(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750122
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ロボット内視鏡の作動制御方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20150625BHJP
A61B 19/00 20060101ALI20150625BHJP
A61B 17/00 20060101ALI20150625BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20150625BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
A61B1/00 310H
A61B19/00 502
A61B17/00 320
A61B1/00 320B
B25J3/00 Z
B25J13/08 A
【請求項の数】28
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-552891(P2012-552891)
(86)(22)【出願日】2011年1月26日
(65)【公表番号】特表2013-519431(P2013-519431A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】US2011022493
(87)【国際公開番号】WO2011100110
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】61/303,365
(32)【優先日】2010年2月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510253996
【氏名又は名称】インテュイティブ サージカル オペレーションズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(72)【発明者】
【氏名】ドンハウィー,ケイトリン キュー
(72)【発明者】
【氏名】プリスコ,ジュセップ マリア
【審査官】
安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−154857(JP,A)
【文献】
特開2007−029290(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1844696(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
A61B 17/00
A61B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療ロボットシステムのロボット内視鏡の作動制御方法であって、前記医療ロボットシステムは、入力制御装置及び制御プロセッサを有し、前記方法は、
前記制御プロセッサが、現在のプロセス周期において前記入力制御装置から制御入力を受け取るステップと、
前記制御プロセッサが、前記ロボット内視鏡の先端の現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力を使用して決定するステップであって、前記現在のプロセス周期指令状態は現在のプロセス周期指令ロール位置および現在のプロセス周期指令速度を含む、ステップと、
前記制御プロセッサが、ロール角度調整を、設定値と前記ロボット内視鏡の前記先端の前のプロセス周期指令状態との差を使用して決定するステップであって、前記設定値は、前記ロボット内視鏡の前記先端で捕えれるカメラビューの所望のロール位置を示す、ステップと、
前記制御プロセッサが、変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記ロール角度調整によって前記前のプロセス周期指令状態に条件的に関連づけられるように、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更することにより決定するステップ、及び変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を、前記ロール角度調整によって、定数及び前記ロール角度調整の関数の一方に条件的に関連づけられるように、前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更することにより決定するステップと、
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令ロール位置および前記現在のプロセス周期指令ロール速度を、それぞれ前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置および現在のプロセス周期指令ロール速度になるように強いることにより、前記現在のプロセス周期前記指令状態を変更するステップと、
前記制御プロセッサが、前記設定値によって示される前記所望のロール位置に前記内視鏡の前記先端の前記ロール位置を維持するよう、前記ロボット内視鏡の前記先端に、前記変更された現在のプロセス周期指令状態に駆動されるように命じるステップと、を有する、
方法。
【請求項2】
先端基準座標系は、前記先端で捉えられるビューの深さ方向を示すZTIP軸と、前記ビューの水平方向を示すXTIP軸と、前記ビューの垂直方向を示すYTIP軸とを有するように、前記ロボット内視鏡の前記先端において定義され、
前記制御プロセッサが前記ロール角度調整を決定するステップは、
前記制御プロセッサが、前記設定値を示す基準ベクトルを受け取るステップと、
前記制御プロセッサが、前記YTIP軸および前記ZTIP軸を含む平面上に前記基準ベクトルを投影するステップと、
前記制御プロセッサが、前記基準ベクトルと投影された前記基準ベクトルとの間の角度として前記ロール角度調整を決定するステップと、
をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令状態を変更するステップは、
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令ロール速度を、前記変更された現在のプリセス周期指令ロール速度を零に設定することによって変更するステップと、
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記ロール角度調整が閾値よりも小さい場合、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を前記前のプロセス周期指令ロール位置に設定することによって変更するステップと、を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令状態を変更するステップは、
前記制御プロセッサが、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を固定値に設定することによって、前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更するステップと、
前記制御プロセッサが、前記ロール角度調整が閾値以上の場合に、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を、前記前のプロセス周期指令ロール位置と、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度及び前記プロセス周期の積との和に設定することによって、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更するステップと、を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令状態を変更するステップは、
前記制御プロセッサが、前記現在のプロセス周期指令ロール速度を、前記ロール角度調整の関数であるように変更するステップと、
前記制御プロセッサが、前記ロール角度調整が閾値以上の場合に、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記前のプロセス周期指令ロール位置と、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度及び前記プロセス周期の積との和に設定することによって、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更するステップと、を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記設定値は、重力ベクトルとは反対の方向を指すベクトルを示すように定められる、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記制御プロセッサが、設定値入力装置から前記設定値の指示を受け取るステップをさらに有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記設定値は、前記設定値の指示が前記設定値入力装置から受け取られた時点での前記先端のロール姿勢を示すベクトルを示すように定められる、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記制御プロセッサが、ディスプレイ画面に前記設定値のグラフィカル表現を表示させるステップと、
前記制御プロセッサが、前記設定値入力装置から入力を受け取るステップと、
前記制御プロセッサが、受け取った前記入力に従って前記設定値の前記グラフィカル表現の方向を前記ディスプレイ画面上で調整させるステップと、
前記制御プロセッサが、前記設定値の前記グラフィカル表現の調整された前記方向から前記設定値を決定するステップと、をさらに有する、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記制御プロセッサが、前記ロボット内視鏡の前記先端に、前記変更された現在のプロセス周期指令状態に駆動されるよう命じるステップは、
前記制御プロセッサが、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記変更された現在のプロセス周期指令状態を達成するように、前記ロボット内視鏡を対応する自由度の動きで操作するマニピュレータの1つまたは複数のジョイントの状態および前記ロボット内視鏡の本体を曲げるための前記ロボット内視鏡の1つまたは複数の屈曲セグメントの屈曲角度の組み合わせを決定するステップと、
前記制御プロセッサが、前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントに、決定された前記ジョイントの状態へと駆動されるよう命じるとともに、前記ロボット内視鏡の前記1つまたは複数の屈曲セグメントに、決定された前記屈曲角度へと駆動されるよう命じるステップと、を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントは、前記ロボット内視鏡の近位端を直線経路に沿って前後に動かす直進ジョイントと、前記ロボット内視鏡の前記近位端を前記直線経路の周りに回転させる回転ジョイントとを有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記制御プロセッサが、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力から決定するステップは、
前記制御プロセッサが、前記制御入力と、1つまたは複数の前記前のプロセス周期の前記制御入力の記憶されている情報とから、並進及び角度に関する先端状態を決定するステップを有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記制御プロセッサが、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力から決定するステップは、
前記制御プロセッサが、前記制御入力を、固定デカルト基準座標系に対する前記ロボット内視鏡の前記先端の所望の状態に変換するステップを有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記制御プロセッサが、前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントの状態および前記ロボット内視鏡の前記1つまたは複数の屈曲セグメントの前記屈曲角度を決定するステップは、
前記制御プロセッサが、前記変更された現在のプロセス周期指令状態を、前記マニピュレータおよび前記ロボット内視鏡から構成された組み合わされた直列の運動学的チェーンの逆運動学に適用するステップを有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数の屈曲可能なセグメントおよび遠位先端を含む細長い本体を有するロボット内視鏡と、
前記ロボット内視鏡を対応する動作の自由度で操作するための1つまたは複数の駆動可能なジョイントを有するマニピュレータと、
入力制御装置と、
制御プロセッサであって、
前記入力制御装置から制御入力を受け取り、
前記ロボット内視鏡の前記先端の現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力から決定し、前記現在のプロセス周期指令状態は現在のプロセス周期指令ロール位置および現在のプロセス周期指令ロール速度を含み、
ロール角度調整を、設定値と前記ロボット内視鏡の前記先端の前のプロセス周期指令状態との差を使用して決定し、前記設定値は、前記ロボット内視鏡の前記先端で捕えれるカメラビューの所望のロール位置を示し、
変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記ロール角度調整によって前記前のプロセス周期指令状態に条件的に関連づけられるように、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更することにより決定し、及び変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を、前記ロール角度調整によって、定数及び前記ロール角度調整の関数の一方に条件的に関連づけられるように、前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更することにより決定し、
前記現在のプロセス周期指令ロール位置および前記現在のプロセス周期ロール速度をそれぞれ前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置および前記変更された現在のプロセス周期ロール速度になるように強いることにより、前記現在のプロセス周期指令状態を変更し、
前記設定値によって示される前記所望のロール位置に前記内視鏡の前記先端の前記ロール位置を維持するように、前記ロボット内視鏡の前記先端に、前記変更された前記現在のプロセス周期指令状態に駆動されるように命じる、ように構成される、
制御プロセッサと、を有する、
医療用ロボットシステム。
【請求項16】
先端基準座標系が、前記先端で捉えられるビューの深さ方向を示すZTIP軸と、前記ビューの水平方向を示すXTIP軸と、前記ビューの垂直方向を示すYTIP軸とを有するように、前記ロボット内視鏡の前記先端において定義され、
前記制御プロセッサはさらに、前記設定値を示す基準ベクトルを受け取ること、前記YTIP軸および前記ZTIP軸を含む平面上に前記基準ベクトルを投影すること、及び前記基準ベクトルと投影された前記基準ベクトルとの間の角度として前記ロール角度調整を決定することによって、前記ロール角度調整を決定するように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項17】
前記制御プロセッサは、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を零に設定することによって前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更するように、及び前記ロール角度調整が閾値以下の場合、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を前記前のプロセス周期指令ロール位置に設定することによって前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更するように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項18】
前記制御プロセッサは、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度を固定値に設定することによって前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更するように、及び前記ロール角度調整が閾値以上の場合に、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記前のプロセス周期指令ロール位置と、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度及び前記プロセス周期の積との和に設定することによって、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更するように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項19】
前記制御プロセッサは、前記ロール角度調整の関数であるように前記現在のプロセス周期指令ロール速度を変更するように、及び前記ロール角度調整が閾値以上の場合に、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール位置を、前記前のプロセス周期指令ロール位置と、前記変更された現在のプロセス周期指令ロール速度及び前記プロセス周期の積との和に設定することによって、前記現在のプロセス周期指令ロール位置を変更するように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項20】
前記設定値は、重力ベクトルとは反対の方向を指すベクトルを示すように定められる、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項21】
前記制御プロセッサは、設定値入力装置から前記設定値の指示を受け取るように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項22】
前記制御プロセッサは、前記設定値の指示が前記設定値入力装置から受け取られた時点での前記先端のロール姿勢によって前記設定値を示すベクトルを定義するよう、前記設定値を定めるように構成される、
請求項21に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項23】
ディスプレイ画面と、
方向調整入力装置と、をさらに有し、
前記制御プロセッサは、前記ディスプレイ画面にロールの前記設定値のグラフィカル表現を表示し、前記方向調整入力装置から入力を受け取り、前記方向調整入力装置から受け取った前記入力に従って前記ディスプレイ画面上で前記設定値の前記グラフィカル表現の方向を調整し、前記設定値の前記グラフィカル表現の調整された前記方向から前記設定値を決定するように構成される、
請求項21に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項24】
前記制御プロセッサは、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記変更された現在のプロセス周期指令状態を達成するように、前記マニピュレータの1つまたは複数のジョイントの状態および前記細長い本体の1つまたは複数の屈曲セグメントの屈曲角度の組み合わせを決定し、前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントに、決定された前記ジョイントの状態へと駆動されるよう命じるとともに、前記ロボット内視鏡の前記1つまたは複数の屈曲セグメントに、決定された前記屈曲角度へと駆動されるよう命じることにより、前記ロボット内視鏡の前記先端に、前記変更された現在のプロセス周期指令状態に駆動されるよう命じるように構成される、
請求項15に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項25】
前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントは、前記ロボット内視鏡の近位端を直線経路に沿って前後に動かす直進ジョイントと、前記ロボット内視鏡の前記近位端を前記直線経路の周りに回転させる回転ジョイントとを有する、
請求項24に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項26】
前記制御プロセッサは、前記制御入力と、1つまたは複数の前記前のプロセス周期の前記制御入力の記憶されている情報とから、並進及び角度に関する先端状態を決定することにより、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力から決定するように構成される、
請求項20に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項27】
前記制御プロセッサは、前記制御入力を、固定デカルト基準座標系に対する前記ロボット内視鏡の前記先端の所望の状態に変換することにより、前記ロボット内視鏡の前記先端の前記現在のプロセス周期指令状態を前記制御入力から決定するように構成される、
請求項24に記載の医療用ロボットシステム。
【請求項28】
前記制御プロセッサは、前記変更された現在のプロセス周期指令状態を、前記マニピュレータおよび前記ロボット内視鏡から構成された組み合わされた直列の運動学的チェーンの逆運動学に適用することにより、前記マニピュレータの前記1つまたは複数のジョイントの状態および前記ロボット内視鏡の前記1つまたは複数の屈曲セグメントの前記屈曲角度を決定するように構成される、
請求項27に記載の医療用ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2010年2月11日に出願された、“METHOD AND SYSTEM FOR AUTOMATICALLY MAINTAINING AN OPERATOR SELECTED ROLL ORIENTATION AT A DISTAL TIP OF A ROBOTIC ENDSCOPE”と題する米国仮特許出願第61/303,365号(代理人整理番号ISRG02470PROV)の利益を主張する。
【0002】
本発明は概してロボット内視鏡、特にロボット内視鏡先端のオペレータ指令動作を制御する間にロボット内視鏡の遠位先端でのオペレータ選択ロール方向を自動的に保つ方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
内視鏡は、医師が装置を自然開口部または外科医が作った開口を経由して挿入するとともにそれを患者の内部の標的部位に誘導することにより、体内の臓器の画像を捉えるとともに体内の臓器の問題を診断することを可能にする医療用装置である。ある場合には、内視鏡は、体内の臓器に医療処置を行うために使用され得る。遠位先端が誘導目的のために制御可能に方向付けられるとともに位置決めされるように、内視鏡は操作可能であり得る。ステレオカメラまたは単眼カメラ等の画像取得装置が遠位先端に設けられるので、その視点からカメラにより捉えられた画像は外科医によりディスプレイ画面上で見られ得る。標的部位での様々な医療処置を行うために、切断、把持、焼灼等のために使用されるような手術道具が内視鏡の遠位先端から外に延びる。
【0004】
内視鏡は、腹腔鏡検査で使用されるもののようにリジッドであり得る、または体の内腔の湾曲に従うことが出来るように柔軟であり得る。内視鏡はまた剛性付与可能および/またはロボットであり得る。剛性付与可能な内視鏡は、機械的にロックする機構により実質的な剛性が作られ得る柔軟な本体の少なくとも1つの部分を有する内視鏡である。ロボット内視鏡は、コンピュータ制御されたサーボ機構の下で湾曲する少なくとも1つの部分を有する柔軟な内視鏡である。
【0005】
経管腔的内視鏡手術(NOTES)は患者の外科手術を行うために操作可能な内視鏡を使用し得る。例として、柔軟な内視鏡は、人体の開口の1つを通って誘導され得るとともに、外側からの低侵襲切開を通ってではなく、患者の内側から腹部に入り得る。例えば、“経胃的(transgastric)”手術では、器具が口を通過するとともに胃の中に入れられる。次に、器具が腹部に入り得るとともに腹腔内で医療処置を実行するために外科医により使用され得るように、胃切開が行われる。いったん手術が完了すると、器具が手術中に取り除かれた任意の組織と共に引っ込められ、次に侵入口は塞がれる。内視鏡の侵入に適応するために患者に外部切開が行われないので、NOTESは低侵襲切開を用いた手術よりさらに痛みが少なくなり得る。また、全身麻酔薬の要求の減少およびより早い回復期間をもたらし得る。
【0006】
内視鏡の操作中、内視鏡の先端は、標的部位に向かって進む間、または標的部位で医療処置を行う間、何度もそして異なる方向に曲げられる。したがって、内視鏡の遠位先端で捉えられた画像の方向が変化し得るとともに、捉えられた画像を見る際にオペレータは方向が分からなくなり得る。このような方向感覚を失った結果、オペレータが内視鏡の先端を間違った方向に誤って動かした場合、先端は意図せずに穴を開け得るまたは別の方法で組織を傷つけ患者に害を及ぼし得る。たとえ注意深く内視鏡先端を動かすことによりこのような害が避けられても、患者の標的部位に対する内視鏡先端の正確な方向を繰返し確かめるためにさらなる時間が必要になる。したがって、処置をするために必要な時間は長くなり、これは手術のコストを増加させるとともに健康安全上の懸念を増加させる。
【0007】
本明細書に援用する、Schara等による特許文献1(2006)は、内視鏡の回転を検出するとともに、ビデオディスプレイ装置に回転した画像を表示する前に検出した回転を補償するために内視鏡画像を適宜回転させることにより、重量参照型の、垂直方向の内視鏡画像を表示するための方法を開示する。
【0008】
このような画像回転技術の1つの問題は、道具が内視鏡の遠位端部から外に延びるときに、それらが目の前の作業のために捉えられた画像のオペレータの視点から正しく方向付けられていないかもしれないということである。また、画像を方向付けるために参照として重力を用いることは便利であり得るが、重力の方向を検出するための専用の付加的なハードウェアのコストおよび複雑さを除去することが望ましい。さらに、オペレータに異なる方向の参照を選択するための手段を提供することが時には有益になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許7,134,992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の1つまたは複数の態様の1つの目的は、ロボット内視鏡先端を患者の内部の標的部位に向かってまたは標的部位で動かす間にロボット内視鏡の遠位先端での所望のロール方向を自動的に保つ方法、およびその方法を実行するシステムである。
【0011】
本発明の1つまたは複数の態様の別の目的は、遠位先端のロール角センサの必要無しにロボット内視鏡の遠位先端での所望のロール方向を自動的に保つ方法、およびその方法を実行するシステムである。
【0012】
本発明の1つまたは複数の態様のさらに別の目的は、オペレータがロボット内視鏡の遠位先端で自動的に保たれることになる所望のロール方向を選択するための手段を提供する方法、およびその方法を実行するシステムである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらのおよびさらなる目的は本発明の様々な態様により達成され、簡潔に述べると、1つの態様は、ロボット内視鏡の遠位先端でのロール方向を保ちながら遠位先端のオペレータ指令動作を制御するコンピュータで実行される方法であって、方法は:オペレータ操作可能な入力制御装置から制御入力を受け取るステップと;ロボット内視鏡の遠位先端の現在の指令状態を制御入力から決定するステップであって、現在の指令状態は現在の指令ロール位置および速度を含む、ステップと;現在の指令ロール位置および速度を、遠位先端の前のプロセス周期の指令状態により示されたロール角度調整および遠位先端で保持されるべきロール方向を示す設定(setpoint)に従って、変更された現在の指令ロール位置および速度になるように強いることにより、現在の指令状態を変更するステップと;ロボット内視鏡の遠位先端に、変更された現在の指令状態に駆動されるように命じるステップ;とを有する。
【0014】
他の態様は医療用ロボットシステムであって:1つまたは複数の屈曲可能なセグメントおよび遠位先端を含む細長い本体を有するロボット内視鏡と;ロボット内視鏡を対応する動作の自由度で操作するための1つまたは複数の駆動可能なジョイントを有するマニピュレータと;オペレータが操作可能な入力制御装置と;オペレータが操作可能な入力制御装置から制御入力を受け取り、ロボット内視鏡の遠位先端の現在の指令状態を制御入力から決定し、現在の指令状態は現在の指令ロール位置および速度を含み、遠位先端の前のプロセス周期の指令状態により示されたロール角度調整および遠位先端で保持されるべきロール方向を示す設定に従って、現在の指令ロール位置および速度を変更された現在の指令ロール位置および速度になるように強いることにより、現在の指令状態を変更し、ロボット内視鏡の遠位先端に、変更された現在の指令状態に駆動されるように命じるように構成されたプロセッサと;を有する。
【0015】
本発明の様々な態様のさらなる目的、特徴および利点は、好適な実施形態の以下の説明から明らかになり、この説明は添付の図面と一緒に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムを示す。
【
図2】
図2は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムのロボット内視鏡の概要図を示す。
【
図3】
図3は、ロール方向補償無しで異なる方向に向けられるロボット内視鏡の遠位先端を示す。
【
図4】
図4は、本発明の態様によるロール方向補償を用いて異なる方向に向けられるロボット内視鏡の遠位先端を示す。
【
図5】
図5は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムに含まれる、設定のオペレータの選択およびロボット内視鏡の遠位先端の制御のための制御プロセッサの構成要素のブロック図を示す。
【
図6】
図6は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムのディスプレイに見られる、ロボット内視鏡の遠位先端のカメラにより捉えられた画像および現在のロール角およびロール設定インジケータの図形表示を示すディスプレイスクリーンを示す。
【
図7】
図7は、本発明の態様を利用する、ロボット内視鏡の遠位先端でのロール方向を保ちながら遠位先端のオペレータが指令した動作を制御するコンピュータで実行される方法のフロー図を示す。
【
図8】
図8は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムで使われる、固定基準座標系および固定基準座標系内で動くロボット内視鏡の遠位先端に関連付けられた基準座標系を示す。
【
図9】
図9は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムのロール角度調整を決定するコンピュータで実行される方法のフロー図を示す。
【
図10】
図10は、本発明の態様を利用する医療用ロボットシステムで使われる、ロール角度調整を決定することの図式の描写を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、例として、ロボット内視鏡110、ロボット内視鏡110内に挿入された複数の光ファイバーケーブル120、メモリ135を有する制御プロセッサ130、駆動システム140、画像処理プロセッサ150、ディスプレイ画面160、および入力制御装置171、172を含む医療用ロボットシステム100を示す。制御プロセッサ130および画像処理プロセッサ150(および本明細書に記載される他のプロセッサまたはコントローラ)は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアまたはこれらの組み合わせとしてそれぞれ実現され、これら1つまたは複数のコンピュータと相互に作用するまたは1つまたは複数のコンピュータで実現される。ディスプレイ画面160は好ましくは、システム100のオペレータに3次元画像を表示することができるようにコンピュータモニタに組み込まれた左右の目の画面を有する。しかし、コストの検討のために、ディスプレイ画面は2次元画像のみを表示することができる標準のコンピュータモニタであってもよい。1つのディスプレイ画面しか示されていないが、例えば、外科医がディスプレイ画面160を見ている間に助手が助手の近くに配置されたディスプレイ画面を見得るように、追加的なディスプレイ画面が設けられ得る。入力制御装置171は好ましくは、少なくとも6自由度(DOF)の動き(例えば、3つの並進および3つの方向(姿勢))を命じることが可能な6次元(6D)ジョイスティック(速度型または位置型)である。他方、入力制御装置172は、コンピュータマウスまたはキーボード等の従来のコンピュータ入力装置であり得る。
【0018】
ロボット内視鏡110は、好ましくは少なくとも2つの制御可能な屈曲可能なセグメントを持つ柔軟な細長い本体114を有する。ロボット内視鏡は、その遠位端111での操作可能な先端112をもたらす少なくとも1つの制御可能な屈曲可能なセグメントを持つ。ロボット内視鏡はまた、内視鏡110およびその制御可能な屈曲可能なセグメントの動作を駆動するために、その近位端115に接続された駆動システム140も有する。例えば点線のバージョンの曲げられた先端112によって示されるように、先端112が制御可能に曲げられ得るまたは回転され得るように、制御ケーブルまたは他の従来の制御手段(図示せず)が駆動システム140から操作可能な先端112の少なくとも1つの制御可能な屈曲可能なセグメントに延びる。他の制御可能な屈曲可能なセグメントが制御可能に曲げられ得るように、他の制御ケーブルまたは他の従来の制御手段(図示せず)もこの例では他の制御可能な屈曲可能なセグメントに延び得る。屈曲可能なセグメントだけでなく、何らかの方法で他の屈曲可能なセグメントとともに動くように強いられる受動的な屈曲可能なセグメントもまたロボット内視鏡に含まれ得る。
【0019】
図2を参照すると、駆動システム140は、内視鏡マニピュレータ231および1つまたは複数の屈曲アクチュエータ232を含む。内視鏡マニピュレータ231は、ロボット内視鏡110を2自由度で駆動する働きをする。一方の自由度は、ロボット内視鏡110の近位端115を前方および後方に動かす直進ジョイントで実現される(「I/O」で表示された点線の両方向矢印により示される)挿入/引き戻し動作である。他方の自由度は、ロボット内視鏡110をその挿入/引き戻し方向周りに回転させる回転ジョイントで実現される(「φ」で表示された点線の両方向矢印により示される)近位ロール回転である。屈曲アクチュエータ232は、屈曲アクチュエータがそれぞれの(α
1−α
3で表示された点線の両矢印の弧により示される)ピッチ回転および(β
1−β
3で表示された点線の両矢印の弧により示される)ヨー回転でそれぞれ屈曲可能であるように、ロボット内視鏡110の屈曲セグメント201−203を駆動する。屈曲可能なセグメントに加えて、内視鏡マニピュレータ231がリンク211をI/O方向またはロール回転(φ)で動かすときに、その時に本体114の残り(並びに、特に、全ての屈曲可能なセグメント201−203および屈曲可能なセグメント201−203に連結する連結リンク212−215)が第1リンク211と調和して動くように、ロボット内視鏡110の第1リンク211は、その近位端で内視鏡マニピュレータ231に連結されるとともにその遠位端で本体114の残りに連結される。
【0020】
光ファイバーケーブルを通過する光が、内視鏡110の遠位先端112の方向を含む内視鏡110の現在の位置および形状を決定するために、制御プロセッサ130(または別個の位置プロセッサ)により処理されるように、1つまたは複数の光ファイバーケーブル120(
図1に示す)が好ましくは、ファイバーブラッググレーティング(または、レイリー散乱等の他の歪センサ)等の屈曲または形状センサで構成される。内視鏡110を通って延びる光ファイバーケーブル120に加えて、歪センサで構成される1つまたは複数の追加的な光ファイバーケーブル(図示せず)が、取り付け点での内視鏡110の位置情報を提供するために、内視鏡110に取り付けられ得る。ファイバーブラッググレーティングを用いる内視鏡の位置および屈曲の決定の追加の詳細は、例えば“Robotic Surgery System Including Position Sensors Using Fiber Bragg Grating”と題する米国特許出願第2007/0156019A1、“Fiber Optic Position and/or Shape Sensing Based on Rayleigh Scatter”と題する米国特許出願第2008/0212082A1、“Robotic Surgical Instrument and Methods using Bragg Fiber Sensors”と題する米国特許出願第2008/0218770A1、および、“Fiber Optic Shape Sensor”と題する米国特許出願番号12/164,829に見ることができ、これらはそれぞれ本明細書に援用される。従来の操作可能な内視鏡の追加の詳細は、例えば“Steerable Endoscope and Improved Method of Insertion”と題する米国特許第6,869,396B2に見ることができ、これは本明細書に援用される。光ファイバーセンサは屈曲および形状検知に好適な手段であるが、例えば電磁センサ、ポテンショメータ等、他のセンサもまた本発明の実施において使用され得る。
【0021】
画像処理プロセッサ150に送信されるとともに処理され、内視鏡の従来の方法でディスプレイ画面160に表示される画像を捉えるために、ステレオカメラまたは単眼カメラが内視鏡110の遠位先端112に設けられる。光ファイバーケーブル120の1つは、遠位先端112での照明目的のために近位端で光源(図示せず)に連結され得る。遠位先端基準座標系200は、遠位先端112において遠位先端112から離れた方向を見るカメラのビューの深さ軸Z
TIP、水平軸X
TIPおよび垂直軸Y
TIPにより定義される。
【0022】
図3に単純化して示されるように、遠位先端112が1つの方向301または他の方向302に曲げられるとき、その水平方向300(X
TIP−Z
TIP平面により定義される)はその周囲に対して変化し得る。前に説明したように、周囲に対する水平方向のこのような変化は、遠位先端カメラにより捉えられるとともにディスプレイ画面160に表示される画像からの領域をオペレータが見るので、オペレータに方向を分からなくさせ得る。このような方向感覚の喪失を防ぐために、理想的には、
図4に示されるように、遠位先端112が任意の方向に曲げられたとき、その水平方向300が周囲に対して同じに保たれる。例えば、水平方向300は常に重力に直交することが望まれ得る。
【0023】
図5は、例として、オペレータが、ロボット内視鏡110の遠位先端112において捉えられたカメラビューの所望のロール方向を示す設定を選択または変化させること、および、システムが自動的に遠位先端112での所望のロール方向を保持しながら遠位先端112の移動を命じることを可能にする、制御プロセッサの構成要素のブロック図を示す。オペレータは、入力制御装置172等の適切な入力装置を使用して、設定を選択または変更するとともに入力制御装置171を使用してロボット内視鏡110の遠位先端112の動作を命じるために、設定プロセッサ132と情報をやりとりする。
【0024】
初期またはデフォルトの設定は、基準を生成するためにオペレータの介在によりまたはオペレータの介在無しに重力を用いて定められ得る。この場合、設定を示す基準ベクトルY
SPは、重力ベクトルから反対の方向を向くように規定され得る。設定はその後オペレータが設定プロセッサ132とやりとりすることにより変更され得る(またはデフォルトの設定が規定されていない場合最初に定められ得る)。例えば、オペレータは、入力制御装置171、172の1つの選択ボタンを押すことにより、またはこのような目的のために音声認識システム(図示せず)により認識される音声支持を使用することにより、またはその他の良く知られた対話型手段を使用することにより、先端112の現在のロール方向に対応するように設定を選択し得る。この場合、設定プロセッサ132は、このようなオペレータの選択入力時の先端のカメラビューのY
TIP軸と同じ方向を向くように、設定を示す基準ベクトルY
SPを規定する。先端の基準座標系(X
TIP、Y
TIP、Z
TIP)は、駆動ユニット140の検知されたジョイント位置138から順運動学プロセッサ136により生成された現在の先端位置および方向から従来の方法で決定される。
【0025】
別の例として、オペレータは、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)とやりとりすることにより設定を定め得る。
図6に示されるように、設定プロセッサ132は、グラフィック画像600が遠位先端カメラにより捉えられた画像350に隣接して表示されるディスプレイ画面160を含むGUIを含むように実現され得る。グラフィック画像600は、現在のロール角インジケータ601およびグラフィカルに回転可能なロール設定インジケータ602を含む。GUIは、入力制御装置172等の入力制御装置がグラフィック画像600の回転可能なロール設定インジケータ602と相互に作用することを可能にする。例えば、オペレータによる入力制御装置172の動きに反応して、ロール設定インジケータ602は、
図6に示すように、現在のロール角インジケータ601から、異なる角度に回転され得る。その一方、オペレータがロール設定インジケータ602を回転させるとき、入力ハンドラ131は、遠位先端ロール角度がロール設定インジケータ602により示された角度と一致するとき、選択可能なロール設定インジケータ602がディスプレイ画面160から消えるとともに現在のロール角インジケータ601が残るように、遠位先端ロール角度(φ
TIP)および現在のロール角インジケータ601に動きを追跡させる。
【0026】
図5に戻って参照すると、オペレータは、ロボット内視鏡110の遠位先端112の動きを、入力制御装置171を動かすことにより命じる。入力制御装置171が位置型装置である場合、その動きは6DOFの並進および方向(姿勢)の位置を決める。この場合、6DOFの並進および方向(姿勢)の速度は、連続するプロセス周期の間の対応する位置の変化をプロセス周期の継続時間で割ることにより、従来の方法で計算され得る。他方、入力制御装置171が速度型装置である場合、その動きは6DOFの並進および方向の速度を決める。この後者の場合、6DOFの並進および方向の位置はそれぞれ、対応する速度およびプロセス周期の継続時間の積を直前のプロセスのサイクルに関して計算された(または初期設定された)位置の値に加えることにより、従来の方法で計算され得る。いずれの場合も、追加的な速度または位置の計算は、記載を簡略化する目的のために、入力制御装置171の一部とみなされる、入力プロセッサにより実行される。
【0027】
入力ハンドラプロセッサ131は、固定デカルトX,Y,Z基準座標系(例えば、
図8の固定座標系)に対する遠位先端112の現在の指令状態を生成するために、入力制御装置171の出力を処理するとともに、遠位先端112の変更された現在の指令状態を生成するために、設定プロセッサ132により提供された設定の情報を使用して現在の指令状態を変更する。入力ハンドラプロセッサ131により実行される処理の詳細な説明は、本明細書に
図7−10を参照して説明される。変更された現在の指令状態は、遠位先端112のオペレータが指令した動きおよび遠位先端112でのロール方向を保持する(すなわち、設定に関連する基準ベクトルY
SPに対する遠位先端カメラビューのX
TIP−Z
TIP平面により規定される水平線の角度を保持する)ための要件の両方を考慮に入れる。
【0028】
逆運動学プロセッサ134は、入力ハンドラプロセッサ131から遠位先端112の指令状態を受け取り、それを内視鏡マニピュレータ231および屈曲アクチュエータ232を駆動するための対応するジョイント指令に変換する。変換は、内視鏡マニピュレータ231およびロボット内視鏡110から構成された組み合わされた直列の運動学的チューンの逆運動学に指令状態を従来の方法で適用することにより行われる。ジョイント制御プロセッサ135は、各ジョイントが内視鏡マニピュレータ231および屈曲アクチュエータ232により駆動されるとともに制御されるためのジョイント制御システムを含む。内視鏡マニピュレータ231の制御可能なジョイントおよびロボット内視鏡110の制御可能な屈曲可能なセグメントがロボット内視鏡110の遠位先端112の指令状態を生じさせるために適切な位置に駆動されるように、逆運動学プロセッサ134の出力は、駆動命令137を通じて駆動ユニット140の作動を制御するジョイント制御プロセッサ135に提供される。
【0029】
図7は、例として、設定に対応するロボット内視鏡110の遠位先端112でのロール方向を保ちながら遠位先端112のオペレータが指令した動作を制御する入力ハンドラプロセッサ131で実行される方法のフロー図を示す。701では、方法は入力制御装置171からオペレータ入力を受け取る。702では、方法は、オペレータ入力を、内視鏡110の遠位先端112の現在の指令状態に、従来の方法で、例えば、先端112の対応する6DOFの並進および方向(姿勢)の位置および速度の現在の指令状態を生成するために、入力制御装置171から受け取った6DOFの並進および方向(姿勢)の位置および速度を既知の変換に適用することにより、変換する。本明細書で使用される「現在の指令」の用語は、現在のプロセスのサイクルまたは周期(例えば、時間「t」)に対して出された指令を指し、本明細書で使用される「前のプロセスの指令」の用語は、前のプロセスのサイクルまたは周期(例えば、時間「t−1」)で出された指令を指す。
【0030】
703では、方法は、先端112の直前のプロセスの指令状態および設定の情報を使用してロール角度調整(Δφ
TIPA)を決定する。ロール角度調整は、設定により示されたロール方向に遠位先端112でのカメラにより捉えられたビューの水平X
TIP軸を保持するために必要な、Z
TIP軸周りのロール角の変化を表す。
図5を参照して前に説明したように、設定は、オペレータにより選択され得る、または、例えば、この場合ロール方向は好ましくは下方を向く重力ベクトルに直交する水平線である、前に援用された米国特許第7,134,992号に記載されたような、重力検知機構を使用して、自動的に定められ得る。
【0031】
703を実行する方法の例が
図9に示され、901では、設定を示すとともにその生成は
図5を参照して前に記載されている、基準ベクトルY
SPが設定プロセッサ132から受け取られる。遠位先端112が様々な方向に動くとともに方向を合わせるにつれて、
図2を参照して定義されるように直交軸X
TIP、Z
TIPおよびY
TIPを有する遠位先端基準座標系200はそれに応じて動く。例えば
図8に示されるように、基準ベクトルY
SPは、先端112が前に固定座標系800内に200‘として示された先端基準座標系の位置および方向にあったときにオペレータにより定められるように示される。続いて起こる先端112の動きは、固定座標系800内の先端基準座標系200により示されるように、先端基準座標系の位置および方向の動きをもたらす。902では、基準ベクトルY
SPは、次に、
図10に示されるように、先端基準座標系のY
TIP軸およびZ
TIP軸を含む平面上に投影される。先端基準座標系200はこの場合、先端112の前のプロセスのサイクルの指令状態(例えば、
図5に示されるように直前のプロセスの周期)から提供され得る、または先端112の検知された状態を示す順運動学プロセッサ136から受け取った情報から提供され得る。903では、次に、ロール角度調整(Δφ
TIPA)が、
図10にも示されるように、基準ベクトルY
SPとそのY
TIP−Z
TIP平面上の投影Y‘
SPとの間の角度として決定される。
【0032】
704では、703で決定されたロール角度調整が閾値より小さいかどうかの決定が行われる。ロール角度調整が閾値より小さい(すなわち、ロール角度調整が比較的小さい)場合、次に方法は705に進み、そうでなければ707に進む。閾値は、例えば5度または、オペレータが感知できないまたは少なくともオペレータ方向をわからなくさせないディスプレイ表示160の捉えられた画像350に見られるような先端カメラビューのロール方向の変化をもたらす他の角度等、ある固定値に設定され得る。オペレータの好みを満足するために、
図6に示されるGUIもまた、オペレータが閾値を定めるおよび/または調整することを可能にする幾つかの手段を加えることにより、変更され得る。
【0033】
705では、ロール角度調整が閾値より小さいことが決定されているので、次に方法は現在の指令ロール速度(φ’
TIPC(φ
TIPCの時間微分))を0に変更し、706では、必要に応じて、現在の指令ロール位置、すなわちφ
TIPC(t)を、直前のプロセスのサイクルの現在の指令ロール位置、すなわちφ
TIPC(t−1)に変更するので、遠位先端112での現在のロール方向は保持される。
【0034】
他方、707では、ロール角度調整が閾値以上であることが決定されたとき、次に方法は、現在の指令ロール速度(φ’
TIPC)を、本発明の選択された実施形態に応じて、ロール角度調整の関数であるまたは一定値である値に変更し、708では、例えば、以下の式(1)を使用して、現在の指令ロール位置、すなわちφ
TIPC(t)を、変更された現在の指令ロール速度(φ’
TIPC)と整合するように変更する。
【0035】
【数1】
ここで、「φ’
TIPC」は修正された現在の指令ロール速度であり、「ΔT」はプロセスのサイクルまたは周期の経過時間であり、「φ
TIPC(t−1)」は(
図5の記憶要素またはメモリ133に前に記憶され、現在そこから読み込まれた)直前のプロセスの周期の指令ロール位置である。
【0036】
707で使用された関数または定数のいずれかまたは両方は、オペレータを驚かせ得る大きいおよび/または不意の変化を避けるために、場合により、全指令先端速度の大きさに比例して調整され得る。このような関数の1つの例では、関数は、ロール角度調整が(ある最大値を持って)大きくなるにつれて現在の指令ロール速度(φ’
TIPC)が大きくなるように、構成され得る。現在の指令ロール速度(φ’
TIPC)が定数に設定される場合、現在の指令ロール速度の大きさのこのような制限は、現在の指令ロール位置に到達するための所要時間を延ばし得るが、大きく、潜在的に危険な先端速度指令が生じることを防ぐ。
【0037】
709では、方法は、704の結果に応じて、変更された現在の指令ロール速度が705または707で決定された値に等しくなるように強いられとともに、変更された現在の指令ロール位置が706または708で決定された値に等しくなるように強いられるこの場合を除いて、オペレータ入力を内視鏡先端112の変更された現在の指令状態に702のような従来の方法で変換する。あるいは、内視鏡先端112の変更された現在の指令状態は、単に現在の指令状態の現在の指令ロール位置を変更された現在の指令ロール位置に置き換えるとともに現在の指令状態の現在の指令ロール速度を変更された現在の指令ロール位置に置き換えることにより、単純に形成され得る。710では、次に、遠位先端112の変更された指令状態が、
図5を参照して前に記載されたように、逆運動学プロセッサ134に提供される。
【0038】
本発明の様々な態様が1つまたは複数の好適な実施形態を参照して説明されているが、本発明は添付の特許請求の範囲の全範囲内の完全な保護を受ける権利があることが理解されるであろう。