(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750064
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C04B 35/453 20060101AFI20150625BHJP
C04B 35/457 20060101ALI20150625BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20150625BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
C04B35/00 P
C04B35/00 R
C23C14/34 A
H01L21/363
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-25476(P2012-25476)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2012-180264(P2012-180264A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-27794(P2011-27794)
(32)【優先日】2011年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100125173
【弁理士】
【氏名又は名称】竹岡 明美
(72)【発明者】
【氏名】金丸 守賀
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】松井 實
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕史
(72)【発明者】
【氏名】南部 旭
【審査官】
原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−063649(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/058533(WO,A1)
【文献】
特開2010−070410(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/034733(WO,A1)
【文献】
特開2000−256061(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/037191(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/067571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/453
C04B 35/457
C23C 14/34
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛と、酸化スズと、酸化インジウムの各粉末と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、
前記酸化物焼結体をX線回折し、
2θ=34°近傍のXRDピークの強度をA、
2θ=31°近傍のXRDピークの強度をB、
2θ=35°近傍のXRDピークの強度をC、
2θ=26.5°近傍のXRDピークの強度をD
で表したとき、下記式(1)を満足し、かつ、前記酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、[Zn]+[Sn]+[In]に対する[In]の比は、下記式(3)を満足し、更に、相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
70>[A/(A+B+C+D)]×100≧10 ・・・ (1)
[In]/([Zn]+[Sn]+[In])=0.10〜0.30 ・・・ (3)
【請求項2】
前記酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、下記式(2)を満足するものである請求項1に記載の酸化物焼結体。
7[In]−7[Zn]+3[Sn]≦0 ・・・ (2)
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタ(TFT)の酸化物半導体薄膜をスパッタリング法で成膜するときに用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
TFTに用いられるアモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。上記酸化物半導体(膜)の形成に当たっては、当該膜と同じ材料のスパッタリングターゲットをスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。スパッタリング法で形成された薄膜は、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚などの面内均一性に優れており、スパッタリングターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるという長所を有しているからである。スパッタリングターゲットは、通常、酸化物粉末を混合、焼結し、機械加工を経て形成されている。
【0003】
表示装置に用いられる酸化物半導体の組成として、例えばIn含有の非晶質酸化物半導体[In−Ga−Zn−O、In−Zn−O、In−Sn−O(ITO)など]が挙げられるが、希少金属であるInを使用しており、大量生産プロセスでは材料コストの上昇が懸念される。そこで、高価なInを含まず材料コストを低減でき、大量生産に適した酸化物半導体として、ZnにSnを添加してアモルファス化したZTO系の酸化物半導体が提案されており、特許文献1〜4には、当該ZTO系酸化物半導体膜の製造に有用なスパッタリングターゲットが開示されている。
【0004】
このうち特許文献1には、長時間の焼成を行なって酸化スズ相を含有しないように組織を制御することにより、スパッタリング中の異常放電や割れの発生を抑制する方法が提案されている。また特許文献2には、900〜1300℃の低温の仮焼粉末製造工程と本焼成工程の2段階工程を行なってZTO系焼結体を高密度化することにより、スパッタリング中の異常放電を抑制する方法が提案されている。特許文献3は、スピネル型のAB
2O
4化合物を含有させることによって導電性を向上させ、かつ高密度化する方法が提案されている。また、特許文献4には、900〜1100℃の低温の仮焼粉末製造工程と本焼成工程の2段階の工程を行なって緻密なZTO系焼結体を得る方法が提案されている。
【0005】
また特許文献5には、ITO中のIn量を低減しても比抵抗が低く相対密度が高い透明導電膜形成用スパッタリングターゲットとして、低In含有ZTO系のスパッタリングターゲットが提案されている。一般にITO中のInを低減すると、スパッタリングターゲットの相対密度が低くなり、バルクの比抵抗が上昇するが、上記特許文献5では、In
2O
3で表わされるビックスバイト構造化合物とZn
2SnO
4で表わされるスピネル構造化合物を共存させることにより、高密度で比抵抗が小さく、スパッタリング時の異常放電も抑制可能なスパッタリングターゲットを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−277075号公報
【特許文献2】特開2008−63214号公報
【特許文献3】特開2010−18457号公報
【特許文献4】特開2010−37161号公報
【特許文献5】特開2007−63649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表示装置用酸化物半導体膜の製造に用いられるスパッタリングターゲットおよびその素材である酸化物焼結体は、導電性に優れ、且つ高い相対密度を有することが望まれている。また上記スパッタリングターゲットを用いて得られる酸化物半導体膜は、高いキャリア移動度を有することが望まれている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表示装置用酸化物半導体膜の製造に好適に用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットであって、高い導電性と相対密度を兼ね備えており、高いキャリア移動度を有する酸化物半導体膜を成膜可能な酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し得た本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と、酸化スズと、酸化インジウムの各粉末と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、前記酸化物焼結体をX線回折し、2θ=34°近傍のXRDピークの強度をA、2θ=31°近傍のXRDピークの強度をB、2θ=35°近傍のXRDピークの強度をC、2θ=26.5°近傍のXRDピークの強度をDで表したとき、下記式(1)を満足するところに要旨を有するものである。
70>[A/(A+B+C+D)]×100≧10 ・・・ (1)
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、下記式(2)を満足するものである。
7[In]−7[Zn]+3[Sn]≦0 ・・・ (2)
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物焼結体の相対密度は90%以上であり、比抵抗は1Ω・cm以下である。
【0012】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、上記のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、相対密度は90%以上であり、比抵抗は1Ω・cm以下であるところに要旨を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低い比抵抗と、高い相対密度を有する酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを、希少金属のIn量を低減しても得られるため、原料コストを大幅に削減できる。また、本発明によれば、直流放電安定性に優れ、面内の均質性および膜質安定性に優れたスパッタリングターゲットが得られる。本発明のスパッタリングターゲットを用いれば、キャリア移動度の高い酸化物半導体膜を、高速成膜が容易な直流スパッタリング法により、安価に且つ安定して成膜できるため、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを製造するための基本的な工程を示す図である。
【
図2】
図2は、表1のNo.1における本発明の酸化物焼結体のX線回折結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、酸化亜鉛と;酸化スズと;酸化インジウムの各粉末と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、高い導電性(低い比抵抗)と高い相対密度を有しており、直流スパッタリング法を適用可能であり、しかもキャリア移動度が高い酸化物半導体薄膜を成膜するのに適したスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、上記酸化物焼結体をX線回折し、2θ=34°近傍のXRDピークの強度をA、2θ=31°近傍のXRDピークの強度をB、2θ=35°近傍のXRDピークの強度をC、2θ=26.5°近傍のXRDピークの強度をDで表したとき、上記式(1)の関係を満足するように制御されたものは所期の目的が達成されることを見出した。そして、このような組織を有する酸化物焼結体を得るためには、所定の焼結条件(好ましくは900〜1650℃の温度で1時間以上焼結する)を行なえば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0016】
また、上記酸化物焼結体(スパッタリングターゲット)の組成に関して言えば、ZnOとSnO
2を原料として用いたZTO系の酸化物半導体用酸化物焼結体に、In
2O
3を所定量加えることにより、酸化物焼結体の相対密度が向上し、且つ、比抵抗が低下するようになり、その結果、安定した直流放電が継続して得られることが判明した。更に、上記スパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化物半導体薄膜を有するTFTは、キャリア密度が15cm
2/Vs以上と、非常に高い特性が得られることも分かった。
【0017】
また、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、[Zn]+[Sn]+[In]に対する[In]の比([In]比)は、[In]比=0.01〜0.35であることが好ましく、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比([Zn]比)は、[Zn]比=0.40〜0.95であることが好ましい。より好ましくは、[In]比=0.10〜0.30、[Zn]比=0.50〜0.85である。前述した特許文献5では、透明導電膜の成膜に適したスパッタリングターゲットの組成とするため、[In]比を上記範囲よりも多く、[Zn]比を上記範囲よりも低く設定しており、酸化物半導体薄膜の成膜に適した酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供する本発明とは、好ましい組成比が相違している。
【0018】
上記の通り、本発明の酸化物焼結体は、後記する条件でX線回折を行ない、2θ=34°近傍のXRDピークの強度をA、2θ=31°近傍のXRDピークの強度をB、2θ=35°近傍のXRDピークの強度をC、2θ=26.5°近傍のXRDピークの強度をDで表したときに、下記式(1)を満足するところに特徴がある。
70>[A/(A+B+C+D)]×100≧10 ・・・ (1)
【0019】
ここで、2θ=34°「近傍」とは、おおむね、34°±0.5°の範囲を含む趣旨である。上記ピーク位置には、おそらく、Zn
4Sn
2InO
9.5に相当する結晶相が存在すると推察される。
【0020】
また、2θ=31°「近傍」とは、おおむね、31°±1°の範囲を含む趣旨である。上記ピーク位置には、おそらく、ZnSnIn
XO
3+1.5Xに相当する結晶相が存在すると推察される。
【0021】
また、2θ=35°「近傍」とは、おおむね、35°±0.4°の範囲を含む趣旨である。上記ピーク位置には、おそらく、Zn
YIn
2O
Y+3に相当する結晶相が存在すると推察される。
【0022】
また、2θ=26.5°「近傍」とは、おおむね、26.5°±1°の範囲を含む趣旨である。上記ピーク位置には、おそらく、SnO
2に相当する結晶相が存在すると推察される。
【0023】
本発明におけるX線回折条件は、以下のとおりである。
分析装置:理学電機製「X線回折装置RINT−1500」
分析条件
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメートを使用(Kα)
ターゲット出力:40kV−200mA
(連続測定)θ/2θ走査
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5〜90°
【0024】
そして本発明の特徴部分は、前述したように、上記式(1)の関係を満足するところにある。ここで、上記式(1)の関係を満足する(70>[A/(A+B+C+D)]×100≧10)ことは、おそらく、Zn
4Sn
2InO
9.5に相当する結晶相がある一定量存在することを意味しているものと推察される。
【0025】
上記式(1)において、[A/(A+B+C+D)]×100の比が70以上になると、焼結性が低下し、密度が上がらない。具体的には、通常の焼結方法では、900〜1650℃の範囲のどの温度で焼結しても、90%以上の高密度が得られない。これは、Aのピークに相当する結晶相の融点が高く、この結晶相を多く含む領域では、焼結性が劣化するためと考えられる。このため、得られる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いても、安定した放電ができない。一方、[A/(A+B+C+D)]×100の比が10未満になると、成膜される薄膜の半導体特性が劣化する。
【0026】
次に、本発明に係る酸化物焼結体を構成する金属元素の好ましい組成比(原子比)について説明する。以下では、上述した通り[Zn]+[Sn]+[In]に対する[In]の比を[In]比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比を[Zn]比と呼ぶ。
【0027】
まず、[In]比は0.01〜0.35の範囲内であることが好ましい。[In]比が0.01未満の場合、酸化物焼結体の相対密度向上および比抵抗の低減を達成できず、成膜後の薄膜のキャリア移動度も低くなる。一方、[In]比が0.35を超えると、薄膜としたときのTFTスイッチング特性が劣化する。より好ましい[In]比は、0.10〜0.30である。更に好ましい[In]比の上限は0.25以下である。
【0028】
また、[Zn]比は0.40〜0.95であることが好ましい。[Zn]比が0.40未満の場合、スパッタリング法によって形成した薄膜の微細加工性が低下し、エッチング残渣が生じ易い。より好ましい[Zn]比は0.50以上である。一方、[Zn]比が0.95を超えると、成膜後の薄膜の薬液耐性に劣るものとなり、微細加工の際に酸による溶出速度が速くなって高精度の加工を行なうことができない。より好ましい[Zn]比は、0.85以下である。尚、[Zn]比がおおよそ0.60〜0.82の範囲は、製造条件にもよるが、[A/(A+B+C+D)]×100の値が70以上になる傾向にあり好ましくないので、[Zn]比の上記0.60〜0.82の範囲を避けることが好ましい。
【0029】
尚、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[In]としたとき、下記式(2)を満足することが好ましい。下記式(2)を満足することによって、比抵抗がより低下するので好ましい。
7[In]−7[Zn]+3[Sn]≦0 ・・・ (2)
【0030】
本発明の酸化物焼結体は、相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下を満足するものである。
【0031】
(相対密度90%以上)
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が非常に高く、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。高い相対密度は、スパッタリング中での割れやノジュールの発生を防止し得るだけでなく、安定した放電をターゲットライフまで連続して維持するなどの利点をもたらす。
【0032】
(比抵抗1Ω・cm以下)
本発明の酸化物焼結体は、比抵抗が小さく、1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1Ω・cm以下である。これにより、直流電源を用いたプラズマ放電などによる直流スパッタリング法による成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。
【0033】
次に、本発明の酸化物焼結体を製造する方法について説明する。
【0034】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と、酸化スズと、酸化インジウムの各粉末を混合および焼結して得られるものであり、原料粉末からスパッタリングターゲットまでの基本工程を
図1に示す。
図1には、酸化物の粉末を混合・粉砕→乾燥・造粒→成形(成形は図示せず)→焼結して得られた酸化物焼結体を、加工→ボンディングしてスパッタリングターゲットを得るまでの基本工程を示している。
図1には示していないが、焼結後、必要に応じて熱処理を施しても良い。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように焼結条件を適切に制御したところに特徴があり、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0035】
まず、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末、および酸化インジウム粉末を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、Zn、Sn、およびInの比率が上述した範囲内となるように制御することが好ましい。
【0036】
混合および粉砕はポットミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。
【0037】
次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥し造粒した後、成形する。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形した後、CIP(冷間静水圧プレス)などによって成形することが好ましい。焼結体の相対密度を上昇させるためには、予備成形の成形圧力を約0.2tonf/cm
2以上に制御することが好ましく、成形時の圧力は約1.2tonf/cm
2以上に制御することが好ましい。
【0038】
次に、このようにして得られた成形体に対して焼成を行う。本発明では、所望の組織を得るためには、焼成温度:約900℃〜1650℃、保持時間:約1時間以上で焼結を行なうことが好ましい。焼成温度が高いほど焼結体の相対密度が向上し易く、且つ、短時間で処理できるため好ましいが、温度が高くなり過ぎると焼結体が分解し易くなるため、相対密度が低下する。より好ましい焼結条件は、焼結温度:約1000℃〜1600℃、保持時間:約2時間以上である。また、焼結と同時にプレスなどを用いて圧力を負荷してもよく、加圧圧力は、約0.2tonf/cm
2以上に制御することが好ましい。上記焼結処理により、比抵抗は、例えば約100Ω・cm(焼結処理前)から0.1Ω・cm(焼結後)まで低下するようになる。
【0039】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、加工→ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。このようにして得られるスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗も、酸化物焼結体と同様、非常に良好なものであり、好ましい相対密度はおおむね90%以上であり、好ましい比抵抗はおおむね1Ω・cm以下である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0041】
純度99.99%の酸化亜鉛粉末、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化インジウム粉末を、表1に記載の種々の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm
2で予備成形した後、CIPにて成形圧力3tonf/cm
2で本成形を行った。このようにして得られた成形体を1600℃で焼結した。
【0042】
このようにして得られた種々の酸化物焼結体について、前述した条件でX線回折を行ない、XRDピークの強度A〜Dを測定し、式(1)を構成する[A/(A+B+C+D)]×100の比を算出した。更に、上記酸化物焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定すると共に、比抵抗を四端子法によって測定した。
【0043】
次に、上記の酸化物焼結体をφ4インチ×5mmtの形状に加工し、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを得た。このようにして得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法で、ガラス基板(サイズ:100mm×100mm×0.50mm)上に、酸化物半導体膜を形成した。スパッタリング条件は、DCスパッタリングパワー150W、Ar/0.1体積%O
2雰囲気、圧力0.8mTorrとした。
【0044】
上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、チャネル長10μm、チャネル幅100μmの薄膜トランジスタを作製してキャリア移動度を測定した。
【0045】
これらの結果を表1にまとめて示す。また、表1のNo.1について、X線回折の結果を
図2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、以下のように考察することができる。
【0048】
まず、表1のNo.1、4、5、8〜11は、前述した[A/(A+B+C+D)]×100の比が10以上70未満であり、本発明で規定する式(1)の関係を満足する本発明例であり、いずれも、スパッタリングターゲットの相対密度90%以上、比抵抗1Ω・cm以下であり、良好な特性を有していた。また、これらのスパッタリングターゲットを用いて成膜された薄膜のキャリア移動度はいずれも、15cm
2/Vs以上と、高かった。
【0049】
これに対し、表1のNo.2、3、6、7は、前述した[A/(A+B+C+D)]×100の比が70超であり、本発明で規定する式(1)の関係を満足しない例であって、いずれも、スパッタリングターゲットの相対密度が90%未満であり、比抵抗も1Ω・cmを超えて高くなった。そのため、スパッタリングターゲットとして使用した場合、放電が安定せず、成膜ができなかった。また、キャリア移動度の測定もできなかった(表1中、「−」で表わす)。
【0050】
以上の実験結果より、本発明で規定する要件を満足し、酸化物焼結体を構成する金属の組成比も本発明の好ましい要件を満足する酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、高い相対密度および低い比抵抗を有しており、極めて良好な特性を有することが分かった。また上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜は、高いキャリア移動度を有するため、酸化物半導体薄膜として極めて有用であることが分かった。