体を1450℃で保持して焼結したこと以外は、上記実験例1と同様にして実験例7の酸化物焼結体を得た。
【0076】
これらの結果を表1のNo.7に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は92%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0077】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度98%、比抵抗2.6×10
-3Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0078】
(実験例8)
前述した実験例1において、[Zn]:[Sn]:[In]=64.0:16.0:20.0の比率で配合し、成形体を1300℃で保持して焼結したこと以外は、上記実験例1と同様にして実験例8の酸化物焼結体を得た。
【0079】
これらの結果を表1のNo.8に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は72%であり、本発明の範囲(70%以上)を満足していた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も、本発明の好ましい範囲(70%以上)を満足していた。
【0080】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、安定して放電することが確認された。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度98%、比抵抗2.7×10
-3Ω・cmであり、良好な結果が得られた。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm
2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0081】
(比較例1)
前述した実験例1において、炉内に成形体を800℃で5時間保持して焼結した後、窒素ガス雰囲気にて750℃で8時間熱処理したこと以外は、上記実験例1と同様にして比較例1の酸化物焼結体を得た。
【0082】
これらの結果を表1のNo.9に示す。表1に示すように、上記酸化物焼結体中、Sn濃度10〜50質量%の領域の面積率は64%と、本発明の範囲(70%以上)を下回っていた。また、In濃度2〜35質量%の領域の面積率も58%と、本発明の好ましい範囲(70%以上)を下回っていた。
【0083】
更に上記の焼結体を、上記実験例1と同様にしてスパッタリングを行なったところ、スパッタリング中に異常放電が発生した。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗を、上記実験例1と同様にして測定したところ、相対密度は60%と低く、比抵抗は97Ω・cmであった。また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、キャリア移動度は、3.0cm
2/Vsと低かった。
【0084】
以上の実験結果より、本発明で規定する組織を満足し、酸化物焼結体を構成する金属の組成比も本発明の好ましい要件を満足する実験例1〜8の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、高い相対密度および低い比抵抗を有しており、極めて良好な特性を有することが分かった。また上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜は、高いキャリア移動度を有するため、酸化物半導体薄膜として極めて有用であることが分かった。