(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記硬化肉盛部および前記軟鋼部は、硬化肉盛層および軟鋼層よりなる2層プレートを構成し、硬化肉盛層と軟鋼層との境界面は、該2層プレートのプレート面と平行となるように設けられ、前記2層プレートは、硬化肉盛層側のプレート面が前記衝撃荷重受け面となる向きに設けられ、
前記2層プレートは、矩形状であり、前記鋳造本体部に対して、前記軟鋼層を介して、該上面および該対向側面それぞれと面一となるように溶接固定される、請求項1に記載のハンマーヘッド。
前記鋳造本体部は、前記2層プレートに対する突合せ面を有し、該突合せ面を挟んで該突合せ面の各側に、前記2層プレートを前記鋳造本体部に対して溶接固定するための凹状溶接部が設けられる、請求項2に記載のハンマーヘッド。
前記凹状溶接部それぞれの幅は、前記鋳造本体部の前記対向側面の幅の10分の1ないし5分の1であり、前記凹状溶接部それぞれの深さは、前記2層プレートの高さの2分の1以上である、請求項3に記載のハンマーヘッド。
前記本体部の反撥固定刃側の上面は、矩形状であり、前記上面の外周縁により区画される矩形状溝が設けられ、該矩形状溝には、追加硬化肉盛部が前記上面とほぼ面一となるように設けられる、請求項1に記載のハンマーヘッド。
【背景技術】
【0002】
従来から、コークス用の石炭、廃棄プラスチック、廃材や廃棄物、コンクリート塊等を対象として、破砕または粉砕する破砕機または粉砕機が用いられている。
たとえば、特許文献1および特許文献2は、コークス用の石炭を破砕する破砕機を開示する。
【0003】
この破砕機は、破砕または粉砕対象物を内部に投入する投入口を有し、内部に破砕または粉砕スペースを形成するケーシングと、ケーシング内に設けられ、回転可能なロータと、ロータの外周部に一端が固定されるハンマーアームと、ハンマーアームの他端部に固定されるハンマーヘッドとを有するハンマーと、ハンマーヘッドの回転軌跡に対して、所定間隔を確保可能なようにハンマーに対して相対移動可能に設けられた反撥固定刃と、ハンマーを回転させる回転駆動手段とを有し、ハンマーヘッドと反撥固定刃とが協働して破砕または粉砕を行うようにしている。
特に、ハンマーヘッド100は、
図10に示すように、ハンマーヘッド本体106の破砕側先端の短辺平面102の全面と、これに続く長辺側面104の一部とに2mm〜10mmの深さの減肉部を形成し、この減肉部に、逆U字態様で、硬化肉盛溶接101を施して減肉部を消滅させている。
【0004】
このような構成のハンマーヘッド100によれば、ハンマーヘッド本体106の破砕側先端の短辺平面102の全面と、これに続く長辺側面104の一部とに2mm〜10mmの深さの減肉部を形成し、この減肉部に硬化肉盛溶接101を施して減肉部を消滅させたものであるから、衝撃を受ける部分全体を2mm〜10mmという十分な厚みの硬化肉盛溶接によって覆うことができる。しかも硬化肉盛溶接は減肉部に形成されているため、硬化肉盛溶接の端部が突出することもなく、衝撃によって剥離することもない。このため長期間にわたり優れた破砕能力を維持することができる。
しかしながら、従来のこのようなハンマーヘッドおよびこのようなハンマーヘッドを有する破砕機には、以下のような技術的課題が存する。
【0005】
第1に、ハンマーヘッド100に関し、ハンマーヘッド100において衝撃受け面を構成する硬化肉盛部101は、粉砕または破砕に伴い摩耗するところ、硬化肉盛部を設けない場合に比べて耐摩耗性を向上させることが可能であるものの、この摩耗特性を調整することが困難である。
より詳細には、
図11に示すように、衝撃を受ける硬化肉盛部101は、硬化肉盛部101の幅方向(
図11(A))および硬化肉盛部101の高さ方向(
図11(B))それぞれアールを生じる態様(摩耗の進行を線で示す)で摩耗する。換言すれば、硬化肉盛部101の衝撃受け面は、端面との間に第1エッジ103、対向側面それぞれとの間に第2エッジ105および第3エッジ107が、エッジが立った態様で構成されるところ、第1エッジ103、第2エッジ105および第3エッジ107それぞれを構成する構成面同士が同材質の硬化肉盛部101により構成されることになることから、これらの第1エッジ103、第2エッジ105および第3エッジ107がいずれも、角部が丸められる態様で摩耗する。
このような摩耗形態が生じると、ハンマーヘッドを交換せざるを得ず、交換作業のために粉砕または破砕の効率性が損なわれる。
【0006】
第2に、このようなハンマーヘッド100を有する破砕機に関し、上述のハンマーヘッド100の摩耗特性の調整困難性に起因して、粉砕または破砕対象物の粒度管理が困難となる点である。
より詳細には、反撥固定刃は、ハンマーヘッドの回転軌跡に対して、所定間隔を確保可能なようにハンマーに対して相対移動可能に設けられており、ハンマーヘッドの摩耗進行とともに、反撥固定刃をハンマーヘッドに対して近づけるように相対移動させることにより、反撥固定刃とハンマーヘッドの先端との間隔は調整可能である。
しかしながら、
図11に示すような態様でハンマーヘッドが摩耗した場合、反撥固定刃とハンマーヘッドの先端との間隔を調整するとしても、破砕対象物の粒度を一定に管理することは技術的に困難であり、粒度にばらつきを生じ、破砕物の品質劣化を引き起こす。
特に、製鉄に用いられるコークス用の石炭は、その粒度管理が厳しく、破砕対象物の粒度を一定に管理するためには、上述の態様のハンマーヘッドの摩耗が生じた場合、ハンマーヘッドを交換せざるを得ない。
より具体的には、粒度調整は、従来、ローターの回転数の調整および/またはハンマーヘッドと反撥固定刃との間隔の調整により行われてきたところ、前者は、ハンマーヘッドの衝撃荷重受け面による打撃による粒度調整であり、粗調整であり、後者は、それに比して、微調整であり、粒度管理の厳格に伴い、後者による調整に重点が置かれるようになってきた。
この場合、ローターの回転数の調整による粒度調整に比べ、ハンマーヘッドと反撥固定刃との間隔の調整による粒度調整の場合には、ハンマーヘッドの破砕側先端の短辺平面102および回転方向進み側の第1エッジ部103がより苛酷な摩耗条件に晒される。
この点において、この摩耗特性を調整することが可能なハンマーヘッド、およびこのようなハンマーヘッドにより、粉砕または破砕対象物の粒度管理が可能な破砕機の実現が業界内で要望されている。
【0007】
第3に、耐摩耗性に優れたハンマーヘッドを効率的に製造するのが困難な点である。
より詳細には、通常鋳造品で構成されるハンマーヘッド本体に対して、硬化肉盛溶接は手作業により行われるため、ハンマーヘッドを効率的に製造することが困難であり、また仕上がりの硬化肉盛部、特に衝撃荷重受け面は、凹凸状となり平坦でなく、第1エッジなし第3エッジはいずれも、鋭く立った状態に形成されておらず、ハンマーヘッドの耐摩耗性を低下させる。
【0008】
この点、本発明者は、特許文献3に示すように、作業性がよくかつ比較的低コストのハンマーヘッドである衝撃刃本体を提案している。
より詳細には、この衝撃刃は衝撃刃本体と、この衝撃刃本体の先端部に埋設される超硬チップとから構成されており、合金鋼及び軟鋼等の耐衝撃性材料からなる衝撃刃本体は、超硬チップがろう付け等によって埋設される先端部と、回転ドラムの刃受け台にボルト(図示せず)を介して取り付けるためのボルト孔を有する基端部とからなり、これら先端部と基端部とは、はめ合い結合によって相互に結合固定されている。超硬チップは衝撃刃本体より耐摩耗性が優れている材料、例えば超硬質合金、セラミック等からなり、半径方向外方へ向かって回転ドラムの回転方向に傾斜するように先端部にろう付け加工によって埋め込まれており、超硬チップの先端鋭角部は、先端部の前面と頂面との境界線において露出している。
【0009】
この衝撃刃本体によれば、衝撃刃本体を先端部と基端部とに分離構成することによって、先端部への超硬チップのろう付け加工を比較的軽量小型で取り扱い容易な状態で行ない、その後基端部と結合して衝撃刃本体を構成することができるので、一体の衝撃刃本体に比して、作業性がよくかつ比較的低コストを達成しうるものである。
しかしながら、先端部には、超硬チップをろう付け等により手作業で埋設しなければならず、衝撃刃本体の効率的な製造が困難であるとともに、半径方向外方へ向かって回転ドラムの回転方向に傾斜するように先端部に超硬チップを埋設することにより、超硬チップを埋設しない場合に比べて、衝撃刃本体の先端エッジの耐摩耗性を向上することは可能であるが、摩耗態様は、衝撃荷重受け面と衝撃刃本体の回転ドラムからの遠位側端面との間の第1エッジ全体に亘って超硬チップを設けない限り、第1の技術的問題点で述べたのと同様に、アールを発生するように摩耗する問題を引き起こす。
また、第1エッジに加えて、衝撃荷重受け面と衝撃刃本体の対向側面それぞれとの間の第2エッジおよび第3エッジについて、同様に鋳造本体部にろう付けで設けるのは困難である。特に、超硬チップは、タングステン成分を多く含有するため、耐摩耗性に優れる反面、耐衝撃性に劣り、さらに溶接性が悪く、母材を溶かすことのないろう付けによる固定によらざるを得ないことから、耐衝撃性が悪く、超硬チップの脱落、破損を生じる可能性が高まる。この点、超硬チップの先端鋭角部のみが、先端部の前面と頂面との境界線において露出するように、半径方向外方へ向かって回転ドラムの回転方向に傾斜するように衝撃刃本体に埋め込む必要があり、超硬チップをろう付けにより設けるのが余計に困難となる。
【特許文献1】特開2004−277709号
【特許文献2】特開2007−283243号
【特許文献3】実用新案登録第3028695号
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
破砕対象としてコークス用の石炭を例として、本発明に係るハンマーヘッド、ハンマーヘッドを有する破砕機、ハンマーヘッド製造方法それぞれの実施形態を図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
図1は、破砕機10の概念的な断面図であり、破砕機10は、内部に破砕または粉砕スペースを形成するケーシング12と、ケーシング内に設けられ、回転可能なロータ18と、ロータ18の外周部に一端が固定されるハンマーアーム20と、ハンマーアーム20の他端部に固定されるハンマーヘッド24とを有するハンマーと、ハンマーヘッド24の回転軌跡に対して、所定間隔を確保可能なようにハンマーに対して相対移動可能に設けられた反撥固定刃27と、ハンマーを回転させる回転駆動手段とを有し、ハンマーヘッド24と反撥固定刃27とが協働して破砕または粉砕を行うようにしている。
箱型のケーシング12には、その上部に、石炭を内部に投入するための投入口14、その下部には、破砕した石炭を排出するための排出口16が設けられている。ケーシング12の内部において、その中央には、水平軸を中心として回転するローター18が設けられており、モータ(図示せず)によって回転される。ローター18の回転速度及び回転方向は、石炭の種類に応じて可変となっている。
【0022】
ロータ18の外周には、多数のハンマーアーム20がアームピン22により枢着されており、各ハンマーアーム20の先端にはハンマーヘッド24が取り付けられている。より詳細には、多数のハンマーアーム20が、ロータ18の外周面に、互いに等角度間隔で設けられており、設置するハンマーアーム20、すなわちハンマーの数は、破砕機10に要求される処理の能力、モーターの回転数等に応じて、決定すればよい。
図1に示すように、ロータ18が回転することにより、ハンマーアーム20は遠心力により回転するが、ハンマーヘッド24の回転軌跡に近接させて、ロータ18の両側には、凹円弧状の断面を持つ
磨砕板26が、上下のシリンダ28によって進退可能(図面上左右方向)に設けられている。
なお、このような多数のハンマーアーム20の組が、ロータ18の長手方向に互いに適宜の間隔を隔てて、複数組設けられる。
【0023】
より具体的には、磨砕板26は、
ロータ18に設けたハンマー4 の両側方に取囲む様に位置し、矢印方向に移動可能に設け、内部(ロータ18と対向する面)を凹ませて曲成されて、反撥固定刃27が複数形成され、ケーシング12に基部を固着したうえで、磨砕板26には、シリンダーロッドのヘッドを設けたシリンダ28が連結し、シリンダ28により、ハンマーヘッド24と磨砕板26の間隙を調整するようにしてある。
より詳細には、反撥固定刃27は、ロータ18を挟んで、ロータ18の各側に配置され、それぞれの反撥固定刃27は、ロータ18の外周部に沿って同心円状に、所定長さの円弧状をなす。
磨砕板26、すなわち反撥固定刃27の円弧の長さは、粉砕あるいは破砕対象物の種類、目標粒度、ロータ18の回転数、ハンマー4の設置数等に応じて適宜決定すればよい。
以上より、石炭投入口14からケーシング12内に投入された石炭は、回転するハンマーヘッド24による衝撃と磨砕板26の表面における磨砕とによって粉砕され、コークス用原料炭となって排出口16から排出されるようにしている。
【0024】
次に、ハンマーヘッド24について説明すれば、
図2および
図3に示すように、ハンマーヘッド24は、一端がロータ18の外周部に固定されるハンマーアーム20の他端に固定され、ロータ18から反撥固定刃27に向かって所定長さに亘って延びる本体部32を有する。
本体部32は、端部13の回転方向進み側に、衝撃荷重受け面34を構成する硬化肉盛部36と、硬化肉盛部36の内側に設けられた硬化肉盛部36より軟質の軟鋼部38とを有する。
ここに、硬化肉盛り部とは、アーク溶接部を意味し、硬化肉盛とは、アーク溶接により、耐摩耗性向上を目的として硬い金属層を母材表面に溶着させることをいう。硬化肉盛り部の材質としては、耐摩耗性および耐衝撃性に優れる観点から、パーライト系、マルテンサイト系、13%クロムステンレス鋼系、セミ・オーステナイト系、および高マンガン・オーステナイト系が好ましい。
本体部32は同様に、端部13の回転方向遅れ側に、衝撃荷重受け面34を構成する硬化肉盛部36と、硬化肉盛部36の内側に設けられた硬化肉盛部36より軟質の軟鋼部38とをさらに有し、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛部36の摩耗度合に応じて、回転方向遅れ側の衝撃荷重受け面34が回転方向進み側となるように本体部32の配置向きを変えるようにしている。
【0025】
硬化肉盛部36は、衝撃荷重受け面34と、衝撃荷重受け面34と交差する端面40とにより第1エッジ42を形成するとともに、衝撃荷重受け面34と、衝撃荷重受け面34と交差する対向側面44とにより、それぞれ第2エッジ46および第3エッジ48をさらに形成する。衝撃荷重受け面34と端面40、および衝撃荷重受け面34と対向側面44とはそれぞれ、互いに直交しており、それにより、第1エッジ42、および第2エッジ46および第3エッジ48は、鋭く立った状態で形成されている。
軟鋼部38は、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛部36の第1エッジ42の摩耗に追従して摩耗するように、端面40に隣接して端面40と面一の軟鋼部端面41を有するとともに、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛部36の第2エッジ46および第3エッジ48の摩耗に追従して摩耗するように、対向側面44それぞれに隣接して対向側面44と面一の軟鋼部対向側面47を有する。
軟鋼部38の材質としては、溶接のしやすさ、および硬化肉盛部36に比べて軟質であればよく、炭素含有率0.13%ないし0.20%の軟鋼が好ましいが、それより炭素含有率の低い特別極軟鋼、極軟鋼、あるいはそれより炭素含有率の高い半軟鋼のいずれでもよく、破砕対象との関係で定まる軟鋼部の耐摩耗性を考慮して、適宜選択すればよい。
【0026】
図4および
図5に示すように、本体部32は、鋳造本体部32からなり、硬化肉盛部36および軟鋼部38は、硬化肉盛層および軟鋼層よりなる2層プレート50を構成する。2層プレート50は、後に説明するように、鋳造本体部32に対して、軟鋼部38を介して溶接固定される。
鋳造本体部32は、たとえば、Cr―Mn低合金鋳鋼製であり、互いに対向する一対の対向側面66、それぞれ衝撃荷重受け面34が設けられる、互いに対向する一対の対向正面62および上面64を有し、ロータ側には、ハンマーアーム20の先端が内嵌し、ピン穴53が設けられた中空部があり、磨砕板側、すなわち、先端部は、断面亀の子状の中実部67であり、中空部と一体である。なお、89は、重量調整用の突起部である。
中実部67は、2層プレート50に対する帯状の突合せ面52を有し、突合せ面52の各側に、突合せ面52を挟む形態で、2層プレート50を鋳造本体部32に対して溶接固定するための凹状溶接部54が設けられる。
【0027】
図4および
図5に示すように、鋳造本体部32の反撥固定刃27側の上面64には、端部13の回転方向遅れ側に設けられる軟鋼部端面41Aと端部13の回転方向進み側に設けられる軟鋼部端面41Bとの間に溝200が設けられ、溝200には、追加硬化肉盛部201が上面64とほぼ面一となるように設けられる。
より具体的には、鋳造本体部32の反撥固定刃27側の上面64は、矩形状であり、上面64の外周縁により区画される矩形状溝200が設けられ、
図8に示すように、矩形状溝200には、追加硬化肉盛部201が上面64とほぼ面一となるように設けられる。
摩耗性向上の観点から、上面64において、鋳造本体部32の部分が露出しないように、矩形状溝200は、上面64の全体に亘って設けられるのが好ましい。
図9に示すように、変形例として、矩形状溝200は、鋳造本体部32の壁により複数に区画されてもよい。
図9(A)に示すように、互いに直交に交差する、鋳造本体部32の壁203により2区画としてもよいし、
図9(B)に示すように、鋳造本体部32の壁203および壁204により4区画としてもよい。
いずれにせよ、矩形状溝200の深さは、耐摩耗性の観点から、追加硬化肉盛部201の量に応じて決定すればよく、矩形状溝200AないしDの間で、溝の深さを異ならせてもよい。
【0028】
以上の構成によれば、第1エッジ42が立った状態で硬化肉盛り部36の摩耗を確保することが可能であるとともに、上面64を追加硬化肉盛り部201により保護することにより、破砕あるいは粉砕対象物がハンマーヘッド24の先端部、すなわち鋳造本体部32の反撥固定刃27側の上面64と反撥固定刃27との間に位置して破砕あるいは粉砕されることに伴う上面64の耐摩耗性を向上することが可能である。
これは、特に、粒度管理について、摩破板26の移動による鋳造本体部32の反撥固定刃27側の上面64と反撥固定刃27との間隔調整による微調整により行う場合には、上面64および回転方向進み側の第1エッジ42が苛酷な摩耗条件に晒されることから、技術的に有利である。
【0029】
突合せ面52は、鋳造本体部32の中心軸線X−X上に設けられ、凹状溶接部54は、中心軸線に関して対称に設けられる。凹状溶接部54はそれぞれ、2層プレート50を突合せ面52に対して突き合せることにより、軟鋼層側のプレート面と鋳造本体部32の傾斜面68により構成され、突合せ面52の縁から鋳造本体部32の対向側面66に向かって広がり、対向側面66に抜けるように設けられる。
凹状溶接部54それぞれの幅D2は、鋳造本体部32の幅D1の10分の1ないし5分の1が好ましく、凹状溶接部54それぞれの深さW2は、2層プレート50の高さhの2分の1以上であるのが好ましい。10分の1以下であれば、突合せ面52の幅が拡がり、その分、溶接の際、2層プレート50の鋳造本体部32に対する位置決めが容易となるが、溶接の領域が狭まり、2層プレート50の鋳造本体部32に対する固定性が劣化し、逆に、5分の1以上であれば、溶接の領域が広がり、2層プレート50の鋳造本体部32に対する固定性が良好であるが、逆に、突合せ面52の幅が狭まり、その分、溶接の際、2層プレート50の鋳造本体部32に対する位置決めが困難となり、また2分の1以下であれば、2層プレート50の鋳造本体部32に対する固定性が劣化する。この点、後に説明するように、2層プレート50の下端部を鋳造本体部32の正面62に対して外部から溶接することにより、凹状溶接部54それぞれの深さW2を2層プレート50の高さhの2分の1程度としてもよい。
【0030】
次に、2層プレート50について説明すれば、
図6および
図7に示すように、硬化肉盛層36と軟鋼層38との境界面は、2層プレート50のプレート面と平行となるように設けられ、2層プレート50は、鋳造本体部32に溶接固定する際、硬化肉盛層36側のプレート面が衝撃荷重受け面34となる向きに設けられる。2層プレート50の大きさ、特に高さhは、破砕対象物である石炭の破砕量、ロータの回転数等により影響を受ける衝撃荷重の大きさに応じて決定すればよく、破砕または粉砕の際に生じる衝撃荷重に対する耐衝撃性を確保可能なように、2層プレート50が鋳造本体部32に対して溶接固定する必要があり、この観点から、凹状溶接部54の大きさを決定する必要がある。
2層プレート50の厚みが一定の場合、硬化肉盛層36の厚みが厚いほど、軟鋼層38の厚みがその分薄くなることから、耐摩耗性は向上するものの、いったん摩耗が進行すると、軟鋼層38の摩耗が硬化肉盛層36の摩耗に追従する度合いが下がり、エッジの立った状態での摩耗が発生しにくくなるとともに、母材である軟鋼層38に対して硬化肉盛36を溶接により設ける際、母材に対する熱影響により、母材に対して熱ひずみ等が生じやくなる。
それに対して、軟鋼層38の厚みが厚いほど、硬化肉盛層36の厚みがその分薄くなることから、耐摩耗性は低下するものの、いったん摩耗が進行すると、軟鋼層38の摩耗が硬化肉盛層36の摩耗に追従する度合いが上がり、エッジの立った状態での摩耗が発生しやすくなるとともに、母材である軟鋼層38に対して硬化肉盛36を溶接により設ける際、母材に対する熱影響により、母材に対して熱ひずみ等が生じにくくなる。
以上の観点から、硬化肉盛層36および軟鋼層38それぞれの厚みを決定すればよく、特に硬化肉盛層36の厚みは、軟鋼層38の厚み以下であるのが好ましい。
【0031】
2層プレートは、たとえば、(株)ハードフェースウェルドカンパニーの製品名 ALCOPLATE として入手可能であり、炭素鋼板(SS400相当)の上に所定の溶接材料で表面をノンガス溶接法により硬化肉盛りした平板板のプレートをたとえばプラズマ切断機により矩形状に切断したものであり、溶接時の冷却速度が大であることからその耐摩耗性に優れる。
硬化肉盛部の成分は、30%Cr+5ないし6%Cの鋳鉄であり、下記の試験条件のいわゆるラバーホイール試験による耐摩耗性は、以下のようである。
試験荷重:8.8キログラム
試験時間:25分
回転速度:120RPM
ラバーホイール円盤寸法:厚さ 15ミリ、外形 250ミリ
粉体:珪砂6号
粉体落下量:300グラム/分
摩耗減量について、軟鋼材(SS400)が1.5911、ALCOPLATEが0.1117であることから、耐摩耗比(軟鋼材を1とする)としては、
ALCOPLATEは、14.2である。また、ALCOPLATEの硬度について、ロックウェル硬さは、60ないし65、ショア―硬さは、80ないし91、ビッカース硬さは、690ないし830である。
【0032】
鋳造本体部32の対向正面62同士の幅は、反撥固定刃27に向かって太くなるようにテーパ付けられており、硬化肉盛層36の衝撃荷重受け面34は、鋳造本体部32の対応する正面62に対して10mm以下の範囲で外側に突出するのがよい。また、硬化肉盛層36の衝撃荷重受け面34の下端部は、鋳造本体部32に対して外側から溶接固定されるのでもよい。
【0033】
次に、以上の構成を有するハンマーヘッド24の製造方法について、以下に説明する。
まず、硬化肉盛層36および軟鋼層38からなる2層プレート50を準備するとともに、2層プレート50に対する突合せ面52および2層プレート50との凹状溶接部54を設けるとともに、上面64に矩形状溝200を設けた鋳造本体部32を準備する。
この場合、2層プレート50の準備段階は、所定厚さの軟鋼プレートを準備する段階と、軟鋼プレートの一方の平面部全体に亘って、所定厚さの硬化肉盛りを行う段階と、硬化肉盛りの行われた軟鋼プレートを所定の矩形形状に切り出し、硬化肉盛層の縁部をエッジが立った状態に仕上げる段階とを、有する。
切り出しは、2層プレート50の周側面において、硬化肉盛層36の周側面と軟鋼層38の周側面とが隣接しかつ面一となるように、たとえばプラズマ切断により行えば、従来のような衝撃荷重受け面のエッジが鈍い状態での仕上がりに比べ、エッジが鋭く立った状態で仕上げることが可能である。
次いで、2層プレート50を鋳造本体部32の突合せ面52に対して軟鋼層側を突き合せて、軟鋼層38を介して溶接固定し、それにより、2層プレート50の硬化肉盛層36を衝撃荷重受け面34として形成する。
より詳細には、斜め開先面である傾斜面68および傾斜面63を利用して、ワイヤを利用したトーチを凹状溶接部54内部および2層プレート50の下面と傾斜面63との間それぞれに差し込んで、アーク溶接により溶接を行う。
このように、2層プレート50を鋳造本体部32に溶接する際、軟鋼層側を突き合せて軟鋼層38を介して溶接することにより、容易に溶接することが可能であり、破砕または粉砕に伴う衝撃荷重による硬化肉盛部36の摩耗に追従して摩耗していくという軟鋼部38を溶接のしやすさにも有効利用している。
これにより、2層プレート50それぞれについて、軟鋼層側のプレート内面と下面とにおいて鋳造本体部32に対して溶接固定することから、破砕の際の衝撃荷重により、2層プレート50が鋳造本体部32から脱落することなく、強固に固定することが可能である。
次いで、上面64に設けた矩形状溝200に対して、追加硬化肉盛りを行って、肉盛り部が上面64と面一となるようにして、ハンマーヘッド24が完成する。
【0034】
以上のハンマーヘッド24の製造方法によれば、硬化肉盛層36および硬化肉盛層36より軟質の軟鋼層38からなる2層プレート50の軟鋼層側のプレート面を鋳造本体部32の突合せ面54に突合せて位置決めした状態で、凹状溶接部54を利用して軟鋼層38を介して2層プレート50を鋳造本体部32に対して溶接固定することにより、2層プレート50の鋳造本体部32に対する位置決めを迅速に行いつつ、溶接が容易な軟鋼層38を利用することにより、ハンマーヘッド24を容易かつ効率的に製造が可能であるとともに、2層プレート50の硬化肉盛層36を衝撃荷重受け面34として形成しつつ、2層プレート50の周側面において、硬化肉盛層36の周側面と軟鋼層38の周側面とが隣接しかつ面一となるようにすることにより、衝撃荷重受け面34と交差する端面40および対向側面44とにより構成される第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48が時間経過とともに摩耗していくところ、軟鋼層38が、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛層36の第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48の摩耗に追従して摩耗するようにすることが可能であり、それにより耐摩耗性を向上可能なハンマーヘッド24を製造することが可能である。
【0035】
以上の構成を有するハンマーヘッド24は、
図8(摩耗の進行を線で示す)に示すように、硬化肉盛部36より軟質の軟鋼部38を硬化肉盛部36のエッジ部の内側に設けた場合、軟鋼部38が、破砕または粉砕に伴う衝撃荷重による硬化肉盛部36の摩耗に追従して摩耗していくという性質を利用して、ハンマーヘッド24の摩耗特性を調整可能とするものである。
【0036】
すなわち、以上の構成を有するハンマーヘッド24によれば、ロータ18を回転させることによりハンマーヘッド24を回転させて、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕を行う際、回転方向進み側の衝撃荷重受け面34、特に衝撃荷重受け面34と交差する端面40および対向側面44とにより構成される第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48が時間経過とともに摩耗していくところ、硬化肉盛部36の内側に設けられた硬化肉盛部36より軟質の軟鋼部38を、端面40に隣接して端面40と面一の軟鋼部端面、および対向側面44それぞれに隣接して対向側面44と面一の軟鋼部対向側面それぞれを形成するように設けることにより、軟鋼部38が、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛部36の第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48の摩耗に追従して摩耗するようにすることが可能であり、それにより、従来のように、第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48それぞれにアールが生じる態様で摩耗することなく、第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48それぞれを鋭く立った状態で摩耗させていくことが可能である。
さらに、反撥固定刃27は、ロータ18を挟んで、ロータ18の各側に配置され、それぞれの反撥固定刃27は、ロータ18の外周部に沿って同心円状に、所定長さの円弧状をなすことから、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕を行う際、衝撃荷重受け面34による破砕あるいは粉砕対象物の打撃のみならず、破砕あるいは粉砕対象物がハンマーヘッド24の先端部、すなわち本体部の反撥固定刃27側の上面64と反撥固定刃27との間に位置して破砕あるいは粉砕される割合も高いことから、本体部の反撥固定刃27側の上面64には、軟鋼部端面41より回転方向遅れ側に、溝200を設け、溝200には、追加硬化肉盛部201を上面64とほぼ面一となるように設けることにより、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕することによって、本体部の反撥固定刃27側の上面64の耐摩耗性を向上させることが可能である。
【0037】
以上の構成を有する破砕機によれば、ロータを回転させることによりハンマーヘッド24を回転させて、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕を行う際、回転方向進み側の衝撃荷重受け面34、特に衝撃荷重受け面34と交差する端面40および対向側面44とにより構成される第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48が時間経過とともに摩耗していくところ、硬化肉盛部36の内側に設けられた硬化肉盛部36より軟質の軟鋼部38を、端面40に隣接して端面40と面一の軟鋼部端面、および対向側面44それぞれに隣接して対向側面44と面一の軟鋼部対向側面それぞれを形成するように設けることにより、軟鋼部38が、破砕または粉砕に伴う硬化肉盛部36の第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48それぞれの摩耗に追従して摩耗するようにすることが可能であり、それにより、第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48それぞれを鋭く立った状態で摩耗させていくことが可能であることから、このような摩耗状況に応じて、反撥固定刃27をハンマーに対して近づける向きに相対移動させることにより、ハンマーヘッド24の回転軌跡に対する間隔を調整することにより、ハンマーヘッド24の摩耗に係らず、破砕あるいは粉砕対象物の粒度管理が可能である。
より具体的には、第1エッジ42の摩耗状況に応じて、反撥固定刃27を移動させることにより、長期間にわたり破砕粒度を一定に維持することが可能であり、あるいはロータ18の回転速度を従来より上げることにより、破砕効率を確保しつつ、それに伴う第1エッジ42の摩耗状況に対して反撥固定刃27を移動させることにより対処可能である。
さらに、反撥固定刃27は、ロータ18を挟んで、ロータ18の各側に配置され、それぞれの反撥固定刃27は、ロータ18の外周部に沿って同心円状に、所定長さの円弧状をなすことから、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕を行う際、衝撃荷重受け面34による破砕あるいは粉砕対象物の打撃のみならず、破砕あるいは粉砕対象物がハンマーヘッド24の先端部、すなわち本体部の反撥固定刃27側の上面64と反撥固定刃27との間に位置して破砕あるいは粉砕される割合も高いことから、本体部の反撥固定刃27側の上面64には、軟鋼部端面41より回転方向遅れ側に、溝200を設け、溝200には、追加硬化肉盛部201を上面64とほぼ面一となるように設けることにより、ハンマーヘッド24の先端部と反撥固定刃27とで協働して破砕あるいは粉砕対象物を破砕または粉砕することによって、本体部の反撥固定刃27側の上面64の耐摩耗性を向上させることが可能であり、以て、破砕あるいは粉砕対象物の粒度管理をさらに向上させることが可能である。
【0038】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、破砕対象物を製鉄用の石炭として説明したが、それに限定されることなく、粉砕または破砕に伴いハンマーヘッドの衝撃荷重受け面の摩耗が問題とされる限り、たとえば廃棄プラスチック、廃材や廃棄物、コンクリート塊でもよい。
たとえば、本実施形態において、2層プレート50を鋳造本体部32に対して溶接する場合として説明したが、それに限定されることなく、衝撃荷重受け面を構成する硬化肉盛部36の内側に軟鋼部38を設ける限り、硬化肉盛部36および軟鋼部38をそれぞれ別途に、鋳造本体部に対して設けてもよい。
【0039】
たとえば、本実施形態において、軟鋼部について、軟鋼層38としてプレート状のものとして説明したが、それに限定されることなく、硬化肉盛部36の第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジ48について、エッジが立った状態で摩耗することが可能である限り、硬化肉盛部36の第1エッジ42、第2エッジ46および第3エッジまわりにのみ、コの字状あるいは環状の軟鋼部38を設けてもよい。
たとえば、本実施形態において、鋳造本体部について従来と同様に、Cr―Mn低合金鋳鋼製として説明したが、従来より、耐衝撃摩耗性が低いものを採用可能であることから、ハンマーアームとのピン連結部の耐摩擦摩耗性が確保可能な範囲で、より安価な鋳造品を採用してもよい。